Contract
最近の判例から
⑴−契約締結上の過失−
土地売買の協定書による売買契約の成立は否定し、買主既出の測量費用等について売主の賠償責任を認めた事例
(東京地判 平27・2・19 ウエストロー ・ジャパン) xx xx
土地の売買に関する協定書を締結した買主が、同協定書の錯誤無効又は取消すとした売主に対し、主位的に売買契約は成立しているとして、予備的に契約締結上の義務違反があるとして、損害賠償を請求した事案において、売買契約の成立は否定し、同協定書に基づき買主が支出した測量費用等について、xxx上の注意義務違反による売主の賠償責任を認めた事例(東京地裁 平成27年2月19日判決ウエストロー ・ジャパン)
1 事案の概要
原告買主Xは、平成25年5月9日頃、被告売主Y1、Y2、Y3に対し、本件土地につき総額2億8300万円等の条件を記載した買付証明書を交付した。Yらは、同年5月17日頃までに、Xに対し売買価格2億8300万円等の条件を記載した売渡承諾書を交付した。
同年5月27日、X及びYらは、上記買付証明書及び売渡承諾書に基づき、土地の売買に関する本件協定書を締結した。
しかし同年12月20日、Yらは本件土地をA社に売却した。
Xは、本件協定書に基づき、本件土地を取得し、造成して戸建住宅を販売する予定であったが、Yらの債務不履行ないし不法行為により販売不能となったとして、Yらに対し、 XがB土木に支払った測量登記業務・開発設計業務代金96万6000円、及び土地の開発により得べかりし利益3293万3000円の損害賠償を求め提訴した。
2 判決の要旨
裁判所は次のとおり判示し、Xが支払った測量費用等についてのみ賠償請求を認めた。
⑴ 本件売買契約の成否について
本件協定書の冒頭には、「将来における本物件の売買契約の締結を目的として、次のとおり協定を締結する。」と明記されていること、さらに、「X・Yは、契約締結予定日を平成25年10月3日(中略)とする」と明記されていることからすれば、XとYらとの間で本件土地についての売買契約が成立したとは認められないことは明らかである。
⑵ 契約締結上の過失責任について
① 証拠等により認められる事実
平成25年5月28日に本件土地の測量が実施されたほか、Yらは、本件協定書において平成25年7月1日までに申請するとされた生産緑地指定解除の申請を予定どおりに行った。 Y1及びY2は、本件協定を受けて、委任 状のほか、公拡法上の土地有償譲渡届出書(Y
3の署名押印がないもの。)を提出した。 Y3は、Xに対し、平成25年10月2日、不
動産仲介業者から本件土地についての提示価格は最高価格でこれ以上はないとの申し出があったなどとして、本件協定書を錯誤として取り消す旨を記載した回答書を発送した。
Y1及びY2は、Xに対し、Y3が本件協定の意思表示に錯誤があったとしてこれを無効ないし取り消したことから、Y1及びY2が本件協定書に基づき本件土地をXに売却す
ることができなくなった旨などを記載した平成25年10月7日付け回答書を送付した。
Xは、上記回答書を受けて、Yらに対し、本件協定書の履行を求める旨のほか、Xによる買受価格の変更を協議する余地があることなどを記載した通知書や、売買総額を2億 9800万円に変更する旨の買付証明書を発送した。
Y3は、Xに対し、平成25年10月23日付けの書面をもって、買受価格の変更には応じられない旨を通知するとともに、買付証明書を返送した。
Xは、本件協定の締結を受けて、B土木に対し、測量業務や各種申請手続を依頼し、測量登記業務・開発設計業務代金として、平成 25年12月20日に96万6000円を支払った。
② 上記の認定事実に加え、前記の認定判断を踏まえると、XとYらは、本件土地の売買契約の締結に向けた交渉をし、本件協定の締結を経て、契約準備段階に入ったところ、Yらが、本件協定を受けて、本件土地の測量に協力し、生産緑地指定の解除を申請するなどしたことにより、Yらとの売買契約が締結されるとの期待をXに生じさせたものと認められるから、後に売買契約が締結されるか否かを問わず、Yらは契約が締結されるものと信じたXに財産的損害を被らせないようにするxxx上の注意義務を負うに至ったというべきである。
ところが、その後、本件協定の効力を否定し得る事由がないのに、Y3はその事由があるものと軽信して本件協定を解消する旨の意向を示し、Y1及びY2もY3に同調して、 Xとの交渉を一方的に打ち切ったものと認められるから、Yらにはxxx上の注意義務違反があるといえる。
③ 損害の範囲、有無及び額について
契約準備段階におけるxxx上の注意義務
違反を理由とする損害賠償責任において認められる損害の範囲については、その義務違反の内容等に照らし、当該契約が締結されると信じて支出した費用等(信頼利益)に限られると解するのが相当である。そうすると、Yらの契約準備段階におけるxxx上の注意義務違反に関しては、Xが本件土地の売買契約が締結されると信じ、測量登記業務・開発設計業務代金として支出した96万6000円が損害として認められるにとどまり、Xが主張する本件土地の開発により得べかりし利益3293万 3000円については損害とは認められない。
3 まとめ
東京地判 平26・12・18 RETIO99-62等の裁判例に見られるとおり、買付証明書・売渡承諾書の授受があったとしても、それをもって売買契約が成立するものではなく、本件においても売買契約が成立したとする買主の主張は否定されている。
