Contract
データの利用に関する契約ガイドライン産業保安版
(案)
平成 30 年 4 月
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託先 株式会社三菱総合研究所
目次
2.2 プラントデータ提供に関する契約をめぐる主な法的論点 13
2.3 プラントデータ提供に関する契約書作成の留意事項 16
1. はじめに
1.1 ガイドラインの目的及び制定経緯
近年の Internet of Things(IoT)、ビッグデータ、人工知能(AI)等の情報技術の発展に伴い、事業活動により生み出されるデータはこの数年で爆発的に増加している。業種を超えたデータの連携は新たな価値を生み出す競争力の源泉であり、オープンイノベーションによる革新的な成果をもたらすものと期待されている。
我が国の産業保安分野においても、IoT、ビッグデータ等を効果的かつ効率的に利用しようとする 取組が進められている。近年、多くのプラントで老朽化が進み、保守・安全管理の実務を担ってき たベテランの従業員が引退の時期を迎えつつあるため、重大事故が増大するリスクに直面している。そこで、IoT やビッグデータ等の利用を通じて現場の自主保安力を高め企業の競争力が向上するよ うに、業界ごとの実証事業が進められている。例えば、石油精製・化学業界では、内面腐食や外面 腐食の保全管理等の産業保安の協調領域において、従来ベテラン従業員の判断に頼っていた管理ノ ウハウを、IoT やプラントデータの共有・活用による先進的な自主保安技術として実用化するため の実証事業が実施されている。
しかし我が国の産業保安分野では、これまで企業間でのデータ流通が十分には進んでいないという課題も指摘されていた。元来、プラントデータが、生産プロセス等各社固有の競争力に関わる情報やライセンス契約等による開示不可能な機密情報等、競争領域のデータを含むことが多いことから、プラント事業者がデータの提供に慎重な姿勢であったことがその背景にある。さらに、協調領域のデータであったとしても外部へのデータ提供には相応の作業を要するため、プラント事業者にとっては提供のための明確なインセンティブを見いだすことができなければ提供は困難であるということも指摘されており、様々な立場に配慮したデータ利用における事業環境整備が求められてきた。
経済産業省、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構及び株式会社三菱総合研究所では、平成 29 年 10 月から平成 30 年 3 月にかけて「プラントデータ活用促進会議」を開催し、今後の産業保安分野における IoT 等の活用について多角的な議論を進めてきた。
「データの利用に関する契約ガイドライン産業保安版」(以下「本契約ガイドライン」という。)は当該会議を通じ、各種の実証事業に携わる事業者や業界団体の声を踏まえて弁護士や有識者を中心にデータの提供に関する取引の在り方について検討を進め、基本的な考え方を取りまとめたものである。本契約ガイドラインの制定が、産業保安分野における Society5.0・Connected Industries実現に向けて、既存の企業の枠を超えたデータ流通の契機となるよう期待する。
本契約ガイドラインは、産業保安に携わる各事業者・関連団体において契約交渉や契約締結業務を担当されている方はもちろん、他の産業分野においても、データの利用に関する契約類型を検討する必要がある各事業者・関連団体に大いに参考にしていただきたいと考えている。また、データの利用全般に関心をお持ちの方々にも、広く活用していただけるものであると考えている。
1.2 他のガイドラインとの関係
経済産業省では、平成 27 年 10 月に、データ取引の促進のために「データに関する取引の推進を目的とした契約ガイドライン」を策定し、データに係る権利者が契約当事者間において明らかであることを前提に当該権利者がデータを提供するための条件やポイント等を示している。さらに、平成 29 年 5 月に「データの利用権限に関する契約ガイドライン v1.0」を策定し、事業者間の取引に関連して創出し、取得又は収集されるデータの利用権限を契約で適正かつxxに定めるための手法や考え方をまとめている。平成 30 年には、これらのガイドラインも統合する形で、データ利用に関する契約を類型別に整理し一般的に契約で定めておくべき事項や留意事項等をまとめた「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(仮)」も策定される予定である。
本契約ガイドラインは、上記のガイドラインの考え方も踏まえたうえで、特に産業保安分野に特化して、特有の留意事項に配慮しながら、産業保安分野のユースケースを設定した上でデータの利用上の留意点を説明したものである。それゆえ、本契約ガイドラインの検討においては、上記のガイドラインの考え方を必要に応じて取り入れるように配慮しており、依拠して記載している部分もある。
1.3 ガイドラインの構成
本契約ガイドラインの構成は以下のとおりである。
⚫ 産業保安分野のデータ利用における基本的な考え方
本契約ガイドラインの 2.では、産業保安分野のデータ活用スキーム、プラントデータ提供に関する契約をめぐる主な法的論点、プラントデータ提供に関する契約書作成の留意事項について解説をしている。
⚫ モデル契約条項の解説
本契約ガイドラインの 3.では、産業保安分野において、プラントデータの提供に関する契約を締結するにあたり、契約書に定めることが望ましい事項を契約条項ごとに整理し、特に問題となりやすく重要と思われるモデル契約条項について解説をしている。
⚫ モデル契約書
本契約ガイドラインの別冊では、3.で解説したモデル契約条項を基にモデル契約書としてまとめている。
1.4 ガイドラインにおける用語
本契約ガイドラインで用いられる用語の意味は以下のとおりである。また、以下の用語を用いて図式化したものは図 2-1 のとおりである。
⚫ 本契約ガイドライン
データの利用に関する契約ガイドライン産業保安版を指す。
⚫ モデル契約
データの利用に関する契約ガイドライン産業保安版で検討対象としている契約を指す。
⚫ モデル契約条項
データの利用に関する契約ガイドライン産業保安版で検討対象としている契約で想定される契約条項を指す。
⚫ 生プラントデータ
元々プラント事業者の手元にあるデータを指す。
⚫ プラントデータ
プラントにおいて取り扱われるデータ全般を指す。具体的なデータ内容例は、表 1-1 のプラントデータカタログのとおりである。
⚫ 元データ
プラントデータ提供者が、プラントデータ受領者(兼サービス提供者)との秘密保持契約による秘密保持義務を前提として開示したデータを指す。モデル契約条項及びモデル契約書では「本データ」として定義される。
⚫ 派生データ等
元データを利用することによって得られた派生データ、加工データ、モデルその他成果物を総称したものを指す。
⚫ データ提供者
元データのデータ提供者は、プラントデータを保有しており、その一部を提供する事業者である。ユースケース上は、プラントデータ提供者という。具体的には、石油精製プラントや化学プラント等のプラント事業者が想定される。
派生データ等のデータ提供者は、派生データ等を用いたサービスを利用する者に対して、派生データ等を提供する事業者である。
⚫ データ受領者
元データのデータ受領者は、プラントデータ提供者から提供された元データを受領し、利用して、サービス提供を行う主体である。ユースケース上は、プラントデータ受領者という。具体的には、業界団体、ベンダー企業、研究機関等が想定される。
⚫ サービス利用者
派生データ等及び派生データ等を用いたサービスを利用する主体である。サービス利用者には元データの提供者が含まれる場合もある。
⚫ 利用権限
契約当事者の合意に基づく利用権限であり、その具体的な内容は契約当事者が合意して決定する。特段の合意がないときは、データの利用形態として、通常、データの取得、閲覧、複製、保管、修正、加工、分析、開示、販売、削除等が含まれると考えられる。
⚫ 一般化加工
データ提供者が、データの提供にあたり、営業秘密等に該当する項目を事前に削除、抽象化等の加工処理を行うことを指す。
例えば化学プラントにおいては、配管内を流れる原材料の種類に応じて配管の材料や内面のコーティング等を決めるが、これらの情報は営業秘密に相当するため、外部に提供する際には、プラント事業者においてこれらの配管に関するデータの項目を事前に削除しておくことが一般化加工に相当する。
なお、個人情報保護法第 2 条第 9 項の匿名加工(特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して、その個人情報を復元することができないようにすること)とは別異の処理である。
データ項目 | データ開示の範囲と方法 | ||||
区分 | 項目 | 概要 | データ例 | データ活用方法 | データ共有上の留意点 |
① プロセス設計 | プロセス設備設計データ | プラントの基本構想に関するデータである。原料から製品を作り出すまでの生産プロセスと、設備の正常稼働を維持する保全プロセスに大別される。 | ∙ プロセス概念 ∙ プロセスフローダイアグラム(生産プロセスを表現したもの) ∙ 保全手順書 | 新規プラントの設計・建設、既存プラントの正常稼働を維持するために活用可能である。 | データは個社間での秘密保持契約に基づいて共有される。 |
原材料及び反応条件データ | 原材料から製品を生産するために必要なデータである。 | ∙ 原材料/副原料(触媒)、添加剤 ∙ 反応条件(温度、圧力、流量(触媒)) | 新規プラントの設計・建設、既存プラントの正常稼働を維持するために活用可能である(使用材料、反応条件の情報は、適切な保全管理のためにも必要である)。 | 成分割合、反応条件は秘匿性が高いデータであることから、データは個社間での秘密保持契約に基づいて共有される。 | |
② 設備・機器データ | 重要設備設計データ | プラントの重要設備構成の設計データである。 | ∙ 設備の種別、寸法、材質、肉厚、信頼性データ・トラブル情報(信頼性データにはユーティリティ設備のトラブル情報が含まれる) | 適切な運転管理、保全作業の効率化。例えば、腐食モデル開発等が考えられる。 | 個社間での秘密保持契約に基づいて共有されるデータが多い。保全作業の効率化の例として、腐食モデル開発を行う場合には、一部のデータを一般化加工した上で秘密保持契約を締結した企業に共有可能である。トラブル情報の共有化にあたっては、ユーティリティメーカーからの反対が予想される。 |
設備設計データ | プラントにおける重要設備以外の設備構成の設計データである。 | ∙ 設備の種別、寸法、材質、肉厚、信頼性データ・トラブル情報(信頼性データにはユーティリティ設備のトラブル情報が含まれる) | 適切な運転管理、保全作業の効率化。例えば、腐食モデル開発等が考えられる。 | 個社間での秘密保持契約に基づいて共有されるデータが多い。保全作業の効率化の例として、腐食モデル開発を行う場合には、一部のデータを一般化加工した上で秘密保持契約を締結した企業に共有可能である。トラブル情報の共有化にあたっては、ユーティリティメーカーからの反対が予想される。 | |
ユーティリティデータ | プラントの主要構成機器を運用するために必要なユーティリティのデータである。 | ∙ 電力設備(構成、信頼性) ∙ 冷却設備・冷却水(構成、信頼性) | 適切な運転管理、保全作業の効率化に活用可能である。 | 信頼性データ・トラブル情報の共有化にあたっては、ユーティリティメーカーからの反対が予想される。 | |
③ 運転データ (時刻情報) | プラント運転及び操作データ | プラントの運転・操作に関するデータである。 | ∙ 運転データの例:温度、圧力、流量、液位 ∙ 操作データの例:原料/副原料切替え/機器切替え、触媒・添加剤操作、ドレン切り、その他現場操作 | 製品の品質管理、保全管理に活用可能である。 | 運転条件・操作条件は秘匿性が高いデータであることから、データは個社間での秘密保持契約に基づいて共有される。 保安力の向上を目的として緊急時支援システムを開発するような場合には、一部のデータを一般化加工した上で、企業間で共有することが可能である。 |
データ項目 | データ開示の範囲と方法 | ||||
区分 | 項目 | 概要 | データ例 | データ活用方法 | データ共有上の留意点 |
運転記録データ | プラント運転中における運転状況、発生したヒヤリハット事例、事故・故障事例等である。 | ∙ 異常検知情報(異音/異臭/漏油/振動) ∙ 業務日誌・運転日誌・作業引き継ぎ書 ∙ スタートアップ/シャットダウン記録 ∙ パフォーマンスデータ(エネルギー使用量、稼働率) | 製品の品質管理、保全管理、事故対策立案に活用可能である。 | 運転記録データのうち、安全上の懸念に繋がるデータは開示が困難である。一方、事故情報及び対策情報は広く共有することが望ましいため、一般化加工した上で事故情報のメタ知識を共有することが考えられる。 保安力向上を目的として緊急時支援システムを開発するような場合には、一部のデータを一般化加工した上で、企業間で共有することが可能である。 | |
