BOT方式:Build, Operate and Transfer の略称。民間事業者が施設を建設し、維持・管理及び運営し、事業終了後に管理者等に施設所有権を移転する事業方式。 BTO方式:Build, Transfer and Operate の略称。民間事業者が施設を建設し、施設完成直後に管理者等に所有権を移転し、民間事業者が維持・管理及び運営を行う事業方式。
平成 20 年 7 月 15 日
PFI事業契約に際しての基本的考え方とその解説
(案)
目 次
目 次 1
まえがき 7
1.PFI事業契約に際しての基本的考え方とその解説作成の経緯 7
2.本書作成に当たっての基本的な考え方 8
3.前提となる諸条件 13
Ⅰ 事業契約 19
第1章 x x 19
1-1 事業全体にかかる事項(契約GL:1) 19
1-2 契約の目的等(契約GL:1-1) 20
1-3 事業の趣旨の尊重(契約GL:1-2) 22
1-4 事業概要(契約GL:1-5) 23
1-5 事業日程(契約GL:1-4) 24
1-6 履行保証(契約GL:6-4) 26
1-7 許認可の取得(契約GL:1-9) 28
1-8 選定事業者の資金調達(契約GL:1-7) 30
1-9 規定の適用関係(契約GL:1-6) 35
1-10 統括管理業務(新設) 36
第2章 施設整備業務(施設整備に係る設計) 37
2-1 施設の設計にかかる事項(契約GL:2-2) 37
2-2 施設の設計、設計図書の提出(契約GL:2-1-1) 38
第3章 施設整備業務(施設整備に係る建設) 45
3-1 国有地の貸付け(契約GL:1-8) 45
3-2 土地の引渡し(契約GL:2-2-2) 47
3-3 建設工事に伴う各種調査(契約GL:2-2-3) 49
3-4 近隣説明(契約GL:1-10) 52
3-5 工事監理者の設置(契約GL:2-2-6) 54
3-6 施設の建設工事にかかる事項(契約GL:2-2) 55
3-7 第三者による実施(建設工事)(契約GL:2-2-5) 57
3-8 施工計画書の提出(契約GL:2-2-4) 59
3-9 保険加入義務(施工期間中)(契約GL:6-5) 61
3-10 管理者等による確認(契約GL:2-3,2-3-1) 64
3-11 完工検査(契約GL:2-3-2) 65
3-12 工期の変更(契約GL:2-2-7) 66
3-13 第三者に与える損害(設計、施工段階)(契約GL:2-2-8) 69
3-14 不可抗力による損害(設計、施工段階)(契約GL:2-2-9) 72
3-15 施設の引渡し(契約GL:2-4,2-4-1) 76
3-16 引渡し(又は運営開始)の遅延(契約GL:2-4-2) 78
3-17 施設の瑕疵担保(契約GL:2-4-3) 81
第4章 建設モニタリング 84
4-1 建設モニタリングの構成(新設) 84
4-2 工事監理者の設置(契約GL2-2-6) 87
4-3 選定事業者によるセルフモニタリング(新設) 89
4-4 管理者等によるモニタリング(契約GL2-3、2-3-1) 90
4-5 中間確認(新設) 93
4-6 完工検査(契約GL:2-3-2) 95
第5章 運営・維持管理業務 99
5-1 維持・管理、運営業務体制の確保(契約GL:2-3-3) 99
5-2 維持・管理、運営の実施(契約GL:3-1) 101
5-3 第三者による実施(維持・管理、運営)(契約GL:3-2) 102
5-4 統括管理業務(新設) 105
5-5 業務別仕様書(契約GL:3-3) 109
5-6 保険加入義務(維持・管理・運営段階)(契約GL:6-5) 113
5-7 第三者に与える損害(維持・管理、運営段階)(契約GL:3-5) 117
5-8 不可抗力による損害(維持・管理、運営段階)(契約GL:3-6) 119
第6章 モニタリングの実施 122
6-1 モニタリングとは 122
6-2 モニタリング計画(新設) 123
6-3 選定事業者によるモニタリング(新設) 126
6-4 業務報告(契約GL:3-4) 127
第7章 サービス対価の支払 133
7-1 PFI事業における「サービス対価」の考え方(新設) 133
7-2 「サービス対価」の支払(契約GL:4-1) 134
7-3 「サービス対価」の減額(契約GL:4-2) 137
第8章 サービス内容及びサービス対価の変更等 142
8-1 長期継続契約であるPFI事業契約の変更の考え方(新設) 142
8-2 物価及び金利の変動に伴う「サービス対価」の改定(契約GL:4-3)
............................................................................................................................... ... 147
8-3 物価の変動に伴う施設整備費の改定(新設) 149
8-4 物価及び金利の変動以外による「サービス対価」の改定(特にソフトサービス)(新設) 152
8-5 サービス内容変更とそれに伴うサービス対価の改定(新設) 157
第9章 表明及び保証等 172
9-1 表明及び保証等(新設) 172
第10章 契約期間及び契約の終了 176
10-1 PFI事業における契約の終了(契約GL:5) 176
10-2 契約期間(契約GL:1-3) 177
10-3 選定事業者の債務不履行による解除(契約GL:5-1) 178
10-4 管理者等の債務不履行による解除(契約GL:5-2) 183
10-5 管理者等による任意解除(契約GL:5-1の7) 185
10-6 解除の効力(契約GL:5-4) 193
10-7 違約金(契約GL:5-5) 199
10-8 契約期間終了前の検査(契約GL:3-7) 203
10-9 契約終了時の事務(契約GL:5-6) 205
第11章 損害賠償等 207
11-1 遅延損害金(契約GL:6-3) 207
11-2 損害賠償(新設) 209
第12章 法令変更 210
12-1 法令変更(契約GL:5-3) 210
第13章 不可抗力 222
13-1 不可抗力による損害への対応(契約GL:6-8) 222
第14章 紛争解決 230
14-1 紛争解決(新設) 230
第15章 直接協定 240
15-1 直接協定(契約GL:5-1の5,6) 240
第16章 著作xx 243
16-1 著作xx(新設) 243
第17章 雑則 246
17-1 経営状況の報告(契約GL:6-2) 246
17-2 守秘義務(契約GL:6-6) 248
17-3 選定事業者の権利義務の処分(契約GL:6-1) 250
Ⅱ 基本協定 252
※ 契約GL:契約に関するガイドライン-PFI事業契約における留意事項について-
(平成十五年六月二十三日)
本書で引用した法令等は次のとおりである。
法律
・民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(xxxx年七月三十日法律第百十七号):以下「PFI法」と略称。
・地方自治法(昭和二十二年四月十七日法律第六十七号)
・国家賠償法(昭和二十二年法律第百二十五号)
・行政機関の保有する情報の公開に関する法律(昭和二十四年十二月十二日法律第二百五十六号):以下「情報公開法」と略称。
・会計法(昭和二十二年三月三十一日法律第三十五号)
・公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(平成十二年十一月二十七日法律第百二十七号):以下「入札契約適正化法」と略称。
・公共工事の前払金保証事業に関する法律(昭和二十七年六月十二日法律第百八十四号)
・政府契約の支払遅延防止等に関する法律(昭和二十四年十二月十二日法律第二百五十六号):以下「支払遅延防止法」と略称。
・国有財産法(昭和二十三年六月三十日法律第七十三号)
・国の債権の管理等に関する法律(昭和三十一年xx二十二日法律第xx四号)
・建築基準法(昭和二十五年xx二十四日法律第二百一号)
・住宅の品質確保の促進等に関する法律(xxxx年六月二十三日法律第xxx号)
・民法(民法第一編第二編第三編)(明治二十九年四月二十七日法律第八十九号)
・会社法(平成十七年七月二十六日法律第xxx号)
・建設業法(昭和二十四年xx二十四日法律第百号)
・建築士法(昭和二十五年xx二十四日法律第二百二号)
政令
・民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律施行令(xxxx年九月二十二日政令第二百七十九号):以下「PFI法施行令」と略称。
・地方自治法施行令(昭和二十二年xx三日政令第十六号)
・予算決算及び会計令(昭和二十二年四月三十日勅令第百六十五号):以下「予決令」と略称。
・国の債権の管理等に関する法律施行令(昭和三十一年十一月十日政令第xx七号)
・建設業法施行令(昭和三十一年八月二十九日政令第二百七十三号)
その他
・民間資金等の活用による公共施設等の整備等に関する事業の実施に関する基本方針(平成十二年三月十三日総理府告示第十一号):以下「基本方針」と略称。
・PFI事業におけるリスク分担等に関するガイドライン(xxxx年七月二十七日):以下「リスクガイドライン」と略称。
・契約に関するガイドライン-PFI事業契約における留意事項について-(平成十五年六月二十三日):以下「契約ガイドライン」と略称。
・モニタリングに関するガイドライン(平成十五年六月二十三日)
・公共工事標準請負契約約款(昭和二十五年二月二十一日中央建設業審議会作成 xxxx年三月一日最終改正)・契約事務取扱規則(昭和三十七年八月二十日大蔵省令第五十二号)
・政府契約の支払遅延防止に対する遅延利息の率を定める件の一部改正について(平成十五年三月三日財務省告示第七十六号)
・国の債権の管理等に関する法律施行令第29条第1項本文に規定する財務大臣が定める率を定める件及び国の債権の管理等に関する法律施行令第37条第1項に規定する財務大臣が定める率を定める件の一部改正について(平成十五年三月二十五日財務省告示xx九号)
本書において使用されている用語の定義は次のとおりとする他、特に断りのない限り、P FI法及び基本方針における定義に従うものとする。
コンソーシアム構成企業:民間事業者の公募にあたり組成される法人格の無い共同企業体
(以下、「コンソーシアム」という。)の構成企業であり、選定事業の落札者となる企業。(選定事業者の設立にあたって出資を行うこととなり、選定事業に係る業務を選定事業者から委託を受け、又は請け負うこととなる。)1
受託・請負企業:選定事業にかかる業務を選定事業者から委託を受け、又は請け負う企業
(コンソーシアム構成企業を除く。)
設計企業:コンソーシアム構成企業又は受託・請負企業のうち設計を行う企業
建設企業:コンソーシアム構成企業又は受託・請負企業のうち建設工事を施工する企業 維持・管理、運営企業:コンソーシアム構成企業又は受託・請負企業のうち維持・管理、
運営を実施する企業
下請企業:選定事業にかかる業務をコンソーシアム構成企業又は受託・請負企業から委託を受け、又は請け負う企業
サービス対価:管理者等が、施設の設計・建設工事、施設の維持・管理及び運営の実施の対価として、選定事業者がPFI事業契約、入札説明書等及び自らの入札参加者提案に従い業務を適切に実施していることを条件に選定事業者に支払う一定の金額
建設工事費:設計・工事監理費、建設工事費、設備工事費、建中金利等維持・管理費及び運営費:業務委託費、修繕費、人件費、物品購入費等
BOT方式:Build, Operate and Transfer の略称。民間事業者が施設を建設し、維持・管理及び運営し、事業終了後に管理者等に施設所有権を移転する事業方式。
BTO方式:Build, Transfer and Operate の略称。民間事業者が施設を建設し、施設完成直後に管理者等に所有権を移転し、民間事業者が維持・管理及び運営を行う事業方式。
(条項例)
甲:公共施設等の管理者等乙:選定事業者
その他、条項例中の用語については、末尾の「条項例で使用されている用語のリスト」を参照されたい
1 条項例では、コンソーシアム構成企業、受託・請負企業はともに「協力企業」という名称を用いている。
まえがき
1.PFI事業契約に際しての基本的考え方とその解説作成の経緯
平成11年にPFI法が施行されてから9年近くが経過した。実施方針の公表件数は3
00件を超え、PFIは公共施設の整備の一手法として定着しつつある。
一方、運営段階に入ったPFI事業においては、PFI法第10条第1項に定める協定
(以下「PFI事業契約」という。)の運用や解釈等をめぐっていくつかの問題点が顕在化している。例えば、事業の前提条件である事業環境が変化しても契約に定められた各種条件の変更ができなかったり、モニタリングが適切に機能しなかったりといった問題である。また、当事者間が事業契約の解釈等をめぐって対立した場合に、紛争解決が円滑に進まないという事態も一部に生じている。
PFI事業契約に関しては、平成15年に「契約に関するガイドライン」(以下「契約ガイドライン」という。)が公表され、PFI事業契約における留意事項が示されているところである。ここで、契約ガイドラインは、施設の設計・施工、維持・管理業務を主たる内容とした事業が想定されている。そのため、これら以外の業務を含むPFI事業において生じている諸課題に対する考え方は十分に示されているとはいえない。
民間資金等活用事業推進委員会(以下「本委員会」という。)は、平成19年11月に「本委員会報告―真の意味の官民のパートナーシップ(官民連携)に向けて―」をとりまとめた。同報告では、公共施設等の管理者等(以下、「管理者等」という。)や経済界の喫緊のニーズに対応するため「重点的に検討し速やかに措置を講ずべき課題」が整理されたが、その中で、事業環境変化への対応やモニタリングのあり方等が「個別具体のプロセスごとの課題」として位置づけられた。さらに、同課題に対しては、横断的な受け皿となる「標準契約書モデル及びその解説」等の検討を行うことが指摘されたところである。
そこで、PFI事業契約に関する重点検討課題として、以下5項目を取り上げ、PFI事業契約での規定の考え方につき整理を行った。その上で、契約ガイドラインに示された各項目を一般的なPFI事業契約の構成に基づき再編成し、重点検討課題、その他記載の充実を図るべきと考えられる事項につき追加を行い、「PFI事業契約に際しての基本的考え方とその解説(案)」(以下、「本書」という。)として取りまとめることとした。
①事業環境変化に対応した柔軟なサービス内容・サービス価格の変更
②管理者等の任意解除
③中立的な第三者の関与を含む紛争調整メカニズム
④法令変更
⑤モニタリング・支払いメカニズムの充実
2.本書作成に当たっての基本的な考え方
契約ガイドラインは、サービス提供業務(本書では、設計・施工が完了し、当該施設の供用が開始された後の全ての業務を指す意味で用いる)の比重が軽い事業を念頭において作成したが、本書では、サービス提供業務の比重が重い事業についても配慮している2。サービス提供業務の比重が軽い場合、長期契約であっても社会、経済情勢の変化や法令変更等が事業に与える影響が比較的小さいため、予め決定した諸条件が著しく合理性を欠く事態になる可能性は、サービス提供業務の比重が重い事業に比べて小さかった。本書では、サービス提供業務の比重が重い事業についても扱うこととしたため、これらに対応することを重視した。なお、サービス提供業務の比重が重い事業を対象とするとしても、本書で主に想定しているのはサービス購入型であり、需要リスクを選定事業者に移転しない事業であるが、需要リスクを選定事業者に移転する事業についても、本委員会での十分な議論を経た上で対象範囲に含めていくことを想定している。そして、双方の本質的な違いを含め理解した上で、それぞれの条項の在り方を検討する必要がある。
これらの点も含め、本書作成にあたっては、以下を基本的な考え方として契約書に規定すべき事項の検討を行った。なお、本書作成にあたっては、2007年3月に刊行された英国財務省の「Standardisation of PFI Contracts Version 4」(SoPC4)3を参考とした。
(1)国民・市民のためのサービスの価値の最大化を目指して
・PFIの本質は、国民・市民にとってより利便性の高いサービスをより低廉な費用で提供するには何をするべきかを考えることである。したがってPFI契約の作成にあたっては、財政等の制約の下で、国民・市民のためのサービスの価値を最大化することを基本的な視点とすべきである。PFI契約は、管理者等と選定事業者との間の契約であるが、以下に示す(2)から(8)について検討する際には、あくまで国民・市民のためのサービスの価値を最大化することがPFIの本質であることに常に立ち戻る必要がある。
(2)官民のコミュニケーションの必要性
・PFIは官民の協働事業であるため、お互いに協力し合うことが何より重要であり、それが担保されるような仕組み(具体的な契約条項を含む)を作成することが必要である。
2 一般に「運営業務の比重が重い」といわれる事業でも、事業の核となる業務は管理者等によって行われ、選定事業者に委託されるのは周辺業務のみである場合も少なくない。このような場合に「運営業務の比重が重い」と表現すると、選定事業者が対象施設の運営を主体的に行っているかのように誤解を招く可能性がある。したがって、本書では、「サービス(提供)業務の比重が重い」という表現を用いることとした。
3 英国では、PFI事業契約をめぐり現下に生じている問題に対して課題志向型で新たな内容を盛り込んだ「Standardisation of PFI Contracts」が1999年以来4版を重ねている(以下「SoPC4」という)。PFI事業契約の標準的な考え方が整理され、課題への対応についても一定の方向性が示されているため、PFI事業の関係者の認識のずれが生じにくくなり、 PFIの裾野拡大の一助となったと言われている。
選定事業者は自ら(究極的には構成企業の株主)の利益を最大にすることを目指し、管理者等は少ない税負担で良質のサービスを得ることを目指しており、官と民では価値観が大きく異なるのが現実である。また、メンタリティや行動原理にも相当の隔たりがある。
・しかしながら、財政等の制約の下で国民・市民のためのサービスの価値を最大化するためには、民間事業者の資金、経営能力及び技術的能力と管理者等の有する公共事業に関するノウハウ等を結びつけ、その相乗効果を最大限発揮させる必要がある。このため、官民の双方がお互いの相違点を理解した上で積極的にコミュニケーションを図り、連携して両者の間にある障壁を乗り越え、国民・市民のためのサービスの価値の最大化を目指していくことが重要である。
(3)真の意味の官民のパートナーシップを目指して
・PFIでは、VFMの最大化のために官民が良好なパートナーシップを形成することが前提となる。そのためには、官民が対等な立場で事業の実施にあたる必要がある。
・契約とは契約当事者間の「利害の調整」がその本来の目的の一つでもあり、契約の時点では、明らかにこれら当事者間において、お互いの義務履行に係る合理的な期待感が存在してはじめて、契約が成立する。ただし、必ずしも契約が完璧ではなかったり、時間の経過と共に大きな環境変化があったりした場合、双方の理解や認識にギャップが生まれる。このギャップを埋め、問題を克服するための手法としてコミュニケーション、協力、連携が重要となり、このようなことが可能となるような契約条項が求められる。
・良好なパートナーシップの形成のためには、まず、お互いの情報を共有することが必要である。特に共有されるべき重要な情報は、管理者等の情報に関しては、管理者等が目指す事業のアウトカム(管理者等の政策目的や求める成果)やアウトカム実現に向けて選定事業者に期待する役割であり、これらは事業者選定の段階で業務要求水準書等に明確に示されるべきほか、事業の運営段階においても適宜情報の共有と議論がなされることが財政等の制約の下でVFMを最大化するために有効である。一方、選定事業者の情報に関しては、事業計画やそのベースとなる財務モデル(選定事業者の将来の収支等の予想等を算定するためのワークシート・モデル)がある。特に財務モデルについては、サービス内容の変更や契約解除時の損失補償額の算定などの際の根拠となることもあるため、一定のタイミングで合意しておくことが有用である。
・また、対等な立場という観点からは、例えば、両者に重大な影響を与えるような意思決定をどちらか一方が行うこと等を出来る限り避けることが望ましい。公共サービスの性格上、管理者等の意思が重視される場面も必要となるが、その場合は、選定事業者に対する金銭面での補償の明確化等により、選定事業者の契約上の地位を守る観点から規定を入れる必要がある。
・中立的な第三者を紛争解決に関与させることにより、事業を継続したままxxな解決を
図る仕組みを工夫することも効果がある。
(4)契約の柔軟性の確保
・PFIでは、長期間にわたる契約及びこれに伴う選定事業者の長期にわたる投融資を前提とし、選定事業者のノウハウを効果的に発揮させ、公共施設等の整備、維持管理、運営等を実現する。しかし、長期にわたる運営期間中に当初定められた前提条件や前提となった環境が大きく変化する場合などの状況変化に応じて、契約条件の変更が必要になることがある。また、変更が必要となった場合に予めルールを決めず当事者間の協議のみで全てを決めることは、合意できなかった場合に困難が生じることに加え、透明性の確保という観点からも望ましいとはいえない。したがって、状況が変化した場合に具体的にどのように契約を変更していくのか、またどのように価格を決定していくのかという変更メカニズムの規定を充実させることが必要である。この際、将来変化が予想される事態をできるだけ多く想定し、変化により影響を受ける業務領域、業務内容、並びに契約上合意された指標及び基準について、事情変更事由に基づく変更の手順と要件を明確に規定しておくことが重要である。英国の SoPC4 においても、変更メカニズムの部分については大きく改訂され、充実が図られているところである。
・契約の柔軟性は、長期にわたる状況変化に的確に対応することが目的であり、業務要求水準等が不明確なまま入札を行って後に協議で変更するということを容認するためのものではない。したがって、当初の業務要求水準を明確に作成しなければ、変更の際の価格算定の際に計算根拠も示せなくなるため変更も困難になること、透明性の確保、xxな入札手続の確保(すなわち、落札できなかった応札者との関係でも不xxが生じないこと)という点でも問題が生じることに留意する必要がある。
・また、PFIの本質は、設計・施工・維持管理・運営を一体として発注することにあることについても留意すべきである。したがって、入札価格についても一体として発注することを前提に決定しているのであり、一部分のみ切り離してマーケット価格と比較することは本来的に難しいということについて理解される必要がある。よって、この観点からも、あくまでも原則はできるだけ条件を変更しなくても済むよう当初の段階で条件を決定するとの重要性が理解される必要がある。
・なお、契約の柔軟性が高くても、契約変更に伴うサービス対価の増加分について管理者等に負担能力がなければ機能しないことから、必要に応じて予算についても一定程度余裕をみておくべきである。
(5)当初の契約条件の明確化
・PFIでは、性能発注により民間事業者の有するノウハウを効果的に発揮させ、民間の創意工夫を最大限引き出すことを意図している。そのため、提案段階では詳細な内容が詰まっておらず、事業者選定後に管理者等と選定事業者の間の協議を経て設計書や業務
仕様が最終的に確定することもある。この際、選定事業者が想定していなかった様々な要求が管理者等からなされ、対応を求められる場合が見られる。
・しかし、原則として、契約締結時に業務要求水準を満足する選定事業者の提案内容に基づく仕様を確定し、その後は価格改定を伴うサービス内容の変更(本書第8章参照)として対応する必要がある。
(6)リスク分担に係る曖昧さの排除
・PFIでは、官民のリスク分担を契約で明確に定め、リスクが顕在化した場合の責任の所在を明確化することで、事業全体のリスクを最小化する考え方をとっている。しかし、リスク分担の基本的な考え方が決まっていても、具体的な判断基準やプロセスが明確に規定されていないために官民の認識の齟齬が生じ、紛争に発展する場合もある。その観点から、可能な限りリスク分担が明確になるよう規定する必要がある。例えば、「著しい」
「過分の」「主要な」といった抽象的・主観的要件もできるだけ使用しないようにすることが望ましい。
(7)選定事業者の在り方と統括管理機能
