※詳しくはP29を参照。
目次
第1章 | 労務管理とは | ・・・・・・・・・・・・・・02 |
第2章 | 労働基準法 | ・・・・・・・・・・・・・・05 |
第3章 | 労働契約 | ・・・・・・・・・・・・・・10 |
第4章 | 就業規則 | ・・・・・・・・・・・・・・13 |
第5章 | 賃金 | ・・・・・・・・・・・・・・16 |
第6章 | 労働時間、休憩、休日 | ・・・・・・・・・・・・・・22 |
第7章 | 休暇 | ・・・・・・・・・・・・・・30 |
第8章 | 外国人材の労務管理 | ・・・・・・・・・・・・・・35 |
第9章 | 労働保険 | ・・・・・・・・・・・・・・38 |
目次
別冊の付録も合わせてご活用ください
第10章 社会保険
第11章 労働契約の終了
・・・・・・・・・・・・・・48
農業における適用除外項目の一覧 | ・・・・・・・ | 2~6 |
雇用契約書(例) | ・・・・・・・ | 7~10 |
就業規則(例)の解説 | ・・・・・・・ | 11~61 |
給与規程(例)の解説 | ・・・・・・・ | 62~73 |
労働者名簿 | ・・・・・・・ | 74~75 |
賃金台帳 | ・・・・・・・ | 76~77 |
勤務状況報告書 | ・・・・・・・ | 78~79 |
健康診断個人票 | ・・・・・・・ | 80~82 |
・・・・・・・・・・・・・・61
※ この冊子は2020年3月時点の法令等に基づき作成しています
1
第1章
労務管理とは
労務管理
(1)労務管理とは
労務管理とは、従業員の能率を長期間にわたって高く維持し、上昇させるための一連の施策をいいます。具体的には、従業員の募集・採用から始まり、賃金や労働時間の管理、人事考課、教育・研修、昇格・昇進、異動・配置、昇給・賞与、退職・再雇用に至るまで、従業員に関するすべての施策です。
労務管理は、従業員の仕事に対する意欲を失わせたり、損なわないようにするために行うものです。したがって、仕事に対する意欲を失い、辞めていく従業員が後を絶たない職場の多くは労務管理に問題があります。農業は小規模零細企業が多く、事業主自身が労務管理も行っているのが一般的です。事業主の行動、言動、態度、対応すべてが従業員の労働意欲に直接かかわっているといっても過言ではないでしょう。
(2)労務管理の基本は労働時間管理
労働契約とは、労働への対価として時間を拘束し、その時間については指揮命令関係が発生し、それに対して賃金を支払うという契約です。
事業主は契約にしたがって、賃金は労働時間に対して支払うとともに、労働者が労働した時間分の賃金を支給する義務を負うことになるわけです。これは時給制の場合はもちろんのこと、日給制でも月給制でも同様です。したがって、使用者は従業員の労働時間を適正に把握・算定しなければなりません。
労務管理は、従業員の毎日の労働時間をきちんと管理することから始まります。労働時間管理が労務管理の基本といわれる理由です。
労務管理
目的
従業員の能率を 長期間にわたって 高く維持・上昇させる
募集・採用労働時間管理
賃金・賞与人事考課教育・研修
昇格・昇進・昇給異動・配置
退職・再雇用
など
(3)労務管理をするうえで必要な知識
労務管理をするうえで、基本的に知っておかなければならない知識は、労働基準法、労働安全衛生法等の労働法令や労災保険・雇用保険・健康保険・厚生年金保険等の労働・社会保険の知識です。とくに労働基準法は、生存権(憲法25条1項)と勤労条件の基準(憲法27条2項)を具体的に法律にしたもので、労務管理をするうえで最も基本的かつ重要な法律です。
<労務管理に関する主な法律>
① 労働基準法
労働者の保護を目的とし「労働条件の最低基準」を規定した法律。
② 労働契約法
労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的として、従来の判例を成文法化して基本的事項を定めている。労働基準法が、最低労働基準を定め、罰則をもってこれの履行を担保しているのに対し、労働契約法は個別労働関係紛争を解決するための法律。
③ 男女雇用機会均等法
募集・採用、配置・昇進・教育訓練、一定の福利厚生及び定年・解雇について女性に対する差別を禁止し、男女の均等確保の実現を目指し、女性労働者の能力発揮を促進する法律。
④ 育児介護休業法
育児、または家族の介護を行う労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるよう支援することによって、その福祉を増進するとともに、我が国の経済及び社会の発展に資することを目的とした法律。
(4)他産業並みの労働条件を
一般的に農業経営の規模拡大や法人化に伴い、経営を支える基幹労働者に加えてパートタイム労働者や季節労働者、外国人材など多くの雇用労働力を必要とする経営が増加しており、これら従業員の労務管理は複雑化・多様化しています。このような経営においては、従来の慣習や大まかな目安で行うのではなく、より近代的な労務管理を行っていく必要があります。
農業は、その性質上天候等の自然条件に左右されることなどを理由に、労
働基準法が定める労働時間、休憩、休日の規定が適用されません(※)。