本件裁判所は、契約準備段階における売主側のxxx上の注意義務違反を認めたが、その損害の範囲については、当該契約が締結されると信じて支出した費用等(信頼利益)に限られるとした判断は、実務上参考になるものと思われる。
義務違反による賠償請求が一部認められた事例として、xxx判 平7・6・29 RETIO 33-41が、義務違反は認められるが損害は認められないとされた事例として、東京地判平15・6・4 RETIO60-42が、契約締結上の義務違反が否定された事例として、東京地判平26・12・18 RETIO99-62、最高判 平7・10・ 26 RETIO35-33が見られるので、あわせて参考としていただきたい。
(調査研究部xx調整役)
最近の判例から
⑵−条件が成就した場合の効果−
不可分一体取引とした複数の売買契約における買主業者の借地権者の建物取得の条件が停止条件とされた事例
(東京地判 平27・10・22 ウエストロー・ジャパン) xx xx
買主業者が借地権者の建物を取得することを条件とし、それぞれの契約が不可分一体取引とした複数の土地等の売買契約に関し、借地権者が建物を第三者へ売却した後に、売主が土地等を第三者へ売却・登記移転したことについて、買主業者が売主の債務が履行不能になったとして契約解除と違約金の支払を求めた事案において、買主業者の主張を排斥して請求を棄却した事例(東京地裁 平成27年 10月22日判決 棄却 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成26年5月29日、不動産業者X(買主・原告)は、一体として公簿面積の合計が約 285㎡の4つの土地のうち、Y1(売主・被告)が所有する土地1を1200万円、土地2を3600万円で売買する契約を締結し、手付金合計 250万円を支払った。なお、土地1には借地人A(訴外)が所有する建物(以下「A建物」という。)、土地2には借地人B(訴外)が所有する建物(以下「B建物」という。)が存し、また、Bは土地2の隣接地を所有していた(以下、B建物とBの所有地を併せて「B土地建物」という。)。
土地1の契約には「本契約とA建物の売買契約は、不可分一体取引とし、XがA建物の売買契約を締結する事ができないと判断した場合は、本契約は白紙解約となり、Y1は受領済みの手付金を原告にすみやかに返還する。」と約定され、土地2の契約には「本契約とB建物の売買契約は、不可分一体取引と
して、同時に成立し、万一、XがB建物を取得 する事ができないと判断した場合は、本契約は白紙解約となり、Y1は受領済みの手付金をXにすみやかに返還する。」と約定された。 5月31日、XとY2(売主・被告)は、4
つの土地のうちY2が所有する土地3及び建物と土地4を1億1500万円で売買する契約を締結し、手付金500万円が授受された。
XとY2の契約には「本契約と後記表示の一体物件(注:土地1、土地2、A建物、B土地建物を意味する。)の売買契約は、不可分一体取引として、同時に成立し、万一、Xが一体物件を取得する事ができないと判断した場合は、本契約は白紙解約となり、Y2は受領済みの手付金をXにすみやかに返還する。」と約定された。
7月1日、AはA建物を不動産業者C(訴外)に売却し、同月17日付で所有権移転登記手続を行った。
7月8日、Bは、B土地建物をCに売却し、同月16日付で所有権移転登記手続を行った。
8月6日、Y1は土地1及び土地2をCに売却し、Y2は土地3及び建物と土地4をCに売却し、それぞれについてCへの所有権移転登記手続を行った。
8月13日、Y1及びY2は、受領済みの手付金をそれぞれ地方法務局に弁済供託した。 9月30日、Xは、Y1及びY2が土地及び 建物をCに売却して所有権移転登記手続をしたことから、Y1及びY2の債務が履行不能になったとして、それぞれの契約を解除する
旨の意思表示をして、違約金(売買代金の2割)の支払を求めて提訴した。
裁判では、Y1及びY2は「各契約はXが A建物を取得すること等を停止条件として不可分一体の取引として締結されたもので、XがA建物を取得できないことが確定して停止条件の不成就が確定したので契約は無効となった」と主張し、Xは「約定はXにのみ解約権を付与した定めで、文言上『不可分一体取引』であると記載されているとしてもA建物等を取得することを停止条件とする契約であったと解することはできない」と主張した。
2 判決の要旨
裁判所は次のように判示し、Xの請求を棄却した。
⑴ 各契約は、A建物及びB土地建物の売買契約が不可分一体の取引とされ、Xが、A建物又はB土地建物の売買契約を締結することが、それぞれ停止条件として付されていたものといえる。
⑵ A建物及びB土地建物が第三者に売却され所有権移転登記手続がされた時点で社会通念上いずれもXにおいて取得することができないことになったといわざるを得ない。したがって、各契約は、停止条件の不成就の確定により、いずれも効力が生じないこととなった。
⑶ Xは、各契約の約定はいずれもXのみに解約権を付与した定めで、Y1及びY2はXの担当者のその旨の説明に異議を述べることなく契約書に署名・押印したと反論するが、担当者がそのような説明をしたとは認められない。
⑷ 各契約には、残代金支払は不可分一体取引の対象となっている物件の取得時とされており、Xが対象物件を取得できない限りY1及びY2は売買代金の大部分を受領できない状態にとどめ置かれ、このような状況の下で、
