Contract
労務提供契約(その2)
明治学院大学法科大学院教授xxx x
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◼ 受任者の義務
◼ 委任者の義務
無償
典型
契 典型契約
約の体系
財産権を移転する
(財産権を移転しない)
(返還不要)
有償
無償
返還必要 4. 消費貸借
有償
返還必要物の利用
従属的
(時間決めで)
役務の提供
独立的
対価が金銭
対価が物
5. 使用貸借
6. 賃貸借
仕事の完成
事務の処理
物を預かり返還する
2. 売買
3. 交換
7. 雇用
8. 請負
9. 委任
10. 寄託
事業を営む
団体形成 11. 組合
12. 終身
年金事業
定期金
紛争の解決 13. 和解
典型契約の当事者の呼び方
贈与
売買
交換
消費貸借,使用貸借
賃貸借
労働者(被用者)
使用者(雇主)
雇用
賃貸人 賃借人
貸主 借主
交換当事者 交換当事者
売主 買主
贈与者 受贈者
請負
委任
寄託
組合
終身定期金
和解当事者
和解当事者
和解
終身定期金債権者 終身定期金債務者
組合員 組合員
寄託者 受寄者
委任者 受任者
注文者 請負人
契約の種類
雇用
請負
委任寄託
契約の内容
使用者の支配の下
で,時間決めで労務を提供する。
独立して,仕事を完
成する。
独立して,事務を処理する。
物を一定期間預かり,その後返還する。
債務の種類
手段債務
結果債務
手段債務
手段債務
◼ 第1節 請負契約の意義と性質
◼ 第2節 請負契約の効力
◼ 第3節 請負契約の終了
請負契約の意義と性質
1. 請負契約の性質は何か?
2. 役務提供契約の中での請負契約の特色は何か?
3. 製作物供給契約とはどのような契約か?
4. 下請契約とはどのような契約か?
5. 注文者と下請人との間に直接の関係は生じるか?
◼ 第632条(請負)
◼ 請負は,当事者の一方がある仕事を完成することを約し,
◼ 相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって,
◼ その効力を生ずる。
◼ 諾成・有償・双務契約
◼ 冒頭条文だけで明確
◼ 役務提供契約
◼ 結果債務(請負が典型例)
◼ 特定の結果を達成する債務
◼ 手段の債務(委任契約など)
◼ 履行につき,最善の努力をする債務(→最一判昭41・9・ 8民集20巻7号1325頁)
◼ 報酬の支払
◼ 同時履行(引渡の場合)
◼ 後払い(引渡なしの場合)
◼ 役務の提供は,先履行
◼ 製作物供給契約の定義
◼ 契約当事者の一方が相手方の注文に応じて自己の所有する材料で製作したものを供給することを約し,注文主がこれに対価を払うことを約して成立する契約。
◼ 製造物供給契約・請負供給契約ともいう。
◼ 典型例
◼ 請負人が材料を供給して行う家屋建築や注文服・注文家具,印鑑の製作など。
◼ 性質
◼ 注文に応じての制作は,仕事の完成を目的とする請負的要素を含み,
◼ 製作物の供給による所有権移転は売買
的要素も含む。
◼ 通説は請負と売買の混合契約と解し,特約がない場合には製作には請負の規定を,供給については売買の規定を適用すべきであるとする。
◆ 請負人が材料を提供する場合には,請負人から注文者へと財産権が移転するため,売買と解され,
◆ 注文者が材料を提供する場合には仕事
の完成が目的となるので,請負と解される。
◼ 実質的には,前者につき注文者の瑕疵修補請求権・解除権など(民法634条,641条, 636条)の適用(準用)は肯定されてよく, 後者についても代金の支払や果実に関する規定(民法573条~575条)の適用があ
りうる。
◼ 立法の動向
◼ 住宅の品質確保の促進等に関する法律 第94条,95条は,建売住宅(売買)と注文建築の場合にも,同様の担保責任を負わせるようにしており,売買と請負との区別は薄れてきている。
◼ 定義
◼ 請負人(元請人)が請け負った仕事の全部又は一部を,第三者(下請人)にさらに請け負わせること。
◼ 典型例
◼ 家屋の建築を請け負った大工が,内装を専門業者に請け負わせる場合など。
◼ 下請の許容の理由
◼ 請負は仕事の完成を目的とするか
ら,下請負が許される。
◼ ただし,一括下請負(丸投げ)については,注文者の承諾が必要とされることがある(建設業法第22条)。
◼ 直接の権利・義務関係
◼ 下請負は元請人と下請人との間の請負契約であるから,請負人が下請人を利用しても,注文者と下請人との間に直接の法律関係が生ずるわけではない(通説)。
下請契約
下請人
下下請請債債権権
請負人
(元請人)
移転
請
負
請
適
法抗弁
前
払の抗弁
料
負
債
料
権債
権
請
負契約
注文者
◆ 通説批判
◆ 請負人が下請代金債務の履行のために,請負代金の支払いを自らではなく,下請人に支払うように約束することができる。
◆ この場合,下請人が受益の意思表示をすると,下請人は,注文者に対して直接に請負代金を請求することができる。
◆ 民法613条を類推することも可能である。
1. 仕事の完成と報酬請求とはどのような関係にあるか?
