NPO法人で不慣れだったこともあり、通常は担当者から順に事務局長まで決済を経て提出されるべき類の書類が、会計担当からそのまま提出されている印象だった。エクセル の表計算等も、検算なしで提出されるなど、杜撰だったので指摘した。また、委託事業の内容についても、理解不十分な面があった。もっとも、当時の県の担当者が出向いて指 導をし、最終報告までには改善されたことから、事業報告書ではその点は触れていない。
平成23年度
包括外部監査結果報告書
1 委託契約について
2 高知県損害賠償等審査会について
平成24年3月
高知県包括外部監査人
x x x x
《外部監査人及び補助者の表示》
包括外部監査人
x x x x(弁護士)
外部監査人補助者(xxx内は、職業と補助担当部分)
x | x | x(弁護士・第1部) | |
x | x | x | x(弁護士・第2部) |
《監査を実施した期間》
平成23年8月12日~平成24年3月22日
目 次
【資料】● 高知県損害賠償審査会事務処理フロー
(7) 外部委員の常設または顧問弁護士意見書の全件必要化 82
(なお、以下で「※」の注がないものは国家賠償法第1条の事案)
<H20-25、27>(主務課:地域福祉部児童家庭課) 85
<H21-8>(主務課:警察本部監察課) 100
<H21-11>(主務課:地域福祉部児童家庭課) 104
<H21-20>(主務課:警察本部監察課) 108
<H21-25>(主務課:警察本部装備施設課)※国家賠償法第2条の事案 111
第4節 平成22年度(支払審査・求償審査) 113
<H22-2>(主務課:警察本部装備施設課) 113
<H22-4>(主務課:警察本部監察課) 115
<H22-5>(主務課:水産振興部漁業振興課) 117
<H22-8>(主務課:地域福祉部児童家庭課) 120
<H22-11>(主務課:警察本部監察課)※国家賠償法第2条の事案 122
<H22-12>(主務課:総務部管財課)※国家賠償法第2条の事案 124
<H22-18>(主務課:土木部建築課) 126
【巻末資料】(いずれも第1部に関するもの) 129
● 地方自治法施行令第167条の2 130
● 地方公共団体の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令第10条 132
● 高知県会計事務処理要領(随意契約に関する箇所を抜粋) 134
● 契約事務の適正化要綱(2号随契に関する箇所を抜粋) 139
第1部 委託契約
第1章 総論
第1節 監査の対象とした理由
地方公共団体の委託契約については、他の契約と同様、地方自治法で原則とされる競争入札ではなく随意契約が多いことが全国的に指摘されている。そこで、その実態を、横断的・全体的に捉えることが必要と考えた。
なお、外部監査人及びその補助者において、監査対象との間で利害関係はない。
第2節 監査の全体像
今般、県会計管理課から平成21年度契約調べの資料の提供を受けて、検討した。同資料は、平成21年度の契約金額100万円以上の契約の資料の提供を受け、検討したデータをまとめたものである(委託契約に限らず契約全般のデータである。但し、土木総合システムで管理している契約を除いているため、県全体の契約全てを網羅しているものではない。)。全体的な分析結果は、次のとおりである。
(1) 平成21年度の契約金額100万円以上の契約は、全部で1718件あったが、そのうち随意契約が861件(50.1%)、指名競争入札が705件(41.0%)、一般競争入札が152件(8.8%)であった(なお、パーセントの合計は、四捨五入の関係で99.9%となっている)。
随意契約 県が競争の方法によらないで、任意に特定の者を選定してそ
の者と契約を締結する契約。一般競争入札を建前とする契約方法の特例方式であって、地方自治法施行令第167条の2各号の場合に限って認められる(地方自治法第234条第2項)。
指名競争入札……県が資力、信用その他について適切と認める特定多数の者を通知によって指名し、その特定の参加者に入札の方法で競争させ、契約の相手方となるべきものを決定し、その者と締結する契約。地方自治法施行令第167条各号の場合に限って認められる(地方自治法第234条第2項)。
一般競争入札……公告によって不特定多数の者を誘引して、入札によって申込をさせる方法により競争を行わせ、その申込のうち県に最も
有利な条件をもって申込をしたものを選定して、その者と締結する契約。地方自治法第234条第2項により、原則的な契約形態とされる。
(2) 随意契約の内訳であるが、随意契約とする理由別にみると、下記のとおり、2号随契が随意契約861件中678件、78.7%を占めており最多である(なお、契約金額100万円以上の契約を対象としたことから、少額の契約である1号随契は一部だけがカウントされている)。
1号随契(145件)…売買、貸借、請負その他の契約でその予定価格(貸借
の契約にあっては、予定賃貸借料の年額又は総額)が契約の種類に応じて地方自治法施行令に定める額の範囲内において県の規則で定める額を超えないものをするとき。
2号随契(678件)…不動産の買入れ又は借入れ、県が必要とする物品の製
造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。
3号随契(1件)………障害福祉サービス事業を行う施設等が製造した物品を
買い入れるとき等。
4号随契(1件)………県の認定を受けた新商品を生産する者から買い受ける
とき。
5号随契(2件)………緊急の必要により競争入札に付することができないと
き。
6号随契(6件)………競争入札に付することが不利と認められるとき。
7号随契(1件)………時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあるとき。
8号随契(20件)……競争入札に付し入札者がないとき、又は再度の入札に
付し落札者がないとき。
9号随契(0件)………落札者が契約を締結しないとき。
(一定の金額以上のものは、以下の特例政令の適用を受ける。)
特例政令1号(5件)…他の物品等若しくは特定役務をもって代替させること
ができない芸術品又は特許xxの排他的権利若しくは特殊な技術に係る物品等の調達をするとき。
特例政令2号(1件)…既に調達をした物品等につき交換部品等の調達をする
とき。
特例政令6号(1件)…建築物の設計を目的とする契約をする場合であって、
当該契約の相手方が、総務大臣の定める要件を満たす審査手続により、当該建築物の設計に係る案の提出を行った者の中から最も優れた案を提出した者として特定されているとき。
(3) 2号随契678件中130件、19.2%は、プロポーザル方式であった。
(4) 委託契約の内訳を契約内容の対象別にみると、情報システム関連の契約が多い。 情報システム開発が18件(うち随意契約が14件、指名競争入札が2件、一般競
争入札が2件)、情報システム運用保守が62件(うち随意契約が50件、指名競争入札が2件、一般競争入札が10件)であった。
また、情報システム開発は、1件当たりの契約金額も大きい。
(5) 平成21年度の契約金額100万円以上の契約について、契約時期別にみてみると、月平均100件強であるが、4月が361件、3月が195件と突出している。
4月が多い理由は、年単位の契約を4月に締結するためであると思われる。3月が多い理由については、個別に検討していないことから判然としなかった。4月と同様に年単位の契約を3月に契約する等の理由なのか、いわゆる年度末の駆け込みの契約なのか、今回の監査では検討に至らなかった。
(1) 地方自治法は、一般競争入札を原則とし、指名競争入札はその例外、随意契約はさらにその例外と位置づけている。
高知県においても「高知県会計事務処理要領」、「契約事務の適正化要綱」等により、この「原則-例外」の関係を確認している。
しかし、実際には、上記2(1)のとおり、平成21年度の契約金額100万円以上の契約においては、随意契約が50.1%、指名競争入札が41.0%、一般競争入札が8.8%であって、「原則-例外」の関係が逆転している。
指名競争入札については地方自治法施行令第167条、随意契約については同施行令第167条の2において、それぞれ要件が定められており、その要件をみたすことが必要とされていることから、この点を中心に個別に検討することとした。
(2) 2号随契
上記2(2)のとおり、契約金額100万円以上の契約に占める2号随契の割合は7
8.7%と多い。他方で、2号随契の要件は、「(略)の契約で、その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」であって、やや抽象的である。
そこで、安易に2号随契が認められていないか、個別に検討することとした。
(3) プロポーザル方式
高知県では、高知県会計事務処理要領「第5章 契約」「第4節 随意契約」1(2)で随意契約の要件を整理し、2号随契の1つの類型として「プロポーザル方式により業務を委託するとき。」を掲げている(巻末資料を参照)。
プロポーザル方式は、企画の中身を吟味する方式であり、競争性も取り入れることが可能であって、よりよい契約内容を目指す工夫として評価できる。
そこでは、どのように実効性を持たせるかが課題となることから、個別に検討することとした。
(4) 情報システム関連
上記1(4)のとおり、情報システム関連の契約は金額が大きい。
加えて、例えば、1年目に開発を委託した業者に2年目以降の保守等を随意契約で委託する場合が多いこと等が国レベルでも指摘されている。
そこで、情報システム関連の委託契約も、個別に検討することとした。
平成21年度における委託契約から、金額が多いものを中心に、なるべく随意契約・指名競争入札の各類型を網羅するように、20件をピックアップして検討した。
内訳は、随意契約が14件、指名競争入札が6件である。その詳細は、第2章のとおりである。
第3節 意見
(1) まず、随意契約を締結する場合、地方自治法施行令第167条の2第1項の何号に 該当するか、及びその理由を、伺に明示する必要がある。
ア 高知県会計事務処理要領「第4節 随意契約」1(2)「随意契約の要件」では、
「随意契約は、一般競争入札を原則とする契約方法の例外ですので、その必要性が認められる場合に限って、この例外方式の適用ができるものです。したがって、随
意契約ができる場合は、次に掲げる場合に限られます(地方自治法施行令第167条の2第1項)。」、「第1号による場合以外で随意契約を行おうとするときは、その条項に該(本文ママ。該当の意)する理由を明らかにしてください。」と定めている。
「第1節 総則」3(2)「施行伺の内容」アでは、「施行伺で伺う内容を例示すると次のとおりです。」、「ウ 随意契約の理由及びその相手方の選定理由」と定めている(以上につき、巻末資料を参照)。
地方自治法施行令第167条の2第1項の何号に該当するかの理由を明示することを求めている以上、その前提として、何号に該当するか明示する必要がある。
イ しかし、何号の随意契約に準拠するのか記載されているものの誤りであったものが、個別監査した随意契約14件中3件あった。記載されていないものも散見された。
高知県会計事務処理要領で記載を求めている以上、「正確に」「記載すること」を徹底する必要がある。
(2) 次に、高知県会計事務処理要領「第5章 契約」「第4節 随意契約」1(2)では、地方自治法施行令第167条の2第1項の各号ごとにいくつかの類型を列挙している
(2号随契なら20類型)。契約事務の適正化要綱でも、「第3 随意契約のできる場合の例示」に、同各号ごとにいくつかの類型が記載されている(2号随契ならアからトの20類型)(以上につき、巻末資料を参照)。両者は、ほぼ共通の規定である。
監査人としては、随意契約を締結する場合、高知県会計事務処理要領または契約事 務の適正化要綱に記載された類型のいずれに該当ないし準ずるのか、及びその理由を、伺に明示する必要があると考える。
ア 理由は次のとおりである。
まず第1に、上記(1)のとおり、地方自治法施行令第167条の2第1項の各号のいずれに該当するのかが記載されていない契約や、誤って記載されている契約が相当数、見られた点である。上記の方法をとれば、このような事態を防止することができる。
第2に、県が要領、要綱といった公的な形で、多数の類型を掲げている以上、これらの類型は施行令の要件を具体化したものとみられることである。
第3に、契約事務の適正化要綱第1の3において、「工事請負及び工事に関連する事務事業の委託契約」に関して、「随意契約の方法による契約の締結は、第3に掲げる例示に準拠し個々の契約ごとにその理由を明記し、適正な運用を図るものとする。」と定めていることである。地方自治法施行令第167条の2第1項各号の解釈の問題である以上、工事関連の委託契約か否かで区別する理由はないというべきである。
イ この点、ヒアリングの際に、県は、類型に該当ないし準ずることは求めているが、これを明示することは求めていない等の意見もあった。
しかし、上記類型に該当ないし準ずることの判断を求める以上、担当者がこれを書類に残すことは大きな負担とは思われない。むしろ後日、検証が必要となった際には書類に残してあることが助けになると思われる。
ウ 今般、随意契約を締結する場合に、高知県会計事務処理要領または契約事務の適正化要綱に記載された類型のいずれに該当ないし準ずるのか、及びその理由を、伺に明示する必要がないとの運用がなされていたことが明らかになった。
これらを明示するように改善すべきであると考える。
高知県会計事務処理要領や契約事務の適正化要綱には、指名競争入札による場合に 一般競争入札でなく指名競争入札による理由を明記することを義務づける記載はない。そのためか、個別監査した指名競争入札の契約6件中、この理由を明記した契約は、
1件だけであった。
しかし、高知県会計事務処理要領「第5章 契約」「第1節 総則」「4 契約締結方法の原則」には「指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法は、政令の定める要件に該当するときに限り、これによることができるとされており、原則は、一般競争入札によることとなっています。」、「一般競争入札の方法による契約締結の例外として指名競争入札や随意契約が認められています。」と定められている。「第3節 指名競争入札」「1 指名競争入札の要件」には、「指名競争入札による場合は、次に掲げる場合となります(地方自治法施行令第167条)。」とあり、1号から3号が掲げられている。
したがって、指名競争入札による場合は、地方自治法施行令167条の1号から3 号のいずれかに該当する必要がある。そして、事務の適正を担保するためには、各号のいずれに該当するか、及びその理由を、伺等に明記する必要があると考える。
ア 今回、ヒアリングしたところ、指名競争入札とした合理的理由があまり明確でないものが散見された。指名業者でないと不安であるとか、一般競争入札だと手間がかかるという意見が多く出されたが、前者は一般競争入札でも入札条件により対応する余地があると思われるし、後者はそもそも理由とならないと思われる。
イ 指名競争入札が例外であることからも、安易に指名競争入札によるべきではなく、適正な運用を担保するためには、地方自治法施行令167条の各号のいずれに該当するか、及びその理由を、伺等に明記する必要があると考える。
高知県会計事務処理要領や契約事務の適正化要綱も、そのように改訂すべきである。
契約締結は、当該契約によって達成しようとする一定の政策目的があるはずである。県の施策のうち産業振興等についてはPDCAサイクルを活用することが勧められているが、契約書の作成についても、同様の観点が必要である。
必ずしも1個の契約だけで目的が達せられるものではないことから、1個の契約ごとに成果を測定するのが難しいことも事実であるが、当該契約が何を目的としているのか、目的を達成するためにどのような条項とすべきなのか、どの程度の成果が上がったのか、等について意識することが、実のある契約につながるといえる。
いくつかの案件については、ヒアリングの過程でこのような目的意識がうかがわれた。例えば、公園の管理委託契約について、新たな判例に基づいて、契約条項を改訂して両当事者の責任分担を明確にしたなどの対応をとったものがある(なお、同契約は、各論に記載していない)。目的意識をもって契約締結をしており、評価できる。
ところで、現在、一定規模の案件や、ふるさと雇用等一定の案件で要求されている評価書は、履行状況をチェックするものであって、これはこれで必要なものであろう。しかし、契約が政策目的の達成のためのものであるからには、目的意識の観点から 評価するものが有意義であるように思われる。いたずらに評価書類を増やせばいいものではないが、伺に目的を端的に明示する等のことでもすれば、定量的な評価・定性
的な評価の手がかりとなるなど、有意義ではないだろうか。
今回のヒアリングの結果、平成21年度までは、契約方法の際に相手方と変更契約書を交わさず、申入書と請書のみによる方法がとられていた。中には、契約の納期限を2倍以上に伸ばすにもかかわらず変更契約書を交わさず請書による方法がとられた事案もあった。
この点、法律論的には申入書と請書でも契約は成立するといえるが、契約の重みの点、当初の履行を求めやすくする点、及び変更の事務を慎重に行う点からは変更契約書によるべきである。
県は平成22年度からは、変更契約書による扱いにしたとのことである。上記の点から評価できる。
情報システムに関しては、代金が高額になる場合が多いことに加えて、開発委託契約等について、当初の契約は低額で契約する一方で当該業者が2年目以降の保守管理契約を随意契約でかつ高額で契約するおそれがないか等の点が問題とされている。国も報告書等において、これらの点を指摘し、対応策をとっている。
今回の監査ではこの点についてもヒアリングを行った。
高知県では、情報政策課が主導して、上記の問題に対応して、例えば2年目以降が随意契約にならないように開発契約の段階で工夫をしたり、開発・購入・運用保守を個別に契約して入札、プロポーザルによる随意契約等を使い分ける等の工夫をしたりしている。
この点は評価できるところである。
試行錯誤しながら個々の事案ごとに工夫しているとのことであるが、地方自治法は経済性の確保、透明性の確保の観点から入札を原則としているのであるから、引き続き、これらの観点に注意しつつ適正な運用をしていただきたい。
「プロポーザル方式の実施に関するガイドライン」(平成19年3月20日通知)3
(3)には、「審査委員は,xx性,透明性,客観性が求められることから,県庁外の第三者を中心として5名程度で構成します。(改行)職員の備えた専門知識や経験などが審査に欠かせないと判断される場合には,職員を審査委員に加えることもできますが,その場合は理由を明らかにしてください。」と定められている。県職員を審査委員にすることは例外と位置づけられており、その場合には理由を明示することが求められている。
しかし、実際には、監査したプロポーザル方式の全件について、県職員が審査委員に選任されていた。
この点、監査したところ、県職員の選任理由の記載があるものの、抽象的に過ぎるものがあった。
ガイドラインを死文化させないために、具体的な理由を記載すべきである。
契約変更に関する書類等の中に、委託契約であるのに「請負金額」、「請負業務費」等と請負契約を前提とする記載があった。ヒアリングの結果、土木部の書類をそのまま使用した等との説明がなされた。
しかし、民法上、請負と委託(委任)は別物である。法律に従って契約事務を行う公務員としては、正確を期すべきである。
第2章 各論
第1節 2号随意契約(プロポーザル方式以外)
1 契約内容・事業内容
環境活動支援センター事業実施委託契約
事業の目的は、県民の環境活動に対する支援、環境学習の推進拠点、地球温暖化防止活動の推進、県の環境関連事業アウトソーシングの受託等を通して、県民の環境活動を活発にし、環境にやさしいライフスタイルの輪を広げるとともに、県内の温室効果ガス排出削減目標の達成を目指すもの。
2 随意契約とした理由
ヒアリングの結果、他に適切な者がなく、地方自治法施行令第167条の2第1項第2号の随意契約(契約の性質・目的が競争入札に適しない)に該当し、契約事務の適正化要綱の第3の1(2)セに該当すると考えるとの説明であった。
すなわち、法の定める「地球温暖化防止推進センター」が他には存在せず、会計機能を有している点、事務局があって受け入れ能力がある点からも、他に適切な者がないという趣旨である(もっとも、会計機能については、3のとおり県も疑問を示すに至った)。
なお、施行伺には、「特定非営利活動法人環境の杜こうちと随意契約を行う理由」として、概要、以下のとおり記載されている。
「事業の実施にあたり、下記の条件を満たす団体が他にないため。また、特定非営利活動法人環境の杜こうちは、県の呼びかけにより、県内の主要な環境活動団体が連携して県民の環境活動を支援するための組織の新設に賛同したN POや個人が設立した団体でもあるため、当法人と随意契約を行う。①業務内容に鑑みて、行政にはない知識・経験・フットワーク・得意分野の提供などを考慮して、NPO法人に行ってもらうのがふさわしいこと、②業務内容を幅広く行える組織であること、③環境問題全般に活動する、県内の主要な環境活動団体や個人が幅広く参加する団体であること、④各分野での先進的な活動の実績があり、そのノウハウを業務に活かせること、⑤幅広い分野にまたがるネットワークを活用して、県民に広く参加を呼びかけ、効果的な事業の実施ができること、⑥地球温暖化防止活動の推進は、高知県温暖化防止活動推進センターの業務と一体で行う方が効果的であること(平成18年4月1日から3年間、特定非営利活動法人環境の杜こうちに指定し、平成21年4月1日からも更新予定)」
3 事業の評価について
評価書には、「会計処理においては法人内でのチェック体制を強化し、適正な管理を望む」、品質管理計画書には「会計上の県への月々の報告書などうっかりミスが多い」「委託事業の内容が各スタッフに十分に認識されていないことがあった」とある。
この点についてヒアリングしたところ、以下のような説明であった。
NPO法人で不慣れだったこともあり、通常は担当者から順に事務局長まで決済を経て提出されるべき類の書類が、会計担当からそのまま提出されている印象だった。エクセルの表計算等も、検算なしで提出されるなど、杜撰だったので指摘した。また、委託事業の内容についても、理解不十分な面があった。もっとも、当時の県の担当者が出向いて指導をし、最終報告までには改善されたことから、事業報告書ではその点は触れていない。
4 経済的合理性について
ヒアリングの結果は、以下のとおりである。
・見積金額、契約金額の根拠は、県の旧業務改革推進室の人件費単価に基づいている。他に、近県の状況等も調査している。また、会場費(ソーレ)等も含めて、単価のチェックは行っている。温暖化防止活動推進委員や、環境活動に個人で取り組んでいる方が手伝うイベント等に対するスタッフ報酬、報償費の支払もチェックしている。
