2を紹介された。その際、Dは、物件2は NTTの関連会社の借上げ物件なので空室になる心配はなく、場所的にも良い物件であり、通常2300万円のところ、特別に21 00万円で押さえていること、シミュレーションを見せ、頭金、住宅ローン、家賃収入などを比較して月々 8757円の持ち出しであることなどを説明した後、直ぐに売れてしまうなどと購入を急かした。その後、同年3月10日、Xは契約
最近の判例から
⑴−消費者契約法による取消し−
買主は、売主業者の不利益事実の故意の不告知により、「誤認」して契約したものであるとして契約の取消しを認めた事例
(東京地判 平24・3・27 ウエストロージャパン) 石原 賢太郎
不動産投資を勧められて2件の不動産を購入した買主が、重要事項の不告知、断定的判断の提供等をされたと主張し、売買契約取消しなどを求めた事案において、売主は客観的な市場価格を提示しておらず、非現実的なシミュレーションを提示し、月々の返済が小遣い程度で賄えると誤信させるなど、消費者契約法にいう重要事項について不利益となる事実を故意に告げなかったため、買主はそのような事実が存在しないと誤認し、契約を締結したものであるから、消費者契約法4条による取消しが認められるとした事例(東京地裁平24年3月27日判決 容認 ウエストロー
ジャパン)
1 事案の概要
⑴ Xは、会社の同僚Aから、マンション投資の話を持ちかけられ、平成21年2月12日、 Yの担当者B及びCと会い、マンション投資の話を聞いた。BとCは、マンション投資は家賃収入があって、それを住宅ローンの返済に充てるので損をしないことを強調した。
⑵ 同月17日、Xは、C及び上司Dと会った。その席で、物件1は通常3130万円であるが、会社に無理言って2840万円で押さえていること、頭金、毎月のローンの金額、家賃収入などから月々 7359円の保険と同様であり、仮に将来売却する場合、現在の物件価格から売却査定価格が10%低下したとしても、ローン残債を返して利益が出ることなどを説明され、急かされるままに仮契約を交わした。
⑶ 同月24日、D及びCと会い、Dから、物件1は高台にあって、場所的には良いところであると言われ、Xは、小遣いで何とかできるものと誤信し、契約1を締結した。
⑷ 同年2月末頃、XはDらと会い、物件
2を紹介された。その際、Dは、物件2は NTTの関連会社の借上げ物件なので空室になる心配はなく、場所的にも良い物件であり、通常2300万円のところ、特別に2100万円で押さえていること、シミュレーションを見せ、頭金、住宅ローン、家賃収入などを比較して月々 8757円の持ち出しであることなどを説明した後、直ぐに売れてしまうなどと購入を急かした。その後、同年3月10日、Xは契約
2を締結した。
⑸ 同年3月下旬頃、Xが他業者で簡易査定をしたところ、物件1が2000万円程度、物件
2が1400万円程度とされ、その後、不動産鑑定士にも物件1が1860万円、物件2が1460万円と評価された。
⑹ そこでXはCに対し、売買契約を解除したい旨申し入れたが、Cはいま解約するともったいないなどと言って解約に応じなかった。
Xは、消費者契約法4条1項、2項に基づき、契約1及び2の取り消しを求めて提訴した。
2 判決の要旨
裁判所は、以下のように述べ、原告の請求を容認した。
⑴ Yが提示した価格は、何ら根拠が示されていないことや簡易査定及び不動産鑑定書と比較して市場動静を加味したとしても、合理的な変動の範囲内にあるとは到底思われないことなどを考慮すると、適正な価格を反映したものとは言えない取引であったものと認める。市場適正価格は投資をする際の重要な事項と言わなければならない。その意味で、Yは、契約を締結する際の重要な事項について事実と異なることを告げたものと認める。
⑵ 「将来売却プラン」を見せたため、Xは、不動産価格の下落が精々 10%程度であると誤信させられ、予想できない急激な不動産価格の下落がない限りいつでも売却できるものと誤信したこと、購入後中古マンション扱いとなるため、売却価格は分譲価格の6ないし
