費用分担契約(Cost Contribution Arrangement)に関する一考察
費用分担契約(Cost Contribution Arrangement)に関する一考察
x x x x
研 x x 第 4 0 期 研 究 員
1 研究の目的
国際的な競争力の源泉として無形資産の重要性が指摘されているなか、近年「費用分担契約」(Cost Contribution Arrangement 以下「CCA」という)という形態で、国境を超えた関連企業の間で共同研究開発活動を行う多国籍企業が増加している。
CCA の大概は、無形資産の共同開発における費用の分担を取決めるものであり、予測便益に応じた費用負担に特徴がある。CCA には、多額の研究開発費用の資金調達と失敗時のリスク分散という事業経営上のメリットがあり、また参加企業が無形資産を共同で開発することになるため、その成果物を利用するための使用料の収受及び源泉所得税の納付が不要であるというメリットがある。
この CCA に関し、1995 年の OECD 移転価格ガイドライン(以下「ガイドライン」という)の第 8 章(1997 年追補)は、CCA の一般的な定義と移転価格算定上の取扱いの指針を提供している。一方、諸外国においては移転価格税制の観点から規定を設けているが、我が国においては、CCA に関する移転価格税制及び通達が整備されていない。そのため納税者の間では、実務上判断に迷うことが多く、費用分担契約に関する我が国の税制度の確立を望む声が多い。
そこで、本稿は無形資産の共同開発等に用いられる CCA に関し、国際租税法上の移転価格税制を中心として考察するものである。現行税制上の問題点を明らかにして、その問題点に対処すべき方策を考察し、我が国としての法制度を射程とした CCA に関する問題点と重視すべき事項の提起が本稿の目的である。
2 研究の概要等
(1)現行税制における現状と問題点
敢えて、現行の我が国移転価格税制によって解釈するとすれば、移転価格税制に関する事務運営指針の基本方針2-1の「調査又は事前確認の審査に当たっては、必要に応じ OECD 移転価格ガイドラインを参考にし、適切な執行に努める。」という文言を根拠に、ガイドラインを参考にして、CCAの契約内容の適否を検討するとともに、CCA に関する取引を租税特別措置法第 66 条の 4 の適用対象取引として、例えば各参加者の分担する費用については「原価基準法に準ずる方法と同等の方法」または「利益分割法と同等の方法」を独立企業間価格算定方法として適用して、その適否を検証していくことが考えられる。
しかしながら、私法上の契約である CCA は契約形態が多岐に亘る上、現実の便益が予測便益と乖離した場合や、租税回避行為として利用された場合には、課税上の困難が想定されること、また、課税要件明確主義を遵守するためにも、CCA に関する移転価格税制上の取扱いを明確にすることが望ましいと考える。
つまり、CCA に関する具体的な課税基準を検討する必要がある。
(2)諸外国の法制
イ 諸外国の法制状況
米国は、1995 年に財務省規則に本格的な詳細の規定を定め、ドイツは 1999 年に CCA に関する規則を公表した。両国は基本的にはガイドラインと類似しているが、独自の内容を規定している部分がある。一方、イギリス、カナダ、ニュージーランド及び豪州等は、ガイドラインの内容を概ねそのまま受入れている。
なお、ガイドライン第 8 章序文において、「本章は CCA に関する大きな問題の全てを解決しているわけではなく、今後の経験から改善を行っていく」旨、指針が述べられており、更なる課題として貢献の測定やバイ・イン支払等の税務上の性格付け等を具体的に挙げている。ガイドラインは主として独立企業原則の適用から指針を定めているが、詳細な解釈適用基準には至っていない。
本稿においては、ガイドライン及び米国財務省規則に関し、批判的検討も行っている。
ロ 共通事項の骨格と相違事項
CCA においては、各参加者の予測便益割合に応じた費用分担額について、文書化や定期的調整等を条件として、独立企業間価格として許容していくというのが国際的なコンセンサスになりつつある。ただし、CCA活動の範囲、参加者要件及びバイ・インの取扱い等については、国によって取扱いが異なる部分がある。
(3)我が国の制度構築のための具体的検討イ 費用分担の基準と適格費用分担契約
私法上の契約である費用分担契約に関しは、独立企業間契約としての CCA を念頭に置く必要がある。そして、租税回避への対応と納税者の予測可能性を確保するという観点からは、予め税務上の適格費用分契約を定め、文書化や定期的調整を条件として、予測便益割合に応じた費用分担額を独立企業間価格と許容していくことが望ましい。
ロ 参加・脱退・終了時等の課税問題
米国においては、CCA への参加・脱退・終了時の税務上の取扱い(いわゆるバイ・イン等)を含む最終規則の公表が検討されている。バイ・イン等に関しては、無形資産取引に係る移転価格税制の適用の困難性と同様の問題があり、加えて費用分担契約におけるバイ・インの性質及び価値概念等が米国で議論されている。
既存の無形資産なしで共同研究開発を行うケースは少なく、ほとんどのCCA でバイ・インと直面することが想定される。しかし、具体的な評価の方法論を初め、バイ・イン取引の詳細な取扱いは国際的にも確立されていない。
現状では、個々の CCA の具体的な内容に応じ対処していくことになろうが、CCA への参加・脱退・終了時の無形資産の持分変動に伴う課税上の取扱いや、非適格費用分担契約と判断された場合の課税上の取扱いも
含め、その詳細を網羅的に規定することは困難であることから、米国や豪州の規則のように事例形式で明示していく方法も考慮すべきであろう。
3 結 論
(1)今後の課題
イ 適格参加者要件
参加者要件に関しては、CCA の定義と同様、租税回避防止の観点から、慎重に決定する必要がある。ガイドラインにおいては、相互便益を条件として、幅広く受入れる方向であるが、租税回避防止の観点からは、無形資産の間接使用者となる親会社やホールディング・カンパニー等の取扱いが問題となる。純粋な CCA のみを許容していく指針ならば、ドイツの規則のように、参加資格を持株会社や特定目的会社を除く水平的企業に限定する方向も採り得よう。
ロ 費用と予測便益の算定方法
CCA は他国の参加者の費用が自己の予測便益割合に応じて割り当てられ、損金となるため、各参加者の費用と予測便益の信頼性が求められる。費用に関しては各参加者の会計基準が問題となるほか、具体的事実の把握に関連する執行面での検討も必要である。予測便益の算定は、対象無形資産の使用による利益の増加または費用の節減を直接的根拠によって算定すべきであるが、便益と最も密接な関係があるタームを用いて間接的に推定せざるを得ない場合もあり、算定方法の合理性という問題が内在している。
ハ 定期的調整事項
CCA 参加者の予測便益と現実の便益が一致しない場合、定期的調整が必須かどうかは議論が分かれるが、ガイドラインにおいては経済的な状況を反映した相対的なシェアの変更規定を設けることが適切であるとしている。
長期間に渡る第三者間の CCA においては、現実の便益に応じた定期的な調整を含む契約が多い。従って定期的調整事項については、現実の便益に応じた調整を柱とし、適格費用分担契約の一要件として、企業自らが調整を行っていく方向も考えられる。また、一定のセーフ・ハーバーを認めた上で、一定程度以上に予測値と実際値が乖離した場合には所得の調整を行うべきであろう。
(2) 課題に対する対処策イ 事前確認制度の活用
CCA に関する詳細な解釈適用基準の明確化が望まれるが、そもそも将来事象の予測を行う予測便益の測定や無形資産の評価等を含むバイ・イン等の取扱いという不確定要素が多いことを踏まえると、納税者と課税庁が互いに意見を出し合って協議し、最も合理的な方法を両者の合意に基づき決定しうる、事前確認制度を利用した解決を図ることが望ましいと考える。従って、現行の事前確認制度を積極的に活用していくべきであろう。
ロ 同時文書化
CCA に関連する租税回避行為について対処し得る一つの方策は、適格費用分担契約の要件の一つとすると共に、申告と同時に自らの移転価格が適正であることを文書化しておく、同時文書化を要請することであろう。
ハ 国際的な執行協力及び国内での法令又は通達等の整備
ガイドラインを中心として、CCA に関する一般的な解釈・執行に関する国際的調和を図ることが望まれる。また、租税条約相手国との情報交換、相互協議を通じた二国間あるいは多国間の事前確認手続によって、課税問題の未然の解決に努力すべきであろう。一方、国内においても、適正な移転価格課税の執行、納税者における予測可能性の確保のため、CCA に関する法令又は通達等の整備は急務と考える。
要 約 162
序 論 問 題 の 所 在 と 論 文 構 成 171
1 問 題 の 所 在 171
2 論 文 構 成 174
第 1 章 現 行 税 制 の 現 状 と 問 題 点 176
第 1 節 無 形 資 産 取 引 の 特 性 と 税 務 上 の 諸 問 題 176
1 無 形 資 産 の 特 殊 性 176
2 無 形 資 産 取 引 か ら 生 じ る 税 務 上 の 諸 問 題 181
第 2 節 費 用 分 担 契 約 に 関 す る 現 行 税 制 184
1 費 用 分 担 契 約 の 意 義 184
2 費 用 分 担 契 約 に 関 す る 税 務 上 の 論 点 187
(1) 費 用 分 担 契 約 の 法 的 性 格 187
(2) 費 用 分 担 契 約 と 法 人 税 法 189
(3) x x 所 得 税 の 問 題 189
(4) 移 転 価 格 税 制 を 中 心 と し た 検 討 理 由 190
第 3 節 費 用 分 担 契 約 と 移 転 価 格 税 制 の 対 応 関 係 192
1 考 察 対 象 194
2 移 転 価 格 税 制 の 適 用 可 能 性 196
(1) 第 一 段 階 198
(2) 第 二 段 階 209
(3) 第 三 段 階 210
3 現 行 税 法 上 か ら の 費 用 分 担 契 約 に 関 す る 問 題 点 211
第 4 節 小 括 212
第 2 章 諸 外 国 の 法 制 と そ の 批 判 的 検 討 215
第 1 節 費 用 分 担 契 約 に 関 す る OECD ガ イ ド ラ イ ン 217
1 費 用 分 担 契 約 に 関 す る 議 論 217
(1)OECD 租 税 委 員 会 1979 年 報 告 書 217
(2)1984 年 報 告 書 と 1995 年 ド ラ フ ト レ ポ ー ト 219
2 1997 年 OECD 移 転 価 格 ガ イ ド ラ イ ン の 概 要 220
(1) 費 用 分 担 契 約 の 概 念 221
(2) 独 立 企 業 x x の 適 用 221
(3)独立企業原則に従っていない場合の税務上の取扱い 223
(4) 参 加 ・ 脱 退 ・ 終 了 223
(5) 費 用 分 担 契 約 の 構 築 及 び 文 書 化 に 関 す る 提 言 224
3 批 判 的 検 討 225
第 2 節 費 用 分 担 契 約 に 関 す る 米 国 x x 省 規 則 227
1 従 来 の 経 緯 227
(1) 米 国 の 移 転 価 格 税 制 と 費 用 分 担 契 約 と の 関 係 227
(2)1995 年 最 終 規 則 ま で の 経 緯 229
2 1995 年 x x 省 規 則 を 中 心 と し た 規 定 の 概 要 232
(1) 費 用 分 担 契 約 の 要 件 233
(2) 費 用 の 分 担 236
(3) 予 測 240
(4) バ イ ・ イ ン に 関 す る 事 項 241
3 批 判 的 検 討 242
(1) 歳 入 庁 か ら の 費 用 分 担 契 約 の 認 定 に つ い て 242
(2) セ ー フ ・ ハ ー バ ー 条 項 か ら の 検 討 243
第 3 節 小 括 247
第 3 章 我 が 国 の 制 度 構 築 の た め の 具 体 的 検 討 248
第 1 節 費 用 分 担 契 約 に 関 す る 独 立 企 業 x x の 適 用 249
1 費 用 分 担 契 約 の 移 転 価 格 税 制 上 に お け る 位 置 付 け 249
2 独 立 企 業 x x に 合 致 し た 前 提 と な る 条 件 249
第 2 節 費 用 分 担 に 関 す る 基 準 252
1 合 理 的 な 費 用 分 担 252
2 独 立 企 業 間 価 格 の 算 定 253
(1) 独 立 企 業 間 価 格 算 定 の 概 要 253
(2) 用 語 の 定 義 254
第 3 節 適 格 費 用 分 担 契 約 263
1 適 格 費 用 分 担 契 約 の 要 件 化 263
2 参 加 者 要 件 265
(1) 各 国 の 法 制 状 況 265
(2) 参 加 者 要 件 に 関 す る 問 題 点 266
(3) 相 互 便 益 (mutual benefit) の 解 釈 267
(4) 採 り 得 る 方 向 性 269
3 予 測 便 益 の 算 定 269
4 定 期 的 な x x 271
(1) 諸 外 国 の 規 定 271
(2) 検 討 274
(3) 我 が 国 の 方 向 性 277
5 文 書 化 278
第 4 節 移 転 価 格 税 制 の 課 税 問 題 280
1 バ イ ・ イ ン と バ イ ・ ア ウ ト 280
(1) 定 義 280
(2) 費 用 分 担 契 約 に お け る 位 置 付 け 280
(3) 支 払 の 決 定 と 測 定 282
(4) 具 体 的 な 設 例 282
(5) 米 国 に お け る 議 論 と 課 題 286
(6) 豪 州 の バ イ ・ ア ウ ト に 関 す る 事 項 300
(7) 我 が 国 の 対 応 302
2 非適格費用分担契約と判断された場合等の課税上の取扱い 302
(1) 課 税 要 因 と 処 理 の 方 向 性 302
(2) 類 型 別 の 検 討 303
第 5 節 小 括 305
第 4 章 今 後 の 課 題 と 対 処 策 312
第 1 節 今 後 想 定 さ れ る 課 題 312
1 我が国の制度としての指針(対象活動の範囲と適格参加者
要 件 か ら ) 312
2 費 用 と 予 測 便 益 の 算 x x x 312
3 定 期 的 x x 事 項 313
4 バ イ ・ イ ン 等 に 関 す る 取 扱 い 315
第 2 節 課 題 に 対 す る 対 処 策 316
1 事 x x 認 制 度 の 活 用 316
2 同 時 文 書 化 319
3 国際的な執行協力及び国内での法令又は通達等の整備 321
第 3 節 小 括 321
結 論 323
1 ま と め 323
2 お わ り に 324
1 問題の所在
国際的な競争力の源泉として知的財産を中心とした無形資産(1)の重要性が指摘されている(2)なか、企業は無形資産を国際取引としても活用している。実際、我が国の国際的な技術貿易は増加傾向にあり、特に親子会社間取引における技術輸出の比率は高い(3)。
このような事情を背景に、近年「費用分担契約(4)」という形で契約を締結
(1) 無形資産とは、知的財産を含む、よりxxな概念である。したがって、厳密には知的財産(Intellectual Property)と無形資産(Intangible Assets)は区別して用いるべきものであるかも知れないが、本稿では、知的財産を含むすべてを総称して無形資産として扱う。
(2) 経済産業省『通商白書 2004~「新たな価値創造経済」へ向けて~』(2004)58 頁以降によると「日米両国においては、有形資産に対する無形資産の比重が近年大きくなっており、このことは従来の有形資産をベースにした企業経営のあり方が大きく変容していることを示唆している。」また、「世界的に企業間競争が激化する中で、①企業は絶えず差異性のある財・サービスを提供することが必要となっていること、そのため、②財・サービスの差異性を生み出す源泉としての知識が重要となっていること、の 2 点を主な理論的背景として、企業経営の基盤が有形資産から知的資産へと変化してきていると理解することができる。」とあり、国際的な競争力の源泉として知的資産の企業経営における比重はかなり高い。
(3) 総務省統計局『科学技術研究調査報告』(2003)24 頁以下によると 2002 年度における企業等の技術貿易(諸外国との特許、ノウハウ等の技術の提供及び受入)について、次のような報告がされている。技術輸出の受取額が 1 兆 3868 億円で過去最高となり、このうち海外の親子会社からの受取額は 9657 億円(受取額全体に占める割合 69.6%)となっている。また、技術輸入の支払額が 5417 億円で、このうち海外の親子会社への支払額は 917億円(支払額全体に占める割合 16.9%)となっている。
技術貿易額を相手国別にみると、受取額、支払額とも米国が最も多く、受取額は 6341億円(受取額全体に占める割合 45.7%)、支払額は 3655 億円(支払額に占める割合 67.5%)となっている。このほか受取額が多い国は、カナダが 1451 億円、中国が 858 億円、イギ
リスが 717 億円などとなっている。一方、支払額はフランスが 557 億円、オランダが 327
億円、イギリスが 243 億円などとヨーロッパ諸国が多くなっている。
特に技術輸出に関する親子間取引の占める割合及び米国との技術貿易額の多さが特徴的である。
(4) 実務上は、米国の用語法である「コストシェアリングアレンジメント(Cost Sharing Arrangements)」という形で結ばれているケースが多い。
し、国境を超えた関連企業の間で共同研究開発活動を行う日本の企業が増加している(5)。費用分担契約の大概は、無形資産の共同開発事業における費用の分担を取決めるものであり、予測便益に応じた費用負担に特徴がある。
この費用分担契約に関し、諸外国においては移転価格税制の観点から規定を設けているが、我が国は特別な取扱いを定めていない。そのため納税者の間では、実務上判断に迷うことが多く、費用分担契約に関する我が国の税制度の確立を望む声が多い(6)。これは納税者からすると、費用分担契約に関する取引において、課税上のメリットが指摘されているなか、どのような場合が許容されて、どのような場合に課税処分を受けるのかが不明であることに起因しているものと思われる。OECD(7)をはじめ欧米諸国の規定は参加者の要
(5) 日経 E-BIZ、米国最先端レポートによると製薬やハイテク業界を中心に締結されている。 Deloitte&Touche,「JSG US TAX NEWS」(2002 年 9 月/10 月号)
xxxx://xxx.xxxx-xxxxx.xxx/xxxxxxxx/xxxxxxxx/00.xxx。
(6) 例えば、「日本の現行税制には費用分担契約の包括的取扱いを規定した条項がなく、必ずしも租税上のリスクが回避できる体制とはなっていない。筆者は最近費用分担契約の移転価格調査を経験し、費用分担契約における税務上の論点を検討する機会を得た。その中には、現行の税法を文理解釈することで対応できるものもあるが、現行の税制下では判断の難しい点も多い。併せて、各国の費用分担契約に関する規定の違いも、契約を起案する上で問題を複雑にしている。」とし、「我国においても、費用分担契約に関する全ての論点を網羅した、包括的な規定の制定が望まれるところである。」と指摘するxxxx「費用分担契約における契約締結上及び税務上の論点(上)」『国際税務』Vol.21 NO11,15 頁及び「費用分担契約における契約締結上及び税務上の論点(下)」『国際税務』Vol.21 NO12,27頁がある。他に、「1 日でも早く費用分担契約に関するわが国の取扱いが明確にされることが望まれます。」とするxxxx「費用分担契約の論点」『国際税務』Vol.21 NO3,46 頁や「わが国の税務当局は、費用分担契約自体について公の見解を出しておらず、納税義務者側からすると、不透明感がある。この点は、わが国課税当局の努力により、早急にその方針を対外的に明らかにするべきであろう。」と指摘するxxxx『移転価格税制の理論』 (中央経済社,1999)125 頁がある。
( 7 ) OECD とは、経済協力開発機構(Organization for Economic Cooperation and Development)で、2004 年 12 月現在で 30 カ国が加盟している。OECD の目的は、先進国間の自由な意見交換、情報交換を通じて、①経済成長②貿易自由化③途上国支援に貢献することを目的としている。加盟各国の代表によって構成される各種委員会により、マクロ経済、投資、環境、租税問題等について、政策及びその実施について協議を行っている。OECDの税制関連の活動は,脱税,有害な租税慣行,電子商取引等、xxな分野をカバーしている。xxxx://xxx.xxxxxxxxx.xxx/xxxxxxxxx/xxxxxxxxx00.xxxx 。
件、開発費用や予測便益の測定方法等、課税要件に関する詳細な規定が施されているが、はたして我が国では現行税制のままで対応が可能なのであろうか。もともと、1986 年の移転価格税制の導入時は費用分担契約のような取引形態は念頭になかったと思われるので、現行税制ではすべての費用分担契約から生ずる取引に対処するのは困難であろう。特に費用分担契約に関する取引の課税問題を考えた場合、課税庁が行う処分に関して困難を伴うことが想定される。なぜなら、我が国の課税当局は OECD 移転価格ガイドライン(8)を国際課税規範として位置付けてはいるが、ガイドライン自体は法的な拘束力を持つものではないからである。また、現行税制のままでは次のようなことも危惧される。費用分担契約を通じて、予測便益が見込まれない法人を参加させ、資金負担のみを行わせる。つまり、企業グループ間において恣意的な所得の調整を許容してしまう可能性が生じることになる。加えて、ある課税事件が相互協議に至った時に、特別の取扱いを定めていないことは、我が国の主張としてインパクトを欠き、自国の課税権の確保につながらない。このような問題を包含した費用分担契約に関し、状況は進展しており、事前確認事案や調査事案も数件生じているようである(9)。したがって、租税法律主義、納税者の予見可能性及び国際課税の面からも費用分担契約に関する我が国の税制度の検討は急務であるといえる。
このような状況の下、本稿は無形資産の共同開発等に用いられる費用分担
(8) 本稿における「OECD 移転価格ガイドライン」は、1995 年ガイドライン「多国籍企業及び税務当局のための移転価格に関する指針」(Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Tax Administrations ,Report of the OECD Committee on Fiscal Affairs,1995)を中心的な位置付けとする。費用分担契約(Cost Contribution Arrangement)が規定されている第 8 章は、1997 年 9 月に理事会で承認され公表された。
以下における第 8 章に関する脚注での表示は 1997 年を付して表示する。
また、OECD ガイドラインとして、1979 年報告書(”Transfer Pricing and Multinational Enterprises”「移転価格と多国籍企業」)や 1984 年報告書(”Transfer Pricing and Multinational Enterprises-Three Taxation Issues”「移転価格と多国籍企業-3つの課題」)等についても、第 2 章において検討する。
(9) xxxx「最近の移転価格税制の執行について(下)-無形資産取引を中心に-」『租税研究』647 号(2003 年)69 頁。
現行税制上の問題点を明らかにして、その問題点に対処すべき方策を考察し、今後の問題点も踏まえ、費用分担契約に関する取引の税務上の取扱い及び法制度上の論点について移転価格税制の観点から検討していくことが本稿の目的である。
2 論文構成
第 1 章においては、費用分担契約活動から生じる取引について現行税制上
の現状を検討し、移転価格税制に関する問題点を明確にする。第 2 章では、
第 1 章で提起した問題点を念頭におき、我が国が国際的な課税ルールと位置
(10) 国際租税法は、国内租税法のうち国際課税面を規定した部分と租税条約から主として構成される。その概念としては、さまざまな定義がある。例えば、「各国の持つ課税権の行使が抵触又は競合するような事情のもとでそうした課税権の行使を国際間に一定のルールによって『調整』することをめざす法分野」とするxxxx『国際取引と課税問題―国際租税法の考え方』(信山社,1994)はしがきⅷ-ⅸ頁、xxxx「国際租税法の概念について」『国際税務』Vol.13 NO8,7 頁及びxxxx『移転価格税制の理論と適用-日米両国法制の比較研究-』(税務経理協会,1997)4-5 頁に対し、「各国租税法は互いに抵触するのではなく重複的に適用される」とするxxxx『国際租税法』(有斐閣,1993)3 頁、xxxxx「国際租税法の概念」『法学研究』69 巻 3 号(1996 年)1-3 頁などがある。その中で、xxxxが「価格操作規制(移転価格)税制は、軽課税国その他に歪められた型で留保(経理)されている所得を適正に再配賦(reallocation)することを狙ったものであり、本来的に自国課税権の対象となるべきものを顕在化するに過ぎない。」と述べられているのは、興味深い。
(11) 費用分担契約における移転価格に関する課税基準について、国際法上の法源としては、租税条約に規定されている「特殊関連企業条項」、また、国内法上の法源として租税特別措置法第 66 条の 4 に規定されてる「移転価格税制」が該当する。両規定は相対立するものではなく、租税条約上の特殊関連企業条項(締結国は国外の特殊関連企業と取引を行う自国の企業に対し、独立企業原則に則り課税を行うことができるとする規定で OECD 租税条約コメンタリ-第 9 条第 1 項に規定)に関する国内の立法措置が移転価格税制となった