このため、時間外労働の上限(原則として月45時間・年360時間)なども適用除外となりますが、経営を支える有能な人材の必要性が高まる中、労働条件の改善・快適化や福利厚生の充実を図ることにより、他産業並みの就業環境・労働環境を確保することが農業の最重要課題になっています。
※詳しくはP29を参照。
第2章 労働基準法
労働基準法
(1)労働基準法とは
労働基準法は、生存権(憲法25条1項)と勤労条件の基準(憲法27条2項)を具体的に法律にしたものです。この法律は、労働者の保護を目的とした法律であり、総則、労働契約、賃金、労働時間・休憩・休日及び年次有給休暇、安全及び衛生、年少者・女子、技能者の養成、災害補償、就業規則、寄宿舎、監督機関、雑則、罰則の13章からなります。
労働基準法で定める規定は、「労働条件の最低基準」ですので、労使とも
にこの法律で定める基準を上回るよう努力することが望まれます。
労働基準法の性格
労働基準法には、強行法規としての性格と取締法としての性格があります。強行法規としての性格とは、労働基準法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分が無効になる(労働基準法13条)ということです。たとえば、「年次有給休暇は、2年目から与える」とした労働契約は無効となり、使用者は労働者が6か月間継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤した場合には10日間の有給休暇を与えなければならないことになります。
取締法としての性格とは、労働基準法を遵守しない場合、罰則の適用があることを指しています。罰則は、そのほとんどが「6箇月以下の懲役または30万円以下の罰金」か「30万円以下の罰金」であり、最も重い罰則は、「1年以上 10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」(強制労働の禁止
(労働基準法5条))です。
(2)労働者
労働基準法では、労働者を「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われている者」と定義しています(労働基準法9条)。
労働者であるかどうかは、①使用者(他人)の指揮監督を受けているか、②労働の対償として報酬を支払われているか、で判断します。
労働者には、常勤の従業員だけでなくパートタイム労働者やアルバイト等も
含まれます。
イ 家族従事者(同居の親族)
事業主と同居の親族については、給与の支払いを受けていても、事業主と同居及び生計を一にするものであり、法律で保護する対象とはならず、原則として労働基準法上の労働者には該当しません。
ただし、同居の親族が従業員であっても、同居の親族以外の従業員を使用する事業において、一般事務または現場作業等に従事し、かつ次ページの①及び②の条件を満たすものについては、独立した労働関係が成立しているとみられるので、労働基準法上の「労働者」として扱われます。
① 業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること
② 就労の実態が当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。特に、始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等及び賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払いの時期等について、就業規則その他これに準ずるものに定めるところにより、その管理が他の労働者と同様になされていること
ロ 研修生
一般的に研修生は労働者ではありません。しかし、その就労の実態によっては労働者とみなされます。名称は研修生でも事業主との間に指揮命令関係があり、労働の対償として賃金の支払等があれば労働基準法の労働者となります。
ハ 農事組合法人または集落営農組織の構成員
農事組合法人の構成員(出資している組合員)ではない賃金労働者は、労働基準法上の労働者として扱われますが、農事組合法人や集落営農組織の構成員は、一般に当該団体との雇用関係は認められません。たとえ構成員が時間当たりいくらという形で「賃金」を受けていたとしても、それは農事組合法人等への従事分量に応じた利益の分配の性格のものであり、「労働の対償としての報酬」である賃金ではありません。したがって、従事分量配当制の農事組合法人等の構成員は労働基準法上の労働者とは認められません。
ただし、その就労の実態や賃金の支払いの実態から明確に雇用関係があると認められる場合は、労働基準法上の労働者として扱っても差し支えないこととなっています。
一般的には、「従事分量配当制」に対して「確定給与制」と呼ばれる農事組合法人の構成員が対象となります。雇用関係の判断基準としては、次の点が認められるかどうかがポイントとなります。
• 当該団体の一体的な指揮監督を受けて当該団体の事業に常時従事する者である。
• 明確な賃金が支給される者である。
• 当該団体に労働者名簿、賃金台帳が整備されている。
• 給与に係る所得税の源泉徴収が行われている。
構成員(出資者) | 非構成員(賃金労働者) | |
