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第 3 編「債権」
第 2 部「各種の契約」
民法(債権法)改正委員会
第 19 回 全体会議
2009.2.14
第6章 消費貸借
【前 注】
1.要物性を緩和した契約のしくみの導入
消費貸借については,現行法において要物契約として規定されているが(現行 587 条),
同時に,現行法自体も,消費貸借の予約についての規定を置いており(現行 589 条),一定の諾成的合意によって法的な関係が成立することを認めている。また,消費貸借が有償の場合もあることに照らすのであれば,少なくとも,そうした利息付の消費貸借についてはxx的合意のみによって拘束力が生ずることを認めるべきであるとの考え方も有力である。
これらの議論においては,有償・無償を区別せずに,諾成的な合意のみによって消費貸借が認めるとするのか(消費貸借の予約を手がかりとするのであれば,その点は区別されていない),有償性という観点から諾成的消費貸借を認めるのかという点については,なお見解の一致が得られているわけではないと考えられるが,少なくとも,有償の場合に諾成的消費貸借を認めることについては,ほぼ異論なく承認されているものと考えられる。
このような諾成的消費貸借を認めることは,現行法との関係でも一定の継続性が認められるというだけではなく(消費貸借の予約),現実において存在する契約関係についても,それに適合的な法律構成を可能とするものであると考えられる。
2.有償(利息付消費貸借)と無償(無利息消費貸借)に適合した規律の必要性
ただ,一方で,このような諾成的消費貸借を認めるという場合,すでに言及したとおり,どの範囲で,それを認めるのか(有償・無償を問わずに認めるのか,有償の場合に限って認めるのか),また,有償と無償で区別をするとすれば,それについての適切なルールをどのように準備するのかが問題となる。一定の情宜的な人的関係に基づいて無償でなされるような消費貸借の約束については,その拘束力についてある程度緩和する必要があるものと考えられる。
3.第三者型与信契約における特則
現在,第三者型与信契約(第三者与信型契約,第三者与信契約)と呼ばれるものには,さ
まざまな形態が含まれており,それらを消費貸借とは別の契約類型として,または,消費貸借の一部として,包括的に規定することは困難である。
しかしながら,抗弁の接続については一定の規定を用意することに実践的な意義が存するものと考えられる。その点をふまえて,以下においては,消費貸借において,そうした抗弁の接続に関する規定を置くことができないかについても検討を行うものである。
I. 消費貸借の意義と成立
1. 消費貸借の意義と成立
Ⅳ-3-1 消費貸借の意義と成立
消費貸借とは,当事者の一方(貸主)が,相手方(借主)に,金銭その他の物を引き渡す義務を負い,借主がそれを消費利用し,引渡しを受けた物と種類,品質及び数量の同じ物をもって返還する義務を負う契約である。
関連条文 民法 587 条(消費貸借)
【提案要旨】
本提案は,消費貸借における当事者の義務とともに,その成立要件を示すものである。 まず,契約の成立については,現行法と異なり,消費貸借の目的物を引き渡すことを要求
せず(要物契約の不採用),また,契約の成立についての特別の方式も採用せず,契約の成立に関する一般原則に従い,諾成的合意によって消費貸借が成立することが示される。
また,xx的合意によって消費貸借が成立することから,現行法とは異なり,貸主の義務に,金銭その他の物を引き渡す義務が含まれることになる。引渡後の当事者間の関係は,基本的に現行法と同様の法律関係となる。
なお,本提案は,利息付消費貸借,無利息消費貸借の両方に共通する規定として置かれるものである。そのうえで,利息に関する規定を,【Ⅳ-3-2】として置くとともに,無利息消費貸借について,xx的合意による契約の拘束力を緩和するためのしくみ(引渡前解除権)を,【Ⅳ-3-3】で提案している。
【解 説】
1.前提となる現在の法律状態
現民法は,消費貸借契約を要物契約として規定しているが(現民法 587 条),消費貸借の
予約に関する規定も用意されており(現民法 589 条),また,学説においては,諾成的消費
貸借の契約としての拘束力を肯定するという考え方が一般的である1。これに照らして,xx 的合意によって消費貸借契約が成立するということを認めることが適切であると考えられる。
もっとも,このように諾成的消費貸借の概念を導入するという場合,無利息消費貸借についても,同様に解してよいかどうかが問題となる。学説において諾成的消費貸借を肯定する場合の論拠としては,有償契約においては諾成的合意によって契約が成立することが原則であり,有償と無償の両方の場合が認められる消費貸借契約において,それを全面的に要物契約とすることの妥当性を問題とするという観点から説明するものもある。このような見方によれば,諾成的な合意に全面的に契約としての拘束力を認めるのは,利息付消費貸借の場合に限り,無利息消費貸借については一定の手当てをするということが考えられる。ただし,現行法は,消費貸借の予約について当該消費貸借の利息の有無は区別しておらず,また,諾成的消費貸借を認めるという議論において,それが利息付消費貸借に限ってのものであるのか否かという点についても,必ずしも,現在の状況が明確なわけではない。
2.規定の基本的な構造
消費貸借は,有償(利息付消費貸借)と無償(無利息消費貸借)の両方を含むことから,冒頭規定等をどのように規定するのかという点が問題となる。
本提案では,有償,無償のいずれの場合にも当てはまる当事者間の関係を冒頭規定として置くとともに,利息付消費貸借に固有の問題としての利息についての【Ⅳ-3-2】を用意するとともに,無利息消費貸借に関する特則としての【Ⅳ-3-3】を用意している。
これは,諾成的消費貸借において本質的なものと考えられる,金銭等を借主に交付するという貸主の義務,それを消費利用したうえで,それと同種同量の物を貸主に返還するという借主の義務は,いずれにおいても共通であり,利息付消費貸借と無利息消費貸借の 2 本立てで規定するまでの必要性はないものと考えられること,それぞれについて必要な固有の準則については,それぞれ規定することで足りるものと考えられるというのが,その理由である。
3.基本的な形式としての諾成的消費貸借
本提案は,すでに現行民法自体が,消費貸借の予約という形で,消費貸借についての一定の諾意的合意が法的拘束力を有することを承認しているとみられることに加え,判例や学説においても,一般に諾成的消費貸借が認められているということをふまえて,消費貸借が諾成的合意によって成立するという立場をとるものである。
1 判例においても,最判平成 5 年 7 月 20 日判例時報 1519 号 69 頁は,リース契約に関して,「本件契約の実質は,……元本を……としこれを上告人会社が被上告人に対して……各約定に従って返済する趣旨の金銭消費貸借契約又は諾成的金銭消費貸借契約である」として,諾成的消費貸借の概念を用いている。その他,下級審裁判例を含め,諾成的消費貸借,諾成的金銭消費貸借という用語ならびに概念を用いるものは多数にのぼる。
(1)諾成的合意による契約の拘束力の緩和
なお,諾成的合意によって消費貸借が成立するということを基本原則とするとしても,常に,そのような契約に確定的拘束力を認めることが適切かという点が問題となる。特に,無利息消費貸借についてまで,xx的合意だけで,そのような拘束力を認めることの妥当性が問題となる。
これについては,【Ⅳ-3-3】において,無利息消費貸借についての契約の拘束力の緩和を認めるしくみ(引渡前解除権)を用意することによって対応している(具体的内容については,【Ⅳ-3-3】参照)。
なお,本提案は,以上のように,xx的合意によって消費貸借が成立するという立場を採用しつつ,無利息消費貸借については,引渡前解除権を認めることで,その拘束力の緩和を図っている。
このようなしくみを採用するうえでは,さまざまなアプローチが考えられる。そこでは,以下のように,従来の要物契約の概念を維持して,本提案と実質的に共通するようなしくみを実現することも考えられる。
① 要物契約であることを維持したまま,利息付消費貸借については諾成契約とする。
② 諾成契約であることを維持したまま,無利息消費貸借については要物契約とする。
まず,①②とも,原則を逆転させただけで,基本的に同じ状況を実現するものであり,利息付消費貸借については,本提案と共通である(xx的合意によって契約が成立する)。
他方,無利息消費貸借では,①②が要物契約であるとすることによって,契約の成立時点を引渡時とするのに対して,本提案では,契約の成立時点はあくまで合意時であり,ただし,その合意の拘束力は引渡時までは確定していないというしくみだという点で違いがあることになる。
実質的に実現される状況は大きくは異ならないとも考えられるが,上記①②のようなしくみを採用した場合,無利息消費貸借であっても,諾成的合意のみによって確定的な拘束力を与えたいという場合に,どのように扱うかが問題となる。その場合には,無利息の諾成的消費貸借を認めるということになると,利息付消費貸借のみを諾成契約とし,他方で,無利息消費貸借については要物契約としたことの意味が問われることになるだろう(①であれば,要物契約の例外が認められたのが利息付消費貸借だけであるのに,当事者の合意によって無利息消費貸借についても,その例外が認められるというのは自明なのかが問題となる。他方,
②であれば,無利息消費貸借についは要物契約とするという例外が認められたのに,その例 外を当事者の合意で簡単にくつがえすことができるということが当然なのかが問題となる)。このような観点から,本提案は,利息の有無を問わず,消費貸借については諾成的合意の
みによって成立するということを原則とするとともに,無利息消費貸借については,【Ⅳ-
3-3】で,引渡前解除権を認めることで,その諾成的合意の拘束力を緩和し,その実質的妥当性を確保するというしくみを提案するものである。
(2)諾成主義を採用した場合の借主の貸す債務
なお,現行法のように,消費貸借を要物契約とする場合には,目的物が引き渡されて後,はじめて借主の返す債務が生ずるということは当然のことである。しかし,xx的合意によって消費貸借が成立するという立場を採用した場合,この点について,前提となる状況が変化することになる。
