借地借家法38条2項所定の書面について、定期賃貸借契約書とは別個独立の書面の作成・交付を要するか否か見解が分かれており、特に、企業同士が営業用の建物を対象に賃 貸借契約を締結するような場合にはより緩やかな基準に基づき判断することが相当な事案もあるという見解(平成19年11月29日東京地判・RETIO73- 206頁)もあったところであるが、本件は、この問題に対して、賃借人が、当該賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず、...
最近の判例から
⑺−定期借家契約の手続き−
借地借家法 38 条2項所定の書面は、賃借人(事業者)が契約更新がなく期間満了で終了すると認識していたとしても、契約書とは別個独立の書面とすることを要するとした事例
(最高裁 平24・9・13 裁判所ウェブサイト) x xx
賃貸人(不動産賃貸業者)が、建物の賃貸借は借地借家法38条1項所定の定期建物賃貸借であり、期間の満了により終了したなどと主張して、賃借人(貸室経営業者)に対し、建物の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求め、賃借人は同条2項所定の書面を交付しての説明がないから賃貸借は定期建物賃貸借に当たらないと主張している事案において、同法38条2項所定の書面は、賃借人が、当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず、契約書とは別個独立の書面であることを要するとした事例 (最高裁 平24年9月13日判決 裁判所ウェブサイト)
1 事案の概要
⑴ X(上告人)は、貸室の経営等を業とする会社であり、本件建物で外国人向けの短期滞在型宿泊施設を営んでいる。Y(被上告人)は、不動産賃貸等を業とする会社である。
Yは、平成15年7月18日、Xとの間で、「定期建物賃貸借契約書」と題する書面(以下「本件契約書」という。)を取り交わし、期間を同日から平成20年7月17日まで、賃料を月額90万円として、本件建物につき賃貸借契約を締結した。本件契約書には、本件賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了する旨の条 項(以下「本件定期借家条項」という。)がある。
Yは、本件賃貸借の締結に先立つ平成15年
7月上旬頃、Xに対し、本件定期借家条項と同内容の記載をした本件契約書の原案を送付し、Xは、同原案を検討した。Yは、平成19年7月24日、Xに対し、本件賃貸借は期間の満了により終了する旨の通知をした。
⑵ 原審(東京高裁)は、次のとおり判断した。 X代表者は、本件契約書には本件賃貸借が 定期建物賃貸借であり契約の更新がない旨明記されていることを認識していた上、事前に契約書の原案を送付され、その内容を検討していたこと等に照らすと、更に別個の書面が交付されたとしても本件賃貸借が定期建物賃貸借であることについてのXの基本的な認識に差が生ずるとはいえないから、本件契約書とは別個独立の書面を交付する必要性は極めて低く、本件定期借家条項を無効とすること
は相当でない。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示し、原判決を破棄し、第1審判決を取り消し、Yの請求を棄却した。
期間の定めがある建物の賃貸借につき契約の更新がないこととする旨の定めは、xx証書による等書面によって契約をする場合に限りすることができ(借地借家法38条1項)、賃貸人は、あらかじめ、賃借人に対し、当該賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについ
て、その旨を記載した書面を交付して説明し なければならず(同条2項)、賃貸人が当該説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは無効となる(同条3項)。同条2項の規定が置かれた趣旨は、定期建
物賃貸借に係る契約の締結に先立って、賃借人になろうとする者に対し、契約の更新がなく期間の満了により終了することを理解させ、当該契約を締結するか否かの意思決定のために十分な情報を提供することのみならず、説明においても更に書面の交付を要求することで契約の更新の有無に関する紛争の発生を未然に防止することにあるものと解される。同条2項は、定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って、賃貸人において、契約書とは別個に、契約の更新がなく期間の満了により終了することについて記載した書面を交付した上、その旨を説明すべきものとしたことが明らかである。紛争の発生を未然に防止しようとする同項の趣旨を考慮すると、上記書面の交付を要するか否かについては、契約の締結に至る経緯、契約の内容についての賃借人の認識の有無及び程度等といった個別具体的事情を考慮することなく、形式的、画一的に取り扱うのが相当である。