従事分量配当制 | 確定給与制 | |
労働基準法上の労働者としては扱われない。 | 就労の実態から明確に雇用関係が認められる場合は、労働基準法上の労働者として扱っても差し支えない。 | 労働基準法上の労働者である。 |
農事組合法人または集落営農組織の構成員等の扱い
ニ 請負人
業務請負契約とは、仕事の完成に対して報酬を支払うことを約束する契
(3)使用者
約です。業務請負契約による下請負人は、労務に従事することがあっても、
労働者となりません。シルバー人材センターに農作業を委託するケースもこれにあたります。しかし、契約上、請負の形式をとっても、その実態において使用従属関係が認められるときは、当該関係は雇用関係であり、当該請負人は労働者となります。
x xxxxxx
雇用は、被用者が使用者に対して労働に従事することを約し、被用者は使用者の指揮命令下で労働し、使用者がその労働に対して被用者に報酬を与えることを内容とする契約と解されます。一方、xxxxxxは、他人からの指揮命令を受けてする活動ではなく、自主的な無償の奉仕活動と解されます。無償であるか有償であるかが大きな違いです。
ヘ 外国人技能実習生
外国人技能実習生は、正確には労働者ではありませんが、労働基準法の規定に準拠するものとされており、外国人労働者に含まれるとしているので、外国人技能実習生には、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法、労働者災害補償保険法等の労働者に係わる諸法令が適用されます。労働基準法第3条は、労働条件面での国籍による差別を禁止しているため、外国人であることを理由に日本人に劣る労働条件で雇用することは許されません。
労働基準法でいう使用者とは、「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」(労働基準法10条)をいいます。また、事業主とは、事業主体のことをいい、個人企業では事業主個人、法人企業では法人そのものをいいます。
労働基準法の両罰規定
事業主
労働基準法上の使用者
労働者に関する事項について事
業主のために行為をするすべての者(労務管理や人事についての権限を与えられている者)
事業の経営担当者
労働基準法の違反行為を行った者が、事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業員である場合、違反行為をした者を罰するほか、事業主に対しても各本条の罰金刑が科せられることになります。たとえば、法人の代表者が労働基準法24条の規定に違反して賃金を支払わなかった場合、違反行為者である法人の代表者に対し同上違反の罰則が適用され、さらに、両罰規定により、事業主である法人そのものに対しても罰金刑が科せられます。
(4)農業と労働基準法
1人でも労働者を雇い入れて農業を営む場合は、個人経営であれ法人経営であれ、労働基準法の適用を受けることになります。
ただし、農業は、その性質上天候等の自然条件に左右されることを理由に、労働時間・休憩・休日に関する規定は、適用除外になっています(労働基準法41条)。また、この法律でいう農業には、畜産や花き栽培等も含まれます。
(5)労使協定
イ 労使協定とは
労使協定は、事業場単位で従業員の過半数を代表する労働組合か、労働組合がない場合に従業員の過半数を代表する者が使用者と締結する書面です。
労働基準法などが定める時間外労働・休日労働などの規制を解除したり、緩和等をする場合に必要となります。労使協定を締結することで、罰則付きで適用される法律上の制約に反する行為をした場合でも罰せられなくなるという効果をもっているということです。
ロ 労使協定と監督署への届出
労働基準法などで労使協定が必要とされているものとして次のものがあります。労使協定の中には、管轄労働基準監督署長への届出が義務づけられているものがあります。労働基準法に基づいて締結した労使協定は、就業規則と一緒に綴じておき、いつでも従業員が閲覧できるようにするなどの方法によって労働者に周知する必要があります(労働基準法106条)。
労使協定と労働基準監督署長への届出の有無
種 類 | 届出義務 | 備 考 |
農業は労働基準法の労働時 | ||
間・休憩・休日等に関して適用 | ||
時間外労働・休日労働に関する | 除外なので、締結・届出の義務 | |
労使協定(36協定) | 〇 | はない。 |
ただし、外国人技能実習生を | ||
雇用している場合には、締結が | ||
必要である。 | ||
貯蓄金管理に関する労使協定 | 〇 | |
賃金控除に関する労使協定 | × | |
1か月単位の変形労働時間制に | 〇 | 就業規則等で定め、周知すれ |
関する労使協定 | ば、労使協定は必要ない。 | |
フレックスタイム制の変形労働時 | 清算期間が1か月を超える場合 | |
間制に関する労使協定 | △ | のみ、届出義務がある。 |
1年単位の変形労働時間制に関 | 〇 | |
する労使協定 | ||
年次有給休暇の計画的付与に | × | |
関する労使協定 | ||
育児および介護休業の請求を拒 | ||
否できる労働者の範囲に関する | × | |