まず,諾成的消費貸借を認めて,xx的合意によって消費貸借が成立するとしても,そこでは,貸主の貸す債務(「相手方(借主)に金銭その他の物を消費利用をさせる目的で引き渡す義務」)と借主の返す債務(「引渡しを受けた物と種類,品質及び数量の同じ物をもって返還する義務」)が双務契約における双方の債務となるわけではなく,同時履行の抗弁権や(現行法上の)危険負担の対象となるものではないことはいうまでもないし,目的物の引渡しがなされなくても,消費貸借の成立によって,借主の返す債務が成立するということになると考えることが適切ではないことも当然であろう。
その点は,借主の債務が,「引渡しを受けた物と種類,品質及び数量の同じ物をもって返還する義務」として,借主の返す債務については,すでに引渡しを受けているということが前提となっていることを明らかにすることによって,両者が,双務契約としての双方の債務として位置づけられるものではなく,また,引渡しがなされない以上,返す債務はそもそも生じないということも示される(なお,こうした状況は,消費貸借が要物契約から諾成契約に変わることによって目立つが,現在においても,賃貸借については同様の状況が存在している)。
Ⅳ-3-2 利息に関する合意
利息を支払うべきことについての合意がある場合には,借主は,引渡しを受けた元本について,その利息を支払わなければならない。ただし,収益事業を行う事業者が,その事業の範囲内で消費貸借をしたときは,特段の合意がない限り,法定の利率による利息を支払わなければならない。
【提案要旨】
本提案は,消費貸借における利息についての規定を置くことを提案するものである。現行法は,貸主の担保責任を規定する中で(現民法 590 条),利息付消費貸借について言及する
にすぎないが,利息付消費貸借は,消費貸借の基本的な類型の 1 つであり,利息をめぐる法
律関係を明確にしておくことが望ましいと考えられることから,このような規定を提案するものである。
ここでは,利息についての合意がある場合に,その引渡しを受けた元本についての利息債務が生ずるということを明らかにするとともに,現行の商法 513 条に相当する規律をあわせて規定し,収益事業を行う事業者が,その事業の範囲内で消費貸借をした場合については,特段の合意がない場合でも,法定の利率による利息を支払うべき債務が生ずることを示している。なお,この場合に支払うべき利息の利率については,法定利率における提案を受けて決まることになる。
【解説】
1.利息についての合意
本提案は,消費貸借において,利息を支払うべきことについての合意がある場合には,引渡しを受けた元本について,その利息を支払わなければならないことを規定するものであり,利息付消費貸借についての利息をめぐる法律関係を規定するものである。
ここでは利息についての合意がある場合に限って,利息付消費貸借となるものであることを示すとともに(したがって,特約がない限り,無利息消費貸借であるという点では,無利息消費貸借が消費貸借のデフォルトであるということになる),具体的な利息の支払い債務が生ずるのは,金銭等の目的物の引渡しを受けてからであるということを示している。
この点では,現行法上,特に明示的な規定は置かれていないが,利息付消費貸借についての従前の一般的な理解等を変更するものではない。
2.事業者に関する特則
他方,現行の商法 513 条の内容の受け皿となるのが,【Ⅳ-3-2】のただし書きである。
同条 1 項は,「商人間において金銭の消費貸借をしたときは,貸主は,法定利息(次条の法定利率による利息をいう。以下同じ。)を請求することができる」として,商人間の消費貸借における利息請求権の規定として定められているが,そこでの実質的な内容をふまえたうえで,「収益事業を行う事業者が,その事業の範囲内で消費貸借をしたとき」として,対象を限定するとともに,【Ⅳ-3-1】および【Ⅳ-3-2】における規定の形式とそろえて,当事者の利息支払義務として規定するものである。
なお,商法 513 条では,支払うべきxxxは,同 514 条による商事法定利率であることが示されているが,ここでは,法定利率に関する提案をまって,それを受ける形で,支払うべき利率の内容を定めることを予定している。
3.利息に関する規定
これ以外には,利息自体についての特段の規定を置くことは予定していない。
利息制限法等との関係についても,「法律によって制限された範囲内で」といったことに
ついても,明示的な規定を置くことによって,何か特別の違いが生ずるわけではないと考えられるので,特に規定することは不要と考えられる(この点については,【Ⅳ-3-12】において検討している)。
2. 無利息消費貸借の拘束力の緩和
Ⅳ-3-3 無利息消費貸借の引渡前解除権
貸主が消費貸借の目的物を借主に引き渡すまでは,各当事者は消費貸借を解除することができる。ただし,消費貸借の成立が書面による場合には,この限りではない。
【提案要旨】
本提案は,無償契約である無利息消費貸借において,xx的合意のみによって契約に確定的な拘束力を与えることは,特に,貸主にとって酷となることがあり得ることを考慮して,その拘束力の緩和を図ったものである。
具体的な処理としては,目的物の引渡しまでは,各自当事者が自由に消費貸借契約を解除することができること(引渡後の解除と区別するために,ここでの解除権をさしあたり「引渡前解除権」と呼ぶ)を認めることによって,その消費貸借に関する合意の拘束力を緩和するものである。
そのうえで,消費貸借の成立が書面によってなされた場合には,この引渡前解除権が排除されることを提案するものである。
【解 説】
1.基本的な考え方-無利息消費貸借についての特則
そのうえで,無利息の場合については,そうした諾成的合意の拘束力を緩和するという観点から,融資の実行がなされるまでは,解除(事前解除)することができるということを規定することを提案している。
無利息の場合の特則としては,すでに言及した通り,諾成的合意では契約が成立しないという方法も考えられるが(無利息消費貸借契約については要物契約性を維持する),諾成的合意による契約の成立を基本型で採用する以上,諾成的合意の拘束力を緩和するという方法の方がより適切に示されるものと考えられ(贈与に関する現民法 550 条の形式の準用),また,融資実行までは一律に契約が成立しないものとするより,実質的にも,適切な処理が確保されるものと考えられるからである。
なお,無利息消費貸借における諾成的消費貸借の拘束力の緩和は,もっぱら貸主の利益を考慮したものであるが,消費貸借においては,いつでも借主の側から契約を終了させるということが可能であるということもふまえて,解除権者は特に限定せずに,両当事者としてい
る(なお,同様の引渡前解除権による拘束力の緩和を図る贈与,使用貸借においても,両当事者による解除権が認められている)。
2.引渡前解除権の排除に関する特則
なお,引渡前解除権によって拘束力を緩和するという場合,さらにその例外が認められないのかということが問題となる。
これについては,他の無償契約では,以下のような方向が示されている。
(参考)
贈与 | 使用貸借 | |
引渡前解除権の認めら れる限界 | 履行(交付)まで | 引渡しまで |
引渡前解除権の例外 | 書面による贈与 | 引渡前解除権の排除についての書面に よる合意 |
本提案においては,無利息消費貸借が,権利移転型の無償契約である贈与と,利用型の無償契約である使用貸借のいわば中間としての性格を有することから,その扱いを検討したが,そこでは,特に,使用貸借の特則を基礎づけている契約の多様性という側面は必ずしも認められないことから,贈与と同様に,消費貸借契約が書面によってなされる場合について,引渡前解除権が排除されるものとした。
この場合,無償契約については,贈与の規定が準用されることを前提とすると(【Ⅱ-1
1-18】),あえて贈与と同様となることを規定する必要はないとも考えられるが,上記の通り,無償契約における諾成的合意の拘束力の緩和については,いくつかのバリエーションが考えられ,さらには,何も規定しない場合,解釈論上は,引渡前解除権を排除する当事者の合意は全面的に無効となると解する余地も残らないわけではないことから,この点を明示することが適切であると考えるものである。
なお,同様のことを,贈与に関する【Ⅱ-11-3】を準用することを明示することによっても実現することは可能である。
3. 消費貸借の予約
Ⅳ-3-4 消費貸借の予約
(A案)消費貸借の予約については,特に規定を置かない。
(B案)無利息消費貸借の予約が書面によってなされたときは,予約完結権の行使によって成立した消費貸借について,それが書面によらないことを理由として解除することはできない。
【提案要旨】
消費貸借の予約については,いくつかの方向が考えられる。
まず,消費貸借の予約という形式があること自体については,【Ⅳ-3-4】の中で消費貸借の予約について言及しており,それによって示されている(ただし,【Ⅳ-3-4】における消費貸借の予約の扱いについては,なお検討の余地が残されている)。
そのうえで,両案を提示しているが,実質的に異なるものではない。
A案は,消費貸借の予約については,特に規定を置かないことを提案するものである。 そのうえで,有償契約である利息付消費貸借の予約については,売買の予約の規定が準用
され,無償契約である利息付消費貸借の予約については,贈与の規定が準用されるということになる。
したがって,無利息消費貸借については,【Ⅱ-11-2】の規定が準用され,そこで贈与とされている規律が,使用貸借に読み替えられることになる。
B案は,上記と同じことを直接,書き下すことを提案するものである。無利息消費貸借における引渡前解除権の規定が,贈与の規定の準用によっていないために,その点の疑義を避けるためのものである。
【解 説】
1.A案の考え方
まず,現行法と同様,【Ⅳ-3-4】の中で消費貸借の予約について言及しており,消費貸借の予約がという形態があること自体は,それによって示される。このように消費貸借の予約が可能だということを前提として,そうした消費貸借の予約について,特に規定を置く必要があるのかが問題となる。
A案は,消費貸借の予約については,特に規定を置かないことを提案するものである。 その結果,消費貸借において準用されるべき規定があれば,それらの規定によって規律さ
れることになる。
すなわち,有償契約である利息付消費貸借の予約については,売買の予約の規定が準用され,無償契約である無利息消費貸借の予約については,贈与の規定が準用されるということになる。
