この契約取引には口頭による契約や生産者と実需者との直接契約のみならず、JA 全農、流通業者、商社等の仲介者が存在するものも含まれる。
平成14年度
契 約 取 引 事 例 調 査 報 告 書
<量販店・漬物業者編>
平成15年3月 野菜供給安定基金
目 次
はじめに
Ⅰ 契約取引の定義と内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
Ⅱ 野菜の契約取引の実態 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
1.量販店における契約取引の実態 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
2.漬物業者における契約取引の実態 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
Ⅲ 契約取引事例の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
1.量販店における契約取引事例 -トマト- ・・・・・・・・・・・・・・ 18
2.漬物業者における契約取引事例 -はくさい、だいこん、きゅうり- ・・ 33
Ⅳ 契約取引をめぐるコーディネート機能 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44
1.契約取引におけるコーディネート機能 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 44
2.コーディネート機能の担い手 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46
(参考)量販店・漬物業者向けの契約取引を行うための産地・生産者向けマニュアル 48
1.量販店との契約取引のために ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48
2.漬物業者との契約取引のために ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51
は じ め に
本報告書は、当基金が実施した「平成14年度契約取引推進円滑化事業(コーディネーターバンク)」の一環として、社団法人食品需給研究センターに委託して実施した「平成14 年度契約取引事例調査」の結果を取りまとめたものである。
近年、食生活の変化に伴い、外食、加工食品等への野菜需要が増加しており、我が国の野菜需要のうち業務用需要が55 %程度を占めているが、外食、加工、量販店などの実需者は、定価、定量、定質、定時の安定供給を求めている。
このような中で、国際競争に対応しつつ、将来にわたって国産野菜の供給力を確保していくためには、実需者等に選好される品質・価格の野菜を安定的に供給できるよう、国内産地において、生産・流通の両面から構造改革対策を進めていく必要がある。
野菜の構造改革対策においては、実需者のニーズに適合する野菜を供給する契約取引を推進することとし、契約取引のセーフティネットとして契約野菜安定供給制度を創設したところであり、今後、国内産地に対して野菜の契約取引の一層の普及を図る必要がある。
一方、契約取引の推進を図る上での検討課題として、契約取引を開始する機会を生むための取引相手との仲介機能や取引の継続に資するトラブル処理等を行うノウハウが十分に確立されていないことが指摘されているところである。
本調査では、契約取引をコーディネートする者(コーディネーター) を活用して実際に契約取引を推進している事例について調査研究を行うことにより、そうした問題点をいかに解決して契約取引の推進に結び付けているかを明らかにしようとしたものである。本報告書が、国産野菜における契約取引推進のための一助となれば幸いである。
最後に、本調査の実施に当たり御協力をいただいた関係業界及び調査対象者の方々に厚く御礼を申し上げる次第である。
平成15 年3月
野菜供給安定基金
Ⅰ 契約取引の定義と内容
(1)契約取引の定義
農林水産省は契約取引を表1-1のように定義している。この定義では、生産者が農産物のは種前に一定の契約(約束)を実需者と交わすことが条件になっているが、本調査では、農林水産省による定義よりやや広い概念を採用した。すなわち、契約(約束)の期日を農産物のは種前には限定せずに、は種後であっても、産地が実需者に販売する野菜の価格、数量、規格(品質)について、一定の約束をした取引全てを契約取引とした。
この契約取引には口頭による契約や生産者と実需者との直接契約のみならず、JA 全農、流通業者、商社等の仲介者が存在するものも含まれる。
表1―1 農林水産省による契約取引の定義
契約取引とは、生産者(農家)と事業所との間で取引する農産物の、価格、数量、規格
(品質)について、原則として農産物のは種前に一定の契約(約束)に基づいた取引における仕入れ。事業所が農家、生産法人等と直接契約したものの他に経済連、商社等が仲介して農家、生産法人等と契約したものも含める。
資料:農林水産省統計情報部「食品製造業における農産物需要実態調査報告書」平成 12 年
(2)実需者の仕入行動における契約取引の位置
量販店における野菜の主な仕入先は卸売市場であるが、取引形態では予約相対を含む契約的な取引が増えており、規模が大きくなる程、その割合は多くなる傾向にある。他方、漬物業者の仕入先は多様であるが、数量確保が基本であるため契約取引が普及している。農産物の買い手である実需者にとって、契約取引は、必要な規格・品質のものを安定的 に仕入れることができるというメリットがあり、他方、売り手である生産者にとっても、農産物の販路の確保ができる上に価格の変動が少ないため、「安定収入が見込める」「出荷コストの削減ができる」「エンドユーザーが見えて生産者の励みになる」等のメリットがあ
ることから、売り手・買い手双方での契約取引に対するニーズは高いと考えられる。
中小業者 100
図1-1 量販店の規模別仕入状況のイメージ
大規模業者
契約取引
卸売市場
予約相対取引など
仕入割合
JA全農
0
注:今回の契約取引の範疇は灰色の箇所である。
(3)契約取引の方法とその内容
①契約取引の方法
契約取引は「口頭契約」と「文書契約」とに分類できる。契約関係が長期に渡っている場合や顔の見える地元生産者との取引では、口頭による契約が普及している。
最近の調査によると、契約取引の増加に伴い、加工業者を中心に「文書契約」による取引が増えてきている(図1-2参照)。取引先別にみると、スーパー・生協等量販店とは契約文書を作成するケースは比較的少なく約4割に止まっているのに対し、漬物業者との契約取引では約6割が契約書を取り交わしている。
図1-2 契約取引における「文書契約」の有無
全体
48.9%
量販店
42.9%
漬物業者
57.1%
0%
20%
40%
60%
80%
100%
ない
ある
42.9%
57.1%
51.1%
資料:(社)食品需給研究センター調査(平成 15 年 1 月実施、以下同じ)
なお、この調査は、(社)食品需給研究センターが農協等を対象に品目別の契約取引
事例についてアンケート調査を行ったものであり、47 事例についてまとめたものである。
②仲介者の有無
契約取引には、産地と実需者が直接契約を結ぶ場合と両者の間に仲介者(コーディネーター)が入る場合とがある。
契約取引は、生産者にとっては収入の安定に繋がるものの、契約事務に時間や手間がかかることや天候異変時の数量確保などのデメリットも多いことから、需給調整等のリスクを避けるため、仲介者を介して取引を行うことが多い(図1-3参照)。取引先別にみると、量販店との取引では8割が仲介者を介しているのに対し、漬物業者では少なく3割強となっている。
仲介機能を果たす業種には、農協・JA 全農等の生産者団体、卸売市場の卸売業者・仲卸業者(以下「市場業者」という。)、流通業者、商社等があるが、量販店との契約取引の場合は市場業者が仲介者となるケースが比較的多い。
図1-3 仲介者の有無
全体
63.8%
量販店
80.0%
漬物業者
35.7%
0%
20%
40%
60%
80%
100%
64.3%
20.0%
36.2%
あり なし
③契約取引の類型
資料:(社)食品需給研究センター調査
契約取引は、「面積契約」と「数量契約」に区分することができる。「面積契約」では、どれだけ収穫量が多くても、全量を買い手である実需者、仲介者が引き取らなければならない。「数量契約」は、購入数量を規定しているものである。数量の確定は、契約締結時から出荷前までに行われる。
アンケート調査によると、現行では「数量契約」の方が多い(図1-4参照)。数量契約における出荷数量の確定は、「契約時」又は「前週発注時」に決まることが多い。取引先別にみると、漬物業者では面積契約が多く6割近くに達しているが、量販店では面積契約は少なく(3割強)、数量契約の方が多い。その場合、数量は、「前週発注時」に確定することが比較的多いようである(図1-5参照)。
なお、量販店と面積契約を行う品目としては、たまねぎ、xxキャベツ等があげられる。
表1-2 契約取引の類型とその特徴
区 分 | 契 約 x x |
・ほ場、栽培地、栽培方法等を特定し、原則として収穫された全ての野菜を購入する。 ・実需者側が技術指導等を行う。 | |
数量契約 | ・ほ場、栽培地、栽培方法等を特定する場合としない場合があるが、一定の数量のみを購入する。 ・実需者が技術指導等を行う事もある。 |
図1-4 契約方法
全体
31.9%
量販店
35.7%
漬物業者
57.1%
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
数量契約
42.9%
64.3%
68.1%
資料:(社)食品需給研究センター調査
図1-5 契約数量の決定方法
35.7%
漬物業者量販店 全体
28.6% 28.6%
34.0%
23.4%
14.3%
10.6%
7.1%
7.1%
4.3%
0.0%
0.0%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
価格決定時
前週発注時
前日発注時
契約時
資料:(社)食品需給研究センター調査
④契約価格の決定方式
契約価格は契約者双方の合意で決まる。長期的には契約価格の水準は需給関係によって変動すると考えられるが、価格を決定する基準を何にするかによって表1-3のように大きく3つのタイプに分けられる。
表1-3 契約取引における価格決定方式
価格決定基準 | x x |
市場価格重視 | 卸売市場価格を基準に契約価格を設定する。契約期間中、価格は変動する。 |
生産コスト重視 | 再生産可能な水準に契約価格を決定する。用途が限定される漬物用(広島菜、xx菜、赤かぶ等)にみられる。 |
契約先の希望価格重視 | 契約相手先の希望価格を重視する。数量契約タイプで多い。 |
これらの契約価格の決定方式は、契約取引の内容に合わせて採用されているが、近年、 実需者側の希望価格を重視して価格を決定することが主流になりつつあるものと思われる。取引先別にみると、量販店との取引では卸売市場価格を基準に契約価格を決めるケースが 多く、漬物業者との取引ではユーザーの希望価格や野菜の生産コストを考慮して決められ ることが多い(図1-6参照)。
図1-6 契約価格の決め方(重視するもの)
80%
75.0%
70%
60%
