↓ ※X がとりうる手段を尽くしたのか?
≪旧司法試験 平成18年第2問≫
株式会社Xは,Yとの間で中古の機械を代金300万円で売り渡す旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し,当該機械をYに引き渡したが,Yが代金の支払をしないと主張して,Yに対し,本件売買契約に基づき代金300万円の支払を求める訴えを提起した。
この事例に関する次の各場合について答えよ。
1 Yは,第1回口頭弁論期日において,(1)「Xとの間で本件売買契約を締結したことは認めるが,契約締結後に当該機械の性能では購入の目的を達成することができないことが判明したから,本件売買契約は錯誤により無効である。」と主張した。ところが,第
2回口頭弁論期日において,Yは,(2)「Xと本件売買契約を締結したのはYではなく,
Yが代表取締役をしている株式会社Zである。」と主張した。
Yの(1)及び(2)の各主張の訴訟上の意味を明らかにした上で,(2)の主張の訴訟法上の問題点について論ぜよ。
2 Yが,第1回口頭弁論期日において,「Xと本件売買契約を締結したのはYではなく,Yが代表取締役をしている株式会社Zである。」と主張したため,Xは,Yに対する訴えを取り下げた。その上で,Xは,改めてZを被告として同様の訴えを提起したところ,Yは,Zの代表取締役として,「Xと本件売買契約を締結したのはYであり,Zではない。」と主張した。
裁判所は,Zの主張をどのように取り扱うべきか。
(出題趣旨)
1は,裁判上の自白,抗弁及び否認を正しく理解しているかを問う問題である。(1)の主張は自白及び抗弁から成ること,(2)の主張は積極否認であり,かつ,自白の撤回であることをそれぞれ理由を付して指摘した上で,自白の拘束力の内容及びその根拠,自白の撤回が許される要件について論ずべきである。2は,民事訴訟においてどのような場合にxxxが適用されるかを問う問題であり,XY間の訴訟とXZ間の訴訟とが当事者を異にする別訴訟であることを踏まえて検討すべきである。
≪アプローチ≫
設問1
※ 問は?
・(1)の主張の訴訟上の意味
・(2)の主張の訴訟上の意味
→(1)の主張は法的にどのような意味があるのか
※ いきなり自白に飛びつかない。なぜ自白を検討するのか?
「認める」という陳述
自白 + 抗弁 =制限付自白
※「契約締結後…判明したから,」までの意義はあるのか?
↓明らかにしたうえで
(2)請求原因に対する否認 問題点?
↓しかし
自白内容と矛盾 = 次回期日の口頭弁論にてのもの
※ 陳述の意味 → 請求原因に対してどのような位置づけの陳述か
2 1との違い
※ 問の違い = 裁判所は,Zの主張をどのように取り扱うべきか。第1回口頭弁論期日
「Xと本件売買契約を締結したのはYではなく,Yが代表取締役をしている株式会社Zである。」と主張したため,Xは,Yに対する訴えを取り下げた。
↓改めてZを被告として同様の訴えを提起
Yは,Zの代表取締役として,「Xと本件売買契約を締結したのはYであり,Zではない。」と主張した。
・ 第1回口頭弁論期日 = 否認
↓ ※第1回口頭弁論期日の位置づけ
↓ ※X がとりうる手段を尽くしたのか?
取り下げの法的効果 ※取り下げの可否について書くことはなぜ不要?
↓
Z を被告として訴え提起 = なぜ Z を被告?
= 形式論と修正
訴訟行為の 4 段階モデル
【旧司法試験昭和 51 年第 1 問】
口頭弁論における被告の態度を分類して説明せよ。
【平成 9 年第 1 問】
原告の法律上及び事実上の主張に対して被告がする陳述の態様とその効果について説明せよ。
訴訟物(請求) | 私的自治の尊重から処分権主義が支配する |
原告→請求認容を求める本案の申立てをする。 被告→積極的に争う場合には,請求棄却か請求却下を求める陳述をする。 →積極的に争わない場合には,請求認諾をする。 | |
Ex 消費貸借契約に基づく貸金返還請求権,売買契約に基づく代金支払請 求権 | |
法律上の 主張 | 適正手続・手続の安定(公益)から裁判所の職責が支配する (当事者は法律上の主張をすることは可能であるが,それは裁判所の参考にしかならず,裁判所は,当事者の法律上の主張に拘束されるわけではないという意味) |
原告→法律上の主張をする。ただし,法解釈が裁判所の職責である以上,裁判所に注意を促す程度にとどまる。 被告→被告は,「認める」か「争う」を陳述する。ここで,「認める」場合には, 権利自白が問題となる。 | |
Ex 消費貸借契約が成立したため,貸金返還請求権が認められる。 | |
私的自治の尊重から弁論主義(第 1 テーゼ・第 2 テーゼ)が支配する。 |
事実上の 主張 | 原告→請求原因事実を主張する 被告→①否認(単純否認・理由付否認),②不知(159 条 2 項),③自白 (179 条),④沈黙(159 条 1 項) |
①返還の合意,②弁済期の合意,③交付,④弁済期の到来 | |
立証 | 証拠調べの申出は弁論主義・証拠の採否は裁判所の職責・xx発見から事 実認定は自由心証主義 |
証明責任を負う側→本証(裁判官が確信を持つまで) 証明責任を負わない側→反証(真偽不明に持ち込む) | |
Ex 原告が,契約書を提出する。 |
否認 | 認めない | 相手方が証明責任を負う事実を否定する事 |
