第7節 指定管理者第8節 PFI
◇ 論 説 ◇
水道事業の民間化の法律問題
――行政契約の現代的展開――
正 木 宏 長
は じ め に
第1章 水道事業の概観
第1節 水道事業に関する法制第2節 水道事業の現在の課題
第2章 水道民間化の手法第1節 概 観
第2節 私人による水道事業
第3節 従来型業務委託(法定外業務委託)第4節 指定給水装置工事事業者
第5節 登録水質検査機関第6節 包括業務委託
第7節 指定管理者第8節 PFI
第3章 水道事業の「民営化」の類型第4章 結 語
第1節 水道事業の民間化の法律問題第2節 行政契約の現代的展開
は じ め に
一般人の感覚では,水道は地方自治体のような公的機関が運営するものと受け止められているであろう。水道法においては,「水道事業は,原則として市町村が経営するもの」(水道法6条2項)と定められており,水道事業の公営が確認されている。学説においても水道事業は,「市町村が行うにふさわしい事業」1)であるとされていた。
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このように水道事業については水道法で市町村経営の原則が定められており,現実にも水道事業の多くが公営である。ところが,近時,水道事業においても「民営化」2)が主張されている。すなわち,社会資本の老巧化や,団塊の世代の定年退職による地方自治体の人的資源の流出に対応するため,水道事業のような「官」が展開していた機能を,「官」のみで支えるのではなく,「民」も含めた地域全体で支える枠組みの構築が必要になるというのである3)。
本稿は,水道の民間化に関して,民間化によって生じる問題について公法学的考察を行うものである。まず,現在の水道に関する法制について概観した後(第1章),現在の日本の水道事業で行われている民間化の手法を分析し(第2章),そして理論上の水道事業の「民営化」類型を検討した後(第3章),結論を述べる(第4章)。
第1章 水道事業の概観
第1節 水道事業に関する法制
まず,水道に関する法制を概観してみる。水道に関する規律を定めている法律は水道法である。水道法は,「『水道事業』とは,一般の需要に応じて,水道により水を供給する事業をいう」(水道法3条2項)としている。水道事業を営むことについて,厚生労働大臣の認可(水道法6条1項)を受けた者が水道事業者である。水道法6条2項は,「水道事業は,原則として市町村が経営するもの」としているので,水道事業者の多くは市町村であるのだが,都道府県経営や組合経営4),あるいは後述するように民間経営のものもある。基本的には水道事業は自治体経営であると考えて良い。
水道事業のうち,給水人口が5000人以下である水道によって水を供給する水道事業は「簡易水道事業」とされる(水道法3条3項)。簡易水道と区別するために,給水人口5001人以上の水道事業を特に「上水道事業」と
言うことがある5)。
水道事業の民間化の法律問題(正木)
水道水は,取水施設,貯水施設,導水施設,浄水施設,送水施設,配水施設,給水装置を経て需用者に提供される(水道法3条8項,9項)。水道によって提供される水道水は,水道法に基づいて定められる水質基準の遵守が求められ(水道法4条),水道施設には施設についての施設基準の遵守が求められる(水道法5条)。
市町村あるいは都道府県が水道事業の認可を受けて水道事業を運営する場合,水道は地方自治法上,「公の施設」となる。そこで自治体が水道事業を運営する場合は,公の施設に関する地方自治法244条から244条の
4の規定も適用されることになる6)。
また,自治体が上水道事業を経営する場合は,地方公営企業法も適用される(地方公営業法2条,基本的にはいわゆる上水道に限って地方公営企業法が適用され,簡易水道には適用されない)。地方公営企業法により,
「常に企業の経済性を発揮するとともに,その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されなければならない」(地方公営企業法3条)ことが要求される。また地方公営企業法により,設置及びその経営の基本に関する事項を条例で定めることや(地方公営企業法4条),管理者の設置(地方公営企業法7条)が求められ,財務に関する規制(地方公営企業法17条~35条)などがなされる。
第2節 水道事業の現在の課題
わが国の水道事業について,目下,自治体の公営水道の「民営化」 の議論が浮上しつつあることは先述した通りである。その背景には様々な 要因がある。まず,地方自治体の慢性的な財政難がある。わが国の水道事 業は市町村経営が原則であるため,事業規模が零細なものが多いのである が,そのために多くの事業体が赤字になっているというのが現状である7)。さらに団塊の世代の定年により,新たに自治体は水道技術者を雇用しなけ ればならないが,人材確保が,財政面からも最近の人口減少からも困難で
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あるということも指摘されている。
このような問題を抱えた自治体としては,合併等による水道事業の広域化,あるいは民間委託の活用のようなアウトソーシングによって水道事業の効率化を図らざるを得ないというのが現状なのであり,海外の水道の民営化の事例の紹介も活発に行われるようになっている8)。
国も上のような問題は既に把握しており,対策に乗り出しているところである。法律の定めのないところで行われていることではあるが,厚生労働省によって「水道ビジョン」が平成16年に策定されている。水道ビジョンは,水道についての現在と将来の見通しを示すものであり,「21世紀の初頭において,関係者が共通の目標を持って,互いに役割を分担しながら連携して取り組むことができるよう,その道程を示すことを目的としている。」9)
水道ビジョンの法的性質は,国の今後の水道政策の見通しを示すものであるから,行政法学で言うなら,行政計画に位置づけられるであろう。策定に明示的な法律上の根拠を持つものではないが,国の政策決定に事実上大きな影響力を持つであろうことは言うまでもない。
水道ビジョンは,水道の民間化について積極的な方向性を打ち出してい る。すなわち,PFI 法や包括業務委託を導入する水道法の改正,指定管理 者制度の導入などを受けて,「水道事業者相互や民間業者との間で様々な 形態による連携が可能となっているが,その形態にはそれぞれ特性があり,各々の水道事業の抱える課題に対応するために最適な運営形態をいかに選 択していくべきか,需用者へのサービスという視点から幅広い検討を行 う。」として,水道事業の運営形態の見直しに積極的である。もっとも, 続けて「水道の運営管理は,本来,運営に責任を有する水道事業者が自ら 行うべき業務であるとの認識に立」つとして,行き過ぎへの歯止めもかけ ている10)。
水道ビジョンは,水道の運営基盤の強化に係る方策として,「第三者委託の導入が合理的な事業者全てにおいて,第三者委託を導入する」こと
水道事業の民間化の法律問題(正木)
や11),多様な連携の活用による運営形態の最適化として,民間事業者とのパートナーシップをアクションプログラムとして打ち出している12)。
さらに言えば,厚生労働省の定めた水道ビジョンとは別に,厚生労働省は,各水道事業者に対して,水道ビジョンの方針をふまえて目指すべき将来像を描き,その実現のための方策等を定める「地域水道ビジョン」の策定を水道事業者と水道事業者の監督をする都道府県に奨励している13)。この地域水道ビジョンも法律の明確な根拠を持つものではないが,平成17年 10月17日の「厚生労働省健康局水道課長の通知」によって推奨がなされているのである。法律外の行政機関の通知により,水道事業の計画化が進んでいると言える。
第2章 水道民間化の手法
第1節 概 観
自治体の水道事業の経営の危機と,昨今の「官」から「民」へという現 代行政の風潮を受けて,水道事業においても,様々な民間部門の参画がな されている。後述するが,外部委託の活用のような水道の民間化は,水道 の「民営化」が議論の俎上に上がる以前から,自治体によって行われてき た。以下では,水道の民間化と考えられる手法について,個別に検討する。まず,いわば最初から「民営化」された水道であると考えられる私人によ る水道事業を紹介し,次に法定外の「従来型」の業務委託の手法を検討し た後,水道法あるいは水道法以外の諸法が定める各種の「民間化」の手法 を考察する。
第2節 私人による水道事業
水道法6条2項は,「水道事業は,原則として市町村が経営するもの」としているが,その他の者が水道事業を経営することを否定してはいない。すなわち市町村以外の者であっても,後段で「給水しようとする区
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域をその区域に含む市町村の同意を得た場合に限り,水道事業を経営することができる」としているのである。私人であっても市町村の同意を得れば,厚生労働大臣の認可を得て水道事業を運営可能であるというのが現在の水道法の解釈となる。なおこの認可は伝統的行政法学の言うところの
「公企業の特許」としての性質を帯びるだろう。
現在の我が国にも,完全民営による水道事業は存在する。日本水道協会の『水道事業における民間的経営手法の導入に関する調査研究報告書』によると,平成15年度の水道統計では上水道について10,平成14年度の簡易水道統計では97の完全民営の水道事業体が存在しているという14)。
水道法は,地方公共団体以外の者が水道事業の認可を得る際には,要件 として「当該事業を遂行するに足りる経理的基礎があること」(水道法8 条1項6号)を求めているように,地方公共団体以外の主体が水道事業の 認可申請者になることを想定した条文を置いている。だが,前述のように,水道法6条2項で水道事業の市町村経営の原則が定められており,また認 可の際には「給水区域が他の水道事業の給水区域と重複しないこと」(水 道法8条1項4号)が要件とされている。ゆえに,基本的に各自治体が公 営水道を営んでいる現状の下では,水道事業の認可を受けて新規の水道事 業を開業するのは事実上困難であるし,実際問題,水道事業の認可を受け て水道事業を営む民間事業者は先述のように少数にとどまっている。
また,水道法は,水道事業者が施設の改善の指示に従わないとき等に,地方公共団体が当該水道事業を買収することができるとして(水道法42条
1項),水道の公営化への移行のための法的手段を定めている。この買収は協議が調わないとき等に厚生労働大臣が裁定することを予定しているが
(水道法42条3項),裁定の効果については土地収用法に定める収用の効果の例によるとしているので(水道法42条4項),強制力を持った収用権限をも控えた買収であるということになる。
現在の日本では水道事業は基本的に公営で行われるものであり,私人が認可を受けて水道事業を営むことは例外であると考えてよいだろう。もっ
水道事業の民間化の法律問題(正木)
とも理論的可能性としては,民間企業に自治体が水道事業を譲渡する形で の水道の民営化はありうる。もっともこの場合,事業の開始と事業の廃止について厚生労働大臣の認可が必要となるだろう(水道法6条,11条)15)。 私人が水道事業者として認可を得て水道事業を営んでいる場合は, そもそも最初から「民営化」されているということになる。そして,このような経営形態は,水道が「民営化」された場合に生じるであろう法律問
題をもっとも明示的な形で示すだろう。
後述するように水道法上,水道事業の認可を受けた水道事業者には指定給水装置工事事業者を「指定」する権限が与えられている(水道法16条の
2)。そしてこの「指定」は行政処分であると解されているので,私人が水道事業者となる場合は,公権力の行使も授権されていることになる。そこで,水道事業の認可を受けた民間事業者は,上の「指定」権限の行使をする限りで行政庁としての地位を得ることになると考えられる。
私人が水道事業者となっている場合は,需用者との法律関係が,自治体が水道事業者である場合と異なったものとなるであろう。
まず,水道事業者と水道の利用者たる需用者との間に締結される水道水給水契約の性質について,これを公法上の契約であると理解する説もあるが,現在の実務と判例は,水道事業者が公的機関であっても,私法上の契約であると解している。
東京高裁平成13年5月22日判決(判例集未掲載,TKC 法律情報データベース28100339)は,町が水道料金の支払いを怠っていた会社に対して,水道料金支払い請求をした事案であるが,東京高裁は,次のように判示して,水道供給契約は私法上の契約であり,水道料金債権についての消滅時効は2年であると判示した。
「地方自治体が有する金銭債権であっても,私法上の金銭債権に当たるものについては民法の消滅時効に関する規定が適用されるものと解されるところ(地方自治法236条1項は,『金銭の給付を目的とする普
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通地方公共団体の権利は,時効に関し他の法律に定めのあるものを除くほか,5年間これを行わないときは,時効により消滅する。』と定めているが,同項にいう「他の法律」には民法も含まれるものと解される。そして,このように解したとしても,上記規定は,公法上の金銭債権について消滅時効期間を定めた規定として意味を有するのであって,無意味な規定となるものではない。),水道供給事業者としての被控訴人の地位は,一般私企業のそれと特に異なるものではないから,控訴人と被控訴人との間の水道供給契約は私法上の契約であり,したがって,被控訴人が有する水道料金債権は私法上の金銭債権であると解される。また,水道供給契約によって供給される水は,民法 173条1号所定の「生産者,卸売商人及び小売商人が売却したる産物及び商品」に含まれるものというべきであるから,結局,本件水道料金債権についての消滅時効期間は,民法173条所定の2年間と解すべきこととなる。」
本判決について,町は上告したが,最高裁平成15年10月10日決定は,上 告を不受理とした(判例集未掲載,TKC 法律情報データベース28100340)。総務省は,本件最高裁決定が下されるまで,地方公共団体が経営する施
