注 1 フェーズⅠについては 1991 年 5 月のパリクラブ合意に基づき、OECF は 1991 年 7 月を初回、2026 年 7月を最終返済日とする債務返済の繰延(リスケジュール)契約を、1993 年 4 月にエジプト政府との間で締結している。
エジプト「ベニスエフ・セメント工場建設事業(Ⅰ)、(Ⅱ)、(Ⅲ)」
評価報告日:1999 年 1 月現地調査日:1998 年 5 月
事業概要
フェーズⅠ | フェーズⅡ | フェーズⅢ | |
借 入 人 | エジプト・アラブ共和国 | ||
実 x x 関 | ベニスエフ・セメント社(当初 ナショナル・セメント社) | ||
交換xx締結 | 1983 年 11 月 | 1985 年 4 月 | 1992 年 3 月 |
1986 年 2 月 | 1988 年 10 月 | 1992 年 6 月 | |
貸付完了 | 1991 年 2 月 | 1993 年 10 月 | 1997 年 5 月 |
貸付承諾額 | 8,760 百万円 | 15,750 百万円 | 12,490 百万円 |
借款契約実行額 (チャージ含む) | 8,760 百万円 | 15,750 百万円 | 10,254 百万円 |
調達条件 | 部分アンタイド | 部分アンタイド | 一般アンタイド |
貸付条件 (期間) | 償還期間 30 年 (うち据置 10 年)注1 | ||
貸付条件 (金利) | 3.5% | 4.0% | 2.7% |
注 1 フェーズⅠについては 1991 年 5 月のパリクラブ合意に基づき、OECF は 1991 年 7 月を初回、2026 年 7月を最終返済日とする債務返済の繰延(リスケジュール)契約を、1993 年 4 月にエジプト政府との間で締結している。
参 考
(1) 通貨単位: エジプト£(ポンド)(LE)
1LE=100 ピアスター=1000 ミリエーム
(2) 為替レート・消費者物価指数(CPI:1990 年=100)
年 | 1985 | 1986 | 1987 | 1988 | 1989 | 1990 | 1991 | 1992 |
円/LE | 285.7 | 227.3 | 176.4 | 179.5 | 000.0 | 00.0 | 00.0 | 00.0 |
XX/XX$ | 0.700 | 0.700 | 0.700 | 0.700 | 1.100 | 2.000 | 3.330 | 3.336 |
円/US$ | 200.5 | 159.1 | 123.5 | 125.9 | 143.5 | 134.4 | 125.2 | 124.8 |
CPI | 40.5 | 50.2 | 60.0 | 70.6 | 85.6 | 100.0 | 119.7 | 136.1 |
1993 | 1994 | 1995 | 1996 | 1997 |
33.2 | 29.4 | 30.6 | 34.5 | 38.3 |
3.370 | 3.392 | 3.390 | 3.384 | 3.388 |
111.9 | 99.7 | 102.8 | 116.0 | 130.0 |
152.5 | 165.0 | 190.9 | 204.7 | 214.1 |
(出所:IFS)
(4) 会計年度:7~6 月
(5) 略語
NCC : National Cement Company BCC : Beni-Suef Cement Company
RED
SEA
RED SEA
事 業 地
MEDITERRANEAN SEA
Alexandria
Port Said
ISRAEL
JORDAN
Suez
N
CAIRO
El Giza
Sinai
Beni Suef
SAUDI ARABIA
El Minya
Asyut
Nag Hamadi
Aswan
Lake Nasser
0 50 100 150km
ETHIOPIA
SUDAN
ERITOREA
本事業サイト�
EGYPT
LIBYA
Cairo
MEDITERRANEAN�
SEA
1. 事業概要と主要計画/実績比較
1.1 事業概要と OECF 分
本事業は、エジプトにおける新都市開発・関連インフラ整備事業等の実施による旺盛なセメント需要に対応するため、カイロxx約 120km のベニスエフ市に年産 1,000 千トンのセメント工場を建設するものである。本事業に対しては、資金需要に応じ 3 つのフェーズに分割されて OECF から借款が供与された。借款対象は、事業費の外貨分全額である。
1.2 本事業の背景
エジプトのセメント生産の歴史は古く、豊富な原料(石灰石)を背景として 20 世紀初頭から生産を開始している。1930 年代から 1970 年代前半にかけては、エジプトはセメントの輸出国であり、同国の貴重な外貨獲得源にもなっていた。
しかしながら、1973 年の第 4 次中東戦争後の国内復興、これに続く門戸開放政策を背景とした国内需要の急増、さらに 1971~78 年の間はセメント工場の新規拡張プロジェクトが行なわれなかったことなどに、工場の老朽化に伴う生産能力の低下も重なり、下図に示すように、1975 年以降はセメント輸入国に転じた。さらに、その後のセメント需要も 1990
年にかけ年率 9.5%で増加することが予想された(参照下表および図)。事実、その後第 1
次 5 ヶ年計画(1982/83~1986/87 年度)、第 2 次 5 カ年計画(1987/88~1991/92 年度)を通し工業セクターへの重点的投資の必要性や住宅整備のため建設部門の需要が増し、上記予測に沿ったセメント需要が見込まれた。
これら需要にこたえるため、1980 年代に多くのセメント工場の新規建設プロジェクトが計画され、本事業もその中のひとつに位置づけられていた。
表 1-1 1980 年当時のエジプトのセメント需給状況 (千トン)
実績 | 予想 | ||||
1970/71 | 1974/75 | 1980/81 | 1985/86 | 1990/91 | |
国内需要 | 2,913 | 3,679 | 6,256 | 11,500 | 18,000 |
輸出 | 901 | 97 | 1 | 0 | 0 |
需要計 | 3,814 | 3,776 | 6,257 | 11,500 | 18,000 |
国内生産 | 3,814 | 3,583 | 3,696 | 8,108 | 16,208 |
輸入 | 1,331 | 193 | 2,561 | 3,392 | 1,792 |
供給計 | 5,145 | 3,776 | 6,257 | 11,500 | 18,000 |
20000
15000
10000
5000
輸入
国内生産輸出
国内需要
0
-5000
-10000
-15000
1970/71
1974/75
1980/81
1985/86
1990/91
-20000
年
(出所:エジプト政府)
1.3 本事業の経緯
本事業の経緯は下記の通り。
1982 年 12 月 「エ」政府、本事業を 82 年度円借款候補案件の一つとして要請。
1983 年 3 月 OECF 審査ミッション派遣。
4 月 「エ」大統領来日の際、82 年度円借款の事前通報。うち、本事業に対してはフェーズⅠ分として 8,760 百万円の供与決定。
11 月 82 年度円借款交換xx締結(フェーズⅠ)。
1984 年 6 月 83 年度円借款事前通報。
1985 年 4 月 83 年度円借款交換xx締結(フェーズⅡ)。
12 月 本事業の本体工事契約締結。
1986 年 2 月 フェーズ I 借款契約調印。
1987 年 3 月 84 年度円借款事前通報。うち、本事業に対しては、フェーズⅢ分として
12,490 百万円の供与決定。
1988 年 1 月 83 年度円借款交換xx(フェーズⅡ)「エ」国会批准完了。
10 月 フェーズⅡ 借款契約調印。
1989 年 2 月 事業着工。
1990 年 8 月 イラク、クウェートに侵攻。
8~9 月 xx総理中東歴訪の際、湾岸危機にかかる中東貢献策の一環として本事業(フェーズⅢ)を再度事前通報。
1991 年 5 月 債権国によるエジプト政府対外債務返済繰延についてパリクラブ合意。