2. 完成した目的物の所有権は誰に帰属するか?
3. 請負人はどのような担保責任を負うか?
4. 特定履行,損害賠償,解除のそれぞれの要件は?
5. 担保責任の存続期間は?
◼ 第633条(報酬の
支払時期)
◼ 報酬は,仕事の目的物の引渡しと同時に,支払わ
なければならない。
◼ ただし,物の引渡しを要しないときは,第624条第1項〔報酬の支払 時期・労務の提供の後〕の規定を準用する。
◼ 同時履行か先履行か
◼ 同時履行の関係
◼ 請負の目的は仕事を完成することであり,仕事の完成と報酬の支払いとが広い意味で同時履行となる。
◼ 請負の目的物を引き渡す場合に,引渡と報酬の支払いとが同時履行となるのはその理由に基づく。
◼ 先履行の関係
◼ しかし,請負人の立場からすれば,報酬を受け取る前から,役務の提供をはじめるわけであるから,役務の提供が先履行となる。
目的物引渡仕事の完成
仕事の開始
(先履行)
報酬支払
(広い意味での同時履行)
報酬支払なし
(後払い)
請負契約の締結
◼ 特約がある場合
◼ 特約に従う
◼ 特約がない場合(通説・判例)
◼ 注文者が材料の全部または主要部分を提供した場合
◼ 所有権は原始的に注文者に帰属する(大判昭7・5・9民集
11巻824頁)。
◼ 請負人が材料の全部または主要部分を提供した場合
◼ 所有権は請負人に帰属する。
◼ 引渡によって,所有権が注文主に移転する(大判明37・6・
22民録10輯681頁)。
◼ 注文者が代金全部または代金の大部分を支払ってい
る場合
◼ 所有権が注文者に帰属するとの特約の存在が推認されるため(大判昭18・7・20民集22巻660頁),
◼ 特段の事情がない限り所有権は原始的に注文者に帰属する(最二判昭46・3・5判時628号48頁,最二判昭44・9・ 12判時572号25頁)。
◼ 通説・判例に対する
批判
◼ 請負人の報酬債権を確保するための手段としては,拙劣
◼ 請負人帰属説は,建築許可を注文者名義でとり,注文者名義で所有権保存登記をするのが通例である実務に適合していない。
◼ 請負人は敷地利用権を持たないため,注文者から建物収去・土地明渡しを求められると対応ができない。
◼ 請負人は,登記をすれば,抵当権に勝る先取特権を有しており(民法339条),これを活用すべきである。
◼ 第634条(請負人の担保責任1)
◼ ①仕事の目的物に瑕疵があるときは,注文者は,請負人に対し,相 当の期間を定めて,その瑕疵の修補を請求することができる。ただし,瑕疵が重要でない場合において,その修補に過分の費用を要するときは,この限りでない。
◼ ②注文者は,瑕疵の修補に代えて,又はその修補とともに,損害賠償 の請求をすることができる。この場合においては,第533条〔同時履行の抗弁権〕の規定を準用する。
◼ 特定履行としての修補請
求権の性質
◼ 売買契約における売主の担保責任との相違点
◼ 特定履行の要件としては,合理的な理由があることが要求されるようになっている。
◼ 「瑕疵が重要でない場合において,その修補に過分の費用を要するときは,この限りでない」という規定は,その意味でも重要な意義を有している。
◼ 第635条〔請負人の担保責任2〕
◼ 仕事の目的物に瑕疵があり,そのために契約をした目的を達することができないときは,注文者は,契約の解除をすることができる。
◼ ただし,建物その他の土地の工作物については,この限りでない。
◼ 最三判平14・9・24判時
1801号77頁
◼ 建築請負の仕事の目的物である建物に重大な瑕疵があるためにこれを建て替えざるを得ない場合には,
◼ 注文者は,請負人に対し,建物の建て替えに要する費用相当額を損害として請求することができる。
◼ 第636条(請負人の担保責任に関する規定の不適用)
◼ 前2条の規定は,仕事の目的物の瑕疵が注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じたときは,適用しない。
◼ ただし,請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは,この限りでない。
◼ 第716条(注文者の責任)
◼ 注文者は,請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。
◼ ただし,注文又は指 図についてその注文者に過失があったと きは,この限りでない。
◼ 第637条(請負人の担保責任の存続期間1)
◼ ①前3条〔請負人の担保責任〕の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は,仕事の目的物を引き渡した時から1年以内にしなければならない。
◼ ②仕事の目的物の引渡しを要しない場合には,前項の期間は,仕事が終了した時から起算する。
◼ 第638条〔請負人の担保責任の存続期間2〕
◼ ①建物その他の土地の工作物の請負人は,その工作物又は地盤の瑕疵について,引渡しの後5年間その担保の責任を負う。
