Contract
解約返戻金の約款規制
x x x x
■アブストラクト
解約返戻金約款の内容は,契約締結時の保険契約者の実質的決定自由を保護するために,新契約費,解約控除の有無,その計算方法等に関し,保険契約者に理解可能で明確な情報開示を通して改善されるべきである。保険契約者の任意解除権を任意規定として定め,さらに片面的強行規定して法律の定める事由による契約終了の場合に保険者が支払う保険料積立金の定義を規定した保険法の規範目的を考慮するならば,契約類型及び解約控除の有無に応じた監督法の規定が必要である。
■キーワード
解約返戻金,約款規制,保険法
1.はじめに
⑴ 問題の所在
現行保険実務においては,保険契約者が継続中の保険契約を任意に解除する際に,そのときまでに支払われた保険料に基づき,その保険契約のために計算された金額のうち,保険契約者に返還すべき金額がある場合は,その保険商品の特性上別段の合意がある場合を除き,その金額(以下,「解約返戻金」という。)を返還する旨の約定がなされていることが多い。この約定は,通常は,保険約款で定められており,その内容は,保険業法に基づき事前規
*平成19年10月28日の日本保険学会大会(桃山学院大学)報告による。
/平成20年10月27日原稿受領。
制を受けるとともに,契約締結前に開示すべき情報提供規制及び解約返戻金の計算規制を通して,その適切性保障が保険監督法上強化されている。
従来から解約返戻金約款の内容が非常に漠然としており,普通保険約款の その他の箇所に記載された補足説明及び解約返戻金例表と照らし合わせて熟 読したとしても,保険契約者がこの約定の適切性を判断するのは困難である ことが指摘されてきたが¹',実体的保険監督への期待に寄せる方向性に比べ,さほど大きな問題として取り上げられてこなかったように思われる。
ところが消費者契約法の改正により,団体訴訟による普通保険約款の内容 規制が可能になり,また法制審議会保険法部会(以下「保険法部会」とい う)において解約返戻金に関する契約法上の規律が検討されたが,保険法に は一般規定が定められなかった事情워'を考慮するならば,個別契約に適用さ れる普通保険約款の内容規制のあり方をxx的に検証することが必要である。
⑵ 検討対象
そこで本稿においては,第一に,実務で使用されている解約返戻金約款及びその補足説明等の現状について,保険種類の特性に応じた分類をしたうえ
1) たとえば保険法部会第15回会議(平成19年8月29日)金融オンブズマンネット提出資料4頁,同会議議事録39~40頁,同部会第2回会議(平成18年11月22日)議事録53頁,同部会第12回会議(平成19年6月27日)議事録4頁,8頁, 10頁,13頁,同部会20回会議(平成19年11月28日)議事録51~53頁等参照。xxx「生命保険契約に固有の問題」商事法務 No1808,53頁
2) 「保険法の見直しに関する要綱案(第一次案下)」保険法部会資料25の段階
では,解約返戻金の支払に関する一般規定が盛り込まれていたが,平成20年1 月9日の保険法部会で検討された第二次要綱案(保険法部会資料26)20頁にお いて,第一次要綱案の内容が削除された。保険法部会第22回会議(平成20年1 月9日)議事録37~38頁にかけて事務局による理由説明があり,また39頁では,部会長による説明及び金融審議会において今後,保険業法改正を視野に引き続 き検討が行われることが述べられている。さらに金融審議会金融分科会第二部 会は,「保険法改正の対応について」(平成20年1月31日)4~5頁において, 解約控除の対象は保険料計算基礎に基づいたものに限るという趣旨の規定を検 討すべきであることを明らかにしている。
で,その内容の問題点を抽出することとする。具体的には,終身保険,変額 年金,医療保険の普通保険約款を取り上げていくことになる。この検討では,解約返戻金が支払われない保険商品の約款の内容も対象に含まれる。第二に,現行法の下で,このような問題点がどの程度まで解決可能であるか検討し, 現行法の内容規制に一定の限界があるとすれば,どのような解決手法があり 得るか考察する。第三に,比較法的分析を行うために,ドイツにおける解約 返戻金約款の内容規制を検討する。この考察においては,保険契約法の規定 を再現した普通保険約款の内容が,不透明であると判断された根拠について,特に重点的に論じることになる。またドイツでは,♛保険契約法172条2項 に基づき,無効とされた既契約約款の内容が,保険監督法上適切と認められ た監査人の承認を得て変更されているが,その変更内容が再び連邦通常裁判 所により無効とされ,新保険契約法草案の内容を基準とする裁判官の補充的 契約解釈を通して変更されている。この問題は,今後日本で既契約約款を改 正する必要性が生じたときに検討しなければならない課題を示している。最 後に,保険法施行後,どのような基準に基づき,解約返戻金約款の内容の実 質的な適正化を図るべきか考察することとする。
2.解約返戻金約款及びその補足説明の現状
⑴ 解約返戻金約款の内容
①終身保険