したがって、法38条2項所定の書面は、賃借人が、当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず、契約書とは別個独立の書面であることを要するというべきである。
本件契約書の原案が契約書とは別個独立の書面であるということはできず、他にYがXに書面を交付して説明したことはうかがわれない。なお、Xによる本件定期借家条項の無効の主張がxxxに反するとまで評価し得るような事情があるともうかがわれない。
そうすると、本件定期借家条項は無効とい
うべきであるから、本件賃貸借は、定期建物賃貸借に当たらず、約定期間の経過後、期間の定めがない賃貸借として更新されたこととなる(法26条1項)。
3 まとめ
借地借家法38条2項所定の書面について、定期賃貸借契約書とは別個独立の書面の作成・交付を要するか否か見解が分かれており、特に、企業同士が営業用の建物を対象に賃貸借契約を締結するような場合にはより緩やかな基準に基づき判断することが相当な事案もあるという見解(平成19年11月29日東京地判・RETIO73-206頁)もあったところであるが、本件は、この問題に対して、賃借人が、当該賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず、契約書とは別個独立の書面であることを要する旨明確な結論を出した判示であるといえる。
実務上は、国土交通省住宅局の定期賃貸住宅標準契約書の関連で「定期賃貸住宅契約についての説明」という別個独立の説明書の様式が定められており、この運用スタンスに則って対応すべきであることを確認しておく。
また、不動産仲介においては、仲介業者が賃貸人から代理権を授与されている場合、重要事項説明書に、定期建物賃貸借に係る内容の要件を満たしていることを含めていれば、当該書面と認めることができるであろうとの指摘もあるが、より明確な上記対応が望ましいと考えられる。
なお、書面を読み上げただけでは説明したことにはならず、定期建物賃貸借に係る内容を相手方が理解できるようにわかりやすく伝えなければならないことに留意されたい(平成24年3月23日東京地判・判例時報2152号)。
(調査研究部長)
最近の判例から
⑻−賃料債権差押−
賃料債権差押えの効力発生後に賃貸借契約が終了した場合、差押債権者は、その後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることができないとされた事例
(最高裁 平24・9・4 金商1400-16) xx xx
賃料債権の差押債権者が、第三債務者である賃借人に対し、差押債務者である賃貸人との間の賃貸借契約に基づく賃料債権につき、その支払いを求めた事案において、賃貸人が賃借人に賃貸借契約の目的である建物を譲渡したことにより賃貸借契約が終了した以上は、その終了が賃料債権の差押えの効力発生後であっても、特段の事情がない限り、差押債権者は、当該譲渡後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることはできないとされた事例(最高裁 平成24年9月4日判決 一部破棄差戻し・一部上告棄却 金融・商事判例 1400号16頁)
1 事案の概要
医薬品の卸売業等を目的とする株式会社Aは、平成16年10月20日、A及びその代表取締役Bが全株式を保有し、同人が当時代表取締役を務めていた、介護保険法に基づく居宅サービス事業等を目的とする株式会社Yとの間で、Aが所有する建物(以下「本件建物」という。)を、期間を同年11月から平成36年
3月まで、賃料を当分の間月額200万円と定めて賃貸する旨の契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し、Yに引き渡した。
AとYは、平成20年5月23日、本件賃貸借契約に基づく同年6月分以降の賃料を月額 140万円とする旨合意し、同月初め頃、当月分の賃料を毎月7日に支払う旨合意した。
リース、信用保証等を業とする株式会社Xは、Aに対し、3,583万4,564円及びこれに対する遅延損害金の支払いを命ずるxxxある判決xxを債務名義として、本件賃貸借契約に基づく賃料債権(ただし、平成19年4月1日以降支払期の到来するものから3,716万 0642円に満つるまで)の差押えを申し立て、これを認容する債権差押命令が、Yに対しては平成20年10月10日、Aに対しては、同月17日に、それぞれ送達された。
Yは、Aとの間で、 平成21年12月25日までに、本件建物を含む複数のA所有の不動産を買い受ける旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、その所有権移転登記を受け、売買代金3億7,250万円をAに支払った。