◼ ただし,この期間は,石造,土造,れん が造,コンクリート造,金属造その他こ れらに類する構造の工作物については, 10年とする。
◼ ②工作物が前項の瑕疵によって滅失し,又は損傷したときは,注文者は,その滅失又は損傷の時から1年以内に,第634条〔請負人の担保責任〕の規定による権利を行使しなければならない。
担保責任の期間の伸長
◼ 第639条(担保責任の存続期間の伸長)
◼ 第637条及び前条第1項の期間は,第167条
〔債権等の消滅時効〕の規定による消滅時効の期間内に限り,契約で伸長することができる。
◼ 品確法 第97条(瑕疵担保責任の
期間の伸長等の特例)
◼ 住宅新築請負契約又は新築住宅の売買契約においては,
◼ 請負人が第94条第1項に規定する瑕疵その他の住宅の瑕疵について同項に規定する担保の責任を負うべき期間又は売主が第95条第1項に規定する瑕疵その他の住宅の隠れた瑕疵について同項に規定する担保の責任を負うべき期間は,
◼ 注文者又は買主に引き渡した時から
20年以内とすることができる。
◼ 第94条(住宅の新築工事の請負人の
瑕疵担保責任の特例)
◼ ①住宅を新築する建設工事の請負契約(以下「住宅新築請負契約」という。)においては、請負人は、注文者に引き渡した時から10年間、住宅のうち構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるもの
(次条において「住宅の構造耐力上主要な部分等」という。)の瑕疵(構造耐力又は雨水の浸入に影響のないものを除く。次条において同じ。)について、民法(明治29年法律第89号)第634条第1項及び第2項前段に規定する担保の責任を負う。
◼ ②前項の規定に反する特約で注文者
に不利なものは、無効とする。
◼ ③第1項の場合における民法第638条第2項の規定の適用については、同項中「前項」とあるのは、「住宅の品質確保の促進等に関する法律第94条第1項」とする。
◼ 第95条(新築住宅の売主の瑕疵担保責任の特例)
◼ ①新築住宅の売買契約においては、売主は、買主に引き渡した時(当該新築住宅が住宅新 築請負契約に基づき請負人から当該売主に引き渡されたものである場合にあっては、その引渡しの時)から10年間、住宅の構造耐力上主要な部分等の隠れた瑕疵について、民法第570条において準用する同法第566条第1項 並びに同法第634条第1項及び第2項前段に規定する担保の責任を負う。この場合において、同条第1項
及び第2項前段中「注文者」とあるのは「買主」と、同条第1項中「請負人」とあるのは「売主」とする。
◼ ②前項の規定に反する特約で買主に不利なも
のは、無効とする。
◼ ③第1項の場合における民法第566条第3項の規定の適用については、同項中「前2項」とあるのは「住宅の品質確保の促進等に関する法律第95条第1項」と、「又は」とあるのは「、瑕疵修補又は」とする。
◼ 第640条(担保責任を負わない旨の特約)
◼ 請負人は,第634条又は第635条の規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても,知りながら告げな
かった事実については,その責任を免れることができない。
◼ 消費者契約法 第8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)
◼ ①次に掲げる消費者契約の条項は,無効とする。
◼ 五 消費者契約が有償契約である場合において,当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には,当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に,当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項
◼ ②前項第五号に掲げる条項については,次に掲げる場合に該当するときは,同項の規定は,適用しない。
◼ 一 当該消費者契約において,当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに,当該事業者が瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合
◼ 二 当該消費者と当該事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は当該事業者と他の事業者との間の当該消費者のためにする契約で,当該消費者契約の締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて,当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに,当該他の事業者が,当該瑕疵により当該消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い,瑕疵のない物をもってこれに代える責任を負い,又は当該瑕疵を修補する責 任を負うこととされている場合
1. 請負契約はどのような場合に終了するか?