A社の普通保険約款웍'は,「保険契約者は,保険金および年金の支払事由発生前に限り,いつでも将来に向かって,保険契約を解約し,解約返還金を請求することができます。」と定め,保険契約者による任意解除権を認めている。解約返戻金に関しては,「1.解約返還金は,会社の定めた方法により計算します。2.解約返還金額は,別表5によって例示します。(3.略)」と定め,具体的な金額及びその計算方法は,別表,xxx等の補足説明,及
3) 第一生命保険相互会社,5年ごと利差配当付更新型終身移行保険「ご契約のxxx 定款・約款」27条,28条参照。
び契約締結時の説明資料により開示している。別表には,金額例表があり,正確な数値が必要な場合は,保険者の職員または最寄の店舗に照会できることを明記した上で,20歳から10歳間隔で,男女別に保険料払込年数1年から
7年までの間の金額例が示されている。さらに「ご契約のxxx」では,
「解約と解約返還金」というタイトルで2頁使用し,解約すると多くの場合,解約返還金は,払込保険料総額より少ない金額になること,特に契約後短期間で解約すると解約返還金はまったくないか,あってもごくわずかであること,さらに保険料は預貯金のようにそのまま積立てられるのではなく,その一部は年々の死亡保険金の支払に,他の一部は契約の締結・維持に必要な経費にあてられ,それらを除いた残額としてあらかじめ定められた金額が払い戻されること等が,契約例を示す図とともに説明されている。
他方,解約返戻金のない特約を提供しているB社の普通保険約款웎'では,保険契約者の中途解除権の内容は,A社と同様の内容となっているが,解約払戻金のある特約の場合に,解約払戻金請求権があることを明記している。またB社の約款では,主契約,特約名を明らかにしたうえで,解約払戻金の計算方法が示されている点で,A社の約款とは異なっているが,計算方法としては,保険料を払い込んだ年月数により計算すること,及び特約の保険期間が保険料払込期間と同一の場合は解約払戻金がないことが示されているに過ぎない。B社の約款には,別表を参照指示する規定はない。B社の「ご契約のxxx」の補足説明は,A社の説明及び図と同様の記載がみられるが,保険料を生命保険の運営に必要な経費にあてるという説明において括弧書きで,経費(販売,証券作成,維持管理等の経費)が例示されている。
②変額年金
A社の変額年金保険約款´'によれば,保険契約者の中途解除権を定める条
4) 日本生命保険相互会社,有配当終身保険(H11)普通保険約款32条,33条参照。
5) 第一生命保険相互会社,引出機能付災害2割加算型変額年金保険(H16)普通保険約款25条,26条参照。
項の内容は,終身保険の場合と同様であるが,解約返還金については,変額年金の特性に応じて,別表を参照指示しつつ,その計算基準日と計算方法を明記している。具体的には,解約返還金は,計算基準日としての解約日(指定書類到達日末)の積立金額から,解約日の基本保険金額に契約日から解約日までの年数に応じた別表に定める率を乗じて得た金額を差し引いた金額とし,別表によって例示されている。その他,契約日から起算して10日以内に解約があったときの例外計算方法,計算基準日,特別勘定資産の売買に伴う変則事項を例外的に定めている。別表には,経過年数1年から7年までが毎年,以後10年目から5年ごとに,5種類の特別勘定の運用実績に応じた解約返還金額が例示されている。この例表の下に示されている小さな文字の注意書きには,特別勘定の運用実績として例示された金額は,特別勘定の運用にかかわる費用と契約の締結・維持などに必要な費用を控除した後の数値であること,及び契約日から10年経過後の年単位の契約応答日前においては,経過年数に応じて「基本保険金額×解約控除率」の解約控除を積立金額から差し引いて計算すること等が付け加えられている。したがって,これらの注意書きをあわせて解読することにより,はじめて解約返戻金額の例示計算方法及び例示金額を理解することが可能になる。
「ご契約のxxx」では,経過年数10年目までの解約控除率が具体的数値 で示され,また特別勘定の資産総額に対する年率または毎月の一定額で示さ れた契約関係費,特別勘定毎に設定された運用にかかる費用が示されている。この点に関連して注意喚起情報書面では,解約返還金額が一時払保険料の金 額を下回ることがあること,契約後10年未満で解約する場合には,運用部分 において解約控除が差し引かれること等が説明されている。さらに商品のし くみとしての給付内容を説明する箇所において,特別勘定の運用実績と解約 返還金額に関し,やや詳しい文章で別表の補足説明が加えられている。
③医療保険
C社のがん保険約款°'も,「保険契約者は,将来に向かって保険契約を解
6) アメリカンファミリー生命保険会社,がん保険〔2000〕普通保険約款30条,
約し,解約払戻金を請求」できることを定めている。解約払戻金については,
「保険料払込期間中の保険契約についてはその払込年月数により,その他の 保険契約についてはその経過年月数により計算」することが示されている。 さらに保険契約者の申出を受けて,保険者が承諾した場合は,保険契約者は,会社所定の範囲内で低解約払戻金割合を指定するか,もしくは解約払戻金を
0と指定する方法を選択することができる。そして,保険料払込期間中の低 解約払戻金額は,「普通保険約款により計算した解約払戻金に,指定された 低解約払戻金割合を乗じて計算する」ことが明確に規定されている。この低 解約払戻金割合は,契約後変更することが認められておらず,かつ,この特 則のみを解約することもできない。解約払戻金をゼロと指定した場合は,保 険料払込期間中の保険契約の解約払戻金はないことが約款xxxされている。
