Contract
2 事務所管理
13. 契約書を作っていますか
14. 依頼者の本人確認を確実に実施しよう
15. 事務所の報酬規定はありますか
16. 使用人等の業務記録を残していますか
17. ICT 技術の進展における文書管理
18. パソコン及び USB メモリー等周辺機材の管理は大丈夫ですか
19. 職員の監督や情報の管理は大丈夫ですか
20. 社会保障・税番号制度(番号制度)への留意点
21. 研修受講は会員の義務
22. 職員の研修はしてますか
23. 事務所が災害にあったら
24. 業務広告の注意点
25. 電子申告
26. 電子申告における利用者識別番号等の管理は厳重に
27. 電子申告の記録を残そう
【ポイント】
契約書の作成は事業者に対してトラブル防止のためのルール作りや、不公正な取引を防止するための責務等「法律関係を明確化」する要素を包含している。
契約書は、契約内容(業務範囲)を明確にするだけでなく、依頼者に説明責任を果たすために重要である。
税理士業務は、法律の解釈如何によって依頼者の納税額を大きく増減させる複雑で繊細な業務であるにもかかわらず、未だ書面を取り交わすことなく業務の受任が行われているケースが散見され、業務の受任範囲の不明瞭さは依頼者との紛争の原因ともなり得る。
契約書を作成して業務内容の明確化を図ることは、依頼者の精神的・経済的負担を軽減し、依頼者の保護に資することになるので、契約内容については、依頼者が十分に理解できるよう説明をする必要がある。
【注意点】
① 口頭での契約は極力避けて、書面を依頼者との間で取り交わすことが望ましい。その書式もひな型による画一的なものは避け、出来る限り依頼者ごとの事情に即した個別契約書を作成すべきである。
② 業務の範囲については、法2条(税理士の業務)により明確に表示し、一項目ごとに説明して依頼者の理解を得るようにしなければならない。報酬については、業務ごとに明確に表示し、支払時期及び支払方法も表示する。また、改定時期についても合意を得るようにすべきである。
③ 業務内容に専門外の要素がある場合は、他の専門家と連携する旨を表示し、かつ、その費用負担者を明示することが不可欠である。
④ 契約書に係る印紙税の取扱いについては、印紙税法基本通達別表第1(2号文書関係)
17 がある。
⑤ 契約書を手交するだけではなく、契約内容を口頭で依頼者に十分に説明する必要がある。
⑥ 税理士は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」において「個人番号関係事務実施者」に該当するため、特定個人情報等の条項を設け、依頼者に十分に説明する必要がある。
⑦ 反社会的勢力排除の条項を表示することが望ましい。
⑧ 電子契約書及び契約関係書類の電磁的方法による保存を行うこと等、業務のスマート化をガバナンスの強化も図りながら実施することが望ましい。
⑨ 適格請求書発行事業者登録番号も明示することが望ましい。
【詳細はこちら】 業務契約書(モデル)
【ポイント】
税理士業務(税務代理、税務書類の作成、税務相談)を依頼された場合には、契約時にその依頼者が本人であるかの確認を確実に実施しなければならない。
本人確認は、写真付きの証明書(マイナンバーカード、運転免許証やパスポート等)又は2種類以上の本人を確認できる書類(健康保険証等又は官公庁等から発行された物)等により行うようにする。
なお、「3.税理士法における遵守事項・留意点」にあるように法 32 条「税理士証票の提示」すなわち税理士自身の本人確認を明示する事も重要である。
【注意点】
① 税理士は他人の求めに応じ税理士業務を行う。納税義務者(本人)が税理士に対して税理士業務を依頼し(求め)、税理士が業として行う契約を承諾することにより、契約が成立し、業務を行い得ると解される。したがって、納税義務者本人と直接委嘱契約を交わすことが必要であり、この直接委嘱契約を交わさずに行った場合には、例えば、税理士の信用を害するような行為を行ったとして税理士法違反となり得る。また、本人以外の者らに悪用された場合は、税理士が損害賠償請求を受ける虞がある。