2. 注文者の無理由解除権とはどのようなものか?
3. 注文者の破産の場合,請負人は契約を解除できるか?
◼ 第641条(注文者による契約の解除)
◼ 請負人が仕事を完成しない間は,注文者は,いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。
◼ 第651条(委任の解除)
◼ ①委任は,各当事者がいつでもその解除をすることができる。
◼ ②当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは,その当事者の一方は,相手方の損害を賠償しなければならない。
◼ ただし,やむを得ない事由があったときは,この限りでない。
◼ 第642条(注文者についての破
産手続の開始による解除)
◼ ①注文者が破産手続開始の決定を受けたときは,請負人又は破産管財人は,契約の解除をすることができる。
◼ この場合において,請負人は,既にした仕事の報酬及びその中に含まれていない費用について,破産財団の配当に加入することができる。
◼ ②前項の場合には,契約の解除によって生じた損害の賠償は,破産管財人が契約の解除をした場合における請負人に限り,請求することができる。
◼ この場合において,請負人は,その損害賠償について,破産財団の配当に加入する。
◼ 破産法 第53条(双務契約)
◼ ①双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは,破産管財人は,契約の解除をし,又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
◼ ②前項の場合には,相手方は,破産管財人に対し,相当の期間を定め,その期間内に契約の解除をするか,又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において,破産管財人がその期間内に確答をしないときは,契約の解除をしたものとみなす。
◼ ③前項の規定は,相手方又は破産管財人が民法第 631条 前段の規定〔使用者の破産の場合の労働者の解約申し入れ〕により解約の申入れをすることができる場合又は同法第642条第1項前段〔注文者の破産の場合の請負人の解除〕の規定により契約の解除をすることができる場合について準用する。
委任契約
◼ 第1節 委任・準委任契約の意義と性質
◼ 第2節 委任契約の効力
◼ 第3節 委任契約の終了
委任・準委任の意義と性質
1. 役務提供契約の中で,委任契約はどのような特色を有しているか?
2. 委任契約と準委任契約とはどこが違うのか?
3. 委任契約の内容(委託)にはどのようなものがあるか?
◼ 第643条(委任)
◼ 委任は,当事者の一 方が法律行為をする ことを相手方に委託し,相手方がこれを承諾 することによって,そ の効力を生ずる。
◼ 第656条(準委任)
◼ この節〔委任〕の規定は,法律行為でない事務の委託について準用する。
◼委任と準委任との区別
◼ 委任
◼ 法律行為をなすことを委託すること。
◼ 準委任
◼ 法律行為でない事務を委託すること。
◼区別の必要性
◼ 委任と準委任とは,委託内容が違うだけである。
◼ 準委任には,委任の規定が準用されるため,区別して取り扱う必要はなく,委任の中に準委任を含めて考えることができる。
委任と準委任の例
委任
(xx)
委任
→例
準委任
→例
弁護士への訴訟委任
司法書士への 登記手続の委任
幼児の
監護養育の委託
医師への 治療の委託
1. 受任者はどのような義務をどの程度で負うか?
2. 委任者はどのような義務をどの程度で負うか?
3. 受任者の権利移転義務と委任者の代弁済義務と
はどのような関係にあるか?
