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ドイツ法における生命保険契約の「適切な剰余金配当」とはいかなるものであるのか
神奈川大学 清水耕一
【目次】
1. はじめに
2.適切な剰余金配当についての沿革
2.1.「養老保険の剰余金算定」に関する連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決
2.1.1. 判決要旨
2.1.2. 事実の概要
2.1.3. 判決理由
2.1.4. 連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決に対する評価
2.2. 保険契約法 153 条(剰余金配当)
2.2.1. 法案理由
2.2.2. 保険契約法 153 条に対する評価
2.3. 2014 年生命保険改正法
2.3.1.法律の目的設定と必要性
2.3.2. 評価準備金に関する議論の概要
2.3.3. 2014 年生命保険改正法に対する評価
3.連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決の内容の明確化を求めた裁判
3.1. デュッセルドルフ区裁判所 2016 年 8 月 11 日判決
3.1.1.事実の概要
3.1.2. 判決理由
3.2. デュッセルドルフ地方裁判所 2017 年 7 月 13 日判決
3.2.1.判決理由
3.3. 連邦通常裁判所 2018 年 6 月 27 日判決
3.4. 判決に対する評価 4.むすびにかえて
1. はじめに
低金利の環境において、生命保険契約の「適切な剰余金配当」とはいかなるものであるのかを探ることが本稿の目的である。
低金利の影響は、既存の生命保険契約において、保険料算定に織り込んでいる保険料の予定利率1を達成することが困難、または不可能になるということであり、剰余金の配当はおろか、生命保険契約の履行を保障できないという事態を招くおそれがある。
剰余金配当は、保険料を計算する際に保守的に設定している予定計算基礎(死差・利差・費差)から通常生じる「剰余」について、保険料の事後調整として保険契約者に返還するものである2。実務では、保険期間満了時に確定した剰余が配当されるのではなく、毎年の決算における資産と負債の評価によって、内部留保とのバランスを取りながら配当額が確定される。したがって、剰余金配当は保険会社の裁量によって行われる3。
そこで、予定利率に達しない実際の運用利率からの利差損の発生、あるいは、その穴埋めのための国債等の取り崩し等による利益の実現という状況下において、適切な剰余金配当とはどのようなものかという問題が生じる。もちろん、そもそも保険料には保守的に設定された安全割増が織り込まれているのであるから、ある部分で利差損が発生しているからといって単純に剰余金の配当を制限することは認められないという考えもある。
ところで、低金利の状況は、わが国に限らず、ドイツでも同様である。ドイツではこの問題に対応するために、「2014 年生命保険契約者のための安定かつ公平な給付保障に関する法(以下、「2014 年生命保険改正法」という)」という立法を行った4 。これは、保険監督法など関連法を改正し、多くの保険契約者・被保険者にとっても利益になるとの理由から、保険者の「財務上の安全のための必要」 (Sicherungsbedarf) という内部留保についての指標を定めて、剰余
1 金融庁が定める標準利率を指標とし、2017 年 4 月には、従来の 1% から
0.25%に引き下げられた。
2 山下友信『保険法』第 3 版補訂版 22 頁( 有斐閣アルマ、2016 年)、日本生命保険 生命保険研究会編著『生命保険の法務と実務』第 3 版 65 頁以下( 金融財政事情研究会、2017 年)。拙稿「ドイツ保険監督法による剰余金配当規制の限界- 配当付き生命保険契約の法的性質論序説」阪大法学 第 51 巻 4 号 pp.79-106( 平成 13 年)、「ドイツ法における養老保険契約の剰余金配当請求権について」生命保険論集第 141 号( 平成 14 年 12 月) pp. 217-270 にドイツ法の沿革が記されている。
3 日本生命保険 生命保険研究会編著『生命保険の法務と実務』第 3 版 65
頁( 金融財政事情研究会、2016 年)。
4 BGBl. 2014, Teil ⅠNr. 38, 06.08.2014., 1330.
金配当を制限するなどの保険者の財務上の基盤を高めるという目的を有する5。剰余金配当について、わが国では保険(契約)法に規定はないが、ドイツで
は 1980 年代からの議論と判例の積み重ねによって 2008 年ドイツ保険契約法 (VVG)153 条という一つの到達点に達した。とりわけ、連邦憲法裁判所 2005 年
7 月 26 日判決6は、立法者に対して、「契約終了時に配当されるべき最終剰余金の算定に際して、配当付き養老保険において保険料の支払いによって生じる資産価値が、適切に考慮されるための法的な措置」を講じるように義務付けたことが大きな契機となった。それを受けて、保険契約法に規律の存在していなかった保険契約者の契約上の請求権としての剰余金配当請求権が、 VVG153 条という形で立法された。ところが、連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26日判決が示す「適切な剰余金配当」が、どのような内容や基準を示すのか明らかではないので、VVG153 条の内容と適合するのか、さらに、2014 年生命保険改正法によるVVG153 条の実質的な内容の一部変更によって抵触しないのかという疑問が生じる。2014 年生命保険改正法の立法過程においても意見書を提出した被保険者同盟(Bund der Versicherten)という消費者団体へのインタビューによれば、現在、同団体は、2005 年連邦憲法裁判所が示した「適切な」剰余金配当とはいかなるものであるのかを明らかにすべく、訴訟を提起し7、筆者は、その下級審にあたる、デュッセルドルフ区裁判所 2016 年 8 月 11 日判決、デュッセルドルフ地方裁判所 2017 年 7 月 13 日判決およびその上級審である連邦通常裁判所 2018 年 6 月 27 日判決を入手した。
そこで本稿では、沿革として、ドイツにおける連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決、2008 年保険契約法(VVG)153 条および 2014 年生命保険改正法をめぐる議論を整理したのち、デュッセルドルフ区裁判所 2016 年 8 月 11 日判決、デュッセルドルフ地方裁判所 2017 年 7 月 13 日判決およびその上級審である連邦通常裁判所 2018 年 6 月 27 日判決を分析したうえで、生命保険契約の「適切な」剰余金配当とはいかなるものであるのかを考察する。
もちろん、わが国とドイツとは法律状況が異なる。わが国では、保険業法において契約条件の変更に関する規定があるが、保険業の継続が困難となる蓋
5 邦語文献として、中村亮一「金利低下に保険監督当局はどう対応してきたのか― ドイツ BaFin の例」基礎研レポート 2015.06.15( ニッセイ基礎研究所、2015 年)、荻原邦男「ドイツ生保の低金利環境への対応について」基礎研レポート 2013.12.24( ニッセイ基礎研究所、2013 年)、拙稿、「ドイツ法における『生命保険の被保険者のための安定的かつ公平な給付保障についての法律』( 2014 年生命保険改正法) の概要と課題 ― 財務上の安全のための必要について」神奈川法学 50 巻 1 号 pp1-25(2017 年)。
6 BVerfG, Urteil vom 26.07.2005, NJW 2005, 2376.
7 2018 年夏ごろには判決が下されるとの見通しである。情報提供および説明等について、同団体の Jens Trittmacher 氏に謝意を表する。
然性がある保険会社が契約条件の変更を申し出ることができる。しかし、この規定では、特定の保険会社が事実上の破たん状態になるまで申し出ることはできず、生命保険事業全体について事前に問題を解決することにはならない。この点について、法律状況は異なるが、ドイツ法は保険(契約)法・保険監督法に関わらず、一つの解決方法を提示している可能性があるのではないか。
2.適切な剰余金配当についての沿革
2.1.「養老保険の剰余金算定」に関する連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決8
2018 年の連邦憲法裁判所での判決の起点となった、「適切な剰余金配当」の実施のための立法措置を立法者に命じた判決をあらためて検討する。
2.1.1. 判決要旨
立法者は、ドイツ憲法 2 条 1 項及び同 14 条 1 項により、契約終了時に配当されるべき最終剰余金の算定に際して、配当付き養老保険において保険料の支払いによって生じる資産価値が、適切に考慮されるための法的な措置を定めることを義務付けられる。
2.1.2. 事実の概要
抗告人は、違憲抗告提起後に死亡した原審手続きの原告の相続人である。抗告人は違憲審査手続きを続行した。原告は 1964 年生命保険契約を原審手続きの被告(相互保険会社であったが組織変更した株式会社化した)と締結した。保険金額は 50,000 ドイツマルクと取り決めた。年間の保険料は 1,250ドイツマルクとなる。保険経過年は、2009 年と取り決められた。当該保険は、いわゆる調整保険であり、継続的な利益持分は約定の経過時点を前倒しするために使用される。これに基づいて、当該保険は 1989 年 3 月には終了した。原告は 58,350 ドイツマルクの支払いを受けた。連邦保険監督庁によってなされた検査は、剰余金持分が被告の事業計画書および年次事業報告書で公表された利益持分率に対応して正しく計算されていたと確認した。原告は配当された利益持分を―被告の定款およびその広告に比べて―低すぎると評価した。剰余金配当は被告の秘密準備金からもなされなければならない。この範囲では、支払われた金額を超えた被告に対する支払い請求権が原告に属する。これは、被告に対して剰余金とそこから積み立てられた秘密準備金を含む金額
