①賃借人側の判断で休業 ②(建物全体の閉鎖など)賃貸人側の事情で休業 cf.改正前の民法が適用される場合
1 建物賃貸借契約
新型コロナウイルスの影響→賃借人(テナント)が休業を余儀なくされ、減収
それに伴い賃料支払が困難に
まずは、賃貸人・賃借人間で賃料支払に関する協議を
*補助金等の利用
・家賃支援給付金:条件を満たす法人には最大600万円給付
7月14日から申請受付開始
・持続化給付金
・各自治体の休業協力金
・無利子融資
(1)賃料の減額請求
・契約に定めあり→それに従う
・契約に定めなし→民法、借地借家法に基づき賃料減額請求を検討
民法(改正法:2020年4月1日以降に締結された契約、合意で更新された契約に適用)
611条1項:賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
①賃借人側の判断で休業 ②(建物全体の閉鎖など)賃貸人側の事情で休業 cf.改正前の民法が適用される場合
→改正前民法611条1項を類推適用して減額請求を認めた裁判例
借地借家法
32条1項:建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種
の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、
将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
本条文の想定
不動産価格の変動・物価の変動・国民所得水準の変動等・種々の経済事情の変動
(=ある程度長期的なもの)
・コロナウイルスによる一時的な減収等では減額が認められない可能性が高い
・コロナウイルスの影響が長引き、(賃料相場の低下等)上記事情の変動があれば減額が認められる方向
(2)賃料の支払猶予
・契約に定めあり→それに従う
・契約に定めなし→法律の規定なし
国土交通省
・不動産関連団体への要請:支払が困難な事情があるテナントに対し、
賃料支払猶予に応じるなどの措置をとるよう要請
(2020年3月31日付)
・賃貸人側への支援策:賃料減額を損金計上可能、賃料減免・猶予による収入減
に応じた固定資産税の全額または半額免除
これらの点を参考に協議・交渉
(3)解約予告期間の短縮
事業用不動産の場合、6か月の解約予告期間の規定が設けられていることも
→今すぐ廃業を決めて解約の申し入れをしても6か月分の家賃がかかる?
解約予告期間分の賃料を支払わなければならないか
・双方の合意があれば解約予告期間の短縮は可能
・合意解除の場合、解約予告期間分の賃料を支払う必要はないとした裁判例
(東京地裁H29.5.26:賃貸人が賃借人の用法違反を理由として契約解除の意思表示。賃借人は解除には理由がなく、営業妨害であるなどと主張して約1か月半後をもって契約を解約する通知をした。
裁判所は、賃貸人は契約関係の継続を望んでおらず、賃借人もそのことを認識しながら解約申し入れをしたのだから、実質的には契約が合意解除されたと認めた。)
・合意解除と認められなくても、個別事情(解約規定の内容など)から
解約予告期間分の賃料相当額の支払い義務がない、または一部にとどまるとされる可能性(参考裁判例:東京地裁H5.5.17)
賃料の滞納による解除→解除には「信頼関係の破壊」が必要
=賃料の不払で直ちに解除することはできない
・コロナの影響で休業、減収=信頼関係が破壊されていない方向に作用
・通常の場合でも3か月程度の賃料不払では、解除が認められないことが多い
→コロナの影響の場合であれば、それ以上でも解除が認められない可能性高
「信頼関係の破壊」の有無は個別に判断
→誠実に協議を行うことの重要性
賃借していた店舗が入るビルの別フロアでコロナ感染者が出たため清掃・消毒等の期間、休業せざるをえなくなった。
休業による損害を請求したい。
・契約に定めあり→それに従う
・契約に定めなし→賃貸人・管理会社に損害賠償請求を検討
賃貸人に→債務不履行に基づく損害賠償請求想定されるケース
管理会社に→不法行為に基づく損害賠償請求想定されるケース
(1)はじめに
新型コロナウイルスの影響
…関係者の中で感染者が発生した
感染症への対策措置を行う必要が生じた等
⇒ 契約に定められた義務を履行できなくなってしまった。。。
・納期までに製品を供給できない
・イベントを開催できない
・建物建築を完成できない
・委託された業務を遂行できない
・代金が支払えない
こうした契約上の義務を履行できない場合の各契約当事者の責任は?また、その際に考えられる対応は?
(2)契約違反の責任(債務不履行責任)発生の要件
① 債務の不履行
契約した趣旨・目的に沿った行為がなされない
② 損害の発生
例:不要な追加費用の支出が生じた
③ ①と②の因果関係
②の損害が①の債務不履行を原因とすること
④ 帰責事由
①が故意又は過失によって行われたこと
(3)契約書上の不可効力免責条項を確認
【例】
第●条
暴風、豪雨、洪水、高潮、地震、落雷、地滑り、落盤、火災、騒乱、暴動、戦争、テロ、その他不可抗力による本契約及び個別契約の全部又は一部(金銭債務を除 く。)の履行遅滞又は履行不能については、いずれの当事者も責任を負わない。
・そもそも不可抗力とは?
