BOT方式:Build, Operate and Transfer の略称。民間事業者が施設を建設し、維持・管理及び運営し、事業終了後に管理者等に施設所有権を移転する事業方式。
契約に関するガイドライン
-PFI事業契約における留意事項について-
目 x
4-5 利用者から収受した利用料金をもとに選定事業を実施する場合における利用料金に関する事項 91
5-1 公共施設等の管理者等の解除権 94
5-2 選定事業者の解除権 102
5-3 不可抗力等による解除xx 103
5-4 解除の効力 106
5-5 違約金 111
5-6 契約終了時の事務 115
6. その他事項 117
6-1 選定事業者の権利義務の処分 117
6-2 選定事業者の株式の譲渡 120
6-3 経営状況の報告 122
6-4 遅延損害金 124
6-5 履行保証 125
6-6 保険加入義務 127
6-7 守秘義務 130
6-8 疑義に関する協議 132
6-9 不可抗力による損害への対応(再掲) 133
別紙 「基本協定」 139
本「契約に関するガイドライン-PFI事業契約における留意事項について-」に引用した法令等は次のとおりである。
法律
・民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(xxxx年法律第百十七号):以下「P FI法」と略称。
・地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)
・国家賠償法(昭和二十二年法律第百二十五号)
・行政機関の保有する情報の公開に関する法律(昭和二十四年法律第二百五十六号):以下「情報公開法」と略称。
・会計法(昭和二十二年法律第三十五号)
・公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(平成十二年法律第百二十七号):以下「入札契約適正化法」と略称。
・公共工事の前払金保証事業に関する法律(昭和二十七年法律第百八十四号)
・政府契約の支払遅延防止等に関する法律(昭和二十四年法律第二百五十六号):以下「支払遅延防止法」と略称。
・国有財産法(昭和二十三年法律第七十三号)
・国の債権の管理等に関する法律(昭和三十一年法律第xx四号)
・建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)
・住宅の品質確保の促進等に関する法律(xxxx年法律第xxx号)
・民法(明治二十九年法律第八十九号)
・会社法(平成十七年法律第xxx号)
・建設業法(昭和二十四年法律第百号)
・建築士法(昭和二十五年法律第二百二号)
政令
・民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律施行令(xxxx年政令第二百七十九号):以下「PFI法施行令」と略称。
・地方自治法施行令(昭和二十二年政令第十六号)
・予算決算及び会計令(昭和二十二年勅令第百六十五号):以下「予決令」と略称。
・国の債権の管理等に関する法律施行令(昭和三十一年政令第xx七号)
・建設業法施行令(昭和三十一年政令第二百七十三号)
その他
・民間資金等の活用による公共施設等の整備等に関する事業の実施に関する基本方針(平成三十年十月二十三日閣議決定):以下「基本方針」と略称。
・PFI事業におけるリスク分担等に関するガイドライン(平成三十年十月二十三日):以下「リスクガイドライン」と略称。
・モニタリングに関するガイドライン(平成三十年十月二十三日)
・公共工事標準請負契約約款(昭和二十五年二月二十一日中央建設業審議会作成 令和元年十二月十三日最終改正):以下「標準約款」と略称。
・契約事務取扱規則(昭和三十七年大蔵省令第五十二号)
・政府契約の支払遅延に対する遅延利息の率を定める件の一部を改正する件について(平成二十六年財務省告示第五十四号)
・国の債権の管理等に関する法律施行令第29条第1項本文に規定する財務大臣が定める率を定める件及び国の債権の管理等に関する法律施行令第37条第1項に規定する財務大臣が定める率を定める件の一部改正について(平成十五年財務省告示xx九号)
本「契約に関するガイドライン-PFI事業契約における留意事項について-」において使用されている用語の定義は次のとおりとする他、特に断りのない限り、PFI法及び基本方針における定義に従うものとする。
コンソーシアム構成企業:民間事業者の公募にあたり組成される法人格のない共同企業体
(以下、「コンソーシアム」という。)の構成企業であり、選定事業の落札者となる企業。(選定事業者の設立にあたって出資を行うこととなり、選定事業に係る業務を選定事業者から委託を受け、又は請け負うこともある。)
受託・請負企業:選定事業にかかる業務を選定事業者から委託を受け、又は請け負う企業
(コンソーシアム構成企業を除く。)
設計企業:コンソーシアム構成企業又は受託・請負企業のうち設計を行う企業
建設企業:コンソーシアム構成企業又は受託・請負企業のうち建設工事を施工する企業
維持・管理、運営企業:コンソーシアム構成企業又は受託・請負企業のうち維持・管理、運営を実施する企業
下請企業:選定事業にかかる業務をコンソーシアム構成企業又は受託・請負企業から委託を受け、又は請け負う企業
サービス対価:管理者等が、施設の設計・建設工事、施設の維持・管理及び運営の実施の対価として、選定事業者がPFI事業契約、入札説明書等及び自らの入札参加者提案に従い業務を適切に実施していることを条件に選定事業者に支払う一定の金額
建設工事費:設計・工事監理費、建設工事費、設備工事費、建中金利等維持・管理費及び運営費:業務委託費、修繕費、人件費、物品購入費等
BOT方式:Build, Operate and Transfer の略称。民間事業者が施設を建設し、維持・管理及び運営し、事業終了後に管理者等に施設所有権を移転する事業方式。
BTO方式:Build, Transfer and Operate の略称。民間事業者が施設を建設し、施設完成直後に管理者等に所有権を移転し、民間事業者が維持・管理及び運営を行う事業方式。
本「契約に関するガイドライン-PFI事業契約における留意事項について-」(以下「ガイドライン」という。)は、国がPFI法第5条第2項第5号に定める事業契約、直接協定、及び基本協定の締結にかかる検討を行う上での実務上の指針の一つとして、現在までに公表されている我が国のPFI事業契約等の規定内容などを踏まえ、多くのPFI事業契約において規定が置かれることが想定される事項ごとに、主たる規定の概要、趣旨、適用法令及び留意点等を解説したものである。国がPFI事業を実施する場合、民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(平成11年法律第117号)及び民間資金等の活用による公共施設等の整備等に関する事業の実施に関する基本方針(平成30年10月23日閣議決定)にのっとった上で、本ガイドラインに沿ってPFI事業を実施することが望ましい。また、本ガイドラインは、国以外の者が実施するPFI事業においても参考となりうるものである。
本ガイドラインは、各省庁が、PFI事業の円滑な実施のため、法及び基本方針にのっとった上で、状況に応じて工夫を行い、本指針に示したもの以外の方法等によってPFI事業を実施することを妨げるものではない。
なお、国以外の者が参考とする上での便宜を図るため、国以外の者が実施する場合の適用法令について、適宜脚注において示している。
本ガイドラインの目次構成は、原則として、同法第2条第3項に定める公共施設等の管理者等(以下、「管理者等」という。)が同法第2条第5項に定める選定事業者に委ねる業務内容ごとに時系列で章立てるPFI事業契約書に従っている。
PFI事業には、多様な事業スキームがありえるが、この解説にあたっては、
① 性能発注方式を採用し、事業に応じ、総合評価一般競争入札方式又は競争性のある随意契約により事業者を選定すること
② 選定事業の実施にかかわるコンソーシアムが落札者となること
③ コンソーシアムの構成企業等が出資により新たに株式会社を設立し、これが選定事業者となること(ただし、管理者等が、入札説明書等において必ずしもコンソーシアムのすべての構成企業に対する出資を求めるものでないことを認めた場合は、出資しないことができる。なお、管理者等が入札説明書等においてその旨を明らかにする必要がある。)。また、株式会社以外の法人格を採用した事業スキームも想定されることに
留意すること。
④ 選定事業者は選定事業以外の事業を行わないこと
⑤ 管理者等が所有する土地を選定事業の用に供するため選定事業者に対し貸し付けること
⑥ 施設の設計、建設、維持・管理及び運営業務を実施することによって公共サービスを提供すること(なお、選定事業の主たる内容は、施設の設計、建設、維持・管理業務であり、当該施設の運営業務の比重が重い場合は本解説では想定されていない。)。
⑦ 選定事業の主たる資金調達手法は融資金融機関等によるプロジェクトファイナンス方式によること。ただし、それ以外の資金調達手段が否定されているわけではないことに留意すること。
* プロジェクトファイナンスとは、特定のプロジェクト(事業)に対するファイナンスであって、そのファイナンスの利払い及び返済の原資を原則として当該プロジェクトから生み出されるキャッシュフロー(収益)に限定し、そのファイナンスの担保を当該プロジェクトの資産に依存して行う金融手法。
⑧ それら事業資金の回収は管理者等が支払う「サービス対価」等によること
などを仮定している。
これらの仮定は、PFI事業契約を解説するにあたり、解説の対象となる事業スキームを一定程度特定化する必要性から置いたものであって、こうした事業スキームが、PFIの実施にあたって他の事業スキームに比べ、すべての点において望ましいという趣旨ではない。なお、解説の便宜から対比することを目的として多様な事業スキームの可能性の一部や公共工事標準請負契約約款の条項を紹介することもある。管理者等は、本解説を参考にしつつ、自らの判断で、各選定事業の内容、規模、実施場所の地域特性等に照らして、最も適した事業スキーム、PFI事業契約の規定内容、株式譲渡のあり方等を定める必要がある。特に、施設運営業務の比重の重いPFI事業(病院等の運営業務を含む選定事業)については、当該施設の設置目的及び運営内容に応じた個別の検討が必要であることに留意を要する。
PFI事業契約は従来型の公共工事の請負契約と比して、長期に亘ることが通例であり、また、選定事業者、コンソーシアム構成企業、受託・請負企業、及び融資金融機関等関係者が多数に及ぶ。PFI事業契約は、PFI事業の中核をなす契約であり、PFI事業契約の一方の当事者となる選定事業者のみならず、コンソーシアム構成企業、受託・請負企
業及び融資金融機関等関係者にも直接的な影響を与えるものである。管理者等は、PFI事業にかかる契約関係の安定性の確保の観点から、これら関係者に与える影響にも配慮しつつ、継続的かつ安定的な公共サービスの提供等を実現するPFI事業契約の規定について検討する必要がある。
なお、この解説は、現在までに公表されている我が国のPFI事業契約の内容等を参考にして作成したものであり、今後、PFI事業契約の規定は、事業内容の多様化、さらには、我が国の経済社会環境の変化等により、多様に変遷していく可能性がある点にも留意が必要である。特に、公共施設等運営事業を始めとする利用料金の収受を伴うPFI事業はこれから本格的に実施されるものであり、今後の事業の実施状況や同事業に係る調査・検討の進展等を踏まえ、必要に応じ本ガイドラインを変更し、又は新たなガイドラインを示すこととする。なお、公共施設等運営権実施契約については、「公共施設等運営権及び公共施設等運営事業に関するガイドライン」を踏まえ締結を行うものとする。
また、PFI事業をめぐる管理者等、選定事業者、コンソーシアム構成企業、受託・請負企業、及び融資金融機関等の選定事業関係者は以下のような契約関係にあることを想定している。
1 PFI事業契約
・選定事業者は選定事業にかかる施設の設計、建設工事、維持・管理及び運営の業務並びにかかる資金調達を行うことにより管理者等の要求する水準の公共サービスを管理者等に対し提供する義務を負い、管理者等は選定事業者に対し提供される公共サービスの対価を支払う義務を負うことなどを規定する、管理者等と選定事業者との間で結ばれる契約。なお、PFI法第5条第2項第5号及び基本方針においては、「事業契約」とされている。
2 基本協定
・選定事業に関し、コンソーシアムが落札者として決定されたことを確認し、管理者等及び当該コンソーシアムの義務について必要な事項を定める管理者等とコンソーシアムの構成企業との間で結ばれる契約。落札者であるコンソーシアムの構成企業が選定事業者となる株式会社を設立すべきことや選定事業の準備行為に関する取扱い等について規定される。
3 直接協定(Direct Agreement)
・選定事業者による選定事業の実施が困難となった場合などに、管理者等によるPFI事業契約の解除権行使を融資金融機関等が一定期間留保することを求め、資金供給している融資金融機関等による選定事業に対する一定の介入(Step-in)を可能とするための必要事項を規定した管理者等と融資金融機関等との間で直接結ばれる協定。要求水準の未達や期限の利益の喪失(*)等一定の事項が生じた場合の相互の通知義務や、選定事業者の発行する株式や有する資産への担保権の設定に対する管理者等の承諾などについて規定される。
* 期限の利益とは、期限が到来するまでは債務の履行を請求されないというように、期限がまだ到来していないことによって当事者が受ける利益である。期限の利益が債務者に認められるのは、債権者が債務者を信用し履行の猶予を与えたのであるから、特約により、債務者に信頼関係を破壊するような行為があった場合には、債務者に期限の利益を喪失、債権者は期限の到来を主張し、ただちに履行を請求することができるものと定める場合がある。
4 事業関連契約(業務委託契約、業務請負契約など)
・選定事業者がPFI事業契約に従い施設の設計、建設、維持・管理及び運営の業務を実施し、公共サービスを提供するため、これら業務を第三者たるコンソーシアム構成企業又は受託・請負企業に委託し、又は請け負わせる、選定事業者とコンソーシアム構成企業又は受託・請負企業との間で結ばれる契約。及び、これら業務を委託された又は請け負ったコンソーシアム構成企業又は受託・請負企業がこれら業務をさらに下請企業に委託し、又は請け負わせる、受託・請負企業と下請企業との間で結ばれる契約。
5 融資契約
・融資金融機関等が選定事業者に対して融資するにあたり、融資金融機関等と選定事業者との間で締結される契約。主な規定内容としては、貸付合意、資金使途、貸付実行手続、貸付実行前提条件、元本弁済、支払金利、遅延損害金、弁済充当方法、表明及び保証、借入人誓約、期限の利益喪失事由等が想定される。
6 担保関連契約
・融資金融機関等が選定事業にかかる資産及び権利について担保権を取得することを目的とした契約。これらの担保設定は、担保権対象の売却を通じた融資回収を想定しているのではなく、選定事業の継続を図ることを通じた融資回収を想定し、事業修復を行うことを企図しているものであり、担保権者として金融機関等が他の債権者に対する優先権を保持して、他の債権者等が選定事業にかかる資産等を差し押さえる利益を失わせることにより、第三者の介入を排除し、円滑な事業継続により融資回収を確実にすることを目的としている。担保設定の対象としては、PFI事業契約上の選定事業者の権利、選定事業者の発行株式や事業用資産等が想定される。
7 債権者間契約
・複数の融資金融機関等により融資機関団が組成される場合に、融資機関団の債権者としての権利行使等にあたっての意思決定方法、担保権の実行方法等債権者間の基本的な権利義務関係を定める債権者間で結ばれる契約。優先貸出人間でのみ締結される場合のほか、出資者による劣後貸付が行われる場合や選定事業者が融資に関連して金利スワップ契約(*)を結ぶ場合などには、優先貸出人間での「優先貸出債権者間契約」に加え、出資者や金利スワップ契約の相手方を契約当事者に加えた「債権者間契約」を締結する場合もある。
* 金利スワップとは、選定事業者が変動金利で調達している場合にこれを実質的に固定金利の調達に変換する金融手法である。選定事業者が変動金利による金利支払を行っている場合に、別途、金融機関に対し固定金利を支払い、変動金利を受け取る契約を結ぶことにより、選定事業者が実質的に固定金利による金利支払いを行っていることと同様の効果を得ることを目的とする。
8 出資者支援契約
・融資金融機関等と選定事業者の株主となる出資者(コンソーシアム構成企業)との間で締結される契約。主な規定内容としては、出資者による追加の資金拠出の義務(株式出資又は劣後貸付)、選定事業者に対する支援協力義務等が想定される。
9 株主間協定
・選定事業者の株主(コンソーシアム構成企業やその他出資者)間で、当該株式会社の運営や選定事業の運営にかかる責任分担等についての基本的な合意事項を定める協定。主な
規定内容としては、株主間の出資比率、株式会社の設立目的や事業内容、株式の譲渡等処分制限、株主の業務分担、株主の劣後融資の分担等が想定される。
コンソーシアム
構成企業
コンソーシアム
構成企業
コンソーシアム
構成企業
その他出資者
7
契約関係の例(基本協定を中心に)
2.基本協定
コンソーシアム
構成企業
コンソーシアム
構成企業
コンソーシアム
構成企業
その他出資者
9.株主間協定
x x
選定事業者
管理者等
保険会社
融資金融機関等
下請企業
下請企業
下請企業
コンソーシアム
構成企業
コンソーシアム
構成企業
コンソーシアム
構成企業
受託・請負企業
受託・請負企業
融資金融機関等
3.直接協定
1.PFI事業契約
5.融資契約
6.担保関連契約
保険契約
7.債権者間契約
4.事業関連契約
6.担保関連契約
8.出資者支援契約
4.事業関連契約
下請企業
下請企業
下請企業
受託・請負企業
受託・請負企業
コンソーシアム構成企業
コンソーシアム構成企業
コンソーシアム構成企業
融資金融機関等
保険会社
選定事業者
融資金融機関等
管理者等
8
契約関係の例(PFI事業契約を中心に)
1. 事業全体にかかる事項
1.概要
・契約目的、契約書に用いる用語の定義、準拠法、事業概要、事業日程、契約書類相互間の適用関係等、契約全体にかかる事項について規定される。