1992 年 3 月 フェーズⅢ 交換xx締結。
5 月 フェーズⅢ 交換xx国会批准。
6 月 フェーズⅢ 借款契約調印。(3 フェーズ合計額:37,000 百万円)。
1993 年 4 月 OECF が本事業の借款分を含み、エジプト政府に対し債務返済繰延を行なう旨の契約を締結する。
9 月 本事業工場完成。
1994 年 11 月 本事業商業運転開始。
1.4 主要計画・実績比較
1.4.1 事業範囲
項目 | 計画 | 実績 | 差異 |
1.セメント工場 | なし なし なし - 注)ターンキー契約の一部として雇用され た。 | ||
(1)生産プロセス | ニュー・サスペンション・プレヒーター(NSP)方式 | 同左 | |
(2)生産規模 | ポルトランド・セメント 1,000 千トン/年 | 同左 | |
(3)主要設備 | 破砕設備 原料粉砕設備 キルン・プラントセメント粉砕設備 パッキング・プラントユーティリティ設備等 | 同左 | |
(4)スペアパーツ | なし | 購入あり | |
2. コンサルティング・サービス | 設計のレビュー、および施工監理 | 同左 |
1.4.2 工期
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992 1993 1994 1995
1. L/A調印
計画(Phase1) 計画実績
計画(Phase2)実績
計画(Phase3)実績
2. エンジニアリング
計画実績
3. 機器製造・輸送
計画実績
4. 土木工事計画
実績
5. 据付工事計画
実績
6. 試運転
計画実績
7. 完了
計画実績
実績
2月
10月
6月
3月
6月
2月
9月
3月
12月
7月
12月
9月
6月
1月
7月
3月
1月
10月
9月
12月
2月
4月
12月
1月
3月
1月
11月
(出所:PCR、審査時資料)
1.4.3 事業費
項目 | 外貨分(百万円) | 内貨分(千エジプト£) | 合計額(百万円) | ||||||
計画 | 実績 | 差額 | 計画 | 実績 | 差額 | 計画 | 実績 | 差額 | |
工場本体 | |||||||||
機器 | 24,027 | 23,571 | -456 | 2,654 | 2,775 | 121 | 24,797 | 23,704 | -1,093 |
輸送 | 2,247 | 436 | -1,811 | 2,968 | 2,635 | -333 | 3,108 | 562 | -2,546 |
土木工事 | 5,777 | 4,747 | -1,030 | 18,990 | 14,960 | -4,030 | 11,284 | 5,462 | -5,822 |
据付工事・試運転 | 4,949 | 4,810 | -139 | 5,388 | 5,238 | -150 | 6,512 | 5,060 | -1,452 |
スペアパーツ | - | 1,200 | 1,200 | - | - | 0 | - | 1,200 | 1,200 |
工場本体計 | 0 | 34,764 | -2,236 | 30,000 | 0 | -4,392 | 45,701 | 35,988 | -9,713 |
(注) | |||||||||
コンサルティング・サービス | 0 | 0 | 0 | 3,700 | 0 | -3,700 | 1,073 | 0 | -1,073 |
その他 | - | - | - | - | 31,000 | 31,000 | - | 1,482 | 1,482 |
合計 | 0 | 69,528 | -2,236 | 30,000 | 31,000 | 22,908 | 46,773 | 37,470 | -9,304 |
換算レート: 計画時(OECF による審査=1983 年 3 月)1エジプト£=290 円実績(加重平均) 1エジプト£=48 円
(注)コンサルタントは、工場本体契約(ターンキー契約)の一部として雇用されたため、実績においては区分して計上できない。
(出所:PCR、審査時資料)
2. 分析と評価
2.1 事業実施にかかる評価(事業範囲/工期/事業費/実施体制等)
2.1.1 事業範囲
(1) 事業全体
工場本体の事業範囲については、ほぼ計画どおりに実施されており、特記すべき事項はない。事業範囲に変更がなかった理由のひとつとして、工場の建設が設計と施工を一括して請負業者(コントラクターと商社のコンソーシアム)に発注するターンキー方式で行なわれたことがあげられる。
また、計画にはなかったスペアパーツが追加購入されているが、営業開始後のスムーズな稼働を担保するための調達であり、妥当な購入と思われる。
(2) プラントの設計および生産能力
ここでは、年間セメント生産能力 1 百万トン(キルン 3,500ton/日)を前提として、本事業の工場と他国の同規模の工場の設備容量(能力)の比較を行い、設計の妥当性をみた。その結果、本事業の工場の設備容量は他の同規模のセメント工場のものより余裕を持たせたものとなっており、生産能力上問題ないものと認められる(表 2-1)。
表 2-1 設備容量比較
ベニスエフ(本事業) | 他国同規模工場 | |
①石灰石置場能力 貯蔵日数 | 90,000 ton 18日 | 30,000~40,000 ton (平均) 6~8 日 |
②粘土置場能力 | 20,000 ton | 10,000~15,000 ton (平均) |
貯蔵日数 | 16 日 | 8~12 日 |
③原料ミル | 360 t/h | 280 t/h |
④ブレンディング・サイロ | 30,000 ton | 20,000 ton (平均) |
⑤キルン | 3,500 t/日 | 3,500 t/日 |
⑥セメントミル ⑦クリンカーサイロ ⑧セメントサイロ | 220 t/h 60,000 ton 50,000 ton | 190 t/h 30,000 ton (平均) 25,000~30,000 ton |
(出所:BCC および技術専門家による推定計算)
2.1.2 工期
本事業の完工は、当初計画(フェーズⅠの審査:1984 年時)では、1988 年 3 月を予定していたが、実際には 6 年 8 ヶ月遅れの 1994 年 11 月となった。この内訳としては、事業の
着工が予定より約 4 年遅れ 1989 年 2 月となり、工期も予定より 2 年 8 ヶ月伸びたことによる。
これら遅延の原因は、おもに当時のエジプト政府の財政状態の逼迫への懸念からエジプト国会における日・「エ」間の交換xxの批准が大幅に遅れ、これによりエジプト政府と OECF との間での借款契約の調印が遅れたことにある。その詳細な経緯は、以下のとおりである。
① 本事業の借款対象額は、総事業費のうち外貨分全額 370 億円である。しかし、これを一度に供与するには金額が大きすぎたため、年次別の資金需要に応じ 3 年次にフェーズ分け1して、xx借款を供与することになった。
② これに基づき、フェーズⅠの借款契約は 1986 年 2 月に調印された。しかし、続くフェーズⅡの借款手続きにおいては、交換xxのエジプト国会による批准が遅れた(交換xx 85 年 4 月、批准 88 年 1 月)ことから借款契約調印は 88 年 10 月になった。また、後述するようにフェーズⅢの交換xx交渉がエジプト側からの問題提起により遅延していたことか
1 実際には、第一フェーズ供与後、エジプト側より残りを更に 2 分割にしたいという要請に基づいて、第二、第三フェーズと分割を行なった。
ら、本事業の実施機関であるナショナル・セメント社(以下、「NCC」)は、着工後に資金ショートによる事業中断が生じないよう、工事の着工を意図的に遅らせた。しかし、その後、エジプト政府やコントラクターから NCC に対して工事の着工要求が出され、ようやく 89 年 2 月にプラント建設が開始された。
