長崎地判平成元年3 月29 日判時1326 号142 頁25)がある。ビルの一室で割烹料理店を開始するため、注文者 A は請負人 B にこの一室の内装工事の請負を依頼した。A は、信販会社 C との立替払契約によって、請負代金の一部を Bに支払う予定であった。A には信用能力がないとして、C は A との立替払契約の締結を拒絶した。C は B に「D に立替払契約の申込名義人になってもらえばよい」と示唆した。B は D に名義の使用を依頼した。一度は断ったものの、最終的に、名義の使用を D...
論説
複数契約における当事者関係
──契約終了の場面・三当事者以上の場合──
x x x x
Ⅰ 問題提起
Ⅱ 特定商取引法に定められた取引
1 クーリング・オフ
2 中途解約・解除
3 不実の告知・故意の不告知による取消
Ⅲ クレジット
1 クーリング・オフ
2 不成立・無効(名義貸し)
3 不当な勧誘行為により締結された契約の取消
4 過量販売による解除
Ⅳ 適法転貸借
1 解約申入
2 更新拒絶
3 法定解除
4 合意解除
Ⅴ 土地の賃貸借・売買と土地上の建物の賃貸借・売買
1 仮装譲渡
2 法定解除
3 合意解除
4 更新拒絶
5 期間満了
6 瑕疵担保責任
Ⅵ 考察
1 ①について
2 ②について
Ⅰ 問題提起
複数の契約が一つの取引を構成する場合がある。この根拠には、法に規定があること、契約当事者による特約があることのみならず、単に契約の目的が密接に関連していることがある1)。
この取引では、二人の当事者が行う場合と三人以上の当事者が行う場合がある。本稿は、三人以上の当事者が行う取引に着目をする。具体的には、売主・信販会社・買主が当事者となるクレジット、賃貸人・転貸人・転借人が当事者となる転貸借などに着目をする。
この取引では、多様な場面で、複数の契約が相互に依存することになる。この場合、何が複数の契約を相互に結び付けているのだろうか。考えられうる具体例には、合意、契約、債権債務関係、全体としての目的、経済的一体性、取引などがある2)。
①複数の契約を相互に結び付けるものには、以上の具体例の他に、当事者関係があるのではないか。②かりに、当事者関係も複数の契約を相互に結び付けるものであるとすると、複数の契約が相互に依存するか否かを考えるとき、当事者関係をどのように考慮すべきであろうか。本稿は、契約の終了の場面を中心に、特定商取引法に定められた取引(Ⅱ)、クレジット(Ⅲ)、適法転貸借(Ⅳ)、
土地の賃貸借・売買と土地上の建物の賃貸借・売買(Ⅴ)の具体例を通じて、この二つの問題を考える。
Ⅱ 特定商取引法に定められた取引
特定商取引法には、契約の終了の場面で複数の契約が相互に依存することを定めた規定がある。その具体例には、クーリング・オフ(1)、中途解約・解
1) xxx「「契約目的」概念と解除の要件論─債権法改正作業の文脈化のために─」xxx先生傘寿記念論文集『債権法のxxx像』(xx書店、2010)255 頁は、契約の目的には、主観的なもの、客観的なもの、具体的なもの、抽象的なものがあるとする。
2) xxxx・xxxx『複数契約の理論と実務』(民事法研究会、2013)6 頁⊖9 頁。
除(2)、不実の告知・故意の不告知による取消(3)がある。それぞれの場合を以下ではみる。
1 クーリング・オフ
特定商取引法には、連鎖販売取引(⑴)、特定継続的役務提供取引(⑵)、業務提供誘引販売取引(⑶)についてのクーリング・オフの規定がある。
⑴ 連鎖販売取引
連鎖販売取引とは、特定利益を収受し得ることをもって参加者を誘引し、参加者と特定負担を伴う、商品の販売・あっせん、同種役務の提供・役務提供のあっせんに係る取引である3() 33 条1 項)。参加者は連鎖販売業を行う者以外の事業者と特定負担である商品購入や役務提供の契約を結ぶことがある。この場合、連鎖販売業を行う者との組織加入契約をクーリング・オフ(40 条1 項)した参加者は、他の事業者との商品購入契約や役務提供契約もクーリング・オフすることができるかが問題となる4、5)。この問題について、組織加入契約が特定負担である商品購入や役務提供の契約の前提となっているので、参加者は、組織加入契約のみならず、商品購入契約や役務提供の契約もクーリング・オフできるとされる6)。
⑵ 特定継続的役務提供取引
特定継続的役務提供取引とは、役務提供事業者が、特定継続的役務を、それぞれの特定継続的役務ごとに政令で定める期間を超える期間にわたり提供することを約し、消費者がこれに応じて政令で定める金額を超える金銭を支払うこ
3) xxxx『詳解特定商取引法の理論と実務〔第3 版〕』(民事法研究会、2014)445 頁⊖
446 頁。
4) xxxxほか『条解消費者三法』(弘文堂、2015)763 頁。
5) 圓山・前掲注3)521 頁は、組織加入契約をクーリング・オフした消費者は、特定負担とはならない商品の販売・役務の提供の契約を解除することはできないとする。
6) 圓山・前掲注3)514 頁。
とを約する取引7)である。
消費者は、特定継続的役務の提供に必要であると勧誘され、役務提供事業者以外の者から、関連商品8)を購入することがある。この場合、特定継続的役務提供等契約をクーリング・オフ(48 条1 項)した消費者は、他の事業者との関連商品販売契約もクーリング・オフすることができるかが問題となる。この問題について、48 条2 項は、特定継続的役務提供等契約をクーリング・オフした消費者は、関連商品販売契約もクーリング・オフできるとする。但し、 48 条2 項により、消費者が関連商品販売契約をクーリング・オフするには、役務提供事業者が関連商品販売を代理・媒介をしたことが必要である。
⑶ 業務提供誘引販売取引
業務提供誘引販売取引とは、業務提供利益を収受し得ることをもって相手方を誘引し、その者と特定負担を伴う、商品の販売・あっせん、役務提供・あっせんに係る取引をいう(51 条1 項)。顧客は、業務提供誘引販売業を行う者以外の事業者から、業務に従事するのに必要な商品を購入したり、役務提供を受けたり、業務提供利益を得るために業務の提供を受けたりすることがある9)。この場合、業務提供誘引販売業者以外の者と顧客は商品販売契約・役務提供契約・業務提供契約を締結する。
58 条1 項により、業務提供誘引販売契約をクーリング・オフした顧客が、他の事業者との商品販売契約・役務提供契約・業務提供契約もクーリング・オフできるかが問題となる。この問題について、学説は、業務提供誘引販売契約が商品販売契約・役務提供契約・業務提供契約の前提となっていることから、顧客はこれらの契約もクーリング・オフできるとする10)。
7) 圓山・前掲注3)546 頁。
8) 関連商品とは、役務提供を受ける消費者が購入をする必要があり、また、政令で定める商品のことをいう(圓山・前掲注3)553 頁⊖559 頁)。
9) 圓山・前掲注3)650 頁⊖653 頁。
10) xxほか・前掲注4)971 頁⊖972 頁、圓山・前掲注3)700 頁。
2 中途解約・解除
特定商取引法には、連鎖販売取引(⑴)、特定継続的役務提供取引(⑵)についての中途解約・解除の規定がある。
⑴ 連鎖販売取引
参加者は、販売のあっせんを受けて、他の連鎖販売業を行う者との間で商品の売買契約を結ぶことがある。
クーリング・オフができる一定の期間が経過した後、連鎖販売契約の中途解約(40 条の2 第1 項)をした参加者は、他の連鎖販売業を行う者との商品売買契約を解約できるかが問題となる。この問題について、40 条の2 第2 項は、参加者が、一定の場合、商品売買契約を解除することを認めている11)。
⑵ 特定継続的役務提供取引
クーリング・オフができる一定の期間が経過した後、消費者は、特定継続的役務提供契約(49 条1 項)や特定権利販売契約(49 条3 項)の中途解約をすることができる。これらの契約を中途解約した消費者は、他の事業者との関連商品販売契約も中途解約できるかが問題となる。この問題について、49 条5 項は、消費者が関連商品販売契約を解除できることを規定している。49 条5 項は、消費者が関連商品販売契約を解除するには、役務提供事業者・販売業者が関連商品販売の代理・媒介をしたことが必要であるとする12)。