付けている OECD 移転価格ガイドライン、OECD の議論及び世界で最初に費用分担契約を規定し詳細な取扱いを定めている米国財務省規則(12)等について、考察する。第 3 章においては、第 1 章で提起した問題点に関し、第 2 章で考察した OECD 移転価格ガイドライン及び米国財務省規則を主たる検討対象としながら、状況に応じドイツと豪州の規則を検討対象に含め、我が国の費用分担契約に関する法制度を射程として費用分担契約の論点につき具体的な検討を行う。第 4 章では、第 3 章までの検討を踏まえ、今後想定される問題点と対処策について考察する。
ものである。本稿では、両規定のうち移転価格税制を中心に、考察する。
(12) 米国の移転価格税制は内国歳入法典(Internal Revenue Code)482 条に規定されており、詳細な内容の規定がされているのは財務省規則(Treasury Regulation)であり、費用分担契約は 1.482-7 に規定されている。
本章では、費用分担契約に関する取引の移転価格税制上の問題点を明確にする。まず、議論の前提として無形資産取引の特殊性を概観し、税務上どのような問題が生じるかについて確認する。それを念頭におきながら、無形資産を共同で開発する費用分担契約の現状と現行税制との係りを論じる。その中で、本稿では移転価格税制を中心に考察を行う。
第1節 無形資産取引の特性と税務上の諸問題
1 無形資産の特殊性
各国の課税庁は、自国の税収を最大にするという観点から海外の子会社が 無形資産の使用の対価として親会社に支払っている使用料や譲渡の対価が適 切であるかに注目している。このように課税の分野においても無形資産は注 目されており、特に多国籍企業において、無形資産の利用による国際取引か ら生じる所得に対する課税が大きな問題となっている。それでは、無形資産 とは租税法(13)上どのように定義されているのであろうか。諸外国においては、
(13) 租税法の法源には、国内法源と国際法源がある。国内法源は、憲法、法律、命令、条令、規則等である。国際法源は、条約、交換xxxである。憲法は国の最高法規であり、これに違反する法規は無効であり、またこれに違反する課税当局の行為も無効である。法律は租税法律主義の下で最も重要な法源である。法律は、租税に関する基本・各税の共通事項を定める通則法と個別の国税の課税要件に関する各税法、各税法の規定に対する特例を定める租税特別措置法等から成る。命令は、行政府が制定する法規範で、法規命令といい、内閣が制定する政令(施行令)と各省大臣が制定する省令(施行規則)がある。xxx『ゼミナール国際租税法』(xx財務協会,2002)2-3 頁。これを移転価格税制にあてはめると法律として租税特別措置法第 66 条の 4、その政令として租税特別措置法施行令第 39 条の 12、省令として租税特別措置法施行規則第 22 条の 10 が制定されている。
法令に対するxxxの解釈及び取扱いを明らかにするために、国税庁は、措置法通達及び事務運営指針を公表している。これら通達の法源性については、通達は、行政組織内部では拘束力を持つが、国民に対して拘束力を持つ法令ではないとされている(贈与税不当課税処分取消等請求事件、最判昭和 38 年 12 月 24 日月報 10 巻 2 号 381 頁)。これについては、様々な意見があり、xxx『x税法(第九版増補版)』(弘文堂,2004)113 頁では、
具体的な定義がなされている(14)なか、我が国では税法、会計も含めて無形資産の明確な定義はなかったが(15)、平成 12年9月8 日課法 2-13「租税特別措置法関係通達(法人税編)の一部改正について」(法令解釈通達)66 の 4(2)- 3(8)において定義を示している。それによると、我が国の無形資産とは次のようなものである。「無形資産とは、著作権、特許権、実用新案権、意匠権、商標権及びその実施権のほか、これらの権利の目的にはなっていないが、生産その他業務に関し繰り返し使用し得るまでに形成された創作、すなわち、
「実際には、日々の租税行政は通達に依拠して行われており、納税者の側で争わない限り、租税法の解釈・適用に関する大多数の問題は、通達に即して解決されることになるから、現実には通達は法源と同様の機能を果たしている。」など、通達の法規性を否定しつつも法源としての機能は否定できないとしている。
したがって、本稿では法令・措置法通達・事務運営指針を含めて移転価格税制における費用分担契約に対する課税基準の範囲とする。
(14) 米国では、米国内国歳入法第 936 条(h)(3)(b)において、無形資産の定義を制定法上に規定しており、移転価格税制の適用上、その定義を財務省規則§1.482-4(b)に引用している。それによると、「無形資産とは個人的な役務の提供から独立し、かつ、重要な価値を有する資産」と定義し、次のような6つのカテゴリーに分類している。①特許、意匠、ノウハウ、秘密方式②文学上等の著作権③商標、商号等④ライセンス、契約⑤方法、プログラム、調査、研究、消費者リスト、技術データ等⑥他
OECD 移転価格ガイドラインでは、無形資産には、特許権、商標xxの産業上の資産を使用する権利が含まれ、さらに文学上、学術上の財産権、及びノウ・ハウ、企業秘密等の知的財産権も含まれるとしている。また、企業の所有している無形資産は、たとえ貸借対照xx簿価を有していなくても、重要な価値を有する財産である(パラ6.2)と述べている。そして、商業上の無形資産とマ―ケテイング上(商号、顧客リスト、販売網、写真等)との無形資産に区分している(パラ 6.4)。
会計面では、国際会計基準(IAS38)によると、無形資産の定義について、「無形資産とは、財貨・役務の生産、供給や貸付、管理目的で企業が保有する物理的実体を持たない認識可能な非貨幣資産であり、(a)過去の事象の結果として企業が支配している、(b)それを通じて企業に将来経済的便益が流入するものと定義している(パラ 7)。」この定義の特徴は、非物理的実体、認識可能性、非貨幣資産、企業支配、将来経済的便益流入の 5 つの要件を規定していることである。なお、企業会計原則、財務諸表等規則、商法においては、定義についての明確な規定は存在しない。資産の種類ごとに列挙する方式をとっている。
(15) 例えば、鉱業権(租鉱権及び採石権その他土石を採掘し又は採取する権利を含む)、漁業権(入漁権を含む)、ダム利用権、水利権、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、ソフトウエア-、育成者権、営業権、専用側線利用権、鉄道軌道連絡通行施設利用権、電気ガス供給施設利用権、熱供給施設利用権、水道施設利用権、工業用水道施設利用権(法人税法第 2 条 23 号、同施行令第 13 条)。減価償却資産の例示列挙がされている。
特別の原料、処方、機械、工具によるなど独自の考案又は方法を用いた生産についての方式、これに準ずる秘けつ、秘伝その他特別に技術的価値を有する知識及び意匠等、顧客リスト、販売網等の重要な価値のあるものである。ノウハウはもちろん、機械、設備等の設計及び図面等に化体された生産方式、デザインもこれに含まれるが、海外における技術の動向、製品の販路、特定品目の生産高等の情報又は機械、装置、原材料等の材質等の鑑定若しくは性能の検査、調査等は該当しないとしている(16)」。無形資産は、企業にとって将来収益に貢献する無体の財貨であり、多大な経済的利益を生む情報源とも言えよう。したがって、このようにかなりxxな概念で捉えていると考えられる。
税務では上記のように無形資産を捉えているが、無体の財貨という点では有体物とは異なる特殊性を有しているため、無形資産について論ずる場合、その特殊性を理解する必要がある。ここでは、法的な側面と実質的な側面から無形資産の特殊性を概観する。
最初に法的な側面として、財産法の基本的な法である民法と無形資産に含まれる代表的な知的財産(17)を保護する知的財産法との比較において、無形資産の特殊性を概観する。
知的財産権は市場や競争秩序と深い関係を有しているものであるが、私権であり、支配権であり、排他的独占権である(18)。客体が無体物でありながら、無体の財産という性格が強く民法との関係が強いが、民法は所有権の対象となる客体について「物」であるとし、「物」とは有体物を言う(19)としている。
(16) 平成 13 年 6 月 1 日付査調 7-1 外3課共同「移転価格事務運営の制定について(事務運営指針)」1-1(13)が無形資産の定義を租税特別措置法(法人税関係)通達 66 の 4(2)- 3(8)に準用し、当該通達は法人税法基本通達 20-1-21 を一部準用している。
(17) 発明(特許権)、著作物(著作権)、商標(商標権)など、人間の知的創作活動の所産と営 業活動から生じる企業の信用を化体した標識を総称して、知的財産又は知的財産権という。xxxx『x的財産法制と国際政策』(有斐閣,2001)3 頁。
(18) xxxxxx『知的財産法』(有斐閣アルマ,2003)7-8 頁。
(19) 民 法 第 85 条
民法における所有権の対象が「物」即ち有体物についての絶対的支配権原(20)であるのに対し、知的財産が無体の財貨である点に客体としての差を見出すことができる。
今日では特許xxの知的財産(21)についても、情報を物と同等の物とみなして物権的権利を付与した物権類似の権利であるとされている(22)。しかし、知的財産はそれ自体の有する特殊性ゆえに有体物とは異なる性格を有する。有体物の場合、その使用には原則として占有が必要で、占有は原則一人しかなしえないが、知的財産は情報のため、複数のものが同時に保持、使用できる。占有の観念を介在させる必要性はないのである。つまり、知的財産権は、物権的な構成をとっているものの、その実体は物に対する絶対的な支配権原ではなく、無体の財貨に対する独占的な利用権原にほかならない。
この使用に占有の必要がなく複数の者が同時にひとつの情報を保有あるいは使用できるという知的財産の特性は、国外の関連企業間で無形資産が利用されている場合、無形資産の所有について疑念をもたらし、無形資産の収益の帰属について国際間の所得配分の観点からも問題となってくる。
法的に有体物との相違が確認できたので、次に活用等の実質的な側面から無形資産の特殊性を概観する。無形資産には、有形資産とは異なる以下の 3
(20) 民 法 第 206 条
(21) 特許法に関して「職務発明」に関する訴訟事件が多発しており、大きな問題となっている。原審で 200 億という高額な相当の対価の額が判示された青色 LED 訴訟を初め、相当な対価の額に高額の判決が続出している。無形資産の税務上の取扱いに関して直接的には結びつかないが、職務発明の対価訴訟における司法の対価算定要因や算定方法を抑えておくのは、無形資産に関する多様な問題を抱える租税の面からも必要であろう。訴訟事件としては、最高裁第 3 小法廷判決/平成 13 年(受)第 1256 号、東京地裁平成 14 年(ワ)16635、東京高裁平成 14 年(ネ)6451、東京高裁平成 14 年(ワ)20521、東京高裁平成 16 年(ネ) 962、2177 等がある。なお、これらの問題を契機に特許法 35 条は一部改正されたが、職務発明に関する問題は今後も注視していく必要がある。
(22) 特許権は物権的な構成がとられており、原則として物権法の考え方があてはまる。現行特許法には妨害排除・予防請求権が規定されており、学説は、これをもって特許権は物権的な権利であるとしている。xxxx『x解 特許法(第3版)上巻』(青林書院,2002)15頁。
つの特徴がある(23)。
第 1 にあげられるのは、無形資産が「同時・多重利用が可能」である点である。物的資産などは、規模の増大とともに経済性は低下するが、無形資産はその使用とともに価値が減耗することは少ない。一方で無形資産を活用するうえでのデメリットや問題もある。物的資産や金融資産は、その用途を特定すれば他の用途には利用できず、そこから得られる便益を独占的に享受できる。しかし、技術、ブランド、ソフトウエア等の多くの無形資産は、多重利用・複製が可能なので、無形資産への投資を行っていない競合他社によるフリーライディング(ただ乗り)やイノベーションのスピルオーバーを生む。特許等の一部の無形資産は法律的な権利・契約により保護されるが、完全にフリーライディング等を防ぐことは困難である。つまり、無形資産への投資から得られる便益を、企業が独占的にコントロールすることは容易ではない。
第 2 の特性は、無形資産そのものの個別性・特殊性が高いゆえに、それらが生み出す便益について「不確実性(リスク)が高い」ことがあげられる。すなわち、無形資産へ投資したからといって、必ずしも将来に経済的便益が得られることが保証されたわけではない。有形資産の場合は、その投資が失敗に終わったとしても、別の用途に当該資産が活用できる可能性が高いが、無形資産は豊かな経験としての蓄積はあるものの、直接的にそれが将来の利益を保証するわけではない。
第 3 にあげられるのは、無形資産の「市場」が存在しないことである。最近になって特許や M&A をめぐる取引(24)が増大しており、それらの取引から無形
(23) xxxxx「x形資産開示と IR」『一橋ビジネスレビュー』WIN.51 巻 3 号(2003 年) 95-96 頁。
(24) 近年、知的財産を経営戦力の一環と捉え、投資家等へ IR(インベスター・リレーションズ)として情報開示する企業や、証券化により資金調達やリスクマネジメントとして積極的な活用を考える企業が出てきた。近年企業経営における知的財産の位置付けが大きく変化している。従来の他社による侵害の防止等の防衛的な役割から、企業価値を最大化するための企業競争力の源泉として知的財産の積極的な活用方法として、証券化が注目されている。知的財産を対象とした証券化は、すでに数多く行われている。一般的に著作権はキャッシュフローとの関係が明確であり、実際の証券化事例のほとんどは著作権を対象と
3 つの特性から、次のような懸念も生まれることになる。第1の特性からは、関連企業間に無形資産の権利を無償で移転するのが容易であるということである。第2の特性からは、国際的な共同開発を鑑みれば、企業はリスク分散を考慮し、利益が多額に出ている法人になるべく費用を負担させたいと考えるであろう。第3の特性からは、そのxxな市場価値を測定するのは至難の業となり移転価格税制における無形資産の評価困難性の要因となる。
2 無形資産取引から生じる税務上の諸問題
無形資産の特性を踏まえ税務上の諸問題を考えてみると、無形資産の形成と活用という面から支払に対する源泉徴収の適否、費用や所得の源泉地(25)、無形資産から生じる収益の帰属(26)、無形資産の譲渡や使用料の適正な対価の
したスキームである。xxxxxx「x的財産の証券化の会計・税務〔第 1 回〕仕組みと活用例」『税務弘報』52 巻 9 号(2004 年)164-168 頁。流動化の流れは不動産から知的財産にまで至っており、知的財産の収益性や経営戦略の方法も多岐に及ぶ。
(25) 例えば、シルバー精工事件(最一小平成 16.6.24 判・平成 11 年(行ヒ)第 44 号源泉所得税納税告知処分取消等請求事件)。米国に製品を輸出していた内国法人と米国における同種製品の製造技術につき特許権を有する外国法人との間で締結された和解契約に基づき、内国法人から外国法人にロイヤリテイとして支払われた金員が、国内源泉所得に当たる使用料ではないとされた事例である。
(26) 主に商標権で問題になるが、無形資産から生じる超過収益がどこの企業に帰属するかを 判断しなければならない局面においては、無形資産の課税上の所有者は誰かということは、非常に重要な問題となる。これは、無形資産の所有と所得の帰属に関する問題として、各 国で問題視され、研究もされてきてはいるが、無形資産から生じるの超過収益の帰属者に ついて、いまだ国際的なコンセンサスがない。我が国では、無形資産を開発し、又は醸成 した者に無形資産の経済実質価値を帰属させる考え方をとる。xxxx「x近の移転価格 税制の執行について(上)-無形資産取引を中心に-」『租税研究』646 号(2003 年)100-101 頁参照。
無形資産の所有者に関し、法的な所有者と経済的な所有者という概念があり、移転価格税制においては絶えず法的な所有者に無形資産に関する所得が帰属するわけではない。
算定等の問題が挙げられる。ここでは、特に有形資産取引と対比させて無形 資産の形成に対して課税の繰延べが及ぼす効果について検討を行うこととし、国際租税法における移転価格税制上の所得移転の問題を中心に考察を行う。
無形資産と有形資産との間には資産が形成されるまでの間に課税上の差異が存在する。広告宣伝費や無形資産を形成するための研究開発費は、原則として支出時に損金処理することが認められている(27)ので、無形資産を形成するための支出を損金処理する年度と、当該無形資産から実現する収益の帰属年度との間に時間的なミスマッチが生じ、この時間的ミスマッチが課税の繰延べ(28)をもたらす。この点が有形資産取引との最も大きな相違である。課税の繰延べは、当面失った税収を後に回復する制度であることから、物的課税除外(29)と違いはあるとしても、納税者に対して繰延べられた税額のxx分の
(27) 試験研究費であれば、繰延資産に該当し、償却は随意償却である。法人税法第 2 条1項 24 号で繰延資産を定義しており、同施行令第 14 条1 項 4 号で繰延資産の範囲のうち、試験研究費について規定している。同条によると、試験研究費とは新たな製品の製造又は新たな技術の発明に係る試験研究のために特別に支出する費用をいう。特別に支出した費用以外は、単純に当期の損金に算入されることになるが、繰延資産たる試験研究費も法人税法第 32 条及び同施行令第 64 条により法人の随意償却となり、結果的には、発生時点で損金に算入できることになっている。これらが意味しているところは、試験研究という特殊性に鑑み、費用収益対応の原則の例外という取扱いをしているといえよう。広告宣伝費については、損金算入の通則である法人税法第 22 条第 3 項、有形資産であれば資産計上を要する。
(28) この点に関しxxxxxxは「移転価格税制を捉えうる視角は、ミスマッチの競合である。すなわち、多くの無形資産取引では、研究開発費や広告宣伝費等の即時控除がもたらす時間的ミスマッチと、課税繰延べ取引によるミスマッチが競合している。」とし、無形資産の国外への現物出資と国内親会社の租税優遇措置の恩恵を例にとり、「こうした競合によるミスマッチの拡大こそが、国際課税において無形資産を特に問題としなければならない実質的な理由である」と述べられている。xxxx「x形資産の課税繰延べ取引と内国歳入法典 482 条(二・完)」『民商法雑誌』118 巻 6 号(1998 年)803 頁、829 頁。
(29) 物的課税除外は、「公益上の必要、徴収の困難、担税力の薄弱等の理由から認められている場合」が多く、「一般的に課税の対象とされている物・行為または事実のうち、特定のものを法令上課税の対象から除外すること」を指すものとされる。それは、課税繰延(tax deferral)とも異なり、課税繰延とは、「国庫補助金等の総収入金額不算入の制度や、収用補償金で代替資産を取得した場合に資産の譲渡がなかったものとする制度のように、ある所得を当面は課税の対象から除外するが、それによって取得した財産の取得価額をその金額だけ減額することによって、当面失った税収を後に回復する制度である」としている。
利益を与えることとなる。しかし、無形資産の形成は、費用の拠出に対しての収益の実現は通常補償されておらず、リスクを伴う(30)。
そこで、移転価格税制上問題となるのは、形成された無形資産を使用許諾 する際、価額の妥当性の他に、この時間的ミスマッチを利用して高収益性を 有する重要な無形資産を海外の関連者に低廉で移転し得ることであろう(31)。課税の繰延効果と無形資産の評価の困難性は、それが相乗的に作用し国境を 越えた関連者間の取引を通じて所得の海外移転を誘発する。これは無形資産 を形成するための研究開発費等の支出とその収益の帰属年度とが異なるため、我が国で研究開発費等を拠出して無形資産を形成した後、それを国外関連者 に譲渡し、当該移転先国において無形資産から生じる利益を享受することが 可能だからである。したがって、譲渡時に適正な無形資産の評価即ち移転価 格の算定が適正に行われない限り、当該無形資産から生ずるであろう収益は 事後的にしか把握できず、当該無形資産が高収益をもたらす場合には、移転 先の国において所得の増加が発生し、結果的に自国で生ずべき所得が他国に 移転したり、また、租税回避(32)のような行為が行われる可能性がある。
xxx・x掲注(13)165 頁。
(30) xxxx・x掲注(28)821 頁では、「もともと研究開発費の控除が支出ベースで認められることが多いため、時間的ミスマッチ(課税繰延べ)が存在しており、それは明示的にまたは暗黙に承認された租税優遇の一種と位置付けられる」との指摘もある。この考えに従えば、時間的なミスマッチによる課税繰延べは、許容されたものであると言える。時間的ミスマッチの許容の要因として、技術開発が国家の浮沈にも関わる重要事項として認識され、国家政策の一環であるからと考える。
(31) 米国では、米国内の法人が研究開発費を投じて無形資産を形成し、形成された無形資産を低税率国に所在する関連法人に低額で移転されている事象が問題となり、当該事象が後に述べる「移転価格に関する白書」の公表や費用分担契約の詳細な規定の導入に大きな影響を与えた。
(32) 私的自治の原則ないし契約自由の原則の支配する私法の世界においては、当事者は、一定の経済目的を達成しあるいは経済的成果を実現しようとする場合に、どのような法形式を用いるかについて選択の余地を有することが少ない。このような私法上の選択可能性を利用し、私的経済取引プロパーの見地からは合理的理由がないのに、通常用いられない法形式を選択することによって、結果的には意図した経済的目的ないし経済的成果を実現しながら、通常用いられる法形式に対応する課税要件の充足を免れ、もって税負担を減少させあるいは排除することを、租税回避(Tax avoidance)という。租税回避は、一方で、脱
したがって、国境を超えて関連者間の間で無形資産の移転が行われた場合、所得移転の防止を図るには、無形資産の移転時に独立企業であったならば設定したであろう適正な移転価格を算定するための方策が必要であり、そのためには無形資産の価値評価の方法を確立する必要がある。しかしながら、無形資産の価値評価の方法はいくつか示されているが、現時点では確固たる評価方法は存在しないのが現状である(33)。
無形資産の評価困難性がもたらす移転価格課税問題を回避するために、米国では事後的に対価の修正を求める規定の導入を図った。また、無形資産の評価を回避し、移転価格問題を回避し得るという点において、諸外国では、費用分担契約に関する規定の導入が図られている。
第2節 費用分担契約に関する現行税制
1 費用分担契約の意義
近年「コストシェアリングアレンジメント(Cost Sharing Arrangements)」という形で契約を結び、国境を越えた関連企業の間で、共同で研究開発活動を行う日本の企業が増加している。この契約は、米国で最初に規定された税務上の契約形態である。OECD では、1997 年 9 月に OECD 移転価格ガイドラインの第 8 章において、「コストコントュリビュ-ションアレンジメント(Cost
税(Tax evasion)と異なる。脱税が課税要件の充足の全部または一部秘匿する行為である のに対し、租税回避は、課税要件の充足そのものを回避する行為である。節税が租税法規 の予定しているところに従って税負担の減少を図る行為であるのに対し、租税回避は、租 税法規の予定していない異常な法形式を用いて税負担の減少を図る行為である。もっとも、節税と租税回避の限界は必ずしも明確ではない。xxx・x掲注(13)125-126 頁。
近年我が国においても国際的租税回避は問題になることが多く、国家の財源に関わる重要な問題である。
(33) 無形資産の評価方法としては、大別してコストアプローチ、マーケットアプローチ、そして、インカムアプローチの 3 つの方法が考えられる。xxxx・x掲注(26)101-103頁及びxxxx「x体資産課税と移転価格の問題」『テクノロジ-革新と国際税制』xxx・xxxxx(xx社,2000)90-92 頁参照。本稿においては、無形資産の評価に関し、困難を伴うという指摘にとどめる。
Contribution Arrangements)」に関する取扱いを公表した。
これらの契約は、簡単に述べると共同開発における費用の分担を取決める契約である。当該契約に関する税務上の取扱いは、国によって差異はあるが
(34)、米国以外の数カ国も移転価格税制の観点から規定を定めており、共通事
項として「当該契約は、無形資産の研究開発等にあたって、取決めに参加する複数の関連法人が、当該研究開発によって将来成果物として形成される無形資産から生じるものと見込まれる予想便益の総額を算出し、それに対して各法人の予測便益の額が占める割合に基づき、各法人が研究開発費などを分担する取決めをいう。当該契約の成果として各参加者は無形資産の持分権を取得する。(35)」が挙げられる。我が国では税務上特別の規定を定めていないため、上記のような契約を、今後は費用分担契約と呼ぶことにする(別添の
【費用分担契約のイメージ図】本稿 214 頁参照)。我が国においても共同研究開発自体は珍しいことではないが、多国籍企業の増加、我が国親会社の無形資産保有形態の変化及び無形資産の国際的な経営戦略を起因として、我が国の企業を含む国境を超えた関連企業間でも締結されるようになったと考えられる。
