Contract
発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドラインについて
国土交通省土地・建設産業局建設業課建設業適正取引推進指導室
1.ガイドライン策定の背景・経緯
建設工事の請負契約はその当事者が各々の対等な立場における合意に基づいてxxに締結されなければならず、その適正化を図ることは、建設業の健全な発展のみならず、工事の適正な施工の確保を通じて発注者等の利益を図る上でも必要なものです。これまでに、元請企業と下請企業との契 約については、平成19年6月「建設業法令遵守ガイドライン」を策定し、元請下請間の契約適正化を推進してきましたが、発注者(施主)と受注者(元請企業)との間の契約においても、不適正な取引実態が存在しており、さらに、こうした取引実態が元請下請間の不適正な取引関係を生む一因に
もなっているとされています。
加えて、こうした状況を受けて、平成20年3月の低価格受注問題検討委員会報告では、「建設工事の発注者が守るべきルールや法令上問題となる行為の具体的事例をまとめた発注者向けのガイドラインの策定を行うことが必要である」とされるとともに、平成23年6月の建設産業戦略会議とりまとめ「建設産業の再生と発展のための方策2011」においても、「受発注者間の建設業法令遵守ガイドラインの早期策定及びその活用が必要」とされたところです。
このため、公共工事、民間工事にかかわらず発注者と受注者間における契約の適正化が促進されるよう、契約当事者である受
発注者がどのような対応をとるべきか、また、どのような行為が不適切であるかを明示した本ガイドラインを策定し、広く建設工事の発注者と受注者に周知し、発注者と受注者との対等な関係の構築及びxx・透明な取引の実現を図ることとしました。
2.本ガイドラインのポイント
本ガイドラインは、建設工事の請負に関する取引の流れに沿った形で、見積条件の提示から支払までの法令遵守が必要な7つの項目について、法令の規定の趣旨、留意すべき事項、とるべき望ましい行為などについて解説するとともに、独占禁止法との関係、社会保険・労働保険といった関連法令についても解説を加えました。
それでは、本ガイドラインに記載されている項目ごとにその要旨等を紹介します。
⑴ 見積条件の提示
建設業法においては、発注者による見積条件の提示に関し、工事内容、下請工期等の13の事項について具体的内容の提示義務を課すとともに、工事の規模によって必要な見積期間を設ける義務を課しています。本項目では、建設業法による見積条件の 提示義務に関し、例えば、設計図書、工事の全体工程、施工環境、施工制約等といった発注者が提示しなければならない事項を具体的に示すとともに、建設工事の予定価
格に応じて、建設業法上設けなければならない見積期間についても解説しています。また、上記見積期間については、受注予定者が見積りを行うための最短期間であり、大規模な工事等においては、余裕をもった見積期間を設けることが望ましい旨についても示しています。
⑵ 書面による契約締結ア 当初契約
建設工事の請負契約については、建設業法により、工事の着工までの間に同法で定める一定の事項を記載した契約書面を交付することが義務付けられています。
本項目では、建設工事の請負に係る契約書面に記載しておかなければならない内容、試運転等が必要な工事についてはその期間を含めた工期を設定すること等の実務上の留意点等について具体的に示すとともに、厳に慎むべき受注者に過度な義務や負担を課す片務的な契約内容の事例として、
「発注者の責めに帰すべき事由により生じた損害についても受注者に負担させること」、「法定の瑕疵担保期間を大幅に超えた長期間の瑕疵担保期間の設定」等を挙げ、契約外で受注者に求められる片務的な事例として「販売促進への協力などを無償で求めること」、「設計図書と現場が異なっていた場合に、設計変更の作業を受注者に無償で協力させること」を挙げています。
イ 追加工事等に伴う追加・変更契約
建設工事の追加・変更契約については、建設業法により、追加・変更等工事の着工までの間に同法で定める一定の事項を記載した契約書面を交付することが義務付けられています。
そのため、追加工事等が生じているのにも関わらず、合理的な理由なく、発注者が
建設工事の契約変更手続きを行わない場合は建設業法違反となります。
また、工事状況により追加工事の全体数量等の内容が着工前に確定できず、着工前に追加工事等に係る契約書面の交付が行えない場合の対応方法として、追加工事等の具体的内容、当該工事等に係る契約単価の額等の一定の事項を記載した書面の取り交わしを行い、内容確定後遅滞なく変更契約等の手続を行う特例的な対応方法を示すとともに、追加工事が発生した状況に応じ、当該追加工事等に係る費用等について受発注者間で十分協議することが必要であり、その費用を受注者に一方的に負担させることは、「不当に低い請負代金の禁止」に違反するおそれがあることなども示しています。
ウ 工期変更に伴う変更契約
工期については、建設業法上、請負契約において定められなければならない項目となっており、工期変更に伴う変更契約についても追加工事等と同様に工期変更に係る工事の着工前に書面で変更契約を行うことが必要であるなど、追加工事等に伴う追加変更契約と同様の対応が必要であることを示しています。
⑶ 不当に低い発注金額
建設業法では、「取引上優越的な地位」にある発注者が、自らの「取引上の地位を不当に利用」して、「通常必要と認められる原価を下回る額」で受注者に取引を強いる行為を禁止しています。