不知(159 条 2 項) | 知らない | これは否認とみなされる |
自白(179 条) | 認める | 裁判上の自白が成立する |
沈黙(159 条 1 項) | 何もいわ ない | 弁論の全趣旨から明らかに争っていなければ,自白とみ なされる(擬制自白) |
単純否認 | 単に相手方の主張を否定するもの |
理由付否認(積極否 認) | 相手方の主張と両立しない間接事実を積極的に陳述して,相手方 の主張を間接的に否定するもの |
制限付自白 | 相手方の主張を認めながら,新たな抗弁事実を提出するもの |
仮定的自白 | 相手方の主張を争いながら,予備的に抗弁を提出するもの |
事実抗弁 | 事実を主張するだけで抗弁足りうるもの(弁済) |
権利抗弁 | 形成権を行使して抗弁とするもの(相殺) |
原告 X が被告 Y に対し,貸金返還請求訴訟を提起した。
(1)Y は,「お金はあくまで贈与でもらったもの」と答弁した。
(2)Y は,「お金は借りたが,すでに返した」と答弁した。
抗弁と否認の区別 | ||
= 事実レベルで両立するのが抗弁 両立しないのが否認 = 法律効果でみない! ※ 消費貸借契約に基づく貸金返還請求の要件事実 |
あ)返還の合意, い)弁済期の合意,う)交付,
(1)では,
う)については自白,
あ)い)え)については否認である。
※ う)についての立証責任は,依然として X にある。
=自白と否認で構成されるものを積極(理由付否認)という。
※ 弁済の抗弁である。
= Y は,弁済についての立証責任を負う。
⇒ 自白と抗弁で構成= 制限付自白
え)弁済期の到来,である(貸借型理論を採用した場合)
1 弁論主義と職権探知主義
(1) 弁論主義の意義
基本的な考え | 訴訟の利用 (請求レベル) | 判断資料の収集 (主張・立証レベル) | 訴訟の進行 (手続レベル) |
当事者主義 | 処分権主義 | 弁論主義 | 当事者進行主義 (申立権・責問権) |
職権主義 | 職権調査主義 | 職権探知主義 (釈明権) | 職権進行主義 |
【弁論主義 イメージ】
≪イメージⅠ≫
・ 弁論主義の定義
↓
主張責任の発生 → 裁判所と当事者の役割分担でしかない
↓ = 主張共通の原則訴訟資料と証拠資料が峻別される
≪イメージⅡ≫
・ 179条の文言 → 不要証効
∵ 当事者間に争いがない事実を証明する必要はない
cf 権利に対する自白であれば?
↓
・ 裁判所拘束力(第2テーゼ)の発生
= 自白の定義とは?
⇒ 撤回をxxxで説明することはできるのか?
⇒ そもそも信頼の対象となる事実の範囲は?
↓
主要事実への当事者拘束力
↓もっとも
自白の拘束力の根拠 ⇒ 一定の例外の許容
① 相手方の信頼を害しない場合
② のちに覆滅される場合
③ 自己責任原理が妥当しない場合
【弁論主義の定義・根拠・内容・機能】
1 定義
弁論主義とは,訴訟資料の収集を当事者の権能および責任とする建前をいう。
2 根拠
民事訴訟は,私人間の私権に関する紛争解決を目的とする
= 訴訟上も私的自治の原則を尊重
↓
事実・証拠の収集における当事者の権能と責任を認めることが望ましい
⇒ 弁論主義の適用(本質説=私的自治の訴訟法的反映)。
3 内容
弁論主義の内容としては,以下の 3 つのテーゼが導かれる。
→ 裁判所は,当事者の主張しない事実を,判決の資料として採用してはならない。
(主張責任)
→ 裁判所は,当事者間に争いのない事実は,そのまま判決の資料に採用しなくては ならない。(自白の拘束力)
→ 裁判所は,当事者間の争いのある事実を認定するには,当事者の申し出た証拠に よらなければならない。(職権証拠調べの禁止)
4 機能(多元的見解による)
①争訟内容の自主的形成機能(=当事者の自己責任の確立)
第 3 テーゼ
第 2 テーゼ
第 1 テーゼ
②不意打ち防止(一番重要!)・手続保障機能
③xx発見機能
【第 1 テーゼの内容】
1 第1テーゼ
裁判所は,当事者の主張しない事実を,判決の資料として採用してはならない。
2 事実上の主張レベルの支配原理。
① 主張責任
第 1 テーゼの帰結
= 当事者は自己に有利な事実を主張しないとその事実はないものと取り扱われ,不利益な裁判を受けることがある。この不利益を,主張責任という(職権探知主義の下では,主張責任は生じえない)。
② 主張共通の原則
弁論主義は,訴訟資料の収集・提出についての
当事者と裁判所の役割分担の問題
当事者間の役割分担を定めるものではない。
↓したがって,
当事者のいずれかがが主張した事実であれば,裁判所はその者に有利・不利を問わず,裁判の基礎とすることができる(主張共通の原則)。
③ 訴訟資料と証拠資料の峻別
口頭弁論期日は,大きく分けて弁論期日と証拠調べ期日に区別できる。
弁論期日では,①法律上の主張(判断に際して裁判所の専権),②事実上の主張を行い,証拠調べの期日には,③立証を行う。
※ このうち,弁論期日で現れた事実を訴訟資料(判決の基礎となりうる事実)と呼
んで,証拠調べ期日で得られた資料を証拠資料(狭義の訴訟資料・証言内容など)と呼ぶ。
弁論主義の第 1 テーゼから,弁論期日に主張された事実(すなわち訴訟資料)のみを裁判所は採用することができるのみ