・なお、平成22年、23年度も、同法人に委託している。随意契約だが、委託費は減少しているとのことである。各事業の一体的な取り組みという意味では、随意契約の必要性は高くなっていると判断している。また、一体的に入札に掛けるという方法は、現実問題、他に参加業者が想定できない。
・つまり、県内には、他に同クラスの団体はなく、スタッフは4名だが、理事は関係各NPO法人の理事長であり、1NPO法人というよりは、様々な関係任意団体と協力して行うことが期待できる。
・「平成21年度環境の杜こうち事業報告・総括」で、県民会議の体制づくりが固まっておらず、運営委員会、部会、事務局等の位置づけが不明確とされたことから、平成22年に県民部会、事業者部会、行政部会の3部会に組織改編を行い、このうち行政部会の事務局の運営を県の直轄としたことから委託料が大幅に減少している。
5 環境活動支援センターの運営について
次に、本事業の人件費、諸経費が、本事業以外の温暖化防止活動推進センターや、NPO法人自体の運営に使われている可能性が考えられたことから、そのような観点からのヒアリングを行った。その結果は以下のとおりである。
・「NPO法人環境の杜こうち」の設立の年月日は、平成18年3月9日である。
・環境活動支援センター事業、高知県温暖化防止活動推進センターの事業いずれ
についても、平成18年4月1日から行っている。
・高知県温暖化防止活動推進センターの根拠法令は「地球温暖化対策の推進に関する法律」第24条であり、環境活動支援センターの根拠法令は「環境保全活動・環境教育推進法」第1条、第2条である。
・温暖化防止センターの事業に関しては、温暖化防止推進員に対する研修費等に対して、国から補助金が出ている。もっとも、事業仕分けで廃止となった事業もあり、縮小方向である。一方、環境活動支援センターに対する国からの補助はない。
・NPO法人の事務局は4名であり、環境活動支援センター業務が1名、県民会議(左記センターの一部)業務が1名、温暖化防止センター業務が1名と、事務局長という構成である。各団体の事務局長は兼任となっている。繁忙期については、それぞれの業務が重なることもある。ただし、会計上、人件費等は明確に区別されている。
・業務委託報告書の別添「平成21年度環境活動支援センター事業実施委託業務内容」の第4には、「温暖化防止活動推進センターとして、高知県の温暖化防止活動の中核的な役割を果たす」とあるが、本来は、両センターの業務は別だったものである。
6 検討
それぞれの組織の位置づけが極めて分かりづらく、渾然一体とした面がある印象はぬぐえないが、会計上は区分されており、流用の事実は認められない。温暖化事業へのシフトについても、やむを得ないとの印象である。
また、委託先の業務については、上記のとおり、諸処の手続等について杜撰とも言える点が認められるが、現在は指導して一定の改善がなされている。
経済的合理性という観点からも、単価表に基づいており根拠は認められると判断した。
1 契約内容・事業内容
平成21年度県職員住宅管理業務委託契約
職員住宅の管理業務については、維持修繕の効率化及び充実を図るため、平成15年度から高知県住宅供給公社に対して、中央地区職員住宅の維持修繕を委託しており、平成17年4月からは、県業務のアウトソーシングの推進、さらに維持管理の効率化及び充実を図るため、委託範囲を高知県全域に拡大して委託している(契約伺)。
2 随意契約とした理由
地方自治法施行令第167条の2第1項第2号(契約の性質・目的が競争入札に適しない)と判断した理由について、ヒアリングによると、県下75棟の職員住宅に対する管理能力、管理実績から、他に適切な者がなく、契約事務の適正化要綱の第3の1(2)の「セ」特定事務に該当すると判断したとのことであった。
3 高知県住宅供給公社について
(同公社のホームページによる)
昭和30年7月23日に財団法人高知県住宅建設協会として設立し、地方住宅供給公社法の制定に伴い、昭和40年12月27日に高知県住宅供給公社となり現在に至る。
法人の根拠 地方住宅供給公社法(昭和40年6月10日 法律第124号)
・設立団体 高知県
・基本財産 860万円(高知県ほか7市1町が出資)
◇分譲事業
県下各地域の住宅事情や市町村の政策要請に応じて、豊富な経験と蓄積した技術を生かして、良好な住環境や街並景観を備えた団地開発を推進してきた。
◇管理事業
(1) 公営住宅管理代行
(2) 県職員住宅等管理受託
(3) 特定優良賃貸住宅管理
(4) 公社利便施設管理
(5) 高齢者優良賃貸住宅管理受託
◇公社の他の業務としては、ショッピングセンター(横浜、十市)のエースワン等に対する賃貸業務、九xxのトップワン内のコナミ等への賃貸業務を行っているとのことである。
4 経済的合理性について
ヒアリングの結果は、次のとおりであった。
・平成19年行政監査によると住宅供給公社の解体が検討されていたが、その後、平成21年2月定例議会で廃止の方向性を見直し、今後は管理業務を主体に存続させることとなっている。
・人件費の金額については、住宅課において、同業務を県職員が行った場合にどのくらいの経費がかかるのかという試算を行い、予算化している。具体的には、1分53円、つまり1時間3180円で計算している。
・一方、事務費については、誰がどれだけ業務に関わるかという実質的な点を含めて、個々に算出しており、本業務にかかるものである。具体的には、事務経費は管理する戸数で按分(県営住宅、高知市営住宅、県職員住宅、教職員住宅等)して算出し、人件費と事務費で524万円を予算化している。
・高知県住宅供給公社の収入に占める、本契約代金の割合は、約4.8%である。
5 検討
(1) 公社との随意契約を行っている点について、選定が独占的であり、金額が過大であった場合には、実質的に公社への補助ではないかとも考えられたが、収入に占めるパーセンテージ等に鑑みて、そのような事実は確認できない。
(2) 次に、随意契約によることの妥当性の点である。
ア 本事業のうち、民間の不動産業者にできない業務は何か、業務委託契約書や要綱の記載内容を引用する等して、具体的な業務を挙げて欲しいと質問したところ、個々の業務に関しては、特に民間で不可能なものはないとする一方で、公社に委託する必要性として以下の3点の説明があった。
第1点は、県下全域に75棟あるので、xx的な管理は民間業者では難しいのではないかという点である。
しかしそもそも、必ず全県下をxx的に管理する必要があるのか、という疑問は残る。管理会社が分かれると契約事務等で不便な点が存在するという説明もあったが、どの程度重視すべきファクターであるかは疑問である。
第2点は、建築士等を自前で抱えている必要性という点である。
しかしこの点も、入札の要件にすることで、解消可能な問題であると考える。
第3点に、毎年4月は、抽選の時期で一定の人数を要するという点である。しかし結局は、現状として、公社の九xx事務所1箇所でこなしている業
務であり、民間でも同人数規模のところであれば可能だと考えられる。
イ 随意契約を複数年にわたって同じ相手方と継続する場合には、連続して入札手続を選択しないのであるから、県民に対し、より詳細な説明義務を負うとの認識を持つことが必要である。前年度の判断を単に踏襲することなく、新たに当該年度の視点に立って検討する必要がある。
本件では、委託の必要性・有効性の観点から、随意契約によることの妥当性についてより慎重な判断が求められるのではないだろうか。
1 契約内容・事業内容
ふるさと雇用再生水産物販路拡大業務(平成21年11月1日~平成24年
3月31日)
産業成長戦略で位置づけられた「高知県漁協による『土佐の魚』への付加価値向上」を推進するため、県域全体を包括する漁協である高知県漁業協同組合が行う量販店や外食店などとの取引の拡大を図るとともに、販売先のニーズに応じた鮮魚の商品力向上を図る取組を推進することにより、県水産物の販路拡大を図るもの(業務仕様書による)。
2 随意契約とした理由
契約伺には、地方自治法施行令第167条の2第1項第2号に該当するとして、理由について以下のように記載されている。
「次の理由により本業務の委託先は高知県漁協しかないと判断でき、本業務を高知県漁協と単独見積による随意契約する。
・産業振興計画の成長戦略において「高知県漁協による『土佐の魚』の付加価値向上」が位置づけられ、高知県漁協による流通販売対策が本県水産業の振興策として重要な地位を占めていることから、この振興策の具体策の一つである本業務は、高知県漁協に委託する必要がある。
①高知県漁協は、県下47箇所の産地市場のうち、28箇所の産地市場の開設者であること
②高知県漁協の取扱高は、平成19年度で8、803百万円で県下全体の68.4%を占めること
○単独見積とする理由〔高知県契約規則第32条第4号〕
前記の通り、委託の条件を満たすのは、高知県漁業協同組合しかないことから、単独見積とする。」
なお、契約事務の適正化要綱の第3の1(2)の「セ」特定の事務に該当しうる、そもそも、同要綱については例示規定であるというのが、担当課の理解であった。
3 事業の成果・評価について
(1)2年目以降、「高知県品質管理ガイドライン」に基づいた評価書が作成されている。
評価書中、「品質管理の項目」に「業務目的の達成度」という項目があるが
(評価点100点のうち20点の配点がある)、これについては、取引件数・取引高等の定量的側面もあるが、OJTの達成度も含め、担当の聞き取り等による評価(定性的側面)も踏まえて採点しているとのことである。
(2)事業の成果に対する定量的評価という点については、HACCP(ハサップ:
註)の取得が考えられるが、現時点では、社団法人大日本水産会の認定する「優良衛生品質管理市場」の取得を目指しているという説明であった。
(3)実施報告書には、「商談機会の設定、産地の職員に対する指導、流通販売に関する研修を職員に対して行うこと、接客・品揃え・ディスプレイに関する研修を漁協職員に対して行うこと」等が挙げられているため、実際に、どの程度の回数及び頻度で行われたものかについて確認した。
(4)本事業による被雇用者3名が、本事業終了後も雇用されているのかどうかについて尋ねたところ、継続雇用の見込であることを確認しているという説明であった。
(5)その他、取引件数や取引高が成果の指標となり得るが、これらに関しては、複合的な要因によるものなので、本事業だけを切り取った評価としては難しい面もあると思われる。
*HACCP
HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point) は日本語で危害分析重要管理点と訳されている食品の安全性を高めるための新しい考え方の食品衛生管理システム。このシステムは1960年代に米国で宇宙食の安全性を確保するために開発され、従来は出来上がった最終製品の一部を検査することにより製品の安全性を調べていたが、HACCPでは原材料から加工・包装・出荷・消費に至るまでのすべての段階で発生する可能性のある危害を検討し、その発生を防止または減少させる重要管理点を設定して管理する方式。
4 検討
本件事業の目的からすれば、本来的には、「委託」ではなく「補助金」の性質を有する契約である。
すなわち、補助金は県費支出によって支出先に一定の効果をもたらすことを目的としているのに対して、委託ではその内容を実施することのみが目的となる。例えば、県内企業に補助金を支出する場合、その県費の支出によって支出先を支援することを目指しており、したがって、補助金の対象や額、期間等の詳細はその補助金の目的を合理的に達成できるような形で、その都度設計される。補助金支出の場合には、公益性を確保するために、補助金要綱を定める過程で県費支出の目的、金額、支出先等が一つ一つ吟味され、補助金支出が地方自治法第232条の2にいう「公益上必要ある場合」の要件を満たすかが検討される。そして、この公益性が、経済的合理性を前提に、税金をある特定人に対して支出することを正当化するのである。
本件について具体的に見ると、目的の公益性及びこれに照らした他の委託先の不存在という点では、認めることができると考えられる。また、経済的合理性についても、特段これを否定する事情は存在しない。
もっとも、事業評価の基準についてあいまいな点があることは否定できず、
実質的な評価方法の検討が期待されるところである。
また、ふるさと雇用再生特別基金事業を利用していることからやむを得ないと思われるが、本来的に「補助金」の性質を有する金員を「委託」の名目で支出することは望ましくない。本件は、やむを得ない「例外的な」扱いとみるべきである。
1 契約内容・業務内容
海外経済活動支援事業委託業務
受託者(社団法人高知県貿易協会)は、中国・東南アジア及びオセアニア地域等の調査活動及び県内企業の販路拡大、資材調達、委託生産等の活動支援を行うことで、ビジネスチャンスを拡大し、県経済の国際化を図る目的で、以下の事業を、上海事務所及びシンガポール事務所において行う(仕様書より抜粋)。
(1)調査委託
①海外個別案件調査
・高知県内企業が、中国、東南アジア及びオセアニア地域等における販路開拓、資材調達等のビジネス展開を検討する上で、当該案件に係る市場調査を希望する際に、調査の妥当性を判断した上で依頼を受諾し、情報収集を行う。
・収集した情報に基づき報告書等を作成し、遅滞なく高知県及び調査依頼者に送付する。
・調査結果に基づき、県内企業の輸出及び輸入のニーズにきめ細かく対応し、企業の要望に即した海外でのビジネスマッチングにつなげるよう努める。
・高知県内企業から調査依頼を受けた場合は、受諾するかどうかに関わらず、週間活動報告書において、依頼内容と結果の報告を高知県に行う。
②海外マーケット調査
・高知県内企業からの調査依頼の有無を問わず、高知県内企業が海外取引をするために必要なマーケット調査を実施する。
・必要に応じて、現地に精通した事業者等を活用し、情報収集及び報告書作成を行わせる。
・調査成果を元に、国や地域ごとに異なる嗜好性、商品ニーズ及び商慣習に対応する戦略的なマーケティングを行いながら、展開すべき商品構成とxxの商品づくりへのフィードバックを図る。
・現地商社等へのアプローチを積極的に行い、商取引に重要な人脈づくりと現地固有の販売ルートを解明し、高知県内企業の販路開拓、資材調達等のビジネス展開につなげるよう努める。
・海外マーケット調査の成果について、四半期に1回程度、調査報告書を作成し、高知県に提出する。
・上海事務所及びシンガポール事務所職員が帰国する際は、高知県の関係部署とともに、高知県内企業との面談を行い、海外マーケット調査で得られた情報とのマッチング、企業ニーズの掘り起こしを行う。
・高知県内企業との面談については、面談内容の報告書を作成し、高知県に提出する。
③食品販売ルート調査
・高知県産業振興計画の柱である地産外商戦略を進めていくため、高知県産農林水産物や加工食品を中心に、香港、シンガポール等の中国、東南アジア
地域等における食品販売ルートの調査を行う。
・食品販売ルート調査の成果について、四半期に1回程度、調査報告書を作成し、高知県に提出する。
・調査結果を基に、上海事務所及びシンガポール事務所は、高知県の関係部署と連携して、輸出可能な商品の発掘、企画開発、生産販売にわたる支援を企業や団体に対して行う。
・食品販売ルート調査に基づき、香港、シンガポール等において、海外ユーザー向けの海外商談会を実施する。
(2)高知県内企業の国際経済交流の支援
上記(1)の調査結果を活用し、貿易xx商品の発掘や商品企画から商品化に至る過程での、下記①~④の個別企業に対する企業支援を行う。
①県内企業が現地で行う商談等のビジネス活動の支援
②輸出入の業務提携先の調査や販路開拓の市場調査等、海外事業の展開へ向けた支援
③現地で行う商談のアレンジや通訳の補助等、ビジネス活動への支援
④輸出入における現地のパートナー企業を発掘、調査、販路開拓のための市場調査
(3)高知県が実施する経済交流事業の支援
(4)上海・シンガポールにおける四国4県共同事業への支援
(5)高知県の姉妹都市との友好交流事業の支援
(6)業務報告
・上海事務所及びシンガポール事務所は、毎週1回、業務報告として「週間活動報告書」を文書にて高知県にEメールにて送付する。長期出張等で多忙な場合は、出張終了後速やかに報告書を作成し、送付する。
・上海事務所及びシンガポール事務所は、最低年間2回は帰国し、高知県に対し業務報告を行うとともに、高知県の関係部署との事務協議を行う。
2 随意契約とした理由
地方自治法施行令第167条の2第1項第2号に該当するとしている。契約伺には、以下のとおり記載されている。
「委託予定法人は、高知県の貿易発展を目的として設立された公益法人である。業務の性質上、現地のシンガポール及び上海と高知県に施設及び人員が配置されている必要がある。また、複数年契約で県職員を協定に基づき派遣しているなど、競争入札に適さないため、随意契約とする」
このように、競争入札に適さないとする具体的な理由としては、①シンガポール及び上海と高知県に施設及び人員が配置されていること、②複数年契約で県職員を協定に基づき派遣していることが挙げられている。
また、ヒアリングにおいては、③本支援事業の対象は、中小零細の海外進出に不慣れな企業が多く、そうした県内企業の進出支援や高知県が実施する国際
経済交流の支援のほか、友好都市等の交流支援等、公的な面も含んだ海外事務所の業務内容を考慮すると、利潤を追求する民間企業ではない方が適切であると判断したという説明がなされた。
これらの点について検討する。
(1)上記①シンガポール及び上海と高知県に施設及び人員が配置されていることについてであるが、まず、この条件をみたす民間業者の参入も考えられる。したがって、決定的な理由とはいえないと思われる。
また、そもそも、進出企業にとって、シンガポールと上海の両方を対象とするニーズがあるか疑問である。
所管課からは、シンガポール事務所と上海事務所が週ごとの調査報告を情報共有しているとの説明もなされたが、これらの情報共有そのものに大きな意味があるのか、疑問が残る。具体的にどう活用しているのか、説明はなされなかった。
(2)上記②複数年契約で県職員を協定に基づき派遣していることについても、この条件をみたす民間業者の参入も考えられる。したがって、決定的な理由とはいえないと思われる。
(3)上記③のうち、県内企業の進出支援の点について、ヒアリングでは、委託先の団体が社団法人であって、高知県の貿易振興を目的とし、県下で海外取引のある主要な企業が加盟している団体であることから、当該委託先が望ましいと考えたと説明された。
しかし、進出支援のためであれば、成果の点、あるいは費用対効果の点が最重要となるはずである。費用対効果の点でみると、予算額8000~9000万円の事業に対して、成約の金額は約7800万円である。
必ずしも、県内企業の進出支援に十分な力量があるとはいえないのではないだろうか。
(4)上記③のうち、事実として委託先が公的な面を担っている面があることは否定できないかもしれないが、だからといって採算を無視することが許されるわけではない。
公的な面であれば、本来は、委託という形でなく、県自らの責任、自らの責任で行い、採算面についても県自身が説明責任を果たすべきところでもあると思われる。
3 経済的合理性について
(1) 随意契約においては、経済性が十分に果たされないことがあるとの問題が一般的に指摘されている。したがって、経済性があるか検討する必要がある。
加えて、本委託契約の場合、委託費の金額が委託先の社団法人の収入のほぼ全額、約93%を占めている。契約伺には、「当委託業務については多額の経費を要するが、委託先団体は社団法人であり財産基盤が弱く、委託事業を行っていくためには委託料による資金調達が必要なため、委託料の概算払いを行うことと
する」と記載されている。
そうすると、前述の公的な側面を担っていることも含めて、事業の目的からすれば、本来的には、「委託」ではなく「補助金」の性質を有する契約である。
補助金支出の場合には、地方自治法第232条の2にいう「公益上必要ある場合」の要件を満たすことが必要であるが、この公益性は、経済的合理性も当然求められるものと思われる。
(2) この点、前述したとおり、予算額8000~9000万円の事業に対して、成約の金額は約7800万円である。
企業の海外進出支援の観点からすると、事業の経済性が不十分ではないだろうか。また、委託先が「財産基盤が弱く、委託事業を行っていくためには委託料に よる資金調達が必要」とされるところ、委託先の財務状況については、平成1
6年度の包括外部監査に対する措置報告で、同社団法人の経費削減の努力を続けることとされていた。
そこで、経費削減の状況をヒアリングしたところ、予算額ベースで、平成
16年度8619万円、同17年度7884万円、同18年度7424万円、同19年度8240万円、同20年度8082万円、同21年度9141万円、同22年度9181万円、同23年度8058万円と推移しているという説明であった。
経費節減が十分になされているとはいえず、この点からも経済性の確保が不十分ではないかと思われる。
(3) なお、本事業及び委託先は地産外商戦略の中で重要な位置づけを与えられているようである。実際、平成21年度以降の経費が増加の一因は、同年以降、積極的に外国販路を開拓したためであるとの説明がなされた。
であれば、なおさら、海外進出支援の成果の程度や、委託の内実が問われることとなろう。
4 業務の成果の把握について
海外進出支援の成果の程度や、委託の内実の点に関連して、ヒアリングを行った。
(1) 海外案件調査について、何件調査をしたのか、どのような内容だったのか、調査の成果物を示してほしいと質問した。仕様書でも、海外案件調査の調査結果は、「報告書等を作成し、遅滞なく高知県及び調査依頼者に送付する」こととされている。
これに対しては、成果物は報告書である、調査は33件行った、成果物は報告書であるとの回答がなされた。しかし、報告書そのものの確認はできなかった。
(2) 次に、調査について現地のコンサルタントへ委託するなど、現地の状況に詳しい方を活用しているかを質問した。仕様書でも、海外マーケット調査について「必要に応じて、現地に精通した事業者等を活用し、情報収集及び報告書作成を行わせる」こととされている。
しかし、現地のコンサルタントへの委託は、過去には予算がついたこともあったが、もともと行っていないとの回答であった。
監査人としては、現地に事務所がある大きな理由には、現地に人脈をつくることが当然含まれていると考えていたので、直ちには理解できなかったので、具体的な理由を質問した。その回答は、コンサルタントへの委託の手続を行うより、自ら調査した方が機動的であるからとの説明であった。
しかし、シンガポールも上海も経済成長著しい都市であって、コンサルタントが数多くいるのではないだろうか。仕様書にもあり、一度予算をとっているのに現地コンサルタントへの委任に至っていないということは、現地コンサルタントへ委託できるほどには本業務が現地に定着していないのではないかとの疑問を感じた。
5 検討
(1) 随意契約とした理由については、企業の海外進出の支援の点からは十分とはいえないように思われる。公的な面というだけでは不十分ではないだろうか。