③ 一方、フェーズⅢについては、金利の問題やエジプト政府による本事業を含めた債務返済の延滞から、交換xx交渉が難航した。その後、日本政府は 90 年 10 月に湾岸戦争における中東周辺国支援策の一環から、フェーズⅢを他の対エジプト借款案件から切り離して、再度事前通報を行なった。しかし、90 年末からエジプト政府より金利低減等と併せ、借款額の変更等の申し出もあり、最終的に、92 年 6 月までフェーズⅢの借款契約が調印されなかった。
以上より、本事業の完工は、当初予定に対し 6 年 8 ヶ月遅れることとなったが、この完工の遅れが、セメント供給の遅れを招いた以外に、ベニスエフ・セメント社(現在の実施機関。以下、「BCC」)の B/S 上の固定資産価額の換算額にも影響を与えた。
一連の借款手続きの遅れは、当時のエジプト政府の財政問題によるところが大きい。特にフェーズⅢについては、エジプトの OECF に対する利息支払の遅延が生じていた状況下では、いずれにしても新規融資承諾を行なうのは困難であったと思われる。
2.1.3 事業費
(1) 借款形態
本事業の借款資金は、OECF からエジプト政府に貸し出され、その後エジプト政府から NCC(BCC)に OECF とエジプト政府の間の借款契約と同一条件で転貸されている(NCCと BCC の関係については「2.1.4 実施体制(1)実施機関」にて詳述)。
このため、利息の支払い・元本の返済にかかる為替リスクは、全て(BCC)が負う形になっている。
(2) 債務支払の繰延(リスケジュール)の効果
本事業の債務を含む当時のエジプトの対外債務について、1991 年 5 月のパリクラブ合意により債務支払の繰延が決定された。これに基づき、OECF も 1986 年 10 月 31 日以前にエジプトとの間で借款契約を調印した債権(本事業ではフェーズⅠ)について、2026 年を最終返済日とする債務支払の繰延に応じた。本事業の債務について言えば、本来 1998 年末から返済が始まるものについて、2007 年を初回として 2026 年まで返済の猶予を与えたことになる。
しかしながら、今回の現地調査の結果、NCC(BCC)はフェーズⅠの借款契約時点で交された返済スケジュールのままエジプト政府に債務を返済しており、OECF の行なった債務支払について NCC(BCC)側ではよく認識していないことが明らかになった(社長
(Chairman)以外の職員は、OECF による債務支払の繰延べを承知していなかった)。また、さかのぼって、フェーズⅢの借款契約調印の遅れがエジプト政府のxx支払遅延に起因す るものであることも十分理解されていなかった。本事業の借款契約上、エジプト政府が円 借款の借入人であり OECF としてはエジプト政府と NCC(BCC)との間の返済方法につい て、NCC(BCC)と、直接交渉する立場にないため、NCC(BCC)側が情報不足となるの はやむを得ないが、少なくともエジプト政府からは説明があってもよいものと思われる。 NCC(BCC)側では、従来より為替変動によるエジプト£建てでの債務の増加および工期 遅延について OECF に対して不満を有していたようであるが、これはエジプト政府が NCC
(BCC)に十分な説明を行なってこなかったことも一因と思われる。
(3) 事業費
事業費は、外貨分が計画(フェーズ 1 の審査:1984 年時)に対し 6%の減少(37,000 百万円→34,764 百万円)であり、内貨分は同じく 68%の増加(33,700 エジプト£→56,608 エジプト£)となった。
外貨分の実績が計画を下回り、逆に内貨分の実績が計画を上回った理由としては、円高の進行に伴う将来の負担増をおそれ、金額的にも事業内容としても NCC の自己資金で対応できるもの(事務棟やストック用の建物、構内道路などの建設)は、極力自己資金で賄ったことが挙げられる。
また、スペアパーツの追加購入は、上記 NCC の対応により余裕が生じた外貸資金によって行われており、その必要性からみて妥当な支出と考えられる。
以上を含め、本事業の事業費について特に問題ないものと思われる。また、コンサルタントの雇用については、当初計画時にはターンキー契約外で雇用される予定であったが、最終的にはターンキー契約内の雇用となったため、事業費上は工場本体費用に含まれる形となっている。
なお、本事業では事業実施中に進行した円高のため、内貨(エジプト£)で換算した事業費は、かなり大きなものとなっており、これに伴う NCC(BCC)の負担は重い。これについては次項の実施機関の財務状況において詳しく述べる。
2.1.4 実施体制
(1) 実施機関
本事業の実施機関は、1984 年の計画時においては国営のナショナル・セメント社(NCC: National Cement Company)であったが、1993 年 10 月以降は、この NCC より分離・独立し て設立されたベニスエフ・セメント社(BCC:Beni Suef Cement Company、1997 年 6 月現在 の従業員数 756)に引き継がれている。また、エジプト政府の行政改革の関係から、本事業 の窓口官庁も、開発・新コミュニティー・住宅・公共設備省(The ministry of the development、 new community、housing and public utilities)から公企業省(The ministry of public enterprises)に一度変更され、さらに現在は住宅・公共設備省(The ministry of the housing and public utilities)となっている。
NCC からの BCC の分離・独立は、エジプトの経済改革の柱である国有企業の民営化という一連の流れの中で、ベニスエフ・セメント工場を NCC より切り離し民営化するための準備として行なわれたものである。しかし、民営化は予定どおりにはなされず、1998 年 6月現在、BCC は国営のままである。
ベニスエフ・セメント工場建設はターンキー契約で行なわれたため、工場の完成までの実施機関(NCC)の役割は、調達された資材の管理等にとどまった。工場の稼働開始後は、コンサルタントの技術的サポートを受けながら、BCC が十分に管理・運営しており、その運営・維持管理状況は良好であると思われる(詳細は後述)。(表 2-2 参照)
表 2-2 各組織の役割分担
~1993 年 9 月(工場完成まで) | 1993 年 10 月(工場完成後) ~1998 年 5 月現在 | |
実施機関 | NCC(資材管理等の管理業務全般) | BCC(運営・維持管理業務) |
設計・施工 | 本邦鉄鋼メーカーと商社のコンソーシアム(ターンキー契約による工場建設) | |
コンサルタン ト | エジプトとスイスの合弁会社 (施工管理および試運転指導) | 同左 (運営・維持管理業務サポート) |
(出所)BCC 等
(2) コントラクター
本事業の工場本体の建設は、本邦業者 6 社間の指名競争入札(1984 年 6 月)の結果、本邦企業と本邦商社のコンソーシアムがターンキー契約で請け負った。本事業の場合、借款契約上の調達条件は部分アンタイドであるが、当時、調達適格国において本事業規模のセメント工場を建設し、かつ十分な操業指導と維持管理補助を行なうことができるコントラクターは本邦 6 社に限定されてた。このため、NCC はこの 6 社間での指名競争入札を要求し、OECF もこれを妥当なものとして認めたものである。これは、OECF 調達ガイドラインに沿ったものであり、特段問題はない。
コントラクターの設計・施工状況については、予定されていた設備を計画どおり建設し、また、今回の現地調査でもその建設内容について、特に大きな問題点となるものは見受けられないことから、そのパフォーマンスは良好であったと判断される。(NCC(BCC)からの報告でも、コントラクターのパフォーマンスは「良好」となっている。)
(3) コンサルタント
NCC では、従来よりコンサルタントとして、スイスの会社とエジプトの国営セメント各社との間で共同出資されたコンサルタント会社を雇用しており、本事業においても当該会社がコンサルタント業務を行なった。コンサルタントの業務範囲は、工場建設の施工管理および試運転指導であった。当該コンサルタントは工場建設後も引き続き BCC の技術的サポート業務を行なっており、運営・維持管理状況の項でも後述するように、そのパフォーマンスは良好であるといえる。