50.0%
50%
42.9%
42.6%
40%
35.7%
37.5%
29.8%
30%
20%
17.0%
14.3%
12.5%
10.6%
10%
7.1%
0%
市場価格
生産コスト
希望価格
その他
漬物業者量販店 全体
資料:(社)食品需給研究センター調査
以上のアンケート結果から、産地―主として農協―が行っている契約取引には、取引相手先により違いがあることがわかる。量販店及び漬物業者との契約取引の特徴を整理すると次のとおりである。
◆ 量販店との契約取引の特徴
・量販店との契約取引では、契約文書を作成することは比較的少ない。
・量販店との契約取引では、仲介者(コーディネーター)を介することが多い。
・市場業者が仲介者(コーディネーター)になることが多い。
・「数量契約」が多く、契約数量は「前週発注時」に確定されることが多い。
・契約価格は「市場価格」を基準に設定される場合が多い。値決め期間は他の業種と比べると週間値決めなどの割合が高く、比較的短い期間で変動する。
◆ 漬物業者との契約取引の特徴
・漬物業者との契約取引では、契約文書を作成することが多い。
・漬物業者との契約取引では、農協がユーザーと直接契約することが多い。
・「面積契約」が多いが、「数量契約」も増えつつある。
・契約価格は漬物業者の希望価格と野菜の生産コストを考慮して決定され、契約期間中の価格は固定している。
次章では、実需者側からみた契約取引の実態を整理する。
Ⅱ 野菜の契約取引の実態
1.量販店における契約取引の実態
(1)量販店における品目別にみた契約取引の傾向
○差別化の効果が高い品目
差別化しやすい品目、仕入先によって明確に品質差がある品目
(トマト、かぼちゃ、スイートコーン)
○調達しやすい品目
年間を通じて品質・数量にばらつきがないもの
(いも類など)
聞き取り調査から量販店における品目別にみた契約取引の傾向を整理すると以下のとおりである。
量販店が契約取引に取り組む際の考え方は大まかに2つある。
第 1 は「味・鮮度」など品質差によって店頭での消費者の評価が極端に分かれ、また仕入ルートをかえることにより品質差が見られるものである。つまり、契約取引を行うこと
=流通チャネルを変更することで明確に「効果」があらわれるものである。品目としてはトマト、かぼちゃ、スイートコーンなどがあげられる。特に最近では従来品との差別化が明確な朝どりのスイートコーンなどが増えている。
第 2 は年間を通じて品質・数量にばらつきがないものである。これは契約取引を行う上でコントロールしやすいもので、品目としてはいも類などがあげられる。
今回調査対象として扱うトマトは量販店における契約取引の代表品目であり、仕入に占める契約取引の割合が高い品目のひとつである。以上から考えると、トマトは量販店の契約取引にとって差別化の視点からみると効果は高いが、仕入のコントロールという視点からみると扱いにくい品目であるといえる。このことは量販店の契約取引におけるトマトの特徴のひとつであり、仲介者を介在させて契約的な取引を行う要因ともなっている。
(2)仲介者を通した契約取引の位置付け
量販店における契約取引は、①商品差別化、②中間経費削減などの面から取り組まれ、スーパー産直、生協産直などの形態で行われてきた。しかし、実際に直接取引を行うには卸売市場が担っていた流通機能を、産地側もしくは量販店側で肩代わりする必要があるため、仲介者を介する事例が増えるなど、その形態も多様化している。
また、卸売市場では予約相対取引など事前に売り先を決めた取引や直接実需者に出荷される商物分離などの形態が増加しており、卸売市場流通でも契約的な取引が多くなっている。
図2-1 仲介者を介した契約取引を取り巻く状況
契約的取引(市場外取引)クローズ
直接取引
(1対1)
差別化品
中間的な取引の増加
レギュラー品
コーディネーターの活躍の場
(予約相対的取引の増加)
通常仕入れ
市場取引オープン
(3)量販店における契約取引の特徴
ここでは、量販店における契約取引の代表例であるトマトの調査結果を中心に、契約取引の特徴をまとめた。
1)量販店における契約取引の基本的特徴
<量販店における契約取引のポイント>
①基本的に契約取引される野菜は差別化品(味などの点で高品質、高糖度、特別栽培など)である場合が多い。
②契約文書を取り交わすことは比較的少ない。
③契約内容については、価格はある程度長期に固定されるものもあるが、数量については週単位で発注する場合が多い。
④量販店の契約取引では仲介者を介した取引が主流であると考えられる。
⑤仲介者を通すかどうかについては、個々の契約取引の規模が影響しており、規模が大きくなるに従って、仲介者を介した取引が多くなる傾向がある。
量販店が契約取引を行う上で重視するのは「味・鮮度」であり、その追求の中で量販店は特定産地と取引を行っている。契約取引されるトマトは他産地と比べ差別化が明確である場合がほとんどで、その時期の産地の中では高糖度であることなどが条件となっている場合や、特別栽培農産物などの「こだわり農産物」である場合などがある。
契約文書を取り交わす場合は基本契約のみで、特に数量・価格などの個別の内容については、合意書、商談書、取引確認書のような形で処理される場合が多い。
価格については、値決め期間(シーズン値決め・月間値決め・週値決めなど)に相違がみられるが、取引期間中はある程度固定的である。一般的に市場を通した予約相対的な契約取引では週間など値決め期間が短いものが多く、産地との直接取引などはシーズン・月間など値決め期間が長いものが多い。また、取引によっては量販店・流通業者間と流通業者・産地間の値決め期間に相違がみられるものもある。
一方、数量については事前に計画数量などの提示はあっても最終的な数量の確定は週単位に発注するなど流動的な内容が多くなっている。今回の調査においても全量買取しているケースは稀であった。
量販店の契約取引の多くは、仲介者を通して行われるものが多いと考えられる(主に市場業者、JA 全農など)。量販店の契約取引において仲介者を通すかどうかは、その取引の規模が影響している。これは、小規模な生産者グループまたは個人生産者との取引など規模が小さい場合は、量販店と直接取引をする場合があるが、ある程度取扱規模が大きくなると、取引に伴う調整機能が必要となるため、仲介者を介した取引が多くなるからである。これは、量販店の規模からみても同様の傾向で、規模が小さい場合、取り組む契約取引 自体が小規模なため直接取引を行うケースもあるが、企業規模が大きくなるに従い、取扱数量やアイテム数が増加し、仲介者を通した取引に変わる場合が多い。しかし、自社内に調整機能を取り込めるほど規模が大きい量販店になると、産地との直接取引を行うケースが増える傾向がある。調査においても、取扱数量が増え、また複数の産地と契約取引を行うことで JA 全農を介した契約取引へ移行した食品スーパーの事例や複数産地との契約取
引を子会社を通して行っている大手総合スーパーの事例などがみられた。
図2-2 量販店規模別にみた契約取引のイメージ
量販店(小規模) | 産地 (小規模産地) | |
量販店(中規模) | 流通業者 | 産地 | ||
量販店(大規模) | 子会社など | 産地 | |
注:図の取引関係は固定的なものではなく、規模の大きな量販店の場合、いくつも併用した形で行われている。
以上、量販店の契約取引の基本的な特徴についてまとめたが、量販店の契約取引においては、仲介者を経由したものが中心であるため、以下では、流通段階別の特徴について量販店と流通業者間、流通業者と産地間の二つに分けてまとめた。
2)量販店と流通業者間
<量販店と流通業者間の契約取引のポイント>
①売買契約書を取り交わすことはあっても、数量・価格などの個別の契約内容については、注文書などで処理される場合が多い。
②取引期間中の調整事項はすべて流通業者を窓口として行われる。
③パッキングなど荷姿調製は流通業者が行う場合が多い。
④配送機能は流通業者が担う場合が多い。
⑤作柄不良などで欠品が生じた場合は、必要に応じて他産地のもので代替するなど流通業者が対処している。
量販店が商取引を行う際、基本的に売買契約書を取り交わすが、野菜の取引の場合、個々の品目・条件などについて、文書で契約を取り交わすことは少ない。多くの場合、個別契約については注文書と請書のやり取りなどがそれに代わるものとなっている。
契約取引の仕組ができあがると、量販店側と産地側の接点はほとんどなく、日々の取引での調整事項(価格・数量の調整、クレームなど)は流通業者を通じて行われる。
規格については、産地段階ではバラや簡素化された規格である場合もあるが、量販店の店頭段階での形態は厳密に設定されているので、流通業者がパッキングなど最終的な調製を行い納品している場合が多い。
図2-3 契約取引における文書契約の状況
市場業者
産地
JA全農
量販店
(文書契約の状況)
・「売買契約書」を結ぶ場合もある。
・数量・価格など個別内容について
、契約文書にすることは少ない。
(文書契約の状況)
・契約書自体が基本的にない。
(従来の「系統共販」「市場出荷」の枠の中で運用される場合が多い)
3)流通業者と産地間
<流通業者と産地間の契約取引のポイント>
①流通業者が市場業者または JA 全農などの場合、従来の市場流通または委託出荷の枠内で運用されるため、流通業者と産地間で契約文書を作成することは基本的にない。
②仲介者が JA 全農などの場合、産地側の価格変動リスクをヘッジする場合もある。
③契約取引の場合、コンテナ流通が比較的普及している。その費用は産地側又は流通業者の負担となる場合が多い。
JA 全農や市場業者などが仲介者となった場合、流通業者と産地間の取引は従来の系統共販や市場出荷の枠内で運用されるケースが多く、契約文書などは基本的にない。実質的な契約内容(数量・価格)などについては、商談書のような形式で合意内容(栽培方法・数量・価格・期間・荷姿・規格など)を作成する場合もある。
また、JA 全農が仲介者の場合、量販店との値決め期間(週間値決め、市場変動)より産地の値決め期間が長く、その変動幅も一定である場合があり、JA 全農などの仲介者が介在することで産地側の価格変動リスクをヘッジしていると考えられる。
近年、容器包装リサイクル法の施行に伴う、ごみ処理費用の増加を懸念する量販店側が荷姿をコンテナに指定するケースも出てきている。その際の費用は産地側または流通業者の負担となる場合が多い。
2.漬物業者における契約取引の実態
(1)大手漬物業者における契約取引の位置付け
大手漬物業者では原料の安定的な確保(量、品質、価格)が最重要事項であり、現在、漬物原料の大半を契約取引で調達している。このように漬物業者にとって原料野菜の契約取引は重要な要素となっている。
漬物業者が製造する漬物のうち、生鮮野菜を原料とするのは浅漬である。
わが国の浅漬生産量は消費者の減塩・健康ニーズを反映して、はくさい漬を中心に昭和 50~60 年代を通じて増加してきたが、平成 3 年の 33 万トンをピークに横這いから微減へと転じている(表2-1参照)。キムチが急速に伸びてきたためであるが、このような中で浅漬の製品は多様化している。
漬物業者では、日配品である浅漬製品を販売先であるスーパーやコンビニエンスストアに周年供給する必要から、原料野菜の調達も季節を問わず周年化している。
表2-1 漬物生産量の推移 (単位:トン)
年 次 | 漬物合計 | うち主要品目 | 伸び率 | |||
塩 漬 | 浅 漬 | たくあん | キムチ | 浅 漬 昭 60=100 | ||