3 不実の告知・故意の不告知による取消
特定継続的役務提供等契約の勧誘の際、事業者が不実告知または故意の不告
11) xxほか・前掲注4)769 頁⊖770 頁。会員規約に違反した活動を行った参加者を規約に基づき統括者が除名する場合、統括者が会員契約を解除すること(除名処分)と参加者が会員契約を解除すること(中途解約)のどちらが優先するかの問題について、圓山・前掲注3)524 頁は、前者は会員規約に基づき、後者は特定商取引法に基づくため、後者が優先するとする。
知をしたため、誤認して申込み・承諾の意思表示をした消費者は特定継続的役務提供等契約を取消すことができる(49 条の2 第1 項)。
49 条の2 第1 項により特定継続的役務提供等契約を取消した消費者は、関連商品販売契約を解除することができるかが問題となる。49 条の2 第3 項は、消費者が関連商品販売契約を解除することを認めている13)。49 条の2 第3 項は、特定継続的役務提供等契約を中途解約した消費者は関連商品販売契約も解除できるとする、49 条5 項を準用している14)。
Ⅲ クレジット
クレジット契約とその前提となった契約が、契約の終了の場面で相互に依存するかが問題となる場合には、クーリング・オフ(1)、不成立・無効(名義貸し)(2)、不当な勧誘行為により締結された契約の取消(3)、過量販売による解除(4)などがある。
1 クーリング・オフ
特定商取引法に定められた一定の取引とこれに伴う個別クレジット契約を消
12) 49 条1 項・3 項により、特定継続的役務提供契約や特定権利販売契約を解約した場合に限り、49 条5 項により、消費者は、関連商品販売契約を解除できる。特定継続的役務提供契約や特定権利販売契約を49 条1 項・3 項による中途解約権の行使以外の事由により(例えば、債務不履行)解除した場合、判例の法理(債務不履行の場合、最三小判平成8 年11月12 日民集50 巻10 号2673 頁)により、消費者は、関連商品販売契約を解除できるとするのは、xxほか・前掲注4)885 頁。
13) 49 条の2 第3 項が適用されるには、関連商品販売契約に取消事由・解除事由がなくてよい。関連商品販売契約に取消事由・解除事由がある場合には、例えば、9 条の2 により、消費者は関連商品販売契約を解除することができる(圓山・前掲注3)635 頁)。
14) 関連商品以外の商品の勧誘の際、不実告知または故意の不告知を事業者がした場合、消費者は、49 条の2 第3 項により、商品販売契約を解除することができない。この場合、圓山・前掲注3)636 頁は、特定商取引法の訪問販売等の取消事由、消費者契約法・民法の取消事由がある場合、役務提供と関連商品以外の商品販売に密接な関連性がある場合、消費者は商品販売契約を取消すことができるとする。
費者が締結することがある。割賦販売法には、これらの取引に伴う個別クレジット契約を消費者がクーリング・オフできることを定めた規定がある。訪問販売取引・電話勧誘販売取引(⑴)、特定連鎖販売個人取引(⑵)、特定継続的役務提供等取引(⑶)、業務提供誘引販売個人取引(⑷)をみる。
⑴ 訪問販売取引・電話勧誘販売取引
特定商取引法9 条1 項により訪問販売契約を先にクーリング・オフした購入者等は、35 条の3 の10 第1 項により、これに伴う個別クレジット契約もクーリング・オフをすることができる。35 条の3 の10 第1 項により訪問販売契約に伴う個別クレジット契約を先にクーリング・オフをした購入者等は、同条5項により、訪問販売契約もクーリング・オフをしたことになる15)。
特定商取引法24 条により電話勧誘販売契約を先にクーリング・オフした購入者等は、35 条の3 の10 第1 項により、これに伴う個別クレジット契約もクーリング・オフをすることができる。訪問販売契約と同様、電話勧誘販売契約に伴う個別クレジット契約を先にクーリング・オフをした購入者等は、同条5項の規定により、電話勧誘販売契約もクーリング・オフをしたことになる16)。
⑵ 特定連鎖販売個人取引
参加者は、特定商取引法40 条1 項により、特定連鎖販売個人契約をクーリング・オフすることができ、35 条の3 の11 第1 項1 号により、特定連鎖販売個人契約に伴う個別クレジット契約をクーリング・オフすることができる17)。
特定連鎖販売個人契約やこれに伴う個別クレジット契約をクーリング・オフした参加者は、特定負担となる商品の販売契約に伴う個別クレジット契約もクーリング・オフできるかが問題となる。この問題について、学説では、常に、参加者は、特定負担となる商品の販売契約に伴う個別クレジット契約もクーリ
15) 圓山・前掲注3)260 頁⊖261 頁。
16) 圓山・前掲注3)407 頁⊖409 頁。
17) xxほか・前掲注4)1410 頁。
ング・オフできるとの見解18)がある。
特定連鎖販売個人契約とこれに伴う個別クレジット契約をクーリング・オフした参加者は、35 条の3 の11 第2 項により、特定商品販売等契約19)に伴う個別クレジット契約をクーリング・オフすることができる。但し、35 条の3 の 11 第2 項により、特定商品販売等契約に伴う個別クレジット契約を参加者がクーリング・オフするには、特定連鎖販売個人契約に伴う個別クレジット契約と特定商品販売等契約に伴う個別クレジット契約を締結した個別クレジット業者が同一であることが必要である20)。特定商品販売等契約と特定連鎖販売個人契約の関連が明確ではないため、特定商品販売等契約に伴う個別クレジット契約のみを締結した個別クレジット業者が特定連鎖販売個人契約とこれに伴う個別クレジット契約のクーリング・オフのリスクを負担することは適切ではないからである21)。
⑶ 特定継続的役務提供等取引
消費者は、特定商取引法48 条1 項により、特定継続的役務提供等契約をクーリング・オフすることができ、35 条3 の11 第1 項2 号により、特定継続的役務提供等契約に伴う個別クレジット契約をクーリング・オフすることができる。特定継続的役務提供等契約とこの契約に伴う個別クレジット契約をクーリン グ・オフした消費者は、35 条の3 の11 第3 項により、関連商品販売契約に伴う個別クレジット契約をクーリング・オフすることができる。但し、特定継続的役務提供等契約に伴う個別クレジット契約と関連商品販売契約に伴う個別クレジット契約を締結した個別クレジット業者が同一であることが要件とな
18) xxほか・前掲注4)1412 頁。
19) 特定商品販売等契約とは、特定負担とはならない商品の販売・役務の提供の契約のことをいう(xxほか・前掲注4)1412 頁)。
20) xxほか・前掲注4)1412 頁、圓山・前掲注3)520 頁。
21) xxほか・前掲注4)1412 頁。圓山・前掲注3)521 頁によると、特定商取引法9 条の3
などにより、参加者は特定商品販売等契約を取消すことができる。
る。特定継続的役務提供等契約とこれに伴う個別クレジット契約を消費者がクーリング・オフした場合、関連商品販売契約に伴う個別クレジット契約のみを締結した個別クレジット業者がこのリスクを負担することは適切ではない。
⑷ 業務提供誘引販売個人取引
顧客は、特定商取引法58 条により、業務提供誘引販売契約をクーリング・オフすることができ、35 条3 の11 第1 項3 号により、業務提供誘引販売個人契約22)に伴う個別クレジット契約をクーリング・オフできる。
顧客は、業務提供誘引販売業者以外の者と商品の購入契約を結ぶことがある。この場合、業務提供誘引販売個人契約やこれに伴う個別クレジット契約をクーリング・オフした顧客は、商品の購入契約に伴う個別クレジット契約もクーリング・オフできるかが問題となる。この問題について、学説では、業務提供誘引販売個人契約と物品の購入契約は密接に関連していることから、顧客は、商品の購入契約に伴う個別クレジット契約もクーリング・オフできるとする23)。