・PFIでは、入札説明書において、落札した民間事業者にPFI事業の実施のみを目的とする株式会社の設立を義務づけていることが多い。このように特別の目的のみのために設立された会社は、特別目的会社(SPC。「特定目的会社」と異なり、法令上の概念ではない)と呼ばれ、このSPCが選定事業者となる。
・しかし、PFIでは選定事業者としてのSPCは、資産を保有するのみならず、複数の委託先を通じて業務を行うこと、これら契約を統括的に管理し、そして各業務間で調整の必要が生じた場合にはSPCが責任を担い、委託先との間で問題を解決することなどが期待されている。すなわち公共サービスの提供に必要となる設計、施工、維持管理等の業務を選定事業者に包括的に委託することで、選定事業者が総合的に関係者を管理することが期待されている。したがって、証券化等で使用されているSPCとは性格が異なる。
・こうした観点から、選定事業者の業務内容に統括管理機能を明確に位置づける取り組みが一部の分野で進んでいるが、それ以外の分野の事業においてもこのような業務を含めることがVFMの向上に寄与しないか検討すべきである。ただし、統括管理業務を明確に位置づける試みは比較的最近始まったものであり、本業務の有効性及び在り方(条文例を含む)については、今後検討する必要がある。
・業務要求水準を満足するための設計、施工、維持管理等の業務の調達を総合的に管理する機能は、英国においても重視されているところであり、PFIにおいて個別の業務は行わずSPCへの出資とPFI全体の管理に特化してPFIに参加している企業も存在している。PFI事業のVFMをさらに高めていくためには、わが国においてもこうし
た方法についての検討が行われることが望ましいと考えられる。
(8)国民・市民の利益の観点からの事業の監視
・PFIは、選定事業者が主体的に取り組む事業であると同時に、整備対象とする施設は公共・公用・公益的施設であり、サービス購入型であれば納税者の負担により実施される事業である。
・この観点からは、納税者たる国民・市民に対して、事業の成果を積極的に公表し、その視点を取り入れることが必要である。具体的には、管理者等はモニタリングを責任をもって主体的に行うことに加え、選定事業者の機密に属する事項を除き、モニタリング結果をホームページ等により公表し、一般国民・市民から意見を求めることが考えられる。
(9)不断の改善に向けて
・実務に携わっている方々等の要望を踏まえて、本書を限られた時間の中で整理したが、必ずしも十分とはいえない。したがって、今後パブリックコメントを通じ、PFI事業の現場で活躍されている実務家の皆様方の意見を真摯に伺うことにより、よりPFIの促進に役立つものに改善していく予定である。このためには、PFI事業に関わる関係者の皆様方等にご参集いただいて意見交換会を開催し、その場でご意見を伺うことも必要と考えている。
(10)最後に
・本書では、項目ごとに条文例を示すとともに、可能な限り早いタイミングで、パブリッ クコメント、意見交換会の開催などPFI事業に関わる関係者との意見の交換及び本委 員会における十分な議論を経た上でPFI事業契約の例を添付することを想定している。
・条文例については、実際は、案件ごとの特有の事情を踏まえた契約を作成する必要があることから、ここにあげられている条文例をそのまま用いることを想定しているものではない。また、条文例は各項目で必要になる条項を網羅的に示したものではない。ただし、本書で示した条文例をベースとしてこれに修正を加える形で使うことにより、ノウハウの共有が促進され、本書の改定を通じて内容が充実したものになっていくことが期待される。
・また、今後、事業分野ごとに、それぞれの事業にふさわしい事業契約書例を作成していくことが望まれる。
・なお、本書は、契約書を作成する際の重要な留意点の一部を示したものであって、本書のみで契約を作成できるようにすることを意図したものではない。個々のPFI事業において用いられる契約書の規定は、管理者等と選定事業者双方が、それぞれの責任において、本書を参考にしながらも、それぞれの事業に即した適切な内容となるように検討を加えた上で取り決めて頂きたい。
3.前提となる諸条件
本書は、国がPFI事業契約、直接協定、及び基本協定の締結にかかる検討を行う上での実務上の指針の一つとして、現在までに公表されている我が国のPFI事業契約等の規定内容などを踏まえ、多くのPFI事業契約において規定が置かれることが想定される事項ごとに、主たる規定の概要、趣旨、適用法令、留意点及び条文例等を解説したものである。国がPFI事業を実施する場合、PFI法及び基本方針にのっとった上で、本書に沿ってPFI事業を実施することが望ましい。また、本書は、国以外の者が実施するPFI事業においても参考となりうるものである。
本書は、各省庁が、PFI事業の円滑な実施のため、法及び基本方針にのっとった上で、状況に応じて工夫を行い、本指針に示したもの以外の方法等によってPFI事業を実施することを妨げるものではない。
なお、国以外の者が参考とする上での便宜を図るため、国以外の者が実施する場合の適用法令について、主に脚注において示している。
本書の目次構成は、原則として、同法第2条第3項に定める公共施設等の管理者等が同法第2条第5項に定める選定事業者に委ねる業務内容ごとに時系列で章立てるPFI事業契約書に従っている。
PFI事業には、多様な事業スキームがありえるが、この解説にあたっては、
① 性能発注方式を採用し総合評価一般競争入札方式により事業者を選定すること
② コンソーシアムの構成企業等が出資により新たに株式会社を設立し、これが選定事業者となること(但し、管理者等が、入札説明書等において必ずしもコンソーシアムのすべての構成企業に対する出資を求めるものでないことを認めた場合は、出資しないことができる。なお、管理者等が入札説明書等においてその旨を明らかにする必要がある。)。
③ 選定事業者は選定事業以外の事業を行わないこと
④ 管理者等が所有する土地を選定事業の用に供するため選定事業者に対し貸し付けること
⑤ 施設の設計・施工、維持・管理及び運営業務を実施することによって公共サービスを提供すること
⑥ 選定事業の主たる資金調達手法は融資金融機関等によるプロジェクトファイナンス方式によること
* プロジェクトファイナンスとは、特定のプロジェクト(事業)に対するファイナンスであって、そのファイナンスの利払い及び返済の原資を原則として当該プロジェクトから生み出されるキャッシュフロー(収益)に限定し、そのファイナンスの担保を当該プロジェクトの資産に依存して行う金融手法。
⑦ それら事業資金の回収は管理者等が支払う「サービス対価」によること
などを仮定している。
これらの仮定は、PFI事業契約を解説するにあたり、解説の対象となる事業スキームを一定程度特定化する必要性から置いたものであって、こうした事業スキームが、PFIの実施にあたって他の事業スキームに比べ、すべての点において望ましいという趣旨ではない。なお、解説の便宜から対比することを目的として多様な事業スキームの可能性の一部や公共工事標準請負契約約款の条項を紹介することもある。管理者等は、本解説を参考にしつつ、自らの判断で、各選定事業の内容、規模、実施場所の地域特性等に照らして、最も適した事業スキーム、PFI事業契約の規定内容等を定める必要がある。
PFI事業契約は従来型の公共工事の請負契約と比して、長期に亘ることが通例であり、また、選定事業者、コンソーシアム構成企業、受託・請負企業、及び融資金融機関等関係者が多数に及ぶ。PFI事業契約は、PFI事業の中核をなす契約であり、PFI事業契約の一方の当事者となる選定事業者のみならず、コンソーシアム構成企業、受託・請負企業及び融資金融機関等関係者にも直接的な影響を与えるものである。管理者等は、PFI事業にかかる契約関係の安定性の確保の観点から、これら関係者に与える影響にも配慮しつつ、継続的かつ安定的な公共サービスの提供等を実現するPFI事業契約の規定について検討する必要がある。
なお、この解説は、現在までに公表されている我が国のPFI事業契約の内容等を参考にして作成したものであり、今後、PFI事業契約の規定は、事業内容の多様化、さらには、我が国の経済社会環境の変化等により、多様に変遷していく可能性がある点にも留意が必要である。
また、PFI事業をめぐる管理者等、選定事業者、コンソーシアム構成企業、受託・請負企業、及び融資金融機関等の選定事業関係者は以下のような契約関係にあることを想定している。
(1)PFI事業契約
・選定事業者は選定事業にかかる施設の設計、建設工事、維持・管理及び運営の業務並びにかかる資金調達を行うことにより管理者等の要求する水準の公共サービスを管理者等に対し提供する義務を負い、管理者等は選定事業者に対し提供される公共サービスの対価を支払う義務を負うことなどを規定する、管理者等と選定事業者との間で結ばれる契約。
(2)基本協定
・選定事業に関し、コンソーシアムが落札者として決定されたことを確認し、管理者等及び当該コンソーシアムの義務について必要な事項を定める管理者等とコンソーシアムの構成企業との間で結ばれる契約。落札者であるコンソーシアムの構成企業が選定事業者となる株式会社を設立すべきことや選定事業の準備行為に関する取扱い等について規定
される。
(3)直接協定(Direct Agreement)
・選定事業者による選定事業の実施が困難となった場合などに、管理者等によるPFI事業契約の解除権行使を融資金融機関等が一定期間留保することを求め、資金供給している融資金融機関等による選定事業に対する一定の介入(Step-in)を可能とするための必要事項を規定した管理者等と融資金融機関等との間で直接結ばれる協定。業務要求水準の未達や期限の利益の喪失(*)等一定の事項が生じた場合の相互の通知義務や、選定事業者の発行する株式や有する資産への担保権の設定に対する管理者等の承諾などについて規定される。
* 期限の利益とは、期限が到来するまでは債務の履行を請求されないというように、期限がまだ到来していないことによって当事者が受ける利益である。期限の利益が債務者に認められるのは、債権者が債務者を信用し履行の猶予を与えたのであるから、特約により、債務者に信頼関係を破壊するような行為があった場合には、債務者に期限の利益を喪失、債権者は期限の到来を主張し、ただちに履行を請求することができるものと定める場合がある。
(4)事業関連契約(業務委託契約、業務請負契約など)
・選定事業者がPFI事業契約に従い施設の設計、施工、維持・管理及び運営の業務を実施し、公共サービスを提供するため、これら業務を第三者たるコンソーシアム構成企業又は受託・請負企業に委託し、又は請け負わせる、選定事業者とコンソーシアム構成企業又は受託・請負企業との間で結ばれる契約。及び、これら業務を委託された又は請け負ったコンソーシアム構成企業又は受託・請負企業がこれら業務をさらに下請企業に委託し、又は請け負わせる、受託・請負企業と下請企業との間で結ばれる契約。
(5)融資契約
・融資金融機関等が選定事業者に対して融資するにあたり、融資金融機関等と選定事業者との間で締結される契約。主な規定内容としては、貸付合意、資金使途、貸付実行手続、貸付実行前提条件、元本弁済、支払金利、遅延損害金、弁済充当方法、表明及び保証、借入人誓約、期限の利益喪失事由等が想定される。
(6)担保関連契約
・融資金融機関等が選定事業にかかる資産及び権利について担保権を取得することを目的とした契約。これらの担保設定は、担保権対象の売却を通じた融資回収を想定しているのではなく、選定事業の継続を図ることを通じた融資回収を想定し、事業修復を行うことを企図しているものであり、担保権者として金融機関等が他の債権者に対する優先権を保持して、他の債権者等が選定事業にかかる資産等を差し押さえる利益を失わせるこ
とにより、第三者の介入を排除し、円滑な事業継続により融資回収を確実にすることを目的としている。担保設定の対象としては、PFI事業契約上の選定事業者の権利、選定事業者の発行株式や事業用資産等が想定される。
(7)債権者間契約
・複数の融資金融機関等により融資機関団が組成される場合に、融資機関団の債権者としての権利行使等にあたっての意思決定方法、担保権の実行方法等債権者間の基本的な権利義務関係を定める債権者間で結ばれる契約。優先貸出人間でのみ締結される場合のほか、出資者による劣後貸付が行われる場合や選定事業者が融資に関連して金利スワップ契約(*)を結ぶ場合などには、優先貸出人間での「優先貸出債権者間契約」に加え、出資者や金利スワップ契約の相手方を契約当事者に加えた「債権者間契約」を締結する場合もある。
* 金利スワップとは、選定事業者が変動金利で調達している場合にこれを実質的に固定金利の調達に変換する金融手法である。選定事業者が変動金利による金利支払を行っている場合に、別途、金融機関に対し固定金利を支払い、変動金利を受け取る契約を結ぶことにより、選定事業者が実質的に固定金利による金利支払いを行っていることと同様の効果を得ることを目的とする。
(8)出資者支援契約
・融資金融機関等と選定事業者の株主となる出資者(コンソーシアム構成企業)との間で締結される契約。主な規定内容としては、出資者による追加の資金拠出の義務(株式出資又は劣後貸付)、選定事業者に対する支援協力義務等が想定される。
(9)株主間協定
・選定事業者の株主(コンソーシアム構成企業その他出資者)間で、当該株式会社の運営や選定事業の運営にかかる責任分担等についての基本的な合意事項を定める協定。主な規定内容としては、株主間の出資比率、株式会社の設立目的や事業内容、株式の譲渡等処分制限、株主の業務分担、株主の劣後融資の分担等が想定される。
コンソーシアム構成企業
コンソーシアム構成企業
コンソーシアム構成企業
その他出資者
17
契約関係の例(基本協定を中心に)
2.基本協定
9.株主間協定
x x
選定事業者
その他出資者
コンソーシアム構成企業
コンソーシアム構成企業
コンソーシアム構成企業
管理者等
保険会社
融資金融機関等
下請企業
下請企業
下請企業
コンソーシアム構成企業
コンソーシアム構成企業
コンソーシアム構成企業
受託・請負企業
受託・請負企業
融資金融機関等
3.直接協定
1.PFI事業契約
5.融資契約
6.担保関連契約
保険契約
7.債権者間契約
4.事業関連契約
6.担保関連契約
8.出資者支援契約
4.事業関連契約
下請企業
下請企業
下請企業
コンソーシアム構成企業
受託・請負企業
受託・請負企業
コンソーシアム構成企業
コンソーシアム構成企業
融資金融機関等
保険会社
選定事業者
融資金融機関等
管理者等
18
契約関係の例(PFI事業契約を中心に)
Ⅰ 事業契約 第1章 x x
1-1 事業全体にかかる事項(契約GL:1)
1.概要
・契約目的、契約書に用いる用語の定義、準拠法、事業概要、事業日程、契約書類相互間の適用関係等、契約全体にかかる事項について規定される。
2.PFI事業契約書作成に関する法令等上の留意点
・PFI法第10条第1項においては、「選定事業は、基本方針及び実施方針に基づき、公共施設等の管理者等及び選定事業者が策定した事業計画若しくは協定又は選定事業者
(当該施設の管理者である場合を含む。)が策定した事業計画に従って実施されるものとする。」と規定されている。また、基本方針においては、「公共施設等の管理者等と選定事業者との間の合意について、xxにより、当事者の役割及び責任分担等の契約内容を明確にすることが必須であり(契約主義)」(基本方針前文)と定められている。
・会計法においては、契約担当官等は、政令の定めるところにより、契約の目的、契約金額、履行期限、契約保証金に関する事項その他必要な事項を記載した契約書を作成するものと規定されている(会計法第29条の8第1項及び予決令第100条)。
・また、管理者等がPFI事業契約につき契約書を作成する場合においては、会計法の定めに従い、契約担当官等が選定事業者とともに契約書に記名押印しなければ、当該契約は確定しない(会計法第29条の8第2項)4。
4 地方公共団体が管理者等となる場合は、地方自治法第234条第5項に同様の規定がある。
1-2 契約の目的等(契約GL:1-1)
1.概要
・契約の目的が、管理者等及び選定事業者が相互に協力し、選定事業を円滑に実施するために必要な一切の事項を定めることである旨規定される。
2.趣旨
・契約の目的の記載は、当事者の権利義務を規定するものではないが、当事者が契約を締結する前提を確認する意義がある。
・さらに、契約書の冒頭(又は最後)において、契約の解釈等に関する一般的条項が規定される。
3.関係法令の規定
・会計法において、「契約の目的」が契約書を作成する際に必要な記載事項の一つと規定されている(会計法第29条の8第1項)。
4.条文例
(本契約の目的及び解釈)
条文例 1.2.1 本契約は、本事業における当事者が相互に協力し、本事業を円滑に実施するために必要な合意事項について定めることを目的とする。
2 別段の定めがある場合を除き、本契約において用いられる用語は、別紙○[本解説末尾参照]において定められた意味を有する。
3 本契約における各条項の見出しは、参照のための便宜のものであり、本契約の各条項の解釈に影響を与えないものとする。
(その他)
条文例 1.2.2 本契約に定める請求、通知、報告、勧告、承諾及び契約終了告知並びに解除は、相手方に対する書面をもって行われなければならない。なお、甲及び乙は、当該請求等のあて先をそれぞれ相手方に対して別途通知するものとする。
2 本契約の履行に関して甲と乙の間で用いる言語は、日本語とする。
3 本契約に定める金銭の支払に用いる通貨は、日本円とする。
4 本契約の履行に関して甲と乙の間で用いる計算単位は、本契約、業務要求水準書、入札説明書等、事業者提案又は設計図書に特別の定めがある場合を除き、計量法(平成4年法律第 51 号)に定めるところによるものとする。
5 本契約の履行に関する期間の定めについては、本契約、業務要求水準書、入札説明書
等、事業者提案又は設計図書に特別の定めがある場合を除き、民法(明治 29 年法律第 89号)及び商法(明治 32 年法律第 48 号)の定めるところによるものとする。
6 本契約は、日本国の法令に準拠し、日本国の法令に従って解釈するものとする。
1-3 事業の趣旨の尊重(契約GL:1-2)
1.概要
・選定事業者は、選定事業の公共性を十分理解し、選定事業の実施にあたりかかる趣旨を尊重すること、及び管理者等は、選定事業が民間事業者たる選定事業者によって実施されることを十分理解しかかる趣旨を尊重することが、確認のために規定される。
2.趣旨
・基本方針において、PFI事業は「公共性のある事業(公共性原則)を、民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して(民間経営資源活用原則)、民間事業者の自主性と創意工夫を尊重することにより、効率的かつ効果的に実施する(効率性原則)」(基本方針前文)ものであると定められており、この趣旨に従った規定である。
3.条文例
(公共性、経済性及び民間の趣旨の尊重)
条文例 1.3 乙は、本件施設等が[ ]としての公共性を有することを十分理解し、本事業の実施にあたっては、その趣旨を尊重するものとする。
2 甲は、本事業が民間事業者によって実施されることを十分理解し、その趣旨を尊重するものとする。
1-4 事業概要(契約GL:1-5)
1.概要
・選定事業者がPFI事業契約等に従って実施する義務を負う選定事業の概要が、当事者の確認のために規定される。
・例えば、BTO方式の選定事業の場合には、施設の設計、施設の建設工事、管理者等に対する施設の譲渡、施設の維持・管理、運営、事業実施のための資金調達などといった事業内容の概要が規定される。
2.事業内容の詳細
・事業概要は、技術的な内容を含むことなどから、PFI事業契約書の別紙に記載することが多い。さらに、管理者等の求める業務要求水準を含む事業内容の詳細は、技術的な内容を含む書類となるため、PFI事業契約書の付属資料としてまとめられることが通例である。(関連:1-9 規定の適用関係)
3.関係法令の規定
・支払遅延防止法においては、「給付の内容」が政府契約の必要的内容事項の一つと規定されている(支払遅延防止法第4条)。
・PFI法においては、選定された民間事業者が行う事業は、PFI法第10条第1項に規定する事業計画又は協定において当該民間事業者が行うこととされた公共施設等の整備等であることから、選定事業者が行う選定事業の内容等をPFI事業契約等において特定する必要がある(PFI法第7条第2項)。
4.条文例
(本事業の概要)
条文例 1.4 本事業は、[ ]業務及びこれらの業務実施に係る資金調達から構成される。
2 乙は、本契約、業務要求水準書、入札説明書等及び事業者提案に従って、本事業を遂行しなければならない。
1-5 事業日程(契約GL:1-4)
1.概要
・選定事業の履行にあたって重要な期日(例えば、施設の設計着手日、建設工事着工日、完工確認及び運営体制確認日、引渡し予定日、維持・管理、運営開始日、維持・管理、運営期間終了日、譲渡前検査及び施設譲渡日等)を事業日程として明示し、選定事業者がこれに従って選定事業を実施する義務が規定される。
2.趣旨
・事業日程の規定は、選定事業の各段階の履行期限を明示するものであり、管理者等による選定事業の日程管理及び履行遅延等による増加費用が発生した場合等の当事者間の権利義務発生の基準時を画する意義を有する。重要な期日の徒過をPFI事業契約の解除事由とすべき場合もあるので、解除事由との関連についても留意する必要がある。但し、 PFI事業契約上の明確な基準時点(例えば、施設の完工、施設の引渡し(又は運営開始))を除き、選定事業者に対し、詳細な事業日程に従った設計、建設工事、維持・管理、運営業務の履行を義務付けることは必ずしも適切ではないこともある。管理者等が必ずしも重要ではない日程までをも詳細に選定事業者に対して義務づけた場合、それに対処するための費用が契約金額に転嫁される結果ともなり得ることに留意が必要である。
・リスクガイドラインにおいても「公共施設の管理者等は、個々の選定事業に則して、選定事業者に対する関与を必要最小限のものとすることに配慮しつつ、その権利義務を協定等に明確に規定し、関与の選定事業に与える影響の程度に応じて、公共施設等の管理者等のリスク分担を検討することが望ましい」と定めるとともに、「運営開始までの工程で見込んだ設計等の工程が遅延する場合や設計等費用が見込み金額を超過する場合であっても、選定事業者の対応能力に応じ、運営開始までのxxx自主的な業務の施工に委ねることで選定事業全体に与える影響が小さいと見込まれるときには、(中略)管理者等による細かな報告の求め、指示等が不適当な場合があることに留意することが望ましい。」と定めている(リスクガイドライン二1(2)(参考)②)。
3.関係法令の規定
・会計法において、「履行期限」が契約書を作成する際に必要な記載事項の一つに規定されている(会計法第29条の8第1項)。
・支払遅延防止法においても、「給付の完了の時期」が政府契約の必要的内容事項の一つと規定されている(支払遅延防止法第4条)。
4.条文例
(事業日程)
業 務 等 | 期 日 |
設計図書の提出予定日 | 平成○年○月○日 |
本件工事着工予定日 | 平成○年○月○日 |
本件工事対象施設の引渡予定日 | 平成○年○月○日 |
サービス提供業務開始予定日 | 平成○年○月○日 |
サービス提供業務等終了日 | 平成○年○月○日 |
条文例 1.5 乙は、別紙○に定める日程に従って本事業を実施するものとする。別紙○ 日程表
1-6 履行保証(契約GL:6-4)
1.概要
・選定事業者は、契約保証金の納付、又は、契約保証金の納付の代替として履行保証保険をxxする等の義務を負う旨規定される。履行保証保険のxxに関する規定は以下のとおりである。
2.会計法令等の規定
・会計法は、契約上の義務の完全な履行の担保と損害の填補の手段として、契約担当官等は、国と契約を結ぶ者をして、①契約金額の100分の10以上の契約保証金を納めさせなければならないとし、原則として契約保証金制度を採用している。(会計法第29条の9第1項)。また、②国債等の有価証券や金融機関の保証等を担保として提供することによって契約保証金の納付に代えることができることとされているほか(会計法第29条の9第2項、予決令第100条の4及び契約事務取扱規則第16条)、③履行保証保険契約が締結された場合等には、契約保証金を免除できる(会計法第29条の9第1項但し書及び予決令第100条の3)と規定されている5。
3.設計・建設工事業務の履行保証保険
・管理者等が、施設の建設工事の施工期間中の選定事業者のPFI事業契約上の義務の履行の担保や選定事業者の債務不履行による契約解除に対して備える目的で、建設工事の再度発注等に要する費用を填補するために、選定事業者に対し履行保証保険への加入義務を課すことが規定される。