⇒ 証拠調べ期日に主張された事実(すなわち証拠資料)を採用することができない。
∵ 口頭弁論という攻防の機会を与えずに判決の基礎に採用するのでは,当事者にとって不意打ち
☆ このように,訴訟資料と証拠資料を峻別することが,第 1 テーゼの内容として
導かれる。当事者が口頭弁論において,主張した事実だけが判決の基礎となり,証拠調べから心証を得ても,それを当事者の主張として判決の基礎としてはならない(証拠資料をもって訴訟資料に代替出来ない)ということになる。もっとも,第
1 テーゼが適用されるのは主要事実だけで,間接事実については証拠資料から採用してもよい。
★ 貸金返還請求訴訟において,弁論期日の段階で,原告が「返還約束」と「金銭授受」を主張し,被告は「弁済」を主張していないとする。そして,証拠調べの段階になり,証人尋問が行われ,「実は弁済していた」という事実が明らかになり,裁判所もそのような心証を得たとする。この場合,被告は,弁論期日に「弁済した」という事実を主張していない以上,証人尋問によって得られた「弁済していた」という事実(証拠資料)をもっ
て,「弁済した」という主張(訴訟資料)にかえることはできない。
【第 2 テーゼの内容】
1 第 2 テーゼ
裁判所は,当事者間に争いのない事実は,そのまま判決の資料に採用しなくてはならない。(自白の拘束力)
2 事実上の主張レベルの支配原理
① 裁判所拘束力
自白された事実については,裁判所はそのまま判決の基礎として使用し,その真偽を確かめるための証拠調べもしてはならないという裁判所拘束力がある。
② 不要証効
裁判所が拘束される結果,当事者は証明の必要がなくなる。
③当事者拘束力(不撤回効)
証明が必要なくなるため,証明が必要ないと信じた相手方を保護するために,自白した当事者は,原則として,自白に反する事実の主張もできない(撤回することができない)。
【裁判上の自白 まとめ】
≪自白の態様≫
① 裁判上の自白(相手方の主張を認めて争わない旨の陳述)
② 擬制自白
③ 積極否認(理由付否認)
※ 相手方の主張と両立しない事情を積極的に述べ,相手方の主張を否認する陳述
☆ これがされた場合,自白が成立することがある。
④制限付自白 自白+抗弁
⑤先行自白 自ら進んで自己に不利益な事実を陳述し,後に相手方が援用する場合
※ 援用がなく,争われると不利益陳述となる。
≪裁判上の自白≫
Xの主張は自白の撤回なのか主張の変更なのか,自白とは何かが問題となる。
1 裁判上の自白とは,相手方の主張する自己に不利益な事実を認めて争わない旨の陳述であって,口頭弁論または弁論準備手続においてなされたものである(179 条)。
※ 証拠調べでなされた自白は当たらない。
(1) まず,「自己に不利益な事実」とは,基準の明確性から,相手方が証明責任を負う事実をいうと解する(証明責任説)(大判昭和 8 年 2 月 9 日,大判昭和 11 年 6
月 9 日)。
では,証明責任の分配をいかなる基準によって決すべきか。
ア そもそも,基準の明確性と実体法との調和の観点から,各当事者は,自己に有利な法律効果の発生を定める適用法条の要件事実について証明責任を負うものと解する。
イ 具体的には,請求原因ないし抗弁事実の段階では,権利根拠規定,権利障害規定,権利消滅規定,権利阻止規定に峻別し,権利根拠規定を原告が,権利障害規定以下を被告が証明責任を負うものと解する。
ウ 本件では売買契約締結の事実を認める陳述するものであるから権利根拠規定に関する事実を認める陳述である。したがって,権利根拠規定に関する事実を認めており,相手方が証明責任を負う事実を被告が認めている。
(2) そして,裁判上の自白の対象となる「事実」とは,弁論主義の建前から,主要
事実に限られると解される。なぜなら,間接事実や補助事実についての自白には,不要証効は生じるが,裁判所拘束力・当事者拘束力を生じないと解する(最判昭和 31 年 5 月 25 日,最判昭和 41 年 9 月 22 日)。なぜなら,間接事実や補助事実は主要事実の証明手段である点で,証拠と同様の機能を有するところ,間接事実の自白に,裁判所拘束力を認めると,証拠の評価が裁判官の自由な心証に委ねられるとされる自由心証主義(247 条)に反することになるからである。
≪裁判上の自白の効果≫
裁判上の自白の拘束力としては,弁論主義に基づく裁判所に対する拘束力と自己責任原理・禁反言の原則に基づく当事者に対する拘束力がある。
その内容としては,①裁判所は,自白された事実に拘束され,それに反する事実を判決の基礎にできない(裁判所拘束力(審判排除効):弁論主義の第 2 テーゼ)。
そして,②自白された事実は立証が不要になる(179 条:不要証効=証明不要効←第 2
テーゼのコロラリー)。
さらに,③自白した当事者は原則としてこれを撤回できなくなる(撤回禁止効=当事者拘束力)。
※ 間接事実の自白があった場合,証明不要効は生じるが,裁判所は自白内容に反する事実を認定することは妨げられないし,自白当事者は自白を撤回してこれに反する主張をすることも妨げられない。
「当事者に争いのない事実はそのまま判決の基礎にしなければならない」とは,当該事実の真否にかかわらず,裁判所はそれについての事実認定権を排除されるということを意味する。
≪自白の撤回≫
では,自白の撤回が認められるにはどのような要件を満たす必要があるか。