受任者の義務(1/5)
善管注意義務
◼ 第644条(受任者の注意義務)
◼ 受任者は,委任の本旨に従い,善良な管理者の注意をもって,委任事務を処理する義務を負う。
◼ 委任の本旨
◼ 債務の本旨と同じ
◼ 民法415条(債務不履行)
◼ 民法493条(弁済の提供)
◼ 善管注意義務
◼ 抽象的軽過失のこと
◼ 民法400条(特定物の引渡の注意義務)
◼ 自己の財産に対するのと同一の注意義務
◼ 具体的軽過失
◼ 民法659条(無償受寄
者)
◼ 民法827条(親権者)
受任者の義務(2/5)
復委任の場合の受任者の責任
復委任の許諾
◼ 復代理の規定の類推
◼第104条(任意代理人による復代理人の選任)
◼委任による代理人は,本人の許諾を得たと き,又はやむを得ない事由があるときでなければ,復代理人を選 任することができない。
復委任の場合の受任者の責任
◼ 第105条(復代理人を選任した代理人の責
任)
◼①代理人は,前条の規定により復代理人を選任したときは,その選任及び監督について,本人に対してその責任を負う。
◼②代理人は,本人の指名に従って復代理人を選任したときは,前項の責任を負わない。
◼ただし,その代理人が,復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら,その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠ったときは,この限りでない。
受任者の義務(3/5)
報告義務
報
告義
務
終
了
前
委任者
の請求
により
民法
645条
前段
受任者
自ら
商法
27条
終
了
後
受任者 645条
民法
自ら
後段
◼ 第645条(受任者による報
告)
◼ 受任者は,委任者の請求があるときは,いつでも委任事務の処理の状況を報告し,
◼ 委任が終了した後は,遅滞なく
その経過及び結果を報告しなけ
ればならない。
◼ 商法 第27条(通知義務)
◼ 代理商は,取引の代理又は媒
介をしたときは,遅滞なく、商人
に対して,その旨の通知を発し
なければならない。
受任者の義務(3/4)
受取物・果実の引渡し,権利の移転義務
◼ 第646条(受任者による受取物の引渡し等)
第三者
(債務者)
権利権利
譲渡通知
受任者
(譲渡人)
抗弁
権利
譲渡
委任者
(譲受人)
◼ ①受任者は,委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。
◼ その収取した果実についても,
同様とする。
◼ ②受任者は,
◼ 委任者のために自己の名で取得した権利を
◼ 委任者に移転しなければならない。
民法646条2項の権利移転
受任者の義務(4/4)
金銭の消費に対する責任
◼ 第647条(受任者の金銭の消費についての責任)
◼ 受任者は,委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは,
◼ その消費した日以後の利息を支払わなければならない。
◼ この場合において,なお損害があるときは,その賠償の責任を負う。
◼ 第419条(金銭債務の特則)
◼ ①金銭の給付を目的とする債務の不履行については,その損害賠償の額は,法定利率によって定める。ただし,約定利率が法定利率を超えるときは,約定利率による。
◼ ②前項の損害賠償については,債権者は,
損害の証明をすることを要しない。
◼ ③第1項の損害賠償については,債務者は,不可抗力をもって抗弁とすることができない。
◼ 第190条(悪意の占有者による果実の返還等)
◼ ①悪意の占有者は,果実を返還し,かつ, 既に消費し,過失によって損傷し,又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。
委任者の義務(1/5)
有償委任の場合の報酬支払義務
◼ 第648条(受任者の報酬)
◼ ①受任者は,特約がなければ,委任者 に対して報酬を請求することができない。
◼ ②受任者は,報酬を受けるべき場合には,委任事務を履行した後でなければ,これを請求することができない。
◼ ただし,期間によって報酬を定めたときは,第624条第2項〔報酬の支払時期・期間経過後〕の規定を準用する。
◼ ③委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは,受任者は,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
◼ 第624条(報酬の
支払時期)
◼ ①労働者は,その約した労働を終わった後でなければ,報酬を請求することができない。
◼ ②期間によって定めた報酬は,その期間を経過した後に,請求することができる。
委任者の義務(2/5)
費用の前払義務
◼ 第649条(受任者による費用の前払請求)