2 不成立・無効(名義貸し)
経済的効果を受ける目的で、他人の名を利用した名義使用者が相手方と契約を結ぶことがある。クレジットの場合、名義使用者は、架空の契約とこれに伴う立替払契約を締結する。生じうる様々な問題のうちの一つとして、名義使用者が立替金の返済の継続を怠ったため、信販会社は名義使用者ではなく名義貸人に立替金の返済を求めることがある。名義貸人は信販会社の請求に応じなければならないかが問題となる。
この問題について、裁判所の具体例には、前提となる契約=不成立、立替払
22) 事務所等によらない個人が業務提供誘引販売取引の特定負担として行う契約(割賦販売法8 条1 号ロ)のことをいう(圓山・前掲注3)703 頁)。
23) xxほか・前掲注4)1413 頁。
契約=無効(⑴)、前提となる契約=不成立、立替払契約=有効(⑵)、前提となる契約=有効、立替払契約=有効(⑶)の具体例がある。
⑴ 前提となる契約=不成立、立替払契約=無効24)
⒜ 93 条但書を根拠とした例
長崎地判xxx年3 月29 日判時1326 号142 頁25)がある。ビルの一室で割烹料理店を開始するため、注文者 A は請負人 B にこの一室の内装工事の請負を依頼した。A は、信販会社 C との立替払契約によって、請負代金の一部を Bに支払う予定であった。A には信用能力がないとして、C は A との立替払契約の締結を拒絶した。C は B に「D に立替払契約の申込名義人になってもらえばよい」と示唆した。B は D に名義の使用を依頼した。一度は断ったものの、最終的に、名義の使用を D は承諾した。D は立替払契約書に署名・捺印をした。 D ではなく A が真の立替払契約の当事者であることを C は知っていた。A が立替金の支払いの継続を怠った。そこで C が D に立替金の支払いを求めた。
C は、B と D との間に何ら請負契約が存在せず、D において右請負代金債務を負担しなければならない理由が何ら存在しないことを知っていたにもかかわらず、B に対し、D に立替払契約の申込名義人になって貰うよう示唆し、かつ、D の名義貸しによる立替払契約の申込を認容していたことから、C は、93条但書により、D に立替払契約に基づく債務の履行請求をできないと裁判所は判断した。
24) 民法93 条但書の適用・類推適用により、立替払契約=無効と判断とした他の具体例として、東京地判平成11 年1 月14 日金判1085 号31 頁、大阪高判平成11 年5 月27 日金判 1085 号25 頁、広島高xxx判平成12 年9 月14 日金判1113 号26 頁などがある。住宅ローンについては、最判平成7 年7 月7 日金法1436 号31 頁がある。
25) 評釈には、xxxxx「判批」判タ735 号30 頁、xxxx「判批」ジュリ1022 号177
頁がある。
⒝ 93 条但書の類推適用を根拠とした例
xxx判xxx年11 月9 日判時1347 号55 頁がある。前掲・長崎地判xxx年3 月29 日の控訴審である。
自己の名義使用を許諾した D は、仮に、他の者が立替金の返済をするので、自らはその支払をする必要がないと考えていたとしても、これは立替払契約を締結するに至る一つの動機に過ぎず、立替払契約を締結する意思を持っていたことを否定することはできないので、意思の欠缺に関する民法93 条を本件にそのまま適用することはできない、C は立替払契約の当事者が名義貸与者であることを知っていた、あるいは、知るべきであった場合、C を立替払契約上保護する必要はない、民法93 条但書の類推適用により、立替払契約の効力は生じないと裁判所は判断した。
⑵ 前提となる契約=不成立、立替払契約=有効
大阪地判昭和63 年9 月22 日判時1320 号117 頁がある。A の販売員B はC に、水商売関係の人に宝石を売りたいが、クレジットを利用することができないので、名義を貸与してほしいと依頼した。C がこれを承諾したため、C 名義による立替払契約申込書をB は作成した。B から申込書を受け取った信販会社D は、 C に電話で立替払契約締結の意思を確認したところ、C は立替払契約締結の意思を認めた。C が立替払契約の申込者であると誤認した D は、B に立替金を支払った。D は立替金の弁済を C に求めた。
D が電話で立替払契約の内容を告げ、立替払契約の締結意思を確認したとき、 C は肯定的な応答をしたことから、C は立替払契約の一方当事者であることを承認したといえる、民法109 条、商法23 条などの法理により、外形を信頼した D に対し C は責任を負うべきである、立替払契約は B・D 間で有効に成立したものと認められると裁判所は判断した26)。
東京高判昭和57 年6 月29 xxx集33 巻5⊖8 号917 頁がある。電気器具の販
26) 他の具体例として、名古屋高判昭和58 年11 月28 日判時1105 号138 頁がある。
売を行っている A は、エアコンの購入者としての名義を使用することをB に依頼した。B が名義の使用を承諾した。エアコンの代金を支払うため、B を代行して、信販会社 C との立替払契約の申込書(B=申込人、D=連帯保証人)の作成、B 名義の記名・捺印を A が行った。立替払契約の申込みの意思を Cは B に確認した。B が申込の意思を認めたので、C は A に立替金を支払った。実際のところ、A は B とエアコンの売買契約を締結していないし、B にエアコンを引渡していない。C は B に立替金等を請求した。
エアコンの購入契約と立替払契約は別個の契約関係であるから、エアコンの購入契約がなく、エアコンの引渡しもないことは、立替払契約の成立に影響はない、立替払契約の申込の意思表示をするとき、B に立替金の返済の真意がなかったとしても、このことは、民法93 条により、立替払契約の効力に影響がない、と裁判所は判断した。
⑶ 前提となる契約=有効、立替払契約=有効
東京地判昭和57 年3 月16 日判時1061 号53 頁がある27)。自らがデパート Cに出品した陶芸品が売れたように見せかける目的で、B は A に名義の貸与を求めた。名義の貸与の承諾をした A は、売買契約の締結の代理権とこれに伴う信販会社 D との立替払契約の締結の代理権を B に与えた。D が A に対し立替金の支払いを求めたが、A は支払いを拒絶した。契約当事者としての名義を第三者に貸すことを承諾した者は、当該契約の相手方との関係では自己が当事者としてその法律効果の帰属主体になる、A は、名義の貸与の承諾と同時に、売買契約締結の代理権及び立替払契約締結の代理権を B に与えたものと認められる、それぞれの契約の効力は失われないと裁判所は判断した。
3 不当な勧誘行為により締結された契約の取消
消費者契約法(⑴)と割賦販売法(⑵)の規定により、第三者による不当な
27) 他の具体例として、京都地判昭和59 年7 月19 日金判709 号40 頁がある。
勧誘行為により申込またはその承諾の意思表示をした消費者は、一定の場合、前提となった契約のみならず立替払契約も取消すことができうる。以下ではそれぞれの規定をみる。
⑴ 消費者契約法
5 条1 項28)は、事業者から消費者契約の締結の媒介の委託を受けた第三者が
4 条1 項~ 3 項に定める不当な勧誘行為を行い、それによって消費者が申込または承諾の意思表示を行った場合、消費者は不当な勧誘によって締結をした契約を取消すことができる、とする29)。