昭和 50 年 | 856,018 | 92,784 | 166,138 | 200,468 | 26,487 | 85.3 |
60 年 | 1,043,706 | 129,625 | 194,711 | 254,404 | 46,636 | 100.0 |
平成2年 | 1,180,166 | 179,355 | 320,476 | 213,371 | 83,474 | 164.6 |
10 年 | 1,113,275 | 186,742 | 260, 871 | 104,331 | 180,147 | 134.0 |
13 年 | 1,185,842 | 168,047 | 218,307 | 93,164 | 351,100 | 112.1 |
資料:(社)食品需給研究センター「食料需給予測調査分析事業報告書(食品製造業編)」平成 13 年度
経済産業省「工業統計表」によれば、わが国の漬物業者は平成 13 年、1,697 事業所ある
が、平均従業員数は 22.5 人で、中小零細企業が多い。今回、聞き取り調査を行った2社はいずれも業界最大手の企業である。
(2)大手漬物業者における契約取引の特徴
1)大手漬物業者における契約取引の基本的特徴
<漬物業者の契約取引のポイント>
①契約取引は、漬物業者にとって原料の安定的な確保のための重要な要素である。
②漬物業者の取引単位は量販店等に比べかなり大きい。
③浅漬原料となる野菜には一定の条件がある(作型、サイズ、規格、価格、品質)
④漬物業者は契約取引で数量・価格などの項目を含んだ「売買契約書」を取り交わすことが多い。
⑤漬物業者と産地との契約取引は安定性が極めて高く、契約関係が継続することが多い。
⑥産地側が需給調整機能に係るリスクを負担するか否かは、個別企業の原料調達方針に
左右される。
漬物製品は、「本漬」と「浅漬」に区分される。本漬には昔から親しまれてきた、たくあん漬、らっきょうやしょうがの酢漬、塩漬、醤油漬などがあり、漬物業者では一旦下漬けした原料を使用している。本漬は原料段階(一次加工)で保存が可能であるため、原料は海外からの輸入に依存している。これに対し浅漬は製造過程で加熱殺菌を施さないチルド商品であり、原料野菜の品質や鮮度が直接製品に反映されるため、生鮮野菜を原料としている。
浅漬には、主にだいこん、はくさい、なす、きゅうり等が使用されているが、一般に取引単位が大きいのが特徴である。また、漬物業者においては原料の安定的な確保が何よりも重要な要素となっているため、原料野菜の6~8割を契約取引(契約栽培を含む。)で調達している。
契約取引の内容では、原料の安定的な確保、工場の稼働率等の面から、数量、価格、配送計画が明確に示されることが多く、欠品に対しては硬直的で許容範囲が狭い。しかし、一旦産地側と契約関係が成立すると、双方に支障のない限り継続することが多い。
契約取引に係る野菜の需給調整は、自社の調達ルートの中で行う企業と、仲介者である流通業者が行う企業がある。
漬物業者が産地(農協・生産者)と行う契約取引には様々なパターンがあると思われ
るが、以下では、今回の聞き取り調査で得られた内容を整理して示す。ここで取り上げるのは、①市場業者を介した大手漬物業者と産地間の契約取引、②流通業者を介した大手漬物業者と産地間の取引である。
2)大手漬物業者と産地間
<漬物業者と産地間の契約取引のポイント>
①漬物業者と産地間との契約取引には、卸売市場を経由する場合と産地と直接取引をする場合とがある。
②卸売市場を経由する場合は、既存の市場流通の枠内で運用されるため、契約取引に係る「契約文書」は作成しない。
③産地と直接契約取引を行う場合は、「契約文書」を取り交わすことが多い。
④産地から漬物業者の指定工場への配送機能は主として産地側が受け持つ。
⑤漬物業者は作付前に配送計画について直接、産地に指示する。
⑥取引価格は、作付けを指示した時期から出荷前日までの間に、産地側と協議して決定する。取引期間中は一定価格が多い。
⑦産地の作柄変動に伴う需給調整機能は、その内容に応じて漬物業者側が行う場合もあれば、産地側が行う場合もある。
⑧規格や品質が不足した場合のリスクは、主として産地側が負担する。
漬物業者と産地間の契約取引には、卸売市場を経由する場合と産地と直接契約取引を行う場合がある。
漬物業者が産地と直接契約取引を行う場合は、「売買契約書」や「合意書」が作成されている。「売買契約書」には、品目、契約期間、価格、数量、数量不足や品質不良時の処理方法、代金決済方法、取引に関する守秘義務等が記載されている。更に契約継続について『双方に問題がない場合は継続契約とする』という条項を盛り込むケースもある。一方、「合意書」のみを取り交わすこともあるが、必要に応じて「基本契約書」を作成する場合もある。
具体的な契約数量、価格、配送方法については、契約時に決まることが多い。露地ものの場合は、作付前に配送(出荷)計画が産地側に FAX で提示される。取引価格は取引数量、相場などを考慮して産地側と協議の上、出荷前日までに決定される。価
格水準は加工原料であるため通常、市況より安く設定される。配送機能や運賃は産地側が持つことが多く、また、コンテナの使用を義務づける漬物業者も多い。
3)流通業者と産地間
<流通業者と産地間の契約取引のポイント>
①流通業者が産地と契約取引を行う場合、古くから付き合いのある産地とは口頭による契約が多いが、新興産地では「契約文書」を作成する。
②契約方法には「面積契約」と「数量契約」があり、どちらを採用するかは作物の種類等により異なる。
③「面積契約」においては、流通業者がは種時期等を生産者に指導する場合が多い。
④「数量契約」では、品種、数量、規格(品質、サイズ、等級)、価格、納入場所等を取り決める。
⑤代金決済については、個々の農家に直接支払う場合と農協を決済の窓口にする場合が
あり、どちらを選択するかは主として産地側の理由による。
原料加工業者や農業生産法人等の流通業者を介した漬物業者と産地との取引についてみると、流通業者と漬物業者間は口頭契約で行われるケースが多いようである。また、新規に取引を結ぶ場合は、漬物業者・流通業者間で「基本契約」を結ぶことはあっても、契約関係が継続すると、口頭で契約を更新していくケースが見られる。
流通業者と産地間では、古くからつき合いのある生産者とは「契約文書」を交わすことはまれだが、新興産地との間では「売買契約書」や「合意書」を作成している。「合意書」の内容はそれぞれ異なるが、栽培方法、栽培管理記録の記載、数量・作柄等の情報提供義務等の基本的な対処方法について定められている。
契約方法には「面積契約」と「数量契約」があるが、だいこんやはくさい等の露地栽培では「面積契約」を採用することが多い。これは生産者に対する再生産コストの保証という側面もあるが、他方、製品差別化の難しい浅漬を、原料野菜の差別化(特別栽培農産物など)で図ろうとする漬物業者側の商品戦略とも密接に関連している。
他方、「数量契約」では自社の規格・品質に合った野菜を必要な量だけ仕入れることができる。「数量契約」の内容をきゅうりの例で示すと次のとおりである。
契約内容は、作型(加温、無加温、露地栽培)、出荷数量、価格、期間、担保及び決済条
件、引渡し場所、品質・規格等である。このうち品質・規格についてみると、A 品の M サイズで曲がり 1.5 ㎝以内、一本の重さ 97~117g、果長 19~25 ㎝、「肩おち、尻太り、傷害がないもの」等となっている(「売買契約に関する取決事項」)。
流通業者は漬物業者と産地の間にあって、需給調整機能を担っているケースが多い。生産者とは面積契約であっても、漬物業者とは口頭で行うことが多い。この場合、契約数量はあくまでも予定数量である。漬物業者側は原料調達のリスクを避けるため、浅漬製品の売れ行きを見ながら、次週の数量を発注するからである。
Ⅲ 契約取引事例の概要
1.量販店における契約取引事例 -トマト-
(1)事例 1 食品スーパーにおける JA 全農を介した契約取引事例
(食品スーパーA 社 - JA 全農 - 埼玉 B 農協)
○小売業者:食品スーパーA 社 ○仲介者:JA 全農集配センター1 ○産地:埼玉 B 農協 ○契約内容 ・特別栽培トマト(減農薬減化学肥料) ・価格:事前決定、シーズン値決め ・数量:事前計画、決定は前週末、週単位 | ・契約文書:食品スーパーと JA 全農間では、売買契約書はあるが、数量・価格など個別契約についての文書はない。 ○仲介者の性格・役割 ①複数の契約産地間での数量調整、②パッキング等加工対応、③代金決済機能など |
量販店における契約取引の場合、企業規模の拡大に伴う、①アイテム数の増加、②取扱数量の増加などの理由から仲介者を介した取引に変わる場合が多い。事例 1 では食品スーパーにおける JA 全農を介した取引の事例についてまとめた(表3-1参照)。
1)取引当事者の概要
①小売業者(A 社)
関東を中心に 60 店舗前後を展開する食品スーパーで、青果物仕入の約3割は市場外から仕入れている。
A 社でのトマトの仕入は「差別化品(味で売るもの)」「レギュラー品(一般的な主産地品)」の二つに分かれており、「差別化品」を中心に市場外から契約取引によって仕入れている。契約取引では年間で5産地を回転させており、5産地のうち3産地は JA 全農を、
1産地は産地流通業者を介しており、1産地とは直接取引している。
現在の取引産地は、A 社自身が産地開発を行ったもの、流通業者からの紹介、産地から
1 量販店調査事例での JA 全農は特にことわりがない限り、以下 JA 全農集配センターを指す。
の売り込みなど、その経緯は多様である。
A 社は近年、順調に業績を拡大させてきた食品スーパーである。事業規模が拡大するに伴い、契約取引の形態も変化してきている。
表3-1 A 社における契約取引トマトの産地構成
・熊本 C 農協(12~4 月)
・長崎 農協(2~6 月)
・埼玉 B 農協(3~6 月)
・北海道 生産者グループ(7~9 月)
・栃木 大規模生産者 (3~6 月)
産地流通業者仲介
JA 全農仲介 JA 全農仲介 JA 全農仲介直接取引
(事例 2)
(事例 1)
②産地(埼玉 B 農協)
県北部に位置する総合農協で、当該市町村はトマト産地としては県内上位に入る。県外他産地と比べるとトマトの産地規模としては必ずしも大きくないが、マルハナ蜂を使った自然交配や減農薬減化学肥料栽培を行っており、東京都中央卸売市場の卸売業者からも高い評価を得ている産地である。
A 社とはトマト以外にも取引があり、スイートコーン・ブロッコリーなどについては直接取引を行っている。
③仲介者( JA 全農)
JA 全農では東京近郊と大阪に物流施設を3箇所設置している。事例1は、このうち平成 14 年冬に移転新設された東京生鮮食品集配センターを介して取引されているものである。物流施設はコールドチェーン対応となっており、また夜間も加工パッキングが行える体制となっている。JA 全農の集配センターは単なる物流施設ではなく、大口需要者などへの販売担当部門も兼ねている。取引は全て相対取引で行われている。
2)取引経緯
A 社とB農協との取引開始は 10 年ほど前からで当初は直接取引であった。A 社が差別化品のトマト産地を近郊で探したのがきっかけである。取扱規模が増加する中で、他産地も含めた数量調整を行う必要が生じたため、5 年前から JA 全農を仲介した取引へ移行し
た。
3)契約内容
①文書の有無
