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最近の裁判例から
⑴−契約解除違約金−
予想外のコスト増加が特約の「建物が建築できない場合」にあたると主張する売主に対する買主の違約解除が認められた事例
(東京地判 平31・1・23 ウエストロー・ジャパン) xx xxx
売主業者が土地を取得し、マンションを建築して買主業者に売り渡す契約において、予想外の建築コストが掛かることが判明したため、売主が買主に白紙解除を通告のうえ土地を第三者に転売したことから、買主が違約解除したとして違約金を求め、認められた事例
(東京地裁 平成31年1月23日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
売主業者Y(被告)は、本件土地(151.41㎡)を第三者から購入のうえ、地上12階建て、総戸数19戸のマンションを建築し、買主業者X
(原告)に一括売却するプロジェクトをA社
[協定要旨]
①XとYは、本件建物に係る建築確認の取得(平成24年6月末予定)が成就次第、速やかに本件協定に基づき売買契約を締結する。
②万一、本件建物が建築できない場合、当然に本協定は失効し、本件協定に基づく売買契約は白紙解除とする。(以下、「本件解除条項」という。)
③本件協定は、土地売買契約と不可分一体であり、万一、同契約が解除となっ
た場合は、本協定を無条件で解除する
(訴外)から持ち掛けられ、平成24年3月16日、XとYは、以下の要旨で本件土地建物を売買する本件協定を締結した。
ことができる。
[土地売買契約書特記事項]
本件契約は別紙協定書と不可分一体契約につき、万一、その契約が解除になった場合は、本契約を無条件にて解除することができる。
また、同日付で、本件土地を代金1億8000万円、違約金を売買代金の20%とし、下記特約を付した本件売買契約を締結した。
本件協定では、Xによる本件土地建物の総買取り金額は3億3000万円とされていて、Yにおいて本件事業は、建築費用を低減させることができれば利益が増大する一方、建築費用が増加すれば利益は減少するという性質のもので、Yは、本件事業がうまくいかなくても本件土地を転売すれば損失を最小限に抑えることができると判断していた。
平成24年4月、Yは第三者から本件プロジェクト用地を購入したが、同年6月末まで、更にXとの合意延長後の12月末に至っても建築確認を取得しなかった。
平成25年8月、YはXに対して、建築費高騰などにより建物が建築できないとして、本件土地売買契約及び本件協定を本件解除条項により白紙解除する旨を通知し、平成27年9月、本件土地を第三者に売却した。
XはYに対して、Yの責めに帰すべき事由により履行不能になったと主張して、約定の 3600万円の違約金(土地売買代金の20%)の
支払を求めて提訴した。 Yは、アースアンカーの設置や東日本大震
災以降の建築費の高騰により建築費見込み額が約7000万円も増加したことは、本件建物を一般的な建築方法及び合理的な建築費用で建築することができないということであり、これは本件解除条項の「万一、後記建物が建築できない場合」に該当するなどと主張した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示して、Xの違約金請求を認容した。
(土地売買契約が本件解除条項によって失効したか)
Yは、事業参画を決めた8日後に契約を締結したため、十分な検討の機会がなかったと主張するが、事業の検討自体は平成23年末から行っており、アースアンカーの必要性や建築費の高騰については、その期間に検討可能であるうえ、本件事業のリスクも一定程度検討した上で参画したものと認められる。
不動産業者間において、一方当事者の努力により利益が増えることもあれば減ることもあるという形態の事業について、その者にとって採算が合わなくなったという理由で当然に解除できるというのは通常の商取引で想定される契約とはいい難く、そうであればその旨を明確に定めるべきである。
この点、本件解除条項の文言では、一方当事者にとって採算が合わなくなったというような主観的経済的な事情を含め、広く解除を認めるものと解するのは困難である。
(本件違約金の請求がxxxに反するか) Yは、Xに損害が生じたとしても、比較的
軽微なものにとどまるのに対し、Xが請求する損害金が本件土地の売買価格の20%に相当する過大なものであり、Yが本件土地の売却に取り掛かってから約2年間異議を述べてい
ないことなどからも、その請求がxxxに反すると主張する。
しかし、損害賠償額の予定がされたときは、損害の有無又は多少を問わず、合意した違約金の支払義務が発生すると解され、仮にXに生じた損害額が軽微なものだったとしても、それによってxxxに反するというものではない。
また、20%というのは通常の不動産取引における違約金割合と同一と解される上、本件土地売買契約は不動産業者間で締結されていることを踏まえると、違約金の割合が過大ということもない。
なお、他にもYは、XがAを使ってYを本件事業に引き込んだとか、Yからの白紙解約申出を受け容れたとか、本件解除条項の文言解釈やアースアンカーの必要性についての説明を怠っていたなどとして、Xに過失があると主張するが、その事実を認めることも、その義務があったと認めることもできない。
3 まとめ
本事例は、本件解除条項の「万一、建物が建築できない場合」には、採算が合わなくなったという理由は含まれないとして、xxx違反等を理由とする違約金の減額を認めず、約定とおりの違約金の請求を認容したものである。
判旨のとおり、事業リスクを当然に内包するプロ同士の取引において、採算が合わなくなったという理由で白紙解除できる契約というものは通常存在せず、仮にそうであればその定義や基準を具体的かつ明確に定めておくことが必要であろう。
(調査研究部上席調整役)
最近の裁判例から
⑵−契約の錯誤−
買主がxxx発電事業目的を居住用と偽って行った土地売買契約につき、売主の錯誤無効の主張が認められた事例
(東京高判 令 3・10・14 ウエストロー・ジャパン) xx xx
xxが、買主より住宅又は別荘用地として利用するとの説明を受けて土地を売却したところ、実際はxxx発電事業利用であったことを知り、売買契約の錯誤無効、詐欺取消しを求めた事案において、売主は居住用又は別荘用の用地として本件土地を売却する動機を黙示に表示しており、買主も当該動機を知っていたとして、契約の錯誤無効を認めた事例
(東京高裁 令和3年10月14日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
買主Y(被告)が代表社員、Aが業務執行社員を務めるxxx発電事業を行うB社は、平成26年3月、p市においてxxx発電の設備IDを取得した。
平成28年2月、放牧地として使われていた土地(分筆前土地)の売却を媒介業者に依頼をしていた売主X(原告)は、Aより、倉庫や古い電車置き場等に使用するとして、分筆前土地のうち800坪を2000万円で購入する旨の提示を受け、対してXは、670坪を坪3万円での売却をAに提案した。しかし、その後 Aがxxx発電事業目的で土地を購入しようとしていることを知り、平成28年8月、その目的には売却できないとしてAの購入申し出を断った。
平成29年7月頃、Xは、媒介業者Cより、住宅用として売却するには分筆したほうが良い旨の助言を受け、分筆前土地の分筆売却を前提とした売却活動をCに依頼した。