売買契約等に伴う立替払契約締結の手続きを信販会社に代わって行う販売会社は、5 条1 項にいう、契約の締結の委託を受けた媒介者に該当するかが問題となる。消費者に物品の販売の勧誘をするとき、通常、販売会社は、消費者に提携先のクレジット会社との立替払契約を締結することを勧める。消費者が立替払契約を利用すると決定した場合、販売会社は、消費者と共に、立替払契約の締結に必要な手続き(例えば、書類の作成・提出)を進め、いかなる方法(例えば、分割方法について)によって支払いをするかなど支払条件の交渉をする。消費者から立替払契約の申込を受けた信販会社は、与信審査を行い契約締結の決定をする。信販会社からの確認の連絡においてではなく、販売会社との立替払契約の締結手続きにおいて、消費者は立替払契約の申込の意思表示をすると考えられている。以上の立替払契約の締結手続きにより、販売会社は、5 条1項にいう、契約の締結の委託を受けた媒介者に該当すると考えられている30)。
28) 消費者庁消費者制度課編『遂条解説消費者契約法〔第2 版補訂版〕』(商事法務、2015)
155 頁⊖168 頁、日本弁護士連合会消費者問題対策委員会編『コンメンタール消費者契約法〔第
2 版増補版〕』(商事法務、2015)112 頁⊖118 頁。
29) 例えば、xxx判平成15 年5 月14 日消費者法ニュース60 号213 頁(退去妨害)、札幌地判平成17 年3 月17 日消費者法ニュース64 号209 頁(退去妨害)、xxx判平成18 年3 月 22 日消費者法ニュース69 号188 頁(不利益事実の不告知)などがある。
⑵ 割賦販売法
個別クレジット契約の勧誘をするとき、特定商取引法が定めた一定の取引やこれに伴う個別クレジット契約に関する不実の告知・故意の不告知を販売業者等が行うことがある。この場合、誤認をして申込・承諾の意思表示をした購入者等は、割賦販売法の規定に基づき、個別クレジット契約を取消すことができる。以下、訪問販売・電話勧誘販売(⒜)、特定連鎖販売個人契約(⒝)、特定継続的役務提供等契約(⒞)、業務提供誘引販売個人契約(⒟)に関する規定をみる。
⒜ 訪問販売・電話勧誘販売
訪問販売・電話勧誘販売に伴う個別クレジット契約を勧誘する際、35 条の3の13 に定める事項について事業者が不実告知または故意の不告知をしたため、誤認して申込み・承諾の意思表示をした消費者は、個別クレジット契約を取消すことができる。訪問販売や電話勧誘販売の取消しの要件(特定商取引法9条の3、同法24 条の2)とこれらの契約に伴う個別クレジット契約の取消しの要件(35 条の3 の13)は重なっている。訪問販売や電話勧誘販売を取消すことができる消費者は、これに伴う個別クレジット契約も取消すことができる。
⒝ 特定連鎖販売個人契約
特定連鎖販売個人契約に伴う個別クレジット契約の勧誘をするとき、35 条の3 の14 に定める事項について販売業者等が不実の告知・故意の不告知を行っ
30) xxxx『消費者契約と民法改正-消費者契約の法理論第2 巻』(弘文堂、2013)294頁⊖300 頁、xxxx「消費者契約法5 条によるクレジット契約の取消」国民生活研究47 巻 4 号4 頁⊖7 頁、xxxx『消費者契約法』(有斐閣、2001)98 頁、xxxx「消費者の立場からみた運用上の問題点と課題」金法1644 号27 頁⊖29 頁、xxxx「消費者契約法5 条の展開」現代消費者法14 号55 頁⊖56 頁。販売会社が「契約の締結の委託を受けた媒介者」に該当するか否かが争われた最近の例として、東京地判平成26 年10 月30 日金商1459 号52頁がある(不動産の売主が、不動産売買契約と密接な関係にある金銭消費貸借契約の締結に関して媒介者に該当するかが争われた例。否定)。
たため、誤認をして申込み等の意思表示をした購入者等は、個別クレジット契約を取消すことができる。特定連鎖販売個人契約の取消しの要件(特定商取引法40 条の3)と特定連鎖販売個人契約に伴う個別クレジット契約の取消しの要件(35 条の3 の14)は重なっている。特定連鎖販売個人契約を取消すことができる購入者等は、これに伴う個別クレジット契約も取消すことができる。
同一の個別クレジット業者が特定連鎖販売個人契約と特定商品販売等契約に伴う個別クレジット契約を締結している場合に限り、購入者等は、特定商品販売等契約に伴う個別クレジット契約を取消すことができる(35 条の3 の14 第2項)。特定商品販売等契約に伴う個別クレジット契約のみを締結した個別クレジット業者は、特定商品販売等契約と特定連鎖販売個人契約との関連性を認識していないことがありうるためである31)。
⒞ 特定継続的役務提供等契約
特定継続的役務提供等契約に伴う個別クレジット契約を勧誘するとき、35条の3 の15 に定められた事項について役務提供事業者が不実告知または故意の不告知をしたため、誤認して申込み・承諾の意思表示をした消費者は、個別クレジット契約を取消すことができる。特定継続的役務提供等契約の取消しの要件(特定商取引法49 条の2 第1 項)と特定継続的役務提供等契約に伴う個別クレジット契約の取消しの要件(35 条の3 の15)は重なっている。特定継続的役務提供等契約を取消すことができる消費者は、これに伴う個別クレジット契約も取消すことができる。
特定商取引法49 条の2 第1 項により特定継続的役務提供等契約を取消した消費者は、同法49 条の2 第3 項により、関連商品販売契約を解除することができる。関連商品販売契約を解除した消費者は、関連商品販売契約に伴う個別クレジット契約も取消しうる(35 条の3 の15 第2 項)。但し、役務提供事業者が関連商品販売の販売・代理または媒介を行い、特定継続的役務提供等契約に伴
31) xxほか・前掲注4)1452 頁。
う個別クレジット契約と関連商品販売契約に伴う個別クレジット契約を同一の個別クレジット業者が締結しているときに限る。関連商品販売契約と特定継続的役務提供等契約の関係について、関連商品販売契約に伴う個別クレジット契約のみを締結した個別クレジット業者が認識していないことがありうるためである32)。
⒟ 業務提供誘引販売個人契約
業務提供誘引販売個人契約に伴う個別クレジット契約について勧誘をするとき、35 条の3 の16 に定められた事項について販売業者が不実告知・故意の不告知をしたため、誤認をして申込・承諾の意思表示をした顧客は、個別クレジット契約を取消すことができる。業務提供誘引販売個人契約の取消しの要件(特定商取引法58 条の2)と業務提供誘引販売個人契約に伴う個別クレジット契約の取消しの要件(35 条の3 の16)は重なっている。業務提供誘引販売個人契約を取消すことができる顧客は、これに伴う個別クレジット契約も取消しうる。
4 過量販売による解除
訪問販売の方法により、日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える商品等を購入する契約を販売業者と締結した購入者は、勧誘行為の問題性を証明することなく、過量販売契約の申込の撤回・解除をすることができる(特定商取引法9 条の2)33)。過量販売契約に伴うクレジット契約を締結した購入者は、このクレジット契約も撤回・ 解除をすることができる(35 条の3 の 12)34)。
32) xxほか・前掲注4)1456 頁。
33) 圓山・前掲注3)186 頁⊖189 頁。
34) xxほか・前掲注4)1415 頁⊖1422 頁。
Ⅳ 適法転貸借
原賃貸借契約と転貸借契約が契約の終了の場面で相互に依存するかが問題となることがある。ここでは、特に、適法転貸借についてみる。原賃貸借契約の契約終了原因には様々な原因がある。以下、解約申入(1)、更新拒絶(2)、法定解除(3)、合意解除(4)をみる。
1 解約申入
借地借家法には、解約の申入れによって建物の転貸借が終了する場合の規定がある35)。34 条1 項によると、適法に転貸借されている場合、建物の賃貸借が期間の満了または解約の申入れによって終了するときは、建物の賃貸人は、建物の転借人にその旨の通知をしなければ、その終了を建物の転借人に対抗できない。同条2 項は、建物の賃貸人が上記の通知をしたときは、建物の転貸借は、その通知がされた日から6 ヶ月を経過することによって終了する、とする。