本件は、Xが、Aに対する金銭債権を表示した債務名義による強制執行として、AのYに対する債権を差し押さえたと主張し、Yに対し、平成20年8月分から平成22年9月分までの月額140万円の賃料及び同年10月分の賃料のうち76万0642円の合計3,716万0642円の支払い(平成20年7月までの賃料については、
1審において弁済及び相殺による消滅が認められ、控訴審においてXはその請求を取り下げている。)を求める取り立て訴訟である。
Yは、本件売買契約に基づく売買代金を支払った平成21年12月25日、本件賃貸借契約に基づく賃料債権は混同により消滅したなどと主張したが、原審(大阪高裁)は、本件売買
契約の締結後である、平成22年1月分以降の賃料債権が混同によって消滅することはないなどとして、Xの上記請求を全部認容し、Yはこれを不服として上告受理の申立をした。なお、本件では、Bを売主とし、その娘婿 を買主とする、Bが所有する本件建物以外の土地建物の売買契約等について、Xが、通謀虚偽表示による無効等を主張し、所有権移転登記の抹消等を求めたが、1審、控訴審ともこれを棄却し、Xは上告・上告受理の申立てを行わず、同事件は上告審の審理の対象に
なっていない。
2 判決の要旨
最高裁判所は、以下のように判示し、本件を一部原審に差し戻した。
原審の判断のうち、XがYから本件賃貸借契約に基づく平成22年1月分以降の賃料債権を取り立てることができるとした部分は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。
賃料債権の差押えを受けた債務者は、当該賃料債権の処分を禁止されるが、その発生の基礎となる賃貸借契約が終了したときは、差押えの対象となる賃料債権は以後発生しないこととなる。したがって、賃貸人が賃借人に賃貸借契約の目的である建物を譲渡したことにより賃貸借契約が終了した以上は、その終了が賃料債権の差押えの効力発生後であっても、賃貸人と賃借人との人的関係、当該建物を譲渡するに至った経緯及び態様その他の諸般の事情に照らして、賃借人において賃料債権が発生しないことを主張することがxxx上許されないなどの特段の事情がない限り、差押債権者は、第三債務者である賃借人から、当該譲渡後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることができないというべきである。
そうすると、本件においては、平成21年12
月25日までにAがYに本件建物を譲渡したことにより本件賃貸借契約が終了しているのであるから、上記特段の事情について審理判断することなく、XがYから本件賃貸借契約に基づく平成22年1月分以降の賃料債権を取り立てることができるとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は、以上の趣旨をいうものとして理由があり、原判決のうち、Yに対し平成20年8月分から平成21年12月分までの賃料合計2,380万円を超えて金員の支払を命じた部分は破棄を免れない。そして、上記特段の事情の有無につき更に審理を尽くさせるため、上記の部分につき、本件を原審に差し戻すこととする。
3 まとめ
建物の賃料債権の差押えの効力が発生した後に、建物が譲渡され、賃貸人の地位が第三者に移転したとしても、当該譲受人は、建物の賃料債権を取得したことを差押債権者に対抗することはできない(最高裁平成10年3月 24日判決(RETIO41号51頁 )とされているが、本件は、譲受人が第三者ではなく、賃借人である事案である。
最高裁は、賃借人にxxx上許されないなどの特段の事情がない限り、差押債権者は、第三債務者である賃借人から、当該譲渡後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることができないと判示した。
本件の人的関係、建物を譲渡するに至った経緯等は複雑であり、上記特段の事情が認められる場合であるか否かについて、差戻し後の控訴審も注視したいところである。
(調査研究部 次長)
最近の判例から
⑼−更新料特約−
賃料の 3.12 か月分に相当する更新料特約は、消費者契約法 10 条に違反しないとして更新料の返還請求を棄却した事例
(大阪高判 平24・7・27 更新料問題を考える会ウェブサイト) xx xxx
ワンルームマンションを4年間賃借して居住していた賃借人が、賃貸人に対し、1年毎の契約更新の際に支払った賃料の3.12か月分に相当する更新料について、更新料特約が消費者契約法10条により無効であるなどと主張し、不当利得返還請求権に基づき、更新料相当額と遅延損害金の支払を求めた事案において、本件更新料特約による更新料が高額に過ぎるもので特段の事情が存するとまではかろうじて言えないことから、消費者契約法10条により無効ということまでは言えないとして賃借人の請求を棄却した事例(大阪高裁 平成24年7月27日判決 更新料問題を考える会ウェブサイト)