なお,無利息消費貸借に関する引渡前解除権を規定する【Ⅳ-3-3】においては,贈与の規定を準用していないが,このような引渡前解除権が,贈与と使用貸借において共通のものとして規定されていることを受けて,【Ⅱ-11-2】の規定が準用され,必要な読み替えがなされたうえで適用されることになる。
2.B案の考え方
他方,B案も,そこで実質的に提案している内容は,A案と異なるものではない。
そのうえで,引渡前解除権については,すでに説明した通り,【Ⅳ-3-3】においては,贈与の規定と同じ内容を独立に規定しているために,疑義を避けるために,予約についても,同様に,無利息消費貸借の規定として具体的に書き表すことを提案するものである。
Ⅳ-3-5 準消費貸借
現行 588 条の規定を維持する。
関連条文 現民法 588 条(準消費貸借)
【提案要旨】
準消費貸借に関する現行 588 条を維持することを提案するものである。
【解 説】
準消費貸借という法形式を維持することによって,消費貸借を前提とする規律(利息制限法等)の適用が明確になるといった機能を積極的に評価して,準消費貸借に関する現民法 588条の規定をそのまま維持することを提案するものである。
このような準消費貸借については,消費貸借の形式によらない信用供与の問題としての一般的ルールを規定し,従来の準消費貸借は,その一般的ルールで対処するといったことも考えられるが,信用供与一般についての規定を用意することは困難であると考えられ,また,そこではごく一般的なルールしか用意し得ないとすれば,あえて,準消費貸借についての現行規定を廃止して,問題を処理する合理性は乏しいように思われる。
4. 融資枠契約
Ⅳ-3-6 融資枠契約
① 融資枠契約自体については,特別の規定は用意しない。
② 諾成的消費貸借が認められることに対応して,特定融資枠契約に関する法律について,その修正が必要となるかを検討する。
関連条文 特定融資枠契約に関する法律 1 条ないし 3 条
【提案要旨】
融資枠契約については特定融資枠契約に関する法律が存在し,特別の手当ては必要ないと
したうえで,特定融資枠契約に関する法律については,諾成的消費貸借が基本となることを前提として,特定融資枠契約について,修正の必要性が生ずるかを検討することを提案するものである。
【解 説】
特定融資枠契約に関する法律の規定の中心部分は,融資枠契約における手数料が,個別の消費貸借における目的物の消費利用の対価(利息)ではないということを示すことにある。現在の特定融資枠契約に関する法律は,同法の適用対象として,融資枠契約の定義のほか,当事者の属性等も考慮しているが,このような対応が必要なのかが問題となる。
手数料が利息ではないということ自体は,融資枠契約の性質から十分に説明できると考えられる。ただし,融資枠契約という法形式を利用して,利息制限法などの脱法行為に使われる危険性も考えられるのであり,融資枠契約についての一般的規定を用意し,その中で,手数料が利息に該当しないという規律を示すことは,それに伴う問題も考えられるために,積極的な規定を置かないことが適切であると考えるものである。
なお,現在の特定融資枠契約に関する法律は,消費貸借の予約を前提としているが,田項性的消費貸借が消費貸借の基本的な形式として導入されることにより,消費貸借の予約以外で,特定融資枠契約の関する法律の対象とすべき場合があるかについては,別途,検討を行う必要がある。
II. 目的物の引渡し前の法律関係
1. 目的物の引渡し前の借主の信用危殆
Ⅳ-3-7 融資実行前の当事者の一方の破産手続の開始
(1) 目的物を貸主から借主に引き渡す前に,当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは,消費貸借はその効力を失う。
(2) 消費貸借の予約は,その後に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは,その効力を失う。
関連条文 現民法 589 条(消費貸借の予約と破産手続の開始)
【提案要旨】
諾成的消費貸借が導入されることを前提として,消費貸借の予約に関する現民法 589 条の規定の実質的内容が,諾成的消費貸借成立後,その引渡前についても,適用されることを提
案するものである。
あわせて,消費貸借の予約については,現民法 589 条の規定をそのまま維持することを提案するものである。
【解 説】
1.基本的な考え方
現民法 589 条の考え方を基本的に維持し,消費貸借に関する諾成的合意が成立しても,その融資が現実になされるまでにおいて,借主の破産手続が開始し,その信用危殆が明らかになったときは,消費貸借契約が効力を失うことを定めたものである。
融資前の段階で信用危殆が明らかになった場合に,なお諾成的合意による貸す債務がそのまま存続するとすることは,当事者の意思に反し,実質的にも妥当性を欠くものと思われる。
あわせて,消費貸借の予約については,現民法 589 条の規定をそのまま維持している。
2.前提となる要件
本提案では,諾成的消費貸借が効力を失うのは,現民法 589 条の規定を受けて,「破産手続開始の決定をうけたとき」としている。
これについては,借主の信用の危殆化として,より一般的な要件とするという考え方もあり得る2。しかしながら,このような形で,抽象的な要件に基づいて,諾成的消費貸借の効力が失われるとすることは(ドイツ民法においては,解約告知の要件とされる。なお,効果については,後述する),結果的に,法的安定性を害することになるものと考えられ,採用をしなかった。
なお,ここで,破産手続開始以外の信用危殆については規定を置かないとしても,これについては,先履行義務を負担する当事者の不安の抗弁権3等,契約法上の一般的なルールによって対応することも考えられる。
3.借主の破産手続開始の決定があった場合の効果
借主の破産手続が開始した場合について,それを信用の危殆化の問題の一部であり,また,そうした信用の危殆化の場合の不安の抗弁権の一適用事例であると考えるのであれば,そこ
2 ドイツ民法 490 条は,「①借主の財産関係または消費貸借のために設定された担保の価値に重大な悪化が生じ,または生じるおそれがあり,それによって貸金の返還が担保を用いた場合においても危殆化するおそれがあるときは,貸主は,消費貸借契約を,貸金の支払い前は,……告知期間の定めなしに告知することができる。」と規定する。
3 ドイツ民法 321 条は,「①双務契約に基づいて先給付義務を負担する者は,契約締結後,自己の反対給付債権が相手方の給付能力の欠陥により危殆化されることを知り得るときは,自らの負担する給付を拒絶することができる。……」として,不安の抗弁権について規定する。
での法律効果を無催告解除として規定するということも考えられないわけではない。
しかし,破産手続開始という限定的な場面において,当事者間の法律関係を簡明に処理するという観点から,現民法 589 条の規定が合理的であると考えられたので,それを維持するものである。
ただし,この点については,他の規定との整合性も含めて,なお検討課題とされる。
4.消費貸借の予約
諾成的消費貸借を認めることによって,消費貸借の予約の実質的な必要性は,大幅に減ずることになると考えられる。また,諾成的消費貸借について,引渡し前の破産手続開始によって当然に失効することから,消費貸借についても,そうした失効が当然に認められると解釈する余地はあるとも考えられる。
しかしながら,諾成的消費貸借と消費貸借の予約では,その法形式が異なることに加え,特定融資枠契約に関する法律等を含め,現在の取引においても消費貸借の予約という形式が用いられている場面が少なくないことにも照らし,この点についての疑義を避けるために,消費貸借の予約に関する現行 589 条の規定を,xxで維持することを提案するものである。ただし,この点については,上記の通り,諾成的消費貸借を認めたことによって消費貸借 の予約という法形式の必要性が減少すること,(1)から(2)を導くことは容易であることなどか
ら,(2)をxxの規定として置かないという可能性も残されているものと考えられる4。
III. 消費貸借の効力
1. 諾成的消費貸借における貸す債務の不履行
Ⅳ-3-8 融資に関する債務不履行
特段の規定を置かない。
【提案理由】
本提案は,諾成的消費貸借において,融資約束が実行されない場合についての貸主の債務不履行責任の内容について,現民法 419 条が改正され,特別損害の賠償の可能性が排除されないことが明文化されることを前提に,特別の規定を置かないとするものである。
【解 説】
1.前提となる現在の法律状態等
4 ドイツ民法では改正によって 610 条(消費貸借の予約)が削除された。
現民法を前提とすれば,消費貸借は,要物契約であり,基本的に融資が実行されてからが,その規律する対象となる。この場合,債務不履行として問題となるのは,もっぱら借主の返す債務の不履行であり,それが金銭債務のひとつの典型として,現民法 419 条によって処理されることについては,特段の異論はなく,また,実質的も特に問題はないと考えられる(現民法 416 条との関係は問題として,なお検討する余地はある。この点は,消費貸借の問題ではなく,金銭債務の不履行をめぐる一般的問題となる)。
それに対して,xx的消費貸借を導入した場合,融資実行前の法律関係が問題となり,特に,融資約束が実行されない場合についての賠償責任が問題となるものと考えられる。
そこでは,こうした融資約束に関する債務(貸す債務)も金銭債務であるとする考え方がある一方,金銭債務として問題を処理することについて疑問を投げかける見方もある。
なお,このように金銭債務のひとつであると位置づける場合,①遅延利息が賠償として当然に認められる(現民法 419 条によって直接に基礎づけられる),②民法 416 条の適用はなく,債権者が遅延利息を超える特別損害を具体的に立証しても,この賠償については認められない(現民法 419 条の解釈として一般的に説明される)というふたつの側面がある。
また,下級審裁判例においては,このような問題について,そもそも金銭債務の不履行の問題として位置づけるか否かというレベルではなく,不法行為責任等,別の法律構成によって問題を処理しているものもみられる。
2.問題の所在
以上の通り,現民法 419 条との関係では,2つの問題があるということになる5。
第1に,現民法 419 条との関係で,遅延損害金としての利息が認められるかという問題である。この点については,さらに,ふたつの場面を区別することが考えられる。
まず,融資の実行が遅れたとしても,なお,その融資目的の実現がなお達成可能であると
...