2 更新拒絶
賃貸人 A や賃借人 B が更新拒絶により賃貸借契約を終了した場合、転貸借契約も終了するのか。
B が更新拒絶によって賃貸借契約を終了した場合、X・X はこれを C に対抗することができるかが問題となった具体例として、最判平成14 年3 月28 日民集56 巻3 号662 頁がある。A は、B の勧めにより、収益を上げることを目的とした事業用ビルを建設した。転貸を要件として、A は B に建設されたビルを一括賃貸した。B は C に転貸し、さらに、X・X の承諾を得て、C は D に再転貸した。ビルの経営が採算に合わないと判断したため、B は A に賃貸借契約を更新しない旨を通知した。最高裁は、A は、再転貸借を承諾したにとどまら
35) xxxx編『注釈借地借家法 新版注釈民法(15)別冊』(有斐閣、1993)(xxxx)
956 頁。
ず、再転貸借の締結に加功し、D による転貸部分の占有の原因を作出したといえるから、A は、xxx上、AB 間の賃貸借の終了をもって D に対抗することはできず、D は再転貸借に基づく転貸部分の使用収益を継続することができるとした36)。
3 法定解除
B が賃料の支払いを怠ったため、賃貸人 A が賃借人 B との賃貸借契約を解除した場合、転貸借契約も終了するのか。かりに、終了する場合、いつ終了するのか。
この問題を扱った具体例には、最判平成9 年2 月25 日民集51 巻2 号398 頁37)がある。昭和61 年5 月分以降、B が A に賃料を支払わなかったので、昭和62年1 月31 日、A は B との賃貸借契約を解除した。昭和63 年12 月以降、C は Bに転借料を支払っていない。平成2 年10 月、B はC との転貸借契約を解除した。平成3 年6 月、A から C への建物の明渡し及び賃料相当損害金(昭和62 年2 月以降分)の支払いの請求を認容する判決が確定した。平成3 年10 月、確定判決に基づく強制執行がなされた。C は強制執行時まで建物を使用していた。B
36) 評釈には、xxx「判解」最高裁判所判例解説民事篇(平成14 年度)328 頁、xxxx「判批」銀行法務21 第618 号89 頁、xxxx「判批」金判1166 号61 頁、xxxx「判批」ジュリ1246 号71 頁、xxx「判批」判評531 号180 頁、xxxx「判批」民法判例百選Ⅱ
〔第7 版〕8 頁、xxx「判批」判タ臨増1125 号58 頁、xxxx「判批」金法1656 号4 頁、xxxx「判批」法セ575 号118 頁、xxxx「判批」法学(東北大学)68 巻3 号191 頁、xxxx「判批」リマ27 号34 頁、xxxx「判批」xx法学45 巻2 号411 頁、xxxx「判批」法教別冊270 号24 頁がある。xxxほか『コンビネーションで考える民法』(商事法務、 2008)94 頁以下も参照。
37) 評釈には、xxxx「判解」最高裁判所判例解説民事篇(平成9 年度)220 頁、xxxx「判批」平成9 年度重判75 頁、xxxx「判批」リマ16 号46 頁、xxx「判批」民法判例百選Ⅱ〔第6 版〕126 頁、xxx「判批」判タ978 号78 頁、xxx「判批」銀行法務 21 第549 号12 頁、xxxx「判批」法教380 号111 頁、xxxxx「判批」民法判例百選
Ⅱ〔第7 版〕132 頁、xxx「判批」判評465 号21 頁、xxx「判批」銀行法務21 第542
号44 頁、xxxx「判批」判タ949 号60 頁がある。
は C に解除までの転借料、強制執行時までの転借料相当損害金の支払いを求めた。
最高裁は、「賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了すると解するのが相当である。」とした。
学説では、①賃貸借契約を前提とした契約である転貸借契約は、賃貸借契約が消滅した場合、当然に消滅するとの見解、②賃貸借契約が消滅した場合、賃借人が賃貸人に目的物を返還し、目的物の使用収益を転借人にさせる義務を賃借人が履行できないので、履行不能により、転貸借契約が消滅するとの見解がある38)。
4 合意解除
賃貸人 A・賃借人 B の契約が合意解除された場合、賃借人 B・転借人 C の契約はどうなるのか。合意解除の場合、AB の合意が C の権利を消滅させることが許されるかが問題となる。
まず、AB の合意解除は C に対抗できないとした、最判昭和37 年2 月1 日裁判集民58 号441 頁39)がある。この判決は、「転借人に不信な行為があるなどして賃貸人との間で賃貸借を合意解除することがxxxxの原則に反しないような特段の事由がある場合のほか、賃貸人と賃借人とが賃貸借解除の合意をしても、そのため転借人の権利は消滅しない旨の原審判決の見解は、これを正当」とした。AB の契約の合意解除が C に対抗できない場合、B の賃貸人たる地位
38) xxxx「賃貸借の終了と転貸借」『契約法大系Ⅶ』(有斐閣、1973)7 頁⊖8 頁、xxxx「賃借権の譲渡・転貸の法律関係」『現代契約法大系(3)』(有斐閣、1983)138 頁、xxxほか編『民事法Ⅲ債権各論[第二版]』(日本評論社、2010)(xxxx)149 頁。履行不能の時点とは、①賃貸人が転借人に目的物を返還請求した時、②転借人が事実上使用収益できなくなった時、③賃貸借契約が解除された時、が考えられる。
39) 最判昭和62 年3 月24 日判時1258 号61 頁では、無断転貸にもかかわらず賃貸借の解除ができない場合に賃貸借の合意解除がなされた。
が A に承継されるので、BC の賃貸借契約が AC の賃貸借契約となる40)。
次に、賃貸人 A・賃借人 B の合意解除は C に対抗できるとした、最判昭和 38 年4 月12 日民集17 巻3 号460 頁がある。賃借した建物で鉄工場を経営していた B が、この事業を株式会社 C とし、C の代表取締役となった。C の株の 70%を保有する B は C に建物を転貸した。AB の賃貸借契約の合意解除の調停に C は立ち会った。最高裁は、賃借建物で鉄工場を経営していた賃借人が、その事業を自己が代表取締役となって会社組織にした結果その建物を右会社に転貸するに至った場合においては、賃貸人は賃貸借の合意解除の効果を転借人に対抗できる、とした41)。
最後に、最判昭和31 年4 月5 日民集10 巻4 号330 頁42)がある。B が退去するときまで BC の転貸借を承諾した A が、B との賃貸借契約を合意解約した場合である。最高裁は、家屋の賃貸人が、家屋の一部の転貸借につき近く予想される賃借人の家屋退去に至るまでの間にかぎって承諾を与えたものであり、転借人もそのことを知っていたときは、右転借権は賃借人の家屋退去と同時に消滅するものと解すべきである、とした。
Ⅴ 土地の賃貸借・売買と土地上の建物の賃貸借・売買
別個の不動産である土地と土地上の建物について、賃貸借契約もしくは売買契約が締結されることがある。これらの契約が、契約の終了の場面で、相互に依存するか否かが問題となることがある。この具体例として、仮装譲渡(1)、
法定解除(2)、合意解除(3)、更新拒絶(4)、期間満了(5)、瑕疵担保責任(6)などがある。以下それぞれの場合についてみる。
40) 東京高判昭和38 年4 月19 xxx14 巻4 号755 頁。
41) 評釈には、xxxx「判解」最高裁判所判例解説民事篇(昭和38 年度)105 頁、xxxx「判批」法協82 巻2 号332 頁、xxxx「判批」民商49 巻6 号867 頁がある。
42) 評釈には、xxxx「判解」最高裁判所判例解説民事篇(昭和31 年度)42 頁、xxxx「判解」曹時8 巻6 号59 頁、xxx「判批」法協74 巻3 号334 頁、xxxx「判批」民商34 巻6 号929 頁がある。
1 仮装譲渡
仮装譲渡には、土地の仮装譲渡(⑴)、土地上の建物の仮装譲渡(⑵)の場面がある。
⑴ 土地の仮装譲渡