この点,裁判上の自白が当事者を拘束するのは(不可撤回効の根拠は),自己責任原理・禁反言の法理及び自白成立を信頼した相手方の利益保護のためである。
とすれば,①相手方の同意があるとき(最判昭和 34 年 9 月 17 日),②自白が詐欺・脅
迫など刑事上罰すべき他人の行為によるとき(最判昭和 33 年 3 月 7 日。338 条 1 項 5 号
参照),③自白がxxに反しかつ錯誤に基づくとき(大判大正 4 年 9 月 29 日)には,撤回が認められると解する。
なお,反xxの証明があった場合には,錯誤に基づくことが事実上推定されると解する
(最判昭和 25 年 7 月 11 日)。
※ 刑事上罰すべき他人の行為について
判決確定前に詐欺・強迫などで自白がされたことが発覚した場合でも確定をまって再審の訴えによらなければならないとするのは迂遠であり,訴訟経済の要請に合致しない。そこで,解釈上,このような再審事由があるときには自白の撤回が認められる(最判昭和 33
年 3 月 7 日)。
※ なお,自白者が,請求原因事実についてxxでないことを承知の上で自白をした場合
(xxに反するが錯誤によらない場合)であっても,自白に対する相手方の信頼を保護する事由に乏しいときは,自白の撤回が許されるとした事例もある(東京高判xxx年 10
月 31 日)。
※ 権利自白の究極の形は,当該訴訟の訴訟物たる権利関係についての自白であるが,これはすなわち請求の認諾である。この場合,処分権主義の問題となり,権利自白の問題とはしない。事実自白と異なり,裁判所の事実認定権が排除されるわけではないから,権利自白と矛盾する権利関係を,事実認定の側面からアプローチして到達することがありうる。そうすると,当事者にだけ撤回できないという規範を押しつけてもあまり意味がないから,当事者の撤回禁止効も生じないと考えるのが自然である。
結局,ここでの問題は,法的評価に関わる部分は裁判所の専権領域であることを重視して一応自白対象から除きつつも,法的表現をもって陳述した場合であっても同時に具体的な事実関係の表現として理解される
≪権利自白に拘束力が生じるか≫
ex.所有権訴訟において,原告 B が甲地を所有していたという被告Y の主張
請求の当否の判断の前提をなす先決的な権利・法律関係に関する自白であり権利自白にあたる。
かかる自白については,自由に撤回できるとすると相手方に不意打ちの危険が生じ,審理の安定性も害されるとして拘束力を認めるべきであるとする見解もある。
しかし,法の解釈適用は裁判所の専権事項であるし,法的判断の誤りによる不利益を
法的知識・経験に乏しい当事者に負わせるのは酷である。
そこで,一応証明不要効は生じるが,裁判所がこれに反する認定を行うことは妨げられない(裁判所拘束力は生じない1)し,自白した当事者もこれを任意に撤回して自白内容に反する主張をすることは許される(撤回禁止効も生じない)と解する(最判昭和 30 年
7 月 5 日)。
もっとも,所有権,売買,賃貸借等の日常的法律概念の自白については,上記の趣旨が妥当しないので,具体的な事実関係を陳述したものとみなして,裁判上の自白の成立を認め,拘束力が生じると解する2。
※ 権利自白の究極の形は,当該訴訟の訴訟物たる権利関係についての自白であるが,これはすなわち請求の認諾である。この場合,処分権主義の問題となり,権利自白の問題とはしない。
※ 事実自白と異なり,裁判所の事実認定権が排除されるわけではないから,権利自白と矛盾する権利関係を,事実認定の側面からアプローチして到達することがありうる。そうすると,当事者にだけ撤回できないという規範を押しつけてもあまり意味がないから,当事者の撤回禁止効も生じないと考えるのが自然である。
☆ 結局,ここでの問題は,法的評価に関わる部分は裁判所の専権領域であることを重視して一応自白対象から除きつつも,法的表現をもって陳述した場合であっても同時に具体的な事実関係の表現として理解されるときには事実自白として拘束力を認めてゆくのか,それとも自白の成立を緩やかに認めた上で,その拘束力の基礎は当事者が対象を認識・理解していることがその前提であるとして撤回の余地も広く認めてゆくのかという論理的対立の問題として理解することができる。
cf.「過失」の自白
「過失」は規範的要件であるから,過失を基礎づける事実が主張事実となる。
とすると,「過失」は法的評価であることから,「過失を認める。」との陳述は,権利自白にあたる。
もっとも,「過失を認める。」との陳述が,「評価根拠事実を認める。」という意味でされ
ている場合があり,この場合は事実レベルの自白になる(東京地判昭和 49 年 3 月 1 日参照)。
そこで,裁判所としては,事実レベルの自白か否かを確認すべきである。
≪文書の真正に関する事実(補助事実)の自白の効力≫省略
【第 3 テーゼの内容】
1 第 3 テーゼ
裁判所は,当事者間の争いのある事実を認定するには,当事者の申し出た証拠によらなければならない(職権証拠調べの禁止)。
2 立証レベルにおける証拠の申出の支配原理
弁論主義は,訴訟資料の収集・提出についての当事者 対 裁判所の役割分担
= 当事者のいずれかが主張した事実であれば,裁判所はその者に有利・不利を問わず,裁判の基礎とすることが出来る(証拠共通の原則)。これは自由心証主義の一内容である。
