Contract
東京地方裁判所平成2 2 年( ワ) 第2 6 5 5 8 号平成2 5 年1 月2 1 日民事第3 3 部判決
口頭弁論終結日 平成2 4 年1 0 月1 6 日判 決
原告 株式会社C S ネットワーク代表者代表取締役 B 1
訴訟代理人弁護士 xxxx
被告 株式会社セブン- イレブン・ジャパン代表者代表取締役 B 2
訴訟代理人弁護士 xxxx同 xxxx
主 文
1 被告は原告に対し、2 5 9 2 万1 5 7 2 円及びこれに対する平成2 4 年8月8 日から支払済みまで年6 分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、1 0 分の9 を原告、 1 0 分の1 を被告の各負担とする。
4 この判決の第1 項は、仮に執行することができる。事実及び理由
第1 請求
1 原告と被告との間で、 原告が平成1 7 年6 月2 7 日締結の別紙1 「クリーニング取次サービスに関する契約書」 に基づく契約上の地位にあることを確認する。
2 被告は原告に対し、3 億8 5 7 3 万7 6 7 5 円及びこれに対する平成2 4年8 月8 日から支払済みまで年6 分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 争いのない事実
( 1 ) セブン- イレブン店におけるクリーニング取次サービス契約
クリーニング取次業等を目的として平成1 6 年2 月1 7 日に設立された株式会社である原告( 代表取締役B 1 、 甲1 、 甲2 ) は、 直営又はフランチャイズ方式によりコンビニエンス・ ストア「 セブン- イレブン」店をチェーン展開する株式会社である被告( 甲3 、 甲4 ) との間で、平成1 7 年6 月2 7 日、 セブン- イレブン店において実施するクリーニング取次サービス( 以下「クリーニングサービス」 という。) につき、 別紙1 「 クリーニング取次サービスに関する契約書」( 甲1 0 ) ( 以下「 本契約」という。) を締結した。本契約の内容は、次のとおりである。
本契約の目的は、 被告及び原告が共同して開発したクリーニングサービスをセブン- イレブン店において実施し、 お客様に利便性を提供するとともに、被告、 原告及びセブン- イレブン店並びにクリーニングサービスに参加するクリ
ーニング会社全体の収益に貢献することを目的とする。( 1 条、目的)
被告は、セブン- イレブン店に対し、クリーニングサービスの取扱を推奨し、原告は、セブン- イレブン店のベンダー( 売り手) として、 クリーニングサービスを利用する顧客の洗濯物のクリーニング業務にかかる業務を行うものとする。 原告は、 クリーニング業務を、 原告が選定し被告が承諾したクリーニング会社に委託するものとし、 クリーニング会社が高品質なクリーニング業務を実施するよう監督指導するものとする。( 2 条、 内容)
被告は、 セブン- イレブン店に被告の責任と負担で、洗濯物の受渡しを行うクリーニング取次所( 以下「 取次所」 という。) を設置する。( 3 条、取次所の設置)
クリーニングサービスの料金( 顧客の支払う額。 以下「クリーニング料」という。) は、 原告の助言に基づき、 被告が決定するものとする。被告及び原告は、 クリーニングサービス料は、〔 1 〕セブン- イレブン店、 クリーニング料の2 5 % 、〔 2 〕原告、クリーニング料の7 5 % のとおり配分する。( 7 条、クリーニング料金)
被告及び原告は、 本契約の期間が平成1 7 年6 月2 7 日から2 年間とし、その終了する3 ヶ月前までに被告原告いずれからか特段の意思表示がない限り同条件で1 年間更新するものとし、以後の終了時にも同様とする。( 1 1 条、契約期間)
( 2 ) 被告から原告への契約期間満了の通知
被告は、 平成2 2 年3 月1 6 日、 原告に対し、平成2 2 年3 月1 5 日付「契約期間満了のご通知」( 甲1 2 ) をもって、 本契約1 1 条の規定に基づき、平成2 2 年6 月2 7 日の満了をもって本契約を更新する意思のないことを通知した。
2 原告の請求及び請求原因の要旨
( 1 ) 第1 の1 の請求( 本契約上の地位の確認請求)
本契約は更新を前提とした継続的契約であるから、 被告が原告に対してした平成2 2 年3 月1 5 日付の契約期間満了の通知は、〔1 〕相手方に損害を与え、それに対する代償措置が何もないものであり債務不履行にあたり、〔2 〕 原告は本契約に投下した資本を回収することを期待しているものであるところ、本契約終了通知には正当な事由が存在せず、〔 3 〕原告の本契約への投資等を保護するため契約の継続性が要請されるところ、 合理的な理由なく期間満了によって解消させようとするものであるため、 無効であるとして、 平成2 2 年6 月
2 7 日の契約期間満了後も原告が本契約に基づく契約上の地位にあることの確認を求める請求
( 2 ) 第1 の2 の請求
〔1 〕主位的請求( 本契約に基づくクリーニングサービス料の請求)
本契約7 条に基づき原告に配分されるべきクリーニングサービス料3 億8 5
7 3 万7 6 7 5 円及びこれに対する平成2 4 年8 月8 日( 訴えの変更申立書送達の日の翌日) から支払済みまで商事法定利率年6 分の割合による遅延損害金の支払を求める請求。 請求額は、平成2 2 年6 月2 8 日から平成2 4 年7 月2
7 日まで2 5 か月について、 平成2 2 年6 月2 7 日までの直近1 年間における被告から原告へのクリーニングサービス料の年間支払額1 億8 5 1 5 万4 0 9
2 円( 甲4 6 ) の1 2 分の1 に相当する1 5 4 2 万9 5 0 7 円を1 か月の平均支払額とし、その2 5 か月分として算定した額である。
〔2 〕予備的請求( 本契約を終了させた債務不履行による損害賠償請求)
被告が契約を終了させたことは、 継続的契約である本契約の債務の本旨に違反するとして、 債務不履行( 民法4 1 5 条) による損害賠償請求権に基づき、平成2 2 年6 月2 8 日から6 年分の逸失利益1 0 億3 6 8 6 万2 8 8 0 円の損害の一部として、〔 1 〕と同額の損害賠償と遅延損害金の支払を求める請求。逸失利益の額は、直近1 年間のクリーニング料の総額2 億4 6 8 7 万2 1 2 2円( 〔 1 〕 の年間支払額を売上げのうち原告への支払額の割合である0 . 7 5で割り戻した額) からセブン- イレブン店に配分される2 5 % と原告がクリーニング工場に支払う6 8 % とを控除した7 % に相当する直近1 年分の原告の利益1 7 2 8 万1 0 4 8 円について、 クリーニング取次サービスを取り扱う店舗数の増加を前提として、今後6 年分の逸失利益を直近1 年分の利益の6 0 倍として算定した額である。