② 税務申告等に関して、納税者の代理を行う税理士は,なりすましに利用されるリスクを負う虞があることに注意しなければならない。税務の専門家として、虚偽の申告等がなされることを未然に防ぐ社会的使命を負っていることを自覚すべきである。
③ 本人確認は、依頼者又はその代理人等と面談のうえ、写真付きの証明書(マイナンバーカード、運転免許証やパスポート等)又は2種類以上の本人を確認できる書類(健康保険証等又は官公庁から発行された物)等により行うなど、税理士の職責に照らし適切と認められる方法によって行う。また、本人確認書類のコピーの保存又は本人確認書類の種類の記録の保存を行う。
④ 「犯罪による収益の移転防止に関する法律」で特定取引を行う際に求められる本人確認については、「税理士及び税理士法人におけるマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(国税庁)に沿って、より厳格に行うことが求められる。
【詳細はこちら】 「税理士のためのマネー・ローンダリング等対策」(日税連)
【関連項目】 No.100「犯罪収益移転防止法(マネー・ローンダリング等)」
【ポイント】
税理士会に報酬規定は存在しないが、報酬規定そのものが不要となったわけではない。むしろ、規制緩和により事務所独自の報酬規定を作成し、積算根拠の説明も含め、依頼者に提示できるようにしておくことが求められるようになったと考えるべきであり、事務所独自の報酬規定の作成が望まれる。
【注意点】
① 税理士業務の対価の額は、税理士としての自己の専門的能力、経験実績などを勘案し、税理士が各自算定すべきものである。基本的な対価の額は、一人ひとり異なるであろうが、同時に対象業務によって異なる対価とすることも不合理ではない。
② 税理士の業務には、継続的なもの、臨時的なもの等様々な形態が考えられるので、以下のような報酬形態が考えられる。
イ 基本的報酬形態
ⅰ)固定額方式………包括的固定報酬・業務別固定報酬
ⅱ)従量額方式………業務時間基準・業務件数基準・外形指標基準
ⅲ)ⅰ)、ⅱ)の併用方式ロ 付加的報酬形態
ⅰ)難易度加算
ⅱ)出張報酬・旅費
ⅲ)外注費用・実費
③ 報酬基準は、依頼者に提示しなくては意味がない。業務を受任する際に必ず提示し、説明して、依頼者が安心して業務を任せられるよう心掛けることが必要である
【詳細はこちら】「税理士業務報酬算定に関するガイドライン(指針)」(日税連)確定申告等報酬請求書(サンプル)
【ポイント】
税理士が行った税理士業務のてん末を明らかにしておくことはもちろんのこと、税理士の使用人等が行った顧客に対する補助業務も業務記録を記載し保存しておく必要がある。業務記録には業務日報、顧客台帳、問い合わせ回答書、電話・来訪記録などがある。
また、税理士の賠償責任が問われている昨今、税理士及び使用人等の自己防衛として業務の過程等の内容を記録しておく必要があり、職員(所属税理士を含む)の業務日報等もリスク回避につながる。
そして、その内容を整理することが、業務水準の向上や、書面添付の記載内容の充実につながる。
【注意点】
① 業務日報
使用人等がいつ・どの依頼者を訪問し、何の業務を行い、どのような指導を行ったのかを把握する必要がある。また、依頼者からの相談案件や業務に関する報告・連絡・相談を定期的に行わせ、必要に応じ指示を行い、適切に監督する必要がある。
② 顧客台帳
依頼者の担当変更等の際のトラブル防止や、問い合わせの際のトラブル防止のために、事務所の誰でも、最低限の依頼者の情報を把握できるようにする必要がある。
③ 問い合わせ回答書
依頼者からどのような問い合わせがあり、誰がどのような回答をし、どのような処理をしたのかを把握し、蓄積することによって、使用人等の依頼者への指導の参考資料とすることができる。
④ 書面添付
業務処理簿・業務日報・問い合わせ回答書等は、法 33 条の2の書面を作成する際の参考資料になる。