A が B に土地を仮装譲渡し、B が C に土地上の建物を賃貸した場合をみる。 AB の土地の仮装譲渡の無効(民法94 条1 項)は、C に対抗することができるのか。
具体例には、最判昭和57 年6 月8 日判時1049 号36 頁43)がある。昭和37 年9月頃、A らの先代 D は B と土地の売買契約を締結し、所有権移転登記を行った。土地上に建物を建築した B は C にこの建物を賃貸した。昭和40 年、D が死亡したため、D の地位を承継した A らは B に「DB 間の土地売買は通謀虚偽表示により無効である」として、建物収去土地xxxを求める訴えを提起した。昭和54 年、A らの勝訴が確定したため、A らは C に建物からの退去と土地の明渡しを請求した。仮装譲渡された土地については法律上の利害関係を有するものとは認められないから、C は94 条2 項の第三者には該当せず、A は C に対抗することができると最高裁は判断した。
かりに C が94 条2 項の第三者となる場合、B は、建物賃貸人として C から家賃を収取し続け、AB 間の仮装譲渡が無効となるため、A に地代相当額を不当利得もしくは損害賠償として支払い続けることになる44)。
43) 評釈には、xxxxx「判批」民商87 巻5 号125 頁、xxx「判批」判評296 号10 頁、xxx「判批」判タ484 号22 頁、xxxx「判批」金商660 号50 頁、xxxx「判批」名城法学32 巻2 号135 頁がある。
44) xx・前掲注43)判評296 号12 頁、xx・前掲注43)判タ484 号23 頁は、C が虚偽表示の目的である土地について法律上の利害関係を有するかを検討するにとどまるのではなく、A と C の実質的な利益考慮・価値判断を行なう必要があるとする。
⑵ 借地上の建物の仮装譲渡
A がB に土地を賃貸し、B がC に借地上の建物を仮装譲渡した場合をみる。B・ C の建物の仮装譲渡の通謀虚偽表示による無効(民法94 条1 項)は、A に対抗することができるか。
具体例には、最判昭和38 年11 月28 日民集17 巻11 号1446 頁45)がある。A から土地を賃借したB は、この土地上に二棟の建物を有していた。借地権の譲渡・転貸や借地上建物の譲渡・賃貸を行う場合、書面による A の承諾が必要である、 B が差押・仮差押・仮処分や競売・破産の申立てを受けた場合、A は土地の賃貸借契約を解除しうるという特約を A は B との間で結んだ。A に無断で Bが C に建物一棟を譲渡したので、A は B に土地の賃貸借契約の解除、建物収去・土地明渡を請求した。BC 間の建物の譲渡は仮装譲渡であり無効であるとの Bによる主張に対し、民法94 条2 項の第三者であると A は主張した。B・C の建物の所有権譲渡は通謀虚偽表示によるものであるとした、A は以上の事実関係においては民法94 条2 項の第三者には該当しないとした原判決は正当であると最高裁は判断した。
2 法定解除
賃借人 B の債務不履行により、賃貸人 A と B の土地賃貸借契約を、A が法定解除をした場合、B と建物賃借人 C の建物賃貸借契約は終了するのか。かりに終了する場合、いつ終了するのか。
具体例には、最判昭和45 年12 月24 日民集24 巻13 号2271 頁がある。A と土地の賃貸借契約を締結した B は土地上の建物を所有した(昭和38 年8 月1 日)。 C は B の建物を賃借した(昭和40 年10 月1 日)。B の賃料不払いにより A が土地賃貸借契約を解除(昭和41 年1 月3 日)したため、C が A に建物からの退去・土地を明渡すべき判決が確定(昭和44 年2 月4 日)し、強制執行(昭和
45) 評釈には、瀬戸正二「判解」最高裁判所判例解説民事篇(昭和38 年度)335 頁、瀬戸正二「判解」曹時16 巻1 号139 頁、山下末人「判批」法協36 巻5 号79 頁、川井健「判批」民商51 巻2 号82 頁がある。
44 年4 月22 日)がなされた。強制執行があるまで C は建物を占有使用していた。 B の C に対する未払賃料債権の転付命令を得た A は C に賃料の支払いを請求した。この未払賃料債権は土地の賃貸借契約の解除後である昭和41 年11 月1日から昭和42 年11 月3 日の分であり、この期間において、既に B の C に対する賃貸借契約上の債務は履行不能となっているため、C の賃料債務は存在しないと C は抗弁した。
最高裁は、「土地の賃貸借が借地人の債務不履行により解除された場合においても、その地上の建物の賃貸借はそれだけでただちに終了するものではなく、土地賃貸人と建物賃借人との間で建物敷地の明渡義務が確定されるなど、建物の使用利益が現実に妨げられる事情が客観的に明らかになり、ないしは、建物の賃借人が現実の明渡を余儀なくされたときに、はじめて、建物を使用収益させるべき賃貸人の債務がその責に帰すべき事由により履行不能となり、建物の賃貸借は終了するに至ると解するのが相当であってそれまでは建物賃借人の建物賃貸人に対する賃料債務は依然発生するというべきである。」とした。建物賃貸借契約は、明渡すべき判決が確定したときに終了すると判断した46、47、48)。
3 合意解除
土地賃貸人 A と土地賃借人 B の契約が合意により解除された場合、A は建物賃借人 C に AB の土地賃貸借契約の解除を対抗することができるか。原則
(⑴)と例外(⑵)をみる。
46) 転貸借との違いについて、原賃貸借と転貸借は直接的な関係にあるのに対し、土地賃貸借と建物賃貸借は間接的な関係にあるとするのは、野田・後掲注47)曹時23 巻9 号329 頁。
47) 評釈には、野田宏「判解」最高裁判所判例解説民事篇(昭和45 年度)875 頁、野田宏「判解」曹時23 巻9 号324 頁、平井宜雄「判批」法協89 巻9 号1233 頁、篠塚昭次「判批」民商 65 巻5 号855 頁がある。
48) 最判昭和51 年12 月14 日判時842 号74 頁は、A が B の債務不履行を理由に解除する要件として、A の C へのあらかじめの催告・通知は不要であるとした。学説では、B に代わって債務の履行をする機会を C に与えるため、A は C にあらかじめ催告・通知すべきであるとする見解(甲斐道太郎「判批」判評224 号35 頁)がある。
⑴ 原則
最判昭和38 年2 月21 日民集17 巻1 号219 頁がある。昭和21 年8 月、土地賃貸人 A から土地を賃借した B は、期間10 年という約定で、土地上の建物を所有した。昭和30 年3 月、B は建物賃借人 C に建物を賃貸した。昭和31 年7 月 31 日限りで土地賃貸借契約を解除すること、A が B の建物を買い受けることを内容とした AB 間の建物収去土地明渡の調停が成立(昭和31 年12 月)したので、A が C に建物収去土地明渡を求めた49)。最高裁は、「……たとえ土地賃貸人と土地賃借人との間で、右借地契約を合意解除し、これを消滅せしめても、特段の事情がない限りは、土地賃貸人は、右合意解除の効果を、借地上の建物の賃借人に対抗しえないものと解するのが相当である」「土地賃貸人は、上地賃借人が、……他にこれを賃貸し、建物賃借人をしてその敷地を占有使用せしめることをも当然に予想し、かつ認容しているものとみるべきである……」とした。
A が C に AB の土地賃貸借契約の解除を対抗できない場合、それぞれの契約はどうなるのか。土地賃貸借契約は、C の賃借権の根拠が失われない限度で、存続し50)、建物賃貸借契約も存続し、この契約上の権利義務全てを B と C は負うことになる51)。
⑵ 例外
この一般原則の例外の場合として、特段の事情があり、土地賃貸借契約の合意解除を A が C に対抗しえるとした例がある。土地の賃貸借契約が一時使用