2.2 運営・維持管理に係わる評価
2.2.1 運営・維持管理体制
(1) 工場の維持管理
BCC は、コンサルタントの指導の下に、予防保全の概念を取り入れた維持管理体制を設けており、以下のような標準書およびデータシートも取り揃えられている。今回の現地調査で確認した限りでは、工場の管理は総じてよくなされていると思われる。
点検者、運転作業者および維持管理担当者の間の連携は以下のとおりである。これにより、メンテナンスの実績も蓄積されていく仕組みである。
問題発生時 作業依頼
点検者 → 運転作業者 → 維持管理担当者
(チェックリストにより管理) (作業記録)
実際のキルンの定期点検(定期休転修理)作業は年間 2 回で、1 回当りの休転日数は約 14 日(2週間)程で実施している。キルンの点検方法はキルンを回転しなくても行なえる方法を採用しているので、キルン外側の維持管理と並行して行なうことが可能である。また、この方法は安全性も高く、定期点検を能率的に行うことができる。点検作業は、コンサルタントにより行なわれているが、その他の維持管理業務では BCC の技術者が全てに幅広くかかわっている。BCC では、将来的に維持管理の面で独り立ちできる体制が、徐々にではあるが整いつつあると言える。
プラント保全の中で、キルンの定期点検に次いで重要な管理が潤滑油管理である。今回の現地調査では、どのような周期で給油、点検するか BCC 側はよく理解しており、一定の管理基準にしたがった管理がなされていることが確認された。
(2) スペアパーツ管理
BCC では、以下の考え方でスペアパーツの管理を行っている。
① 必要な時に必要な仕様のスペアパーツを必要な量だけ提供でき、遅延による機会損失を生じないこと。
② 使用実績管理、調達、検査、保管を厳正にし、またこれらを通してスペアパーツの仕
様変更改良、標準化を図ること。
③ 在庫の削減、保管コストの低減を図ること。
スペアパーツの発注については、責任の所在も明確にされている。また、在庫管理はコンピュータによって行われており、スペアパーツの調達・管理に問題はない。
(3) 製品(セメント)品質管理
① 管理内容
BCC は、蛍光 X 線分析装置 3 台を駆使し、石灰石/粘土混合原料、ブレンディング・サイロ(B/L)入口粉末原料と手作業によるセメントの化学成分や鉱物組成を調べ、日常管理値を満足しているかどうかをチェックしている。サンプリング時間は次の通りであり、きめ細やかな管理が行われていると言えよう。
石灰石/粘土混合原料 | : | 1 時間に 1 回 |
B/L 入口粉末原料 | : | 1 時間に 1 回 |
キルン・フィード原料 | : | 2 時間に 1 回 |
クリンカー | : | 2 時間に 1 回 |
C4 サイクローンダスト: 2 時間に 1 回
セメント : 2 時間に 1 回
さらに管理の対象として、鉱石採掘場、貯蔵場、乾燥/粉砕/調合工程およびサイロ、キルンおよびクーラ、セメントミルおよび出荷工程のほとんどが含まれている。また、これら分析室とプラント運転操作室とは隣り合わせになっており、運転作業者とのコミュニケーションを容易にし、分析結果がスムーズにフィードバックされるような体制となっている。
② 品質
セメントは、その粒子が細かければ細かいほど強度が確保できるため、粒子の細かい方が品質は高いとされている。しかるに、本事業のセメント工場で生産されるセメントは、やや粒子が粗い(日本の標準品に対して約 10%~30%増しの粗さ)。その原因は、セメント・ミルに分級機を設けていないことにあると考えられるが、粒子が粗いということは強
度に劣ると考えられ、品質のみでみた場合、粒子の細かい輸入品との競合は困難である。
しかしながら、本事業で生産されるセメントがエジプト国内で受け入れられていないかというと、必ずしもそうとは断言できない。エジプト国内の日常的なニーズに応えるという限りにおいては、本事業のセメントの品質は特に問題ないといえる。セメントの品質は市場のニーズにより決定されるものであり、エジプトで日本並みの品質を維持すべきかどうかは別の議論であろう。(ちなみに、セメントの強度を引き上る目的で、分級機によるセメントの分別工程が追加されることになれば、技術上、既設セメントミルの能力は現状より低下することになる。)
(4) 工場従事者の教育および訓練
工場の維持管理全般については、コンサルタントの指導下で OJT にて実施されている。また、工場の中堅エンジニア 35 人(工場のキーマン)が他セメント工場経験者であるが、彼らも経験の浅い工場従事者の OJT による教育・訓練に当っている。以上を総合すると、本事業では満足する教育訓練がなされていると思われる。
(5) 工場が環境に与える影響
ベニスエフ・セメント工場は砂漠の中に立地しており、人間の生活や動植物とは全く無関係の場所にある。また、工場用水も循環使用されており、漏水も見られなかった。
一般に、セメント工場において公害問題の対象になるのは、粉塵、騒音、振動および NOx、 SOx 等の大気拡散がある。このうち、騒音、振動は性質上発生源から測定点の距離によっ て減衰されるが、本事業の場合、工場から工場の敷地境界線までの距離は遠く(100m 以上)、境界線上では両者ともほとんど身体に感じられなかったため、問題ないものと思われる。
次に、粉塵については、現在エジプトの規制値は 200 mg/Nm3 以下であるが、来年早々に
は 100 mg/Nm3 以下に強化される見込みである。この点に関し、ベニスエフ・セメント工場では以下の問題を抱えている。
① バイパスシステムからの粉塵濃度が常時 300mg/Nm3 以上ある。
② プレヒータ排ガス中の一酸化炭素濃度が 2%以上を超すと、電気式集塵機(EP)の爆発 防止のための対策として EP 荷電を切るため、この間 50~80g/Nm3(推定)もの多量のダ ストが大気中に放出され続ける。(ベニスエフ・セメント工場のこの一酸化炭素濃度は、日本の同規模のセメント工場に比べ高い。ただし、今回の調査では、データの制約な どからその原因を特定するには至らなかった。今後、専門家による詳細な調査を行な
い、原因の特定と、対策立案・実施を図る必要があろう。)
NOx/SOx の大気拡散については、現在のところエジプトには規制値はないため、ベニスエフ・セメント工場も排出濃度を測定・把握していない。これらについては、将来の規制に備え、今後定期的に実績値を測定していく必要があると思われる。
他に塩素ガスの問題も認められるが、これは現時点では工場の施設(煙突)に直接的な被害を与えているので、次項(2.2.3 工場の問題点)にて述べることとする。
2.2.2 稼働状況
(1) 年間稼働実績
1994 年のベニスエフ・セメント工場完成以来、年間セメント生産実績および稼働日数は以下のように推移している。これからわかるように、操業が本格化した以降は、年間生産量は計画の 1,000 千トンを上回っており、また、年間稼働日数も非常に高い。
表 2-3 ベニスエフ・セメント工場年間稼働状況
計画 | 1994/95 | 1995/96 | 1996/97 | |
年間セメント生産量(千トン) | 1,000 | 616 | 1,017 | 1,150 |
実績/計画 | 62% | 102% | 115% | |
年 間 稼 働 日 数 (日数) | 268.75 | 215 | 293 | 310 |
(出所)ベニスエフ・セメント工場
(2) 月次生産量および稼働時間割合
次に、月次生産量および稼働時間割合を、クリンカー生産量の推移よりみる(下図 2-1 参照)。ここで、生産量が減少している月は定期点検を行なった月である。運転開始から現在までの月別平均生産量は約 92 千トンであり、直近の 97~98 年の定期点検月を除いた平均でみると、月別平均生産量は 104 千トン弱となっている。また、月次の運転時間をキルンの稼働時間でみると、直近の 97~98 年の定期点検月を除いた平均で 94%(681 時間/720 時間)に上り、ほぼフル稼働状況にある。これは、日本におけるセ