・①選定事業者が施設の建設工事について、管理者等又は選定事業者を被保険者とする履行保証保険契約を締結しなければならないこと、②選定事業者は、施設の建設工事の着工までに履行保証保険契約を締結し、かかる保険証券又はその写しを速やかに管理者等に提出すること、③選定事業者は、履行保証保険にかかる保険金請求権に、PFI事業契約が選定事業者の責めに帰すべき事由により解除された場合に管理者等が選定事業者に対して有する違約金支払請求権を被担保債権とする質権を管理者等のために設定すること等が規定される。
4.維持・管理業務及び運営業務の履行保証保険
・維持・管理、運営業務の履行保証保険のxxについては、①選定事業者により提供される公共サービスの水準が業務要求水準を満たさない場合には一定の手順を経て「サービス対価」の減額措置を実施すること、②選定事業者の債務不履行により契約解除に至っ
5 地方公共団体が管理者等となる場合は、地方自治法第234条の 2 第 2 項及び地方自治法施行令第16
7条の16において、契約保証金について規定されている。
た場合には選定事業者に対し違約金等が課されること、③契約解除時の違約金等債権回収の実現可能性等を踏まえつつ、会計法等適用法令に基づき管理者等が自らの責任により合理的に判断する必要がある。(関連:4-2「サービス対価」の減額、5―5 違約金)
5.履行保証保険の内容等
・契約保証金の納付の代替として選定事業者に建設工事業務の履行保証保険に加入させる場合、建設工事の履行保証保険は、建設工事期間中をxx期間とし、建設工事費に相当する額の100分の10(場合によってはこれ以上に相当する額)を保険金額とすることが通例である。
・履行保証保険の対象契約については、PFI事業契約とする場合と、選定事業者と建設企業との間の請負契約とする場合がある。前者の場合には、管理者等が被保険者となるが、後者の場合には、選定事業者が被保険者となるので管理者等には保険金請求権がない。したがって、後者の場合には、管理者等は選定事業者の保険金請求権に質権を設定する規定を置く必要がある。
・選定事業者は履行保証保険の内容について管理者等の確認を受けてから加入することとし、その保険証券の写しを管理者等に提出するなどの規定を置く必要がある。
・維持・管理、運営期間に維持・管理及び運営業務の履行保証保険を選定事業者に加入させる場合、そのxx期間を一年間とし、毎年更新すること、填補限度額を一事業年度の維持・管理費及び運営費に相当する額の100分の10以上を保険金額とすることを義務付ける場合もある。管理者等は、履行担保のための保険料負担が契約金額に転嫁される結果ともなり得ることに留意しつつ、選定事業者に対してxxを義務付ける履行保証保険の内容について、選定事業者の履行能力を評価の上、その効果とかかる費用とを見極めて個々に検討することが望ましい。
6.条文例
(管理者等によって異なるため省略)
1-7 許認可の取得(契約GL:1-9)
1.概要
・選定事業の実施に必要な許認可等の選定事業者による取得義務及びそれに対する管理者等の協力義務、並びに、管理者等による同取得義務及びそれに対する選定事業者の協力義務が規定される。
2.許認可取得の責任分担
・許認可取得の責任と費用負担の義務が選定事業者にあることを規定することにより、選定事業者が必要な許認可の一部を取得できないことを理由としてPFI事業契約上の義務を履行できない場合には、その責任を選定事業者が負うこととなる。具体的には、選定事業者による許認可取得の遅延に伴う増加費用の負担、許認可取得の遅延を原因とした施設完成遅延に対する遅延損害金の支払等が考えられる。また、管理者等は選定事業者から許認可の取得に協力を求められた場合、必要な資料の提出など、必要に応じて、これに協力する義務を負う旨規定される(そもそも民間事業者が監督官庁の事業許認可を得るいわゆる各業法に係る事業等の許認可については、民間事業者のみが自己の責任をもって取得すべきことは当然であるが、各業法の適用を受けない公共施設等の整備に係る許認可については、公共が主体であるため不必要であった許認可を選定事業者が取得すべき場合等において、管理者等が必要に応じ協力することとなる。)。但し、管理者等が取得すべき許認可については、管理者等がこれを取得する義務を負い、選定事業者はこれに協力する義務を負う旨規定される。なお、管理者等による許認可の取得遅延があった場合は、引渡し(又は運営開始)予定日を延期する等の対応が考えられる。
・リスクガイドラインにおいては、許認可等の取得について、「工事の着手、運営の開始までに経ておくべき法令等に定められた手続の完了の遅れ、又はその更新の遅れ、手続を経た結果による公共施設等の内容の変更、また工事の着手、運営の開始までに経る地元関係者との交渉等の完了の遅れ、当該交渉等による公共施設等の内容の変更によって、設計等、用地確保、建設、維持管理・運営の各段階の中断・遅延や、各段階で必要となる費用が約定金額を超過することが起こることがある。したがって、どの段階でどのような手続等が必要であるか、手続等が必要である場合又は必要となった場合に当該手続等を公共施設等の管理者等と選定事業者のいずれが責任をもって行うか、その遅延、公共施設等の内容の変更に係る措置をあらかじめ検討し協定等に規定しておくことが望ましい。」と定められている(リスクガイドライン二6(4))。
3.条文例
(許認可及び届出等)
条文例 1.7 本契約に基づく義務を履行するために必要となる一切の許認可は、乙が自己の責任及び費用により取得するものとする。また、乙が本契約に基づく義務を履行するために必要となる一切の届出及び報告は、乙がその責任において作成し、提出するものとする。ただし、甲が許認可の取得又は届出をする必要がある場合には、甲が必要な措置を講ずるものとし、当該措置について乙の協力を求めた場合には、乙はこれに応じるものとする。
2 甲は、乙が甲に対して書面により要請した場合、乙による許認可の取得について、法令の範囲内において必要に応じて協力するものとする。
3 乙は、第1項ただし書に定める場合を除き、本契約に基づく義務の履行に必要な許認可の取得・維持に関する責任及び損害(許認可取得の遅延から生じる増加費用を含む。以下、本条において同じ。)を負担するものとし、その遅延が当該許認可権限を有する者の責めに帰すべき事由による場合には、[甲及び乙の間でその責任及び損害の負担について協議するものとする。]
4 甲が、その単独申請又は届出に係る許認可の取得又は届出若しくは報告を遅延した場合又は甲が第2項の協力を怠ったことにより乙が申請すべき許認可の取得又は届出若しくは報告が遅延した場合、甲は、乙に対し、当該遅延により乙に生じた損害を賠償する。
5 乙は、本事業の実施に係る許認可の取得に関する書類を作成し、提出したものについては、その写しを保存するものとし、事業期間終了時に甲に提出するものとする。
6 乙は、本事業の実施に係る許認可の原本を保管し、[甲の要請があった場合には]原本を提示し、又は原本証明付の写しを甲に提出するものとする。
1-8 選定事業者の資金調達(契約GL:1-7)
1.概要
・選定事業者の資金調達義務について規定される。また、選定事業に対する財政上又は金融上の支援の適用について選定事業者の努力義務が規定される場合、かかる手続きに対する管理者等の協力義務が規定されることもある。
2.趣旨
・PFI事業においては、従来型の公共工事の請負契約と異なり、施設の建設工事等選定事業の実施に必要な資金調達のリスクを選定事業者が担う。すなわち、管理者等からの
「サービス対価」は公共サービスの提供が開始された後に、一般的には平準化して支払われるため、施設の設計・施工業務、維持・管理業務及び運営業務の実施による公共サービス提供にかかる必要な資金は自己の責任において調達することを基本とする。
・従来型の公共工事の請負契約においては、請負者は、公共工事の前払金保証事業に関する法律第2条第4項に規定する保証事業会社と保証契約を締結して発注者に対し前払金を請求できること(公共工事標準請負契約約款第34条第1項)、出来形部分と一定の工事材料について部分払の請求を行うことができること(公共工事標準請負契約約款第3
7条)、施設の完成検査合格後、請負者の発注者に対する請負代金の支払い請求から40日以内に発注者が請負代金を支払うことが規定されている(公共工事標準請負契約約款第32条)。また、請負者が建設工事期間中に負う費用についても、建設工事の完工前に出来形部分等に相当する額の部分払いを請求できる制度(公共工事標準請負契約約款第
37条)等があることから、請負者のかかる負担は大きくない。
・PFI事業は民間の資金を活用する事業であることから、選定事業者は選定事業の実施に係るすべての費用にかかる資金調達は自らの責任において行うことを基本とする。但し、管理者等はPFI事業契約の当事者双方の対応が、選定事業者による資金調達の金額、期間、費用その他の条件に大きな影響を与えることに留意し、適切かつ明確な規定内容とするよう努める必要がある。
3.資金調達の考え方
(1)資金調達の手法
・選定事業を実施するために新設された株式会社が選定事業者である場合、コンソーシアム構成企業等の出資や劣後融資、加えて、金融機関等からの融資によって、選定事業に要する資金調達を行うことが通例である。ここで、管理者等は、選定事業者の自己資本比率が、選定事業者の事業に要する費用に影響を与え、ひいては契約価格にも影響を与える可能性がある点に留意が必要である。
・特に、コンソーシアム構成企業による出資額の多寡は、選定事業者の融資の元利返済の
負担に影響を与えるとともに、選定事業への一定の関心又は関与を保証する役割を果たすことから、管理者等は留意する必要がある。
・選定事業者が金融機関等からプロジェクトファイナンスにより資金調達を行う場合は、金融機関等は、原則として、選定事業から生じるキャッシュフローを借入元本返済及び利払いの原資とする融資を行い、その担保を当該選定事業に関連する資産に依拠することとなる。しかしながら、選定事業に関連する資産は、融資金融機関等が担保権を取得していても売却処分により融資を回収することが困難なものであることが多い。このため、金融機関等は、選定事業者のキャッシュフローが安定的であることを融資の重要な条件と考えて、PFI事業契約等の内容、なかでも、「サービス対価」の支払メカニズムに関する規定や選定事業が停滞した場合に管理者等が講じる措置に関する規定を一層重視する傾向がある。
・ここでキャッシュフローの安定性確保の観点から、金融機関等は、「サービス対価」の支払いとともに、PFI事業契約上発生する増加費用を管理者等が負担する場合の支払い時期及び方法についても重視する。選定事業者が余剰資金を保持しておらず、加えて、不足資金を補填する仕組みが不十分な場合、管理者等が負担する増加費用が適時に支払われない時に、選定事業者は資金不足に陥り、選定事業全体の運営に支障が生じるリスクがある。一方、管理者等による増加費用の支払い時期及び方法については、当然に、予算措置に応じたものである点に留意が必要である。
・なお、プロジェクトファイナンスの組成には相当の期間を要する。そこで、管理者等は、選定事業者の公募からプロジェクトファイナンス組成に関連する諸契約の締結に至るまで関係者間の調整に要する期間が確保されるよう努める必要がある。
(2)金利の固定
・管理者等は、財政支出の平準化を図るため、選定事業者に対して支払う借入金利相当の対価を一定期間固定する場合が多い。この場合、選定事業者は、事業期間中の借入金利水準の変動による自らの借入金利負担の変動を回避するため、固定金利による資金調達を行うことが通例である。
・管理者等が選定事業者に対して支払う対価のうちの金利相当額を取り決めるにあたっては、①融資金融機関等は、選定事業者に対する融資の可否及び融資条件(貸出金利の水準及び償還条件等)を決定するため、PFI事業契約の詳細について十分な審査を必要とすること、②選定事業者による固定金利での資金調達の期間には市場の制約がかかることに留意する必要がある。また、融資金融機関等による貸出金利が確定する日は融資実行日であり、貸出金利は金融市場の動向に従って(金利スワップによる金利固定化を行う場合には金利スワップ市場の動向も加味され)定まるものであることにも留意が必要である。
・管理者等が支払う選定事業者による借入金利相当の対価は、融資金融機関等による貸出
金利を前提として決定される。融資金融機関等により貸出金利が確定される日は、融資実行日であり、融資実行は施設の引渡し日など、PFI事業契約締結日からは相当の期間が経過していることが通例である。その間、市場の金利は日々変動するため、PFI事業契約締結日には、選定事業者は融資金融機関等により確定される貸出金利を正確に想定することが困難である。しかしながら、仮に、PFI事業契約締結日に、管理者等から選定事業者に支払う借入金利相当の対価を固定することとした場合、選定事業者は、この時点において、融資金融機関等により確定される貸出金利について想定値をおかざるを得ない。このため、実際の融資金融機関による貸出金利が、この選定事業者による想定値とは異なるものとなる。金利上昇局面においては、選定事業者がその金利差相当を負担することにより資金調達費用を高めるリスクが存在し、ひいては、こうしたリスクが契約金額に転嫁される結果ともなり得る。この間の金利変動リスクの管理は管理者等自らが担うこととし、管理者等が選定事業者に支払う借入金利相当の対価を確定する日を、PFI事業契約締結日以降において別途定める日(基準日)とし、かつ、その基準日を融資金融機関等により貸出金利が確定される日に出来るだけ近接した日に設定する考え方もある。
(3)関心表明書
・民間事業者の公募の際、管理者等は入札参加者に対し、金融機関等の関心表明書の提出を義務付けることがある。入札参加者による提案の提出の段階においては、金融機関等はプロジェクトファイナンスの組成に向けた選定事業のリスク分析や当該選定事業に関連する諸契約の交渉等を行なうために必要な情報が揃わないことから、関心表明書は融資予約の性格を有するものとはならない。したがって、関心表明書の提出をもって当該金融機関等による融資が確約されたものではない点に留意する必要がある。
4.選定事業者に対する補助金交付等支援措置
・選定事業に対する財政上又は金融上の支援の適用について選定事業者の努力義務が規定される場合、かかる手続きに対する管理者等の協力義務が規定されることもある。
・適用可能な補助金等の交付若しくは公的金融機関等による無利子融資又は低xx融資の交付に関するリスク分担については、入札参加者間の競争条件の確定等のため、民間事業者の提案の前提条件として管理者等が入札説明書等に提示することが望ましい。
・民間事業者の公募からPFI事業契約の締結までの間に、補助金等の交付等支援措置が可能となった場合、これによる金融費用の減少分の「サービス対価」への反映方法等についても、管理者等が入札説明書等に提示することが望ましい。
・補助金交付等支援措置の有無により、選定事業者が想定していた融資金融機関等からの借入金額を変更する場合に留意を要する点は以下のとおりである。
①必要な借入金額が増加した場合、融資金融機関等は与信判断の前提としていた資金調
達計画に齟齬をきたし、改めて与信判断を行う必要がある。この場合、新たな与信判断に時間を要するばかりでなく、場合によっては融資が困難になる可能性もある。
②融資実行後に借入金額を変更する場合、それに伴い発生する増加費用(融資解約手数料、金利スワップ解約費用等)がある。
・公的支援の実現の可否は、民間事業者の入札参加者提案の提出時までに確定されないことにも留意し、適切なリスク分担(選定事業者に生じた資金調達のための増加費用や資金調達の遅延に対する対応)をあらかじめ検討し、入札説明書等に明示することが望ましい。
5.管理者等に対する交付金等支援措置
・管理者等に対して、交付金等の財政上の支援措置が適用される場合、かかる手続きに対する選定事業者の協力義務が規定されることもある。ただし、交付金の交付に関するリスクは管理者等とするのが通常であり、選定事業者の協力内容に明らかな瑕疵(書類提出の遅延等)がない限り、選定事業者はリスクを負わない。
6.税制関連法令の適用
・民間事業者の公募の段階においては、選定事業について、税制関連法令の適用される事実関係が判然としない場合がある。このような場合であって、かつ当該税務に関する入札参加者間の競争条件の確定を図ることが相当と認められる場合には、管理者等は全ての入札参加者が税制関連法令の適用に関し共通の解釈に基づく提案ができるよう、こうした税目に関連する法令について、税務当局が最終的な解釈を行うこととなるものの、一定の前提を置かざるを得ない。その上で、この前提が実現しなかった場合に生じる増加費用の当事者間での分担については、あらかじめ検討し、入札説明書等に明示するなどの措置を講じることも考えられる。(以下の条文例は、特に問題がない場合の規定であり、ここに記載したような問題が生じる可能性がある場合には、別途規定する必要がある)
7.条文例
(乙の資金調達)
条文例 1.8.1 本事業の実施に関連する一切の費用は、本契約において甲が負担する費用を除き、すべて乙が負担する。
2 本事業に関する乙の資金調達は、すべて乙が自己の責任及び費用において行うものとする。ただし、甲の協力が必要な場合、甲は可能な限りその協力を行うものとする。
(起債・補助金申請への協力)
条文例 1.8.2 乙は、甲による本事業に係る起債又は補助金の申請について、書類作成等への協力を行う。
2 乙の責に帰すべき事由により、乙が前項の規定に従い作成又は作成に協力すべき書類の提出を遅延した場合、乙は、甲に対し、当該遅延により甲に生じた損害を賠償する。
3 前項の場合を除き、甲が行う本事業に係る起債又は補助金申請に関して損害が発生した場合の責任は、甲が負うものとする。
(公租公課の負担)
条文例 1.8.3 本契約に関連して生じる公租公課は、本契約に別段の定めがある場合を除き、すべて乙の負担とする。
1-9 規定の適用関係(契約GL:1-6)
1.概要
・選定事業にかかるPFI事業契約等の各種規定の適用関係を整理する規定がされる。
・選定事業者は、PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従って選定事業を実施するものとした上で、PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案の内容に相違が生じる場合を想定し、これらの文書の適用関係が規定される。
2.趣旨
・PFI事業においては、管理者等が民間事業者の募集にあたって示した入札説明書等、選定事業者が管理者等に提出した入札参加者提案、PFI事業契約、選定事業者がPF I事業契約等に従って作成する設計図書の順に、選定事業の内容を、xx、詳細かつ具体的に補完することとなる。このため、これらの文書の記載内容に相違が生じる事態を想定し、あらかじめPFI事業契約にこれらの文書の適用関係を規定することが望ましい。
3.適用関係
・PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案の内容に相違がある場合、PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案の順に優先して適用されるものとすることが通例である。
・また、入札参加者提案と入札説明書等の業務要求水準書との適用関係については、入札 参加者提案において提案されたサービス水準が入札説明書等のそれを上回る場合に限り、入札参加者提案が優先して適用される旨規定することにより、管理者等が入札説明書等 の業務要求水準書に示したサービス水準と選定事業者が提案したサービス水準に相違が ある事項についていずれか高い水準を確保することができる。
・なお、入札説明書等の質問回答書は入札説明書等と一体のものと考えられる。
4.条文例
(優先関係)
条文例 1.9 本契約、業務要求水準書、入札説明書等及び事業者提案の記載内容に矛盾又は齟齬がある場合は、この順に優先して適用されるものとする。
2 入札説明書等の各書類間で疑義が生じた場合は、甲及び乙の間において協議のうえ、かかる記載内容に関する事項を決定するものとする。
3 事業者提案と業務要求水準書の内容に差異があり、事業者提案に記載された性能又は水準が、業務要求水準書に記載された性能又は水準を上回るときは、第1項の規定にかかわらず、その限度で事業者提案の記載が業務要求水準書の記載に優先するものとする。
1-10 統括管理業務(新設)
1.概要
・選定事業者は、事業期間中、PFI事業契約、業務要求水準書、事業者提案等に従い、自らの責任と費用負担において、設計・施工、運営業務等、選定事業者が実施すべき業務を負っているが、これらの業務を「統合的に管理」(統括管理)する義務が別途規定される場合がある。
2.趣旨
・PFI事業のうち、比較的サービス提供業務の比重の軽い案件では、業務仕様書(5-
5参照)が固定的で調整の必要性が低い、運営業務(多くは維持管理業務)が定型的で選定事業者によるセルフモニタリングの役割が小さい、長期にわたる状況変化も小さい等の特徴があり、選定事業者の役割は全般的に小さい。また、運営の観点から設計の見直しを実施する必要性も低いため、本項で規定する統括管理業務の規定を明確に位置づけなくても問題は生じにくい。
・一方、それ以外の案件では、選定事業者が主体的に運営業務の調整、充実したセルフモニタリングとセルフモニタリング結果を踏まえた改善、状況変化への柔軟な対応等を行うことが期待される。また、運営を行いやすいよう詳細設計を管理することも求められる。このような場合には、選定事業者が構成企業等への委託等により実施する業務を選定事業者が統合的に管理し、PFI事業契約に規定されるサービスの履行を果たすよう規定することが望ましい。
3.統括管理業務の対象範囲
・選定事業者が行う統括管理業務は、設計、施工、サービス提供業務の全てを対象とすることが考えられる。特に、整備対象施設が複雑で高度な工法が必要になる場合や、運営の観点から設計を行う必要性の高い案件においては、設計、建設に統括管理業務の規定を入れることも有効である。
・一方、設計、施行については選定事業者自身ではなくコンソーシアムの構成員である設計会社、建設会社が主体的に実施し、サービス(提供)業務にのみ統括管理業務の規定を入れることも考えられる。
第2章 施設整備業務(施設整備に係る設計)
2-1 施設の設計にかかる事項(契約GL:2-2)
1.概要
・選定事業者は、PFI事業契約、入札説明書等、及び入札参加者提案に従って、自らの責任と費用負担において施設の設計を実施する義務を負う旨規定される。
2.条文例
(設計業務の実施)
条文例 2.1 乙は、本契約締結後速やかに、設計協力企業をして、本契約、業務要求水準書及び事業者提案に従って、本件工事対象施設の設計業務を実施せしめる。
2-2 施設の設計、設計図書の提出(契約GL:2-1-1)
1.概要
・①選定事業者から管理者等への設計図書の提出及び確認、②提出図書の内容と入札参加者提案等との不一致の場合の当事者の対応、③施設の設計の第三者への委託等について規定される。
・本項については、建設モニタリングの構成(4-1)も参照のこと。
2.設計図書の提出及び確認
・選定事業者は、自らの責任と費用負担において、PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従って施設の設計を行う義務を負う。選定事業者は、設計の開始後、管理者等による設計の状況についての確認を受けつつ、又は管理者等と設計の状況について打ち合わせを行ないつつ、設計を行う旨規定される。基本設計及び実施設計が選定事業に含まれる場合には、選定事業者は基本設計及び実施設計のそれぞれが完成した段階で、管理者等にそれぞれの設計図書等を提出し、管理者等による確認等を受けることが規定される。管理者等は一定期間以内に又は速やかに確認等を行ない、選定事業者により提出された図書の内容がPFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に適合していることを確認した上で、その旨通知する。
・一方、選定事業者の提出図書の内容とPFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案の間に不一致があることが判明した場合、管理者等は、選定事業者に対して速やかにかかる不一致の内容を通知するものとする。管理者等は、打ち合わせを行ったこと、図書を受領したこと、PFI事業契約等と提出された図書との間の不一致の内容を通知したことのいずれを理由としても、施設の設計及びかかる設計に基づく建設工事について何らの責任を負担するものではない旨規定される。
3.設計図書の提出義務及びPFI事業契約等と内容不一致の場合の是正責任