C社の「ご契約のxxx」には,預貯金のように保険料がそのまま積立てられるものでないこと,保険料の一部が年々の給付金等の支払に,また一部は契約を維持するための費用にあてられるしくみになっていること,したがって途中で解約すると解約払戻金は全くないか,あっても払込保険料の合計額に比べて少ない金額になることが示されている。さらに解約払戻金0コースを選択した場合に保険料払込期間中に解約したとき解約払戻金がないことが,下線を引いて強調説明されており,その理由として保険料が割安になっていることが挙げられている。
⑵ 約款の特徴および問題点
①保険契約者の中途解除権
上記2.⑴で検討した保険約款はいずれも,保険金及び年金の支払事由発生前という一部条件付の場合もあるが,保険契約者の中途解除権及び解約返戻金請求権を認めている。但し,保険料払込期間中は,通常の解約返戻金より低い金額の解約返戻金を支払い,もしくは解約返戻金を支払わない特則を
32条,46条参照。
合意した場合は,その特則を解約することができないため,保険契約者に十分理解できるよう,保険約款で明記する必要があると思われる。ご契約のxxxにおいて,このような低解約返戻金特則により,割安な保険料が維持され得ていることに関する簡単な説明はあるが,この特則に限り,保険契約者の中途解除権を制限する以上,合理的な根拠に関する説明が更に要請されるものと考える。保険法27条,54条,及び83条で保険契約者の中途解除権が任意規定として定められた規範目的を考慮するならば,この要請は正当化され得るであろう。
②解約返戻金の計算
解約返戻金の計算に関する約款は,大きく分けて三つの型に分類され得る であろう。第一に,約款本文には端的に,「会社の定める方法により計算す ること」を定め,別表の例示を参照指示するにとどめているもの,第二に, 解約返戻金は保険料払込期間もしくは保険契約経過期間に応じて計算される という簡潔な計算方法を示し,特に別表を参照指示していないもの,第三に,約款本文において,解約返戻金計算の基準日,及び計算方法の概要を示した うえで,具体例及び更に理解が求められる計算方法の詳細に関して別表の説 明に委ね,参照指示しているものがある。
また「ご契約のxxx」では,生命保険の場合は,契約例に関する図を用 いて経過年数による総払込保険料と解約返戻金額の差が明らかになる工夫が なされたりするものもあるが,傷害疾病保険の場合は,極力,簡潔でわかり すい説明にとどめているように見受けられる。解約返戻金に関する説明その ものは,預貯金との相違に着目して,保険料のうち,年々の保険金等の支払 にあてられる部分,および契約の締結・維持に必要な経費にあてられた部分 を除いた残額として,あらかじめ定めた金額等と記載することにより,総払 込保険料より少なくなることがあること,契約締結から短期間で解約した場 合はまったくないか,あるとしてもわずかであることが注意喚起されている。
変額年金の補足説明は,各保険契約にかかる運用費用,解約控除額が具体的なパーセンテージで明らかにされているが,契約経費として新契約費及び
その他の維持費が一括して,主契約の特別勘定の資産総額に対する年率で示されているため,その数値の根拠を知ることは困難な状態となっている。
③問題点
解約返戻金の計算に関する約款およびその補足説明から,解約返戻金が保険者所定の計算方法により,その保険契約の経過年月数もしくは保険料払込年月数等に応じて算定されること,一覧表の数値で例示されていること,及び預貯金と異なり,保険金の支払や保険契約締結・維持のためにも保険料が使用されることを理解することは可能であるが,具体的にその金額の合理性及び妥当性を判断するために必要な客観的根拠もしくはその確認方法をその約款の内容そのものから読み取るのは難しい状況にあると考えられる。
したがって,解約返戻金約款の内容は,保険契約者の解約返戻金の計算,とりわけ新契約費の控除額に関する合理的期待に反する可能性もあり,その場合には,保険者の側でそのような合理的期待に反する条項の内容を実質的に開示しない限り,拘束力が生じないという解釈も可能である‘'。
3.解約返戻金約款の内容規制
⑴ 保険監督法による規制
①保険約款の記述に関する規制
保険業法5条1項3号は,普通保険約款に記載された事項が,イ保険契約者等の保護に欠けるおそれのないものであること,ロ保険契約内容に関し,特定の者に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと,ハ保険契約の内容が公序良俗を害する行為を助長し,または誘発するおそれのないものであること,ニ保険契約者等の権利義務その他保険契約の内容が,保険契約者等にとって明確かつ平易に定められたものであること,ホその他内閣府令で定める基準に適合するかどうかを保険業免許の審査基準としている。
保険業法施行規則11条3号は,保険業法5条1項3号ホの具体的基準の一