平成31年3月、Y(Aの父親)は、媒介業者 Dより紹介を受けた本件土地(分筆前土地の一部)について、居住用または別荘用として使用するとして、Xに土地購入の申し入れをした。
同年4月、XとYは、本件土地について代金 1130万円とする売買契約を締結、同年6月、本件土地の引渡しと所有権移転登記が行われた。なお、本件売買に際し媒介業者らは、Yの購入目的が居住用であることを前提に、本件契約の契約書及び重要事項説明書を作成した。
同年8月、Xは、B社が本件土地をYより賃借し、xxx発電事業を行う計画があることを知り、本件土地について裁判所に処分禁止仮処分を申立て、裁判所は同月30日、処分禁止仮処分命令を発令した。
その後、XはYに対し、Yは本件土地をxxx発電事業用地として利用する目的であったのに、住宅又は別荘用地として利用するとの虚偽の説明を行って本件売買契約を締結させたとして、本件売買契約の詐欺取消し又は錯誤無効を理由に、所有権移転登記の抹消と本件土地の明渡しを求める訴訟を提起した。一審は、Xの本件売買契約の錯誤無効の主 xを認容、これを不服とするYが控訴した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示し、一審と同じく、Xの錯誤による契約の無効を認めた。
⑴ Yの本件土地の購入目的について
認定事実によれば、Aは、本件土地の購入をXに持ちかけていた平成28年5月時点で、
p市に対し、本件土地を含む部分にxxx発 電設備を設置する計画があるとの届出を行っており、AはB社が既に取得済みの設備IDを用いてxxx発電事業を行うことを前提に、 Y名義で本件土地を購入することをYと協議し、YはAとの協議に基づいて、媒介業者を介してXから本件土地を購入するに至った。このような経過に照らせば、Yは、B社に よるxxx発電事業の用地として使用する目
的で本件土地を購入したと認められる。
⑵ Xの本件契約の動機の錯誤について Xは、本件土地を居住用又は別荘用の土地
であることを前提として本件土地の売却をしようとしていたことが認められる。
Yは、媒介業者に対し、居住用又は別荘用の土地を探している旨の説明や文書への記載を行っており、Xは、媒介業者からその旨を聞いていた。そして、Yは、Xに対し、本件契約締結に際しても、居住用又は別荘用の土地として本件土地を購入する旨の説明をしていたのであるから、Xは、Yが、居住用又は別荘用の土地として本件土地を使用するとの認識で本件契約を締結したことは明らかであり、Xによる本件契約締結の意思表示には、買主による土地の利用目的という動機についての錯誤があったというべきである。
次に、Xによる上記の動機の錯誤について、明示又は黙示の表示があり、本件契約の要素となったかについて検討する。
Xは、平成28年のAの買受けの申入れをxxx発電事業に使われることを理由に断ったことがあるところ、Yが、Aとの協議を踏まえ、B社によるxxx発電事業の目的を当初から有していたにもかかわらず、媒介業者や Xに対し、居住用又は別荘用の土地として本件土地を購入する旨の言動を一貫して行っていたなどの経緯に照らせば、Yは、Xが、本件土地について、居住用又は別荘用の土地と
して販売しており、xxx発電事業用地としては販売する意思がないことを知っていたために、あえて居住用又は別荘用の土地として本件土地を購入する旨の言動を行っていたと認められ、以上の経過に照らせば、Xは、本件契約に際して、居住用又は別荘用の土地として本件土地を販売するとの動機を黙示に表示しており、Yも、Xの当該動機を知っていたと認めるのが相当である。
なお、Yは、本件契約書や重要事項説明書に、Y又はその関係者が、xxx発電施設の施設を設置し、事業をすることを禁止する条項は一切存在しなかったから、本件契約が動機の錯誤によって無効であることを争うが、そうだとしても、上記経緯などから、本件契約において、Xによる居住用又は別荘用の土地として本件土地を販売するとの動機は黙示に表示されて、契約の要素になっていたと解するのが相当でありYの主張は採用できない。
以上によれば、本件契約は、Xの錯誤によって締結されたものとして、無効というべきである。
3 まとめ
「売主が当該用途の買主には売却しないと意思表示をしていたのに、買主が目的用途を偽って購入し当該用途に使用しようとした」という事案は珍しいが、錯誤の要件に従って検討・判断をしている本件裁判所の判示は、実務の参考になると思われる。
なお、令和2年4月の民法改正により、錯誤は、無効から取消しに変更され、その取消しは善意無過失の第三者に対抗できないとされている。売主が錯誤を主張する場合は、善意の第三者に処分等が行われないよう、本件のようにすみやかに処分禁止仮処分の申立てを行う等の対応が重要と思われる。
(調査研究部上席研究員)
最近の裁判例から
⑶−土壌汚染−
売主の瑕疵担保責任期間の起算点は買主の環境アセス手続き終了時点と解すべきとした買主の主張が棄却された事例
(東京地判 令 2・11・18 ウエストロー・ジャパン) xx xx
土地の引渡し日から2年とする売主の担保責任期間経過後に、土壌汚染の存在を知った買主が、環境アセス手続終了までは土壌汚染の調査・発見は事実上不可能であったから、売主の担保責任期間はアセス手続の終了日から進行する等と主張して売主に損害賠償を求めた事案において、買主は環境アセス手続きの必要を認識して担保責任に関する条項に合意をしたのだから、期間の起算点を変更する理由はない等として棄却された事例(東京地裁 令和2年11月18日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
買主X(原告・不動産業者)は、ホテル用建物建築を目的として、売主Y(被告・独立行政法人)が入札方式で売却する本件土地を落札し、平成27年2月、本件売買契約を締結して代金167億円余を支払い、本件土地の引渡しを受けた。
なお、入札に際しXが示した土地概要書には、「平成20年7月から平成24年3月にかけて行われた土壌汚染対策法等に準じた調査において、特定の場所に土壌汚染を発見しこれを残置していること(本件残地土壌汚染)、当該土壌汚染を除き汚染は未検出であること」等が記載されていた。
<本件売買契約の概要>
(瑕疵担保条項)
・Yは、Xに対し、本件土地の隠れた瑕疵について、本件土地の引渡日から2年を経過
するまでの間に限り、瑕疵担保責任を負う。
(土壌汚染対策条項)
・本件土地の引渡日から2年を経過するまでの間に、土壌汚染対策法の基準に適合しない土壌汚染が判明した場合、土壌汚染調査に係る費用はXの負担とし、有害物質に係る対策費用は、Yが別途算定する金額を上限としてYの負担とし、当該金額を超える場合の超過額はXの負担とする。 Xは、平成27年7月末から、本件土地につ
いて市の環境影響評価条例に基づく環境影響評価手続(本件アセス手続)を実施し、平成 29年1月、本件アセス手続を終了させた。
平成29年3月頃、Xが本件土地について土壌調査をしたところ、一部の土壌から自然由来又は埋立て由来の可能性が高い所定の基準を超える砒素又はふっ素が検出された。
平成30年6月、XはYに対し、本件土壌汚染による本件土地の搬出土壌処分費用の増額分10億円余の支払を請求、その後、本件訴訟を提起して、「①Xの請求は、土壌汚染の対策費用を請求するものではないから、瑕疵担保条項が適用されるところ、Xは、本件アセス手続終了まで、建物の建設工事及び残土処理のための土砂の採取は禁じられていたから、本件土壌汚染の発見は不可能であり、瑕疵担保責任期間が進行するのは本件アセス手続が終了した平成29年1月から起算して2年と解すべきである。