・選定事業者については、基本設計図書及び実施設計図書のそれぞれが完成した段階で速やかに管理者等にこれらを提出し、PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案との整合性について確認を受けること、管理者等による確認通知を受領した段階で、選定事業の次の工程に着手できることが規定される。一方、管理者等については、選定事業者から提出を受けた図書の内容を一定の期間以内又は速やかに確認し、選定事業者の提出した設計図書の内容とPFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案との間に不一致があると判断した場合、その不一致の内容を選定事業者に通知することが規定される。
・選定事業者の提出した設計図書の内容とPFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案との間に不一致が判明した場合、選定事業者が不一致の内容についてその責任と費
用負担により是正し、是正したものを管理者等に再度提出し、確認を受けることが規定される。選定事業における設計図書は、工程を経るなかで順次詳細化及び補完されていくことから、管理者等による内容の不一致の判断について当事者間で合意が得られない場合が想定される。このため、設計期間中に当事者が定期的に打ち合わせを行うこと等が規定されるとともに、管理者等が通知した不一致の内容に対し、選定事業者が意見を述べること、及び管理者等が選定事業者の意見が合理的と認めた場合には、選定事業者は是正を行う必要のないことなどの規定が置かれることが通例である。
・また、PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案と基本設計図書の内容又は実施設計図書の内容との不一致の是正等に起因し、設計の後段階の事業日程が遅延する場合の措置、当事者間の責任分担、増加費用負担についてPFI事業契約に規定される。設計段階において、選定事業者の責に帰すべき事由により施設の引渡し(又は運営開始)といった設計の後段階の事業日程が遅延するとき、その責任とかかる増加費用を選定事業者が負担すること、管理者等がかかる遅延による損害金の請求権を得ることが規定される。
4.設計図書の確認と設計にかかる責任との関係
・管理者等が、①設計の状態について確認すること又は設計の状態について選定事業者と打ち合わせをすること、②選定事業者から提案を受けた設計図書の内容を確認等した旨通知すること、③選定事業者から提案を受けた設計図書の内容とPFI事業契約等との間の不一致の内容について選定事業者に通知すること、④選定事業者のVE(value engineering)提案に対する審査をすること等をもって、選定事業者の施設の設計及びかかる設計に基づく建設工事についての責任が軽減又は免除されるものではない旨規定する必要がある。
5.設計の第三者への委託等
・第三者たる設計企業に設計を委託し、又は請け負わせることについて、管理者等への事前の通知又は管理者等の承諾を義務とする旨規定される。
・選定事業者が設計をコンソーシアム構成企業(又は受託・請負企業)の設計企業に委託し又は請け負わせる場合、その設計業務委託契約などの規定にかかわらず、管理者等との関係では当該設計企業の責めに帰すべき事由は全て選定事業者の責めに帰すべき事由とみなされる旨規定される。
・さらに、選定事業者が使用する一切の第三者の責めに帰すべき事由は、すべて選定事業者の責めに帰すべき事由とみなして、選定事業者が責任を負うものとすることなどが規定される。
6.共通仕様書
・選定事業者が設計において達成すべき整備水準については、PFI事業契約において関係法令に関する規定の他、施設に求める機能、性能等の設定を目的として、共通仕様書等の各種技術基準を参考にすること等が考えられる。
・なお、公共建築に関する事業においては、対象施設に求められる要件を考慮のうえ、官庁営繕関係統一基準を参考にすることも考えられる。
7.選定事業者によるVE提案
・PFI事業における設計業務については、PFI事業契約、設計条件を含む入札説明書等及び施設の基本的な考え方やデザイン等いわゆる企画設計図書を含む入札参加者提案に従って、選定事業者が施設の設計を選定事業内容の一部として行うことが基本である。
・しかしながら、施設の設計業務を選定事業の内容に含めず、あらかじめ管理者等から示す施設の基本設計図書及び実施設計図書をPFI事業契約書の一部又は付属資料とし、かかるPFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従って、選定事業者が施設の建設工事を施工する旨規定された上で、選定事業者がVE提案によって管理者等の示した設計図書を変更することができる旨規定される場合(契約後VE)もある。
・上述のPFI事業契約締結後の選定事業者のVE提案は、民間技術の積極的活用により建設工事、維持・管理、運営の費用の縮減を図ることを狙いとしている。VE提案を求める範囲は、施工の確実性、安全性が確保され、かつ、設計図書に定める工事の目的物と比較し、機能、性能等が同等以上で経済性が優位であると判断されるものとする。
・選定事業者のVE提案により実現できる建設工事費用の縮減金額のすべてを「サービス 対価」のうち建設工事費に相当する支払い対価の減額に反映させるならば、選定事業者 がVE提案を行う経済的動機付けを失ってしまう可能性がある。このため、VE提案に より減額する建設工事費に相当する支払い対価の一定割合に相当する金額を減額しない。例えば、VE提案により請負代金が低減すると見込まれる額の10分の5に相当する金 額(「VE管理費」という。)を削減しないこととする取り決めも考えられる。
8.条文例
(設計業務の進捗状況の確認)
条文例 2.2.1 乙は、甲に対し、毎月1回以上、設計業務の進捗状況の説明及び報告を行わなければならない。
2 甲は、本件工事対象施設が本契約、業務要求水準書、入札説明書等、事業者提案及び設計作業工程表に基づき設計されていることを確認するため、乙に対し事前に通知したうえで、本件工事対象施設の設計状況その他の事項について説明を求め、書類の提出等を求めることができる。
3 乙は、前項に規定する設計状況その他の事項についての説明及び甲による確認の実施につき、甲に対して協力し便宜を図るものとする。また、設計協力企業をして、甲に対して必要かつ合理的な説明及び報告を行わせるものとする。
4 甲は、前3項の規定に基づく説明、書類の提出等又は報告を受けたときは、それらの内容を検討し、指摘すべき事項があると認める場合には、乙に対してその是正を求めることができ、乙はこれに従わなければならない。
(設計図書の提出)
条文例 2.2.2 乙は、設計業務の完了後遅滞なく、別紙○に規定する設計図書を甲に提出し、設計協力企業をして、設計図書の内容を説明させなければならない。設計図書の変更を行う場合も同様とする。
2 前項の場合における設計図書の提出は、別紙○の日程表[条文例 1.5]に従うものとする。
3 甲は、第1項に基づき提出された設計図書が本契約、業務要求水準書、入札説明書等、事業者提案若しくは甲と乙の設計打ち合わせにおいて合意された事項に従っていない、又は提出された設計図書では、本契約、業務要求水準書、入札説明書等、事業者提案若しくは甲と乙の設計打ち合わせにおいて合意された事項において要求される仕様を満たさないと判断する場合には、乙と協議の上、乙の負担において修正を求めることができる。甲は、かかる修正を求めない場合は、提出された設計図書の確認を乙に通知するものとする。
4 乙は、甲からの指摘(前項による甲の修正の求めを含む。)により、又は自ら設計に不備・不具合等を発見したときは、自らの負担において速やかに設計図書の修正を行い、修正点について甲に報告し、その確認を受けるものとする。設計の変更について不備・不具合を発見した場合も同様とする。
5 前項に規定する修正の結果、本件工事対象施設の引渡しが遅延した場合には、[条文例
3.16 第4項]の規定を適用する。
(設計業務の第三者による実施)
条文例 2.2.3 乙は、設計協力企業を変更又は追加してはならない。ただし、やむを得ない事情が生じた場合であって、甲の事前の書面による承諾を得た場合はこの限りではない。
2 乙は、設計協力企業が第三者に本件工事対象施設の設計業務の全部又は主たる部分を委託し又は請け負わせないようにしなければならない。
3 本件工事対象施設の設計業務実施に関する設計協力企業その他第三者の使用は、すべて乙の責任において行うものとし、設計協力企業その他設計業務の実施に関して乙又は設計協力企業が使用する一切の第三者の責めに帰すべき事由は、すべて乙の責めに帰すべき事由とみなして、乙が責任を負う。
2-3 設計の変更(契約GL:2-1-2)
1.概要
・①管理者等又は選定事業者からの求めによる設計変更が可能な範囲、②設計変更が求められた場合の相手方による当否の検討、承諾等の手続き、③設計変更が行われた場合の増加費用の負担割合等について規定される。併せて、法令変更に伴う設計変更による増加費用の分担等について規定される。
・なお、法令変更による設計の変更ついては、(第12章)を参照のこと。
2.管理者等の求めによる設計変更
・管理者等は、必要があると認める場合、設計変更を選定事業者に求めることができる旨規定される。その際、設計変更の限界として、民間事業者の入札参加者提案を逸脱する設計変更、又は工期の変更を伴う変更を求めることはできない旨規定されることが通例である。場合によっては、工期の変更を伴う設計変更等に関し、管理者等が選定事業者に対し協議を求めることができる旨の規定が置かれる場合がある。
・具体的な手続きについては、管理者等が選定事業者に対し設計変更を求めた場合、選定事業者は当該変更の当否の検討を行ない、その結果を一定期間以内に管理者等に通知し
(ここで、選定事業者は当該変更の当否とともに、当該変更により予想される増加費用等についても検討し、その内容を通知内容に含めることが考えられる。)、管理者等はこれを踏まえて設計変更の要否を決定し、選定事業者に通知することとされ、選定事業者はこれに従うものと規定される。
・管理者等の求めによる設計変更に起因する増加費用については、選定事業者との帰責の割合に応じて、管理者等と選定事業者がかかる費用を分担して負担する旨規定されることが通例である。設計変更に起因する増加費用としては、設計費用、建設費用、将来の維持・管理、運営にかかる費用及び金融費用(追加の資金調達に要する金利負担等の各種費用)などが想定される。なお、選定事業者が作成した設計図書の内容とPFI事業契約等、入札参加者提案又は入札説明書等との間に不一致がある場合は、当然ながら管理者等の帰責性は認められず、この場合、選定事業者は自己の費用と責任において当該不一致を是正することとなる。
・管理者等の求めによる設計変更があった場合、それに起因する増加費用とあわせて、引渡し(又は運営開始)予定日の延期についての検討が同時に必要である点に留意を要する。対応の選択肢としては、当初設定した引渡し(又は運営開始)予定日は変更せず、その引渡し(又は運営開始)予定日までに施設を完成させることを前提とした増加費用を管理者等が負担するという対応と、逆に合理的な期間、引渡し(又は運営開始)予定日を延期した上で、その引渡し(又は運営開始)予定日までに施設を完成させることを前提にした増加費用を管理者等が負担する、という対応が考えられる。一定の期日まで
に施設の運営を開始することを重視するならば、前者が選択される。但し、この場合、 増加費用の負担は相対的に大きくなることが一般に予想される。これに対し、後者を選 択した場合、引渡し(又は運営開始)予定日を延期する以上、当然に「サービス対価」 の支払開始も遅れることになる。従って、この「サービス対価」の支払開始の遅延が選 定事業者による融資返済にどのような影響を与えうるのかについて留意する必要がある。
・上記に関し、引渡し(運営開始)予定日を延期した場合、それに伴って維持・管理、運営期間の終期も同様に延期するのか、あるいは維持・管理、運営期間の終期は変更せず、維持・管理、運営期間を短縮することとするのか、という問題について検討を要する。前者を選択した場合、維持・管理、運営の期間は変わらないが、「サービス対価」の支払が全体として遅くなり、後者の場合には、維持・管理、運営期間の短縮の結果、選定事業者が失うことになる「サービス対価」をどのように考えるかについて検討を要する。(関連:1-5 事業日程)
・管理者等の求めによる設計変更に起因して、選定事業者が負担すべき施設整備にかかる費用が減少した場合は、合理的な範囲内において当該費用の減少分を「サービス対価」から減額することが考えられる。
・管理者等の求めによる設計変更を認めない場合、管理者等が望まない施設が建設されることも想定され、これは経済合理性に欠くといえる。このため、工期の変更を伴わない範囲の設計変更については、増加費用を管理者等が負担する限り、選定事業者の承諾は必要とされないと考えられる。
3.選定事業者の求めによる設計変更
・選定事業者の求めによる設計変更については、提案審査の公平性の確保等を勘案して、上記の入札参加者提案からの逸脱の有無等に関わりなく、管理者等の事前の承諾が必要とされる。また、かかる設計変更に起因して選定事業者に生じた増加費用については、管理者等と選定事業者が、帰責の割合に応じて、かかる費用を分担して負担する旨規定されることが通例である。
4.増加費用の負担に代える設計変更
・管理者等が契約上の別の規定により増加費用を負担すべき事実が生じた場合、特別な理由があるときは、予算執行上の観点から当該負担に代えて、減額を目的とした実施設計図書の変更ができる旨規定することも考えられる。
5.公共工事標準請負契約約款上の規定(参考)
・従来型の公共工事の請負契約においては、発注者は、必要があると認めるときは、設計図書の変更内容を請負者に通知して、設計図書を変更することができ、この場合において、発注者は、必要があると認められるときは工期若しくは請負代金額を変更し、又は
請負者に損害を与えたときは必要な費用を負担しなければならないとしている(公共工事標準請負契約約款第19条)。また、請負代金額の変更に代える設計図書の変更について、発注者は、請負代金額を増額すべき場合又は費用を負担すべき場合において、特別の理由があるときは、請負代金額の増額又は負担額の全部又は一部に代えて設計図書を変更することができ、設計図書の変更内容は、請負者と協議して定めるとしている(ただし、協議開始後一定期間に協議が整わない場合には、発注者が定め、請負者に通知するとしている)(公共工事標準請負契約約款第30条)。
6.条文例
(甲の指示による事業者提案又は設計の変更)
条文例 2.3.1 甲は、乙に対し、事業者提案又は設計図書の変更が必要であると認めるときは、施工計画書の変更を伴わずかつ事業者提案の範囲を逸脱しない限度で、乙に対して事業者提案又は設計図書の変更内容を記載した書面を通知し、事業者提案又は設計図書の変更を求めることができる。この場合、乙は、当該書面を受領した日から[ ]日以内にその事業者提案又は設計図書の変更の当否を甲に対して書面により通知しなければならない。甲は、当該通知を受領した日から[ ]日以内に、事業者提案又は設計図書の変更の要否を決定し、乙に通知する。乙は、かかる甲の決定に従うものとする。
2 前項の規定に基づき、乙が事業者提案又は設計図書の変更を行う場合において、当該変更により乙に増加費用が生じたときは、当該変更が乙の責めに帰すべき事由による場合を除き、甲が当該費用を合理的な範囲で負担するものとし、費用の減少が生じたときは施設整備業務費の支払額を減額する。
3 第1項の規定にかかわらず、基本設計完了前に甲の要求により入札説明書等及び事業者提案に基づく設計条件の主旨を損ない又は工期の変更を伴う設計条件の変更を行う場合、甲と乙は、当該設計条件の変更に係る本件工事対象施設の施設整備業務費の調整に関する協議を行い、当該調整後の費用が調整前の費用を超えるときは、甲は、乙に対し、超過部分の費用を、本件工事対象施設の施設整備業務費に加算して支払う。
(乙による事業者提案又は設計の変更)
条文例 2.3.2 乙は、あらかじめ甲の承諾を得た場合を除き、事業者提案又は設計図書の変更を行うことはできない。
2 前項の規定に従い乙が甲の承諾を得て事業者提案又は設計図書の変更を行う場合において、当該変更により乙に増加費用が発生したときは、乙が当該増加費用を負担するものとし、費用の減少が生じたときは協議により施設整備業務費の支払額を減額するものとする。
第3章 施設整備業務(施設整備に係る建設)
3-1 国有地の貸付け(契約GL:1-8)
1.概要
・管理者等である国は、事業期間中、国有地を選定事業者に貸し付ける旨規定される。
2.土地の貸付契約6
・管理者等から選定事業者に対する土地の貸付けについては、PFI事業契約とは別途に契約を締結することが多い。土地の貸付けに関しては、
1)貸し付ける土地の用途を選定事業の履行の範囲とすること
2)土地の貸付期間
3)土地の貸付けが有償の場合には、貸付料と借地権利金の額
4)選定事業者が管理者等の承諾を得ずに土地にかかる権利譲渡等を行うことの禁止
5)選定事業者が善良な管理者としての注意をもって貸し付けられた土地を維持保全する義務(民法第400条)
6)PFI事業契約が解除された場合、PFI事業契約の終了と同時に当該土地の貸付契約が終了となること
等の規定が考えられる。
3.土地の使用に関する関連法令
(1)国有地の使用の対価
・PFI法第12条の規定により、管理者等たる国が必要があると認めるときは、選定事業の用に供する間、国有地を無償又は時価より低い対価で選定事業者に使用させることができる7。このため、PFI事業契約と別途に管理者等と選定事業者との間で国有地を無償又は時価より低い対価で選定事業者に貸し付ける契約を締結した場合、PFI事業契約が解除に至ったときには、選定事業者はその地位を失うことからこの貸付契約は解除となる。
(2)行政財産である土地の貸付け
・行政財産については、国有財産法により私権の設定等が制限されているが、PFI法第
11条の2の規定により、管理者等が必要があると認める場合、行政財産である土地を、その用途又は目的を妨げない限度において、選定事業者に対し貸し付けることができる
6 地方公共団体が管理者等となる場合において、地方自治法第96条第1項第6号の規定により、条例で定める場合を除くほか、適正な対価なくして財産を貸し付けることは、議会の議決事件とされている。
7 地方公共団体が管理者等となる場合は、地方自治法第237条第2項の規定による。
(他の法律に特別の定めがある場合を除く)。
(3)普通財産である土地の貸付け
・普通財産については、国有財産法の規定により私権の設定等ができることから、管理者等は、普通財産である土地を選定事業者に対し貸し付けることができる(国有財産法第
20条)8。但し、国の普通財産である土地の貸付期間は、30年を超えることができない(国有財産法第21条第1項第2号)。
(4)民法の規定
・行政財産又は普通財産である国有地を選定事業者に貸し付ける場合、当該土地の貸付け行為は民法の適用を受け、有償貸付けは賃貸借(民法第601条)に、無償貸付けは使用貸借(民法第593条)に基づくものとなる。
4.条文例(BOT方式の場合の条文例)
(本件土地の使用)
条文例 3.1.1 乙は,本契約に基づく義務を履行するため,甲の行政財産である本件土地(ただし,民間収益施設のために利用する部分を除く。)を無償で使用することができる。ただし,本施設の建設に要する仮設資材置場等の確保は,乙の責任及び費用負担において行う。
2 甲と乙は,前項の規定に基づき,別紙○の様式に従い,土地使用貸借契約を別途締結する。当該土地使用貸借契約は,本契約の終了までの間双方共に解約できない。ただし,甲は,必要と認める場合には,本件土地のうち本事業の実施に支障を来さない範囲内の土地について土地使用貸借契約を解約することができる。
3 前項の規定にかかわらず,本契約の終了後においても,甲の本契約に基づく支払義務が存続し,かつ本施設に甲がその設定を承諾した第三者の制限物権が正当に存する場合には,甲は前項の土地使用貸借契約を一方的に解約しない。
4 乙は,使用貸借を受けた本件土地に係る補修費等の必要費,改良費等の有益費その他費用の追加的な支出が発生した場合であっても,これを甲に請求しない。ただし,○○事業 施設整備・維持管理業務要求水準書第○編の本件土地に関する資料(以下「本件土地に関する資料」という。)からは乙が合理的に予想できない土壌汚染,地中障害物,埋蔵文化財等があったことに起因して,本件土地にかかる補修費,地盤改良費等が必要となった場合には,当該費用は甲が負担する。ただし,第○条第○項[土壌汚染,地中障害物,埋蔵文化財等が発見された場合に関する甲の費用負担に関する規定]の適用を受ける場合にはこの限りでない。
8 地方公共団体が管理者等となる場合は、地方自治法第238条の5の規定による。
3-2 土地の引渡し(契約GL:2-2-2)
1.概要
・管理者等が選定事業の用に供する目的のため、選定事業者に対し貸し付ける土地(以下、
「事業用地」という。)の引渡しの時期、引渡し時の事業用地の状態、及び引渡し後の選定事業者の事業用地にかかる善良なる管理者としての注意義務について規定される。
2.趣旨
・選定事業がBOT方式又はBTO方式であるかにかかわらず、選定事業者が管理者等の所有する土地上で選定事業を実施する場合、建設工事の着手等事業用地を使用する業務を開始させるため、管理者等は事業用地を選定事業者に引き渡す必要がある。事業用地の引渡しの時期及び引渡し時の事業用地の状態は、施設の建設工事の着手、その後の維持・管理、運営の開始等事業の工程、事業費用等事業内容に影響を与える場合があることから、具体的かつ明確に規定する必要がある。
3.引渡し期日
・事業用地の引渡し期日の規定については、事業内容等に応じて、具体的かつ明確に規定することが重要である。規定例については以下のとおりである。
1)特定の年月日
2)PFI事業契約の締結日
3)別途締結する土地の使用貸借契約で定める日
4)測量等土地調査の開始日
5)建設工事の着工日
・事業用地の引渡しの時期については、PFI事業契約書の別紙として日程表に記載される場合もある。
4.引渡し時の土地の状態
・管理者等から選定事業者に対する事業用地の引渡しの状態については、現状で引き渡す、施設の建設工事の施工が可能な状態で引き渡す等と規定されることが通例である。
・引渡しの土地の状態は、選定事業者が建設工事費を算出するための前提条件として重要な要素であるため、民間事業者の募集の際に管理者等が入札説明書等において具体的に示すことが求められる。
・引渡し時の事業用地の状態があらかじめPFI事業契約に定められた状態と異なる場合や、引渡しの遅延による工期の変更や増加費用の負担についても、管理者等と選定事業者の帰責性に応じて規定を置くことが考えられる。
5.土地にかかる選定事業者の善管注意義務
・土地の引渡し後の選定事業者の土地にかかる善良なる管理者としての注意義務について規定される(民法第400条)。なお、公共工事標準請負契約約款第16条第2項においても、請負者の事業用地にかかる善管注意義務の規定が置かれている。
6.条文例(BTO方式で、貸付契約書を別紙として添付している場合。抄)
別紙○ 行政財産無償貸付契約書
(貸付期間)
第○条 貸付物件の貸付期間は、平成○年○月○日(本件工事着工日)から、事業契約に基づき整備する本件工事対象施設の引渡日までとする。
(貸付物件の引渡し)
第○条 甲は、前条に定める貸付期間の初日に貸付物件を乙に引き渡したものとする。
(貸付物件保全義務等)
第○条 乙は、善良な管理者としての注意をもって貸付物件の維持保全に努めなければならない。
2 乙は、貸付物件に関わる土地の工作物の設置保存の瑕疵によって、第三者に損害を与えた場合には、その賠償の責任を負うものとし、甲が乙に代わって賠償の責任を果たした場合には、乙に求償することができる。
3 第1項の規定により支出する費用は、すべて乙の負担とし、甲に対しその償還等の請求をすることができない
3-3 建設工事に伴う各種調査(契約GL:2-2-3)
1.概要
・施設の建設工事のために必要な測量、地質調査等の調査が選定事業に含まれる場合、選定事業者は、その調査を実施する義務を負い、当該調査の不備及び誤謬等から生じる責任と増加費用を負担すること等が規定される。また、当該調査により土地の瑕疵が判明した場合、その修補のためにかかる増加費用の負担、事業工程の遅延に係る措置等について規定される。
2.調査の不備等の責任と費用負担
・施設の建設工事のために必要な測量、地質調査等の調査が選定事業に含まれる場合、選定事業者は自らの責任と費用負担において、必要な調査を実施し、その不備及び誤謬等から生じる一切の責任及び増加費用を負う旨規定される。
