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死後事務委任契約の実務と諸問題
1. 死後事務と死後事務委任契約の意味
「死後事務」とは、ある人が亡くなった後に行う事務全般をいいます。
「死後事務委任契約」とは、自分が亡くなった後の事務を委任したいと思う人(委任者)が自分以外の第三者(受任者)に対して、自己の死後の葬儀や埋葬等に関する事務についての代理権を与えて、自己の死後の事務を委託する委任契約をいいます。
死後事務≠死後事務委任契約
2.死後事務の範囲
( 1 )xx後見人の職務(義務)としての死後事務
①後見の計算(民法 8 7 0 条)
後見人又はその相続人は、2 ヶ月以内にその管理の計算をしなければならな
い。この後見の計算は、後見期間中の収支決算を明らかにし、後見終了時における後見財産を確定し、その結果を権利者に対して報告することをいいます。
②後見終了の登記の申請(後見登記法 8 条 1 項)申請先(問い合わせ先)
〒1 0 2ー8 2 2 6
xxxxxxxxxx 0x0x0 0 xxx 0 xxxx東京法務局民事行政部後見登録課
電話 0 3ー5 2 1 3ー1 2 3 4 (代表)
0 3ー5 2 1 3ー1 3 6 0 (ダイヤルイン)
③家庭裁判所への報告と報酬付与の審判申立
《報告内容》
・後見事務報告
・財産目録による報告 (・収支状況報告)
※東京家裁では、本人死亡の旨の電話連絡をして、死亡診断書または死亡の記載のある、除箝謄本の写しを FAX または郵送すれば終了とする取扱いです。
④管理財産の相続人への引渡しと一時保管
この管理財産の引渡しの場面では、相続人が多数いる場合など、問題が生じる可能性が少なからずありますので、慎重に行う必要があります。
<遺言書がある場合>
ⅰ 遺言執行者がいれば、その就任後、遺言執行者に引き渡せばよい。
※就任通知書
ⅱ 遺言執行者がいない場合で、特定の方に包括遺贈の場合は、その包括受遺者に引き渡せばよいのではないかと考えられます。
<遺言書がない場合>
ⅰ 相続人が一人の場合は、その方に引き渡せば問題ない。
ⅱ 多数の相続人がいる場合
→相続人全員に引き渡す(相続人が集まった場所で引き渡す)。
→相続人の中の、代表者に渡す。
※この場合は、代表相続人以外の相続人から、その代表者に渡すことに関する、同意書等の書面をもらっておくとよい。
<相続人が不明ないし不存在の場合>
相続人が不明ないし不存在の場合は、xx後見人等は、利害関係人として、相続財産管理人の選任を申し立て(民法 9 5 2 条)、選任された相続財産管理人に管理財産の引き渡し等を行います。
⑤家庭裁判所に対する後見事務終了報告
→原則、報酬の受け取り、相続人への財産の引渡しなどが終了したあとに、家庭裁判所に報告書を提出する。
( 2 )応急善処義務
被後見人等死亡 → 後見終了 (相続開始)
↓
→原則として、被後見人等が死亡した後は、上記( 1 )のみが後見人等の
職務で、被後見人死亡後の債務の弁済(入院費の支払い、家賃の支払いなど)は相続法理において処理するのが原則。
↓
しかし、身寄りがない場合や、親族と疎遠になっている場合など、速やかに相続人に管理財産の引渡しができないケースも多い。
そのような場合には、病院や賃貸人から旧後見人に催促がくるのが通常で、現実的には旧後見人において対応せざるを得ないケースも多々あります。
では、いかなる法的な根拠を元に、旧後見人の上記のような行為が正当化されるのかが問題となります。
<法的根拠>
xx後見人は、被後見人との関係では、民法上に委任の関係に準ずるもの(一種の法定委任関係)と言え、後見人は後見事務を行うにあたって、善管注意義務( 8 6 9
条、6 4 4 条準用)を負っていますが、その延長線上に応急善処義務があります。
すなわち、後見が終了した後においても、後見人の義務は、一定の範囲で存続し、後見人は、急迫の事情があれば、被後見人であった者のために後見の事務を処理しなければならない( 8 7 4 条、 654 条準用)。
《具体的検討》
①病院の入院費や家賃等の支払い
②死亡届
③葬儀・供養
※事務管理
( 3 )死後事務の実情
①被後見人の墓や菩提寺の調査
②親族がいる場合は、もしものときの相談をする。
③親族がいない場合または、 協力が得られないときは、 被後見人の財産に応じた葬儀等の準備をしておく。
④その他
3、死後事務委任契約とその問題点 ( 1 )死後事務委任契約のとは
「死後事務委任契約」とは、自分が亡くなった後の事務を委任したいと思う人(委任者)が自分以外の第三者(受任者)に対して、自己の死後の葬儀や埋葬等に関する事務についての代理権を与えて、自己の死後の事務を委託する委任契約をいいます。
死後事務委任契約は、任意後見契約に連動して死後事務委任契約を締結することにより、任務の遂行がしやすくなり、有意義であると一般に言われています。
生前事務委任契約(財産管理の委任契約)
↓ 任意後見契約
↓
※委任契約の一種(任意後見に関する法律 2 条 1 号)
→「任意後見契約委任者が、受任者に対し、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与するxx契約であって・
委任契約 → 本人の死亡→終了( 6 5 3 条)
↓
相続の開始( 8 8 2 条)
( 2 )死後事務委任契約の法的性質
委任契約は、本人の死亡により終了するのが原則ですが、その特殊性ゆえに裁判でその有効性が問題となった。
《裁判例》