(2) また、業務の成果の把握の点からは、県に送付すべき報告書が確認できなかったことや、仕様書に記載のある「現地に精通した事業者等の活用」がなされていないことから、県が委託先の業務やその成果を十分に把握しているのか疑問に感じた。
委託契約の履行を本委託契約の委託費が委託先の収入の大半(93%)を占めており、補助金の性質をもっているともいえることからも、委託の成果を十分に把握する必要がある。
とりわけ、地産外商戦略で重要な位置づけを与えるのであれば、その成果も求められるし、当然の前提として、委託の履行を確保することが求められる。
1 契約内容・事業内容
本委託契約は、平成21年度高知港(新港・桟橋地区)における船舶給水業務委託の委託契約である。
所管課である土木部高知土木事務所にヒアリングを実施した。
2 随意契約とした理由
(1) 本委託契約は、回議書において6号随契(不利随契)と記載されていた。
いかなる理由で6号随契にしたのかヒアリングしたところ、6号随契は誤りであって
2号随契が正しい、平成23年4月に定期監査で指摘された、とのことであった。
地方自治法上、競争入札が原則であって随意契約は例外である。いかなる理由で随意契約とするかは重要な点といえる。正確を期されたい。
(2) ところで、2号随契は、契約事務の適正化要綱の第3の1(2)に規定があり、いくつかの類型が定められている。そこでいずれの類型にあたるかヒアリングした。その回答は、「該当するものはない。同項の規定は例示に過ぎないから該当するものがなくてもよい」とのことであった。
しかし、契約事務の適正化要綱の第1の3には「随意契約の方法による契約の締結は、第3に掲げる例示に準拠し個々の契約ごとにその理由を明記し、適正な運用を図るものとする。」と定められている。どの類型に準拠するのか回議書に明示すべきである。
(3) 次に、ではいかなる理由で2号随契に該当するといえるのかヒアリングした。その回答は、①バース調整業務を行う委託先が給水業務も行う方が利用者の便宜である、②給水業務だけ別業者が行うと、外国船が係留したときに実施する港湾保安業務に関する情報漏えいの危険がある。③当該委託先は海運会社でないことから特定の海運業者を優先するような心配がなくxx性が確保できる、ということであった。
しかし、地方自治法において入札が原則とされ随意契約が例外とされる趣旨は、経済性の確保や透明性の確保の観点によるのであって、これを単に利用者の便宜だけで覆すことはできないと思われる。そもそも、①の利用者の便宜といっても、バース調整業務を行う者から給水業務を行う者にFAXやeメールで伝達すればすむことであって、さほど大きな便宜とはいえない。
また、②についても、給水業務をいつどの区画で行うかといったことが機密事項とは考えにくいし、機密情報であればバース調整業務や給水業務を行う業者に守秘義務を負わせれば済むことと思われる。③の点も、運送会社でない会社は随意契約先だけではないことから決定的な理由とはいえないと思われる。
結局のところ、xx随意契約をしていた先であるという点ではないだろうか。具体的な理由を欠くと思われ、合規性の観点から問題がある。
(4) 加えて、政策的にも問題があるように思われる。ヒアリングの結果、平成19年度から給水業務を含む高知新港の業務について一括して指定管理者制度を導入することが議論されており、そこでは、非公募で指定管理者制度を導入できるかが議論されてきたとのことである。しかし、平成20年、21年、22年と3年続けて非公募では導入できないという結論が出されたとのことであった。そうすると、非公募では指定管理者を導入できないと結論づけられた業務について、(個別に随意契約を締結することにより、)非公募で契約していることになる。政策決定過程での議論と相反する形で契約がなされていることになる。
(5) このように、本件において随意契約とすることには問題がある。
契約事務の適正化要綱に定めるとおり、いずれの類型に該当するか明確にすることを通じて、2号随契が認められるか否か、十二分に検討する必要がある。
3 書式について
本契約にかかる予定価格調書には「請負対象金額」の語が用いられている。
ところが、本契約は業務委託契約である。委託契約と請負契約は法律上区別される。公文書であるから、正確な語を用いるべきである。
4 検討
2で述べたとおり、本件において随意契約とすることには問題がある。
3で述べたとおり、書類では正確な語を用いるべきである。
第2節 2号随意契約(プロポーザル方式)
1 契約内容・事業内容
本委託契約は、商品発掘コンクール実施委託業務の委託契約である。
所管課である産業振興推進部地産地消・外商課にヒアリングを実施した。
2 随意契約とした理由
本委託契約は、公募型プロポーザル方式を用いた随意契約となっている。
企画提案の中身を吟味して委託先を選ぼうとしてプロポーザル方式を採用したものと思われるが、他方で、競争入札が原則で随意契約は例外であること、競争入札においても総合評価方式を用いれば企画提案の中身の検討も可能と思われることから、総合評価方式を用いた競争入札ではなく、プロポーザル方式を用いた随意契約とした理由を検討する必要がある。また、経済性・競争性の確保がはかられているか、検討した。
(1) 本委託契約の目的にさかのぼって検討すると、商品発掘コンクールの目的は、県産品の商品情報をとり、一般消費者と量販店等のバイヤーにPRし、これらの認知を得ることにある。これまで2年に1度程度の頻度でコンクールを実施しているが、担当課としては、PR効果をどのように発揮するか提案していただきたいというスタンスであり、予算枠一杯で各入札者にやりたいことを提案してもらいたい、仕様書で発注することになじまない、とのことであった。
これまで効果つまり目的の達成度はどのように測定していたか質問したところ、コンクールでどのような手法・手段をとったかによって測定していた、つまり、どのようなイベントをしたか、集客がどの程度だったか、どのようなメディアに取り上げられたか等、で測定していたとのことであった。厳しい見方をすれば、これらの点と効果(目的達成度)とは直結するものではなく、主観的な評価とならざるを得ない。
そのようなこともあって、担当課としては、とにかく企画案を広く求めることを優先したものと考えられる。
多様な企画案を求める以上、担当課が事前に仕様書を作成することは難しいといえる。プロポーザル方式を採用したことには一定の合理性があるといえる。
(2) なお、経済性の確保の点について、検討する。
予算額は、過去のコンクールを参考に、財政課とヒアリングして決定したとのことであった。
その予算額の中で、多様な企画案を広く求め、プロポーザルの中では、各社から提案された企画が全体としてどの程度の効果をもたらすか、各企画が適正に実施されるか等について審査されている。
このようにして、一定の予算額の枠内でいかに大きな効果をあげるかを検討している。単価表を使用していないとのことであるが、経済性は確保されているといえる。
3 プロポーザル方式の運用について
(1) 評点の比重について
評点は、企画の良し悪しに重点がおかれている。金額面には5%の配点しかなされていない。
上記1のプロポーザル方式を選択した理由と適合している。
(2) 県職員が審査委員をつとめることについて
「プロポーザル方式の実施に関するガイドライン」(平成19年3月20日通知)3(3)には、「審査委員は、xx性、透明性、客観性が求められることから、県庁外の第三者を中心として5名程度で構成します。(改行)職員の備えた専門知識や経験などが審査に欠かせないと判断される場合には、職員を審査委員に加えることもできますが、その場合は理由を明らかにしてください。」と定められている。
本委託契約では、担当課の食品加工室長がプロポーザル審査委員会の審査委員(審査委員長)をつとめた。
その理由は、「平成21年度商品発掘コンクール実施委託業務プロポーザル審査委員会の設置について(伺)」に、「地産地消・外商及び食品加工に関する知識を持ち、総合的に審査することができる」と記載されている。
しかし、この程度の記載で足りるならば、担当課の管理職であれば多くの場合、審査委員になれることになる。上記ガイドラインで「県庁外の第三者を中心として」と定めた趣旨が失われかねない。
本件に関しては、具体的な理由をヒアリングしたところ、コンクールには加工食品が多いこと、県産品の情報の収集、消費者・バイヤーに対する情報の提供を目的としており担当課の政策分野全般にわたることから全般に目配りができる委員の存在が必要かつ有益と思われることが理由として挙げられた。
(3) 提案内容の不開示扱いについて
本委託契約のプロポーザルの過程で、参加した1社(落札者)から、自社の提案内容を公文書開示請求の不開示文書とするよう申入がなされた。
その後、実際に、他社から公文書開示請求がなされ、担当課は開示とした。その理由は、対象とされる情報が企画提案であって企業情報でないからとのことであった。
この点は、プロポーザルの参加者の確保の観点とプロポーザルの参加者全体の提案力の底上げの観点とが衝突する、難しい問題であると思われる。
担当課の判断は、情報公開条例の原則に立ち返っての判断であり、一つの見識を示したものといえよう。
(4) 審査結果の情報提供について
各提案者に対しては、自社の項目別の点数(4項目)と他社の合計点数を通知したとのことであった。
それ以外にプロポーザル審査委員会で議論された内容に基づくコメント等は通知していないが、広告代理店を中心とする参加者は、県がウェブサイト上にて情報提供する事業内容から、次回の提案に向け検討している様子がみられたとのことであった。
4 検討
本委託契約でプロポーザル方式を採用したことには、一定の合理性があるといえる。
(1) とはいえ、プロポーザル方式の実施についてガイドラインの趣旨を尊重すべきである。具体的には、県職員が審査委員をつとめる理由を回議書等に記載する際には、具体的な 理由を記載すべきである。ガイドラインを効果的なものとするためには、きちんと遵守・尊重し、適宜見直しをしていくことが必要である。ガイドラインでは「県庁外の第三者 を中心として」と定めているのに担当課の管理職であれば該当するような抽象的な理由 を記載するにとどめるという、いわば形式的な対応で足りるとする運用が定着すると、 ガイドラインが効果的でなくなるばかりか、他の法令等も形骸化しかねない。
(2) 審査結果の情報提供について、プロポーザル審査委員会での指摘事項を通知する程度のことはしてもいいのではないか。参加者の主体性を奪うことは避けるべきであるが、審査委員会で指摘された点を通知する程度なら、そのようなおそれはないといえる。逆に、ウェブサイトの情報だけでこのような指摘事項を把握することは容易でないと思われる。参加者の提案力を底上げして、ひいては県が得る提案をよりよいものとするためにも、一定の情報提供の手間を惜しむべきではないと考える。
1 契約内容・事業内容
本委託契約は、小・中学校の教材作成業務の委託契約である。所管課である教育委員会小中学校課にヒアリングを実施した。
2 随意契約とした理由
本委託契約は、指名型プロポーザル方式を用いた随意契約となっている。
(1) 競争入札が原則で随意契約は例外であること、競争入札においても総合評価方式を用いれば企画提案の中身の検討も可能と思われることから、総合評価方式を用いた競争入札ではなく、プロポーザル方式を用いた随意契約とした理由を検討する必要がある。
ヒアリングの回答は、①教材の作成に専門知識が必要であること、②仕様を詳細まで定めるのも難しいこと、③この点で公共土木工事とは異なること、等であった。
この点、確かに、単元や授業の進行に合わせたシートを作成すること、質の高い問題を作成することといった、一定の仕様を定めることは可能であり、実際に、これらの点を本委託のプロポーザルでも要求しているが、それ以上に細かな仕様を作ることは難しいと思われる。
作成してもらう問題の質の高さをはかるためには、細かな仕様を作成することよりも、実際にシートを一部作成させ、その質を競わせる方が簡便である。
この場合、作成されたシートの質の評価を正確にすること、作成した部分以外の部分に同程度の質を確保すること、等が必要になるけれども、これらを実現できれば、プロポーザル方式を用いた随意契約とすることに一定の合理性がある。
(2) なお、公募型プロポーザル方式でなく指名型プロポーザル方式を採用した理由については、単元や授業の進行に合わせたシートを作成すること、質の高い問題を作成することといった点で、教科書会社、到達度把握検査で実績のある会社を指名したとのことであった。
この点も、一定の合理性があるといえる。
(3) なお、経済性の確保の点について、検討する。
本委託契約は、過去に例がない委託内容であり、積算のノウハウがなく、補正予算で事業化したことから時間的余裕もない状況であった。そのため、入札業者の1つである教科書会社の見積をもとに予算額を判断したとのことである。また、単価表については、詳細な仕様を定めることができない関係上、使用できないとのことであった。
本来、入札業者の見積額をもとに予算額を決定する方法は、高額の見積を提出される危険があることから、望ましくない。
しかしながら、教科書会社等、入札に適する業者が数社しか存在しないことから、見積業者を入札業者から外すことは難しい。
本件の場合、やむをえないといえよう(なお、結果的に、当該見積業者は落札に至ら
なかった)。
その他の方法で経済性を確保することが要請されるところであるが、プロポーザル後、落札業者と契約内容を詰める際に、見積書の送料が過大であることを指摘して減額している。経済性の確保もはかられたといえる。
3 プロポーザル方式の運用について
(1) 評点の比重について
本契約では、見積金額の評点が10%であった。
ヒアリングしたところ、その理由は、金額も一定の判断要素であって、ある一定割合が必要というものであった。
この点、本委託契約のプロポーザルでは、結果的に、落札業者は金額の評点によって逆転した形にもなっている(見積金額の評点が0%であれば落札していなかった)。
本委託契約の対象業務が、県が極めて重要な課題と位置づけている小・中学校の学力向上に直接関わる業務であることからすれば、見積金額の評点を5%にする選択肢もあったといえるのではないだろうか。
(もっとも、落札業者の提案は、審査委員5名中4名が他の業者より高得点をつけていたのであって、内容において劣っているわけではない。)
(2) 県職員が審査委員をつとめることについて
「プロポーザル方式の実施に関するガイドライン」(平成19年3月20日通知)3(3)には、「審査委員は、xx性、透明性、客観性が求められることから、県庁外の第三者を中心として5名程度で構成します。(改行)職員の備えた専門知識や経験などが審査に欠かせないと判断される場合には、職員を審査委員に加えることもできまずが、その場合は理由を明らかにしてください。」と定められている。
本委託契約では、担当課の事務局から2名(小・中学校の指導主事と高校の指導主事)が審査委員をつとめた。
その理由は回議書に記載されていなかった。
ヒアリングしたところ、県全体の学力状況を把握している指導主事の関わりが必要であることが理由として挙げられた。
(3) 審査結果の情報提供について
各提案者に対して、自社の項目別の点数と他社の合計点数を通知した、それ以外にプロポーザル審査委員会で議論された内容に基づくコメント等は通知していないとのことであった。
4 検討
(1) 本委託契約でプロポーザル方式を採用したことには、一定の合理性があるといえる。とはいえ、プロポーザル方式の実施についてガイドラインを遵守すべきである。具体
的には、県職員が審査委員をつとめる理由を回議書で明確にすべきである。
(2) 審査結果の情報提供について、プロポーザル審査委員会での指摘事項を通知する程度のことはしてもいいのではないか。
(3) 原則として、随意契約でなく競争入札とすることなど、経済性をはかることが必要である。とはいえ、対象業務によっては、「多少、安いもの」より「よりよいもの」を選択することも、一つの見識と言えるのではないだろうか。評点の設定を含む各種の方法を、政策課題の実現のため有効に用いるべきであろう。
とりわけ、教育分野は、県政の最重要課題の1つとして掲げられている。反面、予算規模は小さい。小さい予算の中で経済性を追求していっても、節約できる金額は大きくない。前例や「相場」で評点を設定するのであれば、主体的に設定する方が望ましいと考えられる。
第3節 6号随意契約
1 契約内容・事業内容
本委託契約は、農業技術センターの警備業務委託契約である。
所管課である農業振興部農業技術センターにヒアリングを実施した。
2 随意契約とした理由
(1) 本委託契約は、伺に随意契約とした理由が記載されていなかった。
その理由についてヒアリングしたところ、本来記載すべき事柄であるが記載漏れしたとのことであった。
地方自治法上、競争入札が原則であって随意契約は例外である。いかなる理由で随意契約とするかは重要な点といえる。記載漏れがないようにされたい。
(2) 本契約は6号随契(不利随契)であるとのことであった。ア そこで、その理由をヒアリングした。
その回答は、①入札して業者が変更となる場合に設備の取換が必要となることや、施設が広いため設備の切替時に人的警備で足りない部分が出ることから、「施設管理上の観点から入札に付することが不利」であること、であった。
もう一つ、②入札を行うと、従来の業者が落札しても設備の取換が必要になると考えており、「経費上の観点から入札に付することが不利」であると考えていたこともあったようであるが、平成23年の監査員の事前監査で、使用できる設備は使用できるから「経費上の観点から入札に付することが不利」とはいえないことを指導され、競争入札を検討するように言われたとのことであった。担当課が会計管理課の契約担当に確認したところ、使用できる設備は使用するとのことであった。
イ そこで、①の点をどう評価するかであるが、入札の際に、設備の取換の対応を十分に行うことを求めて、その上で入札するなどの方法で対応できないだろうか。
会計管理局会計管理課にヒアリングしたところ、会計事務処理要領において機械警備を例示しているが、現在は、必ずしも随意契約とはしていないし、相見積をとることにより新規業者の方が格安にできた実績もあるとのことであった(このような意味で、機械警備が例示として挙げられているが、機械警備だから常に6号随契該当性が認められるのではなく、6号随契というためには、単に機械警備だからというのではなく、「競争入札に付することが不利と認められる」理由を明示する必要がある)。
本契約についても、入札により経済性を確保する余地があると思われる。
ウ この点、担当課からは、平成25年の耐震調査後に入札を検討しているとの回答もなされたが、他方で、仕様書を書くのに時間がかかる、契約書添付図面を使用させて
もらえない、入札にする場合、概算で設備設置費用に250万円、撤去費用に50万円、それに人件費が加わると、入札金額が上がるかもしれないなどとの説明がなされた。
将来、入札を導入することについては、「入札による長期継続契約では、平成25年の耐震診断結果によっては、耐震工事で警備設備が無駄になる可能性があり、その後の入札が合理的と考えている。」との回答がなされ(直近に耐震工事を行うとする場合には警備設備が無駄になる可能性があるとの趣旨であって、耐震工事をしない場合には入札を検討している旨の回答もなされた。)、担当課が積極的に検討しているのか否か、明確ではなかった。
エ とはいえ、上記①の点は入札方法の工夫で対応することも考えられるし、会計管理課の挙げる新規業者の実績の点もある。
仕様書や図面の点で入札の実施には時間を要するとのことであるから、平成25年の耐震診断後を目途としているのであれば、入札を導入するか否か、早急に検討されたい。
3 経済性の確保について
ヒアリングしたところ、農業技術センターが建築された平成3年から20年以上続けて、警備業務を同一業者に随意契約しているとのことであった。その間、金額が下がっているとのことであったが、具体的な金額は、公文書規程が定める書類の保存期間5年を経過し書類を破棄していて不明とのことであった。また、近隣施設の警備委託の金額を聞き取るなどして経済性の確保を図っているか質問したところ、近隣の県の施設に聞いたことはあるが、本センターは広いため比較できないとのことであった。広さが違っても、単位面積当たりで金額を比較することもできるだろうし、そもそも面積が異なるため比較できないような聞き取りであれば、調査として十分とはいえない。
経済性の確保のため十分な努力をしているか疑問に感じた。
4 検討
随意契約とする理由が十分とは考えにくい。平成23年の監査員の事前監査でも競争入札を検討するように言われている。
また、経済性の確保のための十分な努力をしているか疑問に感じた。
平成25年の耐震診断後の入札の導入を早急に検討する必要があるように思われる。
1 契約内容・事業内容
本契約は、トレーニング機器購入業務の契約である。
所管課である教育委員会青少年センターにヒアリングを実施した。
2 随意契約とした理由
(1) 本契約は、6号随契にあたるとのことであった。
ア そこで、いかなる理由で6号随契にあたるのか、会計事務処理要領に記載された類型のいずれにあたるのか、ヒアリングした。
回答は、①会計事務処理要領に記載されているのは例示であり、これを参考にして個々具体的に判断することになる(必ずしも例示に該当しなくてもよい)、②A社の機器以外だと保守委託料が発生する点で例示されている機械警備に近い、とのことであった。
イ この点、①例示ではあってもどの類型にどのような点で類似するのかを明示する必要があるし、少なくとも、地方自治法施行令第167条の2第6号の「競争入札に付することが不利と認められる」か否かを明示すべきである。
②について、A社の機器を扱う業者が1社というわけではないのであるから、②の理由で6号随契にあたるとはいえないと思われる。
ウ 2号随契は検討しなかったのかの質問に対し、所管課から、「2号随契は検討していなかった。今2号随契の例示を見れば、その中にも類似のものがあり、本件は契約事務の適正化要綱「シ 特定の物件(たとえば、補助事業による補助の条件により購入を指定された物件、又は特許品のようなものをいう。)を購入するとき。」に近いのではないかとの回答がなされた。
もっとも、シ号は、補助の条件や特許品のような特定性が極めて強い物件を指すのであって、これに該当するといえるか疑問である。
また、地方自治法上、競争入札が原則とされ随意契約は例外であるのだから、その例外にあたるか否か、いかなる理由で例外として許されるかは、ヒアリング時でなく契約締結時までに明確にすべき事柄である。
(2) なお、所管課は、県契約規則第29条第1項で指名競争入札はなるべく5人以上で行うことと定められているが、「出納実務のすべて」という解説本では、このように「なるべく5人以上」としている場合に「入札者が2人なら随意契約に切り替えることが必要であろう」と記載されていること、「アウトソーシング推進関連事業の入札・契約に関する基本方針について(通達)」では「入札者の指名の数が3人以上であれば入札を行うことができる。」とされていることをもって、随意契約にすべきと主張された。