8 BVerfG, Urteil vom 26.07.2005, NJW 2005, 2376.
についての情報提供を義務付ける。
被告に対して提起された民事法の手続きの中で、原告は地裁で被告に対して、すでに支払われた 58,350 ドイツマルクを超えてさらに民法典(BGB)315条 3 項(一方当事者による給付の決定)により裁判で定められる金額に訴訟継続から(当該生命保険契約が、契約期間中に支払われた保険料のリスク持分と貯蓄持分から実際に得られた剰余金に完全に対応して配当されるときには、すでに支払われた金額を考慮して生じる金額)の 4%の利息を付した支払いを命じる判決を求めた。地裁はこの訴えを違憲抗告で非難された判決を棄却した。原告により申し立てられた控訴は、同じく違憲抗告で批判された高裁判決により棄却された。BGB315 条 1 項による給付の決定は考慮されない。なぜなら、生命保険の普通保険約款および被告の定款の剰余金配当が有効に取り決められたからである。旧普通約款規制法 9 条違反はない。原告は関連する規定により不適切に不利益を受けていない。これはとりわけ保険監督庁により行われたコントロールから認められる。秘密準備金は、利益算定において算入されることはできない。確かに秘密準備金の積立ては透明ではなく、かつ保険会社には大きな裁量の余地が委ねられている。しかし、これは保険契約者の不適切な不利益を一般的に意味するものではない。保険契約者にはほかの利益請求権が帰属しないので、情報開示請求権は問題にならない。被告が剰余金配当を正しく計算しなかったことを肯定するものではない。同じく、被告が過剰な準備金を積み立て、過剰なコストを生じ、あるいは財産移転によって剰余金配当を縮減したという具体的な非難が向けられることはほぼない。
連邦通常裁判所 1994 年 11 月 23 日判決は、上告を違憲抗告で同様に批判された判決によって棄却した9 。普通保険約款のどの版に基づくのかは、個々の規定の内容上の一致により現時点において未確定である。BGB315 条 3 項 2 文の適用の余地はない。なぜなら、当事者は剰余金の算定を具体的に確定したであろうからである。原告の情報開示請求は、正当化できない。なぜなら、被告に対する支払い請求権が存在しないからである。生命保険の普通取引約款と定款の当該規定は、剰余金配当が秘密準備金と同等のものを含むこと、あるいはこれは解消されなければならなかったという意味で理解することはできない。剰余金の概念は、定款 5 条には書かれておらず、前提とされている。当該規定は、旧普通取引約款規制法 9 条違反によっても、あるいは、普通取引約款の内容規制原則(BGB242 条により普通取引約款法の規制法発効前)違反によっても、無効にならない。
違憲抗告では、抗告人は、民事裁判の非難された判決が憲法 2 条 1 項、同 14 条の基本権の意味を持ち、補助的に憲法 3 条 1 項を客観的な法規の一部として見誤ったと非難する。
9 BGH, Urteil vom 23.11.1994, BGHZ 128, 54 = NJW 1995, 589.
違憲抗告は、部分的に認容された。
2.1.3. 判決理由
(1) 違憲抗告は認められる。
Ⅰ. 違憲抗告提起後に生じた原告の死亡は、本案裁判に対立しない。相続人は、有効に手続きを引き継ぐ。抗告人が死亡するとき、金銭上の請求権である場合、その相続人が違憲抗告を継続することができる。この前提は、 BGB315 条 3 項に基づいて見積もられない支払い請求権(段階の訴えの枠内でさらに見積もるべき支払い請求権の準備のために主張されることができた)およびその予備的請求である情報開示請求を満たす。すべての申立の目的は、金銭請求権の実現であった。
Ⅱ.民事裁判上の判決による抗告は続く。問題の根本的な明確化の利益は、 1989 年の保険金支払以降のさまざまな法改正によっても失われない。もっとも、抗告人によって非難された商法上の評価規定、秘密準備金の考慮、およびいわゆる横の差引き計算10 の制限に関する保険監督法の規定は、批判により変更された。しかし、抗告は基本的関心事には何ら影響を与えない。それは、評価およびコストの差引勘定とそれに基づいて保険企業に積み立てられる剰余金算定について、保険契約者にとって透明ではなく、保険契約者によって何 ら影響を与えられるものでもなく、おそらく保険企業によって不利益を与える自由裁量である。この自由裁量は、抗告人の観点から、剰余金配当に際して、およびそれとともに最終剰余金の不当な縮減について、保険料の支払から生 じる財産価値の一部を考慮していないことにつながる。保険者の措置について検査することもできない。この問題は、1994 年の保険法の規制緩和以来、事業計画の内容としての旧来の事業計画書による説明は消滅することを意味し、その結果、監督庁のその時の規制の認可から外れる。
(2) 違憲抗告は一部認められる。
剰余金配当付き養老保険の法規定は、憲法 2 条 1 項の私的自治と同 14条の所有権保護という基本法上の保護の要請を満たさない。契約終了時に支払うべき最終剰余金の算定について、保険企業の下に支払われた保険料で積み立てられた財産価値が適切に考慮されるための十分な法的な安全措置が欠けている。最終剰余金が特に秘密準備金を考慮しないことにより、かつリスクの経過や資本投資といった積極的な成果とともにコストの正当化できない差引勘定により、あまりにも低く定められたか否か、抗告人にとって解明することができないことから、基本権侵害が主張される限り、とくに適用する11。
10 過剰な事業コストにより利益が縮減されることが問題視されている。
11 基本法上の保護の要請を満たさないといえる。
憲法 2 条 1 項と同 14 条 1 項に定められる客観的法的保護の委任は、剰余金配当付き養老保険の保険契約者が保険料の支払によって形成された財産価値から最終剰余金算定に際して適切に配当されるように、措置を講じることを立法者に義務付ける。この義務は立法者に十分な方法で実現されていない。
以下、判決理由の概要を記す。
憲法 2 条 1 項は、法律生活の中で個々の自己決定として私的自治を保障する。私的自治は、それゆえ、とくに契約法において法秩序による形成を要する。契約は、個別の利益が契約締結時、契約期間中および契約終了時に互いに適切な調整がなされるように契約当事者が権利の枠内で自己決定するというものであり、他者との関係で自由で自己責任のある行為の実現のための基準となる制度である。
所有権の保護を保障するという立場における私的自治の利益実現について立法者の行為による調整の欠如が関わるとき、立法者の保護義務は憲法 14 条から生じる。
連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決12は、保有契約移転の際、憲法 2項 1 項と同 14 条 1 項の法的保護義務を肯定した。そして、保険料支払いにより保険者の企業の判断の枠内で作られた財産価値は最終剰余金配当の基礎として取り入れられることが義務付けられる。
憲法の保護の効果は、基準となる財産価値が最終剰余金計算の際に適切に考慮されたかという点について、法的な検査の基準と可能性を要求する。規範の確定性と規範の明確性という規則は、保護の委任の履行に際しても遵守しなければならない。規範の確定性と明確性の要求は、秘密準備金が粗剰余金の算定に際して、考慮しなければならないか、かつどの程度考慮しなければならないか、および横の差し引き計算が最終剰余金を縮減することは許されるのか、どの程度許されるのかについての基準も要求する。
その点について、現行法の状況は不十分である。現行法上、保険企業の企業としての自己責任の原則には影響はないし、秘密準備金発生は、商業帳簿上認められている。従って、保険契約者は、未実現の秘密準備金からの配当に影響を及ぼすことはできなかった。保険契約者には剰余金配当に関する実務の現状を変えることはできない。
所有権の保障により含まれる法的地位の保護の利益を自ら独自に有効に追及することは保険契約者にはできないことから、立法者には憲法 2 条 1 項と 14条 1 項からの保護の任務を果たす。これは十分には尽くされていない。立法者は最終剰余金算定の正当な利益調整のできる方法で財産価値を基礎づけることができていない。保険契約法上も保険監督法上も十分な措置を講じてい