企業が、新たに無形資産(製造特許等)を開発する形態として、自己開発、委託研究、共同研究がある。共同研究の形態のうち、その運営方法といった観点からみると、技術研究組合、共同出資会社等の法人の設立や民法上の組合、商法上の匿名組合を結成する例が見られる(36)。費用分担契約は共同研究の一形態といえるが、ここでは、関連者間取引として、親会社が自己開発を行って子会社から使用料(以下ロイヤリティという)で開発費用を回収する場合と費用分担契約によって各法人が無形資産を使用する場合の比較を簡単に行い、国際的な共同開発事業における費用分担契約の税務上のメリットについて検討する。
(34) 例えば、米国では契約の対象となる資産を無形資産の開発に限定している。
(35) xxxx・x掲注(9)73 頁を参照した。
自己開発による場合は、研究開発の成果物である無形資産を子会社に使用許諾し、その対価としてロイヤリティを受領する。無形資産の所有権は使用者(ライセンシー)には移転しない。無形資産開発費用の回収という側面から見ると、研究開発成功時まで回収は行えず、通常研究期間は長期に渡るため回収は遅れる。また、研究開発が失敗に終わると、費用の回収は全くできず、 1 社がリスクをすべて負担することになる。税務上の観点からは、使用料に対する源泉所得税が発生する場合があり、限度額計算のある外国税額控除の対象となる。また、使用料は国外源泉所得を構成する。移転価格税制の面からは、ロイヤリティ料率等の算定に関し、課税当局の厳しい監視下に置かれていることが挙げられる。
一方、費用分担契約は多額の開発費を要しても、共同で研究開発行為を行 うという形式を採りリスク負担が軽減され、費用は予測便益に応じて均衡的 に参加者間で負担されるため自己開発に比べ親会社は開発費用が少額で済む。完成した無形資産は各参加者が持分権を有することになり、参加者であれば ロイヤリティの支払なしで、無償で使用できる権利を有する。そして、費用 の負担に関しては、研究成果の不確定さと開発のための実費相当であれば、 原則的には共同開発における分担金として損金算入され、ロイヤリティのよ うな源泉所得税は発生しない(37)。
このように費用分担契約は、多額の研究開発費用の資金調達と失敗時のリスク分散という事業経営上のメリットがある。一方、税務上のメリットとしては、先述したとおり企業が直接無形資産を所有することになるため、それを利用するために支払う使用料の支払が不要になり、結果として移転価格課税や使用料の源泉課税について課税を免れることとなる。他の雑誌論文等でも、費用分担契約については多様なメリットがあり、今後増加していくもの
(36) 成xxx『x験研究費の法人税務』(xx財務協会,2003)98 頁。
(37) 共同研究開発の分担費用について、xxxxx『源泉国際課税の実務』(xx財務協会, 1998)360 頁及びトピックス「共同研究開発費用の負担」『国際税務』Vol.9 No.9,37 頁参照。
2 費用分担契約に関する税務上の論点
国際的な共同開発事業で用いられる費用分担契約は、企業に多大なメリットを享受させるが、時として我が国租税法上または他国も含めグローバル的に租税の問題を発生させるものとして、多様な問題点を提起する。
第 1 節で述べた無形資産の問題も含め、費用分担契約における税務上の論点を列挙する(39)と①費用分担契約の法的性格、②開発費用等の法人税法上の取扱い、③参加者間の既存無形資産の移転に関する法人税法上の取扱い、④源泉所得税、⑤外国税額控除、⑥移転価格税制上の問題等が挙げられ、法人税法、所得税法、租税特別措置法等、多岐に渡る税法が関係してくる。場合によっては、各論点が税法を超えて関係してくるケースも考えられる。本稿では、その中で⑥の移転価格税制を中心として検討を行っていくが、その前に①、②及び④について若干触れ、その後に⑥の検討理由を示しておく。
(1)費用分担契約の法的性格
実際に費用分担契約が「cost contribution arrangement」「cost sharing arrangement」として契約が締結され、我が国法人が参加者として当該契約に準拠し費用の拠出を行っている現状を考えると、当該契約が我が国租税法上どういう性格を有しているのか、どう位置付けられるのかを検討する
(38) 諸外国の例では、非関連者間の契約では、経営/経済上のメリットを理由として、関連者間の場合では、税務上のメリットを理由として締結するケースが多い。経営/経済上のメリットとしては、研究開発コスト・リスクの軽減、経営資源効率の向上が挙げられ、税務上のメリットとして、グループ資金の効率活用、無形資産の移転の税務上の明快さ、課税所得の移転及び全世界所得に対する実行税率の軽減、関税/VATの軽減、源泉所得税の軽減、税額控除の全世界ベースでの最大化利用を挙げている。
xxxx・xxxx「研究開発活動のグローバル戦略~コストシェアリングの実務-」
『国際税務』Vol.17 NO11,21-23 頁。
(39) xxxx・前掲注(6)「費用分担契約における契約締結上及び税務上の論点(上)」20-27頁参照。
必要があると考える。なぜなら現在事業体課税が議論されている(40)が、それは国外の法概念を含む新しい組織形態が次々に発生していることを一要因としているからである。例えば partnership(41)や limited liability company(42)等に我が国居住者も積極的に参加するようになり、課税面で言えば、租税回避のためのビークルとして当該事業体が用いられているケースも発生している(43)。国外の法概念に関して、我が国租税法でどのように解釈していくか(44)、如何にして対処していくか等、問題点は多岐に渡る。共同事業体としての費用分担契約に関しては、上述した外国法概念の我が国租税法の解釈適用問題、各種契約形態の要件や私法上の効果、組合等の課税関係の検討を要し、私法上の資本や出資概念、終局的には法人の納税義務まで議論が発展する可能性があり、本稿での議論を超えるため指摘に
(40) xxxx「なぜ事業体課税が議論されるのか」『税務弘報』52 巻 9 号(2004 年)147-150頁。
(41) パートナーシップ(partner ship)は、わが国の法制度では認められておらず、わが国の税法でも予定されていない事柄の一つである。米国統一パートナーシップ法では、「パートナーシップとは、2 名以上の『者』が営利を目的に共同所有者として事業を遂行する団体である」と規定されている。パートナーシップの基本形態としては、ジェネラル・パートナーシップとリミテッド・パートナーシップがある。米国内国歳入法上、パートナーシップそれ自体は納税主体とはならないが、パートナーシップ段階で課税所得が算定され、そこで算定された所得または損失は、各パートナーに導管(パス・スルー)されて課税される。わが国にはパートナーシップという制度がなく、形態も様々であるため、個別にその性格等を判断し、わが国の民法上の組合や商法上の匿名組合等のいずれかに準じて、パートナーシップの課税関係を取扱うこととされていた。xxxxほか『スピードマスター国際税務』(中央経済社,2002)246-247 頁。
(42) LLC(limited liability company)とは、米国各州が制定する LLC 法にもとづいて設立される事業体(ビークル)で、その設立に際しては、一般的にわが国の法人のように登記(登録)が行われる。現在では全米の 50 州およびコロンビア特別区において制定されている。米国各州の LLC 法に準拠して設立された米国 LLC は、米国課税上、法人課税またはパス・スルー課税のいずれかを選択することができる。また、構成員は有限責任であり、パートナーシップと株式会社の最もよい特徴を兼ね備えた組織である。xxxxほか・前掲注(41)252-253 頁。
(43) 米国大手投資グループがLLC を用いた不良債権ビジネスで400億円の申告漏れが報道された。2003 年 7 月 16 日朝日新聞朝刊。
(44) 例えば、xxxx「税法において使用される法概念について-外国法概念は含まれるか
-」税法学 536 号(1996 年)3-15 頁。
とどめ、あくまでも移転価格税制における所得移転に関する問題について言及していくことにする。なお、OECD 移転価格ガイドラインにおいては、費用分担契約は費用の分担等に関して企業間で合意された契約上の取決めであり、法的主体にはならず、またxx的施設でもないとしている(45)。米国財務省規則では費用分担契約は、パートナーシップとはみなされず、また費用分担契約に拠出することのみをもって、xx的施設とはみなさない
(46)と規定している。したがって、本稿においても費用分担契約は、事業体
を構成しない契約であり所得が各参加者に帰属するものとして議論を進める。
(2)費用分担契約と法人税法
各参加者が支出した費用の一部が費用分担契約に関連する費用でなかったり、また仮装隠蔽がなされた費用等である場合は、我が国の法人税法の問題なので議論の対象から外し、あくまでも適正な費用を負担しあう取引を念頭におくことにする。ただし、ここで指摘するべき点は、なぜ上述した費用が法人税法の問題なのかである。つまり、特別法である租税特別措置法第 66 条の4と法人税法第 22 条との関係を整理する必要があろう。ただし、この点に関しても、本稿の議論を超えるため指摘にとどめるが、第 3 章の「費用の性質」で若干触れることにする。
(3)源泉所得税の問題
源泉所得税に関する問題も論点が多岐に渡り、かなりの考察を要するため、論点の指摘にとどめる。
無形資産の開発活動を対象とした費用分担契約では、使用料と開発分担金との相違、既存無形資産や有形資産の費用分担契約に対する拠出、費用
(45) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ8.3。また同パラ8.40 をあわせて考察すると、法主体性がなく、各参加者が各自持分権を有し、共同事業活動から収益は生まれず、支払要因が特定されている状況を鑑みれば、OECD 移転価格ガイドラインは費用分担契約の法的性格のあるべき方向性を示していると考える。
(46) 財務省規則1.482-7(a)(1)
(4)移転価格税制を中心とした検討理由
上記の問題点や非関連者間の間でも締結されている費用分担契約について、なぜ移転価格税制の問題を真っ先に取り上げるのかを述べておく。全世界的に無形資産の重要性が認識されるなか、費用分担契約は無形資産の特性を生かし、そして移転価格税制上の最も困難とされている無形資産の評価を回避し得る契約として位置付けられ、多国籍企業の経営戦略の一環として欧米ではすでに活用されてきた(47)。近年になり、我が国の法人も国外の関連会社と費用分担契約を締結するようになってきたが、欧米諸国においては無形資産の海外流出またはそれを危惧して(48)、すでに移転価格税制上の規定として費用分担契約の導入を終えている。それは、あくまでも費用分担契約から生じる無形資産の形成と活用における所得移転の問題が国際的な関連企業間の恣意的な価格操作を用いることで可能になると考えていたからである。すなわち、移転価格税制の観点から自国の課税権を守っていくことになる。しかし、一方で移転価格税制は、その本質的な部分
(47) 費用分担契約は、グローバル的な経営管理の一手段としても用いられている。米国法人の自動車製造業であるGM(General Motors)の租税担当役員である Xxxx 氏に対するインタビューで、GM では、費用分担契約をxx、効果的なグローバルな税務管理手法として使用してきており、税制上の優位性と国際的な自由な技術移転の容易性をメリットとして、多国籍企業の事業管理の一手段として活用している。
Xxxxxxxx X.Xxxxxx・10 ,14 TM TPR 520「Tax Management Transfer Pricing Report In Practice November 14,2001」P3-4 。
(48) 発祥の地であるといわれている米国において、費用分担契約が問題となったのは、タックスヘイブン国との間の契約においてであった。xxxx・xxxほか「解説セミナー・シリーズ(3)コスト・シェアリング契約」『国際税務』Vol 11 No2,36 頁。
に私的自治や契約自由の原則への介入という配慮すべき租税法上の課題がある(49)。米国は所得の配分を行う米国内国歳入法典 482 条の適用対象取引に国内取引も含まれているが、日本を含めイギリス、ドイツ等は、国外関連取引に限定している。我が国は1986 年に移転価格税制を導入している(50)が、導入時において国際取引に限定している理由については公表されていないが、国際取引の活発化に伴う他国への所得移転の防止と同時に私的取
(49) xxx「移転価格税制の法理論的検討-わが国の制度を素材として-」xxxx先生古稀祝賀『現代立憲主義の展開』下巻(有斐閣,1993)442 頁では、「移転価格税制は、実際問題として、私的自治ないし契約自由の原則と抵触することになりやすい。もちろん、それは、関連企業間の取引において設定された対価の額が適正でない場合に、所得を適正な対価に従って計算しなおすことを内容とする制度であって、対価の設定そのものに介入することを目的とする制度でない。しかし、納税者が、移転価格税制の適用を恐れるあまり、租税行政庁の意向を縜度して対価を設定することは、実際問題として十分にありうることであり、その意味で、移転価格税制が私的取引における対価の設定をリードし、それによって私的自治ないし契約の自由に事実上介入する可能性をもっていることは否定できない」とある。
(50) 昭和 61 年度の税制改正において、租税特別措置法第 66 条の 4(旧第 66 条の 5)「国外関連者との取引に係る課税の特例」が新たに設けられた。この規定が移転価格税制である。一般的に移転価格(Transfer Price)とは、企業が国外にある親会社又は子会社といった関連企業間における資産の売買、役務提供等に係る取引価格を意味するが、この移転価格の問題が企業活動の国際化に伴い、多国籍企業(国境を超えて活動する関連企業グループ)が増加する中で大きくクローズアップされるようになった。そのような関連企業においては、取引価格を通じて恣意的な所得移転が可能である。それは、国境を超えた取引として見た場合、所得の国際的移動が生じて、国家の課税権の侵害にまで発展する。移転価格税制とは、このような、所得を国際的に移転させることに対処するための税制と言える。このような移転価格の問題は、OECD 等の国際機関で検討が続けられてきたが、1979 年 5 月 16 日、OECD 理事会は、「移転価格と多国籍企業」と題する報告書を採択し、公表した。この報告書の主要な目的は、租税を賦課するために移転価格を決定する際の一般的に合意された慣行を、可能な限り考慮に入れ記述することにあるとし、商品や技術の移転、役務提供等の独立企業間価格の算定方法を詳細に分析、検討している。このような OECD の動向も踏まえ、我国の導入当時には、欧米主要国のほとんどはすでに、所得の国際的な移転に対する税制を整備していた。
一方、我が国においては、移転価格税制導入前における所得移転に対処するため、①課税所得の通則的規定、②寄付金の損金不算入、③同族会社等の行為又は計算の否認、④内国法人の特定外国子会社等に係る所得の課税の特例などの規定をもって規整しようとしたが、それぞれについて対応の限界があり、移転価格税制の導入に至っている。
費用分担契約に関する税務上の問題点は数多くあるなか、以上のことから本稿においては国際的な共同開発事業に用いられる費用分担契約について、移転価格税制を中心に検討していく。
第3節 費用分担契約と移転価格税制の対応関係
(51) 我が国の移転価格税制の適用対象について、xxxx・前掲注(6)12 頁では、「わが国の移転価格税制は、当初から国際取引に適用対象を限定したが、これは、既存の国内法との調整を先送りしたものであり、米国の移転価格税制を規定した内国歳入法典 482 条のように、国内においても適用できるようにする選択肢も改正時にあったはずである。」とあり、xxxx・前掲注(10)111 頁~112 頁では、理由の推察として「①国内間での所得の移転は、一方の法人の所得増減が他方の法人の所得減額になることから、基本的には国際取引についてのみ手当てすることで問題はないと考えられたこと、②国際間の所得移転は看過しがたいほど行われているが、国内取引は移転価格税制を導入してまで防止しなければならないほどの問題はないと考えられたことなどが考えられる」とする。また、xxxx・「トランスファー・プライシングに対する税法上の規制-xxわが国の特別立法をめぐって-」『亜細亜法学』21 巻 1 号(1986 年)22 頁では、「国内取引では存しない重要な要請があることを認めたからである」としている。
一方、国内取引における立法上の対処を主張する、xxxx「会社間取引と法人税法(1)
-結合企業課税の基礎理論-」『法学協会雑誌』108 巻 3 号(1991 年)43 頁~46 頁もある。
費用分担契約は、工業所有xxの無形資産の共同開発に際して用いられるケースが多いであろう(52)。特に典型的な費用分担契約のケース(すなわち、研究開発の成果である無形資産から将来生じると見込まれる予測便益の総額を算出した上で、各国内の法人の予測便益の額が占めるであろう割合に基づき、各法人が研究開発費などの分担に関する取決めをするような事例)では、開発費用の配分と併せて、無形資産の持分権の所有状況や移転行為(バイ・イン及びバイ・アウト)(53)の有無の認定・評価、仮払いされた開発費用等調整金の授受についての取扱い等、共同事業への参加者に対する課税関係が、将来、国際的側面において問題とされる余地はきわめて大きい。
ただし、これまでの我が国の税制では、国際的な費用分担契約については、ほとんど念頭においておらず、何らの対策も講じてこなかった。もっとも、現存する我が国の税制度のなかでも、移転価格税制は、その基本的考え方や国際的租税回避行為を防止する手法などの点で、費用分担契約に対する今後の税制の在り方を示唆しているようにも思われる。また、規定の内容から見て、現段階においても、国際間での移転価格に関する現行法の取扱いが国際的費用分担契約に対してどのように当てはまるのかを考察しておく必要があろう。そこで以下では、租税特別措置法(以下「措置法」という)第 66 条の4で定める移転価格税制が国際的な費用分担契約に対して何処まで対応しうるのかという問題を検討しておきたい。
(52) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.7 では無形資産の開発が最も一般的と述べている。
(53) バイ・イン及びバイ・アウトは、無形資産の持分権の移転を意味するが、国によって用語法に差異がある。本稿では OECD に準拠し、バイ・インを新規参加者の費用分担契約に参加するに当たっての無形資産の移転、バイ・アウトを脱退に伴う開発中の無形資産の持分権の移転を指すものとする。
後述するが、各国のバイ・インやバイ・アウトに関する規定は、移転価格税制に関する費用分担契約の一環として規定されている。その中でも、米国における規定では、バイ・イン等に関する取引事象は費用分担契約の枠外で行われたものとして扱われ、あくまでも参加者同士の個別取引として処理され、各参加者間における無形資産の持分に関する支払に関し、独立企業間価格の算定が要請される。
我が国の移転価格税制においては、主に相対取引としての資産の販売や購入、役務の提供、無形資産の譲渡や使用料等の国外関連取引が問題とされてきた(54)。移転価格税制の目的である所得の移転の防止という側面からは、自国で課税すべき所得として、相対取引としてのマークアップ(55)の妥当性が問題とされよう。それに対して、費用分担契約における各参加者の開発費用の拠出に関しては、相対取引のマークアップではなく、各参加者間でのコストの配分割合が問題となってくる。それと同時に、コストの拠出との関係から言えば、無形資産形成後の当該資産から生じる各参加者の所得についても、国際間での配分の在り方が問題とされる。
これまでは主に我が国以外の国で使用されていた費用分担契約は、我が国においても国外関連者間で用いられる契約形態として次第に熟知されるようになり、近時においては移転価格税制の対象に含めうるか否かが議論されている。たとえば、共同的事業経費の分担(費用分担)について、その事業活動の費用等を合理的な分担割合に応じて分担するにすぎないものであることが明確な場合には、移転価格税制の対象に含めることに対して否定的に解する文献(56)も見受けられる。その意味では、開発費用等の分担金が移転価格税
(54) 大手製薬会社が子会社より受け取る使用料が過小として 423 億円(2001 年 1 月 26 日、日本経済新聞朝刊)、大手飲料メーカーが米国親会社に支払った商標権使用料が過大として 450 億円(2000 年 4 月 29 日、日本経済新聞朝刊)、子会社に対する保証料等の対価の問題(平成 14 年5 月 24 日裁決,裁決事例集 No63,454 頁)等がある。
(55) 仕入価額や売上原価に対するマージン、費用等に上乗せする額のことをいう。
(56) xxxxx「「移転価格」調査のポイントと対応」『税経通信』Vol.56 No.14.796(2001年)129 頁では、「日本法人と国外関連者との間における共同経費の分担については、合理的な割合により分担された取引については、適用対象外とされている。しかし、日本法人と国外関連者との取引の対価の額であると認められる場合には、適用対象外とならないことに留意すること」とあり、xxx「移転価格税制の実務的検討/2」『税務弘報』139巻 13 号(1991 年)139 頁では、「法人と国外関連者との間における共同的経費の合理的な分担については、原則として本税制の対象とはならない。合理的な分担かどうかについては、分担の基礎となった、①活動の内容、②成果の帰属関係、③契約内容等からみて、総合的に判断すべきであろう。しかしながら、法人と国外関連者との取引の対価の額であると認められるものについては、「本税制」が適用されることとなる。」と適用対象外取引として
制の対象に含まれるか否かは、必ずしも明確ではない。
そこで、ここではまず費用分担契約が措置法で定める移転価格税制の適用対象取引に該当するのか否か、さらには適正な国際課税を実現するために、国際間での費用分担契約に対して現行の移転価格税制で十分対処することが可能なのか、制度を改善する余地がないのかという諸点を検討し、問題点を明らかにしておきたい。具体的には、費用分担契約をめぐる法律状況を 3 つの段階に分けて検討を行うこととする。第一は、無形資産が形成されるに先立ち各参加者が開発費用を拠出する事前段階、第二にバイ・インやバイ・アウトが生じる段階、第三に無形資産が形成され、各参加者自らが当該資産を基に収益を享受していく事後的段階の 3 段階である。第一と第二の段階では、移転価格税制の適用対象取引に該当するか否かが問題の中心になり、第三の段階では、具体的な課税問題が生じてくることとなる。以下論点を整理すると次のようになる。
第一段階及び第二段階
① 各参加者の費用を分担する取引及び仮に支払われた開発費用等の調整金を授受する取引は移転価格税制の適用対象取引に該当するのか。(中心的論点)
② 取引は、措置法上の国外関連取引に該当するのか。(関連する問題。以下同様)
③ 国外関連者への授受の対価はどのような価額が該当するのか。
④ どのようにして独立企業間価格(57)を算定方法し得るのか。
説明されている。しかし、合理的でない取引は対象取引と解せる。
(57) 独立企業間価格とは、所得移転による租税債務の歪みの是正の基準となるものであり、問題となった関連企業間取引が、同様の状況下、非関連者間で行われた場合に成立すると認められる価格をさすものである。1979 年OECD 報告書では、独立企業間価格を「自由競争市場において同一又は類似の条件の下に同様の取引が非関連者間で行われた場合の価格」をさすものとして用い、米国の内国歳入法 482 条に関する財務省規則においては、「同一又は類似の状況下における非関連者との独立の取引において課され又は課されたであろう価格」を意味するものとして使用されている。OECD モデル条約第 9 条(特殊関連企業条項)では、単に「独立の企業の間に設けられる条件」という文言でこの基準が表現さ
第三段階については、事後的な観点から、実際便益と予測便益に乖離があった場合の税関係について検討する。なお、ここでは、実際便益と予測便益の乖離に応じた定期的調整は行われていないことを前提として考察することにする。この場合、
① どのような課税の方法論が考えられるであろうか。また、
② 上記方法論に対して、現行税制でどこまで対処することが可能であろうか。
これらの問題を、措置法第 66 条の4の解釈と適用(58)を中心に検討していきたい。その上で、費用分担契約に関する現行の移転価格税制における問題点を明確にする。
2 移転価格税制の適用可能性
具体的な検討に入る前に、第 1 段階及び第 2 段階の中心的な問題である移転価格税制の適用対象取引について定義を行う必要がある。そのために、措置法第66 条の4 を中心とした独立企業間価格を算定する構造について概観しておく。
税特別措置法第 66 条の 4 は、特別法である租税特別措置法の「国外関連者との取引に係る課税の特例」として規定されており、移転価格税制の独立企業間価格に関する重要な条項である。租税特別措置とは、「担税力その他の点で同様の状況にあるにもかかわらず、何らかの政策目的実現のために、特定
れている。これらのように利用されるなど、国際的な課税原則として認められてきている基準であり、移転価格税制の中核になるものである。xxxx『昭和 61 年改正税法のすべて』国税庁,189 頁、199 頁。
(58) 税法の解釈とは、税法の条規の中にある法的意味を理解することであり、かかる意味を確立することである。税法の適用とは、具体的な租税上の事案に対し税法上の条規をあてはめ、その事案を処理解決することである。xxxx『税法の解釈及び適用(』三晃社,1961) 98-99 頁。また、上記著書について、xxxx「税法の解釈と適用-xxx法学の一端