協定 |
(注)労使協定の効力は締結することによって発生します(36協定を除く)。
第3章労働契約
労働契約
(1)労働条件
労働基準法では、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」と定義しています(労働基準法
1条)。この「人たるに値する生活」については、「労働者が人たるに値する生活を営むためには、その標準家族の生活を含めて考えること」とされています
(昭22.9.13発基17号)。したがって、労働条件の最重要項目である賃金について、生計維持者である正社員の賃金であれば、その額は客観的に判断して労働者とその家族が生活できる額が期待されます。
たとえば、使用者は最低賃金法で定められた地域別最低賃金を守ることは当然ですが、賃金額を決定するにあたって「最低賃金さえ守っていれば、労働者の年齢や扶養家族の有無等については検討の余地はない」と考えるのでは、労働条件の原則に背を向けることになります。
(2)雇用契約書の作成
労働者を雇用する場合、賃金や労働時間などに関する重要な労働条件は正社員であれ、パートタイム労働者であれ、必ず書面で明示(注)しなければなりません(労働基準法15条)。
農業では、労働基準法で労働時間や休憩、休日などが適用除外とされていて、法律による規制はありませんが、書面で労働時間関係の労働条件を通知することは適用除外とはなっていません。
労働時間や休憩、休日をどのようにするかは、事業主の判断に任されているものの、雇用の際に重要な労働条件を書面にて通知することは、絶対に遵守しなければなりません。労働条件は、雇用される側にしてみれば非常に重要なものですから、後からトラブルにならないよう、初めにきちんと説明し、納得してもらったうえで、気持ちよく働いてもらうようにしてください。
書面で明示する方法は、具体的には、雇用契約書を作成するか労働条件通知書を交付することになります。法的にはどちらでも構いませんが、より効果的なのは、雇用契約書の作成です。労使双方で記名捺印し1部ずつ所持するため、労働条件の透明性が高まり、誤解や不信感が生じにくくなります。
(注)労働基準法施行規則の改正により、2019年4月1日から、労働者が希望した場合は、
①FAX、②電子メール、③SNSメッセージ機能等で明示することができるようになりました。ただし、出力して書面を作成できるものに限られます。
(3)労働契約の期間と雇用形態の関係
一般的に、正社員は「期間の定めのない労働契約を締結している労働者」をいい、フルタイム勤務で長期雇用を前提にした労働者です。たとえば、定年制がある事業所であれば定年まで雇用することを前提として雇用される労働者であり、従業員教育と人事異動を通して職業能力を身につけ(キャリア形成)させていく労働者です。
非正社員は、派遣労働者、パートタイム労働者、アルバイト等の正社員以外の労働者の雇用形態を総称する用語ですが、一般的に期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を締結している労働者です。
社会構造の変化に伴い、雇用形態の多様化が進展し、現在、3人に1人が非正社員といわれています。非正社員の法的な定義はありませんが、トラブルを防止するためにも自社内の雇用形態の区分として、その地位・定義・処遇等を明確化しておくことが重要です。
イ 有期労働契約の上限は原則3年
有期労働契約の契約期間の上限は、原則3年です(労働基準法14条)。これは1回の契約についての上限ですので、たとえば、契約期間1年の労働契約の更新を複数回繰り返し3年以上雇用することは可能です。
例外として、①高度な専門的知識等を必要とする業務に就く者、②満60歳以上の労働者、との間での労働契約の上限は5年です。
ロ 無期労働契約への転換(労働契約法第18条)
同一の使用者との間で、有期労働契約が繰り返し更新され通算で5年を超えた場合は、労働者の申込みにより、無期労働契約(別段の定めがない限り、従前と同一の労働条件)に転換します(労働契約法18条)。通算契約期間のカウントは、平成25年4月1日以後に開始する有期労働契約が対象です。平成25年3月31日以前に開始した有期労働契約は、通算契約期間に含めません。
なお、有期労働契約と有期労働契約の間に、空白期間(同一使用者の下で働いていない期間)が6か月以上あるときは、その空白期間より前の有期労働契約は5年のカウントに含めません。また、通算対象の契約期間が1年未満の場合は、その2分の1以上の空白期間があれば、それ以前の有期労働契約は5年のカウントに含めません。
第4章就業規則
就業規則
(1)就業規則とは
就業規則は、事業場で働く労働者の具体的な労働条件や守らなければならない規則のことをいい、労働者が常時10人以上いる事業場が作成を義務づけられています(労働基準法89条)。繁忙期のみ10人以上になる場合は該当しませんが、反対に一時的に9人以下になっても、パートタイム労働者やアルバイトも含めて大体労働者が10人以上いる事業場であれば、作成と労働者の意見聴取及び所轄労働基準監督署長への届出が義務づけられています。