12 BVerfG,Urteil vom 26.07.2005, NJW 2005, 2363.
なかった。
保険契約法の枠内での私法上の法的保護により、個々の保険契約者の利益は完全に有効には守られない。事業計画書は公法に基づくのであって、民事裁判手続きの対象とはならない。私法は、剰余金の確定を定めるのではなく、保険契約者への配当を定めるに過ぎない。その限りにおいて法の隙間があるか否かは、旧約款規制法 9 条の基準で普通約款の規制の中で説明されるこ とはできない。連邦通常裁判所 1994 年 11 月 23 日判決において示されたように、剰余金の基準となる概念は約款の中において法的には定義されていない。
保険監督法も憲法上の保護の任務を果たしていない。保険監督法の目的は、保険契約者全体の利益の保護と保険業の機能を確実にすることであって、個々の保険契約者の利益を守ることではないからである。
最終剰余金算定に対して、立法者は保険契約者の憲法上の保護を十分保障しない。保険会社の下で支払われた保険料が積み立てられた財産価値が適切に考慮されているか、個々の保険契約者の利益に関する検査について法的に保障することはできない。保険契約者自身は自己の利益を守るために規定の確定性・明確性といった措置を追及することができない。
もっとも、立法者は、特定の保険契約者の利益や個々の保険契約者のために、あるいは保険関係から脱退する者の利益のために、返還すべき給付を最大して最終剰余金を確定することは、保険制度上の危険団体という原理から、かつ時間的にも保険の種類からも異なるさまざまな当事者の利益の調整という原理から妨げられる。憲法上の保護義務は、保険契約者が自己の手続きの権利で監督に参加することを提供することでもないし、あるいは他の方法で十分保護される限り監督法上の義務の実施のために行政法上の個別保護の実施を定めるものでもない。
立法者は、憲法上の保護義務では実現されていない状況において、立法者に与えられている形成の裁量の枠内で、保護の欠陥を除去するという解決を講じなければならない。
2.1.4. 連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決に対する評価
養老保険の剰余金算定に関する連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決により、立法者は、憲法 2 条 1 項及び同 14 条 1 項に基づき、契約終了時に配当されるべき最終剰余金の算定に際して、配当付き養老保険において保険料の支払いによって生じる資産価値が、適切に考慮されるための法的な措置を定めることを義務付けられた。それにより、2008 年ドイツ保険契約法改正において、剰余金配当の規定が VVG153 条に導入されることになった。
この問題の背景には、現在にもつながる秘密準備金の保険会社の中での内部留保という問題があった。そもそも、秘密準備金の積立ては透明ではなく、
かつ保険会社には大きな裁量の余地が委ねられていたからである。もっとも、そのこと自体の違法性はなかった。当時の法律の状況では、保険契約法上も保険監督法上も保険契約者が、自己の保険料の支払によって形成された財産価値から算出された剰余金について、その基準なり、妥当性なりを解明する手段がなかった。
2018 年現在、この連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決について、さらにその内容を明確にするための訴訟が提起されている。この判決では、剰余金配当請求権を保険契約法上の規定の中に置く必要性が示されているが、配当される剰余金の算定方法については保険監督法に丸投げしている。その後に立法される VVG153 条 3 項では、保険会社の財務の安全性を確保するために保険監督法の規定が優先的に適用される立てつけとなる。それにより、保険契約者の権利として認められた剰余金配当請求権であるにもかかわらず、その形成、内容等について保険監督法および保険監督庁が支配することにな る。さらに、2014 年生命保険改正法では、剰余金の算定に際して、国債などの固定利率の投資分を解約して利益の実現をしなければならないことが保険会社の負担になっているために、それを剰余金算出の構成要素から除外するなどといった、―保険監督法の留保内容の具体化との評価もある一方で―保険契約者の知らなかった(であろう)ことが持ち出されてきた。このような法改正は、保険監督法による保険業安定のための機動的な対応として認められるが、不透明な保険監督法の運用あるいは保険監督庁の裁量につながる。
判決では、①特定の保険契約者の利益や②個々の保険契約者のために、あるいは③保険関係から脱退する者(中途解約者)」の利益のために、返還すべき給付を最大して最終剰余金を確定することは、保険制度上の危険団体という原理から、かつ加入時期により予定利率にはかなりの差や保険種類の差があるなどのさまざまな当事者の利益の調整という原理から妨げられ、④契約期間満了まで保険契約を継続する者全体の利益は、①②③よりも優先するということを示している。これは、保険契約の履行可能性の確保と保険業の機能確保を目的とする保険監督法の優先順位に依拠している。とはいえ、中途解約者の利益、あるいは個々の保険契約者の利益のために最大限の剰余金は配当しないとしても、どの程度配当するのか、どの程度制限するのか、明らかではない。なお、この判決では、中途解約者を標的とした利益の劣後は見られない。また、契約期間満了まで保険契約を継続する者についても、①②③よりも優先すると言えたとしても、同様にどの程度配当するのか、どの程度制限するのか、明らかではない。また、④の中でも加入時期により予定利率にはかなりの差がある各保険契約者間の利益の調整といった問題は残る。さらに、継続者の中でも加入時期の違いごとの分断が図られる可能性もある。
2.2. 保険契約法 153 条(剰余金配当)
保険契約法 153 条:
1 項:保険契約者には、剰余金の配当および評価準備金の配当( 剰余金配当)を得る権利がある、ただし、剰余金配当を明示的な合意により排除する場合は、この限りではない;剰余金配当は、全面的に排除することができる。
2 項:保険者は、発生原因に応じた方式により、剰余金配当を実施しなければならない;他の同様の適切な配当原則を合意することはできるものとする。商法典 268 条 8 項の意味での金額は、この限りではない。
3 項:保険者は、評価準備金を毎年新たに確定しなければならず、かつ発生原因に応じた方式により計算して割り当てなければならない。契約終了時に、この時点で確定されるべき評価準備金額の半額が配当され、保険契約者に支払われるものとする;このときより前に配当することを合意することはできるものとする。保険の義務の長期の履行可能性を確保するための監督法上の規定、とくにドイツ保険監督法 89 条、124 条 1 項、139 条 3 項と 4 項、140 条及び 214 条(資本設備に関する規定)は、抵触することなく適用される。
4 項:年金保険においては、第 3 項第 2 文の基準時は、積立期間の終了時とする。
2.2.1. 法案理由13
連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決を受けて成立した保険契約法 (VVG)153 条(剰余金配当)は、法案理由書によれば、同判決の「適切な剰余金配当」原則に合致しているという。
2008 年保険契約法制定以前、剰余金配当に関する保険契約法に規定はなく、保険監督法も保険者に剰余金配当を義務付ける規定があるわけではなかった。当時の状況として、剰余金配当実施は、約款を通して、保険者の自主的な判断による。
現在の実務では、保険会社は競争にさらされていることから、剰余金配当について契約で定められているのが通例である。もちろんその場合には、保険者は、とくに保険監督法の規定を遵守しなければならない。
VVG153 条 1 項は原則として保険契約者に剰余金配当請求権があることを定めている。保険者は、剰余金配当を行わない契約では、明示的に保険契約者に注意喚起しなければならない。剰余金配当を行わない合意が欠けている場合には、VVG153 条の基準に基づき保険契約者には剰余金が配当される。従来の実務では、剰余金はもっぱら年度末決算書から明らかにされた剰余
13 BT-Drucks. 16/3945, S.95-97; 日本損害保険協会・生命保険協会編 新井修司・金岡京子訳『ドイツ保険契約法( 2008 年 1 月 1 日施行)』。
金に関係付けられていた。新しい規定によっても、年度末決算書の剰余金は保険契約者への剰余金配当の範囲に関して一義的な根拠となる。しかし、さらに保険契約者は、連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決に従い、時価計算によって発生する評価準備金14から配当されることになる(剰余金配当の概念の拡張)。この評価準備金は、1 項に基づき保険契約者に帰属する剰余金配当の一部である。このことは、同判決によって確定された原則に合致している。契約終了時に配当されるべき剰余金の確定の際に、保険契約者の保険料支払いにより形成されてきた財産価値が適切に考慮されることを保障するために、評価準備金の配当は、適切であり、かつ必要でもある。
評価準備金の配当を定めている VVG153 条 3 項 1 文により、評価準備金は、年度ごとに新たに確定されなければならない。この確定は、保険会社の計算書作成命令 54 条の規律に基づき決定される。計算上の分配のため、発生原因に応じた配当方式が用いられるべきである。保険契約者は、年度ごとに自分に対する評価準備金の分配について、情報提供されるべきである。