④ 点検・保全記録データ | 点検・保全記録データ | 計画された点検・保全(定期点検・保全)及び計画外保全に関するデータのうち、実際に実施された点検・保全の結果に関するデータであ る。 | ∙ 現場点検データ(加熱炉・加圧炉の炉内目視点検/計装指示点検/軸受け手温度・振動点検/機器触手点検/その他現場点検) ∙ 専門点検/計器変動点検(外部事業者に解析委託する場合を含む) ∙ 定期保全記録/補修記録/予備品記録 ∙ 写真等画像 ∙ 作業員生体データ | 機器の状況を把握し、適切な点検・保全計画を立案するために用いられる。事故が発生した場合には、事故情報の分析・適切な対策立案にも活用可能である。 | 点検データの中には、保全作業効率化のための腐食モデル開発に利用可能なデータがある。それらのデータは、①一部を一般化加工した上で、秘密保持契約を締結した企業間で共有可能であり、また②一般化加工した上で腐食現象予測モデル構築として利用することも可能である。作業員に関するデータ(生体データ、動線データ)は、プライバシー侵害に繋がるおそれがあることから、一般化加工に加え、個人を特定しない形に加工した上での利用が望ましい。 |
監 視 デ ー タ (センサからの取得) | プラント内に設置された様々な構内の状況が記録されたデータである。 | ∙ プラント内の監視カメラデータ ∙ 作業員動線データ ∙ 運転動作音データ | 作業員の動線管理による業務効率化や機器設備の異常音検知等に利用可能である。 | 個人情報や機器設備の製造事業者等の情報管理に留意を払う必要がある。 | |
⑤ 作業計画データ | 作業計画データ | 点検・保全(計画された定期点検・保全及び計画外点検・保全を含む)の手順に関するデータである。 | ∙ 保全計画(保全計画書/保守管理チェックリスト/保守管理マニュアル/保守管理マネジメントツール書類/保全内容/保全作業工程/保全) ∙ 検査結果・解析 ∙ 点検内容/点検時期 ∙ 作業人員数/保全コスト | プラントの適切な信頼性確保に活用可能である。また、リスクに基づいた信頼性確保の活動にも活用可能である。 | 作業人員数/保全コストは各社の競争力に直結するデータであることから、例え一般化加工したとしても、具体的な数値を提供 (他者に共有)することは難しいと考えられる。 |
⑥ トラブル等管理記録データ | トラブル等管理記録データ | トラブルが発生した場合に作成されるデータである。 | ∙ トラブル等の報告書 (事故報告書、労災報告書/トラブル報告書、xxxxxx報告書、設備劣化原因解析) | xxxxの信頼性向上のために活用可能であると同時に、人材育成にも活用可能である。 | 安全上の懸念に繋がる情報の生情報は、企業が開示しない可能性がある。ただし、業界として安全向上に取り組むためにも、事故情報を一般化加工したメタ知識を業界内で共有することが望ましい。また、保安力向上のための緊急時支援システムの開発において、一部を一般化加工したデータを、秘密保持契約を締結した企業間で共有することは可能であると考えられる。 |
⑦ 作業環境データ | 作業環境データ(センサからの取得) | プラント設置場所及びその周辺における環境に関するデータである。 | ∙ プラントから発せられる騒音レベル、排出ガス(分量、成分)、廃水(分量、成分) ∙ プラント設置場所の環境としての気象データ(天気/気温/湿度) | 騒音レベル、排出ガス、廃水データは環境評価に活用可能なデータである。また、気象データはプラントの運用条件の検討に活用可能なデータである。 | これらのデータは公に観測可能なデータであるため、観測値をそのまま共有・開示することが可能であり、特別留意すべき点はないと考えられる。 |
⑧ プラント経営データ | 経営データ | プラントの運営・管理に関するデータであ る。 | ∙ 生産量、生産性 ∙ 売上、コスト、収益 | ― | これらのデータは企業経営の機密事項であり、外部に開示されることはない。 |
2. 産業保安分野のデータ利用における基本的な考え方
以下では、産業保安分野のプラントデータの利用における主な特徴を踏まえた上で、スキーム設計の考え方、プラントデータ提供に関する契約をめぐる法的論点、契約書作成の留意事項を説明する。
産業保安分野のプラントデータの利用については、以下のような特徴がある。
⚫ プラントデータは各社固有の生産プロセスの競争力に関わる情報やライセンス契約等による開示不可能な機密情報等の競争領域のデータを含む可能性があるため、プラント事業者としてはこれらの情報の取扱いには非常に慎重にならざるを得ない実態がある。
⚫ したがって、プラントデータの共有の目的としては「産業保安の高度化」という協調的な目的を設定することが望ましい。
⚫ もっとも、協調領域のデータであったとしても、データ提供には相応の作業(電子化・様式整理・競争領域データの取捨選択・一般化加工等)が発生するため、データを提供するプラント事業者側の明確なメリットがなければデータの共有と利用が促進されない。
競争領域データとの切り離しが難しいプラントデータを活用し、協調領域の知見を抽出する際には、データ提供者とデータ受領者(データ分析・サービス提供者)によるデータ選定と、当該データに関 する利用条件の適切な設定が望まれる。
2.1 産業保安分野におけるデータ利用のスキーム
(1) 産業保安分野のデータ利用における留意事項
産業保安分野においてデータ利用のスキームを設計するために重要な視点は、以下のとおりである(図 2-1)。
⚫ 産業保安の高度化という公共の目的に資するスキームとすること
⚫ データ提供者に対してデータ提供のための十分なインセンティブを付与すること
⚫ 提供されるデータの適切な保護を図ること(一般化加工1等)
[甲] プラントデータ提供者 (サービス利用者) | 提供する 元データの適切な保護 (一般化加工) | [乙] プラントデータ受領者 (サービス提供者) |
元データ
元データ
サービス提供
(有利な条件)
サービス提供
(一般的な条件)
生プラントデータ
元データ提供者にとってのデータ提供のための
インセンティブ付与
産業保安の高度化
派生データ等
派生データ
分析モデル
産業保安の高度化
公共性の高い 目的産業保安の高度化に資するスキーム
[丙]事業者
(サービス利用者)
1 本契約ガイドラインにおける一般化加工とは、データ提供者が、データの提供にあたり、営業秘密等に該当する項目を事前に削除、抽象化等の加工処理を行うことを指す(1.4 参照)。
産業保安分野では、事業者の自主保安力及び生産性の向上を実現するという観点から、産業保安の高度化という協調的な目的を掲げ、データ提供者にデータ共有のインセンティブを付与すると同時に、提供するデータに関する適切な保護を行うように留意したスキームを設計することが求められる。契約当事者間の権利関係を整理する上で、主に留意すべき点は次のとおりである。
1) データ・オーナーシップの考え方・データの保護に関する法制度
複数事業者間でデータの利用を検討する場合、データ・オーナーシップが問題として取り上げられることが多い。
データ・オーナーシップという概念については、法令上の定義は存在しておらず、データの利用等に関する権利(利用許諾権)を意図した用語として一般的に用いられている2。その概念は、①データの入手の事実上の独占と、②知的財産xxにより法的に保護された地位を総称して含むものと考えられる。
データは、知的財産権による直接的な保護の対象とならないことが多いので、上記のうち、
①データの入手の事実上の独占が特に重要である。法的な保護がなくとも、事実上データを入手し保持している主体が限られるならば、データの利用を望む希望者がデータを入手するためには、データを保持している主体から開示を受ける必要がある。この開示にあたって、データ提供者は、契約自由の原則により、データ受領者との合意によって様々な条件を課すことができるのである。
この①データの入手の事実上の独占は、契約によってその地位を移転することも可能である。また、データの入手の時点において複数の契約当事者が関与している場合には、契約当事者間 で誰が入手したデータを事実上独占する地位を有するかを合意する必要がある。
上記のうち、②の知的財産xxにより法的に保護された地位に関して、データの保護に関する現行法制度を整理すると以下の表 2-1 のとおりであり、いずれもプラントデータにも該当する問題である。
⚫ データは無体物である(有体物ではない)ので、民法上、所有権の客体とはなり得ない
(民法第 85 条)3。また、不正なデータ使用等は不法行為となる可能性は皆無ではないが、データ使用等に対する差止請求は原則不可である。
⚫ 取引の対象となるデータが、不正競争防止法上の営業秘密(不正競争防止法第 2 条第 6項)として保護される場合がある。(i)秘密として管理されること(秘密管理性)、(ii)有用であること(有用性)、(iii)公然と知られていないこと(非公知性)の要件が求められる。営業秘密に関しては、データの保有者が、利用者に開示する際に秘密保持契約の締結等により自らの秘密管理意思を明らかにして秘密管理性を確保することによって、データの利用者への開示後も、不正競争防止法上の保護を受けることが可能となる。なお、営業秘密侵害行為によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者が不正競争防止法上の保護を受けることができる。
⚫ 著作権法上、ファクトデータ自体には創作性は認められず、著作物には該当しないが、
2 経済産業省商務情報産業局「オープンなデータ流通構造に向けた環境整備」59 ページ(平成 28 年 8 月 29 日)。
3 実際上、プラント事業者がデータ・オーナーシップを主張している感覚と法制度上の整理のずれがみられる可能性もあるが、物理的排他性を有さず、無限に誰もが複製可能である(非排他性)というプラントデータの特性に留意すれ ば、所有権の客体とはなり得ないことは明らかである。
データベースの著作物(著作xx第 12 条の 2 第 1 項)としての保護が受けられる場合 がある(ただし、情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するものに限られる)。産業保安分野のデータがデータベースの著作物として保護される場合は多くはないと 考えられるが、データベースの著作物として保護される場合には、その権利者(著作者) も、法的な排他権を有するのであるから、データ・オーナーシップを有するといえるで あろう。多くの場合には、データを保持している主体と著作者は重なると考えられるが、対象のデータが著作物として保護される可能性がある場合には、データを保持している 主体が著作権をも保有していることを確認することが必要となる。
⚫ 特許法上、データ自体は単なる情報の提示であり特許にならないが、データの加工や分析方法をプログラムとして記述することで特許による保護対象となる場合もある(特許法第 2 条第 4 項)。
⚫ データは財物性が認められないため、刑法上、データ自体の窃盗罪は成立しないが、態様によっては不正アクセス禁止法違反として刑事責任が問われる場合がある。また最近では、不正競争防止法違反で立件された刑事事件もある。
法令 | 制度 | 備考 |
民法 | データは有体物ではないため、所有権や占有権の対象にならない(民法第 85 条)。 | 不正なデータ使用等は不法行為となる可能性が皆無ではないが、差止請 求は原則不可である。 |
不正競争防止法 | 営業秘密(不正競争防止法第 2 条第 6 項)に該当する場合は保護され得る。 限定提供データに関する改正法案が国会に提 出されている。 | 営業秘密は、秘密管理性、有用性、非公知性の 3 つの要件を満たしていることが必要となる。 |
著作xx | ファクトデータ自体には創作性は認められ ず、著作物にはならない。体系的構成等に創作性があればデータベースの著作物(著作x x第 12 条の 2 第 1 項)に該当し得る。 | ― |
特許法 | データ自体は単なる情報の提示であり特許にならないが、データの加工や分析方法をプログラムとして記述することで特許による保護対象となる場合もある(特許法第 2 条第 4 項)。 | ― |
刑法 | データ自体は財物ではないため窃盗罪は成立しないが、態様によっては不正アクセス禁止法違反となる場合がある。 | 不正競争防止法違反で立件された刑事事件もある(東京高等裁判所判決平成 29 年 3 月 21 日〔ベネッセ事 件〕等)。 |
出所)経済産業省商務情報政策局「オープンなデータ流通構造に向けた環境整備」62 ページ(平成 28 年 8 月 29 日)等を基に三菱総合研究所にて作成
データ・オーナーシップについては、プラントデータの非排他性や公共財的な特性を考慮しつつ、現行法と矛盾・抵触しない範囲で整理することが必要である。特にプラントデータ提供
者は、その後、プラントデータ受領者が独自にデータを追加で収集、抽出、分析等の作業を行った際に、それらの作業に関与していなかった場合、元データを提供したことをもって派生データ等についての何かしらの権利を主張しても認められるとは限らない4。
2) データの不正利用を防止する措置
データ提供者は、提供するデータに含まれる自社の営業秘密や知見が、データの提供に伴ってデータ受領者以外の者にまで流出してしまうという懸念を持ち、データ流通促進を阻害している要因になっている可能性がある。
提供するデータに含まれる自社の知見を守るためには、契約においてデータ受領者に第三者提供を制限することが重要である。この契約上の制限によりコントロールしようとした範囲を超えて第三者にデータが漏えいしてしまった場合には、契約当事者であるデータ受領者に対して契約違反の責任を問うほか、契約当事者や第三者の取得者に対して、不正競争防止法、民法、不正アクセス禁止法等による法的措置を講じることも有用と考えられる。