7割となるところ、そのような説明をされておらず、いつでもローンの残債が処理できる価格で売却できると誤信したものと認める。
⑶ 「将来売却プラン」は、価格の下落が 10%程度が最大限であるかのように示され、
20%以上の下落等については何ら記載されておらず、かつ、投資の危険性を説明した形跡は見当たらない。また、同時期に示された書面は30年以上も同じ家賃を前提とし(※の中で家賃の変動があることを示唆している)、 Xが関心を示していた毎月の支払が小遣い程度で収まるとの点においても同書面は誤認させる要素を多分に含んでいるものと認められる。したがって、重要な事項についてXに不利益となる事実を故意に告げなかったものと認める。
⑷ 融資申込が拒否されないように登記費用などについてYが負担することを すように指示し、他方、将来的に家賃収入が減ったり、入居者が見つからなかった場合にXの小遣いではローンの返済ができなくなることについて十分説明をしていなかったものと認める。
⑸ Yは、Xに対し、契約1及び2の締結の際、重要事項である物件の客観的な市場価格を提示していないこと、家賃収入が30年以上に亘り一定であるなど非現実的なシミュレーションを提示し、Xに月々の返済が小遣い程度で賄えると誤信させたこと及びその他Xが不動産投資をするに当たっての不利益な事情を十分説明していなかったなど消費者契約法にいう重要事項についてXに不利益となる事実を故意に告げなかったため、Xはそのような事実が存在しないと誤認し、それによって Xは契約1及び2を締結したものであるから、同法4条2項による取消しが認められる。
(なお、Xの損害として、支払総額5016万 5900円から、受取家賃などの総額319万
9180円の差額4696万6711円が認められた。)
3 まとめ
本事例は、不動産投資を勧められてマンション2室を購入した原告が、消費者契約法
4条による取消しなどを求めた事案において、売主である宅建業者が、客観的な市場価格を提示していないことや非現実的なシミュレーションを提示したことなどが消費者契約法にいう不利益事実の不告知に該当するとされた事例である。
消費者契約法にいう不利益事実の不告知が認められたものとしては、隣接地に3階建て建物が建つ計画があることを説明しなかった事例(東京地判H18.8.30)等周辺環境・近隣関係に関する事例はいくつか判示されているところであるが、本件は不動産の価格について判示したものとして実務上参考になると思われる。
(調査研究部調査役)
最近の判例から
⑵−土壌汚染と不作為の不法行為−
市によってなされた廃棄物の搬入が原因であるとして土壌汚染の損害賠償請求を求めたところ、市は先行行為に基づく作為義務を負っていないとして請求が棄却された事例
(東京地判 平24・1・16 ウエストロー・ジャパン) 福島 直樹
事業会社が、土壌汚染が見つかったことについて、市が廃棄物を同土地に搬入して埋め立てたことが原因であり、市に対し、不作為の不法行為を理由として、公害等調整委員会に責任裁定の申請をし、同委員会は、市に対し、損害賠償を被告に支払うように命ずる旨の裁定をしたところ、市が、事業会社に対し、同裁定に関し、本件土地にかかる国家賠償法上の損害賠償債務が存在しないことの確認を求め、事業会社が反訴で損害賠償を求めた事案において、市の訴えが却下され、事業会社の請求も棄却された事例(東京地裁 平成24年1月16日判決 ウエストロー・ジャパン
本訴請求却下、反訴請求棄却、控訴中)
1 事案の概要
○ Y(反訴原告、事業会社。)は、学校法人A学院から平成4年3月26日及び10月29日に本件土地(本件土地1及び2)を購入した。