保険契約者は、割り当てられた準備金の配当請求権を得る。VVG153 条 3項 2 文により、満期または解約による契約終了時にはじめてその配当請求権を得る。保険者によって契約終了時に算出して確定される金額が基準となる。この金額のうち半分が、契約を終了する保険契約者または受取人としての第三者に支払われなければならない。他の半分は、保険者の下に残される。このことにより、保険会社のいわゆる含み益(秘密準備金) は、資本市場の変動を調整するためのリスクバッファーとして重要な機能を与えられている。半分を分配することにより、連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決における適切な配当原則が考慮されている。すなわち、剰余金配当の新しい規律は、契約関係から離脱する個々の保険契約者の利益だけに従って定められてはならず、危険・利益共同体としての保険契約者の利益をも考慮しなければならない。
2.2.2. 保険契約法 153 条に対する評価
法案理由書によれば、保険契約法(VVG)153 条(剰余金配当) は、連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決の「適切な剰余金配当」原則に合致して立法されているという。それは、保険契約者の保険料支払いにより形成されてきた財産価値が適切に考慮された結果、契約終了時に配当されるべき剰余金の確定の際に時価計算によって発生する評価準備金が配当されるからであるという。
年度ごとに新たに確定される評価準備金は、保険会社の計算書作成命令
14 Verordnung über die Rechnungslegung von Versicherungsunternehmen (Versicherungsunternehmens- Rechnungslegungsverordnung - RechVersV)計算書作成命令 54 条。
54 条の規律に基づき決定される。この規律は、資本投資の価値を時価評価で示さなければならないというものである。土地およびそれと同等なもの以外の資本投資の場合、保険会社の計算書作成命令 56 条により、高くともその実現見込みのある価値は、保守主義の考慮の下で評価されなければならない。 VVG153 条 3 項では、保険会社の財務の安全性を確保するために保険監督法の規定が優先的に適用される構造になっており、保険契約者の剰余金配当請求権の形成、内容等について保険監督法および監督庁が支配する。
その上で、満期または解約による契約終了時、保険者によって算出された金額のうち半分が、契約を終了する保険契約者または受取人としての第三者に支払われる。残りの半分は、保険者の下に残される。
この点、なぜ半分なのか、なぜ全部配当されないのか、といった議論もあったが、保険会社の自己資本による資産形成も一部はあるうえ、保険会社のいわゆる含み益(秘密準備金)は、資本市場の変動を調整するためのリスクバッファーとして重要な機能を与えられているという理由から、いわば妥協が図られた。この妥協にもかかわらず、「適切な配当原則」が考慮されたので、判決に合致するものとして、2008 年保険契約法の立法者は判断している。しかし、それが本当に合致しているのか、検証されてこなかった。適切な配当原則の内容が VVG153 条の規定内容で尽くされているのかは、明らかではない。このたび、 2014 年生命保険改正法をきっかけにして、被保険者同盟が訴訟を提起することによって、VVG153 条に対する検証作業になろう。
そして、注目すべき点は、剰余金配当の新しい規律が、契約関係から離脱する個々の保険契約者の利益だけに従って定められてはならず、危険・利益共同体としての保険契約者の利益をも考慮しなければならないという点である。まさに、中途解約する者の利益は、保険契約者集団全体の利益に劣後するこ とが述べられている。もっとも、中途解約者の利益が劣後することの意味について、保険契約法が中途解約するという特定の保険契約者の利益の確保を定めた規律ではないということに基づくのか15、あるいは被保険者・保険契約の履行可能性を確保することこそ優先するために(保険監督法の法目標)、契約 を満了する契約者集団に16 劣後することに基づくのかが不明確である。もちろん、今日の長期の低金利の環境における中途解約者への優遇は許されない という観点は見られない。
15 特定の保険契約者の一つとしての中途解約者か、あるいは特定性のない保険契約者全体かという区別。
16 中途解約者は、契約の長期履行可能性確保の法益から外れるから保護が劣後するという区別。もっとも、契約終了時には、すべての保険契約者が最終的には個々の保険契約者ということになる。
2.3. 2014 年生命保険改正法17
「2014 年生命保険改正法」(Lebensversicherungsreformgesetz -LVRG)の正式名称は、「生命保険の被保険者のための安定的かつ公平な給付保障についての法律」(Gesetz zur Absicherung stabiler und fairer Leistungen für Lebensversicherte)18である。
本法は、株主への保険会社による配当の禁止19 、保険事業費の透明性向上および危険剰余金の配当率の引き上げなどの内容をパッケージで盛り込んでいるが、本法の主な特徴は、低金利の環境に対処するため、剰余金配当の制限を規律したものである。
本法により、保険監督法の留保条項に基づき、約款改訂といった契約法上の措置を講じることなく既契約に対しても適用される。
本法の剰余金配当に関する改正の内容は以下の通りである。
剰余金配当に関して、「評価準備金からの配当規制は、残っている保険契約者に約束した保障の確保に必要な限り、中途解約する保険契約者への評価準備金の配当は限定される」として、保険監督法(VAG) 56a 条(現 139 条) 1 項、3 項および 4 項で定められている20。
1項:保険契約者の剰余金配当のために定められた金額は、保険契約者に直接配当されない限り、貸借対照表の配当準備金に積み立てなければならな い。
3 項:直接的あるいは間接的に保険企業によってなされた固定利息の投資と利息保証事業からの評価準備金は、保険契約法(VVG)153 条による評価準備金からの保険契約者への配当に際して、VAG 56a 条(現 139 条)4 項による利息保証付き保険契約における万一の財務上の安全のための必要を超える場合に限り、考慮することができる。
4 項:予定利率保証付き保険契約における財務上の安全のための必要は、各保険契約の財務上の安全のための必要の総額であり、その保険契約に標準となる計算利率が、評価準備金の算定の時点で標準となるユーロ・利息スワップレート(Euro-Zinsswapsatz)21 (参照利率)を超えている状態である(受取利
17 BGBl. 2014, Teil ⅠNr. 38, 06.08.2014. S.1330. 邦語文献については前掲注5 。
18 BGBl. 2014, Teil ⅠNr. 38, 06.08.2014. S.1330.
19 決算の利益は、保険監督法(VAG) 56a 条( 現 139 条) 4 項による保険会社の万一の財務上の安全のための必要を超える場合に限って、配当される。 20 BGBl. 2014, Teil ⅠNr. 38, 06.08.2014. S.1330; Artikel 1 (Änderung des Versicherungsaufsichtsgesetzes.
21 http://finanzen.handelsblatt.com/5786089/swap-eur-10-jahre によれ
ば、2017.6.21.現在、0,735 である。
息の発生)。保険契約の財務上の安全のための必要は、保険数理上の受取利息の考慮により評価された保険契約の利率義務であり、責任準備金を減らす。
2.3.1.法律の目的設定と必要性22
法案理由書によれば、長く続く低金利の環境が、保険契約者に約定の利息保証をするという民間の生命保険会社の能力を中長期的に脅かすとして、保険契約者保護のため、以下のように述べられる23。
生命保険者に対する法的な規律は、長く続く低金利の環境のリスクには十分には対応していない。とくに、貸借対照表上、および保険企業の支払い能力に関するこれらのリスクはかなりの時間の遅れでしか示されない。そこから、中長期的に保険契約者の約定の保障の履行のために必要になる財産が短期的に流出するかもしれない。そのような流出は、とくに株主への高すぎる配当、保険企業の高い事業費あるいは途中解約する保険契約者というわずかな人のために、契約期間満了まで残される多くの保険契約者にとって負担になる経済的に不適切な剰余金配当の算定によって生じる。このような問題について、保険契約者保護のための早期の措置を講じることが示される。優先的目的は、経済的に不適切な保険者の財産からの中期的な流出を止めて、資金が保険契約者の請求権の履行のために活用されることを確保することである。
中途解約する保険契約者への評価準備金の配当は、保険会社によって積み立てられた準備金が現在の低金利によって、契約満了まで残される保険契約者への保障された約束を果たすには足りない限り、制限される。それでもって、連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決に応じて、危険団体の構成員である保険契約者間の利益の調整が図られる。現状では、これまでの規定が、将来にようやく支払いがなされる保険契約の保険契約者の利益に対して、保険関係から今脱退する保険契約者の利益を一方的に優先している。
VAG 56a条(現139条)1項は、決算利益(剰余金)の配当は、会社の財務上の安全のために必要なものを超える限りにおいて認められる。それにより、現状の市場の低金利により保険契約の履行に必要な会社からの資金が流出しないことになる。評価準備金からの保険契約者への配当が会社の財務上の安全のための必要により制限される限り、本規定は、決算利益(剰余金)配当もそれに応じた金額まで認められないという効果を持つ。この方法に基づいて、脱退する保険契約者と保険会社の所有者が協働して残される保険契約者の保障の確保のために寄与する。
