2 国土交通省設置の賃貸住宅管理業法の施行に向けた検討会第 1 回検討会資料 3「資料 3:賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律について」参照。(http s://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001358229.pdf)参照。
金融ニューズレター
2020年
11月19日号
賃貸住宅管理業法に基づくサブリース事業規制の導入及び当該規制による不動産流動化・運用取引におけるマスターリース契約の取扱いについて
執筆者:xx xx、x xx
1. はじめに
賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(以下「賃貸住宅管理業法」又は「法」といいます。)が令和 2 年 6 月 12 日に成
立し、同月 19 日に公布されました。
従前、賃貸住宅の管理はオーナー中心で行われていましたが、オーナーの高齢化、管理内容の高度化などを背景として、委託方式やいわゆるサブリース方式 1により管理業者に対して賃貸住宅の管理を任せるオーナーが増加したことに伴い、管理業者とオーナーや入居者のトラブルが増加する傾向にあります 2。国土交通省は、賃貸住宅の管理業務の適正な運営等を図る目的で、平成 23 年に告示 3をもって賃貸住宅管理業者登録制度(登録規程・業務処理準則)を設けましたが、同制度における登録は任意に留まっていたため、以前から法制化により規制の実効性を高める必要性が議論されていました。そのような中、2018 年 4 月のシェアハウスのかぼちゃの馬車の破綻等をきっかけとしてサブリース問題が社会問題として大きく取り上げられたこともあり、法制化の気運がさらに高まり、今回の賃貸住宅管理業法の制定に至りました。
賃貸住宅管理業法は、賃貸住宅の入居者の居住の安定の確保及び賃貸住宅の賃貸に係る事業のxxかつ円滑な実施等を目的として、2 つの規制を定めています。ひとつが、オーナーから委託を受けて賃貸住宅について一定の管理業務を行う事業者に対する義務的な登録制の採用を含む業規制であり、もうひとつが賃貸住宅を対象としたサブリース方式による事業におけるオーナーに対する勧誘規制・説明責任を中心とする行為規制(以下「サブリース事業規制」といいます。)です。このうち、後者の
1 賃借人がオーナーから建物を借り上げた上で、転貸人に対して転借する方式をいいます。かかるオーナーと賃借人兼転借人の間の建物賃貸借契約を、(後述の事業を営むことを目的として締結されたか否かにかかわらず)以下「マスターリース契約」といいます。
2 国土交通省設置の賃貸住宅管理業法の施行に向けた検討会第 1 回検討会資料 3「資料 3:賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律について」参照。(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxxxxxxxxx/xxxxx/xxxxxxx/000000000.xxx)参照。
3 平成 23 年国土交通省告示第 998 号及び第 999 号
本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、当事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。
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Ⓒ Nishimura & Asahi 2020
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サブリース事業規制の施行日が令和 2 年 12 月 15 日に設定され 4、関連する政省令及びガイドラインが令和 2 年 10 月 16 日に公表されました。施行日が迫る中、実務上サブリース事業規制に係る分析及び対応が必要な状況にあります。
また、特別目的会社(SPC)を利用した不動産流動化のスキームや投資法人(REIT)による不動産運用スキームでは、マスターリース契約、特にパススルー方式(オーナーと賃借人兼転貸人の間の賃料と賃借人兼転貸人とテナントの間の転貸賃料を同額とする方式)によるマスターリース契約を採用することも多く、かかるスキームに対するサブリース事業規制の影響について分析及び整理が必要となります。
本稿では、かかるサブリース事業規制について、実務的に特に留意すべき点や不動産流動化取引や REIT スキームに与える影響の分析を中心に、ポイントを絞って 5解説いたします。
