本連載は,主に国際会計基準審議会(IASB)の月次会議等での討議内容に基づき,最新の IFRS をめぐる動向を伝えることを目的としております。今回は,2010 年6月にIASB と米国財務会計基準審議会(FASB)より公表された公開草案「顧客との契約から生じる収益」(ED)に関する 2011 年1月のIASB とFASB の合同会議における討議内容について解説します。なお,文中の意見にわたる部分は,筆者の私見であることをあらかじめお断りしておきます。 収益認識プロジェクトは,IASB とFASB...
あらた監査法人 公認会計士 xx xx
IFRSをめぐる動向 第 23 回 顧客との契約から生じる収益
1.はじめに
本連載は,主に国際会計基準審議会(IASB)の月次会議等での討議内容に基づき,最新の IFRS をめぐる動向を伝えることを目的としております。今回は,2010 年6月にIASB と米国財務会計基準審議会(FASB)より公表された公開草案「顧客との契約から生じる収益」(ED)に関する 2011 年1月のIASB とFASB の合同会議における討議内容について解説します。なお,文中の意見にわたる部分は,筆者の私見であることをあらかじめお断りしておきます。
2.プロジェクトの経緯及び現状
収益認識プロジェクトは,IASB とFASB の合同プロジェクトです。2008 年 12 月に公表されたディスカッション・ペーパー「顧客との契約における収益についての予備的見解」およびそれに対するコメント・レターの分析を経て,2010 年6月にED が公表されました。このED に対するコメントの募集は 2010 年 10 月に締め切られましたが,その期間に IASB は 960 を超えるコメント・レ
ターを 35 の異なる国の主に企業から受け取りました。大多数のコメント提出者はプロジェクトの包括的な目標を支持していますが,いくつかの重要な提案に対し懸念を表明しています。
IASB は受取ったコメント・レターを分析し,2010 年 12 月の FASB との合同月次会議において, コメント・レターおよび過去7カ月にわたるアウトリーチ活動の要約を検討しました。両審議会は, ED に対するコメント提出者により提起された問題点を再度検討する計画を承認し,翌1月より 契約の分割と財またはサービスの移転の判定というxx的な問題点から議論を開始しました。なお,両審議会の決定事項は仮のものであり,最終の基準が発効されるまでは変更される可
能性がある点にご留意ください。
3.2010 年 12 月会議における討議内容
(1)契約の分割
ED では,企業に対して,顧客への財またはサービスの移転を描写するように収益を認識することを求めており,契約に基づいた資産・負債アプローチにより,ほぼすべての業種に適用することが可能な新しい収益認識基準を提案しています。この提案では,企業はまず顧客との契約を識別し,次に当該契約に含まれる別個の履行義務を識別します。識別された個々の履行義務を充足したときに,企業は収益を認識することになります。
ED では,この際に企業と顧客との間の単一の契約を分割し,2つ以上の契約として会計処理する場合があることを定めています。すなわち,契約におけるある財またはサービスの価格がその契約に含まれる他の財またはサービスの価格から独立している場合には,単一の契約を複数の契約として会計処理をすることが要求されています。この契約の分割について,多くのコメント提出者から,混乱を招くため不要であるとの指摘がなされ,両審議会は1月の会議で
XX のこの提案を削除することを仮決定しました。この結果,企業はある契約に含まれる複数の履行義務を識別した場合にのみ,単一の契約を分割することになります。この仮決定が取引価格の配分に対して与える影響については,引き続き議論が行われる予定です。
(2)別個の履行義務の識別
大多数のコメント提出者は,契約に含まれる別個の履行義務を識別するために「区別できる財またはサービス」の原則を用いることに同意しています。しかしながら,同様に多くのコメント提出者は,この原則を受けて両審議会が ED において提案した「区別できる財またはサービス」を判定する基準は実務的ではなく,混乱をきたすため適当ではないと考えています。このため,両審議会は,「区別できる財またはサービス」の原則を用いるという ED の考え方を維持するものの,その適用に関して,契約を履行義務に分割する目的が財またはサービスの移転を描写することであることを明確にするとともに,「区別できる財またはサービス」を判定する際に用いる財またはサービスの利益マージンをより分かり易くすることを仮決定しました。また,両審議会は,区別できる機能,別個のリスクおよび異なる顧客への移転パターンといった,「区別できる財またはサービス」の属性についてのさらなる分析を行い,当該属性を企業が様々なシナリオにおいてどのように適用するかについてさらなる検討を行うこととしました。