-」『税法学』546 号(2001 年)217-229 頁参照。
の要件に該当する場合に、税負担を軽減しあるいは加重することを内容とする措置であり(59)」、本条は、関連企業間における所得の海外移転に対処し、適正な国際課税を実現することを目的とした、税負担を加重する租税重課措置である。
それでは、租税特別措置法第 66 条の 4 第 1 項の要旨を以下に示し、独立企
業間価格の算定方法が規定された同条第 2 項を含めた構造について内容を確認する。
「国外関連者・・・との間で資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引を行なった場合に、当該取引(当該国外関連者が法人税法 141 条第 1 号から第 3 号〔外国法人に係る各事業年度の所得に対する法人税の課税標準〕までに掲げる外国法人のいずれに該当するかに応じ、当該国外関連者のこれらの号に掲げる国内源泉所得に係る取引のうち政令で定めるものを除く。以下この条において「国外関連取引」という。)につき、当該法人が当該国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないとき、又はその法人が国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは、当該法人の当該事業年度の所得・・・に係る同法その他法人税に関する法令の規定の適用については、当該国外関連取引は独立企業間価格で行われたものとみなす」
第 1 項を簡単に述べると、国外関連取引につき、国外関連者との対価の授
受が第 2 項で算定した独立企業間価格と比べた場合、課税所得を減少させるときは、当該国外関連取引は独立企業間価格で行われたものとみなす、というものである。第 1 項では移転価格税制の適用要件を規定し、第 2 項では独
立企業間価格の算定方法を規定している。第 1 項の適用要件から、適用過程を考察すると、①取引が国外関連取引に該当すること、②国外関連者間の授受の対価の特定③独立企業間価格の算定、④両者を比較、⑤結果、課税所得が減少していれば独立企業間価格が国外関連取引の対価とみなされる。そし
(59) xxx・前掲注(13)92 頁。
このような構造をしているので、本稿でいう移転価格税制上の「適用対象取引」とは、上記適用過程でいう④までの過程を経た取引をいうものとする。すなわち、⑤における結果としての課税所得の減少に拘わらず、海外への所得移転の有無を確認すべく段階の取引を「適用対象取引」とする。国外関連者間との授受の対価が独立企業間価格と同様であれば、移転価格税制の適用は行われないが、取引としては「適用対象取引」となる。
(1)第一段階
イ 国外関連取引に該当するのか
措置法第第 66 条の 4 第 1 項では、「国外関連取引」を、国外関連者との間の資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引であり、外国法人が我が国で法人税の対象となるものを除くと定義する。それでは、費用分担契約のように各参加者が費用を分担する取引自体が、これらの定義で言う国外関連取引に該当するのであろうか。
結論からいえば、「該当する」ということになろう。なぜなら、国外関連取引とは、国外関連者との間の所得に関するすべての取引と解釈することが妥当と思われるからである(60)。
その理由としては、以下の点を挙げることがxxxx。
① 移転価格税制はその制度や制定の経緯・趣旨から判断すると、企業グループ内における所得の移転を把握し適正な課税を実現することを目的(61)としている。
(60) xxxx『X&A 移転価格の税務』(財経詳報社,1997)93 頁では、国外関連取引には
「企業の所得の計算に関係するすべての取引を対象としていると考えられる」とし、xxxx『x転価格税制詳解』(xx財務協会,1999)228 頁では、移転価格税制の対象となる取引の範囲として、「企業の損益に結びつくすべての取引」としている。
(61) この税制の目的は、①特殊関連企業との取引を通じた所得の海外移転への対処、②諸外国と共通の基盤に立つこと、③適正な国際課税を実現することを本来の目的としている。なお、②の意味は、我が国の制度を考えるに当たっては、諸外国の制度と整合性のあるものとしなくてはならないということ、具体的には、諸外国がその制度を基礎づけている独立企業原則を我が国においても取り入れて制度を構成すべきであるということをさす。な
② 国外関連取引として、「資産の販売、資産の購入、役務の提供」を取引の一例として掲げ、その他の取引を包括的に付加して規定していることや、我が国で法人税の対象となる外国法人を除いている規定の趣旨からすると、費用分担契約を特に排除する趣旨であるとの解釈は取りえない。その他、近時の松山地裁(62)では、移転価格税制の適用の有無を判断するに際して、措置法第 66 条の 4第1 項に「取引価格の可能性がある」という要件を加えて、「限定解釈」をする必要はないことを強調し、移転価格税制の趣旨と目的に鑑みて、同条項を広く関連者間取引一般に適用すべきであるという態度を取っていることも注目されよう。
したがって、開発費用の拠出及び仮に支払われた開発費用等の調整金の授受については、租税特別措置法第 66 条の 4 第 1 項におけるその他
お、昭和 60 年 12 月 17 日政府税制調査会答申は、移転価格税制の趣旨、目的について「近年、企業活動の国際化の進展に伴い、海外の特殊関連企業との取引の価格を操作することにより所得の海外移転、いわゆる移転価格の問題が国際課税の分野で重要となってきているが、現行法では、この点についての十分な対応が困難であり、これを放置することは、適正・xxな課税の見地から、問題のあるところである。また、諸外国において、既に、こうした所得の海外移転に対処するための税制が整備されておることを考えると、我が国においても、これら諸外国と共通の基盤に立って、適正な国際課税を実現するため、法人が海外の特殊関連企業と取引を行った場合の課税所得計算に関する規定を整備するとともに、資料収集等、制度の円滑な運用に資するための措置を講ずることが適当である。」と述べている。
(62) 松山地裁判決(松山地裁・平成 11 年(行ウ)第 7 号・法人税更正処分等取消請求事件)。船舶xxの請負取引に関するものである。当該事件は、移転価格税制の適用の可否を巡る初の司法判断が下されたもので、非常に注目されている 。xxx『x際商事法務』32 巻 10 号(2004 年)1401-1405 頁及び『週間税務通信』№2833(2004 年)2-3 頁。
本件における具体的な争点としては、大きく二つに分けられる。一つは、移転価格税制適用の要件を充足しているかであり、原告からは具体的に①船舶xx請負契約のような個別性が強く価格について比較可能性の乏しい取引にも租税特別措置法 66 条の 4 は適用されるのか、②経済的合理性を有する設定価格であっても適用されるのか、③相互協議が行われない場合にも適用されるのかが、問題提起された。二つめは独立企業間価格の算定方法についてである。これは、①独立価格比準法を用いたことの可否、②国外関連取引と比較対象取引との差異につき考慮すべき調整項目の中に事業戦略等に起因するものを含むのか、③独立企業間価格の算定の際に「幅」の概念が認められるのかが提起された。
の取引に該当し、「国外関連取引」に該当する。
ロ 国外関連取引における国外関連者との対価について
次に国外関連取引における国外関連者との「対価」について、検討する。ここでは、ハで検討する独立企業間価格と対比する国外関連者との対価について、費用分担契約における課税要件事実として何をもって対価として当該条項を適用していくのかを明確にする。
結論からいえば、精算額を含む開発費用、つまりいったん拠出した費用に調整金の授受を加味したところの分担金が国外関連者に支払う対価に該当することになろう。なぜなら、費用分担契約として国外関連取引を行う時は、調整額を含む分担した費用が所得または損益に関係するからである。
しかし、これには反対説の主張もあるであろう。参加者は国外関連者に直接対価を支払っているわけではない。加えて、費用分担契約は、もともと研究開発等の費用の分担方法や割合をどのようにするかの契約で、単に各参加者は、自己の負担分を拠出しているに過ぎないとする。これは、例えば参加者全員で無形資産の研究開発活動を行うケースで、各参加者が各自で開発費用を負担していき、費消した費用を総合計し、予測便益に応じて調整を行う場合、調整金を除いては国外関連者に直接対価を支払っているわけではないというようなケースが該当すると思われる。
それでは、反対説に対する反論も含めて検討を行っていく。
対価とは、法令用語としては、「個々の契約による財産の移転又はサービスの提供に対する反対給付の価額をいう。価格、価額又は時価などという語は、ある財産の客観的な価格又は価額を指すのに対し、対価は、個々の財産の移転又はサービスの提供があった場合のその反対給付として給付される価額を指す点において異なる。また、代金は、売買、工事、製造、加工等に対する金銭による反対給付の意味に用いられている
のに対し、対価は、これを包含し、さらに広い概念である(63)」。用例としては、相続税法第 7 条で、「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があった場合において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があった時における当該時価・・・」のように使用されている。このような意味では、反対説が主張する解釈も当然のことである。1986 年制定当時からの当該条項が想定している対価とは、主に国外関連取引の相対取引における対価の授受だったと思われる。そこでは、絶えずマークアップに焦点が宛てられ、2国間の所得配分の問題として移転価格税制の適用が考えられてきた。しかしここでは、以下の点から調整額を含む分担した費用が国外関連者との対価となると考える。
① 契約上は単なる費用を分担する取決めとしても、共同開発における無形資産の持分の取得に関する取引である。各参加者は、無形資産の形成を目的とし、研究が成功すれば開発費用等の反対給付として無形資産の持分権が取得できる。特殊なのは、開発研究なので失敗する可能性もあり、加えて成功したとしても無形資産の持分権の使用による収益等の実現が、開発費用等の拠出から事後になってしまうというところである。また、対価性のある拠出であり、費用の拠出に関し開発途中であっても評価困難性を別とすれば、何らかの持分権として対価を享受しているともいえる。
② 果たして国外関連者への支払いの対価とはいえないのであろうか。費用分担契約は、各参加者が拠出したすべての費用を一時的にプールし、各参加者の予測便益割合に応じて配賦する。形成された無形資産は各参加者が各自所有(64)し使用できる。この構造からすると各参加者は自己が拠出した費用を他の参加者が予測便益割合に応じて負担して
(63) xxxxxx『法令用語辞典』(学陽書房,1967)385 頁。
(64) 厳密な意味での法的な所有ではなく経済的な所有という意味である。
いることになり、自らは他の参加者が負担した費用を自己の予測便益割合に応じて負担していることになる。つまり、無形資産の持分を対価として得るために、各参加者は互いに費用を分担し合っているのであるから、実際資金の移動は調整金のみとしても、調整金算定にあたり自己の予測便益割合に応じた国外関連者への支払いや受取が計算上は行われていることになる。
③ 移転価格税制の目的である国際的な所得移転の防止を鑑みれば、独立企業間価格の妥当性を検討する対象取引は、国際的な所得移転の可能性のある取引、また国際的な所得配分に関する取引ともいえ、費用分担契約における所得の移転とは、まさに各参加者の費用をプールしそれを各国の参加者が如何に分担するかが問題となるのである。そのような観点からすれば、調整額を含む分担した費用の支払が国外関連者への対価として解釈すべきものと考える。
以上のことから、本件取引における各参加者の開発費用の拠出行為は、精算額を含む各参加者が負担した開発費用(分担金)が国外関連取引における国外関連者に支払う対価となる(65)。
ハ 独立企業間価格の算定方法
措置法第 66 条の 4 第 2 項は、独立企業間価格の算定方法について、「棚卸資産の販売又は購入」と「それ以外の取引」に分けて定めている。費用分担契約における各参加者の開発費用の拠出行為は、それ以外の取引に該当することになり、同条第 2 項第 2 号が適用される。したがって、
(65) xxxx・xxxxxx『DHC 会社税務釈義』(第一法規,2003 年版)3199 の 9 では、
「本条の適用を受ける取引は、第三者間であれば対価の授受が行われるような取引であって、実際の取引価格が独立企業間価格と異なることにより法人の課税所得が減少することとなる取引である」としている。
なお、xxxx・前掲注(60)64 頁には、「実務上時折見られるが、国外関連者との間で締結された費用分担契約(Cost Sharing Agreement)に基づき、無形資産の共同研究開発に要した費用を契約当事者が分担することにしている場合に、各当事者がそれぞれ負担すべき費用の適正額の決定の問題は、措置法 66 条の 4 の 2 項における棚卸資産の売買取引以外の取引に類する問題として考えてもよい」としている。
その独立企業間価格は、まず独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法の三法と同等の方法により算定されることとされ、これら三法と同等の方法によることができない場合には、これらに準ずる方法と同等の方法又は政令で定められている利益分割法、取引単位営業利益法によることとなる。前述したように、費用分担契約のような国外関連者間の共同開発等の費用分担を移転価格税制の対象として独立企業間価格を算出するということは、近年まで考察はされていなかったように思われる。それでは、どの独立企業間価格算定方法が適用可能と考えられるのであろうか。移転価格税制の独立企業間価格算定については技術的に特殊な分野であるが、ここではあくまでも措置法第 66 条の4の適用の問題として検討を行う。
独立価格比準法(66)は、国外関連取引の価格と比較可能な対象取引の価格を独立企業間価格とするものである。比較対象取引価格と直接比較する手法であるため、最も信頼できる方法であるが、価格に重大な影響を与える差異がない程十分に類似性のある非関連取引を見出すことは容易ではない。特に製品の品質、種類や取引条件に関する些細な相違は粗利益に対する影響を無視できるとしても、価格に対する影響は重要である場合がある。こうしたことから、独立価格比準法は、金利や為替のほか、モノ自体の同質性及び大量取引性の特徴から国際相場の建っているコモディティ商品について最適の手法といえるかもしれない(67)。このような独立価格比準法は、費用分担契約における開発費用の分担行為としての比較対象取引が存在すれば適用可能であるが、現実問題として存在しえないであろう。
次に、再販売価格基準法(68)であるが、これは国外関連者から購入した
(66) 租税特別措置法第 66 条の 4 第2 項第 1 号イ
(67) xxxx『xが国における移転価格税制の執行-理論と実務-』(税務研究会,1996)67
-68 頁。
(68) 租税特別措置法第 66 条の 4 第2 項第 1 号ロ
製品を独立企業に販売する際の再販売者としての粗利益率と比較対象取引の粗利益率とを比較する手法であり、一般に再販売業者に適用することが有益である(69)。再販売価格から通常の利潤額を差し引いて独立企業間価格を算定するので、各参加者の開発費用の対価としての独立企業間価格算定方法としては適用できない。
原価基準法(70)は自ら製造した製品又は半製品を国外関連者に譲渡した場合の原価基準マークアップと比較対象取引の原価基準マークアッ プとを比較し、コストに果たした機能と市場の状況に照らして適正と考 えられるグロスマ-クアップを加算した額を独立企業間価格とみなす 手法である。国外関連当事者間で半製品を販売する場合や役務を提供す る場合に最も有益である(71)。コストに主眼をおいた算定方法ではあるが、比較対象取引とマークアップを用いて独立企業間価格を算定する手法 であるため、開発費用の独立企業間価格を算定する方法として適用はで きない。これらの基本三法(72)と呼ばれるものは、比較対象となる独立企業間価格を用いる方法であり、まず比較対象となる取引自体が存在しな いであろう。
利益分割法(73)は国外関連者における所得の発生についての貢献度を
(69) xxxx・x掲注(67)68 頁。
(70) 租税特別措置法第 66 条の 4 第2 項第 1 号ハ
(71) xxxx・x掲注(67)69 頁。
(72) 独立企業間価格の算定における基本三法の適用困難性について、xxxx「x転価格税制の成立と限界」『税務大学論叢』26 号(1996 年)399 頁以下、xxxx「x転価格課税における比較可能性の限界-判断基準を中心に-」『税務大学論叢』36 号(2001 年)308 頁以下、xxxx「国際課税規範としての OECD 移転価格ガイドライン-独立企業間価格算定上の問題を中心に-」『税務大学論叢』第 28 号(1997 年)478 頁以下参照。
(73) 租税特別措置法施行令第 39 条の 12 第 8 項第 1 号。利益分割法とは、国外関連取引に係る棚卸資産の当該法人又はその国外関連者による購入、製造、販売その他の行為に係る所得が、当該棚卸資産に係るこれらの行為のためにこれらの者が支出した費用の額、使用した固定資産の価額その他これらの者が当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因に応じて当該法人及び当該国外関連者に帰属するものとして計算した金額をもって当該国外関連者の対価とする方法である。適用に関して、租税特別措置法通達 66 の 4(4)1~5 を参照。
ベースとしてその所得の配分を行う方法であり、合算所得を合計し、それについてそれぞれが寄与した程度によって所得を配分していく手法であり、この計算過程は費用分担契約における各参加者が負担する費用の額を計算する構造に類似している。しかし、条項をそのまま直接的には適用できない。利益分割法は所得を分割して算出するものであり、費用を分割するものではない。また取引単位営業利益法(74)は営業利益を取引単位で比較する方法で、同様に算定方法とはならない。このような状況からすると、現行制度においては、算定方法として採用可能な方法として考察すべき算定方法は、コストを基礎として算定が行われる「原価基準法に準ずる方法と同等の方法(75)」と費用分担契約における分担すべき開発費用の算出構造が類似している「利益分割法と同等の方法(76)」の二つが考えられるので、以下において検討を行う。
「原価基準法に準ずる方法と同等の方法」とは、どのような方法を意味するのか。「準ずる」とは、一般に法制執務上、「本来そのものではないが、性質、内容、資格、要件などが大体同様又は類似しているので、準じられているものと大体同様又は類似の取扱いをする(77)」ということを意味している。具体的に準ずる方法について、措置法では具体的に定めていないが、原価基準法の考え方に準拠した合理的な方法があれば採用できるものと考えられるであろう(78)。なお、「同等の方法」については、租税特別措置法通達(以下「措置法通達」という)66 の 4(5)-1 に
(74) 租税特別措置法施行令第 39 条の 12 第 8 項第 2-4 号。平成 16 年 3 月の税制改正で独立企業間価格算定方法の一つとして追加された。取引単位営業利益法は、再販売価格基準法及び原価基準法が売上総利益をベースにして原価の額及び売上金額を算出する方法であるのに対して、営業利益をベースに算出するというところに特色がある。詳細については、山夲xx「国際課税関係の改正について」『税経通信』vol.59 No.8 836 (2004 年)273 頁
~276 頁参照。
(75) 租税特別措置法第 66 条の4第2 項二号イ
(76) 租税特別措置法第 66 条の4第2 項二号ロ及び同施行令第 39 条の12 第 8 項 1 号
(77) xxxxxx・前掲注(63)296 頁。
(78) xxxx・前掲注(60)26 頁。
指針が示されており、「同等の方法」とは、それぞれの取引の類型に応じて当該方法に準じて独立企業間価格を算定する方法をいうとする。
「準じて」は、一つの規定又は事柄を基準とし、これに則ってという意味を表す(79)。これらのことを総合すると、理論的に原価基準法に準拠して合理的な方法であれば、採用できるものと考えられる。それでは、費用分担契約における各参加者の開発費用について、どのような思考過程で適用を考えていくのであろうか。これは、租税法の適用を検討している場面であり、具体的な課税要件事実として開発行為による費用分担取引があり、法の探索として租税特別措置法第 66 条の 4 項を探知し、その条項からどのようにして課税要件事実について法を適用し、事案を終結させえるかということである。
原価基準法に準ずる方法と同等の方法の適用として、原価プラス利益 (ゼロ)の合計額を対価と考える。原価基準法においては、適正な原価への引き直し計算が行われており、上記方法でも引き直しの範囲は、費用の集計や配賦過程にもおよび、費用分担契約における費用分担の算定方法と適合している。また、配賦計算に用いられる予測便益は、それが適切ならば、原価の配賦基準として認められる範囲であろう。当該条項は独立企業原則(80)に基づいた独立企業間価格を算定することを目的としており、独立企業として予測便益を用いた費用配分方法を許容しない理
(79) xxxxxx・前掲注(63)296 頁。
「準じて」は、ある一定の規定又は事柄を基準としてこれに則るが、原規定なり、元の事柄なりを離れて別に規定を設け、あるいは取扱いなどを定める。
(80) 我が国が締結した租税条約には、締結国は国外の特殊関連企業と取引を行う自国の企業 に対し、独立企業原則に則り課税を行うことができるとする規定(特殊関連企業条項)が 置かれている。この独立企業原則とは、特殊関連企業間の取引に独立の企業の間に設けら れる条件と異なる条件が設けられ、それにより自国の企業の利益が減少している場合には、そうした条件がなかったとしたら当該企業の利益となるはずであった利益を算入して当 該企業に課税しうるという原則をいう。xxxx・x掲注(57)193 頁。
つまり、独立企業間価格の対価で取引を行っていなかった場合、取引の対価を独立企業間価格で行われたものとして課税を課す根拠となるものである。
由がない。後述するように、我が国では何ら指針が出ていないが、予測便益割合に応じた費用分担は独立企業原則に適合しているというのが、国際的なコンセンサスとなっている。したがって、理論的にも合理的ではあり、「原価基準法に準ずる方法と同等の方法」で対処は可能であると思われる。
「利益分割法と同等の方法」では、国外関連者との合算費用を予測便益という将来の所得の発生に寄与した程度に応じて配分すると考える。利益分割法は分割対象利益を貢献度に応じて分割する方法で、費用分担契約における費用総額(分担金の総額)を予測便益で配賦する構造と類似しており、上記費用配分割合が妥当であれば、理論的には問題はないと思われる。
したがって、「原価基準法に準ずる方法と同等の方法」または、「利益分割法と同等の方法」で対処可能であるが、措置法上の適用順序からすると「原価基準法に準ずる方法と同等の方法」を適用することになると思われる。
この独立企業間価格の算定方法に対して以下の点から反対説の主張が考えられる。
「原価基準法に準ずる方法と同等の方法」を算定方法として適用する場合には、原価基準法と比べて、比較対象取引を特定せず、利潤の額をゼロとみなして算定を行わざるをえない。また、「利益分割法と同等の方法」を算定方法として適用する場合には、結果と費用の関係が利益分割法と上記算定方法とでは逆転している。したがって、これらの方法では適用できないのではないか。
このように、現行税制では、各参加者の費用の独立企業間価格を算定することは困難であろうとの指摘もある(81)。
(81) 各参加者における費用分担額の独立企業間価格算定について、xxxx・x掲注(6)「費用分担契約における契約締結上の及び税務上の論点(下)」26 頁において、「費用分担契約
この点に関し、反対説に対する検討と判断として、以下のように考える。
本条項は、海外への所得移転を防止し、適正な国際課税を実現するた め、独立企業原則に基づいた独立企業間価格を算定するものであり、x xな国際取引への対処を図るために原価基準法等の「準ずる」方法が策 定されていると思われる。結局のところ費用分担契約においては、費用 分担割合が所得移転の問題としてクローズアップされ、同業者との比較 によるマークアップ等の観点から価格の妥当性を判断するわけではな い。つまり、以前までの独立企業間価格算定とは考慮すべき観点が異な り、結果的に予測便益に応じた費用分担が独立企業原則に則っており、理論的に整合性があるならば両方法とも適用は可能であろう。後述する 国際的な状況からは,独立企業間価格として認容していくと思われるが、移転価格税制創設時には想定されていない取引に対しての適用となる ため、法令又は通達等の改善を行うことが望ましい。
以上、検討結果と改善点として、次のように考える。
現行税制上、各参加者の開発費用の拠出行為は、精算額を含む各参加者が負担した開発費用(分担金)が国外関連取引における国外関連者に
について、比較可能な第三者の取引価格を市場に見出すのは難しい。また、再販売価格比準法や原価基準法のような利益率の概念は期待便益と貢献の関係が適正か判断するにはなじまないであろう。さらに、利益分割法は国外関連取引に係る所得を、支出した費用の額、使用した固定資産の価額等当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因に応じて関連者間で配分する方法であり、費用を配分する費用分担契約には適用できないであろう。いずれの方法によっても、貢献の独立企業間価格を算定するのは困難であると思われる。」としている。