3 原告の主張( 請求の原因)
( 1 ) 要旨
本件は、 平成1 5 年5 月、 原告代表者B 1 が企画立案した「 ボックス型洗濯物管理装置を用いたクリーニング取次サービス」を被告に持ち込み、爾来、実験期間( 平成1 6 年6 月2 8 日付「 クリーニング取次サービスに関する契約書
- 実験期間」、 甲9 ) を経て、 平成1 7 年6 月2 7 日付本契約に基づき、 原告
・被告間においてノウハウ提供について独占的契約を締結し、 平成2 2 年6 月に至るまで7 年に及ぶ幾多の試練・ 苦労を経て、ようやくコンビニエンス・ストアにおけるクリーニング取次サービスのビジネスモデルをほぼ完成するに至った矢先、 原告は被告から平成2 2 年3 月1 5 日付契約期間満了通知を受け、本契約の終了を告知されたものであるが、 本契約は、 継続的契約であり、 上記終了通知は、 相手方に損害を与え、 それに対する代償措置が何もなく、合理的な理由なく期間満了によって契約を解消させようとするものであるから無効であり、 本契約が終了せず、 原告が本契約に基づく契約上の地位にあることの確認を求めるものである。
( 2 ) 本契約の締結に至る経緯
平成1 5 年4 月4 日、B 1 は、被告商品本部雑貨部E C サービス担当B 3 チーフマーチャンダイザー( マーチャンダイザー( 商品担当者) を以下「M D 」という。) と、 コンビニエンス・ストアでのクリーニング取次サービスの実現に向けて協議を開始し( 甲5 ) 、平成1 5 年5 月1 日、B 1 は、B 3 に、 同日付の「 クリーニング取次仕様提案」 を手交し、 平成1 5 年7 月4 日、「ボックス型の洗濯物管理装置を用いたクリーニング取次サービス」 を被告において全国展開することを前提に、 クリーニング取次サービスの実験を実施するとの方針が確認され( 甲5 ) 、 平成1 6 年5 月4 日、 原告・ 被告は「 約定書」( 甲
7 ) を締結し、 この約定書の締結により、 原告・被告間に正式に取引関係が成立した。
平成1 6 年6 月8 日、 原告・ 被告は、「 個人情報保護に関する覚書」( 甲
8 ) を締結した。この覚書は、 被告及び原告が協力して企画し、被告が直営もしくはフランチャイズ方式により展開するセブン- イレブン店に推奨するクリーニングサービスを「 本件サービス」 というものとし、原告は、クリーニング業界に精通し、 独自の情報とノウハウ等を利用するコンサルティング業を行っており、コンビニエンス・ ストアにおいて、 本件サービスを提供する新しいビジネスモデルの開発を行っていると記述する( 前文) 。
平成1 6 年6 月2 8 日、 原告・被告は、「 クリーニング取次サービスに関する契約書- 実験期間」( 甲9 ) を締結した。 この契約書には、 本件プロジェクトの目的は、 被告・ 原告が新しく開発したクリーニングサービスにかかるビジネスモデルを被告・ 原告・ クリーニング業務を行う幹事会社の採算性・適合性
・客層分析・ 商圏分析等を解析し、 ビジネスとしての可能性を精査し、将来の拡大展開の参考にすることを目的とし( 1 条) 、クリーニングサービスとは、被告が別途指定するセブン- イレブン店( 取扱店舗) において、クリーニング取次所を開設( 設置) し、 募集する顧客たる会員に対し、取扱店舗がクリーニング物( 本件商品) を会員から取次ぎ、幹事会社がクリーニング業務を行い、クリーニング済み本件商品を取扱店舗が会員に手渡すサービスをいうものとし
( 2 条) 、 被告は取扱店舗に被告の責任と負担で取次所( 「 ボックス型」) を開設」( 設置) し( 3 条) 、 原告が他の企業に同様のビジネスモデルを推奨する場合は、 被告の事前承認を必要とするものとした( 9 条3 項) 。 上記9 条3項は、 原告によるサービスの提供を被告に限定するものであり、原告が提案する「 ビジネスモデル」 について、他の企業へのサービス提供を禁止する競業避止義務が規定された排他的契約である。
( 3 ) 本契約の締結
平成1 7 年6 月2 7 日、 原告と被告は、「 クリーニング取次サービスに関する契約書- 実験期間」 を発展解消し、 本契約( 別紙1 ) を締結した。本契約1条は、 本件クリーニングサービスは被告・ 原告が共同して開発したものであることを確認し、 2 条は、被告、 原告の業務内容を規定し、3 条は、 取次所の設置は被告の責任・負担とし、 7 条は、 クリーニング料金の決定は、 原告の助言に基づき被告が決定するものとされ、 被告に決定権限が委ねられた上で、 被告
・原告への配分割合が決定された。 1 1 条により、 本契約は平成1 7 年6 月から逐次更新され現在に至るものであり、本契約は自動更新を前提とする継続的契約である。 1 3 条において、 原告は、本契約と同一もしくは類似のビジネス
・サービスを他のコンビニエンスにおいて展開する場合は事前に被告と協議し円満に解決するものとされ、 本契約においても、実験期間の契約( 甲9 ) 9 条
3 項と同様に、 実質的に競業避止義務を課す条項が規定され、 競業避止義務は本契約にも引き継がれた。
( 4 ) クリーニング取次サービスの確立・発展への原告の貢献
平成1 5 年5 月1 日、B 1 がB 3 チーフM D に提案した「 クリーニング取次仕様提案」( 甲6 ) は、B 1 が開発した「 洗濯物管理装置」( 甲1 5 ) を使用し、 B 1 が創作した「 衣服運搬ケース」( 甲1 6 ) を使用するものであり、その結果、被告のクリーニング取次サービスは、 店舗面積が限られるコンビニエンス・ ストアにおいて、設置面積わずか0 . 9 平方メートルで実現した。 その後も、 原告代表者B 1 は、 平成1 6 年6 月2 1 日の開業に間に合わせ、マニュアル類を作成した。 平成1 6 年5 月から7 月にかけて、原告は、コンビニエンス・ ストアにおけるクリーニング取次サービスを提供するにあたって、xxx下の所轄保健所へのクリーニング業法に基づく届出等の行政対応を行い、 xxxクリーニング生活衛生同業組合の了解を取り付け、 xxx健康局地域保健部環境衛生課の了解を取り付け、厚生労働省健康局生活衛生課の了解を取り付け、中小企業庁事業環境部取引課の了解を取り付けた。 平成1 7 年2 月から1 1 月にかけて、 原告は、「 バックヤードの予備保管庫」 について、 xxx健康局地域保健部環境衛生課、 所轄保健所の了解を取り付けた。原告が顧客名簿の個票
の書式を作成し、また、原告の管理・ 指導のもと、 延べ1 2 工場と延べ1 0 0人以上が顧客名簿の作成・ 管理に従事し、 その結果、 累計会員数約6 万人を擁する顧客名簿に至った。