この点、地方自治法上、競争入札が原則とされ随意契約が例外とされていることからすると、県契約規則の規定は、単に、指名競争入札を5人以上で行うことを推奨した規
定に過ぎず、入札者が少ない場合に随意契約とすることを義務付ける規定ではないと思われる。
また、「出納実務のすべて」は昭和49年初版(最終改訂は平成3年第二版)であるところ、平成15年初版の「詳解地方公共団体の契約」という解説本(平成22年第五版)
135頁によれば、一般競争入札において入札者が1人になった場合でも入札は差支えないし、指名競争入札において入札者が1名となった場合には別に適当な競争者を指名するとされており、入札者が2名だから随意契約とするべきという結論はとられていない。
加えて、本件の場合、3社に見積もりを依頼しており、この点でも2名以下ではない。この点で、「出納事務のすべて」を引用することも不適切である。所管課は、3社のうち
1社は遠隔地にあり、念のために見積もりを依頼しただけであり実質2社であるから、指名競争の前提となる「特定多数」と言い難いから指名競争入札より随意契約が良いと回答された。しかし、そこまでして拡大解釈をすべきではない。
このほかにも、所管課は「アウトソーシング推進関連事業の入札・契約に関する基本方針について(通達)」を引き合いに出されたが、本件はアウトソーシングではない。入札を原則とし随意契約を例外とする地方自治法の趣旨に反することになる以上、そこまで拡大適用すべきではない。
したがって、県契約規則から入札者が2名以下だから随意契約にすべきとはいえない。
3 検討
本件の場合、3社から見積もりをとる(回答は2社)ことで、経済性の確保をはかっている。この点で一定の対応を図ったといえるが、合規性の観点から、随意契約としたことは問題があるのではないかと思われる。
加えて、所管課の認識では、見積もりをとったのは実質2社であるとのことであった。
1社は落札を前提としない見積もりであり、経済性の確保に資するものではないことになる。また、このような形式的に見積もりを依頼する行為自体、適切といえるのか疑問がある。
1 契約内容・事業内容
本委託契約は、トレーニング機器修繕業務の委託契約である。所管課である教育委員会青少年センターにヒアリングを実施した。
2 随意契約とした理由
本委託契約は、6号随契にあたるとのことであった。
ア そこで、いかなる理由で6号随契にあたるのか、会計事務処理要領に記載された類型のいずれにあたるのか、ヒアリングした。
回答は、①会計事務処理要領に記載されているのは例示であり、これを参考にして個々具体的に判断することになる(必ずしも例示に該当しなくてもよい)、②A社の代理店以外だとメーカーの直接の指導を受けられない点で例示されている機械警備に近い、とのことであった。
イ この点、①例示ではあってもどの類型にどのような点で類似するのかを明示する必要があるし、少なくとも、地方自治法施行令第167条の2第6号の「競争入札に付することが不利と認められる」か否かを明示すべきである。
②について、A社の機器を扱う業者が1社というわけではないのであるから、②の理由で6号随契にあたるとはいえないと思われる。
ウ 2号随契は検討しなかったのかとの質問に対し、所管課から、「2号随契は検討していなかった。今2号随契の例示を見れば類似のものがあり、本件は契約事務の適正化要綱「サ 購入先の特定業者に車両、船舶等の修繕をさせるとき、又は当該修繕に関連する修繕をするとき。」に近いのではないかとの回答がなされた。
とはいえ、地方自治法上、競争入札が原則とされ随意契約は例外であるのだから、その例外にあたるか否か、いかなる理由で例外として許されるかは、ヒアリング時でなく契約締結時までに明確にすべき事柄である。
3 検討
(1) まず、前述のとおり、何号の随意契約にあたるか、どのような理由で随意契約が許されるのかについては、契約締結時までに明確にする必要がある。
(2) 次に、本件の場合、3社から見積もりをとる(回答は2社)ことで、経済性の確保をはかっている。この点で一定の対応を図ったのだろうが、所管課の認識では、見積もりを依頼したのは実質2社であるとのことであった。1社は落札を前提としない見積もりであり、経済性の確保に資するものではないことになる。
また、このような形式的に見積もりを依頼する行為自体、適切といえるのか疑問がある。
第4節 情報システム関連の契約
所管課である健康政策部医療政策・医師確保課にヒアリングを実施した。
1 契約・事業内容
高知県救急医療・広域災害情報システム再構築委託契約
(ソフトウェアのみの発注であり、サーバ機器やパソコンについては別途発注を行うもの)
事業の目的は、高知県救急医療・広域災害情報システム(こうち医療ネット)について、平成15年に現行システムを導入してすでに6年が経過していたこと、システムを管理している(財)高知県救急医療情報センターが平成22年
4月に移転することを機に、従前の課題を解消してシステムの再構築を行うもの。
2 随意契約とした理由
(1)根拠法令
当初の回議書によれば、公募型プロポーザル方式により委託業者を選定し、地方自治法施行令第167条の2第1項第2号による随意契約としている。
一方、契約締結時の支出負担行為決議書よれば、地方公共団体の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令第10条第1項第1号による随意契約と記載されている。
この点についてヒアリングした結果、地方公共団体の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令(以下「特例政令」)第10条第1項第1号
「他の物品等若しくは特定役務をもって代替させることができない芸術品その他これに類するもの又は特許xxの排他的権利若しくは特殊な技術に係る物品等若しくは特定役務の調達をする場合において、当該調達の相手方が特定されているとき」に該当するものであり、当初の回議書の記載が誤っているとの説明であった。
(2)随意契約とした具体的な理由
また、随意契約の理由(競争入札できない合理的な理由)については、回議書に書面での記載はない。
この点についてヒアリングした結果、特例政令第10条第1項第1号に該当すると判断した理由として、プロポーザルで提案された内容で仕様書を作成するため、特に地図データの組み込み等において他の業者では技術的な困難が伴い、仮に入札とした場合でも、他の業者は現実的に入ってくることが出来ないとの説明であった。
また、アイディアのみプロポーザル方式で募集し、後は入札で委託先を決
定するという方式では、業者にメリットは少なく、幅広くアイディアを募集するという趣旨にそぐわない結果が想定されるとのことであった。
3 検討の視点
(1)特例政令について
近年の国際化、グローバル化の進展の下、内外無差別かつ透明な契約制度が要請され、「政府調達に関する協定」が作成、締結されているところ、これを実施するために、特例政令が定められている。
特例政令第1条では、「この政令は・・・地方自治法施行令の特例を定めるとともに、必要な事項を定めるものとする」と定められており、特例政令は、施行令に優先する規定と考えられる。
特例政令の適用を受ける契約は、予定価格が総務大臣の定める金額以上であることが要件とされているが、この点の具体的金額の定めは以下のとおりである(平成16年1月23日総務省告示。平成20年4月1日から同22年3月31日までの契約に適用される金額)。
「①物品等の調達契約 3500万円
②特定役務のうち建設工事の調達契約 26億3000万円
③特定役務のうち建築のためのサービス、エンジニアリング・サービスその他の技術的サービスの調達契約 2億6000万円
④特定役務のうち右記以外の調達契約 3500万円」
本件は、特例政令第10条第1項第1号に該当するとされていることから、同号について検討すると、「他の物品等若しくは特定役務をもって代替させることができない芸術品その他これに類するもの又は特許xxの排他的権利若しくは特殊な技術に係る物品等若しくは特定役務の調達をする場合において、当該調達の相手方が特定されているとき」という規定方法からも明らかなとおり、これらの理由によって、事業遂行可能な業者が特定される必要がある。
この点、随意契約一般としてみれば(つまり特例政令でなく地方自治法の適用を受ける契約については)、プロポーザル審査を経ることによって、随意契約の要件である代替性を判断することについては、特段の問題点は存しないと考えられる。しかし、特例政令の適用を受ける契約である場合には、
「芸術品」、「特許xxの排他的権利」、「特殊な技術」に関連するような限定された業務でなくてはならない。
本件の場合、プロポーザル審査の結果、特定された地図データの組み込み等の点で技術的困難があるとのことであるから、「特殊な技術」に関連するものといえるように思われる(なお、単にプロポーザルであることだけで特例政令第10条第1項第1号に該当するわけではない。県の契約調べのコード表では、同項第6号がプロポーザルの場合と整理されている。但し、第6号は「総務大臣の定める要件を満たす審査手続」であることが必要である。)。
(2)プロポーザル方式とした理由
企画提案の中身を吟味して委託先を選ぼうとしてプロポーザル方式を採用したものと思われるが、他方で、競争入札が原則で随意契約は例外であること、競争入札においても総合評価方式を用いれば企画提案の中身の検討も可能と思われることから、総合評価方式を用いた競争入札ではなく、プロポーザル方式を用いた随意契約とした理由を検討する必要がある。
4 プロポーザル方式の運用について
(1)プロポーザル方式の目的
当初の回議書添付の資料によれば、主な提案の前提条件
・現行機能については、利便性の向上を図り、引き続き提供する
(地図情報の表示、携帯電話でのHP閲覧、英語対応画面、EMISとの連動等)
・救急医療情報システムと医療機能情報システムとを統合し、病院情報の一元化を図る
・携帯電話での応需モニターを可能とする
・ヘルプデスクの設置
・操作マニュアルの作成
・説明会の実施(応需機関、消防を対象)
・新システムの運用開始は平成22年4月1日
・運用後1年間については、保守機関を開発業者へ随意契約で委託
(2年目以降は競争とする)主な提案を求める事項
・一般県民が簡単容易に、欲しい情報にたどり着く工夫
・応需入力率が向上するような仕組み
・表示項目の変更等に、低コストで対応できる仕組み
・ランニングコストの低減である旨が、記載されている。
(2) 評点の比重について
評点について、スケジュールと費用見積に27%の配点がなされている。 ヒアリングによれば、情報政策課が作成した調達ガイドブックで示されてい
る提案評価のサンプルに従って項目を作成したことと、本契約以前の契約内容からのコストカットを目的の一つと考えていたことから、一定の比重を金額面に置いたという説明であった。
総合評価方式を採用しなかった理由について確認したところ、同方式にすれば、入札時の金額で確定することになるが、プロポーザル方式の場合は、当初のアイディアから不要な部分をカットしていく等、協議して内容を修正することが可能であり、そのような調整が想定された本件では、総合評価方式を採用
しなかったとの説明であった。また、実際に、当初の提案内容からカットされた点もあるということであった。
(3) 県職員が審査委員をつとめることについて
「プロポーザル方式の実施に関するガイドライン」(平成19年3月20日通知)3(3)には、「審査委員は、xx性、透明性、客観性が求められることから、県庁外の第三者を中心として5名程度で構成します。(改行)職員の備えた専門知識や経験などが審査に欠かせないと判断される場合には、職員を審査委員に加えることもできますが、その場合は理由を明らかにしてください。」と定められている。
本委託契約では、県の健康政策部副部長がプロポーザル審査委員会の審査委員長を務め、同部医療薬務課長、文化生活部情報政策課長も審査委員を務めている。
それらの理由が回議書に記載されていなかったことから、ヒアリングを行った。
それによると、健康政策部の2名については、本件システム再構築後、県側でも実際の操作入力を行う必要であるため、との説明であった。また、情報政策課長については、専門的知識という観点から、フォローする目的であるとの説明であった(現実には、プロポーザル審査委員会には専門企画員が代理出席した)。
(4)審査結果の情報提供について
審査結果については、自社の項目ごとの点数や配点は通知しているが、それ以外に、プロポーザル審査委員会で論議された内容に基づくコメント等は通知していないとのことであった。
5 契約内容について
(1)著作権・他の業者の参入可能性について
情報システムという性質上、契約期間後となる平成22年以降について、著作権に関する権利関係がどのようになるのか確認したところ、契約書(県の標準様式)第18条第2項で、「乙は、この契約で作成する成果物に係る権利(著作xx第21条から第28条に定めるすべての権利を含む)及び成果物の所有権を、当該成果物引渡し時に甲に無償で譲渡するものとする」と定めているが、本件は、委託先業者が従前から有していたシステムが入っているため、2年目以降も同じ業者との随意契約になっているとのことであった。
なお、プロポーザルの資料中、2年目以降の保守契約に関する費用見積が出されているが、2年目以降の合意に関する拘束力は有しないという説明であった。
(2)価格の合理性について
ヒアリングによれば、一般の販売価格と同程度であり、高知県が最初の契約となったこともあって、真摯な対応がなされているとのことである。
また、本システムの運用にあたっては、いずれにしても地図データのサービスを使用する必要があるところ、委託先業者のサービスを使用する以上、保守管理を他の業者に依頼すると、結局人件費等が加わって高額になる可能性が高い。すなわち、2年目以降も同じ業者との随意契約になるという点についても、経済的合理性は担保されていると考えられる。
6 検討
(1)本委託契約でプロポーザル方式を採用したことには、一定の合理性があるといえる。
とはいえ、プロポーザル方式の実施についてガイドラインを遵守すべきである。具体的には、県職員が審査委員をつとめる理由を回議書で明確にすべきである。ガイドラインを効果的なものとするためには、きちんと遵守し、適宜見直しをしていくことが必要である。無視する運用が定着すると、ガイドラインが効果的でなくなるばかりか、他の法令等も形骸化しかねない。
審査結果の情報提供について、プロポーザル審査委員会での指摘事項を通知する程度のことはしてもいいのではないか。参加者の主体性を奪うことは避けるべきであるが、審査委員会で指摘された点を通知する程度なら、そのようなおそれはないといえる。
参加者の提案力を底上げして、ひいては県が得る提案をよりよいものとするためにも、一定の情報提供の手間を惜しむべきではないと考える。
(2)特例政令について、上記3検討の視点(1)で述べた観点からすれば、要件該当性の判断プロセスを書面化することが望まれる。
単にプロポーザル審査を経たから要件を満たすとするのではなく、厳格な審査が必要であり、その判断理由を書面化する必要があると考えられる。
(3)2年目以降の運用保守の費用の見積額をプロポーザルの項目としたことは、運用保守費用の高額化に対抗する工夫として、一定の評価ができる。実際、業者は真摯な対応をされているようであるが、随意契約となることから、経済性の確保については不断の注意、対応が必要であろう。
1 契約・事業内容
公共交通乗換検索システム開発委託契約
所管課である産業振興推進部運輸政策課にヒアリングを実施した。
平成21年時点において、高知県では、国土交通省土佐国道工事事務所が運営する「スマートモビリティ高知」が公共交通機関の乗換検索システムとして広く県民に利用されていた。具体的には、月平均で18万PVのアクセス数があった。しかし、同スマートモビリティ高知は、平成14年度のよさこい高知国体開催時において、社会実験として実施されたものであり、平成21年度中には、運営の終了が決定していた。
そこで、スマートモビリティ高知に代わり、県内の二次交通や、複雑な高知市内の交通機関を分かりやすく、地図情報とともに表示できる公共交通乗換検索システムを提供し、平成22年のxxドラマ「龍馬伝」に向け、来県される観光客らに観光地までのスムーズな交通案内を行うとともに、県内の公共交通機関利用者の利便性も向上させる目的で事業を実施したものである。
最終的に、契約期間は平成21年10月7日~平成22年3月31日とされた。
2 随意契約とした理由
公募型プロポーザル方式により委託業者を選定し、地方自治法施行令第16
7条の2第1項第2号による随意契約としている。
(1)平成21年8月19日付で起案されている回議書に記載された、「公募型プロポーザル方式とする理由」は次のとおりである。
「当該委託業務は、インターネット上で、県内の二次交通や、特に複雑な高知市内の交通機関を分かりやすく、地図情報とともに表示できる公共交通乗換検索システムを構築・運営するものであり、その開発に当たっては、利用者の利便性を高めることや、民間等の事業者の技術力が不可欠であるため、企画力の競い合いを促進し、参入意欲を高め、ノウハウや経験など、技術力を発揮できる公募型プロポーザル方式を採用する」
この点については、企画提案の中身を吟味して委託先を選ぼうとしてプロポーザル方式を採用したものと思われるが、他方で、競争入札が原則で随意契約は例外であること、競争入札においても総合評価方式を用いれば企画提案の中身の検討も可能と思われることから、総合評価方式を用いた競争入札ではなく、プロポーザル方式を用いた随意契約とした理由を検討する必要があるように思われた。
(2)そこで、この点をヒアリングで確認したところ、情報政策課作成の「情報システム調達事務の手引き」においても、「総合評価方式は入札のための詳細な仕様書を作成する必要があるため、現在、情報システムの調達に関しては、高知県において実例がなく、代替する方式として公募型プロポーザル方式による
随意契約が採用されている」との記載がされていることから、総合評価方式(競争入札)を採用せず、プロポーザル方式(随意契約)としたとの回答があった。
3 プロポーザル方式の運用について
(1) 評点の比重について
評点は、企画の良し悪しに重点がおかれている。金額面には10%の配点がなされているのみである。
ヒアリングによれば、情報システム関連のプロポーザルでは、10%ないし
20%の配点がなされるのが通常とのことであり、上記2のプロポーザル方式を選択した理由と適合している。
(2) 県職員が審査委員をつとめることについて
「プロポーザル方式の実施に関するガイドライン」(平成19年3月20日通知)3(3)には、「審査委員は、xx性、透明性、客観性が求められることから、県庁外の第三者を中心として5名程度で構成します。(改行)職員の備えた専門知識や経験などが審査に欠かせないと判断される場合には、職員を審査委員に加えることもできますが、その場合は理由を明らかにしてください。」と定められている。
本委託契約では、担当課の課長がプロポーザル審査委員会の審査委員長を務め、オブザーバーとして情報政策課の専門企画員が加わっている。
それらの理由は、回議書に「提案に対する審査を適正かつxxに行うため」と記載されているものの、この程度の記載で許されるのであれば誰でもこれで済むことになるし、詳細が不明であることから、ヒアリングを行った。
それによると、審査委員については、公共交通面、観光面での政策的な視点からの判断が必要とされるためであるとの説明であった。また、オブザーバーについては、情報システム開発の専門的知識という観点から、フォローする目的であるとの説明であった。
(3)評価基準に次年度以降の運用費用が含まれている点
審査項目評価基準によれば、上記10%のうち半分にあたる5%について、
「平成22年~26年度(5年間)のシステム運用保守にかかる費用の見積額が、安価であるか」という項目がもうけられている。
費用を限定するための工夫として評価できる試みである。
ア とはいえ、確認したところ、プロポーザルで提案のあった各業者の場合はどの程度の費用となるのかという目安を知るために入れた項目であり、委託業者との間で、拘束力のある合意内容となるわけではないとの説明であった。
平成22年度の運用保守経費については、プロポーザルの説明では120万円台後半との提示であったのに対し、130万円台と、5~6万円アップした。これは、想定していなかったダイヤ改正に伴う入力のフォローを要したためであるとの説明であった。これらについても、情報政策課で経費積算書を作成し、施行前にも同課に伺いを立てている。また、見積金額が、xx
xに反する程度に事前の説明に比して上がったような場合には、法務課等とも協議して対応することも考えられるということである。
イ ちなみに、平成22年度以降も委託契約となっており、平成22年度は同じ業者の単独見積の随意契約、平成23年度は運営協議会(*註)の単独見積の随意契約であった。平成24年度以降は、一般競争に準じて複数からの入札とするなど、競争性を確保して進めていく予定であるとの説明がなされた。
平成22年度について、同じ業者の単独見積の随意契約とした理由は、契約書において、開発委託業務に関して1年間の瑕疵担保期間が定められており、平成21年度途中からの契約であって瑕疵担保期間が平成22年度中にかかるため、運用障害に伴う対応のためには同じ業者との契約が望ましいと判断したとのことであった。また、平成23年度について単独見積の随意契約とした理由は、平成22年度にシステム修正を行っており、システム修正に関して1年間の瑕疵担保期間が定められており、上記と同様、運用障害に伴う対応のため随意契約としたとのことであった。
とはいえ、システム障害に伴う瑕疵担保条項のメリットも程度問題であろう。後記4(1)のとおり著作権が全て県に譲渡される契約となっている理由の1つは、2年目以降の運用保守について入札を可能とする点にあると思われる。今回の監査ではシステム修正の内容まで踏み込めないが、もし軽微な修正であれば、2年目以降を入札等により競争性を確保するという情報政策課を中心とする県の方向性を潜脱することになる。瑕疵担保条項があるから単独見積の随意契約と即断せず、システム修正の程度と他社による対応の可能性等を検討し、競争性確保の方法を検討すべきである。
*運営協議会
高知県、四国旅客鉄道株式会社、土佐電気鉄道株式会社、土佐くろしお鉄道株式会社、社団法人高知県バス協会等が参加している任意団体。システムの運営費を現在は県が半額、事業者側が半額をそれぞれ負担している。著作権ないし所有権は県が有しており、事務局も県にある。県に準じた会計準則を作成して運営されている。
(4)審査結果の情報提供について
審査結果については、自社の項目ごとの点数と全業者の合計点数一覧表を通知しているが、それ以外に、プロポーザル審査委員会で論議された内容に基づくコメント等は通知していないとのことであった。
4 契約内容について
(1)著作権について
情報システムという性質上、契約期間後となる平成22年以降について、著