49) 評釈には、瀬戸正二「判解」最高裁判所判例解説民事篇(昭和38 年度)30 頁、瀬戸正二「判解」曹時15 巻4 号93 頁、広瀬武文「判批」判評59 号61 頁、星野英一「判批」法協 82 巻1 号143 頁、水本浩「判批」民商19 巻4 号579 頁、平井一雄「判批」法学新報70 巻6号50 頁、広中俊雄「判批」法学28 巻2 号120 頁、椿寿夫「判批」法時35 巻7 号84 頁がある。土地の賃貸借契約の合意解除が借地上の建物の抵当権者に対抗できるかという問題もある
(大判大正14 年7 月18 日新聞2463 号14 頁、大判昭和8 年2 月15 日新聞3525 号7 頁)。 50) 広瀬・前掲注49)63 頁。
51) 広瀬・前掲注49)63 頁。
である場合、様々な事情が総合的に考慮された場合、建物賃貸人と建物賃借人の間に特殊な関係がある場合がある。
まず、最判昭和31 年2 月10 日民集10 巻2 号48 頁がある。土地賃借人 B が土地上に建物を建築するため、土地賃貸人 A が B に土地を賃貸した。1 ヵ月の予告により、必要なときはいつでも、A は B に土地の明渡を請求することができるという特約を A は B との間で結んだ。B が土地上の建物を A に無断で C に賃借した52)。土地賃貸借契約の合意解除が成立したため、A が C に建物収去明渡請求をした。最高裁は、A と B の土地賃貸借契約は一時使用のために締結されたこと、B の C への建物の賃貸を A が承諾していなかったことなどにより、A は土地賃貸借契約の合意解除を C に対抗しえるとした53)。
次に、最判昭和41 年5 月19 日民集20 巻5 号989 頁がある。A から土地を賃借したB が土地上の建物をC に賃借したが、B がA への賃料支払いを遅滞した。昭和33 年12 月、①昭和38 年12 月までに、建物を南側から北側に移築し、南側の土地を B が A に明渡すこと、②北側の土地は A が B に賃貸し続けること、
③土地の明渡しが完了するまで、南側の土地をA が B に賃借することを内容 とする裁判上の和解が成立した。期限が到来してもB が義務を履行しないので、 A が C に建物収去明渡請求をした54)。最高裁は、和解において、A は B に北側の土地を賃貸し続けること、A は B に南側の土地を、期限を昭和38 年12 月 16 日として、一時的に賃貸することとしたのであり、この事実を C が知っているか否かを問わず、A は土地賃貸借契約の合意解約をC に対抗できるとした。他に、最判昭和49 年4 月26 日民集28 巻3 号527 頁がある。A から土地を賃 借した B は、昭和27 年6 月、土地上の建物を C(合資会社)に賃借した。昭
52) 評釈には、北村良一「判解」最高裁判所判例解説民事篇(昭和31 年度)7 頁、北村良一「判解」曹時8 巻4 号76 頁、加藤一郎「判批」法協74 巻2 号180 頁、石田喜久夫「判批」民商34 巻5 号771 頁がある。
53) 加藤・前掲注52)186 頁。
54) 評釈には、後藤静思「判解」最高裁判所判例解説民事篇(昭和41 年度)265 頁、後藤静思「判解」曹時18 巻8 号114 頁、篠塚昭次「判批」判評96 号4 頁、金山正信「判批」民商56 巻1 号116 頁、高橋尚志「判批」法協84 巻5 号693 頁がある。
和30 年12 月、土地賃貸借契約を AB が合意解除し、B が昭和35 年12 月末までに建物を収去し土地を明渡す調停が成立した。A が C に土地の明渡しを請求した。合意解除を A は C に対抗できないと C は主張した。最高裁は、① B は設立と同時に建物を C に賃貸していたこと、②個人として行ってきた製造・販売業を会社組織に改めた B は C の設立と同時に C の代表者となり、昭和32年12 月15 日に死亡するまで C の無限責任社員であったこと、③設立当時から C の従業員は5、6 名に過ぎずその経営規模に大きな変化はなかったこと、④調停時、B が C について言及せず、A が C を知らなかったこと、等を考慮して、 A は土地賃貸借契約の合意解除を C に対抗しえるとした55)。
4 更新拒絶56)
更新に対する異議に正当事由があるため、A・B の土地賃貸借契約が終了した場合、B・C の建物賃貸借契約も終了するのか。C が土地を使用できるのは借地権があるためであり、A が更新拒絶により AB の土地賃貸借契約を終了させると、C の借地権が消滅してしまい、BC の契約も終了するという見解がある57)。反対に、B が借地上の建物を賃貸し、C が敷地を占有・使用することを当然に予想・認容している A は C に対抗しえないと判断した、前掲・最判昭和38 年2 月21 日(AB 契約の合意解除)と同様、建物賃貸借契約は存続しうる
55) 評釈には、友納治夫「判解」最高裁判所判例解説民事篇(昭和49 年度)524 頁、友納治夫「判解」曹時29 巻3 号131 頁、星野英一「判批」法協93 巻6 号936 頁、篠塚昭次「判批」民商72 巻2 号351 頁、沢田みのり「判批」法時47 巻8 号153 頁、土屋茂「判批」日本法学 41 巻2 号103 頁がある。
56) 建物所有を目的とした土地賃貸借契約の更新に対する異議に正当事由があるかの判断において、第三者である地上建物賃借人の事情が考慮できるかが問題となった具体例がある。例えば、(1)最判昭和56 年6 月16 日判時1009 号54 頁、(2)最判昭和58 年1 月20 日民集37 巻1 号1 頁がある。(1)は、地上建物賃借人の事情を考慮しないと判断した。(2)は、原則、地上建物賃借人の事情を考慮しないとし、その例外として、特段の事情がある場合(①借地契約が当初から建物賃借人の存在を認容した場合、②実質上建物賃借人を借地人と同一視することができる場合)には、地上建物賃借人の事情を考慮するとした。
57) 前掲・最判昭和58 年1 月20 日の判例評釈である、内田勝一「判批」判タ493 号119 頁。
という見解がある58)。この見解によると、賃借権のないBC 間で建物賃貸借契約が存続するのは問題であるため、建物買取請求権の行使により、A が B の地位を B から承継し、AC がこの契約を存続させるか否かを決定することになる。
5 期間満了
土地の賃貸借契約が期間満了となった場合、建物の賃借人は土地を明け渡さなければならない。借地借家法は、土地を明け渡さなければならない建物の賃借人の保護のために、建物の賃貸借契約の猶予期間を認めている。35 条1 項は、建物の賃借人が借地権の存続期間の満了をその1 年前までに知らなかった場合に限り、裁判所は、建物の賃借人の請求により、建物の賃借人がこれを知った日から1 年を超えない範囲内で、土地の明渡しにつき相当な期限を許与することができる、とする。35 条1 項に基づき裁判所が期限の許与をしたとき、同条 2 項は、建物の賃貸借契約は、その期限が到来することによって終了する、とする。
6 瑕疵担保責任
具体例として、最三小判平成3 年4 月2 日民集45 巻4 号349 頁59)がある。C は、
B から土地賃借権付きの建物を買い受け、A(土地所有者)と賃貸借契約を締
58) 前掲・最判昭和58 年1 月20 日の判例評釈である、武川幸嗣「判批」民法判例百選Ⅱ〔第
7 版〕121 頁。
59) 評釈には、富越和厚「判解」最高裁判所判例解説民事篇(平成3 年度)157 頁、富越和厚「判解」ジュリ985 号116 頁、遠藤浩「判批」法セ495 号31 頁、小野秀誠「判批」不動産取引判例百選〔第3 版〕152 頁、潮見佳男「判批」民商106 巻2 号240 頁、潮見佳男「判批」法教135 号74 頁、高木多喜男「判批」平成3 年度重判72 頁、野口恵三「判批」NBL481 号 60 頁、半田吉信「判批」判評395 号35 頁、半田吉信「判批」民法判例百選Ⅱ〔第6 版〕
108 頁、副田隆重「判批」法セ446 号138 頁、前田達明「判批」リマ5 号56 頁、水野智幸「判批」平成3 年主判解説66 頁、宮川博史「判批」ジュリ993 号193 頁、森田宏樹「判批」法協109 巻8 号1390 頁、中田邦博「判批」民法判例百選Ⅱ〔第7 版〕110 頁がある。