設は地方自治法244条の公の施設であり,その利用料金は同法225条の公の施設の使用料に該当するので,公法上の債権であり,その消滅時効は同法 236条1項が適用されるので5年であると解していた。
しかし,本件最高裁決定が下されたことにより,総務省は最高裁の判断は,水道水給水契約は私法上の契約であり,水道料金債権の消滅時効は2年であると理解し,解釈を改めて,各自治体に対して水道水給水契約の消滅時効を2年とするよう事務連絡をしている16)。
公法私法二分論の否定が行政法学の主流となった現在では,水道水給水 契約を私法上の契約とする本件最高裁決定は比較的受け入れやすいものと 考えられる。また,民間事業者による水道事業が存在することを考えれば,
水道事業の民間化の法律問題(正木)
平仄を合わせるうえでも私法上の契約と考えるほうが妥当であると思われる。事業主体の如何に関わらず,水道水給水契約は私法上の契約であるとしたうえで,「行政契約」特有の法理を検討することが肝要であると考えられる。
私営の水道事業者と需用者との法律関係がもっとも緊迫すると思われるのは,需用者との関係で何らかの不利益扱いを,私営の水道事業者が行う場合である。例えば,水道水給水契約の申し込みに対して,給水拒否をする。あるいは,差別的な料金を設定するというような場合である。
給水申し込みに対しての給水拒否のような場合,水道法15条1項が適用され,水道事業者は「正当の理由」がなければ,契約申し込みを拒んではならない。この場合,水道事業者が私人であろうと公的機関であろうと適用法条は変わらない。違法な給水拒否を行った水道事業者には,水道法53条の定める罰則が科せられる。
差別的な料金の設定のような場合は公的機関と私人とで事情が異なる。最高裁平成18年7月14日判決(民集60巻6号2369頁)は,自治体が,別荘の給水契約者と別荘以外の給水契約者とで差別的な賃金体系を設けて,別荘の給水契約者に対して高額な料金を設定することは,地方自治法244条
3項に違反するとした。
上のような事例では,自治体が水道事業者である場合は,地方自治法 244条3項の公の施設の利用者の平等取扱いの規定が適用されるであろう。だが,私人が水道事業者である場合,地方自治法は適用されない。水道の利用料金のように供給規程で定められている事柄であれば,水道法14条2項4号(供給規程における差別の禁止)に違反することを主張することもできる。だが供給規程で定めている以外のところで私人の水道事業者が水道需用者に差別的な取扱いをしているような場合,例えば,特定の者に対して意図的に申請業務を遅らせるというような場合は,差別的取扱いを主張する需用者の側は,日本国憲法14条1項の法の下の平等の適用を主張するしかないであろう。ところが水道事業者が私人であるというのならば,
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「憲法の私人間効力」が問題となる17)。
この問題について考えると,通説判例とされる間接効力説に立てば,差別的な取扱いを主張する者は民法709条による不法行為の主張などで憲法の原理を主張することになる。
また,水道水給水契約の公的な財を提供する契約自体の性質から,契約自由の原則が修正され,公法的な規制が要請されると考えることもできる18)。水道法15条1項で需用者からの給水契約の申込みについて,「正当の理由がなければ,これを拒んではならない」として,水道事業者に給水義務が課せられていることは,そのような趣旨であろう。
第3節 従来型業務委託(法定外業務委託)
第1款 概 説
従前から水道事業に関連して自治体が用いていた手法として,業務委託がある。水道事業に関しては,メーターの検針や,浄水場のような水道施設の管理(保守点検等)について,民間事業者に委託をするということが従来から行われていた。このような業務委託は,水道法に根拠となるような特段の定めがあるわけではないが,各地の自治体で広範に活用されている。筆者の各地の自治体への取材から得た印象では,この従来型業務委託は実務的な感覚では,民営化というよりも水道業務の一部の民間への
「アウトソーシング」であると理解されているようである。
平成13年の水道法改正で後述する包括業務委託が制度化(水道法24条の
3)されたが,この平成13年改正は,従来まで行われていた個別の業務委託を排除するものではないとされる。従来までの個別業務についての業務委託は,水道法24条の3による包括業務委託と対比するうえで従来型業務委託と呼ばれる。
業務の外部委託は,自治体で広く活用されている。従来から,自治体は,庁舎の清掃や警備,税や児童手当の計算業務,廃棄物の収集,給食
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センターの運営,公の施設の管理等に,私法上の契約の形式で広範に外部 委託手法を用いてきた19)。業務委託契約の適法性については,行政法学上,受託者を手足として事務を行わせても,それは内部関係だけであるので, 対外的には委託団体が責任を負うような事実行為の委託については,委託 に法律の根拠を要しないと解されている20)。
水道についても,水道事業者である市町村は従来から,メーター検針等について業務委託を用いてきた。もっとも業務委託を行うことについて抵抗がなかったわけではない。
昭和40年に,地方公営企業の経営状態の悪化を受けて,地方公営企業制度調査会は,「地方公営企業の改善に関する答申」において,水道事業における料金徴収の事務などについて,民間委託,共同処理などの方法を積極的に採用し,極力費用の節減に努めるべきであるとしている21)。だが,昭和55年7月8日付けの厚生省の通達では,「水道施設の維持管理業務の一部を外部に委託する事例が多くなっているが,水の管理は基本的には水道技術管理者の監督下にその職員が行うものとされていることに鑑み,現に水道事業体において行っている業務を委託業務に安易に移行させることは好ましくない。」との見解が示されていた22)。
水道についての業務委託は,このような慎重論も有る中で,臨調行革時の規制緩和の潮流の後押しを受けて,水道事業者たる自治体の事務合理化の努力として着々と進行していったのである23)。
従来型業務委託は,水道事業についてメーター検針,料金収納,窓口・受付業務,水質試験・検査,計測機器やコンピューターの維持管理,水道施設の設計,電気・機械設備の保守点検といった業務について用いられている。水道協会のアンケートの統計によれば,水道協会正会員の事業体では,水質試験・検査業務については全事業体の96.3%,電気設備の点検・保守業務については全事業体の92.2%,メーター検針業務については全事業体の96.9%,浄水施設の運転管理については全事業体の48.7%,水圧等の調整業務では全事業体の22.6%が,従来型業務委託を実施している
とのことである24)。
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もっとも上の統計の業務委託には,地方自治法252条の14を根拠とする他の普通地方公共団体への事務の委託や地方公社や第三セクターや個人・自治会への委託も含まれている。だがそれは民間の事業者への事務委託が割合的に少ないということを意味しない。委託先の詳細は統計によれば,水質試験・検査業務は51.9%,電気設備の点検・保守業務については 84.0%,メーター検針業務については37.8%,浄水施設の運転管理業務については80.1%,水圧等の調整業務では93.5%が,民間事業者への委託である。他の委託についても,民間事業者への委託の割合が高い数値を示している25)。
このような従来型業務委託の法的性質であるが,委託先が私人である限りは民法上の委任・準委任なり請負なりの私法上の契約であるということになろう26)。なお,従来型業務委託は私法上の契約として締結されるのに対して,後述する水道法24条の3の包括業務委託は水道法の責任を伴う委託であるとされ,水道法24条の3の包括業務委託の制度化は,従来型の私法上の委託に制約を設けるものではないとされている27)。
従来型業務委託の法律上の根拠として,水道料金の徴収・収納について は,地方公営企業法33条の2が,「管理者は,地方公営企業の業務に係る 公金の徴収又は収納の事務については,収入の確保及び住民の便益の増進 に寄与すると認める場合に限り,政令で定めるところにより,私人に委託 することができる。」としていることから,さしあたり法律の明文上の根 拠が有る。また,水道事業者たる自治体が,他の自治体に地方自治法252 条の14により事務を委託する場合は公法上の事務の委託になると言える28)。だが,窓口・受付業務のような業務が私人に委託される場合は,特に法律 の根拠がなく私法上の契約によって私人への委託がなされていると言って もいいだろう。水道法24条の3によらない従来型業務委託が「法定外委 託」と呼ばれるゆえんである29)。
このような私人との私法上の契約による業務委託によって,水道事業者
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たる自治体の責任が減ぜられることはない。すなわちこのような委託は,水道事業者に法律によって課せられた責任を委託先に移転させるものではないので,受託者が何らかの事故を引き起こした場合,水道の需用者との関係での法的責任は委託者である自治体に課せられることになる。
全水道事業体の90%以上が既に,業務委託を活用して,なんらかのアウトソーシングを行っているというのが現実である。水道事業の市町村経営の原則から,法律の条文上は,自治体職員が水道事業を自らの手で行っているかのような印象を受ける。ところが,このような法律の条文上の印象とは裏腹に,現場では既に法定外での民間への委託が進行しており,最近の潮流であるとさえ言えるのである。ある民間企業は,平成17年4月末の段階で既に,浄水場については137箇所,その他の水道施設については160箇所で受託実績があるとのことである(これは一企業の実績である)30)。
従来型業務委託を活用している自治体としては,福島県の三春町が先進的な取り組みをした自治体として知られている。三春町は1980年から業務委託を進めており,その結果,水道事業について町職員を15人から3人に削減し,費用にして約5580万円の削減を行ったと試算されている31)。三春町は上(下)水道施設の運転管理業務と上(下)水道料金経理事務 を民間事業者に業務委託しているのだが,この結果として,いかなる事務が自治体の「直営」業務となり,いかなる事務が委託事務となっているの
だろうか。
三春町役場作成の資料によると,例えば料金会計業務の直営・非直営の区分は次の通りである。まず直営業務としては,料金業務のうち「開・閉栓作業」「停水執行」「苦情処理」「給水工事受付」「料金の減免取扱」,会計業務のうち「支払指示」「預金通帳,証書,現金の管理」,「予算書作成」
「決算書作成」「補助金申請業務」「企業債借入事務」「負担金,手数料事務」「例月出納検査,受検資料作成」がある。以上が直営の業務であり,町の職員が直接処理する業務である。
業務委託により委託先企業の職員が処理する業務は次の通りである。料
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金について,「給水関係受付」,「検針」「催促状作成」「漏水認定」「水量推定」「料金計算」「金融機関振替,再振替依頼」「直接納入者への通知書作成」「水道料金徴収簿,滞納者リスト作成」「給水業務統計作成」。会計については「収入処理」「支出処理」「振替処理」「出張命令票作成」「金銭日計表作成」「勘定整理月計表作成」「合計残高資産表作成」「決算資料作成」
「消費税計算」「固定資産台帳の管理」「企業債台帳の管理」「貯蔵品台帳の管理」。以上が委託先企業が処理する,非直営の業務である32)。
このように,「法定外」の従来型業務委託によっても,水道事業についての自治体の事務は大幅にアウトソーシングが可能であり,また実際に行われているということになる。なお,三春町は水道法の平成13年改正以前から浄水場管理等について業務委託を進めていたが,平成13年改正によって後述の包括業務委託が水道法に制度化されたこともあり,現在では浄水場の管理については水道法24条の3による包括業務委託として委託契約を締結している33)。
三春町の場合,簡単にまとめると料金会計について町の職員が自ら行う直営の事務は,停水執行,給水工事受付,補助金申請,企業債借入,あるいは予算書・決算書の作成のようないわば法律的又は政策的な決定を伴う業務に限定されており,料金徴収についての窓口業務や庶務,会計についての資料作成や庶務の多くが民間企業に委託されているのである。なお,筆者の取材では,水道料金滞納者について水道管を最終的に閉栓する(上の列挙で言う「開・閉栓作業」「停水執行」)を直営にしているのは,企業局の職員が町民と接する機会を確保するためとの回答が得られたことを付記しておこう。また,筆者が取材において,担当職員に水道料金の滞納について未納債務の民事執行をする際は直営か非直営かを質問したところ,事務としては直営であろうが,水道料金滞納者は生活困窮者であることがほとんどであるため,三春町は息の根を止めることになる民事執行は行っていないとの回答が得られた34)。
他に,筆者が目についた限りで,近時の取り組みを挙げるのであれ
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ば,倉敷市は平成19年に未納水道料金の催促・徴収について民間事業者に委託している35)。加古川市は平成19年に水道お客様センターの窓口業務
(水道の使用開始や使用中止届出の受付業務,窓口での水道料金の収納,メーターの検針,支払い催促など)を民間事業者に委託している(委託に際して,「加古川市水道事業の水道料金等徴収及びその他業務委託に関する規程」が定められている)36)。
私法上の契約の形式での業務委託については,既に述べたように現業的な業務を内部的に委託する限りでは適法であると解されている。上水道事業については地方公営企業法33条の2で料金徴収の私人への委託も認められているので,現状の各自治体の事務委託の取り組みは,法的にはさしあたり適法であると言えそうである。