2.PFI事業契約書作成に関する法令等上の留意点
・PFI法第14条第1項においては、「選定事業は、基本方針及び実施方針に基づき、事業契約(第16条の規定により公共施設等運営権が設定された場合にあっては、当該公共施設等運営権に係る公共施設等運営権実施契約(第22条第1項に規定する公共施設等運営権実施契約をいう。)。次項において同じ。)に従って実施されるものとする。」と規定されている。また、基本方針においては、「公共施設等の管理者等と選定事業者との間の合意について、xxにより、当事者の役割及び責任分担等の契約内容を明確にすることが必須であり(契約主義)」(基本方針前文)と定められている。
・会計法においては、契約担当官等は、政令の定めるところにより、契約の目的、契約金額、履行期限、契約保証金に関する事項その他必要な事項を記載した契約書を作成するものと規定されている(会計法第29条の8第1項及び予決令第100条)。
・また、管理者等がPFI事業契約につき契約書を作成する場合においては、会計法の定めに従い、契約担当官等が選定事業者とともに契約書に記名押印しなければ、当該契約は確定しない(会計法第29条の8第2項)1。
1 地方公共団体が管理者等となる場合は、地方自治法第234条第5項に同様の規定がある。
1-1 契約の目的
1.概要
・契約の目的が、管理者等及び選定事業者が相互に協力し、選定事業を円滑に実施するために必要な一切の事項を定めることである旨規定される。
2.趣旨
・契約の目的の記載は、当事者の権利義務を規定するものではないが、当事者が契約を締結する前提を確認する意義がある。
3.関係法令の規定
・会計法において、「契約の目的」が契約書を作成する際に必要な記載事項の一つと規定されている(会計法第29条の8第1項)。
1-2 事業の趣旨の尊重
1.概要
・選定事業者は、選定事業の公共性を十分理解し、選定事業の実施にあたりかかる趣旨を尊重すること、及び管理者等は、選定事業が民間事業者たる選定事業者によって実施されることを十分理解しかかる趣旨を尊重することが、確認のために規定される。
2.趣旨
・基本方針において、PFI事業は「公共性のある事業(公共性原則)を、民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して(民間経営資源活用原則)、民間事業者の自主性と創意工夫を尊重することにより、効率的かつ効果的に実施する(効率性原則)」(基本方針前文)ものであると定められており、この趣旨に従った規定である。
1-3 契約期間
・契約期間について、始期は、契約締結日であり、その日からその効力を生じることとし、終期は、特定の年月日、又は施設の供用開始から一定期間を経過した日である旨規定される。
2.関係法令の規定
・会計法及び予決令では、契約書に履行期限を記載することとしている(会計法第29条の8第1項及び予決令第100条)。
・支払遅延防止法においても同趣旨の規定がなされている(支払遅延防止法第4条第2号)
2。
1 地方公共団体のPFI事業契約の締結にあたっては、契約の予定価格の金額のうち、公共施設等の買入れ又は借入れに相当する金額が、都道府県については5億円、指定都市については3億円、指定都市を除く市については1億5千万円、町村については5千万円を超える際には、あらかじめ、議会の議決を経なければならない(PFI法第12条及びPF I法施行令第3条)。
2 地方公共団体が管理者等となる場合は、当該規定は支払遅延防止法第14条の規定により準用される。
1-4 事業日程
1.概要
・選定事業の履行にあたって重要な期日(例えば、施設の設計着手日、建設工事着工日、完工確認及び運営体制確認日、引渡し予定日、維持・管理、運営開始日、維持・管理、運営期間終了日、譲渡前検査及び施設譲渡日等)を事業日程として明示し、選定事業者がこれに従って選定事業を実施する義務が規定される。
2.趣旨
・事業日程の規定は、選定事業の各段階の履行期限を明示するものであり、管理者等による選定事業の日程管理及び履行遅延等による増加費用が発生した場合等の当事者間の権利義務発生の基準時を画する意義を有する。重要な期日の徒過をPFI事業契約の解除事由とすべき場合もあるので、解除事由との関連についても留意する必要がある。ただし、 PFI事業契約上の明確な基準時点(例えば、施設の完工、施設の引渡し(又は運営開始))を除き、選定事業者に対し、詳細な事業日程に従った設計、建設工事、維持・管理、運営業務の履行を義務付けることは必ずしも適切ではないこともある。管理者等が必ずしも重要ではない日程までをも詳細に選定事業者に対して義務づけた場合、それに対処するための費用が契約金額に転嫁される結果ともなり得ることに留意が必要である。
・リスクガイドラインにおいても「公共施設の管理者等は、個々の選定事業に則して、選定事業者に対する関与を必要最小限のものとすることに配慮しつつ、その権利義務を協定等に明確に規定し、関与の選定事業に与える影響の程度に応じて、公共施設等の管理者等のリスク分担を検討することが望ましい」と定めるとともに、「運営開始までの工程で見込んだ設計等の工程が遅延する場合や設計等費用が見込み金額を超過する場合であっても、選定事業者の対応能力に応じ、運営開始までのxxx自主的な業務の施工に委ねることで選定事業全体に与える影響が小さいと見込まれるときには、(中略)管理者等による細かな報告の求め、指示等が不適当な場合があることに留意することが望ましい。」と定めている(リスクガイドライン二1(2)(参考)②)。
3.関係法令の規定
・会計法において、「履行期限」が契約書を作成する際に必要な記載事項の一つに規定されている(会計法第29条の8第1項)。
支払遅延防止法においても、「給付の完了の時期」が政府契約の必要的内容事項の一つと規定されている(支払遅延防止法第4条)。
1-5 事業概要
1.概要
・選定事業者がPFI事業契約等に従って実施する義務を負う選定事業の概要が、当事者の確認のために規定される。
・例えば、BTO方式の選定事業の場合には、施設の設計、施設の建設工事、管理者等に対する施設の譲渡、施設の維持・管理、運営、事業実施のための資金調達などといった事業内容の概要が規定される。
2.事業内容の詳細
・事業概要は、技術的な内容を含むことなどから、PFI事業契約書の別紙に記載することが多い。さらに、管理者等の求める業務要求水準を含む事業内容の詳細は、技術的な内容を含む書類となるため、PFI事業契約書の付属資料としてまとめられることが通例である。(関連:1-6 規定の適用関係)
3.関係法令の規定
・支払遅延防止法においては、「給付の内容」が政府契約の必要的内容事項の一つと規定されている(支払遅延防止法第4条)。
・PFI法においては、選定された民間事業者が行う事業は、PFI法第5条第2項第5号に規定する「事業契約」において当該民間事業者が行うこととされた公共施設等の整備等であることから、選定事業者が行う選定事業の内容等をPFI事業契約等において特定する必要がある(PFI法第8条第2項)。
1-6 規定の適用関係
1.概要
・選定事業にかかるPFI事業契約等の各種規定の適用関係を整理する規定がされる。
・選定事業者は、PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従って選定事業を実施するものとした上で、PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案の内容に相違が生じる場合を想定し、これらの文書の適用関係が規定される。
2.趣旨
・PFI事業においては、管理者等が民間事業者の募集にあたって示した入札説明書等、選定事業者が管理者等に提出した入札参加者提案、PFI事業契約、選定事業者がPFI事業契約等に従って作成する設計図書の順に、選定事業の内容を、xx、詳細かつ具体的に補完することとなる。このため、これらの文書の記載内容に相違が生じる事態を想定し、あらかじめPFI事業契約にこれらの文書の適用関係を規定することが望ましい。
3.適用関係
・PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案の内容に相違がある場合、PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案の順に優先して適用されるものとすることが通例である。
・また、入札参加者提案と入札説明書等の業務要求水準書との適用関係については、入札参加者提案において提案されたサービス水準が入札説明書等のそれを上回る場合に限り、入札参加者提案が優先して適用される旨規定することにより、管理者等が入札説明書等の要求水準書に示したサービス水準と選定事業者が提案したサービス水準に相違がある事項についていずれか高い水準を確保することができる。
なお、入札説明書等の質問回答書は入札説明書等と一体のものと考えられる。
1-7 選定事業者の資金調達
1.概要
・選定事業者の資金調達義務について規定される。また、選定事業に対する財政上又は金融上の支援の適用について選定事業者の努力義務が規定される場合、かかる手続きに対する管理者等の協力義務が規定されることもある。
2.趣旨
・PFI事業においては、従来型の公共工事の請負契約と異なり、施設の建設工事等選定事業の実施に必要な資金調達のリスクを選定事業者が担う。すなわち、管理者等からの「サービス対価」は公共サービスの提供が開始された後に、一般的には平準化して支払われるため、施設の設計・建設業務、維持・管理業務及び運営業務の実施による公共サービス提供にかかる必要な資金は自己の責任において調達することを基本とする。
・従来型の公共工事の請負契約においては、請負者は、公共工事の前払金保証事業に関する法律第2条第4項に規定する保証事業会社と保証契約を締結して発注者に対し前払金を請求できること(標準約款第35条第1項)、出来形部分と一定の工事材料について部分払の請求を行うことができること(標準約款第38条)、施設の完成検査合格後、請負者の発注者に対する請負代金の支払い請求から40日以内に発注者が請負代金を支払うことが規定されている(標準約款第33条)。また、請負者が建設工事期間中に負う費用についても、建設工事の完工前に出来形部分等に相当する額の部分払いを請求できる制度
(標準約款第38条)等があることから、請負者のかかる負担は大きくない。
・PFI事業は民間の資金を活用する事業であることから、選定事業者は選定事業の実施に係るすべての費用にかかる資金調達は自らの責任において行うことを基本とする。ただし、管理者等はPFI事業契約の当事者双方の対応が、選定事業者による資金調達の金額、期間、費用その他の条件に大きな影響を与えることに留意し、適切かつ明確な規定内容とするよう努める必要がある。
3.資金調達の考え方
(1)資金調達の手法
・選定事業を実施するために新設された株式会社が選定事業者である場合、コンソーシアム構成企業等の出資や劣後融資、加えて、金融機関等からの融資等によって、選定事業に要する資金調達を行うことが通例であるが、今後は多様な資金調達手段が考えられる。ここで、管理者等は、選定事業者の自己資本比率が、選定事業者の事業に要する費用に影響を与え、ひいては契約価格にも影響を与える可能性がある点に留意が必要である。
・特に、コンソーシアム構成企業による出資額の多寡は、選定事業者の融資の元利返済の負担に影響を与えるとともに、選定事業への一定の関心又は関与を保証する役割を果たすことから、管理者等は留意する必要がある。
・選定事業者が金融機関等からプロジェクトファイナンスにより資金調達を行う場合は、金融機関等は、原則として、選定事業から生じるキャッシュフローを借入元本返済及び利払いの原資とする融資を行い、その担保を当該選定事業に関連する資産に依拠することとなる。しかしながら、選定事業に関連する資産は、融資金融機関等が担保権を取得していても売却処分により融資を回収することが困難なものであることが多い。このため、金融機関等は、選定事業者のキャッシュフローが安定的であることを融資の重要な条件と考えて、PFI事業契約等の内容、なかでも、「サービス対価」の支払メカニズムに関する規定や選定事業が停滞した場合に管理者等が講じる措置に関する規定を一層重視する傾向がある。
・ここでキャッシュフローの安定性確保の観点から、金融機関等は、「サービス対価」の支払いとともに、PFI事業契約上発生する増加費用を管理者等が負担する場合の支払い時期及び方法についても重視する。選定事業者が余剰資金を保持しておらず、加えて、不足資金を補填する仕組みが不十分な場合、管理者等が負担する増加費用が適時に支払われない時に、選定事業者は資金不足に陥り、選定事業全体の運営に支障が生じるリスクがある。一方、管理者等による増加費用の支払い時期及び方法については、当然に、予算措置に応じたものである点に留意が必要である。
・なお、プロジェクトファイナンスの組成には相当の期間を要する。そこで、管理者等は、選定事業者の公募からプロジェクトファイナンス組成に関連する諸契約の締結に至るまで関係者間の調整に要する期間が確保されるよう努める必要がある。
(2)金利の固定
・管理者等は、財政支出の平準化を図るため、選定事業者に対して支払う借入金利相当の
対価を一定期間固定する場合が多い。この場合、選定事業者は、事業期間中の借入金利水準の変動による自らの借入金利負担の変動を回避するため、固定金利による資金調達を行うことが通例である。
・管理者等が選定事業者に対して支払う対価のうちの金利相当額を取り決めるにあたっては、①融資金融機関等は、選定事業者に対する融資の可否及び融資条件(貸出金利の水準及び償還条件等)を決定するため、PFI事業契約の詳細について十分な審査を必要とすること、②選定事業者による固定金利での資金調達の期間には市場の制約がかかることに留意する必要がある。また、融資金融機関等による貸出金利が確定する日は融資実行日であり、貸出金利は金融市場の動向に従って(金利スワップによる金利固定化を行う場合には金利スワップ市場の動向も加味され)定まるものであることにも留意が必要である。
・管理者等が支払う選定事業者による借入金利相当の対価は、融資金融機関等による貸出 金利を前提として決定される。融資金融機関等により貸出金利が確定される日は、融資実 行日であり、融資実行は施設の引渡し日など、PFI事業契約締結日からは相当の期間が 経過していることが通例である。その間、市場の金利は日々変動するため、PFI事業契 約締結日には、選定事業者は融資金融機関等により確定される貸出金利を正確に想定する ことが困難である。しかしながら、仮に、PFI事業契約締結日に、管理者等から選定事 業者に支払う借入金利相当の対価を固定することとした場合、選定事業者は、この時点に おいて、融資金融機関等により確定される貸出金利について想定値をおかざるを得ない。このため、実際の融資金融機関による貸出金利が、この選定事業者による想定値とは異な るものとなる。金利上昇局面においては、選定事業者がその金利差相当を負担することに より資金調達費用を高めるリスクが存在し、ひいては、こうしたリスクが契約金額に転嫁 される結果ともなり得る。この間の金利変動リスクの管理は管理者等自らが担うこととし、管理者等が選定事業者に支払う借入金利相当の対価を確定する日を、PFI事業契約締結 日以降において別途定める日(基準日)とし、かつ、その基準日を融資金融機関等により 貸出金利が確定される日に出来るだけ近接した日に設定する考え方もある。
(3)関心表明書
・民間事業者の公募の際、管理者等は入札参加者に対し、金融機関等の関心表明書の提出を義務付けることがある。入札参加者による提案の提出の段階においては、金融機関等はプロジェクトファイナンスの組成に向けた選定事業のリスク分析や当該選定事業に関連
する諸契約の交渉等を行なうために必要な情報が揃わないことから、関心表明書は融資予約の性格を有するものとはならない。したがって、関心表明書の提出をもって当該金融機関等による融資が確約されたものではない点に留意する必要がある。
4.補助金交付等支援措置
・選定事業に対する財政上又は金融上の支援の適用について選定事業者の努力義務が規定される場合、かかる手続きに対する管理者等の協力義務が規定されることもある。
・適用可能な補助金等の交付若しくは公的金融機関等による無利子融資又は低xx融資の交付に関するリスク分担については、入札参加者間の競争条件の確定等のため、民間事業者の提案の前提条件として管理者等が入札説明書等に提示することが望ましい。
・民間事業者の公募からPFI事業契約の締結までの間に、補助金等の交付等支援措置が可能となった場合、これによる金融費用の減少分の「サービス対価」への反映方法等についても、管理者等が入札説明書等に提示することが望ましい。
・補助金交付等支援措置の有無により、選定事業者が想定していた融資金融機関等からの借入金額を変更する場合に留意を要する点は以下のとおりである。
①必要な借入金額が増加した場合、融資金融機関等は与信判断の前提としていた資金調達計画に齟齬をきたし、改めて与信判断を行う必要がある。この場合、新たな与信判断に時間を要するばかりでなく、場合によっては融資が困難になる可能性もある。
②融資実行後に借入金額を変更する場合、それに伴い発生する増加費用(融資解約手数料、金利スワップ解約費用等)がある。
・公的支援の実現の可否は、民間事業者の入札参加者提案の提出時までに確定されないことにも留意し、適切なリスク分担(選定事業者に生じた資金調達のための増加費用や資金調達の遅延に対する対応)をあらかじめ検討し、入札説明書等に明示することが望ましい。
5.税制関連法令の適用
・民間事業者の公募の段階においては、選定事業について、税制関連法令の適用される事実関係が判然としない場合がある。このような場合であって、かつ当該税務に関する入札参加者間の競争条件の確定を図ることが相当と認められる場合には、管理者等は全ての入札参加者が税制関連法令の適用に関し共通の解釈に基づく提案ができるよう、こうした税目に関連する法令について、税務当局が最終的な解釈を行うこととなるものの、一定の前
提を置かざるを得ない。その上で、この前提が実現しなかった場合に生じる増加費用の当事者間での分担については、あらかじめ検討し、入札説明書等に明示するなどの措置を講じることも考えられる。
1-8 国有地の貸付け
1.概要