2. サブリース事業規制について
(1) 関連する法令・ガイドライン
サブリース事業規制に関連して、賃貸住宅管理業法並びにこれに係る政令 6及び内閣府令(施行規則)7が施行されるほか、国土交通省より、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」(以下「解釈指針」といいます。)、「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」(以下「適正業務ガイドライン」といいます。)が公表され、これらのガイドラインの中で、重要事項説明書の様式例・記載例を含み、サブリース事業規制に係る解釈・考え方について詳細に示されています。ガイドライン等はそれ自体が法的な強制力を持つものではありませんが、監督官庁による規制の解釈・監督の指針となるものであるため、実務上は法令に準じて留意が必要です。また、今後、特定賃貸借標準契約書、xxxxx住宅標準契約書及び監督処分基準も公表される予定です。
(2) 規制の全体像
賃貸住宅管理業法では、マスターリース契約が賃貸住宅管理業法で定義される「特定賃貸借契約」に該当する場合には、同契約に基づき賃借した賃貸住宅を第三者に転貸するサブリース業者(「特定転貸事業者」)に対して、以下の行為規制を適用する旨が定められています。なお、サブリース事業について、登録、届出その他の許認可の制度は採用されていません。
① 誇大広告等の禁止(法 28 条)
② 不当な勧誘等の禁止(法 29 条)
③ 契約締結前における契約内容の説明及び書面交付(法 30 条)(以下「重要事項説明」といいます。)
④ 契約締結時における書面交付(法 31 条)
⑤ 業務及び財産の状況を記載した書類の備置及びオーナーへの書類の閲覧(法 32 条)8
4 法附則 1 条 2 号、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の一部の施行期日を定める政令(令和 2 年政令第 312 号)。なお、前者の賃貸住宅管理業に係る登録制等の規制については、法公布の日から 1 年内に施行されることとされています(法附則 1 条柱書)。また、同規制のもとで必要となる登録については、さらに施行から 1 年の猶予期間が与えられています(法附則 2 条 1 項)。
5 紙面の都合上、各規制の詳細について網羅的は説明は行っておりません。後述のとおり、ガイドラインや重要事項説明書の記載例、標準契約書及びこれらの解説を通じて、詳細な解説がなされておりますので、そちらもご参照ください。
6 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律施行令(令和 2 年政令 313 号)(以下「政令」といいます。)。
7 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律施行規則(令和 2 年国土交通省令 83 号)(以下「施行規則」といいます。)。
8 サブリース業者は、業務及び財産の状況を記載した書類として、業務状況調書(施行規則別記様式第 1 号)、貸借対照表及び損益計算書又はこれらに代わる書面(貸借対照表、損益計算書などが包含される有価証券報告書や外資系企業が作成する同旨の書面、又は商法上作成が義務付けられる商業帳簿等。解釈指針「第 32 条関係」参照)を、事業年度ごとに当該事業年度経過後 3 ヵ月以内に作成し、遅滞なく営業又は事務所に備え置き、3 年間これを維持する必要があります(施行規則 10 条 1 項、3 項参照)。なお、業務状況調書では、対象事業年度における特定賃貸借契約の件数、契約額、契約の相手方の数、契約棟数、契約戸数の記載が求められます。
サブリース業者がかかる行為規制に違反した場合には、行政処分又は罰則の対象となります 9。
また、規制の潜脱を防止するため、サブリース業者に加えて、サブリース業者が特定賃貸借契約の締結についての勧誘を行わせる者(勧誘者)に対しても、上記①誇大広告等の禁止及び②不当な勧誘等の禁止の各行為規制が適用されるとともに、勧誘者がこれらの規制に違反した場合には、勧誘者自身に加えて、勧誘を行わせたサブリース業者も行政処分及び罰則の対象とされています。
なお、法施行前に締結された特定賃貸借契約には勧誘規制、重要事項説明及び契約締結時書面の交付規制は適用がないと考えられますが、施行後かかる契約が従前と異なる条件で更新される場合には、これらの適用を受け得る点 10には留意が必要です 11。
以下、規制対象となる「特定賃貸借契約」及び①から④の行為規制の概要を解説します。
(3) 規制対象となる「特定賃貸借契約」