業務委託の適法性が問題となるのは,水道法上,水道事業者が行うべきものとされている事柄を法律上の責任をも,委託側が事務を委譲するような形で受託者側に委託するような場合や,およそあらゆる業務を民間業者に委託して,水道事業者たる自治体の権限行使が形骸化している場合――形式的に決裁しているだけになっているような場合――であろう。
第2款 業務委託の実態――水道メーター検針の委託の場合――
業務委託契約の活用によって,いかなる問題が生じるかは実態に即して検討されなければならない。ここでは従来型業務委託の一つにカテゴライズされる水道メーター検針の委託について見てみる。
各建物には水道使用量を測定する水道メーターが備え付けられているが,水道料金の算定にあたって,メーターの検針がなされる。定期的に各建物 の水道メーターの検針がなされなければならないのであるが,水道事業者 たる自治体の中には,この水道メーターの検針業務を,個人あるいは企業 に委託している自治体がある。委託にあたっては「水道メーター検針」を 委託するという形で契約が結ばれる。
委託の形式として,個人に直接,水道メーター検針を委託する場合と,
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企業に水道メーター検針を委託する場合がある。
自治体と個人が水道メーター検針の委託契約を結んだ場合,個人は通称
「検針員」として各建物の水道メーターの検針に従事し,行った検針数に応じて委託料が支払われる。自治体と企業が水道メーター検針の委託契約を結んだ場合,企業は,従業員等にメーター検針を行わせて,自治体から委託料を受け取ることになる。この場合,メーター検針を行う当該企業の従業員が「検針員」と呼ばれる37)。
このような水道メーター検針の委託について法律問題があるとすれ ば,法律による規律がほとんど及ばないところで,従来型業務委託により,私人による事業遂行が行われていることである。地方公営企業法33条の2 は,地方公営企業の業務に係る公金の徴収又は収納の事務について,私人 に委託することができる旨定めており,一部の自治体の委託に関する規程 は,委託の根拠条文として地方公営企業法33条の2を挙げている38)。メー ターの検針は水道料金の徴収という文言に含まれていると解しているので あろう。
地方公営企業法33条の2は,委託について「収入の確保及び住民の便益の増進に寄与すると認める場合に限り,政令で定めるところにより」,私人に委託することができるとしているので,条文上,私人への委託について,一応の制限はなされている。だが実際には,この規定は水道事業については私人への委託の歯止めとはなっていないようである。また政令である地方公営企業法施行令も26条の4で,公金の徴収又は収納の委託について委託した旨の告示と公表を求めていることが目につく他は,特段の規律をしていない。
国の法令が特段の定めを置いていないので,自治体の条例等での規律の余地が広いとも言える。自治体は,委託の手続等について企業局などの
「規程」で詳細を定めていることが多い39)。この「規程」は地方公営企業法10条の企業管理規程であると解される40)。この種の規程は少なくとも法規ではないので,講学上の行政規則であると解されるのであるが,後で見
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るように,各地の自治体の水道メーターの検針の委託に関する規程で定められている事柄には外部の受託者との関係を定めたものが多い。
このように「規程」で,メーター検針の委託に関する規範が設定されるのだが,どのような規律がなされるかは自治体によって異なっている。規律の例を挙げると次のようなものがある。
① 「受託者の資格」。破産者や成年被後見人でないこと,連帯保証人を有することを資格要件とするといったことが定められる。
② 「契約手続」。申請者の申請を審査して,メーター検針の委託契約を締結することが定められる。
③ 「検針区域」。受託者の検針区域について協議によって定めることが定められる。
④ 「委託料」。委託料につき定めが置かれる。個別の委託料については別に定めるとするものもあれば,検針1件につき60円というように具体的な金額について定めが置かれている例もある。
⑤ 「契約解除の定め」。30日前に届出をするといった受託者側からの契 約解除の手続や,受託者に「水道事業の信用を著しく傷つける行為が あったとき」や,「受託者の検針成績が悪く,かつ向上の見込みがな いとき」委託をした自治体側から契約解除ができることが定められる。
⑥ 「検針機器の貸与」。検針に必要なハンディターミナル等の貸与が定められる。
⑦ 「身分証の保持」。検針の際に委託を受けた旨の身分証を保持し,関係人から請求があったときその提示をしなければならないことが定められる。
⑧ 「損害賠償」。検針員が市に損害を与えた場合,損害賠償をしなければならないことが定められる。
⑨ 「報告義務」。委託検針員が水道の不正使用を発見したときに管理者に報告しなければならないことが定められる。
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⑩ 「委託期間」。1年おきに更新するというように委託期間が定められる。
上の①~⑩の列記は各自治体の「規程」から抜き出したものである。実際に制定されている「規程」では,上の列記事由の全てを定めているも のは筆者が散見したものでは無かったし,仮に有るとしても少数であろう という印象を受けている。また,他の定めを置いている自治体もあった。 つまり,水道メーター検針の委託についての「規程」の内容は自治体に よって様々であるということである。
「規程」という法規範の形式としてはフォーマルさを欠いた形式で規範が設定され,「委託契約」という行為形式で私人によって行政の事務が遂行される。このような自治体行政の現実をどのようにとらえるべきであろうか。筆者は,この問いに対して確たる答えを持っていない。
積極的にとらえるならば,コスト削減のための努力として,国の法令制定に先行して,自治体が先進的な取り組みを行い,そこでは,自治体の現場部局が自主的に定めた「規程」によって,地域での自主発生的な規律が形成されていると言える。
消極的にとらえるならば,法律や条例による民主的なコントロールを欠いたまま,役所の現場判断で定められた非民主的な「規程」によって規範が形成され,行政の事務が私人に委託されているとも言える。
また,個人に水道メーター検針を委託する場合,契約が締結されているのだが,公務員の任用が通説では行政行為によるとされるのに対して,ここでは事務を委託するという形で契約による事務遂行が行われていることも注目に値する。ここでは事務委託契約を用いることで,法律上の公務員の地位を与えることなく(よって,公務員の任用の性質が行政行為であるか契約であるかは,ここでは問題にならない),特定個人を行政事務遂行に組み込むことが可能になっているのである。
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第4節 指定給水装置工事事業者
従来から存在する水道事業で民間事業者を活用する制度として,指定給水装置工事事業者の制度と登録水質検査機関の制度がある。これらは各々,水道法に根拠を有している。
指定給水装置工事事業者の制度は,平成8年に「民間活動に係る規制の改善及び行政事務の合理化のための厚生省関係法律の一部を改正する法律」の制定により,水道法が改正されたことによって導入された制度である。
給水装置とは,水道法の定義によると「需要者に水を供給するために水道事業者の施設した配水管から分岐して設けられた給水管及びこれに直結する給水用具」である(水道法3条9項)。水道利用者の家屋の屋内屋外の給水管,水道栓や水道メーターなどがこれにあたる。
給水装置の構造及び材質について政令で定める基準に満たない場合,水道事業者は給水契約の申込みの拒否や給水停止を行うことができるとされるが(水道法16条),水道事業者が給水契約の申込みに際して自ら,基準適合性を審査すると大きな労力がかかるであろう。そこで,水道給水装置の工事をする工事店をあらかじめ水道事業者が指定し,その指定工事店が水道給水装置の工事をした場合,水道事業者による施設の基準適合性審査を免除することができるというのが指定給水装置工事事業者の制度の概要である。
導入時の厚生省の通知41)によると,指定給水装置工事事業者の制度の 導入の目的は,規制緩和と行政事務の合理化である。通知によれば,それ まで水道事業者ごとに行われていた給水装置の水道工事代行店の制度では,指定要件が水道事業者ごとに異なったり,参入制限的な指定要件の設定が 行われていたことから,新たに水道法に給水装置工事事業者の指定制度を 設けて,明確かつ一律の指定の基準を定めるとのことである。
上の厚生省の通知に記述されている通り,水道法で指定給水装置工事事業者の制度が設けられる以前から,自治体は条例やあるいは規程で工事代
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行店の制度を設けていた。だが,そもそも水道事業者たる自治体が,給水装置工事を民間事業者に行わせること自体について,適法性に疑義があった。つまり,自治体が自ら工事も行わなければならないのではないかということである。
水道法の指定給水装置工事事業者の制度が導入される以前に下された横浜地裁昭和54年4月23日判決(判例時報941号27頁)では,水道条例で工事代行店の制度を定め,工事代行店に給水装置工事を行わせることについて,次のように述べて適法としている。
「右のとおり,市水道の給水装置工事に関する代行店の制度は,その法律上の根拠を水道条例及びこれに基づいて管理者が制定した規程に有しているのであるが,水道法は,給水装置工事について,水道事業者が供給規程で右工事費用の負担区分を定めなければならない旨規定するのみで,同工事を誰が施行するか定めていない。」
「確かに,給水装置工事を含む水道工事業について営業許可等の法律上の規制は行なわれていないけれども,水道法の右規定は,費用負担区分の定めを置くべきことを命ずることによつて,水道事業者自ら給水装置工事の設計施行をすることのある場合を当然予定しているということができるし,また,水道事業者自ら給水装置工事を施行することを禁止しなければならない合理的理由を見いだし得ないことからすれば,公営水道事業者である市町村が,その条例により,当該公営水道の給水装置工事を自ら行なうものとし又は水道衛生上の見地から一定の技術水準にある者をしてこれを行なわしめることができる旨定めても,地方自治法14条1項に違反するものとは解せられない。」
水道法の指定給水装置工事事業者の制度は,上のように条例等で指定工事店の制度を設けて,事業者に工事を行わせていた自治体の実務を受けたうえで,法制化されたのである42)。
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指定給水装置工事事業者の制度を見てみると,まず,水道事業者は,水道によって水の供給を受ける者の給水装置の構造及び材質が,政令で定める基準に適合することを確保するため,当該水道事業者の給水区域において給水装置工事を適正に施行することができると認められる者の指定をすることができる(水道法16条の2第1項)。そして水道事業者はこの指定をしたとき,水供給を受ける者の給水装置が指定給水装置工事事業者の施行した給水装置工事に係るものであることを水道水供給の条件とすることができる(水道法16条の2第2項)。この場合は,供給規程で定めれば,指定給水装置工事事業者の施行した給水装置工事ではないことを理由に,給水契約の申込みの拒否や給水停止をすることができる(水道法16条の2第3項)。
水道事業者の指定給水装置工事事業者の「指定」は,申請によって行う
(水道法25条の2)。申請が,水道法25条の3の定める要件に適合しているときは,水道事業者は指定をしなければならない(水道法25条の3)。
水道事業者が行う指定給水装置工事事業者の「指定」は,指定給水装置工事事業者に後述するような法律上の義務が設定されることから,講学上の行政行為にあたると考えられる。先述の横浜地裁昭和54年4月23日判決は,指定給水装置工事事業者の制度が水道法に導入される以前の判例であるが,次のように述べて,条例に根拠を置く工事代行店の指定行為の処分性を認めている。
「代行店に関する法律関係から考察すれば,水道条例上,公営水道である市水道の給水装置工事の施行は水道事業者である市において行なうことが前提とされ,その例外として,被告において水道衛生上の見地から,一定の知識,技術,人的・物的設備を有すると認めた者である代行店に対しては,各種の特別な法的規制を加えたうえで,市に代行して給水装置工事のうち所定範囲の設計施行を行なうことができることとし,市が施行したのと同様の効果を確保しようとしたものと解
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される。右のような法的資格を付与する法的効果を伴う代行店の指定は,営業の許可とは異なるものではあるが,水道条例等に基づいて被告が行政庁として国民の権利義務ないしは法的資格を形成する行為ということができ,従つて,被告による代行店の指定行為は,公権力の行使たる行政処分に当たると解するのが相当である。」
指定給水装置工事事業者は,事業所ごとに給水装置工事主任技術者を置かなければならない(水道法25条の4)。また,指定給水装置工事事業者は厚生労働省令で定める給水装置工事の事業運営に関する基準に従うことが求められる(水道法25条の8)。そして水道事業者は,指定給水装置工事事業者に対して,給水装置工事に関する報告や資料の提出を求めることができ(水道法25条の10),指定給水装置工事事業者が指定要件に該当しなくなった場合等には指定の取消しをすることができる(水道法25条の 11)。
指定給水装置工事事業者の制度は,給水装置の工事という法学的に言えば事実行為を民間事業者に行わせるに関して,多くは自治体である水道事業者が,適格な民間事業者を事前に「指定」するという制度である。供給規程で定めれば,指定給水装置工事事業者による給水装置工事の施行を水道水給水申込みの要件とすることができるので,この場合は適法に工事ができる給水装置工事事業者を「指定」により公権的に設定するということになる。