・管理者等である国は、事業期間中、国有地を選定事業者に貸し付ける旨規定される。
・管理者等から選定事業者に対する土地の貸付けについては、PFI事業契約とは別途に契約を締結することが多い。土地の貸付けに関しては、
1)貸し付ける土地の用途を選定事業の履行の範囲とすること
2)土地の貸付期間
3)土地の貸付けが有償の場合には、貸付料と借地権利金の額
4)選定事業者が管理者等の承諾を得ずに土地にかかる権利譲渡等を行うことの禁止
5)選定事業者が善良な管理者としての注意をもって貸し付けられた土地を維持保全する義務(民法第400条)
6)PFI事業契約が解除された場合、PFI事業契約の終了と同時に当該土地の貸付契約が終了となること
等の規定が考えられる。
3.土地の使用に関する関連法令
(1) 国有地の使用の対価
・PFI法第71条の規定により、管理者等たる国が必要があると認めるときは、選定事業の用に供する間、国有地を無償又は時価より低い対価で選定事業者に使用させることができる 2。このため、PFI事業契約と別途に管理者等と選定事業者との間で国有地を無償又は時価より低い対価で選定事業者に貸し付ける契約を締結した場合、PFI事業契約が解除に至ったときには、選定事業者はその地位を失うことからこの貸付契約は解除となる。
1 地方公共団体が管理者等となる場合において、地方自治法第96条第1項第6号の規定により、条例で定める場合を除くほか、適正な対価なくして財産を貸し付けることは、議会の議決事件とされている。
2 地方公共団体が管理者等となる場合は、地方自治法第237条第2項の規定による。
(2)行政財産である土地の貸付け
・行政財産については、国有財産法により私権の設定等が制限されているが、PFI法第
69条の規定により、管理者等が必要があると認める場合、行政財産である土地を、その用途又は目的を妨げない限度において、選定事業者に対し貸し付けることができる(他の法律に特別の定めがある場合を除く)。
(3)普通財産である土地の貸付け
・普通財産については、国有財産法の規定により私権の設定等ができることから、管理者等は、普通財産である土地を選定事業者に対し貸し付けることができる(国有財産法第2
0条)1。ただし、国の普通財産である土地の貸付期間は、30年を超えることができない(国有財産法第21条第1項第3号)。
(4)民法の規定
・行政財産又は普通財産である国有地を選定事業者に貸し付ける場合、当該土地の貸付け行為は民法の適用を受け、有償貸付けは賃貸借(民法第601条)に、無償貸付けは使用貸借(民法第593条)に基づくものとなる。
1 地方公共団体が管理者等となる場合は、地方自治法第238条の5の規定による。
1-9 許認可の取得
1.概要
・選定事業の実施に必要な許認可等の選定事業者による取得義務及びそれに対する管理者等の協力義務、並びに、管理者等による同取得義務及びそれに対する選定事業者の協力義務が規定される。
2.許認可取得の責任分担
・許認可取得の責任と費用負担の義務が選定事業者にあることを規定することにより、選定事業者が必要な許認可の一部を取得できないことを理由としてPFI事業契約上の義務を履行できない場合には、その責任を選定事業者が負うこととなる。具体的には、選定事業者による許認可取得の遅延に伴う増加費用の負担、許認可取得の遅延を原因とした施設完成遅延に対する遅延損害金の支払等が考えられる。また、管理者等は選定事業者から許認可の取得に協力を求められた場合、必要な資料の提出など、必要に応じて、これに協力する義務を負う旨規定される(そもそも民間事業者が監督官庁の事業許認可を得るいわゆる各業法に係る事業等の許認可については、民間事業者のみが自己の責任をもって取得すべきことは当然であるが、各業法の適用を受けない公共施設等の整備に係る許認可については、公共が主体であるため不必要であった許認可を選定事業者が取得すべき場合等において、管理者等が必要に応じ協力することとなる。)。ただし、管理者等が取得すべき許認可については、管理者等がこれを取得する義務を負い、選定事業者はこれに協力する義務を負う旨規定される。なお、管理者等による許認可の取得遅延があった場合は、引渡し
(又は運営開始)予定日を延期する等の対応が考えられる。
・リスクガイドラインにおいては、許認可等の取得について、「工事の着手、運営の開始までに経ておくべき法令等に定められた手続の完了の遅れ、又はその更新の遅れ、手続を経た結果による公共施設等の内容の変更、また工事の着手、運営の開始までに経る地元関係者との交渉等の完了の遅れ、当該交渉等による公共施設等の内容の変更によって、設計等、用地確保、建設、維持管理・運営の各段階の中断・遅延や、各段階で必要となる費用が約定金額を超過することが起こることがある。したがって、どの段階でどのような手続等が必要であるか、手続等が必要である場合又は必要となった場合に当該手続等を公共施設等
の管理者等と選定事業者のいずれが責任をもって行うか、その遅延、公共施設等の内容の変更に係る措置をあらかじめ検討し協定等に規定しておくことが望ましい。」と定められている(リスクガイドライン二6(4))。
1-10 近隣説明
1.概要
・選定事業者は、適用法令及び条例に従い、選定事業のうち施設の建設工事についての近隣住民に対する説明と、施設の建設工事の近隣住民の生活影響に与える調査等を自らの責任と費用負担において実施する義務を負う旨規定される。併せて、管理者等は、必要と認める場合には、選定事業者等が近隣住民に行う説明に協力する義務を負う旨規定される。
2.趣旨
・選定事業の実施にあたっては、選定事業のうち建設工事の施工による騒音、交通渋滞等近隣住民の生活環境に与える影響を調査し、近隣説明を実施する必要がある。この近隣説明等については、選定事業者の費用と責任において実施する旨規定される。併せて、管理者等は、必要と認める場合には、選定事業者等が近隣住民に行う説明に協力する義務を負うことが規定される。なお、近隣住民が、PFI事業の実施によって損害を被った場合の賠償責任については、2-2-8 第三者に与える損害(設計・建設期間)と、3-5 第三者に与える損害(維持・管理、運営期間)において解説する。
・また、選定事業者に対し、近隣説明等の実施について、事前及び事後に管理者等にその内容や結果等を報告する義務を課す規定をおくことが通例である。
3.建設工事が近隣住民の生活環境に与える影響
・施設の建設工事が近隣住民の生活環境に与える影響としては、騒音、悪臭、光害、粉塵発生、交通渋滞、汚濁水発生、振動、地盤沈下、地下水の断絶等が考えられる。
4.近隣対策を求められる範囲
・選定事業者の義務となる近隣対策の範囲については、合理的に要求される範囲等と限定する旨規定されることが通例である。
2. 施設の設計、及び建設工事にかかる事項
2-1 施設の設計にかかる事項
選定事業者は、PFI事業契約、入札説明書等、及び入札参加者提案に従って、自らの責任と費用負担において施設の設計を実施する義務を負う旨規定される。
2-1-1 施設の設計、設計図書の提出
1.概要
・①選定事業者から管理者等への設計図書の提出及び確認、②提出図書の内容と入札参加者提案等との不一致の場合の当事者の対応、③施設の設計の第三者への委託等について規定される。
2.設計図書の提出及び確認
・選定事業者は、自らの責任と費用負担において、PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従って施設の設計を行う義務を負う。選定事業者は、設計の開始後、管理者等による設計の状況についての確認を受けつつ、又は管理者等と設計の状況について打ち合わせを行ないつつ、設計を行う旨規定される。基本設計及び実施設計が選定事業に含まれる場合には、選定事業者は基本設計及び実施設計のそれぞれが完成した段階で、管理者等にそれぞれの設計図書等を提出し、管理者等による確認等を受けることが規定される。管理者等は一定期間以内に又は速やかに確認等を行ない、選定事業者により提出された図書の内容がPFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に適合していることを確認した上で、その旨通知する。
・一方、選定事業者の提出図書の内容とPFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案の間に不一致があることが判明した場合、管理者等は、選定事業者に対して速やかにかかる不一致の内容を通知するものとする。管理者等は、打ち合わせを行ったこと、図書を受領したこと、PFI事業契約等と提出された図書との間の不一致の内容を通知したことのいずれを理由としても、施設の設計及びかかる設計に基づく建設工事について何らの責任を負担するものではない旨規定される。
3.設計図書の提出義務及びPFI事業契約等と内容不一致の場合の是正責任
・選定事業者については、基本設計図書及び実施設計図書のそれぞれが完成した段階で速やかに管理者等にこれらを提出し、PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案との整合性について確認を受けること、管理者等による確認通知を受領した段階で、選定事業の次の工程に着手できることが規定される。一方、管理者等については、選定事業者か
ら提出を受けた図書の内容を一定の期間以内又は速やかに確認し、選定事業者の提出した設計図書の内容とPFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案との間に不一致があると判断した場合、その不一致の内容を選定事業者に通知することが規定される。
・選定事業者の提出した設計図書の内容とPFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案との間に不一致が判明した場合、選定事業者が不一致の内容についてその責任と費用負担により是正し、是正したものを管理者等に再度提出し、確認を受けることが規定される。選定事業における設計図書は、工程を経るなかでxx詳細化及び補完されていくことから、管理者等による内容の不一致の判断について当事者間で合意が得られない場合が想定される。このため、設計期間中に当事者が定期的に打ち合わせを行うこと等が規定されるとともに、管理者等が通知した不一致の内容に対し、選定事業者が意見を述べること、及び管理者等が選定事業者の意見が合理的と認めた場合には、選定事業者は是正を行う必要のないことなどの規定が置かれることが通例である。
・また、PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案と基本設計図書の内容又は実施設計図書の内容との不一致の是正等に起因し、設計の後段階の事業日程が遅延する場合の措置、当事者間の責任分担、増加費用負担についてPFI事業契約に規定される。設計段階において、選定事業者の責に帰すべき事由により施設の引渡し(又は運営開始)といった設計の後段階の事業日程が遅延するとき、その責任とかかる増加費用を選定事業者が負担すること、管理者等がかかる遅延による損害金の請求権を得ることが規定される。
4.設計図書の確認と設計にかかる責任との関係
・管理者等が、①設計の状態について確認すること又は設計の状態について選定事業者と打ち合わせをすること、②選定事業者から提案を受けた設計図書の内容を確認等した旨通知すること、③選定事業者から提案を受けた設計図書の内容とPFI事業契約等との間の不一致の内容について選定事業者に通知すること、④選定事業者のVE(value engineering)提案に対する審査をすること等をもって、選定事業者の施設の設計及びかかる設計に基づく建設工事についての責任が軽減又は免除されるものではない旨規定する必要がある。
5.設計の第三者への委託等
・第三者たる設計企業に設計を委託し、又は請け負わせることについて、管理者等への事前の通知又は管理者等の承諾を義務とする旨規定される。
・選定事業者が設計をコンソーシアム構成企業(又は受託・請負企業)の設計企業に委託し又は請け負わせる場合、その設計業務委託契約などの規定にかかわらず、管理者等との関係では当該設計企業の責めに帰すべき事由は全て選定事業者の責めに帰すべき事由とみなされる旨規定される。
・さらに、選定事業者が使用する一切の第三者の責めに帰すべき事由は、すべて選定事業者の責めに帰すべき事由とみなして、選定事業者が責任を負うものとすることなどが規定される。
6.共通仕様書
・選定事業者が設計において達成すべき整備水準については、PFI事業契約において関係法令に関する規定の他、施設に求める機能、性能等の設定を目的として、共通仕様書等の各種技術基準を参考にすること等が考えられる。
なお、公共建築に関する事業においては、官庁営繕関係統一基準を参考にすることが考えられる。
7.選定事業者によるVE提案
・PFI事業における設計業務については、PFI事業契約、設計条件を含む入札説明書等及び施設の基本的な考え方やデザイン等いわゆる企画設計図書を含む入札参加者提案に従って、選定事業者が施設の設計を選定事業内容の一部として行うことが基本である。
・しかしながら、施設の設計業務を選定事業の内容に含めず、あらかじめ管理者等から示す施設の基本設計図書及び実施設計図書をPFI事業契約書の一部又は付属資料とし、かかるPFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従って、選定事業者が施設の建設工事を施工する旨規定された上で、選定事業者がVE提案によって管理者等の示した設計図書を変更することができる旨規定される場合(契約後VE)もある。
・上述のPFI事業契約締結後の選定事業者のVE提案は、民間技術の積極的活用により建設工事、維持・管理、運営の費用の縮減を図ることを狙いとしている。VE提案を求める範囲は、施工の確実性、安全性が確保され、かつ、設計図書に定める工事の目的物と比較し、機能、性能等が同等以上で経済性が優位であると判断されるものとする。
・選定事業者のVE提案により実現できる建設工事費用の縮減金額のすべてを「サービス対価」のうち建設工事費に相当する支払い対価の減額に反映させるならば、選定事業者が VE提案を行う経済的動機付けを失ってしまう可能性がある。このため、VE提案により減額する建設工事費に相当する支払い対価の一定割合に相当する金額を減額しない。例えば、VE提案により請負代金が低減すると見込まれる額の10分の5に相当する金額(「V E管理費」という。)を削減しないこととする取り決めも考えられる。
2-1-2 設計の変更、法令変更による設計の変更
1.概要
・①管理者等又は選定事業者からの求めによる設計変更が可能な範囲、②設計変更が求められた場合の相手方による当否の検討、承諾等の手続き、③設計変更が行われた場合の増加費用の負担割合等について規定される。併せて、法令変更に伴う設計変更による増加費用の分担等について規定される。
2.管理者等の求めによる設計変更
・管理者等は、必要があると認める場合、設計変更を選定事業者に求めることができる旨規定される。その際、設計変更の限界として、民間事業者の入札参加者提案を逸脱する設計変更、又は工期の変更を伴う変更を求めることはできない旨規定されることが通例である。場合によっては、工期の変更を伴う設計変更等に関し、管理者等が選定事業者に対し協議を求めることができる旨の規定が置かれる場合がある。
・具体的な手続きについては、管理者等が選定事業者に対し設計変更を求めた場合、選定事業者は当該変更の当否の検討を行ない、その結果を一定期間以内に管理者等に通知し
(ここで、選定事業者は当該変更の当否とともに、当該変更により予想される増加費用等についても検討し、その内容を通知内容に含めることが考えられる。)、管理者等はこれを踏まえて設計変更の要否を決定し、選定事業者に通知することとされ、選定事業者はこれに従うものと規定される。
・管理者等の求めによる設計変更に起因する増加費用については、選定事業者との帰責の割合に応じて、管理者等と選定事業者がかかる費用を分担して負担する旨規定されることが通例である。設計変更に起因する増加費用としては、設計費用、建設費用、将来の維持・管理、運営にかかる費用及び金融費用(追加の資金調達に要する金利負担等の各種費用)などが想定される。なお、選定事業者が作成した設計図書の内容とPFI事業契約等、入札参加者提案又は入札説明書等との間に不一致がある場合は、当然ながら管理者等の帰責性は認められず、この場合、選定事業者は自己の費用と責任において当該不一致を是正することとなる。
・管理者等の求めによる設計変更があった場合、それに起因する増加費用とあわせて、引
渡し(又は運営開始)予定日の延期についての検討が同時に必要である点に留意を要す る。対応の選択肢としては、当初設定した引渡し(又は運営開始)予定日は変更せず、 その引渡し(又は運営開始)予定日までに施設を完成させることを前提とした増加費用 を管理者等が負担するという対応と、逆に合理的な期間、引渡し(又は運営開始)予定 日を延期した上で、その引渡し(又は運営開始)予定日までに施設を完成させることを 前提にした増加費用を管理者等が負担する、という対応が考えられる。一定の期日まで に施設の運営を開始することを重視するならば、前者が選択される。ただし、この場合、 増加費用の負担は相対的に大きくなることが一般に予想される。これに対し、後者を選 択した場合、引渡し(又は運営開始)予定日を延期する以上、当然に「サービス対価」 の支払開始も遅れることになる。従って、この「サービス対価」の支払開始の遅延が選 定事業者による融資返済にどのような影響を与えうるのかについて留意する必要がある。
・上記に関し、引渡し(運営開始)予定日を延期した場合、それに伴って維持・管理、運営期間の終期も同様に延期するのか、あるいは維持・管理、運営期間の終期は変更せず、維持・管理、運営期間を短縮することとするのか、という問題について検討を要する。前者を選択した場合、維持・管理、運営の期間は変わらないが、「サービス対価」の支払が全体として遅くなり、後者の場合には、維持・管理、運営期間の短縮の結果、選定事業者が失うことになる「サービス対価」をどのように考えるかについて検討を要する。(関連:1-4 事業日程)
・管理者等の求めによる設計変更に起因して、選定事業者が負担すべき施設整備にかかる費用が減少した場合は、合理的な範囲内において当該費用の減少分を「サービス対価」から減額することが考えられる。