約定がXのみに解約権を付与した定めと解することはできない。契約書全体を整合的に見た場合、約定は「『万一、Xが不可分一体の物件を取得する事ができない』と(一般的に)判断した場合は、本契約は白紙解約となる」との定めと解するのが相当である。
⑸ Xは、Y1又はY2は、民法547条(催告による解除権の消滅)に基づき催告することができたと反論するが、催告したとしても Xの解除権が消滅するものの契約は存続し、引き続き残代金を受領できない状態が継続することになり、Y1及びY2にとっては何の解決にもならない。
3 まとめ
売買契約で「条件が成就した場合の効果(民法127条)」を定める場合、当該条件が停止条件であるか解除条件であるかの明示がないと当事者間の見解の相違により本事例のような紛争となる。
「X(買主業者)が判断した場合」との条件は、一定の状況(前提条件の不成就)のときには、Xに事業計画変更等の余地を残そうとした業者側の意図が想定されるが、売主(消費者)の保護や取引のxxの観点からすれば、Xに一方的に有利な内容で、不動産業者と非業者の契約の特約としては適切ではない。
複数の土地を取りまとめて行う事業では、一部の不成就が全体計画に大きな影響を及ぼすが、不成就となる位置や面積等によっては変更が可能なこともあるので、計画段階で全体取りまとめが必須であるか否かを検討したうえで、変更の検討も可能だと判断したときには、一般的な不動産売買契約の「融資利用の特約」のように、「解除期日」を設定した「解除権留保」型の解除条件付契約として買主の保護と取引の安定を図るべきであろう。
(調査研究部調査役)
最近の判例から
⑶−xx商法二次被害−
虚偽の事実を告げられ、殆ど価値のないxxxを購入させられたとする買主の損害賠償請求が認められた事例
(東京地判 平27・11・30 ウエストロー・ジャパン) xx xx
一人暮らしの買主宅を相次いで訪問し、価値の無いxxやxxxを「価値が上がるから購入したほうが良い」などと勧誘し、長期に渡り、合計9筆の土地の購入・売却を繰り返させ損害を負わせたとして、当該買主が、売主及びその代表者等に対して、不法行為責任、会社法429条1項等に基づく損害賠償を求めた事案において、買主の主張を認め、その請求をすべて認容した事例(東京地裁 平成27年11月30日判決 認容 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
X(昭和6年生まれの一般消費者:原告)の訴状によれば、本件の請求原因の概要は以下のとおり。
平成25年4月、Y1(不動産業者:被告)は、 X宅において、訴外担当者を介して、当時Xが保有していた別の物件を「売ってあげる、そのためには250万円がいる」「代わりにもっと高く売れる土地がある」等として、Xに 250万円で土地1を購入させ、同年5月には、土地2を335万円で購入させた。
Y1は、同年6月、土地1と土地2を引き取り、翌年5月頃には売却して1600万円が入る等として、土地3を購入させて260万円を支払わせ、さらに同年9月には、土地3は買い手がローンを組めずに売却予定が長引く、土地3を引き取るので、代わりに180万円を追加して土地4を契約したらどうか等と持ちかけ、180万円を支払わせた。
平成26年5月、Y2(不動産業者:被告)は、土地4を引き取るので、300万円を支払ってくれれば土地5及び6を渡す、同年8月に 2550万円入る等として、Xに300万円を支払わせ、土地4を売却させ、土地5及び6を購入させた。
同年6月、Y2とY4(不動産業者:被告)が一緒にX宅を訪れ、「土地7を250万円で買わないか」「8月に2550万円を持ってくる」等として、Y4がXに、250万円支払わせたが、同年8月、Y4がX宅を訪れ、「2550万円を渡すという話は駄目になった」「300万円払って、土地8を買えば、1520万円保証する」等として、Xに300万円を支払わせ、土地5から7を売却させて土地8を購入させた。
同年10月、Y4は、「平成26年11月25日頃に2400万円入る土地(土地9)がある」「300万円必要」等として、Xに、Y4の担当者と称するA(その後Y4にAという者はいないと告げられている) に200万円、翌日には Y4に150万円を支払わせた。
なお、土地1~9は、固定資産評価額が土地2が49万円余、土地4は95万円余、土地9は30万円余、そのほかは千円余から1万数千円余で、値上がりの見込みのない、山林、xx、雑種地であり、Y1らは約束した金銭を Xに支払わなかった。
Xは、平成26年12月、Y1、Y2及びY4に対し特定商取引法に基づくクーリング・オフの意思表示等をした上、Y1に対して1025万円、Y2及びY3(Y2の代表者)に対し
て300万円、Y4及びY5(Y4の代表者)に対して700万円の不当利得返還及び不法行為等に基づく損害賠償を求め、Y4に対して土地8及び土地9の所有権移転登記の抹消登記手続きを求めて提訴した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示し、Xの請求を認容した。
⑴ Y1は、請求原因事実は全て知らないと述べてこれを争うが、それ以上の主張、立証を行わない。そこで検討すると、証拠及び弁論の全趣旨によれば,請求原因事実の全てを優に認定できる。
⑵ Y2は、適式の呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しないから、請求原因を争うことを明らかにしないものと認め、これを自白したものとみなす。