※例外
裁判所が職権で行うことができるものとして,当事者尋問(207 条 1 項),調査嘱託,鑑定嘱託,証拠保全(237 条)がある。
証拠共通の原則
【イメージⅡ】
第 1 テーゼ→訴訟資料(事実レベル)に関する弁論主義。すなわち,主張共通の原則。
第 2 テーゼ→自白
第 3 テーゼ→証拠資料(立証レベル)に関する弁論主義。すなわち,証拠共通の原則。
2 弁論主義が適用されないもの
【不適用例】
1 人事訴訟法(例えば 40 条),行政訴訟などには弁論主義が妥当しない。なぜなら,対世効があるから。
2 公益性の強い訴訟要件(裁判権・専属管轄など)については,職権探知主義が妥当するから弁論主義は適用されない。
3 間接事実・補助事実については,弁論主義第 1・第2テーゼの妥当しない。
【自白の拘束力の例外】
※ Y は第 2 回期日において,X の第 1 回期日主張の B からX への所有権移転を基礎づける事実につき認めていたところ,第 4 回期日でB からY への所有権移転を基礎づける事実を主張する。この主張は許されるか≪LS 民事訴訟法より抜粋≫
⑴ まず,第 2 回期日において Y が認めた事実につき自白が成立したと言えるか。
そもそも,自白とは①口頭弁論期日または弁論準備手続期日における②相手方の主張と一致する③相手方が立証責任を負うという点で自己に不利益な陳述をいう。
本問では①第 2 回口頭弁論期日において,②X の主張と一致する③X が主張責任を
負うべき X の所有を基礎づける請求原因事実について陳述している。また,認めた事実の性質が問題となるが,この事実は所有権の発生を基礎づける事実すなわち権利根拠事実であるから,主要事実に当たる。そのため,自白の成立が肯定される。
したがって,Y が同事実を認めた点については,自白が成立する。
⑵ では,第 4 回期日で Y が自白に反する主張をし,既にした自白を撤回できるか,また撤回できる場合にはいかなる要件が必要か。
ア まず,自白が成立した場合にその撤回が許されない趣旨は,主として相手方の信頼保護にあるから,①保護対象である相手方がその利益を放棄した場合には,自白の撤回を認めてもよい(もっとも,その趣旨は相手方の信頼保護に尽きず,訴訟資源の有効活用といった公益保護も含まれるから,撤回が時機に後れた攻撃防御方法となる場合には,相手方の同意があっても自白の撤回が許されないこともある)。
イ 次に,②刑事上罰すべき他人の行為により,自白をするに至った場合には,仮に自白の撤回を認めず判決が確定しても,再審事由に該当し(338 条 1 項 5 号前段)判断が覆る以上,当該訴訟内において予め自白の撤回を認めた方が再審の手間を省くことができることから,この場合にも自白の撤回を認めてもよい。
ウ また,自白の撤回を認めると,自白によって相手方の得た有利な地位を不安定にし,訴訟の迅速性を損なうという不利益がある一方で,撤回を認めた方が誤った自白に基づく誤った裁判を回避でき,xxに近づく可能性は高くなる。そこで,こうした当事者間のxxと適正な証拠の均衡から,③自白がxxに反し,かつ錯誤があった場合には自白の撤回を認めるべきである。そして,自白がxxに反している場合には,そのような自白をしてしまったのは錯誤に基づくものと推定される(判例)ので,自白した当事者は自白がxxに反していることを主張立証すれば足りる。
⑶ したがって,上記アからウのいずれかの要件を満たす場合には,Y の主張は許され
る。
【証明責任論】
証明責任総論 | ||
※ (客観的)証明責任とは,ある主要事実が真偽不明(ノン・リケット)である場合に, |
その事実を要件とする自己に有利な法律効果が認められないことになる一方当事者の不利益をいう。
判決の基礎となる事実認定には自由心証主義が妥当するが(247 条),これによっても事実の存否が真偽不明となることがある。
↓しかし
このような場合であっても,裁判所が真偽不明を理由に裁判を拒絶することは,訴訟による紛争解決の目的が達せられず,許されない。
↓そこで
口頭弁論終結時において,裁判官が証拠を自由に評価してもなお主要事実の存否につき確信を抱くことができない場合に,一方当事者に不利益を課すことで,裁判拒否を回避するために認められた法技術が証明責任である3。
↓対象
そして,証明責任の趣旨が,裁判拒否の回避にあることからすれば,訴訟の勝敗を決する重要な事実である主要事実の存否を決定できれば裁判は可能であるから,証明責任の対象は主要事実に限られるものと解する。
① 当事者の訴訟活動の指標
・主張レベル:主張責任(主観的証明責任),
・立証レベル:証拠提出責任
・本証と反証
・証明妨害
・間接反証
② 裁判所の訴訟指揮の指標
・否認と抗弁
・当事者が抗弁に付した順位に裁判所は拘束されない(仮定抗弁)。
※ もっとも,相殺の抗弁(予備的抗弁)が主張された場合には,裁判所は主張順序に拘束される。
※ 当事者が順位を付さない場合であっても,他の抗弁が成立しない場合に初めて判断することが許される。
∵ 相殺の抗弁は理由中の判断に既判力が生じるところ,相殺の抗弁が認められると自働債権の消滅という効果が生じ,実質的敗訴に他ならないから
である。
機能
趣旨
3「自由心証の働きが尽きたところから証明責任の役割が始まる」