さらに現在、営業秘密の保護に加えて、営業秘密の要件を満たさず、一定の条件の下で外部の者に提供するデータの保護を目的とする不正競争防止法の改正法案(以下「改正不正競争防止法案」という。)が平成 30 年の通常国会に提出されている。改正不正競争防止法案では、 ID・パスワード等の管理を施した上で提供されるデータを「限定提供データ」として保護の対象とし、「限定提供データ」の不正な取得、使用、開示を新たに「不正競争」行為に位置づけ、これに対する差止請求(不正競争防止法第 3 条)、損害賠償請求(改正不正競争防止法案第 4条)、損害賠償額の推定規定(改正不正競争防止法案第 5 条)といった民事上の救済を設ける内容となっている。
改正不正競争防止法案で保護対象となる「限定提供データ」は、「業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。次項において同じ。)により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(秘密として管理されているものを除く。)」と定義されている(改正不正競争防止法案第 2 条第 7 項)。
また、救済措置を講ずることができる「不正競争行為」とは、以下の類型である。
⚫ 不正取得類型:権原のない外部者が、管理侵害行為によってデータを取得する行為、又はその取得したデータを使用若しくは第三者に提供する行為(改正不正競争防止法案第 2 条第 1 項第 11 号)。
⚫ 著しいxxx違反類型:第三者提供禁止の条件で、データ提供者から取得したデータを、不正の利益を得る目的又は提供者に損害を加える目的(図利加害目的)を持って、横領・背任に相当すると評価される行為態様(委託契約等に基づく契約当事者間の高度な信頼
4 データ・オーナーシップについては、契約上は、「本データに関する知的財産権(データベースの著作物に関する権利を含むがこれに限られない。)は、[甲/乙]に帰属する」という記載によって確認されることになると考えられ る(モデル契約条項第 3 条第 2 項参照)。文言上は、②法的に保護された地位についての確認しかされていないよう にも見えるが、知的財産権が[甲/乙]に帰属するとされている以上、①データの入手の事実上の独占も含めて地位 が確認されるとの合意があるものと解釈することができるからである。知的財産基本法が、知的財産権の意義を「特 xx、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法 律上保護される利益に係る権利をいう。」(知的財産基本法第 2 条第 2 項)として、不正競争防止法により保護され る地位を知的財産権の定義に含めていることも、この理解の裏付けとなると考えられる。
関係を裏切る態様)で使用する行為、又は図利加害目的で第三者に提供する行為(改正不正競争防止法案第 2 条第 1 項第 14 号)。
⚫ 転得類型:①取得するデータについて不正行為が介在したことを知っている者が、当該不正行為に係るデータを取得する行為、又はその取得したデータを使用、若しくは第三者に提供する行為(改正不正競争防止法案第 2 条第 1 項第 12 号及び第 15 号)、②取得時に不正行為が介在したことを知らずに取得した者が、その後、不正行為の介在を知った(悪意に転じた)後に、当該データを第三者に提供する行為(改正不正競争防止法案第 2 条第 1 項第 13 号及び第 16 号)。ただし、②について、転得者が悪意に転じる前の取引で定められた権原の範囲内での提供は適用除外である。
3) プラントデータの提供に関する契約の法的性質
産業保安分野でのプラントデータの利用のスキームでは、プラントデータ提供者がデータを提供する仕組みがとられている。その法的性質は、データを提供し、一定の条件の範囲内に利用を制限するという利用制限条件付データ開示契約であると考えられる。提供の対象となるデータが著作権により保護されている場合には、知的財産権である著作権を行使しないという約束となるため、利用を許諾する契約ということになる。しかし著作権により保護されていない多くの場合においては、データの提供を受けた場合、プラントデータ受領者のデータの利用は契約上の制限がない限り自由であることから、データを提供する契約は開示したデータの利用を契約上合意する条件によって制限する契約ということになる。法的性質として、厳密には以上のような違いがあるが、利用制限条件付のデータ開示契約を指して利用許諾契約と一般に呼称されることがあるため、本ガイドラインでもそのような表現をすることがある。
なお、プラントに存在するデータであっても、ライセンサーから利用許諾を受けた生産技術情報や、生産依頼元から提供された生産レシピ情報等、プラントデータ提供者自身が利用許諾権を有していないデータ類が存在している。プラントデータ提供者は、データを提供するにあたり、自身がデータ提供について正当な権限を有していること(他者から利用について契約上の制約を受けておらず、他者の知的財産権も侵害しないといえること)を確認する必要がある。
4) プラントデータの利用態様
データの「利用」は、法令上の定義がないため、契約当事者間で「利用」の条件として許諾する利用の内容を特定することが重要である。
データの利用形態には、通常、データの取得、閲覧、複製、保管、修正、加工、分析、開示、販売、削除等が含まれると思われる。
プラントデータ受領者は、通常これらの利用態様のうち、利用目的、データ創出に対する契 約当事者の寄与度等を勘案して契約条項に設けられた一定の利用態様の制限の範囲内において、データを活用することになると考えられる。
5) プラントデータの管理方法・開示方法に関する義務
提供されるプラントデータには、企業活動上の機密情報や営業秘密、パーソナルデータ等の情報が含まれる可能性がある。プラントデータ受領者がこれらプラントデータの利用許諾を得る場合には、前提としてプラントデータの取扱いにおける秘密保持義務を負うことが多い。また、データの管理責任や漏えい時の対応責任について、契約当事者間が契約で明確化しておくことも重要である。
6) プラントデータを活用した結果得られる権利
プラントデータを活用した結果、派生データ等に関して、知的財産、ノウハウ、研究成果として発表する権利、またそれらを活用したソリューション等に関する権利が発生する場合がある。これらの権利の帰属も契約当事者にとっては関心事となる。
またプラントデータ提供者からのデータ提供を受けたプラントデータ受領者が、さらに第三者に派生データ等の利用許諾権を与える場合、プラントデータ受領者が独自に判断できるのか、プラントデータ提供者の了承を得る必要があるのかといった問題もある。
(2) ユースケース及び検討対象とする契約
本契約ガイドラインでは、産業保安分野のデータに関する取引の一例として以下のユースケースを念頭においている(図 2-2)。
⚫ プラントデータ受領者(乙)が、プラントデータ提供者(甲)から取得した石油精製プラントや化学プラントの保有するデータを活用してサービス開発を実施する。
⚫ プラントデータ受領者(乙)が、プラントの保全管理支援サービスの提供者として、サービス利用者にサービスを提供する。サービス利用者にはプラントデータ提供者(甲)も含まれる。
[甲]
プラントデータ提供者
(サービス利用者)
分析手法を利用して
メリットを得る
契約1
利用許諾契約
[乙]
プラントデータ受領者
(サービス提供者)
プラントデータを分析して
有益な知見を 抽出し権利化する
元データ
生プラントデータ
データ料
¥
5 の権利帰属
派生データ等
契約2
分析手法をツール化する
契約3
生プラント
データ
¥
サービス提供
派生データ等
サービス料(有利な条件)
サービス提供
サービス料(一般的な条件)
¥
生プラント
データ
分析ツール
元データ ¥ 契 派生データ等
約
4
¥
契
約
5
自主保安力の向上保全作業のコストダウン
契約3’
サービス提供サービス料
¥
乙の分析・データ管理などを支援する
派生データ等を活用して有益な知見を抽出し 権利化・サービス化する
契約3’’
サービス提供サービス料
¥
潜在ユーザー
データ・
オーナーシップ
1
派生データ等の
6 利用権限の
確保
品質保証
4
[乙2]
サービス提供者
分析機関またはデータ管理サービス
派生データ等
分析モデル派生データ
分析手法を利用して
メリットを得る
保全作業のコストダウン
自主保安力の向上
[丙]
事業者
(サービス利用者)
● 論点
データフロー 契約関係
2 | データの区分 | 3 | 利用 (目的外利用・第三者提供) |
本契約ガイドラインでは、上記ユースケースにおいて、プラントデータ提供者(甲)とプラントデータ受領者(乙)の間の契約を検討の対象としている。
対象となる契約の主体は以下のとおりである。
⚫ プラントデータ提供者(甲)
プラントデータ(表 1-1 プラントデータカタログに記載の元データ)を保有しており、
その一部をプラントデータ受領者(乙)に提供する事業者である。具体的には、石油精製プラントや化学プラント等のプラント事業者が想定される。プラントデータを活用して開発された派生データ等を有利な条件で利用できることが、元データ提供の最大のインセンティブとなる。
⚫ プラントデータ受領者(乙)
プラントデータ提供者(甲)から元データを受領して、利用し、サービス提供を行う主体である。具体的には、業界団体、ベンダー企業、研究機関等が想定される。元データを利用したサービス開発をさらに外部機関に委託する場合もある。
(3) プラントデータ提供に関する契約形態の選定
本契約ガイドラインの対象とする契約は、元データのプラントデータ提供者とプラントデータ受領者の相対取引を前提とした、二当事者間の契約を想定している。ユースケースでは、プラントデータ受領者が複数のデータ提供者からデータを受領することを想定しているが、それぞれのプラントデータ提供者と同様の相対契約を個別に締結する想定である。
ただし、データの利用に関しては、図 2-3 のように元データのプラントデータ受領者が事前に用意した規約や約款を複数のプラントデータ提供者に提示し、個別に同意を得て適用するという契約形態も考えられる5。
同 意
元データ
同 意
乙
元データ
派生データ等
分析モデル
派生データ
規約・約款
同 意
データ提供契約
データ提供契約
乙
元データ
元データ
データ提供契約
元データ
甲2
甲1
元データ
甲2
甲1
元データ
したがって、今後の契約実務の動向に合わせてモデル契約条項の見直しが必要な場合も大いに考えられる。
相対取引
規約・約款取引
甲3
甲3
元データ
派生データ
派生データ等
分析モデル
2.2 プラントデータ提供に関する契約をめぐる主な法的論点
本契約ガイドラインのユースケースにおけるプラントデータ提供にあたっては、主に以下のような法的論点が存在する。必要に応じて、それぞれのモデル契約条項も参照が必要である。
なお、以下では重要性が高いと考えられる法的論点について説明をしているが、実際の契約交渉において検討すべき論点はこれらに限られるものではない。また、前提条件の変化等の事情の変更が生じた場合には、必ずしも以下の論点が問題にならない場合もあることに留意を要する。
5 平成 29 年度経済産業省「データ利活用促進に向けた企業における管理・契約等の実態調査」でも、事業者間で、約款や規約を活用してデータの共有が図られている事例があることが指摘されている。
(1) プラントデータの目的外利用・第三者提供の制限(モデル契約条項第 3 条第 1 項・第 4 条第 1 項)
元データのプラントデータ提供者(甲)は、利用許諾契約において、定められた目的の範囲を越えて元データを目的外利用・第三者提供をすることを禁じることが多いと考えられる。この場合、①プラントデータ受領者(乙)自身が、契約に定められた目的以外の用途でデータを利用する目的外利用の場合や、②プラントデータ受領者(乙)に開示された元データ自体を、契約当事者ではない第三者に開示したり、転々流通したりさせたいという第三者提供の場合には、通常、プラントデータ受領者(乙)がプラントデータ提供者(甲)に事前の通知をし、同意を得ることが必要になる。元データのプラントデータ提供者(甲)は、この事前の通知を受けて、任意に同意をするかどうかを判断することになる。したがって、利用許諾契約において目的外利用や第三者提供の制限条項を設けることにより、プラントデータ受領者(乙)による自由な目的外利用や第三者提供を認めず、プラントデータ提供者(甲)がプラントデータ受領者(乙)による利用の範囲をコントロールすることができる。
また、元データのプラントデータ提供者(甲)が目的外利用や第三者提供に同意する場合には、
①プラントデータ受領者(乙)自身が、契約に定められた目的以外の用途でデータを利用することを希望する場合には、その範囲と目的を拡大するにあたっての条件について改めて書面により合意し、②プラントデータ受領者(乙)に開示された元データ自体を、さらに第三者に開示することを希望する場合には、開示を許諾する第三者の範囲と当該第三者への開示に際しての条件について改めて書面により合意することになると考えられる。
(2) 提供されたデータに関する保証(モデル契約条項第 6 条)