A 社と JA 全農との間では売買契約は結ばれているが、数量・価格などの個別の契約については注文書と注文請書の交換が契約書に代わるものとなっている。基本的に担当者レベルでの協議事項となっている。
②数量
数量については、週単位で発注が行われている。事前に前年比などを参考に計画数量を提示するが、最終的に前週末に確定される。
③価格
価格はシーズン値決めで事前に決定されるが、市況などの状況に応じて月単位で修正する場合もある。
④決済
A 社- JA 全農間は 15 日締め月末払い、月末締め 15 日払いの月2回である。
4)仲介者の役割・機能
この取引で JA 全農が果たす役割は主に①複数の契約産地間での数量調整、②パッキング等加工対応、③代金決済機能などであり、特に A 社からは夜間の加工対応への評価が高い。
図3-1 事例1 契約取引概要
商流
商流
埼玉B農協
JA全農 集配センター
食品スーパー
(A社)
産地
物流
物流施設
物流
産地
(取引内容)
・数量 (1週間単位)
計画数量を事前提示、数量の確定は前週末
・価格 (シーズン単位)
シーズン値決め
(2)事例2 食品スーパーにおける産地流通業者を介した契約取引事例
(食品スーパーA 社 - 産地流通業者 D 社 - 熊本 C 農協)
○小売業者:食品スーパーA 社 ○仲介者:産地流通業者 D 社 ○産地:熊本 C 農協 ○契約内容 ・特別栽培トマト(減農薬減化学肥料) ・価格:事前決定、シーズン値決め ・数量:事前計画、決定は前週末、週単位 | ・契約文書:A 社と D 社の間では、売買契約書はあるが、数量・価格など個別契約についての文書はない。 ○仲介者の性格・役割 ①産地の紹介、②端境期的な仕入調達、③パッキング等加工対応、④代金決済機能、⑤他地域での仲介者(産地流通業者)の紹介など |
量販店は周年供給のために時期によっては遠隔地の特定産地品を扱う必要があるが、そのような場合、産地流通業者を通して契約取引を行う場合も多い。事例2では食品スーパーにおける産地流通業者を介した取引の事例についてまとめた(前掲表3-1参照)。
1)取引当事者の概要
①小売業者(A 社)
小売業者は事例 1 と同じである。A 社でも、冬春トマトの差別化品を仕入れるために、産地流通業者を介した取引を行っている。
②産地(熊本 C 農協)
熊本県中部に位置し、いぐさ、トマト、なす、メロン等の産地となっている。かつてはいぐさの大産地であったが、中国からの輸入増加で生産は後退し、現在では野菜中心の産地に転換した。特に冬春トマトでは全国有数の大産地へと成長している。
③仲介者(D 社)
D 社は熊本県の産地流通業者で、A 社の仕入代行業者として機能しており、当該産地のトマトの品質、荷姿、配送などについて納品までの全過程の責任を負っている。
D 社は県内農産物を首都圏などの複数の量販店などに販売しており、産地側の販売代行業者としての性格も強い。トマトの需給調整についても複数の販売先を組み合わせること
で調整している。
2)取引経緯
A 社が冬春トマト産地(九州地方)を探していたところ、D 社からC農協を紹介された。
3)契約内容
①契約文書の有無
A 社と D 社との間では売買契約は結ばれているが、数量・価格などの個別の契約内容については注文書と注文請書の交換が契約書に代わるものとなっている。契約は単年度契約である。
②数量
数量については、週単位に発注を行う。事前に前年比などを参考に計画数量を提示するが、最終的に前週末に確定される。
③価格
A 社-D 社間の価格はシーズン値決めであるが、市況などの状況に応じて月単位で修正する場合もある。D 社-C 農協間の取引は D 社独自の仕切りとなっており、必ずしも A社-D 社間の価格と一致しない。
④決済
A 社-D 社間は 15 日締め月末払い、月末締め 15 日払いの月2回である。
4)仲介者の役割・機能
この取引で D 社が果たす役割は主に①数量調整、②パッキング等加工対応、③代金決済機能、④物流機能などである。A 社が D 社を評価する理由としては、荷姿簡素化、経費削減などをあげている。
また、A 社では東北地方で D 社と同様の仲介者を探しているが、単独では難しいため、
D 社からの紹介によって探している。
図3-2 事例2 契約取引概要
熊本C農協
商流 産地流通業者 商流
D社
物流 物流施設 物流
食品スーパー
(A社)
仕切りは産地流通業者独自
(取引内容)
・数量 (1週間単位)
計画数量を事前提示、数量の確定は前週末。
・価格 (シーズン単位)
シーズン値決め
(3)事例3 生協における JA 全農を介した契約取引事例
(E 生協 - JA 全農 - 提携産地・主産地)
○小売業者:E 生協 ○仲介者:JA 全農集配センター ○産地:提携産地など ○契約内容 ・特別栽培トマト(減農薬減化学肥料) ・価格:事前決定、シーズン値決め ・数量:事前決定(提携産地) | ・契約文書:E 生協と産地間では、売買契約書はあるが、数量・価格など個別契約についての文書はない。 ○仲介者の性格・役割 ①複数の契約産地間での数量調整、②パッキング等加工対応、③代金決済機能、④過剰時の提携産地品の販売先確保など |
野菜の市場外流通(契約取引)の割合が少なかった頃は、「生協産直」など消費者団体と生産者の任意組合による直接取引が契約取引の代表例であった。しかし、これら小規模に始まった直接取引は生協など消費者団体の大規模化に伴い変化してきている。事例 3 では生協における JA 全農を介した取引の事例についてまとめた。
1)取引当事者の概要
①小売業者(E 生協)
首都圏を中心とした地域生協の連合会である。食料の国内自給をスローガンとして掲げており、運動論を基本とした取引を行っている。販売形態としては共同購入形態が中心である。
表3-2 E 生協のトマトの産地構成
・提携産地(首都圏近郊産地)
15 産地 15 グループ(小規模生産者グループ)
・主産地
関東近県の農協など
・補完産地
全国主産地など
(提携度 大)
(提携度 小)
②産地
トマトに限らず青果物の仕入は基本的に提携産地との契約取引によって行っている。仕入産地は提携関係の程度により3つに分類され、この中で契約取引を行っているのは、提携産地と主産地である。
「提携産地」は生協との関係が最も深い生産者グループによって形成されており、トマトの場合、首都圏近郊に 15 グループある。いずれも小規模な生産者グループで、5~6 人多くても 10 人程度で、一人当たりの作付面積も約 15 a 程度である。
「主産地」は継続して取引を行っているトマト主産地であり、主に関東近県の農協などである。
「補完産地」は提携産地、主産地で数量がまかなえない場合、需給調整としてスポット的に利用する産地である。
E 生協ではこれらの取引を、JA 全農を介して行っている。
③仲介者( JA 全農)
JA 全農の東京生鮮食品集配センターを通して行われている。E 生協の担当者が JA 全農の集配センターに常駐しており、共同事業として日常の取引を行っている。JA 全農はそれぞれの取引から手数料を得て収入としている。
2)取引経緯
E 生協と JA 全農との本格的な取引開始は 10 年ほど前からで、当初は協同組合間提携の一環として進められた。3 年ほど前から共同事業化され、青果物の仕入は基本的に JA 全農を介して行われている。
3)契約内容
①文書の有無
生協と産地との間では基本的な売買契約は結ばれているが、数量・価格などについての契約文書はない。提携産地とは半年毎(シーズン前)に「作付会議」を行い、その時の会議資料が文書代わりとなっている。
②数量
数量については、「提携産地」は基本的に全量取引であり、計画数量どおり取引されてい
る。「主産地」は前年比などを参考に計画数量を事前に取り決めているが、最終的な数量確定は週単位で前週末に決定されている。必要量(共同購入量)とのギャップは提携程度が小さい産地から調整していく仕組になっている。不作時における欠品に対してのペナルティはなく、不足分については「補完産地」などからスポット的に仕入れている。
③価格
価格はシーズン値決めであり、事前に決定される。「提携産地」「主産地」ともに同様である。
4)仲介者の役割・機能
この取引で JA 全農が果たす役割は主に①複数の契約産地間での数量調整、②パッキング等加工対応、③代金決済機能などであるが、生協としては仲介者に対して仕入の数量調整機能に加えて、過剰時の提携産地の販売先確保を期待している。
図3-3 事例3 契約取引概要
「提携産地」
商流
JA全農 集配センター
商流
物流
物流
「主産地」
物流施設
(提携産地 取引内容)
・数量 (シーズン単位)
基本的に計画数量に準拠
・価格 (シーズン単位)
シーズン値決め
(主産地 取引内容)
・数量 (1週間単位)
計画数量を事前提示、数量の確定は前週末
・価格 (シーズン単位)
シーズン値決め
E生協
(4)事例4 大手総合スーパーにおける JA 全農を介した契約取引事例
(大手総合スーパーF 社 - JA 全農 - 北海道 G 農協)
○小売業者:大手総合スーパーF 社 ○仲介者:JA 全農集配センター ○産地:北海道 G 農協 ○契約内容 ・特別栽培トマト(減農薬減化学肥料) ・価格:週間値決め(F 社- JA 全農) ・数量:事前計画、決定は前週末、週単位 | ・契約文書:F 社と JA 全農間では、売買契約書はあるが、数量・価格など個別契約についての文書はない。 ○仲介者の性格・役割 ①産地の紹介、②取引業務における数量・価格調整、③パッキング等加工対応、④代金決済機能など |
量販店は価格変動のリスクを避けるため、契約取引においても値決め期間などが他の業種と比べ短い場合が多いが、仲介者が間に入ることによって、産地にとって価格変動リスクが軽減される場合もある。事例4では大手総合スーパーにおける JA 全農を介した取引の事例についてまとめた。
1)取引当事者の概要
①小売業者(F 社)
関東を中心に全国に展開する大手総合スーパーで、自社ブランドを立ち上げており、生鮮品についても減農薬減化学肥料の基準を設けて取り組んでいる。夏場のトマトは熟度の関係で北海道産を仕入れている。
②産地(北海道 G 農協)
道央に位置する総合農協で、当該市町村はトマト産地としては県内上位に入る。以前は林業と米作中心の地域であったが、昭和 47 年に夏秋トマトのハウス栽培を始め、平成 7
年に販売額 10 億円を超え、現在では約 20 億円の販売実績がある。夏秋トマトの産地として急成長したのは、道外への出荷が本格化した平成 3~4 年以降であり、現在では関西の卸売市場を中心に出荷を行っている。市場での取引はほとんど予約相対取引で、量販店を中心に出荷されている。
③仲介者( JA 全農)
JA 全農の東京生鮮食品集配センターを通して行われており、北海道 G 農協の夏トマトは全農集配センターで加工パッキングされ、F 社の集配センターに納品されている。
2)取引経緯
F 社と北海道 G 農協との取引開始は平成 11 年からで、F 社が夏トマトの産地を探す過程で JA 全農が G 農協を紹介したのがはじまりである。当初は F 社のブランドが掲げる特別栽培の基準を満たす 15 戸の農家を対象に行っていた。現在では全てのトマト栽培農家
160 戸が基準を満たしており、管内全体が対象となっている。栽培基準の認証については道が定める特別栽培農産物の認証制度(北海道クリーン農業認証)があり、それによっている。
3)契約内容
①文書の有無
