Contract
平成 19 年8月 30日
企業会計基準公開草案第 20 号
工事契約に関する会計基準(案)
平成XX 年XX月 XX日 企業会計基準委員会
目 次 項
目 的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
会計基準・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
範 囲・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
用語の定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
工事契約に関する会計処理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
工事契約に係る認識の単位・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
工事契約に係る認識基準の識別・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
工事進行基準の会計処理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
工事完成基準の会計処理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
工事契約から損失が見込まれることとなった場合の取扱い・・・・・・・ 18
開 示・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20
適用時期等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
結論の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25
経 緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25
範 囲・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
用語の定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29
工事契約に関する会計処理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
工事契約に係る認識の単位・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37
工事契約に係る認識基準の識別・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 41
工事進行基準の会計処理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55
工事契約から損失が見込まれることとなった場合の取扱い・・・・・・・ 58
開 示・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67
適用時期等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68
目 的
1. 本会計基準は、工事契約に係る収益(以下「工事収益」という。)及びその原価(以下「工事原価」という。)に関し、施工者における会計処理及び開示を定めることを目的とする。
工事収益及び工事原価の施工者における会計処理について、既存の会計基準等において本会計基準と異なる取扱いを定めている場合であっても、本会計基準の取扱いが他の会計基準等に優先する。
会計基準
x 囲
2. 本会計基準は、工事契約に関して、施工者における工事収益及び工事原価の会計処理並びに開示に適用される。
本会計基準において「工事契約」とは、仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約のうち、土木、建築、造船や一定の機械装置の製造等、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行うものをいう。
3. 受注制作のソフトウェアについても、前項の工事契約に準じて、本会計基準を適用する。
用語の定義
4. 本会計基準における用語の定義は、次のとおりとする。
(1) 工事契約に係る「認識の単位」とは、工事収益及び工事原価の認識に係る判断を行う単位をいう。
(2) 工事契約に係る「認識基準」とは、工事契約に関して工事収益及び工事原価を認識するための基準をいい、工事進行基準と工事完成基準とがある。
(3) 「工事進行基準」とは、工事契約に関して工事収益総額(本項(5)参照)、工事原価総額(本項(6)参照)及び決算日における工事進捗度を合理的に見積り、これに応じて当期の工事収益及び工事原価を認識する方法をいう。
(4) 「工事完成基準」とは、工事契約に関し、工事が完成し、その引渡しが完了した時点で、当該工事契約に係る工事収益及び工事原価を認識する方法をいう。