・管理者等は、民間事業者に対し、入札説明書等において選定事業の履行条件として土地に関する資料を提示し、民間事業者は当該資料に基づき、設計費及び建設工事費等の積算を行う。その後、選定事業者は選定事業の業務の一部として施設の建設工事に必要な調査を自ら実施し、自ら実施した調査に従って施設の設計及び建設工事を施工することとなる。
・このため、選定事業者が土地にかかる調査等を自ら実施した結果、管理者等が入札説明書等において提示した土地に関する資料から合理的に予測又は想定できない瑕疵があることが判明した場合、及び、管理者等の提示した土地にかかる資料と選定事業者の実施した調査等結果との間で著しい差異がある場合等については、管理者等が選定事業者に生じた合理的な増加費用を負担すること、必要に応じた事業日程の変更等の措置を講じることを規定することなどが考えられる。
・特に、施設の建設工事に必要となる土地にかかる調査のうち、埋蔵文化財及び土壌汚染の調査については、これらの調査により判明される土地の瑕疵が、事業費用及び事業の工程に対し特に大きな影響を与える可能性があり、瑕疵の内容によっては、PFI事業契約の解除に至るおそれがあることから、当事者間で具体的かつ明確なリスク分担を規定する必要性が高い。
・リスクガイドラインにおいては、調査・設計に関するリスクとして、「選定事業に測量若しくは地質等調査又は設計(以下「設計等」という。)の一部又は全部が含まれる場合に
「設計等の完了の遅延」、「設計等費用の約定金額の超過」、「設計等の成果物の瑕疵」等が主なものとして想定される。」と定められている。従来型の公共工事の請負契約においても、工事現場の形状、地質等が設計図書と異なる場合、監督員への通知、調査を経て、工期の延長を認める規定が置かれる(公共工事標準請負契約約款第18条)。
3.その他施設の建設工事に必要な調査等
・選定事業者が建設工事の必要に応じて実施する調査等としては、測量及び地質調査に加え、周辺地域に対する家屋影響調査、工事に係るテレビ電波障害の現況調査等が考えられる。個々の施設及び建設工事の内容や地域特性に応じて選定事業者が判断する必要がある。
4.調査等実施の手続き
・選定事業者が調査を実施するときは、管理者等に事前に連絡する義務を課す、又は、速やかな事業の実施のため、事業用地の引渡し前に選定事業者が管理者等に事前連絡を行ない、管理者等の承諾を得た上で調査等を実施することができる旨規定することが通例である。
5.条文例
(建設に伴う各種調査)
条文例 3.3 乙は、業務要求水準書及び事業者提案に従って、[○○(業務要求水準上調査義務を課している調査を記載)]の調査に係る業務を実施する。また、乙は、自らの責任及び費用負担において、本件工事対象施設の設計及び施工に必要な測量及び調査(以下、本項前段の調査とあわせて「調査等」という。)を実施することができる。
2 乙は、前項に定める調査等を実施する場合は、調査等に着手する前に、本契約、業務要求水準書、入札説明書等及び事業者提案に従って、調査計画書を作成し、甲に提出しなければならない。また、調査等に係る一切の責任及び費用並びに当該調査の不備及び誤り等から生じる一切の責任及び費用は、乙の負担とする。
3 乙は、第1項に定める調査等を終了したときは、調査報告書を甲に提出しなければならない。
4 乙は、[行政財産無償貸付契約]に基づく本件土地の引渡し又は本件解体工事若しくは本件改修工事に先立って調査等を行う場合には、調査の日時及び概要をあらかじめ甲に連絡し、その承諾を得た上で調査等を行うことができる。
5 甲は、調査計画書又は調査報告書を受け必要があると判断したときは、乙に対し、調査等の内容及び方法その他当該報告又は記録等に合理的に関連する事項について、協議又は説明を求めることができる。
6 乙が第1項の規定に従って調査等を行った結果、本件土地又は本件解体工事対象施設若しくは本件改修工事対象施設に関して、入札説明書等において明示されていない又は入札説明書等に明示されていた事実と異なる本件土地又は本件解体工事対象施設若しくは本件改修工事対象施設の瑕疵が存在し、乙が本契約及び業務要求水準書に従って本事業を実施することができない場合又は乙が本事業を実施することができても乙に著しい損害(増加費用を含む。以下同じ。)が発生することが判明した場合、乙は、その旨を直
ちに甲に通知しなければならない。これに起因して乙に損害が発生した場合、甲は、合理的な範囲における当該損害額を負担するものとする。また、これに起因して乙に費用の減少が生じた場合、甲及び乙は協議のうえ、施設整備業務費を減額するものとする。
7 前項の場合、乙は、当該損害の発生を防ぎ、また拡大を低減するよう最大限努力しなければならない。
3-4 近隣説明(契約GL:1-10)
1.概要
・選定事業者は、適用法令及び条例に従い、選定事業のうち施設の建設工事についての近隣住民に対する説明と、施設の建設工事の近隣住民の生活影響に与える調査等を自らの責任と費用負担において実施する義務を負う旨規定される。併せて、管理者等は、必要と認める場合には、選定事業者等が近隣住民に行う説明に協力する義務を負う旨規定される。
2.趣旨
・選定事業の実施にあたっては、選定事業のうち建設工事の施工による騒音、交通渋滞等近隣住民の生活環境に与える影響を調査し、近隣説明を実施する必要がある。この近隣説明等については、選定事業者の費用と責任において実施する旨規定される。併せて、管理者等は、必要と認める場合には、選定事業者等が近隣住民に行う説明に協力する義務を負うことが規定される。なお、近隣住民が、PFI事業の実施によって損害を被った場合の賠償責任については、3-13 第三者に与える損害(設計・施工期間)と、
5-7 第三者に与える損害(維持・管理、運営期間)において解説する。
・また、選定事業者に対し、近隣説明等の実施について、事前及び事後に管理者等にその内容や結果等を報告する義務を課す規定をおくことが通例である。
3.建設工事が近隣住民の生活環境に与える影響
・施設の建設工事が近隣住民の生活環境に与える影響としては、騒音、悪臭、光害、粉塵発生、交通渋滞、汚濁水発生、振動、地盤沈下、地下水の断絶等が考えられる。
4.近隣対策を求められる範囲
・選定事業者の義務となる近隣対策の範囲については、合理的に要求される範囲等と限定する旨規定されることが通例である。
5.条文例
(近隣対応)
条文例 3.4.1 乙は、本契約の締結日後適切な時期に、自己の責任及び費用において、本事業の概要、日程及び工事実施計画等(施設の配置、施工時期、施工方法等の計画をいい、解体撤去工事に係る計画を含む。以下、本条において「工事実施計画等」という。)の近隣説明を行い、了解を得るよう努めなければならない。甲は、必要と認める場合には、乙が行う説明に協力しなければならない。
2 乙は、前項の説明に先立って、乙が実施しようとする説明の方法、時期及び内容につ
いて、甲に説明しなければならない。また、乙は、前項の説明の後、その内容及び結果を甲に報告しなければならない。
3 甲は前項の説明又は報告を受け、必要があると判断したときは、乙に対し、施工、近隣対応その他当該報告に合理的に関連する事項について、協議することを求めることができる。
4 乙は、自己の責任及び費用において、近隣調整を行う。
5 乙は、甲の承諾を得ない限り、近隣調整の不調を理由として、工事実施計画等の変更をすることはできない。この場合、甲は、乙が工事実施計画等を変更せず、更なる調整によっても近隣住民の了解が得られないことを明らかにした場合に限り、工事実施計画等の変更を承諾する。
6 近隣調整の結果、本件工事対象施設の竣工の遅延が見込まれる場合、甲及び乙は、協議のうえ、速やかに本件工事対象施設の竣工予定日及び引渡予定日を変更することができる。
7 近隣調整の結果乙に生じた費用(その結果、本件工事対象施設の竣工予定日及び引渡予定日が変更されたことによる増加費用も含む。)については、乙が負担するものとする。ただし、甲が設定した条件に直接起因するものについては、甲が負担する。
8 乙が本条の規定に基づき合理的な近隣調整を実施したにもかかわらず、当該近隣住民等の反対等により、本事業の実施が不可能若しくは著しく困難又は事業者提案の範囲を超える設計変更が必要となった場合には、甲は、乙と協議のうえ、本契約を解除することができる。かかる解除については、[条文例 13.1.4]の規定を適用する。
(周辺影響調査・対策業務)
条文例 3.3.2 乙は、本事業に起因する騒音、振動、悪臭、粉塵、アスベスト、真菌、地盤沈下、地下水位低下、地下水の断絶、電波障害その他本件工事が周辺環境に与える影響を調査、分析及び検討(以下本条において「周辺環境調査等」という。)し、適切な対策を講じるものとする。
2 乙は、前項の周辺環境調査等及び対策に先立って、乙が実施しようとする周辺環境調査等及び対策の方法、時期及び内容について、甲に説明しなければならない。また、乙は、前項の周辺環境調査等及び対策の後、その内容及び結果を甲に報告しなければならない。
3 甲は、前項の説明又は報告を受け、必要があると判断したときは、乙に対し、周辺影響対策その他当該報告又は確認に合理的に関連する事項について、協議することを求めることができる。
4 第1項の周辺環境調査等及び対策並びに前項の協議に要する費用は、乙が負担するものとする。また、乙は、第1項の周辺環境調査等及び対策の不備、誤謬等に起因する一切の追加費用を負担するものとする。ただし、甲が設定した条件に直接起因するものについては、甲が負担する。
3-5 工事監理者の設置(契約GL:2-2-6)
1.概要
・選定事業者は、建築基準法の定めに従い施設の建設工事に着手する前に自らの費用負担により工事監理者を設置する義務を負う旨規定される。また、選定事業者は、設置した工事監理者の名称を管理者等に通知し、当該工事監理者に報告を行わせる義務を負うこと等が規定される。
・本項については、条文例を含め、建設モニタリング(第4章)を参照のこと。
3-6 施設の建設工事にかかる事項(契約GL:2-2)
1.概要
・選定事業者は、PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従い、自らの責任と費用負担において施設整備を行う義務を負う旨規定される。併せて、選定事業者は、施設の施工方法その他施設を完成するために必要な一切の手段を自己の責任において定めることについて規定される。
2.施設の建設工事にかかるリスク
・施設の建設工事にかかるリスクとしては、①施設の完工遅延、②施設の建設工事費の増加、③施設にかかる業務要求水準未達、④施設の建設工事につき第三者に与える損害等が想定される。こうしたリスクは、予定どおりに施設を引渡し、運営を開始できなかったことによる得べかりし公共サービスの逸失利益、工期遅延等による増加費用負担、第三者に対し損害を与えた場合の損害賠償等として顕現化する。
・これらの損害等をもたらす要因は、①選定事業者の責めに帰すべきもの、②管理者等の責に帰すべきもの、③選定事業者及び管理者等の双方の責めに帰すべきもの、④選定事業者又は管理者等の責めに帰すことができないものに分類できる。
・なお、建設工事の段階で発生した事由により、PFI事業契約が解除されることも想定しうるが、これについては、別途、「第 10 章 契約の終了」において解説する。
・選定事業者が施設を完工し、公共サービスの提供を開始しない限り、基本的には管理者等の「サービス対価」支払い義務は生じず、選定事業者はこれを受領できないことから、選定事業者は施設を完工させ、公共サービス提供を開始することに対し、大きな経済的動機付けを保持している。選定事業者にとって自らの責任による施設の完工遅延及び公共サービス提供の遅延は、従来型の公共事業以上に大きなリスクとなる。
3.条文例
(建設業務の実施)
条文例 3.6.1 乙は、建設協力企業をして、本契約、業務要求水準書、事業者提案及び設計図書に従って、建設業務を実施せしめる。
(本件解体工事の実施)
条文例 3.6.2 乙は、建設協力企業をして、本契約、業務要求水準書、事業者提案、設計図書、全体工事工程表及び施工計画書に従って、本件解体工事を遂行させる。
2 乙は、各本件解体工事対象施設の解体工事に着手しようとするときは、本件解体工事対象施設ごとにあらかじめ甲に工事着工届を提出し、確認を得なければならない。
3 本件解体工事対象施設の現況が入札説明書等で示されたものと著しく異なるときは、
[条文例 3.3 第6項及び第7項]の規定に従う。
(本件新設工事の実施)
条文例 3.6.3 乙は、建設協力企業をして、本契約、業務要求水準書、事業者提案、設計図書、全体工事工程表及び施工計画書に従って、本件新設工事を遂行させる。
2 仮設工事、施工方法その他本件新設工事対象施設を安全に工期内に完成するために必要な一切の手段については、本契約、業務要求水準書、事業者提案、設計図書及び施工計画書に定めがあるものについてはこれに従い、定めのないものについては乙が自己の責任において行い、その費用を負担する。
3 乙は、各本件新設工事対象施設の建設工事に着手しようとする場合には、本件新設工事対象施設ごとにあらかじめ甲に工事着工届を提出し、確認を得なければならない。
(本件改修工事の実施)
条文例 3.6.4 乙は、建設協力企業をして、本契約、業務要求水準書、事業者提案、設計図書、全体工事工程表及び施工計画書に従って、本件改修工事対象施設の建設工事を遂行させる。
2 仮設工事、施工方法その他本件改修工事対象施設を安全に工期内に完成するために必要な一切の手段については、本契約、業務要求水準書、事業者提案、設計図書及び施工計画書に定めがあるものについてはこれに従い、定めのないものについては乙が自己の責任において行い、その費用を負担する。
3 乙は、各本件改修工事対象施設の建設工事に着手しようとする場合には、本件改修工事対象施設ごとにあらかじめ甲に工事着工届を提出し、確認を得なければならない。
4 本件改修工事対象施設の現況が入札説明書等で示されたものと著しく異なるときは、
[条文例 3.3 第6項及び第7項]の規定に従う。
3-7 第三者による実施(建設工事)(契約GL:2-2-5)
1.概要
・①選定事業者は、施設の建設工事を第三者に委託し又は請け負わせることができるものとすること、但し、かかる委託又は請負は全て選定事業者の責任において行うこと、②選定事業者は、施工体制台帳等を管理者等に提出する義務を負うこと等が規定される。
2.選定事業者の責任の範囲
・コンソーシアム構成企業が株式会社を新設し、当該株式会社が選定事業者となる場合、選定事業者は、通例、コンソーシアム構成企業(又は受託・請負企業)の建設企業に建設工事を委託し又は請け負わせる。但し、選定事業者は、建設工事を建設企業に委託し又は請け負わせる場合においても、その建設請負契約などの規定にかかわらず、管理者等との関係では、建設企業その他の選定事業者が使用する第三者の責めに帰すべき事由は全て選定事業者の責めに帰すべき事由とみなされることが規定される。
・建設業法において、建設業者は、その請け負った建設工事を、如何なる方法をもってするかを問わず、一括して他人に請け負わせてはならないとし、建設業を営む者は、建設業者から当該建設業者の請け負った建設工事を一括して請け負ってはならないと規定している(建設業法第22条第1項及び第2項)。また、同法において、一括下請負の禁止の例外として、元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得た場合には、同法第
22条第1項及び第2項の規定は適用されない(建設業法第22条第3項)。このため、選定事業者が建設企業に建設工事を請け負わせる等した場合で、この建設企業が第三者に一括して請け負わせること(一括下請負)の承諾を選定事業者に求めた場合には、その承諾を与えてはならないことを規定する場合がある。
・ちなみに、参考として、公共工事においては、発注者の承諾の有無とは無関係に一括下請負を禁止されるべきであることから、入札契約適正化法において、公共工事においては建設業法第22条第3項を不適用とし、一括下請負が認められる場合が存在しないことが規定されている(入札契約適正化法第12条)。
3.施工体制台帳等の管理者等に対する提出
・PFI事業においては、実質的に建設工事を施工する企業を管理者等が把握するため、入札参加者提案において建設工事を施工する建設企業を示すことが通例である。
・一般に建設工事の施工は、それぞれ独立した各種専門工事の総合的な組み合わせにより成り立っているため、建設業法において、発注者から直接請け負った建設工事を一定額以上の下請契約を締結して施工しようとする特定建設業者に対し、施工体制台帳及び施工体系図の作成等を義務付けている(建設業法第24条の7及び建設業法施行令第7条の4)。ちなみに、参考として、入札契約適正化法が適用される場合には、発注者への施
工体制台帳の写しの提出が義務付けられている(入札契約適正化法第13条第1項)。
・上述のとおり、選定事業における建設企業が特定建設業者であって、管理者等から直接請け負った建設工事を一定額以上の下請契約を締結して施工しようとする場合には、当該建設企業には建設業法の定めにより施工体制台帳等の作成が義務付けられている。したがって、管理者等が、工事の適正な施工の確保がなされているかを確認するため、P FI事業契約締結後から建設工事の着工までの間に、選定事業者に対して建設企業から施工体制台帳等の提出及びこれらについての報告を求めることができること、下請業者の内容が変更された場合には管理者等に通知することが規定される。
4.条文例
(建設業務の第三者による実施)
条文例 3.7.1 乙は、建設協力企業を変更又は追加してはならない。ただし、やむを得ない事情が生じた場合であって、甲の事前の書面による承諾を得た場合はこの限りではない。
2 乙は、建設業法(昭和 24 年法律第 100 号)第 22 条3項の承諾を与えてはならない。
3 乙は、本件工事着工予定日までに、建設業法第 24 条の7及び業務要求水準書に基づく施工体制台帳及び施工体系図の写しを甲に提出し、確認を受けなければならない。その内容を変更するときも同様とする。
4 建設業務実施に関する建設協力企業その他第三者の使用は、すべて乙の責任において行うものとし、建設業務実施に関して乙又は乙が使用する一切の第三者の責めに帰すべき事由は、すべて乙の責めに帰すべき事由とみなして、乙が責任を負う。
3-8 施工計画書の提出(契約GL:2-2-4)
1.概要
・選定事業者が施設の建設工事の工程などを記載した施工計画書を作成し、管理者等に対して提出する義務を負うこと、及び工事記録を整備する義務を負うこと等が規定される。
2.趣旨
・選定事業における施設の建設工事については、通常総額によりPFI事業契約を締結する方法がとられ、選定事業者は、全体の工期内に建設工事を完成する義務を負うだけであり、特段の合意がない限り、施工計画書等に記載のとおりに個々の工種ごとにその工事細目を一定の期日までに完成する義務を負うものではない。施工計画書等は、管理者等が選定事業者による建設工事の進捗状況の把握等の目安として取り扱うものである。
(関連:1-5 事業日程)
・選定事業者の対応能力に応じ、その自主的な建設工事の施工に委ねるとしても、必要に応じて管理者等の関与が必要な場合がある。しかしながら、選定事業全体に与える影響が小さいと見込まれるときには、管理者等の過度の関与が不適当な場合があることに留意し、事業日程に規定された施設の完工期日又は施設の維持・管理、運営開始期日までに選定事業者により建設工事が施工され、サービス提供の準備が完了することに主眼を置くことが望ましい。
3.公共工事標準請負契約約款上の規定(参考)
・公共工事標準請負契約約款第3条第2項において、工程表は、この約款の他の条項において定める場合を除き、当事者を拘束するものではないと定めている。
4.施工計画書等の提出
・選定事業者は、①工事全体の工程表を含む施工計画書、及びこれを補足する月間工程表又は週間工程表を作成すること、②建設工事の着工前に、工事全体の工程表を含む施行計画書を管理者等に提出すること、③月間工程表又は週間工程表を一定の期日に、又は管理者等が求めたときに提出する等の規定を置くことが通例である。
・選定事業者が管理者等に提出する施工計画書等に対する管理者等の確認等の要否(「サービス対価」を変更する場合の算定の基礎に活用するかなどを考慮する)については、当事者があらかじめ検討し、PFI事業契約に規定することが望ましい。
・工期中の工事記録の整備については、選定事業者が、実際に施設の建設工事を請け負う又は受託する建設企業にその義務を移転する場合、その旨規定される。
5.条文例
(施工計画書等)
条文例 3.8.1 乙は、本件工事着工予定日の前日までに、本契約、業務要求水準書、事業者提案及び設計図書に従って、全体工事工程表を作成して甲に提出し、確認を受けなければならない。
2 乙は、本件工事対象施設の着工予定日の[ ]日前までに、本契約、業務要求水準書、事業者提案及び設計図書に従って、施工計画書(工事工程表及び施工要領書を含む。)その他甲の指定する書類を作成して甲に提出し、確認を受けなければならない。
3 乙は、仮設工事を行う場合、本契約、業務要求水準書及び事業者提案に従って、仮設計画書を作成し、仮設工事開始までに甲に提出し、甲の確認を受けなければならない。
4 乙は、別途甲と協議により定める期限までに月間工程表を作成し、甲に対して提出するものとする。
5 前3項の書面の提出後に当該書面の修正が必要となった場合、乙は、適宜当該書面の修正を行い、修正内容を甲に報告し、甲の確認を受ける。
3-9 保険加入義務(施工期間中)(契約GL:6-5)
1.概要
・選定事業者が、自らの費用負担において自らが加入する、若しくは、コンソーシアム構成企業又は受託・請負企業等に加入させる義務を負う保険の種類及び内容について規定される。
2.趣旨
・近年、火災保険、地震保険に加え、天候保険等が商品化され、保険・金融技術の向上や市場の整備等に伴ってリスクを軽減することが可能な範囲が広がっていることから、適宜、当該時点でのリスク軽減措置について幅広く検討(リスクガイドライン6(1)参考③)し、付保にかかる費用を勘案しても契約の両当事者が負うリスクを除去するために保険に加入することに合理性があると判断できる場合には、選定事業者に当該保険の加入を義務付ける必要がある。
3.加入すべき保険の種類及び内容
・選定事業者に加入を義務付ける保険は事業内容、事業場所等により異なるものの、通例、 BTO方式及びBOT方式の双方の選定事業において、履行保証保険、建設工事保険、第三者損害賠償責任保険等の付保を義務付けることが通例である。
・管理者等が、入札説明書等において選定事業者が付保すべき保険の内容等を提示し、これ以外の保険の付保を民間事業者から提案させる場合がある。この場合、管理者等は選定事業者が自ら提案した保険についても加入を義務付けなければならないことに留意が必要である。
・選定事業者が付保すべき保険の種類とそれぞれの保険内容(保険対象、被保険者名、保険期間、填補限度額等)について、PFI事業契約書に規定される。保険の種類は各民間保険会社により名称が様々であり、また、新たな保険商品の開発も想定されることから、特定の保険商品の名称を規定するのではなく、選定事業者が様々な保険商品のなかから付保目的に照らして最適な商品を選択できるよう規定を工夫することが望ましい。
4.付保の義務付けの可否
・選定事業者に付保を義務づける保険については、一般に民間保険会社による対応が可能とされている火災、暴風雨、洪水については、リスクを選定事業者に負わせることが適切な場合が多いと考えられる。しかし、対応が制約的とされている地震、噴火、津波、テロ行為及び対応が困難とされている戦争、内乱、放射能汚染については、リスクを選定事業者に負わせることは、選定事業者の倒産リスクを増加させ資金調達を困難にするおそれを高めることになる。なお、付保が可能である場合であっても、選定事業固有の
リスク等によって保険料が著しく高くなる場合には、選定事業者への付保の義務付けは結果的に事業費用の増加を招き、ひいては契約金額に転嫁される結果ともなり得ることにも配慮する必要がある。
5.付保手続き
・選定事業者が保険加入義務を履行していることを確認するため、選定事業者は保険契約の内容について管理者等の確認を受けてから保険に加入し、その保険証券の写しを管理者等に提出することとされる。
6.コンソーシアム構成企業、受託・請負企業等第三者の付保
・また、PFI事業ではコンソーシアム構成企業、受託・請負企業及び下請企業等選定事業者から業務を受託し又は請け負った第三者の責めに帰すべき事由は、すべて選定事業者の責めに帰すべき事由とみなして、選定事業者が責任を負うことから、原則として選定事業者が付保する旨規定することが望ましい。但し、選定事業者が設計・施工業務を受託・請負企業等第三者に一括発注する場合等においては、この限りではなく、受託・請負企業等第三者が付保する旨規定される場合もある。