結した。台風に伴う大雨により、擁壁に傾斜、亀裂が発生し、土地に一部沈下 と傾斜が発生した。A に擁壁の新規築造や改修補強の申入れをしたが A が何の措置も採らなかったので、C は建物を取り壊した。瑕疵担保責任の規定に基づきB との売買契約やA との賃貸借契約をC が解除できるかが問題となった。最高裁は次のように判断した。賃貸借契約上当然に予定された建物敷地とし
ての性能を土地が有していないため、民法559 条、570 条により、C は A に敷地の修補の請求・賃貸借契約の解除ができるとした。建物の敷地の欠陥は売買契約の目的物である賃借権の欠陥ではないため、民法556 条3 項、570 条により、C は B に売買契約の解除をすることができないとした。
Ⅵ 考察
Ⅰ問題提起で提起した問題について考察する。提起した問題は、①複数の契約を相互に結び付けるものには、合意、契約、債権債務関係、全体としての目的、経済的一体性、取引の他に、当事者関係があるのではないか、②かりに、当事者関係も複数の契約を相互に結び付けるものであるとすると、複数の契約が相互に依存するか否かを考えるとき、当事者関係をどのように考慮すべきであろうか、であった。
1 ①について
複数の契約が相互に依存するか否かを考えるとき、全体において、当事者関係を考えなくてよい場合と当事者関係を考えなければならない場合とがある。当事者関係を考えなくてよい場合、他の全体を考える。例えば、全体として の目的、取引(Ⅴ6 瑕疵担保責任)、当事者の合意(Ⅳ4 合意解除の場合で特約がある場合。当事者のうちの一人が特約を認識しているにすぎない場合を含
む)などを考える。
2 ②について
複数の契約が相互に依存するか否かを考えるとき、当事者関係を考慮する必
要がある場合がある。この場合には、まず、形式的な当事者関係を維持し、当事者の同一性を考慮しない場合(⑴)、当事者の同一性を考慮する場合(⑵)がある。次に、実質的な当事者の一体性を考慮することがあるが、この場合には、何らかの法理に基づく場合(⑶)と何らかの法理に基づかない場合(⑷)がある。
⑴ 形式的な当事者関係を維持し、当事者の同一性を考慮しない場合
Ⅲクレジット-2 不成立・無効(名義貸し)の場合、名義貸しの事実を認識していた、あるいは、し得た信販会社は、民法93 条但書きの適用あるいは類推適用により、履行の請求ができないとした判決(前掲・長崎地判平成元年3月29 日判時1326 号142 頁、前掲・福岡高判平成元年11 月9 日判時1347 号55 頁)、立替払契約の申込の意思表示をするとき、名義貸人に立替金の返済の真意がなかったとしても、民法93 条により、立替払契約の効力は有効であるとした判決(前掲・東京高判昭和57 年6 月29 日下民集33 巻5⊖8 号917 頁)では、当事者はそれぞれの形式的な地位を維持している。
Ⅴ土地の賃貸借・売買と土地上の建物の賃貸借・売買- 1 仮装譲渡では、土地の仮装譲渡、土地上の建物の仮装譲渡があった場合、土地上の建物の賃借人や土地の賃貸人は、民法94 条2 項の善意の第三者に該当するかが問題となった。ここでも、当事者はそれぞれの形式的な地位を維持している。
⑵ 形式的な当事者関係を維持し、当事者の同一性を考慮する場合
⒜ Ⅲクレジット-1 クーリング・オフ
35 条の3 の11 第2 項は、特定商品販売等契約に伴う個別クレジット契約を参加者がクーリング・オフするには、特定連鎖販売個人契約に伴う個別クレジット契約と特定商品販売等契約に伴う個別クレジット契約を締結した個別クレジット業者が同一であることを要件としている。35 条の3 の11 第3 項は、特定継続的役務提供等契約に伴う個別クレジット契約と関連商品販売契約に伴う個別クレジット契約について、同じ要件を必要としている。
⒝ Ⅲクレジット-3 不当な勧誘行為により締結された契約の取消
特定連鎖販売個人契約に伴う個別クレジット契約の勧誘をするとき、販売業者等が不実の告知・故意の不告知を行ったため、誤認をして申込み等の意思表示をした購入者等は、この個別クレジット契約を取消すことができる(35条の3 の14)。35 条の3 の14 第2 項は、同一の個別クレジット業者が特定連鎖販売個人契約と特定商品販売等契約に伴う個別クレジット契約を締結している場合に限り、購入者等は、特定商品販売等契約に伴う個別クレジット契約を取消すことができるとする。
特定継続的役務提供等契約に伴う個別クレジット契約を勧誘するとき、役務提供事業者が不実告知または故意の不告知をしたため、誤認して申込み・承諾の意思表示をした消費者は、この個別クレジット契約を取消すことができる
(35 条の3 の15)。35 条の3 の14 第2 項と同様、35 条の3 の15 第2 項は、特定継続的役務提供等契約に伴う個別クレジット契約と関連商品販売契約に伴う個別クレジット契約を同一の個別クレジット業者が締結しているときに限り、消費者は、関連商品販売契約に伴う個別クレジット契約も取消しうるとする。
⑶ 代理・媒介などにより、実質的な当事者の一体性を考慮する場合60)
⒜ Ⅱ特定商取引法に定められた取引
特定商取引法48 条2 項は、消費者は、役務提供事業者・販売業者が関連商品販売を代理・媒介をした場合に限り、特定継続的役務提供等契約を前提とした関連商品販売契約をクーリング・オフすることができるとする。同法49条5 項は、特定継続的役務提供等契約を中途解約した消費者は、役務提供事業者・販売業者が関連商品販売を代理・媒介をした場合に限り、関連商品販売契約を解除できるとする。同法49 条の2 第3 項は、特定継続的役務提供等契約を取消した消費者が関連商品販売契約を解除する場合について、同様の要件を必要としている。
60) 河上正二「当事者の認定」『民法の争点』(有斐閣、2007)168 頁。
⒝ Ⅲクレジット-3 不当な勧誘行為により締結された契約の取消
消費者契約法5 条は、事業者から消費者契約の締結の媒介の委託を受けた第三者が不当な勧誘行為を行い、それによって消費者が申込または承諾の意思表示を行った場合、消費者は不当な勧誘によって締結をした契約を取消すことができるとする。クレジットの場合、販売会社が消費者にクレジット契約を利用することを勧め、クレジット契約の締結に必要な手続きを行う。この手続きの方法により、販売会社は「媒介の委託を受けた第三者」と考えられている。
⑷ 何らかの法理によらず、実質的な当事者の一体性を考慮する場合
⒜ Ⅳ適法転貸借-4 合意解除
前掲・最判昭和38 年4 月12 日民集17 巻3 号460 頁は、A・B の合意解除は Cに対抗できるかについて、賃借建物で鉄工場を経営していた賃借人が、その事業を自己が代表取締役となって会社組織にした結果その建物を右会社に転貸するに至った場合においては、賃貸人は賃貸借の合意解除の効果を転借人に対抗できる、とした。この判決は、C とは法律上別の人格である B が C の代表取締役となっていたことを考慮している。
⒝ Ⅴ土地の賃貸借・売買と土地上の建物の賃貸借・売買─ 3 合意解除
前掲・最判昭和49 年4 月26 日民集28 巻3 号527 頁は、土地賃貸人 A と土地賃借人 B の土地賃貸借契約の合意解除は、原則、土地上の建物の賃借人 C に対抗できないが、例外的に、① C が設立と同時に建物を B から賃借していたこと、②設立と同時に C の代表者となった B は、死亡するまで C の無限責任社員であったこと、③設立当時からC の従業員は5、6 名に過ぎなかったこと、等を考慮して、A は土地賃貸借契約の合意解除を C に対抗できるとした。この判決は、B と C の実質的な一体性を考慮している。
(こばやし・かずこ 筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業法学専攻准教授)