⑶ Y3は、同人が知的障害者であり判断能力が十分でないことを指摘して、(重)過失があったと認めるのは相当でないし、結果回避可能性もなく損害との因果関係がないとして、損害賠償責任を負わないと主張する。しかし、Y3の知的障害については、障害の程度が高いとは認められず、Y2の代表取締役に就任すること自体は認識していたことが認められ、Y3には共同不法行為が成立すると見ざるを得ない。また、Y3は、Y2の代表取締役としての善管注意義務を著しく欠いていたというほかなく、同人に会社法429条1項の重過失が認められることも否定できない。そして、Y3の任務懈怠とXの損害との間 に相当因果関係があると認めるのが相当であ
る。
したがって、Y3の主張には理由がないから、Y3は、Y2と連帯して、300万円の支払義務を負うべきこととなる。
⑷ Y4及びY5は、請求原因事実のうち、 Xから合計700万円を受領した点を否認し、 Y4が受領した金額は300万円にとどまるとしてこれを争うが、それ以上の主張、立証を行わない。そこで検討すると、証拠及び弁論の全趣旨によれば,XがY4に対し合計700万円を支払い、Y4がこれを受領したとの事実が優に認定できる。
⑹ 以上のとおりであるから、Xの請求にはいずれも理由があるからこれらを認容することとする。
3 まとめ
本件は、高額な土地の交換差金等を繰り返し請求する典型的なxx商法二次被害の事例といえるが、合計9筆にも及ぶ土地の購入・売却を長期に渡って繰り返させた極端なケースともいえよう。
本件の被告らは、請求原因事実は全て知らないと争う以上の主張、立証を行っておらず、原告の請求がすべて認められている。
xx商法によるトラブルを未然に防ぐため、行政の対応や啓発の一層の充実が期待されるところであるが、本件のようなトラブルが発生した場合、被害者に掛かる負担は決して小さくないと考えられ、怪しいセールトークを鵜呑みにしないなど、消費者側にも適切な対応が望まれる。
なお、xx商法に関しては、ほかに、xx商法を行った不動産業者に土地を売却・仲介した別の不動産業者の幇助責任が認められた事 例(大阪高判 平7・5・30 RETIO33-43)、会社ぐるみで行ったxx商法による土地の売買について、不動産業者の幹部社員、重要事項説明を行った取引xx者に対する不法行為による損害賠償責任が認められた事例(東京地判 平2・9・25 RETIO19-28)等がある。
(調査研究部次長)
最近の判例から
⑷−土地の瑕疵−
引渡し後土地に石綿を含有するスレート片が発見されたことについて、買主の損害賠償請求が認められた事例
(東京地判 平28・ 4 ・28 ウエストロー・ジャパン) xx x
物流施設用地として売買された工場跡地の土地で、引渡し後に敷地内から石綿を含むスレート片が発見されたことから、買主が、売主に対してその撤去・処分費用と工事遅延に伴う追加費用等の支払いを求めた事案において、売買契約書の定めに従い買主の請求の一部が認容された事例(東京地裁 平成28年4月28日判決 認容 控訴 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成19年12月、買主X(原告)は、物流施設建設を目的として、xxxxx区所在の土地、及びその土地上の建物について、売主Y
(被告)との間で、売買代金額848億円にて、売主が「土間コンクリート又は地中障害物(杭を含む。)等、本件土地の地中障害物その他の瑕疵(土壌汚染を除く。)を除去し又は修補する」、ならびに「汚染土壌を環境基準に適合させるために必要な有害物質の除去につき合理的な方法による土地改良工事を行う」との約定で本件売買契約を締結した。
Xが、平成22年12月に物流施設の建築工事に着手したところ、その翌月に建築工事業者が本件土地の地表にスレート片が散乱しているのを発見した。調査の結果、これらのスレート片に石綿が含有されていることが分かり、さらにその後の調査で本件土地の広範囲にわたり石綿を含有するスレート片が散乱していることが判明した。これについてXは、平成23年4月にYに対し、本件土地の瑕疵に
該当し、債務不履行・瑕疵担保その他に基づく法的責任を発生させる旨を通知した。これに対してYは、当該スレート片は産業廃棄物には該当せず、通常の残土として処分する費用との差額を負担することはできない旨の回答をXに行った。
また、Xは建築工事業者にスレート片を含む土壌の撤去・処分を発注し、平成25年11月にその代金として63億円余を支払った。
YがXの請求に応じなかったことから、Xは、スレート片の撤去・処分費用、工事遅延に伴う追加費用等として、85億円余の支払いをYに求めて、本訴を提訴した。これに対してYは、①石綿は天然物でありこれを一切含有しないことが通常有すべき性質とは言えないうえ、飛散の恐れがほぼない状態で存在している、②石綿は物理的に本件土地の利用を妨げるものではなく本件売買契約上の瑕疵にはあたらない、③土壌に含まれる石綿に環境基準はない、④スレート片は産業廃棄物処理法施行以前に地中に混入したものであり同法の適用は受けない、⑤土壌からスレート片を取除いて、スレート片のみを処分すれば費用はより低額であった、等と主張して争った。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求の一部を認容した。
⑴ 売買契約上の瑕疵にあたるかについて 本件売買契約は、物理的に土地の利用を妨
げるものに限定すべき理由はなく、「土間コ
