Contract
開発輸入契約について
x x x xxxx・狛法律事務所上海事務所弁護士
1. はじめに
(1) 課題
日本市場向けの商品を中国で生産させて輸入する、開発輸入契約など、民間の企業や団体が、東アジア諸国の間で、契約ベースでどんなやりかたをしているか、そこに生じる法的な問題点、紛争とその解決の事例など
(2) 具体的な検討項目
工業製品(完成品、部品、半加工品)、食品(生の農水産物、加工品)などの開発輸入契約について
(i) そのような契約はいつごろから増えた、といった時期的なトレンドはあるのかどうか。
(ii) 契約書の内容
(iii) 契約の期間(定期的な更改の場合は、ユニットとなる期間) - 短期契約か長期継続的契約か。
(iv) 事業協力の形態((A)原料生産、加工、販売と役割分担がある異なる当事者間の一種の生産流通契約の形式、(B)同業者間の事業協力契約、(C)合弁設立による事業契約、などなど、いろいろな形式がありうると思うが、どれを選ぶか。なぜそれを選ぶか。)
(v) 協力内容の履行確保のための法技術として留意する点はあるか。通常の契約上の権利義務関係に加えて、知財権を重ねるなど。損害賠償などの通常の制裁のほかに、契約内容を遵守するインセンティブを与えるような法的工夫はなにかあるか。
(vi) 各国の競争法規制に留意するか。
(vii) FTA その他の国際法を利用、留意するか。とくに、二国間 FTA が近xxアジア諸国間で増えているが、これは契約作成において何らかの影響を及ぼしているか。 FTA が増えることでかえってやっかいになる法的問題は契約作成においてあるか。
(viii) 紛争解決方法をどう指定しているか。また、実際の紛争解決は契約書どおりにおこなうのか。紛争解決に、東アジアならではと思われるパターンや事例はあるか?
(ix) 交渉の立場の上下、対等の関係(契約において、交渉は日本企業が内容や範囲などの設定において指定する地位にあることが多いのか。それとも先方との対等の立場の契約で、完全に対等の合意づくで行われるのか。)
(x) 東アジア諸国も国別で発生する法的問題点が異なるのか。
(3) 検討範囲の限定
(i) 中国
2. 事例①「業務委託契約書」
(1) 背景事情
(i) 日本の会社がソフトウェアの開発業務を中国の会社に委託する契約書である。
(ii) 依頼者は、当初、独資企業による進出を企画していたが、投資リスクを回避するため、現地会社に業務を委託することとした。
(iii) 依頼者は上記(ii)の事情があったため、可能な限り現地法人に近い経営を希望していた。「(賃貸借契約)+(人員派遣契約)」というスキームが検討されたこともある。
(iv) 契約の主要な目標は次のようなものであった。
(a) 開発リソースの安定確保
(b) 開発コスト低減
(c) 現地法人設立への足がかり
(2) 契約の内容
(i) 基本契約
(ii) ソフトウェアを開発し、納入する(第2条、第4条)
(iii) 第6章(役務提供)、第7章(作業場所)及び第8章(貸与品)
(iv) 知的財産権に関する第10章
(v) 秘密保持に関する第11章
(vi) 競業に関する第13章
(vii) 契約解除(第34条)
(viii) 契約期間は1年間で、合意により更新される(第35条)
(ix) 準拠法は日本法(第40条)
(x) 仲裁は日本商事仲裁協会(第39条)
(3) その他
(i) 日本企業が圧倒的に優位に立っており、中国側を厳しくコントロールするとともに、知的財産xxの情報を厳しく管理している。
(ii) 契約期間が1年と短い。
3. 事例②「開発・設計業務委託契約書」
(1) 背景事情
(i) 委託者は日本の電気部品メーカーであり、本契約は中国現地の孫会社との間の製品の開発・設計契約である。
(ii) 政府当局の指導に従い孫会社がその一部門としてR&Dセンターを設立したのに伴い、祖父会社である日本企業が従前委託していた開発・設計業務を契約化したものである。
(2) 契約の内容
(i) 基本契約
(ii) 祖父会社の製品を開発・設計し、設計図、サンプル等を納入する(第1条)
(iii) 競業制限(第1条)と最低保証(第7条)
(iv) 知的財産権の保護(第5条)
(v) 秘密保持(第8条)
(vi) 契約期間は1年間で、3ヶ月前までに通知しなければ自動更新される(第9条)