1 事案の概要
⑴ 賃貸人Yは、賃借人Xとの間で、平成16年12月20日、下記賃貸借契約を締結し、目的物件を引き渡した。
①期間:平成17年4月1日から平成18年3月 31日まで1年間②賃料等:賃料月額4万8000円、共益費月額5000円③更新料:15万円
⑵ XとYは、平成17年12月31日、平成18年 12月30日、平成19年12月2日付けで、本件契約をそれぞれ更新することを合意し、XはYに対し、各更新合意に基づいて、平成18年1月4日、平成19年1月9日、平成20年1月4日、更新料各15万円(合計45万円)を支払った。
⑶ XはYに対して、平成20年11月末、本件契約を解約する旨申し入れ、平成21年1月22
日、本物件を明け渡した上、同日をもって本件契約を解約した。
⑷ XはYに対し、更新料の返還等を求める裁判を起こしたが、原審(京都地裁 平成24年2月29日判決)は、Xの請求を10万4400円と遅延損害金の支払いを求める限度で認容し、その余を棄却したことから、認容部分を不服とするYが控訴し、棄却部分を不服とするXが附帯控訴した。
2 判決の要旨
裁判所は次のように判示し、Xの請求を棄却した。
⑴ 借家契約における更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものであり、更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないなどということはできない。また、一定の地域において、期間満了の際、賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であることや、従前、裁判上の和解手続等においても、更新料条項は公序良俗に反するなどとして、これを当然に無効とする取扱いがされてこなかったことは裁判所に顕著であることからすると、更新料条項が賃貸借契約書にxx的かつ具体的に記載され、賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に、賃借人と賃貸人との間に、更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について、看過し得ないほどの格差が存す
るとみることもできない。そうすると、賃貸借契約書にxx的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないものと解される
(最高裁平成23年7月15日第2小法廷判決・民集65巻5号2269頁参照)。
⑵ 本件契約の内容は、礼金18万円、敷金10万円、賃料月額4万8000円、共益費月額5000円(平成20年1月分からはこの他に衛生費月額650円を徴収。)で、契約期間は1年であり、本件更新料特約は、本件契約書にxx的かつ明確に記載されている。更新料は15万円であり、賃料の3.125か月分( 平成19年12月の更新以降は更新手数料1万0500円も加えると約 3.344か月分。)に相当し、Yの年間の取得額
72万6000円(平成19年まで。4万8000円×12
+15万)の2割以上を占めることになる。実質賃料額も月6万0500円と約定上の賃料月額
4万8000円の約1.26倍となる。そうすると、本件更新料特約は、他の賃貸事例に比しても、その賃料額や更新期間に照らし、やや高額であることは否めない(Yが控訴理由書で指摘する裁判例においても、更新料の賃料比が本件よりも大きいものは1件にとどまる。)。
しかしながら、本件契約が、契約期間が1年とされているところ、その礼金は18万円とされており、本件更新料はこれより低額であること、また、本件物件の前記の実質賃料、礼金が、本件物件や立地条件等に照らし、特に高額に過ぎるものであったとまではいえないと認められることに照らすと、本件更新料特約による更新料が高額に過ぎるもので前記の特段の事情が存するとまでは、かろうじていえない。
このようにみてくると、本件更新料条項を消費者契約法10条により無効ということまではできない。
⑶ 以上によれば、本件更新料条項は有効であり、これが無効であることを前提とするXの請求は理由がないから、これを棄却すべきものである。よって、これと異なる原判決を、本件控訴に基づいて、上記の趣旨に変更すべきであり、Xの附帯控訴は棄却すべきである。
3 まとめ
平成 23 年7月 15 日最高裁判決(RETIO83
号 119 頁)により、更新料特約を賃借人が負う金銭的対価に見合う合理的根拠は見出せないとして、消費者契約法 10 条に反するとした事例(平成 21 年8月 27 日 大阪高裁判決