F 社と JA 全農との間では売買契約は結ばれているが、数量・価格など個別の契約内容については日々の受発注がそれに代わるものとなっている。基本的に担当者レベルでの協議事項となっている。
②数量
数量については、週単位で前週末に発注を行う。G 農協から事前に出荷計画量を提示し、それを基に JA 全農と量販店の間で予定数量を決定する。最終的な数量が決定されるのは前週末である。不作などによって出荷数量が満たない場合も産地側にペナルティはない。市場出荷に近い取り決めとなっている。
③価格
価格については、F 社と JA 全農の間と JA 全農と G 農協間では値決め期間などが異なっている。F 社と JA 全農の間では週単位で決定されており、市場価格を参考に修正されている。JA 全農と G 農協の間では、シーズン前に3段階の基準価格を決められ、F 社と JA 全農の価格に応じて、数週間~1ヶ月単位で変動させている。
産地側からみれば、市場価格とのバッファー機能を JA 全農が担っているといえる。
④決済
F 社- JA 全農間は 15 日締め月末払い、月末締め 15 日払いの月2回である。
4)仲介者の役割・機能
この取引で JA 全農が果たしている役割は主に、①産地の紹介、②取引業務における数量・価格調整、③パッキング等加工対応、④代金決済機能などであり、特に価格調整では市場価格とのバッファー機能として大きな役割を担っている。
図3-4 事例4 契約取引概要
北海道 G農協
商流 JA全農 商流
集配センター
物流 物流
物流施設
大手総合
スーパー(F社)
(取引内容)
・数量 (1週間単位)
出荷予定量を事前提示、出荷数量の確定は前週末
・価格 (数週間単位)
基本的に固定的、3段階の基準価格があり、数週間単位で見直している。
(取引内容)
・数量 (1週間単位)
計画数量を事前提示、数量の確定は前週末
・価格 (1週間単位)
週間値決め、市況基準
(5)事例5 大手総合スーパーにおける子会社を介した契約取引事例
(大手総合スーパーH 社 - I 社(H 社仕入子会社) - 全国主産地)
○小売業者:大手総合スーパーH 社 ○仲介者:I 社(H 社仕入子会社) ○産地:全国主産地など ○契約内容 ・基本的に特別栽培トマト、高糖度トマト ・価格:週間値決め、市況基準 ・数量:事前計画、決定は前週末、週単位 | ・契約文書:基本的に契約文書はない。数量・価格など個別契約についても文書はない。 ○仲介者の性格・役割 ①複数の契約産地間での数量調整、②パッキング等加工対応、③代金決済機能など |
大規模量販店の場合、自社内に調整機能をおけるほどの規模になると、産地との直接取引が増える傾向がある。事例5では大手総合スーパーにおける子会社を介した取引の事例についてまとめた。
1)取引当事者(H 社、I 社)の概要
H 社は首都圏を中心に全国に展開する大手総合スーパーで、仕入部門として 100%子会社の I 社を抱えている。
I 社は青果物を中心に取り扱っており、H 社での青果物の 50~60%を納めている。特別栽培農産物などの取扱いが多く、差別化品・こだわり品の仕入部門として位置付けられている。
・北海道 任意組合
・福島 農協(6~10 月)
・福島 農協(7~10 月)
I 社直接
I 社直接 経済連仲介
表3-3 I社における契約取引トマトの産地構成
・熊本 | 農協(12~4 月) | 産地商人仲介 |
・長崎 | 農協(2~6 月) | I 社直接 |
・栃木 | 任意組合(2~6 月) | I 社直接 |
I 社を通じたトマトの取引は年間6産地あり、基本的に産地と I 社との直接取引である。一部の産地は経済連や産地流通業者を通じて取引しているが、取引の仕組作りや商品提案などは I 社主導で行われている。I 社は取引産地の基準として「味・鮮度」を重視しており、具体的には糖度が6度以上であることを条件としている。
2)契約内容
①文書の有無
産地と I 社との間では、個別の契約内容について「取引確認書」を取り交わしている。
「取引確認書」には期間、計画数量、栽培面積、品種、規格、味(糖度基準)、鮮度管理条件、安全性、物流条件、不作時の対応など細かい規定が設けられている。
②数量
数量については週単位で前週末に発注を行う。事前に計画数量を産地との間で決定するが、最終的には前週末に確定される。
③価格
価格についても週間値決めで、前週の市況を基準に決定される。
数量、価格ともに基準(計画数量、基準価格)の上下 20%までなら、その時々の状況に応じて産地側の交渉に応じることになっている。また、不作などによる欠品については事前に連絡があれば、特に産地側へのペナルティは設けていない。
④その他
荷姿はどの産地についても 12 kg のコンテナに統一され、定められた物流条件(輸送温度、湿度など)に従って、I 社の物流センターに出荷される。最終的な荷姿調製は I 社の物流センターで行われており、店頭での売れ行き応じて、こまめに荷姿を修正している。
3)仲介者の役割・機能
この取引で I 社が果たす役割は主に①複数の契約産地間での数量調整、②パッキング等加工対応、③代金決済機能などである。
図3-5 事例5 契約取引概要
産地
商流
産地
物流
物流施設
産地
大手総合
スーパー(H社)
I 社
(取引内容)
・数量 (1週間単位)
計画数量を事前提示、数量の確定は前週末
・価格 (1週間単位)
週間値決め、市況基準
2.漬物業者における契約取引事例 ―はくさい・だいこん・きゅうりー
(1)J 社の事例
1)J 社の概要
神奈川県にある J 社は、関東を中心に全国展開している漬物業者の大手である。たくあん漬等の本漬原料が海外にシフトする中で、加熱殺菌をしない浅漬の原料は国産原料を使用している。
J 社が製造している浅漬も、消費期限が day+2と惣菜品並にシェルフライフが短いのが特徴である。J 社の浅漬には次のような種類があり、アイテム数はかなり多い。
・はくさい 白菜漬(ホール、半割、刻み等)
・だいこん 一夜漬(ホール、半分、カット等)
・きゅうり ぬか漬、一夜漬(ホール、カット等)
J 社では浅漬原料の7~8割を契約取引で調達しており、残りは卸売市場仕入となっている。浅漬原料は基本的に生食用と同じ品質のもので、原料及び製品ともストックが効かないので、周年多頻度調達となる。そのため、季節により調達先産地が移動している。
今回の対象品目であるはくさいの産地についてみると、以下のとおりである。( )内は仕入先である。
春 茨城(農協・経済連、生産者)夏 長野(農協)
秋 茨城(農協・経済連、生産者)冬 鹿児島、長崎(産地流通業者)
①契約取引の相手
J 社の契約の相手先は、農協・経済連、市場業者、流通業者、生産者など様々である。
・生産者とはつき合いが長く、20 年以上に渡って取引を行っているケースが多い。会社と生産者との間には信頼関係、顔の見える関係が培われており、全て口頭(電話)で済ますことができるため、特別に契約文書を取り交わすことはしていない。
・農協との直接取引では契約文書を交わしているが、卸売市場を介して農協と取引する場合は、農協との間に契約文書は作成していない。
②契約取引について
漬物業者の原料調達で最も重要なことは、量・品質・価格の安定性である。契約内容はこれらの必要条件に基づいて決められるが、具体的には、①原料名、②売買期間、③発注数量、④価格・品質(規格)、⑤決済条件、⑥クレームの処理があげられる。
契約価格は一定価格が多いが、相手先により変わる場合もある。基本的には相場と生産
(仕入)量を勘案して価格を決定する。代金決済は月2回となっている。
また、国内の原料価格が上昇した場合は、外国産で代替することもある。しかし、外国産(主として中国、韓国、ベトナム等の東南アジア)はチルドコンテナを使用し、くん蒸、輸送時間等を加味すると、出荷から工場まで 7 日~10 日かかり、品質低下などによるリスクが大きい。J 社では「国内原料の仕入価格の上昇幅を押さえることができれば、国産に越したことはない」としている。
品質の悪い場合は返品することもある。はくさいの例では、正確には品質の問題ではないが、生理障害である“ゴマ”が消費者に嫌われるため、毎年数回、代替品を請求するという。
2)市場業者・JA 全農県本部を介した J 社と農協の契約取引 ―はくさい―
はくさいは浅漬の主原料であるため、先述のように J 社自ら全国の産地を組織化し、周年供給体制を確立しているが、以下では、夏場のはくさいの供給地である長野の K 農協との取引事例を紹介する。仲介者は卸売市場及び JA 全農県本部(以下、「全農県本部」という。)で、契約生産者には漬物工場等で発生する野菜残さで作ったコンポストを提供している。
①産地概要(K 農協)
K 農協は高原野菜の産地である。1町4村の農協が合併した広域農協であり、組合員数は約 4,800 人、うち正組合員数 1,200 人(正組合員比率 39%)となっている。
K 農協の年間販売金額はおよそ 200 億円で、量的に多いのがレタスとはくさいであり、この2品目で年間 1500 万ケースを販売している。出荷先は卸売市場が中心で、全国の中央卸売市場及び地方卸売市場へ出荷している。市場出荷のうち約3割が量販店や加工業者との契約取引である。また、量的には極めて少ないものの、農協が直接実需者に販売する、いわゆる直販事業も行っている。農協直販の取引先は中小の加工業者、卸売業者、スーパー・生協等の大手量販店などである。J 社に対しては夏場の浅漬用原料はくさいを供給し
ている。
②取引の経緯
K 農協と J 社との取引は 1995 年(平成 7 年)から始まった。7年程前、東京都中央卸売市場に駐在する全農県本部の東京事務所に卸売業者が J 社の原料調達担当者を伴って来た。全農県本部の担当者が2人の話を聞いて産地に繋いだのが契約取引の始まりである。 J 社の仕入は計画的で、シーズン前に毎日の出荷計画が提示されるので、計画的な作付 けができる。当初からコンテナ出荷を望んでいたので、産地でコンテナを扱っている生産
者を探し、その生産者が所属する農協(K 農協)を紹介した。
③契約内容
K 農協は現在、J 社グループ6社との取引があるが、本社工場との取引に限ってみると、次のとおりである。
(対象品目)夏はくさい 規格:L サイズ
(売買期間) 7 月 1 日~10 月 19 日
(文書の有無)
・数量契約であるが、卸売市場経由であるため、特に契約文書は取り交わしていない。
・契約取引は市場業者・全農県本部を介して行われている。したがって、商流は市場経由で、物流は直送という、卸売市場側からみれば、商物分離取引ということになる。
(数量)
・取引数量については、毎年4月に J 社から FAX で農協に配送計画表が送られてくる。農協はそれに従い、作付を契約生産者(7戸)に指示する。
(価格)
・販売単価は、作付け直前の 4 月から出荷前日(6 月末)までに決める。価格は毎年一定価格で、前年の金額、生産費、数量、漬物業者の希望価格などを参考に、全農県本部と協議して決定する。単価は工場着で決められ、運賃は J 社が負担する。
(決済)
・卸売市場経由で行われる。
(配送)
・配送頻度は最盛期の8月~9月は毎日出荷、それ以外は1日置き(週3回)に出荷している。
・1回当たり 600 ケース(15Kg 入りコンテナ)を出荷するが、1回につき3戸で対応し
ている。したがって、生産者は1日置きに収穫・出荷作業を行っていることになる。農協から工場へは 10 トン車で直送される。
(リスクの負担)
・はくさいのサイズは L サイズであるが、不足した場合は L が M になることがある。