・選定事業者の受託・請負企業等第三者が付保する旨規定した場合、複数の受託・請負企業等第三者がそれぞれ付保することもあり、補償内容が十分ではないものとなるおそれや、損害発生時の調査を複数の保険会社が実施することによる処理の煩雑化等が生じることもありえる。このため、事業内容が複雑な選定事業などにおいて、受託・請負企業等が複数になることがあらかじめ想定される選定事業については、選定事業者が付保する旨規定することが望ましい。
7.条文例
(施工期間中の保険)
条文例 3.9.1 乙は、施工期間中、別紙○の第1に定める保険に加入し又は建設協力企業をして加入させ、保険料を負担し又は建設協力企業をして負担させるものとする。
2 乙は、前項の規定により自ら保険契約を締結し、又は建設協力企業をして保険契約を締結させたときは、その保険証券の写しを直ちに甲に提出しなければならない。
別紙○ 乙が加入すべき保険
第1 施設整備業務に係る保険
1 建設工事保険
(1) 保険種類
建設工事保険(又は類似の機能を有する共済等を含む。以下同じ。)
(2) 保険内容・目的
本件工事対象施設の施工期間中に発生した工事目的物及び工事材料の損害を担保する。
(3) 付保条件
① 担保範囲は、本件工事のすべてとする。
② 保険期間は、本件工事着工日から本件工事対象施設のすべての引渡終了日までとする(各本件工事対象施設の着工日から当該施設の引渡日までの期間を対象とする複数の保険に加入することは差し支えない。)。
③ 保険契約者は、乙又は建設協力企業とする。
④ 被保険者は、乙、建設協力企業及びそれらの使用する一切の第三者並びに甲とする。
⑤ 保険金額は、再調達価格に相当する額とする(各本件工事対象施設の工事費を保険金額とする複数の保険に加入することは差し支えない。)。
2 第三者賠償責任保険
(1) 保険種類
第三者賠償責任保険(又は類似の機能を有する共済等を含む。以下同じ。)
(2) 保険内容・目的
本件工事の遂行に伴って派生した第三者(甲の職員、患者、来訪者、通行者、近隣住民その他の第三者)に対する対人及び対物賠償損害を担保する。
(3) 付保条件
① 担保範囲は、本件工事のすべてとする。
② 保険期間は、本件工事着工日から本件工事対象施設のすべての引渡終了日までとする(各本件工事対象施設の着工日から当該施設の引渡し日までの期間を対象とする複数の保険に加入することは差し支えない。)。
③ 保険契約者は、乙又は建設協力企業とする。
④ 被保険者は、乙、建設協力企業及びそれらの使用する一切の第三者並びに甲とする。
⑤ 保険金額は、対人にあっては1名当たり[ ]円以上及び1事故当たり[ ]円以上とし、対物にあっては1事故当たり[ ]円以上とする。
第2 サービス提供業務等に係る保険(略)第3 前記各保険以外の保険
前記各保険以外に、事業者提案において乙により付保することとされた保険については、事業者提案に定めるところにより付保するものとし、変更する必要が生じたときは、あらかじめ甲と協議しなければならない。
なお、乙が当該保険を付保したときは、その証券又はこれに代わるものを、直ちに甲に提示しなければならない。
3-10 管理者等による確認(契約GL:2-3,2-3-1)
1.概要
・建設工事の段階において、PFI事業契約等に従った適正な建設工事の施工を確保するため、管理者等によって選定事業者が行う建設工事の施工状況等の確認にかかる事項について規定される。
・本項については、条文例を含め、建設モニタリング(第4章)を参照のこと。
3-11 完工検査(契約GL:2-3-2)
1.概要
・選定事業者及び管理者等がそれぞれ行う施設の完工検査の方法及びその効果について規定される。
・本項については、条文例を含め、建設モニタリング(第4章)を参照のこと。
3-12 工期の変更(契約GL:2-2-7)
1.概要
・当事者の一方が施設の建設工事の工期の変更を求めた場合、当事者間の協議により当該変更の当否を定めた後(協議が不調に終わった場合は、管理者等が合理的な工期を定め、選定事業者はこれに従う。)、当該変更の対応に要する増加費用の負担については当事者間の協議により決定する旨規定される。
2.工期の変更と事業日程の遅延との関係
・工期の変更が行われても、管理者等への施設の引渡し(又は運営開始)等の事業日程は遅延されない場合もあり得る。工期の変更による増加費用の負担については、事業日程の遅延による違約金支払いなど損害の負担の規定とは区別し、かつ、両者の整合性を確保する必要があることに留意が必要である。
・工期の変更により、選定事業者から管理者等への施設の引渡し(又は運営開始)等の事業日程が遅延したときの損害の負担については、具体的かつ明確な規定が置かれる。(関連:3-16 引渡し(又は運営開始)の遅延)
3.工期の変更による増加費用の負担
・建設工事の工期の変更による増加費用の負担については、当該変更が選定事業の用に供する土地の瑕疵又は管理者等の責めに帰すべき事由による場合は、管理者等が合理的な範囲で負担し、当該変更が選定事業者の責めに帰すべき事由による場合は、選定事業者が負担することが原則となる。
・設計変更の場合(2-3)と同様に、工期の変更があった場合、それに起因する増加費用とあわせて、引渡し(又は運営開始)予定日の延期についての検討が同時に必要である点に留意を要する。管理者等の帰責事由による工期の変更への対応の選択肢としては、当初設定した引渡し(又は運営開始)予定日は変更せず、その引渡し(又は運営開始)予定日までに施設を完成させることを前提とした増加費用を管理者等が負担するという対応と、逆に合理的な期間、引渡し(又は運営開始)予定日を延期した上で、その引渡し(又は運営開始)予定日までに施設を完成させることを前提にした増加費用を管理者等が負担するという対応が考えられる。一定の期日までに施設の運営を開始することを重視するならば、前者が選択される。但し、この場合、増加費用の負担額は相対的に大きくなることが一般に予想される。これに対し、後者を選択した場合、引渡し(又は運営開始)予定日を延期する以上、当然に「サービス対価」の支払開始も遅れることになる。従って、この「サービス対価」の支払開始の遅延が選定事業者による融資返済に与える影響、ひいては、管理者等の負担に与える影響について留意する必要がある。
・上記に関し、引渡し(又は運営開始)予定日を延期した場合、それに伴って維持・管理、
運営期間の終期も同様に延期するのか、あるいは維持・管理、運営期間の終期は変更せずに、維持・管理、運営期間を短縮することとするのか、という問題についても検討を要する。前者を選択した場合、維持・管理、運営の期間は変わらないが、「サービス対価」の支払いが全体として遅くなり、後者の場合には、維持・管理、運営期間の短縮の結果、選定事業者が失うことになる「サービス対価」をどのように考えるかについて検討を要する。(関連:1-5 事業日程)
4.関係法令の規定
・建設業法において、「当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め」及び「天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め」が建設工事の請負契約の締結に際に必要な記載事項の一つに規定されている(建設業法第19条第1項第5号及び第6号)。PFI事業契約においても、工期が変更されたときの増加費用の分担について規定する必要がある。
・従来型の公共工事の請負契約においては、工期の変更方法について、発注者と請負者が協議して定めることを原則とし、一定期間以内に協議が整わない場合には、発注者が決定して請負者に通知することとしている(公共工事標準請負契約約款第23条第1項)。
・工期の変更に関連して発生しうる「工事の完成の遅延」は建設工事にかかる主なリスクとして想定される(リスクガイドライン二3)ことから、管理者等と選定事業者は、P FI事業契約において、かかるリスクが顕在化した場合の増加費用の分担を含む措置について、できる限り曖昧さを避け、具体的かつ明確に規定する必要がある。
・工事の完成の遅延には、選定事業者の不適切な工程管理等による遅延、管理者等の何らかの事由による設計変更等による遅延、当該管理者等あるいはその他の者の選定事業に係る公共施設等に密接に関連する施設の整備の遅れによる遅延、不可抗力等協定等の当事者の合理的な措置にかかわらず避けられない双方の責めに帰しがたいものによる遅延等がある。工事の完成が遅延する場合には、選定事業者には労務費等の増加負担、借入金利子払増等の損失が、公共施設等の管理者等には代替サービスの購入費等の損失が発生する場合がある。なお、選定事業者が公共施設等の完成の通知をした場合において、設備、機器の試運転の結果、当該公共施設等の状況によっては協定等や仕様書等で示された提供されるべき公共サービスの水準を達成することができない場合には、工事は完成しておらず、その修補の完了が工事の完成となることを協定等で合意しておく必要がある。(リスクガイドライン二3(1)参考①)
5.条文例
(工期の変更)
条文例 3.12.1 甲が乙に対し工期の変更を請求した場合、甲と乙は協議により当該変更の当否を定めるものとする。
2 不可抗力若しくは法令変更又は乙の責めに帰すことのできない事由により工期を遵守できないことを理由として乙が工期の変更を請求したときは、甲と乙は協議により当該変更の当否を定めるものとする。
3 前2項において、甲と乙の間において合理的な期間内に協議が整わない場合、甲が合理的な工期を定めるものとし、乙はこれに従わなければならない。
(工事の中止)
条文例 3.12.2 甲は、必要があると認める場合、その理由を乙に通知した上で、本件工事の全部又は一部を一時中止させることができる。
2 甲は、前項の規定により本件工事を一時中止させた場合であって、必要があると認めるときは工期を変更することができる。
(工期の変更に伴う費用負担等)
条文例 3.12.3 前2条に基づき工期が変更された場合で、乙に損害が生じる場合、かかる損害の負担については次のとおりとする。
(1) 甲の責めに帰すべき事由による場合は、合理的な増加費用を甲が負担する。
(2) 乙の責めに帰すべき事由による場合は、すべて乙が負担する。
(3) 法令変更又は不可抗力による場合は、別紙[(法令変更の際の費用負担に関する別紙の番号を記載)]及び別紙[(不可抗力の際の費用負担に関する別紙の番号を記載)]の負担割合に従い、合理的な増加費用を甲及び乙が負担する。
3-13 第三者に与える損害(設計、施工段階)(契約GL:2-2-8)
1.概要
・選定事業者が行う施設の建設工事により第三者に与える損害等については、選定事業者がそれを負担する旨規定される。但し、当該損害のうち管理者等の責めに帰すべき事由により生じた損害等については、管理者等がこれを負担する旨規定される。
2.近隣対策にかかる費用負担
・事業の実施そのものについての近隣調整は管理者等に責任の所在があるものの、近隣調整の不調については、その理由が事業の実施そのものであるのか、若しくは、選定事業者による建設工事の影響であるのか、必ずしも判然としない場合が生じうると想定される。この場合には、責任の所在と費用負担について当事者間で協議を行う必要が生じるものと考えられる。
・なお、管理者等は、当該施設の立地条件、事業内容等の観点から、近隣住民の生活環境に相当な程度の影響を与えることがあらかじめ想定される事項については、その対応にかかる責任の所在と費用負担のあり方を入札説明書等に明記することが望ましい。
3.第三者に対する損害賠償責任
・施設の建設工事により第三者に損害を与えた場合、選定事業者は当該損害を当該第三者に対して賠償する旨規定される。但し、管理者等の責めに帰すべき事由の場合には、管理者等が当該損害を当該第三者に対して賠償する旨規定される。
4.通常避けることのできない理由による損害
・施設の建設工事に伴い通常避けることができない騒音等の事由により第三者に与える損害等の負担については、その他事由による負担とは別に規定が置かれることが通例である。
・建設工事に伴い通常避けることのできない騒音、振動、地盤沈下、地下水の断絶等の理由により第三者に損害を与えた場合については、その損害賠償責任が選定事業者にあるとする考え方と、管理者等にあるとする考え方がある。PFI事業契約の締結にあたり、当事者間で、いずれの考え方が当該選定事業に相応しいかを検討し、PFI事業契約において適切に規定することが望ましい。但し、上記の理由が選定事業者の建設工事における善管注意義務違反を原因としている場合には、選定事業者が損害賠償責任を負うことになる。また、これらの問題は、建設工事に伴う各種調査に関する問題とも関連するため、PFI契約上相互の規定の整合性につき留意が必要となる。(関連:3-3 建設工事に伴う各種調査)
・他の民間事業者が実施しても回避することが見込めない事由である場合、選定事業者に
そのリスクを全て負担させることにつき合理的な理由が見いだせないという考え方もある。特に、事業用地を管理者等が事前に指定している場合、そのような事情は強まると思われる。しかしながら、管理者等が損害賠償を負担するとした場合、選定事業者は消極的に善管注意義務を果たすにとどまり、損害防止のために積極的により優れた技術を用いるという経済的動機付けを失う可能性があるという側面にも留意が要する。
・公共工事標準請負契約約款第28条第2項においては、建設工事に伴い通常避けること のできない騒音、振動、地盤沈下等の理由により第三者に損害を与えた場合、発注者が その損害を負担すると定められている(但し、善管注意義務を怠った場合は請負者がそ の損害を負担するとされる。)。その理由として、請負者が損害の負担部分を契約額の中 であらかじめ留保することなどから契約金額に転嫁される結果ともなり得ることに加え、公共工事が仕様発注方式をとり、かつ、公共は工事請負契約の発注者の立場になること から、発注者たる公共が負担するとしているものと考えられる。一方、PFI事業にお いては、性能発注方式をとり、かつ、管理者等にとっては契約の相手方である選定事業 者が発注者の立場になって、請負人である建設企業の間で施設の工事請負契約等が締結 されるため、選定事業者が負担することも考えられる。但し、PFI事業を選定事業者 に一括して委ねる者は管理者等であることを理由に、又はVE提案等の仕様発注に近い 方法を採用する場合等において、管理者等が負担することも考えられる。
5.関係法令上の責任
・以下は、PFI事業において管理者等が問われる可能性のある法律上の責任を例示したものである。
1)公の営造物又は土地の工作物にかかる責任(国家賠償法第2条第1項又は民法第7
17条第1項):国家賠償法第2条第1項において「公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責めに任ずる。」と規定されている。また、民法第717条第1項は、土地の工作物の設置又は保存の瑕疵により第三者に損害を与えた場合、かかる工作物の占有者がその損害について責任を負うとし、同項但し書は、占有者が損害の発生を防止するために必要な注意をなしていたときは、占有者は免責されて、所有者が責任を負うと定めている。
2)共同不法行為者の責任(民法第719条):建設工事に関し、管理者等と選定事業者の双方が共同して第三者に損害を与えた場合、管理者等と選定事業者の行為は民法第719条に規定される共同不法行為となり、被害者は、管理者等と選定事業者の各自に対して生じた損害の全額の賠償を求めることが可能である。そして、共同不法行為者の一人が被害者に全部の賠償をした場合には、他の者に対して本来負担すべき責任の割合に応じて求償権を持つことになるが、かかる損害の分担方法についてあらかじめ当事者間で合意しておくことも可能である。したがって、PFI事業
契約においても、事業の委託者である管理者等と受託者である選定事業者の間における損害の分担方法についてあらかじめ合意しておくことが考えられる。
6.第三者賠償責任保険の付保義務
・第三者に対する損害賠償については、保険による填補が経済的に合理的なリスク軽減等の手段になる選定事業が多いことから、選定事業者にかかる付保を義務付け、PFI事業契約の別紙として付保内容の明細を記載し、その内容及び基本条件につき規定することが通例である。また、被保険者として選定事業者、選定事業者と契約する建設企業、建設企業の下請企業等を含めることが可能である。(関連:3―9 保険加入義務(施工期間中))
7.条文例
(第三者に発生した損害等)
条文例 3.13 本件工事について第三者に損害([本件工事に伴い通常避けることのできない騒音、振動等の理由により第三者に損害を発生させた場合を含み、][条文例 3.9.1]の規定により付された保険により填補された部分を除く。)を発生させた場合には、乙がその損害を賠償しなければならない。ただし、その損害のうち甲の責めに帰すべき事由により生じたものについては、甲が負担する。
2 [条文例 2.3.1]又は[法令変更に伴う設計変更に関する規定を挿入]の設計変更に起因して第三者に損害を与えた場合、甲がその損害を賠償しなければならない。
3 甲は、第1項本文に規定する損害を第三者に対して賠償した場合、乙に対して、賠償した金額を求償することができる。乙は、甲からの請求を受けた場合には、速やかに支払わなければならない。
3-14 不可抗力による損害(設計、施工段階)(契約GL:2-2-9)
1.概要
・施設の設計、施工段階において、不可抗力の発生により、PFI事業契約等に従った設計・施工業務の履行が不能になった場合の規定である。不可抗力事由の発生時における債務の取扱い、履行不能発生時の選定事業者による管理者等への通知等の手続き、不可抗力に起因する損害等の分担、施設の引渡し(又は運営開始)予定日の変更などについて規定される。
2.不可抗力の定義の考え方
・不可抗力とは、協定等の当事者の行為とは無関係に外部から生じる障害で通常必要と認められる注意や予防方法を尽くしてもなお防止し得ないものと考えられる。管理者等及び選定事業者のいずれの責めにも帰しがたい天災等、具体的には、暴風、豪雨、洪水、高潮、地滑り、落盤、落雷、地震、火災、有毒ガスの発生等の自然災害に属するものと、騒乱、暴動、戦争、テロ行為等の人為災害に属するものとに分類できる。最終的には当事者間の合意するところに委ねられる(参考:リスクガイドライン二6(1))。(関連:
13-1 不可抗力による損害への対応)
3.不可抗力発生時の手続き等
・不可抗力事由の発生により、PFI事業契約等に従った設計又は建設工事業務の全部又は一部の履行が不能となった場合、選定事業者はその履行不能の内容の詳細及びその理由について書面をもって直ちに管理者等に通知することが規定される。選定事業者は、この履行不能通知の発出後、履行不能状況が継続する期間中、選定事業者の履行期日におけるPFI事業契約等に基づく自己の債務について当該不可抗力による影響を受ける範囲において業務履行義務が免除される。但し、選定事業者は損害を最小限にする義務を負う。
・管理者等は選定事業者から履行不能通知の受領後、速やかに当該不可抗力による損害状況の確認のための調査を行い、その結果を選定事業者に通知する義務が規定される。また、管理者等は、設計や建設工事等の内容の変更、引渡し(又は運営開始)の遅延、当該不可抗力事由による合理的な損害又は増加費用の分担等対応方法につき選定事業者と協議を行うことが規定される。
・上述の当事者間による協議において一定期間以内に合意が成立しない場合、管理者等は、事業継続に向けた対応方法を選定事業者に通知し、選定事業者は、かかる対応方法に従い選定事業を継続する義務を負うことが規定される。また、選定事業者の履行不能の状態が永続的なものと判断されるとき又は選定事業の継続に過分の費用を要するときなどには、管理者等は、選定事業者と事業の継続の是非について協議の上、PFI事業契約
の一部又は全部を解除できることが規定される。なお、管理者等と選定事業者の当事者双方が解除権を有する契約構成とすることも考えられる。
4.不可抗力による損害等の分担
・設計、施工段階に、不可抗力の発生により施設及び仮設物、工事現場に搬入済みの工事材料、その他建設機械器具等に対し損害が生じた場合、選定事業者に不可抗力等による損害を最小限にとどめる経済的動機付けを与えるため、生じた損害又は増加費用の一部を選定事業者が負担することとし、その余を管理者等が負担する規定を置くことが通例である。例えば、同期間中の累計で建設工事費に相当する金額に一定比率を乗じた額に至るまでの額、又は一定金額に至るまでの額を選定事業者の負担とし、これを超過する部分については、「合理的な範囲」で管理者等が負担すると規定されることが考えられる。選定事業者の負担割合の検討にあたっては、選定事業者がより多くの不可抗力の損害金を負担することとした場合、不可抗力のリスクを適正に定量化できないこと及び保険技術上の制約から、選定事業者が不可抗力のリスクを負担するための費用が過大となり、結果として、かかる費用が契約金額に転嫁される結果ともなり得ることに留意する必要がある。なお、選定事業者が善良なる管理者としての注意義務を怠ったことに起因する損害等については、選定事業者が負担するものと規定される。
・ここでの損害の範囲について検討が必要である。具体的には、損害の範囲を積極損害(施設、仮設物等のみを対象とした損害)のみとするか、あるいはこれらに関連する選定事業者の損害と増加費用一般まで含むか、という点を明確にすることが望ましい。
・建設工事費に相当する額に一定比率を乗じた額又は一定金額を超過する部分について、
「合理的な範囲」で管理者等が不可抗力による損害又は増加費用を負担する旨規定されることが通例である。この場合、この一定比率を乗じた額又は一定金額を超過する部分についても選定事業者が不可抗力による損害等を負担することが想定され、かかる負担についてできる限り具体的に規定することも考えられる。
・従来型の公共工事の請負契約においては、請負代金額の100分の1を超える部分を発注者が負うことにより請負者の負担を軽減している(公共工事標準請負契約約款第29条第4項)。かかる規定は、不可抗力による損害の負担をすべて請負者に帰するのではなく、何らかの形で発注者が負担しているという実態をも考慮し、請負契約における片務性の排除、建設業の健全な発達の促進をも考慮して、損害の負担を転嫁している。
5.引渡し(又は運営開始)予定日の変更
・上記の損害の範囲と関連する問題として、不可抗力に起因する損害負担とあわせて、引渡し(又は運営開始)予定日の延期について検討が必要である点に留意が必要である。対応の選択肢としては、当初設定した引渡し(又は運営開始)予定日は変更せず、その引渡し(又は運営開始)予定日までに施設を完成させることを前提とした損害額(増加
費用等を含む)を負担の基礎とするというものと、逆に合理的な期間、引渡し(又は運営開始)予定日を延期した上で、それを前提とした損害額(積極損害のみ)を負担の基礎とする、というものが考えられる。一定の期日までに施設の運営が開始されることを重視するならば、前者が選択されることになる。この場合、負担の基礎となる損害額は相対的に大きくなることが一般に予想される。これに対し、後者を選択した場合、引渡し(又は運営開始)予定日が当初より遅れる以上、当然に「サービス対価」の支払開始も遅れることになる。従って、この「サービス対価」の支払開始の遅延が選定事業者による融資返済に与える影響、ひいては、管理者等の負担に与える影響について留意する必要がある。
・上記に関し、引渡し(又は運営開始)予定日を延期した場合、それに伴って維持・管理、運営期間の終期も同様に延期するのか、あるいは維持・管理、運営期間の終期は変更せず、維持・管理、運営期間を短縮することとするのか、という問題について検討を要する。前者を選択した場合、維持・管理、運営期間は変わらないが、「サービス対価」の支払が全体として遅くなり、後者の場合には、維持・管理、運営期間の短縮の結果、選定事業者が失うことになる「サービス対価」をどのように考えるかについて検討を要する。
(関連:1-5 事業日程)
6.保険金の不可抗力による損害等の分担額からの控除
・不可抗力に起因して損害が生じたことにより選定事業者が施設の保全に関する保険の保険金を受領した場合で、当該保険金の額が選定事業者の負担する損害等の額を超えるときには、当該超過額は管理者等が負担すべき損害等の金額から控除するものとする(選定事業者の負担とし、保険金から支払われるようにする)規定を置くことが通例である。
7.条文例
(不可抗力による損害)
条文例 3.14 乙が本件工事対象施設の引渡しを行う前に、不可抗力により、本件工事対象施設(建設中の出来形を含む。)に損害が生じた場合、乙は、当該事実の発生後直ちにその状況を甲に通知しなければならない。