つとして,「保険契約の解約による返戻金の開示方法が,保険契約者等の保護に欠けるおそれのない適正なものであり,かつ,明瞭に定められていること。」を掲げている。したがって,解約返戻金に関する約款は,この基準に従い,その内容の開示方法の適切性及び明瞭性が監督法上審査されている。さらに新商品審査に関する保険監督指針Ⅳ-1-10によれば,解約返戻金の 金額を保険証券等に表示する,計算方法等を約款に掲載するなど,保険契約者等に明瞭に開示するための措置が講ぜられていることが,新商品審査における留意点とされている。もっとも保険証券は,契約成立時に保険者の承諾の意思表示の通知とともに保険契約者に送付されるのが通例であるため,契約申込の判断をする際に決定的に重要なのは,約款及びその補足説明における明瞭な開示の措置である。したがって,どの程度まで解約返戻金の計算根拠,計算方法を明瞭に保険約款に記述し得るかが課題となる。その場合,解約返戻金約款の内容が,保険契約者等の権利及び義務,とりわけ保険契約者等が被る可能性のある経済的不利益が,明瞭に理解できるように記述されているか否か,及びその不利益の原因となる計算基礎による計算が,合理的な
根拠によるものであるか否かが,基準となり得ると考えられる。この基準は,ドイツ法で展開されてきた透明性原則웒'と同様である。
②保険約款の内容に関する契約締結時の説明義務
保険業法100条の2は保険者に対し,業務に係る重要な事項の顧客への説 明措置を義務づけ,具体的には保険業法施行規則53条1項3号において,保 険者は,予定解約率を用い,かつ解約返戻金を支払わないことを約した保険 契約の募集に際して,保険募集人がその旨を示した説明書面を顧客に交付し,説明を行うための措置を講じなければならないとしている。
保険業法300条1項1号により保険募集時に説明すべき重要事項,ならびに同条同項4号の不利益事実の説明事項が,この問題に関連している。具体的には保険監督指針Ⅲ-3-3-2⑵⑶によれば,保険者は契約概要及び注意喚起
8) Pr¨ols,inPr¨ols/Martin,“Versicherungvertragsgesetz,27.Auflage”, S.22,S.33-38.
情報として,保険契約の種類及び性質等に応じて解約及び解約返戻金に関する説明をしなければならず,また,一定金額の金銭をいわゆる解約控除等として保険契約者が負担することとなる場合があることを顧客に告げ,その内容を顧客が十分に了知したことの確認を適正に取らなければならない。
⑵ 消費者契約法による規制
①保険約款の内容規制にかかわる規律
解約返戻金約款の内容規制にかかわる消費者契約法上の規律は,9条1号及び10条である。消費者契約の内容規制にかかわる消費者契約法の規範目的は,情報・交渉力において劣位にある消費者の正当な利益が不当な内容の契約条項により侵害された場合に,このような不当条項の効力を否定することにより当該消費者の利益を回復することにある。したがって,消費者契約全体の効力を有効としつつ,不当条項に該当するもののみを無効とするものである。9条1号は,事業者が消費者契約において,契約の解除に伴う損害賠償額の予定等を定めたときは,消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的損害を超える損害賠償を消費者に請求することができないこととしている。この平均的損害とは,解除の時期等により同一の区分に分類される複数の同種の契約解除に伴い,当該事業者に生じる損害の額の平均値を意味するものであり,この額はあらかじめ消費者が算定することが可能なものであると解されている。本号に該当する損害賠償予定条項かどうかは,文言によるのではなく,その条項の意図する実質から判断されなければならないと解すべきである。つまり,形式的・硬直的に解釈すべきでなく,規定の趣旨である消費者利益確保に合致する柔軟な解釈が求められている°'。
消費者契約法10条は,民法,商法その他の法律の任意規定の適用による場合に比べ,消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する特約で,その程度が民法1条2項の基本原則(xxx)に反するものの効力を否定してい
9) xxxx『消費者契約法』136~137頁。
る。この場合のxxxは,判例上,「当該事案における一切の個別事情を考 慮した上で,契約内容が一方当事者に不当に不利であること」を意味するも のと解されている。また10条の「消費者の利益を一方的に害する」場合とは,消費者の法的に保護されている利益をxxxに反する程度に両当事者間のx xを損なう形で侵害しているものをいう。解釈上10条の任意規定の範囲に関 しては,「民法,商法,その他の法律」には,少なくとも最上級審判例ない し確立した判例も含まれると解するべきであり,また当該条項が明確で理解 しやすいものあるかどうかが,xxx違反の評価基準の一つになり得ると考 えられ,したがって,このような透明性原則に反する契約内容は,消費者契 約法3条1項の事業者の努力義務違反であるのみならず,10条のxxxの要 請に反することになる¹°'可能性がある。
さらに,消費者契約法12条3項により,保険者が9条1号または10条に反する内容の保険約款により,契約の申込またはその承諾の意思表示を現に行い,または行うおそれがあるときは,適格消費者団体は,消費者の利益の擁護のために,当該行為の停止,もしくは予防または当該行為に供した約款の廃棄もしくは除去等の措置を請求することもできるようになった。