・欠品は毎年数件発生する。消費者が嫌うゴマ、べと病では産地側が責任を持って代替品を提供する。
図3-6 市場業者・JA 全農県本部を介した J 社と農協の契約取引 ―はくさいー
代金決済
農協
生産者
卸売市場
クレーム処理
JA全農県本部
漬物業者 J社
クレーム
数量(FAX)出荷
交流
④契約取引に関する産地の意向
K 農協としては、生産量の3割まで契約取引に対応することができる。それ以上になると、数量・品質・規格の確保が難しくなる。
卸売市場は代金回収が容易で信用できるので、売り先としては安全である。一方、農協直販事業で行う場合は販売先毎に契約を結ばなければならないので、契約書の作成や信用調査に手間がかかる。
J 社との契約取引には農協が購入したコンテナを使用している。はくさいは6個入りで、縦詰めと横詰めがあるが、J 社の場合は縦詰めである。市場流通で使用している段ボール箱はごみの問題(ステーブル)があるので、将来はコンテナへ移行する方向である。経済性からみても、コンテナ出荷は物流コスト削減に有利である。
⑤JA 全農県本部の仲介者としての役割
卸売市場を介した契約取引において、仲介者として全農県本部が果たしている主な役割は、産地の紹介とクレームの処理である。J 社の場合は取引単位も大きく、かつ条件が明確であったため、産地を紹介する際の問題はほとんど生じていない。
通常、産地を紹介する条件としては、①規格(品質)、②1日の数量、③価格、④配送面の4項目がある。このうち配送面では、「産地から実需者へ直送するのか」「実需者が産地
へ取りに来るのか」「卸売市場で引き渡すのか」で条件が違ってくる。全農県本部では取引単位が 100 ケース以上であれば実需者へ直送している。
契約取引が成立した後の仲介者の役割としては、①代替産地を探すこと、②クレームの処理をすること、の2点をあげている。通常クレームは、卸売市場(卸売業者)を経由して、全農県本部へ上がってくる。全農県本部は産地(K 農協)へ報告するが、農協からは現場に行くことができないので、仲介者である全農県本部が現品の確認を行う。卸売業者が行って現品を確認することもある。
なお、商流(代金決済)は市場経由で行われている。
3)流通業者を介した J 社と生産者間の契約取引 ―だいこんー
J 社の浅漬用の原料だいこんは青首だいこんである。冬~春は地元の生産者から調達し、夏場は東北・北海道、秋冬は関東と全国の産地をリレーすることによって周年供給体制を整えている。取引相手先も生産者、農協、流通業者、市場業者と多様である。ここでは、流通業者 L 社を介した J 社と産地の取引事例を紹介する。
①流通業者 L 社の概要
L 社は埼玉県に拠点を置くだいこんの下漬業者であるが、浅漬用の原料だいこんも取り扱っている。昭和 60 年代以降、青首だいこんが浅漬用原料となっている。漬物業者 J 社とは平成7年より取引を開始し、9~10 月の原料不足時に供給している。
L 社は昭和 41 年より東北で本漬用のだいこん栽培を開始し、同業者へ供給してきた。産地は青森の生産者グループで、昭和 45 年頃までは直接取引を行っていたが、それ以降行政の依頼で地元の農協が間に入ったため、代金の支払い窓口を農協にしたという経緯がある。当初は生産者 27 戸でスタートしたが、現在は生産者の高齢化により 17 戸に減少して、作付面積も 130ha から 70ha へと減少している。
②J 社と流通業者 L 社の取引
J 社と流通業者 L 社とは口頭契約であり、契約文書は取り交わしていない。
③流通業者 L 社と生産者間の契約内容
・L 社と産地・生産者間は面積契約であるが、契約文書は取り交わしていない。
・生産者が収穫しただいこんは全量引き取るが、栽培面積はは種期の5~6月に決定する。生産者別の品種別作付面積の確認は5月末に農協より FAX が入る。
・価格は、青首だいこんの場合は1本当たり単価で、J 社へ納入するものは泥を落として、
葉付(葉を数㎝残してカット)のものである。なお、本漬用だいこんは Kg 当たりの単価で泥つきの状態で仕入れている。価格は産地に立地する L 社の工場持ち込みの値段である。
・取引価格については、収穫終了後の生産者との反省会で次年度の価格を生産者に示す。
・品種はあらかじめ指定する。はじめは種子を生産者に提供したが、今は生産者自ら購入している。また、早生、晩生等品種の振り分けは、原料在庫の状況を見ながら L 社が直接生産者へ指示する。
・生産者への代金支払いは品種の区切りに行っている。昨年までは、生産者に所得を保障するため、前金も支払っていた。(10a当たり 2 万円で、生産者は種子の購入費に充てていた。)
図3-7 流通業者 L 社と生産者間の契約取引 ―だいこんー
数量(5~6月に決定)
出荷(9~10月)
代金決済
生産者
グループ
農協
流通業者 L社
漬物業者 J社
注文
④流通業者 L 社の仲介者としての役割
・漬物業者のニーズを受けて、品種作型別の作付面積を決定する。
・生産者に対し、作付面積の配分、品種の選定、作付時期等の栽培指導を行う。
・生産者が再生産できる価格で全量を買い取る。
・需給調整にかかるリスクと価格リスクを自ら負い、生産者のリスクを軽減する。
・流通業者のリスク回避には、産地及び漬物業者双方からの情報収集力と分析力が必要となるが、実際には人的資質(商人の勘)によるところが大きい。
4)流通業者を介した J 社と農協間の契約取引 ―きゅうりー
J 社では、神奈川、茨城、埼玉、四国、九州等からきゅうりをリレー調達している。仕入先は農協や古くからつき合いのある産地流通業者等である。以前、国内価格が高騰した時には韓国からハウス栽培のきゅうりを輸入したこともあるが、輸入ものは安価な反面、
輸入に伴うリスクもあり、現在は国産原料に限定している。輸入原料は輸送に 1 週間から
10 日かかるため鮮度保持が難しいというのがその理由である。
以下では、J 社が流通業者 L 社を介して埼玉の農協から調達しているきゅうりの取引事例を取り上げる。
①産地概要(M 農協)
流通業者 L 社がきゅうりの取引を行っているのは埼玉県北部に位置する M 農協である。 M 農協管内はネギをはじめ、多品目の野菜栽培が盛んな地域であり、きゅうりやチューリップでは市町村別生産量で、全国1、2位を誇っている。J 社と契約取引を行っているのは、M 農協のきゅうり部会である。
②契約内容
(文書の有無)
流通業者 L 社と M 農協(きゅうり部会)とは「数量契約」であり、契約書を取り交わしている。契約書は、品種、数量、品質基準、規格、価格、納期、容器、荷渡し条件、保証金、不可抗力に対する免責、契約の解除等で構成されている。
(数量)
契約数量については、取引期間である2ヶ月間のおおよその日量、荷姿を示しているが、日々の出荷量は納品の1週間位前に確定する。荷姿は通常の市場出荷と同じ平型ダンボール(5Kg)である。コンテナ出荷にすれば流通コストの削減にはなるが、J 社は市場出荷品と同じ品質のものを要求するので、荷姿も同じにしているということである。
(価格)
価格は週間値決め方式で、市場価格を基準にその都度両者が協議の上、価格を決定する。消費税及び JA 手数料込みの価格が契約価格となる。契約価格は通常、市場価格より 10%ほど安く設定されるが、漬物原料としての上限は1ケース当たり 1600 円(320 円/Kg)という。なお、産地から J 社の工場までの運賃は流通業者L社が負担する。
(決済)
週単位で決済が行われ、流通業者L社は出荷最終日(火曜日)から2日後に M 農協の指定口座に振り込む。
③流通業者 L 社の仲介者としての役割
L 社が果たす役割は、数量調整、配送機能、代金決済機能等である。L 社は J 社を含め複数の漬物業者と取引をしている。市場向け出荷のうち約2割を契約取引に回してもらっ
ているため契約数量も日々変動する。他方、漬物業者側の必要量も変化するので、その両者の間で数量を調整するのが仲介者の役割となっている。なお、図3-8に L 社の平成 13年の秋きゅうりの販売先別取扱実績を示したが、週単位で取扱量が変化しているのが分かる。なお、販売先企業(4 社)は漬物業者である。
図3-8 L 社の秋きゅうり販売先別取扱実績
ケース
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
第1週第2週第3週第4週第5週第6週
第7週
その他
d社
c社
b社
a社
注 1:販売期間は平成 13 年 10 月~11 月である。 注 2:販売先企業(a 社~d 社)は漬物業者である。
(2)N 社の事例
1)N 社の概要
埼玉県にある N 社は、関東圏を中心に全国展開している量販店、コンビニ、外食産業向 けの浅漬を専門に製造している漬物業者である。本社工場のほかに4つの直営工場がある。 N 社の製品は浅漬が主体であることから、国内からの原料調達を基本にしている。当初、
その原料は卸売市場から調達していたが、原料の安定供給、すなわち、①数量の安定的確保、②価格の安定、③品質の確保、④原料の鮮度などの点から、契約取引による調達方式を採用している。
原料構成は、はくさいが約5割で最も多く、次いできゅうりが3割、かぶ・だいこん・なすで約2割となっているが、原料のおよそ7割を契約取引に依存している。はくさいについては全量契約取引により調達している。
2)産地流通業者を介した N 社と生産者間の契約取引 ―はくさいー
①産地流通業者 O 組合の概況
N 社とはくさいの契約取引を行っているのは、茨城県の農業生産法人 O 組合であり、N社が直接生産者と取引することはない。O 組合は生産法人という企業形態をとってはいるが、実質的にははくさい栽培を中心とする農業経営者を北関東・甲信地方を中心に組織化した会社組織であり、法人直営のほ場も所有している。
農業資材の仕入や栽培・出荷方法などを組合が一括管理することで生産コストを大幅に引き下げ、かつ、そのネットワークが広範囲であることから漬物業者を中心に量販店等に周年供給している。
周年供給に当たっては、肥料会社と提携して生産者の土壌分析を行い、それぞれの土地にあった栽培指導、土づくりを進め、N 社との共同開発による堆肥によって環境対策や土壌の品質管理も実施している。
②はくさいの契約取引の概要
O 組合の N 社との取引は 15 年程前からで、漬物業者に紹介されたことが契機となっている。
当初は N 社と O 組合間で基本契約を結んでいたが、取引が継続的しているため、現在は書面で契約文書を取り交わすことはない。
契約内容は、品種・規格(A・B 級品、長さ・重量など)の指定、年間取引数量、価格、通い箱の使用、輸送にまで及んでいる。
(数量)
N 社との契約は数量契約であるが、N 社は大まかに年間取引数量や年間出荷計画を提示するものの、その計画を何回かに分けて修正している。2~3カ月に1回予想数量を提示し、最終的には直近の金曜日に次週の数量を発注する(週間発注)。そのため取引数量は N社の漬物の売れ行きにより大きく変動する。例えば、平均的な出荷量が 1500 ~1700cs とすると、多い時は 2500 ~3000cs、少ない時は通常の3分の1にまで減少する。
(価格)
価格は月間値決めであり、市場価格を参考にして決定する。
(栽培方法)
はくさいについては、O 組合を介して生産者に減農薬減化学肥料栽培を要求し、N 社が指定するコンポストの使用を義務付けている。
(決済)
N 社からの代金の支払いは 15 日、25 日締めの月2回で、1ヶ月後、すなわち翌月の 15