ンクリート又は地中障害物(杭を含む。)等」を例示とし、本件土地の地中障害物その他の瑕疵を除去し又は修補することを売主の義務と定めており、その瑕疵が取引上一般に要求される程度の注意をしても発見できない場合に売主が負うべき責任を定めたものであると解するのが相当である。また、Xは、本件売買契約の締結当時、本件土地にスレート片が大量に混入している事実を知らなかったというべきである。
⑵ 石綿含有スレート片が廃棄物かについて廃棄物処理法の施行後の当該処理の時点に おいて、不要物、すなわち廃棄物と判断されるものであれば、当該廃棄物が同法施行前に
本件土地に混入したものであったとしても、同法の適用を免れるものではないというべきである。
⑶ Yの債務不履行・瑕疵担保責任について本件土地の地中にXに知らされていなかっ た特別の取扱いが義務付けられ、そのための費用がかかる物質が存在したことによって本
件土地の交換価値が損なわれているときは、売主であるYは、買主であるXに対し、本件売買契約に基づき、その除去義務を負うほか、本件土地には「隠れたる瑕疵」があるとして、損害賠償義務を負うべきである。当該スレート片は石綿含有産業廃棄物であり、産業廃棄物処理法令に則った厳格な処理が必要であることから「隠れたる瑕疵」に該当する。
⑷ Xの損害額について Yは、70年以上に渡り本件土地を利用して
おり、Yが建物を建替える都度、石綿を含有するスレート材が破砕され、広大な敷地内に散在したと考えられ、スレート片を分別して撤去し処分することも現実的には困難であった。一方、Xは、本件土地の全てのスレート片を含む土壌を処理したが、その利用目的に照らし、通常予定された範囲を超えると考え
られる部分もあり、これらは、Xが負担すべきものである。また、追加費用についても同様であり、Xの請求を56億円余の支払いを求める限度で認容する。
3 まとめ
本件は、引渡し後に石綿含有のスレート片が発見されたことから、①そのスレート片が産業廃棄物にあたり産業廃棄物処理法の規制を受けるか、②本件売買契約xxxスレート片の存在が土地の瑕疵に当たるか、等について争われ、買主の損害賠償請求が一部認められた事例である。
当該スレート片は、いわゆる「自然由来」のものではないことから、これを瑕疵にあたるとした本件裁判所の判断は、特に違和感を覚えるものではない。本件売買契約は、かなり複雑な内容になっていた(ならざるを得なかった)模様であり、契約締結までに全ての面で売主=買主間の契約内容の認識や解釈を一致させておくことは難しかった面もあったとは思われる。一方で、媒介業者としても後日の紛議を避け、また、これに巻き込まれることを避けるためにも、売主・買主双方の契約内容に対する解釈を一致させておくことの重要性を改めて認識させられた事案でもある。
本事案については、その後控訴され、現在審理中であることから、その判断も注目される。
土壌汚染や地中障害物等に係る紛争において、売買契約の特約等により売主責任が認められた事例として、RETIO102-112、同101- 100等が、売買契約の免責特約、除訴期間の経過等により、売主責任が否定された事例として、RETIO93-144、同89-78等があるので、あわせて参考としていただきたい。
(調査研究部調査役)
最近の判例から
⑸−買主の錯誤と業者の調査説明義務−
検査済証未取得の地下車庫上に建物を建築できないことで契約の錯誤と業者の調査説明義務違反を主張した買主の請求が棄却された事例
(東京地判 平27・ 2 ・10 ウエストロー・ジャパン) xx xx
中古住宅の買主が、検査済証未取得の地下車庫上に建物が建てられないことを理由に、売主に対して錯誤による契約の無効を、媒介業者に対して調査説明義務違反による損害賠償を請求した事案において、買主に要素の錯誤はなく、その地下車庫上に建物が建てられないことは媒介業者の調査説明すべき事項とまではいえないとして、買主の請求を棄却した事例(東京地裁 平成27年2月10日判決 棄却 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成25年3月、自宅購入のため買主X(原告)が、Xの親族Aの居住地から近隣にある売主Y1(被告)所有の土地建物(以下「本件不動産」という。)を媒介業者Y2社の仲介により購入した。(以下「本件売買契約」という。契約条件:売買代金3400万円、手付金300万円、同年5月9日までに残代金3100万円を支払う)
本件建物は、昭和53年12月に新築され、平成2年12月にxx地下車庫(以下「本件地下車庫」という。)が新築されるとともに、その上部に建物(以下「本件増築部分」という。)が増築され建築確認を取得したが、検査済証は未取得のままであった。尚、本件売買契約時にY2社がXに交付した重要事項説明書等には、増築時の建築について、検査済証が未取得である旨記載されていた。
Xは、本件売買契約締結の前に、リフォームして居住する意向であることをY2社に伝
え、本件売買契約締結後も本件建物をリフォームして居住すると考えていたが、契約締結後リフォームの代金が予想を上回ること等から本件建物を建て替えることを決定し、同年 4月B社に建物の新築を請け負わせることとした。
同年5月、B社は、Xに対し、本件地下車庫について検査済証を未取得であること、擁壁の耐久力が不足する可能性があるため本件地下車庫の上に建物を建築できない旨説明した。その説明を受けてXは、B社との間で、本件地下車庫上には建物の躯体がかからないようなプランで建築する請負契約を締結した。(以下「本件請負契約」という。)しかし、その後、Xの親族Aから、日当たりを良くするためには(敷地のxxに建てるのがよい等の観点から)地下車庫上に建物を建てるべきとの考えが示された。