(5) 「工事収益総額」とは、工事契約において定められている施工者に対して支払われる対価の総額をいう。
(6) 「工事原価総額」とは、工事契約に係る認識の単位に含まれる施工者の義務を果たすための費用である工事原価の総額をいう。工事原価は、原価計算基準に従って適正に算定する。
(7) 「原価比例法」とは、決算日における工事進捗度を見積る方法のうち、決算日までに実施した工事に関して発生した工事原価が工事原価総額に占める割合をもって決算日における工事進捗度とする方法をいう。
工事契約に関する会計処理
工事契約に係る認識の単位
5. 工事契約に係る認識の単位は、工事契約において当事者が合意した取引の実質的な単位に基づく。
工事契約に関する契約書は、当事者間で合意した実質的な取引の単位で作成されることが通常である。ただし、契約書が当事者間で合意した実質的な取引の単位を適切に反映していない場合には、これを反映するように複数の契約書を結合し、又は契約書の一部をもって工事契約に係る認識の単位とする必要がある。
6. 工事契約に係る工事収益及び工事原価は、前項の認識の単位ごとに工事契約に係る認識基準を適用することにより認識する。
工事契約に係る認識基準の識別
(工事進行基準を適用する場合)
7. 工事契約に関して、工事の進行途上においても、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合には、工事進行基準に基づいて工事収益及び工事原価を計上する。
成果の確実性が認められるためには、次の各要素について、信頼性をもって見積ることができる必要がある。
(1) 工事収益総額(第 9 項及び第 10 項参照)
(2) 工事原価総額(第 11 項参照)
(3) 決算日における工事進捗度(第 12 項参照)
(工事完成基準を適用する場合)
8. 工事契約が前項の要件を満たさない場合には、工事完成基準に基づいて、工事収益及び工事原価を計上する。
(工事収益総額)
9. 信頼性をもって工事収益総額を見積るための前提条件として、当該工事が完成する確実性が高いことが必要である。このためには、施工者に当該工事を完成するに足りる十分な能力があり、かつ、完成を妨げる環境要因が存在しないことが必要である。
10. 信頼性をもって工事収益総額を見積るためには、さらに、工事契約において当該工事についての対価の定めがあることが必要である。
「対価の定め」とは、対価の額についての定め、並びに対価の決済条件及び決済方法
についての定めをいう。対価の額の定めには、対価の額が固定額で定められている場合のほか、その一部又は全部が将来の不確実な事象に関連付けて定められている場合がある。
(工事原価総額)
11. 信頼性をもって工事原価総額を見積るためには、工事原価の見積りが、実際に発生した工事原価と比較できる形で作成されており、工事原価の事前の見積りと実績を対比することにより、適時・適切に工事原価総額の見積りの見直しが行われることが必要である。
(決算日における工事進捗度)
12. 決算日における工事進捗度の見積りに関して、原価比例法を採用する場合には、前項の要件が満たされれば、通常、決算日における工事進捗度も信頼性をもって見積ることができる。
工事進行基準の会計処理
(工事進行基準による工事収益及び工事原価の計上)
13. 工事進行基準が適用される場合には、工事契約に関して、工事収益総額、工事原価総額及び決算日における工事進捗度を合理的に見積り、これに応じて当期の工事収益及び工事原価を計上する。
(決算日における工事進捗度の見積り)
14. 決算日における工事進捗度は、原価比例法等、当該工事契約における施工者の履行義務の全体との対比において、決算日における当該工事の履行の割合を合理的に反映する方法を用いてこれを見積る。
工事契約の内容によっては、原価比例法以外にも、より合理的に工事進捗度を把握することが可能な見積方法があり得る。このような場合には、原価比例法に代えて、その見積方法を用いることができる。
工事原価のうち、未だ損益計算書に計上されていない部分は、「未成工事支出金」等の適切な科目をもって貸借対照表に計上する。
(見積りの変更)
15. 工事進行基準が適用される場合において、工事収益総額、工事原価総額又は決算日における工事進捗度の見積りが変更された場合は、その見積りの変更が行われた期に、その影響額を損益として処理する。
(工事進行基準の適用により計上される未収入額)
16. 工事進行基準を適用した結果、工事の進行途上において計上される未収入額については、本会計基準及び他の会計基準等の適用上、特段の定めがない限り、金銭債権に準じて取り扱う。
工事完成基準の会計処理
17. 工事完成基準を適用する場合には、工事契約に関して工事が完成し、その引渡しが完了した時点で、当該工事契約に係る工事収益及び工事原価を損益計算書に計上する。
工事が完成し、その引渡しが完了するまでの間は、発生した工事原価は「未成工事支出金」等の適切な科目をもって貸借対照表に計上する。
工事契約から損失が見込まれることとなった場合の取扱い