○ その後、Yが、不動産会社等に転売したところ、土壌汚染が見つかったことから、これは、X市(反訴被告、以下「X」という。)が、昭和43年10月から昭和45年9月ころまでの間に焼却灰や耐久消費財などの廃棄物を同土地に搬入して埋め立てたことが原因であり、Xは、公務員の職務上の法的義務として同土地の土壌汚染を除去すべき義務を負ったのにこの義務の履行を怠っていた
などと主張して、Yが同汚染の除去などのために支出した費用に関し、Xに対し、不作為の不法行為を理由として、国家賠償法
1条1項に基づく損害賠償を求めて、公害等調整委員会に責任裁定の申請をした。
○ この申請に対し、同委員会は、平成20年
5月7日、Xに対し、48億843万8459円の損害賠償をYに支払うように命ずる旨の裁定をした。
○ そこで、XがYに対し、同裁定に関し、本件土地にかかる損害賠償債務が存在しないことの確認を求めたのが本訴事件である。
○ これに対し、YがXに対し、損害賠償請求として、48億1297万7750円の支払を求めたのが反訴事件である。
2 判決の要旨
裁判所は、以下のように述べ、Xの訴えを却下し、Yの請求を棄却した。
⑴ X市の請求 Yによる反訴請求は、本件土壌汚染に関する損害の全部について請求するものと認められるから、XのYに対する債務不存在確認を求める本訴請求は確認の利益を欠くに至ったものと解される。
⑵ 事業会社Yの請求
① 本件土壌汚染の原因行為
本件土壌汚染は、埋立業者Bが、Xによっ
てC所有土地及びその周辺(本件土地2の西側部分)に搬入されたX搬入廃棄物や、自らの責任で受け入れた他所廃棄物を、本件土地
2に埋め立てたことにより、有害物質が有機的一体となって引き起こされたものと推認できる。
② 土対法に基づく不作為の不法行為
本件土地2の西側部分に本件廃棄物を埋め立てたのは埋立業者Bであって、Xは、同土地にX搬入廃棄物を搬入したに過ぎないものであるし、XがBとの間で同人の行う本件埋立行為について事前に協議をしたことはなく、Bによる本件埋立行為を現認し、この行為によって人の生命、身体及び財産等に重大な損害を生ずる差し迫った状況を生じたことを認識していた事実も、本件廃棄物に含まれていた特定有害物質を直ちに除去することができる立場にあったとも認められないから、この当時、Xが、同土地の所有者に対し、条理上、本件廃棄物を除去し、あるいはこれによって生じた土壌汚染を除去すべき作為義務を負ったものであるとは認められない。以上から、Xが、Yに対し、条理上、国家賠償法
1条1項にいう「公権力の行使」(不作為)を基礎付ける作為義務として、本件土壌汚染を除去すべき義務を負うに至ったと解することもできない。
さらに、土対法7条3項に基づいて、同汚染を除去すべき作為義務を負うとYは主張するが、同条項は個人の財産的利益を保護するための規定ではないし、Xには、条理上の作為義務を認めるべき先行行為があったとは言えない。
また、Xが、Bとの間で同人がX搬入廃棄物を本件土地2に埋め立てることを事前に承諾していた事実も、Bに対して同土地の西側部分に同廃棄物を埋めることを依頼(委任)し、あるいは請け負わせた事実も認められな
い。むしろ、本件においては、Bにおいて、 C所有土地及び本件土地2の所有者の了解の下に、自己の責任と計算において、これらの土地に対する埋立てを行っていたものと認められる。そうすると、Xを、汚染原因者であると認めることはできない。
3 まとめ
本事例は、公害等調整委員会が、「先行行為によって自ら危険を生じさせた者は、自ら発生させた危険を除去すべき作為義務を負い、その新所有者との関係では不作為不法行為が継続していると評価するのが相当である。」とし、Yの損害賠償請求を認める裁定をしたのに対し、裁判所は、「Xが、同土地の所有者に対し、条理上、本件廃棄物(特定有害物質)を除去し、あるいはこれによって生じた土壌汚染を除去すべき作為義務を負ったものであるとは認められない。」として、 Yの損害賠償請求を否定し、同委員会とは異なる判断を下した。
本事例には先行行為に基づく作為義務の認定等様々な論点があるが、これまで不動産取引において不作為の不法行為に係る事例については判例の蓄積があまりないことから、今後の控訴審の行方が俟たれるところである。