RETIO77 号 114 頁) などが、覆された。本事例の原審は更新料特約そのものは否定せず、高額に過ぎる部分を無効としたものであった。今後、賃貸借契約書にxx的かつ具体的に記載された更新料特約が有効であるかの判断材料は、「更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特別の事情」があるか否かという点になろう。実務の面からは賃料の何ヶ月分まで等の明確な基準を求める指摘もあるが、本事例においても、「特段の事情」の判断は、賃料額や更新期間に照らした判断の他に、実質賃料・礼金についての物件や立地条件に照らした判断が含まれており、形式的に一律の基準を設けることは困難ではないかと考えられる。
更新料特約付きの賃貸借契約を媒介する場合には、後のトラブルを避けるためにも、賃借人に更新料について十分な説明を尽くしておくべきである。そうすることで、賃借人も、当該物件と他物件とを比較考量し、納得の上契約できるであろう。
最近の判例から
⑽−賃料減額請求−
オフィススペースの賃借人からの賃料減額請求が棄却された事例
(東京高判 平24・7・19 ウエストロージャパン) xx xx
賃貸ビルの賃借人が、賃貸人に対し、借地借家法32条1項に基づいて賃料の減額を求め、減額請求後の月額賃料額の確認を求めたところ、原審で棄却されたため控訴した事案において、控訴審においても契約更新時に協議で賃料の改定を行うことができ、契約期間中経済情勢の変動が著しい場合は改定することができる旨の約定を賃料減額事由の有無の考慮事情とすることは許されないものではなく、賃料相場が下落傾向にある状況下で新規契約の場合の相当賃料額を採用すべきともいえないとして、控訴を棄却した事例(東京高裁 平成24年7月19日判決原審 東京地裁 平成24年2月20日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
オフィスビルの賃借人である控訴人X(以下「X」という。)は、賃貸人である被控訴人Y(以下「Y」という。)に対し、平成22年11月30日及び平成23年9月26日に、賃料相場の下落を理由として借地借家法32条1項に基づき建物の借賃の減額を請求し、各減額請求後の月額賃料額の確認を求めた。
その賃料減額確認請求内容は次のとおり。
① A区所在のa ビルの建物の27階西側
862.60㎡(オフィススペース、以下「本件建物」という。)の賃料は、平成22年12月1日以降、1か月834万余円であることを確認する。
② 本件建物の賃料は、平成23年10月1日以降、1か月730万余円であることを確認する。
争点は、上記各減額請求時点における賃料減額事由の有無、すなわち本件建物の賃料が、経済事情の変動により、または近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったか否かであるが、原審(東京地裁)は、Xの請求をいずれも棄却したため、Xが控訴したものである。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示して、原審と同様に、Xの請求を棄却した。
⑴ Xの補充的な主張に対する判断
① 本件賃貸借契約中の賃料改定時期に関する約定(以下「本件約定」という。)を考慮事情とすることの可否について
Xは、本件の各賃料減額請求の成否を判断するに際して、本件約定を考慮事情とすることは、借地借家法32条1項の解釈上許されないと主張する。しかし、同条項は、賃貸借契約の当事者間で、賃料の改定の時期について合理的な範囲内の合意をすることについては許容しているものと解することが相当であり、本件約定についてこれをみると、本件賃貸借契約が営業用建物を対象とする会社間の賃貸借契約であること、賃料改定の期間が2年間(なお、当初の改定期間を3年間とする約定の当否は、本件の結論を左右しない。)であって格別長期間とはいえないこと、そして、経済情勢の著しい変動があった場合には随時賃料の改定が行えることとしており賃借人からの賃料減額請求をその必要性が大きい
場合について排除していないという事実が認 められるところ、これらの事実関係を前提とすれば、本件約定は賃料の改定の時期に係る上記合理的な範囲内の合意として認めることができ、上記条項に反するものとはいえない。 Xは、本件約定を有効なものとして考慮事
情とすることは最高裁判所の判例に反すると主張するが、Xの引用する各判例(最高判平 15.10.21及び最高判平16.6.29など)の判旨は、建物賃貸借契約において、合理的な期間を設定して賃料増減額請求権の行使を一定の範囲内で制約する内容の合意をすること、又はこのような内容の合意を考慮して賃料増減額請求の許否を決定することについてまで、借地借家法32条1項の解釈上許されないとするものではない。