特定賃貸借契約は、「賃貸住宅の賃貸借契約(賃借人が人的関係、資本関係その他の関係において賃貸人と密接な関係を有する者として国土交通省令で定める者であるものを除く。)であって、賃借人が当該賃貸住宅を第三者に転貸する事業を営むことを目的として締結されるもの」と定義されています 12。ポイントは、①対象が賃貸住宅であること、②事業を営む目的で締結されるものであること(事業性)、③賃貸人と賃借人の間に施行規則に定める密接な関係性がないこと(密接関係性)の 3 点となります。
① 賃貸住宅
まず、対象となる不動産の種類は、賃貸住宅に限定されます。賃貸住宅とは、賃貸の用に供する住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋の部分)をいうものとされており、事業の用に供されるオフィス、倉庫等は含まれません。また、旅館、ホテル、民泊の用に供されているものも含まれません 13。他方、社宅及び旅館業法に基づく営業を行わないウィークリーマンションについては、賃貸住宅に該当します 14。
② 事業性
③ 密接関係性
上記の特定賃貸借契約の定義のとおり、賃貸人と一定の人的・資本的関係等を有する者を賃借人とする場合には、マスターリース契約は特定賃貸借契約に該当しません。具体的にいかなる賃借人がこれに該当するかについて、賃貸人の種類
9 法 33 条、35 条及び 42 条から 45 条。なお、行政処分及び罰則の詳細は、適正業務ガイドライン 29 頁の一覧表をご参照ください。
10 法附則 3 条 2 項並びに解釈指針「第 30 条関係」3 及び「第 31 条関係」2 参照。
11 なお、法附則 3 条 2 項は、施行前に締結されたマスターリース契約を「特定賃貸借契約」から除外するものではないため、少なくともxx上は、上記⑤に記載した財産・業務状況に係る書類の備置等に係る行為規制が、法施行「前」に締結された特定賃貸借契約に該当するマスターリース契約及び同契約を締結するサブリース業者に対しても(法施行後に特定賃貸借契約を締結していない場合であっても)適用されるように読める点に、留意が必要です。
12 法 2 条 4 項。
13 施行規則 1 条参照。
14 政令・施行規則に係る「<賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律に基づく政省令及び解釈・運用の考え方等の(案)のパブリックコメントに対する主なご意見とそれに対する考え方>」(以下「パブコメ回答」といいます。)NO.2 及び解釈指針「第 2 条第 1 項関係」2(2)参照。
15 解釈指針「第 2 条第 4 項関係」1 及び「第 2 条第 5 項関係」(1)。
賃貸人 | 賃借人 | |
① | 個人 | 当該賃貸人の親族 当該賃貸人又はその親族が役員である法人 |
② | 会社法上の会社 | 当該賃貸人の親会社、子会社、関連会社、親会社の子会社及び当該賃貸人が他の会社等 17の関連会社である場合の当該他の会社等(以下「関係会社」と いいます。) |
③ | 登録投資法人 | 当該賃貸人の資産運用会社の関係会社 |
④ | 特定目的会社 | 当該賃貸人の委託を受けて特定資産の管理及び処分に係る業務を行う者の 関係会社 |
⑤ | 不動産特定共同事業契約としての民法上の組合契約に基づく任意組合(以下「不特 法組合」といいます。) | 当該組合の業務執行者又は当該業務執行者の関係会社 |
⑥ | 不動産特定共同事業法上の特例事業者 | 当該特例事業者から委託を受けて不動産取引に係る業務を行う不動産特定共同事業者(いわゆる三号事業者)又は小規模不動産特定共同事業者(いわゆ る小規模二号事業者)の各関係会社 |
⑦ | 信託の受託者 | (i)当該信託の委託者若しくは受益者(以下「受益者等」といいます。)の関係会社、(ii)受益者等が登録投資法人である場合における当該登録法人の資産運用会社の関係会社、又は(iii)受益者等が特定目的会社である場合における当該特定目的会社の委託を受けて特定資産の管理及びに係る業務を行う者の 関係会社 |
(4) 重要事項説明及び契約締結時書面交付義務
サブリース業者は、特定賃貸借契約を締結しようとするときは、当該特定賃貸借契約の相手方となろうとする者に対して、サブリース業者自身が、契約締結の一定期間前に 19、契約の内容及びその履行に関する事項として国土交通省令に定めるものを記
16 施行規則 2 条。
17 会社法施行規則 2 条 3 項 2 号。