原告は、 コンビニエンス・ ストア店内における設置面積0 . 9 平方メートルという限られたスペースを利用し、「 クレーム産業」 と呼ばれるほどクレームを受けることが多いクリーニングサービスにおいて、 経験が乏しいコンビニ店員が対応できるよう各種のマニュアルを整備すると共に、それらマニュアルを被告のM D やクリーニング工場担当者と共有化しクレームの対応と解決にあたってきた。 その内容は、次のとおりである。 平成1 6 年3 月2 9 日、M D とクリーニング工場担当者向けの「 クレームルール集」 を作成し、 以後、4 回の改訂を実施した。 平成1 6 年6 月8 日、 M D とコンビニ店員向け及びクリーニング工場担当者向け「 Q & A 集」 を作成し、 以後、1 9 回の改訂を実施した。平成1 9 年8 月1 日、 xxxxxxの品質にかかわるクレーム情報を、M D 及びクリーニング工場担当者に「 クレーム報告書」 として送り、その情報を共有し、クレームの分析・対策・改善に活用し、クリーニングの品質を向上させた。更に、 M D 及びクリーニング工場担当者との「 品質会議」を累計5 回開催し、クリーニングの品質を向上させた。平成2 0 年1 1 月2 0 日、 クリーニング工場担当者向けの「 電話応答集」 を作成し、それに基づいてロールプレイング・トレーニングを実施した。
コンビニエンス・ ストアにおけるクリーニング取次サービスにおいては、複数のクリーニング工場においてクリーニングを行うことから、 各工場のクリーニング品質を高いレベルで統一することが必要である。原告は、次の対策を講じた。 平成1 6 年3 月5 日、 各クリーニング工場が遵守すべき「クリーニング倶楽部統一品質基準書」を作成し、 以後4 回の改訂を行い、 これによってクリーニング品質の統一が実現できた。 その後、 各工場向け「クリーニング倶楽部工場マニュアル」( 日常事務編) ( イレギュラー編) ( 写真解説編) を作成し、各工場における作業の指導を行った。 平成2 0 年1 2 月1 8 日、洗浄効果を数値で評価するJ I S 規格の評定法で各工場の洗浄率を調査したところ、クリーニング工場6 社の平均値は6 1 . 5 % であった。洗浄率を改善するため、 大手洗剤メーカーであるラクナ油脂株式会社の最高級洗剤「エグゼブライト」 を各工場にて統一使用することにより、洗浄率は7 9 . 4 % にまで向上した。
クリーニング取次サービスを実施できる好適店舗の選定について、平成1 5年3 月から6 月までの間、 B 1 は、 都内9 0 0 余店のセブン- イレブンの各店舗について「 店舗評価表」 による現地調査を実施した。「店舗評価表」は、居住形態、世帯数、クリーニング店、 店舗従業員、店内設置スペースの5 項目を
1 0 0 点満点で評価するもので、これによって、クリーニング取次サービスを実施できる好適店舗を選定するものである。 平成1 9 年1 2 月8 日、B 4 チーフM D の指示により、再度都内8 0 8 店を現地調査し、 平成2 0 年1 月1 0 日、好適店舗3 2 3 店を選定した。
運営コストの削減について、 平成1 7 年5 月、原告のアドバイスにより、クリーニング工場の株式会社白富士と株式会社xxは、 株式会社xx運輸を採用し、 クリーニングの夜間配送に切換え、物流コストを5 % 削減した。平成1 9年3 月、原告のアドバイスにより、 労働者派遣会社L S サービスからドライバーの派遣を受け、夜間使用していないクリーニング工場の集配車を利用することにより物流コストを5 % 削減した。 ボックス型洗濯物管理装置に使用するバ
ッグ「 衣服運搬ケース」、 各種帳票類、洗剤を統一することによりコスト削減を実現した。 バッグは平成2 1 年5 月より1 9 8 円/ 個とし、 1 8 % コストダウンした。 クリーニング伝票は平成1 9 年9 月より2 . 9 円/ 枚とし、2 1 %コストダウンした。 ラクナ油脂エグゼブライト洗剤は平成2 1 年5 月より7 8
0 0 円/ 1 8 k g とし、2 0 % コストダウンした。
クリーニング取次サービスを取り扱う店舗数を拡張するにあたっては、 優良なクリーニング工場との提携関係の構築が不可欠である。平成1 8 年から平成
1 9 年の間に、 6 つのクリーニング工場( 有限会社C C サービス、 アーク株式会社、 株式会社サンレモンアサカ、 株式会社ケイベスト、株式会社日乃出、株式会社ユニバース) が離脱したものの、新規に4 つのクリーニング工場( 株式会社源十合、 株式会社クリーンパーク、株式会社ホームドライ、株式会社ロイヤルクリーナース) との取引を開始することができた。平成1 9 年1 月から6月にかけて、 クリーニング工場との契約が中途解約になった際には、原告代表者自らが、 工場でクリーニング業務に深夜従事することにより、本サービスの継続性を維持できた。 サービス開始時に参加を得た株式会社白富士、株式会社xx、 株式会社ハリミツの他、 中途解約に至った6 つのクリーニング工場との間にも信頼関係に基づいてクリーニング取次サービスを提供できた。また、株式会社ホームドライ、 株式会社ロイヤルクリーナース、株式会社クリーンパークの経営者及び従業員とは、 厚い信頼関係を構築できた。
( 5 ) クリーニング取次サービスの株式会社カジタクへの移行
被告は, コンビニエンス・ ストアにおけるクリーニング取次サービスのベンダーを株式会社カジタクへ移行させ、 平成2 2 年6 月2 8 日以後、 被告は、原告がこれまでに築き上げた成果である顧客名簿を初め、各種マニュアル類、クリーニング伝票、メッセージカードをそっくりそのまま利用し、「 ボックス型洗濯物管理装置を用いたクリーニング取次サービス」 を利用するものである。
( 6 ) 契約終了通知の無効又は債務不履行
本契約は、 平成1 5 年5 月、 原告代表者が企画立案した「 ボックス型洗濯物管理装置を用いたクリーニング取次サービス」 を被告に持ち込んだとき以来の原告・ 被告間の契約関係、「 約定書」( 甲7 ) 、「 個人情報保護に関する覚書」( 甲8 ) 、「クリーニング取次サービスに関する契約書- 実験期間」( 甲
9 ) を前提にして締結されたものであり、 本契約1 条は、本件クリーニング取次サービスは原告・ 被告が共同して開発したものであることを確認し、本契約は、 平成1 7 年6 月から逐次契約更新され現在に至るものであり、 すなわち自動更新を前提とする契約である。本契約締結の背景となった前提事実、契約書の規定された目的、 契約期間の各条項等から明らかなとおり、 本契約は更新を前提とした継続的契約である。