② 賃料相場の下落時における相当賃料の算定基準について
Xは、賃料相場が下落傾向にある状況下の賃料減額請求については、相当賃料額として、従前の賃料額を考慮せず、新規に契約を締結する場面における相当賃料額を採用すべきである旨主張する。
しかし、賃料相場が下落傾向にある状況下でも、建物賃借人にとって、新規に同等の建物を賃借する場合に比べて、従来賃借していた建物を継続して使用する方が、新規に契約を締結するために必要な費用や移転の経費を要しない点において経済的に有利であることは明らかであり、したがって、賃借人の利益の観点からも、賃貸借契約を継続する場合の賃料の額が新規に賃貸借契約を締結する場合の賃料より相応に高いものとなることについては経済的な合理性があるといえる。そして、国土交通省が定める不動産鑑定評価基準においても、建物の継続賃料の鑑定を行うについて、賃料相場が下落傾向にある場合について、新規賃料を求める場合に準ずる鑑定評価を行
うべき旨の記載はないことに照らせば、Xの主張する上記相当賃料額の評価方法は一般的には採用されていないものと認められる。
結局のところ、Xの上記主張は、独自の主張というべきであり、採用し得ない。
⑵ 結論
以上によれば、Xの請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却する。
3 まとめ
本件は、オフィススペースの賃貸借契約において、契約更新時に協議によって賃料の改定ができ、かつ、契約期間中においても、経済情勢の変動が著しい場合は、更新時期を待たずに改定することができる旨の約定があるケースであり、契約期間中に行った賃借人の賃料減額請求について、前回の賃料改定時以降の賃料相場の変動は、想定した範囲内の変動に過ぎず、変動が著しい場合には当たらないと判断されたものである。
また、賃借人は、借地借家法 32 条1項の規定は強行法規であり、賃料改定に関する協議の定めがあっても、同条項の適用は制約されないと主張したが、賃料改定時期に関する合理的な範囲内の合意と認められるとして、同条項に反するものではないと判断された。
店舗・事務所等の賃貸借契約においては、契約更新時期において、協議によって賃料の改定が行われるケースは比較的多いものと思われる。本件では、変動が著しい場合には当たらないと判断されたが、「変動が著しい場合」に当たるか否かの判断基準は必ずしも明確ではないものの、本件は一つの事例判決として参考になるいえよう。
最近の判例から
⑾−正当事由と立退料−
賃貸人の建物の建替計画に一定の合理性・相当性を認め、建物使用の必要性があるとして、適正な立退料を支払えば正当事由を具備するとした事例
(東京地判 平24・4・17 ウエストロー・ジャパン) xx xx
賃貸人たる地位を承継した不動産業者(原告)が、法定更新により、期間の定めのない賃貸借契約となった貸室について、賃借人(被告)に賃貸借契約を解約する旨を申し入れた事案において、賃借人と賃貸人の建物使用の必要性を比較検討し、当該貸室の存する建物の老巧化の状況及び都市再生緊急整備地区に指定された大都市中心部の建物の有効利用を考慮した場合、賃貸人の建物の建て替えに一定の合理性・相当性があるとして、賃貸人からの適正な立退料の支払いがあれば解約申入れは正当事由を具備するとした事例(東京地裁 平24年4月17日判決 ウエストロージャパン)
1 事案の概要
⑴ 平成13年12月、賃借人Y(被告)は、賃貸人A(訴外)所有の建物(昭和35年8月建築、地階1階地上6階建て)の1室を賃借し、Yは中華料理店として使用していた
(以下、「店舗契約①」という。)。なお、本件建物は、大都市中心部の駅周辺に位置しており、最寄駅への近接性は良好である。
⑵ 平成15年6月、Yは、Aから、本件建物の他の2室を賃料月額2万円・期間2年の約定で賃借し、事務所として使用していた
(以下、「事務所契約」という。)。
⑶ 平成16年12月、店舗契約①は、賃料月額
47万2500円、期間3年として更新された
(以下、「店舗契約②」という。)。
⑷ 平成17年6月、事務所契約は、YとAが
合意更新をしなかったため、法定更新により、期間の定めのない賃貸借契約となった。
⑸ 平成19年9月、不動産業を営むX(原告)は、Aから、本件建物を買い受け、店舗契約②及び事務所契約の賃貸人たる地位を承継した。
⑹ 平成19年12月、店舗契約②は、YとXが合意更新をしなかったため、法定更新により、期間の定めのない賃貸借契約となった。
⑺ 平成20年4月、Xは、Yに対し、店舗契約②及び事務所契約を解約する旨を申し入れたが、Yは、解約の申し入れから6か月を経過しても店舗および事務室を明け渡さなかった。
⑻ 平成21年7月、Xは、Yに対し、本件店舗及び事務室の明け渡しを求めて提訴した。
⑼ Yは、本裁判で次のように主張した。 ア.Xの解約の申入れには正当事由がない。イ.賃貸借契約が終了に至るには、訴訟にお