2 前項の規定による通知を受けた場合、甲は直ちに調査を行い、損害の状況を確認し、その結果を乙に通知する。
3 第1項に規定する損害(乙が善良なる管理者の注意義務を怠ったことに基づくものを除く。)については、別紙○の負担割合に従い合理的な増加費用を甲及び乙が負担する。
別紙○ 不可抗力による損害等の負担割合
1. 不可抗力による損害の対象
不可抗力による損害の対象は、以下のとおりとする。
① 設計・施工期間及び運営期間の変更、延期及び短縮に伴う施設整備業務費及びサービス提供業務費
② 原因、被害状況調査及び復旧方法検討等に必要な調査研究費用、再調査・設計及び事業者提案又は設計図書の変更等に伴う増加費用
③ 損害防止費用、損害軽減費用、応急措置費用
④ 損壊した対象施設等の修復及び復旧費用、残存物及び土砂等の解体、撤去及び清掃費用、工事用機械及び設備、仮設工事、仮設建物等の損傷・復旧費用
⑤ 設計・施工期間及び運営期間の変更、延期及び短縮に伴う各種契約条件変更及び解除に伴う増加費用
⑥ 設計・施工期間及び運営期間の変更、延期及び短縮に伴う乙の間接損害及び出費(経常費、営業継続費用等。ただし、乙の逸失利益は除く。)
2. 不可抗力による損害の分担
(1) 設計・施工期間
設計・施工期間中に不可抗力が生じ、施設整備業務に関して事業者に損害が発生した場合、合理的な範囲における当該損害に関しては、設計・施工期間中の累計で施設整備業務費相当額の[ ]分の[ ]に至る金額までは乙が負担し、これを超える金額については甲が負担する。ただし、当該不可抗力事由に関して保険金が支払われた場合には、当該保険金相当額のうち設計・施工期間中は施設整備業務費等相当額の[ ]分の[ ]を超える部分を甲の負担部分から控除する。
(2) 運営期間中
(略)
(3) 前2号に定める金額には、いずれも消費税及び地方消費税を含む。
3-15 施設の引渡し(契約GL:2-4,2-4-1)
1.概要
・選定事業者が建設工事を施工した施設の管理者等に対する引渡しにかかる事項について規定される。BTO方式の選定事業においては、完工確認通知後に施設の引渡しが行われ、一方、BOT方式の選定事業においては、契約期間終了時に施設の引渡しが行われる旨規定される。
・BTO方式の選定事業においては、完工確認など施設の状態の確認を経て選定事業者から管理者等に施設が引き渡される際の手続きについて規定される。(関連:4-6 完工検査、10-8 契約期間終了前の検査)
2.趣旨
・施設の引渡しに際して、管理者等は、PFI事業契約等に従って施設が完成していること等を確認し、一方、選定事業者は、建設工事に関して瑕疵担保責任等を負う場合を除き、施設の建設工事の履行義務が完了したことを確認することとなる。
3.施設の引渡しに伴う諸手続き
・①管理者等から選定事業者に対する施設の完工確認通知を交付し、選定事業者から管理者等に対する維持・管理、運営業務の開始が可能になった旨の通知を行う。その後、選定事業者が管理者等に対して竣工図書と施設の引渡しを行ない、その直後から選定事業者が維持・管理業務及び運営業務を開始することが規定されることが通例である。但し、施設の完工確認後、引渡し(又は運営開始)予定日までに一定期間を設け、この期間中に選定事業者が運営業務に必要な職員の確保及びその訓練を実施する規定を置く場合もある。
・引渡しに伴う完工確認又は施設の所有権の移転の時期については、事業日程に具体的かつ明確に規定される。
・施設の建設工事の完工及び施設の引渡しに伴う登記手続が必要となる場合には、その手続き及びこれに要する費用を選定事業者が負担する旨規定される(BOT方式の選定事業についても、契約期間終了前に施設の所有権を管理者等に移転する際、同様に登記にかかる手続きが必要となる場合には、これに要する費用を負担する旨規定される)。
4.条文例
(1)BTO方式の場合の条文例
(本件新設工事対象施設の引渡手続)
条文例 3.15.1 乙は、甲から本件新設工事対象施設の竣工確認通知を受領したときは、本
件工事対象施設の引渡予定日(ただし、甲の本件工事対象施設の竣工確認通知が当初の引渡予定日より遅延した場合は竣工確認後速やか)に、別紙○に記載する竣工図書とともに、本件新設工事対象施設の所有権を甲に移転するものとする。乙は、本件新設工事対象施設について、担保権その他の制限物権等の負担のない、完全な所有権を甲に移転するものとする。
2 乙は、甲が本件工事対象施設の所有権の保存登記を行う場合には、これに協力する。
(本件改修工事対象施設の引渡手続)
条文例 3.15.2 乙は、甲から本件改修工事対象施設の竣工確認通知を受領したときは、本件工事対象施設の引渡予定日(ただし、甲の本件工事対象施設の竣工確認通知が当初の引渡予定日より遅延した場合は竣工確認後速やか)に、別紙○に記載する竣工図書とともに、各本件改修工事対象施設の占有権を甲に移転するものとする。なお、本件工事期間中に当該建物に附合した動産の所有権に関しては、当該附合時において乙から甲に所有権が移転するものとする。
(2)BOT方式の場合の条文例
(乙による本施設の原始取得)
条文例 3.15.3 甲と乙は,甲が第○条第○項の規定により本施設完成確認書を交付したことにより,本施設が完成したものとし,乙が本施設の所有権を原始的に取得することを確認する。
2 乙は,自らの費用負担において,本施設の所有権保存の登記と同時に,甲への所有権移転の仮登記を行うものとし,その手続について甲に協力しなければならない。
3 前項の仮登記は,他のいかなる担保権設定の登記より優先する順位保全効を持つものとする。
3-16 引渡し(又は運営開始)の遅延(契約GL:2-4-2)
1.概要
・施設の引渡し(又は運営開始)が、管理者等の責めに帰すべき事由により遅延する場合、又は、選定事業者の責に帰すべき事由により遅延する場合、引渡し(又は運営開始)予定日の変更の有無や、管理者等と選定事業者の間での帰責事由等に応じた損害の負担について規定される。
2.趣旨
・選定事業者から管理者等への施設の引渡し(又は運営開始)の期日が遅延した場合、当該遅延を原因として一定の損害が発生することが考えられる。このため、管理者等と選定事業者は、PFI事業契約において、このリスクが顕在化した場合の損害の負担を含む措置について、できる限りあいまいさを避け、具体的かつ明確に規定する必要がある。そこで、PFI事業契約で定められた引渡し(又は運営開始)予定日から、施設の引渡し(又は運営開始)が遅延した場合の損害の負担等について、帰責事由に応じた負担が定められる。なお、施設の引渡し(又は運営開始)の遅延は、工期の変更と密接に関連している。(関連:3-12 工期の変更)
・ここで引渡し(又は運営開始)の遅延に伴う直接的な損害と、個々の遅延の原因(設計変更や工期の変更等)に応じて発生した増加費用(設計費用、建設費用、将来の維持・管理、運営にかかる費用及び金融費用(追加の資金調達に要する金利負担等の各種費用)など)とはPFI事業契約の規定上区別する必要があることに注意を要する。すなわち、引渡し(又は運営開始)の遅延に伴う損害とは、遅延自体を原因とする損害であり、具体的には遅延している期間、管理者等が代替施設を利用した場合の費用といった遅延している期間、公共サービスが提供されないことによる損害等である。他方、個々の遅延の原因に応じて発生した増加費用は、あくまでその遅延の原因に伴う費用であり、引渡し(又は運営開始)の遅延とは直接の関係を持たない。逆に言えば、実際に引渡し(又は運営開始)が遅延したかにかかわらず、設計変更や工期の変更により、増加費用は常に発生し得る。従って、これらの増加費用はあくまで、遅延の原因となりうる事項に関する規定で規律される問題であり、引渡し(又は運営開始)の遅延に関する規定は、あくまで当該遅延による直接的な損害の問題として区別しなければならない。
3.関係法令の規定
・会計法令等においては、契約担当官等は、履行の遅滞における違約金について、契約の適正を期する観点から、契約書に明記するものとされており(予決令第100条第1項第4号及び支払遅延防止法第4条第3号)、PFI事業契約において管理者等は、施設の引渡し(又は運営開始)の遅延における違約金等について規定することが求められてい
る。
4.遅延防止努力義務
・施設の引渡しの遅延、又は維持・管理業務及び運営業務の開始の遅延のおそれを選定事業者が認知した時点において、引渡し(又は運営開始)予定日の一定期間前までに、選定事業者が遅延の原因及び対応計画を通知し、遅延の発生を回避する又は軽減するための措置を講ずる義務を負う旨規定される。
5.選定事業者の帰責事由による引渡し(又は運営開始)の遅延
・選定事業者の責めに帰すべき事由により管理者等への施設の引渡しが遅延し、または施 設の運営開始が遅延した場合などには、選定事業者は当該遅延に伴い管理者等に発生し た損害額に相当する額を負担することとなる。公共サービスの提供を予定通りの時期に 開始できないという管理者等の損害の発生及びその額を証明することが困難である一方、選定事業者に対し引渡し(又は運営開始)日の遵守を経済的動機付ける必要性から、選 定事業者が管理者等に対し、引渡し(又は運営開始)予定日から実際の引渡し(又は運 営開始)日までの遅延日数に応じ、建設工事費(又は未完成部分の建設工事費)に相当 する額に一定比率を乗じた額を違約金として支払う旨規定し、損害賠償額の予定とする ことが通例である。なお、違約金を超える損害が管理者等に生じたときは、選定事業者 はその超過額をも支払う旨規定することも考えられる。
6.管理者等の帰責事由による引渡し(又は運営開始)の遅延
・設計の変更(2-3)、工期の変更(3-12)、法令変更(第 12 章)及び不可抗力(第 13 章)に関連して記したとおり、管理者等の帰責事由により引渡し(又は運営開始)の遅延の原因となり得る事態が発生した場合、管理者等は、引渡し(又は運営開始)予定日(延期された場合も含み)までに施設を完成させるために要する費用を負担することを前提としている以上、その増加費用を負担する限り、その負担後の引渡し(又は運営開始)の遅延は、選定事業者の帰責事由による場合以外考えられないということになる。但し、管理者等による増加費用の負担をもってしても引渡し(又は運営開始)の遅延を回避できない場合については、管理者等の責めに帰すべき事由により管理者等への施設の引渡し(又は運営開始)が遅延したものとして、選定事業者が負担した増加費用及び損害を合理的な範囲で賠償することが規定される。
・管理者等の帰責事由による引渡し(又は運営開始)の遅延自体を原因とした選定事業者の合理的な増加費用及び損害としては、引渡し(又は運営開始)の遅延があっても運営期間が延長されない場合には、それにより支払われなくなった「サービス対価」、あるいは、引渡し(又は運営開始)の遅延による「サービス対価」の支払開始の遅延の結果、選定事業者の融資返済に支障が生じた場合に関連する金融費用等が考えられる。なお、
個別の実損害の賠償という扱いではなく、引渡し(又は運営開始)予定日から実際の引渡し(又は運営開始)日までの遅延日数に応じた額の違約金の支払いを定め、損害賠償額の予定とする場合もある。
7.条文例
(引渡し等の遅延)
条文例 3.16 乙は、本件工事対象施設の引渡しの遅延が見込まれる場合には、本件工事対象施設の引渡予定日の[ ]日前までに、当該遅延の原因及びその対応計画を甲に通知しなければならない。ただし、条文例 4.6.2 第5項による修補を行うため遅延が見込まれる場合は、この限りではない。
2 乙は、前項に規定する対応計画において、本件工事対象施設の可及的速やかな引渡しに向けての対策及び想定される運営期間の開始までの予定を明らかにしなければならない。
3 甲の責めに帰すべき事由、又は甲が本事業の入札手続において提供した本件土地、本件工事対象施設に関する資料において明示されていない本件土地又は本件工事対象施設の瑕疵に起因して、本件工事対象施設の引渡しが遅延する場合、甲は、当該遅延への対応に要する合理的な増加費用を負担しなければならない。
4 乙の責めに帰すべき事由によって、本件工事対象施設の引渡しが遅延する場合、乙は、当該遅延への対応に要する費用を負担するほか、本件工事対象施設の引渡予定日から実際に本件工事対象施設の引渡しを受けた日までの日数に応じ、施設整備業務費(支払利息相当額を除き、消費税及び地方消費税相当額を含む金○円。)に年[ ]%の割合で計算した金額を違約金として甲に支払わなければならない。[この場合において、甲は、当該違約金を超える損害があるときは、その損害額を乙に請求することができる。]
5 法令変更又は不可抗力によって、本件工事対象施設の引渡しが遅延する場合は、[法令変更の章を挿入]又は[不可抗力の章を挿入]の規定による。
3-17 施設の瑕疵担保(契約GL:2-4-3)
1.概要
・選定事業者により管理者等に引き渡された施設等目的物に瑕疵があった場合、管理者等は、相当の期間を定めて、選定事業者に対して施設の瑕疵の修補を求め、又は修補に代え若しくは修補とともに損害の賠償を求めることができる旨規定される。
2.会計法令の規定
・予決令上、瑕疵担保責任について、契約の性質又は目的に応じ、契約書に明記するものと規定されており(予決令第100条第1項第6号)、PFI事業契約において、選定事業の用に供する施設に関する瑕疵担保責任について、必要に応じ規定される。
3.関係法令の規定
・民法上、請負人の瑕疵担保責任の存続期間は目的物の引渡しの時から1年とされており
(民法第637条第1項)、目的物が土地の工作物である場合には、工作物又は地盤の瑕疵につき、普通の工作物については5年、石造、土造、煉瓦造又は金属造の工作物については10年とされている(民法第638条第1項)。但し、請負人の瑕疵担保責任の存続期間は、普通の時効期間内に限り特約により伸張できる旨規定されている(民法第6
39条)。なお、住宅を新築する建設工事の請負契約の場合、住宅の構造耐力上主要な部分等基本構造部分に係る瑕疵については、民法第638条第1項の特例として瑕疵担保責任の存続期間を一律10年としている(住宅の品質確保の促進等に関する法律第94条第1項)9。
・瑕疵担保については、選定事業に建設工事の一部又は全部が含まれる場合に「工事目的物の瑕疵」が建設工事に係るリスクとして想定されるため、「選定事業の事業期間中に公共施設等の所有権が公共施設等の管理者等に移転する場合等においては、公共施設等の瑕疵が維持管理・運営の段階に影響を与える場合があることから、選定事業者への瑕疵の修補、損害賠償の請求期間を定めるとともに、当該瑕疵の修補に要する期間に応じた措置をあらかじめ検討し、協定等に規定しておくことが望ましい。」とされている(リスクガイドライン二3(1)(参考)③)。
・従来型の公共工事の請負契約においては、瑕疵担保責任の存続期間は、原則として、木 造の建物等の建設工事の場合には引渡しから1年間、コンクリート造等の建物等又は土 木工作物等の建設工事の場合には2年間とし、但しその瑕疵が請負者の故意又は重大な 過失による場合にはたとえば10年間としている(公共工事標準請負契約約款第44条)。
9 また、平成21年度 10 月 1 日以降に請負業者から発注者に引き渡す新築住宅については、住宅品質確保法で定められた瑕疵担保責任を履行するため、請負業者に保険加入又は供託による資力の確保が義務付けされている。(特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律第 3条)
4.瑕疵担保責任の内容
・選定事業者により引き渡された施設等目的物に瑕疵があった場合、管理者等は、相当の期間を定めて、選定事業者に対して施設の瑕疵の修補を求め、又は修補に代え若しくは修補とともに損害の賠償を求めることができる旨規定される。選定事業者の負担能力を考慮して、瑕疵が重要ではなく、かつ、その修補に過分の費用を要するときには、管理者等は選定事業者に対して施設の瑕疵の修補を求めない旨規定することも考えられる。
5.瑕疵担保権の行使期間
・BTO方式の場合、施設がPFI事業契約等に従って施工されない場合に備えて、選定事業者に瑕疵担保責任を負わせることが通例である。瑕疵担保権の行使期間は施設の引渡しの日あるいは完工確認書交付の日から10年、5年、2年等とされることが通例である。
・一方、BOT方式の場合、施設の所有権が移転する選定事業終了時以降の選定事業者が負う瑕疵担保責任の規定は、施設の瑕疵と維持・管理業務の不完全履行又は経年劣化とを明確に区分することが難しいことから、その適正な適用が困難な場合が多い。これを反映して瑕疵担保権の行使期間は90日、180日、1年等とされることが通例である。
・なお、BOT方式の場合、この瑕疵担保権の行使期間と関連して、施設の所有権移転後一定期間が経過するまで、選定事業者は解散してはならない旨規定することも考えられる。
6.瑕疵担保債務の履行保証
・選定事業者が、建設企業をして、本瑕疵担保債務を履行する旨を定めた保証書を管理者等に提出させる義務を負うことを規定することも考えられる。
7.条文例
(1)BTO方式の場合の条文例
(瑕疵担保)
条文例 3.17 甲は、本件工事対象施設(本件工事改修施設については、乙による本件改修工事部分に限る。以下本条において同じ。)に瑕疵があるときは、乙に対して相当の期間を定めて当該瑕疵の修補を請求し、又は修補に代え若しくは修補とともに損害の賠償を請求することができる。ただし、瑕疵が重要でなく、かつ、その修補に過分の費用を要するときは、甲は修補を請求することができない。
2 前項の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求は、[条文例 3.15.1 及び条文例 3.15.1]の規定による引渡しを受けた日から[ ]年以内に、これを行わなければなら
ない。ただし、その瑕疵が乙の故意又は重大な過失により生じた場合には、当該請求を行うことのできる期間は、[ ]年とする。
3 甲は、本件工事対象施設の引渡しの際に瑕疵があることを知ったときは、第1項の規定にかかわらず、その旨を直ちに乙に通知しなければ、当該瑕疵の修補又は損害賠償の請求をすることはできない。ただし、乙が当該瑕疵のあることを知っていたときは、この限りではない。
4 甲は、本件工事対象施設が第1項の瑕疵により滅失又は毀損したときは、第2項に定める期間内で、かつ、その滅失又は毀損の日から[ ]月以内に第1項の権利を行使しなければならない。
5 乙は、本条の乙の債務を保証する保証書を建設協力企業から徴求し、本件工事対象施の引渡しのときまでに甲に差し入れる。保証書の様式は、別紙○に定める様式による。
(2)BOT方式の場合の条文例
(本施設の瑕疵担保)
条文例 3.17-2 (BOT 方式の場合) 甲は,本施設に瑕疵があるときは,乙に対し,甲が本施設の所有権を取得した日から[ ]日以内に限り,相当の期間を定めて,当該瑕疵の修補(備品にあっては交換とする。)を請求し,又は修補に代えて,若しくは修補と共に損害の賠償を請求することができる。ただし,乙が悪意である場合,当該瑕疵が乙の故意又は重大な過失により生じた場合,又は住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成 11 年法律第 81 号)第 87 条第1項に規定する構造耐力上主要な部分若しくは雨水の浸入を防止する部分について生じた場合(構造耐力上又は雨水の浸入に影響のないものを除く。)には,当該請求を行うことのできる期間は,[ ]年間とする。
2 甲は,本施設が前項の瑕疵により滅失又は毀損したときは,前項に規定する期間内であって,甲がその滅失又は毀損を知った日から[ ]日以内に前項の権利を行使しなければならない。
第4章 建設モニタリング
4-1 建設モニタリングの構成(新設)
1.問題状況
・設計・施工段階のモニタリング(いわゆる建設モニタリング)については、実際にPF I施設において事故が起きた教訓を踏まえ、安全性や環境への配慮等の観点から、その重要性が指摘されている。
・また、BTO方式については、完工検査において瑕疵が発見される事例もある。
2.基本的な考え方
・PFIにおいては、設計・施工・維持管理・運営は、選定事業者により行われるものであり、第一に選定事業者によるセルフモニタリングによって対応する枠組みとする必要がある。
・ただし、管理者等の技術的ノウハウの活用や、重要な部分については管理者等自らがモニタリングを行うことによりモニタリングの実効性を高めることが考えられる。
・なお、建設モニタリング実施の結果、PFIの対象である施設自体に業務要求水準未達部分の存在することが判明した場合、管理者等は選定事業者に対し当該箇所の修補を求め、業務要求水準を満たした状態でのPFI施設の引渡を求めることになる。業務要求水準を満たした施設をPFI事業契約上の引渡期日(猶予期間がある場合には猶予期間の満了日)までに引渡しが完了した場合、施設整備費は減額されない。
3.具体的な規定の内容
・設計・施工段階のモニタリングは、以下から構成されるものとし、事業の性質や設計・施工業務の難易度等を踏まえて必要に応じて規定する。
(1)設計段階
・選定事業者はセルフモニタリングの一環として必要な確認を行う。管理者等も、設計図書が業務要求水準に合致しているかどうかについて確認する(2-2 施設の設計、設計図書の提出参照)
・この際、過去の教訓等を踏まえ、専門職員や外部専門家等の助言・支援を受けるなど、必要に応じて設計内容を評価できる体制を整えることが必要である。
(2)施工段階
①工事監理:選定事業者は工事監理者を定める(4-2 工事監理者の設置参照)。
②セルフモニタリング:選定事業者は、施工会社による建設業務や工事監理者による工事監理業務につき、セルフモニタリングを行い、的確に実施されているかどうかを確認する(4-3 選定事業者によるセルフモニタリング参照)。
③管理者等によるモニタリング:PFIではセルフモニタリングが基本となるものの、管理者等が特に重要と考える点については、管理者等自らモニタリングを行うべきである(4-4 管理者等によるモニタリング参照)。また、事業の性質に応じて、中間確認等の検査を行うことも考えられる(4-5 中間確認)。
④完工検査:管理者等は、選定事業者による完工検査の後、施設が業務要求水準等を満たしていることを確認するための検査を実施する(4-6 完工検査)。
図表:建設モニタリングの全体像
設計段階のモニタリング
施工段階のモニタリング
管理者等
設計図書の確認
工事監理計画書等の提出 特に重要な事項は中間確認等により
直接モニタリング
選定事業者
セルフモニタリング セルフモニタリング
設計会社
工事監理
施工会社
(工事監理)
(工事監理会社)
※工事監理は、設計会社が行う場合(上記の図の実線)と、設計会社とは別の会社が行う場合(上記の図の点線)がある。
3.留意点
・上述した仕組みを機能させるにあたり、管理者等、民間事業者、建設会社、設計会社、工事管理会社等の関係者が一同に会する場を設置することも考えられる。
・設計段階・施工段階、運営段階を問わず、モニタリングに必要となる費用の負担者については、明確に規定しておく必要がある。
・専門的な知識を有する第三者を活用することも考慮すべきである。
※本章の内容は、PFI事業契約書では別紙に詳細に規定されるべき部分であり、また案件による差も大きく、現段階で標準的な条項例を示すことは困難である。本章で紹介する条文は、一部の条項の紹介に止まる。
【建設モニタリングに関する実務上のポイント】
建設モニタリングについても、選定事業者によるセルフモニタリングの明確化や、重要な点について管理者等が直接関与することで、質を確保することが必要である。
4-2 工事監理者の設置(契約GL2-2-6)
1.基本的な考え方
・建築基準法に定める建築物の工事にあたっては、選定事業者が工事監理者を定める必要がある。
・工事監理者は、「設計図書どおりに施工されているかどうかを確認する」ため、工事監理業務が適正に実施されることが重要である。このため、管理者等が発注する公共工事において工事監理業務を委託する場合の各種規定等から必要な手続きや規定等を抽出し、業務要求水準等で明確に提示することが必要である。
2.具体的な規定の内容
・選定事業者は、建設工事の着工前に工事監理者を設置することとともに、設置後速やかにその名称を管理者等に宛て通知する。また、工事監理者の設置にあたり、管理者等の承認を必要とすることも考えられる。
3.工事監理者の監理報告
・選定事業者が、工事監理者をして、管理者等に対する定期的な報告を行わせる義務を負うこと、又は、施工状況把握のため、必要に応じ、管理者等が工事監理者からの報告を求めることができるとすることも考えられる。
4.建築基準法等の規定(参考)
・建築士法において、工事監理とは、その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているか否かを確認することと規定されている(建築士法第2条第6項)。