18. 工事契約について、工事原価総額等(販売直接経費がある場合にはその見積額を含めた額)が当該工事契約における工事収益総額を超過する可能性が高い場合には、当該超過すると見込まれる額(以下「工事損失」という。)のうち、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を控除した残額を、工事損失が見込まれた期の損失として処理し、工事損失引当金として計上する。
19. 前項の取扱いは、当該工事契約について適用されている工事契約に係る認識基準が工事進行基準であるか工事完成基準であるか、また、工事進捗の程度にかかわらず適用される。
開 示
表 示
20. 第 18 項の工事損失引当金の繰入額は売上原価に含め、当該工事損失引当金の残高は、貸借対照表の負債の部に計上する。
注記事項
21. 工事契約に関しては、次の事項を注記しなければならない。
(1) 当期に計上した工事収益及び工事原価の額を決定するために用いた工事契約に係る認識基準
(2) 工事契約に関して、決算日における工事進捗度を見積るために用いた方法
(3) 第 18 項による、当期の工事損失引当金繰入額
(4) 第 18 項により工事損失引当金が計上されている工事契約について、未成工事支出金等の棚卸資産を計上している場合には、その旨、及び当該棚卸資産の額のうち、工事損失引当金に対応する額(ただし、該当する工事契約が複数存在する場合には、その合計額)
(5) 第 23 項を適用した場合には、その旨、及び過年度に対応する工事収益の額及び工事原価の額
適用時期等
22. 本会計基準は、平成 21 年 4 月 1 日以後開始する事業年度に着手する工事契約に適用する。
ただし、平成 21 年 3 月 31 日以前に開始する事業年度に着手した工事契約について
も、平成 21 年 4 月 1 日以後開始する事業年度に工事損失が見込まれる場合には、第
18 項及び第 19 項を適用する。
23. 前項にかかわらず、平成 21 年 4 月 1 日以後開始する最初の事業年度の期首に存在する工事契約のすべてについて、一律に本会計基準を適用することもできる。
この場合、過年度に対応する損益の修正額は特別利益又は特別損失として計上する。
24. 本会計基準の適用については、会計基準の変更にともなう会計方針の変更として取り扱う。
結論の背景
経 緯
25. これまで我が国では、長期請負工事に関する収益の計上については、工事進行基準又は工事完成基準のいずれかを選択適用することができるとされてきた(企業会計原則注解(注解 7))。このため、同じような請負工事契約であっても、企業の選択により異なる収益の認識基準が適用される結果、財務諸表間の比較可能性が損なわれる可能性があるとの問題点が指摘されていた。このため、当委員会においては、初期の段階から、工事契約に関する収益等の認識方法が中長期的な検討課題として認識されてきた。
その後、四半期財務報告制度が導入されるなど、より適時な財務情報の提供に関する関心が高まり、この面からも工事契約に関する収益認識の方法について見直しの必要性が指摘されていた。また、工事契約に関する収益認識の方法に関しては、当委員会と国際会計基準審議会(IASB)との間で進められている会計基準の国際的なコンバージェンスに向けた協議の中でも、短期の検討課題として取り上げられている。
このような要請に応えるため、当委員会は、平成 18 年 7 月に学識経験者を中心とし
たワーキング・グループを設置して本格的な検討の準備作業に着手し、平成 18 年 11月には工事契約専門委員会を設置し、理論的な側面からの検討とともに、実務上の問題点についても幅広く検討を重ねてきた。
範 囲
26. 本会計基準の検討においては、従来、工事完成基準と工事進行基準の選択適用が認められていた結果、適用される収益の認識基準が、会社の選択により分かれていたケースがあり、そのような可能性がある部分について、選択すべき認識基準を明らかにすることが目指された。このため、本会計基準は、仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約のうち、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行う工事契約に該当する取引(第 2 項参照)を適用範囲としている。
したがって、請負契約ではあっても、もっぱらサービスの提供を目的とする取引や、工事を実施するという点で、外形上は工事契約に類似する契約であっても、工事に係る労働サービスの提供そのものを目的とするような契約には適用されないことに留意する必要がある。
なお、本会計基準の適用範囲となる工事契約は、当事者間で既に合意されたものを指し、交渉中のものやそれ以前の段階のものは含まれない点に留意する必要がある。
27. 工事は、日常用語では、典型的に土木・建築工事等、建設業において行われている取引を指すものとして用いられることが多い。しかし、本会計基準でいう工事契約は、これよりも広く、造船や、基本的な仕様や作業内容について顧客の指図に基づいて行