⑤ 電話・来訪記録
電話や来訪者の記録を残すことは、依頼者に対して、いつ・誰と・何を連絡したかといった資料となり、自己防衛やリスク回避に有効である。
⑥ 郵送物発送記録
郵送物の発送記録は、依頼者に何の資料等をいつ郵送したのかを把握でき、後日問題が起きた時のトラブル防止になる。
⑦ 内部管理体制、使用人等のテレワーク体制及び使用人監督責任を補完するためにも、上記の書類は特に大切である。
⑧ なお、税理士の業務の ICT 化推進という観点からの書類の管理や後日の確認の際に検索・表示が速やかに可能となるようなファイル等の整理が必要である。
【詳細はこちら】 「税理士事務所等の内部規律及び内部管理体制に関する指針」(日税連)
└業務日報モデル
【関連項目】 No.5「業務処理簿は必ず作成しよう」
【ポイント】
ICT の進歩に伴い、ペーパーレス化、リモート業務化の進展が見込まれる中、文書等の管理はこれまで以上に重要になっている。また、事務所内で管理責任者を決めて一律に管理することも有用である。決算資料等依頼者から預かった資料の管理は特に重要である。
書類預かり一覧表を交付し、返却時には双方で資料の確認をした後、サインをもらい回収するなど、資料の保管には十分に留意することが必要である。
スキャナーによる資料収集についても検討し、改善を図ることも重要になってくる。今後は、在宅勤務等の新しい働き方が増加してくる傾向があり、文書管理の一元化な
どを事務所内で検討することも重要になってくる。
【注意点】
① 事務所内文書は、「規則」、「手順書」、「様式」に分類し、それぞれの種類ごとに作成者、改定者、承認者、原本管理者を定め、所定のファイリング方法によるなど内部文書の作成・承認・保存のルール化をし、規則どおりに管理することが重要である。
② 顧客等のマイナンバーに関する資料等の保管を含め、事務所内に文書管理の責任者を設け、保管庫の施錠など統一的・効率的な管理体制を整備することが重要である。
③ 電子申告を開始したときや電子ファイルの採用等、業務に変更があった都度、既存の文書の改廃を行い、無駄な文書の整理を行うことが重要である。
④ 「返した・返して貰っていない」などのクレームが発生しないよう、このようなトラブルを防止するために、書類預かり一覧表の作成・交付・回収を確実に実行することが重要である。
⑤ 事務所内文書は、オリジナルを保存しなければならないものを除き紙媒体に限定せず、電子媒体を用いて文書管理ソフト等を活用するなどして、依頼者の問い合わせや事務所内での使用に迅速に対応することは省エネルギー・省スペースにも役立つこととなる。
⑥ 保存期間を経過した文書は、情報漏洩等に配慮し溶解し廃棄するなど適切に処分し、依頼者から預かった文書等については、保存の必要がなくなった場合は速やかに返還しなければならない。
⑦ 在宅勤務等を採用する場合には、データ管理や文書管理の重要性を認識し、規律ある内部管理がなされなければならない
⑧ 事務所内の文書管理を徹底するために、「保存・廃棄文書一覧」を作成し、随時、検索抽出・出力が可能な体制の整備を図ることが重要である。
⑨ 外部ストレージサービス(サーバ等)を利用する場合も含め、不正アクセス等に対するセキュリティ対策にも十分留意する必要がある。
【詳細はこちら】 「税理士事務所等の内部規律及び内部管理体制に関する指針」(日税連)
└書類預かり一覧表モデル(関与先交付用)
└書類預かり一覧表モデル(事務所管理用)
【関連項目】 No.20「社会保障・税番号制度(番号制度)への留意点」
18.パソコン及び USB メモリー等周辺機材の管理は大丈夫ですか
【ポイント】
パソコン及び USB メモリー等周辺機材には、依頼者の機密情報が記録されている。これらの紛失・盗難は情報の紛失・盗難につながり、加えて不正アクセスによる情報漏洩もあり得るので、十分なセキュリティ対策を講じて情報等の流出を防ぐとともに、外部サーバを活用することで災害等による情報消失対策にも万全の体制を整える必要がある。また、事務所外にパソコンを持ち出す場合は特に、データ・情報の安全管理に留意する必要がある。