いては正当事由が具備されてから6か月を経過することによって終了するとされており、Xからは立退料を支払う旨の申入れがあったものにすぎず、正当事由を具備した解約申入れではないので、賃貸借契約が終了するのは判決が送達されてから6か月経過後ということになる。
⑽ なお、平成23年7月、Xは、地区市街地再開発準備組合とともに、xxxに対して、本件建物の敷地を含む地区について、都市再生特別地区の都市計画を提案し、同年12
月、正式に都市計画決定された。
2 判決の要旨
裁判所は次のように判示し、Yは、Xから
4600万円の支払いを受けるのと引き換えに、店舗及び事務所を明け渡すよう命じた。
⑴ 本物件が存在している地域は、平成14年に都市再生緊急整備地区に指定され、都市中心部において、老朽建築物の機能更新や土地の集約化等により、国際的な業務・金融・商業機能や高度な業務支援機能・生活支援機能等が調和した複合機能集積地を形成することとされている。
⑵ 本件建物は全体的に経年劣化が進行しており、外壁、階段等には亀裂が見られる。また、近隣地域の建物と比較して、老朽化、旧式化等による機能的陳腐化、市場性の減退等による経済的不適応が認められるため、現在、最有効使用の状態にはなく、有効利用を図るためには、本件建物を取壊し、新築するのが相当である。
⑶ 本件建物は、建築後50年以上が経過していること、Xらから提出された都市再生特別区域の都市計画案が受理されている事情に照らせば、今後相当額の費用をかけて存続を図るのではなく、高層ビルに建て替えて敷地の有効利用を図るという計画には、一定の合理性、相当性を認めることができ、 Xには、建物使用の必要性があるといえる。
⑷ 一方、店舗の経営を継続したいというYの要望も合理性、相当性を有し、また、店舗の移転に伴って顧客喪失などの不利益を被るおそれなど、Yが被る経済的損失は小さくない。
⑸ 以上を総合すると、Xの建物使用の必要性がYのそれよりも高いとはいい切れないもののXが、店舗及び事務所の明渡により Yの被る経済的損失をてん補することがで
きる場合には、Xの解約申入れは正当事由を具備すると解するのが相当である。
⑹ 鑑定人の算定した、店舗及び事務所の立退料相当額4462万1000円の合理性を疑わせる事情は認められないので、Yの輸入業者としての営業所所在地の変更に係るシールの印刷・貼付費用90万3000円を加え、立退料としては4600万円が相当である。なお、 Xは、立退料として2988万5500円、鑑定人による評価の相当額、又は裁判所が定める相当額を支払う用意があるとし、Yは、
2億6140万円が相当であると主張した。
⑺ Xが、相応の立退料を支払う用意がある旨主張していたことは当該裁判所において顕著であり、その後Xがこの主張を撤回したとは認められないから、解約の申入れから6か月が経過したことは明らかである。
3 まとめ
本件は、本物件の存する地域に求められている機能に対応した建物の取壊し・建て替えには一定の合理性、相当性があり、賃貸人には建物使用の必要性があるといえるとし、公益上の事情の斟酌も正当事由として考慮するとした事例で、都市中心部の再開発地域においての賃貸借契約の解約に係る事例として参考となると思われる。
建物の老朽化を理由とした解約申入れの正当事由が認められなかった事例として、賃借人が建物を必要とする事情に加え、賃貸人の修繕義務を検討し、賃貸人に補強工事を実施する義務があるとした事例(東京地裁平成22年3月17日、RETIO83号148) もあるので、併せて参照されたい。
(調査研究部調査役)
最近の判例から
⑿−サブリース契約の解除と正当事由−
サブリース業者を借主とする建物の賃貸借契約の更新拒絶につき正当事由が否定された事例
(東京地判 平24・1・20 判時2153-49) xx xx
本件建物部分をいわゆるサブリース業者である借主に賃貸借契約に基づき賃貸している貸主が、借主に対し、契約期間満了によって同契約が終了したと主張して、本件建物部分の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求めた事案において、貸主借主間に承継された本件契約の合意内容は、建物の賃貸借契約であることが明らかであるから、本件契約には旧借家法1条の2が適用されるべきものであるとした上で、借主には本件建物部分を使用する必要性があるのに対し、貸主にはその必要性が借主に比して低いということができるから、貸主による本件契約の更新拒絶には正当事由があるとはいえないとして、貸主の請求を棄却した事例(東京地裁 平成24年1月20日判決 棄却(控訴) 判例時報2153号49頁)
1 事案の概要
⑴ Aは所有する11階建の共同住宅(以下「本件建物」という。)の1階から8階部分(以下「本件建物部分」という。)を第三者に転貸することができる旨の特約付で、Bに対し、賃貸する旨の本件契約を締結した。