②Yは本件残地土壌汚染が自然由来又は埋立て由来の可能性が高いことを知っていたので
あるから、本件土壌汚染について認識をしていたか、認識していないことに重過失があった。」などと主張した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示し、Xの請求を棄却した。
⑴ 瑕疵担保責任期間の徒過について Xは、土壌汚染対策条項ではなく瑕疵担保
条項が適用されると主張するが、Xが請求する土壌の処分費用の増額分は、土壌汚染対策条項所定の土壌汚染の対策費用の一部というべきであるから、その費用負担については土壌汚染対策条項が適用されることとなる。
Xは、本件アセス手続が終了するまで本件土地の土壌汚染を調査、発見することが事実上不可能であったから、土壌汚染対策条項所定の期間は、本件アセス手続が終了した平成 29年1月5日から進行する旨主張する。
しかし、土壌汚染対策条項は、Yが本件土地について判明した土壌汚染の対策費用を負担する期間について、本件土地の「引渡日から2年を経過するまでの間」と明確に規定している。しかも、Xは、本件売買契約の締結前から、本件土地上にホテル用建物を建設することを予定し、本件アセス手続の必要があることを認識していたにもかかわらず、本件土地の引渡日から2年を経過するまでを期間とする土壌汚染対策条項に合意しているのであるから、仮に、本件アセス手続が終了するまで本件土壌汚染の調査を実施できなかったとしても、土壌汚染対策条項所定の期間の起算点を変更する理由があるとはいえない。
したがって、土壌汚染対策条項所定の期間の起算点は本件土地の引渡日であり、本件土壌汚染は、土壌汚染対策条項所定の期間を徒過した後に判明したものであるから、Xの主張は、採用することができない。
⑵ Yに悪意・重過失があったかについて Xは、本件残置土壌汚染が自然由来又は埋
立て由来である可能性が高いことを認識していたから、Yは本件土壌汚染について悪意であったと主張する。
しかし、一般に自然由来又は埋立て由来による汚染は広範囲に分布する可能性が高いとしても、このことは本件土地全体について土壌汚染が存在する可能性が高いというにとどまり、Yが本件土壌汚染を具体的に認識していたことを認める証拠もないことから、Yが本件土壌汚染について悪意であったとまで認めることはできない。
また、XはYが本件瑕疵の存在について悪意だった場合のみならず、これを認識しないことに重過失があった場合にも瑕疵担保責任を免れないと主張する。
しかし、売買契約において、重過失がある場合の規定が存在しないことに照らすと、Yは悪意でない場合には、認識していなかったことに重過失があったとしても、瑕疵担保責任を免れると解するのが相当である。
3 まとめ
本事案は、売主の担保責任期間はアセス手続の終了日から進行する等とした買主の主張が認められなかった事例である。
通常、売買契約は、取引物件における瑕疵のリスクを負う期間の分担について、売主・買主間で調整のうえ契約合意を行うが、本事例のような入札売却方式の売買契約では、一番有利な条件を申し出た相手をもって買主とし、売主が予め用意した内容で締結される傾向が強い。そのため買主は、購入後の瑕疵に関するリスクを十分に考慮した金額をもって、入札時に応札することが必要ではなかろうかと思われる。
(調査研究部調査役)
最近の裁判例から
⑷−xx商法−
xx商法を行ったxx業者に名義を貸したその代表取締役及び専任のxxxに対する被害者からの損害賠償請求が認められた事例
(東京地判 令元・11・26 ウエストロー・ジャパン) xx x
xx商法より損害を蒙った高齢者による、詐欺行為を行ったxx業者、その代表者、ならびにその専任の取引士に対する詐欺被害についての損害賠償請求がいずれも認容された事例(東京地裁 令和元年11月26日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成30年2月、Xは、相続により取得した未利用だったa市内の土地(土地a)について、自宅を訪れたY1社従業員から「土地aをY1社が購入するが、b市内のY1社所有地(土地①)をXが購入する取引とセットとしたい。土地①に980万円での購入希望者がいるが、540万円で売却する。」との話を受け、 Y1社と土地①を540万円で購入する契約(契約①)を締結して手付金を支払い、その後残代金を支払って、引渡しを受けた。
同年3月、Xは、再び来訪したY1社従業員より購入希望者からの要望として、別のb市内のY1社所有地(土地②)の購入を持ち掛けられ、Y1社と土地②の売買契約(契約
②)を締結し、同月中に代金全額(1980万円)を支払い、その引渡しを受けた。
同年4月4日頃、Y1社従業員はまたX宅を訪れ「当初の購入希望者が購入意欲を失った。c町所在のY1社所有地(土地③)を購入すれば、土地①~③をまとめてY2社(被告・xx業者)が4980万円で購入する。」と Xに伝えた。Xはその頃、Y2社から同様の電話連絡も受けたため、Y1社と土地③の売
買契約(契約③)を締結し、同月中に代金全額(1380万円)を支払い、その引渡しを受けた。
同月27日頃、Y2社従業員がX宅を訪れ、
「転売先の資金手当てができず、Xへの支払いが遅れる。その埋合せとして、5月に1300万円で売却予定のd市内のY2社所有地(土地④)を100万円で購入して欲しい。」とXに申入れた。XはY2社と土地④の売買契約(契約④)を締結し、同日に代金全額を支払い、その引渡しを受けた。その約10日後、Y1社とY2社従業員がX宅を再訪し、土地④の売買価格上乗せをXに申入れ「Y2社は、翌日には1300万円を支払うと言っている。」とXを説得し、結局Xは200万円の支払いに応じた。
翌日にY2社からの支払いがなかったことから、不審に思ったXは、その後弁護士等に相談したところ、xx商法被害に遭っている可能性が高いとの指摘を受け、同月中に、 Y2社に契約④の取消と支払済代金300万円の返還等を求めたが、返答はなかった。
同年8月にXは、Y1社、Y1社代表者の Y3、Y1社専任xxxのY4、Y2社、Y2社代表者のY5、Y2社専任xxxのY6に対して、支払済売買代金等4634万円余の支払い、Y1社とY2社に対しては土地①~④の所有権移転登記の抹消を求めて提訴した。
Y2社及びY5は、一切応訴しなかったため、平成31年3月にXの請求が全面的に認められた。またY6との間では、Y6がXに40
万円の支払いをすることで、両者の和解が成立した。一方Y3とY4は、訴外の者に頼まれて名前を貸しただけで、Y1社の行為に全く関知していなかったとして争った。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を全て認容した。
(Y1社の責任)
契約①~④に係る勧誘行為は、経済合理性を欠く虚偽のものであるといわざるを得ず、詐欺による不法行為(本件詐欺)を構成するものというべきで、Y1社の事業の執行について行われたものであるから、Y1社はXに対し民法715条1項の使用者責任を負い、Xが被った損害を賠償する責任を負う。
(Y3の責任)
本件詐欺が行われた当時、Y3はY1社の代表取締役であり、Y1社の事業が適法適正に行われているかを監督等すべき義務を負うところ、Y3は、少なくとも重過失によりその義務を怠って本件詐欺を看過し、Xに損害を生じさせたもので、会社法429条1項によりXが被った損害を賠償すべき責任を負う。