データ管理の責任者を設け、事務所内外のパソコンの統一的・効率的な情報管理体制を整備することが有用である。
【注意点】
① 税理士及び使用人等には守秘義務(法 38 条・法 54 条)があり、違反した場合には損害賠償請求も発生する。万一のトラブルに備え、税理士職業賠償責任保険の特約(情報漏えい・サイバーリスク担保特約)付きに加入することは税理士としての責任でもある。
② パソコン及び USB メモリー等周辺機材は、パスワードなどでアクセス管理を徹底し、他人が勝手にデータにアクセスできないようにする必要がある。また、アクセスログ等を記録することにより、データにアクセスした者を把握、確認できる体制をとることも有用である。
③ 事務所のデータの記録はメインサーバだけとし、各自のパソコンにはデータを残さない管理が必要である。
④ データを外部に持ち出すことは原則として禁止する。必要な場合は、管理責任者を通して、必要なデータだけを USB メモリー等の記憶媒体に記録し、持ち出すよう情報管理を徹底すべきであるが、紛失の無いよう十分な注意が必要である。
⑤ テレワークなどの新しい働き方を推進するに当たっては、在宅勤務時の文書管理・PCの持ち出し等に際しての、ハード及び情報等ソフトに係る厳格な管理を行う必要がある。
⑥ コンピュータウィルスによるデータ流出や不正アクセスを防止するため、インターネット等を利用する場合は、ウィルス対策ソフトをインストールする。
⑦ 利用するデバイスがウィルスやランサムウェア等の悪意あるソフトウェアに感染することのないよう、ウェブサイト(特に広告サイト)にアクセスする際の注意を徹底するとともに、できればメールでのデータのやりとりも避け、セキュリティ体制の確保された外部ストレージサービスを利用することが望ましい。
⑧ 災害やパソコンのトラブルに備え、データの退避は必ず毎日行うことがポイントである。データの退避は、外部記憶媒体に行うことで危険を回避することができる。また、この外部記憶媒体は、火災等の災害に備え別の場所で保管することが重要である。
⑨ サーバなどの買換え・廃棄に際しては、ハードディスクのデータを完全に消去し、情報の漏洩防止を行う必要がある。
【詳細はこちら】 「税理士事務所等の内部規律及び内部管理体制に関する指針」(日税連)
└税理士事務所における情報管理チェックリストモデル
【関連項目】 No.20「社会保障・税番号制度(番号制度)への留意点」
【ポイント】
税理士は、税理士の業務を行うに当たって、依頼者の所得、財産、負債等、経営の内容の他、これらのプライバシーに関する情報を知る機会が多く、また依頼者は個人情報も含め、これらの情報を税理士に提供することによって適正妥当な納税義務の実現が可能となることから、依頼者と税理士との関係は相互の信頼によって維持・継続されていると言える。
このような環境の中、使用人等も当然その情報を知り得る状況にあり、使用人等による情報の漏洩は、たとえ税理士等がその不正行為等を認識していなかったとしても、税理士事務所等の内部規律、内部管理体制に不備があった場合にはその責任を免れ得ない。また、令和5年4月1日に施行された新しい税理士法基本通達 40-1 により、本拠以外の場所において使用人等に業務を行わせることが可能となったこともあり、使用人等の監督についての意識を向上させる必要がある。
このほか、社会保障・税番号制度の導入により、税理士事務所も納税に係る税務書類等の作成の手続の中で、委嘱者の個人番号が記載された文書等を取扱う「個人番号関係事務実施者」となり、特定個人情報の保護措置が義務付けられている。
【注意点】
① 税理士の使用人等の秘密を守る義務
② 税理士は、税理士業務を行うため使用人その他の従業者を使用するときは、税理士業務の適正な遂行に欠けることのないよう当該使用人その他の従業者を監督しなければならない(法 41 条の2)。
