Contract
◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆
【定期建物賃貸借契約の有効性】
定期建物賃貸借契約の再契約にあたり、契約開始日が契約締結日前であることで、38条書面の有効性が争われた事例
(東京地判 令3・12・23 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
X(原告)は、平成22年6月15日、Y(被告:法人)との間で、Xの所有する建物(本件建物)につき、以下の内容の賃貸借契約(本件旧賃貸借契約)を締結し、Yに対し、本件建物を引き渡した。
・賃貸借期間 平成22年6月15日から平成28年6月14日まで・賃料 月額50万円(別途消費税)を毎月末日限り翌月分を支払う。
・特約 本件旧賃貸借契約は,法38条に定める契約の更新のない定期建物賃貸借とする。
Xは、平成22年6月15日、Yに対し、本件旧賃貸借契約の締結に先立ち、本件旧賃貸借契約が更新のない定期建物賃貸借であることについて、その旨を記載した書面を交付した上で説明した。
Xは、当時の仲介会社が定期賃貸借契約の終了通知をYに出すのを失念していたため、平成28年9月1日頃、Yに対し、本件旧賃貸借契約が同通知書の到達日から6か月を経過した後の平成29年3月14日をもって終了する旨通知した。
その後、XとYとの間においては、平成29年4月9日付けで、本件建物について、Xを賃貸人、Yを賃借人として、以下の内容の賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結した。
・賃貸借期間 平成29年3月15日から令和2年3月14日まで
・賃料 月額50万円(別途消費税)を毎月末日限り翌月分を支払う。
・特約 本件賃貸借契約は,法38条に定める契約の更新のない定期建物賃貸借とする。
ただし、賃貸借契約書及び、「借地借家法第38条第2項の規定に基づく書面」(本件書面)の作成日は、平成29年4月11日となっている。
Xは、令和元年8月30日、Yに対し、本件賃貸借契約が令和2年3月14日をもって終了する旨を書面にて通知したが、Yは、本件契約書の作成日付及びYが本件書面の交付・説明を受けた日付はいずれも平成29年4月11日であり、本件賃貸借契約の始期である平成29年3月15日より後のことであるから、法38条2項の「あらかじめ」との要件を満たさない、さらに、本件賃貸借契約は、本件契約書の作成日である平成29年4月9日以前に、YがXから電話で契約更新の申出を受け、これに同意した時点又はその後仲介会社Aから
電話で契約内容の説明を受け、これに同意した時点で成立したものであるから本件賃貸借契約は、法38条2項の要件を満たさない旨主張し、本件建物を占有しているため、Xは、Yに対し、建物明渡し及び損害金の支払を求める訴訟を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示し、Xの請求を全て認容した。
⑴ 法38条2項の「あらかじめ」との要件の充足性
法38条2項は、定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立ち、賃貸人において、定期建物賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了することについて記載した書面を交付し、その旨を説明すべきものとしたと解するのが相当である。これに対し、Yは、法38条2項の「あらかじめ」とは、賃貸借期間の始期に先立つことを指すと解すべきである旨主張するが、独自の見解であり、採用することができない。
本件賃貸借契約は、YにおいてXが署名押印した後の本件契約書を受領し、Yが本件契約書に記名押印をした時点で締結されたものと認めるのが相当であり、YがAから本件書面の交付を受けたのは、本件賃貸借契約の締結時点よりも前のこととなるから、法38条2項の「あらかじめ」との要件を満たすものと認められる。
⑵ 法38条2項所定の事項の「説明」の有無について
Yは、「借地借家法第38条第2項に基づく書面の交付と説明を受けました。」と記載された本件書面に記名押印をしているから、Yは、Aから、本件賃貸借契約は、更新がなく、期間の満了により賃貸借が終了することについて説明を受けたものと推認される。したがって、Aは、Yに対し、電話で、本件書面を見るように求めた上で、本賃貸借契約は定期建物賃貸借契約であって更新がなく、3年間の契約期間の満了日をもって終了することを説明したものと認めるのが相当である。
そして、Yは、本件旧賃貸借契約以外にも定期賃貸借契約の締結に関与した経験がある。以上によれば、本件賃貸借契約については、法38条2項所定の事項の「説明」があったものと認められ、本件賃貸借契約は、同条所定の定期建物賃貸借として有効に成立しているというべきである。
⑶ 結論
Yは、Xに対し、本件賃貸借契約の終了に基づき、本件建物を明け渡すべき義務を負うとともに、本件賃貸借契約に基づき、本件賃貸借契約が終了した日の翌日から本件建物の明渡し済みまで約定の賃料の倍額に相当する損害金として1か月当たり110万円を支払うべき義務を負う。
3 まとめ
定期建物賃貸借における要件の一つに、借地借家法38条2項の内容を貸主が「あらかじめ」賃借人に書面にて交付説明する義務があります。本事案は、定期建物賃貸借の再契約時、法38条2項書面による説明は行われたものの、賃貸借契約書に記載された契約期間の始期が旧契約満了日の翌日というバックデートであったことから、「あらかじめ」の要件を満たしていないとして借主が定期建物賃貸借の非成立を主張して契約終了による建物明け渡しを拒んだものです。
裁判所は上記判旨のとおり、借主の主張を認めませんでしたが、そもそも本事案でこのような借主の主張がなされた▇▇を辿ると、当時の仲介会社兼管理会社が定期賃貸借契約の終了通知を借主に出すのを失念していたことが挙げられます。
借地借家法38条の定期建物賃貸借は成立要件が厳格であるため、貸主から委任を受けた仲介会社や管理会社としてはその要件をよく理解して確実に実務を行うことが重要です。
(一財)不動産適正取引推進機構 2023.7.1配信
RETIO メルマガ 第200号から転載