②消費者契約法による規制の限界
解約返戻金約款の内容を検討する場合は,解約返戻金の払戻自体が独自の給付であり,契約の解除に伴う保険者の損害賠償額を予定するものではないと解するならば,消費者契約法9条1号による内容規制は及ばないことになるが,保険契約が中途で解除された場合の精算にかかる付随的給付であると解するならば,消費者契約法9条1号の適用対象となると解され得る ¹'。
上記で検討した解約返戻金約款の内容を見る限り,その保険契約の基本給付とは別個に,保険者の定める計算方法に従い,解約された場合の精算にか
10) xxxx,前掲書147~152頁。xxxx『保険法』130~131頁。
11) xxxx,前掲書654~656頁。いわゆる伝統的商品における解約控除の不当性が問題になるに過ぎないと限定的に解する説は,xxx「被保険者のために積み立てた金額と解約返戻金」生命保険論集162号297頁。
かる付随的給付の額が算定され,保険契約者に払い戻されることを定めてい るものと解するのが相当であり,したがって消費者契約法9条1号の適用対 象になると考えられる。もっとも保険者がどのような根拠に基づき,いかな る計算基礎を用いて,保険契約者の負担すべき契約関係費用及び解約控除額 等を算出し,解約時にその金額を支払保険料もしくは保険契約者のために積 み立てた金額から差し引くか,または予め保険料計算に織り込むかについて,約款及びその補足説明の内容から明らかでない場合は,消費者契約法9条1 号の事業者の平均的損害を保険契約者が知ることは極めて困難である¹워'。
他方,消費者契約法10条による内容規制を考える場合には,保険契約者の 契約上の権利にかかわる金額としての性質を有する,商法680条2項及び683条2項の「被保険者ノ為メニ積立テタル金額」(以下「保険料積立金」とい う)を基準に計算された解約返戻金に比べ,解約返戻金約款がxxxに反す る程度に,消費者の利益を一方的に不利にする内容であるか否か,もしくは,不透明な記述であるために消費者が解約による不利益を正確に理解できない ため,消費者の契約締結判断を困難にする状態を作出していないか否かが問 題となる。しかしながら,少なくとも現行商法の規定は,どのような保険料 積立基準に基づき,いかなる計算方法により被保険者のために積み立てる金 額を算出すべきであるか定めていないため,消費者契約法10条の適用基準と しての機能を果たすことは困難である。また,契約時に新契約費を一括して 控除するため,その後は解約控除を行わない契約,運用資産の価格変動を反 映した解約控除または解約加算を行う契約,さらには保険料を低廉にする代 わりに解約返戻金を支払わない契約もすでに存続しているため,これらの契 約類型における解約返戻金の計算に関し,商法の保険料積立金を基準にその 妥当性を判断することは困難であるとの指摘もなされてきた¹웍'。
もっとも解約返戻金は,保険業法施行規則10条3号及び12条1号により,
12) 拙稿「解約返戻金の規律に関する一考察」生命保険論集160号34頁。
13) xx,前掲288頁,xxx,xxx監修,xxxx編『新保険法の要点解説』 284頁。
その計算が,保険契約者等にとって不当に不利益でないことが監督法上求められている。したがって,現行の監督法に定める規制基準を満たすものであれば足りるのか,それとも当該契約における平均的消費者の理解に照らし,契約内容として必要な情報提供及び透明性が欠けているため,その消費者の契約決定自由が侵害されていると認められるならば,消費者契約法第10条の透明性原則による不当条項規制の対象になり得るかを検討する必要がある。さらに解約返戻金約款が消費者契約法12条3項によりその使用を差し止め られた場合に,保険者は何を判断基準として,いかなる手続に基づき,その
内容の欠缺を迅速かつ適切に補充すべきであるかが問題となる。
⑶ ドイツにおける解約返戻金約款の内容規制
①透明性原則による内容規制
ドイツにおいては解約返戻金約款の内容は,合意された一時金を支払う生命保険契約について,♛保険契約法176条3項に片面的強行規定の定めがあり,保険会社が使用する解約返戻金の計算に関する普通保険約款の内容は,
♛保険契約法176条3項の法規の文言を再現する宣言的条項¹웎'となっていた。また解約控除についても,♛保険契約法176条4項の解約控除の合意に関する片面的強行規定に従い,約款に関連法規を参照指示したうえで,その内容を簡潔に再現している宣言的条項を使用していた。
たとえば,連邦通常裁判所2001年5月9日判決¹´'で無効とされた養老保険の解約返戻金約款は,「6条2項⒜あなたは保険契約の満了までに,書面によりいつでも保険を解約することができます。解約後に,解約返戻金が存在する場合は,あなたは解約返戻金を受け取ります。解約返戻金は,承認された保険数学の算式に従い,継続している保険期間の終結に対するあなたの保険の時価額として計算されます(保険契約法176条3項)。⒝解約の時点まで
14) 宣言的条項の意味については,xxx「約款における宣言的条項に関する一考察」関東学院法学16巻3・4号43頁。
15) BGH147,373,VersR2001,S.839,BGH147,354,VersR2001,S.841.