いうような場合,そこでは融資の実行としての金銭の給付が遅れたと評価することが可能で
ある。ここでの損害は,金銭の給付が遅滞したことによるものであり,そうした損害を,一定の利率を遅滞の期間に乗じて計算される遅延利息という形で評価することは可能である。特に,遅れた間,他からの融資等によって対応したという場合,そうした調達費用を遅延利息として賠償するという基本的なしくみで理解することが考えられる。
他方,融資の実行がなされなかったために,その目的が実現できなくなってしまったというような場合,そこでの損害を,こうした遅延利息という枠組みで理解することは,実質的にも適合的ではないものと考えられる。このようなケースにおいては,融資はもはや無意味
5 なお,現民法 419 条の成立過程を含めて,金銭債務の不履行による損害賠償をめぐる問題については,xxxx「金銭債務の不履行について」xxxxx『民法学の歴史と課題』(東京大学出版会・ 1982 年),xxxx「金銭債務の不履行と損害賠償」xxxx先生還暦記念『民事法理論の諸問題 (下)』(成文堂・1995 年)。
なものとなったのであり(ただし,そのことがただちに諾成的消費貸借の無効や消滅をもたらすわけではない),融資(金銭の給付)がなされるということを前提に,それが遅滞したということを損害として理解するという枠組みは,もはや適合的ではない。
この後者のような問題は,金銭債務の不履行として一般的に想定されている金銭消費貸借の返す債務の不履行や,売買代金債務の不履行の場合には,基本的に生じない。これらにおいては,かりに返済された金銭や売買代金の使途について一定のものを予定しており,遅滞によってその目的が達成できなくなったとしても,そのことによって直ちに返済債務自体が意味を失うものではない。この点で,この点で,貸す債務(融資を実行する債務)と返す債務あるいは売買代金債務との間には,基本的な性格の違いを見出すことが可能である。
この金銭消費貸借における貸す債務について,上記の2つの場合の後者を考慮するのであれば,民法 419 条に相当する規律によって問題を解決することが必ずしも適合的ではないという場面が存在することになる。
第2に,特別損害等についての賠償をめぐる問題である。
現民法 419 条の規定は,その点を明示しているわけではないが,一般的な理解によれば,
6 民法 419 条については,具体的な損害を立証したとしても,同条を超える損害賠償は認められないというのが通説的理解であるが(xxxx『増補改版・日本債権法(総論)』〔1925 年〕100 頁,xxx『新訂債権総論』〔1964 年〕138 頁等。判例においても,最判昭和 48 年 10 月 11 日判時 723号 44 頁は,金銭債務の不履行に伴う損害を,民法 419 条の範囲外においてその賠償を認めることを否定し,弁護士費用等の取立費用の賠償を認めなかった),この点については,早くから疑問を提示する見解もみられた(xxxx『債権法総論』〔1924 年〕55 頁以下,xxxx『債権法総則講義』〔1949 年〕102 頁等)。現在でも,xxxx『債権総論』(増補版・悠々社・1992 年)50頁以下,xxxx『口述債権総論』(第 3 版・成文堂・1993 年)214 頁以下において,現民法 419条を民法 416 条 1 項の通常損害に関する規定として位置づけ,特別損害については,それを立証できた場合については賠償を認める可能性を肯定する見解が示されている。また,xxxx『債権総論』(信山社・1994 年)244 頁は,(無)過失を(免責)要件として賠償を認めるという立場をと
以上のような見方を前提とすれば,(かりに現民法 419 条のような遅延利息という形式で の損害賠償を認めるとしても,それを超える)具体的な損害を,借主が立証できた場合には, それについての賠償を認めるという余地を残しておくことが適切なものであると考えられる。
3.考えられる規定の方向
以上のような問題が存在するということを前提としたうえで,提案【Ⅳ-3-6】では,最終的に,この問題について,特に規定は要しないという方向を提案している。
これは,上記の2つの問題との関係では,以下のように考えるものである。
まず,第1の問題については,融資目的が実現できなくなったような場合には,現民法 419
..
条に相当する規律による解決が適合的ではないということが考えられる一方で,融資が遅れ
.
たという観点から問題を理解することが可能な場面も残り,そこでは,なお遅延利息による
損害賠償という方式を排除することは必ずしも適当ではないと考えられるからである。
その点では,遅延利息による解決の可能性を残しつつ,遅延利息によっては適切に問題が解決されない場面について,解釈論のレベルで,現民法 419 条に相当する規定の適用を排除するという方向が考えられることになる。具体的には,そうした場面において,金銭債務に該当しない,現民法 419 条の対象とする金銭債務の不履行に該当しない,債務不履行ではなく不法行為の問題である等の解釈を通じて問題を解決することが考えられるが7,これらについては解釈に委ねることとするというものである。
次に,第 2 の問題については,現民法 419 条について,【Ⅰ-7-9】が,同(1)(2)において,現行規定を基本的に維持しつつ,同(3)において,「債権者は,(1)に定められた額を超えた損害の賠償を請求することを妨げられない」という規定を置くことを提案しており,この
るほか,xxxx『債権総論』(第 2 版・弘文堂・1994 年)110 頁においては,故意の場合には,遅延利息を超える具体的な損害の賠償が認められるという可能性を示す。さらに,xxxx『債権総論』(岩波書店・2008 年)176 頁は,民法 419 条 1 項の根拠が妥当しない場合には,同項を縮小解釈し,民法 416 条の一般原則によって賠償を認めるという方向を提案する。
7 東京地判平成 4 年 1 月 27 日・金融法務事情 1325 号 38 頁は,金融機関による融資拒絶が問題となった事案について(ただし,前提となる契約は諾成的消費貸借ではなく,融資予約契約としており,その点では,「貸す債務」の不履行そのものの事案ではない),「被告の融資が右工場用地取得代金支払にあてる予定であることを充分承知しながら,またメインバンクたる被告の融資拒絶が原告会社の本件工場進出計画に悪影響を及ぶすであろうことも容易に予測できるのに,正当な理由なく融資を拒絶し,その結果,原告会社が予定していた土地代金の支払計画に支障を来させ,別途三億七〇〇〇万円の調達に奔走せざるを得ない事態を招来し,またそれにより原告会社の社長として一手に右計画の責任を担っていた原告X2に著しい心労を与えたのであるから,被告の右不当な融資拒絶は,原告らに対する違法な権利侵害行為とみるのが相当である」として,不法行為責任を認めた。
点については一般的に解決するという方向が示されている。したがって,この点について,特に,消費貸借における貸す債務に限って,特別の規定を置くということは不要だと考えられる。
2. 貸主の担保責任
Ⅳ-3-9 目的物に瑕疵があった場合の法律関係
(1)消費貸借において,引き渡された物に瑕疵があったときは,借主は,瑕疵がある物の価額を返還することができる。
(2)利息付消費貸借において,引き渡された物に瑕疵(権利の瑕疵を含む)があったときは,【Ⅱ-8-23】以下の規定を準用する。ただし,【Ⅱ-8-34】の期間制限については,瑕疵についての通知が,合理的期間経過後になされた場合であっても,それ以後の解除及び代金減額に相当する利息の減額を行使することは妨げないものとする。
(3)無利息消費貸借において,引き渡された物に瑕疵があった場合に,貸主が,その瑕疵を知りながら借主に告げなかったときは,前項の規定を準用する。
関連条文 現民法 590 条(貸主の担保責任)
【提案要旨】
現民法 690 条は,利息の有無(有償か無償かの区別)に応じて,貸主の瑕疵担保責任を規定している。このような枠組みは,基本的に維持されるべきものであると考えられるが,そのうえで,今回の改正提案全体の方向をふまえて,以下の提案を行うものである。
提案(1)は,現民法 590 条 2 項において,無利息消費貸借の規定として用意されているものであるが,消費貸借の目的物に瑕疵があった場合の規律としては,利息の有無にかかわらず認められるものであると考えられるため,そのことが明確になるように,瑕疵があった場合の法律関係の冒頭において示すものである。
提案(2)は,現民法 590 条1が,利息付消費貸借について規定している内容を,売買における瑕疵担保責任の規定を準用するという形で処理することを示すものである。
有償契約である利息付消費貸借について,有償契約である利息付消費貸借に売買の規定が準用されるということは当然であるともいえるが,この点についての疑義を避けるためとともに,提案(2)を規定するうえで,その点を明示することが適切であると考えられるからである。
なお,売買の規定は,基本的に,期間制限を含めて,利息付消費貸借に準用されるものと考えられるが,消費貸借の継続的契約としての性格に結びつく,利息に関する救済(代金減
額に相当する利息減額)と解除については,その期間制限がそのままでは適用されないことを確認するものである。
提案(3)は,無利息消費貸借に関する現民法 590 条2項の規定に相当するものである。
無利息消費貸借が無償契約であることに照らせば,提案(1)との関係では,贈与の規定を準用するというのがひとつの方向として考えられるが,元来,目的物を消費して,同種同量の物を返還すればよいという消費貸借においては,瑕疵があったものの価額を返還するというのは,最も簡便な法律関係と考えられ,このようなしくみで問題を解決する現行法を実質的に維持するものである。また,貸主が悪意の場合の責任については,現行法と規定の仕方は同じであるが,提案(1)における修正にともなって,この点についても,実質的な変更があったことになる。