日と 25 日に支払われる。
③産地流通業者 O 組合と生産者間の契約内容
O 組合と契約生産者とは面積契約であり、O 組合とは個々の生産者と以下のような内容を含む『取引合意書』を結んでいる。
合意書の内容(骨子)
⚫ 堆肥、肥料、種子を支給し、その量は土壌分析の結果で判断する。
⚫ 試作用の資材等は O 組合が供給する。
⚫ 生産者は畑の栽培管理記録を提出する。
⚫ 容器代(O 組合から支給)、運賃は生産者が負担する。
⚫ 不作の場合は、協議の上、再生産のために可能な限り補償する。一方、販売不振により生産過剰で廃棄の必要がある場合は、協議の上、補償する。
図3-9 産地流通業者 O 組合を介した N 社と生産者間の契約取引 -はくさい-
契約生産者
O組合
不足分は市場で調達
卸売市場
漬物業者 N社
契約量の80%を面積契約 暫定契約
以上のように、O 組合と契約生産者間は面積契約(全量取引)なので、豊作時のリスクを O 組合が負うことになる。O 組合では生産過剰時のリスクを回避するため、生産者との契約は、必要量(漬物業者との暫定的な契約数量)の約8割に止め、不足する場合は卸売市場から購入して契約先に供給している。
また、漬物業者へ供給する数量の最終決定は出荷直前に行われるので、漬物の売れ行きが好調だと市場仕入で補填するため損をする場合がある。同じ価格条件で大量に要求されるので、O 組合側がリスクを負担せざるをえない。
④O 組合の仲介者としての役割
O 組合は実需者である漬物業者と生産者の間の需給調整を行うとともに栽培指導も行っている。
Ⅳ 契約取引をめぐるコーディネート機能
1.契約取引におけるコーディネート機能
契約取引におけるコーディネート機能とは、量販店や外食、漬物業者等実需者が求める供給条件に適合した産地や生産者を選定し、契約関係が成り立つための基本的な取引条件
(品目、規格、価格、数量、売買期間等)に基づいて産地や生産者と交渉を行うとともに、物流・商流両面から生産者と実需者を結びつける機能と考えられる。さらに契約成立後においては、契約取引が円滑に継続するような諸機能、具体的には表4-1に示すような、
「需給調整機能」「物流配送機能」「加工パッキング機能」「代金決済機能」「情報提供機能」が考えられる。
特に、量販店においては、店頭で販売される商品においしさのみならず安全・安心を訴求することが商品戦略上、重要になってきているため、売場からほ場までのトレーサビリティシステムに対する関心が急速に高まっている。そのため、量販店との契約取引においては、単なる産地情報ではなく、生産者や農薬の使用実績や栽培履歴の開示が求められている。
他方、漬物業者においても原料野菜の品質を保証することにより、リードタイムの短い浅漬製品の差別化を図る傾向が強まっている。そのため、漬物の生産管理に、原料野菜の履歴を付加し、一括で管理するトレーサビリティシステムを構築する企業も登場している。
表4-1 コーディネート機能
産地紹介・ネットワーク | 需給調整機能 | 物流配送機能 | 加工・パッキング機能 | 代金決済機能 | 産地履歴等の情報提供 | ||
量 販店 | 量販店段階 | △ | ○ | ||||
流通段階 | ◎ | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | ○ | |
産地段階 | △ | ○ | ◎ | ||||
漬物業 者 | 漬物業者 段階 | ○ | ○ | ― | ○ | ||
流通段階 | ○ | ○ | ― | ◎ | |||
産地段階 | ◎ | ― | ○ |
-45-
量販店 | 流通業者 | 産地 | 機能主体 | 生産体制の整備 | 作付調整 | 出荷調整 | 紹介・仕組み | 需給調整 | 加工 パッキング | 代金決済 | 物流配送 産地履歴機能 など情報 |
調査事例 計 | 量販店段階 | △ | ○ | ||||||||
流通段階 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ ○ | ||||||
産地段階 | ◎ | ◎ | ◎ | △ | ○ ◎ | ||||||
A食品スーパー | JA全農 | 埼玉B農協 | 量販店段階 | △ | ○ | ||||||
流通段階 | ○ | ○ | ○ | ○ ○ | |||||||
産地段階 | ○ | ○ | ○ | △ | ○ ○ | ||||||
A食品スーパー | 産地 流通業者 D | 熊本C農協 | 量販店段階 | ○ | |||||||
流通段階 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ ○ | ||||||
産地段階 | ○ | ○ | ○ | ○ ○ | |||||||
E生協 | JA全農 | 任意組合等 | 量販店段階 | △ | ○ | ||||||
流通段階 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ ○ | ||||||
産地段階 | ○ | ○ | ○ | △ | ○ ○ | ||||||
大手総合スーパーF社 | JA全農 | 北海道 G農協 | 量販店段階 | ○ | |||||||
流通段階 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ ○ | ||||||
産地段階 | ○ | ○ | ○ | ○ ○ | |||||||
大手総合スーパーH社 | 仕入子会社 I社 | 農協 | 量販店段階 | ○ | |||||||
流通段階 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ ○ | ||||||
産地段階 | ○ | ○ | ○ | ○ |
2.コーディネート機能の担い手
コーディネート機能は、その機能に強弱はあるものの産地から実需者までの各段階で分担されているとも考えられるが、事例調査から判断するとその主な機能は流通段階に集中している。
産地・生産者と量販店・漬物業者等の実需者との取引を結びつける主体、コーディネーター(仲介者)としては、卸売市場の「卸売業者」や「仲卸業者」、「JA 全農集配センター」、
「市場外の流通業者」、「商社」等があげられる。
今回の調査結果によると、量販店では、「仲卸業者」「JA 全農集配センター」などが、コーディネーターとして中心的な役割を果たしている。これらのコーディネーターは、量販店が必要とする商品の数量調整を行うだけでなく、量販店側の要望により、コンシューマーパックへの袋詰め作業(加工・パッキング機能)やスーパー各店舗への配送(配送機能)なども実施している。
一方、漬物業者の場合は、「生産者団体」「卸売業者」「市場外の流通業者」などがあげられるが、漬物業者が仲介者に求める機能は量販店のそれとはかなり違いがある。大きな相違は、漬物業者では加工・パッキング機能や配送機能をほとんど必要としない点である。また、数量調整機能については、各漬物業者の原料調達戦略により違いがあり、コーディネーターである流通業者にその需給調整機能を求める企業と、卸売市場を活用することによって自社で需給調整を行う企業がある。
表4-3、4は調査結果から得られたコーディネーター(仲介者)の具体的な機能をまとめたものである。
表4-3 量販店に対するコーディネーター(仲介者)の具体的な機能
契約取引開始前 | ・ 量販店・生協等及び産地の情報を集約する。 ・ 量販店等と取引可能な産地の紹介や取引の仕組作りを行う。 |
契約取引成立後 | ・ 年間を通しての産地間調整、特に出荷時期が重なった場合の数量調整を行う。また、不足時には同等品の調達を行う。 ・ 量販店のニーズに合わせ加工パッキングを行う。 ・ 量販店等の指示に従い、物流センターまたは各店への商品の配送を行う。 ・ 量販店と産地間の代金決済を行う。 ・ 量販店等の希望に応じて産地の生産履歴などの情報を掌握する。 |
表4-4 漬物業者に対するコーディネーター(仲介者)の具体的な機能
契約取引開始前 | ・ 漬物業者及び産地の情報を集約する。 ・ 漬物業者のニーズ(数量、価格、規格、輸送形態)に見合う産地・生産者を紹介する。 |
契約取引成立後 | ・ 漬物業者と生産者間の需給調整を行う。具体的には不作により数量が不足した場合は同様な規格・品質のものを責任を持って調達し漬物業者へ供給する。 ・ 漬物の販売不振で、生産が過剰となった場合、生産者に廃棄を依頼し、その際に生じた損失分を補償する。 ・ 産地で作柄変動が生じた場合、代替産地を探し、漬物業者への安定供給を実現する。 ・ 納入品にクレームが生じた場合、工場等現場に出向いて現品を確認した上で、産地に連絡し代替品の輸送を指示する等クレームの処理に当たる。 ・ 漬物業者からの入金が遅れた場合は、生産者へ自社の責任で代 払いをするなどの代金決済業務を行う。 |
(参考)量販店・漬物業者向けの契約取引を行うための産地・生産者向けマニュアル
これは、今回の実態調査を行う過程で入手した情報を基にして、量販店・漬物業者向けの契約取引を行う際の留意点等をマニュアルとして取りまとめたものである。
1.量販店との契約取引のために
(1)量販店の契約取引での仕入行動
①味・鮮度の要求が強い
量販店側が契約取引に求めるのは価格要求もさることながら、品質面での差別化である。品目などによっても濃淡があるが、量販店が契約取引を行う上で最も重視するのは
「味・鮮度」であり、特別栽培農産物などの「こだわり農産物」であっても条件を満たす必要がある。また、加工向けと異なり、店頭での外見もある程度整える必要がある。
②数量は週単位で前週末決め、価格はシーズン値決めなどもありやや固定的である
漬物業者、外食業者との契約取引と比べると、数量の期間や値決めが比較的短い契約内容が多い。特に数量については、週単位に前週末に決定する場合が殆どで、他の業種との契約でみられる全量買取などはあまりみられない。価格については、値決め期間(シーズン値決め・月間値決め・週間値決め)に相違がみられるが、数量と比較するとある程度固定的であり、他の業種と比べると週間値決めなど短期的な内容が多い。
③加工パッキングを流通段階・産地段階に委託する傾向がある
従来量販店はバックヤードなどでパッキングを行っていたが、人件費などコスト削減の必要性から、積極的に流通段階や産地段階へ加工パッキング作業を要請する傾向がある。産地段階ではバラや簡素化された規格であっても、量販店の店頭段階での形態は厳密に
設定されるので、流通業者がパッキングなど最終的な調製を行い納品している場合が多い。
④コンテナでの納品を求める場合もある
近年、容器包装リサイクル法の施行に伴う、ごみ処理費用の増加を懸念する量販店側が荷姿をコンテナに指定するケースも出てきている。その際の費用は産地または流通業者の負担となる場合が多い。
⑤安全性の確保から生産履歴などの情報を要求する
食品の偽装表示などが問題となるなか、量販店でもその関心は高く、生産履歴などを産地または流通業者に要求することが多くなっている。
(2)産地・生産者が量販店と契約取引を行う上での留意点
○「味・鮮度」に対する要求に応じた農法・品種の選定が必要となる
契約取引の場合、何らかの差別化商品(特別栽培・高糖度など)であることが多いが、特に味に対する差別化要求は大きい。無農薬の農産物であってもおいしくなければ量販店には受け入れられない場合がある。特別栽培農産物など食品の安全面を重視した差別化も、味など消費者ニーズを理解した上で進める必要がある。