22 BR-Drs 242/14, S. 1, 17; BT-Drs 18/1772, S.1, 19.
23 BR-Drs 242/14, S.18, 20; BT-Drs 18/1772, S.20, 22.
VAG 56a条(現139条)3項は、VVG153条(剰余金配当)を明確に定める。もっぱら保険契約法の従来の規定は、実際の適用において極めて困難であった。その解決には、金融市場の現状から(低金利の局面)、もはや猶予はな
い。とくにVVG153条3項3文の評価準備金からの保険契約者への配当に関する監督法上の留保はさらに具体化される。資本装備に関する従来の保険監 督法上の規制は、VVG153条3項3文の規定により影響を受けない。保険契約者に対する義務の履行可能性の確保のため、利息保証付き保険契約の安全のために必要な金額は、評価準備金からの途中解約する保険契約者への配当を除かなければならない。しかし、財務上の安全のための必要は、とくに利息保証の穴埋めのために一定の確定利息付有価証券と利息保証事業について(場合によっては)保有する評価準備金から差し引かれることが許される。
利息保証事業は、現実の財産の存続が為替や利息変動リスクに対して、すべてあるいは一部、保護されるものである。このような事業は、すでにVAG7条2項(アウトソーシング:保険会社と役務提供者との間での役務提供や活動についての取り決め)のなかでテーマとされ、それについて発せられた連邦金融監督庁回状の中で定められている24。株式と不動産についての評価準備金からの保険契約者への半額配当は、現状のまま影響を受けない。
財務上の安全の必要のために差し引きをしない場合、このような配当規定は、経済的に不適格である。なぜなら、それは低金利の結果の一部しか考慮しないからである。確かに低金利によって短期的な評価準備金は実現されえたか もしれない。しかし同時に、保険契約者の利息保証のために資金を融通する必要性も高まる。この点について、評価準備金からの配当規制は、保険の義務の履行を危殆化しないために考慮されなければならない。それにより、連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決25に応じて、危険集団内の保険契約者間の利益の調整がなされる。現状では、現行の規制は実際に保険関係から脱退する者の利益が将来にわたり保険契約にとどまる者の利益よりも一方的に優遇している。
VAG 56a 条(現 139 条)4 項は、どのように財務上の安全のための必要が具体的に規定されるべきか定める。それは、予定利率保証付き保険契約からの利息義務の 2 つの異なる利率で算定された価値の相違から生じる。財務上の安全のための必要の算定について、資本投資の価値と同じ資本市場の条件に合わさなければならない。これにより、資産と負債の適切でパラレルな評価が可能になる。
24 BaFin-Rundschreiben 3/ 2000, S.3, 19.10.2000. 利息保証事業は、拘束財産の超過コストが生じうることなしに、既存の財産価値について為替あるいは利率変動リスクに対する保護に資する場合には、VAG7 条 2 項 2 文により許される。
25 BVerfG, Urteil vom 26.07.2005, NJW 2005, 2363.
金融委員会勧告では以下のとおりである。「法案に規定された措置によって保険契約者は何か(権利)が奪われるということはないということである。むしろ、生命保険は保険団体であり、保険団体を守るということが重要である。それは、何か連帯でも行わなければならない。」
2.3.2. 評価準備金に関する議論の概要26
VVG153 条による評価準備金とそれに関する議論の概要について説明する。評価準備金は、秘密準備金ともいわれ、有価証券の市場価値がその取得価額を超える場合に生じるものである。これは、利率が下がるときに、固定利率の有価証券に生じる。高い利率を伴う、低金利の状況になる以前に取得した有価証券の価値は上がる。現在の低金利の状況は国債のような固定利率の有価証券の評価準備金は高く跳ね上がる。投資家がそのような有価証券を償還時期まで保持する場合、投資家はそのままの(高い)利息の支払いを受ける。 この価値は、有価証券にしか増加しない。
評価準備金が議論になっている理由は、2008 年保険契約法改正以来、生命保険者は、満期となる契約や解約された契約に対して存在する評価準備金の半額分の配当を義務付けられるようになったことから始まる(VVG153 条 3項)。当時の法改正の焦点は、一義的には株式に対する秘密準備金であった。それにもかかわらず、固定利率の有価証券も規制に取り込まれた。欧州中央銀行が公定歩合(基準金利)を歴史的にも低いレベルに下げて以来、評価準備金は固定利率の有価証券に対してそのような(高い)利率にはならない。それにより保険者には経済的不合理な状況が生じた。保険者は、積み立ててもいないし、稼いでもいない 10 億ユーロもの特別な配当を強制される27。そのため、保険者は、顧客のために長期の利息の約束を果たすためにも、固定利息の有価証券を満期まで保持したいにもかかわらず、秘密準備金の現実化をしなければならず、高い利率の有価証券を売却しなければならない。
2.3.3. 2014 年生命保険改正法に対する評価
2014 年生命保険改正法により、低金利の環境に対処するため、保険者の財務上の安全を高め、剰余金配当の制限を規律した。VVG153 条 3 項による有価証券の市場価値がその取得価額を超える場合に生じる評価準備金からの資金の流出を防ぐため、財務上の安全のための必要として、利息追加準備金への積み立てが規律された。予定利率保証付き保険契約における財務上
26 ドイツ保険事業者団体(GDV)の HP12.03.2014.
27 この点は、わが国の生命保険についての法状況に大きな違いがあり、保険会社の財政基盤に強い影響を与えていない。
の安全のための必要は、各保険契約に標準となる計算利率が、評価準備金の算定の時点で標準となるユーロ・利息スワップレート(参照利率)を超えている状態である。それについて、利息追加準備金と財務上の安全のために必要の算定との協働に関して大きなゆがみの危険が指摘された。とりわけ、参照利率を下回る予定利率・標準となる計算利率である場合には、強制的に積み立てなければならない利息追加準備金は、確かに低金利状況に対処するために必要であるといわれたが、利息追加準備金の取り崩しに関する規定の欠如も指摘されており、必要以上に保険契約者の資金が過剰に内部留保されることにつながるとの指摘もある。実際、保険会社にとっても、現在の低金利の状況において、積み立てが 20 億ユーロ以上も積み立てられている利息追加準備金をこれ以上維持し、資金を積み増ししていくことは負担になっている。そもそも長期の生命保険契約の履行を確保するために、あらゆるリスクを想定して保険料の算定に織り込まれていた安全割増の還元でさえも、現在の低金利の状況では予定利率が参照利率を上回ることはあり得ず、いかなる経営の効率化によっても、保険契約者への剰余金配当は制限される。
確かに保険監督法および保険会社は、保険契約の長期の履行可能性を確保することが第一義的な課題である。しかし、中途解約する保険契約者が、満期まで契約を継続する保険契約者を脅かす悪者であるとして、保険契約者間を分断し、異なる取り扱いをするのは、本当に正しい在り方なのであろうか疑問である。また、中途解約する保険契約者が、約定の剰余金配当などが履行された後、株主配当の局面が出てくるにもかかわらず、「高すぎる配当を得ている株主」と同列に扱われ、内部留保を高めるために協働させられることについても疑問である。
本来、中途解約する保険契約者も、保険契約法・保険監督法で認められた算定方法により算出された剰余金配当を受ける権利を有しているはずである。解約権行使が、たまたま低金利下における確定利息付有価証券の含み益を高く評価することになってしまったに過ぎないともいえる。確かに、中途解約者は、他の契約を継続する保険契約者の負担で運用利益以上のものを得ることから、利益のつまみ食いとか、平等取扱い原則に反するとの指摘もあるが 28、養老保険には、保障的要素のみならず、貯蓄的要素プラスアルファの要素も兼ね備えられており、解約によりある種の投資収益を得ることを否定されるものではない。なぜなら、法の中立性が保たれないからである。2014 年生命保険改正法は、剰余金配当という出口での調整である。これに対して、契約の入り口の段階での調整は行われていない。すなわち、現在のように低い予定利率の時期に加入する保険契約者と過去の高い予定利率の時期に加入した保険
28 BaFin, Annual Report 2012,S.15; Brand, Baroch Castellvi, VAG- Kommentar, § 138 Rn. 20.
契約者との公平性は保たれていない。過去の高い予定利率の保険契約の履行可能性を確保するために、新規の低い予定利率の時期に加入する保険契約者が必要以上の負担をしている状況においては、これらの保険契約者間において平等取扱いは行われていない29 。もちろん、加入した時期の経済状況によるのであるから、特段の配慮は必要ないというのであれば、どの時期に保険に加入するのか、どの時期に保険関係を解約するのか、あるいはどの時期に満期を迎えるのかについても、法は中立であるべきであって、法改正による契約途中での契約条件の変更は平仄を欠くのではないかとの疑問がある。
その一方で、修正なしに従来通りの配当を実施することこそが、保険契約者間の平等取扱い原則に違反し、憲法違反であるという見解もある30。すなわち、保険監督庁・保険監督法による保険事業の安定化のための機動的な対応の必要性も考慮されるべきである。
もっとも、その影響は保険監督法にはとどまらない。本法は、保険監督法等の改正を通して、VVG153 条の剰余金配当について、既存の保険契約の条件変更となる保険契約法の実質的に変更したといえるのではないか。すなわち、保険の長期の履行可能性を確保するための資本装備に関する保険監督法上の諸規定は、抵触することなく適用されるという VVG153 条 3 項 3 文により、保険監督法が保険契約法の規定を留保しているという特異な構造であり、配当すべき剰余金の算定方法の変更という保険監督法の改正が、剰余金額の減少につながるため、「評価準備金の半額配当」という保険契約法の規律の実質的な変更になるといえる。確かに、評価準備金の半額配当という規律自体の変更ではなく、また中途解約者の利益について、保険契約者全体の契約履行可能性の確保という利益には劣後するとされる連邦憲法裁判所 2005年 7 月 26 日判決および VVG153 条の法案理由書に違背するものではないと もいえる。しかし、その利益の縮減の程度がどこまで許されるのかは明らかではなく、改めて適切な剰余金配当とはいかなるものかが問われることになる。
それでは、このような保険監督法は、どこまでの裁量を有しているのであろうか。保険監督の優先的目的は、保険契約者および保険給付の受益者の適切な保護である(VAG 294 条 1 項)。保険監督の主たる目的は、保険契約者および保険給付の受益者(保険金受取人)の保護であり、この保護は、保険契約の履行可能性を確実にすることである。そこから、保険監督法は、とりわけソルベンシー監督である31。