継続的契約については、 契約を終了させることに合理性があっても、相手方に損害を与え、 それに対する代償措置が何もないような場合には、 債務不履行に当たる。 また、契約の実現に一定の資本の投下が必要で、 継続されることを前提に当該契約が締結された場合、 当事者はその契約から投下した資本を回収することを期待しているから、 このような場合には、 一方当事者の解約申入れによって契約を終了させるのは妥当ではなく、 契約を解約するためには「 正当な事由」が存在することが必要である。更に、 契約の存在を前提として製品の販売のための人的・ 物的な投資をしているときには、 その者の投資等を保護す
るために契約の継続性が要請されるから、 契約の更新拒絶について一定の制限を加え、継続的契約を期間満了によって解消させることについて合理的な理由を必要とする。
平成2 2 年3 月1 5 日付の契約期間満了通知は、 被告が本契約を一方的に終了させるものであり、〔1 〕 相手方に損害を与え、 それに対する代償措置が何もないものであり債務不履行にあたり、〔 2 〕 原告は本契約に投下した資本を回収することを期待しているものであるところ、本契約終了通知には正当な理由が存在せず、〔3 〕 原告の本契約への投資等を保護するため契約の継続性が要請させるところ、 合理的な理由なく期間満了によって解消させようとするものである。
よって、 被告が平成2 2 年3 月1 5 日付でした平成2 2 年6 月2 7 日の契約期間満了による本契約終了の通知は無効であり、仮に有効であるとしても代償措置のない契約終了通知は債務不履行にあたる。
4 被告の主張( 争点)
本件クリーニングサービスは、原告独自の企画立案によるものではなく、あくまでも原告と被告が共同開発したものである( 本契約1 条) 。被告は、 既に先行して、 平成1 0 年の時点で神奈川県において、 2 4 時間ボックス受付型のクリーニング取次サービスを実施済みである( 平成2 1 年1 1 月に同サービスは終了している。) 。 本契約1 3 条は、原告は、本契約と同一もしくは類似のビジネス・ サービスを他のコンビニエンスにおいて展開する場合は、事前に被告と協議し円満に解決すると定めるのみであり、原告による他の企業へのサービス提供を禁止する競業避止義務を課したものではなく、原告・被告間においてノウハウ提供について独占的契約を締結した事実はない。 被告のクリーニング取次サービスの確立・発展への原告の貢献についても、原告がベンダー業務として、本件クリーニング取次サービスを円滑に行ううえで当然の行為を行ったに過ぎず、特別な成果やノウハウではない。
相手方に損害を与えたというが、 そもそもシステム開発は被告の費用負担、クリーニング業務は各クリーニング工場の費用負担において行われており、もとより原告には投資がなく損害は生じていない。代償措置が何もないというが、被告は原告に対し、 平成2 2 年1 月2 0 日、 2 5 日、 2 月1 7 日に、新しいスキームへの原告の参加を申入れ、その際、 新スキームにおいてアドバイザリー契約を( 売上の1 ~ 2 % をアドバイザリー報酬とするもの) を原告被告間の締結できるかどうか、 原告からどのような助言を新スキームにおいて行えるかにつき被告に提案して欲しいとの提案をしたが、 原告からは新スキームへの具体的助言はされず、参加を拒否された。 また、 被告は、 別途フリーダイヤルの権利に対する3 0 0 万円の提示を行ったが、原告はこれも拒否した。
本契約が終了するにあたり十分な合理的理由が存在していた。原告のビジネスモデルは成立しないことが明らかとなったからである。すなわち、工場負荷が過大となることによる工場撤退の課題、 物流管理の課題、 顧客からのクレーム対応についての課題、会員管理・ 受注管理等のシステム開発を被告が負担しなければならないという課題、 品質管理や対応管理等についての統一的な運用スキームに関する課題等が山積していたが、 結局原告からは有効な解決策が出されなかった。 本件クリーニング取次サービス開始以降、顧客からのクレーム件数が相当数にのぼり、かつその処理期間も長期間にわたることが多かったばかりか、さらに誤納品、紛失についてのクレームに対する対応も悪く、 二次、
三次クレームにも繋がっていた。また、工場への負荷・負担が多く合理的な対応ができないスキームであったことから、 ピーク時でも7 工場体制であったにもかかわらず、 6 年間で延べ8 工場が撤退するという混乱状態が続き、したがって本件クリーニング取次サービスモデルでは安定したサービスの提供がなし得ず、 また将来の拡大策も図れず、 xx的な見直しを要する状況であった。物流業務の管理に関しても、 集荷時間が遵守されず、 納品時間の遅延や入店スキャン漏れが多数発生しており、 顧客や店舗に迷惑をかけていた。また原告から被告に対し、 平成1 8 年4 月に取扱店舗の減少要請、 同年1 0 月にクリーニング料金値上げの要請があり、 被告は同年8 月から翌平成1 9 年1 2 月にかけて
5 7 店舗のサービス停止、 平成1 9 年1 1 月に値上げの実施を行ったにもかかわらず、その2 か月後の平成2 0 年1 月には、 原告は被告に対し取扱店舗の増加を要請するなど、 原告のベンダーとしての要請、 意見に統一性が無く、 事業の安定稼働に不安を感じる状況を生じていた。 また原告は、 被告との間で合意した内容を議事録に異なる内容で記載する、 あるいは各工場に伝えない等の連絡体制に問題を抱えていたのみならず、各工場の体制につき事実把握ができていない等の問題を生じていた。 被告は、原告との間で、当初から前述の諸課題に関する改善要望の協議を継続していた。 しかし、 原告による改善が見込めないため、契約期間満了の6 箇月以上前である平成2 1 年1 2 月2 5 日、被告から原告に対し、 契約延長の意思がないことを口頭で通知し、 契約終了後、 クリーニング取次サービスのベンダーは、 リテールシステムサービス株式会社に移行した。
第3 裁判所の判断
1 認定事実
証拠及び弁論の全趣旨により以下の事実が認められる。
( 1 ) ボックス型洗濯物管理装置を用いたクリーニング取次サービスの提案 B 1 ( 甲5 ) は、 被告商品本部雑貨部E C サービス担当B 3 チーフM D に対
し、 平成1 5 年5 月1 日、「 クリーニング取次仕様提案」( 甲6 ) と題する提案書を提出し、 コンビニエンス・ストア店内に設置するボックス型洗濯物管理装置( 甲6 の図1 ~ 4 ) とそれに使用するバッグ( 甲6 の図5 ) の仕様及び各種帳票( 入会申込書、 クリーニング伝票、 預かり票、 納品書) の仕様( 甲6 の図6 ~ 9 ) を提案するとともに、これらを用いたコンビニにおけるクリーニング取次サービスについて、 その運営方法( 甲6 の図1 0 ~ 1 5 ) 、 収入計画、スケジュール、費用負担、取引先政策等の提案をした。