ここで、発注者が同法にいう取引上優越的な地位にあるかどうかは、受発注者間の取引依存度等により判断され、取引上の地位の不当利用については、発注金額の決定に当たり受注者と十分な協議が行われたか
どうかといった受発注者間の対価の決定方法により判断されます。
また、「通常必要と認められる原価」とは、当該工事に係る直接工事費、間接工事費及び一般管理費の合計額(利潤相当額を除く。)をいうため、具体的には受注者の実行予算、下請取引の状況、同種工事の請負代金の実例等により判断されます。
なお、上記については、当初契約締結後の契約変更等による減額等についても対象としているため、例えば、契約締結後に①発注者が原価の上昇を伴うような工事内容の変更をしたのに、それに見合った工事代金の増額を行わない場合や、②発注者が一方的に工事代金の減額を行った場合についても、減額等により工事代金の額が前述の原価を下回ったときは、建設業法の「不当に低い請負代金の禁止」に違反するおそれがあることに発注者は留意しなければなりません。
⑷ 指値発注
指値発注とは「発注者が受注者との請負契約を交わす際、受注者と十分な協議をせず又は受注者の協議に応じることなく、発注者が一方的に決めた請負代金の額を受注者に提示(指値)し、その額で受注者に契約を締結させる」行為をいいます。
指値発注は、受注者と十分な協議を行うことなく請負代金の額が事実上決まるため、契約額が受注者の工事原価を下回ることもあり得ることから、そのような場合には建設業法の「不当に低い請負代金の禁止」等に違反するおそれがあるなど建設業法上問題となる蓋然性の高い取引手法です。
このため、請負契約の締結に当たり、発注者が契約額を提示する場合には、自らが提示した額の積算根拠を明らかにして受注
者と十分に協議を行うなど、一方的な指値発注により請負契約を締結することがないよう留意する必要があります。
⑸ 不当な使用材料等の購入強制
建設業法では、「請負契約の締結後」に発注者が、自らの「取引上の地位を不当に利用」して、受注者に対して「工事の使用資材又は機械器具の商品名又は販売会社を指定」し、受注者に対して「金銭面及び信用面において損害を与えること」を禁止しています。
このため、発注者がとるべき留意事項として、使用資材等の指定を行う場合には、発注者はあらかじめ見積条件として提示する必要があることを示しています。
⑹ やり直し工事
発注者が、やり直し工事を受注者に依頼する場合には、発注者が受注者に対して一方的に費用を負担させることなく、受発注者間で帰責事由や費用負担について、十分協議することが必要です。
また、受注者の責めに帰さないやり直し工事を依頼する場合は、受注者と十分協議した上で契約変更を行うことが必要です。受注者の責めに帰すべき理由があるとし て受注者に全ての費用を負担させ、工事のやり直しを求めることができるのは、施工が契約書面に明示された内容と異なる場合や施工に瑕疵等がある場合等が考えられますが、次のような場合は、発注者の責めに
帰すべき事由がある場合に該当します。
① 受注者から施工内容等を明確にするよう求められたにもかかわらず、発注者が正当な理由なく明確にしなかったことによりやり直し工事が発生した場合
② 発注者の指示、あるいは了承した施工内容に基づき施工した場合において、工
事の内容が契約内容と異なる場合
⑺ 支払
請負代金については、発注者と受注者の合意により交わされた請負契約に基づいて適正に支払わなければなりません。
また、発注者から受注者への支払は元請下請間の支払に大きな影響を及ぼすものであることから少なくとも引渡終了後できるだけ速やかに適正な支払を行うよう契約書で定めることが求められています。
建設業法では、発注者にかかる請負代金の支払期限に関する規定はありませんが、受注者である特定建設業者の元請負人に対しては、発注者から工事代金の支払があるか否かにかかわらず、下請負人が引渡しの申出を行った日から起算して50日以内で下請代金を支払わなければならない等の規定があります。
このため、発注者は、受注者がこれらの規定に違反する行為を誘発しないよう引渡しを受けた場合には、できるだけ速やかに支払を行うこと。長期工事の場合などにおいては、いわゆる出来高払制度等を活用することが望ましいこと。また、手形期間の長い手形を交付しないことが望ましいことなどを示しています。
⑻ 関係法令
建設業の取引については、建設業法のほ
か、独占禁止法による規制(不xxな取引方法の禁止)の対象ともなっており、不当に低い発注金額や不当な使用資材等の購入強制に抵触する行為は独占禁止法第19条で禁止している「不xxな取引方法」の一類型である優越的な地位の濫用にも該当するおそれがあります。
本項目においては、指値発注、やり直し工事等といった取引類型の別ごとに、xx取引委員会の「優越的な地位の濫用に関する独占禁止法の考え方」との対応関係を明らかにしています。
また、社会保険料や労働保険料は、受注者が義務的に負担しなければならない法定福利費であり、「通常必要と認められる原価」に含まれるべきものであることや、発注者及び受注者は見積時から法定福利費を必要経費として適正に考慮する必要がある旨を示しています。
3.おわりに
本ガイドラインについては国土交通省ホ ー ム ペ ー ジ(xxxx://xxx.xxxx.xx.xx/ report/press/totikensangyo13_hh_000129. html)にその全文が掲載されていますので、ご活用方よろしくお願いいたします。また、ご質問等があれば、国土交通省建
設業課までお問い合わせください。