・管理者等の求めによる設計変更を認めない場合、管理者等が望まない施設が建設されることも想定され、これは経済合理性に欠くといえる。このため、工期の変更を伴わない範囲の設計変更については、増加費用を管理者等が負担する限り、選定事業者の承諾は必要とされないと考えられる。
3.選定事業者の求めによる設計変更
・選定事業者の求めによる設計変更については、提案審査のxx性の確保等を勘案して、上記の入札参加者提案からの逸脱の有無等に関わりなく、管理者等の事前の承諾が必要とされる。また、かかる設計変更に起因して選定事業者に生じた増加費用については、管理
者等と選定事業者が、帰責の割合に応じて、かかる費用を分担して負担する旨規定されることが通例である。
4.法令変更による設計変更
・法令変更に対応するための増加費用の考え方については、当該選定事業に直接関係する法令を特定し、かかる法令の変更に基づく増加費用は管理者等の負担とし、広く民間企業一般に影響を及ぼすような法令変更に基づくものについては、選定事業者の負担とする考え方がある(関連:5-3 不可抗力等の場合の解除xx)。
・当該選定事業に直接関係する法令の変更による設計変更の場合、上記2.の場合と同様に引渡し(又は運営開始)予定日の延期についての検討が同時に必要である点に留意を要する。それ以外の法令の変更による設計変更の場合には、選定事業者のリスク負担として引渡し(又は運営開始)予定日は変更されないことが通例であると考えられる。
5.増加費用の負担に代える設計変更
・管理者等が契約上の別の規定により増加費用を負担すべき事実が生じた場合、特別な理由があるときは、予算xxxの観点から当該負担に代えて、減額を目的とした実施設計図書の変更ができる旨規定することも考えられる。
6.標準約款上の規定(参考)
・従来型の公共工事の請負契約においては、発注者は、必要があると認めるときは、設計図書の変更内容を請負者に通知して、設計図書を変更することができ、この場合において、発注者は、必要があると認められるときは工期若しくは請負代金額を変更し、又は請負者に損害を与えたときは必要な費用を負担しなければならないとしている(標準約款第19条)。また、請負代金額の変更に代える設計図書の変更について、発注者は、請負代金額を増額すべき場合又は費用を負担すべき場合において、特別の理由があるときは、請負代金額の増額又は負担額の全部又は一部に代えて設計図書を変更することができ、設計図書の変更内容は、請負者と協議して定めるとしている(ただし、協議開始後一定期間に協議が整わない場合には、発注者が定め、請負者に通知するとしている)(標準約款第31条)。
2-2 施設の建設工事にかかる事項
1.概要
・選定事業者は、PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従い、施設整備を行う義務を負う旨規定される。
2.施設の建設工事にかかるリスク
・施設の建設工事にかかるリスクとしては、①施設の完工遅延、②施設の建設工事費の増加、③施設にかかる要求水準未達、④施設の建設工事につき第三者に与える損害等が想定される。こうしたリスクは、予定どおりに施設を引渡し、運営を開始できなかったことによる得べかりし公共サービスの逸失利益、工期遅延等による増加費用負担、第三者に対し損害を与えた場合の損害賠償等として顕現化する。
・これらの損害等をもたらす要因は、①選定事業者の責めに帰すべきもの、②管理者等の責に帰すべきもの、③選定事業者及び管理者等の双方の責めに帰すべきもの、④選定事業者又は管理者等の責めに帰すことができないものに分類できる。
・なお、建設工事の段階で発生した事由により、PFI事業契約が解除されることも想定しうるが、これについては、別途、「5.契約の終了」において解説する。
・選定事業者が施設を完工し、公共サービスの提供を開始しない限り、基本的には管理者等の「サービス対価」支払い義務は生じず、選定事業者はこれを受領できないことから、選定事業者は施設を完工させ、公共サービス提供を開始することに対し、大きな経済的動機付けを保持している。選定事業者にとって自らの責任による施設の完工遅延及び公共サービス提供の遅延は、従来型の公共事業以上に大きなリスクとなる。
2-2-1 施設の建設工事
1.概要
・選定事業者は、PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従い、自らの責任と費用負担において施設整備を行う義務を負う旨規定される。併せて、選定事業者は、施設の施工方法その他施設を完成するために必要な一切の手段を自己の責任において定めることについて規定される。
2-2-2 土地の引渡し
1.概要
・管理者等が選定事業の用に供する目的のため、選定事業者に対し貸し付ける土地(以下、
「事業用地」という。)の引渡しの時期、引渡し時の事業用地の状態、及び引渡し後の選定事業者の事業用地にかかる善良なる管理者としての注意義務について規定される。
2.趣旨
・選定事業がBOT方式又はBTO方式であるかにかかわらず、選定事業者が管理者等の所有する土地上で選定事業を実施する場合、建設工事の着手等事業用地を使用する業務を開始させるため、管理者等は事業用地を選定事業者に引き渡す必要がある。事業用地の引渡しの時期及び引渡し時の事業用地の状態は、施設の建設工事の着手、その後の維持・管理、運営の開始等事業の工程、事業費用等事業内容に影響を与える場合があることから、具体的かつ明確に規定する必要がある。
3.引渡し期日
・事業用地の引渡し期日の規定については、事業内容等に応じて、具体的かつ明確に規定することが重要である。規定例については以下のとおりである。
1)特定の年月日
2)PFI事業契約の締結日
3)別途締結する土地の使用貸借契約で定める日
4)測量等土地調査の開始日
5)建設工事の着工日
・事業用地の引渡しの時期については、PFI事業契約書の別紙として日程表に記載される場合もある。
4.引渡し時の土地の状態
・管理者等から選定事業者に対する事業用地の引渡しの状態については、現状で引き渡す、施設の建設工事の施工が可能な状態で引き渡す等と規定されることが通例である。
・引渡しの土地の状態は、選定事業者が建設工事費を算出するための前提条件として重要な要素であるため、民間事業者の募集の際に管理者等が入札説明書等において具体的に示すことが求められる。
・引渡し時の事業用地の状態があらかじめPFI事業契約に定められた状態と異なる場合や、引渡しの遅延による工期の変更や増加費用の負担についても、管理者等と選定事業者の帰責性に応じて規定を置くことが考えられる。
5.土地にかかる選定事業者の善管注意義務
・土地の引渡し後の選定事業者の土地にかかる善良なる管理者としての注意義務について規定される(民法第400条)。なお、標準約款第16条第2項においても、請負者の事業用地にかかる善管注意義務の規定が置かれている。
2-2-3 建設工事に伴う各種調査
1.概要
・施設の建設工事のために必要な測量、地質調査等の調査が選定事業に含まれる場合、選定事業者は、その調査を実施する義務を負い、当該調査の不備及び誤謬等から生じる責任と増加費用を負担すること等が規定される。また、当該調査により土地の瑕疵が判明した場合、その修補のためにかかる増加費用の負担、事業工程の遅延に係る措置等について規定される。
2.調査の不備等の責任と費用負担
・施設の建設工事のために必要な測量、地質調査等の調査が選定事業に含まれる場合、選定事業者は自らの責任と費用負担において、必要な調査を実施し、その不備及び誤謬等から生じる一切の責任及び増加費用を負う旨規定される。
・管理者等は、民間事業者に対し、入札説明書等において選定事業の履行条件として土地 に関する資料を提示し、民間事業者は当該資料に基づき、設計費及び建設工事費等の積算 を行う。その後、選定事業者は選定事業の業務の一部として施設の建設工事に必要な調査 を自ら実施し、自ら実施した調査に従って施設の設計及び建設工事を施工することとなる。
このため、選定事業者が土地にかかる調査等を自ら実施した結果、管理者等が入札説明書等において提示した土地に関する資料から合理的に予測又は想定できない瑕疵があることが判明した場合、及び、管理者等の提示した土地にかかる資料と選定事業者の実施した調査等結果との間で著しい差異がある場合等については、管理者等が選定事業者に生じた合理的な増加費用を負担すること、必要に応じた事業日程の変更等の措置を講じることを規定することなどが考えられる。
・特に、施設の建設工事に必要となる土地にかかる調査のうち、埋蔵文化財及び土壌汚染の調査については、これらの調査により判明される土地の瑕疵が、事業費用及び事業の工程に対し特に大きな影響を与える可能性があり、瑕疵の内容によっては、PFI事業契約の解除に至るおそれがあることから、当事者間で具体的かつ明確なリスク分担を規定する必要性が高い。
・リスクガイドラインにおいては、調査・設計に関するリスクとして、「選定事業に測量若
しくは地質等調査又は設計(以下「設計等」という。)の一部又は全部が含まれる場合に
「設計等の完了の遅延」、「設計等費用の約定金額の超過」、「設計等の成果物の瑕疵」等が主なものとして想定される。」と定められている。従来型の公共工事の請負契約においても、工事現場の形状、地質等が設計図書と異なる場合、監督員への通知、調査を経て、工期の延長を認める規定が置かれる(標準約款第18条)。
3.その他施設の建設工事に必要な調査等
・選定事業者が建設工事の必要に応じて実施する調査等としては、測量及び地質調査に加え、周辺地域に対する家屋影響調査、工事に係るテレビ電波障害の現況調査等が考えられる。個々の施設及び建設工事の内容や地域特性に応じて選定事業者が判断する必要がある。
4.調査等実施の手続き
・選定事業者が調査を実施するときは、管理者等に事前に連絡する義務を課す、又は、速やかな事業の実施のため、事業用地の引渡し前に選定事業者が管理者等に事前連絡を行ない、管理者等の承諾を得た上で調査等を実施することができる旨規定することが通例である。
2-2-4 施工計画書の提出
1.概要
・選定事業者が施設の建設工事の工程などを記載した施工計画書を作成し、管理者等に対して提出する義務を負うこと、及び工事記録を整備する義務を負うこと等が規定される。
2.趣旨
・選定事業における施設の建設工事については、通常総額によりPFI事業契約を締結する方法がとられ、選定事業者は、全体の工期内に建設工事を完成する義務を負うだけであり、特段の合意がない限り、施工計画書等に記載のとおりに個々の工種ごとにその工事細目を一定の期日までに完成する義務を負うものではない。施工計画書等は、管理者等が選定事業者による建設工事の進捗状況の把握等の目安として取り扱うものである。(関連:
1-4 事業日程)
・選定事業者の対応能力に応じ、その自主的な建設工事の施工に委ねるとしても、必要に 応じて管理者等の関与が必要な場合がある。しかしながら、選定事業全体に与える影響が 小さいと見込まれるときには、管理者等の過度の関与が不適当な場合があることに留意し、事業日程に規定された施設の完工期日又は施設の維持・管理、運営開始期日までに選定事 業者により建設工事が施工され、サービス提供の準備が完了することに主眼を置くことが 望ましい。
3.標準約款上の規定(参考)
・標準約款第3条第2項において、工程表は、この約款の他の条項において定める場合を除き、当事者を拘束するものではないと定めている。
4.施工計画書等の提出
・選定事業者は、①工事全体の工程表を含む施工計画書、及びこれを補足する月間工程表又は週間工程表を作成すること、②建設工事の着手前に、工事全体の工程表を含む施行計画書を管理者等に提出すること、③月間工程表又は週間工程表を一定の期日に、又は管理者等が求めたときに提出する等の規定を置くことが通例である。
・選定事業者が管理者等に提出する施工計画書等に対する管理者等の確認等の要否(「サービス対価」を変更する場合の算定の基礎に活用するかなどを考慮する)については、当事者があらかじめ検討し、PFI事業契約に規定することが望ましい。
・工期中の工事記録の整備については、選定事業者が、実際に施設の建設工事を請け負う又は受託する建設企業にその義務を移転する場合、その旨規定される。
2-2-5 第三者による実施(建設工事)
1.概要
・①選定事業者は、施設の建設工事を第三者に委託し又は請け負わせることができるものとすること、ただし、かかる委託又は請負は全て選定事業者の責任において行うこと、②選定事業者は、施工体制台帳等を管理者等に提出する義務を負うこと等が規定される。
2.選定事業者の責任の範囲
・コンソーシアム構成企業が株式会社を新設し、当該株式会社が選定事業者となる場合、選定事業者は、通例、コンソーシアム構成企業(又は受託・請負企業)の建設企業に建設工事を委託し又は請け負わせる。ただし、選定事業者は、建設工事を建設企業に委託し又は請け負わせる場合においても、その建設請負契約などの規定にかかわらず、管理者等との関係では、建設企業その他の選定事業者が使用する第三者の責めに帰すべき事由は全て選定事業者の責めに帰すべき事由とみなされることが規定される。
・建設業法において、建設業者は、その請け負った建設工事を、如何なる方法をもってするを問わず、一括して他人に請け負わせてはならないとし、建設業を営む者は、建設業者から当該建設業者の請け負った建設工事を一括して請け負ってはならないと規定している(建設業法第22条第1項及び第2項)。また、同法において、一括下請負の禁止の例外として、元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得た場合には、同法第22条第1項及び第2項の規定は適用されない(建設業法第22条第3項)。このため、選定事業者が建設企業に建設工事を請け負わせる等した場合で、この建設企業が第三者に一括して請け負わせること(一括下請負)の承諾を選定事業者に求めた場合には、その承諾を与えてはならないことを規定する場合がある。
・ちなみに、参考として、公共工事においては、発注者の承諾の有無とは無関係に一括下請負を禁止されるべきであることから、入札契約適正化法において、公共工事においては建設業法第22条第3項を不適用とし、一括下請負が認められる場合が存在しないことが規定されている(入札契約適正化法第14条)。
3.施工体制台帳等の管理者等に対する提出
・PFI事業においては、実質的に建設工事を施工する企業を管理者等が把握するため、入札参加者提案において建設工事を施工する建設企業を示すことが通例である。
・一般に建設工事の施工は、それぞれ独立した各種専門工事の総合的な組み合わせにより成り立っているため、建設業法において、発注者から直接請け負った建設工事を一定額以上の下請契約を締結して施工しようとする特定建設業者に対し、施工体制台帳及び施工体系図の作成等を義務付けている(建設業法第24条の7及び建設業法施行令第7条の4)。ちなみに、参考として、入札契約適正化法が適用される場合には、発注者への施工体制台帳の写しの提出が義務付けられている(入札契約適正化法第15条第1項)。
・上述のとおり、選定事業における建設企業が特定建設業者であって、発注者から直接請け負った建設工事を一定額以上の下請契約を締結して施工しようとする場合には、当該建設企業には建設業法の定めにより施工体制台帳等の作成が義務付けられている。したがって、管理者等が、工事の適正な施工の確保がなされているかを確認するため、PFI事業契約締結後から建設工事の着手までの間に、選定事業者に対して建設企業から施工体制台帳等の提出及びこれらについての報告を求めることができること、下請業者の内容が変更された場合には管理者等に通知することが規定される。
2-2-6 工事監理者の設置
1.概要
・選定事業者は、建築基準法の定めに従い施設の建設工事に着手する前に自らの費用負担により工事監理者を設置する義務を負う旨規定される。また、選定事業者は、設置した工事監理者の名称を管理者等に通知し、当該工事監理者に報告を行わせる義務を負うこと等が規定される。
2.建築基準法等の規定
・建築士法において、工事監理とは、その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているか否かを確認することと規定されている(建築士法第2条第8項)。
・建築基準法において、建築主は建築士法第3条から第3条の3までに規定する建築物の工事をする場合には、それぞれ建築士法第3条から第3条の3までに規定する建築士である工事監理者を定めなければならないと規定されている(建築基準法第5条の6第4項、建築士法第3条から第3条の3)。
・したがって、PFI事業においても建設基準法に定める建築物の工事を実施する場合には、建築主である選定事業者は当該建設工事の工事監理者を定める必要がある。
3.工事監理者の監理報告
・PFI事業契約においては、選定事業者が建設工事の着手前に工事監理者を設置することとともに、設置後速やかにその名称を管理者等に宛て通知する義務が規定される。また、工事監理者の設置にあたり、管理者等の承認を必要とすることも考えられる。
・PFI事業契約においては、選定事業者が、工事監理者をして、管理者等に対する定期的な報告を行わせる義務を負う旨規定される、又は、施工状況把握のため、必要に応じ、管理者等が工事監理者からの報告を求めることができる旨規定されることが通例である。
2-2-7 工期の変更
1.概要
・当事者の一方が施設の建設工事の工期の変更を求めた場合、当事者間の協議により当該変更の当否を定めた後(協議が不調に終わった場合は、管理者等が合理的な工期を定め、選定事業者はこれに従う。)、当該変更の対応に要する増加費用の負担については当事者間の協議により決定する旨規定される。
2.工期の変更と事業日程の遅延との関係
・工期の変更が行われても、管理者等への施設の引渡し(又は運営開始)等の事業日程は遅延されない場合もあり得る。工期の変更による増加費用の負担については、事業日程の遅延による違約金支払いなど損害の負担の規定とは区別し、かつ、両者の整合性を確保する必要があることに留意が必要である。
・工期の変更により、選定事業者から管理者等への施設の引渡し(又は運営開始)等の事業日程が遅延したときの損害の負担については、具体的かつ明確な規定が置かれる。(関連:2-4―2 引渡し(又は運営開始)の遅延)