(元研究理事・調査研究部長)
最近の判例から
⑶−代金の履行遅滞−
買主に代金債務の履行遅滞があるとして、売主による違約金支払請求が認められ、買主の反訴請求が棄却された事例
(東京地判 平23・9・15 ウエストロー・ジャパン) 金子 寛司
土地建物を売却した売主が、買主に代金債務の履行遅滞があるとして、違約金の支払いを求め、買主が、売主は土地の土壌汚染処理工事をして引き渡す義務に違反したとして既払金の返還を求めて反訴した事案において、代金決済時までに売主が当該工事を実施しなかったことは義務違反にはならないとして、売主の請求を一部認め、買主の反訴を棄却した事例(東京地裁 平成23年9月15日判決
ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
Xは、不動産投資顧問業等を目的とするLの指定する特定目的会社Yとの間で、平成19年8月9日、Aを仲介業者として、Xの所有する土地(以下「本件土地」という。)及び建物(以下「本件建物」という。本件土地と本件建物を併せて「本件不動産」という。)を代金34億2,348万円余で売却する契約を締結した(以下「本件売買契約」という)。
本件売買契約には、以下の条項がある。ア 土壌汚染対策
ア Xは、本件土地について、(中略)土壌汚染調査を行い、土壌汚染が存在した場合には、Xの責任と費用負担において、Yが事前に合意した内容の土壌改良を実施し、
(中略)Yに引き渡すものとする。
イ この土壌改良が現況稼働中の建物等の地下に及び、建物の解体が必要になった場合、 XとYはその対応について協議するものとする。
イ Yの解除権
実行日において次のア及びイを含む要件が一つでも充足されていない場合又はその見込みがないことが明白になった場合には、Yは、本件売買契約を解除することができる。
ア Xにおいて本件売買契約上の義務違反がないこと
イ アイの協議の結果、XとYとの間で土地改良の内容及び方法について合意が成立していること
また、本件売買契約には、債務不履行により契約が解除された場合には、解除された当事者は、売買代金の2割相当額を相手方に支払うとの違約金条項がある。
Xは、本件売買契約の締結に先立ち、平成 19年4月から7月にかけて、本件土地の土壌汚染の状況を調査し、さらにガス調査、ボーリング調査をしたところ、本件土地に土壌汚染があることが判明した。Xは、同年10月22日までに、土壌汚染の除去のために必要となる土壌汚染処理工事計画案を、Aを通じてYに送付するとともに、当該工事においては、本件建物の一部解体が必要であると伝えた。
Yは、Xに対し、平成19年8月31日に、中間金として1,000万円を支払っていたが平成 20年10月17日、経済環境の悪化を理由として、残代金の支払期日延期を申し入れ、協議の結果、XとYは、実行日を同年12月22日とすることを合意した。
X、Y、L及びAらは同月1日及び5日、本件建物の解体工事及び土壌汚染処理工事の
進行や費用について協議をした。
同月11日、Yは、Xに対し、協議の打ち切りを伝え、Xは、Yに対し、同月19日、協議の継続を求めるとともに、同月22日に残金を支払うよう求めた。実行日である同日を経過しても、Xは土壌汚染処理工事に着工せず、 Yは、残金を支払わなかった。
Xは、Yに代金債務の履行遅滞があると主張して、本件売買契約を解除した上で、債務不履行に基づく損害賠償として、約定された違約金相当額から中間金を控除した残額6億 7,469万円余及び平成20年12月26日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払いを求めて提訴し、Yは、Xが、本件土地の土壌汚染処理を実施した上で本件不動産を Yに引き渡す義務に違反したなどと主張して、支払済みの中間金1,000万円及び遅延損害金の支払いを求めて反訴した。