メント会社とほぼ同じレベルの稼働状況である。稼働状況を含め、技術的には総合的に高い評価のできる工場である。
図 2-1 月次別クリンカ生産量
140,000
120,000
100,000
80,000
ト ン
60,000
40,000
20,000
Oct-94 Feb-95 Jun-95 Oct-95 Feb-96 Jun-96 Oct-96 Feb-97 Jun-97 Oct-97
Feb-98
0
(出所)ベニスエフ・セメント工場
2.2.3 工場の問題点
2.2.1 運営維持管理体制および 2.2.2 稼働状況の結果を踏まえ、現在までのところ運転に支障をきたしてはいないが、今後の対策次第では重大な問題となりうる点について以下に記述する。
(1) 専門家による集中的な工場診断の必要性
工場の維持管理は、1998 年 5 月現在、前述のコンサルタントの指導の下に行なわれている。コンサルタントとの維持管理契約は工場稼働開始後 1 年毎に更新され、現在まで継続してきている。この背景として、ベニスエフ・セメント工場ではセメント工場に熟知したxxxxのエンジニアの絶対数が少なく、自力にて維持管理するには難しいという点が挙げられる。
現在、基本的にはコントラクター作成のマニュアルに沿った手順で、コンサルタントの指導の下で効率良く保守、保全管理および修繕が行なわれていると言える。しかし、経年変化で設備が古くなっていくとともに、マニュアルにないトラブルや故障が今後は発生してくるであろう。そこで、今後はいかに応用技術力を養うかが問題となる。また、日本の
場合と異なり、エジプトでは機器サプライヤーとセメント工場が離れていることから、難しいトラブルが発生した場合、短時間で問題処理することは難しいと思われる。
このため、設備面および運転面での詳細な工場診断を複数の専門家に依頼し、運転開始から 5 年目を迎える現在の工場の状況を把握し、近い将来問題となりえる要因を正確に把握することが必要と思われる。そこで、スペアパーツが不足していると判断された場合は、早急に手当てをしておく必要がある。例えば、以下のような点が今回の調査で認められた将来の問題となる可能性のある事項である。
① キルンおよびスラストローラ
キルンについては、降り窯の状態で下り側スラストローラに当っており(スラストローラの役目は、必要以上にキルン本体が傾かないようにするためのストッパーであり、通常運転時はキルンがこのスラストローラにあたらないことになっている)、その表面がかなり荒れている。キルンの降り側にかなりの応力がかかっているものと思われるので、キルン・サポーティングローラの切り込み等で昇降調整を実施すべきである。また、非常事態に備えて、スラストローラの予備を手配しておくことも考えられる。
② 石灰石 1 次クーラッシャー/ハンマー取付シャフト
セメントの原料となる石灰石を粉砕機(ハンマー)により細かく砕いているが、このハンマー取付シャフトが、最近になり約 1 ヶ月(180 時間)毎に、あるいは早い時で 1 週間(42時間)毎に破損し、運転不可能となっている。これは構造的な問題と考えられる。したがって、ベニスエフ・セメント工場では新しいシャフト回転機器を 1 式購入し、次期キルン休転期間に取替えるとのことであったが、取り替え後の運転状況に注意する必要がある。
③ コンプレッサー用モーター
現地調査時点では、コンプレッサー用の 270kW モーターが、原因不明の故障で再起動が不可能となっていた。工場では予備コンプレッサーを稼働させる一方、代替のモーターはすでに購入手配済であったが、モーターの故障原因は究明しておく必要がある。
④ GBF 用ファンモーターの故障
GBF(集塵機)用の 1,070 kW モーターにも原因不明の故障が起きていた。幸い、I.D.F(プレヒーター用誘引ファン)のモーター(スペアパーツ)が同一仕様であったため、工場ではこれを転用し急場をしのいでいる。故障したモーターは 5 月上旬にスイスのメーカーに
送り、原因の究明と修理依頼中であったが、現在のところメーカーより何の回答もないとのことであった。
⑤ バイパス・システムでのダスト飛散
電気集塵機(EP)の効率が落ち、現在(1998 年 5 月末)のダスト飛散量は約 300mg/Nm3である。運転当初は 100~150 mg/Nm3 位あったものが、かなり悪化してきていることになる。ベニスエフ・セメント工場では、本件についてメーカーと対策を検討中であった。
⑥ 煙突
排ガス中に煙突の設計基準を上回る塩素ガスが排出されているようであり、これによる HCl(塩化水素)が原因となって、煙突内の酸腐食を進行させている模様である。実際、工 場ではすでに高さ 50m 超の煙突の先端から約 20m にわたり腐食した部分を切断しているが、まだ残っている煙突にもすでに次の腐食の痕跡が見られ、倒壊は時間の問題である。ベニ スエフ・セメント工場側は機器サプライヤーと対策協議中の段階であり、今回現地調査時 点では今後の方針について、まだ決定していなかった。
⑦ ブレンディング・サイロ(B/L)
トラブルなどでセメント粉砕機が停止すると、クリンカと飛散ダストの B/L(1.1.(2)プラント概要上では原料サイロにあたる部分)への投入割合が狂うことや、B/L 内の高圧エアレーションの能力不足が原因で、B/L の均斉化効率を著しく悪くしている。
B/L 内の成分の均斉を保つことは、良質のセメントを生産する上で重要である。現在、ベニスエフ・セメント工場ではこのための技術的努力を行なっているが、サイロ内の成 分の均斉を保つには、上記設備上の問題を解決する必要がある。
2.2.4 BCC の財務状況
1. 財務状況の把握の必要性
本事業においては、2.1.3 事業費の項で述べたように、OECF 借款の為替リスクについては(現在の)実施機関である BCC が負っているが、BCC は過去に OECF がエジプトに対して行なった債務返済の繰延(リスケジュール)の便益を享受できていない。そのため、工場の稼働状況が良好であるにもかかわらず BCC の財務状況が好転しないのは、工場建設のために借り入れたOECF 借款の為替差損によるものであるとBCC より指摘されてきた。一方、従来より BCC の財務状況については、その会計基準および処理方法について不明な点があり、OECF としても BCC の指摘の妥当性の判断を行なうのは困難な状況にあった。そこで、本評価ではその点に留意し、BCC の財務状況の正確な把握を通じ、BCC の指摘の妥当性について検証を試みた。
2. 財務状況
表 2-4 に、入手可能な BCC の最近の財務諸表を示す。
表 2-4 BCC 損益計算書(1995/7/1~1996/6/30) (単位:百万エジプト£)
売上
売上原価
(減価償却費を含まず)
売上総利益
175
(87)
88
支払利息
OECF
OECF以外減価償却費
その他間接経費
(37)
(42)
(77)
(2)
(158)
当期利益(損失)
(70)
注1) 項目については、BCC の財務諸表から組み替えを行なっている。
(出所)BCC
表 2-5 BCC 貸借対照表(1996/6/30) (単位:百万エジプト£)
資産の部 ターンキー・ベースによる調達資産 OECF借款による調達資産その他 ターンキー・ベース外による調達資産減価償却累計額 建設仮勘定(OECF借款)有形固定資産計 その他 資産計 | 1,329 26 1,355 31 1,386 (136) 1,250 118 1,368 154 1,522 | 負債の部借入金 OECF借款 その他借入金 出資金 (持株会社から) その他負債負債計 資本の部 欠損金資本計 資本および負債計 | 1,187 |
183 | |||
203 | |||
76 | |||
1,649 | |||
(127) | |||
(127) | |||
1,522 | |||
注 1) 項目については、BCC の財務諸表から組み替えを行なっている。