に保険料支払義務がある場合は,時価計算の際に適切とみなされる控除がなされます(保険契約法176条4項)。…」と定められていた。
この約款は,法規の内容を再現する宣言的条項であるため当時の約款規制法8条(現行民法307条3項1文)により内容規制の対象外であると解されていたにもかかわらず,約款規制法9条1項(現行民法307条1項2文,同
3項2文)で明文化されていないものの規制基準として判例法上確立された透明性原則に基づき,無効とされた。判決理由によれば,♛保険契約法176条3項は,保険会社による契約内容の補充を必要としているとされた。したがって保険会社が,普通保険約款で法規の補充を行うかどうか,またどのようにして法規の補充を行うかにつき審査することは,約款規制法8条に反していないとし,十分な透明性が確保されていない解約返戻金約款は,約款規制法9条1項の意味で保険契約者を不当に不利にしていると判断された。さらに詳しく見ると,解約返戻金約款の提供する情報は,潜在顧客が様々な提供商品と比較したうえで当該商品を選択するために必要な情報を提供していないこと,解約返戻金例表は,この表にない価額が保険数学の算式に従って計算されることのみを指摘しているが,この追加説明は,解約返戻金請求権に関し必要かつ十分な説明を保険契約者に提供していないこと,及び保険期間のはじめに保険契約者が,相当高額な媒介報酬を含む契約締結費用を負担することによる保険契約者の経済的不利益を指摘していないことが,透明性原則に反する理由であり,それゆえに無効であるとされた。
その後,2001年の債務法現代化の過程において,約款の使用者が「明瞭に理解できない条項」を使用することによっても,契約の相手方に不当な不利益が生ずる可能性があるという,確立された判例による透明性原則は,民法 307条1項及び3項に明文化して規定されることになった。もっとも,法規の内容を再現する宣言的条項を無効としたとしても,その条項に代わる新たな約款を補充する場合に,再び法規の内容を規定することになるため,そもそも透明性原則違反による宣言的条項の規制は不能であるという批判もあった。しかしながら法規の文言をxxに再現することで足りる狭い意味での宣
言的条項ではなく,法規を参照指示しているだけの場合や,法規の内容を独 自の文言で言い換えて表現している場合や,2001年5月9日判決のように法 規の内容を補充した情報提供が必要な約款の場合のように,広い意味での宣 言的条項は,透明性原則による内容規制の対象になると解されるに至った¹°'。
②約款改訂及びその方法
その後透明性原則に反して保険契約者に不当な不利益をもたらすものとして無効とされた解約返戻金約款は,♛保険契約法172条2項に基づき,保険監督法11b条により任命された独立監査人の同意を得て,同じ内容ではあるが,透明化された記述に変更され,既契約にも適用されることになった。無効とされた約款の欠缺補充方法としては,民法306条2項に基づき,法規を適用するか,もしくは裁判官による補充的契約解釈を通して行う方法,及び
♛保険契約法172条2項により独立監査人の同意を得て行う方法があるが,保険約款の場合は,同一内容の約款を大量かつ迅速に変更する必要があるため,♛保険契約法172条2項による変更が妥当であると解されていた¹‘'。
以上のように解約返戻金約款が,広い意味での宣言的条項であり,かつ契 約締結から短期間で解約したときに保険契約者が受ける不利益に関する具体 的説明の補充を要することを前提とした場合に,二つの問題が新たに浮かび 上がることになった。第一に,無効とされた約款の代わりに,法規をそのま ま再現することがすでに認められていないため,何らかの方法で約款の内容 を変更しなければならないが,その場合に,補充すべき内容に関しても裁判 官の解釈により確定されるべきであるか,あるいは,保険契約法上認められ た保険者の補充権限により,適正な手続と内容の妥当性を検証した上で,一 方的に変更することが可能であるとすべきか,という問題が生じた。第二に,補充すべき内容は,新規に何らかの情報を盛り込むことではなく,それまで
16) Armbr¨uster,ʻTransparenzgebotunddeklatorischeKlauselnʼ,im Fest- schriftf¨urKolhoser,S.10.
17) Xxxx,inBeckmann/Xxxxxxxx-Xxxxxxxx,“Versicherungsrechtshand- buch”,2004,S.602.
抽象的に記述してきたか,あるいは参照指示にとどめていたため不明瞭になっていた内容を明確化することで足りるのか,それとも,無効とされた理由のxxに立ち戻って,必要とされる情報を検討し,新たに約款に規定すべきかという問題が考察されることになった¹웒'。この問題は,学説,判例,消費者団体と保険者との間で様々な見解に分かれていたが,適切かつ迅速な手続保障,及び内容規制の目的を考慮した連邦通常裁判所2005年10月12日判決¹°'により,解約返戻金約款の内容規制は新たな局面に入ることになった워°'。
この判決後変更され,多くの保険者が同様の約款を規定するドイツ保険協会の模範約款9条2項は,♛保険契約法176条3項の計算方法に関する法律上の文言を再現した内容に加え,「解約返戻金は,…その時価として計算されます。この時価では,…が控除されます。(※注,場合によっては,控除の金額,その影響は,書面による説明ないしは一覧法で示すこともできる。)この控除によって,契約継続中の被保険者全体(※注略)のリスク状態及び収益状態の変化が補償されます。このほかに,群xxされた危険準備金並びに早期解約の為に減少した資本収益の補償がこの控除によって行われます。
(※注略)控除及びその控除額に関するその他の説明並びに保険数学上の指摘は,保険約款の補足説明に示されています。あなたが解約するときに,あなたがわれわれに対し,この控除に基づき計算された金額が,根拠に基づけ
18) Pr¨ols,a.a.O.,S43,S.46によれば,透明性原則違反による無効の場合には,約款の内容を明確化にするための補充的契約解釈が行われるが,保険契約者の利益を適切に考慮した解釈がなされなければならないという。Wand, ʻErsetzungunwirksamerALB im Treuh¨anderverfahren gem.쏃172VVGʼ, VersR2001,S.1445は,当事者が契約時に明確に記述された同じ内容の条項を選択したであろうと解される場合には,不透明な条項を透明な条項に代えれば十分であるように思われるが,商品選択の基礎としての透明性原則の機能を鑑みるならば,同じ内容を明確に記述しただけでは,契約締結時に遡ってその機能の回復を果たすことができないことを指摘している。
ˆ
19) BGH162,03,VersR2005,S.1565.