横浜地裁昭和54年4月23日判決は,横浜市条例の解釈から市が工事を自ら行うのが前提で,代行店が市の代行を行っていると捉えている。だが,水道法の指定給水装置工事事業者の制度を,給水装置工事事業者が,いわば水道事業者が本来行うべき事務を代行しているという風に把握するべきであるかどうかには一考の余地がある。少なくとも水道法には給水装置工事に関して,水道事業者が直営で行わなければならないことを示唆する条文はない。むしろ,実務では指定給水装置工事事業者の「指定」に関する
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水道法16条の2について,「ほとんどの水道事業者は給水装置工事事業者の指定をすることを前提とする」と解されている43)。給水装置工事に関しては,本来は水道事業者が直営で行わなければならないという命題は,すくなくとも法律である水道法からは導けないと考えて良いと思われる。
指定給水装置工事事業者の制度は,各地の自治体でバラバラに行われていた工事代行店の実務について,全国一律の基準を設定するものとして導入された。しかし施行から10年が経過し,数々の問題が生じてきており,現在,厚生労働省は「指定給水装置工事事業者制度に関する検討会」を設けて,指定給水装置工事事業者の制度の見直しを行っている44)。
「指定給水装置工事事業者制度に関する検討会」での資料によると,指定給水装置工事事業者の指定取消しについて,平成10年以降,水道事業者によって698件の指定取消し(水道法25条の11)が行われているという45)。講学上の許可の取消し・撤回にあたると考えられるが,決して少ない数値ではないであろう。
また,指定給水装置工事事業者の事業の変更や廃止には届出が必要であるが(水道法25条の7),届出無しに勝手に廃業する指定給水装置工事事業者が存在し,住民から指定給水装置工事事業者一覧表から業者を選んだが連絡が取れないなどといった苦情が寄せられて,各地の自治体が苦心しているようである。事実上廃業状態なのでは,指定の取消しで対応するしかないが,指定の取消しをするには行政手続法上,聴聞が必要になるのでそれが自治体の負担となるという問題もある。さらに住民から指定給水装置工事事業者について優良事業者を教えて欲しいという要望が寄せられるということや,連絡がとれなくなった業者が存在することについて,業者の情報を開示することが法律に触れるのではないかということも懸案になっているという46)。行方不明の業者の氏名を公表するというのは,事実上の制裁として機能するが,基本的には住民への情報提供であって適法であると考えるべきであろう。
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第5節 登録水質検査機関
水道事業者は定時及び臨時の水質検査を行わなければならないが(水道法20条1項),水道法は,この水質検査について,水道事業者は水質検査を行うために必要な検査施設を設けなければならないとしている(水道法 20条3項前段)。しかし小規模自治体にとっては水質検査の検査施設を設けるというのは大きな負担になる。そこで水道法は水道事業者が行う水質検査に関して,「地方公共団体の機関又は厚生労働大臣の登録を受けた者に委託」する場合は,検査施設の設置の免除を認めている(水道法20条3項後段)。つまり,保健所や地方衛生研究所のような地方公共団体の機関や,厚生労働大臣の登録を受けた登録水質検査機関への委託を認めているのである47)。
登録水質検査機関の制度は法改正を経ている。もともとは昭和52年の水道法改正によって設けられたものであるが,平成15年の水道法改正の際,水質検査機関の「指定」から「登録」に改められた。この法改正は,公益法人改革に関連して,規制緩和を意図したものである。平成15年改正以前は,「厚生大臣の指定する者」に委託した場合の水質検査の義務の免除を定めていだけで,詳細に関する規定がなかった(このような条文の意味するところは幅広い行政裁量である)。平成15年改正で,「指定」を「登録」に改めるとともに,申請が登録の要件を満たしている場合は登録しなければならないといった登録手続や,違反のあった機関に対しての業務停止命令等が,水道法が規定され,登録水質検査機関に関する規律の明確化がなされた48)。
登録水質検査機関の制度の概要を見てみると,まず,登録水質検査機関は,申請者の申請によって厚生労働大臣に登録される(水道法20条の2)。厚生労働大臣は登録基準を満たした申請であれば,登録しなければならない(水道法20条の4)。登録を受けた登録水質検査機関は,水質検査の委託の申込みに対して受諾義務を負い(水道法20条の6),業務規程や業務の休廃止について届出義務を負う(水道法20条の8,9)。厚生労働大臣
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は,登録水質検査機関が基準に適合しなくなったと認めるときは登録水質検査機関に適合命令を下すことができ(水道法20条の11),委託の受託義務違反等に対しては改善命令を下すことができる(水道法20条の12)。また厚生労働大臣は登録水質検査機関の登録の取消しや業務停止処分を行うことができる(水道法20条の13)。
登録水質検査機関の制度については,条文から,水道事業者が自ら検査施設を設けて水質検査を行うべきところ,特に委託によって登録を受けた民間事業者に水質検査を行わせることを可能にしたという趣旨が窺えるところであり,この点で指定給水装置工事事業者の制度とやや性格が異なっていると考えられる。
第6節 包括業務委託
「水道の民営化」という言葉が,水道法解釈の議論の俎上に上がっ たのは,水道法の平成13年改正の際である。このとき水道法24条の3が新 設されて,水道事業者は,「水道の管理に関する技術上の業務の全部又は 一部」を「当該業務を適正かつ確実に実施することができる者として政令 で定める要件に該当するものに委託することができる」とされたのである。
水道法の平成13年改正以前は,日本水道協会が作成した指針である,
「水道維持管理指針」が,浄水処理全てを委託してしまういわゆる全面委託は水道事業者としての責任を全うできないため水道法上許されないとの解釈を示していた49)。水道法の条文で技術上の業務について全面委託することができると明記されたことは,立法による方針の転換であった。
この改正は水道の民営化に道を開くものとも受け止められた50)。もっとも制度の内容自体は,従来の公営の水道事業という原則を維持しつつ包括業務委託を法定するものであって,従来型の業務委託を否定するものではなく,新しい委託制度を設けることで,水道事業者の管理体制強化の選択肢の充実を図るというのが目的であった51)。
水道法24条の3による委託は,単に第三者委託と呼ばれることもあるが,
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それまで自治体で行われてきた法定外の「従来型業務委託」と区別するときは,「包括業務委託」と呼ばれる。
水道法24条の3第1項は「水道事業者は,政令で定めるところにより,水道の管理に関する技術上の業務の全部又は一部を他の水道事業者若しくは水道用水供給事業者又は当該業務を適正かつ確実に実施することができる者として政令で定める要件に該当するものに委託することができる。」とする。本項による業務委託は,「水道の管理に関する技術上の業務の全部又は一部を」委託するものである。委託先としては,他の水道事業者なども法文上挙げられており,必ずしも民間事業者に委託されるというわけではないが,「当該業務を適正かつ確実に実施することができる者として政令で定める要件に該当するもの」として民間事業者が委託先として浮上してくる。
委託される業務は,「水道の管理に関する技術上の業務の全部又は一部」である。具体的には水道施設の運転・保守点検や水質検査を含む水質管理,給水装置の検査が挙げられる。水道法24条の3による包括業務委託はこれ らの技術上の業務を一の事業者に一括して委託することに特徴があり,そ れ故に包括業務委託と呼ばれる。例えば浄水場の技術上の業務を委託する ような場合,複数の事業者に分割して委託するということはこの制度では できないとされる52)。もっとも,水道事業全体から見れば,包括業務委託 と,先に挙げた従来型業務委託を併用するという事例が見られる。例えば,包括業務委託によって浄水場の管理を事業者Aに委託し,窓口業務は従来 型業務委託で事業者Bに委託するといった具合である。
包括業務委託の受託者は,水道事業者と同様に水道技術管理者を置くこ とが求められる(受託水道業務技術管理者,水道法24条の3第3項)。受 託水道業務技術管理者は,委託された業務の範囲で,水道技術管理者の行 うべき業務に従事することになる(水道法24条の3第4項)。包括業務委 託の特徴は,法律上の責任が委託者から受託者に移ることにあるとされる。すなわち,委託を受けた業務の範囲で,水道管理業務の受託者が水道事業
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者と見なされて,水道法の一部の条文(給水開始前の水質検査と記録の作成,給水装置の検査,水質検査の実施と記録の作成,給水の緊急停止,厚生労働大臣による報告徴収や立入検査など)が適用され,逆に,委託側の水道事業者に前記の水道法の条文の適用はされなくなるのである(水道法 24条の3第6項)53)。この条項に従って,受託者は委託契約によって水道事業者に代わって水道法上の責任を負うことになり,これらの業務について受託者が業務を適正に実施しない場合には,受託者自身が法律上の責任を問われ,罰則を受けることになる54)。
なお包括業務委託を行ったからといって,水道事業者と需用者との法律関係に変化が起こるわけではない。経営を行うのは水道事業者なので,例えば,仮に受託者側の不手際で常時給水義務の不履行があったとすれば,水道事業者は需用者に対する責任を免れないのである55)。
水道法24条の3の包括業務委託を制度開始から早々に導入した自治 体として,広島県三次市がある。三次市は,浄水場の施設改善と維持管理 のために技術者の養成をするのにはコストがかかり,さらに技術力の維持 に困難が伴うという問題意識から,行政改革の一環として,平成14年11月 に水道法の包括業務委託制度を導入した。委託先は民間の株式会社であり,委託する業務の範囲は,2カ所の浄水場,15カ所の配水池,16カ所のポン プ所の運転管理と,そして法定の水質検査である。委託期間は5年5ヶ月 である(現在委託契約は更新されている模様である)。
三次市は,包括業務委託によってコスト削減と安全性の向上について成果を収めたが,コスト削減は料金でフィードバックできるほどには至っていないと認識しているようである。また休日の業務について,委託によって市の職員の当直がなくなって労務管理が容易になったという副産物もあったようである。
三次市の水道事業の他の業務について見てみると,水道管路の拡張や経理といった事柄は市の直営である。料金徴収とメーター検針の一部については包括業務委託の受託先の企業とは別の民間株式会社に委託していると
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いう。この委託は包括業務委託ではなく,従来型業務委託によっている。民間企業に委託したメーター検針については,個々のメーター検針員への指導は受託先の企業が行っているということである56)。
このように見てみると,水道法24条の3の包括業務委託の制度は,従来 型業務委託と排他的な関係に立つものではないということが分かるだろう。既に述べたように,包括業務委託の制度は浄水場等の管理のような技術的 業務の委託を想定している。料金徴収のような業務については,別に従来 型業務委託を活用する余地があるのである。
包括業務委託制度は,平成14年の水道法改正の際,期待を伴って導入されたのだが,委託導入についての検討手法が普及していないなどの理由から,実施事例が少数にとどまっているとされる。そのため厚生労働省は,平成19年11月に,「中小規模の水道事業者における浄水場施設の運転業務委託業務を想定しつつ,第三者委託の導入検討の考え方等について整理」した手引きを作成して導入の指針としている57)。
第7節 指定管理者
平成15年の地方自治法改正により,地方自治法244条の2第3項で
「指定管理者制度」が導入された。これは普通地方公共団体の「公の施設」
(地方自治法244条1項)について当該普通地方公共団体の指定する者に,管理を行わせることができるというものである。
指定管理者制度については,現在,駐車場や公民館といった諸種の施設で導入が進められているが,水道も地方自治法の「公の施設」に該当するために,指定管理者制度の適用の余地があり,実際に水道についても,後述の高山市は指定管理者制度を導入している。
指定管理者制度の実施の手続,指定管理者が行う業務の範囲は条例によるとされる(地方自治法244条の2第4項)。指定管理者の指定は期間を定めて行われる(地方自治法244条の2第5項)。
水道事業に指定管理者制度を導入した自治体として岐阜県高山市がある。
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高山市は「高山市水道事業の設置等に関する条例」の4条の2で「浄水場の管理に関する業務は,地方自治法第244条の2第3項(略)の規定により,指定管理者(略)に行わせるものとする。」と定めている。指定の手続は「高山市公の施設における指定管理者の指定の手続等に関する条例」で定められており,他の公の施設への指定管理者の指定の手続と異なるところはない58)。
指定管理者制度は地方自治法上,指定の手続として条例制定による議会の関与が法定されているので,これまで見てきた委託手法に比べると議会関与による民主的統制の度合いは強いと言えるだろう。