(Y4の責任)
本件詐欺が行われた当時、Y4はY1社の専任xxxであり、xx業法の規定に照らし、xxxとして購入者等の利益の保護に資するようxxかつ誠実に同法に定める事務を行う法律上の義務を負っていたところ、Y1社の従業員でもない頼まれただけと自称する男性と喫茶店で面談し、登録に必要な書類を記入・交付してY1社の専任xxxに就任したが、仕事があれば連絡すると言われたきり連絡はなく、その後1年以上もY1社の事務所に全く連絡や出勤したことなく放置していたというのであり、Y1社の営業実態等に不審を抱くべき状況にあったというべきで、Y1
社の営業実態等を確認し、本件詐欺を認識することは可能であったといえる。
よってY4は、Y1社の専任xxxに就任して対外的な信用を高める一方、専門家としての義務を怠って本件詐欺を看過した点において、少なくとも過失によって本件詐欺の実行を容易にしたものと認められ、民法719条 2項に基づき、本件詐欺によってXの損害を賠償する責任を負う。
3 まとめ
本件は、xx商法の詐欺被害者による詐欺行為を行ったxx業者、およびその代表者と専任取引士に対する損害賠償請求が認められた事例である。
専任のxxxは、「事務所に常勤して、専ら宅地建物取引業に従事する」(国土交通省:宅地建物業法の解釈・運用の考え方)ことが求められており、「常勤性」と「専任性」が必要となる。したがって、事務所に出勤も連絡もしていなかった本事例の専任xxxであるY4は、この要件を満たしておらず、xx業法第68条に基づき、事務禁止の処分がなされる可能性も十分あるものと思われる。
詐欺行為への直接の関与はなくとも、その幇助をし、損害の発生が予見可能であったとして、詐欺行為の主体となったxx業者の免許取得にあたり名義を貸したxxxに対する被害者からの損害賠償請求が認められた事例は他にも見られる(東京高判 平31・1・9 RETIO 115-94、秋田地裁xxx判 平29・9・22 RETIO
114-114)こともあり、安易に名義を貸すような行為は厳に慎まれるようにお願いしたい。
(調査研究部xx研究員)
最近の裁判例から
⑸−地中埋設物−
売買契約後に判明した地中埋設物等について、買主の倉庫建築に支障となった除去費用を除き売主の瑕疵担保責任が否定された事例
(東京高判 令 2・9・24 判例集未登載) xx xx
買主が、購入土地に売買締結時に認識していない地中埋設物や土壌汚染があったとして、瑕疵担保責任又は債務不履行に基づく損害賠償を売主に請求した事案において、当事者双方は、これまでの利用状況等からその可能性を認識・想定して取引をしたと考えられるとし、買主の倉庫建築に支障となった地中埋設物の除去費用については瑕疵担保責任を認め、他については棄却した事例。(東京高裁 令和2年9月24日判決 判例集未登載)
1 .事案の概要
買主X(原告・食品問屋業)は、Xの倉庫に隣接する本件土地について、売主Y(被告・xx業者)より購入打診を受け、平成25年7月、売買代金2億5320万円、本件売買契約を締結し、翌8月、残代金を支払い本件土地の引渡しを受けた。
<本件売買契約の概要等>
・売主の瑕疵担保責任負担期間:本件土地引渡より2年間。
・特約条項:本件土地において、旧鉄塔基礎が存していた場合は引渡し時までに売主が撤去するが、旧建物(寮など)の基礎等が存していた場合に売主は撤去を行わない。
・本件土地は賃貸をしていた経緯があり、契約終了後に賃借人が調査会社に依頼した土壌汚染調査報告書では、「土壌汚染が存在する恐れは小さい」とされている。
平成25年12月、本件土地から大量のコンクリートガラやタイヤ等(本件埋設物)及び油
や鉛等に汚染された土壌(本件土壌汚染)が確認されたことから、XはYに対し、「損害賠償として違約金の支払いを請求する。本件埋設物及び汚染の除去等にかかる費用請求や、本件埋設物及び汚染土壌の存在により、売買契約の目的を達することができないと判明した場合には、本件売買契約を解除する。」旨を通知した。
対してYは、「埋設物の撤去費用について応分の負担をする、土壌汚染については、盛土や舗装等の適切な封じ込め工事により解決すると考えている、契約解除がXの強い希望であれば、不本意ではあるが検討する。」と回答した。
平成27年1月、XはYに対し、契約解除ではなくYからの損害賠償の支払による和解により解決したいとの通知をしたが、同年7月、 Xは、被った損害6279万円余の一部5668万円余をYに求める本件訴訟を提起した。
<X主張の損害額>
・埋設物除去費用 : 294万円
・鑑定評価による本件土地 : 5224万円余の価値と売買代金の差額
・調査費用・弁護士費用 : 760万円余一審裁判所は、Xの請求を全部棄却したこ
とから、Xは控訴した。
2 .判決の要旨
裁判所は、下記の通り判示し、Yの請求のうち、実際に埋設物撤去を行った費用294万円を認め、他の請求については棄却した。
(本件埋設物について)
当事者双方は、本件売買契約締結時において、本件土地は工場用地として利用されていた土地で、これまでの利用状況等から、従前保管されていた資材の一部や存在した建物の基礎等、何らかの埋設物が地中に残存していると共に、それらによる何らかの土壌への影響が残っている可能性があると認識・想定していたものと考えられ、本件土地にコンクリートガラ、タイヤ、瓦礫及びゴミ等が埋まっていたこと自体は、契約当事者間において予定されていた品質又は性能を欠き隠れた瑕疵に当たると直ちにいうことはできない。
しかし、YはXに、本件土地に住宅を建築して分譲する予定があることを説明していたこと、本件埋設物発覚後にYがこの撤去費用について応分の負担する旨回答したこと等を考えると、当事者の合理的解釈として想定される埋設物の量には自ずと限度があり、少なくとも本件土地上に建物等を建築することについて、支障とならない程度であることが黙示に前提とされていたとみるのが相当である。本件埋設物は、コンクリートガラ等合計約 84トン並びに枕木やタイヤ等合計約21㎥にもおよび、これがXの倉庫建設のための基礎工事の支障となったものであるから、少なくとも、本件埋設物ほどの量を契約当事者がその可能性を想定していなかったものとして、隠
れた瑕疵に当たるというべきである。
(本件土壌汚染について) Xは、土壌汚染の可能性を認識したうえで
倉庫の敷地として使用することを想定して本件土地を購入し、現在も本件倉庫の敷地として使用しているのであって、本件鉛がXの本件土地利用に与えた影響について具体的な主張立証はないから、本件鉛が本件土壌等をもたらした油分に由来するとしても、契約当事者間において予定されていた品質又は性能を
欠き、隠れた瑕疵に当たるとは認められない。
(Yの表明保証義務違反について)
本件売買契約書には、旧鉄塔基礎、水道埋設管及びガス埋設管、木柵、旧建物の基礎等については不明との記載がされており、むしろ、本件土地には埋設物が存在する可能性があることが指摘されているというべきであって、Yが、本件埋設物が存在しないことを表明し保証したとは認められない。
(Yの説明義務違反について) YはXに対し、売買契約時に、本件土壌汚
染の地歴報告書や調査報告書を交付しているところ、本件調査報告書による調査が売買するに当たって通常行うべき程度に欠けるほど不十分なものであったと認めるに足りぬ証拠はなく、地中埋設物についても、その可能性に言及した上で、その処理の分担を定めており、本件売買契約の付随的義務である説明義務違反があったとは認められない。