また、xxxx・x掲注(6)40 頁において、「現行法で読めるとすれば、原価基準法に準ずる方法と同等の方法又は利益分割法になると考えられます。原価基準法に準ずる方法を適用するとすれば、試験研究という役務の提供に対して通常の利潤の額を加算して対価が支払われることになります。利益分割法を適用するとすれば、合算利益の発生に寄与した程度に応じて合算利益を分割することとなります。しかし、この両方法だけでは、試験研究活動の費用分担と研究活動の享受割合を予め取極める「契約」である費用分担契約の問題の円滑な解決には不充分」とある。
支払う対価となり、独立企業間価格は「原価基準法に準ずる方法と同等の方法」を算定方法として適用し、算出する。つまり、適用対象取引となる。
しかし、改善点として、別途独立企業間価格の算定について明確にすべきであろう。
ただし、ここまでの議論は、私法上の契約である費用分担契約において、契約条項の一つである予測便益に応じた費用分担のみに特化していることを観念しておくべきである。
(2)第二段階
既存無形資産の持分権の移転行為(バイ・イン及びバイ・アウト)は、無形資産(82)あるいは使用権の譲渡と考えられることから、その取引価額が各参加者間のバイ・イン対価やバイ・アウト対価となり、資産の販売またはその他の取引に該当する。この取引は各参加者間の相対取引として行われ、無形資産の譲渡または使用権の譲渡と扱われる。したがって、措置法第66 条の4 第1項の資産の販売またはその他の取引として移転価格税制の適用対象取引に該当することになる。
後述するが、バイ・イン等に関する取引事象は費用分担契約における特殊なもので、バイ・イン対価の独立企業間価格算定にあたり、費用分担契約における予測便益割合が用いられ、各参加者の支払うべき持分の対価が決定される。このような対価の算出過程は我が国では経験していなかったと考えられるため、具体的な内容を検証する必要がある。それには、費用分担契約の構造を正確に理解する必要があり、バイ・イン等に関する概念
(82) 移転価格税制における無形資産の範囲について、xxxx「x形資産の課税繰延べ取引と内国歳入法典 482 条(一)」『民商法雑誌』118 巻 4・5 号(1998 年),610、612 頁によると「移転価格税制における無形資産の範囲は、取引コストの削減等を企業統合がもたらす超過利益の原因一切であり、知的財産権を典型とした通常の民事法的な理解を超えたものと観念されることになる。こうした超過利益は、もともと伝統的な独立当事者間基準によって配分できないものであるから、無形資産とは要するに、伝統的な独立当事者間基準が本質的に苦手とする対象の、いわば掃き溜めともいえるわけである。」としている。
措置法上の適用に関しては、資産の販売またはその他の取引であるため、従来どおり適用を行っていくこととなるが、各当事者間の譲渡対価の算定等、特殊な事項があるので、更なる検討を要する。
(3)第三段階
イ 課税の方法論について
予測に基づく便益を算定し、それに応じて分担金を拠出する取決めにおいては、実際便益と予測便益とは乖離する場合もあり得る。このような場合、どのような課税の方法が考えられるであろうか。方法論的には多様なものが考えられるが、以下のもの等が挙げられよう。
① 実際便益に応じたコスト負担となるよう過年度に遡及しコストを調整する。
② 実際便益が確定した年度は、利益に着目して利益分割法又は営業取引単位利益法を用いる。
③ 乖離に応じた持分権を認定し、無形資産の持分権の譲渡またはそれに応じた使用権の譲渡があったとみなす。
④ 契約自体をすべて否認し、参加者のうち一人を所有者と認定し、その他の参加者は資金提供者とみなす。
⑤ 乖離は非関連者間でも生じ得ることであり、調整等を行わないケースも存在するので、調整等を行う必要はなく、問題は生じない。
ロ 現行税制での対処可能性
果たしてどのような方法を採るべきなのか。どのような方法論を採るとしても、費用分担契約が我が国では熟知されておらず、具体的な基準が規定されていない状況なので、現行税制では、明確な回答を出すことは困難と思われる。第一段階でも改善点を指摘したが、納税者の予見可能性や課税要件明確主義(83)を遵守するには、費用分担契約に関する課税
(83) 「法律またはその委任のもとに政令や省令において課税要件および租税の賦課・徴収の
3 現行税法上からの費用分担契約に関する問題点
私法上の契約である費用分担契約に関し、契約内容の適否は、移転価格税制に関する事務運営指針の基本方針2-1の「調査又は事前確認の審査に当たっては、必要に応じ OECD 移転価格ガイドラインを参考にし、適切な執行に努める。」という文言を根拠に、当該ガイドラインを参考にして検討すると思われるが、当該ガイドラインの内容は我が国において整備されていない。
我が国は、独立企業原則を直接定義せずに独立企業間価格算定方法を規定しているが、そもそも、費用分担契約のような無形資産の共同形成のための予測便益に応じた費用の分担に関して独立企業原則とは、どのように考えられているのか。また、契約形態が多岐に渡る費用分担契約に関して、独立企業原則の適用と合致する契約条件とはどのようなものなのか。独立企業原則は、国際間における共通の課税原則であると同時に独立企業間価格を算定する根拠でもあり、所得移転の防止を図るうえでの形成基準となるものである。つまり費用分担契約に関する取引について、移転価格税制を適用する課税基準は、原則的には独立企業原則の解釈適用基準という側面も包含することになる。しかし移転価格税制の適用対象取引として、従来から考えられてきた
手続に関する定めをなす場合に、その定めはなるべくxx的で明確でなければならない。みだりに不明確な定めをなすと、結局は行政庁に一般的・白紙委任をするのと同じ結果になりかねないからである。」xxx・x掲注(13)82 頁。租税法律主義の内容の一つである。
(84) OECD 移転価格ガイドラインは条約や国際協定ではないが、政府限りの権限で実施しえる事項については、それを実施する義務を負う。実施するについて法律の制定等の国内手続を要するものについては、かかる手続が満たされた上で実施することになる。さらに、加盟国政府は当該指針に従うことを勧告されているので、指針に従うことを具体化するために、費用分担契約の課税基準を明確化すべきことになる。
取引形態とは異なるため、費用分担契約に関する取引の独立企業原則の具体的な解釈適用基準として、移転価格税制上の課税基準の制度確立を目指すには、多岐に渡る検討を要すると思われる。
費用分担契約の活用は納税者にとっても利便性が高い。利便性が高いからといって、無条件に税務上許容していいものなのか。そのためにも、何が許容される費用分担契約なのか、実際便益と予測便益との乖離はどのように取扱うか等に関して、我が国として、納税者の予見可能性を保護する観点からも検討する必要があると考える。
つまり、現行の移転価格税制上からは、費用分担契約の取引に関する明確な課税基準を検討する必要があるであろう。
第4節 小括
本章においては、費用分担契約に関する取引が現行の移転価格税制上、対処可能なのかを租税特別措置法第66 条の4 の解釈と適用の問題として検討を行った。その結果、費用分担契約に関する取引は、移転価格税制上の適用対象取引であり、無形資産形成前の各参加者の分担する費用については、独立企業間価格の算定に関し明確にすることが望ましいが、予測便益割合に応じた費用分担割合を合理的な負担として採用し、「原価基準法に準ずる方法と同等の方法」と
「利益分割法と同等の方法」を適用していくことが考えられる。事後の観点からは、実際便益が予測便益と乖離した場合等、現行税制では対処方法に困難を伴うことが予想された。もともと、現在の移転価格税制は、1986 年当時の取引を想定したものであり、費用分担契約のような無形資産の共同形成のための予測便益に応じた費用分担は、立法当時においては当然範疇に入っていなかったと思われる。つまり、費用分担契約に関する具体的な課税基準を検討する必要がある。納税者側からすると、諸外国には詳細な規定があり、我が国には特別な規定がない状況では、どのような要件のもと費用分担契約が許容され、どのような場合に課税を受けるのかが不透明で、実際便益との乖離の問題も含めて、
納税者の予見可能性が確保されていない状況といえる。費用分担契約は、納税者にとっても有用な制度であるが、現状では積極的に使用できない状況である。積極的に使用するためには、何らかの法整備が有用と考えられ、費用分担契約に関する取扱いの基準の整理が必要であろう。
法令の整備が必要といっても、我が国には特別な規定がないため、国際課税規範として機能している OECD 移転価格ガイドラインや世界で最初に費用分担契約に関する規定を設け移転価格税制に関する活発な議論を行っている米国の規則を中心に、検討を行う必要がある。
以上のことから、現行の移転価格税制において、費用分担契約に関する我が国の課税基準を検討する必要性が明らかになった。そのためには、以下のこと等を他国の規定等から確認し、検討すべきであると考える。
① 費用分担契約は納税者及び課税庁にも有用な制度であるが、そもそも私法上の契約である費用分担契約に関し、独立企業原則に準拠した税務上の契約条件はどのようなものなのか
② 事前と事後(無形資産形成前と形成後)の観点も含めて、実際便益と予測便益の乖離に関する取扱い等の課税問題についてどう考えるのか。
③ 一方で租税回避行為としての利用が容易であるとの指摘もある。各国の制度は納税者の利便性を考慮しながら、租税回避行為への利用を回避すべく規定を設けているものと思われる。我が国はどのような対応を採るべきなのか。
④ バイ・インやバイ・アウト等、我が国では経験のない取扱いも諸外国では規定されているので、費用分担契約について、どのようなものなのかを基本的な観点から理解する必要がある。
⑤ 費用分担契約の制度を備えている諸外国の法制は、何ら問題なく執行されているのか。更なる議論を行う必要性のある論点はないのか。
⑥ 費用分担契約を税務上の制度として構築していくには、どのような問題が想定され、何を重要視していくべきなのか。
費用分担契約のイメージ図
無形資産の持分権
②
②
②
①
①
①
開発費用等
プールされた開発費用等を予測便益割合に応じて配分
C国法人
B国法人
A国法人
費用分担契約の費用の負担と効果の過程
①各国法人は開発費用等を随時負担していく。
全法人の開発費用等を合計し予測便益割合に応じて調整。
②成功時は各法人が持分権を取得
開発費用等・調整
持分権
現行税法上からの費用分担契約に関する問題点を解決するための検討を行うに当たり、OECD ガイドラインと米国の規定等を検討する意義について触れておく(85)。我国には費用分担契約に関する特別な規定がない状況にあるので、上記の規定等を検討することにより執行者側としては、我国税制上の対処方法の探究、事前確認、相互協議、訴訟における場面等を、納税者側としては、否認リスクの回避と安心して費用分担契約を有効活用できる期待可能性を得ることができる。
OECD 移転価格ガイドラインは費用分担契約に関する内容の厳格性や詳細性について更に議論する点はあるが、本稿においては次の理由から、主として日本の課税基準の内容を判断する際の柱と位置付ける。①主としてガイドラインは日本の課税基準が採用している「独立企業原則」を解釈した唯一のガイドラインであり、日本も加盟国としてその作成に携わっていること。②1986 年の我が国移転価格税制の導入は、OECD のガイドライン(後述する OECD 租税委員会 1979 年報告書「移転価格と多国籍企業」)に即して制定されたこと。③税務当局は平成 13 年 6 月 1 日付
査調 7-1 外 3 課合同「移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)」(以下「事務運営指針」という。)の(基本方針)1-2(3)において、「調査又は事前確認の審査に当たっては、必要に応じ OECD 移転価格ガイドラインを参考にし、適切な執行に努める」と明示したことで、日本の税務当局はガイドラインを国際規範と位置付けていること。
ガイドライン自体は条約でもないので、法的な拘束力を持つものではないが、 OECD 租税委員会に集う国々の制度立案当局及び執行当局の合意の上で取りまとめ
(85) 諸外国の法制を検討するに関し、我が国移転価格税制の法制が次のような特徴を持つ点を認識しておく必要があろう。「諸外国の多くが、当該関係規定を、所得および費用の適正な配賦を狙った行為計算否認条項(更正または決定の処分権限の付与)として位置づけており、わが国の立法のように、同等の効用を期待しながらも、申告納税制度にのせることを前提とした、所得計算の基本規定と関連づけている法制とはきわめて対照的である」
られる文書である為、各国の税務当局はこれを尊重すべき立場にあり、そのような意味で国際的コンセンサスとして機能してきた。我が国においても、移転価格税制及びその執行において、OECD ガイドラインに基づく国際的コンセンサスに適合すべきことは当然であり、上記のとおり重要な規範としている(86)。したがって、最初に検討を行う。
なお、2003 年 11 月に署名された「所得に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国との間の条約(以下「新日米租税条約」という)」(87)における交換xxの第 3 項では、OECD 移転価格ガイドラインについて、以下のように定めている。
移転価格事案の解決、調査にあたり「国際的コンセンサスを反映する OECD移転価格ガイドラインに従って、企業の移転価格の調査を行い、および事前価格取決めの申請を審査するものとする」とし、そして「各締約国における移転価格課税に係る規則は、OECD 移転価格ガイドラインと整合的である限りにおいて、条約に基づく移転価格課税事案の解決に、適用することができる」。したがって、日米の間では、OECD 移転価格ガイドラインが条約と同様の効力を有することになる。なお、本稿においては新日米租税条約の観点からの OECD 移転価格ガイドラインの効力については、考察対象としていない。
一方、米国の規定を検討する理由は、移転価格税制の執行に係る国際ルールづくりについて、歴史的に米国が主導的役割を担ってきたという点は否定でき
xxxx・x掲注(51)13-14 頁。
(86) xxxx・x掲注(67)10-12 頁及びxxxx・x掲注(72)443-444 頁参照。
(87) 新日米租税条約に関して、xxxx・『詳解日米租税条約』(中央経済社,2004)、 xxx・「米国財務省発表―調印した新日米租税条約-日xx時代の経済関係刷新のための最新型条約の内容-」『税経通信』59 巻 1 号 829(2004 年)147-163 頁及びxxxxx「xxx租税条約について」『国際税務』Vol24 No6,6-52 頁参照。特殊関連企業条項は第 9 条に規定されているが、旧条約 11 条との関係では,対応的調整に関する規定の新設及び移転価格課税に関する期間制限の導入が図られた。
また、使用料所得が源泉地国免税となり、対米国とでは費用分担契約締結の課税上のメリットの 1 つがなくなった。独立企業間価格を超える使用料については 5%の源泉税が課せられる。
ない(88)からである。加えて、無形資産に端を発した費用分担契約であるが、現在においても技術貿易取引について米国が最も多い状況を鑑みると、我が国にとっても米国の規則は重要となってくる。しかし、法制の動向に関しては米国自身の経済政策的な観点が強い。従って、米国に準拠していくという姿勢ではなく、あくまでも、我が国で如何なる法制を構築していくかを考察する上で参考とするのである。
第1節 費用分担契約に関する OECD ガイドライン
1 費用分担契約に関する議論
(1)OECD 租税委員会 1979 年報告書(89)
多国籍企業グループの研究開発費用の分担等について、今日の議論の直接の源となったのは OECD 租税委員会 1979 年報告書「移転価格と多国籍企業」であると思われる(90)。本報告書は、課税利益を確定するために、商品、役務、技術等が所在地国を異にする関連企業間で移転される場合等の適正な価格の決定方法について論じられている。そのうち、研究開発費等の費用分担については、第 3 章の第 1 節のB「関連企業間における研究開発費の費用分担契約」において述べられている。
(88) xxxx・x掲注(67)12 頁。また、xxxx・前掲注(60)76 頁には、「米国の移転価格税制に関する突出した動きは各国の警戒感を強め、米国との二国間での話し合いだけでは問題を解決することが困難との認識の下に、OECD の場を活用して、米国を牽制し……」とあり、米国の規定の内容は検討から外せない。
(89) 1979 年報告書「移転価格と多国籍企業」(OECD , Transfer pricing and multinational enterprise,1979)につき、和訳文献としてxxxxx『x国籍企業税法-移転価格の法理-』(慶應義塾大学法学研究会,1993)195 頁、またxxxx「x術生産活動と移転価格税制―研究開発費用の共同拠出に関する議論の鳥瞰」『国際課税の理論と実務-移転価格と金融取引 xxxx』(有斐閣,1997)156-158 頁、xxx『租税回避防止策』(xx財務協会,1998)815 頁以下を参照している。本稿においては、OECD で用いている各用語について、cost contribution arrangement は費用分担契約、cost sharing arrangement は費用配賦契約、cost funding arrangement は費用共同拠出契約としている。
(90) xxxx・x掲注(89)156 頁。
同報告書によると、特許権とノウハウを他の当事者に利用させる方法と しては、①ライセンス契約によるもの、②研究開発費の分担、③研究開発 の委任を受けサービス料を受け取るものの 3 つがある(91)。このうち②について費用分担契約(cost contribution arrangement)という慣行があり、x x、世界中でかつ巨額の研究開発活動を行っているいくつかの大規模な多 国籍企業が研究開発費を回収する方法としてこの方法を利用している(92)。費用分担契約には、費用配賦契約(cost sharing arrangement)と費用共同 拠出契約(cost funding arrangement)がある(93)。費用配賦契約とは、グループのメンバーが研究開発の実際の費用とリスクを分担し、対価として研 究開発の利益ないし予測便益を受け取ることに合意するもののことであり、ジョイント・ベンチャやパートナーシップに類似する。費用共同拠出契約 は、グループの研究開発計画の費用をより一般的な形で分担するものであ る。通常この分担金は一般的な利用料の形をとり、個別の研究開発活動と は関連しない。各メンバーが研究開発計画を担当する企業(親会社であるこ とが多い)に対してグループの利益のために研究開発を行うよう命ずるか わりに、一般的な利用料を支払うのである。そして、研究開発の成果は、 すべての企業が通常利用することができる。
費用分担契約は、費用分担と見返りに得られる利益の対応関係がxx的でないため(94)、費用の損金算入を仮装することにより所得移転が生じ、それを封ずるために現実の便益の有無を厳格に審査する必要があると述べている(95)。他方で、適正費用分担の額の算定にあたっては、利益の要素を含めることを許容し(96)、研究開発企業には通常の利益の額を費用に加算すべ
(91) 1979 年報告書,パラ 87
(92) 1979 年報告書,パラ 102
(93) 1979 年報告書,パラ 103
(94) 1979 年報告書,パラ 111
(95) 1979 年報告書,パラ 115
(96) 1979 年報告書,パラ 119
費用分担契約の条件を事前に書面で記録することや研究開発の実施内容の証拠の要請(99)、そして多国籍企業からの十分な情報を得ることの必要性についても述べられている(100)。
(2)1984 年報告書(101)と 1995 年ドラフトレポート(102)
以下においては、独立企業原則と整合的であるための費用の分担について、概略を示す。
1984 年報告書の「本部管理費およびサービス費用の配賦」において、費用の分担に関する独立企業原則について、以下のように示している。
多国籍企業は、親会社が関連企業に対する役務の提供に発生した費用を関連企業に配賦するため、本部の管理費及びサービス費を少なくとも次に掲げる方法によって傘下企業に配賦している(103)。
① 個々のサービスについて直接に配賦する。
② 費用分担。個々のサービスから生ずる便益を推計して配賦する方法
③ 費用共同拠出。他の関連企業からグループ・サービスセンターに対する分担金の形で支払わせるが、その際、例えば売上高等の企業の一
(97) 1979 年報告書,パラ 120
(98) 1979 年報告書,パラ 121
(99) 1979 年報告書,パラ 113
(100) 1979 年報告書,パラ 124
(101) 1984 年報告書『移転価格と多国籍企業・三つの課税問題』(OECD , Transfer pricing and multinational enterprise , three taxation issues,1984)和訳文献としてxxxxx・x掲注(89)415 頁以下、またxxxx・x掲注(89)158~161 頁を参照している。
(102) 1995 年ドラフトレポート(OECD , Transfer pricing Guidelines for Multinational Enterprise and Tax Administration ,Draft Text of PartⅡ, 1995)xxxx・x掲注 (89)161 頁を参照している。
(103) 1984 年報告書,パラ 45
④ 本部費用が発生した会社から関連企業に販売された製品の原価にマークアップを加算する方法。
費用分担契約に関する問題として、上記の②、③、④のような方法による費用分担が独立企業間基準を満たすかどうかである。結論的には、必ずしも独立企業原則に反するわけではないとし(104)、事前に明確な方式を書面に記し、数年間継続して遵守され、便益を享受し、または予測しうる関連企業に適用される等の条件が満たされる場合、承認されるとした(105)。
OECD は、費用分担に関しあくまでも独立企業原則の面から捉えている。 1995 年 3 月には、移転価格に関する OECD 移転価格ガイドライン作成の一
環をなすものとして、ドラフト・レポートの第 2 部が公刊された。そこには、独立企業原則と整合的であるための要件についても、従前の報告書の態度を延長し、費用と利益の比例等について述べている(106)。
OECD は、1993 年から OECD 租税委員会において、1979 年の移転価格ガイドラインを見直す検討を重ね、1995 年 7 月に、第 1 章「独立企業原則」から
第 5 章「文書化」まで、1996 年 4 月には第 6 章「無形資産に対する特別の
配慮」、そして 1997 年 9 月には、第 8 章「費用分担契約」が、理事会で承認され、公表された。
2 1997 年 OECD 移転価格ガイドラインの概要
1997 年 OECD ガイドライン(107)(OECD, Transfer pricing Guidelines for
(104) 1984 年報告書,パラ 63
(105) 1984 年報告書,パラ 67
(106) 費用が利益に比例して負担されるべきであるとしつつ(パラ 101)、その方法として、まず全体の費用の額を確定し、次にそれを一定の配賦基準によって配分するという手順について述べている(パラ 102 以下)。課税庁が費用拠出取決めを承認するための手続的基準については、1984 年報告書と同様、事前に書面で費用分担方式を明記しそれを継続的に適用するなどの条件が付されている(パラ 118)。xxxx・x掲注(89)161 頁。
(107) 和訳文献としてxxxx監修『OECD 新移転価格ガイドライン「多国籍企業と税務当局のための移転価格算定に関する指針」』(日本租税研究会,1998)を参考とした。
Multinational Enterprises and Tax Administrations, Chapter Ⅷ, Cost contribution arrangements, August 1997)の概要を摘記する。
このガイドラインは、複数の関連企業間における費用分担契約(Cost Contribution Arrangement)について論ずるものであり、論ずる目的は関連者により設定された費用分担契約の条件が独立企業原則に適合しているかを決定するに当たっての一般的な指針を規定することにあるとしている(108)
このガイドラインは、以下の 6 部から構成されている(109)。 A 序
B 費用分担契約の概念 C 独立企業原則の適用
D 独立企業原則に従っていない場合の税務上の取扱い E 参加・脱退・終了
F 費用分担契約の構築及び文書化に関する提言
(1)費用分担契約の概念
費用分担契約とは、企業間の取決めで、資産・役務・権利の生産又は獲得の費用及びリスクを分担し、参加者がこれらの資産・役務・権利に有する利益の性質及び程度を決定するものである。特定の法的主体にもならず、すべての参加者のxx的施設でもない(110)。
(2)独立企業原則の適用
この費用分担契約の条件が独立企業間価格を満たすためには、参加者の 貢献(111)は当該取決めから生ずると合理的に期待される便益を前提として、比較可能な状況において独立企業が貢献することを合意するであろう貢献 と整合的でなければならない(112)。この相互に便益を得られるような共通
(108) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.1