指定管理者制度の導入に際しては,指定管理者の指定に併せて,通常は細目的事項を定める協定が自治体と指定管理者との間で締結される。高山市の場合も,「高山市公の施設における指定管理者の指定の手続等に関する条例」の7条で協定の締結を義務づけており,水道事業への指定管理者制度の導入に際しても,市と指定管理者との間で協定が締結されている。協定では,指定管理者の行う業務の範囲や,リスク分担,備品等の扱い,指定管理料,損害賠償等について定めが置かれている59)。
この指定管理者と自治体との間で締結される協定の性質については,指定が行政行為であるから協定も行政行為ないし行政行為の附款であるとする説と,協定が合意によって締結されることから協定は行政契約であるとする説とに分かれている60)。
高山市と指定管理者との間の協定書を見ると,協定の26条で,指定管理料について詳細は本協定とは別に「年度協定」で定めるとしており,協定の28条で,市も指定管理者も不測の事態などがあった場合,指定管理料の変更を申し出ることができるとし,この申し出に対して協議に応じなければならないことを定めている。筆者が取材の際,年度協定での指定管理料の具体的な金額はどのようにして決めるのかを質問したところ,最終的には指定管理者と市との協議で定まることになるとの返答が得られた。指定管理者の指定は3年(協定7条)であるのに対して,年度協定は毎年締結
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されることも考えると,本協定はともかく,少なくとも年度協定については行政契約と考える方が実態に即し妥当であろう。本体の行政行為と離れて附款部分が年度毎に生成されるというのは,従来の行政行為の附款の概念に収まらないと思われる。そして,年度協定は協議によって定められているので行政契約であると説明するほうが,妥当であるように思われる。 水道事業に指定管理者制度が導入される場合,業法としての水道法 の性質に由来する問題がある。水道事業を行うためには水道法上,水道事業を行うことについての厚生労働大臣の認可が必要である(水道法6条1項)。そこで,水道法上,水道事業者が行うものとされる業務は,認可を受けた水道事業者しかなしえないと考えられる。つまり,指定管理者制度を用いて,水道事業全体をある民間事業者に行わせようとする場合には相手方事業者も水道事業の認可を得ていなければならないと解されるのである61)。だが,水道の市町村経営原則により,民間事業者に水道事業の認可が与えられるのは例外的な場合のみである。よって,現状では,水道事業全体について指定管理者制度を導入し,民間事業者に完全に一任するとい
うのは困難である。
水道事業について指定管理者制度が導入可能であるのは,現実的には,上のような水道法上の水道事業者の法律上の責任に抵触しないような場合に限られる。要するに認可を受けた水道事業者の水道法上の責任を指定管理者に移譲させないような形であれば,水道事業についても,水道法の認可を受けていない民間事業者を指定管理者として指定することができるのである。つまり,指定管理者に事実行為である事務を処理させるよう形であれば,相手方が水道法の認可を受けていない民間事業者であっても,水道事業の指定管理者として指定可能である。
高山市を手がかりに水道事業への指定管理者制度の導入を見てみると,水道事業に指定管理者制度を導入するに際し,取水源や浄水場の維持管理を行わせるために指定管理者を指定するといった形で行っている62)。高山市の場合,水道法24条の3の包括業務委託契約で指定管理者となって
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いる業者に委託を行っている。この業者は水道法の認可を得ていない。前述の通り,水道法上,水道事業者が行うものとされる業務は,法文上,水道事業者が行わなければならないことになり,水道法の認可を得ていない指定管理者に責任を移転させることができないので,結局水道法の包括業務委託契約を併用しているとのことである63)。
高山市で指定管理者に行わせている業務の種類は,水道法24条の3の包括業務委託で委託する場合とそれほど変わらない。水道法の包括業務委託は,水道法で水道事業者が行うとされている事務も制度上委託可能となっているため,指定の相手方が水道法の認可を得ていない場合は指定管理者制度よりも水道法の包括業務委託のほうが,民間事業者に委託できる事務の範囲に広い部分があるということになる。
委託契約と指定管理者制度の関係について,庁舎の管理等については,清掃・警備といったことを個別に民間事業者に委託することはともかく,一の民間事業者に包括的に委託することは指定管理者制度の趣旨からして適当ではないとされる64)。だが,水道事業については水道法24条の3で包括業務委託の制度が法定されているので,指定管理者制度の存在にもかかわらず,水道法の包括業務委託制度を活用する限りで包括委託は否定されていないと解すべきだろう。実務では,むしろ委託者と受託者の法律上の責任を明確にしている水道法の包括業務委託の制度のほうが,指定管理者制度よりも使いやすい制度であるとさえ理解されているようである。
水道法上の責任の移譲の有無とは無関係であるが,高山市は,水道メーター検針業務や,給水申請業務などについても従来型業務委託により,民間事業者への外部委託を行っている65)。結局,少なくとも水道事業について言えば,一部の業務は従来型業務委託で委託を行い,浄水場の管理については指定管理者を指定するというように,指定管理者制度は,従来型業務委託と併存することが可能であるということになる。また前述のように指定管理者の指定と包括業務委託とを併用することも可能なのである。
指定管理者への監督について,地方自治法は,指定管理者の指定に
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は議会の議決が必要とする(地方自治法244条の2第6項)ほか,地方公共団体の長などによる報告の求めや指示(地方自治法244条の2第10項),指定管理者の指定の取消し等(地方自治法244条の2第11項)を定めている。
他に高山市は,指定管理者側に市の職員が随時の立入検査を行うといったことや,月1回程度の担当者会議の実施を行っているとのことである。
第8節 PFI
排水処理施設のような浄水場の施設の一部の建設に際して,PFI 事業と して行う例が見られる。この場合,浄水場の建設の委託と運営の委託が PFI として一体として行われ,PFI 法による協定が締結されることになる。
日本水道協会の報告書によると,少なくとも報告書の執筆段階では,浄水処理施設全体のような水道事業の中核的業務に PFI 事業を導入している例はなく,PFI 事業の導入は施設の一部の発電施設や排水処理施設といった「周辺的」事業に限定されているとのことである66)。
浄水場の施設の一部の建設・運営の委託のような場合,従来は建設と委託を別々の契約で行っていたものを一括して PFI として行うということになるので,浄水場の一部の建設のような場合における PFI 手法は,従来型業務委託の延長線上にあるといえる。よって,従来型業務委託に関する議論は PFI による場合も同様にあてはまると考えて良いだろう。
PFI の特徴は民間による資金調達にあるのだが,水道事業に際しては水道関係補助金や地方債の発行によることができるため,PFI を PPP
(Public Private Partnership,官民連携)の手法として使うことも主張されている67)。
厚生労働省は,平成19年11月に「水道事業における PFI 事業実施のための諸検討の適切かつ円滑な実施に資するため」に,水道における PFI事業の導入検討のための手引きを作成し,水道事業者に送付している68)。
水道事業の民間化の法律問題(正木)
第3章 水道事業の「民営化」の類型
現在,外国の事例の紹介という形で,水道事業の「民営化」が議論されている。公民連携の行き着くところは,「民営化」になるのであるが,水道事業の公民連携についても様々な形態の存在が指摘されている。ここでは,まず水道事業の公民連携の類型について,日本の実定法解釈からいったん離れたうえで,世界の水道事業の「民営化」の潮流の中で現れてきた,理論上の分類を齋藤博康の著書を手がかりに見てみる。
まず,水道を公的所有に留めた上で,民間を関与させる手法として理論上,① サービス契約,② 管理契約,③ リース契約,④ コンセッション契約があるとされる69)。
①「サービス契約」とは,公有水道事業が,各種水道施設を所有し,運転管理にも完全な責任を持ちつつ,一部の業務について民間事業者に外 部委託するというものである70)。これまで見てきた日本の民間化の手法は 基本的にこれにあたると考えることができる。
②「管理契約」とは,公的水道事業者が民間企業に対して,ある施設全体の運転・維持管理の責任を移すものである。この管理契約の下では,契
約当事者である民間事業者は水道の需用者と直接関係を持たないとされる71)。
「サービス契約」「管理契約」は,水道料金設定徴収が公的部門に留保されているため「民営化」と呼ぶよりも「民間化」と呼んだほうが語感にあう。だが,次に挙げる「リース契約」「コンセッション契約」は,いずれも施設所有権は公的部門に留保しつつ,経営責任を民間部門に委ねるものであり,「民営化」と呼ぶほうが語感に沿う。
③「リース契約」は,公的部門が民間事業者に水道施設等の賃貸を行い,民間事業者は借り受けた水道施設を用いて事業を行うというものである。 賃借人たる民間事業者は水道施設を用いて事業を行い,民間事業者は,水
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道料金収入から営業費用の差額を得ることができるが,賃貸人たる公的部門に賃貸料(リース)を支払うことになる。契約期間は 5~10年,長期の場合20年に及ぶこともあるという72)。
④「コンセッション契約」は,公的部門は水道施設の所有権を持つが, 水道施設は経営の事業免許を受けた民間事業者に管理が委託され,民間事 業者が水道の経営を行うというものである。委託契約の期間(20~30年) が経過すると施設は公的部門に返還される。民間事業者は水道需要者から 直接料金を収受して,税金や費用を差し引いた残額を保有することになる。支出が収入を上回ることは事業者側のリスクとなる。リース契約との違い は,施設投資の資金調達も免許を受けた水道事業者の責任によるというこ とにあるとされる。施設投資の資金調達を民間事業者の責任とすることで,公的部門は施設投資の資金調達を免れることができるし,民間事業者には 施設投資のインセンティブが与えられる73)。
上の公民連携の形態で「コンセッション契約」に至れば,公的部門は水 道施設の所有権を有しているのみであり,経営権や施設の管理維持の権限,そして料金の徴収の権限は民間事業者に与えられている。それに加えて, 公的部門が水道施設の所有権をも民間部門に与えれば,⑤「完全民営化」 ということになる74)。
わが国の水道法では水道事業について市町村経営原則を採用している(水道法6条2項)ので,経営主体を私人とする「リース契約」「コンセッション契約」「完全民営化」は,現在の水道法の下では,あまり現実的な選択肢ではない。現行法の下でこれらの「民営化」手法を追求すると理論的には,以下のようになるだろう。まず,私人が実質的な経営を行うとなると,水道法14条で料金等は供給規程で水道事業者が定めるとされているように,業法である水道法は認可を受けた水道事業者が自ら事業を行うことを念頭においた規定を持つ。そのため,私人の側が水道事業の事業認可を得なければならない(水道法6条1項)。その際,給水区域の市町村の同意が必要である(水道法6条2項)。私人が認可を受けるには「当
水道事業の民間化の法律問題(正木)
該水道事業の開始が公益上必要であること」(水道法8条1項7号)が要件とされるが,公益適合性の判断は認可権者である厚生労働大臣の裁量に委ねられるだろう。水道の完全民営化を前提として私人が水道事業の認可を得るとすれば,市町村は水道法11条により事業廃止することになる。リース契約やコンセッション契約の手法を用いる場合は指定管理者制度の活用も考えられる。
第4章 結 語
第1節 水道事業の民間化の法律問題
第3章で見たように,水道の「民営化」については諸外国での実施事例があることもあり,その理論的類型化も含めて,日本でも水道の「民営化」の議論が活発化している。そこでの議論は,第2章で見たような
「民間化」というべきアウトソーシング手法の是非も含めた形で展開され ているが,賛否両論があるというのが現状であろう。積極的な立場を取る 論者は,水道民営化の国際的潮流や業務の効率化,あるいは水道事業者が 水道法の定める「水道技術管理者」を雇用し続けることの困難を主張し, 消極的な立場を取る者は,水が市民生活に必要不可欠なものであるので公 営により安全性が確保されるべきという立場から,民営化による公的部門 の技術的専門性の喪失や非常時の対応に不安が残ることを主張している75)。
もっともわが国に紹介されている諸外国での水道事業の民営化の実施事例は,リース契約やコンセッション契約の活用のような公設民営方式の採用あるいは完全民営化のように,経営権を公的部門から民間部門に移すようなドラスティックな改革をも含むものである76)。それに対して,現在の日本で行われている水道の民間化の手法はいずれも,水道事業のうちの事実行為の実施を私人に委ねているのみであり,経営権をも委ねるような民間化は日本では,当初から民営の場合を除いては行われてはいない(第2章参照)。
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筆者は,経営権を民間企業に委ねるような「民営化」の議論と,浄水場の管理の一部を民間企業に委託するような「民間化」の議論は混同されるべきではないと考える。業務委託のような事業の一部の民間解放のその先に完全な民営化があるという立論は可能ではあるが,各手法の差異を踏まえない議論は,水道事業で現在行われているアウトソーシングないし民間化の手法を考える上でも,水道事業の運営を公的部門から民間部門に移すという民営化の議論を考える上でも,無用の混乱と異なる事象の同一化をもたらすと思われる。