ここでいう使用人その他の従業者とは、税理士と雇用関係にある使用人のほか、雇用関係に基づかないものであっても税理士業務に関して税理士の支配、監督権の及ぶすべての者を含むものであり、税理士業務に従事する家族従業者も含まれる。
③ 事務所としての守秘義務に係る使用人等の監督に有用な施策イ 採用時の書面締結
使用人等の採用時に、身元保証書や個人情報及び機密情報保持合意書を締結する。ロ 規定の作成
個人情報及び機密情報の取扱いに係る内部規定を作成し、あるいは服務規則又は就業規則の中に個人情報及び機密情報取扱項目を設ける。
ハ 研修の実施
定期的に個人情報を科目に含めた教育研修を実施する。ニ 定期チェック
個人情報及び機密情報が適切に取扱われているか、チェックリスト等を設け定期的に監査を行う。
【詳細はこちら】 「税理士事務所等の内部規律及び内部管理体制に関する指針」(日税連)
└使用人等雇用時の誓約書モデル
└税理士事務所における情報管理チェックリストモデル
【関連項目】 No.8「使用人の守秘義務違反やニセ税理士行為に要注意!」 No.20「社会保障・税番号制度(番号制度)への留意点」
No.51「判例・事故例に学ぶ(業務補助者に対する指導・監督義務)」
【ポイント】
社会保障・税番号制度は、社会保障・税及び災害対策の分野における行政運営の効率化を図り、国民にとって利便性の高い、公平・公正な社会を実現するための社会基盤の整備を図ること等を目的として導入され、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下「番号法」という。)に基づき、住民票を有する一人ひとりに、個人番号が付番されている。
税理士は、業務の中で委嘱者の個人番号を取扱うこととなり、厳重な保護・管理が必要となる。
【注意点】
① 番号法では、個人情報保護法のように、法の対象となる取扱事業者を限定する規定がなく、すべての事業者が適用対象となり、特定個人情報について番号法が規定している部分の適用を受ける。また、個人情報取扱事業者は、番号法により適用除外となる部分を除き、特定個人情報について、一般法である個人情報保護法の規定の適用も受ける。
② 税理士事務所等は、使用人等に係る源泉徴収事務及び社会保険関係事務において、使用人等の個人番号(※1)が記載された文書及びデータを取扱う「個人番号関係事務実施者」(※2)となるほか、委嘱契約等に基づき、依頼者個人や依頼者法人の役員、従業員等の個人番号を取扱うこととなり、法令による特定個人情報(※3)の保護措置が義務付けられることとなる。
③ 税理士法においても法 38 条による守秘義務のある機密事項等として、厳重な取扱いが必要である。
※1 個人番号
住民票を有する全ての者に一人一番号で重複のないように、住民票コードを変換して得られる番号(12 桁)
※2 個人番号関係事務実施者
税理士事務所等を含む事業者は、法令や条例に基づき、個人番号利用事務実施者
(行政事務を処理する国の行政機関、地方公共団体、独立行政法人等)に他人の個人番号を記載した書面(例:支払調書、源泉徴収票、確定申告書等)の提出などを行う「個人番号関係事務実施者」となる。
※3 特定個人情報
個人番号をその内容に含む個人情報(個人番号単体も含む)
【詳細はこちら】 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する 法律
「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」(個人情報保護委員会)
「マイナンバー制度の概要/税理士のためのマイナンバー対応ガイド
【関連項目】 No.36「お客様の秘密を守る(守秘義務)」
No.44「税理士事務所の個人情報保護」 No.102「個人情報保護法等」
【ポイント】
今日、税理士に対する納税者の要請は、ますます多様化している。また、毎年改正される税法の内容にも精通していることが求められる。