作権に関する権利関係がどのようになるのか確認したところ、契約書(県の標準様式)第18条第2項で、「乙は、この契約で作成する成果物に係る権利(著作xx第21条から第28条に定めるすべての権利を含む)及び成果物の所有権を、当該成果物引渡し時に甲に無償で譲渡するものとする」と定めていること、本件では従来からのシステム等が入っていないことから、特段不都合は生じないと考えられる。
(2)委託料の積算根拠について
業者の見積書を参考にして、県の情報政策課で積算を行い、その後、財政課に積算書を付して予算査定、という手順を踏んでいるとのことである。
5 事業の成果について
従来のスマートモビリティ高知の利用者が移行したこともあってか、月15万アクセスあり、本県よりも人口が多く同種のシステムを運用している他県と比しても比較的多いとのことである。このように、アクセス数のモニターや県庁内の主なユーザーからの聴取等を行うことにより、事業の成果を判断しているとの説明であった。
また、高知県情報化推進会議から、「観光客や県内の公共交通利用者などが利用するシステムであり、年間経費も比較的安価で費用対効果が高いシステムである。(総合評価B:概ね適切)」という評価を受けているとの説明もなされた。
6 検討
本委託契約でプロポーザル方式を採用したことには、一定の合理性があるといえる。
特に、5年間の運用保守の費用の見積額をプロポーザルの項目としたことは、契約締結後の運用保守費用の高額化に対抗する工夫として、一定の評価ができる。
(1)とはいえ、プロポーザル方式の実施についてガイドラインを遵守すべきである。具体的には、県職員が審査委員をつとめる理由を回議書で明確にすべきである。ガイドラインを効果的なものとするためには、きちんと遵守し、適宜見直しをしていくことが必要である。無視する運用が定着すると、ガイドラインが効果的でなくなるばかりか、他の法令等も形骸化しかねない。
(2)審査結果の情報提供について、プロポーザル審査委員会での指摘事項を通知する程度のことはしてもいいのではないか。参加者の主体性を奪うことは避けるべきであるが、審査委員会で指摘された点を通知する程度なら、そのようなおそれはないといえる。
参加者の提案力を底上げして、ひいては県が得る提案をよりよいものとするためにも、一定の情報提供の手間を惜しむべきではないと考える。
(3)2年目以降の運用保守委託契約については、担当課が回答したとおり、当該委託業者に委託することが適切だといえる事情が一定程度、存在する。そこで、
2号随契とすることにも一定の合理性があると思われる。
とはいえ、契約事務の適正化要綱において2号随契の類型を定めている以上は、その何号に該当するかを明確にする必要があろう。なお、この点は、所管課単体の問題ではなく県庁全体の統一的な会計事務処理方法にかかる点であると思われる(総論第3章1を参照)。
また、運営協議会との契約が今後も継続される可能性が高いと思われるが、その運用については、特に適正さ、xxさが求められることになろう。
1 契約内容・事業内容
本委託契約は、救急医療・広域災害情報システムの運営の委託契約である。所管課である健康政策部医療政策・医師確保課にヒアリングを実施した。
2 随意契約とした理由
(1) 本委託契約は、回議書によると、「他に適切な業者がない」場合であって、いわゆる
2号随契である。
(2) 2号随契は、契約事務の適正化要綱の第3の1(2)に規定があり、いくつかの類型が定められている。回議書には、そのうち何号にあたるかの記載がない。そこで、何号にあたるかヒアリングをしたところ、セ号にあたるとの回答であった。
セ号は、「特定の事務(訴訟、調停、登記、鑑定、評価、学術調査研究、設計、医療、診療、仲介あっせん等の事務をいう。)を委託するとき。」と定められている。
その趣旨は、括弧内の業務のように、専門的な業務であって競争入札に付することが適切でない業務について随意契約を許したものと考えられる。
そうすると、本件委託契約がセ号にあたるとみることは難しいと考えられる。
(3) 本件を随意契約とした実質的な理由は、どこにあるのだろうか。
ア 担当課からは、当該財団はまさに救急医療・広域災害情報システムをおこなわせるために県と市町村と医師会が出資した団体であるとの回答がなされた。
しかし、「契約の性質又は目的が競争入札に適しないもの」に限り随意契約が許されるところ、このような団体であることと契約の性質または目的が「競争入札に適しないもの(契約)」であることとは必ずしも一致しない。このような団体を設立したからといって随意契約が継続できるのであれば、結局のところ効率性の悪い形態が存続することにもなりかねない。「契約の性質又は目的が競争入札に適しない」か否かを具体的に検討すべきである。
イ このほかにも、担当課から次の2点の指摘がなされた。
1つは、救急医療・広域災害情報システム自体が現在、うまく機能している点である。
上記のような県職員が責任の所在を明確にする必要性をみたしつつ、競争性を付加するためには、例えば、県職員をトップにして、運営先を入札により委託する形が考えられるかもしれない。しかし、このような形を導入することによって救急医療・広域災害情報システム自体の機能が低下したら本末転倒である。競争入札を導入することで、委託先が変わることが多くなった場合、救急医療・広域災害情報システム自体の機能が毎回維持されるか明確でない。また、指定管理者を導入した分野において、導入時の引継には相当の時間がかかっている。委託先が変更するたびに引継の時間・費用を要することを考えると必ずしも経済的ではないとのことであった。
もう1つは、委託料に対して国の補助金を利用している点である。財団の運営費と財団に対する委託料を分離した場合には、県が財団の運営費に補助金を出すことが必要になると思われるが、その場合に国の補助金が出るか疑問があるとのことであった。加えて、運営費を支出する場合には、これが競争入札導入による委託料の減額分を下回らないと全体としての経費節減にならない。また、適正な運営費の金額を算定することも、容易でない。
3 委託料の内訳について
委託先の財団の収入は、本契約の委託料がほぼ全額を占めている。裏返していえば、委託料の名目で財団の運営費の支出がなされている。具体的には、1名の役員と1名の従業員の人件費等である。
同財団が県とは別の法人であることからすれば、本来は補助金として支出すべきものを委託料として支出しているとみることもできる。
とはいえ、前述の国庫補助の点がある。であれば、一定やむを得ないのではないだろうか。
4 検討
本委託契約については、担当課が回答したとおり、当該財団に委託することが適切だといえる事情が一定程度、存在する。そこで、2号随契とすることにも一定の合理性があると思われる。
(1) とはいえ、契約事務の適正化要綱において2号随契の類型を定めている以上は、その何号に該当するかを明確にする必要があろう。要綱に過ぎないからといって、これを明確にしない場合は、要綱全般に対する規範意識が緩むおそれがある。
ヒアリングの際に担当者が認めていたとおり、要綱が使いにくい面がある。
売買については、シ号で「特定の物件(たとえば、補助事業による補助の条件により購入を指定された物件、又は特許品のようなものをいう。)を購入するとき。」の場合を掲げているが、主に役務の提供を目的とする委託について「対象者しか供給できない業務」の場合が掲げられていない。売買と委託とで区別する実益があるか否か、検討する余地があるのではないだろうか。
いうまでもなく、要綱に「対象者しか供給できない業務」の場合を掲げたときに、「対象者しか供給できない業務」の要件の該当性を安易に認める運用をしたならば、地方自治法が随意契約を例外と定めた趣旨に反することになる。その意味で同要件の該当性を厳しくチェックする必要はあるが、同要件を定めること自体は可能ではないだろうか。少なくとも、現行のセ号にあたると安易に認める運用をするよりは、随意契約の必要性が明確になるものと思われる。
(2) また、経済性の確保がはかられる必要がある。
人件費等の費用を、安易に前年度と同額とすることは妥当でない。
委託先の財団は役員1名、事務員1名の体制であることから、雇用の硬直性が存する。これを放置するのではなく、勤務状況や繁忙度を把握する必要があるし、常勤で2名を要する状態でなければ県職員が兼任することも検討すべきではないだろうか。
1 契約内容・事業内容
本委託契約は、インターネット動画配信システム構築・保守業務の委託契約である。所管課である総務部広報広聴課にヒアリングを実施した。
2 随意契約とした理由
本委託契約は、公募型プロポーザル方式を用いた2号随意契約となっている。
(1) 競争入札が原則で随意契約は例外であること、競争入札においても総合評価方式を用いれば企画提案の中身の検討も可能と思われることから、総合評価方式を用いた競争入札ではなく、プロポーザル方式を用いた随意契約とした理由を検討する必要がある。 ア ヒアリングの回答は、①情報システムの場合、総合評価方式のため仕様の確定がで
きないこと、②情報政策課が情報システムについて総合評価方式の扱いをしていないこと、③公共土木工事の総合評価方式では提案、会社、費用の3つを評価するが、土木と異なり社会貢献、女性雇用、障害者雇用等、会社を評価する点数付けが難しいこと、④提案を評価する点はプロポーザル方式でも可能であること等であった。
イ この点、①については、確かに、「インターネット動画配信システム構築・保守委託業務提案依頼書」の「3.本調達の要件」において、業務要件、システム要件等を定め、「特に提案を求めるポイント」等も定めており、このように一定の仕様を定めることは可能であるが、それ以上に細かな仕様を作ることは難しいと思われる。
作成してもらう動画配信システムの質の高さをはかるためには、細かな仕様を作成することよりも、提案書を作成させ、その質を競わせる方が簡便である。
この場合、作成された提案書の質の評価を正確にすること、経済性をはかること、等が必要になるけれども、これらを実現できれば、プロポーザル方式を用いた随意契約とすることに一定の合理性がある。質の評価については後記3(2)で、経済性の確保については後記2(3)で、検討する。
(2) また、公募型プロポーザル方式を採用した点は、よりxxな提案を受け入れることにより質の高い提案を得られる可能性が増すこと、及び透明性の確保の観点で、評価できる。
(3) 経済性の確保の点について、検討する。
ア まず、プロポーザルにおける金額の評点を20%としている。
イ 次に、2年目以降の保守業務を競争入札とすることとした。これは、プロポーザルの評点が1年目の金額であるため、2年目以降が同一業者の随意契約とした場合には入札業者が低価で入札をして落札後の2年目以降に高額の請求をするおそれがあるところ、これを防止することができる。その結果、年度をまたいで経済性を確保することができる。
ヒアリングの結果によると、情報政策課の通知によったとのことであった。
なお、現実には、2年目の平成22年度は同一業者と随意契約をしたとのことであるが、これは瑕疵担保条項が2年目の半年ほどの間、有効であったことによる。3年目の平成23年度は、一般競争入札をおこなったとのことであった(なお、1年目の入札時に業者が示した2年目以降の分の見積額は、業者に対する拘束力はない。協議の中で仕様が変わることもあるためとのことであった)。
また、2年目以降の保守業務を競争入札とするためには、システム構築業務において、システムをオープンにする必要がある。本委託契約は、この点にも配慮している。
3 プロポーザル方式の運用について
(1) 評点の比重について
金額の評点を20%としている。これは経済性の確保をはかるものといえる。
(2) 県職員が審査委員をつとめることについて
「プロポーザル方式の実施に関するガイドライン」(平成19年3月20日通知)3(3)項には、「審査委員は、xx性、透明性、客観性が求められることから、県庁外の第三者を中心として5名程度で構成します。(改行)職員の備えた専門知識や経験などが審査に欠かせないと判断される場合には、職員を審査委員に加えることもできまずが、その場合は理由を明らかにしてください。」と定められている。
本委託契約では、審査委員4名のうち、県庁職員は3名(総務部副部長、担当課課長、情報政策課専門企画員)であった。
職員を審査委員に加えた理由は、回議書に記載されていなかった。
ヒアリングしたところ、総務部副部長はコンテンツとなる県の施策のバランスについて知識があること、担当課課長はデザインについて知識があること、情報政策課専門企画員は情報システムの専門的知識を有することが、理由として挙げられた。
プロポーザルの提案内容の質を適切に評価するためには、情報システムの専門的知識が必要であるし、コンテンツについても同様である。デザイン面については、必ずしも担当課の職員である必要はないように思われる。しかし、導入後の運用管理の当事者であることからすれば、一定の合理性はあるといえよう。
(3) 審査結果の情報提供について
各提案者に対して自社と他社の大項目(3つ)別の合計点数を通知したが、それ以外にプロポーザル審査委員会で議論された内容に基づくコメント等は通知していない。
4 検討
本委託契約でプロポーザル方式を採用したことには、一定の合理性があるといえる。とはいえ、プロポーザル方式の実施についてガイドラインを遵守すべきである。具体
的には、県職員が審査委員をつとめる理由を回議書で明確にすべきである。
そのほか、審査結果の情報提供について、プロポーザル審査委員会での指摘事項を通知する程度のことはしてもいいのではないか。
第5節 指名競争入札による契約
1 契約内容・事業内容
xxxの口養護学校校舎寄宿舎清掃及び電気設備等保守管理業務委託契約所管課である教育委員会xxxの口養護学校にヒアリングを実施した。
なお、当初、指名競争入札が行われ、後に不落随契に移行した。当初の入札が行われたことから、「入札による契約」に位置付けた。
2 随意契約とした理由
支出負担行為決議書には、「地方自治法施行令第167条の2第1項第6号」と記載されており、これはいわゆる競争不利随契である。しかし、xxxxxによると、単純な記載ミスであり、正しくは「第8号」のいわゆる不落随契との説明であった。契約保証金が、高知県契約規則第40条「第6号」により免除とされることから、同号と混同したと考えられるとのことであった。
なお、不落随契は、同委託契約に関しては、監査対象年度だけであった。
3 不落随契に至る経緯
①平成21年3月27日 指名競争入札
予定価格449万4000円(入札書比較価格=消費税除くと428万円)
3回入札行われるが、同額を下回る業者なし。最低価格の入札者の第3回入札金額は、428万8000円。
②平成21年3月27日付、最低価格の入札者による見積書総計金額449万1900円(同427万8000円)
③平成21年3月31日 契約締結(②の金額)
④平成21年4月1日 支出負担行為決議書
支出負担行為額 449万1900円(同427万8000円)
4 指名競争入札とした理由
一般競争入札ではなく、指名競争入札とした点、指名競争入札の指名先の選定理由についてヒアリングしたところ、以下のような回答であった。
「電気設備に関する専門的技術、県立学校であることによる物品と個人情報の保護、児童生徒の安全の確保等の観点から、信頼性のある業者の必要があると判断し、不特定業者を対象とする一般競争入札は適さないと判断した。電気技術という点に限って言えば、不特定業者を対象とすることも可能と思われるが、安心・安全という信頼性について資格要件を設定することは困難である。選定理由は、従前のホテルや病院等における取引・実績を踏まえて、資格要件を満たす業者を選定した。」
5 不落随契の交渉経緯について
ヒアリングによると、予定価格を入札者に対して事前開示あるいは一般的公表の扱いをしたわけではない。最低額提示業者との随意契約の交渉において、同業者に見積書を提出させたところ、予定価格以下の見積書が提出されたことから、1度でスムーズに金額が決定されたという説明であった。なお、見積に際して、入札時と比して特段の条件の変更はなされていない。
6 検討
上記指名競争入札とした理由、その後の随意契約に至った経緯からすれば、指名競争入札を選択したこと、及び地方自治法施行令第167条の2第1項第
8号の不落随契としたことについて、一定の合理性が認められる。
なお、適用条文の記載について記載ミスが生じないように注意されたい。
1 契約内容・事業内容
本委託契約は、信号の保守管理業務の委託契約である。
所管課である県警本部装備施設課にヒアリングを実施した。
2 指名競争入札とした理由
本委託契約は、指名競争入札がなされている。
競争入札の中でも一般競争入札が原則であることから、指名競争入札とした理由を検討する必要がある。
その理由についてヒアリングしたところ、地方自治法施行令第167条第1号「工事又は製造の請負、物件の売買その他の契約でその性質又は目的が一般競争入札に適しないものをするとき」にあたること、具体的には、信号機という高度にシステム化された公共の構造物の保守点検の委託であり、その執行には特殊な技術を要することから、契約の相手方を特定する必要があり、不特定多数の業者が参加できる一般競争入札には適さない契約である、との回答がなされた。
この点、特殊な技術の内容が明確ではないが、当該技術を要することを入札参加の資格要件として一般競争入札にすることは可能であると思われる。
ヒアリングにおいても、「常により一層の透明性の確保について検討すべきであるという意味で、透明性の確保が今後の重要な検討課題である」との回答がなされた。
3 指名競争入札の運用について
(1) 予定価格の積算について
①主に県土木部の資料(非公表)に基づいている、②記載のないものは、例えば電球であれば、入札者でなく電球業者から見積をとっている、とのことであった。
(2) 次に、本委託契約の競争入札の結果を検討すると、予定価格が2747万2400円であるのに対して、入札した8業者の入札額が2650万円~2700万円と、いずれも予定価格直下の金額であった。
そこで、その理由をヒアリングした。
その結果、本委託契約では、①予定価格の事前通知をした、②この取扱は、平成20年7月9日付け「高知県公共工事等契約指針」(副知事通達・20xx管第291号)第
3項、平成19年3月23日付け「建設工事及び委託業務における入札・契約制度の基本方針」(副知事通達・18xx管第872号)第2の4に基づくものである、③同指針の適用範囲について、同日付「高知県公共工事等契約指針の取扱について」(土木部長通知・20xx管第292号)2(2)項が「土木構造物及び建築物の維持管理、保守又は点検業務の委託」と定めており、信号機は「土木構造物」にあたる、との回答であった。この点、信号機が「土木構造物」にあたるのか、語感からすると若干、疑問を感じな
いでもない。上記通知2(2)項でも、本文では「土木構造物、建築物の~」と、土木構造物は建築物と並列にされている。
他方で、同指針は、平成10年以降の県の入札・契約制度の改善等の取り組みの中で、低入札対策の観点から、平成17年4月、競争入札を行う建設工事及び委託業務について、予定価格の事前公表をすることとしたものである(その後も試行錯誤が続けられ、事後公表にする等の変更がなされてはいる)。したがって、信号機のみ別個に扱う必要はなく、事前公表の対象とすることに合理性がある。とはいえ、疑義を招かないように、明示することが望ましい。
4 検討
本委託契約については、平成19年度から23年度までの5年間、同一の業者が落札している。指名業者もほぼ同一であり、入札順位もほぼ同一である。
担当課からは、「常により一層の透明性の確保について検討すべきであるという意味で、透明性の確保が今後の重要な検討課題である。」との回答がなされた。
どのような形で透明性を確保するのか、注視する必要がある。
1 契約内容・事業内容
本委託契約は、県立学校校内LAN再構築設定業務の委託契約である。所管課である教育委員会高等学校課にヒアリングを実施した。
2 指名競争入札とした理由
本委託契約は、指名競争入札がなされている。
(1) 競争入札の中でも一般競争入札が原則であることから、指名競争入札とした理由を検討する必要がある。
ア 施行伺によると、①今回の校内LAN整備は本格的なものであり、機器設定にも専門性を要し、②短期間での設定であり、業務実施の手法や体制が重要となることから、一般競争入札に適さないとされる。入札者指名伺によると、③設定に当たってはネットワークシステム開発の技術を要するため、公的機関での一定のシステム開発の実績があること、④仕様内容など細かい打合せを多く必要とするため、通信・交通費用面から「本店・支店・営業所・出張所」の所在が県内であること、を要するとされる。ヒアリングの結果、これらの点から、⑤既存のネットワークへの関わりがある業者 を指名する必要がある、⑥既存のネットワークは県内の地域ブロックごとに構築され
ており、関わりのある業者は数社に上る、と回答がなされた。
イ 検討すると、このうち③について技術を要することから公的機関での実績があることを要するというのは必ずしも必然的な関係ではないし、④について打合せに要する通信・交通費は入札者において判断すべき事柄ともいえる。
しかし、今回、指名した業者は5社であったが、入札に応じたのは1社だけであった。②の短期間の設定であることが業者にとって大きな負担だったと思われ、一般競争入札に付しても、入札する業者は結果的には同一だった可能性が高い。その意味ではやむを得なかったのかもしれないが、本来は、十分な納期をもって一般競争入札に付するのを原則とすべきであろう。
(2) なお、本件では、県立学校校内LAN再構築について、①基本設計、②機器購入、③設定の3段階に分けて、別個の契約として、①はプロポーザル方式、②は一般競争入札、
③は指名競争入札を採用した。
3段階に分割したことは情報政策課の助言によるものであり、経済性と透明性を確保するための方策である。
この点は評価できる。
とはいえ、問題がないわけではない。結果的に、①乃至③の落札業者は同一であった。とりわけ、③については、①で再構築業務の見積額が同業者によって提示されており、当該業者が指名先に含まれていることは、不透明感につながりかねない。とはいえ、①
基本設計、②機器購入、③設定の3段階に分けることによる必然の結果でもあり、いずれを重視するかということになる。本件の場合、実際には、仕様と見積額は担当課と情報政策課によって見直すこととされており、当該業者も見直しが行われることを認識していたようであることから、不透明感の問題は小さかったともいえるが、より一層の工夫が求められる(論理的に必然ではないが、一般競争入札によることも一つの方策といえるかもしれない)。
3 再委託について
本再構築業務においては、落札業者から別の業者に対して、再委託がなされた。ヒアリングの結果、機器の配線・設置を再委託したことが判明した。
再委託に際して、県は、再委託契約書を徴求・確認をしていない。
この点、再委託先に対して守秘義務を負わせる点、問題発生時の責任の所在を明確にする点から、再委託契約書を県が徴求することが必要である。