(Xの損害額について)
Xは、本件埋設物の発見後、294万円を支出してこれを除去しており、これは本件埋設物の瑕疵による損害であると認められる。
3 .まとめ
瑕疵(契約不適合)は、地中埋設物の存在が、即、瑕疵等に該当するものではなく、その存在が、契約当事者間において予定されていた品質又は性能を欠くことになるかの観点から判断をしている。本件裁判所の判示は、瑕疵(契約不適合)を理解するうえで、実務上参考になるのではないかと思われる。
本件同様、買主目的の建物建築において、支障となった地中埋設物の除去費用について売主の瑕疵賠償責任が認められた事例として、福岡地裁xxx判 平21・7・14 判例タイムズ1322-188などが見られる。
(調査研究部調査役)
最近の裁判例から
⑹−宗教法人の不動産処分手続確認義務−
宗教法人の不動産処分手続に不備があることを知りながら手続を進めた媒介業者の損害賠償責任を認めた事例
(名古屋地判 令 3・3・30 裁判所ウェブサイト) xx xxx
xx法人の前住職らが宗教法人法及び規則に定める手続を経ずに所有地を売却し、売却代金を着服した事案に関し、媒介をした媒介業者に当該売却手続の適法性を確認する義務違反があったとして、当該宗教法人が被った因果関係のある損害について、媒介業者の賠償責任が認められた事例(名古屋地裁 令和 3年3月30日判決 裁判所ウェブサイト)
1 事案の概要
A宗を宗派とする宗教法人X(原告)の住職かつ代表役員であったY1(被告)とその妻Y2(被告)は、X名義の境内地に該当しない土地2か所の売却を媒介業者Y3(個人業者・被告)に依頼し、平成24年11月に土地 1を4400万円で、平成25年5月に土地2を1億7000万円で、各買主に売却する各売買契約を締結した。
⑴本契約は、平成25年〇月〇日までにA宗代表役員から本物件売却の同意を得るものとします。
⑵前項の条件不成就が確定した場合、売主は、買主に受領済みの金員を無利息
にてxxxxに返還します。
本件各売買契約書においては、それぞれ、以下の本件特約が定められた。
本件特約に基づきA宗宛てに当該物件売却の申請がなされたが、その申請内容に多々不備があるとして、A宗から却下・返却された。しかし、Y2は申請書や責任役員会議事録に追記するなど改ざんをしたうえで、A宗に再
提出することも承認を受けることもなく、また、Y3はその事情を知っていたが、そのまま残金決済の手続を行い、所有権移転登記が完結した。
平成26年以降の税務調査で、本件土地売却代金がY2の貴金属購入代金に充てられていることが判明し、税務当局は、これは実質的にY1・Y2に対する給与であると認定して、 Xに源泉所得税・加算税を求め、Xは8700万円余を納付した。
平成29年、Xは、Y1(平成28年6月にXの住職を退任)及びY2に対し、本件土地売却代金の着服横領を理由に、また、Y3に対し、媒介業者として宗教法人法及び規則に定める手続を経ていない土地の媒介行為をしてはならない義務に違反したとして、連帯して 2億1400万円の損害賠償を求める訴訟を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、Y1・Y2による着服横領の事実を認定し、Y1・Y2に対して連帯して1億9691万円余の損害賠償義務を認め、Y3については、次のように判示して、Y1・Y2と連帯して1022万円余の範囲で損害賠償義務を負うと判決した。
(媒介業者Y3の責任)
本件各売買契約上、A宗代表役員の承認が停止条件とされており、本件各売買が宗教法人であるXの財産処分である以上、Xの媒介業者であるY3は、上記停止条件の成否はも
とより、公告や責任役員会の議決の有無についても確認する義務があったと解される。
Y3は、本件土地の所有者はXではなく Y1個人であると聞かされていたため、宗教法人法等の手続は不要と考えていたと主張するが、本件土地の所有者がいずれもXであることは全部事項証明書から明らかであり、本件各売買契約が売主をXとして締結されていることは、Y3が媒介業者として押印した本件各売買契約書から明らかであって、Y3が本件土地の所有者を誤信していたとは考えられない。
また、本件各売買の売買契約書には、A宗代表役員の承認を条件とする旨が明記されていることなどからすると、Y3が本件土地の売却のために宗教法人法等の手続が必要であることを知らなかったとは考えられない。
Y3は、媒介業者として、本件xxxxの打合せに出席し、本件工事申請書及び本件議事録を作成し、A宗からの不備返却後、これにY2が追記した際にも同席していることからすると、上記記載及び追記の際、本件各売買がA宗代表役員の承認や責任役員会の議決を経ていないにもかかわらずこれらの手続が執られているかのような形式が整えられたことを認識していたと認められる。
したがって、Y3は、Xの媒介業者として、宗教法人法及び本件規則に定める手続を経ていない本件土地売却の仲介行為をしてはならない義務を負っていたにもかかわらず、上記義務に違反したと認められる。
(Y3の責任額) Y1・Y2の着服横領は本件売買後の事情
であり、宗教法人等の手続を経ない財産処分であれば、通常、宗教法人の代表者らによる着服横領が行われることを予見できたとまではいえず、特別損害といわざるを得ない。したがって、Y3の債務不履行又は不法行為と
Y1・Y2の着服横領による損害との間に相当因果関係があるとは認められない。
しかし、Xが本件各売買につき支払った仲介手数料、建物解体費、測量費、印紙代、司法書士手数料の合計1022万円余については、 Y3の債務不履行又は不法行為と因果関係のあるXの損害といえ、Y3は、Y1・Y2と連帯して損害賠償義務を負う。
3 まとめ
本事案は、不動産の処分に際して宗教法人法や当該宗教法人の規則に定める手続の不備があることを知りながら売買手続を進めた媒介業者の損害賠償責任を認めた事例である。宗教法人が所有不動産を売却する場合、責 任役員会の決議(宗教法人法第19条)に加えて、その行為の少なくとも1月前に、信者その他の利害関係人に対し、その行為の要旨を示してその旨を公告しなければならない(同
法第23条第1号)。さらに、Xの規則では、上部教団であるA宗の代表役員の承認を得ることが必要であり、売買契約書にも特約条件として明記されていた。
xx業者が宗教法人の不動産売却の媒介に携わる場合、当該宗教法人においてどのような意思決定手続が必要であるか、司法書士等のアドバイスを得ながら正確に把握するだけでなく、それらが適正になされているかを書面で検証することが重要である。
(調査研究部上席調整役)
最近の裁判例から
⑺−私道の説明義務−
xx業者は私道に関する同意書の法的性質について判断し地役権であると説明をする義務まではないとされた事例
(東京地判 令 3・6・18 ウエストロー・ジャパン) xxx xx
媒介業者が購入した土地の一部に未登記の地役権が設定されている説明を怠ったため、その土地上に建築したガレージを撤去せざるを得なくなったとして、買主が媒介業者にガレージの撤去費用等の損害賠償を求めた事案において、媒介業者は私道の範囲や建築等に利用ができないことの説明をしていたとして、その請求が棄却された事例(東京地裁令和3年6月18日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成21年12月、買主X(原告)は、本件土地・建物を媒介業者Y(被告)の媒介により、売主Aより代金9000万円で購入した。