注 2) 出資金の 203 百万エジプト£については 98 年中に資本金に組み替えられる予定である。
(出所)BCC
(1) BCC の会計処理方法と日本および国際会計基準に基づく会計処理方法との違い
表 2-4 の損益計算書(P/L)からわかるように、96 年 6 月期では、工場の稼働により獲得さ
れる利益(売上から売上原価を差し引いた 88 百万エジプト£)は、すべて工場の借入金の支払利息と減価償却費に充当され、最終的に当期損失となっている。BCC の意見の中には、この経営成績から判断すると、工場の稼働を続けることは損失の累積を意味することになるので、いっそ工場を閉鎖してしまうべきではないかという極端なものもあった。また、エジプト政府は BCC の民営化を検討中であるが、エジプト政府としても、この P/L の数値では売却先をみつけることは困難であるという意見であった。しかし、BCC の財務諸表の作成においては、有形固定資産の取得価額の決定について、日本あるいは国際会計基準と異なった決定方法をとっている。ここではまず、どのような点が異なっているのかを明らかにして、次に BCC の財務諸表を日本ベースのものに修正した上で、財務状況の分析を行っていくこととする。
① 有形固定資産の取得価格(レート)の決定方法
取得原価主義を原則とする日本の会計基準によれば、有形固定資産の価額は取得時の価格をもとに決定される。これは、外貨建てで資産を購入した場合は、それを取得した日のレート(HR: Historical Rate)により現地通貨へ換算することを意味する。そして、こうして決定された資産の取得価額は、特別な場合(著しい減耗や陳腐化、売却。また、日本では制度上まだ一部にしか認められていないが、インフレーション時における資産の評価替え)を除き会計上はその価額が引き継がれ、その取得価額は減価償却という費用化の手段を用いて、収益と対応される。また、工場の稼働状況と関係なく発生する為替換算差額は、財務費用としてこれら減価償却費等の営業費用とは区分されて認識される。
他方、BCC は、OECF 借款(外貨建て長期債務)について、工場の商業運転開始時の期 末為替レート(CR:Current Rate)で換算し、以降そのレートを固定したままである。また、この負債側の評価替えに対応し、資産も評価替えを行なっている。すなわち、OECF 借款 により建設した工場の資産価額を操業開始時のレート(CR)で換算・固定し、その資産価額 を基に資産の減価償却を行っているのである。これは、資産の価額が取得原価を基準とし て測定されることを原則とする日本の会計基準とは異なり、貸借対照xx資産が過大評価 された結果となっている。
なお、国際会計基準においては取得原価で資産価額を決定する以外に、xx価値(時価)に基づいて資産を再評価することも認められている。ただし、国際会計基準に準じた資産の再評価とは換算替えを意味するものではなく、あくまで再調達価格または処分可能価額により評価し直すことを意味しているので、国際会計基準にしたがっても、現在の方法は妥当な処理とはいえない。
② 外貨建て長期借入金の換算方法
OECF 借款は、BCC からみれば、長期(1 年超)の外貨建て借入金である。これら長期外貨建て金銭債務については、為替予約等により将来のレートが固定されていない場合は、 HR にて換算をするのが日本会計基準の原則である。これは、将来の為替レートを正確に予測することは不可能なためである。ただし、決算期末に多額の為替差損が発生しており、その差損が将来回復する確実な見通しがない場合には、CR で換算替えを行ない為替差損を認識しなければならない。一方、国際会計基準では、外貨建金銭債務については毎期 CRで換算しなおすことが強制されている。以上より、BCC が OECF 借款について、過去に CRで換算替えを行なったことは、日本および国際会計基準で考えた場合も認められる処理であるが、国際会計基準では、その後、この負債に為替変動により再度為替差損益が発生した際には換算替えを行い、その時点における正確な為替換算差損益を認識しなければならない。
③ 会計処理の違いから発生する差異
①~②の結果、BCC の財務諸表は、日本あるいは国際会計基準により作成された場合と比べ、以下の差異が生じている。
(i)貸借対照xx、有形固定資産について取得価額を超えた価額で評価されている。すなわち、為替の変動により生じた為替換算差額が有形固定資産の資産価額に含まれている分だけ、資産が過大に計上されている。
(ii)(i)の結果、損益計算書上の減価償却費には評価替えに伴う差額分も含まれている。これを前提に計算される減価償却費は本来の金額と比べて過大となっており、これにしたがって計算される期間損失の額は、本来の金額と比べて過大になっている。
(iii)外貨建長期借入金については過度に保守的な換算(円高過ぎる)が行なわれているため、債務額が非常に大きなものとなっている。
(2) BCC 財務諸表の修正
次に、上記のような事情を踏まえ、BCC の財務諸表を日本あるいは国際会計基準のベースで置き換えた上で、再度分析を試みることとする。ケース 1 は日本の会計基準で認めら
れた換算方法であり、ケース 2 は国際会計基準で認められた換算方法である。
ベース・ケース
BCC が適用している換算レート(1994 年末のレート):1 エジプト£=29.4 円(または
3.40 エジプト£=100 円)
ケース 1
有形固定資産について、取得日レート(HR)にて換算した場合(日本の会計基準)。
取得日レート(貸付実行時加重平均レート):1 エジプト£=47.8 円(または 2.09 エジプト
£=100 円)
ケース 2
有形固定資産について、取得日レート(HR)にて換算し、かつ最近(97/3)の為替レート(1 エジプト£=36.6 円、またはエジプト 2.73£=100 円)で外貨建て借入金を換算しなお
した場合(国際会計基準)。
① 損益計算書(97 年 6 月期)
(単位:百万エジプト£)
ベース・ケース | ケース 1 | ケース 1 を前提とした |
(96 年 6 月期) | および 2 | 予想損益 |
売上 175 | 175 | 224 |
売上原価 | ||
[除 減価償却費] (87) | (87) | (106) |
88 | 88 | 118 |
減価償却費 (77) | (47) | (47) |
その他間接経費 (2) | (2) | (2) |
支払利息 | ||
OECF (37) | (37) | (33) |
OECF以外 (42) | (42) | (21) |
(158) | (128) | (103) |
当期利益(損益) (70) | (40) | 15 |
注 1) 97 年 6 月期の予想は、売上については BCC からの予想額を、また、売上原価については 96 年 6 月期の実績より変動費比率 40%、固定費 16 百万エジプト£として算定した。減価償却費は定額法2 を採用していることから 96 年 6 月期の減価償却費同額を採用した。
上記のように、有形固定資産について HR で換算した場合は、ケース 1 および 2 のようにベース・ケースに比べ減価償却費が減少し、97 年 6 月期の当期損失は減少する。また、支払利息のうち OECF 借款以外(エジプト国内からの借入)にかかる 42 百万エジプト£については、その元本のほぼ半分にあたる 203 百万エジプト£が、97 年 6 月期中に持株会社からの出資金に組み替えられている。これに伴い、OECF 借款以外の支払利息は、97 年 6月期以降はそれまでの約半分の 21 百万エジプト£に減額される。以上を踏まえ、ケース 1
および 2 をベースに、97 年 6 月期の損益予想をに基づいて行なうと、上記のように 15 百万エジプト£の利益が見込まれる。これと比較して、BCC の現行の会計処理を前提とした場合は、不確定な今後の為替変動の要素を考慮せずに予想しても、単年度損失決算から脱却
2 項目毎の償却年数
項目 | 工場建物 | 事務建物 | 機械装置 | 車両 | 穴掘機 | 工作道具 |