18 なお、業規制においてある者に一定の属性が要件とされる場合の解釈の問題として、信託を利用したスキームの場合、信託受託者固有の属性ではなく、受益者等を基準として判断すべきではないかという点がしばしば議論されます。この点、施行規則 2 条では、上記⑦のとおり、賃貸人が信託の受託者の場合に受益者等を基準として判断する規定を明確に設ける反面、たとえば②において、⑦が適用される場面等を除外していないため、xx上は、会社法の会社である信託受託者が賃貸人となる場合には、信託受託者を基準とした②及び受益者等を基準とした⑦の双方が適用されるように読めます。信託の受託者は、原則として信託事務の処理について善管注意義務を負うことを踏まえると、かかる取扱は合理的なものと考えますが、念のため今後の議論にも注意が必要です。
19 一定の実務経験を有する者や賃貸不動産経営管理士(一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会の賃貸不動産経営管理士資格制度運営規程に基づく登録を受けている者)など、専門的な知識及び経験を有する者によって行われること及び契約締結まで 1 週間程度の期間をおくことが推奨されています(解釈指針「第 30 条関係」1)。
載した書面(以下「重要事項説明書」といいます。)を交付の上で説明しなければならないこととされます 2021。また、サブリース業者は、特定賃貸借契約を締結したときは、当該特定転貸借契約の相手方に対して、遅滞なく、特定賃貸借契約について一定の事項を記載した書面(以下「契約締結時書面」といいます。)を交付しなければならないものとされています 22。なお、いずれの場合も、特定賃貸借契約の相手方の承諾を得て、書面に代えて書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することもできることとされています 23。また、契約締結時書面については、特定賃貸借契約に係る契約書がその記載事項を網羅する限り、契約書をもって、契約締結時書面とすることが可能です 24。
重要事項説明書及び契約締結時書面の記載事項は、ほぼ共通しており、以下のとおり 25です。
① 特定賃貸借契約を締結する特定転貸事業者の商号、名称又は氏名及び住所
② 特定賃貸借契約の対象となる賃貸住宅
③ 特定賃貸借契約の相手方に支払う家賃の額、支払期日及び支払方法等の賃貸の条件並びにその変更に関する事項 26
④ 特定転貸事業者が行う賃貸住宅の維持保全の実施方法
⑤ 特定転貸事業者が行う賃貸住宅の維持保全に要する費用の分担に関する事項
⑥ 特定賃貸借契約の相手方に対する維持保全の実施状況の報告に関する事項
⑦ 損害賠償額の予定又は違約金に関する事項
⑧ 責任及び免責に関する事項
⑨ 契約期間に関する事項
⑩ 転借人の資格その他の転貸の条件に関する事項
➃ 転借人に対する④に掲げる事項の周知に関する事項
⑫ 特定賃貸借契約の更新及び解除に関する事項
⑬ 特定賃貸借契約が終了した場合における特定転貸事業者の権利義務の承継に関する事項
⑭ 借地借家法その他特定賃貸借契約に係る法令に関する事項の概要(本項目は、重要事項説明書のみ)
上記各事項については、解釈指針及び適正業務ガイドライン並びにこれらで示される様式、記載例及び今後公表される標準契約書で具体的記載例や詳細な解説が示されるため、ここでは詳述しません 27が、特徴的な点として、賃借人の賃料減額請求権や賃貸人による更新拒絶に正当事由が必要であることなど、借地借家法における強行法規について詳細な説明が求められています 28。
20 法 30 条 1 項。
21 なお、解釈指針において、対象住宅が売却され賃貸人の地位承継がなされる場合にも、新たな賃貸人に重要事項説明書の交付及び重要事項説明をすることが推奨されています。解釈指針「第 30 条関係」3 参照。
22 法 31 条 1 項。
23 法 30 条 2 項、31 条 2 項。
24 解釈指針「第 31 条関係」1。
25 施行規則 6 条、法 31 条 1 項、施行規則 9 条。
26 契約締結時書面では、「特定賃貸借契約の相手方に支払う家賃その他賃貸の条件に関する事項」(法 31 条 1 項 2 号参照)。
27 但し、⑬については、後記 3 参照。
28 契約締結時書面には、⑭の項目は該当がないものの、③及び⑫として借地借家法 32 条や 28 条のもとでの取扱について記載が必要とされることになり得るものと考えられます(解釈指針「第 30 条関係」2(3)(12)、適正業務ガイドライン 6(5)、7(2))。
なお、賃貸人が専門的知識及び経験を有すると認められる者として施行規則で定めるもの 29に該当する場合には、重要事項説明については義務が免除されます。他方、契約締結時書面については、かかる例外は定められていません。