保護の概念について、ドイツの立法者は保護の概念を指令(Art. 27 RL 2009/138/EG)から直接取り出した32。他方でこれは、考慮の根拠の手がかりの
29 Brand, Baroch Castellvi, a.a.O., § 138 Rn. 20.
30 Brand, Baroch Castellvi, a.a.O., § 139 Rn.17.
31 Brand, Baroch Castellvi, a.a.O., Einführung Rn.3.
32 Brand, Baroch Castellvi, a.a.O., § 294 Rn.12-13.
中で解釈できる。「考慮根拠」(Art. 16 RL 2009/138/EG)では、単に保険契約者と保険金受取人の「適切な保護」に努めるというものである。この価値は、指令の完全な調和という特徴に基づいて国内の立法者を拘束する。そして、保険監督庁は保険契約者の利益を最大限、すなわち最良に実現することを保障する必要はなく、保険契約者の利益が不適切に侵害されない程度にとどまるという「効率化禁止」が適用されることがまさに示されている。加盟国の国内監督法はこの禁止に違反してはならない。従って、保険契約者の利益を「必要最低限」守ることのみ義務づけられる。
とはいえ、適切な剰余金配当とはいかなるものかという問いに対して、保険監督法では適切な保護の提供という、トートロジーになっている。連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決で求められた適切な剰余金配当原則は、適切な保護に努める保険監督法の裁量に委ねられる。従って、どのような保護が「適切」といえるのか、保険制度全体のためには、個別の保険契約者の利益がどの程度制限されることが許されるのかという問題は、明らかとはいえない。
3.連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決の内容の明確化を求めた裁判
3.1. デュッセルドルフ区裁判所 2016 年 8 月 11 日判決33
2014 年生命保険改正法を受けて、改めて適切な剰余金配当とはいかなるものか、連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決の内容の明確化を求めて提訴された裁判の状況を紹介する。
3.1.1.事実の概要
原告は、譲渡された権利から生命保険契約の評価準備金からのより多くの配当支払い請求権を主張する。
Dr.T(譲渡人)は、1999 年 9 月 1 日以来、被告の下で 2014 年 9 月 1 日に取り決めにより中途解約された積み立てられた生命保険( 保険証券番号 LV8470469)を有している。保険給付として、とくに保証された生存積み立ては、引渡請求の時点において 46,585 ユーロの金額で同意された。
2014 年 7 月 1 日の書面において、被告は譲渡人に保険給付 50,274 ユー ロ 17 セントの金額を通知した。その金額は、46,585 ユーロの保証された保険金額、86,782 ユーロの剰余金配当金額および 2,821 ユーロ 35 セントの評価準備金からの配当金額との合計金額である。評価準備金からの配当に関して、被告は、これが最終的に支払期日で初めて確定し、場合によってはさらに少
33 Amtsgericht Düsseldorf, Urteil vom 11.08.2016 (50 C 35/16).
なくなりうるということを示した。
2014 年 8 月 22 日の書面において、被告は譲渡人に最終的に 47,601 ユー
ロ 77 セントの保険給付を行った。2014 年 8 月 7 日に施行された 2014 年生命保険改正法に基づいて、その金額は評価準備金からの配当金をさらに 148 ユーロ 95 セント追加して見積もられた。
譲渡人は、被告が 2014 年 12 月 5 日の書面で追加説明したことの検査のために金融監督庁に問い合わせた。金融監督庁は検査の結果を譲渡人に 2014 年 12 月 12 日の書面で伝えた。
2016 年 2 月 9 日の譲渡契約により、譲渡人は被告に対する争いとなっている生命保険契約からのすべての権利と請求権を原告に譲渡した。
訴訟では、原告は給付されなかった評価準備金からの配当金として 2,672 ユーロ 40 セントの差額の支払い、および予備的に譲渡人に生じた剰余金配当と評価準備金に関する情報提供を要求する。
原告は広範な権利に関する詳述の中で、2014 年生命保険改正法の規律が憲法違反であることを主張する。同時に、VVG153 条 3 項の規定についても、被告が評価準備金からの被告によって計算された配当の根拠について調査することを主張した。そこから、具体的規範審査手続きを取らなければならない。
原告は、以下のことを被告に命じるように申し立てた。
原告への 2,672 ユーロ 40 セント、および訴訟継続からの当時の標準利息
5%を付した金額の支払。
なお、予備的に①原告に 2014 年 9 月 1 日に生命保険契約(保険証券番号 LV8470469 ) の経過時点で譲渡人に生じた剰余金およびその計算根拠を含む評価準備金(剰余金配当)からの配当持分の数理上の計算に関する情報の提供、②原告に訴訟継続からの当時の標準利息5%を付した剰余金配当からすでに被告によってなされた支払いを差し引いた当該情報から生じる金額の支払。
被告は、訴えを棄却することを申し立てた。
被告は、広範な詳細な説明の下で、被告によって適用された規律は憲法に適合しており、原告の支払い請求も情報提供請求も存在しないと主張する。
そのほかの事実と争点に関して、当事者の主張は相互の添付書類に記される。
3.1.2. 判決理由
訴えは根拠がないとして棄却された。
原告は、求める支払を請求することも、予備的に主張した情報提供請求とそこから生じる支払も請求できない。
2,672 ユーロ 40 セントの支払い請求は、BGB 398 条(債権譲渡)に関連して
VVG1 条(保険契約上の義務)及び 153 条 3 項 2 文(剰余金配当)に方向付けられる。主位的請求では、原告はまだ給付されていない、2014 年 8 月 7 日に施行された 2014 年生命保険改正法の規定を考慮せずに譲渡人に生じた評価準備金からの配当を請求する。被告は 2016 年 4 月 28 日の答弁の中で、この保険料の下では、2014 年 7 月 1 日の裁判外の書面の時点だけでなく、 2014 年 9 月 1 日の契約終了の時点においても、旧法律状況により計算され
る評価準備金からの原告の配当金 2,821 ユーロ 35 セントの金額になったかもしれないという。被告は実際には 148 ユーロ 95 セントの評価準備金からの配当を支払ったので、主張された差額 2,672 ユーロ 40 セントが残されている。
原告は、2014 年生命保険改正法の規定が憲法違反であり、かつ被告が評価準備金を現 VAG139 条 3 項(評価準備金からの配当)および 4 項(安全の必要)に関連して新 VVG153 条 3 項 3 文により高まる財務上の安全の必要性を考慮してより低く計算することを正当化できなかったであろうということから、支払い請求を根拠づける。しかし裁判所は、原告の憲法上の考えに共感する気にはならない、とくに、2014 年生命保険改正法の規定が憲法違反であり、かつ基本法 2 条(人権)と 14 条(所有権)に違反するということには納得できない。それにより、造作なく上記規定は適用できるし、かつ具体的規範審査の方法で連邦憲法裁判所に判断を仰ぐことはできない。すなわち、具体的規範審査のために必要なことは、裁判所が審査に付された規範の憲法違反について確信することである。
裁判所は、「VVG153 条 3 項の 2014 年生命保険改正法による改訂」について、立法者の法案理由を何ら問題なく論証のしっかりしているものとし、連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決の規範に適合するという。法案理由書は、以下のように述べる。
「3項は、VVG153条(剰余金配当)を明確に定める。もっぱら保険契約法の従来の規定は、実際の適用において極めて困難であった。その解決には、金融市場の長期の低金利という現状から、もはや猶予はない。とくにVVG153条3項3文の評価準備金からの保険契約者への配当に関する保険監督法上の留保はさらに具体化される。資本装備に関する従来の保険監督法上の規制は、 VVG153条3項3文の規定により影響を受けない34。保険契約者に対する義務の履行可能性の確保のため、利息保証付き保険契約の安全のために必要な金額は、評価準備金からの途中解約する保険契約者への配当を除かなければならない。しかし、財務上の安全のための必要は、とくに利息保証の穴埋めのために一定の確定利息付有価証券と利息保証事業について(場合によっては)保有する評価準備金から差し引かれることが許される。
34 「保険の長期の履行可能性を確保するための資本装備に関する監督法上の諸規定は、抵触することなく適用される」規定は、保険契約法の規定を留保している。
利息保証事業は、現実の財産の存続が為替や利息変動リスクに対して、すべてあるいは一部、保護されるものである。このような事業は、すでに VAG7 条
2 項のなかでテーマとされ、それについて発せられた連邦金融監督庁回状の中で定められている35 。株式と不動産についての評価準備金からの保険契約者への半額配当は、現状のまま影響を受けない。現実化した資本金額からの保険契約者への配当も影響を受けない。
財務上の安全の必要のために差し引きをしない場合、このような配当規定は、経済的に不適格である。なぜなら、それは低金利の結果の一部しか考慮しないからである。確かに低金利によって短期的な評価準備金は実現されえたかもしれない。しかし同時に、保険契約者の利息保証のために資金を融通する必要性も高まる。この点について、評価準備金からの配当規制は、保険の義務の履行を危殆化しないために考慮されなければならない。それにより、連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決36に応じて、危険集団内の保険契約者間の利益の調整がなされる。現状では、現行の規制は実際に保険関係から脱退する者の利益が将来にわたり保険契約にとどまる者の利益によりも一方的に優遇している。」
この法案理由書に基づき、立法者は裁判所の評価によれば、2014 年生命保険改正法の規定についての立法者の裁量の枠内で認められた事案と利益に適合した規定を作ったという。
原告によって異議を唱えられた規範の憲法適合性について、すでにデュッセルドルフ区裁判所 2016 年 1 月 12 日判決37も判決を下している。その裁判所は、詳細に、以下のように明確に述べている。
「VAG56a 条(現 VAG139 条)もしくは 2014 年生命保険改正法 1 条も、憲法違反ではない。
その限りにおいて、法治国家的な遡及効禁止に反するかが唯一考慮される。なぜなら、経過規程を定めない 2014 年生命保険改正法は、当該事案におけ るようにすでに場合によって何年も経過している契約を侵害するからである。
もっとも、憲法違反はここでは生じない。2014 年生命保険改正法は、経過中の保険契約に影響を及ぼすときに限り、いわゆる不真正の遡及効を有するに過ぎない。これに対して、非常に限定的な前提の下でのみ認められる真正な遡及効について、立法者が既に結ばれた事実関係もしくは安定した法的地位を脅かす場合には、反対される。
35 BaFin-Rundschreiben 3/ 2000, S.3, 19.10.2000. 利息保証事業は、拘束財産の超過コストが生じうることなしに、既存の財産価値について為替あるいは利率変動リスクに対する保護に資する場合には、VAG7 条 2 項 2 文により許される。