償却年数 | 20 | 30 | 20 | 5 | 20 | 5 |
するには今後相当の年数かかると思われる。
② 貸借対照表(96 年 6 月末)
(単位:百万エジプト£)
資産の部 | ベースケース | ケース 1 | ケース 2 |
ターンキー・ベースによる調達資産 | |||
OECF借款(円借款)による調達資産 | 1,329 | 817 | 817 |
その他 | 26 | 26 | 26 |
1,355 | 843 | 843 | |
ターンキー・ベース外による調達資産 | 31 | 31 | 31 |
1,386 | 874 | 874 | |
減価償却累計額 | (136) | (84) | (84) |
1,250 | 791 | 791 | |
建設仮勘定(OECF借款(円借款)分) | 118 | 73 | 73 |
有形固定資産計 | 1,368 | 863 | 863 |
その他 | 154 | 154 | 154 |
資産合計 | 1,522 | 1,017 | 1,017 |
負債の部 | |||
借入金 | |||
OECF借款 | 1,187 | 1,187 | 911 |
その他借入金 | 183 | 183 | 183 |
出資金(持株会社から) | 203 | 203 | 203 |
その他負債 | 76 | 76 | 76 |
負債計 | 1,649 | 1,649 | 1,373 |
資本の部 | |||
欠損金 | (127) | (632) | (356) |
資本計 | (127) | (632) | (356) |
資本および負債合計 | 1,522 | 1,017 | 1,017 |
ケース 1 のように有形固定資産を HR で換算した場合、ベース・ケースと比較して、資産勘定は小さくなり、それにともなって資本勘定も小さくなる。一方で長期の外貨建て負債の換算について、直近の為替レートとして 97 年 3 月のレートで換算をし直した場合は、
ケース 2 のように負債残高が減少し、それにともなって資本勘定は大きくなる。これは BCCが換算を行なった 94 年度は、円がエジプト£に対して最も高い時期であったためである。外貨建て資産および負債の換算においては、どの時点のレートを用いるかということが、評価に大きな影響を与える。結果的に BCC は、現在外貨建て長期借入金について、最も保守的な換算(円高過ぎる)を行なっていることになる。BCC の外貨建て長期借入金の換算方法は考え方の違いによるものであり、不適当なものとはいえないが、前述したように、資産についてまで換算替えを行なうことは、それ以降の期間損益計算を歪める結果となり妥当とは言えない。
図 2-2 為替変動表
エジプト £ /100円
エジプト £/USド ル
100円/USド ル
4.00
3.50
3.00
2.50
2.00
1.50
1.00
0.50
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
0.00
(出所)IFS
(3) 資金繰り
以上、BCC の損益計算書、貸借対照表について述べたが、BCC の今後の資金繰りについてみてみると、BCC は OECF による対エジプト政府の債務返済の繰延の便益を受けていないことから、当初の返済スケジュールにのっとり OECF(実際にはエジプト政府)への元本返済が 1998 年から生じる。現在の BCC の利益状況からみると、2000 年までは OECF への元本返済を含め、資金ショートは発生しないと思われる。しかし、エジプトの物価上昇率(直近で 6%前後)を考え、物価上昇分を吸収する形でセメントの販売単価も上昇させないと、フェーズⅢの借款契約の元本据置期間が切れ、OECF への元本返済が始まる 2002 年以降の資金需要時には、非常に資金が逼迫してくるものと思われる3。
3 将来、セメント販売単価が BCC の見込みどおり上昇した場合には、資金収支の均衡は何とか保てるであ
BCC によると、エジプト国内のセメント販売価格は、セメントの種類毎で異なるが、基本的に販売単価は需要関係に基く市場価格となっているとのことである。エジプトではセメントの需要がまだ供給を上回っており、また、BCC で生産されるセメントの種類が現存の他のエジプトのセメント工場とあまり競合しないため、BCC ではセメントの販売単価は今後も上昇すると見込んでいる。(ただし、BCC の社長(Chairman)自身は、今後、エジプト国内のセメント工場の新設によりこの需給バランスは崩れてくることが予想されるので、現在描いている将来のセメント販売単価の上昇については懐疑的とのことであった。)
(4) 事業の採算性
(2)①で試算したように、日本あるいは国際会計基準にしたがって損益計算をすると、 BCC は利益を計上できるだけのポテンシャルを有していることが分かる。また、事業としての採算性(あるいは存続性)もこれを FIRR で測ると(事業効果の項でも述べるが)11.5
~14.3%である。
ただし、エジプト国内の投資家の立場からみた場合、国内でのxxxxの方が高く、BCCは決して魅力的な投資対象とはいえないであろう。
(5) 民営化
BCC は、現在、Mining & Refractories Company(Egyptian Joint Stock Holding Company)の所有となっている。Mining & Refractories Company(M&R 社)は、鉱工業産業の民営化のためにエジプト政府により設立された会社であり、同社は BCC についても早期の民営化を目指している。しかし、上記(4)に述べたように、BCC は決して魅力的な投資対象であるとはいえず、また OECF 借款の元利・支払いにかかる為替リスクが将来にわたる不確定要素として存在する。
BCC によれば、本事業と同等の設備容量を有する工場を新たに建設する場合のコストは、 2 億 US ドル(6.8 億エジプト£)程度とのことである(今回の評価の現地調査に同行した専門家の話でも、300~320 億円(7.8~8.3 億エジプト£)で建設可能)。しかし、エジプト政府/M&R 社は BCC の債務をそのまま引き継ぐ形での売却・民営化を考えており、これは現在の帳簿価額 13 億エジプト£前後で売却することを意味する。これでは売却先を探す
のは困難であり、BCC の民営化は 1998 年 5 月現在実現していない。
BCC の民営化達成のためには、エジプト政府/M&R 社が、ある程度の負担を負う覚悟が
ろう。しかし、セメント販売単価が据置かれた場合、2001~2 年以降は資金収支のバランスが崩れ(期間収入が 200 千エジプト£に対し期間支出が 208 千エジプト£以上で推移)、2005~6 年頃に BCC の返済資金が底をつく可能性がある。
必要であろう。その際の合理的な方法としては、一部(あるいは全部)の債務負担、為替リスクの負担、債務返済繰延の実行、あるいはその他インセンティブを売却先に与えるといったことが考えられる。以下、これら項目について、BCC の民営化に与える影響を個別に検討してみる。
① 債務負担
最も直接的な負担方法として、BCC 民営化に際しOECF 借款の債務をエジプト政府/M&R社が肩代わりする方法が考えられる。手続きとしては、エジプト政府が BCC に対し転貸している OECF 借款について全額あるいは一部の債権を放棄する方法である。放棄された債権については BCC の B/S 上、資本剰余金または利益剰余金に計上されることになる。(実際、エジプト政府は、2.2.4 BCC の財務状況 2.財務状況(2)①で前述したように、エジプト国内からの借入債務の約半分についてすでに債務を肩代わりしている。)
② 為替リスクの負担
上記①の債務の負担が難しい場合は、現在 BCC が負っている OECF 借款債務の為替リスクをエジプト政府/M&R 社が保証する方法が考えられる。為替変動については、その動きを正確に予測することは何人にも不可能であり、投資家は、その為替リスクについて何かしらヘッジの手段がなければ投資には応じにくいと思われる。したがって、エジプト政府