B 1 の被告への提案書提出前から、 サンデン株式会社は、 平成1 0 年6 月から平成1 5 年4 月までの間に、 発明の名称を「 洗濯物収納装置」又は「クリーニングボックス」として1 8 件の特許出願をしていた( 乙4 の1 ~ 1 8 頁) 。 B 1 は、平成1 2 年、 当時勤務していた株式会社ファミリーマートにおいて、コンビニでの「 ボックス型洗濯物管理装置を用いたクリーニング取次サービス」を企画立案し、 平成1 4 年3 月2 2 日には、株式会社ファミリーマートは、サンデン株式会社との共同開発により( 甲4 8 ) 、 クリーニング前の洗濯物が収容される洗濯物投入部とクリーニング後の洗濯物が収容される洗濯物受け取り部を1 つのケースを垂直方向に区画して形成した洗濯物管理装置( 甲2 7 )を開発し、 B 1 を発明者の1 人として特許出願し、 同社の展開するコンビニであるファミリーマートで試行していた。しかし、B 1 は、別会社組織によりファミリーマートにおけるクリーニング取次サービスを拡大展開する提案が実現
せず、株式会社ファミリーマートを退職していた。
被告は、 B 1 の提案前の平成1 0 年8 月から、神奈川県の川崎・ 横浜地区のセブン- イレブン店4 9 店舗において、 クリーニング取次業務を行っていた
( 甲1 7 の1 ~ 3 、 甲1 8 、 甲2 8 の1 、 乙3 1 、 乙3 2 の1 ~ 5 、乙3 3 ~
3 6 ) 。 従来方式は、洗濯物は店頭に設置したクリーニングボックスに投入し、仕上り品は、 バックルームに設置した収納ケースへ収納し、 店内カウンター
( 専用) で引渡しをするというものであった。 しかし、従来方式では、ボックスの店外設置に違和感( 夜暗い・清掃不徹底) があり、しかも、仕上り品の引渡しはカウンターでしていたところ、 保健所の許可条件で、 引渡しは専用カウンターに限定され、 飲食店営業部分( 弁当、 おでん、 中華まんの販売) との仕切りが要件とされていたため、 被告は、 従来方式での拡大は不可能と判断し
( 甲2 8 の1 、 甲2 9 の1 ) 、 平成2 1 年1 1 月、 川崎・横浜地区での従来方式のクリーニング取次サービスを廃止した。
被告の従来方式に対して、 B 1 の提案は、その新規性( 甲6 の4 頁) として、受取る投入部と仕上り品を保管する保管部が分離型である分離型のボックスであり、 狭いコンビニの売場に対応出来ることを謳っていた。 前記特許出願に係るファミリーマートの方式では、1 つのケースを区分しているのみであるが、 B 1 の提案は、 これを分離して設置できる分離型のボックスを提案し、これによって狭いコンビニの売場に対応したものである。 同様に新規性として、 ボックスの投入部にカードリーダー( 会員カード) を設置し、受付の自動化と預り票を発行することも挙げているが、 会員カードの発行、ボックス投入部へのカードリーダーの設置、 受付及び預り票発行の自動化は、被告の従来方式で、既に実施されていた。 提案書では、ボックス型洗濯物管理装置とバッグは、 オリジナル仕様のものを使用するとして特許出願中と記載され( 甲6 の3 頁) 、B
1 は、 平成1 5 年5 月2 8 日、 発明の名称を「 洗濯物管理装置、この洗濯物管理装置を用いたクリーニング取次方法およびシステム」とする特許を出願したが( 甲1 5 ) 、 平成2 0 年9 月1 6 日、拒絶査定を受けた( 乙1 ) 。なお、バッグ( 衣服運搬ケース) について、 B 1 は、 平成1 5 年1 2 月2 4 日に意匠登録を申請し、平成1 6 年1 1 月5 日に登録を受けた( 甲1 6 ) 。
( 2 ) 都内セブン- イレブン店での試験実施
被告は、 B 5 会長出席の社内会議において、 B 1 の提案に基づき、新たな方式によるクリーニング取次サービスの実施を検討し( 甲2 8 の1 の1 ~ 2 頁) 、その後、平成1 5 年9 月3 0 日の方針稟議( 乙9 ) を経て、 別紙2 「クリーニング受付サービスの概要( 2 3 区用) 」( 甲2 8 の1 の3 ~ 4 頁) のとおり、クリーニング受付ボックスと仕上り品引渡しボックスを店内に設置する方式によるクリーニング取次サービスを、 従来方式の会員制システムを活用し再構築した会員管理・ 会計システムを用いて、東京都内のセブン- イレブン店舗でテスト実施することを決定した( 甲5 、 甲2 8 の1 ・ 2 ) 。しかし、 被告は、別紙2 の店舗レイアウト例に受付ボックスと引渡しボックスを並べて示しているように、B 1 が提案の新規性として強調した分離型であることを重視して実施を決定したものではなく、 B 1 の企画により既に実施されていたファミリーマートのボックス方式の改良版という程度の認識であった( 甲2 8 の2 、甲4 1の1 、甲4 8 ) 。
その間、 B 1 は、 平成1 5 年8 月までに、 都内9 0 0 余のセブン- イレブン店舗を調査し、 実施に適するか否かを評価した店舗評価表( 甲3 0 、甲3 1 )
を作成して被告に提出し、 平成1 5 年9 月、 クリーニング工場3 社( 株式会社白富士、株式会社xx、株式会社ハリミツ) と共に、「C V S - C ( コンビニエンス・ストア- クリーニング) 協議会」 を設立し、 更に、平成1 6 年2 月、実験店の所轄保健所( 都内7 区) の環境衛生課担当係長に仕組みを説明して、
7 区の保健所の統一見解としてクリーニング業法に抵触しないとの回答を得た上で、 同月、 上記クリーニング工場3 社と共に原告会社を設立し、 代表取締役に就任した( 甲2 、 甲5 ) 。
被告は、 平成1 6 年3 月2 2 日の稟議( 乙9 ) において、 平成1 6 年6 月2
1 日から、 都内2 4 店舗で試験実施を開始することを決定し、 セブン- イレブン店において実施するクリーニング取次サービスについて、 クリーニング倶楽部( この名称は、被告が神奈川県での従来方式の実施に際し、 商標登録したものである。 乙4 7 の1 ~ 4 ) と称する会員制サービスとすることとし、原告の提案に基づき、 協議・ 検討した上で、 パンフレット( 別紙3 ) 、クリーニング伝票、 入会申込書、 会員カードの様式( 甲5 0 の1 ~ 5 ) を作成した( 乙1 5の2 の5 ~ 7 ) 。また、被告は、原告の提案に基づき、被告がその製作費用を負担してサンデン株式会社の協力の下に洗濯物管理装置( 甲1 9 ~ 2 6 の各4
・5 、 乙1 5 の2 の1 ~ 4 、 乙3 7 の1 ~ 3 ) を製作したほか、株式会社xx総合研究所及びxx電気株式会社に依頼して、 会員管理システムの開発をした