例えば,水道法に従来から存在していた指定給水装置工事事業者の制度や登録水質検査機関の制度も,水道事業に関する事務の一部を民間事業者に行わせるものであり,民間化であると評価できる。だが,これを経営権を民間部門に委ねる諸外国の「民営化」の議論に引きつけて理解するというのはミスリーディングであるし,実際,こういった手法が水道の「民営化」として議論の俎上に上がることはない。それに対して,包括業務委託や指定管理者制度は「民営化」として語られることはあるが,事実行為ないし補助業務を民間部門に行わせるという点では,指定給水装置工事事業者の制度や登録水質検査機関の制度と同質的である。
「民営化」あるいは「民間化」という大きなくくりの観念論で考察する のではなく77),様々な手法の実態に沿った形で検討を加えていくことが重 要であろう。現在の日本の自治体が行っている水道事業の民間化手法はい ずれも,事業主体は自治体のまま,業務の一部を民間に委ねるものである。そして,指定管理者制度の活用にせよ,水道法24条の3の包括業務委託に せよ,現状では浄水場の管理の実施のような事実行為を民間企業等に委ね ているにすぎない。この点では建築基準法の建築確認の指定確認検査機関 制度のように,公権力を民間部門に委ねるようなものではないのである。 その意味では,現在の日本で行われている水道の民間化は従来型業務委託 の延長線上にあると言える。
まず,議論の前提として水道事業について大幅な業務委託を行って
水道事業の民間化の法律問題(正木)
いる自治体の様子を描写してみよう,例えば,筆者の取材した福島県三春町の企業局の職場の実態は,次のようなものであった。
三春町では,町役場の庁舎から離れたところにある浄水場の建物内に企 業局の部屋が設けられている。局といっても9名しか人員は配置されてい おらず,浄水場の一室に企業局の部屋がある。そのうち2名が町の職員で あって,7名が「委託」の職員であり,町の職員と「委託」の職員は机を 並べて仕事をしている。企業局の部屋の隣の部屋が浄水場の管理室であり,管理室では「委託」によって事業者から派遣された職員が浄水場に異常が ないかを監視している。
浄水場自体は町の施設である。そのため何も知らない人間がこの職場を 見たとき,これが自治体から「民間化」された事業であるとは考えないで あろうという印象を筆者はもった。その職場の風景は,町の職員と委託の 職員とが共に仕事をしているという以上の印象を与えるものではなかった。説明を受けなければ,委託職員が町の正規の公務員にさえ見えたであろう。
非正規労働力の活用は,今日では多くの官公庁や民間企業で見られる普遍的な現象である。三春町の場合は,町の職員と委託に基づいて業務を行う職員が同一職場で勤務しているため,「委託」といっても,感覚的には民間企業で言うならば,企業の正社員と派遣労働者が共に働いているというのと同等の職場実態ではないかと感じた。
また三春町の水道事業については,そもそもなぜ業務委託を行うことになったかというと,もともとは水道水を伏流水から取水していたので浄水場運営の専門的スタッフは必要なかった。だが取水源を伏流水からダムに変更した際に浄水場が建設されたが,その運営のために必要なスタッフをもともと町が有しておらず,新規に技術者を養成するのはコスト面から非効率であるため業務委託を行ったとのことである。この業務委託は浄水場が完成したときから行われていたという。
三春町は現在水道法24条の3の包括業務委託によって委託を行っているが,水道法の改正以前は,上のような業務委託は従来型業務委託で行って
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おり,取材の際には「水道法が我々の実務に追いついたと認識している」との言葉があった78)。
このような実態に対して,「『官』から『私』への管理主体の移転」といったキーワードを当てはめるのはやや実態に反するだろう。三春町の場合,浄水場ができた当初から「官」が浄水場の管理を大幅に「私」に委ねていたのである。
これは水道事業の業務委託の一例である。むろん,業務委託によって現場の浄水場等での管理業務が受託側に完全に委ねられている例もある(高山市の水道事業の指定管理者がこれにあたる)。そのような場合は,上のように委託職員と公務員とが同じ事業場で働くのではなく,受託者側の職員のみで職場が形成され,委託者たる自治体との関係では,定期非定期に連絡を行う,あるいは監督を受けるという関係になる。
自治体行政において,庁舎管理や学校給食などで広範に業務の委託が行われていることは既に指摘されていることである79)。最近では,競争の導入による公共サービスの改革に関する法律(市場化テスト法)によって住民票の写しや戸籍謄本の交付も市場化テストの対象となされている
(市場化テスト法34条1項)。さらに,単なる事実行為の実施のみならず,自治体の政策形成のような分野でも外部のコンサルタントの活用がなされている。
行政活動における委託の活用に対しては,臨調行革の時代から,民営化ないし民間化による委託の推進をする論理である効率性の尊重が,公共性や行政責任を軽んじることにならないか,あるいは公務労働者の権利を侵害しはしないかといった批判がある80)。
また,筆者が取材を行った自治体は,いずれも委託によって行政機関から施設管理の知見が時を経て失われ,それによって管理の専門性を喪失することを危惧していた81)。
しかし,行政による公共サービス提供が,全て職業公務員によって担われるというのは現実から乖離している。例えば国道の建設や整備の実施そ
水道事業の民間化の法律問題(正木)
れ自体は,民間の建設会社の手で行われるのが通常であろうし,そのような事業の実施それ自体までも公的部門に委ねよとの主張は聞かれない。
今井照は自治体行政のアウトソーシングを妨げる理論として,① コスト論(コスト面から費用削減が望めるのかという議論),② 行政組織(職員)への信頼感(行政機関の情報管理能力や賠償能力が直営のほうが「安心」という信頼感をもたらす),③ 基幹業務論(自治体行政のコアの部分はアウトソーシングされてはならない)を挙げている82)。
日本で現在行われている包括業務委託や従来型業務委託といった水道事業の民間化の各種法について見てみれば,① コスト面からは,人員削減に比較的実効性があるようである。② 行政組織への信頼感という面から見れば,賠償に関しては,現在日本で行われている民間化手法は,内部的にはリスク負担が定められているが,基本的には水道事業者と水道の需用者との法律関係に変化をもたらすものではないので,事故等の際には公的部門の高い賠償能力を期待することができる(実際に公的部門が高い賠償能力を持つかはさておき,それに対する公衆の期待があるのは事実であろう)83)。③ 基幹業務論から見れば,現在日本で浄水場の維持管理等が民間委託されているが,浄水場の維持管理が自治体行政のコアの部分かということについては,消極的に考えざるを得ない。
結局,水道事業が委託をも用いない公営であることを求める論者は,行政機関が水道事業を運営することに何らかの公益を見出しているのだと思われる。上の分類だと,②行政組織(職員)への信頼感に大きく依拠している部分があるだろう。つまり,水道公営論が浄水場の管理の民間委託等も否定し,完全な公営水道を維持して,行政機関が技術者を直接雇用すべきだという風に説くのであれば,それは職業公務員によって技術的専門性が担われ行政責任が担保されるのだという期待に根拠を有しているのだと思われる。
だが,いまや行政事務は高度化して,中小自治体は人材難や財政難からその専門性を保障し続けることが難しくなりつつある。自治体行政での業
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務委託は,目的がシンプルで切り割り分けやすい作業と,専門性が高く職員が担いきれない分野から進んだという指摘がある84)。そして,筆者の取材の際も浄水場の外部委託の理由として,浄水技術の高度化に対応するためという理由を挙げた自治体があった。
民間化は一見すると行政機関が有している専門性を放棄する現象にも見えるが,行政に存在しない技術的専門性を獲得していくための手段としても用いられている。行政機関の専門性は,このように外部の民間技術を住民参加や行政調査や行政契約によって獲得していくことで積み上げられていくのだと考えれば,外部委託の活用には一応の正当性がある。先に例に出した道路工事の委託などが特に問題視されないのは行政機関が具体的な道路工事の実施のようなことについてまで専門性を持つ必要はなく,工事自体は民間部門に任せてよいというのが,論者の暗黙の前提として存在するからなのであろう(道路行政のコアの部分とでもいうべき道路整備計画の策定のようなものまで民間部門に委ねられるのであれば反対論が生じよう)。
少なくとも,水道事業で外部委託契約や指定管理者制度を活用することそれ自体が行政裁量の濫用であるので,一般的に違法であるという風な主張をすることは難しいのではないかと思われる。もっとも個別の契約あるいは指定に関して相手方の選択や手続面で裁量権の濫用が認められる場面は存在するだろう。その場合は自治体が独自に定めた規程等が裁量基準として機能すると考えられる。
判例では,水道事業に関する業務委託契約が住民訴訟で争われた事例と して,札幌地裁平成15年11月21日判決(判例集未掲載,TKC 法律情報 データーベース28090845)がある。本判決は,町が浄水場運転管理の業務 委託契約の締結の際,随意契約によったことが,地方自治法234条に反す るとし,契約締結手続を違法としたが,損害が生じていないとして原告の 請求を棄却している(本件委託が水道法24条の3の包括業務委託であるか,従来型業務委託であるかも争点であったが,従来型業務委託であると判決
水道事業の民間化の法律問題(正木)
されている)。契約締結の手続について注目すべき判決だろう。
問題となるのは,欧米で行われている水道事業の経営権の民間部門への譲渡を伴うような民営化であろう。このような事柄についての水道事業の公営/民営の議論は,多分に政策論の要素を含んでいる85)。現行法を前提とした法律論としては次のようなことが言えるだろう。
既に述べたように,水道法の解釈としては,受託側の民間企業が事業認 可を得て,委託側の自治体が事業変更・廃止の認可を得れば,完全民営化,あるいは欧米で行われているようなコンセッション契約やリース契約のよ うな形での民営化も可能かもしれない。水道法の認可を与えるかどうかに ついては厚生労働大臣の裁量に委ねられていると考えられる。だが例えば,水道法8条1項7号は「水道事業の開始が公益上必要であること」という 水道事業認可の要件を定めているが,この点について「公益上必要」とし て認可を与えること,又は与えないことが裁量権の濫用ではないかという 議論は可能であると考えられる。
また,全国一斉に水道事業の完全民営化を行うとすれば,それは水道法
6条2項の市町村経営原則の変更になるので,水道法の改正が必要となるだろう。
憲法の面から水道の公営/民営についての憲法論を展開しようとする動きはあるが86),これは憲法学の課題であるので,ここでは紹介に留める。
第2節 行政契約の現代的展開
本稿は水道事業の民間化の手法を考察してきたわけだが,その民間化の展開は行政法学に多くの示唆を与える。
水道の民間化にあたって,「指定」のような行政行為の手法と「委託」のような行政契約の手法の双方が縦横に使用されていることは,注目すべきことであると思われる。高山市で見られたように指定管理者と包括業務委託を同一の浄水場等の管理について,同一事業者に対して併用するという事例さえもある。このような場面では,行政行為か契約かという行為形
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式の択一の議論は意味をなくしてしまうだろう。問題は制度の使い勝手であり,政策実現のためには併用さえされているのである。具体的な民間化の法的仕組みの考察や現実観察を抜きにした観念論は,現実の自治体行政を考察するうえでは不十分である。
一つ言えることは,行政行為を代替あるいは補完するような形での行政契約の活用に,行政契約の現代的展開を見ることができるということである。しかしそれは他方で,行政契約に対していかなる形での法的統制を考えていくかという課題も示している。
行政契約の利点がそのインフォーマル性にあることはいうまでもない。従来型業務委託は法定外委託と呼ばれることもあるが,全国画一的に適用される法律の外にあるがゆえに各自治体固有の事情に沿った形での民間化を可能にしているということは指摘しなければならない。
また,法定外の業務委託契約といっても,それは,行政を拘束する規範から自由であるということを意味しない。厚生労働省は,水道ビジョンを策定し,包括業務委託や PFI の手引きを定めているが,これはインフォーマルな形で規範を設定していると言うこともでき,そして,それらは一種のソフト・ローであると言うこともできる。しかし,法律に根拠を持たない「ビジョン」や「通知」によって自治体への指針が示されることには法の支配の観点から問題点を指摘することができる。
また,水道メーター検針の委託に際して,各自治体が「規程」で委託の際の基準を定めている例を紹介したが,法定外の契約といえども,そのような形で行政統制は及ぶので,まったくの自由のもとに行われているのではない(規程等も存在しない場合は全くの自由となるが)。
そこに問題があるとすれば,行政部局が規範を設定していることであり,民主的に行われた統制ではないということであろう。逆に,議会や長の関 与を法律で定めている指定管理者制度は,法律に基づいて行われるという 点では,従来型業務委託に比べると一定の民主的正統性を有している。法 律の定めに基づいて行われていることによる民主的正統性の存在は,登録
水道事業の民間化の法律問題(正木)
水質検査機関や指定給水装置工事事業者の制度にも言えるであろう。
とりわけ法定外の従来型業務委託は,法律の外で行われるという点で,法の支配の観点からは弱点を有している。例えば,規程でメーター検針員に不正や事故の報告義務,身分証の携帯義務などを課していても,規程は法規としての性質を持っていないため,その不履行に対するサンクションは契約の解除に限られているのであり,委託先の不正行為に対するサンクションの点で一定の不安を持っている87)。その点,水道法法定の包括業務委託は,受託者が法律に反した場合,水道法所定の刑罰を科すこともできるので,法律による義務とサンクションの明記に意義を見いだすことができるだろう。
