※ PIO-NET データを基にした契約金額ベースの推計(2007 年)
平成23年7月8日
消費者委員会・説明資料( 2)
補足説明書
~ 「民法と消費者概念」について ~
弁護士 山本健司(日本弁護士連合会消費者問題対策委員会副委員長)
第1 民法における契約当事者間の格差への対応の当否・要否
= 格差対応は特別法に委ねておけばよい問題か。
【中間論点整理「第62,1(1)」183頁】
【配付資料(1)・意見書169頁】
【意見】
民法も現実の人に存する知識・情報・交渉力等の様々な格差に対応する必要があるとの考え方に賛成する。
【理由】
1 消費者市場と消費者契約の割合の大きさ
① 消費者が支出する総額(家計最終消費支出)は284兆円 *1
※ 国内総生産(GDP)に占めるシェアは約55%(2007 年度)
② 消費者契約における1契約あたりの単価の低さ
※ 消費者契約の数的割合はかなりの割合ではないかと推察される。
2 消費者問題の深刻さ
① 消費生活相談件数は高止まり
2009 年度で年間約90万件 *2
② 深刻な消費者被害の現状
契約額147万円,支払額55万円 *3
※ 少額多数被害と高額少数被害の併存 *4
③ 消費者被害に遭った人の割合の無視できない高さ
内閣府の国民生活選好度調査の結果では 2006 年度で全体の2.6% *5
※ 交通事故 0.6 %(2007 年),刑法犯 1.2 %(2007 年)*6
④ 消費者被害による経済的損失額の大きさ
最大3兆4000億円 *7
※ PIO-NET データを基にした契約金額ベースの推計(2007 年)
⑤ 公的機関に消費者権利を擁護されていると感じている国民意識の低さ*8
<日本> 感じる
<オランダ> 同
6.9%
80%
感じない同
74.7 %
17 %
⑥ 行政に頼らない制度の充実,被害回復の実現という観点も重要
*1 内閣府「平成 20 年度国民生活白書・消費者市民社会への展望-ゆとりと成熟した社会構
築に向けて-」(http://www.caa.go.jp/seikatsu/whitepaper/h20/10_pdf/01_honpen/index.html。以下「平成20年度国民生活白書」という)8頁。
*2 独立行政法人国民生活センター編「消費生活年報 2010」(以下「消費生活年報 2010」という。http://www.kokusen.go.jp/nenpou/index.htm。)10 頁。「全国消費生活情報ネットワーク・システム(PIO-NET)」に登録された 2009 年度の消費生活相談件数。
*3「消費生活年報 2010」35 頁・図9。
*4「平成20年度国民生活白書」87~91頁、143~144頁。「正規分布」ではなく「ベキ分布」。
*5 同・92~93頁。
*6 同・92頁。
*7 同・103~104頁。
*8 同・121頁。
3 消費者契約はあくまで格差契約の典型例
消費者以外にも個人と大差ない中小零細事業者などが多く存在。
※ 最近では、消費者保護法の適用の可否が不明確な中小零細事業者の契約被害(電話機リース等)が社会問題となっている。
4 一般法である民法の受け皿としての機能への期待
特別法での救済に困難を伴う事案への対応の必要性
※ 高齢者の被害などでは,クーリングオフの行使や他者への相談もせずに時間が経過しているケースや,不実告知や威迫・困惑といった要件を必ずしも満たさない不当勧誘案件が少なくない。
第2 当事者間に格差がある場合には劣後する者の利益に配慮する必要がある旨の抽象的な解釈理念を規定することの当否
【中間論点整理「第62,1(2)」184頁】
【配付資料(1)・意見書169~170頁】
【意見】
民法に「当事者間に知識・情報等の格差がある場合には劣後する者の利益に配慮する必要がある旨の抽象的な解釈理念」を規定すべきとの考え方に賛成する。
【理由】
1 民法における格差是正の必要性
上記「第1」1~4で前述のとおり。
2 一般法である民法の受け皿としての機能への期待
民法の原理として非対等者間の場合には対等当事者間とは異なる考慮が働く(劣後する者を保護する必要がある)という考え方を明示しておくことや,民法の役割の1つとして契約当事者間の格差への配慮や是正が唱われることは,公序良俗や信義則といった一般規定の柔軟な適用や,具体的な事案によっては消費者契約と実質的に大差ない格差契約(中小零細事業者など)に対する消費者保護規定の類推適用などにつながり得るのではないか。
第3 消費者契約に関する規定を設けることの当否
1 消費者契約に関する規定の要否
【意見】
【中間論点整理「第62,1(3)」184頁】
【配付資料(1)・意見書170頁】
後述する法形式の問題はあるが、新たな消費者契約に関する特則を法制化す る必要性は高い。
【理由】
(1) 消費者契約に関する民事ルールの不十分さと立法の必要性 (ア) 消費者契約法の制定とその後の経緯
ⅰ 消費者契約法は,平成 12 年 4 月に成立し,平成 13 年 4 月 1 日から 施行されている消費者契約に関する包括的民事ルールである。