う機械装置の製造に係る契約も含んでいる。基本的な仕様や作業内容について顧客の指図に基づいて行う工事を適用対象としており、機械装置の製造であっても標準品を製造するような場合(特定の顧客に対して供給するものでも、あらかじめ主要な部分について仕様の定まったものを量産する場合にはこれに含まれる。)には、たとえ、その付随的な部分について顧客に一定の選択が認められているようなときであっても、適用範囲に含まれないことに留意する必要がある。
また、据付や移設、試運転といった作業が、土木、建築、機械装置の製造等の契約に作業内容の一部として付随的に含まれることもあるが、単に物の引渡しを目的とする契約に付随してこのような作業が行われる場合もある。第 40 項で述べるように、前者の場合には、一体として工事契約になり本会計基準の適用範囲に含まれるが、後者の場合には、本会計基準の適用範囲に含まれない。構築物等に関する相当規模の据付や移設を目的とする工事が、土木工事や建築工事等として独立に取引された場合には、本会計基準の適用範囲に含まれることになる。
28. 受注制作のソフトウェアの制作費については、「研究開発費等に係る会計基準(企業会計審議会 平成 10 年 3 月)」四 1 において、請負工事の会計処理に準じて処理することとされており、このような取引についても、契約の形態(請負契約の形態をとるか、準委任契約の形態をとるか等)を問わず、本会計基準の適用範囲に含めることとした。
用語の定義
(工事原価の範囲)
29. 工事原価総額には、工事契約に係る認識の単位に含まれる施工者の義務を果たすためのすべての原価が含まれる。例えば、ある工事契約により、施工者が目的物を完成し、相手方に引き渡す義務を負っている場合には、目的物の完成に必要な原価のみならず、その引渡しの作業に要する原価も含まれる。
30. 企業会計原則 第二 3 の F ただし書きでは、「長期の請負工事については、販売費及び一般管理費を適当な比率で請負工事に配分し、売上原価及び期末たな卸高に算入することができる。」とされている。しかし、工事原価の範囲は、適正な原価計算基準に基づいて合理的に定まると考えられること、及び一定の費用について工事原価に含めるか否かを企業の選択に委ねることについては必ずしも合理性がないと考えられることから、この定めについては適用しないこととした。
(決算日における工事進捗度)
31. 決算日における工事進捗度は、工事契約に係る認識の単位に含まれている施工者の履行義務の全体のうち、決算日までに履行した部分の割合をいう。したがって、施工者が工事契約の義務を履行するために、単に目的物を完成させるだけでなく、その移設や据付等、引渡しのための作業が必要となる場合には、そのような付随的な作業内
容を含む施工者の履行義務の全体のうち、決算日までに履行した部分の割合をいうことになる。
工事契約に関する会計処理
32. 収益の認識に関しては、一般に、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものを対象とすることとされている(企業会計原則 第二 3 の B、同注解(注 6))。しかし、長期の未完成請負工事等については、工事が完成し、その引渡しが完了した日に工事収益を認識する方法(工事完成基準)とともに、工事の完成・引渡しより前の時点においても、決算期末に工事進行程度を見積り、適正な工事収益率によって合理的な収益を見積って工事収益の認識を行う方法(工事進行基準)が認められてきた(企業会計原則 第二 3 の B ただし書き、同注解(注 7))。どのような場合に、どのような時点で収益認識を行うのが適切であるかを検討するためには、このような現行の取扱いの背景にある考え方を確認しておく必要があると考えられる。
33. 財務報告の目的は、その利用者が不確実な将来の成果を予測して、企業の将来キャッシュフローの予測、ひいては企業価値の評価に役立つ財務情報を提供することにあると考えられる。このためには、企業が資金をどのように投資し、投資にあたって期待された成果に対して実際にどれだけ成果を上げているかについての情報を提供することが重要である。すなわち、実績としての成果は、投資にあたって事前に期待されていた成果が事実となったと認められる時点で把握されることになる。
一般に、商品等の販売又は役務の給付によって実現した段階で収益を認識するという企業会計原則の考え方も、収益はこのように成果の確実性が得られた段階で認識すべきであるとの考え方に基づいているものと解される。
34. 供給者側が契約義務の履行を果たした段階では、通常、成果の確実性が認められる。物の引渡しを目的とする売買契約においては引渡しを行った時点、工事の完成と完成した物の引渡しを目的とする請負工事契約においては完成・引渡しを行った時点である。