そもそも本業務は、県立学校のLANシステムについて県の認証を得られるように、セキュリティレベルを上げるための再構築業務である。再構築を行う際に情報漏えいが生じたら本末転倒である。問題発生時の対応というよりも、問題発生の予防のために、委託契約の段階で明確に定める必要がある。
したがって、委託契約書において、①委託先は再委託先に守秘義務を負わせる義務を負うこと、②委託先は県に対して、再委託先の守秘義務を明確に定めた再委託契約書を提出すること、の2点を委託契約書で明確に定める必要がある。
4 検討
(1) 本委託契約は、短期間での履行が必要だったこともあって、指名競争入札としたことは、事実上、やむを得なかったのかもしれない。しかし、本来は、十分な納期をもって一般競争入札に付するのを原則とすべきであろう。
(2) ①基本設計、②機器購入、③設定の3段階に分けて契約した点は、経済性を透明性を確保する工夫として評価できる。試行錯誤の段階と思われるが、よりよい契約を目指して引き続き工夫をされたい。
(3) 再委託を許す場合には、再委託先も守秘義務を守るように、委託契約の段階で可能な限り手を打つべきである。具体的には、①委託先は再委託先に守秘義務を負わせる義務を負うこと、②委託先は県に対して、再委託先の守秘義務を明確に定めた再委託契約書を提出すること、の2点を委託契約書で明確に定める必要があると思われる。
1 契約内容・事業内容
本委託契約は、香南工業団地実施設計業務の委託契約である。所管課である商工労働部企業立地課にヒアリングを実施した。
2 指名競争入札とした理由
本委託契約は、指名競争入札がなされている。
(1) 競争入札の中でも一般競争入札が原則であることから、指名競争入札とした理由を検討する必要がある。
ア この点、施行伺等の回議書には、理由の記載がない。
ヒアリングの結果、本件は、県内でも事例が少ない案件であることから、より技術力が高い業者を指名する必要があるとのことであった。
指名業者の選定理由としては、県内業者と県内に支店等を置く県外業者で必要な業種に入札参加資格のある業者(県内20社、県外23社)のうち、県内で県や国等が発注した工業・流通団地開発の実績があるもの、または、これに準じる事業中の土地区画整理事業の実績のあるものに加えて、特に重要な業種について大臣登録のある県内業者を選定している。
なお、県内業者を優先的としている点については、特に根拠規定があるわけではないが、地域雇用の確保の点から、運用によっているとのことであった。
イ 検討すると、まず業者の選定理由について、本件の場合、団地計画に実績のある業者6社のうち5社が県外業者であって県内業者を優先しているとも言い切れない。また、県内業者を優先的とすることに一定の合理性がある。選定理由には、特に問題がないと考えられる。
次に、指名競争入札とした点について検討すると、上記の選定理由であれば、一般 競争入札とした上で入札資格で限定すれば同様の限定を加えることが可能ともいえる。とはいえ、結論として同様の業者に限定するのであれば、当該業者に指名通知をする 形の方が入札の実があるともいえる。担当課の事務の管理も容易になる。
以上の点から、選定理由が明確で合理的な本件の場合、指名競争入札とすることも合理的といえる。
3 納期の遅れと増額変更について
(1) 本委託契約は、実施の途中で2ヶ月の一時中止があり、最終的に10ヶ月の納期遅れが生じた。
時系列的に整理する。
平成21年6月29日 契約締結。履行期限は平成22年3月31日。
平成22年3月31日 県が相手方に「委託業務の繰越施行について(通知)」を交付。履行期限を平成22年8月31日としている。なお、繰越調書の繰越理由によると、「計画の見直しによる地権者との用地調整に不測の日数を要したため、年度内完成が見込めなくなった」ため。
平成22年7月1日 県が相手方に「委託業務の一時部分中止について(通知)」を交付。「道路配置計画の見直しを関係機関と調整する必要があり、これの調整に不測の日数を要するため」、「中止原因が解消されるまで」一時中止するものとされた。
平成22年8月31日 県が相手方に「委託業務の再着手について(通知)」を交付。同日再着手とし、履行期間は平成22年10月31日とした。
平成22年10月14日 県が相手方に「業務委託の変更について(協議)」を交付し、変更契約(第1回)を申入れ。履行期限は、平成22年10月31日のまま。金額を668万9550円増加している。
平成22年10月14日 変更契約(第1回)を締結。
平成22年10月19日 県が相手方に「業務委託の変更について(協議)」を交付し、変更契約(第2回)を申入れ。履行期限を平成23年1月3
1日と変更するのを失念していたため。
平成22年10月19日 変更契約(第2回)を締結。なお、変更契約書の作成日付は、変更契約(第1回)の作成日である平成22年10月1
4日と記載されている。
平成23年1月31日 業務完了。相手方が県に完了届を提出。
ア まず、納期遅れが生じた理由をヒアリングした。
理由としてあげられたのは、当初は場内に区画道路をつくる予定だったが詳細設計中に他の工業団地で一括購入の実績が生まれたことから区画道路をやめたこと、及び、香南市との協議の中で道路に併設された水道管からの供給能力が足りないことが判明して配水能力を向上させる必要が生じたこと、であった。後者の関係で、高台へ配水する必要が生じ、タンクを設置するための用地が必要となり、地権者との交渉が必要になった(なお、収用対象事業ではない)。
イ しかし、それらの点が当初の契約締結時に予測できなかったのか。この疑問について、ヒアリングした。
その結果、従来は概略設計・基本設計・実施設計の3段階に分けていたところ、本件は小規模であったことから、より安くより速く行おうとして基本設計(数千万円規模。1年位かかる)を省略したところ、実施設計の途中の段階で、同地域での自衛隊
誘致と重なって市から供給される水の量が不足することが判明したとのことであった。より安くより速く行おうとした工夫が裏目に出た面がある。しかし、本件について
香南市からは企業の誘致の助成金等で協力してもらっているとのことであるし、県は、本件の反省を踏まえて、概略設計をより詳しく行うなどの対応をとっているとのことであった。
ウ 次に、当初の納期である平成22年3月31日に「委託業務の繰越施行について」という通知を交付して納期を同年8月31日と変更した点について、変更契約を締結しなかった理由をヒアリングした。
その結果、平成21年度までは、県土木部作成の「設計等業務委託契約事務処理要領」において、変更契約書でなく請書による方式をとっているとのことであった。
この点、委託契約の重みが失われるのではないかとも思われたが、ヒアリングの結果、平成22年度から、全て変更契約書によることとしたとのことであった。
エ 最後に、平成22年10月14日の変更契約(第1回)締結の際に履行期限の変更を失念した理由はなぜか。この疑問についてヒアリングしたところ、単なる転記ミスであるとの回答であった。
確かに、第1回変更設計書には履行期限が平成23年1月31日と記載されている。設計書の時点では工期延長が認識されていたが、業務委託契約の変更の伺を作成した時点で転記ミスが生じている。
そうであれば、注意力を欠いていたというほかない。伺や契約書を作成するのは、形式を整えるためでなく、きちんとした履行を求めるためであることを肝に銘じる必要がある。
4 契約の評価について
本委託契約については、「委託業務等成績評定表」が作成されている。ここに、上記2の10ヶ月の納期遅れの記載はなかった。
その理由をヒアリングしたところ、発注者側の事情による遅れは記載しない、xx部のマニュアルに従っている、との回答であった。
検討すると、「委託業務等成績評定表」は相手方の勤務成績を評定するものであるから、ここに上記納期遅れを記載しないことには一定の理由がある。
5 書類について
契約変更に関する書類として「変更設計書」、「業務委託契約の変更について(協議)」、
「業務委託契約の変更(第1回)について(伺)」があるところ、代金の意味で「請負金額」という語が使用されていた。
ヒアリングの結果、土木部の書類をそのまま援用したとのことであった。
しかし、言うまでもなく、民法上、請負と委託(委任)は別物である。本委託契約の
対象である実施設計は委任である。法律に従って契約事務を行う公務員としては、正確を期すべきである。是正されたい(なお、上記3種の書類のうち2番目と3番目は、「土木部の書類」ではないし、本文を入力するタイプの書類であって変更の難しい定型書式ではないと思われる)。
6 検討
(1) 納期が遅れた点については、より安価により短期間で行おうとして基本設計を省略したことが裏目に出た面がある。県では、本件の反省を踏まえて、概略設計をより詳しく行うなどの対応をとっているとのことであった。よりよい契約を目指して、工夫をされたい。
(2) 契約変更を契約書でなく請書による方式で行っていた点について、平成22年度から変更契約書によることとしたとのことである。契約の重みという点で、評価できる。
(3) 本件で変更契約(第1回)締結の際に履行期限の変更を忘れて変更契約(第2回)が必要となるに至った点であるが、単なる転記ミスであったようである。契約書は、単に形式を整えるものでなく、きちんとした履行を求めるためのものであることを理解して、適切な運用をされたい。
(4) 契約変更に関する書類の中に、「請負代金」の記載があった。土木部の書類をそのまま援用したようである。本件は委託契約であって、法律上、請負契約とは別物である。安易に書式を利用することなく、正確な記載をされたい。
1 契約内容・事業内容
本委託契約は、香南工業団地用地測量業務の委託契約である。所管課である商工労働部企業立地課にヒアリングを実施した。
2 指名競争入札とした理由
本委託契約は、指名競争入札がなされている。
(1) 競争入札の中でも一般競争入札が原則であることから、指名競争入札とした理由を検討する必要がある。
ア この点、施行伺等の回議書には、理由の記載がない。
ヒアリングの結果、本件は、①難易度が高くないことと地元との調整を要することから県内業者を対象とし、②対象土地がxxで早期に完了したいことから人的に余裕がある業者を指名する必要があるとのことであった。
指名業者の選定理由としては、県内業者のうち必要な業種に入札参加資格のある業者(27社)のうち、測量士・土地家屋調査士・技術者の数、業務要件の実績高、地域性を数値化して上位8社を選定している。
なお、県内業者を優先的としている点については、特に根拠規定があるわけではないが、地域雇用の確保の観点から運用によっている、測量については要求される技術水準がさほど高くないとのことであった。
イ 検討すると、まず業者の選定理由については、一定の合理性があると考えられる。次に、指名競争入札とした点について検討すると、上記の選定理由であれば、一般
競争入札とした上で入札資格で限定すれば同様の限定を加えることが可能ともいえる。とはいえ、結論として同様の業者に限定するのであれば、当該業者に指名通知をする 形の方が入札の実があるともいえる。担当課の事務の管理も容易になる。以上の点か ら、選定理由が明確で合理的な本件の場合、指名競争入札とすることにも合理性がな いとはいえない。
他方で、ヒアリングでは、一般競争も可能だが手間がかかるとの回答もあった。一般競争入札の方法も検討するべきである。
3 納期の遅れと増額変更について
(1) 本委託契約は、実施の途中で1ヶ月の一時中止があり、最終的に5ヶ月の納期遅れが生じた。
時系列的に整理する。
平成21年12月1日 契約締結。履行期限は平成22年3月25日。
平成22年3月1日 県が相手方に「委託業務の一時部分中止について(通知)」を交付。「用地測量の一部について、関係機関と測量範囲について調整する必要が生じたため」、同日から「中止原因が解消されるまで」一時中止するものとされた。
平成22年3月25日 県が相手方に「委託業務の再着手について(通知)」を交付。同日再着手とし、履行期間は平成22年3月31日とした。
平成22年3月31日 県が相手方に「委託業務の繰越施行について(通知)」を交付。履行期限を平成22年8月31日としている。なお、繰越調書の繰越理由によると、「計画の見直しによる地権者との用地調整に不測の日数を要したため、年度内完成が見込めなくなった」ため。
平成22年8月31日 業務完了。相手方が県に完了届を提出。
ア まず、納期遅れが生じた理由をヒアリングした。理由としてあげられたのは、配水タンクの大きさと敷地の範囲について香南市の上下水道課と協議する必要が生じたこと、結局当初予定より敷地が広くなり測量の範囲が増加したことであった。
しかし、それらの点が当初の契約締結時に予測できなかったのか。この疑問について、ヒアリングした。その結果、従来は概略設計・基本設計・実施設計の3段階に分けていたところ、本件は小規模であったことから、より安くより速く行おうとして基本設計(数千万円規模。1年位かかる)を省略したところ、実施設計の途中の段階で、同地域での自衛隊誘致と重なって市から供給される水の量が不足することが判明したとのことであった。
より安くより速く行おうとした工夫が裏目に出た面がある。しかし、本件について香南市からは企業の誘致の助成金等で協力してもらっているとのことであるし、県は、本件の反省を踏まえて、概略設計をより詳しく行うなどの対応をとっているとのことであった。
x xに、当初の納期である平成22年3月31日に「委託業務の繰越施行について」という通知を交付して納期を同年8月31日と変更した点について、変更契約を締結しなかった理由をヒアリングした。問題意識としては、当初4ヶ月弱の業務に9ヶ月を要しており、履行期間が2倍以上となっており、契約の重要な部分が変更されている点である。
ヒアリングの結果、平成21年度までは、県土木部作成の「設計等業務委託契約事務処理要領」において、変更契約書でなく請書による方式をとっているとのことであった。
この点、委託契約の重みが失われるのではないかとも思われたが、ヒアリングの結果、平成22年度から、全て変更契約書によることとしたとのことであった。
4 契約の評価について
本委託契約については、「委託業務等成績評定通知書」が作成されている。ここに、上記2の5ヶ月の納期遅れの記載はなかった。
その理由をヒアリングしたところ、発注者側の事情による遅れは記載しない、xx部のマニュアルに従っている、との回答であった。
検討すると、「委託業務等成績評定表」は相手方の勤務成績を評定するものであるから、ここに上記納期遅れを記載しないことには一定の理由がある。
5 書類について
契約変更に関する書類として「変更設計書」、「業務委託契約の変更について(協議)」、
「業務委託契約の変更(第1回)について(伺)」があるところ、業務委託の代金の意味で「請負業務費」、「請負金額」という語が使用されていた。
ヒアリングの結果、土木部の書類をそのまま援用したとのことであった。
しかし、言うまでもなく、民法上、請負と委託(委任)は別物である。本委託契約の対象である実施設計は委任である。法律に従って契約事務を行う公務員としては、正確を期すべきである。是正されたい(なお、上記3種の書類のうち2番目と3番目は、「土木部の書類」ではないし、本文を入力するタイプの書類であって変更の難しい定型書式ではないと思われる)。
6 検討
(1) 納期が遅れた点については、より安価により短期間で行おうとして基本設計を省略したことが裏目に出た面がある。県では、本件の反省を踏まえて、概略設計をより詳しく行うなどの対応をとっているとのことであった。よりよい契約を目指して、工夫をされたい。
(2) 契約変更を契約書でなく請書による方式で行っていた点について、平成22年度から変更契約書によることとしたとのことである。契約の重みという点で、評価できる。
(3) 契約変更に関する書類の中に、「請負代金」の記載があった。土木部の書類をそのまま援用したとのことである。本件は委託契約であって、法律上、請負契約とは別物である。安易に書式を利用することなく、正確な記載をされたい。
1 契約内容・事業内容
本委託契約は、緊急雇用創出移住促進空家調査業務の委託契約である。 所管課である産業振興推進部地域づくり支援課にヒアリングを実施した。
2 指名競争入札とした理由
本委託契約は、指名競争入札がなされている。
(1) 競争入札の中でも一般競争入札が原則であることから、指名競争入札とした理由を検討する必要がある。
この点、施行伺等の回議書には、理由の記載がない。
ヒアリングの結果、①空き家を1軒1軒回って調査することから、ある程度ノウハウがある企業の方が効果的に調査できること、②対象となる地域ごとに地元で調査員を雇用することから各地域にネットワークを有する業者である必要があること、③営業種目にデータ入力・処理等が必要であること、④自社ホームページでの広報を期待していることから、自社ホームページを有する業者であること、といった理由が挙げられた。
検討すると、このうち特に③、④については、一般競争入札の入札基準として設定することで対応可能と思われる。
担当課のヒアリングにおいても、今回、指名した業者は5社であったが、入札に応じたのは1社だけであったことから、今後は一般競争入札を視野に入れるとの回答がなされた(もっとも、本事業は、今回限りの事業である)。
3 守秘義務について
本業務においては、調査員を雇用し、調査協力者に調査の協力を求めることが前提とされている。
ところで、委託契約書の第8条において、委託先に守秘義務が負わされている。このことから、調査により知り得た事項が守秘義務の対象であるといえる、したがって、調査員及び調査協力者に対しても守秘義務が必要であるといえる。
そうすると、委託先に対しては、調査員及び調査協力者に対して守秘義務を負わせることが必要である。このことを明確にし、問題発生を予防するためにも、雇用契約書等の写しを県が徴求することが必要である。
したがって、委託契約書において、①委託先は調査員等に守秘義務を負わせる義務を負うこと、②委託先は県に対して、調査員等の守秘義務を明確に定めた雇用契約書の写しを提出すること、の2点を委託契約書で明確に定める必要がある。
4 契約の評価について
契約の効果について、空き家総数、所有者の住所地が判明した戸数、所有者に接触し
て調査に至った戸数を測定している。
例えば、所有者の住所地が判明した戸数のうち約80%を調査しており、一定の効果があがったといえる。
県は、平成18年から移住対策をはかっている。本件の委託業務は、産業振興計画のフォローアップ委員会の担い手対策連携テーマ部会で空き家の実態を調べるべきとの報告がなされて、これに対応して行われたものである。本委託業務の調査結果は、今後の施策の展開において重要なものと思われる。
また、費用対効果の点をみると、①国の緊急雇用事業を利用して、県費からの支出が少額であったこと、②応札業者が1社だけになるほど低額の委託費であったことから、経済性も確保されたといえる。
5 検討
(1) 本委託契約は、短期間での履行が必要だったこともあって、指名競争入札としたことは、事実上、やむを得なかったのかもしれない。しかし、本来は、十分な納期をもって一般競争入札に付するのを原則とすべきであろう。
(2) 委託事業につき委託先が新規雇用をする場合には、従業者も守秘義務を守るように、委託契約の段階で可能な限り手を打つべきである。具体的には、①委託先は従業員に守秘義務を負わせる義務を負うこと、②委託先は県に対して、従業員の守秘義務を明確に定めた雇用契約書を提出すること、の2点を委託契約書で明確に定める必要があると思われる。
第2部 高知県損害賠償等審査会
第1章 総論
第1節 監査の対象とした理由
本年度の監査では、高知県損害賠償等審査会(以下「損害賠償審査会」という。)を監査のテーマとした。
その第一の理由は、平成16年度に、損害賠償審査会を対象とする包括外部監査がなされていることである。
同年度の包括外部監査で提言がなされ、県の措置報告もなされているが、これら一連の監査、提言、措置報告が生かされているかを検証する必要があると考えた。
第二の理由は、平成16年度監査から日が経っており、改めて、損害賠償審査会の審査の妥当性について検証する必要があると考えた。
概括的な結論としていえば、まず、平成16年度監査以後、議事録の作成がきちんとなされるようになった点が特筆される。
議事録の作成については、平成23年の原発事故対応で日本国政府ができなかった、あるいはしなかったことが指摘されている。政府あるいは地方公共団体の説明責任、次代への責任として、議事録を整えることは極めて重要である。損害賠償審査会の審査について県が議事録を作成するようになったことは、平成16年度外部監査の大きな成果である。
次に、本年度の監査では、損害賠償審査会の審議の内容及び結果の内容についても監査した。中には厳しい指摘もあるが、今後、内向きで防衛的な姿勢になって議事録の作成に消極的になることは、避けていただきたい。そのような対応をするならば、言うまでもなく大きな後退であるし、今後、万が一、問題が生じたときに検証ができなくなる。また、訴訟等で不利に扱われるおそれがある。
監査人としては、平成16年度監査に対するのと同様、本年度監査の意見等に対しても県が真摯な対応をすることを望むが、引き続き議事録をきちんと作成することも望んでいる。
高知県の取り組みが国に先行し、適切であることこそ、国に地方分権を求める基盤となる。
なお、外部監査人及びその補助者において、監査対象との間で利害関係はない。
第2節 監査の全体像
今回の監査では、平成21年度、22年度の損害賠償審査会の審査を対象とした。
件数及び内訳(①請求審査、②支払審査、③求償審査)は、次のとおりである(年間の全件数は、同一事案を複数回審査していても1回とカウントした。支払審査の案件は、基本的に求償審査も行うことから、同一事案であれば1回とカウントした)。
①請求審査……相手方に対する請求の審査。
②支払審査……相手方に対する支払の審査。
③求償審査……職員に対する求償の審査。
(平成21年度)全36件
①請求審査 8件。うち請求したもの 8件(100%)
(このほかに、請求不可能となったことの報告が1件)
②支払審査27件。うち支払したもの27件(100%)
③求償審査28件。うち求償したもの 0件( 0%)
(なお、前年度に支払審査したものが1件含まれている)
(平成22年度)全15件
①請求審査 5件。うち請求したもの 5件(100%)
②支払審査10件。うち支払したもの10件(100%)
③求償審査10件。うち求償したもの 0件( 0%)
(なお、職員でなく他の地方公共団体に求償したものが1件)
主体別にみると、県警に関する事案が次のとおりである。
(平成21年度)①請求審査4件、②支払審査21件、③求償審査21件
(平成22年度)①請求審査2件、②支払審査3件、③求償審査3件
案件別にみると、交通事故に関する事案が次のとおりである。
(平成21年度)①請求審査8件、②支払審査19件、③求償審査19件
(平成22年度)①請求審査5件、②支払審査4件、③求償審査4件