平成25年頃、Xは、本件土地上にガレージを建築した。
平成27年10月、本件土地の近隣住民が、本件土地の一部(概要図参照「本件係争地」)に設定された地役権に基づき、ガレージの撤去等を求める訴訟を提起し、Xに対しガレージを撤去することを命じる判決が確定した。
Xは、Yに対し、重要事項説明において、本件係争地が既存道であること、地役権が設定されていたこと、建築制限があることを説明しなかったと主張して、本件係争地に建築したガレージの解体・撤去、再築等に要する費用等2014万円余の損害賠償をYに求める訴訟を提起した。
Yは、重要事項説明の際、本件係争地が既存道であり建築ができないこと、近隣住民に
より作成された、道路として使用することを同意する同意書を添付し説明をした。また、本件係争地に地役権は登記されていないため、地役権が設定されていると説明はしなかったが、xx業者は、土地上の権利の種類を判断することではなく、建築基準法に照らして土地にいかなる規制・利用制限が課せられているかを買主に説明することであり、これを明確に説明したと主張した。
(参考)同意書
「図示の通り昭和25年11月23日(建築基準法施行の日)当時より左図(上記概略図参照)の通り存する事を認知し、よって関係者一同は図示の道路に対し今後共従来通りの道路として使用することをこゝに同意する。」
2 判決の要旨
裁判所は次のとおり判示し、Xの請求を棄却した。
(Yの説明義務違反の有無について) Xは、Yが、本件係争地が既存道であるこ
と、本件係争地に地役権が設定されていること、本件係争地では建築が制限されることを
説明しなかったと主張するが、本件において、 Yは、Xに対し、本件係争地が私道として提供されており、私道では建築等の利用ができないなどと説明したことが認められる。
他方、Yは、Xに本件係争地に地役権が設定されているとの説明はしていないが、本件係争地に設定された地役権は登記されておらず、同地役権に関して合意した文書である同意書にも、地役権という文言は記載されていない。そして、本件私道の隣接所有者が本件私道に対して有する権利の法的性質まで明確にならなくても、本件係争地が私道に供されていることを買主であるXが認識できれば、 Xが不足の損害を被るおそれは相当に軽減されるといえる。
そうすると、宅地建物取引業者であるYが、本件私道の隣地所有者が本件係争地を含む本件私道に対して有する権利の法的性質について調査、判断した上、それが地役権であるとの説明義務を負っていたと認めることはできない。
したがって、Yは、Xに対し、本件係争地に地役権が設定されているとの説明をしなかったとしても、そのことをもってYが説明義務に違反したと認めることはできない。
また、重要事項説明書には、敷地等と道路との関係に関する本件概略図が記載されており、その本件概略図には、道路との接道部分について、本件同意書に添付された測量図と同様の形状で描かれており、本件概略図に記載された土地の形状と、公図の記録内容が異なることは、xxして明らかであり、本件係争地部分が道路として使用されていることを示す本件同意書が添付されていることなどを考慮すれば、重要事項を説明する者としては、本件概略図や本件同意書に沿って、本件私道の範囲や本件私道との接道位置の説明をしたと考えるのが合理的である。
したがって、Yは、本件概略図や本件同意書の記載に沿って、本件私道の範囲や本件私道の接道位置について説明したと認められることから、地番を示すなどして明示的な説明がされなかったとしても、本件私道の負担に関する事項について説明されていたといえ、 Yが説明義務に違反したと評価することはできない。
以上によれば、Yが説明義務に違反したと認めることはできないことから、Xの請求は、理由がない。
3 まとめ
本事案は、媒介業者が買主に対し、土地の一部に設定された地役権について、地役権という文言は使用していないが、重要事項説明の際、私道において建築制限があること、土地の概略図における土地の形状、近隣住民の同意書などが添付されていることから、媒介業者は説明したと認められたものである。
不動産の取引において私道が関係する場合、取引後に私道に関する紛争が多いことから、媒介業者は、宅地建物取引業法第35条1項3号の「私道に関する負担」について、業者として可能な限り、私道通行に関する合意書などの調査を行い、土地の概略図等を利用して分かりやすく説明を行うことがトラブル防止の観点から重要である。
(調査研究部上席調整役)
最近の裁判例から
⑻−石綿調査報告書−
調査報告書の内容と異なり建物に石綿が存していたことが表明保証違反にあたるとした買主の主張が棄却された事例
(東京地判 令 3・7・28 ウエストロー・ジャパン) xx 文堂
土地建物の信託受益権の買主が、購入時に示された調査報告書に、石綿使用がない旨の記載があったにもかかわらず、建物に法令基準を超える石綿含有建材が使用されていたため除去費用等の損害を被ったとして、売主及び調査会社に損害賠償金を求めた事案において、買主が主張する売主の表明保証違反、悪意・重過失による瑕疵担保責任、調査会社の不法行為責任は認められないとして、その請求が棄却された事例(東京地裁 令和3年7月28日判決ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成28年8月、売主Y1(被告・生命保険会社)は、本件土地及び本件建物(平成6年 4月築)の信託受益権(本件受益権)について、入札方法により、買主X(原告・特定目的会社)との間で、代金を78億円余、売主の損害賠償責任は受益権譲渡日から1年以内の書面請求に対してのみを負う、とする本件売買契約を締結し、平成28年9月に代金の授受及び本件受益権の引渡しを行なった。
【売買契約時のY1の情報提供の状況】
・本件物件説明書:「本件建物のアスベスト調査関係書類は本件報告書のとおり。但し、その調査範囲もしくは調査した石綿含有建材の種類等において、本件建物の石綿含有建材の使用状況の全てを網羅していない可能性があるので、後日、石綿含有建材使用箇所が発見される可能性がある。」との記載がある。
・本件報告書:調査会社Y2(被告・建設会社)が平成22年3月17日付作成。試料分析結果欄に「石綿は含有されていません。」との記載がある。
平成30年12月及び平成31年2月頃、Xが本件建物の改修に際して、石綿に関する調査を実施したところ、吹付材、仕上塗料及び成形板から、法令基準を超える石綿が検出された。
令和元年10月、Xは、購入時提供のY2の調査報告書等には、本件建物に石綿が含有されていない旨の記載がされていたが、法令基準を超える石綿の含有建材が使用されていたため、除去費用等に相当する損害を被ったと主張して、Y1に対して、表明保証違反、瑕疵担保責任等に基づき41億円余の損害賠償を、Y2に対しては、石綿が含有されていないと誤った本件報告書を作成した不法行為責任に基づき37億円余の損害賠償を求める本件訴訟を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示して、Xの請求を全て棄却した。
(Y1の表明保証違反について)
本件報告書は、特定採取場所から試料を採取分析し、基準値を上回る石綿を含有していなかったとの調査結果を記載したものにすぎず、建物全体について、石綿を含有する吹付材が使用されていないとの事実を記載するものではない。また、本件物件説明書は、「後日、石綿含有建材使用箇所が発見される可能性が