35. しかし、企業会計原則において、長期の請負工事に関して、工事完成基準のほか、工事進行基準が認められているのは、このような取引については、一定の条件が整えば、当該工事の進捗に応じて、対応する部分の成果の確実性が認められる場合があるためと考えられる。すなわち、当事者間で基本的な仕様や作業内容が合意された工事契約について、その義務のすべてを果たし終えておらず、法的には対価に対する請求権を未だ獲得していない状態であっても、会計上はこれと同視し得る程度に成果の確実性が高まり、これを成果として認識することが適切な場合があるためと考えられる。同じ長期の請負工事であっても、例えば、その工事に必要とされる技術が確立されており完成の確実性が高い状況と、そうでない状況とでは適用すべき収益の認識基準は必ずしも同じではないと考えられる。このため、当委員会は、この一定の条件が何で
あるかについての検討を行った。
36. 検討の過程では、討議資料「財務会計の概念フレームワーク」(以下「討議資料」という。)も参照された。討議資料では、収益及び費用は、投下資金が投資のリスクから解放された時点で把握されることとされている。投資のリスクとは、投資の成果の不確定性を意味し、投資にあたって期待したところの成果が事実となれば、それはリスクから解放されることになるとされている(討議資料 第 3 章第 23 項)。このように、収益や費用は、当該投資にあたって期待された成果に対比される事実が生じ、投資がリスクから解放された時点で把握される。工事契約による事業活動は、工事の遂行を通じて成果に結び付けることが期待されている投資であり、そのような事業活動を通じて、投資のリスクから解放されることになる。そして、前項で述べた当委員会における検討は、工事契約に投下した資金は、どのような条件があれば、投資のリスクから解放されることになるのかという問題であると理解された。
第 33 項でも示したように、成果が確実となった時点、すなわち投資のリスクから解放された時点で収益や費用を把握するという考え方の背景にあるのは、投資家が求めているのは、投資にあたって期待された成果に対して、どれだけ実際の成果が得られたのかについての情報であるとの考え方である(討議資料 第 3 章第 23 項)。
工事契約に係る認識の単位
37. ある取引を行う場合、その取引の内容をどのようなものとするのか、その取引の単位をどのようなものとするのか等の事項は、すべて当事者が契約において決定すべき事項である。会計処理もこのような取引の実態をxxに反映するように、当事者間の実質的な取引の単位を基に行う必要がある。工事契約に関して、工事収益及び工事原価の認識を判断する単位も、このように当事者間で合意した実質的な取引の単位に基づくべきである。
38. 取引に関する合意の確証として交わされる契約書は、一般に、当事者間で合意された実質的な取引の単位を反映していることが多い。
しかし、契約書の単位が、当事者間で合意した実質的な取引の単位を反映していない場合には、工事収益及び工事原価は、形式的な契約書の単位にとらわれることなく、実質的な取引の単位に基づいて認識される必要がある。実質的な取引の単位に基づくためには、契約書の単位を分割し、または、複数の契約書の単位を合算して、会計処理を行う単位とすることが必要となる場合もある。
39. 工事契約の実質的な取引の単位が有する特徴は、施工者がその範囲の工事義務を履行することによって、施工者が、取引の相手方から対価に対する確定的な請求権を獲得すること(既に対価の一部又は全部を受け取っている場合には、その受け取った額について、確定的に保有する権限を獲得すること)である。
40. 実質的な取引の単位の中に、工事に係る部分とそれ以外の部分とが含まれていても、
全体として、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行う工事を目的とする契約であれば、実質的な取引の単位の全体について、工事契約として本会計基準を適用する。しかし、契約内容に工事をともなっていても、その工事が、全体として物の引渡しを目的とする契約に付随して行われるに過ぎない場合には、本会計基準の適用対象となる工事契約とはならない点に留意する必要がある。
工事契約に係る認識基準の識別
41. 第 32 項から第 36 項で述べたように、工事契約に基づく工事の進捗に応じて、それに対応する部分について成果の確実性が認められる場合には、工事進行基準を適用し、その進捗部分の収益を認識することになる。
42. 成果の確実性が認められるためには、決算日までの工事の進捗が最終的に対価に結び付き、工事収益総額、工事原価総額及びそのうち決算日までに成果として確実になった部分、すなわち工事進捗度について、信頼性をもって見積ることができる必要がある。
43. これらの要件を検討する前提として、対象となる工事契約には、実体がなければならない。形式的に工事契約書が存在していても、容易に解約されてしまうような場合には、工事契約の実体があるとはいえない。前提となる工事契約に実体があるといえるためには、工事契約が解約される可能性が少ないことが必要である。あるいは、仮に途中で工事契約が解約される可能性があっても、解約以前に進捗した部分については、それに見合う対価を受け取る確実性が必要である。
44. 第 42 項に述べたように、成果の確実性が認められるためには、工事収益総額、工事原価総額及び決算日における工事進捗度の各要素について信頼性をもって見積ることができる必要がある。工事進行基準を適用するためには、本会計基準においても、国際的な会計基準と同様に、工事結果の信頼性のある見積りができることを求めている。