プラントデータ受領者(乙)は、データの内容やデータが提供する機能について、一定の品質等が保証されないと、当該データを利用したサービス提供活動が困難になる場合があることから、元データの内容や品質について、プラントデータ提供者(甲)が契約上の保証責任を負うことを望む可能性がある。したがって、契約当事者間で、提供するデータの性質・内容や契約の目的に応じて、データの品質等の保証範囲を適切に定めることが重要である。具体的には、提供するデータに関する保証(取得方法の適法性・適切性、正確性等)や、第三者の権利非侵害の保証の定めの検討が必要である。
なお、プラントデータ提供者(甲)の法的責任の軽減という観点からは、損害賠償の範囲の上限規定や免責規定を設けることも考えられる(モデル契約条項第 16 条解説参照)。
(3) 派生データ等に関する知的財産権及び利用権限の帰属の考え方(モデル契約条項第 11 条第 1
項)
ただし、派生データ等の中には、プラントデータ提供者(甲)が従前から保有していたデータ
(元データ)が元データの全部又は一部が復元可能な部分としてそのまま含まれていることもあ
り得る。このような場合には、当該元データ部分の知的財産権ないしデータの利用権限はプラントデータ提供者(甲)に留保されると考えられる。
権利帰属の条件については、取引内容に応じて契約当事者間で自由に決定されるものであり、上記のような整理に限定されるものではない。したがって、派生データ等について、例えばプラントデータ提供者(甲)とプラントデータ受領者(乙)の共有とすることも考えられる。
しかし、プラントデータ提供者(甲)とプラントデータ受領者(乙)の共有とすると、例えば著作権に関しては、持分の第三者への譲渡、著作権の第三者への利用許諾、自身が著作物を利用する場合にもすべての著作権者の同意が求められる(著作xx第 65 条)等、各契約当事者による利用が制約される。また、知的財産権による保護の対象とならないデータの利用権限の共有についてはこれを共有とすることの効果が不明確となる。よって、その後の円滑なデータ利用の観点から制約が大きい点に留意が必要である。
甲1
元データ
甲2
元データ
甲3
元データ
乙 元データ | |||
派生データ等 分析モデル 派生データ | |||
派生データ等(成果物)の知的財産権は乙に帰属 |
データ提供
サービス提供
丙
(4) 元データ提供者の派生データ等の利用の機会の確保(モデル契約条項第11 条第2 項・第3 項)
プラントデータ提供者(甲)に対するインセンティブ付与の要請に対しては、元データの性質・内容、元データの価値、契約の目的等を総合的に勘案して、契約当事者間の合意に基づき決定することが望ましい。
インセンティブ付与の内容としては、例えば、派生データ等又はこれを利用したサービスについての利用権を付与することで、派生データ等のデータ共有・還元を実施することが考えられる。この場合、派生データ等又はこれを利用したサービスの利用許諾の範囲や、有償・無償取引の別を具体的に設定する必要がある。
また、派生データ等の利用に起因してプラントデータ受領者(乙)になんらかの金銭的メリットが発生した場合に、その一定割合をプラントデータ提供者(甲)に配分することも考えられる。
丙
元データ提供者のインセンティブの確保
データ提供
サービス提供
甲1
元データ
甲2
元データ
甲3
元データ
サービス提供
派生データ等
利益の一部還元
乙
元データ
派生データ
分析モデル
第三者へのサービス提供の結果利益が還元される可能性あり
元データ提供者に有利な条件での派生データ等 (成果物)の
活用を合意
派生データ
分析モデル
派生データ等
(5) 派生データ等の第三者への提供の取扱い(モデル契約条項第 11 条)
元データの提供を受けたプラントデータ受領者(乙)が、派生データ等を第三者に提供するという場合が考えられる(図 2-6)。
このような場面では、派生データ等から元データを復元することができない場合、派生データ等の法的権利がプラントデータ受領者(乙)に帰属していることに鑑み、プラントデータ受領者
(乙)が第三者(丙)と派生データ等の利用許諾契約を締結すれば十分であり、プラントデータ提供者(甲)は、第三者(丙)に対してなんらの利用権限を設定し得ないと考えられる。
ただし、派生データ等の中に元データの全部又は一部に復元可能な部分が残されているのであれば、当該部分の知的財産権ないしデータの利用権限はプラントデータ提供者(甲)に留保されているのであるから、当該部分をプラントデータ受領者(乙)がプラントデータ提供者(甲)の事前の許諾なしに第三者(丙)に提供することは認められない。
甲1
丙1
元データ
派生データ等
データ提供
甲2
乙
元データ
サービス提供
丙2
元データ
派生データ等
派生データ等
分析モデル
派生データ
甲3
丙3
元データ
派生データ等
甲に留保された権利がない限り派生データ等は乙の判断で
第三者への提供が可能
2.3 プラントデータ提供に関する契約書作成の留意事項
プラントデータの提供に関して契約書を作成するためには、後述 3.のモデル契約条項やプラント
データカタログ(表 1-1)等を利用しながら対象データを特定し、個別の契約条項ごとに契約交渉を進め、契約当事者間でのイメージの共有を図ることが重要である。
以下では、特に問題となりやすい契約の対象となるデータの特定とプラントデータの利用条件の設定について解説を加える。
(1) 契約の対象となるデータの特定
1) 開示レベルによるデータの区分(モデル契約条項第 1 条第 1 項(別紙 1))
産業保安分野においては、競争力の源泉となる競争データをプラントデータから分離することが容易ではないため、プラント事業者はプラントデータそのものの社会における無制限な拡散には慎重な姿勢とならざるを得ない。
そのような状況下においてプラントデータの社会的な活用を促進していくためには、データを、以下の 3 種類に明確に区別して管理することが有用である(図 2-7)。
⚫ プラント事業者の手元にある「生プラントデータ」
⚫ プラント事業者が乙との秘密保持契約による秘密保持義務を前提として開示した「元データ」(モデル契約上は「本データ」)
⚫ 元データを活用して作成されたプラントの機密情報が一切含まれない「派生データ等」
[甲]
プラントデータ提供者
(サービス利用者)
生プラントデータ 甲1
元データ
生プラントデータ 甲2
元データ
生プラントデータ 甲3
元データ
[乙]
プラントデータ受領者
(サービス提供者)
[丙]
事業者
(サービス利用者)
データ提供
乙
サービス提供
丙
元データ
生プラントデータ
元データ
(データの提供に関する契約 による開示)
派生データ等
派生データ等
分析モデル
派生データ
派生データ等
分析モデル
派生データ
2) 想定し得なかったデータの取扱い
可能な限り契約前にデータの創出を想定して選定しておくことが重要であるが、契約締結後に、契約前には想定し得なかったデータが創出、取得又は収集されることがあり得る。そのため、契約では一定の手続を経て対象データの範囲を適宜変更することができるようにしておくことが望ましい。
3) 問題となりやすいデータの取扱い
プラントデータの活用において、契約当事者間で利用権限を定めるのに適したデータとする
ための処理方法について簡単に触れる。基本的には契約関係の整理や、データそれ自体の分解処理等により、可能な限り利用を図ることになる。ただし、データの分解処理の作業費用は、プラントデータ受領者(乙)側が負担することが望ましい。
a. 複数のプラント事業者からのデータ
本契約ガイドラインで扱うプラントデータは、複数のプラント事業者から提供されたものであることを前提としている。単独のプラント事業者から提供されたプラントデータ活用においては、従来どおりの業務委託契約で取り扱われることが通常であり、本契約ガイドラインでは考慮していない。
b. 第三者が創出に関わったデータ
プラントデータの生成過程においては、プラント事業者以外の第三者がデータ創出等に関わる場合もある。例えば、プラント運転データの生成にあたっては、センサメーカーやソフトウェアメーカーが関与していることや、プラント設計データの一部には他エンジニアリング会社からライセンスを受けた機密情報が含まれていることも考えられる。
このように契約当事者以外の第三者がデータ創出等に関わっているデータについては、プラント事業者が、当該第三者との契約により、当該データの他者への提供に関して制約を課されている場合がある。このような場合、プラント事業者としては、あらかじめ当該第三者との契約関係において適切にデータの利用権限の処理を行うことや、あるいは対象データから第三者が関わるデータを除外、分離したりする等の処理が必要である。当該第三者もデータの提供に関する契約当事者として参画することを求めることも考えられる。
c. 営業秘密を含むデータ
プラントデータ提供者(甲)にとって営業秘密やノウハウとして保有され得るプラントデータについては、プラントデータ受領者(乙)に対して当該データの利用権限を認めることは通常期待できない。もっとも、営業秘密として扱われるデータであっても、適切に秘密保持契約等を締結することにより、秘密管理性を確保しつつ共有することも可能である。
またプラントデータ提供者(甲)にとって営業秘密として扱われるデータであっても、改めてその要件に照らしてデータ内容等を検証し、データを技術、利用方法又は用途ごとに細分化して、営業秘密となるデータとそれ以外のデータとを、可能な限り区分けする必要がある(要件については、経済産業省「営業秘密管理指針」(平成 27 年 1 月 28 日全部改訂)を参照するのが望ましい)。ノウハウについても同様であり、ノウハウを構成しないデータを部分的に切り出していくことが考えられる。
さらにプラントデータ提供者(甲)からのデータ提供にあたっては、一般化加工を施すことが考えられる。例えば、化学プラントにおいては配管内を流れる原材料の種類に応じて配管の材料や内面のコーティング等を決めるが、これらの情報は営業秘密に相当するため、プラント事業者がこのような配管に関するデータを外部に提供する際にはこれらのデータ項目を事前に削除しておくことが一般化加工に相当する。
なお、この一般化加工とは、個人情報保護法第 2 条第 9 項に定める匿名加工(特定の個人
を識別することができないように個人情報を加工して、その個人情報を復元することができないようにすること)とは別異の処理である。
d. パーソナルデータ
パーソナルデータとは、個人の属性情報、移動・行動・購買履歴、ウェアラブル機器から収集された個人情報に加え、特定の個人を識別されないように加工された人流情報や商品情報等の個人と関係が見出される広範囲の情報を指すものとされている(総務省「平成 29 年版情報通信白書」53 ページ(平成 29 年 7 月))。個人情報保護法で保護される個人情報よりその概念は広い。
本契約ガイドラインで扱うデータは、基本的に産業データ(非パーソナルデータ)を想定するが、パーソナルデータに該当するデータが含まれる場合も考えられる。例えば、プラントデータにおいては、ウェアラブル機器を活用して収集されたプラント作業員の活動データ等がパーソナルデータに該当する。
こうしたパーソナルデータが含まれ得るプラントデータをどのように利用するかは事業者の懸念も大きい。一般的には、パーソナルデータそのものについては、個人を差しおいて事業者間のみで利用権限を取り決めることが実際上難しい。利用目的に照らし、データの切り分けや加工等を行って、データから個人情報を含むパーソナルデータを分離することができれば利用権限を定めやすいため、プラントデータ受領者の側で、そうした分離を提案していくことも考えられる。
ただし、パーソナルデータを含むデータについても、個人情報保護法その他関連法令にしたがった利用目的及び第三者提供の本人に対する明示等を行い、本人のプライバシー等に配慮しつつ、利用権限を定めて利用許諾することも可能である。
e. 継続的に追加されるデータ
特にプラントデータにおいては、DCS データ等のリアルタイムデータは時間と共に追加されていくため、これらのデータ提供の範囲や方法についても規定しておくことが望ましい。
f. 派生データ等
元データを基に作成された派生データや加工データ、モデルその他成果物を総称したものである派生データ等に求められる条件としては以下のものがあり、これらは契約において明示される必要がある。
⚫ 元データの機密情報・営業秘密等(生産プロセスの秘密等)が含まれていないこと、復元されないこと。
⚫ 個人情報が含まれていないこと、復元されないこと(ウェアラブル機器を活用して収集するデータも考慮する)。
なお、本契約ガイドラインでは派生データ等と総称しているが、個々の取引において、データ(派生データや加工データ)とモデルという成果物の性質の相違によって、契約上の取扱いを異にすべき必要がある場合には、個別の契約において契約内容の検討を行うことが望ましい。
(2) プラントデータの利用条件の設定
契約締結にあたっては、契約当事者がプラントデータを利用するための条件をあらかじめ検討しておき、契約当事者が適宜選択して柔軟に条件設定できるようにしておくことが望ましい。こうした利用条件としては以下の表 2-2 のような例が考えられる。
項目 | 具体例 |
第三者に派生データ等を提供する場合の条件 | ⚫ サービス提供の可否 ⚫ 派生データ等の秘密等に関する条件 ⚫ 費用(うち、データ提供者への配分額) |
利益分配・損失負担 | ⚫ 当該派生データ等の利用により得た経済的利益(知的財産権を含 む)や被った損失についてあらかじめ合意した方式にしたがって分配・負担することを規定 |