◼ 委任事務を処 理するについて費用を要するときは,委任者は,受任者の請求 により,その前 払をしなければならない。
◼ 弁護士に訴訟委任する場合の着手金
◼ 弁護士に事件を依頼した段階で支払う費用の前払いであり,事件の結果に関係なく,たとえ不成功に終わったとしても返還されない。
◼ 着手金の相場は、離婚で20~30万円,刑事事件で30~40万円程度。民事訴訟の場合は、訴訟額によって着手金の額が変化する。
委任者の義務(3/5)
受任者の立替費用償還請求権
◼ 第650条(受任者による費用等の償還請求等)(1/3)
◼ ①受任者は,委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは,
◼ 委任者に対し,その費 用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
◼ 立替費用償還請求権
◼ 事務管理で準用されている。
◼ 第702条(管理者による費用の償
還請求等)
◼ ①管理者は,本人のために有益な費用を支出したときは,本人に対し,その償還を請求することができる。
◼ ②第650条第2項〔受任者による費用等の償還請求〕の規定は,管理者が本人のために有益な債務を負担した場合について準用する。
◼ ③管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは,本人が現に利益を受けている限度においてのみ,前2項の規定を適用する。
委任者の義務(4/5)
受任者の代弁済請求・担保供与請求権
◼ 第650条(受任者による費用等の償還請求等)(2/3)
第三者
(受益者)
債権債権
受任者
(要約者)
抗弁
債務
引受
(指図)
委任者
(諾約者)
◼ ②受任者は,委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは,
◼ 委任者に対し,自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。
◼ この場合において,その債務が弁済期にないときは,委任者に対し,相当の担保を供させることができる。
債務の代弁済・担保供与
委任者の義務(5/5)
受任者の損害賠償請求権
◼ 第650条(受任者による費用等の償還請求等)
(3/3)
◼ ③受任者は,委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは,委任者に対し,その賠償を請求することができる。
◼ 損害賠償
◼ 主として無償委任の場合を想定して,受任者が不慮の損害を受けた場合に救済を与える規定である。
◼ 旧民法財産取得編第245条
◼ ①委任者は,代理人に対して,左の義務を負担す。
◼ 第一 代理人が代理の履行の為め支出したる立替金又は正当の費用の弁償及び其支出したる日以来の法律上の利息の弁償
◼ 第二 合意したる謝金の弁済
◼ 第三 代理人が其管理に因り又は其管理を為すに際し,自己の過失に非ずして受けたる損害の賠償。
◼ 但予見したる損害にして,其全部又は一分に付き特に謝金を諾約する理由と為りたるものは此限に在らず。
◼ 第四 代理人が其管理に因りて負担したる一身上の義務の解脱又は其賠償。
受任者・委任者間の相互の法律関係
受任者の権利移転義務
(民法646条2項:債権移転)
委任者の代弁済義務
第三者
(受益者)
債権債権
受任者
(要約者)
抗弁
債務
引受
(指図)
委任者
(諾約者)
(民法650条2項:債務引受)
第三者
(債務者)
権利権利
譲渡通知
受任者
(譲渡人)
抗弁
権利
譲渡
委任者
(譲受人)
委任契約には,受任者が得た権利を委任者に譲渡すべきであるとの合意(第三者のためにする契約)が含まれている。
委任契約には,受任者が負った債務を委任者が引き受けるべきであるとの合意(第三者のためにする契約)が含まれている。
委任と代理との関係
◼ 委任契約
第三者
(相手方)
契約交渉
受任者
(代理人)
代理
権授与(委任状)
委任者
(本人)
◼ 委任に代理権の授与が伴わない場合は,権利移転(民法464条2項)と代弁済(民法650条2項)の法理で個別に対応せざるをえない。
◼ 代理権授与(委任状による)
◼ 委任状によって委任者が受任者に代理権を与えると,委任者(本人)と第三者(相手方)との権利義務関係を一挙に解決することができる。
◼ 委任契約と代理関係の無因・有因
◼ 受任者による債務不履行があっても,代理から生じる法律関係には影響を及ばさないのが原則である。
合には,民法93条の類推によって,本
◼ ただし,受任者による債務不履行(代理権の濫用)を相手方が知っている場
人と相手方の法律行為は無効となる。
1. 委任契約の解除の要件は何か?
2. 解除の効力は遡るか?
3. 委任契約はどのような場合に終了するか?
4. 委任者の死亡の場合はどうか?