(工事収益総額の見積り)
45. 信頼性をもって工事収益総額を見積ることができるためには、その前提として、最終的にその工事が完成することについての確実性が求められる。そのためには、施工者には当該工事を完成する能力が求められる。また、工事が完成する環境条件も整っていなければならない。したがって、施工者自身に係る状況であるか否かを問わず、工事の完成を妨げる可能性のある重要な要因が存在する場合には、この要件を満たさないことになる。
46. 工事契約においては、対価の額があらかじめ固定的な金額で定められることが多い。しかし、対価の一部を、将来の不確実な事象(例えば、将来の資材価格等)に関わらせて定めることもある。このような場合には、工事進行基準を適用する上で、工事収益総額について最善の見積りを行うことになる。ただし、工事進行基準を適用するた
めには、合理的な見積りが可能でなければならない。
(工事原価総額の見積り)
47. 工事進行基準を適用するためには、工事原価総額についても、信頼性をもって見積 ることが必要である。しかし、工事原価総額は、工事契約の履行に着手した後も様々 な状況の変化により変動することが多い。このため、信頼性をもって工事原価総額の 見積りを行うためには、こうした見積りが工事の各段階における工事原価の見積りの 詳細な積上げとして構成されており、実際の原価発生と対比して適切に見積りの見直 しができる状態となっている必要がある。この条件を満たすためには、当該工事契約 に関する実行予算や工事原価等に関する管理体制の整備が不可欠であると考えられる。
48. 工事契約に金額的な重要性がないなどの理由により、当該工事契約に関して、前項の条件を満たす十分な実行予算や工事原価等の管理が個別に行われていない工事契約については、工事進行基準の適用要件を満たさないこととなる点に留意する必要がある。
49. なお、受注制作のソフトウェアについては、工事原価総額の信頼性のある見積りの可否が特に問題となる。ソフトウェアの制作を受注する場合、当初に仕様の詳細まで詰められないことも少なくなく、また、想定外の事象の発生などによって、追加的な工数の発生が生じやすいなど、適切な原価総額の見積りが困難な場合が少なくない。一般に、ハードウェアの供給を目的とする取引と比較して、開発途上において、信頼性をもって工事進捗度を見積るためには、原価の発生やその見積りに対するより高度な管理が必要と考えられる。
(工期との関係)
50. 企業会計原則においては、長期の請負工事を工事進行基準の選択適用が可能なものとしており、通常、工期が1年超の工事を適用対象とするものと解されてきた。しかし、工期が 1 年以下の工事契約であっても、会計期間をまたぐ工事に関しては工事進行基準を適用すべき場合があると考えられる。このため、本会計基準では、工事契約に関する認識基準を識別する上で、特に工期の長さには言及していない。
51. しかし、工期がごく短いものは、通常、金額的な重要性が乏しいばかりでなく、工事契約としての性格にも乏しい。このような取引については、工事進行基準を適用して工事収益総額や工事原価総額の按分計算を行う必要はなく、通常、工事完成基準が適用されると考えられる。
(工事原価回収基準)
52. 成果の確実性が認められない場合の取扱いとしては、工事完成基準のほか、工事原価については発生期間に費用として計上しつつ、工事収益については、工事原価のう
ち回収可能性が高い部分についてのみ計上するという方法(工事原価回収基準)も検討された。
53. しかし、成果の確実性がないと判断されたにもかかわらず、収益を認識するという考え方には合理性がないと考えられたため、本会計基準ではこれを採用しなかった。なお、成果の確実性があり、工事進行基準が適用される場合に、回収されると見込 まれる額(すなわち、工事収益総額)が工事原価総額に等しいと見積られる場合には、
工事原価回収基準を適用したのと同様の結果となる。
(完成に近づいたことによる成果の確実性の改善)
54. 例えば、工事進行基準を適用するに足りる管理体制がとられていない等の理由により、工事進行基準を適用する要件を満たさないため、工事完成基準を適用すべきものと判断された工事契約について、その後、単に工事の進捗にともなって完成が近づいたために成果の確実性が相対的に増したことのみをもって、途中で認識基準を変更することを容認することは、収益認識の恣意的な操作のおそれがあり、適切ではないと考えられた。しかし、長期に及ぶ工事契約において、成果の確実性が事後的に変動する状況は、この他にも様々なケースが考えられることから、それらの取扱いについては、本会計基準の適用指針において検討することとされた。
工事進行基準の会計処理
55. 工事の進行程度を合理的に反映する方法としては、多くの場合、工事契約内容のいかんにかかわらず、合理的な決算日における工事進捗度の見積方法として広く適用可能な原価比例法が用いられてきた。しかし、工事契約の内容によっては、他に決算日における工事進捗度をより合理的に反映する方法もあり得ると考えられる。このような場合には、原価比例法以外の方法が適用されることがある。