「1.税理士の使命」にも述べられているとおり、税理士業務はその社会公共的性格ゆえ、法1条に使命規定が設けられ、「独立した公正な立場」であることが求められる。研修等の受講を通じて自己の知見や見識を維持・向上させることは、職業専門家としての公正性を維持するために必要であり、無償独占の業務制限規定(法 52 条)の前提となっていることを意識されたい。
業務上生じる問題点の自己解決を図る上でも、絶えず研鑽を積み重ねることが重要である。
【注意点】
① 税理士会の会則及び研修規則では、会員に対し一事業年度に 36 時間以上の研修受講の義務を定めているが、単に会則等にあるからということだけではなく、研修受講を自分自身の専門家としての品質の維持・向上のためのものと意識して積極的に受講しなければならない。
② なお、税理士会及び日本税理士会連合会が行う研修のほか、認定された団体の行う研修等も受講時間に含めることができる。
③ 集合型の研修のほか、DVD、インターネット等によるマルチメディア研修もあり、自身の知見、見識を維持・向上させるために必要なものを選択して、受講することが重要である。
④ 業務上生じる問題点については、自ら解決する姿勢が求められるが、自己解決が難しい場合には、TAINS(日税連税法データベース)や国税庁ホームページ(法令解釈通達、質疑応答事例等の掲載)の利用、各税理士会が設けている相談室、公益財団法人日本税務研究センターの税務相談室なども利用しながら、解決することに努められたい。
【ポイント】
規制緩和がますます進み、インターネット等を通じた業務及び情報のオープン化が進むとともに、テレワークの導入やさらなる業務の ICT 化など、新しい時代に対応した事務所運営が求められるようになっている。このような環境の中、常に経営者と接触する税理士事務所の職員には、単なる税法や会計といった専門的な知識にとどまらずに、経営全般に関わる幅広い知識が求められている。また、働き方の多様化、恒常的な人材不足も懸念されており、税理士事務所の人材を育成できるよう研修環境を整えることが重要である。
【注意点】
① 職員研修
職員の業務水準の向上は、税理士事務所の運営の根幹をなし、税理士事務所の発展の源となっている。したがって税理士事務所が健全な発展をするためには、常に幹である所長が最新の情報等を吸収し職員に伝える必要がある。
イ 研修環境
研修担当者を決めて、研修内容、日程、講師等について年間計画を立てることが必要である。特に研修日、研修時間を年初に確定しておき、確実に消化していくことである。この日程は、年間スケジュールを決定し、テーマ及びテキストを決め、長期間にわたり行う研修とスポットのテーマ(税法改正等)も行えるように計画しておかなければならない。
講師については、所長が最適ではあるが、職員の資質向上のために職員にさせることも必要である。特に外部において研修を受けた職員に対しては、復習も兼ねて必ず講師をさせるべきである。また、テーマによっては、外部の講師に依頼する必要も出てくるので、事務所業務の付加価値の向上も兼ねて、常にネットワークを広げておく必要がある。また、依頼先経営者の話を聞くことも、経営者の視点等を理解するうえで必要である。
ロ 研修ツール
所長及び研修担当者は、常に研修に必要な書籍、外部研修、講師等についてチェックしてリストを作成しておく。
ハ 研修内容
税法等の研修は当然であるが、定期的に個人情報保護等を科目に含めた研修を実施する。
② 研修報告書
社内・社外の研修の受講報告を提出させることによって、職員がどの程度理解したのか等を所長自身が把握し、次のステップのために活用する。
【詳細はこちら】 「税理士事務所等の内部規律及び内部管理体制に関する指針」(日税連)
【ポイント】
突然の災害等、不測の事態に対する事務所の備えは万全だろうか。
納税者保護、守秘義務の遵守の観点からも、資料の保全、業務の早期回復に努め依頼者への職責を果たすことを念頭におかなければならない。こうした状況ではテレワークが主体となる事態も想定されることから、紙主体の情報等の保管からクラウドを含めたデジタル化した情報等の保全を考えなければならない。また、令和5年4月1日に施行された新しい税理士法基本通達 40-1 により、本拠以外の場所において使用人等に業務を行わせることが可能となったこともあり、災害時における従業員の安全確保や連絡網の整備、依頼者の被害状況の把握にも注意を払わなければならない。