この点、契約締結時書面は契約書で兼ねることができるとされるものの、記載事項は重要事項説明書と基本的に共通しており、その中には従来のマスターリース契約で通常規定されていない事項も含まれるため、重要事項説明義務が免除される場合でも、契約締結時書面の作成において重要事項説明書と同様の規制対応が必要となる可能性がある点には留意が必要です。
(5) 誇大広告等及び不当な勧誘等の禁止並びに勧誘者に係る留意点
① 規制内容
特定転貸事業者は、特定賃貸借契約の条件について広告をするときには、支払うべき家賃その他一定の事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならないとされ 30、また、特定賃貸借契約の締結の勧誘を行うに際して、特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為を行ってはならないとされております 31。さらに、特定賃貸借契約の締結又は更新等にあたり、当該契約の相手方又は相手方となろうとする者に対して、威迫する行為、迷惑を覚えさせるような時間に勧誘する行為、深夜若しくは長時間の勧誘等により困惑させる行為、あるいは契約の締結等を行わない意思を表示したにもかかわらず執拗に勧誘する行為が禁止されます 32。これらの規制について、適正業務ガイドラインについて、広告における打消し表示 33の利用における注意点、違反となる具体例など、詳細な解説 34がなされています。
② 勧誘者
上述したとおり、この広告・勧誘等の規制は、サブリース業者のほか、勧誘者にも適用されます。
いかなる者が勧誘者に該当するかは、解釈指針及び適正業務ガイドラインで具体例を含めて詳細な定めが置かれています 35。特に、サブリース業者と建設会社、不動産業者、金融機関等が共同してオーナーに対して勧誘する事案が一般化していることに鑑み、これらの者が勧誘者に該当し得るものとされ、また土地の購入・建築を伴う事案の場合、土地取得や建物
29 具体的には、①特定転貸事業者、②宅地建物取引業者、③特定目的会社、④受益者等等が①から③のいずれかの者とする信託の受託者、⑤不特法組合、⑥独立行政法人都市再生機構、⑦地方住宅供給公社となります。なお、②の宅地建物取引業者には、宅地建物取引業法に従って免許を受けた者のみならず、宅地建物取引業法に基づき宅地建物取引業者とみなされる信託会社、投資法人及び特例事業者、信託業務を兼営する金融機関(信託銀行)も含まれます(施行規則 5 条)。不動産特定共同事業法のスーパープロ投資家限定事業者(適格特例投資家限定事業者)は、不動産特定共同事業法 59 条 4 項により、不動産特定共同事業契約に基づき営まれる不動産取引に係る業務の全てを宅地建物取引業者に委託する場合、自ら宅地建物取引業の免許を受けていなくとも適格特例投資家限定事業を行うことができますが、かかる場合には、専門的知識及び経験を有すると認められる者として施行規則で定めるものに該当しないことになる点には、留意が必要です。なお、信託を利用する場合において、その受益者等を基準とする④の規定が設けられていますが、②において④の場合を除外するとの定めは設けられないため、xx上は、信託受託者は②に該当しえることになります。
30 法 28 条。
31 法 29 条 1 号。
32 法 29 条 2 号、施行規則 4 条。
33 消費者庁「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点」では、強調表示、打消し表示について、それぞれ「事業者が、自己の販売する商品・サービスを一般消費者に訴求する方法として、断定的表現や目立つ表現などを使って、品質等の内容や価格等の取引条件を強調した表示)」、「強調表示からは一般消費者が通常は予期できない事項であって、一般消費者が商品・サービスを選択するに当たって重要な考慮要素となるものに関する表示」とされています。
34 たとえば、体験談については、明瞭な打消し表示があった場合でも、法 28 条違反となるおそれが示されています。適正業務ガイドライン 4(4)参照。
35 解釈指針「第 28 条関係」1 項、適正業務ガイドライン 5。なお、勧誘に該当しない紹介が存在することは認められているが、紹介料等の名目で対価を得ているときには慎重な検討が必要になります(適正業務ガイドライン 3(2)(3))。
建築前といったかなり初期の段階から、かかる規制が適用される可能性があることに留意が必要です 36。
3. マスターリース契約終了時のオーナーによる転貸借契約の承継について
上述のとおり、重要事項説明書及び契約締結時書面の法定記載事項の一つとして、特定賃貸借契約が終了した場合における特定転貸事業者の権利義務の承継に関する事項が定められています 37。