また、同様の理由から取引期間中、安定した品質を要求される傾向があるため、作型調整を行う、出荷最盛期とそれ以外の時期とで品質に大きなばらつきがでない品種を導入するなどの対応が必要となる。
○契約取引を継続して行うためには、契約内容の遵守が必要となる
量販店の契約取引ではシーズン値決めなど価格が固定的な場合もあるが、この場合、市場価格が高騰した時、生産者側が契約内容を違えて契約分を市場へ出荷、また価格に対して不満を持つケースもある。継続的に取引を行うためには生産者自身が契約取引のメリットを良く理解し、契約内容を遵守することが必要となる。
○契約時に台風などの天災時の取り決めについても考慮する
台風などの明らかな天災で、出荷が殆どできないこともある。このため契約内容を変更できる条項を契約書に入れて手当を行う場合もある。
○流動的な数量契約への対応を行う
量販店の契約取引では数量については週間発注など流動的な内容が多い。ここで重要なのは、確定数量などの出荷情報を早く正確に把握して量販店側に伝達することである。
○産地におけるパッキング加工への対応が求められる
パッキングなどについては中間の流通業者が担当することが多いが、直接取引の場合、産地側がパッキングを要求されることもある。販路拡大のための必要な投資と考えることもできるが、費用対効果なども考えて見極める必要がある。
○コンテナ流通へ対応する
ゴミ処理費用の軽減、物流効率の向上など量販店の事情によりコンテナが導入されることが多い。レンタルコンテナの場合には初期投資は必要ないが、保証金回収のための事務作業が必要になる。そして、品目によっては段ボール箱より経費がかかる場合もある。所有コンテナの場合はコンテナ購入のための初期投資と保管洗浄施設が必要になるが、回転率が高くロス率が低ければ長期的には包装資材費の低減が図られるなど、産地にとっての効果は大きい。
○生産履歴など情報を一元的に管理する
食の安全性が問題とされるなか、量販店段階では安全性の担保として生産履歴などの情報開示を要求する場合が多くなっている。産地側として対応するためには、生産者自ら詳細な作業内容を「農業日誌」などへ記録をすることが重要となる。また、農協ではその記入内容の確認と管理方法などの仕組作りを進めておく必要がある。
2.漬物業者との契約取引のために
(1)漬物業者の野菜調達行動の特徴
①漬物製品は多様だが、浅漬・キムチが伸びる
漬物原料として利用する野菜は、種類が多く、守口だいこん、野沢菜、広島菜、赤かぶなどの漬物専用の野菜もあるが、だいこん、はくさい、きゅうり、なす等のように生食用野菜と競合する品目もある。作られる製品も、伝統的なたくあん漬、奈良漬、みそ漬から酢漬、塩漬、浅漬、そして福神漬・キムチなどの醤油漬まで多種多様な製品がある。近年は、健康志向によりサラダ感覚で食べられる塩分濃度の低い浅漬やキムチが伸びている(図
5-1参照)。漬物用野菜の多くは、価格の安い中国、タイなど東南アジア諸国からの輸入品に変わってきているが、浅漬用の野菜は国産品である。
図5-1 浅漬・キムチの生産量
千トン
400
350
300
250
200
150
100
50
0
浅漬
キムチ
昭50 昭60 平2 平10 平13
資料:(社)食品需給研究センター
「食料需給予測調査分析事業報告書(食品製造業編)」平成 13 年度
②漬物業者は全国に展開している
漬物業者には大手企業もあるが、わが国全体でみれば中小零細企業が多く、全国各地に展開している。平成 12 年の「工業統計表(品目編)」によれば、事業所数約 51 万、1事
業所当たり出荷金額は 2.4 億円となっている(図5-2参照)。
大手漬物業者は既に取引産地(農協・生産者)を持っている場合もあるが、既存産地の後退等で新たな仕入先を必要としている場合がある。一方中小の漬物業者においても、消
費者の安全・安心ニーズに対応するため、国産原料の新たな仕入先を捜している。
図5-2 漬物業者の事業所数及び1事業所当たり出荷額(百万円)
700
600
500
400
300
200
100
0
北海道 東北 北陸
事業所数 63 247 155
出荷金額 159.3 153.9 196.5
関東・東山
609
290.2
東海
近畿 中・四国
261
238.4
282
408.4
186
156.3
九州・沖縄
307
170.5
資料:経済産業省「工業統計表(品目編)」(平成 12 年)
③契約取引による原料調達が中心である
漬物業者においては、原料野菜の安定的確保が最重要事項である。そのため、大手の漬物業者では必要量の 6~8 割を契約栽培で手当している。生鮮野菜を原料とする浅漬は、生食用野菜と同品質のもので、かつては卸売市場からの仕入が中心であったが、近年は契約取引による調達が主流になってきている。契約取引の根幹は、価格と数量であるが、漬物業者の場合は数量確保的な面が強い。
④数量・価格とも固定的である
大手漬物業者の場合、まず取引数量を決め、次に数量に応じて価格が決定される。価格は品目により市場価格スライド制を採用するものもあるが、製造原価があらかじめ設定されているため、数量・価格とも契約期間を通じて固定的である。また、製造ラインの規模にもよるが、量販店に比較して、1回の取引単位が大きいのが特徴である。
(例):はくさいの取引単位 1回に 15kg 入 600 ケースきゅうりの取引単位 1回に 5kg 入 200 ケース
なお、数量については固定的な企業が多いが、浅漬は原料、製品とも在庫ができないので、製品の売れ行きに伴う企業リスクを避けるため、出荷直前に数量を確定する企業もある。
⑤新興産地との契約取引では「売買契約書」を作成する
漬物業者との付き合いが古い産地・生産者との取引や卸売市場を介した取引では口頭による契約が多いが、新興産地との取引においては書面で契約を結ぶことが多い。契約書は
合 意 書 (例 示)
原料の売買に関し次のとおり合意する。
6. クレーム処理対策
* 両者確認の上記名し、各一通を保有する。
年 月 日
(署 名)
年 月 日
(署 名)
「売買契約書」から「合意書」に至るまで様々なタイプがある。(合意書の例示参照)
1. | 原料名 ○○○○ | |
2. | 売買期間 年 月 日~ 年 月 日 | |
3. | 規格及び価格 (等級別、価格) | |
4. | 発注数量 イ.日単位の場合 ロ.週単位の場合ハ.月単位の場合 | kg kg kg |
5. | 決済条件 |
契約内容は、品目ごと、事例ごとに異なるが、その内容は、①数量、②価格を中心として、③品質・規格、④契約期間、⑤商品の受け渡し条件、⑥代金決済方法、⑦クレームの処理方法などである。
⑥原料野菜の輸送ではコンテナが普及している
漬物原料は、通常、調製せずに直接工場に運ばれるので、量販店や外食業者向け野菜のように流通段階で加工やパッキングを行う必要がなく、配送コストの削減や環境負荷の軽減のためにコンテナ流通が普及している。
コンテナは主に産地側が用意し、野菜を配送した後、工場からの帰り便に空のコンテナを積んで回収する。
⑦ 安全・安心ニーズを反映し、国産野菜を見直す動きがある
浅漬用の生鮮野菜は近隣の東南アジア諸国からの調達も可能であるが、海外産地から漬物業者の手にわたるまでに要する時間は国産の2倍以上となり、安価である反面、輸入に伴うリスクも大きい。他方、昨今の輸入野菜の残留農薬問題を契機に、商品イメージ、安全性の面から本漬用についても国産原料に対する漬物業者の関心が高まっている。産地にとっては新たな販路を見つける好機である。
(2)産地・生産者が漬物業者と契約取引を行う上での留意点
○漬物業者の納入条件を明確に把握する
産地では仲介者となる流通業者や漬物業者の担当者と協議し、具体的な納入条件(作型、数量、価格、規格、荷姿、出荷期間、担保・決済条件等)を明確に把握することが必要である。
特に、契約取引における価格の決め方は、「生産コスト重視」から「市場価格スライド」へ、更には「契約先の希望価格重視」へと変化している。漬物業者との契約取引においても、近年では、生産コストと漬物業者の希望価格を勘案して決めることが多くなっている。産地としては、この点に充分留意して、契約取引を進める必要があろう。
○契約の方法は、きちんと決める
契約の方法には、栽培している野菜の一定面積を全量仕入れる「面積契約」と必要な数量を仕入れる「数量契約」とがある。現在、漬物業者が生産者と直接「面積契約」を結ぶことは少なくなってきており、特に、浅漬用の野菜では、「数量契約」が主である。
また、契約には口頭によるものと契約文書を作成するものがあるが、漬物業者と生産者
個人との契約においては、取引量も少なく、ほどんどが口頭によるものである。しかし、農協等生産者団体との契約においては、取引量も多いことから、契約文書が作成される。その際、代金決済を確実に行うために事前に取引先企業の信用調査を行う農協もある。
○安定供給体制を整備し、無理のない出荷計画を作る
原料野菜の取引価格は、市況に比べ低めに設定されているものの、生産者にとっては、販売価格が安定しているため、「安定した収入が得られる」、「収量が確保できれば高所得が得られる」というメリットがある。しかし、はくさいやだいこんなどは生食用と同じ品種であるため、不作等で市況が高騰した場合、抜け駆けするケースも見られる。このようなことのないように産地では生産者を選定し、無理のない出荷計画を作成することが大切である。
契約取引では、規格(品質)が決められているため、産地で生産される量の3割を契約取引の上限としている農協もある。
○契約取引以外の販路を確保する
契約取引では求める規格・品質が指定されるので、それ以外の規格の販路を確保することが必要である。
(例)きゅうりの規格:M,S サイズ、曲がり 1.5cm 以内、重量 97~117g、果長 19~25cm
○クレームが生じた場合は迅速に対応する
野菜の契約取引で発生するクレームとしては、天候異変等による①契約数量の不足、②品質不良、③規格外品の混入などがある。これらのクレームについては、売り手・買い手双方で具体的な処理方法、責任の所在を取り決めておくことが重要である。
(例)規格外品:Lサイズのはくさいが不足した時は、Mサイズで代替する品質不良:はくさいのゴマ・べと病は、代替品を提供する
ただし、「天災等不可抗力により契約の履行遅延あるいは引き渡し不能の事態が生じた場合は、その責を負わない」(契約書)とされているものもある。
○必要に応じてコーディネーター(仲介者)を活用する
産地・漬物業者間の契約取引は歴史も古く、量販店や外食業者等との契約取引のように
卸売業者や仲卸業者等の仲介者を介するケースは比較的少ない。しかし、国産野菜を原料とし、スーパーやコンビニエンスストアで販売される浅漬では、納入条件がこれまで以上に厳しくなってきている。漬物業者側は小売店頭での売れ行きを見ながら、次週の数量を発注する(週間発注)など、計画と実績値が大きく異なる事例も見られる。産地としてはこの様なリスクを避けるため、クレームの処理、需給調整機能、価格調整機能等を果たす仲介者(コーディネーター)を活用することも必要となる。
○野菜の栽培方法に関する情報を提供する
消費者の安全・安心ニーズを背景に、漬物業者によっては、野菜の栽培について土壌分析や肥料の投入量を指導する企業もあれば、産地側の栽培方法を受け入れる企業もある。栽培する野菜の安全性はもとより、取引相手先の条件を見極め、適切に対応することが必要となる。