損害賠償審査会の設置規定の第一は、高知県損害賠償等審査会規則(以下、「規則」という。)である。後の記述との関連では、第2条に所掌事務の定め、第5条に臨時委員の定めがある。
第二は、「損害賠償等に関する事務処理要綱」(以下、「事務処理要綱」という。)である。手続きの流れを定めているが、実務上、重要である。
資料として、次頁に、「高知県損害賠償審査会事務処理フロー」(以下、「事務処理フロー」という。)を引用する。これは、県が事務処理要綱の内容を職員向けに分かりやすくフローチャートにしたものである。
ところで、損害賠償審査会の審査対象は、①請求審査、②支払審査、③求償審査である。
規則、事務処理要綱及び事務処理フローは①~③の類型に分けて規定していないが、次々頁以下に述べるとおり、①~③の類型によって、要件・法律効果が異なり、手続の流れも異なっている。
したがって、①~③の類型に応じて審査することが必要である。
【資料】● 高知県損害賠償審査会事務処理フロー損害賠償等に関する事務処理要綱
・事故の報告(第4条) 主務課長より行政管理課長に事故の概要を直ちに
報告する。
↓
・関係書類の作成(第5、6条) 主務課長が事故調査書、損害賠償等認定調書を
作成する。
↓
・幹事会への協議(第7条) 主務課長より幹事会へ関係書類を添えて協議を行う。
↓
・審査会への付議(第8条) 行政管理課長は、幹事会の終了後、審査会の
審査に付する手続を行う。
↓
・賠償額等の決定(第10条) 主務課長は、賠償予定額の範囲内で事故の相手方
と協議を行う。
↓
・議決又は専決処分(第10条) 主務課長は、賠償予定額の範囲内で賠償額につい
て協議が整った場合、賠償額の決定について議決又は専決処分の手続を行う。
↓
・賠償金の支払い(第12条) 主務課長は、議決又は専決処分がなされた場合、
賠償金の支払いの手続きを行う。
※任意保険に加入している公用車及び道路保険の取扱い(第20条)
県が加入している保険の適用がある場合は、第7条から第9条までの手続を省略できる。
(引用ここまで)
多くの事案(審査した限りでは全ての事案)は、代位請求である。
典型的には、相手方が県職員に怪我を負わせ、職員が休職し、県が職員に休職中の給与相当額を支払うことにより、職員の相手方に対する損害賠償請求権を県が取得する事案である。
<要件>
□第三者の県職員に対する不法行為
□第三者の故意・過失
□県職員の損害の発生
□因果関係
□職員の病気休暇の取得(または休職)と、職員に対するその期間の給与の支払。
(なお、公務災害扱いであれば給与の100分の100、公務災害扱いでなければ病気休暇の期間中100分の100、休職期間中100分の80が支払われる。)
<処理の流れ>
・第三者の不法行為が発生。
・職員から主務課に事故の届出。
・職員から主務課に病気休暇の申請。
・主務課が職員に病気休暇の認定。その分の給与の支払。
・主務課から行政管理課に事故の報告(事務処理要綱第4条)。
・主務課が事故調査書を作成(同第5条)。
・主務課が損害賠償等認定調書を作成(同第6条)。
・幹事会へ協議(同第7条)。
・損害賠償審査会へ付議(同第8条)。
・損害賠償審査会で賠償額等の決定(同第10条)。
・主務課が議決または専決処分(同第10条)。
・主務課が賠償金の請求(同第12条)。
県が損害賠償の支払をした場合、職員に対する求償権が発生する可能性があることから、基本的に、②支払審査の対象事案は③求償審査を行うこととなる(なお、被害者救済の見地から、②支払審査が先行して③求償審査が後日なされる場合もある)。
<要件>
(②支払審査)
ア 公務員の不法行為による県の損害賠償責任の場合(国家賠償法第1条)。
□公権力の行使、公務員の行為
□第三者の損害の発生
□因果関係
イ 公の営造物の設置管理の瑕疵による県の損害賠償責任の場合(国家賠償法第2条)。
□設置または管理の瑕疵
(③求償審査)
ア 公務員の不法行為による県の損害賠償責任の場合(国家賠償法第1条)。
□上記の要件。つまり公権力の行使が必要。
□公権力の行使、公務員の行為
□第三者の損害の発生
□因果関係
□当該職員の故意または重過失
※なお、公権力の行使が否定される場合は、県の損害賠償責任は国賠法上の責任でなく民法上の使用者責任となることから、求償権の有無・行使の範囲については、民法第715条第3項によることとなる。その結果、求償権は基本的に存在し、その行使の範囲が最高裁昭和51年7月8日判決の枠組みによって制限されることとなる。
同判決においては、求償権を行使できる範囲は、損害賠償責任を生じた事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分担についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害のxxな分担という見地からxxx上相当と認められる限度とされた。
イ 公の営造物の設置管理の瑕疵による県の損害賠償責任の場合(国家賠償法第2条)。
□「他に損害の原因について責に任ずべき者」があること。
この点について、県や県職員以外の第三者に限られず、管理機関である公務員も該当する可能性があるとされる(注釈民法等)。つまり、公務員だからといって除外されるわけではない。
<処理の流れ>
・主務課から行政管理課に事故の報告(事務処理要綱第4条)。
・主務課が事故調査書を作成(同第5条)。
・主務課が損害賠償等認定調書を作成(同第6条)。
・幹事会へ協議(同第7条)(求償権について同第13条)。
・損害賠償審査会へ付議(同第8条)(求償権について同第14条)。
・損害賠償審査会で賠償額等の決定(同第10条)(求償権について同第15条)。
・主務課が議決または専決処分(同第10条)。求償権について通知(同第15条、第16条)。
・主務課が賠償金の支払(同第12条)(求償権について同第17条)。
平成21年度、22年度における損害賠償審査会の審査案件から各8件、7件をピックアップして検討した。
加えて、平成20年度にも1件重要な事案があったことから、検討の対象とした。その内容は、第2章のとおりである。
第3節 意見
ア 現行の事務処理要綱その他の損害賠償審査会の設置規定には、県が損害賠償金を支払う場合には必ず損害賠償審査会の審査を経ることを明示的に定める規定がないように思われる。
この点、事務処理要綱では、第7条で「主務課長は、県に賠償責任があることが明らかであると認めるとき又はその認定が困難であると認めるときは、当該事故に係る損害賠償等認定調書、事故調査書その他参考資料を添えて(略)幹事会に協議しなければならない。」、第8条で「統括課長は、幹事会の終了後、審査会の審査に付するため所要の手続きをとるものとする。」と定めている。
しかし、例えば、主務課長が県に損害賠償責任があることが明らかとまではいえないが損害賠償責任があると認める場合には、損害賠償審査会の手続きを経ずに、賠償金の支払が可能であるようにも読める。
ヒアリングの過程で、行政管理課は、全件審査することを当然視しているようで
あったが、そうであれば、規定上、疑義なく明示する必要がある。そうしないと、審査会の位置づけが明確にならないからである。
事務処理要綱を改正するのであれば、第7条の「県に賠償責任があることが明らかであると認めるとき」を「県に賠償責任があると認めるとき」と改正し、通知文 書の中で、「改正の結果、損害賠償金を支払うときには必ず損害賠償審査会の審査を 経ていなければならないこと」を通知するべきであろう。なお、支払の要件を定め るものであるから、要綱より上位の規定によって定める方が望ましいと思われる。 イ また、県が損害賠償金を請求する場合及び職員に求償する場合については、必ず
損害賠償審査会の審査を経ることを明示的に定める規定がない。
これらについても全件審査することを当然視しているのであれば、規定上、明示する必要がある(蛇足ながら補足すると、地方自治法との関係で、求償については、支払をした場合には全件審査することが必要であろう)。
ウ なお、少なくとも県が損害賠償金を支払う場合については、全件審査していることを事後的に確認しやすくする方策が必要である。
歳出予算上の勘定項目については法令上の制限があることから、これを統一することは困難であるとのことであるが、何らかの台帳を作って管理する必要があるのではないだろうか。
今般、監査するにあたって審査事案の一覧表の提出を依頼した際に提出された表は、支払審査、請求審査及び求償審査の事案が混在した一覧表であった。目的別に管理する必要がある。
また、今般の監査での印象であるが、支払の要件は比較的容易に認め、請求や求 償の要件は容易には認めない印象を受けた。その点で、万が一にも損害賠償審査会 の審査を経ずに支払をしていることがないことを明らかにできる態勢が必要である。
現行の事務処理要綱その他の損害賠償審査会の設置規定には、審査中の事案の管理責任者が主務課であるのか、損害賠償審査会ないしその事務局の行政管理課であるのか、明示的に定める規定がない。このような状況下で、平成21年度に1件(番号1
3)、県の損害賠償請求権が時効により消滅する事案が生じた。
そのため、事務処理要綱等において、審査中の事案の管理責任者が主務課であるのか、損害賠償審査会ないし行政管理課であるのか、明示的に定める必要がある。
なお、事務処理要綱第17条に債権管理の規定があるものの、同事案の主務課は、同条の規定はみたす形で対応していたとのことであるから、同条の規定ぶりでは不十分である。
端的に、同条第1項に「第3条に定める主務課長は、当該事故にかかる損害賠償請求権の保全、管理及び履行(審査中の案件の管理を含む。)、損害賠償義務の適正な確
定、並びに求償権の保全、管理及び履行に責任を負う。」と明示すること、第2項に「主務課長は、第15条第2号の規定により統括課長から通知があったにもかかわらず、職員等に対する損害賠償請求権又は求償権の行使を履行できないときは、直ちに審査会に報告し、事後の対応を審議に付さなければならない。但し、本項は、主務課長の履行責任を免除するものではなく、主務課長は審査会の判断に従って損害賠償請求権及び求償権の行使をしなければならない。」と規定することが考えられる。
また、「事務処理フロー」には、損害賠償請求権及び求償権の請求手続も、請求権の管理手続(審査中の案件の管理を含む。)も、記載されていない。このことも、上記事案で時効消滅を発生させた理由の1つと考えられる。「事務処理フロー」に、これらの点を含むよう改正する必要がある。
上記(2)の消滅時効の事案では、一度、審査会が相手方に対する請求を行うことを決定したにもかかわらず、その履行がなされず消滅時効が完成した。
また、平成20年の事案では、審査会が幹事会に対して職員に対する求償権行使の基準をつくることと次回の審査会に諮ることを任せる決定をしたが、これらも履行されていない。
審査会または統括課長に、決定事項の履行状況の管理の責任があることを明示すべきである。具体的には、事務処理要綱に「統括課長は、審査会での決定事項が履行されたか否かについて随時、監督し、履行されていない場合には主務課長にその理由を報告させるなどして、管理の責任を負う。」と定めることが考えられる。
県の損害賠償責任の有無を審査する事案では、国家賠償法に基づく県の責任の有無が問題となる。県が国家賠償法による損害賠償責任を負うためには法律上、「公権力の行使」の要件をみたすことが必要である。しかし、今回の監査で、損害賠償審査会が
「公権力の行使」の要件を検討していたか確認できなかった。
今後は、「公権力の行使」の要件を十分に検討し、記録に残す運用にされたい。
検討の有無及び内容が確認できない理由としては、そもそも損害賠償審査会の審査結果を記入する書式や、主務課が同審査会に提出する調書等の書式に「公権力の行使」要件の有無を記載する欄がないことが挙げられる。主務課も審査会も要件として意識していたのか疑問を感じた。したがって、要件の検討を欠かさないために、損害賠償審査会の審査結果を記入する書式及び主務課が同審査会に提出する調書等の書式に
「公権力の行使」要件の有無を記載する欄を設けることが必要である。
県が国家賠償法第1条による損害賠償責任を負う事案については、県が職員に対して求償するか否かを審査することになる。このような事案では、当該職員の重過失の有無が問題となる。
この点、平成21年度、22年度の求償審査の案件は各28件、10件の合計38件あったが、いずれも重過失がないとして求償が否定された。
ところが、重過失がないことが必ずしも明らかでない事案についても、踏み込んだ審査をせずに重過失を否定しているのではないかと思われる案件が散見された。
求償審査を十分行う必要がある。
検討を欠かさないために、損害賠償審査会の審査結果を記入する書式及び主務課が同審査会に提出する調書等の書式に、①誰について求償審査をしたか、②どのような事実から求償の有無の結論を導いたか、記入する欄を設けることが必要である。
県が国家賠償法第2条による損害賠償責任を負う事案については、県が第三者に対して求償するか否かを審査することになる。この第三者には、県の職員を含むと解されている。
この点、平成21年度、22年度における国家賠償法第2条による損害賠償責任の案件は各3件、2件の合計5件あったが、求償はいずれも否定された。
監査したところ、書類上、求償の要件を審査したとは思われない案件や、聞き取りによっても踏み込んだ審査をせずに求償を否定したと思われる案件が散見された。
国家賠償法第2条の事案についても求償審査を十分行う必要がある。
検討を欠かさないために、損害賠償審査会の審査結果を記入する書式及び主務課が同審査会に提出する調書等の書式に、①誰について求償審査をしたか、②どのような事実から求償の有無の結論を導いたか、記入する欄を設けることが必要である。
ア 損害賠償審査会の位置づけにも関する事柄であるが、損害賠償審査会の審査対象として、求償権の有無だけなのか、求償権があるとして行使の有無も判断できるのか、明確にする必要がある。
具体的には、規則第2条に「求償権の行使の要否に関すること」という号を加えることが考えられる。
イ また、県職員以外の者に対する求償権を行使しない場合については10万円以下という基準があるものの、県職員に対する求償権については事案ごとに個別に検討する運用がとられている。
区別する理由はないように思われるので、県職員に対する求償権についても明確な基準を作る必要がある。
損害賠償審査会は、求償の案件において求償率という考え方を採用している。これは、県の職員に対する求償額を検討する際に、県が相手方に支払う損害賠償額の何割を職員に負担させることとするかという考え方である。平成16年度の求償事案において2割、平成20年度の求償事案において2割以下という求償率が判断された。
ところで、この求償率という考え方は、法律的に位置づけるとすると、使用者責任に関する「求償率を行使できる範囲」の考え方と思われる。使用者責任については、最高裁昭和51年7月8日判決において、求償権を行使できる範囲は、損害賠償責任を生じた事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分担についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害のxxな分担という見地からxxx上相当と認められる限度とされている。
この点、民間企業の被用者と県職員を区別する必要はないと思われることから、国家賠償法上の県の責任が認められる場合も同様の取扱いをしてもいいように考えられる。とはいえ、県職員の求償義務の免除という面もあることから、地方自治法第240条第3項との整合性が問題となりうる。そこで、損賠審の所掌事務の範囲を定めた規則第2条に「求償権の行使の審査」を加える際に、求償率の審査も含むことを明示すべきであろう。
今回審査した案件の中には、損害賠償審査会が主体的に判断せずに、労働基準局や検察庁等、外部機関の判断のみを判断材料としている節がうかがわれたものがあった。
県には独自の立場があるのであるから、主体的に判断する必要がある。
上記(4)で指摘した求償権の行使の有無の判断は、まさに主体的判断の1つといえる。
もっとも、外部機関、とりわけ裁判所の判断と異なる判断をする場合には、相応の合理的な理由づけが最低限、必要である。また、(7)で述べるように、正統性を担保する方策も必要であろう。
上記(1)乃至(3)の点についてまとめると、いずれも県職員に対する求償を制限する方向のものであることは否定できない。きちんと審査していても、審査会の構成員が県職員だけであると、外から見たときに「かばい合い」ではないかとの疑念を生じか
ねない。
また、(6)で指摘した、他の機関の判断と異なる判断が必要となる場合には、弁護士等の法曹や学識経験者を審査会の構成員とすることにより、審査結果の正当性(内容の正しさ)、正統性(権威ないし重み)がはかられると思われる。損害賠償審査会の審査については、判例・裁判例との整合性等、高度の法律・裁判の専門的知識が必要である。
現行でも、事案に応じて外部委員(規則では「臨時委員」)を活用することが可能な規定となっているが、これまでに活用された事案は、平成16年度及び17年度に臨時委員が活用された3件のみである。現行の規定では活用してもしなくてもいい形であることから、活用に至らないのではないだろうか。
外部委員の活用のほかに顧問弁護士への相談の方法もあるところ、交通事故の事案について、相談せずに県が比較的高い過失割合を相手方に提示した事案があった。
このような対応を防ぐ意味でも、外部委員を常設にするか、少なくとも、外部委員 の活用または顧問弁護士の意見書の提出を全件要することとすべきではないだろうか。
なお、損害賠償審査会の事務局をつとめる部署にも、法律・裁判の専門的知識がある方がスムーズに運用できると思われる。
県が損害賠償責任を負う事案については、県及び県民の負担を減らすためにも再発を防止することが望ましい。
ところで、損害賠償審査会には、そのような事案についての情報が集まってくる。現に、平成21年度、22年度の間に草刈り機による同種の事故が3回発生し、その情報は損害賠償審査会に集積された。事故情報を同審査会が県職員に周知できれば、
2回目以降の事故は防止できた可能性がある。
また、監査した事案の中には裁判所の手続により県の責任が認められて支払が命じられたにもかかわらず、ヒアリングの際に主務課が責任はないと主張する事案もあった。
情報の周知がなされず再度、同種事案が繰り返された場合には、県の組織としての過失(重過失)が問われる可能性も否定できない。
そのような意味で、同審査会が県職員に対して情報の周知をする方策(例えば職員向け広報誌への掲載)を検討されたい。
(なお、2(6)で、主体的な判断を求めたが、何の制約もなく自由に判断してよいわけではなく、裁判所その他の外部機関の判断と異なる判断をする場合には、相応の合理的な理由づけが必要である。ここで述べたように、一度、裁判所から損害賠償責任
を認められながら、同種の事案で同じ行為をしたら、厳しい判断が下されると思われる。)
再発防止のため十分な対応をしても、県警の取締業務等、業務の性質上、第三者の損害の発生が避けがたい業務もある。
このような業務について県及び県民の負担を軽減するための方策として、損害保険の活用が考えられる。
この点、県では、県警以外の公用車について平成14年2月1日から任意保険への加入を開始し、平成17年2月からは全車両が加入している。高知県警の公用車は、平成22年2月1日から県と合同で、平成23年2月1日から県警独自で、任意保険に加入している。県の負担軽減の観点から評価できる。示談交渉の負担も一定程度、軽減できることから、業務への集中の観点からも評価できる。
実際、平成21年度と同22年度の損害賠償審査会の審査案件のうち県警車両の案件数を比較すると、激減している(任意保険に加入した車両の交通事故は損害賠償審査会に付議することを略することができる扱いになっている)。このように、任意保険加入の効果は大きいと思われる。
県職員が運転する車両の交通事故について、県は、県が相手方に損害賠償責任を負担して賠償金を支払い、職員には原則として求償しない扱いとしている(求償するのは、例えば、酒気帯び、酒酔い、無免許、30キロ以上の著しい速度違反、居眠りの事案)。その結果、いわば、県が保険者(任意保険会社)の立場にあるのと同様の形となっている。
この点、新潟県等では、自家用車の公務使用の際には職員の任意保険の加入を義務付け、事故発生時には同保険を用いているようである。本県には本県なりの理由があるのであろうが、自動車事故の場合、事案によっては損害賠償額が1億円以上となることもある。何らかの形で、県の負担の軽減とリスクの分担をはかる必要がある。
第2章 各論
第1節 平成20年度(求償審査)
第1 高知県損害賠償等審査会(以下「損賠審」という。)の判断 H20.12.17開催。
県から職員に対する求償 暴行罪が成立しており、故意が存在し、求償権
がある。求償権を行使するかどうかについて、再度検討し審査会に諮ることとする。
H21.1.15開催。
県から職員に対する求償 求償権を行使することにより、今後の児童福祉
行政に大きな影響を与えることが危惧されること及び求償率、求償額についても低いと考えられることから、求償権を行使しない。
第2 検討
本件は、平成19年2月13日、職員が生活態度に問題の見られた児童に対し、口頭での注意にも正そうとしないことから、それを正そうとするためにxx及び拳骨をした事件で、相手方は心身外傷後ストレス障害を負ったとして、県に対して損害賠償を求める民事訴訟をしていた事案である。
平成20年10月に裁判上の和解が成立した。
1 求償権の有無について
求償権の有無の要件は、①懲戒権の濫用といえるか否か、②濫用と言える場合に当該職員に故意または重過失が認められるかである。
この点、損賠審は、刑事事件において当該事件で暴行罪の成立が認められて罰金刑に処せられたことを理由に①と②の点を肯定した。
しかし、刑事事件で暴行罪が成立することと民事事件で懲戒権の濫用であることは、必ずしも一致するとはいえない。懲戒権の濫用を否定する余地もあったように思われる。主務課も、懲戒権の濫用を否定する意見を出していた。とはいえ、民事の損害賠償請求事件において、金20万円の和解金の支払に応じた(請求額222万円余り)ことから、①の懲戒権の濫用と認めざるをえなかったものと思われる。
その上で、②について、暴行罪の故意があることから、故意も認められるとした。
2 求償権を行使しないことについて
損賠審は、懲戒権の濫用として求償権の存在を肯定しつつ、求償権の行使を否定した。
この点について、①損賠審に求償権の行使を否定する権限があるか、②あるとしても本件で行使を否定することが許されるか、問題となる。
(1) ①に関して、規定上、明確に定めたものはないように見受けられたが、ヒアリングの結果、規則第2条(5)項、事務処理要綱第13条、第14条によって、損賠審に求償権の行使を否定する権限があるとのことであった。しかし、不明確と思われることから、疑義を生じないよう規則等で明確に定めるべきである(総論「第3章 意見」2
(4)参照)。