(109) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.2
(110) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.3
(111) OECD タイプの費用分担契約においては、contribution の訳を「貢献」を用いる。
(112) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.8
の必要性が存在するとき、独立企業は費用分担又はリスク分担の取決めを結ぶ(113)。相互便益の期待は、独立企業が別個の報酬を得ることなく、資源や技術を拠出する取決めを受入れるため、xx的に重要である(114)。したがって、参加者は対象資産について便益の持分を保有し、かつ当該持分を直接又は(例えばライセンス契約を通じて)間接に利用可能であるという合理的期待を有していなければならない(115)。独立企業は、当該取決めに対する貢献全体に占める各参加者の割合が、当該取決めの下で受け取ることが予定される期待便益(116)全体に占める各参加者の割合と等しくなることを要求するであろうとする(117)。そして、貢献全体に占める各参加者の割合が、調整的支払の後に、取決めの下で受け取ることとなる期待便益全体に占める各参加者の割合と等しい場合に、費用分担契約は独立企業原則に則ったものと考えられる(118)。つまり、各参加者の貢献割合が合理的に期待される便益割合に等しいかにより独立企業間価格の適否が判断される。
貢献の課税上の取扱いは、税制の一般規定による。例えば、研究開発費用を拠出したならば、控除対象費用として取扱われ、原則として使用料とはならない(119)。また、貢献を行った時には便益は実現していないことが通常であるから、貢献時に所得が認識されることも通常はない(120)。費用の分担時に生じた調整的支払は、支払者の追加費用及び受領者の費用の戻しと
(113) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.8
(114) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.9
(115) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.10
(116) OECD タイプの費用分担契約においては、expected benefit を「期待便益」と訳すことにする。本稿においては、「予測便益」を通常用い、内容が OECD タイプの費用分担契約に関する場合、期待便益を用いる。
(117) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.9
(118) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.26
(119) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.23
(120) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.24
して取扱うべきである(121)。また、評価の過程においては参加者が費用分担契約に対して行った全ての貢献を認識することが重要である(122)としている。
(3)独立企業原則に従っていない場合の税務上の取扱い
費用分担契約に対する貢献全体に占める各参加者の割合が、調整的支払の後に、取決めの下で受け取ることとなる期待便益全体に占める各参加者の割合と整合的でない場合においては、独立企業原則に基づいて調整が行われることが要求される。そして、最も多く見られるのは貢献の調整であろうとしている(123)。費用の調整で終わるのか、所得の配分の認定が行われるのかは定かではない。また、貢献割合や期待便益割合が不適切に決定された場合も調整が行われる(124)。対象活動の全てを行っている参加者が期待便益全体のうちのごく僅かな部分しか受け取らないような場合や長期間にわたって相当の乖離ある場合は、個別具体的な認定が行われ、契約の全部または一部が否認され、独立企業間価格による所得配分が行われる
(125)。
(4)参加・脱退・終了
既に活動している費用分担契約に新たに参加する企業は、費用分担契約を通じて開発された無形資産、開発途上の作業、及び過去の活動により得られた知識といったそれまでの費用分担契約活動のあらゆる結果における持分を取得する場合、それまでの参加者はそれまでの費用分担契約の結果における持分の一部を実質的に移転することになる。この移転に関し、独立企業原則の下では移転された持分に対する独立企業間対価による支払が求められる。この持分移転に伴う独立企業間対価による支払をバイ・イン
(121) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.25
(122) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.16
(123) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.26
(124) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.26・8.27
(125) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.29・8.30
逆に、参加者が費用分担契約から脱退する時、バイ・インと関係する問題と同様の問題が発生する。特に脱退する参加者は過去の費用分担契約活動の成果における持分を他の参加者に明け渡すことになる。参加者の脱退において有効な財産の移転があった場合には、その移転に対して独立企業間対価による支払がなされるべきである。この支払をバイ・アウト支払と言う(127)。さらに、終了時には資産の適正な分配が必要となる(128)。
バイ・インやバイ・アウトに関しても独立企業原則に基づいた処理が要請され、無形資産に関する一般的なルールが適用される(129)。
(5)費用分担契約の構築及び文書化に関する提言
ガイドラインは以上を要約し、独立企業原則に適合する形で構築されるべく費用分担契約の要件として、次の点をあげている(130)。
a 当事者が、契約活動自体から相互便益を得ることが予測できる企業であること
b 参加者の持分を特定していること
c 貢献、調整金、及びバイ・イン支払以外には、持分取得のために支払がなされないこと
d 貢献割合が、期待便益を反映する配分基準に基づいて適正に決定されていること
e 一定期間経過後に期待便益がずれてきた時の調整として、調整金や貢献割合の変更を認める
f 参加者の加入、脱退あるいは終了に伴い、必要な調整や配分が行われること
(126) 1995 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.31
(127) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.34
(128) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.39
(129) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.33・8.34・8.39
(130) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.40
さらに、当事者が用意すべき文書や有益な情報についても、一定の指針を示している(131)。
3 批判的検討
OECD の移転価格に関するガイドラインは 1979 年に作成され、各国はこれに沿って移転価格税制を執行してきた。このガイドラインは特に二重課税が発生した後の相互協議では、各国の共通の認識として重要な役割を果たしてきた。しかし、近年の経済の国際化の発展は目まぐるしく、もはや 1979 年に作成されたガイドラインでは、移転価格税制の適正な執行を律することができないことが現れ(132)、1995 年から新移転価格ガイドラインが逐次公表されている。1997 年に公表された第 8 章である「費用分担契約」に関し、各国の法制の状況は次のとおりである。
米国は、1995 年の財務省規則1§482-7 で本格的に費用分担契約について詳細な規定を定めた。ドイツは 1999 年に「費用分担契約による国際的な関連企業に関する所得配分のための原則」を公表した。米国やドイツは基本的にはOECD 移転価格ガイドラインと類似しているが、独自の内容を規定している部分がある。一方、イギリス、カナダ、ニュージーランド及び豪州等は、OECD移転価格ガイドラインの内容を概ねそのまま受入れている(133)。
このような国際課税規範と言うべき各国の課税庁が尊重するガイドラインとして、費用分担契約が現在どのような状態にあるのかを、規定上から批判的に述べる。
OECD 移転価格ガイドライン第 8 章序文において、「本章は費用分担契約に関する執行及び租税上の結果に関する大きな問題の全てを解決しているわけ
(131) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.41 以下
(132) xxxx・前掲注(60)76 頁。
(133) xxxx・前掲注(6)「費用分担契約における契約締結上及び税務上の論点(上)」15-17頁参照。
豪州については、第 3 章で触れる。
ではない。実際に費用分担契約の運用の中で経験を積むことにより、本章を更新し改善するために必要な追加的な作業が行われるであろう。」と、今後も検討していく旨、指針が述べられている。更なる課題として具体的に①貢献をどう測定するのか、②政府補助金や租税優遇措置の効果について、③調整金の支払等、④バイ・イン支払等の税務上の性格付けを挙げている。
例えば貢献の測定について見てみると、各参加者の貢献の価値は、独立企業原則の下、独立企業であったならば比較可能な状況において与える額に整合的なものとして測定されるべきで、第 1 章から第 7 章までの指針に従うべきとしている(134)。そして貢献の価値を測定する方法として、コストと市場価格を用いる方法があるとしている(135)。しかし、貢献は参加者に適用される税制の一般原則に従って、対象活動を費用分担契約の枠外で実施する場合と同様に取扱われるべきであるとする(136)。これらからは、貢献の価値をコストで評価すべきか市場価格で評価すべきかという点についての指針が明らかでない。
このように、OECD 移転価格ガイドラインにおいても今後の検討事項が具体的に示されており、運用の中で経験を積み、国際的なコンセンサスとしての位置づけを図っていくものと思われる。つまり、国際的に確立したガイドラインには、まだ時間を要するということである。
上記の様な状況なので、規定自体に両論併記の部分が多く、またファジーな言い方の指針が多い。例えば、文書化に関する提言で文書や情報の重要性と保管について指摘しているにも拘らず、最終的には最小限従うべき基準でもない(137)等、規定として「~すべき」ではなく、最終的には「~が適切である」等になっている。それだけ、各国の意思統一には困難を要する事項を費用分担契約は多々包含しているものと思われる。一方で、契約全体の無視
(134) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.14
(135) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.15
(136) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.23
(137) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.41
を見据えた租税回避への厳格な姿勢は評価できよう(138)。
したがって、我が国法制を射程にした費用分担契約制度を考察する場合における OECD 移転価格ガイドラインは、重要な課税規範として位置付けるべきであるが、こと第 8 章「費用分担契約」に関しては、独立企業原則の詳細な解釈適用基準とは言えず、確認規定的な意味合いの強い課税基準と考えるべきであろう。
第2節 費用分担契約に関する米国財務省規則
1 従来の経緯
(1)米国の移転価格税制と費用分担契約との関係
米国の移転価格税制は内国歳入法典第 482 条(139)にその法的根拠がある。同条に基づいて米国財務省から規則が発遺されている。現行の内国歳入法典 482 条に相当する規定が導入されたのは、1928 年のことであった(140)。
1928 年の規定はどちらかというと米国国内の関連企業間取引を規制するためのものであったが、1968 年には、国際的な関連企業間取引を規制するために内国歳入法 482 条に関する規則が発遺された。この規則の目的は、
(138) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.30
(139) 米国の移転価格税制は内国歳入法典(Internal Revenue Code)482 条に以下のように規定されている。「2 以上の組織、営業若しくは事業(法人格を有するか否か、合衆国において設立されたものであるか否か、及び連結申告をする要件を満たしているか否か、を問わない)が、同一の利害関係者によって直接又は支配されている場合には、財務長官又はその代理人は、脱税を防止するため、又は当該組織、営業若しくは事業の間において、総所得、所得控除、税額控除又はその他の控除を配分し、割り当て又は振り替えることができる。
無形資産(第 936 条(h)(3)(b)に規定するものに限る)の譲渡又は実施権の供与の場合には、当該譲渡又は実施権の供与に係る所得金額は、その無形資産に帰すべき所得の金額と釣り合いのとれたものでなければならない。」xxxx・前掲注(10)62 頁、305 頁 。条文の後半が所得相応性基準である。
(140 ) xxx「アメリカ合衆国の所得課税における独立当事者間取引(arm's length transaction)の法理(上)-内国歳入法典四八二条について-」『ジュリスト』724 号(1980年)106 頁。
米国と関連企業とが移転価格を恣意的に決め、意図的な所得の海外移転を図ることを防止することであった。そして、その特徴は所得の海外移転防止のため、独立企業間価格の算定方法を規定したことにある。その算定方法は、①独立価格比準法②再販売価格基準法③原価基準法があり、これらの方法が移転価格算定の方法として用いられてきた。しかし、この規則の発遣後、約 20 年の時の経過と共に企業を取り巻く環境が大幅に変化し、前述の算定方法では国際企業間の移転価格を正しく算定することが不可能となってきた。特に技術革新が著しい状況のなか、生産技術上のノウハウ等の無形資産の移転価格について、税務上多くの様々な問題が生じてきた。特に無形資産における独立企業間価格の算定において、独立の第三者の比較対象となりうる取引を見つけ出すことの困難性及び時には不可能という事態が生じた。ロイヤリティを例にとると、実務上は比較対象取引として同様の産業内での平均的なロイヤリティ率を用いてきたが、特殊な分野の納税者にこの平均値を適用すると、そのロイヤリティ率は、実態を反映しないものになってしまう惧れが生じた。また、無形資産の初期開発段階で行われる無形資産移転に係るロイヤリティ契約は、無形資産から生じる将来の成果の予測は正確性に欠けるため、経済的現実を反映していないことが多かった。そこで、このような無形資産の移転価格に関する問題点をめぐって、税務上重要な係争事件が発生した(141)。このような、税務当局と
(141) 米国における、無形資産の移転価格が問題となった主要な判決として、次の事件がある。
(1) 米国親会社(販社)がプエルトリコ子会社(製造)から薬品を仕入れる際の価格が問題となった事例である。米国親会社は薬品の商標権を保有し、また、特許権とノウハウを子会社設立に対して現物出資している。結果として、裁判所が具体的な配分の根拠を示さず職権で利益分割法を適用した(Eli Lilly 事件)。Eli Lilly & Co. v. Commissioner, 84 T. C. 996(1985).
(2)米国親会社がプエルトリコ子会社(製薬製造)へ製造に関する無形資産を移転したが、移転に際しての評価は独立企業間基準に照らし著しく低く、所得の中にひずみを引き起こし,適切な配分がなされるべきと判示した(G.D.Searle 事件)。G. D. Searle & Co.
v. Commissioner 88 T.C.252(1987).
費用分担契約は、上記のような移転価格税制上の要請を一要因として発達してきたといえよう。
(2)1995 年最終規則までの経緯
1988 年の移転価格白書(144)によると、費用分担契約は、非関連者間において長期に渡り用いられてきた。無形資産開発におけるリスクと利益を分担するメカニズムとして、費用分担契約の実態が認識され税制上の最初の対応がとられたのは、1966 年 8 月 2 日に公表された規則案§1 482-2(d)(4)である。この規則は、無形資産の開発と使用に関しての 482 条の適用を抑制する範囲を設けることにあった(145)。
(142) 米国移転価格税制上の無形資産の所有に関する基本的な考え方は、1968 年に公表された財務省規則 1.482-2Aにおいて、「開発者・援助者ルール」として規定されている。この規則の下では、関連グループのうちいずれのメンバーが無形資産の開発者で、援助の対価を受ける援助者であるかの事実認定が必要とされていた。つまり、無形資産は単独の納税者によって所有され、当該資産に係る損益は全てその所有者に帰属するという考え方に基づくものであった。1994 年最終規則では、法的所有権の重要性を認識し、「開発者・援助者ルール」から原則的には「法的所有者ルール」へ変更がされた(1994 年最終規則 1.482-4(f)(3))。費用分担契約では、無形資産の共同利用、いわば共有が認められる。すなわち、取決めに従って共同開発された無形資産については、参加者全員が開発者すなわち所有者と位置付けられ、対価を支払うことなく利用することができる。費用分担契約は、単独所有原則や開発者援助者ルールに対する例外であり、課税上重要な機能を果たすのである。これらに関して、xxxx「内国歳入法典四八二条における費用分担取決めについて」『京都大学法学部創立百周年記念論文集 第二巻』(有斐閣,1999)205-211 頁及びxxxx・前掲注(89)168 頁参照。
(143) xxxxx・xxxxxxxほか「米国における移転価格税制の動向-無形資産の移転価格税制と費用分担(コストシェアリング)契約-」『旬刊商事法務』1223 号(1990年)42 頁~43 頁。
(144 ) Treasury Department and Internal Revenue Service, A Study of Intercompany Pricing ,October 18,1988.
(145) 1966 年規則案において、費用分担契約の規定が初めて登場したが、その規定の位置付けと目的について、xxxx・前掲注(142)225 頁において、「費用分担取決めの基本的
後の 1968 年に発布された規則においては真正の(bona fide)費用分担契 約を簡潔に定めている(146)。それによると、真正の費用分担契約とは、関連企業グループの複数のメンバーの間で、産み出された無形資産に関する 特定の権利の見返りとして無形資産の開発の費用とリスクの分担を定める、文書による合意である。この契約が真正の費用分担契約として認められる ためには、参加者がすべての開発費用と開発リスクのうちそれぞれの分担 額を独立企業間ベースで負担する労力や誠意を持って反映しなければなら ない。また、独立企業間ベースで考慮される費用やリスクを分担するため、 その契約条件は、同様の状況にある非関連者が契約を締結していたら取り 入れたはずの契約条件に匹敵するものでなければならない。この1968 年規
則は、実質上 1995 年の最終規則の制定まで存続していた。
1986 年の内国歳入法の改正によって、所得相応性基準の規定(147)が482 条に追加されたが、この追加規定が、費用分担契約にどのような影響を与えるかが問題であった。この点に関し、86 年改正を審議した連邦議会上下院
な位置付けは、無形資産の開発と使用に関して四八二条の適用を抑制する範囲を設けることにあった。すなわち、真正な費用分担取決め(bona fide cost sharing arrangement)の参加者としての無形資産の持分取得に対しては、「その資産の開発に係るすべての費用とリスクの負担割合を適正に反映する限りにおいてしか、四八二条の適用を行わない」と定められたのである(Prop.Reg.§1.482-2(d)(4)(i))。つまり、調整方法の側面から四八二条の適用を抑止することが、費用分担取決めを移転価格税制において法的に認知した当初の目的であったといえる。」とある。現に、1995 年規則前文では、費用分担契約を 482 条における所得配分のセーフ・ハーバーと位置付けている。
(146 ) xxx「アメリカ合衆国の所得課税における独立当事者間取引(arm's length transaction)の法理(下)-内国歳入法典四八二条について-」『ジュリスト』726 号(1981年)95-97 頁 及びxxx「米国コスト・シェアリング最終規則解説(1)」『国際税務』Vol16 No3,9 頁。
(147) 所得相応性基準とは、例えば、無形資産をライセンスする場合、各課税年度で請求すべき金額は、当該無形資産に帰属すべき所得の金額と相応しなければならないというものであり、過年度において無形資産に対する請求額が適正であっても、所得相応性基準に基づく調整が翌課税年度以降行われうるというもので、取引後に生み出される利益をも反映した所得金額の算定を求める原則で、このことからスーパー・ロイヤリティ・ルールとも呼ばれる。この規定は、潜在的に高い収益力を持つ無形資産を低い対価で設定し、国外へ所得を移転すること、無形資産の比較対象取引の把握困難性及び独立企業間
による conference Committee は、費用分担契約を認める意向であるが、所得相応性基準の観点から次の 3 つの問題点を指摘した(148)。
第一に費用分担契約の対象範囲が恣意的に操作される可能性に関し、全ての開発段階の一切の開発費用を含めることを求めた。第二に、適正な算定額を算定する基礎である。報告書は分担される費用が、研究開発を行う前の時点において決定された便益の予測に対応したものであることを求めた。さらに研究開発に係る租税優遇を除いて算定することを求めた。第三に既存無形資産の取扱いの問題である。既存無形資産を持つ参加者がある場合には、その資産の評価を行い、参加者が適正な利益を得るように、他の参加者は対価を支払わなければならないことを求めた。
上記の様な conference Committee の考え方を踏まえ、歳入庁及び財務省は 1988 年に移転価格に関する白書を公表した。白書においては、費用分担
契約の重要な問題についてかなり詳細な提案を行った。その骨子は 1995年の最終規則に大筋で採用されているので詳細には触れないが、無形資産に対する課税強化を背景に(149)、真正な取決めに関してより厳格な要件を定め、範囲を縮小させている。
1988 年移転価格白書を基礎に 1992 年規則案(150)が制定された。1992 年規則案以降は、要件を満たす費用分担契約に対して「真正な(bona fide)」という語に代え、「適格(qualified)」という語を用い、この適格費用分担契約に参加した者のうち、さらに参加資格を満たすものに対しては、費用の配分を除いた 482 条の適用はないとしている(151)。この適格費用分担契
価格の算定困難性等の理由から無形資産の利用によって生み出される所得に着目した。
(148) xxxx・前掲注(142)227 頁。
(149) 1980 年代の米国のプロパテント政策は国をあげての政策であり、無形資産に関する米国移転価格規則上の改正等もそういう意味では包含されるのであろう。米国の知的財産戦略について(xxxx・前掲注(17)116-136 頁参照。
(150) 1992 年財務省規則案について、和訳文献として『米国内国歳入法第 482 条(移転価格)に関する財務省規則案』(日本租税研究協会編,1992)を参照している。
(151) 1992 年財務省規則案 1.482-2(g)(1)(ⅰ)
1995 年には最終規則が制定され、以下その内容を概観する。なお、1996年にも一部改正が行われているが、主要な部分は参加者要件に関するものであり、必要に応じて触れることにする。
2 1995 年財務省規則を中心とした規定の概要
1995 年に制定された最終規則(final regulations。なお、以下特別な表
示がない場合は、財務省規則とは 1995 年最終規則を意味する)は、次のとお
り 12 項から成っている。 (a) 総則
(b) 適格費用分担契約 (c) 参加者
(d) 費用 (e) 予測利益
(f) 費用の配分調整
(g) 無形資産の移転(バイ・イン)を反映するための所得の配分調整、控除、その他の租税関連項目
(h) 適格費用分担契約に則った支払いの性格
(152) 1992 年財務省規則案 1.482-2(g)(2)(ⅰ)
(l) 経過措置
以下では、いくつかの項目に分けて、規則の内容を概観する。
(1)費用分担契約の要件 イ 費用分担契約の意義