( 乙1 5 の2 の8 ~ 1 0 、 乙1 7 、 乙3 8 、 乙4 0 ~ 4 1 ) 。 サンデン株式会社は、 平成1 6 年1 0 月1 3 日及び平成1 7 年4 月1 9 日、 被告の依頼により製作した小型、 大型の2 つの形状の洗濯物管理装置について意匠登録の出願をし、 後に登録を受けた( 乙2 の1 ・ 2 ) 。 そのほか原告は、 被告との協議・検討を経て、 平成1 6 年3 月5 日、各クリーニング工場が遵守すべき「クリーニング倶楽部統一品質基準書」( 甲9 9 ) を作成し、 平成1 6 年3 月2 9 日、M D とクリーニング工場担当者向けの「 クレームルール集」を作成したほか、マニュアル類を作成した( 甲1 0 3 ) 。
被告は、 原告との間で、 平成1 6 年5 月4 日、原告をベンダー( 売り手) とするセブン- イレブン店( フランチャイズ加盟店及び直営店) との取引について加盟店への推薦条件等を確認した約定書( 甲7 ) を締結し、 平成1 6 年6 月
8 日、 個人情報保護に関する覚書( 甲8 ) を締結し、 平成1 6 年6 月2 1 日から1 か月以内に都内セブン- イレブン店2 4 店舗でクリーニング倶楽部によるクリーニング取次サービスを開業させた。 開業に前後して原告は、 平成1 6 年
6 月から7 月、 xxxクリーニング生活衛生同業組合、xxx健康局地域保健部環境衛生課、 厚生労働省健康局生活衛生課、 経済産業省中小企業庁事業環境部取引課をそれぞれ原告代表者が訪問し、 担当者らと面談し被告における運用方法を説明して理解を得た( 甲5 ) 。
( 3 ) 本契約締結の経緯及び内容
被告は、 平成1 6 年6 月2 8 日、 原告並びにクリーニング工場である株式会社白富士及び株式会社xxとの間で、 セブン- イレブン店でクリーニング取次サービスを実験的に実施することについて、 有効期間を平成1 7 年6 月2 7 日までの1 年間とする「 クリーニング取次サービスに関する契約書- 実験期間」
( 甲9 ) を締結した。
「クリーニング取次サービスに関する契約書- 実験期間」では、取次所の開設、ボックスの設置、会員の募集、 店舗販促物の作成等は、被告の役務と費用負担と定め( 3 条、 8 条1 項) 、 マーケティング費用( 市場調査、 店舗調査、 レイ
アウト調査) 、 監督官庁及び組合折衝、クリーニング業者の信用調査と審査及び管理、ボックス、 専用バック、各種帳票類、 運用ツール等の企画、工場側オペレーションのマニュアル作成と実施指導、クレーム情報のシステム化と共有、統一品質基準書の作成と管理等は、 原告の役務と費用負担と定めた( 8 条2項) 。 さらに、 原告が他の企業に同様のビジネスモデルを推薦する場合は、被告の事前承認を必要とすることとし( 9 条3 項) 、 取引条件については、 取扱店舗が売上代金の2 5 % を取得し、 原告の同契約に基づく対価は売上代金の7
% 、 クリーニング工場のクリーニング業務に対する対価は売上代金の6 8 % と定められた( 1 0 条) 。
1 年後の平成1 7 年6 月2 7 日、 原告と被告は、 別紙1 のとおり本契約( 甲
1 0 ) を締結した。 本契約においては、原告は、クリーニング会社が高品質なクリーニング業務を実施するよう監督指導するものとし( 2 条1 項) 、被告は、被告の責任と負担で、 セブン- イレブン店に洗濯物の受渡しを行う取次所を設置するものとしているほかは( 3 条1 項) 、 実験期間の契約とは異なり各当事者の役務、 費用負担についての具体的な定めがない。 しかし、 実際は、契約に基づく各当事者の役務、費用負担については実験期間の契約と同じと認識され、本契約に基づいて原告が行うべき業務内容は、 行政及び業界との調整、市場調査、 店舗調査、 マニュアル類の作成と更新、 工場開発、工場指導、 工場管理、物流管理、 品質管理とクレーム対応、 販売情報の分析・活用・ 共有化( クリーニング倶楽部ニュース作成を含む。) などとされた( 乙6 ) 。 クリーニング料金( 売上) の配分も、 クリーニング工場の配分について具体的な記載がないが
( 本契約7 条) 、実際は、 実験期間の契約と同じとされ、セブン- イレブン店
2 5 % 、 原告7 % 、 クリーニング工場6 8 % とされていた( 甲8 1 、乙4 2 ) 。原告は契約に基づき前記役務と費用負担をすることとされていたので、原告へのクリーニング料金の配分は、 実験期間と同様、原告の上記業務の遂行の対価として定められたものと解される。 契約期間( 1 1 条) は、 平成1 9 年7 月2
7 日までの2 年間を当初の期間とし、 以後、 終了の3 か月前までに特段の意思表示がない限り、同条件で1 年間更新するものとされた。特約事項( 1 3 条)として、実験期間とは異なり、 原告は、本契約と同一もしくは類似のビジネス
・サービスを他のコンビニエンスにおいて展開する場合は、 事前に被告と協議し円満に解決するものと定められた。 しかし、 契約終了後に関しては原告の活動を制限する条項はない。
( 4 ) 契約期間満了通知までの経緯
B 1 が当初提案した収入計画( 甲6 の図1 6 ) によれば、 平成1 5 年度下期に2 0 店舗で導入し、 平成1 6 年度に3 0 0 店、平成1 7 年度に7 0 0 店を新規展開し、 平成1 7 年度には、 1 0 2 0 店舗において、1 0 億2 3 0 0 万円の売上を挙げて、 セブン- イレブン店舗の収入( 2 5 % ) が2 億5 5 0 0 万円、そのうち被告の本部収入( 4 4 % ) が1 億1 2 6 0 万円となる計画を提示していた。
しかし、 実際には、 別紙4 クリーニング収支( 乙4 4 ) のとおり、平成1 7年5 月2 日に第2 次展開( 5 7 店舗) 、平成1 7 年1 1 月2 9 日に第3 次拡大
( 1 2 0 店舗) 、平成1 8 年6 月6 日に第4 次拡大( 8 5 店舗) と取扱店舗を拡大したものの、売上は、 平成1 9 年度の3 億2 7 0 0 万円を頂点として、平成2 0 年は3 億2 5 0 0 万円、 平成2 1 年は2 憶5 7 0 0 万円と減少傾向をたどり、 平成1 6 年6 月の実験開始後、 平成2 2 年6 月の契約終了通知までの6
年間の累計でも、売上1 3 億8 2 0 0 万円、 セブン- イレブン店収入3 億4 5
0 0 万円( 売上の2 5 % ) 、 そのうち被告本部の収入1 億8 4 0 0 万円( 実施店舗2 0 5 店からの本部の平均チャージ率5 3 . 5 % により算定したもの、乙
4 3 ) となっている。 他方、 被告の経費であるクリーニング端末リース料及び洗濯物管理装置等の購入費用( 乙1 5 ~ 1 6 、 xxを含む。) を控除すると、被告本部の収支は、 6 9 9 5 万円の赤字となっており、構造的な不採算事業となっていた。