36 BVerfG, Urteil vom 26.07.2005, NJW 2005, 2363.
37 Amtsgericht Düsseldorf, Urteil vom 12.01.2016 (35C 160/15).
そのような憲法上の疑義は、2014 年生命保険改正法もしくはVAG56a 条(現 VAG139 条)には存在しない。法律の不真正の遡及効は原則的に認められ、その他の点では継続的な事実関係の規則の場合にはまず有効には回避できない。法治国家の原理は、市民を保護に値する方法で得た法的地位を原則的に事後的には意思に反して失うことから保護するだけである。それに対して、法律状況が何年にもわたって不変のままであるという信頼を保護するものではない。むしろ、立法者には、市民の(経済的な)期待が害されるかもしれなくても、現実の出来事に規律で対応しうる余地が残されなければならない。
法律の不真正の遡及効は、市民が個別具体的な場合に保護に値する方法で法律状況の永続を信頼し、かつその利益が比例性検査の中で立法者によって求められた規制の利益に勝る限りにおいて、ごく例外的に憲法違反として判断されることができる。
ここでは、原告の一定額の保険給付に対する保護に値する信頼は、認められない。むしろ、生命保険契約からの保険給付の額は、通常、満期支払時点で初めて計算することができ、考慮すべき評価準備金の額は、―契約で保証された給付が 2014 年生命保険改正法によって変わらないままである―当然、市場による変動に依拠する。これは、(保険契約者としての原告にも)周知のことであり、被告はもう一度明確に 2014 年 7 月 1 日の書面で保険給付の仮計算のなかで指し示した。書面は以下のことが記載される。「給付に含まれる評価準備金からの配当は、満期支払時点で初めて最終的に確定する。それは場合によっては、より低くなりうる。」このような背景から原告が保護に値する方法で評価準備金の一定の算出、あるいは被告からの正確な支払いを信頼すべきであったということは、認められない。
もっとも、そのような(原告の)保護すべき信頼が認められたとしても、それはいずれにせよ提示された比例性の検査の枠内で立法者の規制の利益に優先しないであろう。VAG56a 条(現 VAG139 条)もしくは 2014 年生命保険改正法 1条は、将来の給付請求権を有する保険契約者の利益の全体の中で生命保険者の給付能力を確保するという目的に資する。これは、その限りで判断の余地が認められる立法者の見解により、市場において長く続く低金利を背景に必要のように思われる。なぜなら、さもなくば将来的なさまざまな生命保険者も しくは当該部門全体が場合により金融上の困難に陥るからであり、結果として、将来満期になる保険給付請求権を有する保険契約者が倒産リスクを一人で抱えたであろう。それには、長年にわたる契約による保険料の支払いにより、よ り多くの保険給付(2,672 ユーロ 40 セント、約 5.5%)を受け取るという原告の利益が対立する。その限りにおいて、それぞれの利益の考量に際して、保険契約者全体の保護のために生命保険者の給付能力を維持し、その際には、 VAG56a 条(現 VAG139 条)による評価準備金を考慮に入れる限界が等しくすべての保険契約者にかかわり、それにより全体に対する「縮減」が分担されると
いう立法者の規制目的は、( 原告) サイドの比例的なわずかな価値喪失に対抗する明確な保護の価値があるように思われる。」
予備的請求である段階の訴えは、―情報提供と情報提供から生じる金額の支払― 同じく認められない。デュッセルドル地方裁判所( 保険担当部) は、 2016 年 6 月 28 日の一部判決で同様の情報提供請求の申立を認めなかった。当該裁判所が明らかにした判決理由は、以下のように述べる。
「連邦通常裁判所 2015 年 12 月 2 日判決の判旨は、情報請求の訴えの申立に関する文言により根拠のないものとして棄却する。連邦通常裁判所は、保険契約者が保険者から単に情報のみを請求できるのに対して、計算の提示を要求できないという。なお、これに関して、裁判所は「申立のほかの形式」について述べた。保険契約者は、これまで保険者の事業報告書からも存在しない、あるいは一般的にアクセスできることからは役に立たないであろう個別に必要とする情報を補足的に提示しなければならない。場合によっては、保険者の正当な秘密保持の利益は、考慮されなければならない。
その文言により情報提供に向けられた申し立ては、実際上、計算の提示に向けられている。他方、「持分の数理上の算定に関する情報提供」という表現は理解できない。確かに、「情報提供」という概念は使われている。しかし、「数理上の算定に関する」という表現が示すように、計算方法の提示が重要であり、そして、それは原告の具体的な持分に関わる、まさに計算の提示が重要であ る。
原告が(他の事柄から作り出されることのできない)一定の事実に関する具体的な情報を示さなかったので、一定の情報の提供について被告に命じることはできない。
原告が情報( 計算提示) 請求をしなかったので、その計算の提示から生じる支払い請求権も有さない。」
3.2. デュッセルドルフ地方裁判所 2017 年 7 月 13 日判決38
デュッセルドルフ区裁判所 2016 年 8 月 11 日判決の上級審である。 訴えは棄却された。
3.2.1.判決理由
「VAG 56a 条 3 項、4 項(現 139 条)と VVG 153 条 3 項は、合憲である。憲法 2 条 1 項と同 14 条 1 項に定められた客観的な保護任務に違反しない。」
「保険契約者の資金で稼得された剰余金の持分の半分の配当請求は、支
38 LG Düsseldorf, Urteil vom 13.07.2017 (9 S 46/16).
払いの時点までは、『発生中』の権利にすぎない。この権利は、保険契約者への剰余金の分配によってはじめて固有の権利になり、この時点から初めて完全な範囲で保護される権利として現れる。そこまでは、憲法 2 条 1 項と同 14 条 1項の客観的な保護(そこからは、仮の法的地位の保護についての予防措置を講じる立法者の義務があるのみ) の考えに関してのみ保護は存在する。立法者には、この客観的は保護義務の形成に際して、ある程度の裁量の余地がある。」
「立法者は、2014 年生命保険改正法によって導入された変更により、当事者の利益に反することについて詳細な考慮を行った。立法者には保護義務の履行に関して裁量の余地の行使の際、考慮に過ちがあったということ、比例原則がもはや保たれていないこと、あるいは要求しうる限界を超えたのか、認められない。」
「憲法上の遡及効禁止にも反していない。ここで示されたのは、いわゆる「真正の遡及効」ではなく、一定の前提の下で許される、いわゆる「不真正の遡及効」である。憲法上禁止される真正の遡及効は、創設された規定によって、過去に存在し、かつすでに締結された法律関係も事後的に変更されたであろう場合に存在する。新しく創設された規定の法的効果がその公布後に初めて生じるとすぐに、いわゆる『不真正の遡及効』が生じる。そのように、VAG 56a 条 3項、4 項(現 VAG139 条)と VVG 153 条 3 項に関して生じる。これは、発効の時点でまだ終了していない契約に関してのみ効力が及ぶ。これについて、ミュンヘン高等裁判所 2017 年 1 月 31 日判決39が、以下のように判示した。」
「そのような不真正の遡及効は、原則的に認められないことはない。というのは、従来の法律状況の継続のための完全な保護を認めることは、公共の福祉を義務付けられた立法者を重要な領域で委縮させるであろうし、法規の信頼性と生活関係の変化に関する変更の必要性との間の利害対立を信頼できる方法で法規の調整能力の負担で解決できなくなるであろうからである。とりわけ憲法上の信頼保護は、市民をすべての失望から守るほどには広くない。保護に値する特別な局面が生じない限り、現行法が将来的に不編のまま継続するという単なる一般的な期待は、特別な憲法上の保護に役立たない。しかし、立法者は、将来の法的効果について過去の事情に結び付けられる限り、憲法上必要な信頼保護を必要最低限の程度で負担しなければならない。規律によって追及される一般的な利益と法律状況の存続に対する個別の信頼は、考量されなければならない。比例性原則は保持されなければならない。不真正の遡及効は、法律目的の促進に適切かつ必要であり、かつ失望した信頼の重要性と法律変更を正当化する原則の重要性・緊急性との総合考量により過大さの限度が守られている場合に限り、憲法上および法治国家上の信頼保護の