3.工期の変更による増加費用の負担
・建設工事の工期の変更による増加費用の負担については、当該変更が選定事業の用に供する土地の瑕疵又は管理者等の責めに帰すべき事由による場合は、管理者等が合理的な範囲で負担し、当該変更が選定事業者の責めに帰すべき事由による場合は、選定事業者が負担することが原則となる。
・設計変更の場合(2-1-2)と同様に、工期の変更があった場合、それに起因する増加費用とあわせて、引渡し(又は運営開始)予定日の延期についての検討が同時に必要である点に留意を要する。管理者等の帰責事由による工期の変更への対応の選択肢としては、当初設定した引渡し(又は運営開始)予定日は変更せず、その引渡し(又は運営開始)予定日までに施設を完成させることを前提とした増加費用を管理者等が負担するという対応と、逆に合理的な期間、引渡し(又は運営開始)予定日を延期した上で、その引渡し(又は運営開始)予定日までに施設を完成させることを前提にした増加費用を
管理者等が負担するという対応が考えられる。一定の期日までに施設の運営を開始することを重視するならば、前者が選択される。ただし、この場合、増加費用の負担額は相対的に大きくなることが一般に予想される。これに対し、後者を選択した場合、引渡し
(又は運営開始)予定日を延期する以上、当然に「サービス対価」の支払開始も遅れることになる。従って、この「サービス対価」の支払開始の遅延が選定事業者による融資返済に与える影響、ひいては、管理者等の負担に与える影響について留意する必要がある。
・上記に関し、引渡し(又は運営開始)予定日を延期した場合、それに伴って維持・管理、運営期間の終期も同様に延期するのか、あるいは維持・管理、運営期間の終期は変更せずに、維持・管理、運営期間を短縮することとするのか、という問題についても検討を要する。前者を選択した場合、維持・管理、運営の期間は変わらないが、「サービス対価」の支払いが全体として遅くなり、後者の場合には、維持・管理、運営期間の短縮の結果、選定事業者が失うことになる「サービス対価」をどのように考えるかについて検討を要する。(関連:1-4 事業日程)
4.関係法令の規定
・建設業法において、「当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め」及び「天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め」が建設工事の請負契約の締結に際に必要な記載事項の一つに規定されている(建設業法第19条第1項第5号及び第6号)。PFI事業契約においても、工期が変更されたときの増加費用の分担について規定する必要がある。
・従来型の公共工事の請負契約においては、工期の変更方法について、発注者と請負者が協議して定めることを原則とし、一定期間以内に協議が整わない場合には、発注者が決定して請負者に通知することとしている(標準約款第24条第1項)。
・工期の変更に関連して発生しうる「工事の完成の遅延」は建設工事にかかる主なリスクとして想定される(リスクガイドライン二3)ことから、管理者等と選定事業者は、PF I事業契約において、かかるリスクが顕在化した場合の増加費用の分担を含む措置について、できる限り曖昧さを避け、具体的かつ明確に規定する必要がある。
・工事の完成の遅延には、選定事業者の不適切な工程管理等による遅延、管理者等の何らかの事由による設計変更等による遅延、当該管理者等あるいはその他の者の選定事業に係る公共施設等に密接に関連する施設の整備の遅れによる遅延、不可抗力等協定等の当事者の合理的な措置にかかわらず避けられない双方の責めに帰しがたいものによる遅延等がある。工事の完成が遅延する場合には、選定事業者には労務費等の増加負担、借入金xx払増等の損失が、公共施設等の管理者等には代替サービスの購入費等の損失が発生する場合がある。なお、選定事業者が公共施設等の完成の通知をした場合において、設備、機器の試運転の結果、当該公共施設等の状況によっては協定等や仕様書等で示された提供されるべき公共サービスの水準を達成することができない場合には、工事は完成しておらず、その修補の完了が工事の完成となることを協定等で合意しておく必要がある。(リスクガイドライン二3(1)参考①)
2-2-8 第三者に与える損害(設計、建設段階)
1.概要
・選定事業者が行う施設の建設工事により第三者に与える損害等については、選定事業者がそれを負担する旨規定される。ただし、当該損害のうち管理者等の責めに帰すべき事由により生じた損害等については、管理者等がこれを負担する旨規定される。
2.近隣対策にかかる費用負担
・事業の実施そのものについての近隣調整は管理者等に責任の所在があるものの、近隣調整の不調については、その理由が事業の実施そのものであるのか、若しくは、選定事業者による建設工事の影響であるのか、必ずしも判然としない場合が生じうると想定される。この場合には、責任の所在と費用負担について当事者間で協議を行う必要が生じるものと考えられる。
・なお、管理者等は、当該施設の立地条件、事業内容等の観点から、近隣住民の生活環境に相当な程度の影響を与えることがあらかじめ想定される事項については、その対応にかかる責任の所在と費用負担のあり方を入札説明書等に明記することが望ましい。
3.第三者に対する損害賠償責任
・施設の建設工事により第三者に損害を与えた場合、選定事業者は当該損害を当該第三者に対して賠償する旨規定される。ただし、管理者等の責めに帰すべき事由の場合には、管理者等が当該損害を当該第三者に対して賠償する旨規定される。
4.通常避けることのできない理由による損害
・施設の建設工事に伴い通常避けることができない騒音等の事由により第三者に与える損 害等の負担については、その他事由による負担とは別に規定が置かれることが通例である。
・建設工事に伴い通常避けることのできない騒音、振動、地盤沈下、地下水の断絶等の理由により第三者に損害を与えた場合については、その損害賠償責任が選定事業者にあるとする考え方と、管理者等にあるとする考え方がある。PFI事業契約の締結にあたり、当事者間で、いずれの考え方が当該選定事業に相応しいかを検討し、PFI事業契約におい
て適切に規定することが望ましい。ただし、上記の理由が選定事業者の建設工事における善管注意義務違反を原因としている場合には、選定事業者が損害賠償責任を負うことになる。また、これらの問題は、建設工事に伴う各種調査に関する問題とも関連するため、P FI事業契約上相互の規定の整合性につき留意が必要となる。(関連:2-2-3 建設工事に伴う各種調査)
・他の民間事業者が実施しても回避することが見込めない事由である場合、選定事業者にそのリスクを全て負担させることにつき合理的な理由が見いだせないという考え方もある。特に、事業用地を管理者等が事前に指定している場合、そのような事情は強まると思われる。しかしながら、管理者等が損害賠償を負担するとした場合、選定事業者は消極的に善管注意義務を果たすにとどまり、損害防止のために積極的により優れた技術を用いるという経済的動機付けを失う可能性があるという側面にも留意が要する。
・標準約款第29条第2項においては、建設工事に伴い通常避けることのできない騒音、振動、地盤沈下等の理由により第三者に損害を与えた場合、発注者がその損害を負担すると定められている(ただし、善管注意義務を怠った場合は請負者がその損害を負担するとされる。)。その理由として、請負者が損害の負担部分を契約額の中であらかじめ留保することなどから契約金額に転嫁される結果ともなり得ることに加え、公共工事が仕様発注方式をとり、かつ、公共は工事請負契約の発注者の立場になることから、発注者たる公共が負担するとしているものと考えられる。一方、PFI事業においては、性能発注方式をとり、かつ、管理者等にとっては契約の相手方である選定事業者が発注者の立場になって、請負人である建設企業の間で施設の工事請負契約等が締結されるため、選定事業者が負担することも考えられる。ただし、PFI事業を選定事業者に一括して委ねる者は管理者等であることを理由に、又はVE提案等の仕様発注に近い方法を採用する場合等において、管理者等が負担することも考えられる。
5.関係法令上の責任
・以下は、PFI事業において管理者等が問われる可能性のある法律上の責任を例示したものである。
1)公の営造物又は土地の工作物にかかる責任(国家賠償法第2条第1項又は民法第71
7条第1項):国家賠償法第2条第1項において「公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責めに任ず
る。」と規定されている。また、民法第717条第1項は、土地の工作物の設置又は保存の瑕疵により第三者に損害を与えた場合、かかる工作物の占有者がその損害について責任を負うとし、同項但し書は、占有者が損害の発生を防止するために必要な注意をなしていたときは、占有者は免責されて、所有者が責任を負うと定めている。
2)共同不法行為者の責任(民法第719条):建設工事に関し、管理者等と選定事業者の双方が共同して第三者に損害を与えた場合、管理者等と選定事業者の行為は民法第719条に規定される共同不法行為となり、被害者は、管理者等と選定事業者の各自に対して生じた損害の全額の賠償を求めることが可能である。そして、共同不法行為者の一人が被害者に全部の賠償をした場合には、他の者に対して本来負担すべき責任の割合に応じて求償権を持つことになるが、かかる損害の分担方法についてあらかじめ当事者間で合意しておくことも可能である。したがって、PFI事業契約においても、事業の委託者である管理者等と受託者である選定事業者の間における損害の分担方法についてあらかじめ合意しておくことが考えられる。
6.第三者賠償責任保険のxx義務
・第三者に対する損害賠償については、保険による填補が経済的に合理的なリスク軽減等の手段になる選定事業が多いことから、選定事業者にかかるxxを義務付け、PFI事業契約の別紙としてxx内容の明細を記載し、その内容及び基本条件につき規定することが通例である。また、被保険者として選定事業者、選定事業者と契約する建設企業、建設企業の下請企業等を含めることが可能である。(関連:6―5 保険加入義務)
2-2-9 不可抗力による損害(設計、建設段階)
1.概要
・施設の設計、建設段階において、不可抗力の発生により、PFI事業契約等に従った設計、建設業務の履行が不能になった場合の規定である。不可抗力事由の発生時における債務の取扱い、履行不能発生時の選定事業者による管理者等への通知等の手続き、不可抗力に起因する損害等の分担、施設の引渡し(又は運営開始)予定日の変更などについて規定される。
2.不可抗力の定義の考え方
・不可抗力とは、協定等の当事者の行為とは無関係に外部から生じる障害で通常必要と認められる注意や予防方法を尽くしてもなお防止し得ないものと考えられる。管理者等及び選定事業者のいずれの責めにも帰しがたい天災等、具体的には、暴風、豪雨、洪水、高潮、地滑り、落盤、落雷、地震、火災、有毒ガスの発生等の自然災害に属するものと、騒乱、暴動、戦争、テロ行為等の人為災害に属するものとに分類できる。最終的には当事者間の合意するところに委ねられる(参考:リスクガイドライン二6(1))。(関連:
5-3 不可抗力等の場合の解除xx)
3.不可抗力発生時の手続き等
・不可抗力事由の発生により、PFI事業契約等に従った設計又は建設工事業務の全部又は一部の履行が不能となった場合、選定事業者はその履行不能の内容の詳細及びその理由について書面をもって直ちに管理者等に通知することが規定される。選定事業者は、この履行不能通知の発出後、履行不能状況が継続する期間中、選定事業者の履行期日における PFI事業契約等に基づく自己の債務について当該不可抗力による影響を受ける範囲において業務履行義務が免除される。ただし、選定事業者は損害を最小限にする義務を負う。
・管理者等は選定事業者から履行不能通知の受領後、速やかに当該不可抗力による損害状況の確認のための調査を行い、その結果を選定事業者に通知する義務が規定される。また、管理者等は、設計や建設工事等の内容の変更、引渡し(又は運営開始)の遅延、当該不可抗力事由による合理的な損害又は増加費用の分担等対応方法につき選定事業者と協議を
行うことが規定される。
・上述の当事者間による協議において一定期間以内に合意が成立しない場合、管理者等は、事業継続に向けた対応方法を選定事業者に通知し、選定事業者は、かかる対応方法に従い選定事業を継続する義務を負うことが規定される。また、選定事業者の履行不能の状態が永続的なものと判断されるとき又は選定事業の継続に過分の費用を要するときなどには、管理者等は、選定事業者と事業の継続の是非について協議の上、PFI事業契約の一部又は全部を解除できることが規定される。なお、管理者等と選定事業者の当事者双方が解除権を有する契約構成とすることも考えられる。
4.不可抗力による損害等の分担
・設計、建設段階に、不可抗力の発生により施設及び仮設物、工事現場に搬入済みの工事材料、その他建設機械器具等に対し損害が生じた場合、選定事業者に不可抗力等による損害を最小限にとどめる経済的動機付けを与えるため、生じた損害又は増加費用の一部を選定事業者が負担することとし、その余を管理者等が負担する規定を置くことが通例である。例えば、同期間中の累計で建設工事費に相当する金額に一定比率を乗じた額に至るまでの額、又は一定金額に至るまでの額を選定事業者の負担とし、これを超過する部分については、「合理的な範囲」で管理者等が負担すると規定されることが考えられる。選定事業者の負担割合の検討にあたっては、選定事業者がより多くの不可抗力の損害金を負担することとした場合、不可抗力のリスクを適正に定量化できないこと及び保険技術上の制約から、選定事業者が不可抗力のリスクを負担するための費用が過大となり、結果として、かかる費用が契約金額に転嫁される結果ともなり得ることに留意する必要がある。なお、選定事業者が善良なる管理者としての注意義務を怠ったことに起因する損害等については、選定事業者が負担するものと規定される。
・ここでの損害の範囲について検討が必要である。具体的には、損害の範囲を積極損害(施設、仮設物等のみを対象とした損害)のみとするか、あるいはこれらに関連する選定事業者の損害と増加費用一般まで含むか、という点を明確にすることが望ましい。
・建設工事費に相当する額に一定比率を乗じた額又は一定金額を超過する部分について、
「合理的な範囲」で管理者等が不可抗力による損害又は増加費用を負担する旨規定されることが通例である。この場合、この一定比率を乗じた額又は一定金額を超過する部分についても選定事業者が不可抗力による損害等を負担することが想定され、かかる負担
についてできる限り具体的に規定することも考えられる。
・従来型の公共工事の請負契約においては、請負代金額の100分の1を超える部分を発注者が負うことにより請負者の負担を軽減している(標準約款第30条第4項)。かかる規定は、不可抗力による損害の負担をすべて請負者に帰するのではなく、何らかの形で発注者が負担しているという実態をも考慮し、請負契約における片務性の排除、建設業の健全な発達の促進をも考慮して、損害の負担を転嫁している。
5.引渡し(又は運営開始)予定日の変更
・上記の損害の範囲と関連する問題として、不可抗力に起因する損害負担とあわせて、引渡し(又は運営開始)予定日の延期について検討が必要である点に留意が必要である。対応の選択肢としては、当初設定した引渡し(又は運営開始)予定日は変更せず、その引渡し(又は運営開始)予定日までに施設を完成させることを前提とした損害額(増加費用等を含む)を負担の基礎とするというものと、逆に合理的な期間、引渡し(又は運営開始)予定日を延期した上で、それを前提とした損害額(積極損害のみ)を負担の基礎とする、というものが考えられる。一定の期日までに施設の運営が開始されることを重視するならば、前者が選択されることになる。この場合、負担の基礎となる損害額は相対的に大きくなることが一般に予想される。これに対し、後者を選択した場合、引渡し(又は運営開始)予定日が当初より遅れる以上、当然に「サービス対価」の支払開始も遅れることになる。従って、この「サービス対価」の支払開始の遅延が選定事業者による融資返済に与える影響、ひいては、管理者等の負担に与える影響について留意する必要がある。
・上記に関し、引渡し(又は運営開始)予定日を延期した場合、それに伴って維持・管理、運営期間の終期も同様に延期するのか、あるいは維持・管理、運営期間の終期は変更せず、維持・管理、運営期間を短縮することとするのか、という問題について検討を要する。前者を選択した場合、維持・管理、運営期間は変わらないが、「サービス対価」の支払が全体として遅くなり、後者の場合には、維持・管理、運営期間の短縮の結果、選定事業者が失うことになる「サービス対価」をどのように考えるかについて検討を要する。(関連:
1-4 事業日程)
6.保険金の不可抗力による損害等の分担額からの控除
・不可抗力に起因して損害が生じたことにより選定事業者が施設の保全に関する保険の保険金を受領した場合で、当該保険金の額が選定事業者の負担する損害等の額を超えるときには、当該超過額は管理者等が負担すべき損害等の金額から控除するものとする規定を置くことが通例である。
2-3 管理者等による確認にかかる事項
建設工事の段階において、PFI事業契約等に従った適正な建設工事の施工を確保するため、管理者等によって選定事業者が行う建設工事の施工状況等の確認にかかる事項について規定される。
2-3-1 現場立会い
1.概要
・管理者等は、施設の建設工事の施工状況等について、選定事業者に対し説明を求めることや建設現場において自ら立会いの上確認することができる旨規定される。
2.現場立会いなど施工状況の確認
・①管理者等は、施設の建設工事の施工状況等について、事前に通知し(又は通知せずに)選定事業者又は建設企業に対し説明を求めることや、建設現場において建設工事の施工状況を自ら立会いの上確認することができること、②選定事業者からの説明又は管理者等の確認の結果、施設の建設工事の施工状況が設計図書等を逸脱していることが判明した場合、管理者等は、選定事業者に対してその是正を求め、選定事業者は、これに従うものとすること、③選定事業者は、施設の建設工事の施工の進捗状況に関し適宜管理者等に対して報告を行うこと、④管理者等は、選定事業者の説明、若しくは管理者等の確認の実施又は選定事業者からの報告の受領を理由として、施設の建設工事の施工について何らの責任を負担するものではないことなどが規定される。