証明責任の分配基準 | ||
基準としての明確性から,実体法規に定める要件を基準とし,各当事者は自己に有利な法律効果の発生を定める適用法規の要件事実について証明責任を負うものと解する (法律要件分類説)。 すなわち,①権利根拠事実,②権利障害事実,③権利消滅事実,④権利阻止事実に分類され,権利を主張する者が①,権利を争う者が②~④につき証明責任を負う。 Cf.要件事実とは 権利の発生という法律効果をもたらす要件事実が認められれば,その発生原因事実があった過去の一時点で権利が発生し,いったん発生した権利は,この発生した法律効果の発生を障害する要件事実や,消滅させる要件事実が認められない限り,現在も存在すると考えることになる。他方,権利を発生させる事実があっても,その権利の発生を障害する要件事実があれば,権利が発生しないことになるので,現在も権利はないと考えることになる。また,権利を発生させる要件事実が認められ,いったんは権利が発生したとしても,後にその権利を消滅させる要件事実があれば,その時点で権利は消滅し,現在も存在しないと扱われることとなる。さらに,いったん権利が発生しても,その権利行使を阻止する要件事実があれば,権利は現在も存在しているが,行使できないこととなる。 民事訴訟で審理する権利又は法律関係の存否は,この発生・障害・消滅・阻止という 法律効果の組み合わせによって判断される。 | ||
権利根拠規定(請求原因) 発生障害規定 ex)錯誤,詐欺,公序良俗 ex)契約の成立 権利消滅規定 ex)弁済,解除,相殺 現在の権利関係 権利阻止規定 ex)同時履行の抗弁権 権利の行使 | ||
(2)主張立証責任の分配 訴訟上,ある要件事実の存在が真偽不明に終わったために当該法律効果の発生が認められないという一方当事者が負うべき不利益を立証責任(証明責任)といい,ある法律 |
効果の発生要件に該当する事実が主張されないことによって,当該法律効果の発生が認められないという一方当事者の不利益を主張責任という。
当事者のうち,どちらが立証責任を負うか(立証責任の分配)については,法津要件分類説が一般的である。法律要件分類説とは,一定の法律効果の存在を主張する者は,その効果の発生を定める適用法規の要件事実について立証責任を負うという考え方である。
なお,当事者の主張の中には,そのような主張が実体法上無意味である場合があり,そのような無意味な主張のことを,「主張自体失当」という。主張自体失当であれば,そのような主張は審理の対象とはならないのであるから,要件事実として,そのような
主張を摘示してはならない。
2 弁論主義の適用対象
1 総論
【弁論主義第1テーゼの適用】
1 弁論主義第1テーゼが適用される「事実」は何か。
第 1 テーゼが適用される「事実」とは,主要事実であり,間接事実・補助事実は含まれないと解する。
なぜなら,主要事実は,訴訟物の存否の判断に直結するものであるから,当事者の意思を反映させるべきであるのに対して,間接事実・補助事実については,主要事実の存否を推認させるという点で証拠と同様の機能を果たすので,間接事実・補助事実に第1テーゼ
を適用するならば,裁判官に対する不自然な事実を強いる事になり,実質的に自由心証主義(247 条)を害することになるからである。
2 もっとも,当事者の不意打ちを防止するとい弁論主義の趣旨から,間接事実であっても,訴訟の勝敗に影響する重要な事実については弁論主義第 1 テーゼを適用し,当事
者の主張がなければ裁判所は,事実を認定してはならないと考えるべきである。
【弁論主義第 2 テーゼの適用(自白の拘束力を持つ「事実」)】
弁論主義第1テーゼが適用される「事実」は何か。
第2テーゼが適用される「事実」とは,主要事実であり,間接事実・補助事実は含まれないと解する。
なぜなら,主要事実は,訴訟物の存否の判断に直結するものであるから,当事者の意思を反映させるべきであるのに対して,間接事実・補助事実については,主要事実の存否を推認させるという点で証拠と同様の機能を果たすので,間接事実・補助事実に第2テーゼを適用するならば,裁判官に対する不自然な事実を強いる事になり,実質的に自由
心証主義(247 条)を害することになる。
【主要事実と間接事実の判断基準】
いかなる事実が主要事実であろうか。
訴訟物たる権利の発生・変更・消滅が実体法規で定められており,実体法規の構成要件に該当する事実が審理の対象となること,また,基準の明確性から,主要事実と間接事実は,実体法規の構造によって区別されると解する。
したがって,主要事実とは,法律効果の発生・変更・消滅を定める法規の構成要件に該当する事実であり,間接事実とは,主要事実の存否を推認させる事実である。(法規分類説)
Cf xx説は,法条の立法目的,当事者の攻撃防御目標としての明確性,審理の整理・
促進からの明確性を考慮して,事案の類型ごとに決する。
【定義】
主要事実→法律効果の発生・変更・消滅を定める法規の構成要件に該当する事実
間接事実→主要事実の存否を推認させる事実補助事実→証拠の信用性に影響を与える事実(証拠の証拠力に関する事実)
【主要事実と間接事実のまとめ】
1 弁論主義第 1 テーゼとの関係
間接事実には,弁論主義第 1 テーゼが適用されないことから,当事者の主張がなくとも(訴訟資料ではなくとも),裁判所は,証拠資料から間接事実を認定できる。