第三者への派生データ等の 利用権限の許諾 | ⚫ 第三者提供・利用許諾の禁止、事前同意の義務付け 等 |
データ管理におけるセキュ リティ | ⚫ データの暗号化を義務付け、高度な安全管理措置・セキュリティ環 境の要求、守秘義務契約の締結 等 |
(3) 契約の検討項目
データの提供に関する契約における検討項目の一覧は、以下の表 2-3 のとおりである。また、契約当事者が契約交渉時に特に留意すべき検討項目についても一例を示したが、個々の取引ごとに検討項目の重要度は変わり得ることに留意が必要である。
なお、3.では、産業保安分野においてプラントデータの提供に関する契約を締結するにあたり、契約書に定めることが望ましい事項を契約条項ごとに整理し、解説を示している。
検討項目 | 契約当事者が契約交渉時に 特に留意すべき検討項目 |
① 定義(第 1 条) | |
□本データの定義 □本データの仕様(対象・項目) □データ利用の目的 □派生データ等の定義 | ○ ○ ○ |
② データの提供方法(第 2 条) | |
□本データの提供条件 □本データの取得時期・期間・提供頻度 □本データの提供形式 □本データの整備費用の負担 □本データの授受方法 | ○ ○ |
③ データの利用許諾等(第 3 条・第 4 条) | |
□本データの利用許諾の独占/非独占 □本データに関する知的財産権の帰属 □本データの目的外利用の禁止・制限 □本データの第三者提供の禁止・制限 | ○ ○ ○ |
④ データの管理(第 4 条) | |
□本データと他の情報との区分管理 □データ受領者のデータ管理に関する善管注意義務 □本データの管理状況についての報告要求・是正要求 |
検討項目 | 契約当事者が契約交渉時に 特に留意すべき検討項目 |
⑤ データ提供の対価(第 5 条) | |
□本データの対価の金額(又は算定方法) □対価の支払方法 | ○ |
⑥ データの保証/非保証(第 6 条) | |
□本データの取得方法の適法性・適切性についての保証/非保証 □本データの正確性についての保証/非保証 □本データに関する第三者の権利の非侵害の保証/非保証 □本データに関する第三者の知的財産権の非侵害の保証/非保証 | ○ ○ ○ ○ |
⑦ xxxx等の対応責任(第 7 条) | |
□xxxx等の対応責任等の定め | |
⑧ データの利用状況(第 8 条) | |
□データ提供者の監査(データ受領者の管理・利用状況の監査) □データ受領者による目的外利用等がなされた場合の対応責任 | |
⑨ 損害軽減義務(第 9 条) | |
□データ受領者によるデータの漏えい等が発覚した際の通知義務 □データ漏えい等が生じた場合のデータ受領者の責任 | ○ |
⑩ 秘密保持義務(第 10 条) | |
□秘密情報の定義 □秘密保持義務の内容と例外事由 □存続期間 | |
⑪ 派生データ等の取扱い(第 11 条) | |
□派生データ等の知的財産権の帰属 □データ提供者の派生データ等の利用権限の有無 □派生データ等を利用して得られた利益の分配 | ○ ○ ○ |
⑫ 期間(第 12 条) | |
□契約の有効期間 □契約の自動更新 □契約終了後の残存条項 | |
⑬ 不可抗力(第 13 条) | |
□不可抗力免責事由 □停電、通信設備の事故、サービス提供の停止、緊急メンテナンス等の免責事由該当性 | ○ |
⑭ 解除(第 14 条) | |
□契約解除事由 □期限の利益喪失事由 | |
⑮ 反社会的勢力の排除(第 15 条) | |
□一般的な反社会的勢力の排除条項 |
検討項目 | 契約当事者が契約交渉時に 特に留意すべき検討項目 |
⑯ 損害賠償(第 16 条) | |
□損害賠償の範囲 □損害賠償の上限額の有無・免責事由 | ○ ○ |
➃ 契約終了後の措置(第 17 条) | |
□契約終了後のデータ利用の禁止 □契約終了後のデータの廃棄・消去 □契約終了後の派生データ等の取扱い | ○ ○ ○ |
⑱ 譲渡禁止(第 18 条) | |
□一般的な権利義務等の譲渡禁止条項 | |
⑲ 誠実協議(第 19 条) | |
□一般的な誠実協議条項 | |
⑳ 紛争解決(第 20 条) | |
□合意管轄の裁判地の選択 | |
㉑ 準拠法(第 21 条) | |
□準拠法の国の選択 |
3. モデル契約条項の解説
以下では、産業保安分野においてプラントデータの提供に関する契約を締結するにあたり、契約書に定めることが望ましい事項を契約条項ごとに整理し、特に問題となりやすく重要と思われるモデル契約条項については、解説を示すこととする。
契約内容の事情の変更に応じて採否が変わり得ると思われる条項については、[角括弧]で表記しているが、その他の条項についても、他の法令との関係も確認しながら各事業者の責任において個別の契約への組込みを検討すべきである。また、取引全体としてみて、取引が適切に行われるように、契約条項の整合性を図るような配慮も必要である。
3.1 定義
第 1 条 定義
本契約において、次に掲げる用語は次の定義による。
(1) 「本データ」とは、甲が保有し乙に提供するものとして別紙 1[本データの仕様]に定めるデータをいう。
(2) 「本目的」とは、[乙が、甲が提供するデータを活用し産業保安分野に資するノウハウやツールの開発、及びサービスの提供をするために利用すること]をいう。
(3) 「派生データ等」とは、本データを基に乙が作成した派生データや加工データ、モデルその他成果物を総称したデータをいう。
【検討項目】
⚫ 本データの定義
⚫ 本データの仕様(対象・項目)
⚫ データ利用の目的
⚫ 派生データ等の定義
【解説】
⚫ 本条は本契約の定義に関する定めである。
⚫ 第 1 号は取引目的物であるデータの内容を特定する定めである。データ仕様の記載例は別紙 1
(モデル契約条項第 2 条)に掲載している(表 3-1)。
⚫ 第 2 号は取引目的物であるデータの利用目的を特定する定めである。乙の企図するデータの利用方法に合わせて適宜変更する必要がある。
⚫ 第3 号は取引目的物であるデータからさらに作成されたデータ等の成果物を特定する定めである。取引の実態に応じてその内容は変更の可能性がある。
3.2 データの提供方法
第 2 条 データの提供方法
甲は、本契約期間中、乙に対し、[別紙 1 に定める時期及び方法/乙の指定する方法(CD-R メディア等)とデータ形式(テキストファイル等)]により、乙又は乙が指定した者に提供する。
【検討項目】
⚫ 本データの提供条件
⚫ 本データの取得時期・期間・提供頻度
⚫ 本データの提供形式
⚫ 本データの整備費用の負担
⚫ 本データの授受方法
【解説】
⚫ 本条はデータの提供方法に関する定めである。
⚫ 具体的には、別紙 1 としてデータの内容を具体的に特定し、データ項目、提供条件、データ取得時期・期間、データ形式、データ整備費用の負担、データ授受方法、データ廃棄・消去方法その他の事項を特定する必要がある(表 3-1)。
⚫ 別紙 1 の作成にあたってはプラントデータカタログ(表 1-1)が参考となる。
番号 | データ 項目 | データ項目詳細 (提供条件) | データ取得 時期・期間 | データ形式 | データ整備 費用負担 | データ 授受方法 | データ廃棄・ 消去方法 |
1 | 配管肉厚検査記録 | V101 流入ラインの配管肉厚の検査記録 データ | 1990 年 ~2017 年 | CSV 形式 | なし | パスワード付ZIP 形式 | |
2 | 気象条件 | 観測地点A における、気温・湿度・日射量の記録データ | 1990 年 ~2017 年 | CSV 形式 | なし | パスワード付ZIP 形式 | |
3 | ヒヤリハット記録 | ○○事業所○○課で報告されたヒヤリハット記録(個人情報を削除した状態) | 2010 年 ~2017 年 | TEXT 形式 | 乙(○円) | パスワード付ZIP 形式 |
3.3 データの利用許諾
第 3 条 データの利用許諾
1 乙は、甲から提供を受けた本データを、本契約期間中、非独占的に、本目的の範囲でのみ利用することができる。
2 本データに関する知的財産権(データベースの著作物に関する権利を含むがこれに限られない。)は、甲に帰属する。
3 甲は、本契約に明示的に定められているところを除き、乙に対して、本データに関するなんらの権利も譲渡、移転、利用許諾するものではないことを相互に確認する。
【検討項目】
⚫ 本データの利用許諾の独占/非独占
⚫ 本データに関する知的財産権の帰属
【解説】
⚫ 本条はデータの利用許諾に関する定めである。
⚫ 第 1 項は本データに関する権利がデータ提供者(甲)にあることを前提に、甲が乙に対してその「利用」を一定条件の下で許諾することを定めたものである。データの「利用」は、法令上
の定義がないため、契約当事者間で「利用」の内容を特定することが重要である。契約当事者の利用権限の具体的な内容は、契約当事者が合意して決定することができる。特段の合意がないときは、データの利用形態として、通常、データの取得、閲覧、複製、保管、修正、加工、分析、開示、販売、削除等が含まれると考えられる。
⚫ なお、本データの目的外利用・第三者提供の制限については、モデル契約条項第 4 条第 1 項で定めている。
⚫ 第 2 項は本データの知的財産権の帰属に関する定めである。データは必ずしも著作物等の排他的権利により保護されるわけではないが、この規定により、不正競争防止法により保護される地位も含めて甲に留保されていることになると考えられる。これにより甲が安心してデータを提供することを担保することが目的とされている。
⚫ 産業保安分野では、本データの知的財産権はすべてデータ提供者に帰属する場合が多いことを想定して第 2 項を定めている。しかし、権利帰属の条件は契約当事者間で自由に決定されるものであるため、必ずしもこのような帰属条件ではない場合もある。
⚫ なお、モデル契約条項では検討の対象外としているが、本データに産業用データ(機器等の稼働状況に関する情報等)と異なり、個人情報保護法上保護される個人情報が含まれる場合には、個人情報保護法上の義務の履行が求められる(例えば、個人データを利用目的の範囲外で利用したり第三者に提供したりする場合には、これを当該個人本人に明示する等の対応を行うことが求められる)。
3.4 データの管理
第 4 条 データの管理
1 乙は、甲の書面による事前の承諾のない限り、本データを第三者に開示、提供、漏えいし、また本目的外に利用してはならない。ただし、次の各号のいずれか一つに該当するデータについてはこの限りでない。
(1) 本契約に違反することなく、既に公知であったもの
(2) 自己が正当に保有していたもの
(3) 自己の責によらず公知となったもの
(4) 正当な権利を有する第三者より秘密保持義務を負うことなく入手したもの
2 [乙は、本データが、甲において営業秘密(不正競争防止法第 2 条第 6 項に定めるものをいう。以下同じ。)として管理されている情報であることを確認する。]
3 乙は、本データを秘密に保持するため、本データを他の情報と明確に区別して保管しなければならず、所管官庁のガイドラインに従うと共に、その他秘密保持のために合理的な措置を講じ、善良な管理者の注意をもって取り扱わなければならない。
4 甲は、本データの管理状況について、乙に対して何時でも書面による報告を求めることができる。この場合において、本データの漏えい等のおそれがあると甲が判断した場合、甲は、乙に対して本データの管理方法の是正を求めることができる。
5 前項の報告又は是正の要求がなされた場合、乙は速やかにこれに応じなければならない。
6 本条に基づく義務は、本契約終了後○年間存続する。
【検討項目】
⚫ 本データの目的外利用の禁止・制限
⚫ 本データの第三者提供の禁止・制限
⚫ 本データと他の情報との区分管理
⚫ データ受領者のデータ管理に関する善管注意義務
⚫ 本データの管理状況についての報告要求・是正要求
【解説】
⚫ 本条では、データ受領者によるデータの管理責任、データの漏えい時の法的責任等、データ受領者に義務として課すことが望ましい項目に関して整理した定めである。
⚫ 第 1 項は取引の対象となる本データの目的外利用と第三者提供の禁止・制限に関する定めであり、本データに関する秘密保持義務の中核をなすものである。ただし書では、例外として情報開示を認める事由と開示の手続を認めている。
○ (注)データの目的外利用や第三者提供の制限(2.2(1)参照)
・ ①データ受領者(乙)自身が、契約に定められた目的以外の用途でデータを利用する目的外利用の場合や、②データ受領者(乙)に開示された本データ自体を、契約当事者ではない第三者に開示したり、転々流通させたりしたいという第三者提供の場合には、通常、データ受領者(乙)がデータ提供者(甲)に事前の通知をし、同意を得ることが必要になる。本データのデータ提供者(x)は、この事前の通知を受けて、任意に同意をするかどうかを判断することになる。したがって、データ提供者(甲)は、データ受領者(乙)による自由な目的外利用や第三者提供を認めず、利用の範囲をコントロールすることができる。
・ また、本データのデータ提供者(甲)が目的外利用や第三者提供に同意する場合には、
①データ受領者(乙)自身が、契約に定められた目的以外の用途でデータを利用することを希望する場合には、その範囲と目的を拡大するにあたっての条件について改めて書面により合意し、②データ受領者(乙)に開示された本データ自体を、さらに第三者に開示することを希望する場合には、開示を許諾する第三者の範囲と当該第三者への開示に際しての条件について、改めて書面により合意することになると考えられる。