2 判決の要旨
裁判所は、以下のように判示し、Xの請求を一部認容し、Yの反訴を棄却した。
⑴ 認定事実によれば、XとYは、本件売買契約締結当時、本件建物の解体後、土壌汚染処理工事を実施することとなる可能性があると認識していたというべきである。XとYは、アイの条項により、その対応について協議するものとするとの合意をしたと解され、本件では、実行日までに土壌汚染処理工事を実施する義務はなかったというべきである。また、支払期日延期の協議の際にYがXに交付した書面には、本件建物の解体工事及び土壌汚染処理工事を実行日後に実施するスケジュールが記載されていることなどに照らせば、Yは、土壌汚染処理工事の着工が実行日より後になることを容認していたと認められる。
⑵ Xは、土壌汚染処理工事の内容及び方法
についての合意の成立に向けて必要と考えられることを行っていたが、Yは、Aから催促を受け、Xから問い合わせがあることも伝えられていたにもかかわらず、本件建物の解体工事及び土壌汚染工事を行う業者を選定せず、そのために、協議の開始が遅れ、土壌汚染処理工事の内容及び方法の合意の成立に至らなかったと認められる。このような状況においても、本件土壌汚染工事についての合意が成立していないものとして、イイの約定を適用するのは不合理と言わざるを得ない。
⑶ Xは、平成21年6月10日、本件不動産の引渡し等の履行の提供をした上で、残金を
5日以内に支払うよう催告し、支払がないときは本件売買契約を解除するとの意思表示をし、支払がないまま、同月15日が経過したことが認められるから、これをもって、本件売買契約は解除されたものと認められる。
Yは、Xによる解除に先立ち、Yが解除の意思表示をしたから、Xによる解除は無効であると主張するが、上記のとおり、Yによる解除は無効であるから、Yの主張は採用することができない。
⑷ よって、Xの請求は、6億7,469万円余及びこれに対する平成21年6月16日から支払済みまで、年6分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があり、Yの反訴請求は理由がない。
3 まとめ
本件では、過失相殺も含め買主の主張は認められなかった。紛争防止のためには土壌汚染処理工事の内容・方法について、関係者間で合意すべきであり、売主、買主、媒介業者としても参考にすべき事例といえる。
(調査研究部次長)
最近の判例から
⑷−媒介報酬請求−
融資特約解除の合意について媒介業者に欺罔行為はなく、錯誤もないとして媒介報酬の支払いを命じた事例
(東京地判 平23・9・6 ウエストロー・ジャパン) 中村 行夫
融資特約のある契約において、融資特約の解除の合意をさせたのは欺罔行為あるいは錯誤によるものであるとして媒介報酬の請求に応じなかった媒介依頼者に対し、媒介報酬の支払いを命じた事例(東京地裁 平成23年9月6日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
⑴ 平成22年5月2日、住宅建設用地を探していたYは、不動産仲介業者Xから案内された土地(分割する3区画のうち1区画)について、契約条件の合意が得られたので、 Xと媒介契約を締結し、また、重要事項説明書の交付を受けて、土地売主の代理人Aとの間で代金総額6,447万円、引渡日を同年9月30日等とした契約を締結した。なお、この契約には建設資金を含んだ融資金額7,800万円、同年5月28日を契約解除期日とする融資特約が付された。
⑵ Yは、2つの銀行に融資の申込手続きを行ったが、承認が受けられたのは1行の 7,400万円のみであったため、勤務先(注文住宅メーカー)の提携金融会社Bを通じて融資を申し込み、Xに対しては、融資の承認が得られる見込みであると報告した。なお、同年5月27日、Xの立会の下で、融資特約の期日を同年6月11日まで延長する旨の覚書が締結された。
⑶ 同年6月2日、Yは、Bから、融資額を