かかる事項に関して、解釈指針及び適正業務ガイドラインにおいて、入居者の居住の安定を図るため、マスターリース契約が終了した場合、オーナーがサブリース業者の転貸人の地位(敷金返還債務を含みます。)を承継することとする定めを設け、その旨を記載して説明することが求められています 38。また、かかる地位承継について、現在パブリックコメントの対象となっている特定賃貸借標準契約書(案)では、終了原因が何かを問わないとの考え方が示されています 39が、かかる考え方は、民法上の原則的ルールとは異なる処理を求めるものです 40。
4. 不動産流動化取引・REIT スキームにおけるマスターリース契約のサブリース事業規制のもとでの取扱について
前述のとおり、不動産流動化・運用スキームでは、対象となる不動産のリーシングや物件管理業務を第三者に委託することに加えて、不動産を保有する SPC 又は信託受託者による賃貸人としての契約関係・賃貸事務の処理の煩雑さを避ける目的等で、マスターリース契約を活用することが多く、特に集合賃貸住宅を対象とする場合には賃貸借契約が多数となるため、マスターリース契約の必要性が高まります。そのため、賃貸住宅を対象とする不動産流動化・運用スキーム 42については多くの場合、マスターリース契約がサブリース事業規制の適用を受けるのかという点について分析・整理する必要があります。
各スキームにおけるマスターリース契約がサブリース事業規制の適用を受けるか否かは、当該スキームの具体的な事実・権利
36 このような場合、重要事項説明の際に使用するマスターリース契約を締結する上でのリスク事項を記載した書面(参考:別添重要事項説明書記載例第一面)を交付して説明することが推奨されている(適正業務ガイドライン 5(8)参照)。
37 施行規則 6 条 13 号、9 条 7 号。
38 解釈指針「第 30 条関係」2(13)及び適正業務ガイドライン 6(5)⑬。
39 特定賃貸借標準契約書(案)における特定賃貸借標準契約書解説コメント「第 21 条(権利義務の承継)関係」において、「特定賃貸借契約の終了原因としては、期間満了、解約申入れ、借主(転貸人)の債務不履行による解除、合意解除などが考えられるところ、地位の承継は、本物件の全部滅失による契約終了の場合を除き、特定賃貸借契約の終了原因が何かを問わない」ものと記載されております。
40 民法上は、マスターリース契約の終了を転借人に対抗できるかは、その終了原因によって異なります。たとえば、マスターリース契約が債務不履行によって解除された場合の転貸借契約の帰趨については、基礎となる賃貸借契約が終了する結果として転貸借契約も原則として終了することになるものと考えられており(最判昭和 36 年 12 月 21 日民集 15 巻 12 号 3243 頁)、令和 2 年 4 月 1 日施行の改正民法においてかかる取扱いが明文化されました(同法 613 条 3 項但書参照)。
41 この点について、当該特定賃貸借標準契約書(案)では、サブリース業者に転借人から預かった敷金を分別管理することが想定されています(特定賃貸借標準契約書(案)9 条 3 項参照)。
42 以下明記されていない場合でも、対象不動産は賃貸住宅であることを前提とします。
43 なお、この場合も、賃貸人が専門的知識及び経験を有すると認められる者として施行規則 5 条に定める者に該当する場合には、重要事項説明は省略可能です。上記 2(4)参照。
関係をあてはめて検討する必要がありますが、たとえば、代表的なスキームである、不動産信託受益権を投資対象とし、受益者等が、会社法の合同会社(GK-TK スキーム)、特定目的会社(TMK スキーム)又は投資法人(REIT スキーム)となるスキームを念頭に置くと、上記 2(3)で解説した要件との関係で検討すべきポイントしては、以下の点が挙げられます。
転借人
マスターレッシー
信託受託者
賃貸借 転貸借
信託契約
受益者等
AM 契約
アセットマネージャー等
I. 事業性(「営利の意思」)の有無
➀ マスターリース契約がパススルー方式✎
② マスターリース契約がパススルー方式であっても、転貸に関連して手数料等による収益を上げていない✎
③ マスターレッシーが受益者と同一法人✎
II. 密接関係性の有無
➀ 受益者等が合同会社(GK)✎、特定目的会社(TMK)又は投資法人(REIT)✎ 44
② 受益者等が GK の場合、マスターレッシーは、GK の関係会社✎
③ TMK/REIT の場合のマスターレッシーは TMK/REIT のアセットマネージャー等の関係会社✎