同年9月、Xが、本件売買契約の残代金を支払わないため、Y1は、本件売買契約を手付金没収により解除した。Xは、B社との間で本件請負契約を合意解除し、解約手数料として10万円を支払った。
Xは、主位的には、本件地下車庫の上に希望する建物を新築することができないのに建物を新築できると誤信して本件不動産を購入したから、本件売買契約は要素の錯誤により無効とし、手付金300万円の返還をY1に求め、Y2社には、本件地下車庫上に建物を新築することができない可能性があること等を説明する義務があったのにこれを怠ったこと
から弁護士費用等の損害賠償金186万円余の支払いを求め、また、予備的には、Xの錯誤が認められない場合、Y2社に対して、その説明義務違反により生じた損害の賠償金金 516万円余の支払を求め本件訴訟を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、Xの主張を棄却した。
1.Xの錯誤の有無について Xは、本件売買契約締結時には、本件建物
を取り壊して建物を新築するかどうかを決定していなかったこと、その後Xは、本件地下車庫について検査済証が未取得であること等から、本件地下車庫上に建物を建てることができないことを前提に、B社との間で本件請負契約を締結したことから、本件売買契約及び本件請負契約の履行を進めるつもりであったことが認められるから、契約締結に当たって、要素の錯誤があった旨の原告の主張は理由がない。
2.Y2社の説明義務違反について
建物の建築の可否は、建築基準法等の法令に適合するかどうかにより定まるのであって既存建物の検査済証の有無により定まるものではないから、本件地下車庫について検査済証が未取得であったからといって、本件土地上に建物を建築することができないとは限らず、本件リスク(本件地下車庫上に現況のままで適法な建物を建てることは不可能であり適法な建物を建てるためには本件車庫の補強のために多額の費用がかかること。)が存在することが通常想定される問題であったとはいえなく、本件建物を取り壊して本件土地上に建物を建てる場合、①本件地下車庫を残し、本件地下車庫の上に建物の躯体がかからないように建物を建築すること及び②本件地下車庫を壊して建物を建てることが可能であり、
その場合には本件リスクは顕在化しないことになる。
以上によれば、本件リスクは、買主が本件売買契約を締結するかどうかを決定する際に影響を及ぼし得る事項ではあるが、意思決定に重要な影響を及ぼす事項として、また常に媒介業者として買主に対して調査説明すべき事項とまではいえない。
また、Y2社は、Xに対し、本件地下車庫及び本件増築部分について検査済証が未取得であることに加えて、本件土地に建物を新築する際、地耐力の関係上、深基礎やベタ基礎等の工事を施す必要が生じること、既存擁壁部分について、所轄官庁から改修、補修等の指導を受ける場合があり、費用負担が生じることを重要事項説明書等において説明したことからすると、Y2社において、本件リスクについて調査説明すべき義務に違反したとはいえない。
3 まとめ
本件は、契約後に検査済証未取得の地下車庫上に建物を新築することはできないことが判明したとして、買主が契約の錯誤と業者の調査説明義務違反を主張した事例である。
本件のように、検査済証のない建物の売買において、買主が契約締結後に購入目的が達成できないとしてトラブルとなるケースが見られるが、重要事項説明において、検査済証が未取得であることに加え、所轄官庁からの指導、追加工事・費用負担等の生じる可能性があることをも説明した媒介業者に説明義務違反はないと判断した本件判決は、実務の参考となるものと思われる。
(調査研究部調査役)
最近の判例から
⑹−土地区画整理事業における賦課金の負担−
土地区画整理事業における賦課金を課せられた買主等が求めた分譲業者に対する損害賠償請求が棄却された事例
(東京地判 平26・ 3 ・11 ウエストロー・ジャパン) xx x
土地区画整理事業地内の土地を敷地とするマンションの買主等が、同事業における賦課金を課せられたため、分譲業者に対し瑕疵担保責任又は説明義務違反の不法行為責任による損害賠償を求めた事案において、分譲時に賦課金が課される可能性が具体性を帯びていたといえないことから、瑕疵担保責任・不法行為責任いずれとも理由がないとして、請求が棄却された事例(東京地裁 平成26年3月 11日判決 棄却 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
デベロッパーである売主Y(被告)は土地区画整理組合(以下「本件組合」という。)が施行する土地区画整理事業地内の土地を敷地としてマンションを建築し、平成9年から 10年にかけて、X(原告。以下、Yから購入した者から売買・相続で取得した者も含め「Xら」という。)に分譲した。
土地区画整理事業は、当初の事業計画では、施行期間は平成5年3月末日まで、対象面積約38万m2、うち保留地予定面積は4万3430m2、事業費総額81億円余はすべて保留地処分金で賄うこととされていた。
平成3年8月の第1回目の事業計画の変更では、保留地単価は1m2当たり18万円余から44万円余に、事業費総額も148億円余に引き上げられたが、すべて保留地処分金で賄うことに変更はなく、平成8年3月の第2回変更事業計画でも施行期間は延長されたが、事業費総額148億円余のほぼ全額を保留地処分
