Contract
第5回 契約の解除
【様々な契約の終了原因】
1 正常な終了
(1) 単発型契約-すべての債務の履行(弁済)の完了
(2) 継続的契約 (a) 契約期間の満了
2006/10/17
松岡 久和
(b) 解約(申入れ/告知)・更新拒絶:617条、619条1項、621条、627条、629条など
2 約定解除
(1) 解除条件の成就:127条
(2) 約定解除権・解約権:557条、579条、618条参照
(3) 合意解除
3 法定解除
(1) 債務不履行解除:541~534条
(2) 契約類型毎の特別な解除:561条以下、594条など
(3) その他の契約終了原因:599条、653条など
4 事情変更を理由とする解除
判例
8~10、百44:4要件を充たすことは稀で、裁判官による契約改訂には議論有。
【債務不履行を理由とする解除権の要件】
1 債務不履行に基づく解除権(541条以下)の意義と機能
・意義と機能:①自己の反対債務からの解放、②給付の取戻し(清算)、③契約利益の剥奪(制裁)
・解約告知権、取消権、クーリング・オフとの違い
2 履行遅滞の場合(541条)
Case 05-01 とは共同でバカンス用の別荘の土地甲と建物乙をYから1000万円・
10年の均等分割払いで購入し、引渡しを受けた。
①Xらが2年目の100万円を支払わない場合、Yは直ちに解除ができるか。
②Xらが、「甲の地盤が一部軟弱で建物に不安があるので補強工事を求める」と主張していた場合にはどうか。
・要件:①履行期(412条)の徒過=履行遅滞、②債務者の責に帰すべき事由
③相当期間を定めた催告←履行遅滞解除特有の手続的要件
・同時履行の抗弁権や留置権など正当事由(違法性阻却事由)がある場合
判例
大判大正10年6月30日民録27輯1287頁、最判昭和36年6月22日民集15巻6号1651頁
判例
・催告期間 19
判例
・催告と解除の意思表示の関係
・失権約款・無催告解除特約の効力
大判明治43年12月9日民録16輯910頁
判例
・反対債務の履行の提供がなくても解除できる場合 12
・継続的契約関係の場合の特則:信頼関係破壊の法理の二面性 →賃貸借契約
3 定期行為の場合(542条、商525条)
・帰責事由の要否
4 履行不能の場合(543条)
5 不完全履行の場合・受領遅滞の場合など根拠条文がない場合
Case 05-02 ①先の Case 05-01で、Yが別荘地へのアクセス道路や付帯施設の年次整備計画を実施しない場合、Xらは契約を解除することができるか。
②別荘近辺の管理・整備が不完全で、別荘を利用したXらの家族が怪我をした場合、 Xらは契約を解除することができるか。
・不完全履行の性質
・付随的な義務の違反に基づく解除の可否
判例
最判昭43年2月23日民集22巻2号281頁-契約目的不達成基準
・受領遅滞に基づく債務者からの解除の可否
判例
最判昭40年12月3日民集19巻9号2090頁(消極)
・履行期前の履行拒絶
6 補論:解除論の再構成(立法論を含む)
・帰責事由から「重大な契約違反」(=契約目的不達成)への要件の転換
・催告解除の位置づけ
・危険負担との関係の再構成
【解除権の行使と範囲】
1 解除権の行使
・裁判外で行使できる形成権構成(540条1項)←→解除条件・裁判による解除(仏)
・解除権行使の意思表示の撤回禁止(540条2項)
・解除権行使の不可分性(544条)。
判例
最判昭和39年2月25日民集18巻2号329頁(252条による例外処理:多数決原理)
2 解除権行使の範囲
・一部の遅滞や不能と全部解除・一部解除/複数の契約の一部の不履行と全契約の解除
判例
20=百45(リゾートマンション・プール完成遅延事件)
【解除の効果(1)-当事者関係】
Case 05-03 Xは、Yに代金500万円(分割払)で高級車甲を売って、頭金100万円を受領し、甲をYに引き渡した。Yは、甲を10万円で2週間Aに貸した。
①Yが残代金の支払いをしないので、Xは、541条によりこの売買契約を解除した。甲は何者かに傷を付けられており、塗装の修理には50万円を要する。また、この修理が完璧になされたとしても、甲は、中古車として300万円程度に減価している。
この場合、XはYに何を請求できるか。Yは逆に何を請求できるか。
②甲がAの運転中に大破し無価値となってしまったが、事故原因は、Aの無謀運転と甲の欠陥が競合したものであることが判明した。Yは、売買契約を解除して、頭金100万円の返還を求められるか。Xは逆に何を請求できるか。
・履行済の給付の返還関係-原状回復請求権(545条1項)
・返還債務の同時履行関係(546条)
・帰責事由なく給付そのものの返還が不可能な場合の処理
・給付から生じた果実・使用利益と利息(545条2項。404条・商514条をも参照)
参考判例
30=百49(他人物売主の使用利益返還請求)
・575条類推適用の可否
・給付物に投じた必要費・有益費(196条、299条)
・損害賠償請求権(545条3項):履行利益賠償か信頼利益賠償か
【解除の効果(2)-対第三者関係】
Case 05-04 XはAに建物甲を売って、移転登記もすませたが、Aが代金の支払いを怠ったので、541条によりAとの売買契約を解除した。ところが、Aからこの建物を購入したと主張するYが甲を占有している。XとYの法律関係はどうなるか。
・判例
最判昭和33年6月14日民集12巻9号1449頁(ただし合意解除の例)
・直接効果説の論理と間接効果説・折衷説・原契約変容説の論理
【解除権の消滅】
・①催告に対する解除権不行使(547条)
②解除権者の「行為又ハ過失」による目的物の滅失・毀損(548条1項)
③消滅時効(167条1項・商522条類推-判例。ただし二段階構成に注意)
判例
④権利失効の原則(?) 21
[参考文献]
松岡久和「履行障害を理由とする解除と危険負担」ジュリ1318号138頁(2006年)
:本年度の私法学会シンポジウム報告用の論文で、まず、前半では、履行障害を理由とする解除の場合、近時の国際的な議論動向を踏まえ、不履行当事者の帰責事由を要せず、「重大な契約違反(ないし重大な不履行)」(=被害当事者の契約目的不達成)を基準とする統一的な再構成が妥当である、との立法論を展開する。論文の後半では、このように帰責事由を不要とする解除制度を構想した場合、危険負担制度との関係はどうなるかを考察し、結論的には、危険負担の処理は解除制度に吸収できる(解除への一元化=契約総則における一般的な危険負担制度廃止)と主張する。なお、注25でCISGを併存モデルとしているのは、CISGの規定が給付危険に関するものなので誤り(解除への一元化構成)。校正後にミスに気付いたが手遅れだった。
森田修『契約責任の法学的構造』(有斐閣、2006年)
:後半の1/3ほどが解除に当てられている。著者は、履行障害が生じた場合には、当初の合意によって設定された規範だけでは適切な解決は望めず、事態の展開に応じた柔軟な契約再交渉規範の設定が必要だとする。著者は、そのような観点から、重大な契約違反に単純には統合できない催告解除(541条)の独自性を強調する。催告は、再交渉を基礎づける誠実交渉義務に結び付けられ、催告解除の適用は制限されることになる。教科書60頁注1の森田修「解除の行使方法と債務転形論」からは、債務転形論を否定する根本的な方向転換がなされているので注意。