また、原価比例法による場合であっても、発生した工事原価が決算日における工事進捗度を合理的に反映しない場合には、これを合理的に反映するよう調整が必要となることもあり得ることに留意する必要がある。
(見積りの変更)
56. 見積りの変更の影響額を財務諸表に反映させる方法としては、影響額を将来に向かって調整する方法と、変更した期にすべての影響額を反映する方法とが考えられる。いずれの方法を採用することが適切であるかは、当該見積りの変更の影響が、いずれの期間と関係したものであるのかにより異なる。上記のいずれの実態も存在し得るため、一概にいずれの方法がより優れているということは難しいが、見積りの変更は、事前の見積りと実績とを対比した結果として求められることが多く、こうした場合には、修正の原因は、当期に起因することが多いと考えられたこと、及び実務上の便宜
も考慮して、見積りの変更を行った期にその影響額をすべて反映させる方法を採ることとした。
(工事進行基準の適用により計上される未収入額)
57. 工事進行基準を適用した結果、工事の進捗に応じて計上される未収入額は、法的には未だ債権とはいえない。しかし、第 35 項で述べたように、工事進行基準は、法的には未だ対価に対する請求権を獲得していない状態であっても、会計上はこれと同視し得る程度に成果に対する確実性が高まった場合に、これを成果として認識するものであり、この場合の未収入額は、会計上は法的債権に準じるものと考えることができる。このため、特段の定めがない限り、金銭債権に準じて会計処理することとした。
この結果、例えば当該工事契約に関する入金があった場合には、計上されている未収入額から入金相当額を減額することになる。また、当該未収入額について、回収の可能性に疑義がある場合には、貸倒引当金の計上が必要となり(企業会計基準第 10号「金融商品に関する会計基準」第 14 項)、当該未収入額が外貨建てである場合には、原則として決算時の為替相場による円換算額を付すことになる(「外貨建取引等会計処理基準(企業会計審議会 最終改正平成 11 年 10 月)」 一 2(1)②)。
工事契約から損失が見込まれることとなった場合の取扱い
58. 工事契約を履行することによって、最終的に損失が発生する可能性が高いと見込まれることがある。このような場合、我が国においては、発生の可能性が高いと見込まれる損失に対して引当金を計上する実務が相当程度行われてきている。また、国際的な会計基準においても、このような場合には、当該工事契約から発生すると見込まれる損失について、見込まれた期の損失として処理することが求められている。
59. 正常な利益を獲得することを目的とする企業行動において、投資額すら回収できないような事態が生じた場合には、将来に損失を繰り延べないための会計処理が求められている。有価証券や固定資産の減損処理、通常の販売目的で保有する棚卸資産の簿価切下げ等がこれにあたり、財務諸表利用者に有用な情報を提供することができるものと考えられてきた。工事契約において損失が見込まれる場合に、当該損失を見込まれた期の損失として計上する会計処理も、そのような事態において、将来に損失を繰り延べないために行われる会計処理であると考えられる。
60. 前述のように、工事損失が見込まれる場合、引当金を計上する実務が相当程度行われているが、これが引当金計上のための要件を満たすか否かが以下で述べるとおり検討された。
企業会計原則注解(注 18)は、次の要件をすべて満たす場合に、当期の負担に属する額を引当金に繰り入れ、費用又は損失として計上することとしている。
(1) 将来の特定の費用または損失であること
(2) その発生が当期以前の事象に起因すること
(3) 発生の可能性が高いこと
(4) 金額を合理的に見積ることができること
61. 企業会計原則注解(注 18)は、将来の特定の費用に加え、将来の特定の損失についても引当金の計上を求めており、その例として、債務保証損失引当金、損害補償損失引当金が挙げられている。このような特定の損失の引当金については、将来の発生が見込まれる損失の全額について、発生が見込まれた期の負担に属する金額として、引当金の計上が行われている。工事契約から将来発生が見込まれる損失についても、引当金計上の要件を満たせば、同様の処理が必要になると考えられる。特定の工事契約の履行により発生すると見込まれる損失は将来の特定の損失にあたるが、そのような損失が発生すると見込まれることになる原因は様々である。しかし、いずれの原因による場合であっても、過去の事象に起因するものと考えることができる。例えば、工事契約の締結以後に生じた施工者に起因する設計変更や、工事の進捗遅延による経費の増加、予期せぬ資材の値上り等、そのいずれもが過去の事象に起因するものである。さらに、工事契約を締結した当初から損失が見込まれるような場合であっても、損失の発生はそのような工事契約を締結したという過去の事象に起因していると考えることができる。