・建築基準法において、建築主は建築士法第3条から第3条の3までに規定する建築物の工事をする場合には、それぞれ建築士法第3条第 1 項、第3条の2第1項若しくは第3
条の3第 1 項に規定する建築士又は同法第3条の2第3項の規定に基づく条例に規定する建築士である工事監理者を定めなければならないと規定されている(建築基準法第5条の4第4項、建築士法第3条から第3条の3)。
・したがって、PFI事業においても建設基準法に定める建築物の工事を実施する場合には、建築主である選定事業者は当該建設工事の工事監理者を定める必要がある。
5.条文例
(工事監理業務の実施)
条文例 4.2.1 乙は、工事監理協力企業をして、本契約、業務要求水準書及び事業者提案に
従って、本件工事に係る工事監理業務を実施せしめる。
(工事監理業務の第三者による実施)
条文例 4.2.2 乙は、工事監理協力企業を変更又は追加してはならない。ただし、やむを得ない事情が生じた場合であって、甲の事前の書面による承諾を得た場合はこの限りではない。
2 乙は、工事監理協力企業が第三者に工事監理業務の全部又は主たる部分を委託し又は請け負わせないようにしなければならない。
3 工事監理業務実施に関する工事監理協力企業その他第三者の使用は、すべて乙の責任において行うものとし、工事監理協力企業その他工事監理業務の実施に関して乙又は工事監理協力企業が使用する一切の第三者の責めに帰すべき事由は、すべて乙の責めに帰すべき事由とみなして、乙が責任を負う。
(工事監理者)
条文例 4.2.3 乙は、工事監理協力企業をして、本件工事着工前に、業務要求水準書及び事業者提案に従い、建築基準法第5条の4第2項に定める工事監理者を設置させるものとし、設置後速やかに甲に対して工事監理者の氏名、その者の所属する企業名、保有する資格その他必要な事項を通知する。なお、工事監理業務と建設業務を同一の企業が実施することはできない。
2 乙は、施工期間中、第1項に基づき通知した工事監理者を変更できないものとする。ただし、病気、死亡、退職等やむを得ない事情が生じた場合であって、甲の事前の書面による承諾を得た場合はこの限りではない。
3 甲は、第1項の規定により通知がなされた工事監理者の変更を希望するときは、その理由を明らかにして乙に申し出ることができる。この場合、甲と乙は、工事監理者の変更に関し協議を行う。
4 乙は前項に基づき設置した工事監理者をして、設計図書に従って工事監理業務を行わせるものとする。
5 乙は、工事監理者をして、乙を通じ毎月1回以上、工事監理の状況を甲に報告させる。
6 乙は、工事監理者をして、乙を通じ適宜日報、月報、四半期報告書、年度報告書、各種検査報告書等の必要書類を甲に提出させる。
7 乙は、工事監理者をして、定期的に、甲による工事監理状況の確認を受けさせる。
8 乙は、前3項に加え、甲が要請したときは、工事監理者をして、本件工事の事前説明及び事後報告並びに本件工事現場での施工状況を速やかに報告させ、甲による確認を受けさせるものとする。
9 乙は、工事監理者が前5項の行為を行う上で必要となる協力を行う。
4-3 選定事業者によるセルフモニタリング(新設)
1.基本的な考え方
・民間事業者は、施工会社による建設業務や工事監理者による工事監理業務につき、セルフモニタリングを行い、的確に実施されているかどうかを確認する。
・管理者等は、入札段階でどのような基準を用いるべきか等について、入札段階で管理者等の意図を示すことなどにより、実効的なモニタリングの仕組みを構築することが適切である。
セルフモニタリングに用いられる基準:管理者等の技術的ノウハウを反映させることによりセルフモニタリングをより効果的なものとするため、入札段階で管理者等の意図を示し、これに合わせてセルフモニタリングの方法を提案させ、それを実施することにより効果的なものとすることが考えられる。具体的には、設計・施工モニタリングの視点をより明確に伝達するため、設計業務・工事監理業務・建設業務のモニタリングの手続きや特に重点的に工事監理を行う必要がある工種・工程等を業務要求水準書で示した上で、事業者選定において工事監理計画書の概要の提案等の提出を求めることとすることが考えられる。
2.留意点
・選定事業者が行う施工モニタリングについては、施工会社の影響下に行われるとなると実効性は確保されない可能性がある。したがって、施工会社から独立して施工を管理する責任者を確保し、施工会社から一定程度の独立性を確保した上でモニタリングを行うことも考えられる10。さらに、より独立性を高くするため、施工モニタリングを行う者について設計会社からの独立性も要求すべきとの考え方もあるが、これが必要かは事業の規模や設計会社・建設会社の関係など様々な事情にも影響されると考えられ、今後更に検討を要する。
・ISO9000 に従った管理を施工者に行わせることによって、工事監理業務の負担を減らす方法もある。
10 例えば英国で行われている慣行も踏まえ、管理者等、選定事業者、工事監理会社の三者間契約とし、費用は選定事業者が最終的な責任を担うが、管理者等が工事監理会社を管理するというスキームも考えられる。工事監理会社に対する支払行為を利害関係者となる設計会社や選定事業者とせず、管理者等とする、あるいは管理者の変わりに融資金融機関が選定事業者の費用負担でこの任を担う等も考えられる(資金の流れと契約上の作業命令権が利害関係者に集中していれば、いかなる独立性も保持できないことから、これを切り離す)。
4-4 管理者等によるモニタリング(契約GL2-3、2-3-1)
1.基本的な考え方
・PFIの場合は、セルフモニタリングが基本となるものの、管理者等が特に重要と考える点については、管理者等自らモニタリングを行うべきである。
・管理者等は、選定事業者に対する関与を必要最小限のものにすることに配慮しつつ、適正な公共サービスの提供を担保するため、選定事業者から、定期的に協定等の義務履行に係る事業の実施状況報告の提出を求めることができる(基本方針三2(3)(ロ )。
・管理者等によるモニタリングの対象としては、以下のものが考えられるが、以下のうちどれを対象とするか、あるいはその他の内容も含めるかについては、事案の性質に応じて決定すべきである。
・完工後の瑕疵発見が困難かつ重要な事項(躯体状況等)等
・瑕疵があった場合の出戻りの影響が大きい事項(重要な機械設備の出荷検査等)
・施設の安全性に直接関わる事項(天井の振れ止め等)
・地域の環境保全に大きな影響を与える事項(アスベストを含む旧施設の解体等)
・特に契約書等で明示されたもの以外でも、管理者等が必要と判断した場合には、建設現場において自ら立会いの上確認する等、モニタリングを行うことができる旨契約書に規定することが望ましい11。ただし、選定事業者の費用に影響する事項(例えば破壊検査について選定事業者の費用負担で実施する等)はPFI事業契約で定めておくことが必要である。
2.具体的な規定の内容
・管理者等が直接行うモニタリングの対象、具体的な工種・工程等を予め例示しておくことが望ましい。
・①管理者等は、施設の建設工事の施工状況等について、事前に通知し(又は通知せずに)選定事業者又は建設企業に対し説明を求めることや、建設現場において建設工事の施工状況を自ら立会いの上確認することができること、②選定事業者からの説明又は管理者等の確認の結果、施設の建設工事の施工状況が設計図書等を逸脱していることが判明した場合、管理者等は、選定事業者に対してその是正を求め、選定事業者は、これに従うものとすること、③選定事業者は、施設の建設工事の施工の進捗状況に関し適宜管理者等に対して報告を行うこと、④管理者等は、選定事業者の説明、若しくは管理者等の確認の実施又は選定事業者からの報告の受領を理由として、施設の建設工事の施工について何らの責任を負担するものではないことなどが規定される。
3.関係法令の規定
・会計法令においては、契約内容の適正な実現を期するため、「契約担当官等は、工事又は
11 英国SoPC4 においても、類似の規定がある。
製造その他についての請負契約を締結した場合においては、政令の定めるところにより、自ら又は補助者に命じて、契約の適正な履行を確保するため必要な監督をしなければならない」と規定しており(会計法第29条の11第2項)12 、また、監督の円滑な実施を期するため、契約の相手方の協力を得るようにしておくことが必要であることから、監督について、契約の性質又は目的に応じ、契約書に明記するものと規定されている(予決令第100条第1項第3号及び契約事務取扱規則第13条)。
・また、監督の実施方法について、会計法令において、監督職員は、必要があるときは、 仕様書及び設計書に基づき当該契約の履行に必要な細部設計図、原寸図等を作成し、又 は契約の相手方が作成したこれらの書類を審査して承認をしなければならないとし、ま た、監督員は、必要があるときは、請負契約の履行について、立会い、工程の管理、履 行途中における工事製造等に使用する材料の試験若しくは検査等の方法により監督をし、契約の相手方に必要な指示をするとしている(予決令第101条の3及び契約事務取扱 規則第18条第1項及び第2項)13 。なお、従来型の公共工事の請負契約においては、 監督員は設計図書に基づく工程の管理、立会い、工事の施工状況の検査又は工事材料の 試験若しくは検査等を行うことができるものと規定されている(公共工事標準請負契約 約款第9条第2項)。
・PFI事業契約は、契約内容の実現により公共施設等の整備等を図る契約であることから、上記会計法令の趣旨に準じて、管理者等は、PFI事業契約に基づく債務の履行を確保するため必要な措置として、施設の建設工事の施工状況等について、実施設計に従い建設工事が施工されていることを確認するため選定事業者又は建設企業に対し説明を求めることや、建設現場において建設工事の施工状況を自ら立会いの上確認することができることなどと規定される。
4.留意点
・管理者等によるモニタリングが過剰であると、コストの増加を招き、逆に VFM が減少してしまうことにも留意すべきである。
5.条文例
(甲の説明要求等)
条文例 4.4.3 甲は、本件工事が本契約、業務要求水準書、事業者提案、設計図書(甲と乙の打ち合わせの結果を含む。以下同じ。)及び施工計画書に従い実施されていることを確認するために、本件工事の状況及び品質管理について、乙に事前に通知したうえで、乙又は建設協力企業に対して説明を求め、確認することができる。この場合において、本
12 地方公共団体が管理者等となる場合は、地方自治法第234条の2において、同様の規定がある。
13 地方公共団体が管理者等となる場合は、地方自治法施行令第167条の15において、監督又は検査の方法について規定されている。
件工事の現場において実施状況を確認するときは、乙及び建設協力企業が立ち会うものとする。
2 乙は、前項に規定する説明及び確認の実施について、甲に対して可能な限りの協力を行うとともに、建設協力企業をして、甲に対して必要かつ合理的な説明及び報告を行わせるものとする。
3 前2項に規定する説明又は確認の結果、本件工事の状況及び品質管理が本契約、業務要求水準書、事業者提案、設計図書若しくは施工計画書に従っていない、又は本契約、業務要求水準書、事業者提案、設計図書若しくは施工計画書に規定する水準又は使用を満たさないと甲が判断した場合、甲は、乙に対してその是正を求めることができ、乙は、これに従わなければならない。
4 甲は乙から施工体制台帳(建設業法第 24 条の7に規定する施工体制台帳をいう。)及び施工体制に係る事項について報告を求めることができる。
4-5 中間確認(新設)
1.概要
・管理者等は、建設が適切に行われていることを確認するため中間確認を行うことができること、また、必要と判断した場合に出来形部分を最小限度破壊して検査することができることが規定される。
2.趣旨
・管理者等の選定事業者に対する関与を必要最小限にする観点から、管理者等による建設 モニタリングは完工検査のみで十分と考えもあった。しかし、完工検査の段階で施工段 階の瑕疵が発見され、工事がやり直しとなった場合、多額の費用を要することに加え、 選定事業者にとっては事業契約に定められた事業日程を履行できず事業に悪影響が生じ、また管理者等にとっても、事業スケジュールが遵守できないという問題が発生する。特 に建築物の内部の施工状況は、中間確認における破壊検査を実施しなければ発見するこ とが難しく、完工検査のみでは不十分であると考えられる。このため、工事対象物の規 模や難易度も考慮しつつ、中間確認の規定を活用することが考えられる。
3.公共工事標準請負契約約款上の規定
・監督員は、工事の施工部分が設計図書に適合しないと認められる相当の理由がある場合において、必要があると認められるときは、工事の施工部分を最小限度破壊して検査することができると規定されている。また、この場合の破壊検査に係る費用及び復旧にかかる費用は請負人が負担するものとされている。
4.条文例
(中間確認)
条文例 4.5 甲は、第○条に定める[ ]において、乙と協議により時期を定め、主要な工程に係る工事の終了時に、書面によるほか実地における中間確認を実施することができる。
2 甲、中間確認を実施することとされているにもかかわらず、中間確認を受けることなく次の工程の施工がされた場合、又は工事の施工部分が業務要求水準若しくは設計図書に適合しないと認められる相当の理由がある場合において、必要があると認められるときは、その理由を乙に通知し、当該施工部分を最小限度破壊して、確認することができる。
3 中間確認の結果、工事の施工部分が業務要求水準又は設計図書に適合しないと認められる場合は、甲は乙に対して是正を求めることができる。
4 甲は、中間確認の実施を理由とする本件施設の建設の全部又は一部についての責任を一切負わない。
5 乙は、第 2 項の確認及び復旧に直接要する費用又は第 3 項の是正に要する費用を負担しなければならない。
(中間確認)
条文例 4.5-2 甲は、本件工事対象施設が本契約、業務要求水準書、入札説明書等、事業者提案、設計図書及び施工計画書に従い建設されていることを確認するために、施工期間中、必要な事項に関する中間確認を実施することができる。この場合において、必要があると認められるときは、甲は、その理由を乙に通知して、出来形部分を最小限度破壊して確認することができる。
2 前項の場合において、確認又は復旧に直接要する費用は、乙の負担とする。
3 甲は、第1項の中間確認の結果、本件工事の状況が本契約、業務要求水準書、事業者提案、設計図書若しくは施工計画書に従っていない、又は本契約、業務要求水準書、事業者提案、設計図書若しくは施工計画書に規定する水準又は使用を満たさないと判断した場合、乙に対してその是正を求めることができ、乙は、これに従わなければならない。
4-6 完工検査(契約GL:2-3-2)
1.概要
・選定事業者及び管理者等がそれぞれ行う施設の完工検査の方法及びその効果について規定される。
2.趣旨
・管理者等の選定事業者に対する関与を必要最小限のものにすることに配慮しつつ、適正な公共サービスの提供を担保する(基本方針三2(3))ため、選定事業者及び管理者等の行う完工検査について規定される。
3.完工検査の方法
(選定事業者が行う完工検査)
・施設の建設工事にあたっては、選定事業者が発注者として建設企業と工事請負契約を締結し、また当該工事請負契約に基づき施設の完工について検査を行い、建設企業から施設の引渡しを受ける。このように、選定事業者は、自己が行う完工検査を経た後、PF I事業契約に基づき管理者等へ施設を引き渡すことから、選定事業者が行う完工検査は、 PFI事業契約の適正な履行のために必要な検査といえる。そこで、PFI事業契約において、選定事業者が、自己の費用と責任において、施設の完工検査を行うものとし、管理者等に対して検査の結果を報告する旨規定される。
・建設業法において、建設工事の請負契約の当事者は、契約の内容となる一定の重要な事項として、工事の完成を確認するための検査の時期及び方法を請負契約書に記載することと規定している(建設業法第19条第1項第10号)。したがって、選定事業者と建設企業の間において締結される施設の建設工事の請負契約において、施設の工事完成検査が行われることが規定される。なお、選定事業者が建築基準法上の建築主であり、かつ施設が建築基準法第6条第1項第1号から第3号までに掲げる建築物である場合、工事完成検査の前に、選定事業者は建築基準法第7条に基づき施設の完了検査を受ける必要がある。
・そこで、選定事業者と建設企業の間において締結される施設の建設工事の請負契約に基づいて選定事業者が行う施設の完工検査を、選定事業者が自らの責任と費用において実施し、完工検査を完了した旨を管理者等に通知することがPFI事業契約において規定される。
(管理者等が行う完工検査)
・管理者等は、選定事業者から上記の検査の報告を受けた日から一定期間以内に、施設が PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従い業務要求水準の内容を満たし
ていることを確認するための検査を速やかに実施し、検査の結果、施設がPFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従っていることが確認できたときは、管理者等は速やかに選定事業者に対して完工確認書を交付することが規定される。また、施設が PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従っていないことが判明した場合、管理者等は、判明した事項の具体的内容を明らかにし、選定事業者に対して期間を定めてその是正を求めることができ、選定事業者はこれに従うものとすることが規定される。
・会計法令においては、契約において定めた目的物を債務者である相手方が給付する場合、その給付が契約の内容に適合したものであるか否かを確認するため、「契約担当官等は、
(中略)自ら又は補助者に命じて、その受ける給付の完了の確認のため必要な検査をしなければならない」と規定しており(会計法第29条の11第2項)14、また、検査の円滑な実施を期するため、契約の相手方の協力を得るようにしておくことが必要であることから、検査について、契約の性質又は目的に応じ、契約書に明記するものと規定されている(予決令第100条第1項第3号及び契約事務取扱規則第13条)。同様に、支払遅延防止法において、「契約の目的たる給付の完了の確認又は検査の時期」が政府契約の必要的内容事項の一つと規定されている(支払遅延防止法第4条)。PFI事業においても、管理者等は、PFI事業契約に基づく給付の完了の確認をするために必要な検査として施設の完工検査を行う必要があり、その旨PFI事業契約において規定される。
・検査の方法については、会計法令において、契約書、仕様書及び設計書その他関係書類 に基づいて行うこと(予決令第101条の4)15としている。そして、契約事務取扱規則 第20条は、検査職員は、給付の完了の確認に付き、契約書、仕様書及び設計書その他 の関係書類に基づき、当該給付の内容について検査を行わなわなければならないとして いる(同条第1項)。検査の時期及び効果について、支払遅延防止法において、国が相手 方から給付を終了した旨の通知を受けた日から工事については14日以内の日としなけ ればならないと規定し(支払遅延防止法第5条第1項)、国が相手方のなした給付を検査 しその給付の内容の全部又は一部が契約に違反し又は不当であることを発見したときは、国は、その是正又は改善を求めることができると規定している(支払遅延防止法第5条 第2項)。なお、従来型の公共工事の請負契約においては、請負者は、工事が完成したと きは、発注者に通知するものとし、発注者は、通知を受けた日から14日以内に完成検 査をし、検査結果を請負者に通知しなければならず、検査に合格しているときは、工事 目的物の引渡しを受けなければならないとしており、請負者は、完成検査に合格しない ときは、不合格部分を修補して再検査を受けならず、検査又は復旧に直接要する費用は、 請負者の負担としている(公共工事標準請負契約約款第31条)。
・PFI事業においては、管理者等は選定事業者から施設が完成した旨の通知を受けた日から一定期間以内に、PFI事業契約、PFI事業契約の関係書類である入札説明書等
14 地方公共団体が管理者等となる場合は、地方自治法第234条の2において、同様の規定がある。
15 地方公共団体が管理者等となる場合は、地方自治法施行令第167条の15第2項において、同様の規定がある。
及び入札参加者提案に基づき完工検査を行い、検査結果を選定事業者に対して通知すること、及び、完工検査の結果、施設がPFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従っていないことが判明した場合、管理者等は、判明した事項の具体的内容を明らかにし、選定事業者に対してその是正を求めることできる旨規定される。
4.選定事業者による完工検査への管理者等の立会い
・選定事業者は、完工検査を行う旨について一定期間前に管理者等に通知するものとすることが規定される。
・管理者等は、選定事業者が行う完工検査への立会いを求めることができる旨規定されることが通例である。但し、管理者等は、かかる立会いを理由として、何らの責任を負担するものではないものとする旨規定される。
5.管理者等が行う完工検査への選定事業者等の立会い
・管理者等が行う完工検査を円滑に実施するため、選定事業者は管理者等が行う完工検査に立ち会うものとすることが規定される。また、工事監理者が、管理者等が行う完工検査に立ち会うものとすることが規定されることも考えられる。
6.完工確認書交付による責任
・管理者等は、完工確認書の交付を行ったことを理由として、施設の建設、維持・管理、運営の全部又は一部について何らの責任を負担するものではないものとすることが規定される。
7.完工確認書の交付
・管理者等の選定事業者に対する完工確認書の交付は、選定事業者から管理者等への施設の引渡し(又は運営開始)を行うにあたっての主要な要件であることから、かかる完工確認書の交付条件(提出書類の様式を含む。)について具体的かつ明確に規定する必要がある。
8.条文例
(乙による本件対象施設の竣工検査)
条文例 4.6.1 乙は、本件工事対象施設が竣工した後速やかに、自己の責任及び費用負担において、本件工事対象施設の竣工検査を行うものとする。
2 甲は、前項に規定する竣工検査への立会いを求めることができる。
3 乙は、竣工検査に対する甲の立会いの実施の有無を問わず、甲に対して、竣工検査の結果に検査済証その他の検査結果に関する書面の写しを添えたもの(以下「建設業務完
了報告書」という。)を提出しなければならない。
(甲による本件工事対象施設の竣工確認)
条文例 4.6.2 甲は、前条第3項に規定する建設業務完了報告書を受領してから 14 日以内に、本件工事対象施設の竣工確認を行う。乙は、甲の竣工確認に際して、現場説明、施工記録等の資料提供等により、甲に協力しなければならない。この場合において、必要があると認められるときは、甲は、その理由を乙に通知して、本件工事対象施設を最小限度破壊して確認することができる。
2 前項の場合において、確認又は復旧に直接要する費用は、乙の負担とする。
3 甲は、第1項に定める竣工確認により本件工事対象施設が、本契約、業務要求水準書、入札説明書等、事業者提案及び設計図書どおりに建設されていると認めるときは、本件工事完了の承諾を行わなければならない。
4 甲は、本件工事対象施設が本契約、業務要求水準書、入札説明書等、事業者提案及び設計図書どおりに建設されていないと認めるときは、不備、不具合等の具体的内容を明らかにし、期間を定めて乙に対しその修補を求めることができる。
5 乙は、前項の規定により甲から修補を求められた場合には、速やかに修補を行い、その完了後あらためて甲の確認及び承諾を得なければならない。この場合には、本条第1項に掲げる期限の定めは適用せず、甲及び乙は速やかに手続を行わなければならない。
6 前項に規定する修補の結果、本件工事対象施設の引渡しが本件工事対象施設の引渡予定日よりも遅延した場合は、[条文例 3.16]第4項の規定を適用する。
(甲による本件工事対象施設の竣工確認通知)
条文例 4.6.3 甲は、前条第3項に規定する本件工事の完了の承諾を行った後、本件工事対象施設の引渡予定日までに乙に対し竣工確認通知を行うものとする。
2 甲は、前項に規定する竣工確認通知を行ったことを理由として、建設業務及びサービス提供業務等の全部又は一部について何らの責任を負担するものではなく、また、乙は、その提供するサービス提供業務等が業務要求水準を満たさなかった場合において、甲が前項に規定する竣工確認通知を行ったことをもってその責任を免れることはできない。