取扱店舗数と工場数の推移は、平成1 6 年1 2 月、 店舗数2 7 店、工場数2工場、 平成1 7 年1 2 月、 店舗数8 1 店、 工場数2 工場、 平成1 8 年1 2 月、店舗数2 4 5 店、工場数7 工場、平成1 9 年1 2 月、 店舗数2 1 2 店、工場数
6 工場、平成2 0 年1 2 月、 店舗数2 1 2 店、 工場数6 工場、 平成2 1 年1 2月、 店舗数2 0 9 店、 工場数6 工場、 平成2 2 年4 月、店舗数2 0 4 店、 工場数5 工場である( 甲6 5 ) 。
このように、 店舗拡大及び売上が、 原告が被告に示した当初の提案より大幅に伸び悩み、 かつ各店舗の売上が伸びないために、 クリーニング工場の配送等の事務負担も大きな構造となり( 甲6 7 ) 、 原告は、 工場の負担軽減のために売上不振店のサービス停止を提案し、 被告が第4 次拡大をして取扱店舗数を大幅に増やした直後の平成1 8 年8 月から平成1 9 年1 2 月にかけて被告が5 7店舗のサービスを停止することになった( 甲4 8 ) 。 さらに原告は、平成1 8年1 1 月2 3 日、被告に対し、 クリーニング業者の選定条件として、クリーニング料金の値上げを要請するとともに、セブン- イレブン店の売上配分を2 5
% から2 0 % に減らし、工場の売上配分を6 8 % から7 3 % に増やすことなどを要請した( 甲6 8 ) 。その後、平成1 8 年1 2 月から平成1 9 年5 月までの間に、 各店舗の売上が低いために赤字になるなどとして、少なくとも受託した
7 工場のうち4 工場が撤退する事態を生じ、 原告は、 急遽、 それまで取引のない工場と折衝し、代替工場を調達する必要が生ずる事態となった( 甲6 5 、甲
8 1 、 乙1 4 ) 。被告は原告からの要請により平成1 9 年1 1 月にクリーニング料金の値上げを実施したが( 乙2 9 ) 、 原告は、 わずか2 か月後の平成2 0年1 月1 0 日、 被告に対し、 値上げにより客数が2 0 % 減少しているため、工場の稼働率が落ちているとして、取扱店舗の拡大を要請した( 乙2 9 ) 。
2 契約期間満了通知の効力について
前記認定事実によれば、 本契約に基づく原告と被告との間の権利義務関係、とりわけ本件において原告が確認を求める法的地位のうち重要なものである原告がセブン- イレブン店におけるクリーニング取次サービスの実施による売上の7 % の配分を受ける権利は、 本契約に基づいてクリーニング会社が高品質なクリーニング業務を実施するよう原告が監督指導し( 本契約2 条1 項) 、 行政及び業界との調整、 市場調査、 店舗調査、 マニュアル類の作成と更新、工場開発、 工場指導、 工場管理、 物流管理、 品質管理とクレーム対応、販売情報の分析・ 活用・ 共有化( クリーニング倶楽部ニュース作成を含む。) 等の業務を行うことによる対価としての性質を有するものであって、その意味で法律行為でない事務の委託( 準委任契約、 民法6 5 6 条) に基づく受任者の報酬( 民法6
4 8 条) の性質を有すると評価できる。原告は、クリーニング取次サービスの実施に伴う特許出願や意匠登録などは、必要に応じて原告代表者の名義で申請しており、 その他の特許、 意匠、商標などは、 被告あるいは洗濯物管理装置を製作したサンデン株式会社が保有しており、 また、 契約期間中は、 原告が同一
又は類似のビジネス・ サービスを他のコンビニエンスで展開する場合に被告との協議を要するものとされてはいるが、これも契約期間中に限られ、契約終了後における原告の上記行為に対する制約は何もない。 そして、 前記のとおり原告の行うべき業務は多岐にわたり、 かつ、 コンビニ店舗でのクリーニング取次サービスの円滑な実施のためには重要な役割を果たす事務であって、そのことは、 原告が第2 の3 ( 4 ) において原告の貢献として多数の事務を行ったことを主張しているところからも明らかであるから, 原告が提供したビジネスモデル使用の対価というようなものではなく、 事務処理の報酬であると考えられるのである。
そして、 本契約に基づいて原告が行うべき事務の内容が、 コンビニ利用者の店舗ないしコンビニチェーンに対する信頼の確保の基礎となる重要性を有するものと評価できることからすれば、 そして、 民法6 5 1 条が、 委任における信頼関係の重要性を基礎として、 委任は各当事者がいつでもその解除をすることができると定めている法理を踏まえ、 かつ本契約には、契約期間の定めと更新の定めがあり、 3 か月前の予告により更新しないことができるとしていることからすれば、 被告が、 本契約1 1 条に基づいて期間満了による契約終了の通知をすることは、 原告の主張するような正当な理由が必要であるとか、合理的な理由を必要とするとはいえず、 被告は、理由の有無にかかわらず、 自由な判断により本契約1 1 条に基づき期間満了による契約終了の通知をすることができると解するのが相当である。 本契約が準委任契約の性質を有することからすれば、 高度な信頼関係が存在することが前提となっているのであり、 それが維持できないとなれば、 契約関係を解消することができるのが原則であって、 原告が、 クリーニング取次サービスの確立・発展のためにその主張するような貢献をしたからといって、 契約上何ら制限されていない期間満了による契約終了の事由に制限を加えることは相当でないし、 その点については、 後記3 のとおりの代償措置が講じられれば、 それで足りるというべきである。
なお、仮にこれを契約終了事由に何らかの制限が加えられるべき継続的契約とみたとしても、準委任契約として信頼関係が重視されることからすれば、前記のとおり被告に利益が上がらず、 店舗の売上も十分上がらないため取扱店舗数の拡大も売上も伸び悩み、 そのためクリーニング工場の負担が大きい一方で利益が上がらず撤退する工場も出ていた実情からすれば、その余の被告の主張事由について検討するまでもなく、 被告に原告との間の契約を継続させることを義務付けることが合理的であるとは到底いえない。
よって、 平成2 2 年6 月2 7 日の契約期間の満了によって、 本契約は終了しているから、 原告の請求のうち、本契約上の地位の確認を求める請求( 第2 の
2 ( 1 ) ) 、 及び、 本契約に基づく平成2 2 年6 月2 8 日から平成2 4 年7 月
2 7 日までのクリーニングサービス料の請求( 第2 の2 ( 2 ) 〔1 〕) は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも理由がない。
3 損害賠償請求について