また,従来型業務委託での法律の不在は,受託者にとっても突然の契約解除に対する安全保護が契約又は規程の定め次第という帰結をもたらす。それは受託者にとっての安全保護が欠けることを意味する。
民間化に行政行為の方式をとっても,法律の規律の程度が低ければ,契約の場合と同様の問題は生じる。申請への審査基準や違反への処分を明記した,登録水質検査機関についての水道法平成15年改正は,そのような問題に対応したとも言えるだろう。
最近の行政の総合化の中で,水道メーターの委託検針員を総合行政の実施の中に組み込む試みが行われている。高松市で水道の検針員に独居高齢者の安否確認を行わせるという試みが始められたことが報じられている88)。独居高齢者の安否確認のような水道事業というよりも高齢者対策というべき事務が,検針員に委ねられるような場合,単なる委託労働者である検針員にも,総合行政の端末としての地位が与えられる。そのような場合,当然,住民のプライバシーの保護が求められてくるわけなのだが89),さらに,いかにして報告義務のような職業公務員が担っている職務上の規
範を委託労働者に遵守させていくかといったことが課題になってくるだろう90)。
報告義務の要請は水道メーター検針員に限られるものでもない。民間企
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業に管理が委託された浄水場で高濁度水が発生したため,水道全体で給水停止を行わなければならなくなったという事故が発生しているが,その原因の一つとして委託を受けた企業側から行政当局への報告が遅れたことが挙げられている91)。連絡体制と統制の確保は外部委託一般に共通する問題であろう。また受託者側の情報公開も求められることになる92)。
1) 金沢良雄『水法』(有斐閣,1960)94頁。
2) 「民営化」の概念は多義的である。ドイツ法を手がかりに「民営化」の概念の概念整理を試みた論考として,松塚晋輔「ドイツの民営化概念(1)(2)」法政研究64巻4号
(1998)69頁,65巻1号119頁。大脇成昭「民営化法理の類型論的考察」法政研究66巻1号
(1999)285頁。
本稿の考察対象は,「民間委託」にも及ぶ。民間委託を「民営化」と区別する趣旨で,本稿は,従来公的部門が担ってきた事務を私人に委ねる現象について「民間化」の語を用いている。そして,公的部門から私的部門に経営権の譲渡がなされるような類型の民間化については,「民営化」の語を用いる。なお参照,松塚・前掲「ドイツの民営化概念
(2)」132頁。角松生史「行政事務事業の民営化」芝池義一ほか編『行政法の争点』(有斐閣,第3版,2004)152頁。
ドイツの「民間化」に関する論考として,角松生史「『民間化』の法律学」国家学会雑誌102巻11・12号(1989)69頁。
3) 宮脇淳 = 眞柄泰基編『水道サービスが止まらないために』(時事通信社,2007)1頁。
4) 平成11年度の統計では,5の都道府県と78の組合が上水道事業の認可を受けている。水道法制研究会『水道法ハンドブック』(ぎょうせい,2003)68頁。
5) 水道法制研究会・同上62頁。
6) 細谷芳郎『図解 地方公営企業法』(第一法規,2004)29頁。次に掲げる文献には,水道は「公の施設」に該当することを前提とした記述がある。松本英昭『新版 逐条地方自治法』(学陽書房,第4次改訂版,2007)975頁。宇賀克也『地方自治法概説』(有斐閣,第2版,2007)221頁。
また,旧高根町簡易水道事業給水条例無効確認事件で最高裁は,特に理由を示すこともなく「普通地方公共団体が経営する簡易水道事業の施設は地方自治法244条1項所定の公の施設に該当する」として,簡易水道の利用関係に地方自治法244条3項を適用している。最高裁平成18年7月14日判決(民集60巻6号2369頁)。
7) 氏岡傭士『水道ビジネスの新世紀』(水道産業新聞社,2004)144頁。
8) このような問題意識に立つ文献として,例えば,宮脇 = 眞柄・前掲注(3),氏岡・前掲注(7),齋藤博康『水道事業の民営化・公民連携』(日本水道新聞社,2003)。
9) 水道ビジョン1頁。水道ビジョンの全文は以下のアドレスに掲載されている。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/vision2/dl/vision.pdf
なお,水道ビジョンは現在改訂が進められているが,本稿の記述は平成16年の策定時の水道ビジョンに基づくものである。
水道事業の民間化の法律問題(正木)
10) 水道ビジョン・同上15頁。
11) 水道ビジョン・同上27頁。
12) 水道ビジョン・同上28頁。
民間事業者は水道事業者に専門的な知見,ノウハウの提供等を行い,水道事業者は,民間事業者に対して業務委託を行うというパートナーシップの構図が描かれている。
13) 厚生労働省のホームページより
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/topics/chiiki.html
厚生労働省によると,平成20年3月1日時点で,地域水道ビジョンは136プラン作成されているとのことである。
水道事業者の多くが市町村であり,水道に関する事務が自治事務であることを考えれば地方分権の観点から,通知という事務連絡の形式で,法律の外で定められた国の行政計画に沿う地域の行政計画の策定を都道府県や市町村に促すことには,やや問題があるとの批判が可能であろう。
さらに言えば,日本水道協会規格として「水道事業ガイドライン JWWA Q100」が, 水道ビジョンの目標・施策をふまえて策定されている。宮脇= 真柄・前掲注(3)28頁。法 律の外で定められた計画が,民間団体にも事実上の影響力を持っているということになる。
14) 日本水道協会『水道事業における民間的経営手法の導入に関する調査研究報告書』
(2006)69頁。
この日本水道協会の報告書は,水道の民間化に関するもっとも詳細な資料の一つであると評価しうるものであり,本稿の記述に多大な示唆を与えている。同報告書は以下のアドレスに全文が掲載されている。
http://www.soumu.go.jp/c-zaisei/suidou/060721_houkoku_mokuji.html
報告書に従って,平成15年の統計の時点で完全民営の10の上水道事業の事業体名を列挙すると,「那須ハイランド水道」「東洋観光事業(株)」「(株)蓼科ビレッジ」「(株)三井の森」「東急蓼科高原」「鹿島リゾート(株)」「(株)八ヶ岳高原ロッジ」「(株)伊豆センチュリーパーク」「伊豆急行(株)」「播磨興産(株)」である。日本水道協会・同上69頁。
上に挙げた民営の上水道事業の多くは,計画給水人口は5001人以上だが実際の給水人口は数十名から数百名といった小規模なものである。だが,伊豆急行は,実際の給水人口も 1000名を超える事業体である。
報告書によると,これらの民営の上水道事業はリゾート開発のために事業認可を得たものであり,当初から民営の事業で,経営形態が公営から民営へ移行されたものではないとのことである。日本水道協会・同上69頁。
15) 水道法11条は「水道事業の全部を他の水道事業を行う水道事業者に譲り渡すことにより,その水道事業の全部を廃止することとなるときは」,厚生労働大臣への届出で足りるとし ている。この例外規定は,水道の広域化のために水道事業を統合する際,統合される水道 事業は廃止する必要があるが,広域化を推進するために手続を簡素化する趣旨で設けられ たものである。水道法制研究会『新訂 水道法逐条解説』(日本水道協会,2003)217頁。
16) 白水伸英「水道料金債権の消滅時効」自治実務セミナー44巻4号(2005)30頁。
なお,本件最高裁決定について,水道料金債権は公法上のものであるが,「生産者,卸
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売商人及び小売商人が売却したる産物及び商品」という特殊なものに該当するので民法 173条1号の短期の消滅時効が適用されると理解する説もある。橋本勇「水道料金の消滅時効」自治実務セミナー42巻12号(2003)29頁。
他に,水道水給水契約は純然たる私法上の契約とは言い難いと主張し,本件決定を疑問とするものとして,櫻井敬子 = 橋本博之『現代行政法』(有斐閣,第2版,2006)143頁。
17) 憲法の私人間効力の問題についてはさしあたり,長谷部恭男『憲法』(新世社,第4版, 2008)134頁以下。
18) 制度的契約の理論を参照。内田貴「民営化(privatization)と契約(1)(2)(3)
(4)(5)(6)」ジュリスト1305号(2006)118頁,1306号70頁,1307号132頁,1308号90頁,1309号46頁,1311号142頁。
19) 実態については,やや古い文献であるが参照,小島重喜「外部委託――論議の推移と現況」ジュリスト814号(1984)33頁。
外部委託の法律問題を扱った文献として,青木宗也ほか編『自治体における民間委託・派遣・臨職の法的検討』(総合労働研究所,1982)。成田頼明「行政サービスの民営化をめぐる諸問題」ジュリスト661号(1978)47頁。田中舘照橘「行政上の事務の委託と行政契約」自治研修225号(1979)29頁。佐藤英善「外部委託契約をめぐる法的問題」ジュリスト814号(1984)26頁。
業務委託は,警察においても用いられている。参照,露木康浩「委託制度と指定機関制 度に関する一考察(上)(下)」警察学論集42巻12号(1989)38頁,43巻1号(1990)97頁。ドイツ法を手がかりとして警備業の委託を考察するものとして,米丸恒治『私人による行 政』(日本評論社,1999)169頁以下。高橋明男「ドイツにおける警察任務の『民営化』, 民間委託,民間との協同」大阪大学法学部創立五十周年記念論文集『二十一世紀の法と政 治』(有斐閣,2002)119頁。
20) 阿部泰隆『行政の法システム(下)』(有斐閣,新版,1997)593頁。
判例では,下水道終末処理場についての事例であるが,名古屋地裁平成2年5月10日決定(判例時報1374号39頁)が,終末処理場運転管理業務を自治体が私人に委託することの適法性について,「下水道法第3条は,公共下水道の維持管理業務はすべて公共下水道管理者たる市町村の責任のもとにおいてなされなければならないとしているが,右規定の趣旨は具体的業務を遂行するに際し,現業部分についてまですべて当該市町村が直営で行わねばならないとするものではなく,下水道管理の責任主体たる市町村が維持管理業務につき意思決定と指導監督をなし,右決定と監督のもとに,現業的事務を第三者に委託して行わせることについては,当該市町村,委託を受ける第三者の人的能力及び当該市町村の財政状況等諸般の事情を考慮した上での,その当該自治体の裁量的判断に委ねられているものと解すべきものであって,下水道事業の公共性,公益性の点から一切を直営で行うべきもので民間に委託することをすべて禁止しているものと解するのは相当でない。」として,終末処理場運転管理業務委託契約を適法としている。また,委託契約が条例の根拠を有しないことについても「本件のごとき業務委託の関係まで当然に条例によることを求めているものとは解しがたい」として条例の根拠は不要とされている。
同決定の判例評釈としては以下のものがある。南川諦弘「判例評論」判例時報1391号
水道事業の民間化の法律問題(正木)
(1991)198頁。大西有二「住民訴訟判例解説」判例地方自治90号(1992)94頁。両評釈とも外部委託の適法性については判旨に結論賛成である。
21) 齋藤・前掲注(8)50頁以下。
22) 齋藤・同上51頁以下。
23) 詳細は,齋藤・同上54頁以下。
24) 日本水道協会・前掲注(14)16頁。比率の前提となっている事業体の総数は当該事業を実施している事業体のみを有効回答としているため項目ごとに異なるが683~936の範囲である。例えば,メーター検針業務については全事業体が936に対して,業務委託実施済みの事業体が908であるため96.9%の比率を示している。
25) 日本水道協会・同上154頁。
26) 日本水道協会・同上17頁。
27) 水道法制研究会・前掲注(15)395頁。
28) 日本水道協会・前掲注(14)17頁。
私人相手の委託の場合でも,契約の締結について地方自治法234条の入札に関する規定は適用される。
29) 厚生労働省健康局水道課の平成14年12月11日の水道事業者宛の事務連絡では,水道法24条の3の委託と対比する形で,従来型業務委託を「法定外委託」と呼称している。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/03/s0311-5b3.html
このように従来型業務委託を法定外委託と呼称することは一般的に行われているようである。
30) 株式会社ジャパンウォーターのホームページより。
http://www.japanwater.co.jp/results.html
31) 宮脇 = 眞柄・前掲注(3)225頁以下。
32) 三春町企業局「三春町上下水道事業運営資料」(第4版,2004)8頁以下。同資料は三春町が作成しているが,非売品である。
33) 筆者の三春町役場への取材による。なお参照,厚生労働省健康局水道課「第三者委託実施の手引き」69頁。全文は下のアドレス。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/hourei/jimuren/h19/191108- 2.html
34) 筆者の取材による。
35) http://www.city.kurashiki.okayama.jp/suidou/ryoukinitaku/ryoukinitaku.htm
36) http://www.city.kakogawa.hyogo.jp/index.cfm/6,4125,31,116,html
規程については,
http://www.city.kakogawa.hyogo.jp/reiki/reiki_honbun/k3120738001.html