各検討項目について簡単に補足すると、マスターリース契約がパススルー方式であれば転貸に関して収益を上げていないため、原則として「営利の意思」が否定されると考えられます(I-➀)。もっとも、特に事業会社がマスターレッシーとなる場合には、別途マスターレッシーがプロパティマネジメント業務等を受託し、転貸借契約の締結又は更新に関して一定の報酬等を受領することが多いですが、✎✎る場合には、転貸に関連して収益を上げているとして「営利の意思」が認められる可能性が否定できません
また、GK-TK スキームや REIT スキームでは、信託受託者の賃貸契約事務の繁雑さを避けるため、受益者であるGK やREIT 自身がマスターレッシーとなることもあるところ(I-③)、密接関係性について定める施行規則 2 条では信託の受益者等自身が挙げら
れていないものの、同条 7 号が信託の場合における密接関係性について信託の受益者等を基準として判断しているのは信託の導管性(パススルー性)に着目したものと考えられるため、受益者等自身がマスターレッシーとなる場合には、実質的に「オーナー
=マスターレッシー」と評価し、「営利の意思」が認められず、事業性が否定されると解釈することが自然だと考えられます。
44 また、信託受託者自身との関係で施行規則 2 条 2 号が適用される場合、マスターレッシーが信託受託者の関係会社✎否✎も検討のポイントとなります。脚注 18 参照。
45 パブコメ回答及び No.15 及び解釈指針「第 2 条第 5 項関係」(2)。
事業性が否定できない場合に密接関係性を考える上で、受益者等が会社法の会社であるGK ✎、TMK 又はREIT ✎で、関係会社の判断において基準となる法人が異なります(II-➀)。受益者等が GK の場合、密接関係性が認められるためには、GK 自身の関係会社であることが必要となるところ、たとえばマスターレッシーとなる SPC の親会社が受益者等であるGK と同一である場合、マスターレッシーは、受益者等たる GK の関係会社と認められます。他方、受益者等たる GK の親法人は、一般社団法人等の SPC であることが通常であるため、GK-TK スキームにおいてマスターレッシーが事業会社である場合、GK とマスターレッシーの間に密接関係性が認められる場合は限られると考えられます(II-②)。他方、TMK スキーム又は REIT スキームでは、マスターレッシーが関係会社✎否✎は、そのアセットマネージャー等を基準として判断されるため、たとえば REIT スキームにおいては、資産運用会社の親会社となる REIT のスポンサー企業又はその子会社がマスターレッシーとなる場合には、当該マスターレッシーには密接関係性が認められることになります(II-③)。
以上
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士 | |
2002 年東京大学法学部卒業。2005 年第二東京弁護士会登録。2014 年Boston University School of Law 修了(LL.M. in Banking & Financial Law)。2014-2015 年に✎けてシンガポールの Allen & Gledhill LLP に出向。2015 年、西村あさひ法律事務所シンガポール事務所勤務。2015 年 9 月、西村あさひ法律事務所東京事務所に復帰。現在、西村あさひ法律事務所パートナー。 | |
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士 | |
2005 年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2006 年第二東京弁護士会登録、2015 年ニューヨーク州登録。2014 年 Northwestern University School of Law 修了(LL.M.)。2014-2015 年に✎けて三菱東京 UFJ 銀行ロンドン支店勤務。 2015 年 10 月、西村あさひ法律事務所東京事務所に復帰。現在、西村あさひ法律事務所パートナー。 |
当事務所では、他にも M&A・事業再生・危機管理・ビジネスタックスロー・アジア・中国・中南米・資源/エネルギー等のテーマで弁護士等が時宜に✎なったトピックを解説したニューズレターを執筆し、随時発行しております。バックナンバーは<https://www.jurists.co.jp/ja/newsletters>に掲載しておりますので、併せてご覧ください。
Ⓒ Nishimura & Asahi 2020
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