20) Sijanski,ʻErsetzungunwirksamerKlauselnund Mindestr¨uckkaufswert inderkapitalbildendenLebensversicherungʼ,VersR2006,S.469,S.473.
ば適切でないか,もしくはその控除が更に低く計算されるべきであることを 証明した場合に限り,この控除は,後者の場合には,その証明に応じて削減 されます。」という規定を追加している。またチルメル式による場合は,別 途10条を設け,新契約費とチルメル式の関係,及びその不利益効果について 詳しく規定している。さらに,未償却の新契約費,群xxされた危険準備金,減少する資本収益等について,詳細な補足説明が記述されている워¹'。
③あるべき解約返戻金約款の内容追及
連邦通常裁判所2005年10月12日判決は,解約返戻金約款の内容規制のあるべき理念,約款の変更手続保障,及び保険契約法改正に及ぼした影響を考慮すると,歴史的意義のある判決であると位置づけることができる。第一に,連邦通常裁判所は,判決により無効とされた約款の補充が必要な場合は,♛保険契約法172条2項により保険者は監査人の同意を得て適切な手続に基づき,既契約の約款を迅速に変更できる権限を有することを確認している。第二に,♛保険契約法172条2項により,民法307条の透明性原則違反により不当条項とされた内容の保険約款と同じ内容の約款を補充することは,無効という法律上の制裁の裏を欠いてその効果を失わせるものであるため,民法 306条2項に定める補充的契約解釈の原則に合致しないという判断を示した。つまり,♛保険契約法172条2項は,民法306条2項に優先適用されるが,監査人による内容の適切性審査において,その内容が民法306条2項の趣旨に合致しているものであるかどうかを検討すべきであり,合致しないと判断される場合は,♛保険契約法172条2項により変更された保険約款は,再び司
21) GDV,A lgemeineBedingungen f¨urdiekapitalbildendeLebensversi- cherung,Stand:4.Mai2006.Elfring,ʻDieErsetzung intransparenter KlauselnindenA lgemeinen Bedingungen derkapitalbildenden Leben- sversicherung im Rahmen desTreuh¨anderverfahrensnach 쏃172 Ⅱ VVGʼ,NJW2005,S.3679は,個別契約で控除される契約締結費の金額が開示されず,特に保険仲介人に支払う報酬額が隠されている場合は,他の保険者の商品または他の金融商品との比較を行ったうえで契約決定を検討することができないため,透明性原則に反して無効であると解している。
法上の内容規制により無効とされる可能性があることを明らかにした。第三に,不透明な約款により,契約締結時の保険契約者の決定自由及び選択自由への介入が除去されないまま,経済的不利益が覆い隠された内容の解約返戻金約款であることは許されないため,この点に関する透明性が求められることを明確に示し,かつ,保険契約者間の適切な利益を配慮した上での早期解約者の財産権保護の観点から,最低解約返戻金を規定する改正草案の内容が補充的契約解釈の基準となり得るという踏み込んだ判断を下した 워'。
新保険契約法164条1項は,この判決等を考慮し,♛保険契約法172条2項による保険者の一方的変更権限を引き続き保障したうえで,民法306条の約款補充の要件を取り込み,かつ,様々な方面から問題があると指摘されてきた워웍'監査人の同意を廃止し,最終的な内容の適切性は,裁判所の判断に委ねる規律に変更されている。特に重要なのは1項2文の「新しい条項は,契約の目的を維持し,保険契約者の利益を適切に考慮する場合にのみ有効である。」という規定である。立法理由によれば워웎',全般的に保険契約者の利益を適切に保護し,かつ契約の相手方の具体的な契約目的も保障される場合にのみ有効となり,契約者の利益の擁護は,保険監督法の基準によるとされている워´'。さらに重要な観点は,新しい条項により,契約締結時の均衡性が回
22) BGH,VersR2005,S.1570によれば,補充的契約解釈は,客観的に一般化 された基準に従い,つまり,契約時の具体的な当事者の意思と利益だけでなく,契約時における典型的な関係取引圏の意思と利益も考慮してなされなければな らないという。
23) た と え ば,R¨omer,ʻFormenzul¨asigerBedingungs¨anderungen in A l- gemeinenVersicherungsbedingungenʼ,Xxxxxxx/Meyer/R¨uckel/Schwint- owski,“VersicherungswisenschaftlicheStudienBand32”,S.20。
24) BT-Drucksache16/3945,20.Dezember2006,S.100.xxxx,xxxx共訳『保険契約法(2008年1月1日施行)』455~488頁(xx訳)参照。