3.趣旨
・管理者等は、選定事業者に対する関与を必要最小限のものにすることに配慮しつつ、適正な公共サービスの提供を担保するため、選定事業者から、定期的にPFI事業契約の義務履行に係る事業の実施状況報告の提出を求めることができる(基本方針四4(3)(ロ))とされており、管理者等への選定事業者による説明を求めることができること、及び管理者等が現場に立入り建設工事の施工状況を確認できることが規定される。また、実際に建設工事を施工する建設企業をして管理者等に対し説明や報告を実施させる旨規定される場合がある。
4.関係法令の規定
・会計法令においては、契約内容の適正な実現を期するため、「契約担当官等は、工事又は製造その他についての請負契約を締結した場合においては、政令の定めるところにより、
自ら又は補助者に命じて、契約の適正な履行を確保するため必要な監督をしなければならない」と規定しており(会計法第29条の11第1項)1、また、監督の円滑な実施を期するため、契約の相手方の協力を得るようにしておくことが必要であることから、監督について、契約の性質又は目的に応じ、契約書に明記するものと規定されている(予決令第100条第1項第3号及び契約事務取扱規則第13条)。
・また、監督の実施方法について、会計法令において、監督職員は、必要があるときは、 仕様書及び設計書に基づき当該契約の履行に必要な細部設計図、原寸図等を作成し、又 は契約の相手方が作成したこれらの書類を審査して承認をしなければならないとし、ま た、監督員は、必要があるときは、請負契約の履行について、立会い、工程の管理、履 行途中における工事製造等に使用する材料の試験若しくは検査等の方法により監督をし、契約の相手方に必要な指示をするとしている(予決令第101条の3及び契約事務取扱 規則第18条第1項及び第2項)2。なお、従来型の公共工事の請負契約においては、監 督員は設計図書に基づく工程の管理、立会い、工事の施工状況の検査又は工事材料の試 験若しくは検査等を行うことができるものと規定されている(標準約款第9条第2項)。
・PFI事業契約は、契約内容の実現により公共施設等の整備等を図る契約であることから、上記会計法令の趣旨に準じて、管理者等は、PFI事業契約に基づく債務の履行を確保するため必要な措置として、施設の建設工事の施工状況等について、実施設計に従い建設工事が施工されていることを確認するため選定事業者又は建設企業に対し説明を求めることや、建設現場において建設工事の施工状況を自ら立会いの上確認することができることなどと規定される。
1 地方公共団体が管理者等となる場合は、地方自治法第234条の2において、同様の規定がある。
2 地方公共団体が管理者等となる場合は、地方自治法施行令第167条の15において、監督又は検査の方法について規定されている。
2-3-2 完工検査
1.概要
・選定事業者及び管理者等がそれぞれ行う施設の完工検査の方法及びその効果について規定される。
2.趣旨
・管理者等の選定事業者に対する関与を必要最小限のものにすることに配慮しつつ、適正な公共サービスの提供を担保する(基本方針四4(3))ため、選定事業者及び管理者等の行う完工検査について規定される。
3.完工検査の方法
(選定事業者が行う完工検査)
・施設の建設工事にあたっては、選定事業者が発注者として建設企業と工事請負契約を締結し、また当該工事請負契約に基づき施設の完工について検査を行い、建設企業から施設の引渡しを受ける。このように、選定事業者は、自己が行う完工検査を経た後、PFI事業契約に基づき管理者等へ施設を引き渡すことから、選定事業者が行う完工検査は、PF I事業契約の適正な履行のために必要な検査といえる。そこで、PFI事業契約において、選定事業者が、自己の費用と責任において、施設の完工検査を行うものとし、管理者等に対して検査の結果を報告する旨規定される。
・建設業法において、建設工事の請負契約の当事者は、契約の内容となる一定の重要な事項として、工事の完成を確認するための検査の時期及び方法を請負契約書に記載することと規定している(建設業法第19条第1項第10号)。したがって、選定事業者と建設企業の間において締結される施設の建設工事の請負契約において、施設の工事完成検査が行われることが規定される。なお、選定事業者が建築基準法上の建築主であり、かつ施設が建築基準法第6条第1項第1号から第3号までに掲げる建築物である場合、工事完成検査の前に、選定事業者は建築基準法第7条に基づき施設の完了検査を受ける必要がある。
そこで、選定事業者と建設企業の間において締結される施設の建設工事の請負契約に基づいて選定事業者が行う施設の完工検査を、選定事業者が自らの責任と費用において実施
し、完工検査を完了した旨を管理者等に通知することがPFI事業契約において規定される。
(管理者等が行う完工検査)
・管理者等は、選定事業者から上記の検査の報告を受けた日から一定期間以内に、施設が PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従い要求水準の内容を満たしていることを確認するための検査を速やかに実施し、検査の結果、施設がPFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従っていることが確認できたときは、管理者等は速やかに選定事業者に対して完工確認書を交付することが規定される。また、施設がPFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従っていないことが判明した場合、管理者等は、判明した事項の具体的内容を明らかにし、選定事業者に対して期間を定めてその是正を求めることができ、選定事業者はこれに従うものとすることが規定される。
・会計法令においては、契約において定めた目的物を債務者である相手方が給付する場合、その給付が契約の内容に適合したものであるか否かを確認するため、「契約担当官等は、
(中略)自ら又は補助者に命じて、その受ける給付の完了の確認のため必要な検査をしなければならない」と規定しており(会計法第29条の11第2項)1、また、検査の円滑な実施を期するため、契約の相手方の協力を得るようにしておくことが必要であることから、検査について、契約の性質又は目的に応じ、契約書に明記するものと規定されている(予決令第100条第1項第3号及び契約事務取扱規則第13条)。同様に、支払遅延防止法において、「契約の目的たる給付の完了の確認又は検査の時期」が政府契約の必要的内容事項の一つと規定されている(支払遅延防止法第4条)。PFI事業においても、管理者等は、PFI事業契約に基づく給付の完了の確認をするために必要な検査として施設の完工検査を行う必要があり、その旨PFI事業契約において規定される。
・検査の方法については、会計法令において、契約書、仕様書及び設計書その他関係書類に基づいて行うこと(予決令第101条の4)2としている。そして、契約事務取扱規則第20条は、検査職員は、給付の完了の確認に付き、契約書、仕様書及び設計書その他の関係書類に基づき、当該給付の内容について検査を行わなわなければならないとしている(同条第1項)。検査の時期及び効果について、支払遅延防止法において、国が相手
1 地方公共団体が管理者等となる場合は、地方自治法第234条の2において、同様の規定がある。
2 地方公共団体が管理者等となる場合は、地方自治法施行令第167条の15第2項において、同様の規定がある。
方から給付を終了した旨の通知を受けた日から工事については14日以内の日としなけ ればならないと規定し(支払遅延防止法第5条第1項)、国が相手方のなした給付を検査 しその給付の内容の全部又は一部が契約に違反し又は不当であることを発見したときは、国は、その是正又は改善を求めることができると規定している(支払遅延防止法第5条 第2項)。なお、従来型の公共工事の請負契約においては、請負者は、工事が完成したと きは、発注者に通知するものとし、発注者は、通知を受けた日から14日以内に完成検 査をし、検査結果を請負者に通知しなければならず、検査に合格しているときは、工事 目的物の引渡しを受けなければならないとしており、請負者は、完成検査に合格しない ときは、不合格部分を修補して再検査を受けならず、検査又は復旧に直接要する費用は、 請負者の負担としている(標準約款第32条)。
PFI事業においては、管理者等は選定事業者から施設が完成した旨の通知を受けた日から一定期間以内に、PFI事業契約、PFI事業契約の関係書類である入札説明書等及び入札参加者提案に基づき完工検査を行い、検査結果を選定事業者に対して通知すること、及び、完工検査の結果、施設がPFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従っていないことが判明した場合、管理者等は、判明した事項の具体的内容を明らかにし、選定事業者に対してその是正を求めることできる旨規定される。
4.選定事業者による完工検査への管理者等の立会い
・選定事業者は、完工検査を行う旨について一定期間前に管理者等に通知するものとすることが規定される。
・管理者等は、選定事業者が行う完工検査への立会いを求めることができる旨規定されることが通例である。ただし、管理者等は、かかる立会いを理由として、何らの責任を負担するものではないものとする旨規定される。
5.管理者等が行う完工検査への選定事業者等の立会い
・管理者等が行う完工検査を円滑に実施するため、選定事業者は管理者等が行う完工検査に立ち会うものとすることが規定される。また、工事監理者が、管理者等が行う完工検査に立ち会うものとすることが規定されることも考えられる。
6.完工確認書交付による責任
・管理者等は、完工確認書の交付を行ったことを理由として、施設の建設、維持・管理、運営の全部又は一部について何らの責任を負担するものではないものとすることが規定される。
7.完工確認書の交付
・管理者等の選定事業者に対する完工確認書の交付は、選定事業者から管理者等への施設の引渡し(又は運営開始)を行うにあたっての主要な要件であることから、かかる完工確認書の交付条件(提出書類の様式を含む。)について具体的かつ明確に規定する必要がある。
2-3-3 維持・管理、運営業務体制の確保
1.概要
・選定事業者は、PFI事業契約等に従った施設の維持・管理、運営業務が可能となった時点において、管理者等に対してその旨を通知することが規定される
2.運営業務体制の確保
・特に、運営業務の比重が重い選定事業の場合においては、施設の利用可能性の確保のみならず、要求水準に従った運営業務体制の確保をもって、公共サービスの提供が開始できることになる。このため、管理者等が運営開始までのスケジュールを設定する際、選定事業者が運営業務を実施するための体制確保に必要な期間を設ける必要がある。
3.管理者等による確認手続
・施設の維持・管理業務及び運営業務の開始が可能となった時点において、管理者等に対してその旨を通知することが規定される。この際、特に、運営業務の比重が重い選定事業の場合等においては、管理者等による確認の手続きを規定することが考えられる。管理者等による確認の手続き及び確認の要件について具体的かつ明確に規定することが望ましい。
2-4 施設の引渡しにかかる事項
選定事業者が建設工事を施工した施設の管理者等に対する引渡しにかかる事項について規定される。BTO方式の選定事業においては、完工確認通知後に施設の引渡しが行われ、一方、BOT方式の選定事業においては、契約期間終了時に施設の引渡しが行われる旨規定される。
2-4-1 施設の引渡し(BTO方式)
1.概要
・BTO方式の選定事業においては、完工確認など施設の状態の確認を経て選定事業者から管理者等に施設が引き渡される際の手続きについて規定される。(関連:2-3-2 完工検査、3-7 契約期間終了前の検査)
2.趣旨
・施設の引渡しに際して、管理者等は、PFI事業契約等に従って施設が完成していること等を確認し、一方、選定事業者は、建設工事に関して契約不適合責任等を負う場合を除き、施設の建設工事の履行義務が完了したことを確認することとなる。
3.施設の引渡しに伴う諸手続き
・①管理者等から選定事業者に対する施設の完工確認通知を交付し、選定事業者から管理者等に対する維持・管理、運営業務の開始が可能になった旨の通知を行う。その後、選定事業者が管理者等に対して竣工図書と施設の引渡しを行ない、その直後から選定事業者が維持・管理業務及び運営業務を開始することが規定されることが通例である。ただし、施設の完工確認後、引渡し(又は運営開始)予定日までに一定期間を設け、この期間中に選定事業者が運営業務に必要な職員の確保及びその訓練を実施する規定を置く場合もある。
・引渡しに伴う完工確認又は施設の所有権の移転の時期については、事業日程に具体的かつ明確に規定される。
・施設の建設工事の完工及び施設の引渡しに伴う登記手続が必要となる場合には、その手続き及びこれに要する費用を選定事業者が負担する旨規定される(BOT方式の選定事業についても、契約期間終了前に施設の所有権を管理者等に移転する際、同様に登記にかかる手続きが必要となる場合には、これに要する費用を負担する旨規定される)。
2-4-2 引渡し(又は運営開始)の遅延
1.概要
・施設の引渡し(又は運営開始)が、管理者等の責めに帰すべき事由により遅延する場合、又は、選定事業者の責に帰すべき事由により遅延する場合、引渡し(又は運営開始)予定日の変更の有無や、管理者等と選定事業者の間での帰責事由等に応じた損害の負担について規定される。
2.趣旨
・選定事業者から管理者等への施設の引渡し(又は運営開始)の期日が遅延した場合、当該遅延を原因として一定の損害が発生することが考えられる。このため、管理者等と選定事業者は、PFI事業契約において、このリスクが顕在化した場合の損害の負担を含む措置について、できる限りあいまいさを避け、具体的かつ明確に規定する必要がある。そこで、PFI事業契約で定められた引渡し(又は運営開始)予定日から、施設の引渡し(又は運営開始)が遅延した場合の損害の負担等について、帰責事由に応じた負担が定められる。なお、施設の引渡し(又は運営開始)の遅延は、工期の変更と密接に関連している。
(関連:2-2-7 工期の変更)
・ここで引渡し(又は運営開始)の遅延に伴う直接的な損害と、個々の遅延の原因(設計変更や工期の変更等)に応じて発生した増加費用(設計費用、建設費用、将来の維持・管理、運営にかかる費用及び金融費用(追加の資金調達に要する金利負担等の各種費用)など)とはPFI事業契約の規定上区別する必要があることに注意を要する。すなわち、引渡し(又は運営開始)の遅延に伴う損害とは、遅延自体を原因とする損害であり、具体的には遅延している期間、管理者等が代替施設を利用した場合の費用といった遅延している期間、公共サービスが提供されないことによる損害等である。他方、個々の遅延の原因に応じて発生した増加費用は、あくまでその遅延の原因に伴う費用であり、引渡し(又は運営開始)の遅延とは直接の関係を持たない。逆に言えば、実際に引渡し(又は運営開始)が遅延したかにかかわらず、設計変更や工期の変更により、増加費用は常に発生し得る。従って、これらの増加費用はあくまで、遅延の原因となりうる事項に関する規定で規律される問題であり、引渡し(又は運営開始)の遅延に関する規定は、あくまで当該遅延によ
る直接的な損害の問題として区別しなければならない。
3.関係法令の規定
・会計法令等においては、契約担当官等は、履行の遅滞における違約金について、契約の適正を期する観点から、契約書に明記するものとされており(予決令第100条第1項第
4号及び支払遅延防止法第4条第3号)、PFI事業契約において管理者等は、施設の引渡し(又は運営開始)の遅延における違約金等について規定することが求められている。
4.遅延防止努力義務
・施設の引渡しの遅延、又は維持・管理業務及び運営業務の開始の遅延のおそれを選定事業者が認知した時点において、引渡し(又は運営開始)予定日の一定期間前までに、選定事業者が遅延の原因及び対応計画を通知し、遅延の発生を回避する又は軽減するための措置を講ずる義務を負う旨規定される。
5.選定事業者の帰責事由による引渡し(又は運営開始)の遅延
・選定事業者の責めに帰すべき事由により管理者等への施設の引渡しが遅延し、又は施設の運営開始が遅延した場合などには、選定事業者は当該遅延に伴い管理者等に発生した損害額に相当する額を負担することとなる。公共サービスの提供を予定通りの時期に開始できないという管理者等の損害の発生及びその額を証明することが困難である一方、選定事業者に対し引渡し(又は運営開始)日の遵守を経済的動機付ける必要性から、選定事業者が管理者等に対し、引渡し(又は運営開始)予定日から実際の引渡し(又は運営開始)日までの遅延日数に応じ、建設工事費(又は未完成部分の建設工事費)に相当する額に一定比率を乗じた額を違約金として支払う旨規定し、損害賠償額の予定とすることが通例である。なお、違約金を超える損害が管理者等に生じたときは、選定事業者はその超過額をも支払う旨規定することも考えられる。
6.管理者等の帰責事由による引渡し(又は運営開始)の遅延
・設計の変更(2-1-2)、工期の変更(2-2-7)及び不可抗力(2-2-9)に関連して記したとおり、管理者等の帰責事由により引渡し(又は運営開始)の遅延の原因となり得る事態が発生した場合、管理者等は、引渡し(又は運営開始)予定日(延期された
場合も含み)までに施設を完成させるために要する費用を負担することを前提としている以上、その増加費用を負担する限り、その負担後の引渡し(又は運営開始)の遅延は、選定事業者の帰責事由による場合以外考えられないということになる。ただし、管理者等による増加費用の負担をもってしても引渡し(又は運営開始)の遅延を回避できない場合については、管理者等の責めに帰すべき事由により管理者等への施設の引渡し(又は運営開始)が遅延したものとして、選定事業者が負担した増加費用及び損害を合理的な範囲で賠償することが規定される。