【注意点】
① 事務所で保有するデータ等については、不測の事態に備え毎日記憶媒体にバックアップして、安全な場所に保管する方法や、クラウドに保管する方法を検討すべきである。
② 入力中の停電などを考えれば、無停電電源設備を設置することも必要である。
③ 依頼者から預かった重要書類は耐火金庫などに保管する。
④ 非常持出し用の文書などの整理保管を実行する。
⑤ 備品などの設置状況(倒壊の危険性、浸水の危険性からの回避)、保安装置(消火設備など)を点検する。
⑥ 事務所の立地環境及び建物の現状把握と可能な補強をし、必要に応じ土嚢などを整備する。また、ビル内事務所の場合には、非常階段の設置場所を確認しておく。
⑦ 損害保険の加入に際し、総合保険としたり、地震保険に加入するなどし、事後的対策を考える必要がある。
⑧ 事務所から一時的に持ち出した書類やデータに関しても、災害時等の散逸を防止する措置を講じなければならない。
⑨ 使用人等との緊急連絡網を整備する。
【ポイント】
規制緩和等により税理士の広告は原則自由となった。しかし、事実に基づかない広告はもちろんのこと、品位や信用を損なう虞のある広告は行ってはならない
また、令和5年4月1日に施行された新しい税理士法基本通達 40-1 により、本拠以外の場所において使用人等に業務を行わせることが可能となったが、そこでの広告が「外部に対する表示」に該当することになれば、二ヶ所事務所禁止規定に抵触することとなり、広告を行う際には注意が必要な場合もある。
広告することが適当でないいくつかの項目について、日本税理士会連合会では、業務広告に関する細則(準則)で、「禁止される広告」、「表示できない広告事項」など多岐にわたって定めているので、その内容を十分理解する必要がある。
【注意点】
① 規制改革推進政策における業務独占資格の見直しの基準には、一貫して、「公正有効な競争の確保や合理性の観点から、広告規制の在り方を見直す」ことが掲げられてきた。これは、公正有効な競争の促進を通じて、資格者の提供するサービスの質と適正な報酬水準が保たれることを期待するという観点から、広告は原則自由にすべきであるという考え方であり、綱紀規則等はこれに基づいている。
② 綱紀規則(準則)では、「会員は、自己の業務について、本会の定めに反する場合を除き、広告することができる。」と規定し、会員は、自己の業務について、原則として自由に広告することができることを明らかにしている。
③ しかし、虚偽・誇大広告など、利用者の判断を誤らせるような広告が許されないことは当然である。また、「税理士の業務」(法2条、法2条の2)において特有な社会的規制は必要であると考え、細則(準則)において、「禁止される広告」、「表示できない広告事項」、「有価物等の供与の禁止」等について規定している。
④ 税理士事務所の判断基準となる「外部に対する表示」には、看板等物理的な表示、HP や SNS などのウェブサイトへの連絡先の掲載の他、契約書等への連絡先の記載などがある。尚、ここにいう「外部」とは税理士業務の委託者、税理士会や行政官庁などに限定され ない、広く一般の者を含む概念となっている。
【詳細はこちら】 税理士法第 37 条、40 条第3項、基通 40-1、40-2
【ポイント】
国税庁は、平成 29 年に「税務行政の将来像」、令和3年6月には「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像 2.0-」を公表し、行政手続のデジタル化を通じて業務の効率化、納税者の利便性向上という方針を打ち出している。
令和4年の税理士法改正で法2条の3が新設され、税理士の業務を行うにあたっては電磁的方法を積極的に利用し、納税義務者の利便の向上等にも努めることとされた。