⑵ Bは、平成11年1月1日、いわゆるサブリース業を営むY会社に対し、本件契約上の賃借人の地位を譲渡し、また、Aは、平成20年9月30日、不動産の賃貸業等を目的とする X会社に対し、本件建物を売却し、本件契約上の賃貸人の地位を譲渡したため、本件建物部分の賃貸借契約はXとYに承継された。
⑶ 借主Y(被告)は、本件建物部分を第三
者に転貸し、転貸料収入を得るとともに、本件建物部分の管理業務を行っている。
⑷ 貸主X(原告)は、Yに対し、平成21年 10月8日、本件契約を平成22年4月20日の期間満了をもって終了させ、以後は更新しない旨の通知をした(以下「本件更新拒絶」という。)。
⑸ ところが、Yは、本件更新拒絶に応じないため、Xが、Yに対し、契約期間満了によって同契約が終了したと主張して、本件建物部分の明渡し及び同契約終了の日の翌日である平成22年4月21日から明渡済みまで1か月 279万5927円の割合による賃料相当損害金の支払を求めた。これに対し、Yは、Xによる賃貸借契約の更新拒絶には正当事由(借家法
(平成3年法律第90号による廃止前のもの)
1条の2)がない旨を主張して争った事案である。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を棄却した。
⑴ 本件契約の更新を拒絶するには借家法1条の2の正当事由が必要か。
XY間に承継された本件契約の合意の内容は、XがYに対して本件建物部分を賃貸し、 YがXに対してその対価として賃料を支払うというものであり、建物の賃貸借契約であることが明らかであるから、本件契約には借家法1条の2が適用されるべきものである(いわゆるサブリース契約に借地借家法32条1項
が適用されるとしたものとして、最高裁平成 15年10月21日第三小法廷判決・民集57巻9号
1213頁参照)。したがって、本件契約の更新を拒絶するには同条の正当事由が必要である。
⑵ 本件更新拒絶には借家法1条の2の正当事由があるか。
① 借家法1条の2の正当事由とは、賃貸借契約の当事者双方の利害関係その他諸般の事情を考慮し、社会通念に照らして妥当と認めるべき理由をいうものであるところ(最高裁判所昭和25年6月16日第二小法廷判決・民集
4巻6号227頁参照)、具体的には、当事者双方の建物を使用する必要性の有無、程度に関する事情を最も重要な要素とし、これに加え、賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況、建物の現況、契約期間中の賃借人の不信行為、立退料の提供の申出(最高裁判所昭和46年11月25日第xx法廷判決・民集25巻8号1343頁参照)などを従たる要素として考慮して、正当事由の有無を決すべきものと解される。
② XにおいてYから月々の約定の賃料を得られている以上、現に事業として本件建物部分の転貸を行っており、固有の利益を有しているYに比して、Xにおいて本件建物部分を使用する必要性は低いものということができる。
③ Yは、本件建物部分を転貸しており、転借人が本件建物部分を使用する必要性があることは明らかである上、Yは、この転貸によって転貸料等の収入を得ており、また、建物の転貸条件付一括借上による賃貸業務等を目的とするYにとって建物賃借権が存在することは事業上重要な部分を占めているものであり、このようなYにおける使用形態は本件契約においても当然に予定されていたものといえることからすれば、Yにおいて、転借人の利益又は自らの利益のいずれの面からも、本
件建物部分を使用する必要性があるものといえる。
④ 以上のことからすれば、Y(転借人を含む。)には本件建物部分を使用する必要性があるのに対し、Xには、Yにおける必要性に比して、本件建物部分を使用する必要性は低いものということができるから、Xの主張するその余の事情(サブリース契約の契約期間の満了や立退料の申出等)を考慮しても、Xによる本件更新拒絶には正当事由があるとはいえない。
よって、Xの請求は理由がないから、これを棄却する。
3 まとめ
いわゆる「サブリース」について、借地借家法の適用があるか否かについては、最高裁
(平成15年10月21日第三小法廷判決・民集57巻9号1213頁、判例時報1844号37頁)は、サブリース契約については、借地借家法32条1項の適用があるとして、この問題に一応の決着をつけた(xxxx・最判解民平15・(下) 535以下参照)。
そして、xxxxxも建物の賃貸借契約である以上、正当な事由なしに更新拒絶できないというべきであろう(xx・前掲575参照)。
本判決は、いわゆる「サブリース」をとりまく賃貸借契約の更新拒絶に係る正当な事由について、当事者双方の建物を使用する必要性の有無の面できめ細かな判断をした事例として実務上参考になろう。