(3)財またはサービスの移転の判定
両審議会は,顧客への財またはサービスの移転を描写するように収益を認識するという ED の核となる原則を支持することを確認しました。なお,この「顧客への財またはサービスの移転」の時点を企業がどのように決定するのかという点について,ED では顧客が財またはサービスの「支配」を獲得したときに財またはサービスが移転するというモデルを提案していました。しかし,工事契約やサービス契約における義務の履行を描写するには,ED の提案した支配のガイダンスはあまりにも理論的で適用が困難であり,また4つの指標は不明確であり,そのうちの2つ(法的所有権および物理的占有)がサービスの移転にはあてはまらないという指摘がコメント提出者からあり,さらに,大多数のコメント提出者が,提案された支配のガイダンスが不十分であり,実務において重大な多様性を導く恐れがあることを指摘しています。このため,両審議会はサービスに係る収益認識要件を財とは別個に規定することとし,以下の通り①財の移転,②サービスの移転および③財およびサービスの移転に分けて,仮決定を行いました。
① 財の移転
財の移転について両審議会は,顧客が財の「支配」を獲得したときに企業は収益を認識することを仮決定しました。また,ED で提案された支配についてのガイダンスの大部分を維持するものの,「支配」については,定義するのではなく,特徴を記述することとしました。これは,他のプロジェクト(リース,認識の中止および連結)における支配の概念と,ED で提案された支配との関係が不明確であり,また,支配の概念については,概念フレームワーク・プロジェクトにおいて検討される事項と考えられるためです。
財またはサービスの支配を判定するにあたって,ED では,顧客が財またはサービスの支配を獲得しているかどうかを判定するための指標として以下の4つの指標を挙げていました。
・顧客が無条件の支払義務を負っている
・顧客が法的所有権を有している
・顧客が物理的に占有している
・財またはサービスのデザインまたは機能が顧客の固有のものである
今回の両審議会の仮決定により,新たに連結財務諸表プロジェクトにおいて支配の指標とされている「所有に伴うリスクおよび経済価値」が支配の指標の1つとして加えられるとともに,ED で挙げられた上記の4つの指標のうちの4番目の「財またはサービスのデザインまたは機能が顧客の固有のものである」が削除されました。
② サービスの移転
サービスの移転の判定については,以下のいずれかを満たす場合には,契約で合意された作業の実施に対して収益を認識することを両審議会は仮決定しました。
・顧客が仕掛品を支配している
・顧客に対し途中まで義務を履行し,残りの義務を他の企業が実施することとなった場合に,当該他の企業は既に完了している作業を再実施する必要がない
・企業が実施された作業に対して支払いを受ける権利があり,それまでに実施した作業を別途使用することはできない
また,両審議会は,サービス完了に対する進捗を合理的に測定できる場合にのみ,企業は収益を認識できることとしました。その測定方法については,さらなる分析が行わる予定です。
③ 財およびサービスの移転
上記のとおり,財の移転とサービスの移転に対して,異なる認識要件が適用された場合,財とサービスの両方を移転する契約の会計処理が問題となります。この点について両審議会は,
まず財およびサービスが区別できるか否かを判定し,財およびサービスが区別できる場合には,別個の履行義務として,上記の①もしくは②に従って会計処理が行い,他方,財およびサービ スが区別できない場合には,財およびサービスを区別せず,サービスとして②に従って会計処 理が行われると仮決定しています。
4.今後の展開
2011 年2月の IASB とFASB の合同会議では,主に以下のトピックが議論される予定です。
・契約を獲得するためのコスト
・契約の変更
・製品保証
IASB のワークプランでは,「顧客との契約から生じる収益」の最終基準化は2011 年第2四半期 とされており,2014 年以降に適用されることが予想されています。引き続きIASB とFASB の議論は進行中ですが,検討の結果が多くの企業の実務に大きく影響する可能性がありますので,今後の議論の動向を注視していく必要があると考えられます。