39 OLG München, Urteil vom 13.01.2017, VuR 2017, 279.
比例性原則に適合する。」
「この法の理解は、下級審に従う。それにより、2014 年 8 月 1 日の 2014 年生命保険改正の新規律により創設された規制に異議はない。立法者が改正によって公共の福祉の重要な利益を追求するということは顧慮しなければならない。低金利の結果として、いくつかの生命保険者は契約で約定した予定利率をもはや得ることができないであろうという具体的な危険が存在する。その際、評価準備金が契約関係の終了時に初めて実際上の金額において示されることができ、保険者が保険契約者にそれについて通常示すということも考慮されなければならない。それに応じて、保険契約者は、予測に基づく金額における評価準備金からの配当を受けるということを信頼してはいけない。」
「原告には予備的請求である情報開示請求権も属しない。連邦通常裁判所 2015 年 12 月 2 日判決により、保険者によって契約終了時に支払われた評価準備金があまりにも少なく、保険契約者にはより多くの金銭が帰属するということについて、保険契約者は説明義務と証明義務がある。もっとも、保険契約者の情報開示請求権は、BGB242 条による信義則の観点からの根拠に基づいている。保険契約者が自己の権利の存在と範囲に関して許されうる方法では不確定であるとき、かつ義務者( 保険者?) が不確定の除去のために必要な情報を困難なく与えることができるとき、保険者は信義則により例外的に情報提供義務を負う。しかし、情報提供請求は、BGB259 条 1 項による債務を負っていない計算を報告することにならない。」
3.3. 連邦通常裁判所 2018 年 6 月 27 日判決4 0
LVRG は合憲であると判示した。
低金利のもとでの契約の履行可能性を確保する必要があるという、生命保険改正法の立法理由を示す。そのうえで、危険剰余金配当の引き上げなどさまざまな改正点の集合というパッケージから成り立っている同法について、立法者は評価・裁量の余地の中でさまざまな利益を十分に考慮しているとされる。
下級審の判決の内容と変わるものではない。
3.4. 判決に対する評価
中途解約者である原告は、2014 年生命保険改正法により剰余金配当が予想よりも減少したことから、憲法違反である同改正法を考慮しない算定に基づいて、生命保険契約の評価準備金からのより多くの剰余金配当の支払いを請
40 BGH, Urteil vom 27. 06. 2018 ( Ⅳ ZR 201/ 17).
求した事案である。
判旨では、金融市場の長期の低金利という現状から、実状に適合しない VVG153 条 3 項(剰余金配当)の改正がもはや猶予はないものという認識に基づいて、評価準備金からの配当規制を承認する。そして、保険契約の履行可能性の確保のため、中途解約者に一方的に優遇されている状況を是正するということは、立法者の裁量の枠内で認められた事案と利益に適合した規定であるという。すなわち、法律状況が何年にもわたって不変のままであるという信頼は保護されるものではなく、むしろ、立法者には、市民の(経済的な)期待が害されるかもしれなくても、現実の出来事に規律で対応しうる余地が残されなければならないという。そのため、2014 年生命保険改正法の立法者の裁量の枠内として、「財務上の安全のための必要」は認められる。さらに、VVG153 条
3 項では資本装備に関する保険監督法の規定は影響を受けないことから、保険監督法上の留保の内容がさらに具体化されたに過ぎないとしている。もっとも、デュッセルドルフ区裁判所 2016 年 8 月 11 日判決が「VVG153 条の改訂」と判示しているように、2014 年生命保険改正法は VVG153 条の事実上の変更といえる。
経済状況に応じて、契約の履行可能性の確保のための迅速な対応ということが、立法者の裁量として期待される半面、従来期待されてきた利益の侵害をどこまで許されるのか。その基準、範囲については明らかではない。確かに、 2014 年生命保険改正法では、「財務上の安全のための必要」という基準が定められているのだが、現在その問題点も顕在化しており、検証が必要な基準である。また、保険契約者間の利益の調整の必要性という 2014 年生命保険改正法の法案理由をもって、2014 年生命保険改正法の合憲性の根拠としているが、それはトートロジーである。また、現在のように低い予定利率の時期に加入する保険契約者と過去の高い予定利率の時期に加入した保険契約者との間では、過去の高い予定利率の保険契約の履行可能性を確保するために、新規の低い予定利率の時期に加入する保険契約者が必要以上の負担をしている状況においては、保険契約者間の公平性は保たれておらず、平等取扱いは行われていない。この点について、立法者は裁量権を行使しないのであろうか。
4.むすびにかえて
本稿では、低金利の環境において、生命保険契約の「適切な剰余金配当」とはいかなるものであるのかを探るため、沿革を踏まえて、最近の判決まで検討してきた。
立法者に対して「契約終了時に配当されるべき最終剰余金の算定に際して、配当付き養老保険において保険料の支払いによって生じる資産価値が、適
切に考慮されるための法的な措置」を講じるように義務付けた連邦憲法裁判所 2005 年 7 月 26 日判決を受けて、保険契約法に規律の存在していなかった保険契約者の契約上の請求権としての剰余金配当請求権が VVG153 条という形で立法され、上記判決に適合するものとされてきたが、2014 年生命保険改正法による VVG153 条の実質的な変更によって抵触しないのかという疑問が生じる。
2014 年生命保険改正法では、低金利の環境に対処するため、保険者の財務上の安全を高め、剰余金配当の制限を規律した。とりわけ、中途解約者は、他の契約を継続する保険契約者の負担で運用利益以上のものを得ることから、利益のつまみ食いとか、平等取扱い原則に反するとされた。それに対して、筆者は、中途解約する保険契約者が、満期まで契約を継続する保険契約者を脅かす悪者であるとして、保険契約者間を分断し、異なる取り扱いをするのは、正しい在り方なのであろうか疑問を呈した。保険契約者間の平等取扱いを立法根拠とするのであれば、過去の高い予定利率の保険契約の履行可能性を確保するために、新規の低い予定利率の時期に加入する保険契約者が必要以上の負担をしている状況に対する立法の対応がないにもかかわらず、出口にあたる中途解約者に対する規制のみが立法されたことに疑問を呈した。保険会社の財務事情もあるが、狙いやすいところへの規制という側面があるように思われる。そもそも、保険料の安全割増、比較的低い予定利率など保険事業にはバッファー機能があるはずであり、果たして、低金利の状況という外部要因がどこまで既存の生命保険契約の条件変更を許すことができるのかという疑問がわく。
デュッセルドルフ区裁判所 2016 年 8 月 11 日判決、デュッセルドルフ地方
裁判所 2017 年 7 月 13 日判決および連邦通常裁判所 2018 年 6 月 27 日判決は、2014 年生命保険改正法の合憲性を確認した。保険の長期の履行可能性を確保するための資本装備に関する保険監督法上の諸規定は、抵触することなく適用されるという VVG153 条 3 項 3 文により、保険監督法が保険契約法の規定を留保しているという特異な構造( 保険監督法の優先) により、裁量権のある立法者によって、保険監督法の留保内容が具体化されたに過ぎないという。
しかし、立法者あるいは保険監督法は、どこまでの裁量を有しているのであろうか。保険監督法の優先的目的は、保険契約者および保険給付の受益者の適切な保護である(VAG 294 条 1 項)。立法者は「適切な剰余金配当」のために、「適切な保険契約者の保護」を行うという大きな裁量を有する保険監督法に対して、果てしなき適切という基準を委ねている。筆者としては、適切な剰余金配当の基準なり、手掛かりをドイツ法から見出して、わが国の保険法に一石を投じたかったが、立法者あるいは保険監督法によるその時々に応じた機動的な対応という大きな裁量の下に委ねられている中で、「適切な剰余金配当」
という絶対的な基準を見出すことは困難であると思われる。
ドイツの状況を客観的に検証したとき、経済状況に応じて、立法者および保険監督法が機動的にかつ適切に対応するという体制があり、かつ、保険契約法 153 条 3 項(剰余金配当)には、保険監督法の留保条項、すなわち保険監督法の優先性が埋め込まれており、2014 年生命保険改正法は、その留保条項の具体化という機能を行使したということになろう。保険契約法と保険監督法のコラボレーションの重要性が確認された。
本稿は、公益財団法人かんぽ財団平成 29 年度の助成による成果である。