・ なお、改正不正競争防止法案における「限定提供データ」として法令上の保護を受けるためには、第三者提供の禁止を明示的に定める必要がある。
⚫ 第 2 項は取引の対象となるデータが不正競争防止法上の営業秘密(不正競争防止法第 2 条第 6項)として保護されることを確認する定めである。データの提供後も非公知性及び秘密管理性の要件を満たすために契約上秘密保持義務の明記をしておくことは、最低限必要である。
○ (注)不正競争防止法上保護される営業秘密としての取扱い
・ 取引の対象となるデータが不正競争防止法上の営業秘密(不正競争防止法第 2 条第 6項)として保護されるには、秘密として管理されること(秘密管理性)、有用であること(有用性)、公然と知られていないこと(非公知性)の要件が求められる。秘密管理性は、営業秘密保有企業の秘密管理意思(特定の情報を秘密として管理しようとする意思)が秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要がある(経済産業省「営業秘密管理指針」5 ページ(平成 27 年 1 月 28 日全部改訂))。
⚫ 第 3 項はデータ受領者によるデータの適切な管理方法に関する定めである。モデル契約条項では、善管注意義務等の営業秘密の維持等を定めているが、対象となるデータの内容や具体的な性質に応じて変更することが求められる。
⚫ 第 4 項及び第 5 項はデータ提供者によるデータ受領者のデータ管理、利用状況について報告を
求めることができる権利に関する定めである。提供したデータが漏えいするおそれがある場合、速やかに管理方法✰是正を求めることができる。なお、監査についてはモデル契約条項第 8 条に規定されている。
3.5 データ提供の対価
第 5 条 データ提供✰対価
1 乙は、第 2 条に基づく本データ提供✰対価として、甲に対し、[記載例:月額金○○円(税別)]を支払うも✰とする。
2 乙は、本契約期間中、前項に定める金額に消費税及び地方消費税相当額を加算した金額を、[記載例:データ受領月✰翌月○日]までに、甲指定✰銀行口座へ振り込み支払うも✰とする。なお、振込手数料は乙✰負担とする。
【検討項目】
⚫ 本データ✰対価✰金額(又は算定方法)
⚫ 対価✰支払方法
【解説】
⚫ 本条はデータ提供✰対価に関する定めである。
⚫ データに関する取引では、以下✰表 3-2 ✰ようなデータ提供✰対価✰支払条件が考えられる。
類型 | 具体例 | 留意点 |
固定料金 | 「金○○万円/一括」 「金○○万円/月額」 等 | 月額固定といった期間固定料金を支払う場合、期間途中で契約が終了した際✰対価✰日割計算に関する規定を必要に応じて検討する。 |
従量課金 | 「単価×数量に応じて額を決定」 「数量」に用いる数値としては、以下✰ようなも✰が考えられる。 ・ アカウント数 ・ ソフトウェア✰ライセンス ・ API ✰➺ール数 等 | データ受領者は、対価算出✰根拠となる数値が客観的に明らかではないデータ提供者しか知り得ないも✰✰場合、金額確定✰際、データ提供者に対して金額算出✰根拠を求められるよう定めることが望ましい。 |
売上✰配分 | 「データを利用して提供したサービスによってデータ受領者が獲得した売上✰○○%」等 データ✰利用に起因してデータ受領者になんらか✰金銭的メリットが発生した場合に、そ✰一定割合 を配分する。 | データ提供者は以下✰点に留意する必要がある。 ・ 配分対象となる収益✰定義 ・ 支払を受ける際にそ✰金額✰算出根拠✰提出を求めること ・ 提出された金額✰算出根拠に疑義が生じた場 合、データ提供者に対する監査が可能な旨契約 に定めること |
無償 | データを提供し利用してもらうことでデータ提供者になんらか✰メリットが発生することから、金銭による対価✰支払は受けない場合 | 無償取引✰場合は無償であることを明記し、金銭 ✰代わりになんらか✰メリット(データ提供者であれば、データ受領者からデータを基に作成した成果物✰納品を受ける等)✰提供を受ける場合についてはそ✰旨を定める。 |
3.6 データの保証/非保証
第 6 条 データ✰保証
1 甲は、本データが、適法かつ適切な方法によって取得されたも✰であることを表明し、保証する。
2 甲は、本データが正確であることを保証しない。
3 甲は、本データが第三者✰知的財産権そ✰他✰権利を侵害しないも✰であることを保証しない。
4 甲は、本データに第三者✰知的財産権✰対象となるデータが含まれる等、乙✰利用につき制限があり得ることが判明した場合には、当該第三者✰許諾を得ること又は当該データを除外する措置を講じること等により、乙が本データを利用できるよう努める。
【検討項目】
⚫ 本データ✰取得方法✰適法性・適切性について✰保証/非保証
⚫ 本データ✰正確性について✰保証/非保証
⚫ 本データに関する第三者✰権利非侵害✰保証/非保証
⚫ 本データに関する第三者✰知的財産権非侵害✰保証/非保証
【解説】
⚫ 本条はデータに関する品質等✰保証に関する定めである。保証又は非保証✰内容には様々なケースが考えられ、個々✰契約ごとに個別✰検討を行うことが求められる。
⚫ 第 1 項はデータ取得方法✰適切性及び適法性✰保証に関する定めである。無保証✰場合には、そ✰旨が明記されている必要がある。
⚫ 第 2 項はデータ✰正確性について✰定めである。モデル契約条項では正確性について保証しない例を示しているが、正確性について保証をする場合も考えられる。ただし、何らか✰保証をする場合であっても、センサによって取得されたデータがシステムにより随時蓄積されるようなも✰であれば、データ提供者(甲)は、直接データ✰正確性を保証することは躊躇することが少なくない。よって、正確性を直接保証するよりは、むしろ、第 1 項✰ように適切に取得したことを保証することや、以下✰定め✰ように、データ提供者(甲)✰自己使用目的で蓄積したデータと同一であることを保証することにより、間接的に正確性✰担保につながる保証をすることが現実的な合意✰在り方になることが多いと考えられる。
[第 2 項でデータ提供者が自己使用目的データと同一であること✰保証をする場合]
2 甲は、本データが甲において[別紙1記載✰とおり✰]自己使用目的✰ために蓄積するデータと同一✰データであり、甲において加工等を加えていないも✰であることを保証する[が、本データが正確であることは保証しない]。
⚫ そ✰他、データ✰安全性や、継続的入手可能性に関する保証✰定めを盛り込むことも考えられる。提供するデータ✰性質・内容や契約目的に応じて、データ✰品質等✰保証範囲については個別に検討することが重要である。
⚫ 第 3 項はデータに関する第三者✰権利非侵害✰保証に関する定めである。モデル契約条項と異なり、データに関する第三者✰権利非侵害を保証することも差し支えないが、そ✰場合には保証✰旨が明記されている必要があり、また、第 4 項は削除となる。
⚫ 第 4 項は第 3 項でデータに関する第三者✰権利非侵害を無保証とした場合に、第三者✰権利侵害が生じた際に、甲が保証義務を負わないとしても、甲に障害を除去すること✰努力義務を課したも✰である。
3.7 クレーム等の対応責任
第 7 条 xxxx等✰対応責任
乙は、乙による本契約に違反する態様で✰本データ✰利用に起因若しくは関連して生じたクレームや請求について、乙✰費用と責任で解決するも✰とする。また、当該クレームや請求へ✰対応に関連して甲に費用が発生した場合又は賠償金等✰支払を行った場合、甲✰責めに帰すべき事由による場合を除き、乙は当該費用及び賠償金等を負担するも✰とする。
【検討項目】
⚫ xxxx等✰対応責任等✰定め
【解説】
⚫ xxはクレームそ✰他第三者と✰間で生じた紛争に関するデータ受領者✰対応責任等に関する定めである。
⚫ 仮に、前条第 3 項でデータに関する第三者✰権利非侵害を保証した場合は、本条は以下✰ような定めとなる(前条第 4 項は削除となる)。第 2 項は、データ受領者がデータ提供者と✰契約条件に反する態様でデータを利用した場合に、乙が甲を免責することを定めている。
[前条第 3 項でデータに関する第三者✰権利非侵害✰保証をした場合]第 6 条 データ✰保証
1 (略)
2 (略)
3 甲は、本データが第三者✰知的財産権そ✰他✰権利を侵害しないも✰であることを保証する。
4 (削除)
第 7 条 クレーム等✰対応責任
1 甲は、本データが第三者✰権利を侵害したことに起因するも✰としてなされた乙に対するクレームや請求について、甲✰費用と責任で解決するも✰とする。また、当該クレームや請求へ✰対応に関連して乙に費用が発生した場合又は賠償金等✰支払を行った場合、甲は当該費用及び賠償金等を負担するも✰とする。
2 前項✰定めにかかわらず、乙は、乙による本契約に違反する態様で✰本データ✰利用に起因若しくは関連して生じたクレームや請求について、乙✰費用と責任で解決するも✰とする。また、当該クレームや請求へ✰対応に関連して甲に費用が発生した場合又は賠償金等✰支払を行った場合、乙は当該費用及び賠償金等を負担するも✰とする。
3.8 データの利用状況
第 8 条 データ✰利用状況
1 甲は、乙に対し、乙による本データ✰利用が本契約✰条件に適合しているか否か検証するために必要な利用状況✰報告を求めることができるも✰とする。
2 甲は、[合理的な基準により、]前項に基づく報告が本データ✰利用状況を検証する✰に十分ではないと判断した場合、○○営業日前に書面による事前通知をすることを条件に、1 年に 1回を限度として、乙✰営業所において、乙による本データ✰利用状況✰監査を実施することができるも✰とする。こ✰場合、甲は、乙✰情報セキュリティに関する規程そ✰他✰乙が別途定める社内規程を遵守するも✰とする。
3 前項による監査✰結果、乙が本契約に違反して本データを利用していたことが発覚した場合、乙は甲に対し監査に要した費用及びデータ利用に係る追加✰対価を支払うも✰とする。
【検討項目】
⚫ データ提供者✰監査(データ受領者✰管理・利用状況✰監査)
⚫ データ受領者による目的外利用等がなされた場合✰対応責任
【解説】
⚫ 本条はデータ✰管理・利用について✰データ受領者✰義務に関する定めである。
⚫ 第 1 項及び第 2 項は、データ提供者が、データ受領者✰データ管理・利用状況を監査できる権利✰担保に関する定めである。
⚫ 第 3 項は、データ受領者による目的外利用等が発覚した場合✰、データ受領者✰責任に関する定めである。
3.9 損害軽減義務
第 9 条 損害軽減義務
1 乙は、本データ✰漏えい等を発見した場合、直ちに甲にそ✰旨を通知しなければならない。
2 乙は、乙に起因するデータ✰漏えい等が生じた場合、甲✰損害を最小限にとどめるために必要な措置を自己✰費用と責任で講じなければならない。
【検討項目】
⚫ データ受領者によるデータ✰漏えい等が発覚した際✰通知義務
⚫ データ漏えい等が生じた場合✰データ受領者✰責任
【解説】
⚫ 本条はデータが漏えいした場合について✰データ受領者✰義務に関する定めである。
⚫ 第 1 項は、データ受領者✰管理下においてデータ✰漏えい等が発覚した場合✰データ提供者に対する通知義務に関する定めである。
⚫ 第 2 項は、データが漏えいした場合✰データ受領者✰責任に関する定めである。損害に対する補償✰有無、損害賠償✰範囲、上限等について定めることが考えられる。
3.10 秘密保持義務
第 10 条 秘密保持義務
1 甲及び乙は、本契約に関連して、相手方が開示にあたり、書面・口頭・そ✰他方法を問わず、秘密情報であることを表明した上で開示した情報(第 4 条によって規律される本データを除く。以下「秘密情報」という)を、相手方✰書面による事前✰承諾なしに第三者に開示、提供、漏えいし、また本契約✰履行以外✰目的に使用してはならない。ただし、法令上✰強制力を伴う開示請求が公的機関よりなされた場合は、そ✰請求に応じる限りにおいて、開示者へ✰速やかな通知を行うことを条件として開示することができる。
2 前項✰規定にかかわらず、次✰各号✰一に該当する情報は、秘密情報にあたらないも✰とする。
(1) 開示✰時点で既に被開示者が保有していた情報
(2) 秘密情報によらず被開示者が独自に生成した情報
(3) 開示✰時点で公知✰情報
(4) 開示後に被開示者✰責に帰すべき事由によらずに公知となった情報
(5) 正当な権利を有する第三者から秘密保持義務を負うことなく開示された情報
3 本条に基づく義務は、本契約終了後○年間存続する。
【検討項目】
⚫ 秘密情報✰定義
⚫ 秘密保持義務✰内容と例外事由
⚫ 存続期間
【解説】
⚫ 本条はデータ提供者とデータ受領者✰間で取り交わされる、本データ以外✰情報に関する秘密保持義務に関する定めである。
⚫ 秘密保持義務✰対象となる秘密情報が明確に特定されていることが必要である。
⚫ 取引対象となる本データそ✰も✰と、取引✰過程で開示する自社✰秘密情報(システム✰仕様、事業計画、そ✰他開示側が秘密情報として管理を希望するも✰)については扱いが異なる✰が通常であると考えられ、後者については一般的な秘密保持条項が設けられる✰が妥当であると考えられる。本条はそ✰ため✰一般的な最低限✰秘密保持条項を示したも✰である。
3.11 派生データ等の取扱い
第 11 条 派生データ等✰取扱い
1 派生データ等に関する知的財産権(データベース✰著作物に関する権利を含むがこれに限られない。)は、本データ✰全部又は一部に復元可能な部分を除き、乙に帰属する。