2 弁論主義第 2 テーゼとの関係
間接事実には,弁論主義第 2 テーゼが適用されないことから,当事者間の間接事実についての自白に裁判所は拘束されず,裁判所は独自の認定ができる。
3 証明の対象(要証事実)
事実は基本的には証明の対象となる。
すなわち,民事訴訟は,権利の存否をめぐる紛争であるところ,権利の発生・変更・消滅は実体法の要件事実の有無に凝縮されている。そこで,証明も要件事実を具体化した主要事実の存否,主要事実を推認させる間接事実の存否,証拠の証明力にかかわる補助事実の存否,つまり,事実の存否に帰着することになる。事実が,証明の対象であることは演繹的によく理解できるところである(xx説)。
※ 間接事実・補助事実は,主要事実を証明するのに必要な範囲で証明の対象。
2 弁論主義の適用の可否が問題となる事例
裁判所が,当事者の主張のない事実(=「訴訟資料」にない事実)を認定した場合,当該事実が,主要事実であれば,たとえ,当該事実が,証拠調べの結果,明らかとなった
「証拠資料」であっても,当事者の弁論期日における主張がない限り,当該事実を認定することは,弁論主義の第 1 テーゼに違反する。
そこで,裁判所が認定した事実が,主要事実に該当するのか(それとも単なる間接事
実に過ぎないか),が問題の所在となる。仮に,主要事実に該当するとしても,弁論主義第 1 テーゼを適用するべきか,も同時に問題となる。
【抽象的概念と主要事実】
【過失相殺と弁論主義】
【代理権の存在と弁論主義(最判昭和 33 年 7 月 8 日】
【所有権の来歴】
【主要事実と認定事実の同一性】
【狭義の一般条項と弁論主義―最判昭和 36 年 4 月 27 日】
【弁論主義と法的評価(最判昭和 41 年 4 月 12 日】
【主要事実について】
※ 学説では,主要事実たると否とを問わず訴訟の勝敗に影響する重要な事実について弁論主義の適用があるとする見解が有力)
《代理》
判例は,当事者間の契約であるという主張しかない場合に,代理人による契約であると認定することは弁論主義違反とならないとしている
↓しかし,
代理人による意思表示か本人による意思表示かは,法律効果の発生に直接必要な事実である ※代理の要件事実を想起せよ
↓
代理人によって契約締結がなされたという事実は主要事実→第1テーゼ適用。
《所有権移転経過》
自己の所有権という権利の発生のために,所有権が自己に移転した事実が必要なので,所有権移転経過は主要事実である。
《債権譲渡と原因行為》
判例は,債権の譲渡が主要事実であり,移転原因となるべき行為(売買,贈与,代物弁済等)は,債権の譲渡という主要事実の認定の資料となる間接事実に過ぎないと認定
↓しかし
債権の移転は,通常その原因となる売買契約や贈与契約などの法律行為によって生じることから,債権譲渡の合意部分のみを取り出して,権利の発生を直接判断する事実として十分とはいえない
↓とすれば
債権譲渡の取得原因事実についても,権利の発生という法律効果の判断に直接必要な事実である主要事実にあたる。
《過失相殺》
被害者側に“過失”があるという主張は当事者双方からされていないが,過失を構成する具体的事実は主張されている
↓そして
過失は抽象的概念なので,具体的事実が主要事実
※ 過失相殺は事実抗弁なので,加害者側の権利行使の主張がなくとも良い。
≪公序良俗≫
具体的事実の主張も不要 ※ただし判例の場合,具体的事実の主張がなされていたので注意
【権利抗弁と事実抗弁】
権利抗弁 | ||
主要事実が弁論に出ているだけではなく,権利者からの権利行使の意思表示が必要とされるもの。一時的に相手方の権利行使を阻止するという抗弁権の性格が,権利者の意思表示の必要性をもたらしている。 第 1 類型 取消権,解除権,建物買取請求権などの形成権。訴訟で初めて行使される場合には,その旨の意思表示が必要であり,権利抗弁とされるが,訴訟外または訴訟前に行使されてい た場合には,行使の事実については通常の抗弁(事実抗弁)と同じとなり,訴訟内での意思表示は必要ではない。 第 2 類型 催告・検索の抗弁(民法 452・453),同時履行の抗弁,留置権の抗弁等。訴訟外又は訴訟前に行使されたことがある場合でも,訴訟内でその都度改めて行使しなければならない。 第 3 類型 対抗要件に関する抗弁(原告が対抗要件を具備するまで原告の所有権取得を認めないとする抗弁)。この抗弁は,「権利」の行使とは言い難いが,意思表明が必要であるので権利抗弁に数えられている。 ※ 第 2 類型と同様,訴訟外又は訴訟前に行使されたことがある場合でも,訴訟内で その都度改めて行使しなければならない。 事実抗弁 主要事実が弁論に出ているだけで判決の基礎とすることができる。 = 相殺の抗弁,過失相殺等。 訴訟前に 533 行使,訴訟上において被告は行使していない(原告は被告が行使した旨陳述している)→裁判所は斟酌できない。 ☆ 弁論が併合された場合の権利抗弁 (X が Y に対して売買契約に基づく目的物引渡請求訴訟を提起→この訴訟の係属中に別 |
訴においてY が X に対して同一の売買契約に基づく代金支払請求訴訟を提起→裁判所は弁論を併合→同時履行の主張はないが,裁判所は両判決につき引換給付判決をすることができるか?)