【解 説】
1.基本的な構造
本提案は,消費貸借において,引き渡された目的物に瑕疵(権利の瑕疵を含む)があった場合について,以下の 2 点を規律することを企図している。
第 1 は,借主は,引き渡された瑕疵のある物の価額を返還すればよいということであり,これは,借主の返還義務に関する規律として規定されるべきものである。このような規律は,
【Ⅳ-3-1】において,借主は「引渡しを受けた物と種類,品質及び数量の同じ物をもって返還する義務」を負うということによって基本的に支えられているものであるが,引渡しを受けた物と種類等が同じ物を返還することに代えて,価額返還をすれば足りるということを確認している点で,その特則性が認められることになる。
第 2 に,引き渡された物に瑕疵があったことから,借主に不利益が生ずるということを前提として,借主にどのような法的救済が認められるのかという問題である。そこでの問題は,売買契約において目的物に瑕疵があった場合に,買主にどのような法的救済が認められるのかという問題と同質であると考えられる。そのために,ここでは,利息付消費貸借については,売買の瑕疵担保責任等の規定を準用することを示すととともに,無利息消費貸借の場合には,現民法 590 条 2 項の規定を参考とするとともに,贈与に関しての【Ⅱ-11-9】も参照しつつ,貸主が瑕疵について知りながら,借主に告げなかったときに限って,瑕疵担保等の責任を負担することを規定したものである。
2.目的物に瑕疵があった場合の返還義務
上記の通り,【Ⅳ-3-9】(1)が規定するのは,借主は,引き渡された瑕疵のある物の価額を返還すればよいということであり,これは,返還義務の内容に関するものである。
これは,借主は,「引渡しを受けた物と種類,品質及び数量の同じ物をもって返還する義務」を負うという考え方を基礎とするものであり,借主に積極的な救済を与えるというより,
(利息に関する点を除いて)借主に引き渡された目的物の価値を超えるような負担を課さな
いというレベルのものとして理解することができる。
したがって,【Ⅳ-3-9】(2)(3)に示された借主の救済とは性格の異なるものであると考えられ,利息の有無等を問題とせずに認められるほか,(2)(3)において示された救済が,その要件を欠く場合にも,当然のものとして認められるものと考えられる。
3.利息付消費貸借における貸主の責任
提案(2)は,利息付消費貸借において,目的物に瑕疵があった場合には,貸主が,原則として,売買における売主と同様の責任を負うことを規定するものである。
消費貸借では,対象となる目的物の所有権は借主に移り,借主が自由に使用,収益,処分を行うことができるということが前提となっているのであり,その点で,権利移転型の売買の規定を準用することは,実質的にも適切であると考えられる。
そのうえで,他面で,消費貸借には,継続的契約としての側面があることに照らして,救済の期間制限については,一定の特則を設けている。
第 1 に,利息は,利用期間に応じた対価(賃料)としての性格を有することから,売買における期間制限を機械的に適用して,利息に関連する救済を与えないということは適切ではないと考えられる。したがって,代金減額に相当すると位置づけられる利息減額については,合理的期間経過後であっても,通知の後は,そうした救済を認めることが適切であると考え,その例外としたものである。
第 2 に,消費貸借の解除は,将来に向けた効力のみを有するものであり,その点では,やはり継続的契約関係であるということを前提とするものであるから,同様に,合理的期間の制限についても適用がないものとした。
適用事例1 Aは,Bとの間で,α原油 1 万トンの消費貸借契約を締結した。しかし,その契約に基づいて,AからBに引き渡されたのは,質の劣るβ原油 1 万トンであった。この場合,Xは,その瑕疵について,Aに対して通知を行い,それを前提として,瑕疵担保について定められた救済手段を行使することができる。しかし,合理的期間内にBからAへの通知がなされなかった場合には,履行利益の賠償は認められない。ただし,合理的期間経過後であっても,その瑕疵についての通知をなして以降は,その救済についての他の要件を満たすことを前提として,α原油であることを前提として定められた賃料としての利息については減額を求めることが認められ,また,その要件も満たす場合には,解除が認められることになる。なお,消費貸借終了時に返還するのは,引渡しを受けた目的物であるβ原油 1 万トンでよく(これは,【Ⅳ-3-1】による),
β原油をすでに消費していた場合には,β原油 1 万トンの価額を返還すれば足りる(これは,【Ⅳ
-3-9】(1)による)。
3.無利息消費貸借に関する貸主の責任
無利息消費貸借についても,現民法 590 条 2 項の規定を実質的に維持するものである。
第 1 に,現民法 590 条 2 項前段に規定されている内容は,無利息消費貸借に固有の規律ではなく,消費貸借一般に当てはまるものであると考えられることから,その点を明確にするために,【Ⅳ-3-9】(1)において,無利息消費貸借,利息付消費貸借に共通の規定として,示した。
第 2 に,貸主が,瑕疵を知りながら,それを借主に告げなかった場合には,無利息消費貸借についても,利息付消費貸借の貸主と同様の責任を負担することを規定したものであり,現民法 590 条 2 項後段と同じ趣旨である。ただし,そこで準用される売買における売主の責任に関する規定が,現行法と異なる限りにおいて,現在の法律状態とは異なることになる。
3. 抗弁の接続
Ⅳ-14-1 抗弁の接続に関する基本方針
第三者型与信契約における抗弁の接続に関して,
(A案)消費貸借の中に規定を置く。
(B案)規定を置かない。
【提案要旨】
第三者型与信契約については,包括的に規定を置くことは困難であるが,抗弁の接続に限って規定を置く方向が具体的に検討された。
A案は,このような抗弁の接続に関する規定を用意するものとし,それを消費貸借の中に規定することが適切であるとするものである。
B案は,抗弁の接続についても,xxの規定を置くことを見送るものである。
【解 説】
1.前提となる状況と考えられる規律
第三者与信については,物品の購入などに際してのローン提携販売(割賦販売法 2 条 2 項)
や割賦購入あっせん(同法 2 条 3 項。改正により,包括信用購入あっせん及び個別信用購入あっせん包括)などが典型例として挙げられるが,それ以外にもさまざまな形態が考えられ,たとえば,xxxxxx・xxxも,こうした第三者与信のひとつとして理解することが可能である。
こうした第三者与信をめぐっては,特に,与信契約と供給契約等との関係をめぐって,抗弁の接続や書面交付義務等の与信者の義務,さらには与信者の賠償責任(いわゆるレンダーライアビリティを含む)等の問題があることが指摘されてきている。
もっとも,第三者与信といっても,与信の対象となる行為や与信がどのような形式でなさ
れるのか等,その形態がきわめて多様であることに照らせば,一般的な規定として,何を用意すべきであるのか,また,何を用意することができるのかという点では,かなり制約されるものと考えられる。
第 1 に,上記に挙げたものの中でも,与信者の賠償責任等を第三者型与信契約の一般的なルールの問題として規定することは,困難なものと考えられる。与信者が,与信という枠を超えて,供給者の債務不履行等についての責任を負担するかどうか,あるいは,その他の損害賠償責任等を負担するのかといった問題は,与信者と顧客との間の契約の内容が,与信を超えて,こうしたものを含んでいるか否かという契約の解釈問題に帰着せざるを得ないと考えられ,第三者与信であるという性質決定だけを手がかりとして,一般的なルールとして規定することは不可能だと思われる。
第 2 に,書面交付義務や当該書面の内容等についても,当事者(特に,与信者)の属性に関わらず,それに関する一般的なルールを設定することは困難であろう。特に,書面交付義務においては,どのような内容の書面を交付するのかといった書面の内容と切り離して論ずることはできないが,そうした求められる書面の内容は,それぞれの第三者型与信の形態によって大きく左右されるものであり,書面交付の必要性もそれと一定の相関関係に立つものであると考えられる。その点では,こうした規律は,本来,それぞれの形態に即した業法等の特別法に委ねられることが適切な性格のものであり,民法典の中に一般的な規定として用意することにはなじまないものと思われる。
第 3 に,規律の対象として考えられるのが,いわゆる抗弁の接続をめぐる問題である。従来の議論においても(特に,割賦販売法における抗弁の接続の導入以前),抗弁の接続は,上記の2つに較べると,もう少し一般的な問題に関わるものとして,その基本的な性格や要件が論じられてきており,これについて民法の中に規定を用意するということは考えられる。ただし,民法の中に規定を置くとすれば,それがなぜ必要とされるのかという点についての検討が求められるのが当然であり,これについては,以下に検討を行うことにしたい。
2.抗弁の接続に関する法律状態の変遷
検討に先だって,抗弁の接続に関する現在までの法律状態の変遷について,簡単に確認をしておく8。
(1)昭和 59 年割賦販売法改正以前の状況
割賦販売法の改正によって,抗弁の接続が立法的に導入される以前の段階では,下級審裁判例が,一定のケースについて,抗弁の接続を認めるという判断を示し,また,学説においても,解釈論上,そうした抗弁の接続を基礎づけることがなされてきた。
8 抗弁の接続をめぐる法律状態の変遷については,xxxx『複合取引の法的構造』(成文堂・2007年)238 頁以下。
そこでは,抗弁の接続を認めるための理由づけとして,①販売業者と与信者との一体的関係,②消費者と事業者との取引であること,③与信契約と売買契約との一体的関係等が挙げられていた9。