裁判例においてもつばら委任者(本人)死亡後の事務処理を委託する委任契約がはじめて問題となったのは、死期を悟った高齢の委任者が受任者に対し、委任者名義の預金通帳、印章、およびそこから引き出した金員を交付して、
①入院中の諸費用の支払い、
②葬式を含む法要の施行とその費用の支払い、
③入院中に世話になった家政婦に対する応分の謝金の支払い、
④入院中に世話になった友人に対する応分の謝金の支払いなど
を依頼して死亡し、 受任者が委任者の死亡後その依頼に添。て行動したところ、 相続人が委任者 (被相続人) と受任者の間の契約の不存在を争ったという事案である。
死亡によっても契約を終丁させない旨の合意を包含する趣旨のものであり 、
最高裁は委任者死亡後の事務委任契約は当然に委任者の
この事案に対して、
最判平成 4・9・22
民法 653 条の法意はかかる合意の効力を否定するものではない
との判断を示
した( )。
この平成 4 年最判の事案は、委任者が、委任者死亡後の事務処理に自己の意思を反映させるために、委任者の死亡によっても終了しない委任契約を利用したものである。
ここでの委任契約は、委任者の死亡後の事務処理を契約の主たる内容としている 点に特徴があり 、従来想定されてきたケース(委任者の生前から委託された事務処理が遂行されているケース)にあてはまらないものといえます。
この平成 4 年最判の事案では、委任者が死亡しても委任契約が終了しない旨の明 示の特約はなかったが、 委任契約の内容や性質および契約締結時の諸事情からそのような当事者の意思 (合意) を推認して黙示の特約を認定し、当該委任契約にはこのような合意が当然含まれるため委任が終了しないとした。
ここでは、委任契約の内容や性質、さらには契約締結時の諸事情が、委任者の死亡後も存続する委任であるかの判断基準として作用していることが窺われる。
ただし、死後事務委任契約においては、委任者は自己の死亡後に契約内容に従って事務処理がなされることを当然の前提 (葬儀や供養は死亡後でないとできない)として契約を締結しているのであるから、 この場合に、 委任者の死亡によっても契約を終了させない合意があることは明白であり、むしろその合意を尊重することに相続人の利益との関係で合理性があるかどうかが問われるべきであろう。
( 3 )死後事務委任契約における解除権の行使
死後事務委任契約が、 当事者意思等を理由に委任者死亡後も有効としても、
委任者が死亡した場合は、 その委任契約の地位も相続法理により相続人が包括的に承継するはずである。
だとすると、相続人はその委任者の地位を承継したことから、この死後事務委任契約を解除できることになる。
この平成 4 年最判を契機として、委任者の死亡後も終了しない委任契約の中に、もつばら委任者の死亡後の事務処理を委託する新しいタイプの委任契約を承認するものが、その後の裁判例において散見されるようになった。
東京高裁は、委任者が自己の亡蠻における葬儀、永代供養も含めた一切の供養などを委託して死亡し、任者の地位の承継者がその契約の終了ないしは解除を争った事案で、以下のような判断を示した(東京高判平成 21・12・21)
すなわち、平成 21 年東京高判は、平成 4 年最判に依拠して、 委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の委任契約は、委任者の死亡によっても当然に契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨とする。
その上で、契約内容に不明確性や実現困難性があって履行負担が過重であるなど契約の履行が不合理と認められる特段の事情がない限り、委任者の遺言により指定された祭祀主宰者が当該委任契約を解除して終了させることを許さない合意をも包含するとして、当事者の合意を根拠に準委任契約の終了および委任者の地位の承継者からの解除を認めないとした。
ここでの委任契約は、 委任者の死後の事務処理だけをその目的としており 、それまでの裁判例とは異な。た事案類型ということができよう。
そして、この平成 21 年東京高判は、 委任者の地位の承継者が民法 651 条 1 項に基づき準委任契約を解除したとする主張を仔細に検討し、 契約締結時の諸事情、そこから推認される委任者の意思、 契約内容の明確性 ・ 実現可能性、供養料が支払い済みで委任者の地位の承継者には特に履行すべき義務がないこと 、委任者死亡後に受任者が事務処理をどのように遂行しているか等を総合的に勘案して齷除権の放棄があったものと推定し、 委任者の地位の承継者が契約を解除することを許さないとの判断を示した。
この判決は、受任者による故人の意思に添った死亡後の事務処理を正当な権原に基づくものであると認め、もつばら死亡後の事務処理を委託する委任契約の委任者の地位を承継した者であっても解除できないとしたものであり、故人の意思に相続人が拘束される場面を承認した点に新規性を見いだすことができる。
( 4 )相続による解除の問題について
先の判決の注意点→死後事務委任契約を相続する場合の解除権の行使そのものを否定しているわけではない。
しかし、相続人によって、いつでも解除できるとすれば、時間をかけ苦労して締結した死後事務委任契約の意味がなくなり、またその過程における被相続人の意思も全く反映されないことになってしまう。
2 1 年判決は上記を一つの根拠として解除権を否定しているのですが、このような判断を待たずに、事前に解除権を放棄できればよいのではないか、
すなわち、解除権の放棄の特約ができるかが問題となります。
→ 有効と解される
・契約自由の原則(私的自治の原則)。
・6 5 1 条は任意規定。