規則は、費用分担契約を一以上の無形資産の開発費用を、当該契約により割り当てられる無形資産の持分の使用により享受する便益を合理的に予測し、その割当に応じて当事者間で分担する契約である(153)と定義し、規則上、後述する適格費用分担契約の要件を規定し、その要件に合致すれば適格費用分担契約として、予測便益の持分と開発費用の分担とが等しくするための決定が必要な場合を除き、適格費用分担契約に関しては所得配分は行われない(154)。つまり、米国は、財務省規則で規定した要件を充足した適格費用分担契約を移転価格税制上の所得配分認定の例外として位置付けている。この米国の規定においても、参加者の予測便益に応じたコスト負担が強調されており、OECD 移転価格ガイドラインの規定と類似している。
また、適格費用分担契約はパートナーシップとしては扱われず、外国法人または非居住者は、費用分担契約に参加したことを理由として米国内で事業に従事しているものとは、取扱われることはない(155)。
ロ 適格費用分担契約
適格費用分担契約として、次のような要件を規定している(156)。
(153) 財務省規則 1.482-7(a)(1)
(154) 財務省規則 1.482-7(a)(2)
(155) 財務省規則 1.482-7(a)(1)
(156) 財務省規則 1.482-7(b)
① 二以上の参加者を含まなければならない。
② 参加者の予測便益の享受割合を反映させることが合理的に期待できる要素に基づき、各関連参加者の無形資産の開発費用に対する負担割合を計算する方法を提供しなければならない。
③ 経済状況、事業活動、参加者の活動、さらには当該契約に基づく 進行中の無形資産の開発における変化を考慮して、関連参加者の無 形資産の開発費用に対する負担割合の調整を行わなければならない。
④ 費用分担契約の締結(修正)と同時に文書に記載しなければならない(157)。
ハ 参 加 者
参加者要件(158)として「事業の積極的な活動において対象となる無形資産を使用あるいは合理的に使用することが期待され、会計処理上(159)及び文書化等のxxxの要件(160)を遵守すること」とある。米国は、適
(157) その書面には以下の内容が含まれていなければならない。
(ⅰ)契約当事者のリスト、当該費用分担契約の下で開発される無形資産の使用により便益を享受する関連企業グループの他のメンバー
(ⅱ)②、③で規定される情報
(ⅲ)実施される研究開発の範囲についての説明。開発しようとする無形資産及び無形資産の種類を含む。
(ⅳ)対象となる無形資産に対する各参加者の持分についての説明。対象となる無形資産は、費用分担契約に基づいて実施される研究開発の結果生じたすべての無形資産
(ⅴ)契約期間
(ⅵ)契約が変更あるいは終了される条件、及び当該変更あるいは終了における例えば対象となる無形資産について各参加者が取得する持分の取扱い。
(158) 財務省規則 1.482-7(C)(1)参照のこと
(159) 関連参加者に対して、費用と利益の勘定と外貨換算について一貫した計算方法の適用を課している。財務省規則 1.482-7(i)参照。
(160) 追加的な文書として文書の保存と IRS の要求後 30 日以内の提出が義務付けられている。
(ⅰ)契約に従って発生した費用の総額 (ⅱ)各関連参加者が負担した費用の総額
(ⅲ)各関連参加者の無形資産の開発費用の負担割合を決定するために用いられた方法の説明。便益の見積りに用いられた予測及び当該方法の選定理由の説明を含む。
(ⅳ)無形資産の開発費用及び便益を決定するために用いた会計処理(外貨換算に用いら
格費用分担契約の要件とこの参加者要件の二本立てで費用分担契約の適格性を規定している。
世界で最初に導入された米国における費用分担契約の規定の経過を確認していくと、この参加者要件ほど流動的なものはない。それだけこの参加者要件は、費用分担契約において重要な事項であると共に政策的な意図を感じる。1966 年規則案から規定された「積極的事業活動による利用」要件は、復活と削除の歴史(161)を繰り返し、現在の規定上、積極的事業活動要件は削除され、便益の合理的な予測を有することが要件とさ
れた方法を含む)、及びその処理が米国で一般的に受入れられている会計原則と大きく異なっている限りにおいて、その大幅な違いについての説明
(ⅴ)無形資産開発分野において行われる事前研究がある場合その研究、契約において各関連参加者が提供した有形資産あるいは無形資産、及び、既存の無形資産及び開発の対象となる無形資産の価値を確立するために用いられた情報
財務省規則 1.482-7(j)参照。
(161) xxxx・前掲注(142)207-260 頁を参照して、歴史をまとめると、1966 年規則案において、「参加者は開発された無形資産を積極的事業活動において使用すること」という条件が課された。この規定は、1968 年規則においては、削除されている。無形資産に関する米国所得減少の要因や国外への利益移転の問題が指摘されていた当時の 1988 年白書においては、「参加者は、開発された無形資産を製品製造のために利用する能力を有していること」という条件を課すべきだと指摘している。それを受けて、1992 年規則案において、「各参加者に開発された無形資産をそれぞれの積極的事業活動において利用する合理的な見込みがなければならない」として、参加者要件が復活している。しかし、製造での利用を課した「白書」よりも緩和されてはいる。1995 年規則前文においては、「取決めへの参加だけを目的にした何ら意味ある機能を果たさない外国関連主体の設立を防止し、各参加者の便益の見込みを測定可能なものにするために、積極的事業要件は必要である」と述べている。1995 年規則においても、関連参加者となる要件は、規則案と同様で、その中の積極的事業活動(substantial managerial and operational activities)を行わねばならないという要件も、95 年では存続していた。また、規則前文は、「契約によって研究を行う主体は、無形資産取引に関する原則ルールに従い、開発援助者として適正な対価を受けなければならないし、関連研究機関は、通常、サービス提供に関するルールによって独立当事者間対価を決定される」と述べた。つまり、研究のみを行う機関は、関連参加者とはなれないことになる。
このような、規定は OECD 移転価格ガイドラインでもある。OECD 移転価格ガイドライ ンパラ 8.12 では、参加者要件である便益の合理的期待がない等の会社の場合ではあるが、委託研究や委託製造の場合は、費用分担契約参加者に対して行われたサービスの報酬と して独立企業間価格を支払うのが適当としている。
しかし、結局は予測便益算定を重視する局面から参加者を制限していく方向にあるとも思われ、事前の観点よりも事後の観点から、実際便益は厳格に確認するという姿勢とも思われる。
(2)費用の分担
イ 無形資産開発費用(164)
関連参加者の無形資産開発費用とは、当該無形資産開発領域に関して負担した全費用に、他の関連及び非関連の参加者に対して費用分担支払金のすべてを加算し、他の関連及び非関連の参加者から受けた支払いを控除した金額である。無形資産開発領域に関連して発生する費用とは、減価償却費を除く営業費用に、他の参加者によって適格費用分担契約に供された有形資産の利用の対価を加算した金額である。有形資産が関連
(162) 財務省規則 1.482-7(C)(1)(ⅰ)
(163) xxxx・前掲注(142)251-252 頁。
参加者によって適格費用分担契約に供された時は、その適切な対価の決定は、有形資産の利用に対する移転価格の規則である 1.482-2(C)(有形資産の使用)によって決定される。
費用分担契約に提供された無形資産の使用の対価は、バイ・インとして取扱われ、当該無形資産に係る独立企業間価格により評価される(165)。後で検討するバイ・イン、バイ・アウトとの関係で、米国の場合、費用分担契約に提供された既存の無形資産に関しては、費用分担契約の枠外の取引とされるので、各参加者の開発費用の範囲からも除かれ、使用の対価は独立企業間価格で評価されることになる。
ロ 合理的な予測便益
便益とは対象無形資産の使用により発生する所得の増加又は費用の節減であり(166)、合理的な予測便益とは対象無形資産から派生するであろう合理的に予測する便益の集合である(167)。そして、費用配分が適切であるためには、関連参加者の開発費用割合が、その参加者の予測便益割合と比較しなければならない(168)。適格費用分担契約における各関連参加者の合理的な予測便益割合は、その合理的な予測便益を全関連参加者の合理的に予測される便益の和で除した値に等しい(169)。関連参加者の合理的な予測便益を決定するためには、最も信頼性のある方法を用いなければならない。規則 1.482-(1)(c)で定められている最適法ルール
(170)と同様に、方法の信頼性は、分析に使用されるデータと仮定を基礎
(164) 財務省規則 1.482-7(d)(1)参照。 (165) 財務省規則 1.482-7(g)(2) (166) 財務省規則 1.482-7(e)(1) (167) 財務省規則 1.482-7(e)(2) (168) 財務省規則 1.482-7(f)(1) (169) 財務省規則 1.482-7(f)(3)
なお、非関連者に関しては計算に含めない。
(170) 1994 年 7 月に公表された財務省規則 1.482-1(C)(1)の基本概念である最適法ルールとは、各個別事案に関連する事実及び状況に応じた、最も信頼できる独立企業間実績値を提供する価格算定方法をもって、その関連者間取引の独立企業間実績値を決定すること
として決定される。したがって、算定額の信頼性は、データの完全性と正確性、仮定の健全性、データと仮定の一定の欠陥が各算定方法に与える相対的影響の大きさに依存する(171)。
予測便益は、対象無形資産の利用によって享受する所得の増加または費用の節減を推定することにより、直接的根拠に基づいて測定することもできるし、発生する所得の増加または費用の節減に関連を持つと合理的に推定されうる測定基準を参照する、間接的根拠に基づいて測定することもできる(172)。費用分担契約に参加することにより得られる予測便益測定の間接的根拠は、以下の事項を含む(173)。
(イ) 使用、製造、販売数量。この測定根拠は、各関連参加者が得られると期待できる、使用、製造、販売される品目の一単位あるいは一個当たりの、対象無形資産に起因する純増益又は純減損が、類似している度合いが高いほど、信頼性が高まる。この状況は、対象無形資産が関連参加者によって、類似した経済条件下で、かなり似通った品目を使用、製造、販売するために活用される場合に起こり得る。
(ロ) 売上高。この測定根拠は、各関連参加者が得る、売上高 1 ドル当たりの、対象無形資産に起因する純増益又は純減損が類似していると期待できる度合いが高いほど、信頼性が高まる。この状況は、対象無
をいう。すなわち、最適法ルールは、各事案の個別の事実及び状況に応じて、適用すべ き価格算定方法を決定するという考え方を採っている。したがって、別の価格算定方法 がより信頼できる独立企業間実績値を提供するものであることが後で示された場合には、その別の方法が用いられなければならない。さらに、ある一つの価格算定方法を適用す るといっても、その適用の仕方によっては複数の実績値が求められる場合があり、その 場合には、個別事案に関連する事実及び状況に応じた、最も信頼できる独立企業間実績 値を提供するものによって、その関連者間取引の独立企業間実績値を決定する。xxx x・前掲注(10)178 頁。
移転価格税制一般に適用されるこの最適方法のルールを費用分担契約における予測便益割合の算定において適用しているといえよう。
(171) 財務省規則 1.482-7(f)(3)
(172) 財務省規則 1.482-7(f)(3)(ⅱ)
(173) 以下財務省規則 1.482-7(f)(ⅲ)の概略を説明している
形資産の活用にかかる費用が、生み出される収入に比して比較的低い場合に、あるいは、対象無形資産を使用することによる主な効果が、関連参加者の収入を費用に大幅な影響を与えない方法(販売する製品の価格にプレミアムを載せるなど)で、増加させる場合である。関連参加者の売上高は、全関連参加者が市場内の同等の位置付け(製造、販売等)で活動している場合でなければ、信頼性の高い利益測定根拠とはなりにくい。
(ハ) 営業利益。この測定根拠は、営業利益が対象無形資産の使用に帰する部分が大きい度合い、あるいは、対象無形資産の使用に帰する利益の全利益に占める割合が各関連参加者で同様であると予想される度合いが高いほど、信頼性が高まる。この状況は、対象無形資産が、利益を生み出す活動に不可欠であり、当該活動が当該無形資産の使用なしには継続できない、あるいはほとんど利益を生み出さない場合に起こり得る。
(二) その他の測定根拠。この測定根拠は、状況により、対象無形資産の使用により得られる利益増加あるいは費用節減と、使用される測定根拠の間に合理的に特定可能な関連性があることが予想できる限り、適切である。例えば、従業員報酬に基づく費用の分担は、対象無形資産の使用から発生する関連参加者の期待される利益と従業員報酬の間に関連性が無い場合、信頼性の無い根拠とされる。
なお、米国財務省規則では設例において、配分基準(174)の根拠を具体
(174) xxx「無形資産取引としてのコストシェアリングの活用-OECD 移転価格ガイドラインを中心に-」『国際税務』Vol18 No2,20 頁では、配分基準に関して「これらのキーの選択は、状況に応じて最善のものを選択するしかないが、日本の多国籍企業にとっての留意点としては、ワールドワイドの連結ベースでこれらのキーを正しく把握し、適用することがあげられる。海外関連会社のコスト分担を設定する際に、単独(日本側親会社)ベースの配賦キーのみを用いるなど、明らかに理論的に問題のある場合が少なくない。さらに、無形資産取引については、その形成のための投資と、便益の享受とのタイミングのずれが多くの場合生じるため、時間の経過や、参加者の経済的性格により、複数の配賦キーを並存させることも認めている。」と指摘されている。
的に説明しているが、ここでは、売上高を根拠として配分される事例を挙げる(175)。
国内親会社(FP)と米国子会社(USS)がともに、肥料を製造販売している。二社は、現在パウダー状の製品しか市場に出ていない一般的な農業用肥料のペレット状製品を開発するために、費用分担契約を締結する。当該契約では、USS が米国市場でこの新形状肥料を製造販売する権利を得、FP は、米国以外の世界市場で同肥料を製造販売する権利を得る。新形状の肥料の開発費用は参加者各々の市場における肥料の期待される売上高を根拠に分担される。研究開発が成功すると、ペレット状肥料は、作物により効果的に肥料成分を与えるので、同等の収益増加効果をもたらすのに必要な肥料の量が減る。使用する肥料の必要量が減ることを根拠に、ペレット状肥料はパウダー状肥料よりもプレミアム価格で売れると予想する。研究開発が成功すれば、ペレット状肥料の製造費用は、パウダー状肥料の製造費用とほぼ同等で、しかも FP,USS 両社にとって同等である。FP、USS 共に独立系販売会社に肥料を販売するので、市場における活動の位置付けは、ほぼ同等である。この場合、関連納税者が選択した利益測定根拠は最も信頼性がある。
(3)予測(176)
大抵の場合、便益は予測に基づいて測定される。予測便益の予測に当たって、研究開発の開始から便益享受までの期間、便益を享受する期間及び当該期間における便益を予測する必要があるとしている。関連者間で利益を享受する時期について、著しいばらつきが予想され、それにより享受する利益が著しく異なる場合、現在割引価値法を用いて予測便益を測定する必要がある。また、便益の享受割合が長期間に渡り著しく変化しないと予想される場合、現年度の便益享受割合が信頼性の高い予測となる。
予測便益と実際便益との格差が著しい場合、税務署長は、実際の便益を
(175) 財務省規則 1.482-7(f)(ⅲ)設例5
なお、売上配分基準について、ドイツにおいても他の配分基準の考慮を必要とする。ドイツ修正費用分担契約規則 IV B 4-S 1341-14/99 3.1
(176) 財務省規則 1.482-7(f)(ⅳ)
(4)バイ・インに関する事項
米国財務省規則においては、バイ・インは無形資産の持分の移転全般を指し、OECD 移転価格ガイドラインよりも広い意味で使用している。すなわち、新たな関連参加者が適格費用分担契約に加入し開発中の無形資産の持分を取得する場合(177)、適格費用分担契約の下で無形資産開発分野における研究を目的として自ら所有する既存の無形資産を他の関連参加者に提供する場合(178)、既存の参加者が持分を放棄する場合(179)、数年間に渡り予測便益割合と費用配分割合に乖離が生じていて、費用分担契約が否認され、持分が移転した場合(180)、には、持分を取得した参加者は、バイ・イン支払を行わなければならないとされている。
上記の場合、適格費用分担契約の各メンバーは、無形資産を拠出する関連参加者に、適正な対価に関連参加者の合理的な予測便益割合を乗じた金額の対価を支払わなければならない。また、バイ・インに関する条項では、明示的に規則の無形資産の部分(1.482-1、1.482-4 から 6)が適用される旨を定めている。つまり、取引事象は費用分担契約の枠外で行われたものとして扱われ(181)、そして各参加者間における無形資産の持分に関する支払に関し、独立企業間価格の算定が要請される(182)。
このバイ・インに関する事項は、費用分担契約を仕組む時も含め、種々
(177) 財務省規則 1.482-7(g)(3)
(178) 財務省規則 1.482-7(g)(2)
(179) 財務省規則 1.482-7(g)(4)
(180) 財務省規則 1.482-7(g)(5)
(181) 財務省規則 1.482-7(d)(1)、(g)(2)
(182) 財務省規則 1.482-7(g)(2),(3)
の難しい問題を包括している。その意味では費用分担契約の利用の阻害要因となる可能性がある。なお、米国のバイ・インに関しては、現状や法律の分析等、第 3 章において詳述する。
3 批判的検討
1995 年最終規則に関し、批判的検討を加える。
(1)歳入庁からの費用分担契約の認定について
費用分担契約に関する要件に該当しない場合にも、実質的に費用分担契約であると考えられる場合には、歳入庁側から認定が行われる(183)。たとえば、多国籍企業全体に利益をもたらす可能性のある無形資産の開発を、国内企業だけがその費用で行い失敗した場合、歳入庁は、他国の関連企業も関連参加者として費用分担契約を締結すべきであったとして認定し、国内企業の費用負担の一部を否認する可能性がある(184)。もし仮にそのような認定が歳入庁から行われた場合、我が国は如何なる主張を行うのであろうか。
この規定は 1992 年の規則案でも定められていたが(185)、その時は開発者・援助者ルールの適用に関し、関連参加者の利益を明確に反映しない例外的な状況を想定していた。非適格参加者の認定と共に関連参加者の認定
(183) 財務省規則 1.482-7(a)(1)
(184) xxxx・前掲注(142)259 頁。さらに 260 頁において、「歳入庁側からの取決めの認定が行われる場合には、納税者側に便益の合理的予測は用意されていないであろうから、事後の観点からの実際の利益獲得比率による調整が許容される。つまり、歳入庁は、無形資産の評価だけでなく、費用分担取決めにおける便益の予測をも回避できる。もともと資産の価値とは、将来の収益の現在価値にリスクを乗じたものであるから、そうした課税は、事前の観点を抽象し、純然たる事後の観点からの利益分割に基づくものである。一般論として、所得相応性基準の本質は、まさにこうした事後の観点から、評価や予測ではなく、現実の利益は発生に焦点を合わせた課税を命じたところにあるといえるであろう。費用分担取決めは、確かに利益分割法的な一種の安全地帯として作用するが、事後の観点の強調は、それを納税者ではなく、課税庁に提供する可能性がある。」として、事後の観点の強調による課税庁の裁量権について、懸念されている。
(185) 1992 年財務省規則案 1.482-2(g)(2)(ⅲ)
も他の参加者に大きな影響を及ぼし、当該条項の適用については、今後の動向に注意を要する。
(2)セーフ・ハーバー条項からの検討イ 概要
次 に 、 セ ー フ ・ ハ ー バ ー 条 項 が 新 設 さ れ た x x 省 規 則 1.482-7(f)(3)(ⅳ)(B)を検討する。この条項からは、セーフ・ハーバーを基点とした留意すべき所得認定と費用配分について考察する。この条項は、予測便益の算定に関して、予測に関する信頼性の低い見通しと称する標題で規定されている。ポイントを大きく整理すると以下の 3 つに区分できる。
① 予測便益と実際便益とが著しい場合、予測の信頼性が低かったことを示し、この場合地区管理者は、実際便益を信頼性の高い測定値として使用することができる。
② 関連参加者の予測便益と実際便益との乖離が、全ての関連参加者に関して、それぞれの乖離が 20以下であれば、予測の信頼性はないものとはされない。さらに、乖離の要因が、合理的に予想し得ない参加者の制御を超えた異常な事態による場合には、その乖離を根拠に配分調整は行わないとしている。
③ 上記については、納税者が予測便益測定にあたり最も信頼性の高い根拠を使用しなかった場合には、地区責任者は配分調整を行うことができる。例えば、納税者が予測便益を販売数量に基づき測定し、地区責任者が別の根拠の方がより妥当と判断した場合、販売数量の予測と実績の格差が 20 未満であっても配分調整をすることを禁止するものではない。
当該条項は、セーフ・ハーバーの新設により、この 20という具体的な数字が重要となってくる。規則には具体的な設例を用いた計算方法を紹介している。その中の一つである設例7を紹介する。
米国企業である米国親会社(USP)及びその国外子会社(FS)が、一年目に費用分担契約を締結する。参加者は、4 年目から 6 年目に対象無形資産からの利益を享受し始め、USP と FS は利益総額の 60と 40を享受すると予測する。4 年目から 6年目に USP と FS は実際には利益総額の各々50を得る。参加者の予測の信頼性を評価するに当たり、地区責任者は、便益持分の実績と予測を比較する。USP の便益持分の実績(50)は、予測(60)からの格差が 20以内だが、FS の便益持分の実績(50)は、予測(40)からの格差が 20を超過している。この格差を根拠に、税務署長は、参加者の予測には信頼性がなかったと結論し、USP と FS が負担すべき費用分担について、実際の利益を根拠とする調整を行うことができる。
格差が 20を超えるか否かを計算すると以下のとおりとなる。
F S:40(当初)×20 =8<50 (実績)-40 (当初)=10 →超過 USP:60 (当初)×20 =12>60(当初)-50 (実績)=10 →セーフ
なお、20%の算定に関しては、期ごとで判定するのか、実際便益との
乖離累積額で判定するのか等の問題を包含している。ロ 所得の配分認定について
この 20基準は、セーフ・ハーバーとしての機能を果たす一方、20 を超える予測便益シェアと実際便益シェアとの乖離は、予測の信頼性が低かったことを示し、合理的に予想し得ない参加者の制御を超えた異常な事態による場合以外では、歳入庁は実際の便益を基礎とした調整を行うことができる。この調整は、果たして費用配分による調整のみなのであろうか。もともと財務省規則 1.482-7(f)(1)の規定が無形資産の移転として 482 条の原則規定を適用するか、あくまでも費用配分でとどめるのかが、明確でない。1992 年規則案では、不均衡が一定の限度を超えれば、持分移転の認定が行われたが、最終規則では明確な定めがない。加えて最終規則前文によると、納税者が最も信頼できる便益の見積りを使用しない場合には、個別事実と周辺の事情に応じて、費用又は所得の配分を
行うことができる(186)としていて、不均衡を要因とした無形資産の移転による所得配分の認定の余地は残されている(187)。つまり、不均衡が大きい場合には、期間的に長期に渡らなくても、無形資産の移転による所得配分が行われる可能性は高いと言える。
セーフ・ハーバー条項を例にとり検討を行ったが、不均衡による調整は、契約自体の存在を否定されるケースと契約自体は認容されて費用の調整または利益を含む持分に対する所得配分を行うケースがあり、1992年規則案は、形成無形資産に係る経常所得と分担費用との比率の参加者間での不均衡の程度に応じて、これら3つの方法を機械的基準で使い分けていた(188)。なお、1995 年現行規則においては、この基準を廃止し前述したセーフ・ハーバーを設け数値による境界を設けたが、設例を含む詳細な規定を有していながら、自己の調整の仕組みをどのように行うべきかの具体的な指針を提供していない(189)。加えて、規則案のような具体的な基準による持分移転等に基づく所得配分の認定については、明確な定めがなされていない。
つまり、予測便益と実際便益との乖離が生じた場合の課税庁の認定方法が不明確といえよう。一方では、規則で一様に規律できないと言う側面があると考えられよう。
なお、OECD 移転価格ガイドラインも同様である。
(186) 1995 年最終規則前文
(187) xxxx・前掲注(142)245 頁によると「不均衡を無形資産の移転と構成し、独立企業間価格に基づく調整を行う余地は 95 年規則でも残されており、不均衡が大きい場合に、所得配分が行われる可能性は高い。そして、その基準が費用所得比による事実上の機械的割り切りを行った 92 年規則案ほど明確でないことがむしろ一つの問題である。」として、明確性に欠けることのほうがむしろ問題であるとされている。
(188) 1992 財務省規則案 1.482-2(g)(2)(ⅱ)及び(g)(4)(ⅳ)参照
(189) Arup K. Bose“THE EFFECTIVENESS OF USING COST SHARING ARRANGEMENT AS A MECHANISM TO AVOID INTERCOMPANY TRANSFER PRICING ISSUES WITH RESPECT TO INTELLECTUAL PROPERTY”21 VATXR 553 (2002) P16.