・管理者等の帰責事由による引渡し(又は運営開始)の遅延自体を原因とした選定事業者の合理的な増加費用及び損害としては、引渡し(又は運営開始)の遅延があっても運営期間が延長されない場合には、それにより支払われなくなった「サービス対価」、あるいは、引渡し(又は運営開始)の遅延による「サービス対価」の支払開始の遅延の結果、選定事業者の融資返済に支障が生じた場合に関連する金融費用等が考えられる。なお、個別の実損害の賠償という扱いではなく、引渡し(又は運営開始)予定日から実際の引渡し(又は運営開始)日までの遅延日数に応じた額の違約金の支払いを定め、損害賠償額の予定とする場合もある。
2-4-3 施設の契約不適合
1.概要
・選定事業者が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を管理者等に引き渡したときには、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求又は契約の解除をすることができる旨規定される。
2.会計法令の規定
・予決令上、履行の追完、代金の減額及び契約の解除について、契約の性質又は目的に応じ、契約書に明記するものと規定されており(予決令第100条第1項第4号)、PFI事業契約において、選定事業の用に供する施設に関する契約不適合責任について、必要に応じ規定される。
3.関係法令の規定
・民法上、請負人の担保責任の存続期間は注文者が不適合を知った日から1年とされている(民法第637条第1項)。ただし、目的物の引渡し時に、請負人が当該不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、その限りでない(民法第637条第2項)。なお、住宅を新築する建設工事の請負契約の場合、住宅の構造耐力上主要な部分等基本構造部分に係る瑕疵(契約不適合)については、瑕疵担保責任の存続期間を一律10年としている(住宅の品質確保の促進に関する法律第2条第5項、第94条第1項・第3項)。
・契約不適合責任については、選定事業に建設工事の一部又は全部が含まれる場合に「工事目的物の契約不適合」が建設工事に係るリスクとして想定されるため、「選定事業の事業期間中に公共施設等の所有権が公共施設等の管理者等に移転する場合等においては、公共施設等の契約不適合が維持管理・運営の段階に影響を与える場合があることから、選定事業者への履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除の期間を定めるとともに、当該対応に要する期間に応じた措置をあらかじめ検討し、協定等に規定しておくことが望ましい。」とされている(リスクガイドライン二3(1)(参考)③)。
・従来型の公共工事の請負契約においては、契約不適合責任の存続期間は、原則として、
工事目的物に関しては引渡しから2年間、設備機器本体等に関しては1年間とし、ただしその契約不適合が受注者の故意又は重大な過失による場合には民法の定めるところによるとしている(標準約款第45条・57条)。
4.契約不適合責任の内容
・選定事業者が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を管理者等に引き渡したときには、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求又は契約の解除をすることができる旨規定される。選定事業者の負担能力を考慮して、不適合が重要ではなく、かつ、その履行の追完に過分の費用を要するときには、管理者等は選定事業者に対してその履行の追完を求めない旨規定することも考えられる。
5.契約不適合責任に係る権利の行使期間
・BTO方式の場合、施設がPFI事業契約等に従って施工されない場合に備えて、事業契約書に契約不適合責任に係る規定を置くことが考えられる。また、契約不適合責任を追及可能な期間を施設の引渡しの日あるいは完工確認書交付の日から10年、5年、2年等とすることも考えられる。
・一方、BOT方式の場合、施設の所有権が移転する選定事業終了時以降の選定事業者が負う契約不適合責任の規定は、施設の契約不適合と維持・管理業務の不完全履行又は経年劣化とを明確に区分することが難しいことから、その適正な適用が困難な場合が多い。これを反映して契約不適合責任を追及可能な期間を施設の引渡しの日あるいは完工確認書交付の日から90日、180日、1年等とすることも考えられる。
・なお、BOT方式の場合、この契約不適合責任を追及可能な期間と関連して、施設の所有権移転後一定期間が経過するまで、選定事業者は解散してはならない旨規定することも考えられる。
6.契約不適合責任に係る債務の履行保証
・選定事業者が、建設企業をして、本契約不適合に係る債務を履行する旨を定めた保証書を管理者等に提出させる義務を負うことを規定することも考えられる。
3. 施設の維持・管理、運営にかかる事項
3-1 維持・管理、運営の実施
1.概要
・選定事業者は、PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従い、自らの責任と費用負担において施設の維持・管理、運営を実施する義務を負う旨規定される。
2.業務内容等の規定時期
・維持・管理業務及び運営業務の内容、実施基準、実施の確認方法等については、維持・管理、運営業務開始前に定める必要がある。
3-2 第三者による実施(維持・管理、運営)
1.概要
・施設の設計(関連:2-1-1 施設の設計、設計図書の提出)、施設の建設工事(関連:
2-2-5 建設工事による実施(建設工事))と同様に、選定事業者から第三者への施設の維持・管理業務及び運営業務の委託等について規定される。
2.維持・管理、運営業務の第三者への委託等
・施設の維持・管理業務及び運営業務をコンソーシアム構成企業又は受託・請負企業である維持・管理、運営企業に委託し、又は請け負わせる場合、その維持・管理、運営業務委託契約などの規定にかかわらず、管理者等との関係では当該維持・管理、運営企業の責めに帰すべき事由は全て選定事業者の責めに帰すべき事由とみなされる旨規定される。
・さらに、選定事業者が使用する一切の第三者の責めに帰すべき事由は、すべて選定事業者の責めに帰すべき事由とみなして、選定事業者が責任を負うものとすることなどが規定される。
3.維持・管理、運営企業の提示・変更
・管理者等は、維持・管理業務及び運営業務を委託又は請け負わせる主要な維持・管理、運営企業を入札参加者提案に明示することを求め、これら企業について必要な資格審査を実施することが通例である。ここで資格審査を経た企業の経営能力、技術的能力等の特性、水準等を前提に後述の業務別仕様書が作成され、これに従って業務を実施することにより、要求水準を達成するよう画されている。このため、選定事業者が入札参加者提案に維持・管理、運営業務を担当する者として示した主要な維持・管理、運営企業以外の第三者に維持・管理、運営業務を委託し、又は請け負わせる場合には、事前に管理者等の承諾が必要とされる。ただし、管理者等は、合理的な理由がない限り承諾を拒まないことが期待される。
・さらに、管理者等は、維持・管理、運営業務を担当する企業の名称等を明らかにするため、選定事業者と変更後の維持・管理、運営企業との間、又は変更後の維持・管理、運営企業とその下請企業との間の業務委託契約書又は業務請負契約書の写しの提出を求める
規定を置くことが考えられる。
・特に、企業の経営能力や技術的能力等が重視される運営業務を含む選定事業については、事業開始後、選定事業者による経営が安定した状態に至るまでの一定期間はコンソーシアムが入札参加者提案に示した運営企業に運営業務を実施させることが適切な場合もある。このため、運営開始から一定期間、管理者等の承諾(管理者等は、合理的な理由がある場合のみ変更の承諾を行う。)なくして選定事業者による主要な運営企業の変更を認めない旨規定することも考えられる。
・なお、選定事業者が維持・管理、運営企業の変更を行う場合には、選定事業者に対し、当該変更にかかる業務が中断又は停滞しないよう留意させる必要があり、その旨規定を置くことも考えられる。
3-3 業務別仕様書
1.概要
・業務要求水準を満たす詳細な業務内容を規定する業務別仕様書について規定される必要のある場合、管理者等は、選定事業者から業務別仕様書の提出があった時点において、業務別仕様書の内容が業務要求水準書等の内容を満たしているかについて確認を行い、これを満たしていない場合、選定事業者に対して修正を求めることができる旨規定される。
2.業務別仕様書の作成・提出
・PFI事業契約締結時までに維持・管理、運営業務の詳細が決定されていない場合や運営の比重が重い選定事業においては、選定事業者が業務別仕様書を作成すべきことが規定される。この業務別仕様書は、管理者等が業務要求水準を確保するために実施するモニタリングの基準となるものである。
・選定事業者は、①入札説明書等、入札参加者提案及びPFI事業契約に従い、管理者等と協議のうえ、施設の維持・管理、運営にかかる各業務につき、業務要求水準を満たす業務の実施を確保するために必要かつ適切な形式及び内容の業務別仕様書を作成し、管理者等に提出すること、②選定事業者の提出した業務別仕様書の全部又はその一部が業務要求水準を満たさないと合理的に判断した場合、管理者等は、選定事業者に対し、当該業務別仕様書の該当箇所を特定し、その旨通知すること、③この場合、選定事業者は、管理者等と協議のうえ、選定事業者の責任及び費用負担において、当該箇所につき業務要求水準を満たすよう修正し、管理者等に対して提出することなどが規定される。
3.業務別仕様書の変更
・長期に亘るPFI事業契約については、維持・管理、運営企業受託・請負企業の変更等により業務別仕様書の見直しが必要となる場合が想定される。このような場合に備え、当事者のいずれか一方が業務要求水準を満たす業務を履行するために必要かつ適切と合理的に判断した場合、随時、協議により業務別仕様書を変更できる旨規定される。
3-4 業務報告
1.概要(参照:「モニタリングに関するガイドライン」)
・管理者等が維持・管理、運営業務に係る履行状況を確認するための手法の一つとして、選定事業者は業務報告書の作成と管理者等に対する定期的な提出の義務等を負う旨規定される。
2.提出手続き
・選定事業者は、①施設の維持・管理業務及び運営業務の実施状況を記載した業務日誌を作成し、一定期間保管し、管理者等の求めがあるときには、閲覧に供すること、②選定事業者は、PFI事業契約の終了に至るまで、定められた一定の頻度で維持・管理、運営業務の実施状況を業務日誌に基づき記載した業務報告書を管理者等に提出して、履行確認を受けること、③管理者等は、選定事業者から提出を受けた業務報告書を確認し、定められた一定期間以内にその結果を選定事業者に通知すること、④業務報告書を選定事業者が業務要求水準を達成しなかった場合の「サービス対価」の減額等の措置のための判断材料として活用する方法等が規定される。また、業務報告書の記載内容についても定められる。
3.趣旨
・「公共施設等の管理者等は、民間事業者に対する関与を必要最小限のものにすることに配慮しつつ、適正な公共サービスの提供を担保するため」、「選定事業者から、定期的に事業契約の義務履行に係る事業の実施状況報告の提出を求めることができること。」(基本方針四4(3)(ロ))と定められており、管理者等が選定事業の実施状況について速やかに認知できるよう、維持・管理、運営段階における選定事業者の業務履行状況のモニタリングの基本的な手法の一つとして、選定事業者に対し業務の実施状況報告を作成し、提出を求められることが規定される。
・管理者等は、選定事業者から提出を受けた実施報告をもとに、選定事業者による事業の履行状況を確認し、これを選定事業者に対する「サービス対価」の支払いに反映させる。
(関連:4-2 「サービス対価」の減額)
4.選定事業者による業務報告書の作成及び管理者等による履行確認の頻度
・選定事業者に対し、毎月及び四半期又は半期ごとに業務報告書の作成、提出を求め、業務履行状況の確認を行うことが通例である。併せて、日常の維持・管理、運営状況を記録する日報、業務日誌等の作成義務を課し、これを管理者等が常時閲覧できるよう管理・保管させることも考えられる。
5.その他の業務履行状況の確認方法
・維持・管理、運営業務の履行状況を確認する方法は、上記の選定事業者による業務報告書の提出・報告にとどまらず、管理者等による施設の現場での検査、施設利用者からアンケート調査の実施及び報告など他の手法も想定されるため、管理者等が対象となる施設の特性を考慮し、その方法を追加することが望ましい。なお、モニタリングに必要以上に費用(及び時間)をかけることは、事業全体の効率性の面から問題であることに留意を要する。
3-5 第三者に与える損害(維持・管理、運営段階)
1.概要
・選定事業者が行う施設の維持・管理、運営に伴い第三者に与える損害等の負担について規定される。ただし、当該損害等のうち管理者等の責めに帰すべき事由により生じたものについては、管理者等がその損害を負担する旨規定される。
2.近隣対策にかかる費用負担
・事業の実施そのものについての近隣調整は管理者等の責任となるものの、近隣調整の不調については、その理由が事業の実施そのものであるのか、若しくは、選定事業者による施設の維持・管理、運営業務の影響であるのか、必ずしも判然としないことも想定される。この場合には、責任の所在及び費用分担について当事者間で協議を行う必要が生じるものと考えられる。
・なお、管理者等は、当該施設の立地条件、事業内容等の観点から、近隣住民の生活環境に相当な程度の影響を与えることがあらかじめ想定される事項については、その対応にかかる責任の所在と費用分担のあり方を入札説明書等に明記することが望ましい。
3.第三者に対する損害賠償責任
・施設の維持・管理、運営業務の実施に伴い第三者に損害を与えた場合、選定事業者はその損害を当該第三者に対して賠償する旨規定される。管理者等の責めに帰すべき事由の場合には、管理者等がその損害を賠償する旨規定される場合がある。
・施設の運営に伴い通常避けることができない騒音等の理由により第三者に損害を与えた場合の賠償責任についても規定される。
4.第三者損害賠償保険への加入義務
・第三者に与えた損害を填補する第三者賠償責任保険に選定事業者(第三者に委託した場合は当該第三者が契約者となる場合もある)が加入する義務が規定されることが通例である。当該保険の内容及び基本条件等詳細につき選定事業者と管理者等との間での合意を必要とする場合もある。また、被保険者の範囲に選定事業者、受託・請負企業維持・管理、
運営企業及びそれらの下請企業等を含めることの可否について定められる。
5.関係法令上の責任
・「2-2-8 第三者に与える損害(設計、建設段階)」に解説のとおり。
3-6 不可抗力による損害(維持・管理、運営段階)
1.概要
・施設の維持・管理、運営段階において、不可抗力の発生により、PFI事業契約等に従った維持・管理、運営業務の履行が不能になった場合の規定である。不可抗力事由の発生時における債務の取扱い、履行不能発生時の選定事業者による管理者等への通知等の手続き、不可抗力に起因する損害等の分担などが規定される。
2.趣旨
・維持・管理、運営期間中における天災等による施設の滅失等の不可抗力事由による損害は、管理者等と選定事業者の間でその損害負担につき紛争が生じやすい事項であり、あらかじめ損害が発生した場合の負担方法につき規定が設けられる(関連: 2-2-9 不可抗力による損害(設計、建設段階))。
・「管理者等及び選定事業者のいずれの責めにも帰しがたい天災等の不可抗力事由によって、
(中略)維持管理・運営段階における施設の損傷が生じ、(中略)必要となる費用が約定金額を超過することが起こるなど、(中略)維持管理・運営のいずれの段階においても、選定事業の実施に影響を与えることがあることから、その場合の追加的支出の分担のあり方(中略)についてあらかじめ検討し」(リスクガイドライン二6(1))、できる限り曖昧さを避け、具体的かつ明確に規定する必要がある。(関連:2-2-9 不可抗力による損害(設計、建設段階))
3.不可抗力発生時の手続き等
・不可抗力事由の発生により、PFI事業契約等に従った維持・管理業務又は運営業務の一部又は全部の履行が不能となった場合、選定事業者は、その履行不能の内容の詳細及びその理由について書面をもって直ちに管理者等に通知することが規定される。選定事業者は、この履行不能通知の発出後、履行不能状況が継続する期間中、選定事業者の履行期日におけるPFI事業契約に基づく自己の債務について当該不可抗力による影響を受ける範囲において業務履行義務が免除される。ただし、選定事業者は、損害を最小限にする義務を負う。
・管理者等は、業務履行不能の状態が存続している間、選定事業者が業務を履行できなかったことによって免れた費用を控除して選定事業者が実際に行ったその他の業務の内容に応じた支払いを行う旨規定されることが考えられる。
・管理者等は選定事業者から履行不能通知の受領後、速やかに当該不可抗力による損害状況の確認のための調査を行い、その結果を選定事業者に通知する義務が規定される。また、管理者等は、業務内容の変更、当該不可抗力事由による合理的な損害又は増加費用の分担等対応方法につき選定事業者と協議を行うことが規定される。
・上述の当事者間による協議において一定期間以内に合意が成立しない場合、管理者等は、事業継続に向けた対応方法を選定事業者に通知し、選定事業者は、この対応方法に従い選定事業を継続する義務を負う。また、選定事業者の履行不能が永続的であると判断されるとき又は選定事業の継続に過分の費用を要するときには、管理者等は、選定事業者と協議の上、PFI事業契約の一部又は全部を解除できることとなる。なお、管理者等と選定事業者の当事者双方が解除権を有する契約構成とすることも考えられる。
4.不可抗力による損害の分担
・維持・管理、運営期間中に、不可抗力事由の発生による損害が生じた場合、選定事業者に対し不可抗力による損害を最小限にとどめる経済的動機付けを与える必要がある。そこで、不可抗力に起因する選定事業者の損害又は増加費用のうちの一部を選定事業者が負担し、それを超過する部分について、合理的な範囲で、管理者等が負担する規定を置くことが通例である。選定事業者の負担する損害等の額としては、
1)維持・管理、運営期間中の累計で、維持・管理、運営期間中の維持・管理費及び運営費の総額に相当する額に一定の比率を乗じた額に至るまでの損害等の額
2)一事業年度中に生じた不可抗力に起因する損害金の累計で、一事業年度の維持・管理及び運営費に相当する金額に一定の比率を乗じた額に至るまでの損害等の額