また,抗弁の接続を認めるための法律構成としては,①xxxにより与信者の請求を遮断するという構成,②与信契約自体に支払拒絶事由を見出す構成があった。
なお,後述の最判平成 2 年 2 月 20 日判時 1354 号 76 頁は,この間の事件について,最高裁が,その判断を示したものである。
(2)昭和 59 年割賦販売法改正
抗弁の接続が問題とされる状況を受けて,抗弁の接続に関する規定が,昭和 59 年の割賦販売法改正によって導入された。
そこで抗弁の接続が認められる対象とされたのは,①個品および総合割賦購入斡旋(同法 30 条の 4),②リボルビング方式の総合割賦購入斡旋(同法 30 条の 5)であった。また,購入者が対抗できる事由としては,特に制限は置かれておらず,①債務不履行だけではなく,売買契約の無効・取消・解除も含むものとされ,②抗弁ではなく,債務不履行に基づく損害賠償請求権でもよい,と解されていた。
なお,立法担当者は,この昭和 59 年の割賦販売法改正に際して,①割賦購入斡旋業者と販売業者との間の密接な取引関係,②割賦販売の場合と同様に商品の引渡がなされない場合等に支払いを拒み得るとの消費者の期待,③割賦購入斡旋業者の販売業者に対する継続的な監督と損失の分散転嫁の能力,④購入者の販売業者との関係は一時的なものである等の理由を挙げている。
(3)平成 11 年割賦販売法改正
平成 11 年の割賦販売法の改正により,抗弁の接続が,ローン提携販売にも拡張された(同
法 29 条の4ⅡⅢ)
(4)平成 20 年割賦販売法改正
さらに,割賦販売法における割賦の定義が見直され,①それまでの 2 ヶ月以上,かつ 3 回以上の分割払いのクレジット契約に加えて,2 ヶ月以上後の 1 回払い,2 回払いも規制対象とされることになり,また,②包括信用購入あっせん及び個別信用購入あっせんの規制対象となる商品及び役務を政令で指定する方式を改め,原則すべての商品及び役務を規制対象とすることになった結果,抗弁の接続の規定が適用される範囲も拡張された。
3.抗弁の接続に関する規定の必要性
9 xx・前掲書 250 頁以下。
抗弁の接続については,上記の通り,割賦販売法の数度の改正を経て,その範囲が拡張されてきており,一定の契約形態については,すでに立法的な手当てがなされてきている。したがって,それらをふまえて,なお民法の中に,抗弁の接続に関する規定を用意することが必要なのかが問題となる。
(1)抗弁の接続に関する一般的な理解
-抗弁の接続に関する規定を設ける必要性
この問題については,前掲の最判平成 2 年 2 月 20 日は,昭和 59 年の割賦販売法改正前の
割賦購入あっせんに関する事案について,①割賦販売法 30 条の 4 第 1 項の規定は,法が,個品割賦購入あっせんにつき,購入者保護の観点から,購入者において売買契約上生じている事由をあっせん業者に対抗しうることを新たに認めたものにほかならない。②昭和 59 年改正
による割賦販売法 30 条の 4 第 1 項新設前においては,購入者と販売業者との間の売買契約が販売業者の商品引渡債務の不履行を原因として合意解除された場合であっても,購入者と斡旋業者との間の立替払契約において,かかる場合には購入者が右業者の履行請求を拒みうる旨の特別な合意があるとき,または斡旋業者において販売業者の右不履行に至るべき事情を知りもしくは知りうべきでありながら立替払を実行したなどの右不履行の結果を斡旋業者に帰せしめるのをxxx上相当とする特段の事情があるときでない限り,購入者が右合意解除をもつて斡旋業者の履行請求を拒むことはできないものとするのが相当である。 ③割賦販売法 30 条の 4 第 1 項新設前の個品割賦購入あっせんにおいては,売買契約上の抗弁はあっせん業者に対抗することはできないのが原則である。④昭和59年改正前の割賦販売法の下では,個品割賦購入あっせんに関して,購入者と販売業者との間の売買契約が販売業者の商品引渡債務の不履行を原因として合意解除された場合であっても,購入者とあっせん業者との間の立替払契約に特別の合意があるとき,または右不履行の結果をあっせん業者に帰せしめるのをxxx上相当とする特段の事情があるときでない限り,購入者が右合意解除をもってあっせん業者の履行請求を拒むことはできないとして,抗弁の接続が,割賦販売法 30 条の 4 によ
10 xxxx『民法講義Ⅳ-1 契約』(有斐閣・2005 年)386 頁以下。後者の立場として,xxxxx
「割賦販売法の抗弁接続規定と民法」『民商法雑誌相関 50 周年祈念論集Ⅱ 特別法から見た民法』
(有斐閣・1996 年)280 頁等。
ってはじめて基礎づけられるという側面を強調した。
このように,最高裁の平成 2 年判決は,抗弁の接続に関する割賦販売法上の規定の創設的な意義を強調するものであり,契約の拘束力が当該契約当事者にのみ及ぶという原則を踏まえれば,特別法に置かれた抗弁の接続の規定を創設的なものとして位置づけることには,一定の合理性はあるものと考えられる。
そのうえで,平成 2 年判決との関係では,以下の点を,同時に確認しておくべきであろう。
第1に,平成 2 年判決自体,一定の特段の事情(「斡旋業者において販売業者の右不履行に至るべき事情を知りもしくは知りうべきでありながら立替払を実行したなどの右不履行の結果を斡旋業者に帰せしめるのをxxx上相当とする特段の事情」,「斡旋業者において販売業者の右不履行に至るべき事情を知りもしくは知りうべきでありながら立替払を実行したなどの右不履行の結果を斡旋業者に帰せしめるのをxxx上相当とする特段の事情」)がある場合には,xxxを手がかりとして,抗弁の接続を認めるという可能性は排除されているわけではない,という点である。
第 2 に,契約の人的範囲についての原則をふまえて,抗弁の接続が当然には認められないものであるとしても,これについて一定の創設的な規定をさらに民法の中に用意するといこと自体は,こうした平成 2 年判決自体と抵触するものではないという点である(民法の中に,創設的な機能を有する一般規定を置くこと自体は排除されていない)。
(2)一般規定の必要性をめぐる検討
もっとも,それでは,民法の中に抗弁の接続の規定を用意するのかという点については,さらに,その必要性という観点からの検討が必要である。
この点は,さらに,以下の2つの点からの検討を必要とする。
① xxx上の解決に委ねることとの関係
まず,平成 12 年判決自体が,その可能性を排除していないxxxによる解決によって,この問題の処理を図ることができないかという問題がある。
この点については,上記の通り,平成 2 年判決がxxxによる解決の可能性を排除していないということもあり,そうした解決は可能的選択としては残されている。ただ,その点を前提とするとしても,xxxによって処理するという場合,基準は漠然としたものにならざるを得ないだろう。むしろ,xxxの具体化としての抗弁の接続に関する規定を用意することは,特に,要件等を明確にするという点で,法的安定性の確保に資するものであると考えられる。
② 特別法による規律に対する民法の一般規定の必要性の有無
-特別法と民法の抗弁の接続に関する役割分担
他方,もうひとつの問題が,割賦販売法の改正等によって,この問題については,ある程度まで,それによって処理することが可能なのであり,あえて民法の中に抗弁の接続の規定を用意する必要があるのかという点をめぐる問題である。
こうした一般規定の必要性を考える場合には,いくつかのレベルの異なった問題を検討しておく必要がある。
第1に,実践的な問題として,割賦販売法による抗弁の接続ではカバーされない領域として何があり,どのような場面で一般的な抗弁の接続の規定が求められるかという問題である。これは,民法に置かれる抗弁の接続に関する一般規定の受け皿的構成要件としての必要性の問題だといえる。
まず,要件が緩和されたといっても,なお,割賦販売法では,厳密な要件を設定していることに照らせば,それによってカバーされない領域が残るということは否定できないものと考えられる。むしろ,昭和 59 年の改正による抗弁の接続の導入後も,数度の改正を経て,その適用領域を拡張してきたということは,それまで常に,その時点での規定では適切にカバーされない領域があったということの証左でもあろう。こうした点からは,なお特別法によって処理されない領域がある,あるいは,将来のさまざまな取引形態の展開に照らして,そうした領域が生じ得るということは,理論的には,否定できないものであると思われる。
具体的には,2 ヶ月以内に 1 回の支払いによるという購入あっせんが考えられる。また,現在の割賦販売法上のローン提携販売では,その定義において,販売業者(またはその委託を受けた保証業者)が購入者等の債務を保証することが,その定義の中に含まれるが(割賦販売法 2 条 2 号),販売業者と信用供与者との間に事前の提携関係(割賦購入あっせん〔包括信用購入あっせん〕の対象となる加盟店となっている場合を除く)があって,そうした信用供与者との間でローンが組まれたが,その債務についての販売業者による保証はないという場合は,割賦販売法の規律の対象から外れることになる。このような場面において,なお販売業者と信用供与者との実質的な関係を基礎として,民法の一般規定を通じて抗弁の接続を認めるという可能性は,なお残されているものといえよう。
もっとも,これについても,むしろ割賦販売法を必要に応じて改正することで対応すべきであるという考え方もあり,この考え方によれば,民法の中に抗弁の接続に関する一般規定を置く実践的必要性は認められないということになる。