ハ セーフ・ハーバーと最適法ルール
次に、セーフ・ハーバーと費用配分について考察する。条項通りこの機械的な 20基準は、予測の信頼性に関するセーフ・ハーバーとして機能することになる。ところが③にあたる条項の内容がこの機能を阻害する可能性があるのである。このことについては、数々の先生方が指摘しておられる(190)。つまり、歳入庁が納税者とは別の方法を最も根拠ある方法と認定した場合、20 基準内であっても、費用の配分調整が行われ、
20 基準のセーフ・ハーバー条項は実質上機能しなくなる。なお、OECD移転価格ガイドラインでは、セーフ・ハーバーに関しては、何ら指針が述べられていない。
最適法ルールと所得相応性基準の影響を強く感じると共に、事後の視点からの判断がより鮮明になってきていると言えよう。
費用分担契約は費用の分担の取決めであるが、無形資産形成後の各参
(190) セーフ・ハーバーに関しては、以下のような説明がある。「もし、現実の利益が予測と異なることが判明すれば、歳入庁は、歳入法典 482 条の「相応性」の要件に合致するように費用の調整を行うであろう。しかし、予測と実際の便益との乖離が 20%以下であるか、或いはそれが、当該参加者が管理し得ない何等かの異常な事象による場合には、調整はなされないであろう。規則§1.482-7(f)(3)(ⅳ)(B)。」リチャード・L・ドーンバーグ『アメリカ国際租税法(第 3 版)』xxxxx訳(xx社,2001)167 頁、また、「税務署長は、計画された便益と実際の便益との著しい乖離により信頼性が低いとされた場合、配分を実際の便益に基づいて行ってもよい。しかし、20%未満または、参加者の適切なコントロールを超えた異常な事象による場合、配分は必要ではない。」Arup K.Bose・supra note 189,P16。このようなセーフ・ハーバー条項に関し、「20%基準は、納税義務者と課税当局の双方が、信頼できる基準として同じ基準を選択する場合の判定基準であり、課税当局が他の基準を適切とする場合、20%基準の適用はないことになる。」xxxx・前掲注(6)122 頁、「注意しなければならないのは、20%基準を満たした場合には、予測の方法が否認されないだけであり、その基礎については、他により信頼できる方法があるとして、否認される可能性があることである。」xxxx・前掲注(142)249-250 頁や
「最適法ルールは、xx柔軟で好ましいルールのように思われるが、その運用如何では、何が最適方法ルールかを巡って別の紛争を生じさせる可能性がある。税務当局が、納税者の選択した方法を軽視するという姿勢で運用を行うならば、上記 20%セーフ・ハーバー・ルールの適用範囲も著しく狭められてしまうことになる。」xxx「米国コスト・シェアリング最終規則解説(2)」『国際税務』Vol16 No4,14 頁としてセーフ・ハーバー条項に関する注意を促している。
第3節 小括
本章では、第1章で掲げた検討事項を網羅すべく 1997 年 OECD 移転価格ガイドラインと 1995 年財務省最終規則を中心に概観すると同時に費用分担に関するOECD の議論や米国における規定の変遷等の確認を行った。
費用の分担に関する基準としては、予測便益割合に応じた各参加者が分担する費用について、独立企業間価格として許容していくというのが、国際的なコンセンサスになっている。そして、各国は、独立企業原則の適用と租税回避行為の防止の面から費用分担契約に関する諸要件を規定している。しかし、国によって取扱いが異なる部分もあり、OECD でも方向性が見出せていない事項もある。
費用分担契約は、共同開発事業を行うに当たり、各参加者間で取決めた単なる費用分担であるかもしれないが、私法上の契約を税務上の独立企業間契約の視点から捉え、移転価格税制上のセーフ・ハーバーとしての機能を持たせると同時に自国の課税権を確保するために規制を設ける必要がある。次章では、本章における諸外国の規定等を参考とし、我が国のあるべき法制を射程として具体的な論点について検討を行う。
(191) なお、2003 年 9 月に米国財務省及び内国歳入庁は,関連者間役務提供取引に関する規則案を発表した。案の段階であり,最終規則ではないが、研究開発活動や無形資産に帰属する所得の分配等は内容次第によっては費用分担契約にも関係が生じてくるので、今後の動向を注視する必要がある。当該新規則案に関して、スティ-ブン・ハリスほか「新米国移転価格規則案の概略 第 1 回」『国際税務』Vol.23 No.11,6-11 頁、xxxxほか「新米国移転価格規則案の概略 第 2 回」『国際税務』Vol.23 No.12,30-37 頁、xxxxxか「新米国移転価格規則案の概略 第 3 回」『国際税務』Vol.24 No.1,72-80頁。
本章では、費用分担契約に関する取引を移転価格税制で対処するために、我が国法制を射程としながら、費用分担契約に内在した問題点を顕在化し検討を行っていく。我が国の法制としては課税基準を中心に考察する。当該判断基準として、国際的な課税規範というべき OECD 移転価格ガイドライン及び米国財務諸表規則を検討対象とする。しかし、第2章で考察した通り OECD 移転価格ガイドラインは詳細な解釈適用基準には至っていないため、CCA に関する論点に関し、各国で見解が分かれる場合、多数の国の規定状況を検討すべき場合及び上記2つの規定より詳細に規定されている場合に、ドイツ(192)及び豪州(193)の規則を検討対象に含める。
第1節では私法上の契約である費用分担契約に関し、独立企業原則に合致した一般的な条件について考察する。第 2 節では費用の分担に関する基準について、第3節ではその基準を用いた独立企業間価格の算定について検討する。これらについては、移転価格税制上のセーフ・ハーバーとして機能するための法
(192) ドイツの包括的なxx規則である修正費用分担契約規則、21 TM TPR 914 2/23/2000
「 Revised German Cost Sharing Arrangement Regulations [Issued 12/30/99; Translation by Deloitte & Touche GmbH in Dusseldorf],IV B 4-S 1341-14/99, Berlin,30 December 1999」を検討対象としている。先述したとおり、ドイツには独自の規定内容の部分がある。
(193) 平成 16 年 1 月にOECD 移転価格ガイドラインを基にした独自の規則である豪州費用分担契約規則、12 TM TPR 875「Taxation Ruling, Income tax :international transfer pricing-cost contribution arrangements, TR2004/1,Released 1/24/04」である。この規則は費用分担契約への独立企業の原則の適用を規定する OECD 移転価格ガイドライン第 VIII 章を受入れ、豪州の規定の中でそれらがどう適用されるか、取扱いの見解を構築するものである。また、この規則は費用分担契約への独立企業の原則の適用と関係する移転価格問題のみを取扱い、この規則と説明は、次の 4 部で提供されている。A 費用分担契約の概念、B 独立企業の原則の適用、C 結果として費用分担契約が独立企業間でない場合、D 文書化(豪州費用分担契約規則 2004/1 パラ 3、7 及び8)。
OECD 移転価格ガイドラインはパラグラフが 43 しかないが、豪州課税規則は Example17も含めて 228 もあり、詳細な規定となっている。
なお、豪州費用分担契約規則の和訳は私見である。
制化についての検討になる。第4節ではバイ・イン取引や独立企業原則に準拠していない場合等の課税問題について、検討を行う。
第1節 費用分担契約に関する独立企業原則の適用
1 費用分担契約の移転価格税制上における位置付け
OECD 及び欧米各国とも費用分担契約に関する規定は移転価格税制の中におかれている。費用分担契約の移転価格税制上の位置付けに関して、米国では、適格費用分担契約と参加者要件を規定し、当該要件に適合していれば、米国歳入法典 482 条の移転価格税制の適用を抑止することができる。OECD 移転価格ガイドラインでは、独立企業原則の適用として、費用分担契約に関する諸要件を規定している。これらが規定された背景には、移転価格税制の適用と無形資産の評価を回避する要請と同時に海外への所得移転を防止するという側面があったことは、前述したとおりである。
費用分担契約に関する取引は法人の所得に関係する国外関連取引に該当するので、我が国も諸外国と同様に移転価格税制の問題として捉える必要がある。国際租税法上、移転価格税制の観点から費用分担契約を検討していくには、租税回避行為等からの海外への所得移転を防止することによって自国の課税権を確保し、国際的な課税原則である独立企業の原則に準拠した、無形資産評価回避等の要請を許容できる、各国において受入可能な税務上の取扱いを検討していく必要がある。また、移転価格税制における費用分担契約に関しては、セーフ・ハーバーとしての機能を果たすことと、濫用のおそれに対処するという相反する側面があり、このジレンマを包括しながら、税務上の取扱いを考察していく必要がある。
2 独立企業原則に合致した前提となる条件
1で示した考察過程の指針を鑑みれば、費用分担契約に対する独立企業原則の適用ということは、そもそも私法上の契約である費用分担契約における
取極め条件及び条件の履行に関する企業行動(活動)が独立企業原則に合致しているかどうかと言うことである(194)。現在までの価格や利益に関する移転価格問題と違い、最初に締結した契約自体が独立企業間契約か否かという問題が生じるのである。ここでは私法上の契約である費用分担契約に関して、移転価格税制上のセーフ・ハーバーとして機能し得る独立企業間契約としての一般的な前提条件について考察することとし、それらを顕著に示していると思われる豪州の規則を紹介する(195)。
費用分担契約の基本取引条件について、独立企業の原則と合致しているかどうか決定することは、独立当事者間取引を行う独立契約当事者が比較可能な状況の中で参加をしたと予想されるものと取極めが合致するかどうかの理由(動機、約因)を要求する(196)。それらに関し、以下の事項を注視する(197)。
(1) 取極めはビジネスセンス(business sense)を生じさせるべきである(198)。
① 費用分担契約の条件は、自身の経済的持分で行動する契約当事者間で意見が一致して、特にそれらの状況でビジネスセンスを生じさせる結果を反映することと合致しているべきである
② それは、現実的に利用可能な他のオプション(選択可能なもの)と比較して、費用分担契約に参加するためにそれ自身の経済的持分の中で行動して、納税者にビジネスセンスを生じさせるべきである。
(2)条件は経済的実質(economic substance)と一致するべきである(199)。当事者、および独立当事者間取引を行う当事者が類似する状況で合意し
(194) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.1 では、「本章は費用分担契約の条件が独立企業原則に適合しているかを決定するにあたっての一般的な指針を規定することにある。」とある。ドイツ及び豪州の規則も同様な導入の仕方である。
(195) 米国やドイツの規定も独立企業原則の適用を加味して構築されているが、OECD タイプの豪州費用分担契約規則は独立企業原則の適用を文言上から強く認識できる規定振りとなっており、参考になるため検討を行った。
(196) 豪州費用分担契約規則 2004/1 パラ 17
(197) 豪州費用分担契約規則 2004/1 パラ 18
(198) 詳細については、豪州費用分担契約規則 2004/1 パラ 21-26 を参照
(199) 詳細については、豪州費用分担契約規則 2004/1 パラ 27 を参照
たと予想されるものの行為によって証拠づけられるように、費用分担契約 の当事者間で合意された条件は取極めの経済的実質と一致するべきである。
(3)条件は、前もって合意されるべきである(200)
① 費用分担契約の条件は当該活動の開始より以前に合意されるべきである。
② 条件は既知の状況への関連で判断された独立当事者間取引であるべきか、あるいは取極めへの参加の時に合理的に予測可能であるべきである。
上記の他に、参加者は便益の合理的な期待を持っているべきである(201)、貢献の分担は期待便益の分担と一致しているべきである(202)、及び参加、脱退および終了は独立取引条件であるべきである(203)、としているが、これらについては費用分担契約の論点として具体的に締結すべき契約事項になるので、第 2 節以降で検討する。
なお、ここでの一般的な条件とは、独立企業間契約として観念しておくべき前提となる指針ではあるが、特に重要な点は多国籍企業のグループとしてのビジネスセンスや経済的実質ではなく、あくまでも独立契約当事者としての観点からそれらを判断し、契約を締結する要因を考察する必要があると言うことである。同様な観点から我が国においても費用分担契約の独立企業間契約としての前提となる条件について何らかの形で示すことは、有意義なことと考える。
以後は、具体的に独立企業間契約としての費用分担契約の諸条件について考察することになるが、最初に移転価格税制上の費用分担に関する基準に関する観点から検討を行っていく。
(200) 詳細については、豪州費用分担契約規則 2004/1 パラ 28-32 を参照
(201) 詳細については、豪州費用分担契約規則 2004/1 パラ 33-64 を参照
(202) 詳細については、豪州費用分担契約規則 2004/1 パラ 65-148 を参照
(203) 詳細については、豪州費用分担契約規則 2004/1 パラ 149-174 を参照
1 合理的な費用分担
移転価格税制における海外への所得移転という問題は、費用分担契約における取引の中で何を要因として生じてくるのか。前述したように、今までの移転価格税制においては国外関連取引における取引対価が問題とされ、マークアップに主眼がおかれていた。当該取引対価と独立企業間取引の対価の差額が自国のあるべき所得の移転として、移転価格税制が適用されていた。一方、費用分担契約における所得に関する問題は、各参加者間で取決めた費用の分担にある。他国で生じた費用が取決め内容によって、自国の費用となってくるのである。したがって、その問題は、いかにして費用分担を取決めるのかが要因となり生じてくるのである。
それでは、どのような費用分担が妥当と言えるのであろうか。この費用の分担割合に関しては、契約締結時点での当事者間の合意で決定されるが、決定方法に関し画一的な基準などない。一般的には、独立企業間であれば各参加者が自らの利益に資するため、有利な契約内容の合意を目指すであろうから税制上問題になることは少ないと思われる。本稿の費用分担契約は国外関連取引を検討対象としているので、当該費用分担割合に恣意的な分担割合を防止すべく何らかの基準が必要であると考える。この点について、OECD や欧米各国の規定も費用分担契約が独立企業原則に準拠することを求めており、独立企業間では、費用分担契約活動に対する費用全体に占める各参加者の費用の負担割合が、当該契約の下で享受することとなる予測便益に占める割合と等しいとしている。そして、当該費用の分担額が独立企業間価格であるとしている。つまり、独立企業原則の適用から、費用分担に関する基準として費用の負担割合と予測便益に占める割合との均衡性を要求している。
我が国の対処方法としても、諸外国と同様に費用分担に関する基準として費用の負担割合と予測便益に占める割合との均衡性を要求すべきであると考える。なぜなら、第 2 章で確認した OECD における費用分担契約に関する費用
の分担の在り方についての議論でも、ひとつの方向性が示されているからである。1979 年の報告書では、国際的な共同研究開発費用はxxかつ適正に配賦されなければならないとしながらも統一的なやり方は存在せず、適正な方法として予測便益に応じた費用の分担を挙げている(204)。その流れを受けて現在まで OECD では、この予測便益に応じた費用分担を国外関連取引の特殊性を考慮し、費用分担契約における独立企業原則の適用の結果導き出せる費用の分担方法であると示している。そのような議論が反映し、諸外国の規定では、同様の基準に則っており、このことから予測便益の割合に応じた費用の負担額が、国際的なコンセンサスとして認容されていると言えよう。国際的に共通の基盤に立つ必要がある我が国においては、諸外国の規定と同様の基準を合理的な基準として取り入れる事に関し、他の選択肢は採り得ず、統一的な合理的な基準がない状況のもと、その必要性が望まれる。
費用分担契約において、独立企業原則の適用から、費用分担に関する合理的な基準として、各参加者の費用の分担割合と予測便益割合とは等しくなければならないので、この均衡性を持った対価で取引することによって、移転価格税制の適用に関しセーフ・ハーバーとして機能することになる。
2 独立企業間価格の算定
(1)独立企業間価格算定の概要
欧米各国の規定では、費用の分担割合と予測便益割合の均衡性が保持されていれば、各参加者の費用の額を独立企業間価格で取引が行われたものとみなしている。したがって、移転価格税制における独立企業間価格算定方法(例えば独立価格比準法や原価基準法等)は具体的に示してはいない。我が国は如何なる方法をとるべきか。諸外国の規定に独立企業間価格算 定方法が具体的に示されていない理由としては、先述したとおり独立企業原則の適用という観点からは、独立企業間契約としての費用分担契約の諸
(204) 1979 年報告書,パラ 121
我が国も同様に、費用分担契約における費用分担に関し、将来の予測便益に応じた費用分担額を独立企業間価格としてみなすという課税基準を移転価格税制上の中で適用していくべきであると考える。
我が国の移転価格税制は、前述したとおり、租税特別措置法第 66 条の 4
第 1 項で移転価格税制の適用に関する要件を規定し、同条第 2 項で具体的な算定方法を規定している。当該具体的な算定方法には独立企業原則が適用されている。そして同条第 20 項は具体的な算定方法に関し、委任規定を設けているので、この委任規定に基づき法令の整備を図ることも一つの方法であろう。また、第 3 節以降で検討する諸条件も含め、我が国の費用分担契約に関する独立企業原則の解釈として、独立企業間契約としての費用分担契約の一要件として通達等で示していく方向も考えられよう。
費用分担についての課税基準は費用分担契約に関する法制の柱となる部分であり、『費用分担契約を締結した場合において、全参加者の費用の合計額に当該法人の予測便益割合を乗じた金額が、国外関連取引の対価としての独立企業間価格とみなす』というような概要で明確にする必要があろう。
次に、上記概要の用語の定義について検討する。
(2)用語の定義
イ 費用分担契約(対象活動の範囲等)
費用分担契約の定義について検討する。ここでは、費用分担契約の契約当事者、対象活動の範囲について検討する。再度確認しておくが、OECD移転価格ガイドラインでは、費用分担契約とは「資産・役務・権利の生産又は獲得の費用及びリスクを分担し、参加者がこれらの資産・役務・権利に有する利益の性質及び程度を決定するため、企業間で合意された枠組みである(205)。この枠組みにおいて、貢献全体に占める各参加者のシェアが、予測便益全体に占める各参加者のシェアと等しい場合に、独立企業原則に準拠している(206)」とし、米国では、「費用分担契約は一以上の無形資産の開発費用を、当該契約により割り当てられる無形資産の持分の使用により享受する便益を合理的に予測し、その割当に応じて当事者間で分担する契約である(207)」と定義されている。
契約当事者に関しては、参加者に法人の国外関連者が含まれている場合における費用分担契約が対象となる(208)。なお、ドイツをはじめ各国とも国外関連者間との間で締結されたものが対象となるが、米国の移転価格税制は、国内関連者間も対象となる。
費用分担契約の対象活動の範囲については、OECD と米国では大きく異なる。米国は無形資産の開発に限定しており、OECD 移転価格ガイドラインは無形資産以外の費用分担も広く認めている。米国は、費用分担契約を世界に先駆けて導入した国であるが、無形資産の開発による費用が自国のみで生じ、形成された無形資産は適正な課税が行われないまま、他
(205) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン・パラ 8.3
(206) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン・パラ 8.26 (207) 財務省規則.1.482-7(a)(1)
(208) 参加者に非関連者が含まれていた場合はどのようになるのか。OECD では特に触れられていないが、米国では財務省規則の中で取扱いが定められている。費用の配分調整につき財務省規則.1.482-7(f)(2)(ⅱ)例(ⅰ)、バイ・インに関して 1.482-7(g)(8)(ⅱ)例 5参照。移転価格税制は国外関連者間の取引に適用されるため、非関連者に関するものは除かれ、あくまでも国外関連者間での問題として適用されていくことになる。また、連結申告を行う法人グループを,単独の参加者として扱っている。財務省規則 1.482-7(C)(3)
国へ移転しまう状況を経験し、無形資産開発の費用分担割合、所有権の帰属等、無形資産に関する議論を活発に行ってきた。そういう点から、費用分担契約の対象活動を無形資産の開発に限定しているのであろう。一方、OECD 移転価格ガイドラインでは、「おそらく最も頻繁に見られる費用分担契約の類型は、無形資産の共同開発のための取決めであろう
(209)」としながらも、無形資産の開発に限定せず、幅広い活動を許容し
ている。
無形資産の開発に限定する立場からは、以下のような主張が行われるであろう。もともと費用分担契約は主観的な要素の入る余地が大きく、何らかの制限を設けないと、恣意的な費用分担が行われる可能性がある。したがって、なるべく制限的に対象活動の範囲を規定すべきだという主張である。
広く認めるべきという立場からは、費用分担契約の税務上の規定によって契約の対象活動の範囲を実質的に制限するのは妥当ではなく、また、制限することで対象活動が無形資産の開発以外の費用分担契約に対する移転価格税制上の取扱いが不明確となりかねないという主張をするであろう。
この問題については、次のように考える。費用分担契約を我が国における移転価格税制の観点から捉える場合、自国の課税権の確保という目的から、所得移転等が行われず、そして独立企業間価格算定に関して不明確になり易い取引が生じる可能性が低い方向で規定を設けることは、税務の面からは当然の要請と考えられる。しかし、移転価格税制には、契約自由の原則を考慮すべき側面があり、また何らかの対象を除くといっても確固たる除外理由が存在しない以上は、OECD 移転価格ガイドラインとの整合性を欠いてまで、無形資産の開発に限定すべきではないと考える。ただし、費用分担契約は無形資産と一体として構築されてきた制
(209) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.6
度であり、我が国の費用分担契約を純粋な無形資産の開発に限定した制度と位置づけるならば、現在の費用分担契約に関する OECD ガイドラインの法的性格を鑑み、無形資産の開発活動に限定しても何ら問題はないであろう。
とりあえず、ここでは豪州の考え方を参考として(210)、基本的には、我が国の費用分担契約の定義としての対象活動の範囲に関して、OECD に準拠した内容が妥当と考えられ、概して費用分担契約とは、『契約の目的となった活動から得ると見込まれる予測便益割合に応じ、当該契約の対象活動に関連する費用を契約当事者間で分担することを取決めた契約』となると考えられ、参加者に『法人の国外関連者を含む場合』が移転価格税制上問題となる。
ロ 費 用
費用の定義について費用の性質、測定及び評価について考察し、定義の他に明確にすべき事項の適否を含めて検討する。
(イ)費用の性質
OECD 移転価格ガイドラインでは、参加者の費用分担契約に支払又は拠出する金銭又は現物等を貢献(contribution)と呼んでいる。米国財務省
(210) 豪州の規則では、費用分担契約の概念は、契約当事者が合意するいくらかの取極めをカバーするように十分に広いとしている。 広いとしながらも、リスク負担がない場合や純粋な労務提供取極めで結果として製作、開発、獲得する財産がないならば、規則の原則は企業グループ内役務提供取引の取扱いを適用するとしている。また、費用分担契約活動は研究開発と技術サービスの両方を含んでいるケースも考えられ、例えば、単一の費用分担契約が、研究開発、マーケティング、製品あるいは原材料購入の中央集権化、経営、管理及び技術サービスのように 1 つ以上の広範囲の活動をカバーするケースも考えられ、多数の活動に関係があるかもしれないとしている。しかし、一方で広範囲の活動をカバーする費用分担契約は商業上非実用的かもしれないとしつつも、いくつかの状況では、多数の活動に関して単一のものより商業上現実的があるかもしれないとしている。(豪州費用分担契約規則 2004/1 パラ 10,14-15,50,93 及び 204-205 参照)
つまり、個別具体的な状況によることになるが、結論としては費用分担契約の対象活動は広く捉えている。しかし、一方で企業内役務提供取引との関係は今後の検討課題とも言え、同様のことは我が国にも言えよう。
規則では、費用(cost)と呼んでいるが、活動の対象が無形資産の開発に限定されていることとバイ・インの用語法に差異があるため、OECD の方が広い概念になっている。しかし、実際は費用分担契約に提供する財物等を意味し、実質的には変わらない。以後、「費用」という用語で使用していく。この費用の性質について米国では、支払者にとっては無形資産開発費用、受取者にとっては無形資産開発費用の償還と取扱われる (211)。OECD では、参加者の国々における税制の一般規定が適用され、多くの場合、控除対象費用となるとしている。つまり、契約の内容により、費用の性質は判断されるとしながらも、開発分担金のような損金を前提としている(212)。我が国においては、法人税法第 22 条等から個別具体的に判断していくことになると思われるが次のような問題がある。費用分担契約においては、各参加者が拠出した費用はすべて計算上集約され、各参加者の予測便益に応じて配分される。それでは、各参加者の集約された費用全体のうち、交際費が含まれていた場合や、他国の参加者が活動とは非関連な費用を付け込んでいた場合はどうなるのであろうか。費用分担契約は、一定の共同目的のため、参加者が拠出した費用等を調整する契約上の仕組みであり、形成された資産を共有(合有)するという観点から、すべての費用は各参加者の負担割合で自らが負担したものとみなされると考えるのが妥当であろう(213)。したがって、他国の参加者が交際費等を負担していれば、予測便益割合に応じて支出したものとされ、非関連費用が全体の費用の中に混入されていれば、各参加者に影響が生じる。これらのことを含め、世界各国の参加者の集約された費用の性質には、対象活動の関連性と会計上の適正性が求められる。このこと
(211) 財務省規則 1.482-7(h)(1)
(212) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.23
(213) xxxx・前掲注(6)「費用分担契約における契約締結上及び税務上の論点(上)」20
-21 頁においても「全ての種類の貢献は、その負担割合で自らが支出したものとして取扱われるであろう」としている。
なお、当該論点は前述した法的性格の検討を要する要因の一つである。
が崩れると各国の課税権を侵害することになるのである。
なお、OECD 移転価格ガイドラインでは調整取引を含む費用分担について、ロイヤリティとの相違を明確にすべき点が強調されている(214)。これは、費用分担契約がロイヤリティに関する移転価格税制と源泉所得税回避を目的とした契約であるため、実際はロイヤリティであるのに費用分担契約の費用等に仮装するケースに対処すべきことを念頭に規定されていると考えられる。
費用の性質に関しては、現行税法上で対処していくことになるのであろう。
(ロ)費用の測定
費用の測定に関しては、多岐に渡る問題点が想定されるが、ここでは、適用する会計原則や補助金の取扱い、費用の範囲、費用の評価に分けて検討を行う。
適用する会計原則については、世界的に統一して使用されている会計基準は現在のところ存在しないので、何れかの参加者の国の会計基準を採用するしかない(215)。重要なことは、どの国の会計基準を採用したとしても、同一性と継続性を遵守する必要がある。ただし、採用した会計基準によって我が国税務上損金不算入なものは、別途税務上の調整が必要になるであろう。
補助金や租税優遇措置の効果については、我が国も試験研究費の額が増額した場合等の法人税額の特別控除(216)が一例として該当するが、投資促進税制等の課税上のインセンティブは、各国の事情における租税政策的な意味合いが強い。あくまでも各参加者間の実質的なコスト負担の
(214) 1997 年OECD 移転価格ガイドライン,パラ 8.23~8.25
(215) xxxx・前掲注(6)「費用分担契約における契約締結上及び税務上の論点(上)」19頁で、採用する会計基準で最も合理的なものについて、「関連者間においては、通常、連結用に親会社と同一の会計基準を使用していることが多く、連結財務諸表の作成に適用される会計原則に従うのが最も合理的であろう。」と述べている。
(216) 租税特別措置法第 42 条の4参照。