委任の終了(1/5)
任意解除
◼ 第651条(委任の解除)
◼ ①委任は,各当事者がいつでもその解除をすることができる。
◼ ②当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは,その当事者の一方は,相手方の損害を賠償しなければならない。
◼ ただし,やむを得ない事由があったときは,この限りでない。
◼ 無理由解約が認められる理由
◼ 受任者の保護
◼ 素人が専門家と対等の立場に立つためには,素人に,いつでも,理由を述べることなく,専門家を解任できるという権利を与えておく必要がある。
◼ 委任者の保護
◼ 特に無償委任の場合,委任者の負担を軽減する必要がある。
◼ 民法641条(注文者による無理由解 約),および,民法628条(やむを得ない事由による雇用の解除)も参考になる。
◼ 当事者対等の原則
◼ 当事者の一方に認められる権利は,当事者双方に認められるべきである。
一つの分野で専門家になる
◼ 現在社会の重要課題の一つは,専門家と素人との協働をどのようにして実現するかである。
◼ 人は,全ての分野に通じることはできないので,専門家と素人がよい関係を結べるようにする環境を整える必要がある。
◼ 一方で,専門家に素人が事務処理を委託する委任契約において,素人が,受任者を無理由で解雇できるという制度(民法651 条)は,素人を専門家の横暴から保護されるための不可欠の前提となる。
◼ 他方で,専門家の質を見極め,専門家ま
がいの人に騙されないようにするためには,一人一人が,ある分野で専門家になる経 験を踏むことが大切である。
◼ 専門家との協働によって,人生の困難な問題を乗り越えていく上で,xxx・xxxxxx(xxxx訳)『選択の科学』文藝春秋
(2010)は,よい手引きとなる。
◼ どのような努力によって専門家への道が開かれるのか?
◼ 1つの分野で,世界の専門家並みの理解度に到達するには,平均してのべ1万時間、つまり毎日3時間ずつ,約10年間にわたって、訓練を積む必要があると言われる。
◼ それだけではない。医師や政治専門家は,職務経験が豊富だからといって,様々なバイアスを免れるとは限らない。
◼ ただやみくもに何かを毎日3時間ずつ、 10年間続けたからといって、その分野の世界チャンピオンになれるはずもない。
◼ 向上するためには,たえず自分の行動を観察し,批判的に分析し続けなくてはならない。何がまずかったのか? どうすれば良くなるのだろう?と(アイエンガー
『選択の科学』(2010) 162頁)。
委任の終了(2/5)
解除の将来効
◼ 第652条(委任の解除の効力)
◼ 第620条〔賃貸借の解除の効力の不遡及〕の規定は,委任について準用する。
◼ 第620条(賃貸借の解除の効
力)
◼ 賃貸借の解除をした場合には,その解除は,将来に向
かってのみその効力を生ずる。
◼ この場合において,当事者の一方に過失があったときは,その者に対する損害賠償の請求を妨げない。
◼ 民法620条が準用される規定
◼ 第630条(雇用の解除の効力)
◼ 第620条〔賃貸借の解除の効力の不遡及〕の規定は,雇用について準用する。
◼ 第652条(委任の解除の効力)
◼ 第620条〔賃貸借の解除の効力の不遡及〕の規定は,委任について準用する。
◼ 第684条(組合契約の解除の効力)
◼ 第620条〔賃貸借の解除の効力の不遡及〕の規定は,組合契約について準用する。
委任の終了(3/5)
解除以外の委任の終了事由(1/3)
◼ 第653条(委任の終了事
由)
◼ 委任は,次に掲げる事由によって終了する。
◼ 一 委任者又は受任者の死亡 〔号の新設〕
◼ 二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。 〔号の新設〕
◼ 三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。 〔号の新設〕
◼ 民法653条は任意規定
◼ 明示又は黙示で死後も存続する「死後委任」を肯定することが認められている。
◼ 最三判平4・9・22金法1358号55頁(葬儀用等寄託金返還請求事件)
◼ 自己の死後の事務を含めた法律行為等の委任契約が成立したとの原審の認定は、
◼ 当然に、委任者の死亡によっても右契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨のものというべく、
◼ 民法653条の法意がかかる合意の効力を否定するものでないことは疑いを容れないところである。
委任の終了(3/5)