このため、損失発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、工事契約の全体から見込まれる工事損失から、販売直接経費を含む、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を除いた残額(すなわち、当該工事契約に関して、今後見込まれる損失の額)について、工事損失引当金を計上することとされた。
62. さらに、工事損失が見込まれることとなった段階で、当該工事契約について、未成工事支出金等の棚卸資産が計上されている場合の取扱いが検討された。問題となるのは、工事損失引当金の計上に先立ち、まず企業会計基準第 9 号「棚卸資産の評価に関する会計基準」(以下「棚卸資産会計基準」という。)に基づく棚卸資産の簿価の切下げが必要となるか否かという点である。
63. 工事損失が見込まれた段階で、工事損失引当金の計上を求める趣旨は、第 59 項で述べたように、棚卸資産会計基準が棚卸資産の簿価の切下げを求める趣旨とも共通していると考えられる。
しかし、棚卸資産会計基準は、必ずしも工事損失の会計処理を念頭に置いて定められたものではない。このため、工事損失が見込まれることとなった場合の会計処理に棚卸資産会計基準を仮にそのままの形で適用すると、切放し法を選択した場合の会計処理が本会計基準による工事損失の会計処理に必ずしもなじまないことや、たとえ工事損失の見込額が変動しない場合においても、工事の進捗に従って、引当金から棚卸資産の簿価の切下げへの振替が必要となり、取引内容によっては棚卸資産の種類が多
岐にわたり得ることなど、実務上の懸念が指摘された。
64. このため、本会計基準においては、実務上の過大な負担を回避しつつ、必要な情報 の提供が図られるよう、工事損失のうち既に計上された額を除いた残額の全体につい て工事損失引当金として計上することを求めることとする(第 18 項参照)一方で、当 該工事契約について未成工事支出金等として計上されている棚卸資産がある場合には、その旨及び当該棚卸資産の額のうち、工事損失引当金に対応する額の注記を求めるこ ととした(第 21 項(4)参照)。
65. 同一の工事契約に関する棚卸資産と工事損失引当金がともに計上されることとなる場合には、財務諸表の表示上、純額で表示することも認められると考えられる。ただし、この表示方法を採った場合にも総額で表示した場合と同じ情報が提供される必要があり、工事契約に係る棚卸資産が純額で表示されていることを明示した上で、相殺された棚卸資産の内容を示すため、第 21 項(4)の注記に準じて、相殺された棚卸資産の額の注記が必要となる点に留意する必要がある。
また、同じく信頼性という要素は含まれていても、工事進行基準を適用するための要件と、工事損失について工事損失引当金等を計上するための要件とは異なっている。第 18 項の会計処理は、その要件を満たす限りにおいて、当該工事契約について適用されている工事契約に係る認識基準のいかんを問わず適用される点に留意する必要がある。
66. なお、第 7 項に基づいて工事進行基準を適用している工事契約について、第 18 項により工事損失引当金を計上することとなった場合であっても、第 7 項の要件を満たしている限りは、引き続き工事進行基準によることとなる点に留意する必要がある。
また、工事進行基準が適用されている工事契約について、工事の進捗にともなって新たな損益が計上された場合には、工事損失引当金の残高は、工事損失の額のうち、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を除いた残額(すなわち、当該工事契約に関して、今後見込まれる損失の額)となる点に留意する必要がある(第 18 項及び
第 61 項参照)。この結果、たとえば当該工事契約について、工事の進捗にともなって当期に新たに計上された損失がある場合には、該当額について工事損失引当金を取り崩すことになる。
開 示
67. 第 21 項(2)の注記に関しては、原価比例法を適用している場合にはその旨を注記することになる。原価比例法以外の方法を適用している場合には、適用した方法についての具体的な説明及び当該工事契約について、その方法を適用することが適切と判断した理由を注記することになる。
適用時期等
68. 第 22 項にいう工事契約への着手とは、当該工事契約について工事原価の発生が開始することをいう。本会計基準の適用開始を工事契約の締結時期を基準として判断することも考えられたが、本会計基準適用のために必要な準備は、着手する時期までに整えられれば足り、本会計基準の適用開始年度より前に締結された工事契約であっても、着手時期が本会計基準の適用開始年度以後となる場合には、本会計基準を適用することとした。
69. 第 22 項を適用する場合には、適用初年度より前に着手された工事契約の会計処理については、なお従前の処理を継続することになる。
この結果、例えば適用初年度より前に着手された工事契約であって、工事進行基準により会計処理されているものについては、本会計基準第7項の要件を満たさないものであっても、直ちに適用すべき認識基準を変更することにはならないことになる。
以 上