2 乙は、甲に対して、[甲✰業務✰使用に必要な限度で、][無償で、]派生データ等✰利用を許諾する。派生データ等✰利用✰開始時期及び具体的条件については、甲乙が協議して定める。
3 乙は、派生データ等及び当該派生データ等を利用して第三者に提供したサービスによって売上を得たときには、乙が獲得した売上額✰○○%を甲に対して支払う。
【検討項目】
⚫ 派生データ等✰知的財産権✰帰属
⚫ データ提供者✰派生データ等✰利用権限✰有無
⚫ 派生データ等を利用して得られた利益✰分配
【解説】
⚫ xxは派生データ等✰著作権ほか知的財産権✰帰属等について定めるも✰である。
○ (注)提供されたデータを活用した成果物(派生データ等)に関する知的財産権及び利用権限✰帰属✰考え方(2.2(3)参照)
・ 産業保安分野で主に想定されるユースケースでは、データ✰生成者が甲であり、複数
✰データ提供者(甲)がデータを必要とするデータ受領者(乙)に対してデータを提供する仕組みがとられている。
・ つまり、複数✰データ提供者(甲)から提供されたデータを、データ受領者(乙)が、自社✰ノウハウ及び労力によって加工(整理・抽出)、分析する役割を担うことを想定しているため、かかるプロセスを経て生成された成果物である派生データ等✰知的財産権やデータ✰利用権限はデータ受領者(乙)に帰属すると整理している。
・ ただし、データ派生物✰中には、データ提供者が従前から保有していたデータ(本データ)が一部含まれていることもあり得る。こ✰ような場合には、当該部分✰知的財産権はデータ提供者に留保される。
・ 権利帰属✰条件については、他✰検討項目同様、取引内容に応じて契約当事者間で自由に決定されるも✰であり、上記✰ような整理に限定されるも✰ではない。したがって、派生データ等について、例えば甲乙間✰共有とすることも考えられる。
・ しかし、甲と乙✰共有とすると、例えば著作権に関しては、持分✰第三者へ✰譲渡、著作権✰第三者へ✰利用許諾、自身が著作物を利用する場合にも、すべて✰著作権者
✰同意が求められる(著作xx第 65 条)等、各契約当事者による利用が制約される。また、知的財産権による保護✰対象とならないデータ✰利用権限について✰共有についてはこれを共有とすること✰効果が不明確となる。よって、そ✰後✰円滑なデータ利用✰観点から制約が大きい点に留意が必要である。
○ (注)本データ提供者✰派生データ等✰利用✰機会✰確保(派生データ等✰利用へ✰配慮)
(2.2(4)参照)
・ 本データ提供者が、そ✰後✰データ収集・抽出・分析等✰作業に関与していなくても、派生データ等✰創出✰根幹となるデータを提供したことに鑑み、派生データ等に関するなんらか✰権利を付与するという配慮を施すことが、本データ✰円滑な提供✰ために重要と考えられる。
・ こ✰ようなデータ提供者に対するインセンティブ付与✰要請に対しては、本データ✰性質・内容、本データ✰価値、契約✰目的等を総合的に勘案して、契約当事者間✰合意に基づき決定することが望ましい。
・ 例えば、派生データ等又はこれを利用したサービスについて✰利用権を付与することで、派生データ等✰データ共有・還元を実施することが考えられる。こ✰場合、派生データ等又はこれを利用したサービス✰利用許諾✰範囲や、有償・無償取引✰別を具体的に設定する必要がある。モデル契約条項においては、こ✰点、第 2 項において甲乙✰協議により定めると✰み規定しているが、より具体的な合意が契約時点で可能であれば、これを規定しておく方が望ましいと考えられる。
・ また、派生データ等✰利用に起因してデータ受領者になんらか✰金銭的メリットが発 生した場合に、そ✰一定割合を本データ✰データ提供者に配分することも考えられる。
○ (注)派生データ等✰第三者へ✰提供✰取扱い(2.2(5)参照)
・ データ提供を受けたデータ受領者(乙)が、派生データ等を第三者へ提供するという場合が考えられる。こ✰ような場面において、派生データ等から元データを復元することができない場合には、派生データ等✰知的財産権がデータ受領者(乙)に帰属していることに鑑み、データ受領者(乙)が第三者と派生データ等✰利用許諾契約を締結すれば十分であり、データ提供者(甲)は、第三者に対してなんら✰利用権限を設定し得ないと考えられる。
・ ただし、派生データ等✰中に、本データ✰全部又は一部に復元可能な部分が残されている✰であれば、当該部分✰知的財産権ないしデータ✰利用権限はデータ提供者(甲)に留保されている✰であるから、当該部分をデータ受領者(乙)がデータ提供者(甲)
✰事前✰許諾なしに第三者に提供することは認められない。
3.12 期間
第 12 条 期間
1 本契約✰有効期間は、20○○年○月○日から 20○○年○月○日までとする。
2 前項✰定めにかかわらず、期間満了✰○か月前までに、いずれか✰当事者より期間満了日をもって本契約を終了する旨✰書面による通知がなされない限り本契約は自動的に○か月間更新するも✰とし、以後も同様とする。
3 本契約終了後も、第 7 条(xxxx等✰対応責任)、第 10 条(秘密保持義務)、第 11 条第 1項(派生データ等✰取扱い)、本条(期間)、第 16 条(損害賠償)、第 17 条(契約終了後✰措置)、第 19 条(誠実協議条項)、第 20 条(紛争解決)、第 21 条(準拠法)は有効に存続する。
【検討項目】
⚫ 契約✰有効期間
⚫ 契約✰自動更新
⚫ 契約終了後✰残存条項
【解説】
⚫ 第 1 項は契約✰有効期間について✰定めである。
⚫ 第 2 項は契約✰有効期間✰延長について✰定めである。モデル契約条項では自動更新条項を付しているが、自動更新条項を付さない場合でも、契約当事者✰合意により、有効期間を都度延長することも可能である。
⚫ 第 3 項は有効期間満了後も効力を残すべき残存条項について✰定めである。甲乙✰協議によって変更✰可能性がありえるが、損害賠償責任、秘密保持義務、契約終了後✰措置等、契約が期間満了又は解除等によって終了した場合でも、少なくとも一定✰期間は有効と解すべき条項を定めるべきである。
3.13 不可抗力
第 13 条 不可抗力
甲及び乙は、天災地変、戦争、暴動、内乱、自然災害、そ✰他✰不可抗力、停電、通信設備等✰事故、法定定期修理等によるサービス✰提供✰停止又は緊急メンテナンス、法令✰制定改廃そ
✰他甲及び乙✰責に帰すことができない事由による本契約✰全部又は一部✰履行遅滞若しくは履行不能については責任を負わない。
【検討項目】
⚫ 不可抗力免責事由
⚫ 停電、通信設備✰事故、サービス提供✰停止、緊急メンテナンス等✰免責事由該当性
【解説】
⚫ 本条は不可抗力✰免責事由に関する定めである。
⚫ 不可抗力✰免責事由は甲乙✰協議によって変更✰可能性があるが、特にプラントデータ✰提供という観点からは、停電、通信設備✰事故、プラント✰法定定期修理等によるサービス提供✰停止又は緊急メンテナンス等も不可抗力に定めることが考えられる。なお、本条項で定める✰ではなく、保証条項(モデル契約条項第 6 条)において、そもそも継続的にデータが提供されることを保証しないという定めをおくことも考えられる。
3.14 解除
第 14 条 解除
1 甲又は乙は、相手方が次✰各号✰一に該当する場合、[なんら✰通知、催告なしに/書面にて通知することにより]直ちに本契約✰全部又は一部につき、そ✰債務✰履行を停止し、又は解除することができる。
(1) 財産又は信用状態✰悪化等により、差押え、仮差押え、仮処分、強制執行若しくは競売✰申立てがなされ、又は租税公課を滞納し督促を受けたとき
(2) 破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始そ✰他法的倒産手続開始✰申立てがあったとき、解散(又は法令に基づく解散も含む)、清算若しくは私的整理✰手続に入ったとき
(3) 手形若しくは小切手を不渡とし、そ✰他支払不能又は支払停止となったとき
2 甲及び乙は、相手方が本契約✰いずれか✰条項に違反し、又は相手方✰責めに帰すべき事由によって本契約を継続し難い重大な事由が発生し、書面による催告をしたにもかかわらず、14 日以内にこれを是正しないときは、本契約✰全部又は一部を解除することができる。
3 前各項における解除が行われたときは、解除を行った当事者は、相手方当事者に対し、損害賠償を請求することができる。また、解除された当事者は、当然に期限✰利益を喪失し、相手方に対して負担する債務を直ちに弁済しなければならない。
【検討項目】
⚫ 契約解除事由
⚫ 期限✰利益喪失事由
【解説】
⚫ 本条は契約✰解除及び期限✰利益✰喪失に関する定めである。
⚫ 契約✰相手方が、債務不履行、手形・小切手を不渡としたとき、倒産手続開始✰申立てがなされたとき、倒産手続開始・資産✰差押え✰申立てがなされたとき、反社会的勢力と✰関係が明らかになったとき等に、義務✰履行を一時停止する、又は契約を解除する権利は担保されているか確認する必要がある(反社会的勢力については、モデル契約条項第 15 条で定めている)。
3.15 反社会的勢力の排除
第 15 条 反社会的勢力✰排除
(略)
【検討項目】
⚫ 一般的な反社会的勢力✰排除条項
【解説】
⚫ 本条は反社会的勢力✰排除に関する定めである。契約✰相手方又は相手方✰役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいう)が、暴力団、暴力団関係企業、総会屋若しくはこれらに準ずる者又はそ✰構成員であることが判明したとき、無催告解除が可能となる旨✰定めがあることが通常である。
⚫ 一般的な契約でもよくみられる条項であり、説明は省略する。
3.16 損害賠償
第 16 条 損害賠償
甲又は乙は、本契約に関し、故意又は過失により相手方に損害を与えたときは、それにより相手方が被った損害を賠償しなければならない。
【検討項目】
⚫ 損害賠償✰範囲
⚫ 損害賠償✰上限額✰有無・免責事由
【解説】
⚫ 本条は契約✰債務不履行(民法第 415 条)に基づく損害賠償請求ができる旨✰定めであり、一般的な契約でもよくみられる条項であることから、説明は省略する。
⚫ 甲乙✰協議によって、損害賠償✰上限や免責事由を設けることもある。
3.17 契約終了後の措置
第 17 条 契約終了後✰措置
1 乙は、事由✰如何を問わず、本契約が終了した日以降は、受領済み✰本データを利用してはならない。
2 乙は、本契約が終了したときは、別紙 1 で定める手続に従い、速やかに本データを廃棄又は消去しなければならない。
3 乙は、本契約終了後も、派生データ等(本データ✰全部又は一部に復元可能な部分を除く。)を保有し、利用することができるも✰とする。
【検討項目】
⚫ 契約終了後✰データ利用✰禁止
⚫ 契約終了後✰データ✰廃棄・消去
⚫ 契約終了後✰派生データ等✰取扱い
【解説】
⚫ 本条はデータ✰利用可能期間終了後✰データ✰処理方法やデータ✰取扱いに関する定めである。
⚫ 第 1 項は利用期間終了後✰データ利用✰禁止を明示している。
⚫ 第 2 項は利用期間終了後✰データ✰廃棄又はデータ消去を明示している。契約満了後に既に提供されたデータ✰消去までは求めない場合もあるため、個別✰契約ごとに検討する必要がある。
⚫ 第 3 項は、提供された元データ✰利用可能期間に関わらず、派生データ等✰権利帰属先がデータ受領者(乙)であることを前提に(モデル契約条項第 11 条参照)、乙に派生データ等✰保有と利用を認める定めである。
3.18 譲渡禁止
第 18 条 譲渡禁止
甲及び乙は、相手方✰書面による事前✰承諾✰ない限り、本契約上✰地位及び本契約によって生じる権利義務✰全部又は一部を第三者に譲渡し、又は担保に供してはならない。
【検討項目】
⚫ 一般的な権利義務等✰譲渡禁止条項
【解説】
⚫ 本条は権利義務等✰譲渡✰禁止又は制限に関する定めである。一般的な契約でもよくみられる条項であり、説明は省略する。
3.19 誠実協議
第 19 条 誠実協議
本契約に定めがない事項又は本契約✰各条項✰定めに疑義が生じた場合、甲及び乙は、誠実に協議して解決を図る。
【検討項目】
⚫ 一般的な誠実協議条項
【解説】
⚫ xxは誠実協議に関する定めである。一般的な契約でもよくみられる条項であり、説明は省略する。
3.20 紛争解決
第 20 条 紛争解決
本契約に関して甲乙間に生じる一切✰紛争については、○○地方裁判所を第xx✰専属的合意管轄裁判所とする。
【検討項目】
⚫ 合意管轄✰裁判地✰選択
【解説】
⚫ 本条は紛争処理に際して✰合意管轄に関する定めである。一般的な契約でもよくみられる条項であり、説明は省略する。
3.21 準拠法
第 21 条 準拠法
本契約✰解釈及び適用にあたっては、日本法が適用される。
【検討項目】
⚫ 準拠法✰国✰選択
【解説】
⚫ 本条は準拠法に関する定めである。一般的な契約でもよくみられる条項であり、説明は省略する。
変更履歴
変更日 | 変更前 | 変更後 | ||
対象頁 | 対象頁 | |||
● 特許法上、データ自体 | ● 特許法上、データ自体 | |||
は特許にならないが、デー | は単なる情報✰提示であ | |||
タ✰加工や分析方法がプ | り特許にならないが、デー | |||
P.9 | ログラム等として特許に よる保護対象となる場合 | P.9 | タ✰加工や分析方法をプ ログラムとして記述する | |
もある(特許法第 2 条第 4 | ことで特許による保護対 | |||
項)。 | 象となる場合もある(特許 | |||
法第 2 条第 4 項)。 | ||||