本契約1 条が謳うように、 セブン- イレブン店におけるクリーニング取次サービスについて、原告と被告は、これを共同開発したものであることを確認している。ところが、 本契約が終了した場合には、実施されるセブン- イレブン店をフランチャイズないし直営により支配する被告は、共同開発ないし契約期間中におけるその仕組みの確立・発展の成果を基に、 更にこれを発展させてその果実を享受することができる。これに対して、せっかくサービスの拠点とし
てきたコンビニ店舗を自らの支配下に置かない原告は、契約終了後は他のコンビニチェーンにビジネスモデルとして提案することはできるが、その具体的な適用にあたって各コンビニチェーンの実情に応じて一から出直しとなることが避けられない。 原告は、契約に基づく業務とはいえ、 店舗面積が限られるコンビニエンス・ ストアにおいて、 設置面積0 . 9 平方メートルで、クリーニング業法、 食品衛生法、 中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業者の事業活動の調整に関する法律( 分野調整法) などの法規制に抵触しないクリーニング取次サービスを確立し実現するために、 ボックス型洗濯物管理装置( クリーニングボックス) を用いた取次サービスのノウハウと労力を提供し、〔1 〕マニュアル作成及び改訂、〔 2 〕 行政や業界団体への対応、〔 3 〕一般に多くのクレームが寄せられるクリーニングサービスにおけるクレーム対応方法・ 情報共有方法の確立、〔 4 〕現地調査を経た好適店舗の選定、〔 5 〕運営コスト削減、〔 6 〕 提携先クリーニング工場の開発、 工場との信頼関係の構築などの事務を処理した。 被告は、本契約に基づくこれまでの原告の事務処理の成果も利用しながら、 ほぼ同じ仕組みにより、 現在、 別会社( 株式会社カジタク、 甲6
3 、乙3 0 ) に委託して、クリーニング倶楽部を運営している( 甲1 9 ~ 2 6 、甲4 9 、 甲7 6 ~ 7 9 、xxを含む。) 。
そうすると、 このような共同開発の仕組みでありながら、 その仕組みを生かす不可欠の前提であるコンビニ店舗に対する支配的な地位において契約当事者間に格差があるために、契約終了後における過去の成果の配分に著しい不平等が生ずるときは、民法2 4 8 条が、 付合・ 混和・加工によって物の所有権を失ったことによって損失を受けた者が、 これにより所有権を取得した者に対して民法7 0 3 条、 7 0 4 条の不当利得返還請求の規定に従い償金を請求することができると定めている法理、 あるいは、民法6 5 1 条2 項が、 相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならないと定めている趣旨などに照らして、 本契約を合理的に解釈することにより、 被告は、共同開発してきた仕組みを使い続けることによって受ける利益の範囲内において、 契約が更新されずに終了することによる原告の損失を補償する義務があると解するのが相当である。
これは、 原告の請求する債務不履行に基づく損害賠償請求とは異なる契約上の損失補償義務ではあるが、 原告の請求は、 その請求原因の主張からみて黙示的に、このような損失補償義務の履行も請求する趣旨と解される。
そして、 仕組みを使い続けることによって被告の受ける利益、これは即ち原告の損失にあたるといえるが、 これを評価するにあたっては、 原告の行った事務処理は、 準委任契約上の業務の遂行であって、その対価の支払は、契約期間中のクリーニング料金の売上の分配( 原告取得分7 % ) により報酬として支払われていることも重く見なければならない。 すなわち、クリーニング取次サービスの仕組みを維持発展させるためには、 前記認定事実及び原告の主張からしても、 日々相当の努力を積み重ねて、 クリーニング工場の指導監督やコンビニ店舗との調整等の不断の努力をし、 そのための費用を負担していく必要があることが、優に認められるからである。 更に、 契約期間中にも紆余曲折があり取扱店舗数や売上が伸び悩んでいた実情からすれば、 原告の主張する取扱店舗数が6 0 倍に増えるなどということは、 損失補償に際し想定すべきことではない。
契約終了日である平成2 2 年6 月2 7 日までの1 年間の被告から原告への支払額は、1 億8 5 1 5 万4 0 9 2 円であり( 甲8 8 、 甲8 9 ) 、これはクリー
ニング料のうちセブン- イレブン店の取得分の2 5 % を控除した残り7 5 % 分であるので、 直近1 年間のクリーニング料の総額は、 7 5 % ( 0 . 7 5 ) で割り戻して算定される2 億4 6 8 7 万2 1 2 2 円( 円未満切捨、 以下同じ。) となり、そのうち原告の取得分( 7 % ) は、1 7 2 8 万1 0 4 8 円となる。
被告が契約終了後も仕組みを使い続けることによって受ける利益は、契約に基づき維持発展させて出来上がった現状の仕組みそのものの価値に対する評価額として、 契約終了時においては、 原告に対する支払額から準委任事務の処理に対する固有の報酬相当額として半分を控除した額と認めるのが相当であり、これが原告の損失となる。 しかし、 原告と被告の契約期間は6 年であったことに加えて、 仕組みそのものが日々維持発展させるべきものであることを考えれば、 契約終了後仕組みを使い続ける価値が徐々に減少し、契約終了の6 年後には、 その利用価値はすべて失われるとみるのが相当である。 その価値が減少する割合を6 年間同じ割合( 定額) とみると、 被告が仕組みを使い続ける利益、すなわちこれにより原告が被る損失の額は、 契約終了時には、 直近1 年間の原告に対する支払額の2 分の1 である年額8 6 4 万0 5 2 4 円に相当する額であったものが6 年後には0 円になると見積もられ、6 年間の平均をすれば、 更にその半分の年額4 3 2 万0 2 6 2 円( 原告に対する年間支払額の4 分の1 ) となり、6 年分の積算合計額は、2 5 9 2 万1 5 7 2 円となる。
したがって、 被告は、原告に対し、 本契約の趣旨に基づき、 契約に基づき出来上がった仕組みをセブン- イレブン店で使い続けることによる被告の利益相当額について、 契約終了に伴う同額の原告の損失の補償として、上記2 5 9 2万1 5 7 2 円の償金及びこれに対する平成2 4 年8 月8 日から支払済みまで商事法定利率年6 分の割合による遅延損害金の支払をすべきこととなる。
原告の請求のうち、 本契約を終了させた債務不履行による損害賠償請求( 第
2 の2 ( 2 ) 〔 2 〕) は、 前記2 のとおり契約の終了について被告の債務不履行がないから理由がない。 しかし、 その請求の趣旨に含むと解される本契約終了に基づく損失補償の請求については、上記償金とこれに対する遅延損害金を求める限度で理由があり、その余は理由がない。
東京地方裁判所民事第3 3 部裁判長裁判官 xxxx
裁判官 xxxx
裁判官 xxxx