(vii) 準拠法は日本法(第14条)
(viii) 仲裁は日本商事仲裁協会(第15条)
(3) 契約の特徴
(i) 孫会社との契約であり、日本企業が圧倒的優位に立っている。
(ii) 孫会社との契約であるため、契約はほとんど形式的なものであり、孫会社の履行を確保することはあまり考えられていない。
(iii) 契約は長期にわたるはずであるが、契約期間は1年とされている。
4. 事例③「AAA試験栽培契約」
(1) 背景事情
(i) 日本の食品会社が製品原料の植物AAAを中国で試験栽培するための契約で、依頼者がドラフトしたものである。
(ii) 当初は、農民個人、農村共同体等も契約相手として検討されたが、最終的には農業試験場類似の公的機関が契約当事者となった。
(iii) 依頼者の目標は、いずれの品種のAAAが現地の気候に適合するかを試験することにあったが、性質上、契約金額も僅かであり、依頼者は契約の履行確保、知的財産xxの保護にあまり関心を持っていなかった。
(iv) 契約には記載がないが、種子は日本側が無償で提供する。
(2) 契約内容
(i) 試験栽培(第5条)と報告義務(第9条)
(ii) 契約期間は1年間で、更新の規定なし(第9条)。
(iii) 委託者はいつでも契約を解除できる。その場合、受託者は試験栽培費用を返還しなくてもよい(第6条但書)
(iv) 準拠法は日本法(第12条)
(i) 仲裁は中国の仲裁機関(第12条)
(3) 契約の特徴
(i) 中国側が優位に立っている前提で作成されたドラフトである。
(ii) ほとんど無防備の契約である。
5. 事例④「BBB食品に関する共同研究開発協議書」及び「補充協議書」
(1) 背景事情
(i) 日本の食品会社3社が食品BBBについて中国の大学の研究所と共同研究開発をするための契約である。
(ii) 「BBB食品に関する共同研究開発協議書」はすでに締結されていたので、「補充協議書」について相談を受けた。
(iii) 依頼者の目的は、共同研究開発そのもののほか、ビジネス上の理由もあった。
(2) 「BBB食品に関する共同研究開発協議書」の内容
(i) 日本側は検査機械、試薬等を無償で提供する(第1条)
(ii) 中国側は場所提供し及び技術要員を派遣する(第2条)
(iii) 契約期間は2年間であり、双方合意の上で、更新できる(第4条)。
(iv) 仲裁は中国の仲裁機関とあるが、場所の定めがない(第12条)
(3) 契約の特徴
(i) 中国側が優位に立っている前提で作成されたドラフトである。
(ii) これもまた、ほとんど無防備の契約である。
(iii) 「補充協議書」による補充。
6. 事例⑤「CCC苗試験栽培委託に関する契約」
(1) 背景事情
(i) 委託者である日本の食品会社は中国に合弁企業(持分50%)を有している。
(ii) この契約は、日本の食品会社がその製品の原料植物CCCの試験栽培を子会社に依頼したものである。
(2) 契約の内容
(i) 日本側はCCC苗を無償で提供する(第4条1項)
(ii) 成果は日本側に帰属する(第8条)
(iii) 契約期間は3年間であり、双方合意の上で更新できる(第13条)
(iv) 1ヶ月前の通知で中途解約できるが、中国側の解除は制限される(第10条)
(v) 秘密保持義務は契約期間中及び終了後8年間(第9条)
(vi) 準拠法は中国法(第14条)
(vii) 仲裁は被申立人の所在地(第15条)
(3) 契約の特徴
(i) 子会社との契約であるが、子会社の中国側合弁当事者を意識して作成されている。
7. 事業協力の形態について
製品開発のための事業協力に絞って
(1) 目標は何か?(事例④)
(2) どんなリスクがあるのか(事例③、事例④)
(3) リスクがある場合は、契約の拘束力に依存するのは「下策」?(事例①)
(i) やめる
(ii) 支配する
(iii) 契約による
8. 契約による場合の履行確保の手段
(i) 損害賠償、違約金の約定
(ii) 仲裁等の紛争解決手段、その問題点
(a) 日本の裁判所
(b) 日本の仲裁機関
(c) 第三国の仲裁機関
(d) 中国の仲裁機関
(e) 中国の人民法院
(iii) インセンティブ(事例③、事例④)
9. その他
(1) 交渉当事者の上下関係
(2) トレンド
(3) 競争法制(中国の場合)
(4) FTA等国際法の利用
以 上