同時履行の抗弁権が権利抗弁であることを認定→弁論の全趣旨から,権利行使の意思表
示を読み取れるか否かで判断。
【証明の対象】
(1)証明を要する事項
①事実 主要事実・間接事実・補助事実(=要証事実)
②法規 原則として,法規の存在及び内容については要証事項とはならない。例外的に,外国法や地方の条例・慣習等。
③経験則 経験から帰納された事物に関する知識・法則
(ⅰ)一般常識に関する経験則→証明の対象とならない。
(ⅱ)専門的知識に関する経験則→当該裁判官が知っていることは偶然
鑑定人と裁判官は同一人であってはならないとする 23 条 1 項 4 号の趣旨
(2)証明を要しない事項(179 条)
①当事者間に争いのない事実 (ⅰ)裁判上の自白
(ⅱ)擬制自白が成立した事実(159 条 1 項)
②顕著な事実 (ⅰ)公知の事実(天災,大事故,歴史上の出来事)
(ⅱ)職務上当然に知りえた事実(自ら行った判決内容など)
※ 裁判官が職務を離れて知りえた事実(私知)は含まれない。
【xxxの類型化】
(解析民事訴訟法22頁など参照)
訴訟上の禁反言の細分化 → ①勝訴者の矛盾挙動禁止,②敗訴者の権利失効と類型化する見解が有力化
① 先行行為の存在
※ 本件では,Y はZ が売買契約の主体であると主張
② ①に基づく信頼の発生
※ X は別訴提起などの行為もできたにも関わらず,取り下げ。否認の理由をもとめること(規則79条3項)もできたはず。これらを自分が尽くせることせず,信頼が組成されたといえる?
③ ①に基づく先行行為に矛盾する行為
※ たしかに Y は前訴と主張を変えているが,先行行為の直近の第1回口頭弁論期日
要件の一例と当てはめの一例
から主張を変容させている。未だ証拠が出そろっていないことも多い。意図せずに矛盾挙動してしまうこともありうるのが第1回口頭弁論期日
④ 相手方の利益を不当に害する
X に生じる不手際を受忍すべきではないか
≪答案例≫
第1 設問1
1 (1)の主張の訴訟上の意味
(1)売買契約を締結したことを認めるの部分
本件では,Y は,「認める」と陳述していることから,裁判上の自白(179条)の成立を検討する必要がある。
ここで裁判上の自白とは,相手方の主張する自己に不利益な事実を認める旨の口頭弁論弁論準備手続における弁論としての陳述をいう。不利益かどうかは,基準の明確性を図るべく,形式的基準に基づき決すべきであるから証明責任の分配法理に従い,事実とは,権利の発生・消滅にかかわる主要事実に限定して理解すべきである
本件では,Y は,「X との間で本件売買契約を締結したことは認めるが」と陳述
しているので,売買契約に基づく代金支払請求のうち,請求原因そのものをみとめる陳述をしている。そうだとすれば,権利根拠規定に関する主要事実を認めている。
以上より,(1)は,自白が成立する訴訟上の意味を有する。
(2)契約締結後・・無効であるの部分
本件は,Y は機械の性能を根拠に無効を主張する陳述であるから,錯誤(95条本文)に基づく無効主張である。
無効主張は,請求原因と両立しつつ,請求原因の効果を覆滅する性質のものであ
るから権利障害規定に関する事実主張である。そうだとすれば,Y の主張は抗弁の主張も含まれている。
(3) 以上より,(1)の陳述は,自白に付加して抗弁事実の主張があるので,制限付
自白としての訴訟上の意味がある。
2 (2)の主張の訴訟上の意味
(2)の主張は,第2回口頭弁論期日において,契約の主体がY ではなくZ であると主張するものである。本件は XY 間の売買契約が請求原因であるから,自白が成立した事実に対して,否認するもの。そのため,自白の撤回が適法でなければ,Y の第2回口頭弁論期日における主張を裁判所が取り上げることができない。
そこで,Y の自白撤回の可否が問題となる。
不可撤回効の根拠は,自己責任原理・禁反言の法理及び自白成立を信頼した相手方の利益保護のためである。
とすれば,①相手方の同意があるとき,②自白が詐欺・脅迫など刑事上罰すべき他人の行為によるとき(338 条 1 項 5 号参照),③自白がxxに反しかつ錯誤に基づくときには,撤回が認められると解する。
なお,反xxの証明があった場合には,錯誤に基づくことが事実上推定されると解する。
本件では,①~③のいずれかがないと,Y は自白の撤回をなしえない訴訟上の問題点
がある。 第2 設問2
1 裁判所は,Z の主張をどのように扱うべきか。
(1) この点,訴えの取下げると,初めから訴訟係属していなかったことになる(2
62条1項)。そうだとすれば,既判力などによる後訴への影響は生じない。
(2) しかし Z の主張をうけてX は前訴を取り下げているにもかかわらず再度,Zが XY 間の契約締結に至っているのであるから,一種の矛盾挙動とも思われ る。
そのため,xxxの適用による,主張制限としての扱いをすべきか,xxx違反の有無を,①先行行為が存在するか②①に基づく信頼が発生しているか③
①に基づく先行行為に矛盾する行為といえるか④相手方の利益を不当に害する。
本件では,①Y は Z が売買契約の主体であると主張しており,この陳述を先
行行為と見ることができる。
②X は前訴をただちに取下げてしまい,否認の理由をもとめて(規則79条
3項)慎重な手続遂行を取る余地もなかったといえる。そのため,一定の信頼は組成されていたと評価できる。③Y は先行行為の直近の第1回口頭弁論期日から主張を変容させている。未だ証拠が出そろっていないことも多いので,意図していないとも思えるが,それでもなお Z の矛盾挙動の程度が高い。これらは④X に生じる不手際を受忍させるべきでない不当なものである。
①~④からすると,Z の主張はxxxに反する。
(3) 以上より,Z の主張を制限する扱いをすべきである。