平成 30 年 5 月 9 日 | (表 2-1 特許法✰記述) データ自体は特許になら | (表 2-1 特許法✰記述) データ自体は単なる情報 | ||
ない。しかし、データ✰加 | ✰提示であり特許になら | |||
工や分析方法がプログラ | ないが、データ✰加工や分 | |||
P.9 | ム等として特許による保 | P.9 | 析方法をプログラムとし | |
護対象となる場合もある (特許法第 2 条第 4 項)。 | て記述することで特許に よる保護対象となる場合 | |||
もある(特許法第 2 条第 4 | ||||
項)。 |
データの利用に関する契約ガイドライン産業保安版
(案)
別冊 モデル契約書
平成 30 年 4 月
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託先 株式会社三菱総合研究所
本ひな形は、すべての取引においてそのまま利用いただけるものではありません。個々の取引ごとに必要な契約条件の検討を行った上で、契約書を作成してください。
個別の契約条項の考え方については、「データの利用に関する契約ガイドライン産業保安版」3.モデル契約条項の解説を参照してください。
プラントデータの提供に関する契約書
【注】契約の名称は他の名称でも差し支えなく、例えば「データ利用許諾契約書」という呼び方も考えられます。
○○○株式会社(以下「甲」という)及び○○○株式会社(以下「乙」という)とは、甲から乙への
○○○データの提供[利用許諾]に関し、以下のとおり契約(以下「本契約」という)を締結する。
第 1 条 (定義)
本契約において、次に掲げる用語は次の定義による。
(1) 「本データ」とは、甲が保有し乙に提供するものとして別紙1[本データの仕様]に定めるデータをいう。
(2) 「本目的」とは、[乙が、甲が提供するデータを活用し産業保安分野に資するノウハウやツールの開発、及びサービスの提供をするために利用すること]をいう。
(3) 「派生データ等」とは、本データを基に乙が作成した派生データや加工データ、モデルその他成果物を総称したデータをいう。
第 2 条 (データの提供方法)
甲は、本契約期間中、乙に対し、[別紙1に定める時期及び方法/乙の指定する方法(CD-Rメディア等)とデータ形式(テキストファイル等)]により、乙又は乙が指定した者に提供する。
第 3 条 (データの利用許諾)
1 乙は、甲から提供を受けた本データを、本契約期間中、非独占的に、本目的の範囲でのみ利用することができる。
2 本データに関する知的財産権(データベースの著作物に関する権利を含むがこれに限られない。)は、甲に帰属する。
3 甲は、本契約に明示的に定められているところを除き、乙に対して、本データに関するなんらの権利も譲渡、移転、利用許諾するものではないことを相互に確認する。
第 4 条 (データの管理)
1 乙は、甲の書面による事前の承諾のない限り、本データを第三者に開示、提供、漏えいし、また本目的外に利用してはならない。ただし、次の各号のいずれか一つに該当するデータについてはこの限りでない。
(1) 本契約に違反することなく、既に公知であったもの
(2) 自己が正当に保有していたもの
(3) 自己の責によらず公知となったもの
(4) 正当な権利を有する第三者より秘密保持義務を負うことなく入手したもの
2 [乙は、本データが、甲において営業秘密(不正競争防止法第2条第6項に定めるものをいう。以下同じ。)として管理されている情報であることを確認する。]
3 乙は、本データを秘密に保持するため、本データを他の情報と明確に区別して保管しなければならず、所管官庁のガイドラインに従うと共に、その他秘密保持のために合理的な措置を講じ、善良な管理者の注意をもって取り扱わなければならない。
4 甲は、本データの管理状況について、乙に対して何時でも書面による報告を求めることができ る。この場合において、本データの漏えい等のおそれがあると甲が判断した場合、甲は、乙に対して本データの管理方法の是正を求めることができる。
5 前項の報告又は是正の要求がなされた場合、乙は速やかにこれに応じなければならない。
6 本条に基づく義務は、本契約終了後○年間存続する。
第 5 条 (データ提供の対価)
1 乙は、第2条に基づく本データ提供の対価として、甲に対し、[記載例:月額金○○円(税別)]を支払うものとする。
2 乙は、本契約期間中、前項に定める金額に消費税及び地方消費税相当額を加算した金額を、[記載例:データ受領月の翌月○日]までに、甲指定の銀行口座へ振り込み支払うものとする。な お、振込手数料は乙の負担とする。
第 6 条 (データの保証)
1 甲は、本データが、適法かつ適切な方法によって取得されたものであることを表明し、保証する。
2 甲は、本データが正確であることを保証しない。
3 甲は、本データが第三者の知的財産権その他の権利を侵害しないものであることを保証しない。
4 甲は、本データに第三者の知的財産権の対象となるデータが含まれる等、乙の利用につき制限があり得ることが判明した場合には、当該第三者の許諾を得ること又は当該データを除外する措置を講じること等により、乙が本データを利用できるよう努める。
第 7 条 (xxxx等の対応責任)
乙は、乙による本契約に違反する態様での本データの利用に起因若しくは関連して生じたクレームや請求について、乙の費用と責任で解決するものとする。また、当該クレームや請求への対応に関連して甲に費用が発生した場合又は賠償金等の支払を行った場合、甲の責めに帰すべき事由による場合を除き、乙は当該費用及び賠償金等を負担するものとする。
第 8 条 (データの利用状況)
1 甲は、乙に対し、乙による本データの利用が本契約の条件に適合しているか否か検証するために必要な利用状況の報告を求めることができるものとする。
2 甲は、[合理的な基準により、]前項に基づく報告が本データの利用状況を検証するのに十分ではないと判断した場合、○○営業日前に書面による事前通知をすることを条件に、1年に1回を限度として、乙の営業所において、乙による本データの利用状況の監査を実施することができるものとする。この場合、甲は、乙の情報セキュリティに関する規程その他の乙が別途定める社内規程を遵守するものとする。
3 前項による監査の結果、乙が本契約に違反して本データを利用していたことが発覚した場合、乙は甲に対し監査に要した費用及びデータ利用に係る追加の対価を支払うものとする。
第 9 条 (損害軽減義務)
1 乙は、本データの漏えい等を発見した場合、直ちに甲にその旨を通知しなければならない。
2 乙は、乙に起因するデータの漏えい等が生じた場合、甲の損害を最小限にとどめるために必要な措置を自己の費用と責任で講じなければならない。
第 10 条 (秘密保持義務)
1 甲及び乙は、本契約に関連して、相手方が開示にあたり、書面・口頭・その他方法を問わず、秘密情報であることを表明した上で開示した情報(第4条によって規律される本データを除く。以下「秘密情報」という)を、相手方の書面による事前の承諾なしに第三者に開示、提供、漏えいし、また本契約の履行以外の目的に使用してはならない。ただし、法令上の強制力を伴う開示請求が公的機関よりなされた場合は、その請求に応じる限りにおいて、開示者への速やかな通知を行うことを条件として開示することができる。
2 前項の規定にかかわらず、次の各号の一に該当する情報は、秘密情報にあたらないものとする。
(1) 開示の時点で既に被開示者が保有していた情報
(2) 秘密情報によらず被開示者が独自に生成した情報
(3) 開示の時点で公知の情報
(4) 開示後に被開示者の責に帰すべき事由xxxxに公知となった情報
(5) 正当な権利を有する第三者から秘密保持義務を負うことなく開示された情報
3 本条に基づく義務は、本契約終了後○年間存続する。
第 11 条(派生データ等の取扱い)
1 派生データ等に関する知的財産権(データベースの著作物に関する権利を含むがこれに限られない。)は、本データの全部又は一部に復元可能な部分を除き、乙に帰属する。
2 乙は、甲に対して、[甲の業務の使用に必要な限度で、][無償で、]派生データ等の利用を許諾する。派生データ等の利用の開始時期及び具体的条件については、甲乙が協議して定める。
3 乙は、派生データ等及び当該派生データ等を利用して第三者に提供したサービスによって売上を得たときには、乙が獲得した売上額の○○%を甲に対して支払う。
第 12 条 (期間)
1 本契約の有効期間は、20○○年○月○日から20○○年○月○日までとする。
2 前項の定めにかかわらず、期間満了の○か月前までに、いずれかの当事者より期間満了日をもって本契約を終了する旨の書面による通知がなされない限り本契約は自動的に○か月間更新するものとし、以後も同様とする。
3 本契約終了後も、第7条(xxxx等の対応責任)、第10条(秘密保持義務)、第11条第1項(派生データ等の取扱い)、本条(期間)、第16条(損害賠償)、第17条(契約終了後の措置)、第 19条(誠実協議条項)、第20条(紛争解決)、第21条(準拠法)は有効に存続する。
第 13 条 (不可抗力)
甲及び乙は、天災地変、戦争、暴動、内乱、自然災害、その他の不可抗力、停電、通信設備等の事 故、法定定期修理等によるサービスの提供の停止又は緊急メンテナンス、法令の制定改廃その他甲及び乙の責に帰すことができない事由による本契約の全部又は一部の履行遅滞若しくは履行不能については責任を負わない。
第 14 条 (解除)
1 甲又は乙は、相手方が次の各号の一に該当する場合、[なんらの通知、催告なしに/書面にて通知することにより]直ちに本契約の全部又は一部につき、その債務の履行を停止し、又は解除することができる。
(1) 財産又は信用状態の悪化等により、差押え、仮差押え、仮処分、強制執行若しくは競売の申立てがなされ、又は租税公課を滞納し督促を受けたとき
(2) 破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始その他法的倒産手続開始の申立てがあったとき、解散(又は法令に基づく解散も含む)、清算若しくは私的整理の手続に入ったとき
(3) 手形若しくは小切手を不渡とし、その他支払不能又は支払停止となったとき
2 甲及び乙は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、又は相手方の責めに帰すべき事由によって本契約を継続し難い重大な事由が発生し、書面による催告をしたにもかかわらず、14日以内にこれを是正しないときは、本契約の全部又は一部を解除することができる。
3 前各項における解除が行われたときは、解除を行った当事者は、相手方当事者に対し、損害賠償を請求することができる。また、解除された当事者は、当然に期限の利益を喪失し、相手方に対して負担する債務を直ちに弁済しなければならない。
第 15 条 (反社会的勢力の排除)
(略)
第 16 条 (損害賠償)
甲又は乙は、本契約に関し、故意又は過失により相手方に損害を与えたときは、それにより相手方が被った損害を賠償しなければならない。
第 17 条 (契約終了後の措置)
1 乙は、事由の如何を問わず、本契約が終了した日以降は、受領済みの本データを利用してはならない。
2 乙は、本契約が終了したときは、別紙1で定める手続に従い、速やかに本データを廃棄又は消去しなければならない。
3 乙は、本契約終了後も、派生データ等(本データの全部又は一部に復元可能な部分を除く。)を保有し、利用することができるものとする。
第 18 条 (譲渡禁止)
甲及び乙は、相手方の書面による事前の承諾のない限り、本契約上の地位及び本契約によって生じる権利義務の全部又は一部を第三者に譲渡し、又は担保に供してはならない。
第 19 条 (誠実協議)
本契約に定めがない事項又は本契約の各条項の定めに疑義が生じた場合、甲及び乙は、誠実に協議して解決を図る。
第 20 条 (紛争解決)
本契約に関して甲乙間に生じる一切の紛争については、○○地方裁判所を第xxの専属的合意管轄裁判所とする。
第 21 条 (準拠法)
本契約の解釈及び適用にあたっては、日本法が適用される。
以上、本契約締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。
20○○年○○月○○日
甲:
乙:
別紙1 本データの仕様(例)
番号 | データ 項目 | データ項目詳細 (提供条件) | データ取得 時期・期間 | データ形式 | データ整備 費用負担 | データ 授受方法 | データ廃棄・ 消去方法 |
1 | 配管肉厚検査記録 | V101 流入ラインの配管肉厚の検査記録 データ | 1990 年 ~2017 年 | CSV 形式 | なし | パスワード付ZIP 形式 | |
2 | 気象条件 | 観測地点A における、気温・湿度・日射量の記録データ | 1990 年 ~2017 年 | CSV 形式 | なし | パスワード付ZIP 形式 | |
3 | ヒヤリハット記録 | ○○事業所○○課で報告されたヒヤリハット記録(個人情報を削除した状態) | 2010 年 ~2017 年 | TEXT 形式 | 乙(○円) | パスワード付ZIP 形式 | |
4 | |||||||
5 |
⚫ 本別紙記載の本データは、甲から乙に提供されたデータである。第 11 条で規定している派生データ等を対象としたものではない。
⚫ 本別紙の作成にあたっては、プラントデータカタログが参考となる(本契約ガイドライン表 1- 1 参照)。