コロナ禍の数年間で ICT の利用は飛躍的に進み、業務の効率化、また柔軟な働き方に有用であることが認識されるようになった。
e-Tax システムを利用する電子申告もこうしたデジタル化の一端を担っており、納税義務者の信頼に応え、納税義務の適正な実現を図ることを使命とする税理士は、デジタル化に対応し電子申告にも積極的に取り組むことが求められる。
【注意点】
① イメージデータで提出可能な添付書類が大幅に増え、併せて1回あたりの送信容量も拡大されているので、法人税や所得税だけでなく、相続税の申告や各種の届出・申請においても、e-Tax による申告に取り組みやすくなっている。
② 電子申告での申告・申請を進めるに際しては、セキュリティや検索の容易性等に留意したデータの管理が重要である。
③ 電子申告で申告・申請を行いデータ(電磁的記録)で管理する場合は、後でトラブルとならないよう、納税者に確認した意思を記録として確実に残すことが重要である(「27.電子申告の記録を残そう」参照)。
④ 国税当局は内部事務のセンター化を進めており、書面により提出する場合は提出先税務署の内部事務を所管する業務センターを確認し、郵送することが求められている。
⑤ e-Tax システムに不具合が生じる可能性も意識し、申告期限に余裕を持って送信することが望ましい。
【ポイント】
税務書類の提出は、依頼者の確認を受けることが前提であり、電子申告の開始届は、電子申告同意書等により依頼者の同意の確認後に行わなければならない。
利用者識別番号等は、入手後直ちに「電子申告・納税等に係る利用者識別番号等の通知」を印刷し、開始届の控えとともに専用ファイルにて厳重に保管する必要がある。
個人情報が漏洩すると、重大な事態を招くことになるので、事務所内で管理方法を取り決め、守秘義務遵守の徹底を図る。
【注意点】
① 電子申告同意書は、依頼者の了解を得た証拠として重要な書類となる。したがって、代表者のサイン等の確認を得て受領しておくことが望ましい。
② 利用者識別番号等を入手したら、「電子申告・納税等に係る利用者識別番号等の通知」を印刷し、電子申告同意書とともに専用ファイルにて保管する。
③ 専用ファイルは、特定の職員以外は取扱わせないようにするなど、守秘義務遵守のため特に慎重な管理を心掛けなければならない。
④ 利用者識別番号の誤用(例:A納税者の電子申告をB納税者の利用者識別番号で行ってしまう等)は、ケースによっては税賠問題等にも発展する虞があり、厳格な番号管理が必要である。
└「税理士のための電子申告に関する Q&A」 国税庁ホームページ(e-Tax)
【ポイント】
依頼者の利用者識別番号等を受け取るときや保管するときは、統一した方法により処理を行うことが、個人情報の漏洩を防ぐために最も確実な方法である。
電子申告後は、必ず受付メールと送信内容をチェックして、正しいデータが送信されたかどうか、確認しておくことが重要である。また、データボックスでの確認も必要である。
なお、法 41 条及び法 48 条の 16 において税理士業務処理簿を作成することが義務化されているので、同時記録作成されるソフトを使うと省力化できる。
【注意点】
① 個人情報の漏洩を防ぐために、電子申告同意書や利用者識別番号等は、事務所内で統一した管理方法に従って管理する必要がある。
② 委嘱者との申告内容の確認の際に、口頭やパソコンの画面などで確認等を済ませていた場合、電子申告の内容が同意したものと異なっていると指摘されたときは、トラブルにつながる。従って、依頼者からの電子認証の後、あるいは印刷文書に押印又はサイン後に送信するなど、事務所内で統一したルール作りをしておくことが不可欠である。
③ 電子申告後は、必ず受付メールと送信内容を印刷してチェックするなど、正しいデータが送信されたかどうか、統一した確認作業をすべきである。
④ 別送する書類がある場合は、リスト化したり、添付省略した書類の保管についても統一したルールを構築して整備しておくことを忘れてはならない。