25) Swintowski,ʻDasSpannungsverh¨altniszwischen Individuum und Kol- lektiv-ausjuristischerSichtʼ,ZfV2007,S.461-462によれば,個人は,満期 前に団体を去る時に,支払った保険料の一定額を団体に残すことを私法上合意することはできるが,このような合意は,確定的で,透明で,適切になされなければならないという。しかしながらこの団体は,大数の法則によるリスク調
復されるならば,この2文の基準に合致するという立法者の考え方である。
⑷ 解約返戻金約款の実質的適正化に向けた課題
第一に,解約返戻金約款は,認可されたときの監督法上の基準を満たす内容であったことは確かであるが,最新の保険監督法上の内容規制基準,特に計算の開示に関する透明性原則の基準によるならば,契約締結費用等さらに補充すべき情報があるように思われる。この点に関し,ドイツの宣言的条項の内容規制で示された補充すべき情報の内容に関する基準は参考になる。したがって今後保険業法において,契約者間の適切な利益調整及び契約者の決定自由を保障するために,解約返戻金約款及び補足説明の内容に関し,さらに具体的な規律を定める必要があると考える。この意味でドイツ新保険契約法7条2項に基づき,数値による新契約費の開示を定めた情報提供義務に関する法令워°'は,保険業法の規律を検討する上で参考になるであろう。
第二に,保険法に解約返戻金に関する一般規定は定められなかったものの,保険契約者の任意解除権(27条,54条,83条)が定められたことの意味は大 きいと考えられる。契約時に理解不能な経済的不利益があることにより,も しくは約款条項の内容が不透明であるため,xxxに反し,保険契約者の任 意解除権の行使を事実上不可能にしている解約返戻金約款は,消費者契約法 10条により無効とされる可能性もあり得るであろう。さらに保険法が片面的 強行規定として(65条,94条),法律に定める事由により生命保険契約(63
整の現象を具象的にとらえるために観念されたものにすぎず,法的意味で団体が合意されたわけではないという。したがって,被保険者間の利益調整の問題を解決するためには,危険共同体という概念は必要ではなく,むしろ,私法で約款の内容規制を行うとともに,監督法で契約者間の平等の確保(保険監督法 11条2項,12条4項)及び被保険者の利益と継続的契約の履行可能性の保障
(保険監督法81条以下)を行えば十分であるという。
26) Verordnung¨uberInformationspflichten beiVersicherungsvertr¨agen, 쏃쏃2,3,0Xxx.0.Xx¨ave,ʻVVG-Informationspflichtenverordnungʼ, VersR2008,S.154.
条)または傷害疾病定額保険契約(92条)が終了した場合には,保険料積立金を払い戻さなければならないと定めたことの意味を約款規制の観点からどのように解するべきかという課題が残されている워‘'。保険法が保険料積立金を片面的強行規定として明確に定義している以上,中途解除による解約返戻金の計算が,保険法で定義された保険料積立金を基準に計算しないことのみを理由に内容規制を受けないとすれば,解約返戻金約款は,片面的強行規定の規範目的を空洞化することになるであろう워웒'。したがって保険業法において,保険法で規定できなった解約返戻金について,たとえばドイツ新保険契約法第169条3項から6項のように,契約類型別,解約控除実施の有無別に整理した上で,保険法の保険料積立金との関連性が明確に理解できる規律を新たに制定することが要請されていると考える。監督法においてこのような明確な規律が定められるならば,消費者契約法9条1号及び10条による不当性判断における重要な判断要素が明らかにされるであろう。
第三に,現行約款が消費者契約法12条3項により使用差止めになった場合,あるいは最新の監督法上の基準並びに保険法の規律に照らし,保険者の判断 により既契約約款の変更を行う意思がある場合に備え,新しい約款に変更す るための手続保障が将来的には必要になると考える。その場合考慮すべき規 範目的は,ドイツ新保険契約法164条1項2文と同様の,契約目的の維持お よび契約者の利益の適切な考慮であり,監督法である保険業法の枠組の中で 規律することも可能であると考える。
(筆者は東京海洋大学准教授)
(本稿は,平成18年,19年度,20年度科研費補助金基盤研究C「既契約の保険約款の変更について」(研究代表者 xxxx)の成果の一部である。)
27) Xxxxxx,“DieHalbzwingendenVorschriftendesVVG”,S.34-39,157
-169は,保険契約法の片面的強行規定に直接規定がなくても,その類推適用及び規範目的に基づく適用可能性はあり,その関連においても約款の内容規制があり得ることを論じている。
28) 保険法の片面的強行規定の規範目的については,xxx,xxxx,xxx,xxx,xxxx「保険法の解説⑴」NBL,No883,17頁。