7,700万円とする仮承認の通知を受け、同年6月5日、Xの仲介により、Aとの間で、融資特約を解除する旨の覚書を取り交わした。
⑷ 同年8月24日、Yは、AおよびXに対し
「(要旨)つなぎ融資は、融資実行まで8営業日を要するので、決済日が決定されたら早めに知らせてほしい」とのメールを送信し、Xは、Yに対し、決済を同年9月27日に行うことを連絡した。
⑸ 同年9月2日、Yは、Bとは別の金融会社Cに融資を申し込み、併せて、つなぎ融資の申し込み意思を伝えた。
⑹ 同年9月7日、Yは、Xに対し、つなぎ融資の手続のため、売買契約書および重要事項説明書の土地の表示を分筆した後の表示に書き換えて欲しい旨依頼し、Xは、これに応じた。
⑺ 同年9月14日、Yは、Cから、決済日につなぎ融資の実行が間に合わないとの連絡を受けたため、Bに対してつなぎ融資の申し込みを行ったが、施工会社の社員に関する規定により断られたので、Xに対し、決済日の延期の交渉を依頼し、Aは延期することはできない旨回答した。
⑻ 同年9月26日、Yは、Xの事務所において、「(要旨)Yの都合により売買契約を解除する」とした解約合意書および「(要旨)売主に違約金、Xに媒介報酬を支払う」と
した確約書に署名押印するよう求められたが、これを拒絶した。
⑼ 同年9月27日、Xは、売主から本物件を買い取る旨の売買契約を締結した。
⑽ 同年9月29日、Yの代理人弁護士は、XおよびAに対し、融資特約解除の合意について、詐欺により取り消すあるいは錯誤により無効である旨通知した。
⑾ Yは、同年9月30日までに、銀行融資を受けることができず、売買代金を支払うことができなかった。
⑿ Xは、Yに対し、本件取引に関する媒介報酬(約定報酬、法定上限報酬額)の支払いを求め提訴した。
⒀ 本件訴訟において、Yは次のように主張した。
①融資特約解除の合意は、X等の欺罔行為、あるいは被告の錯誤によるものであるから、詐欺により取り消されるか、錯誤により無効である。そして、融資特約による融資は成立していないから、媒介契約の規定により報酬の支払い義務を負わない。
②Xは、「重要な事項について、故意又は重過失により、事実を告げず、又は、不実のことを告げた」、また、「宅地建物取引業法に関して不正又は著しく不当な行為をした」から媒介契約の解除事由がある。
2 判決の要旨
裁判所は、以下のように判示し、Xの請求を容認した。
⑴ Yは、融資特約解除の合意当時、つなぎ融資を受ける必要があることを認識していたことが認められるから、仮にX等がつなぎ融資の必要性を説明しなかったとしても、欺罔行為を構成するものとはいえない。
⑵ Yがつなぎ融資を受けることが確実であると信じていたとしても、融資特約解除の
合意当時、客観的につなぎ融資を受けることが不可能であったことを認めるに足りる証拠はないから、Yに錯誤があったとは認められない。また、Yの主張に係る錯誤は、動機の錯誤であるところ、Yの動機が表示されことを認めるに足る証拠はないから、要素の錯誤を構成するものとはいえない。
⑶ Xが、決済日の延期ができないとするAの回答を伝えたことが認められるものの、これをもって、Xが宅地建物取引業法に関し不正又は著しく不当な行為をしたということはできない。
⑷ Xの請求には理由があるからこれを容認し、報酬および遅延損害金等を支払え。
3 まとめ
融資特約が合意により解除された後に代金の支払いができなかった契約に関する媒介業者の媒介報酬請求が認められたもので、特約の解除が欺罔行為あるいは購入者の錯誤によるものとした被告の主張が否認された状況からすれば当然の帰結であるといえる。
ただし、本事例では、特約の解除期日前に特約解除の合意書面を作成し、決済予定日に媒介業者が媒介依頼物件を買い取る等、一般的な媒介業務からすると不自然な点もあり、特約の解除期日が経過した後に契約解除がされた場合の媒介報酬請求が認められた一例としてのみ捉えておくべきであろう。
(調査研究部調査役)