3)定額
等が考えられる。
・ただし、選定事業者が善良なる管理者としての注意義務を怠ったことに起因する損害については、選定事業者が負担することが規定される。
3-7 契約期間終了前の検査
1.概要
・契約期間終了に伴う事業実施主体の交替等に備えて、管理者等が契約期間終了前に施設の状態を検査する旨規定される。
・選定事業者は、契約期間が終了する一定期間前までに施設の状態を検査し、その結果を管理者等に報告する義務を負う旨規定される(関連:2-3-2 完工検査、2-4-
1 施設の引渡し(BTO方式))。
2.趣旨
・BOT方式の選定事業においては、契約期間の終了とともに対象施設の所有権が管理者等に移転するため、対象施設があらかじめPFI事業契約で定められた状態にあるかを確認する必要がある。このため、BOT方式の選定事業は、BTO方式のものと比べて相対的に詳細な検査が行われる。
・本検査の実施ための管理者等の立入り権と管理者等による検査に対する選定事業者の協力義務が規定される必要がある。
3.施設の所有形式ごとの検査内容等
(BOT方式の場合)
・管理者等が契約期間終了後に施設を業務のために継続して使用することを予定している場合には、管理者等が引渡しを受ける施設の状態が、業務のために継続して使用するに支障のない状態にて引渡しを受けること、施設がその状態にあることを契約終了前に管理者等が検査することが規定される。当事者間のリスク分担をあらかじめ明確にする観点から、引渡し前に実施する検査項目及びかかる項目ごとに要求する状態を具体的に取り決めておくことが望ましい。また、施設の状態について管理者等が要求した水準が満たされていない場合で、かつ、選定事業者が契約不適合責任を負う場合又は選定事業者がPFI事業契約に従った適正な維持・管理業務を履行しなかったと認められる場合には、管理者等はこれを選定事業者に通知し、選定事業者はこの通知に従い速やかに当該箇所を修繕すべき義務を負う旨規定される。(関連:2―4―3 施設の契約不適合)
・引渡し時に施設に制限物権が設定されていない状態とする旨、確認的に規定することも考えられる。
・PFI事業契約の終了に伴い施設の所有権を管理者等が有償で譲り受ける場合は、その代金の額と支払方法について規定される。
(BTO方式の場合)
・契約終了に伴う管理者等への維持・管理業務の引継ぎの一環として、契約期間終了前に、施設に毀損等のないことを確認するため、管理者等は施設の状態を検査する旨規定される。
4.契約不適合責任との関係
・BOT方式、BTO方式ともに、管理者等への引渡し後の施設の契約不適合については、契約不適合責任の問題となる(関連:2-4-3 施設の契約不適合)。
4. 「サービス対価」の支払等
4-1 事業費回収方法によるPFI事業の分類
・PFI事業の運営方法としては、一般的に、①利用者から収受した利用料金をもとに選定事業を実施する方法、②選定事業者が利用者から利用料を徴収できない場合等に、選定事業者が施設を使用し提供する公共サービス(施設の設計、建設、維持・管理、運営業務)に対する対価として管理者等が支払う「サービス対価」をもとに選定事業を実施する方法、③両者の混合形態である方法に分類しうる。
・②又は③の方法により選定事業を実施する場合に、「サービス対価」の構成、支払額、支払方法、減額方法、改定方法等について規定される必要がある。
・①又は③の方法により選定事業を実施する場合に、利用料金の設定及び改定等について規定される必要がある。
4-2 「サービス対価」の支払
1. 概要
・管理者等は、選定事業者に対して、PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従った施設の設計、建設工事、維持・管理及び運営の業務の実施により、要求された水準(内容・質)の公共サービスを提供する対価として一定の金額(「サービス対価」という。)を支払う義務を負う旨規定される。(関連:1-6 規定の適用関係)
2.関係法令の規定
・基本方針において、「選定事業者により提供されるサービスの内容と質、サービス水準の測定と評価方法、料金及び算定方法等、事業契約の当事者双方の負う債務の詳細並びにその履行方法に加えて、当事者が事業契約の規定に違反した場合に、選定事業の修復に必要な適切かつ合理的な措置、債務不履行の治癒及び当事者の救済措置等を規定すること」と定められている。
・また、予決令においても契約代金の支払又は受領の時期及び方法を契約書に記載すること(予決令第100条第1項第2号)とされている。
・支払遅延防止法においても同趣旨の規定がなされている(支払遅延防止法第4条第2号)
1。
3.「サービス対価」の考え方
・「サービス対価」の考え方を例示すると以下のとおり。(参考:モニタリングに関するガイドライン)
1)公共サービスの提供に必要な建設工事費と、維持・管理費及び運営費とを不可分の
「サービス対価」とする考え方。
2)「サービス対価」のうち、選定事業者が負担する各費用項目(建設工事費、支払利息、維持・管理費及び運営費等)に相当する額をそれぞれ支払うとする考え方。
・なお、「サービス対価」の支払額は、計算式により示されることが多く、この場合、そ
1 地方公共団体が管理者等となる場合は、当該規定は支払遅延防止法第14条の規定により準用される。
の詳細はPFI事業契約書の別紙に記載されることが多い。
4.支払手続き
・上述のとおり、「サービス対価」の支払い対象期間については、3ヶ月間(年4回払い)又は半年間(年2回払い)と規定されることが通例である。
・各期ごとの「サービス対価」の支払いについては、①「サービス対価」の支払い対象期間に係る管理者等による選定事業者の業務履行状況の確認及びその通知、②あらかじめ定められた不履行・欠落等の場合の減額措置の適用と確定及びその通知、③疑義のある場合の協議、④管理者等からの通知に基づき算出した「サービス対価」の支払い対象期間に係る「サービス対価」の請求、⑤管理者等による「サービス対価」の支払い、という手続きを経ることになり、かつ減額確定の前に選定事業者による修復の機会や一定の猶予期間を設けること等が通例である。
・なお、「サービス対価」の支払期日については、支払期日が閉庁日(行政機関等の休日に関する法律に定める行政機関の休日)の場合に、その前日までに支払う等の規定を置くこともある。
5.虚偽報告の場合の「サービス対価」の返還
・選定事業者が管理者等に提出する業務報告書に虚偽の内容が含まれていた場合、選定事業者が受領した「サービス対価」のうち不当に得た額を返還すべき義務が規定されることが通例である(民法第703条)。返還対象額は、虚偽がなければ減額されえた「サービス対価」の額と規定される場合が多い。選定事業者が不当に得た額は、虚偽報告が意図的であると、過失によるとを問わず、返還義務が規定される。なお、選定事業者が意図的に虚偽の報告を行った場合には、更に損害賠償義務を負担させ(民法第704条)、また、その程度が重要である場合等には、管理者等に解除権が付与される旨規定することも考えられる。
4-3 「サービス対価」の減額
1.概要
・管理者等は、モニタリング(選定事業者により提供されるサービス水準を監視(測定・評価))を実施し、選定事業者の業務履行状況が業務要求水準を満たさず、PFI事業契約に従わなかったといえる場合には「サービス対価」の減額又は支払留保を行う旨規定される。(参照:「モニタリングに関するガイドライン」)
2.趣旨
・管理者等による「サービス対価」の減額や支払い留保という措置をあらかじめ定めておくことにより、選定事業者が業務を適正に実施することへの経済的動機付けとなる。なお、
「サービス対価」の支払留保がなされる場合は、管理者等からの利息や遅延損害金の支払いがなく、選定事業者にとっては、新たに金利負担が発生するという点で経済的動機付けとなる。
3.減額等を行う際の手続き
・管理者等が行う業務確認(関連:3-4 業務報告)により、「サービス対価」支払い対象期間の維持・管理、運営業務について業務要求水準を満たしていない事項が存在することが判明した場合、管理者等はまず、改善すべき行為に関する通知を行うものとされる。この通知に是正期間を指定する場合もある。あるいは選定事業者自ら行うサービス水準の測定の結果、要求水準を満たしていない場合、改善措置を自ら講じようとする場合もある。この是正期間の経過後も、選定事業者の提供する公共サービスが業務要求水準を満たしていない場合、この時点以後到来する最初の「サービス対価」支払い時に「サービス対価」の減額又は支払留保が行われる旨規定される場合が多い。
(減額方法)
・減額を行う場合、①施設を利用に供することができなかった日数に応じて日割りで「サービス対価」を減額する場合と、②上記是正期間終了後もサービス水準が改善されない場合に、あらかじめ定めたペナルティポイント算定ルールに基づいて減額額を算出する場合がある。
(減額分の翌期以降の取り扱い―支払留保措置)
・「サービス対価」の減額が行われた場合、当該減額部分については以後サービス水準が改善した場合でも支払われないものとされるのが通例であるが、「サービス対価」全額の支払いが停止された場合は、翌「サービス対価支払い対象期間」にサービス水準が一定以上に回復することを条件に本来当該期間に支払われるべき「サービス対価」に加算して、支払いが停止された前期分の「サービス対価」のうちの一定割合(減額後の「サービス対価」に相当)が支払われる旨、規定される例もある。
(サービス水準が翌期以降も改善しない場合の取り扱い)
・サービス水準が翌「サービス対価支払い対象期間」以降も改善しない場合については、管理者等に解除権が付与(是正通告等段階を踏んだ後実行)される旨、規定される場合もある。
4.建設工事費相当の「サービス対価」の減額
・「サービス対価」の減額が建設工事費に相当する「サービス対価」にまで及ぶこととするかについては、以下の考え方がある。施設の設計・建設工事業務と維持・管理、運営業務を一体とみて「サービス対価」を支払うこととし、サービス水準維持への強い経済的動機付けを図る意図をもって建設工事費に相当する「サービス対価」についても減額の対象とする考え方があるが、施設の建設工事の完工確認がなされて、当該施設の所有権が管理者等に移転した後は、施設の建設工事業務に相当する「サービス対価」は確定債権として減額の対象とせず、公共サービス水準の維持への経済的動機付けについては、もっぱら維持・管理、運営業務に相当する「サービス対価」により担保することが望ましいと考えられる。
ただし、この場合、債務不履行により管理者等が受けた損害を負担する観点からその損害賠償額と相殺することを規定することを妨げるものではない。
4-4 「サービス対価」の改定
1.概要
・物価の変動、金利の変動等による選定事業者の費用増減に対応して「サービス対価」を一定の頻度で改定することが規定される。
・さらに、選定事業の実施上重要となる技術について技術進歩が期待される場合、技術進歩に対応するために業務要求水準の変更や「サービス対価」の改定を検討する旨規定される。
2.趣旨
・事業期間が長期に亘るPFI事業契約においては、物価の変動、金利の変動等が選定事業者の費用増やその利益の減少の原因となり得ることから、変動等の選定事業に与える影響の程度を勘案し(リスクガイドライン二6(2))、「サービス対価」を一定の頻度で改定することが規定される。この際、規定すべき事項としては、「サービス対価」のうち改訂対象とする費用項目、改定の基準とする経済・金融指標、改訂の算定式及び改訂時期等があげられる。
・さらに選定事業の内容によっては、選定事業の実施上重要となる技術分野について相当な技術進歩が期待される場合、技術の陳腐化による財・サービスの実質価格低減が著しい。かかる場合においては、技術進歩による「サービス対価」の改定等を行うことが合理的な場合も考えられる。
3.物価の変動による改定
・「サービス対価」の改定の基準とする物価指数としては、企業向けサービス価格指数、実質賃金指数、消費者物価指数、卸売物価指数、建設物価指数(修繕費に対応)などがある。対象業務ごと、対象費用項目ごとに、上記の指数を対応させる場合もある。
・「サービス対価」の改定の基準とする物価指数の採用にあたっては、選定事業者が実際に用いる財・サービスの市場価格が的確に反映される指数を採用することにより、選定事業者の負担する物価変動リスクを減じることができる。
・「サービス対価」の改定は、基準とする指標の変動の多寡にかかわらず、一定期間(毎年
又は3年ごととする場合が多い)に定期的に実施する場合と、基準とする指標が一定割合以上変動している場合にのみ改定する場合がある。
4.金利の変動による改定
・選定事業者は、固定金利による資金調達を金利スワップ契約によって行うことが通例であり、現在のところ、金利スワップ市場では、15年までのものの取引が大半といえる。このため、これを超える融資期間を前提とする案件の場合、将来の金利変動を「サービス対価」に反映する仕組みを織り込むことが通例である。金利変動リスクを「サービス対価」の改定に反映する方法としては、10年を経過時に、残存期間に相当する固定金利を基準に「サービス対価」を改定する方法、あるいは、5年を経過するごとに、その後5年間の
「サービス対価」を改定する方法等が考えられる。金利変動リスクを「サービス対価」の改定に反映しない場合は、そのリスクは選定事業者が負うこととなるが、金利上昇局面においては、そのリスクが金融費用に反映されて、契約金額に転嫁される結果ともなり得ることに留意する必要がある。なお、金利の変動による「サービス対価」の改定を行うか否かの検討にあたり、融資額が比較的少額の場合、当事者双方の実質的な面での手続き費用を考慮することも考えられる。
5.技術進歩による対価の減額改定又は性能向上の享受
・選定事業の実施上重要となる技術分野について、契約期間中に相当の程度の技術進歩が期待できるとき(又は、契約期間中に相当の程度の陳腐化が見込まれるとき)には、当該技術進歩により、選定事業者がより低い費用負担でもって当初に定めた業務要求水準の維持・管理業務又は運営業務を実施することが可能となった場合、管理者等又は選定事業者が、相手方当事者と協議の上、「サービス対価」を減じる改定を求めることが規定される場合がある。なお、減額改定の提案について選定事業者に対し経済的動機付けを与えるため、選定事業者から提案された費用削減額の全てを「サービス対価」から減らさずに、その一部を選定事業者の収益に反映させることも考えられる。
・また、技術進歩により生じる便益を「サービス対価」に反映させるのではなく、代わって、業務要求水準を向上させることによって、管理者等が享受する措置も考えられる。
・いずれにしても、契約期間中に選定事業の実施上重要となる技術分野について相当程度の技術進歩が期待される場合、その技術進歩によって生じる便益を、いずれの方法によ
って当事者間にどのように分配するかについて、当事者間での協議が必要となる。
4-5 利用者から収受した利用料金をもとに選定事業を実施する場合における利用料金に関する事項
1.概要
・選定事業者が利用料金の収受を行う場合は、利用料金を徴収し、自らの収入にできる旨並びに利用料金の設定及び改定方法等が規定される。
2.利用料金の収受
・特定の施設等において選定事業者が利用料金を収受する旨が規定される。
3. 利用料金の設定及び改定
・選定事業者は、以下の点に留意して、合理的かつ適正な範囲内で利用料金を設定又は改定できることが規定される。
〇 特定の者に対して不当な差別的取扱いをするものではないこと。
〇 社会的経済的事情に照らして著しく不適切であり、公共施設等の利用者の利益を阻害するおそれがあるものではないこと。
・個別法に料金に関する規定がある場合は、当該規定に従い、あらかじめ所定の手続きを行った上で、選定事業者は利用料金の設定又は改定を行う旨が規定される。
・利用料金の設定又は改定に係る手続については、管理者等とあらかじめ協議を行うこと、管理者等の承認を得ること、又は、管理者等にあらかじめ届け出ること等が規定される。
・利用料金を改定することができる場合の条件についても規定される場合もある。
・利用料金の設定又は改定が管理者等への届出等である場合において、当該料金が合理的かつ適正な範囲内であると認められないときは、管理者等は、選定事業者に対し、当該料金に関して協議を行うように要求することができる旨が規定される場合もある。
4. 公共サービスの適正かつ確実な提供が確保されない場合の措置
・報告の徴収、調査の実施等によってもなお公共サービスの適正かつ確実な提供が確保できない場合における措置として、違約金の徴収等を規定することが考えられる。この場合の手続については、4-3「サービス対価の減額」を踏まえ、規定されることも考え
られる。
5. 契約の終了
・PFI事業契約の終了には、契約期間の満了による場合の他、PFI事業契約期間中におけるPFI事業契約の解除による場合がある。このPFI事業契約の解除には選定事業者の帰責事由による場合(管理者等が解除権を有する、「5-1 公共施設等の管理者等の解除権」で解説)、管理者等の帰責事由による場合(選定事業者が解除権を有する、
「5-2 選定事業者の解除権」で解説)、及び不可抗力や法令変更の場合がある。なお、 PFI事業契約の解除に伴い、当事者に損害賠償又は違約金等の支払義務が発生する
(「5-4 解除の効力」及び「5-5 違約金」で解説)。
・PFI事業契約においては、基本方針に「当事者が事業契約の規定に違反した場合に、選定事業の修復に必要な適切かつ合理的な措置、債務不履行の治癒及び当事者の救済措置等を規定すること(基本方針四4(2))」、「事業修復の可能性があり、事業を継続することが合理的である場合における事業修復に必要な措置を、その責めに帰すべき事由の有無に応じて、具体的かつ明確に規定すること。(基本方針四4(6))」と定められており、当事者がPFI事業契約上の義務を履行しない場合であっても、選定事業に修復の可能性があり、かつ、継続が合理的であるときには、当事者及び関係者が選定事業の修復を図ることとし、修復に必要な適切かつ合理的な措置等を規定することとなる。
・したがって、PFI事業契約においては約定解除権が規定される(民法第540条第1項)。約定解除権を規定することにより、選定事業の適正かつ確実な実施の確保を図るため、法定解除権の解除事由及び解除要件を補充・修正することや、法定解除権とは別の解除事由及び解除要件を規定することができる。