ある。」とも記載しているのであって、Y1はXに対し、本件建物の竣工時期に照らして石綿を含有している可能性が否定できないことや、後日、石綿を含有する建材が発見される可能性があることを留保しつつ、本件報告書に係る調査結果や、これを踏まえて石綿含有の可能性が低いと評価されているとの情報を提供したにすぎず、これを超えて、本件建物の建材が石綿を含有していないとの情報を提供したということはできない。
したがって、Xの調査によって、法令基準を超える石綿が検出されたとしても、Y1の情報提供が誤っているとは言えず、Y1は、この点に係る表明保証違反の責任を負わないというべきである。
(Y1の瑕疵担保責任について)
本件建物に法令基準を超える石綿が存在したことは、本件売買契約後にXの調査によって判明したもので、契約締結当時、Y1がこれを知っていたとは認められないことから、
「隠れたる瑕疵」に該当するといえる。 Xは、本件建物の竣工年を考慮すれば、本
件報告書の調査内容では、本件建物に石綿が存在するという懸念を払拭するに足りないから、Y1は、設計図書等を参照するなどして石綿の存否に係る追加調査を行なうべきで、 Y1が石綿の存在を知らなかったことについて重過失があると主張する。
しかし、売買契約が現状有姿取引とされ、本件報告書に係る調査の範囲等が限定されていたこと等に照らすと、Y1に追加調査を行う義務があったとは認められず、本件建物に法令基準値を超える石綿が存在することについて、Y1に悪意重過失があったとは認められないことから、瑕疵担保責任に係るXの主張はいずれも理由がない。
(Y2の損害賠償責任について) Y2は、本件売買の6年前にY1の依頼を
受けて本件報告書を作成したにすぎず、本件報告書がどのように使用されるかを認識していたとは認め難いことから、本件報告書を作成した段階で、第三者であるXとの関係で、何らかの注意義務を負っていたと解することはできない。
この点を措くとしても、本件報告書に係る調査箇所・範囲等が不適切であるとはいえず、本件報告書の記載が誤解を与えるものとは認め難いこと等から、Y2の不法行為に係るXの主張には理由がない。
3 まとめ
石綿使用の調査報告書は、その調査した特定の箇所・範囲に石綿の使用有無が報告されるもので、建物全体に石綿使用がないことを保証したものではないことから、本件のように、実際、建物に石綿を含有する建材が発見されることはありうる。
xx業者においては、石綿がないという調査結果があっても石綿が発見される可能性があるので、十分注意喚起しておくことがトラブル回避の観点から重要と思われる。
(調査研究部調査役)
最近の裁判例から
⑼−売主業者の責任−
隣接建物の建材剥離落下事故による買主の駐車場収益減少について、売主及び建物所有者に賠償責任が認められた事例
(東京地判 令 3・7・20 ウエストロー・ジャパン) xx xx
隣地建物と密着していた建物を解体し更地にした売主業者から更地を購入した買主が、隣地建物外壁の剥離落下事故発生により、貸駐車場の一部が使用できなかったことから、売主業者及び隣地建物所有者に対して、駐車場収益減少による損害の賠償を求めた事案において、両者に不真正連帯債務の賠償責任が認められた事例(東京地裁 令和3年7月20日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成27年7月、売主Y1(被告・xx業者)は、本件土地について、地上建物のAビル(昭和35年築)を取り壊し更地にして引き渡す条件で、買主X(原告)と代金38億円とする本件売買契約を締結した。
Aビルは、Y2(被告・xx業者)が所有するBビル(昭和34年築)と密着して建築され、一体として利用されていたことから、 Y1は、解体工事に当たってA・Bビルの床取合部を手斫(てはつり)し、Bビルのドア跡部分や屋上部分の接着面に補修を行うなどして、Aビルの解体工事を終了させ、平成27年12月に本件土地をXに引き渡した。
Xは本件土地を、平成28年1月より時間貸駐車場用地としてC社に賃貸したところ、同年10月、Bビルの外壁の建材が剥離して本件土地に落下する事故が発生したため、C社は 15区画の駐車場のうち10区画を閉鎖し、Xと C社は月額賃料480万円を160万円に減額する合意をした。
平成28年12月、Y2は、Bビルの外壁の一部をネットで覆う措置をとったが、建材の剥離は続き、剥離した建材はネット内にとどまるばかりでなく、ネットの外の本件土地との境界線付近に散乱したため、平成29年6月、 Xは、Y1及びY2に対し、Bビルの外壁の補修工事と補修工事完了までの賃料減少分の損害賠償を求める本件訴えを提起した。
令和元年11月にY2がBビルの外壁の補修工事を完了したことから、XとC社は、令和 2年1月より、落下事故前と同様に15台分の駐車場賃料480万円で賃貸することとし、Xは本件訴えのうち、外壁補修工事を求めていた部分を取り下げ、本件落下事故による賃料減少分の損害について、Y1には本件売買契約上の債務不履行(不完全履行)などがあるとして、Y2には、Bビルの設置保存の瑕疵により上記損害が生じたとして、8,878万円余を求める訴えに変更した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示して、Xの請求を認容した。
(Y1の責任について) A・Bビルは、電気・水道・ガス等を共有
し、屋上部分等が接触していたが、A・Bビルの鉄筋は接続されておらず、一部の梁は外見上一体に見えるものの、梁の間が木製の合板によって分離されており、独立した建物であったと認めるほかない。
また、解体工事によってBビル南側外壁に
損傷が生じたと認めるに足りる具体的な証拠はない。むしろ、床取合部に手斫りでの工事がなされていたことなどから解体工事は慎重に行われていたと推認することができる。
調査意見書の内容を踏まえると、事故は、解体工事でBビル南側外壁に生じた解体痕から剥離した建材の落下によって生じたものではなく、Aビルの建築から事故までの約55年間、Aビルの存在により補修されず、自然劣化が進んだ状態であったBビル南側外壁が、解体工事で外部に露出し、その劣化が風雨や紫外線にさらされたことで進行した結果生じたものであったと認めるのが相当である。
Y1は、Bビル南側外壁は、約55年間にわたって全く補修がされておらず、Aビル解体後、Bビル南側外壁を放置すれば、老朽化や長期間の未補修を要因として外壁の剥離が起き得る状況にあり、Y1はそのことを予見し得たと自認していることや、Y1が売買契約の売主として、建物を解体してXに引き渡すべき義務を負っていたことからすると、Y1にはXに対し、解体工事後に露出したBビル南側外壁からの建材剥離によって土地の利用が妨げられる可能性を説明し、対処を促すべき法律上の義務(これは契約上の義務であるとともに、不法行為上の義務でもある。)を負っていたと評価するのが相当である。
(Y2の責任について)
本件事故は、前述の調査意見書のとおり、 Bビル南側外壁の外部露出による自然劣化の進行により生じたものであったと認められ、 Y2のBビル南側外壁の設置保存の瑕疵によって生じたものであったということができる。よって、Y2は、民法717条1項(工作物責任)に基づき、本件事故によってXに生じた損害について賠償する責任を負う。
(損害について)
本件事故によってXに生じた時間貸駐車場