解除以外の委任の終了事由(2/3)
◼ 第653条(委任の終了事由)
◼ 委任は,次に掲げる事由によって終了する。
◼ 二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。 〔号の新設〕
◼ 最二判平21・4・17(株主総会等決議不存在確認請求事件)判タ1295号124頁,判時 2044号74頁
◼ 民法653条は,委任者が破産手続開始の決定を受けたことを委任の終了事由として規定する。
◼ これは,破産手続開始により委任者が自らすることができなくなった財産の管理又は処分に関する行為は,受任者もまたこれをすることができないため,委任者の財産に関する行為を内容とする通常の委任は目的を達し得ず終了することによるものと解される。
◼ 会社が破産手続開始の決定を受けた場合,破産財団についての管理処分権限は破産管財人に帰属するが,役員の選任又は解任のような破産財団に関する管理処分権限と無関係な会社組織に係る行為等は,破産管財人の権限に属するものではなく,破産者たる会社が自ら行うことができるというべきである。
◼ そうすると,同条の趣旨に照らし,会社につき破産手続開始の決定がされても直ちには会社と取締役又は監査役との委任関係は終了するものではないから,破産手続開始当時の取締役らは,破産手続開始によりその地位を当然には失わず,会社組織に係る行為等については取締役らとしての権限を行使し得ると解するのが相当である。
委任の終了(3/5)
解除以外の委任の終了事由(3/3)
◼ 第653条(委任の終了事由)
◼ 委任は,次に掲げる事由によって終了する。
◼ 三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。 〔号の新設〕
◼ 受任者の後見開始
◼ 受任者が財産管理権を失い,委任者との信頼関係が破壊されるために,委任終了事由とされる。
◼ 委任継続の特約が存在する場合
◼ 委任契約を継続する特約がある場合には,受任者の後見人が委任事務を継続する。
◼ 委任者の後見開始
◼ 委任者には事務処理能力
は必要とされないため,
◼ 委任の終了事由とされていない。
委任の終了(4/5)
委任の終了後の処分
◼ 第654条(委任の終了後の処分)
◼ 委任が終了した場合において,
◼ 急迫の事情があるときは,
◼ 受任者又はその相続人若しくは法定代理人は,委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで,
◼ 必要な処分をしなければならない。
◼ 第700条(管理者による事務管理の継続)
◼ 管理者は,本人又はその相続人若しくは法定代理人が管理をすることができるに至るまで,
◼ 事務管理を継続しなければならない。
◼ ただし,事務管理の継続が本人の意思に反し,又は本人に不利であることが明らかであるときは,この限りでない。
委任の終了(5/5)
委任終了の対抗要件
◼ 第655条(委任の終了の対抗要 件)
◼ 委任の終了事由は,これを相手方に通知したとき,又は相手方がこれを知っていたときでなければ,これをもってその相手方に対抗することができない。
◼ 相手方への意思表示による終了原
因(民法651条等)の場合
◼ 常に相手方に通知されるので(民法540条1項),本条は適用されない。
◼ 代理権の消滅の場合の対抗要件
◼ 第112条(代理権消滅後の表見代理)
◼ 代理権の消滅は,善意の第三者に対抗することができない。
◼ ただし,第三者が過失によってその事実を知らなかったときは,この限りでない。
参考図書
◼ 現行民法の立法理由
x xxxx『民法修正案(前三編)の理由書』有斐閣(1987)
◼ 法務大臣官房司法法政調査部
『法典調査会民法議事速記録3』
商事法務研究会(1984)
◼ 教科書
◼ 我妻栄『債権各論中巻二(民法講義Ⅴ3)』岩波書店(1962)
◼ 半田吉信『契約法講義』〔第2版〕
信山社(2005)
◼ 加賀山茂『契約法』日本評論社
(2007)
◼ コンメンタール
◼ 我妻・有泉『コンメンタール民法
-総則・物権・債権-』〔第2版〕日本評論社(2008)
◼ 松岡久和・中田邦博『新・コンメンタール民法(財産法)』日本評論社(2012)
◼ 債権法改正
◼ 民法(債権法)改正検討委員会『詳解・債権法改正の基本方針Ⅴ-各種の契約(2)』商事法務(2010)
◼ 教養書
◼ シーナ・アイエンガー(櫻井祐子訳)
『選択の科学』文藝春秋(2010)
契約法各論講義
請負,委任・準任契約
ご清聴ありがとうございました。