37) 「検針員」という語は,通称であって法律上の用語ではない。ただし,各自治体の委託に関する規程の中には,メーター検針を行う受託者や受託企業の従業員を「検針員」と規程の中で正式に呼称するものもある。
大垣市上水道メーター検針業務等委託規程2条は,メーター検針の受託者を「検針員」とする。
立命館法学 2008 年 1 号(317号)
http://www.city.ogaki.lg.jp/reiki_int/reiki_honbun/i3030625001.html
加賀市水道メーター検針業務委託規程4条は,受託した「個人又は法人等の従業員等」を「委託検針員」とする。
http://www.city.kaga.ishikawa.jp/reiki/reiki_honbun/ar28705651.html
38) 筆者の目についた,委託の根拠を地方公営企業法33条の2に求める「規程」を簡単に挙げると,赤穂市水道メーター検針事務委託規程1条,
http://www.city.ako. hyogo.jp/reiki/reiki_honbun/k3140638001.html
山梨市水道メーターの検針事務委託に関する規程1条 http://www.city.yamanashi.yamanashi.jp/reiki_int/reiki_honbun/r1890481001.html能美市水道メーター検針業務委託に関する規程1条 http://www.city.nomi.ishikawa.jp/reiki/reiki_honbun/ar18504591.html
39) 脚注(37)(38)を参照せよ。多くの自治体は,例規集の公営企業の「企業管理規程」「事業管理規程」といった形式で委託の際の手続を定めている(例規集に「訓令」として掲載される規程ではない)。
市の「規則」で,委託に関する詳細を定めている自治体もある。水道が簡易水道であり地方公営企業法の適用を受けない場合は,委託の詳細を定めるのに規則が用いられるようである。下に挙げる桐生市の場合がこれにあたると思われる。同市は上水道事業も営んでいるが,上水道事業の委託に関しては規程で定めている。
桐生市簡易水道事業検針事務委託規則
http://www.city.kiryu.gunma.jp/reiki/document/frame/fr00001005.htm
だが,地方公営企業法の適用を受けるにも関わらず,詳細を規則の形式で定める例もある。下に挙げる七宝町はその例である。
七宝町水道事業給水の検針及び徴収等の委託事務に関する規則
http://www.town.shippo.aichi.jp/reiki_int/reiki_honbun/ai54703251.html
40) 規程の種類について,木佐茂男 = 田中孝男編『自治体法務入門』(ぎょうせい,第3版, 2006)58頁。
41) 平成9年8月11日衛水第216号各都道府県知事あて厚生省生活衛生局水道環境部長通知。水道法制研究会・前掲注(15)410頁以下。
42) 水道法制研究会・同上19頁。
43) 水道法制研究会・同上314頁。
44) http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kyusui/02.html
45) 指定給水装置工事事業者制度に関する検討会資料,「指定給水装置工事事業者制度に関する実態調査結果(ダイジェスト版)」2頁。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kyusui/dl/02a-c.pdf
46) 指定給水装置工事事業者制度に関する検討会資料,「指定給水装置工事事業者制度の現状の課題」1頁。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kyusui/dl/02a-f.pdf
47) 水道法制研究会・前掲注(15)360頁。
48) 水道法平成15年改正の概要については,厚生労働省のホームページを参照。
水道事業の民間化の法律問題(正木)
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kaisei/15/gaiyou.html
厚生労働省のホームページによると,登録水質検査機関は,平成20年4月1日時点で, 208機関が登録されているとのことである。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/suishitsu/02a.html
49) 齋藤・前掲注(8)53頁。
50) 保屋野初子 = 瀬野守史『水道はどうなるのか?』(築地書館,2005)131頁以下。
51) 水道法制研究会・前掲注(15)395頁。
52) 水道法制研究会・同上397頁。
53) 水道法制研究会・同上396頁以下。
54) 水道法制研究会・同上401頁。
55) 水道法制研究会・同上396頁。
56) 以上の記述は筆者の三次市役所への取材による。前掲の日本水道協会の報告書にも紹介がある。日本水道協会・前掲注(14)124頁。
57) 厚生労働省健康局水道課・前掲注(33)「第三者委託実施の手引き」1頁。同手引きの67頁以下に包括業務委託を導入した水道事業体の一覧が掲載されている。
58) 高山市例規集・要綱集より
http://www.city.takayama.gifu.jp/reiki/reiki.html
59) 筆者が高山市役所での取材の際入手した,「高山市水道事業・岩滝簡易水道事業及び高山市簡易水道事業等施設の管理に関する基本協定書」より。
60) 三菱総合研究所地域経営研究センター編『指定管理者実務運営マニュアル』(学陽書房, 2006)130頁以下。
61) 指定管理者制度を導入するにしても,医療法や水道法のような「業法」による規制を免れるわけではない。水道の場合,水道法14条で,水道事業者は水道料金のような供給条件を供給規定で定めなければならないとしている。このように水道法上,水道事業者の責務とされていることについては,事業者自らが行わねばならず,こういった事務を利用料金制をとって指定管理者に完全に委託する場合は指定管理者の側も水道事業の認可を得なければならない。成田頼明監修『指定管理者制度のすべて』(第一法規,2005)93頁。
この解釈は実務でも採用されている。「規制改革の推進に関する第2次答申――経済活性化のために重点的に推進すべき規制改革――」では,水道事業についても「事業の一層の効率化を図るため,料金設定への関与等を含めた包括的な民間委託を推進すべきである。」とされた。だが,厚生労働省がこの答申に対応して水道事業者に発した事務連絡は,
「『事業の一層の効率化を図るため,料金設定への関与等を含めた包括的な民間委託を推進すべきである。』とありますが,料金設定への関与とは,料金算定に関する算出根拠や料金低廉化に関するアドバイス的な関与であると整理されています。なお,料金設定そのものを民間事業者等が行う場合には,受託者が水道事業経営の認可をとる必要がありますのでご留意ください。」というものだった。
厚生労働省健康局水道課平成15年3月11日事務連絡より
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/hourei/jimuren/h14/150311kisei. html
立命館法学 2008 年 1 号(317号)
62) 日本水道協会・前掲注(14)137頁。また,筆者が高山市役所に取材を行った際に得た情報も本文に盛り込んだ。
63) 筆者の取材による。なお参照,日本水道協会・同上55頁。
厚生労働省健康局水道課・前掲注(33)「第三者委託実施の手引き」4頁では,指定管理者制度と水道法の包括業務委託の併用を求めている。
日本水道協会・前掲注(14)54頁に掲載されている図は,水道法上,水道事業者が行うものとされる水質検査(水道法20条)や健康診断(水道法21条)も指定管理者が行えるかのような印象を与える。だが,この図は指定管理者が水道法の認可を得ていることを前提に
「公の施設の管理」に含まれるかどうかという観点から作成されたものであると解され,実際に指定管理者に水道法で水道事業者の責任を法定された事務を移転させるためには,水道法24条の3の包括業務委託をする,あるいは指定管理者が事業許可を得ることが必要であると考えられる。
64) 松本・前掲注(6)981頁。
65) 筆者の取材による。
66) 日本水道協会・前掲注(14)30頁。
67) 日本水道協会・同上27頁。
68) 厚生労働省ホームページより
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/hourei/jimuren/h19/191108- 1.html
水道における PFI 事業の導入検討のための手引きの全文は,
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/hourei/jimuren/h19/dl/071108- 4.pdf
手引きでは東京都水道局や神奈川県企業庁の既存の事例を手がかりに検討がなされている。
69) 齋藤・前掲注(8)70頁以下。
70) 齋藤・同上74頁以下。
71) 齋藤・同上75頁以下
72) 齋藤・同上76頁以下。
73) 齋藤・同上78頁以下。
74) 齋藤・同上83頁。
齋藤博康は民間事業者が水道施設の所有権を持つ場合として,他に「BOOT 契約」と
「共同所有(合弁事業)」を挙げる。
「BOOT 契約」とは,民間事業者が浄水場等の建設(build)をして,所有(own),運 営(operate)し,約定の期間終了後,公的部門に譲渡(transfer)するという形態である。齋藤・同上79頁以下。「BOOT 契約」は日本で言うところの PFI に近いものであるが,一 次的に民間部門に施設の一部の所有権を委ねる形態なので本文では混乱を避けるために扱 わなかった。
「共同所有(合弁事業)」とは民間部門と公的部門が水道事業を共同所有して,共同経営をするというものである。齋藤・同上82頁以下。日本で言うところの第三セクター方式
水道事業の民間化の法律問題(正木)
に近いであろう。
75) 民営化ないし民間化に積極的な立場を取ると思われる文献として,宮脇 = 眞柄・前掲注 (3)65頁以下。水道法制研究会・前掲注(4)141頁以下。氏岡・前掲注(7)。齋藤・前掲注 (8)。消極的な立場を取ると思われる文献として,保屋野= 瀬野・前掲注(50)。神田浩史ほか「どうなっているの? 日本と世界の水事情」(アットワークス,2007)。
また法学者の研究として,2007年度の日本公法学会での中島徹の報告「個人の自律,市場の自律性,政府の存在理由」がある。
76) 多くの文献で紹介されているが,例えば,氏岡・前掲注(7)。イギリス,フランス,ドイツ,スペイン,アメリカ合衆国などでの水道民営化の事例が紹介されている。そこには成功例も失敗例もあるようである。
77) 民営化に関しては「概念の政治」からの解放が説かれている。角松・前掲注(2)「行政事務事業の民営化」152頁以下。
78) 筆者の取材による。
79) 注(19)で挙げた文献を参照。さらに,今井照『自治体のアウトソーシング』(学陽書房, 2006)。
80) 室井力『行政の民主的統制と行政法』(日本評論社,1989)228頁以下。
民営化・民間化に関して批判的な考察を加えるものとして,原野翹ほか編『民営化と公共性の確保』(法律文化社,2003)。晴山一穂『行政法の変容と行政の公共性』(法律文化社,2004)。西谷敏ほか編『公務の民間化と公務労働』(大月書店,2004)。三橋良士明 =榊原秀訓編『行政民間化の公共性分析』(日本評論社,2006)。
81) 取材の際,委託後,行政機関の職員の側が民間企業に研修に行くような場合が生じるだろうとの発言があった。
82) 今井・前掲注(79)137頁以下。
83) もっとも,指定給水装置工事事業者制度については,行政事務の代行というよりも,適切な事業者の指定であるという制度の趣旨を考えれば,指定を受けた業者が水道管工事の際に不手際があり,工事の施工に関して水道利用者と紛争になったような場合,紛争当事者は指定給水装置工事事業者と利用者になると考えられる。
84) 今井・前掲注(79)41頁。
85) 民営化の議論に関して,「果たして,民営化を抑制するも推進するも法的議論になり得るのかという根本的疑念がある。いずれの論文も法学論文の衣をまといつつ,自己の政治的意見を主張している最たる例であるように思われてならない。」との指摘さえある。松塚晋輔『民営化の責任論』(成文堂,2003)i 頁以下。
86) 中島・前掲注(75)。
87) 指定給水装置工事事業者については,法律で違反へのサンクションを定めても公然と違反が行われているという実例は既に紹介した。違反に対してどのような対応をするかというのは民間化に共通する問題点であろう。
88) 四国新聞社2006年11月1日記事
http://www.shikoku-np.co.jp/kagawa_news/locality/article.aspx?id=20061101000349
89) 塩野宏『行政法Ⅲ』(有斐閣,第3版,2006)114頁。
立命館法学 2008 年 1 号(317号)
90) 水道メーター検針員に関して,検針員が個人情報の記載された水道メーターの点検票を紛失するという事故が起こっている。
東京都水道局平成19年7月10日プレス発表
http://www.waterworks.metro.tokyo.jp/press/h19/press070710.htm
91) 神田・前掲注(75)68頁以下。なお次の文献も参照。
北見市水道水の断水に関する原因技術調査委員会報告書(要約)。
http://www.city.kitami.lg.jp/310-06/dansuihokoku.pdf
92) 木佐 = 田中・前掲注(40)108頁。山本隆司「民間の営利・非営利組織と行政の協働」芝池義一ほか編『行政法の争点』(有斐閣,第3版,2004)154頁,155頁。
* 本稿で引用したウェブページの最終閲覧日は,平成20年4月14日である。
* 本稿は,平成19年度文部科学省科学研究費補助金(若手研究(B))による研究助成の成果である。