の賃料収入の減少分はY1の義務違反及び Y2所有のBビルの設置保存の瑕疵と相当因果関係を有する損害と評価するのが相当である。Y1はXに対し、不法行為(民法709条)による損害賠償債務として8,878万円余を支払うべき義務を負い、Y2はXに対し、不法行為(民法717条1項)による損害賠償債務として支払うべき義務を負うが、これらは不真正連帯債務の関係に立つと解される。
3 まとめ
本事案では、隣接地のビル所有者の設置保存の瑕疵による工作物責任とともに、ビル解体工事を実施した事業者が隣接地のビルからの建材剥離の可能性を買主に説明しなかったことについても不法行為責任が認められている。事業者は外壁剥離の可能性を認識・予見した時点で、買主に可能性を説明するとともに、対処措置等について協議すべきであったと思われる。
類似事案では、「壁面タイル落下の危険性を放置した建物所有者に、営業ができなかった隣地駐車場の損害について賠償責任を認めた事例」(東京地判 平31・3・25 RETIO119-160)がある。また、人的被害が発生した場合には民事のみならず刑事責任を問われることもあり、「店舗の突出看板の支柱が落下し歩行者が重篤な傷害を負った事件において、店舗責任者に業務上過失傷害罪の成立を認めた事例 」( 札幌地判 平29・3・13 RETIO107-116)についても注視願いたい。
(調査研究部次長)
最近の裁判例から
⑽−デート商法−
いわゆるデート商法によりマンション購入契約をさせられたとする買主の購入代金全額の損害賠償請求が認容された事例
(東京地判 令 3・7・20 ウエストロー・ジャパン) xx x
SNSで知り合った者から勧誘を受け、市場価格と比して異常に高額で自宅及び投資用として複数のマンションを購入させられ、売買代金相当額の損害を被ったとして、買主が、それらの購入にあたり、コンサルを行ったり、売主となったxx業者に対してその賠償等を求めた事案において、買主の請求がほぼ認められた事例(東京地裁 令和3年7月20日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成27年2月、X(原告・個人)は、AからSNSのメッセージを受け取り、連絡を取るようになり、共に食事をしたりするようになった。その後、XはAに交際を希望する旨申入れたが、Aはこれに明確な回答をしなかった。
同年7月頃から、XはAから不動産投資の勧誘を受けるようになり、同年10月には、その求めに応じて、Aに源泉徴収票の写しを交付した。さらに翌月には、Xは、A及びAの勤務先のY社(被告・xx業者)執行役員と面会し、両名から不動産投資の勧誘を受けた。
平成28年3月20日、XはB社の媒介により、 C社との間で、自宅用として昭和63年築の中古分譲マンション(物件①)を3280万円で購入する契約(契約①)を締結し、同年4月に引渡しを受け、これを賃貸することとした。
また、同月27日にXはB社の媒介により、 D社から昭和63年築の投資用マンション(物件②)を3600万円で購入する契約(契約②)
を締結し、同年5月に引渡しを受けた。
同年4月、XはY社にて、Y社との物件①及び物件②に関する不動産コンサルティング業務委託契約書に署名押印し、その報酬としてY社に200万円を支払った。
同年10月に、XはY社と昭和62年築の投資用マンション(物件③、物件①〜③を合わせて「各物件」という)を1200万円で購入する契約(契約③、契約①〜③を合わせて「各契約」という)を締結し、同月に引渡しを受けた。
Xは、各物件の賃料収入からローン返済等の支出を差引いた持出し金額の合計が、月額 6万円余〜16万円余になっていたことから、徐々に不安を覚えるようになり、平成30年2月頃にY社に各物件の買取りを求めたものの、これを拒否された。その後Xは弁護士に相談し、同年4月にその弁護士を通じて他のxx業者に各物件の価格査定を依頼したところ、いずれも市場価格は購入価格の50〜60%程度に過ぎないとの結果が示された。
Xは、その後もY社に各物件の買取りを求めたものの、Y社はこれに応じなかったことから、平成30年10月、Y社に対して、各物件の購入価額、Y社に支払ったコンサル報酬、購入に要した費用、慰謝料等として9641万円余の支払いを求めて提訴した。
これに対してY社は、Xの求めに応じて相談に乗っただけで不当な勧誘はしていない、 XとAが知り合った当時にAはY社の従業員ではなかった、等として争った。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、XのY社に対する慰謝料以外の請求を認容した。
(Aの不法行為の有無) Xの各物件の購入価格の合計は、7981万円
余であるのに対し、各契約から約1年半〜2年後の各物件の査定価格は合計3760万円にとどまり、各契約の価格は、市場価格に照らして不相当に高額なものであったと言える。また、各物件の収支も月額合計6万円以上のマイナスで、この状態が相当期間継続、もしくは悪化することも見込まれる。
またAは、Xと知り合って間もなくXに源泉徴収票の開示を求める等不動産投資の勧誘を行い、Xから交際を求められると明確な回答を避け、不動産投資の勧誘を継続し、さらにXが各契約についての融資を受けさせるために改ざんした源泉徴収票を金融機関に提出したことが認められる。
よって、Aの上記勧誘行為は、社会通念上容認し得る限度を超え、不法行為に該当する。
(Y社の使用者責任) Y社は、契約①及び契約②について、Xと
の間で不動産コンサルティング業務委託契約を締結してこれに基づく報酬を収受し、契約
③については、自ら売主として契約を締結しており、AはY社の業務執行としてこれらの勧誘を行ったことは明らかであり、Y社は民法715条1項に基づく使用者責任を負う。
(Xの損害の有無及びその額) Xは、Aの不法行為によって、各契約を締
結し、売買代金として7981万円余、Y社に対するコンサル報酬として200万円、その他購入に要した費用等として83万円余(合計8264万円余)を支払っており、これに弁護士費用 826万円余を加えた9091万円余について、Y社はXに対して支払い義務を負う。ただし、
この金銭賠償によりXの精神的損害は慰謝さ れると認められ、慰謝料請求は認められない。なお、Y社は、各物件の市場価格相当がX の損害額から控除されるべきとも主張するが、Aの不法行為は反倫理的なものであり、
これを控除することは相当でない。
3 まとめ
本件は、いわゆるデート商法により投資用等のマンションを購入させられた被害者による売主等であったxx業者に対する損害賠償請求がほぼ全面的に認容された事例である。国民生活センターからも同様の被害につい ての相談が各地の消費生活センターにも寄せられているとして、必要以上の個人情報の提供や、契約締結には慎重な判断を促す内容の
注意喚起のプレスリリースが出されており、同種の被害は少なくないものと思われる。
本年(令和4年)4月からxx年齢が18歳に引き下げられており、同様の被害にあう者が若年化することも懸念される。これに関しては、国土交通省から不動産関係団体に、「xx年齢引下げ後にxxに達した若年者に対する適切な対応について」と題する協力依頼文書が施行前の3月14日に発出されており、「会員事業者に対し、xxに達した若年者に対する適切な対応の呼びかけ」を行うよう求められている。
なお、同種の詐欺被害に係る被害者からの請求が認容された事例として東京地判 平26・ 4・1(RETIO97-90)、東京高判平27・5・26(判例時報2280-69)も見られるので、併せて参考にしていただきたい。
(調査研究部xx研究員)