(2) 次に、②に関して、いかなる場合に求償権の行使を否定できるか。求償権も県が有する債権の一つであることから、求償権の行使の否定は債務の免除の一場合といえる。債務の免除については、地方自治法第240条第3項が「政令の定めるところにより」可能としており、逆に言えば、政令の根拠が必要となる。
地方自治法施行令第171条の5第3号は、「債権金額が少額で、取立てに要する費用に満たないと認められるとき」を掲げている。そこで、求償権の行使の否定が可能となる一つの基準としては、請求の費用と比較してこれに満たない場合にのみ放棄が許されるというべきである。
ア この点、第三者に対する求償権について、県は、10万円未満という内部基準を有している。
他方、本件は、職員に対する求償権の事案であるが、議事録によると、求償額を県が支払った20万円に求償率を乗じた金額として、求償額10万円未満かつ求償率2割以下だから求償しないと結論づけた。なお、一般的な基準の設定は、幹事会に委ねて次回の審査会に諮ることとした。しかし、今般、ヒアリングしたところ、県職員に対する求償の基準は、現在まで設けておらず、事案ごとに個別に検討するとのことであった。
ちなみに、求償率とは、県が支払った損害賠償額をそのまま求償額とせず、当該職員の責任割合等に応じて一定の割合を乗じたものを求償額とする考え方である。審査会は、本件については、平成15年発生の件について求償率2割とした前例と比較して、同事案以下の求償率と定めた。
イ 検討すると、まず、求償率という考え方の妥当性が問われると思われる。
この点、民法上の使用者責任であれば、最高裁昭和51年7月8日判決において、求償権を行使できる範囲は、損害賠償責任を生じた事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分担についての使用者の配慮の程度その他諸般の
事情に照らし、損害のxxな分担という見地からxxx上相当と認められる限度とされている。
民間企業の被用者と県職員を区別する必要はないと思われることから、国家賠償法上の県の責任が認められる場合も同様の取扱いをしてもいいように考えられる。
とはいえ、県職員の求償義務の免除という面もあることから、地方自治法第
240条第3項との整合性が問題となりうる。そこで、損賠審の所掌事務の範囲を定めた規則第2条に「求償権の行使の審査」を加える際に、求償率の審査も含むことを明示すべきである。
ウ 次に、第三者に対する求償と県職員に対する求償を区別し、後者を狭くすることの妥当性が問われる。
地方自治法の債務免除の考え方からすれば請求費用に満たない場合しか考えられないところ、請求費用を比較すれば、実態としては、むしろ職員に対する請求の方が職員以外の第三者に対する請求より容易とみることもできる。職員に対する求償の要件は、少なくとも職員以外の第三者に対する請求と同等とするべきではないだろうか。
第2節 平成21年度(請求審査)
<H21-13>(主務課:商工労働部雇用労働政策課)第1 損賠審の判断
H21.8.6開催。報告。
(原案及び損賠審の結論)
給与相当額の請求について消滅時効が成立したことの報告。
第2 検討
本件は、平成14年1月25日発生の交通事故についてのものである。県は、県側当事者に対して平成16年4月12日から退職する平成18年1月31日までの間に給与相当額(1317万6773円)を支払った。これにより県が取得した同額の損害賠償請求権について、県は平成19年3月30日の損賠審の審査の結果に基づき、同年4月9日に相手方代理人に損害賠償請求を行ったが(民法第153条による時効の中断を目的とする催告)、提訴に至るだけの十分な資料の収集ができなかったため、平成19年10月12日からxx、時効消滅を開始し、同21年1月31日、全部につき消滅時効が成立した。このことについて、同年8月6日、損賠審に報告がなされた。
(時系列)
H14.1.25 交通事故。
H14.7.4 労働基準監督署が労災認定。 H16.4.12~ 県職員が病気休暇を取得。 H17.9.7 行政管理課が公務災害扱いを決定。 H18.1.31 県職員が退職。
H19.3.30 損害賠償審査会が損害賠償請求することを決定。
(県側過失0%。休業期間に支給した給与相当額を請求。) H19.4.9 相手方に損害賠償請求(民法第153条の催告)。
労働基準監督署に情報提供依頼。5月8日、不可と文書回答。 H19.6.1 労働基準監督署に情報提供依頼。8月9日、不可と回答。 H19.8.10 地共済に情報提供依頼。
H19.9.14 損害賠償審査会が次のとおり決定。
(損害賠償のための立証資料の収集につとめることとする。損害賠償請求金の収入xx及び債権管理は、裁判上の請求が可能になった時点で行う。それまでの間は、財産管理に
定める債権管理に準じて損害賠償請求金額の管理を行う。) H19.10.3 高知労働局に行政文書開示請求。19日、不開示決定通知。 H19.10.12 損害賠償請求権が1ヶ月分ごとxx、時効消滅を開始。 H19.11.2 主務課が資料収集状況について行政管理課に文書報告。 H21.1.31 損害賠償請求権が全て、時効消滅。
H21.8.6 損害賠償審査会に報告。
1 損害賠償請求権の存否について
県の相手方に対する損害賠償請求権の成立要件は、(1)県職員の相手方に対する損害賠償請求権(休職期間の給与相当額)の成立と、(2)同損害について県が県職員に支払をしたこと、の2点である。
このうち(1)は、①県職員と相手方の間の交通事故の発生、②同事故により県職員が疾病にかかったこと、③同疾病により県職員が休職したことである。
ところで、県職員は、平成16年4月12日から低髄圧液症候群を理由に休職した。低髄圧液症候群について、裁判例では事故と症状の因果関係(上記②)を否定する例が多い。この見解に立てば、当初から、県の相手方に対する請求権は発生していなかったことになる。
県は、条例に基づいて、当初、私傷病扱い(休職)として給与相当額の100分の
80を支給した。
その後、県職員から100分の100の支払を求められ、同年12月21日、人事委員会に対して「勤務条件に関する措置要求」を提出された。県は、労働基準監督署の療養給付の証明書が提出されたことから、平成17年9月7日、公務災害扱いにすることを決定し、県職員に100分の100の支払をすることとした。公務災害扱いにする際に、県職員から立証書類等の個人情報の提供を求めることをしなかった。
その後、県職員に対して立証書類等の個人情報の提供を求める通知を行ったが(平成17年10月14日、平成18年1月23日、同年12月1日、平成19年3月9日の4回)、提訴に必要と思われる資料等の提供の協力は得られなかった。県は平成1
9年10月3日、高知労働局に対して行政文書開示請求を行ったが、同月19日、不開示決定との回答があり、結局、立証資料を得ることができなかった。そのため、県は、相手方に対して損害賠償請求することができなかった。
平成21年1月31日に県の請求権は時効消滅した。
2 給与相当額を支給したことについて
まず、当初、給与相当額の100分の80を支給した点であるが、これは「職員の給与に関する条例」第26条第2項に基づく扱いである。同項は、公務員の地位の保障、被害者保護の観点による規定である。政策論として相手方に請求できないものを
支給することの当否を議論する余地はあるが、少なくとも規定に基づく扱いであるから、支払は合規性がある。
次に、平成17年9月7日公務災害扱いにする決定をして100分の100を支給した点である。ヒアリングに対する回答としては、「県の職務に復帰した派遣職員の休暇について(通知)」(平成14年4月1日付け総務部長通知)1(1)項の規定に基づ き、派遣先団体の業務を公務としたうえで、労働基準監督署が療養給付の証明書を提出したことから公務災害扱いをしたとのことである。しかし、上記規定は出向中の事故につき公務性を与えるだけの規定であって、因果関係があるとみなす規定ではない。公務災害に係る病気休暇と同じ取扱いをしたというのであれば、公務災害に係る病気休暇と同じく、県が因果関係の有無を主体的に判断しなければならない。
加えて、仮に労働基準監督署と同じ結論を出すとしても、県が相手方に請求する必要が生じるのであるから、そのための立証資料を入手する必要があった。立証資料を得ていれば、その内容によっては相手方に請求できたかもしれない。公務災害扱いとするタイミングであれば、その後と比べて県職員から資料提供を得られる可能性が高かったと考えられ、このタイミングで資料提供を求めるべきであったといえる。
3 時効消滅の報告等について
平成19年3月の審査会で相手方に損害賠償請求することが決定され、9月の審査会で資料収集につとめることが決定された。
労働基準監督署等に対する資料請求は、平成19年10月19日の不開示決定で終了している。県職員に対する接触と資料提供の交渉は、平成20年9月22日までであった。平成21年1月31日、損害賠償請求権が全て時効消滅しているが、そのことの報告がなされたのは、同年8月の審査会であった。
資料提供の交渉が終了した平成20年9月、請求権が時効消滅した平成21年1月の時点あるいはそれ以降、審査会に報告がなされていない。
その理由についてヒアリングしたが、審査会に改めて報告するかどうかについて主務課と行政管理課が協議をしていたとのことであった(最終的には平成21年6月2
3日の協議で7月の審査会で報告することとなり、その後、都合により翌8月の審査会で報告することとされた。6月以前から行政管理課と協議をしていたとの説明もなされたが、記録がなく、時期、内容は確認できない。)。
この点、責任の所在が明確でなかったのではないか。平成19年3月と9月の審査会で損害賠償請求や資料請求をすることとされたのは主務課であると思われるが、これらが不可能であったときの責任の所在や報告の要否について審査会で明確に定められていなかった。その結果、厳しい言い方をすれば、主務課は審査会の決定どおりに履行していない、審査会は主務課の履行状況を把握できていないxxxられる状況を招いた。
(1) ヒアリングに対して、主務課は、平成19年9月の審査会で「立証資料の収集につとめることとする」と定められ、その後、情報提供の協力要請、開示請求を履行してきたし、行政管理課に対しても平成19年11月2日付けで資料収集状況について報告したから審査会の決定に従っていると回答した。
平成19年10月12日からxx、1ヶ月分ごとに損害賠償請求権が時効消滅しているのであるから、当然、その都度審査会に報告するべきという声が主務課または行政管理課から上がるはずだと思われるが、そのような検討はなされていなかったようである。
平成19年3月の審査会で請求することが決定されたのであるから、9月の審査会で「立証資料の収集につとめることとする」と決定されたとしても(あるいは、こう決定されたからこそ当然に)、早期に、審査会に対して報告をするべきではなかったのか。
(2) その後、主務課は、平成20年9月に職員に対する文書提供依頼を終わらせている。
「立証資料の収集につとめること」を打ち切ったといえるが、このタイミングでも審査会に対する報告はなされなかった。
平成21年1月31日に全債権が時効消滅し、その後、2回の審査会が開催されたのに、時効消滅の報告がなされたのは同年8月6日の審査会である。
遅滞したことは否めない。
(3) ヒアリングによると、主務課は「資料収集につとめた上で、その結果を審査会に改めて報告する必要があるかどうか行政管理課と協議しなければならないと考えてい た」とのことである。また、損賠審ないし事務局である行政管理課から、資料収集の結果や消滅時効の点を審査会に報告するよう求めることもなかった。
このように、損害賠償請求や資料請求が不可能であったときの責任の所在や報告の要否について明確でなかったことは問題である。
直接的な原因は、平成19年9月の審査会の決定事項において責任の所在が明確でなかったことである。
間接的な原因は、事務処理要綱その他の規定において責任の所在が明確でなかったことである。審査会の決定事項をあらかじめ制約することは難しいことから、この点の改善を担保するためには、事務処理要綱その他の規定において責任の所在を明確にすることが必要であろう。
(補足)
もっとも、本件に関していえば、多くの裁判例のとおり低髄圧液症候群であることから事故と疾病の因果関係が否定されるのであれば、そもそも損害賠償請求権が成立していなかったことになり、消滅時効によって県の損害が生じなかったことになる。
とはいえ、案件の管理として責任の所在が明確でなかったこと、それゆえに損害が発生しかねない事態が生じていたことは否定できない。案件の管理について、責任の所在を明確にする必要がある(総論第3章1(2)参照)。
第3節 平成21年度(支払審査・求償審査)
<H21-2>(主務課:土木部建設管理課)第1 損賠審の判断
H21.4.20開催。原案どおり可決。
(原案及び損賠審の結論)
公権力の行使 肯定。
県から相手方に対する損害賠償 肯定。11万0160円。県から職員に対する求償 否定。故意・重過失なし。
第2 検討
本件は、平成12年から同19年まで雇用した非常勤職員の雇用保険被保険者資格取得届を忘れて、離職後の失業給付(基本手当)の受給額に不利益を生じさせた事案である。
1 「公権力の行使」要件について
損賠審は、「公権力の行使」要件を肯定した。地方公務員の雇用保険被保険者資格取得届の提出が「公権力の行使」にあたるか、直接的に関連する学説・裁判例は見当たらなかった。
度を超えた退職勧奨を行った事件について、「公権力の行使」要件を認めた判例がある(最高裁昭和55年7月10日判決・労判345号20頁)。しかし、人事権の行使そのものであって、本件とは異なる。
この点、雇用保険の被保険者資格取得届は民間企業でも行うことから私経済作用とみることもできるかもしれない。しかし、公務員の採用事務の一環としてなされたことから、「公権力の行使」ということができるだろうと思われる。
なお、本件に関して、県は、損害賠償審査会の審査に先立ち、顧問弁護士への相談をおこなっている。しかし、そこで議論したのは求償権の有無とりわけ故意または重過失の有無であって、「公権力の行使」要件は議論しなかったとのことであった。
2 県から相手方に対する損害賠償について
雇用した公務員である相手方の分について、雇用者である県の担当職員が雇用保険被保険者資格取得届を提出することは、法令上、義務付けられている。これを失念したことは、少なくとも過失によるものであって、違法といえる。
損害賠償を認めたことは是認できる。
3 求償について
単なる過失と思われること、雇用保険料の支払が労働者ごとの保険料となっていないこと、総務の職員が少人数であることなどから、重過失とまではいえないとの判断もありえると思われる。
第1 損賠審の判断
H21.4.20開催。原案どおり可決。
(原案及び損賠審の結論)
公権力の行使 肯定。
県から相手方に対する損害賠償 肯定。3万円。
県から職員に対する求償 否定。故意・重過失なし。
第2 検討
本件は、平成20年3月13日実施の拾得物県帰属物品競売に関し、本来、窃盗被害者に還付されるべき被害品が還付されず、被害関係者に損害を与えたという事案である。
1 「公権力の行使」要件について
県が、所有者の原動機付自転車の盗品等照会を怠り、遺失物法第37条第1項に基づいて当該自転車を県に帰属させ、競売に付したことにより、所有者に当該原動機付自転車の所有権喪失という損害を発生させたものである。
損害が発生したのは拾得物の県帰属によることから、「公権力の行使」要件に該当するか否かは、拾得物の県帰属の手続について検討することになる。
この点、拾得物を県に帰属させることは、遺失物法第37条第1項に基づく行為であって、私人にはできないことである。したがって、県の有する公権力に由来する。
したがって、「公権力の行使」要件をみたす。
2 県から相手方に対する損害賠償について
「公務」要件について、当該県帰属手続は公務としてなされており、要件をみたす。
「違法性」要件について、遺失物法施行規則第6条、第7条に規定された盗品等照会を怠っており、要件をみたす。
「故意・過失」要件について、当該懈怠は過失によるものであり、要件をみたす。以上より、損害賠償を認めた点は是認できる。
3 求償について
当該職員が盗品等照会をしなかったことが、故意または重過失によるものか否かが問題となる。
この点について、主務課の判断は、①当該職員が照会を怠ったのは当該原動機付自転車だけである、②当該職員は十分注意をしていた、③ましてや当該原動機付自転車
のみ故意に照会を怠ることは考えられない、とのことであった。
ヒアリングの結果、バイクと貴金属等は原動機付自転車とは別の照会システムになっていること、貴金属等は1か月以上かけて電話で3個ずつ照会したこと、自転車は
20~30台あり別館の倉庫に行って台帳と突き合わせたことなどが判明した。
このような照会方法からすれば、当該原動機付自転車のみ照会が漏れた可能性は、一定程度、考えられる。
したがって、故意または重過失がないとして求償を否定した判断は是認できる。
第3 意見
上記のとおり、損賠審の結論は是認できる。
1 しかし、ヒアリングの結果、「公権力の行使」要件について、主務課も損賠審も、私経済活動にあたらないか検討していないことが判明した。裁判所の判例は、いわゆるxx説の立場とするとされ、私経済活動は「公権力の行使」を否定されている。
本件でも、私経済活動にあたるかどうかを含めて「公権力の行使」の要件の検討が必要である(総論「第3章 意見」2(1)参照)。
2 なお、一点指摘したい。
盗品等照会のあり方として、照会を電話にて行う体制が十分なものといえるのか、疑問に感じた。照会センターにはデータベースがあって、製造番号や型式によって照合するとのことであった。であれば、電話での照会は、単にヒューマンエラーの可能性を増やすだけであって、何のメリットもないと思われる。実際、ヒアリングによると、番号等特徴のあるものだけ照会しているということであるが、本件のような照会漏れが生じている。当該職員が照会そのものを怠ったのか、照会はしたが番号を間違えたのかは不明であるが、いずれにしても電話での照会は、ヒューマンエラーを招くと思われる。改善の余地があるのではないだろうか。
公安委員会では、本件発覚後は、職員が照会した際に帰属調書の備考欄に照会した旨を記載させ、印字したものも残させた上で、上司(課長、会計官)がこれを照らし合わせる方法に改善したとのことであった。しかし、電話照会によるヒューマンエラーは伝え間違いによるものが想定されるところ、この改善策では十分に防止できるとは考えにくい。上司による照合も、本気でエラー防止をはかるためには番号まで照合することが必要なところ、負担が大きすぎて現実に履行されるか疑問に感じた。
第1 損賠審の判断
H21.4.20 開催。原案どおり可決。
(原案及び損賠審の結論)
公権力の行使 肯定。県から相手方に対する損害賠償 肯定。
県から職員に対する求償 否定。故意・重過失なし。
第2 検討
本件は、職員が刑事事件の捜査のため警察署で関係者の事情聴取した後、県警本部に帰庁した際に県警本部の駐車場でパトカーを他の車両に衝突させた事案である。
1 「公権力の行使」要件について
当該衝突事故が発生した時点における運転行為が「公権力の行使」といえるかが、問題となる。
(1) 総論で述べたとおり、判例は、いわゆるxx説をとっており、私経済作用は「公権力の行使」にあたらないとしている。
パトカーの運転が「公権力の行使」といえるかについて、例えば、被疑者を確保すべく緊急走行している際の運転行為が「公権力の行使」といえることに異論の余地はない。他方、整備のために修理工場に持ち込む際の運転行為であれば、私人や民間企業でも行うことであるから私経済作用ということができ、「公権力の行使」でないことにも異論の余地はないであろう。
(2) この点について、裁判例がある。
京都地裁昭和47年7月8日判決は、自動車の運転行為が「公権力の行使」に該当しないと判断した。
重要なので引用すると、「本件事故は国家公務員である訴外 A が書類送達という公務を行なうにつき、加害車を運転した結果ひき起こされたものであることは明らかであるが、右加害車の運転行為自体は、消防自動車、パトロールカーの運転、演習中の自衛隊車の運転等とは異なり、国の純然たる私経済作用に属し、公権力の行使には該当しないから、被告に国家賠償法一条の責任はない。」としている。ここでは、消防自動車、パトカー、演習中の自衛隊車以外の車の運転は、「公権力の行使」に該当しないとされている。
より本件に近い事案については、東京地裁昭和42年8月28日判決が、帰庁後の警察車両の運転中の事故について、「公権力の行使」でないと判断している。
同判決の該当箇所は、「被告 X は事故当日の午后四時頃、管内で発生した人身交通
事故の処理のため本件自動車に乗車して現場に赴き、事故処理を終えて帰庁してきて本件事故に遭遇したものであることが認められる。そうとすれば本件事故当時の同被告の本件自動車運転は公権力の行使に当る公務員の職務ではあっても、その行為の性質上権力作用には直接関係のない仕事であって、本件事故は国家賠償法にいわゆる『国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員がその職務を行うについて』『他人に損害を加えたとき」には該当しないと判断される。」としており、「公権力の行使」性を否定したものと理解されている。
本件においても、同判決と結論を異にする理由は見当たらない。
したがって、本件を同判決と同様の枠組みで判断するならば、「公権力の行使」要件は否定されることになろう。
(3) 同判決は地裁判決であるが、他にも、例えば、東京地裁昭和45年11月2日判決は、自衛官による営内洗車場での運転について「公権力の行使」性を否定している。構内での事故については、多くの場合、職員相互間の事故であることから公権力対 私人といった関係が想定できないことから、「公権力の行使」性を認めることは難しい
のではないだろうか。
2 県から相手方に対する損害賠償について
以上のとおり、国家賠償法第1条第1項の要件をみたさないことから、民法第71
5条の使用者責任の成否が問題となる。
県と当該職員との「使用関係」、当該職員の「違法性」及び「故意・過失」の要件をみたす。
以上より、適用法条は国家賠償法第1条第1項でなく民法第715条によるのが正当であるが、損賠審が結果として損害賠償を認めた点は是認できる。
3 求償について
民法第715条第3項による求償権の存否が問題となる。
総論で述べたとおり、求償権の制限にかかる最高裁昭和51年判決の枠組みで判断することになる。
この点について、考慮すべき項目は総論で挙げたとおりである。
過失の程度については、当該職員が被害車両の西隣の駐車枠があいていることからそこにバックで駐車しようとした際に被害車両に衝突させたという事故態様が、考慮すべき一事由となる。十分に安全確認をしていれば防止でき、過失の程度は大きいといえる。
事故前後の勤務状況については、捜査の応援のため連日午前7時頃から午後9時頃まで勤務していたとのことであった。一定程度、過重な勤務状況といえる。
これらの点から、一定程度の求償権の制限は認められるが、求償権は損害額に一定