/M&R 社が、過度に為替が変動した場合に生じる損失については保証するということになれば、投資家は将来の利益計画が策定可能となり、投資(BCC の買収)を行いやすくなると思われる。
③ 債務返済繰延の実行
前述(2.1.3 事業費(2))のように、BCC は本来得られるフェーズⅠの債務繰延べ(リスケジュール)の便益を享受していない。これが(3)資金繰りで述べた資金繰り上の不安要素となっている。仮にフェーズⅠのリスケジュールについて、エジプト政府が BCC への転貸についても適用するとなれば、BCC の資金繰り上の懸念はほとんどなくなると考えられる。逆に資金面に余裕ができることにより、将来の新たな投資資金が確保されることになるとも考えられる。
④ その他インセンティブ
上記以外にエジプト政府/M&R 社が行なえる手だてとしては、BCC の民営化後、数年間
にわたるセメント買い取りの保証を行なう方法がある。本来は、こういった過度の政府保証は社会効用という点で決して望ましいものではない。しかしながら、国営企業の民営化を国是として推進していくのであれば、BCC についてもその民営化後の事業が軌道に乗るまで期限を切って実施するという条件付であれば、実行可能な方策であると思われる。
他に、将来 BCC が設備拡張を行なう場合、拡張工事がスムーズに行なえるように、エジプト政府/M&R 社として資金面等について積極的に支援していく体制を明確にしておくことも、投資家側からするとインセンティブとなり得る。
以上については、いずれもエジプト政府/M&R 社に何かしらの財務的負担を強いることになるが、その資金の回収については、現在は課せられていない法人税等を課すことにより、BCC から将来にわたり長期的に回収していくことになる。
(6) その他(一括弁済)
本事業にかかわる OECF 借款債務の弁済については、エジプト政府からの一括繰り上げ弁済の検討も行なわれている。その大きな理由としては、エジプト政府側に将来における再度の円高に対する憂慮があるものと思われる。
仮に、弁済のための資金をエジプト政府国内(エジプト£)で年利 10%で長期に調達できるとした場合、本事業に対する 3 件の OECF 借款の平均金利が 3.5 %であるので、今後エジ
プト£が単純に年利 6.5 %以上の対円レートの下落率を示すならば、OECF 借款の一括弁済はエジプト政府にとって検討に値することになると思われる。OECF 借款の一括弁済の判断は、ひとえにエジプト政府が為替(エジプト£の対円レート)をどのように見込むかにかかっているといえよう。
2.3 事業効果に係わる評価
2.3.1 計画
本事業では、下記の効果が期待されていた。
1. 定量的効果
プロジェクトライフを 20 年として、FIRR (財務的内部収益率)は 11.5%。
2. 定性的効果
① 増大が見込まれるエジプトのセメント需要への対応
② 輸入セメントの代替による外貨節約効果
③ 雇用機会の少ない地方都市での雇用創出効果
④ 地域開発効果
2.3.2 実績
1. 定量的効果
① FIRR(財務的内部収益率)
プロジェクトライフを 20 年として、本事業完成後の操業実績をベースに FIRR (財務的内部収益率)を計算すると、計画時の 6.4%に対して実績は 14.3%となる。
ただし、これは BCC 側が見込んでいる将来のセメント価格の引き上げを含んだものである。前述のとおり、今後の競合相手の出現を考えると価格引き上げには困難な面もあると思われるので、セメントの単価を 1996 年の実績値のまま据置いて再計算すると、FIRR は 11.5%となる。
② EIRR(経済的内部収益率)
EIRR については計画時には算出されていなかったが、今回の評価で計算を試みた。その結果、12.7 %という値を得た。なお、EIRR の計算にあたっての費用と便益の前提は以下のとおり。
経済的便益:セメントの国際水準価格(260 エジプト£/㌧)を経済的販売単価とし、その単価に生産量を乗じて計算する。
経済的費用:事業費および運転費について、財務的数値を基として材料費、人件費、経費の各原価要素別に補正値を乗じて算出した。
2. 定性的効果
① 増大が見込まれるエジプトのセメント需要への対応
下表 2-6 は、エジプトにおけるセメントの需給状況である。95/96 年以降、本事業はエジプトにおけるセメント需要の約 5%を供給している。その意味では、本事業はエジプトにおけるセメントの供給に相応の貢献を果たしているといえよう。
ただし、エジプトでは国内分だけでも毎年 160~170 万トン、率にして 8~9%の需要の伸びがあり、国内生産だけでは対応しきれず、96/97 年には 2.3 百万トン超の輸入がなされている。
表 2-6 エジプトにおけるセメント需給 (単位:千トン)
1994/95 | 1995/96 | 1996/97 | |
国内需要 輸出 | 17,869 395 | 19,557 351 | 21,152 411 |
需要計 | 18,264 | 19,908 | 21,563 |
その他国内生産 | 16,317 | 17,094 | 18,102 |
BCC生産 | 616 | 1,017 | 1,150 |
輸入 | 1,331 | 1,797 | 2,311 |
供給計 | 18,264 | 19,908 | 21,563 |
図 2-3 エジプトにおけるセメント供給構造
千ト ン
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
輸入
その他国内生産
BCC生産
94/95 95/96 96/97
(出所)BCC
② 輸入セメントの代替による外貨節約効果
本事業でのセメント生産分を輸入した場合に比べ、96/97 期の実績で約 97 百万 US$(国際価格 US$ 79.70/トン×1,223 千トン)の外貨節約効果があった。この額は 1997 年度のエジプトの外貨準備高 18,665 百万 US$の 0.5%にあたる。
③ 雇用機会の少ない地方都市での雇用創出効果
本事業の事業地となったベニスエフ市は、ナイル川沿いにカイロから 120km ほど南にある人口約 6 万人の地方都市であり、セメント製造(本事業)以外はこれといった産業はな
い。したがって、本事業により、下表に示すように 750 名の雇用機会が生じた意義は大きいと思われる。
表 2-7 BCC 従業員数
1994/95 | 1995/96 | 1996/97 | |
従業員数(人) | 000 | 000 | 000 |
(出所)BCC
④ 地域開発効果
本事業により、ベニスエフ市あるいは周辺地域にとってどれだけの開発効果があったかを測定することは困難である。しかし、本事業を実施するために、新たに電力供給・上水道施設などのインフラが整備されたことは確かである。これにより、将来的なセメント工
場の増設あるいは他企業の進出のための環境が整えられたといえよう。
3. 教訓
事業の実施および維持管理上の問題の正確な把握・分析と対応策の検討のためには、専門家を帯同した中間・事後監理の積極的な実施が重要かつ有効である。
本評価の現地調査には、技術専門家と共に、財務の専門家として公認会計士が同行しており、実施機関の会計基準を日本あるいは国際基準に置き換えることで、問題の本質についての認識を実施機関との間で共有することができたものと思われる。
このように、事業の実施および維持管理上の問題の正確な把握・分析と対応策の検討のためには、専門家を帯同した中間監理・事後監理を積極的に実施することが重要かつ有効である。このことが、ひいては問題の早期解決につながると思われる。
(注:OECF では事業の実施期間中、あるいは完成後にみられる問題について、外部の専門家にその把握・分析と改善策の提案を依頼するシステムを構築している。すなわちこれが SAPI(案件実施支援調査)および SAPS(援助効果促進調査)であり、前者は事業実施中の、後者は事業実施後の問題に対応するものである。)
②セメント・サイロ
①ベニスエフ・セメント工場
③工場より約15km離れた所にある石灰石採掘現場