金で賄うことには変更はなかった。
平成9年3月、土地区画整理事業にデベロッパーとして参加していたA(訴外)は、本件組合に対し、保留地8000坪を148億円で買い受ける旨の基本契約の解約を申入れ、平成 10年12月ころ、Aと本件組合は基本契約を解消するに当たり、Aが和解金20億円を支払うことで合意した。
平成13年3月、変更の第3回事業計画では収入20億円余が発生したため、事業費総額のうち保留地処分金で賄う額が128億円余とされたが、賦課金の計上はされなかった。
平成14年3月、変更の第4回事業計画では、総事業費を約130億円に、保留地処分金も80億円に引き下げ、それ以後も事業計画の変更を行ったが、借入金利息等の支払が困難となり、平成22年7月、裁判所に特定調停の申立てを行い、平成23年3月、債権者に対し平成 28年3月31日までに40億円を分割償還する内容の合意が成立した。
平成23年4月開催の第8回総会では、本件組合は、事業費不足額を約31億円と見積り、再減歩方式による再建計画を採択したが、翌年3月開催の第9回総会では、特定調停で定められた時間的制約の中で組合再建を達成するため、再減歩方式に代えて、31億円分の賦課金を導入する決議をし、平成24年10月5日付け賦課金額決定通知書により、本件組合は、 Xらに対し、賦課金を請求した。
Xxは、Yには瑕疵担保責任又は売買契約締結時の説明義務違反の不法行為責任がある
として提訴した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示してXの請求をすべて棄却した。
土地区画整理組合は、法律上、その事業に要する経費に充てるため、組合員に対し、賦課金を賦課徴収することができるとされており、施行地区内の土地所有者は、すべて組合員となるため、本件敷地の所有者に賦課金が課される一般的・抽象的可能性は常に存在していたものということができる。しかし、分譲時における本件敷地に瑕疵があったということができるためには、このような抽象的・一般的可能性では足りず、分譲時に、組合員である本件敷地の所有者に賦課金が課されることが具体的に予定されていたことが必要と解される(最高裁 平25・3・22 平23(受) 1490号)。
Xらは、分譲時、本件敷地については賦課金が発生する具体的な可能性があった旨主張するが、Aの撤退決定後である平成13年3月の本件組合の第3回変更事業計画においても、事業費総額のほとんどを保留地処分金により賄う方針を変更しておらず、組合員の負担を求めることが具体的に総会の決議事項として取り上げられたのは、平成23年4月の第 8回総会が最初であり、翌年の第9回総会において、本件賦課金の徴収に係る本件決議がされたのであり、分譲時に、本件敷地の所有者に賦課金が課される可能性が具体性を帯びていたということはできないから、分譲時、本件区分建物に瑕疵があったということはできず、その余の点を判断するまでもなく、瑕疵担保責任に基づくⅩらの請求は理由がない。
Xらが主張するYの説明義務違反による不法行為についても、分譲時、賦課金が課され
る可能性が具体性を帯びていたとは認められない以上、Yのxxx上の説明義務は、その前提を欠くものであり、その余の点について判断するまでもなく、説明義務違反の不法行為に基づく請求も理由がない。
3 まとめ
xx業法の解釈・運用の考え方の第35条第
1項関係の「2 土地区画整理法第110条の規定による清算金に関する説明について」では、換地処分後の清算金に関して重要事項説明書に記載・説明することとされている。
賦課金に関してのxx規定は見られないが、計画した事業費の確保が困難な土地区画整理事業も少なからず見受けられ、施行地区内で土地・戸建を取得後、100万円以上の賦課金支払を求められる場合もあり、説明がなかった場合に購入者が納得されないのも当然と言えよう。
本件では購入者等の請求が棄却されているが、瑕疵の有無の判断基準は、最高裁の平成 25年3月22日判決「瑕疵があったということができるためには、抽象的・一般的可能性では足りず、本件分譲時に、組合員である本件敷地の所有者に賦課金が課されることが具体的に予定されていたことが必要と解される」とされている。
xx業者は、施行地区内の不動産取引に関わる際、総会で賦課金の請求案が俎上にあがっていたり、再減歩が行われているような場合は、土地区画整理組合に確認し、確認日・確認内容を重説に記載し、買主等に説明しておくことが必要と言えよう。なお、最高裁平25・3・22 RETIO 90-130も参考とされたい。
(調査研究部調査役)
最近の判例から
⑺−不動産コンサルティング契約−
締結された不動産コンサルティング契約は、弁護士法違反の行為を中心的業務とし、その報酬は暴利を得るものであるから、全体として公序良俗に違反して無効とした事例
(東京地判 平25・9・3 ウエストロー・ジャパン) xx xx
破産管財人が、借地権者(破産者A)とxx業者との間で締結された「不動産コンサルティング業務契約」は、実質は媒介契約であるところ、その約定報酬額は暴利であり、暴利行為又は不xxな取引行為等で無効であるとして、xx業者に対し、借地xxの売却で支払った報酬のうち、報酬告示で定められた上限額を超える部分の返還を求めた事案において、本件コンサルティング契約は、実質的には弁護士法違反の行為を中心的業務とし、それに対する対価の支払を合意するもので、その額は暴利を得るものであるから、全体として無効であるとして、不当利得返還請求を認容した事例(東京地裁 平成25年9月3日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