なお、就業規則の作成・届出義務は、独立した「事業場」単位です。複数の独立した事業場をもち、会社全体では10人以上の従業員がいるものの、事業場単体では10人に満たない場合、各々の事業場では就業規則の作成・届出の義務はありません。しかし、法令上の義務がなくとも働く上でのルールである就業規則を作成することが望ましいことは言うまでもありません。
また、就業規則は、それを作成した場合、労働者がいつでも自由に閲覧できるようにしておかなければなりません。事業場で働く者みんなに守ってもらうために作成するわけですから当然のことです。
(2)労働契約と就業規則
「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」とされており(労働基準法2条1項)、また、「労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない」(労働基準法2条2項)とされています。労働者と使用者が、就業規則とは違う内容の労働条件を個別に合意していた場合には、その合意していた内容が労働者の労働条件になりますが、個別に合意していた労働条件が就業規則を下回っている場合には、労働者の労働条件は、就業規則の
内容まで引き上がります。また、いずれの労働条件も労働基準法に反することはできないので、労働基準法を下回る労働条件については、その部分は無効となり、労働基準法の定める条件まで引き上げられることになります。
(3)記載事項
就業規則には、必ず記載しなければならない事項と定めがある場合には記載義務のある事項があります(労働基準法89条)。就業規則には、どんなことを記載してもよいというわけではありません。就業規則に記載できることは、内容によって3種類に分けられます。
イ 必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)
① 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替就業の場合の就業時転換に関する事項
② 賃金の決定、計算、支払の方法、賃金の締切、支払の時期、昇給等賃金に関する事項
③ 退職(解雇の事由、定年制等)に関する事項
ロ 定める場合には、記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)
① 退職手当について、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算、支払方法、支払時期に関する事項
② 臨時の賃金等(退職手当を除く)及び最低賃金額に関する事項
③ 労働者に負担させる食費、作業用品等に関する事項
④ 安全及び衛生に関する事項
⑤ 職業訓練に関する事項
⑥ 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
⑦ 表彰及び制裁に関する事項
⑧ その他、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めについての事項
ハ 記載するかどうか自由な事項(任意的記載事項)
① 服務規律・指揮命令・誠実勤務・守秘義務等に関する事項
② 人事異動(配転・転勤・出向・転籍・業務派遣等)に関する事項
③ 社員体系、職務区分、職制に関する事項
④ 施設管理、企業秩序維持・信用保持等に関する事項
⑤ 競業禁止・退職後の競業制限等に関する事項
⑥ 能率の維持向上、その他の協力関係に関する事項
⑦ 職務発明の取扱いと相当な対価に関する事項
(4)作成・届出
就業規則の作成から届出の手順は次のように定められています(労働基準法90条)。
イ 使用者が就業規則を作成する。就業規則は使用者が一方的に作成することができるが、労働基準法を下回る労働条件で定めることができない。
ロ 労働者の過半数代表者(当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合。当該労働組合がない場合は労働者の過半数代表者)に内容を確認してもらい、意見書を作成してもらう。労働者の意見を聴いたことが客観的に証明されればよく、就業規則の内容について反対する意見書でも構わない。
ハ 正式に就業規則を決定する。
ニ 労働者の過半数代表者の署名、または記名押印のある意見者を添付のうえ、所轄労働基準監督署長に提出する。
(5)就業規則の周知
就業規則を作成した場合、労働者に周知させなければなりません。労働者と使用者が労働契約を結ぶ場合に、使用者が合理的な内容の就業規則を労働者に周知させていた場合には、就業規則で定める労働条件が労働者の労働条件になります。労働者に周知されていない場合、その就業規則は労働者の労働条件になりません。たとえば、服務規律違反で制裁処分をするという場合、「服務規律」も「制裁処分」も就業規則に基づいて行うことになります。
なお、「周知されている」という状態は、従業員が就業規則を見たいときに見ることができる状態にあることをいいます。労働者への周知には次の方法があります。
イ 常時各作業場の見やすい場所に提示し、または備え付ける方法ロ 労働者に書面を交付する方法
ハ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者がその内容を常時確認できる機器を設置する方法