第2に,具体的な必要性の有無に限定すべきではなく,民法の中に,割賦販売法の規定の基礎となる考え方を示すという点に,より重要な役割を見出すという考え方である。この考え方によれば,割賦販売法の抗弁の接続に関する規定を正当化する源泉として民法の一般規定が位置づけられることになり,また,こうした基礎的な原理を示すことによって,かりに,将来,割賦販売法において不適切に対象が限定されるようなことがあった場合には,こうした基礎的規律が顕在化して,適切な処理を可能とするといったことが指摘される。
もっとも,他方で,このような考え方については,割賦販売法の抗弁の接続の規定自体を基礎づけるものとして,民法の規定を置くということは原理的に必要とされるわけではなく
(たとえば,同種の問題は,クーリング・オフについても存在することになる),また,将来の割賦販売法における抗弁の接続の規律の適否の問題も,まさしく割賦販売法の改正の妥当性の問題として扱うべきだとする見解もみられた。
③ 特別法と民法の抗弁の接続に関する役割分担
それでは,かりに,民法の中に抗弁の接続に関する一般的な規定を用意した場合,特別法による規律との関係はどのようになるのか,それによって特別法の規律は不要となるのかという,いわば上記とは逆の問題がある。
これについては,民法の中に規定を用意するとしても,それは,(xxxに直接依拠するよりは具体的であるとしても)かなり抽象的な要件とならざるを得ないものと考えられる。他方,割賦販売法における抗弁の接続に関する規定は,その要件が厳密であるがために,そこから外れる領域が残されるとしても,そうした厳密な要件を前提に,容易に,その要件該当性を判断することが可能である。
その点で,なお,民法による抗弁の接続に関する一般規定と,特別法における規律とは,一定の役割分担(棲み分け)が可能であると考えられる。
(3)抗弁の接続に関する一般規定の必要性についての判断
以上の通り,民法の中に抗弁の接続に関する一般規定を置くということについては,積極的な意見もあった一方で,特に,現在の特別法をふまえて,その必要性自体を疑問視する意見もあった。その点で,抗弁の接続の規定を消費貸借に置くかという基本方針のレベルで,なお一致した結論は得られていない。ただ,そのような基本方針の検討をするうえでも,いったいどのような規定がそもそも考えられるのかということは,基本的な議論の前提となるものであろう。
以下では,上記の点を留保した上で,具体的な検討の素材として考えられる抗弁の接続に関する規定を提示するものである。
Ⅳ-14-2 抗弁の接続の要件
消費者が,事業者(以下,「供給者」という。)との間でなした物品もしくは権利を購入する契約または有償で役務の提供を受ける契約(以下,「供給契約」という。)を締結し,供給者とは異なる事業者たる第三者(貸主)と消費貸借契約を締結する場合において,供給契約と消費貸借契約が〔経済的に〕一体のものとしてなされ,かつ,
あらかじめ供給者と貸主との間に,供給契約と消費貸借契約を一体としてなすことに
ついての合意が存在した場合には,購入者等は,供給者に対する抗弁をもって,貸主に対抗することができる。
【提案要旨】
抗弁の接続についての規定を民法典の中に用意するという立場を選択した場合に,そうした抗弁の接続を認める要件として,以下の要件を挙げるものである。
① 消費者と事業者間の契約であるということ
② 供給契約と消費貸借契約の〔経済的〕一体性
③ 両者を一体としてなすことについての供給者と貸主との合意を要件として挙げることを提案するものである。
【解 説】
1.消費貸借の規定としての位置づけ
本提案は,典型契約としての消費貸借の中に,抗弁の接続に関する規定を置くことを提案するものであり,その要件も,消費貸借を前提として規定されている。
消費貸借において規定をするということは,その適用範囲を限ることになるという側面がある。抗弁の接続の問題は,与信契約における問題として扱われてきたのであり,消費貸借固有の問題として扱われてきたわけではないということも,言うまでもない。
それでも,なおこのように消費貸借の規定として置いたのは,特に,次のような理由からである。
第1に,与信契約というのは,与信という機能に即して契約を捉えたものであり,そこでの法形式は非常にさまざまであり,「与信契約」といったものを明確に概念規定して,それについての規律として位置づけるということは,必ずしも容易ではないということがある。第2に,他方で,消費貸借に限定したものであっても,このような規定を明示的に置くこ とは,まさしく上述のようにさまざまな信用供与の形態において,【Ⅳ-14-2】の類推適用という方法によって,問題の解決の可能性を与えるものだと考えられるからである。さまざまな与信契約に対応するために,不明確な要件しか規定できず,より一般条項に近いものとなるよりは,消費貸借を前提として比較的明確な規定を置いて,各信用供与の形態に適合した修正は,その類推適用等の際の解釈論を通じて実現されるということが,実質的にも
適当であると考えるものである。
2.抗弁の接続を認めるための要件
従来の議論においては,抗弁の接続を認める根拠(実質的要件)としては,特に,昭和 59年の法改正以前の下級審裁判例は,当時ならびにその後の学説においては,当事者の点を除くと,「与信契約と売買契約との一体的関係」,「供給者と与信者との一体的関係」が挙げ
られてきた。その点からは,こうした2つの要件を,抗弁の接続に関する一般的な規定の導入に際して,その基礎とすることが考えられる(与信者については,消費貸借に規定が置かれることから,貸主とする)。
そのうえで,このような抗弁の接続を認めるという場合に,問題となる点としては,こうした抗弁の接続を,①当事者の属性との関係でどのような範囲で認めるのか(または特に当事者を限定しないのか),②抗弁の接続が認められる場合の要件をどのように規定するのかが問題となる。
なお,以下では,抗弁の接続をめぐる議論の中で,一般的に,「与信契約」,「与信者」とされてきた部分については,本提案にかかる規定を消費貸借に置くということを前提として,本提案に直接関係する部分については,「消費貸借(契約)」,「貸主」と置き換えて説明をする。
(1)対象とされる契約の当事者の属性
抗弁の接続を認めることは,契約の相対的効力の原則から重大な例外であり,また,従来
の抗弁の接続に関する裁判例等に照らしても,事業者間についての一般規定を設けることまでは不要であると考え,消費者保護という目的から,消費者契約に該当する場合のみを,その対象とすることが適切であると考えるものである。
これによって,ここでの抗弁の接続に関する規定は,消費者保護法という性格を明確に有することになる。
11 比較法的には,ドイツ法において,このようなアプローチがみられる。ドイツ民法の改正にあたって,従来の抗弁の接続に関する問題は,「第三者与信型消費者信用取引」に関するものとして,顧客が消費者である場合を前提として扱われており,抗弁の接続等は,契約総則中の「第 5 節 消費者契約における解除,撤回および返還権」の中に規定され,消費者が当事者である場合が前提となっている。ドイツ民法 359 条(結合された契約における抗弁 Einwendungen bei verbundenen Verträgen)「消費者は,結合された契約に基づく抗弁が,消費者が提携された契約を締結した事業者に対して,自己の給付の拒絶を正当化する限りにおいて,貸金の返還を拒絶することができる。これは,融資された金額が 200 ユーロを超えず,または,抗弁が,この事業者と消費者との間で消費者消費貸借契約後合意された契約の変更に基づく場合には,適用されない。消費者が,追完履行を請求することができるときは,その追完履行が不奏効に終わった場合に,はじめて貸金の返還を拒絶することができる。」
(2)抗弁の接続を認める実体的要件
上記の通り,従来の裁判例や学説においては,抗弁の接続を認める実体的要件として,「与信契約と売買契約との一体的関係」,「供給者と与信者との一体的関係」といったことが挙げられてきた12。
これらの要件の相互の関係(重畳的に要件とされているのか,いずれか一方があれば足りるのか等)は,必ずしも明確に論じられてきたわけではなく,民法に抗弁の接続に関する規定を用意するという場合,これらをどのように具体的な要件として示すのかが問題となる。ひとつの考え方としては,当事者の属性を限定し,対象を消費者契約に該当する場合に限 るものである以上,実体的要件としては,比較的緩やかに,こうした要件のひとつ,たとえば,「供給契約と与信契約の一体性」といった契約に関する要件のみを挙げるということも
考えられる。
しかしながら,このような「供給契約と与信契約(消費貸借契約)の一体性」という要件では,あまりにも基準として漠然としてだけではなく,その結果,当事者(供給者と貸主)にとってまったく意図していないような経済的一体性といったものによって抗弁の接続が認められる可能性が生ずる。貸主に供給契約に関する一定のリスクを負担させるということを正当化するためには,単に契約が一体的なものとして評価されるというだけでは足りず,供給者と貸主との間に一定の一体的関係が存在するということは不可欠であると考え,具体的に,「供給契約と消費貸借契約が一体のものとしてなされ,かつ,あらかじめ供給者と貸主との間に,供給契約と消費貸借契約を一体としてなすことについての合意が存在した場合」