債務不履行が不可抗力による場合
⇒帰責事由(前記要件④)がない
「外部から生じた原因であり、かつ防止のために相当の注意をしても防止できない」ものか否かが考慮される。
※感染症拡大による債務不履行について、不可抗力・帰責事由について判断した裁判例不見当。
a 「感染症の拡大」の事態等が「不可抗力」として免責事由と定められている場合
⇒条項に従って免責
b その他の場合
・ 「感染症の拡大」が明示されていない
・ そもそも不可抗力免責条項がない
⇒感染症の拡大が一般的に不可抗力に該当するか検討が必要
・参考裁判例:地震について
(東京地裁平成11年6月22日判決・判タ1008号288頁)
阪神淡路大震災の二日後に生じた火災によって倉庫内の貨物が全焼してしまい、貨物の運送ができなくなってしまった事案。
裁判所は、阪神淡路大震災は震度7の未曽有の大震災であり、このような規模の
大地震が発生することを具体的に予見することはできなかったことを理由に過失を否定(帰責事由なし)。
新型コロナウイルス問題自体は未曽有の事象であるため、具体的に債務不履行に
つながった理由等の事情によるものの、具体的に予見することは困難とされて帰責事由がない、と判断される可能性もあり。
(1)納期遅延
【設例1】
当社は、取引先のB社に商品を販売し、納入することになっているのですが、新型コロナウイルスの影響で事業所を閉鎖せざるを得ず、契約で定められた 納期に商品を納入することができませんでした。
当社は責任を負わなくてはならないのでしょうか。
・契約書の不可抗力条項を検討。
・不可抗力条項がない又は適用されない場合は、商品を納入できなかった理由が
一般的に不可抗力と言えるのかを検討。
・取引先に納期延長を認めてもらえるよう協議。
※下請法上の下請事業者に該当する場合
( xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxx/0000/00/00000000000/00000000000-0.xxx )
(2)イベントが開催できない
【設例2】
当社はイベント会社です。かねてから計画されていたイベントが新型コロナウイルスの影響下における、自粛要請や、社会的な風潮から、開催を断念せざるをえなくなりました。
しかし、イベントの参加者からは既にチケット代金を受領しています。このチケット代金は返金しなければならないのでしょうか。
・契約書の不可抗力条項を検討
※キャンセルポリシー
・イベント中止が帰責事由によるものかどうかの検討
(イベントの中止の理由が不可抗力に該当するかと同様)
政府からの自粛要請があるに止まり、イベント開催自体は最終的には主催者の判断次第となるため、直ちに帰責事由なしとは言えない。
当該イベントの性質、規模、社会的影響力等や、WHO等の国際機関の意見及び動向、海
外の同種イベントの開催状況等を踏まえた個別具体的な判断が必要。
・イベント中止が当事者双方の帰責事由にもよらない場合
➡契約に適用されるのが改正前民法か改正後民法かの確認基準:契約締結日が2020年4月1日より前か以後か
A 改正前民法適用の場合
当事者の帰責事由なく契約上の債務(イベント開催)が履行不能になった場合(いわゆる危険負担)
には、原則として反対債務は消滅する(536条1項)。
➡チケット代金支払義務(反対債務)は消滅支払済みのチケット代金は返金が必要
B 改正後民法適用の場合
履行不能の場合、債務者(イベント会社)の帰責事由がなくても、債権者(チケット購入者)が、契約解除可能(542条1項)
➡チケット購入者は契約を解除して代金の返還請求可能
※危険負担の規定
反対債務の消滅➡反対給付の履行拒絶
➡未払のチケット代金の支払拒絶はできるが、
支払済みのチケット代金の請求には上記解除が必要
【参考】
・536条1項 (改正前)
前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって
債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付を受ける権利を有しない。 (改正後)
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなっ
たときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
・542条1項
次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすること
ができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき
解除 | 危険負担 (反対給付・債務の扱い) | 返金対応 | |
改正前民法 | 相手方の帰責事由 が必要 | 反対債務は消滅す る。 | 当然に返金が必要 (不当利得) |
改正後民法 | 相手方の帰責事由不要 | 反対給付の履行拒 絶ができる。 | 前提として解除が必要 |
(3)買掛金が支払えない
【設例3】
当社は、サプライヤーのC社から商品を購入し、既に商品は納入してもらっています。しかし、キャッシュフローの関係で、契約で定められた期日に代金を支払うことができません。
どうしたらよいのでしょうか。
金銭債務の不履行については、不可抗力が免責事由とはならない(419条3項)。
約定利率又は法定利率による遅延損害金の発生
※法定利率
民法改正により年3%(3年ごとの見直し)
履行遅滞に陥ったのが2020年4月1日以降の場合に適用
⇒支払条件(支払期日や分割支払)の変更等を求めて売主・サプライヤーと協議を行う必要
【資金繰りの方法】
・経産省の一覧参照(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxx-00/xxx/xxxxxxxxxx_xxxx.xxx)
※その他、下請法上の下請事業者に該当する場合は、親事業者に対して前払金の支払の打診等も検討
( xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxx/0000/00/00000000000/00000000000-0.xxx )
(4)売掛金が入って来ない
【設例4】
当社は、取引先のD社に対して商品を販売して納入しています。
しかし、D社からは、代金の支払期日を過ぎても支払がありません。
どうやら、新型コロナウイルスが経営状況に影響しているようなのですが、支払がなされる気配がありません。
どうしたらよいでしょうか。
・不可抗力が免責事由とならないのは同様。
支払期日から約定利率又は法定利率による遅延損害金発生。
・取引先が法的整理に入る可能性も視野に入れる必要。 a 否認権行使の対象となるリスクの認識
取引先が破産手続きに入った場合、他の債権者との関係で不xxと思われるような弁済を受けていた場合、事後的に問題となる可能性。
b 支払方法の変更を含めた任意の支払い請求 c 商品の返還請求
※契約書の所有権移転時期の定め
d 相殺可能な債権の検討
取引先に対して反対に債務を負っていないかどうか
(5)建物建築の工期遅延
【設例5】
当社は、元請業者から下請契約によって、建物建築を請け負っているのですが、元請業者からの指示で工事を中止することになり、工期が延長することになりました。
建物の完成のために追加費用が発生しましたが、当社が負担しなければならない
のでしょうか。
(5)建物建築の工期遅延
工事の中止やその際の費用の負担については契約書上の定めを確認。
【建設業法19条1項】
建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
一~四(略)
五 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
六 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
(以下略)