借地権及び借地上の建物(以下「本件建物」という。)を所有するAは、本件建物のリフォーム費用や生活費、パチンコ等の負債が約 800万円に上り、その支払いを滞り、借地の地代も滞納し、それらの弁済のために本件建物の売却を考え、xx業者Y(被告)と、平成20年7月、「不動産コンサルティング業務契約」(以下「本件契約」という。)を締結した。
本件契約には、受託業務内容として、Aの希望する本件建物の換金を実現することを業務とするとして、譲渡承諾取得とその後の売却等が記載され、報酬規定として、Yの報酬
は、本物件の換金価格(Aの手取り金額)を 2,000万円とし、それを超える金員をYの報酬とすると記載されている。
xxXは譲渡承諾を拒否していたが、最終的にはDが自ら2,700万円で買い取ることになった。そのころ、Yの従業者Eは、Aに対し、Aの手取り金額を2,000万円から1,500万円に減額する旨を申し出、同年12月6日、その旨の合意書作成した(以下「本件報酬合意」という。)。
同年12月25日、Aは、Dとの間で本件建物及び借地権を代金2,700万円で売り渡す売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。平成21年3月31日ころ、Yは本件報酬合意に基づく1,200万円を受領した。
Aは、xxにより取得したxxの多くを費消し、平成22年1月、破産手続を申立て、平成23年3月、破産手続開始決定を受けた。
選任された破産管財人X(原告)は、本件契約は「不動産コンサルティング業務契約」と称してはいるが、実質は、借地権付建物の売却を目的とする不動産媒介契約に過ぎず、暴利行為であり、公序良俗違反により無効である等と主張し、媒介の報酬上限である91万円を控除した残金である1,108万円余の返還を求めて提訴した。これに対し、Yは、本件契約の目的は、負の資産を正常に取引可能な資産にバリューアップすること(資産価値向上)にあるから、不動産コンサルティング業
務そのものであるなどと主張して争った。
2 判決の要旨
裁判所は次のように判断して、Xの請求を認容した。
⑴ 本件契約が公序良俗違反で無効であるかについて
被告会社又はその従業員Eが行った行為のうち不動産媒介の域を逸脱したもの、とりわけ、xxDに地代の受領を求めたり、これを供託する行為は、AとDとの間において、Aの債務不履行により消滅しかかっていた借地権の保全を図ろうとするものであり、また、根抵当権者に対して交渉する行為は、根抵当権者が取ろうとしていた法的手続について、本件建物の処分時に一括弁済することを条件として競売申立てなどの猶予を求めるものであり、いずれも他人間にすでに生じている法的紛争に介入して、権利の保全を図るために行う交渉行為であって法律事務であるといわざるを得ない。しかも、被告会社が得た報酬を見ると、その額は売却代金2,700万円のうち1,200万円もの高額であって、暴利というべきである。
本件契約は、これを単なる不動産媒介ということはできないが、少なくとも本件報酬合意が成立した時点においては、実質的に弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)違反の犯罪行為を行うことを中心的業務とし、それに対する対価の支払を合意するものであり、しかも、その報酬は暴利を得るものであるから、全体が公序良俗に違反して無効というべきである。そうすると、本件契約に基づいて被告会社に支払われた1,200万円は全額法律上の原因のないものであるから、被告会社にはその不当利得返還義務がある。
⑵ 被告会社の不法行為責任の有無について被告会社の従業員Eが行った行為は、公序
良俗に反する違法な契約に基づいて報酬名下 に金員を受領したものであるから、違法な行為というべきであり、Aはこれに基づいて本来支払う必要のない金員を報酬名下に支払い、損害を生じたということができるから、 Eの行為は、故意又は過失により他人の権利を侵害したものとして、不法行為を構成する。そして、Eの上記行為は、被告会社の事業
の執行について行われたものであるから、被告会社は使用者責任を負う。
3 まとめ
本件コンサルティング契約の受託業務の内容は、①譲渡承諾取得とその後の売却、②底地の買取とその後の売却、③底地と本件建物の交換とその後の売却、④xxへの本件建物の売却、これらの目的達成をその業務とすると定めている。借地権付建物の売却において、底地権者(土地所有者)の譲渡承諾を得るための交渉、底地権者への売却交渉、抵当権者への交渉等は、売却を実現するために必要な交渉業務であり、契約の成立に向けての不可欠な媒介業務である。本来の媒介業務であるこれらの交渉業務を業務委託契約やコンサルティング契約として締結しても、媒介報酬以外の報酬の対価とすることはできない。xx業法の解釈・運用の考え方は、xx業者自らも積極的に「媒介業務以外」の不動産取引に関連する業務の提供に努めることが期待されているとし、これを行う場合は、媒介業務との区分を明確にした不動産コンサルティング契約を締結することを求めている。業務委託契約やコンサルティング契約に関する相談は少なくないが、その業務内容は媒介業務に含まれる業務であることが多い。「不当に高額の報酬を要求する行為」はxx業法47条二号違反に該当することを確認されたい。
(調査研究部xxxxx研究員)