12 なお,上述の通り,ドイツ民法 359 条は,消費者消費貸借に関して,提携された契約の抗弁の接続について規定するが,ここでも,「結合された契約(提携された契約)」であるということが,抗弁の接続を認めるかの基準となる。こうした結合された契約については,ドイツ民法 358 条が一般的な規定を置いており,同条3項は,「消費貸借の全部または一部が,他の契約の融資のために利用されるものであり,かつ両契約が経済的に一体となっているときは,商品の供給または他の給付の実現に関する契約と消費者消費貸借契約は,結合(提携)している。経済的な一体性は,特に,事業者自身が消費者の反対給付に融資するとき,または,第三者による融資の場合は,貸主が,消費者消費貸借契約の準備または締結に際して事業者の協力を仰ぐ場合に,認められ得る。不動産または不動産に準ずる権利の融資付の取得においては,与信者が自ら不動産または不動産に準ずる権利を世話し,または,与信者が信用を供与することを超えて,その譲渡利益の全部または一部を取得し,計画,広告または計画の遂行に際して譲渡人の役割を引受,または,譲渡人を一方的に支援することにより,事業者との協力を通じて,不動産または不動産に準ずる権利の取得を促進する場合にのみ,経済的一体性が認められ得る。」と規定する。なお,これらの要件は,従前の消費者信用法 9 条,通信販売法 4 条,一時的居住xx 6 条において規定されていたものを統合したものと説明される。
という要件を通じて,「供給契約と消費貸借契約の一体性」と「供給者と貸主との一体性」の両方の要件が求められるということを示すものである。
もちろん,このような要件についても,なお不明確さが残ることは否定できない(なお,供給契約と与信契約の一体性については,「経済的な一体性」として,さらに限定することが考えられるが,この点についても,なお検討の余地が残されている。これについては,ブラケットに入れて提案している)。こうした一定の不明確さは,割賦販売法における厳密な要件を前提とする抗弁の接続とxxxの中間に位置づけられるような規定の性格上,避けることができないともいえる。
ただ,ある程度,この基準が幅のあるものであることは,事案に応じて,具体的に適切な処理が実現されることにつながるという側面も有しているものとも考えられる。
3.抗弁の接続の効果
提案【Ⅳ―14-1】の要件を満たす場合,購入者等は,供給者に対する抗弁をもって,貸主に対抗することができ,融資の返済について,その履行を拒絶することが可能となる。他方で,販売契約の無効が,与信契約の無効をもたらすのかといった問題については,特
13 なお,さきに言及したドイツ民法 359 条による消費者消費貸借の抗弁の接続との関係では,同 358条の契約結合(提携)の判断によって処理されることになる。同 358 条 3 項の第 2 文(「経済的な一体性は,特に,……第三者による融資の場合は,貸主が,消費者消費貸借契約の準備または締結に際して事業者の協力を仰ぐ場合に,認められ得る。」によれば,こうした住宅ローンの場合にも,経済的一体性が認められるとの余地もありそうであるが,同項第 3 文によって,これらについて抗弁の接続が認められるのは,非常に限定的なものとなる。
に言及していない。これは,この問題が,第三者与信の問題ではなく,複合契約一般の問題として位置づけられるものと考えられるためである14。
IV. 消費貸借契約の終了
1. 消費貸借の終了
Ⅳ-3-10 消費貸借の終了
(1)当事者が返還の時期を定めなかったときは,貸主は,相当の期間を定めて返還を求めることができ,その期間の経過によって,消費貸借は終了する。
(2)借主は,いつでも返還をすることができ,それによって消費貸借は終了する。
関連条文 現民法 591 条(返還の時期)
【提案要旨】
本提案は,現民法 591 条の規定を,実質的に維持することを提案するものである。
そのうえで,現行法が,目的物の返還時期として規定している内容を,契約の終了に関する規定として再構成したものである。
【解 説】
1.基本的な提案内容
提案(1)は,現民法 591 条 1 項の規定を維持することを提案するものであり,催告期間についても,現行法通り,「相当の期間」を提案するものである。
この点については,比較法的には,改正前のドイツ民法では,金額に応じた相当期間が定められており15,改正後は,一律の催告期間(3 ヶ月)が定められている16。
14 複合契約の問題については,xxxx「ドイツ法における『契約結合(Vetragsverbindungen)』問題」一橋法学 1 巻 3 号 861 頁(2002 年),xx・前掲書等。
15 改正前ドイツ民法 609 条は,「①消費貸借の目的物の返還について,時期が定められていないときは,弁済期は,債権者または債務者の告知によって決まる。」としたうえで,「②告知期間は,300DMを超える消費貸借においては 3 ヶ月,それ以下の額の消費貸借においては1ヶ月とする。」として,金額によって異なる催告期間を定めていた。
16 改正後ドイツ民法 488 条は,「③貸金の返還のために期間が定められていないときは,弁済期は,貸主または借主の告知によって決まる。告知期間は,3ヶ月である。利息の支払い義務を負わないときは,借主は,告知がなくても返還の権利を有する。」と規定する。
しかし,改正されたドイツ民法 488 条は,消費者消費貸借を前提とする規定であり,このような特定の期間をさまざまな融資額を前提とする消費貸借の一般規定の中に取り込むことが適当であるかという点では,疑問が残る。また,現実には,催告期間が特定されていないことによって,具体的な問題はそれほど生じていないのではないかとも考えられる。数万円程度の消費貸借と数 10 億円にのぼるような融資において状況が異なるのは当然であり,特定の期間を設定することは,かえって適切ではない解決につながる可能性があるのではないかと考えられる。
これらの点を考慮して,現行法通り,「相当の期間」を定めた催告によって,契約が終了するということを提案したものである。
2.その他の検討事項-終了原因としての借主の信用危殆
なお,これ以外に,借主の信用危殆を消費貸借の終了原因として規定するという可能性についても検討を行った。借主の信用危殆を,消費貸借の終了原因という観点から規定している立法例としては,改正ドイツ民法が挙げられる17。しかしながら,そのような構成は,ここでは採用しなかった。
第1に,融資実行前については,【Ⅳ-3-7】において,すでに規定しており,あえて契約の終了原因として規定することは不要だと考えられることによる。
なお,諾成的消費貸借が,当事者間の諾成的合意によって成立するものである以上,【Ⅳ
-3-7】の規律自体を,消費貸借の終了として置くということも考えられないではない。しかし,これがあくまで融資実行前の特則としての性格を有するものであり,いわば確定的な消費貸借関係の成立以前の段階での契約の解消という特則を定めるものだという点に照らせば,契約の終了として規定することは必ずしも適切ではないように思われる。また,【Ⅳ
-3-7】では,【Ⅳ-3-10】と異なり,現行法の規定をふまえて,当然の解消という方式を採用している。これは,破産手続開始決定という前提要件に対応したものであるが,この点でも,【Ⅳ-3-10】において並べて規定することは,適当ではないと考えられる。第2に,融資実行後について,告知期間の要件を一律に要求しないというルールを採用す ることは,なるほど一定の合理性を有するものと考えられる一方で,この問題が,消費貸借契約に限った問題ではないことに照らせば,それを当然のルールとして導入することについは慎重であるべきと考えられる。なお,ドイツ民法のように,一律に 3 ヶ月の告知期間を要
17 改正ドイツ民法 490 条は,通常の告知による消費貸借の終了とは別に,「①借主の財産関係または消費貸借のために設定された担保の価値に重大な悪化が生じ,または生じるおそれがあり,それによって貸金の返還が担保を用いた場合においても危殆化するおそれがあるときは,貸主は,消費貸借契約を,貸金の支払い前は,危殆化のおそれが場合は常に,貸金の支払い後は,原則的に告知期間の定めなしに告知することができる。」と規定し,借主の信用危殆を契約の終了原因として位置づけている。
求するという制度を前提とせず,「相当の期間」という告知期間についての規定の仕方を採用する場合には,この問題がもたらす深刻度は軽減されるものと考えられる。
3.規定の形式について
なお,現民法 591 条は,本提案と同様の内容を目的物の返還時期の規定として置いている。しかしながら,消費貸借も諾成契約とされ,その他の利用型契約との統一性をはかるうえでも,消費貸借の終了の規定として再編することが適切であると判断したものである。
2. 目的物の返還
Ⅳ-3-11 目的物の返還
現民法 592 条の規定を維持する。
関連条文 現民法 592 条(価額の償還)
【提案要旨】
目的物の返還が不可能となった場合についての現民法 592 条の規定を維持することを提案するものである。
V. その他
Ⅳ-3-12 利率等に関する規律
利率に関する規定は置かないものとする。
【提案要旨】
本提案は,現行法と同様に,利率に関する規定は置かないことを確認するものである。
【解 説】
利息制限法との関係
金銭消費貸借の場合には,利息制限法が適用されることになるが,これについては利息制限法で示されるところであり,特に,民法の中で言及する必要はないものと思われる。
なお,利息制限法に相当する規律を全体として民法の中に取り込むという可能性もないわけではないが,以下の点に照らすと,必ずしも,それが合理的な解決だというわけではないと思われる。
第 1 に,特別法として用意された利息制限法の方が,経済変動等に対応して改正を行うことが容易であると思われる。従前,このような観点からの改正はなかったが,その一般的可能性は維持すべきであり,相対的により改正が困難であると思われる民法の中に,これらの規定を置くことは適切ではない。
第 2 に,現行の利息制限法は,金銭を目的とする消費貸借としており,民法において用意される消費貸借とのずれは大きくないが(金銭以外を目的とする消費貸借が外れるのみ),他方で,利息制限法で扱われる問題というのは,消費貸借以外の信用供与においても考えられるものである。現在は,あくまで消費貸借に限定されているとしても,そうした他の形式での信用供与に拡張する可能性をあらかじめ封じることは適当ではない。この点からも,民法の中に規定することは,かえって,そうした可能性を減じることになると思われる。