消費者契約法の実体法部分は,大別して,①契約締結過程の適正化を図 るための不適切勧誘行為規制と,②契約内容の適正化を図るための不当条項規制に大別できる。
しかし,上記①②のいずれにおいても,立法に先だって提唱されていた
第 16
次国生審中間報告*1 や消費者契約法日弁連試案*2 などに比して,不
十分な内容に止まっている。
この点,立法時の衆議院・参議院の委員会付帯決議においては,5 年を 目途に見直しを含めた措置を講じることになっていた。
また,平成 17 年 4 月に制定された「消費者基本計画」においては,消費者契約法の見直しについて,特に情報提供,不招請勧誘の規制,適合性 原則を挙げて,平成 19 年までに一定の結論を得ることになっていた。*3
ⅱ その後,消費者契約法については,平成 18 年改正によって消費者団体 訴訟制度が導入され,平成 20 年改正によってその拡充が図られたが,実体法部分については,何ら法改正がなされないまま現在に至っている。
※ 前述のように高止まりしている消費者被害を抜本的に減少させるため にも,次々と発生してくる新たな消費者契約被害の救済を図るためにも,不適切な営業活動を行っている事業者を市場から排除して健全な消費者取引市場を実現するためにも,消費者契約法の実体法改正は早期に実現する必要がある。
(イ) 内閣府及び消費者庁における法改正に向けたこれまでの取り組み
ⅰ 消費者契約法の所轄官庁であった内閣府(平成 21 年 9 月以降は消費者 庁)は,実体法改正に向けた準備作業として,不適切勧誘行為規制に関し,平成 18 年に,諸外国の立法状況の調査結果を公表している。*4
ⅱ また,内閣府は,不当条項規制に関し,平成 16 年及び平成 19 年の2 回にわたって,不当条項に関する我が国の社会実態の調査作業を行っている。*5
ⅲ さらに,国民生活審議会は,平成 19 年 8 月に,消費者契約法の実体法 改正に向けた現行法の評価や論点の検討・整理を行っている。*6
ⅳ 上記のような調査結果や報告内容は,消費者契約法の実体法改正の必要 性やあるべき方向性を裏付ける立法事実として,極めて重要な基礎資料と評価できる。
しかし残念なことに現在消費者庁では,他の立法課題との関係で,消費 者契約法の実体法改正に向けた具体的な立法作業を行っていない模様である。
*1 第 16 次国民生活審議会消費者政策部会中間報告「消費者契約法(仮称)の具体的内容に
ついて」。http://www5.cao.go.jp/98/c/19980121c-chukan-1.html 。
*2 日本弁護士連合会「消費者契約法日弁連試案・同解説」
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/1999_5.html 。
*3 「消費者基本計画」。。
*4 内閣府国民生活局「諸外国における消費者契約に関する情報提供、不招請勧誘の規制、適合性原則についての現状調査」(なお、上記の調査結果の詳細は,「諸外国の消費者法における情報提供・不招請勧誘・適合性の原則」(別冊NBL121 号)として公刊されている)。
http://www.consumer.go.jp/kankeihourei/keiyaku/file/genjou_chousa.pdf 。
*5 平成 19 年度消費者契約における不当条項研究会編「平成19年度消費者契約における不当条項研究会報告書」(なお、上記の調査結果の詳細は,「消費者契約における不当条項の実態
分析」(別冊NBL92 号),及び,「消費者契約における不当条項の横断的分析」(別冊NBL128
号)として公刊されている。後者の文献では,新たな不当条項リストとして立法措置を含めた検討を要する契約条項 17 類型が列挙されている)。 http://www.consumer.go.jp/kankeihourei/keiyaku/sankou/file/houkokusyo.pdf 。
*6 国民生活審議会消費者政策部会消費者契約法評価検討委員会「消費者契約法の評価及び論点の検討等について」。http ://www.consumer.go.jp/seisaku/shingikai/hokokusyo/file/s-002.pdf 。
(ウ) 日本弁護士連合会における法改正に向けたこれまでの取り組み
ⅰ 一方,日本弁護士連合会は,平成 18 年 12 月 14 日,「消費者契約法の 実体法改正に関する意見書」を公表し,消費者契約法の実体法改正の早期実現を訴えると共に,下記の内容を含む具体的な改正提案を行っている(以下「日弁連提案」という)。*1
ⅱ まず,契約締結過程の適正化を図るための改正提案として,①事業者の 消費者に対する情報提供義務を明文化すること,②消費者契約法第4条1項2号の取消の要件である「断定的判断」の内容のうち「その他の将来における変動が確実な事項」が消費者の財産上の利得に影響する事項に限定されない旨を明文化すること,③取消の要件となる「重要事項」の内容について,契約動機に関する事項が含まれる旨を明文化すること,④情報提供義務違反,状況の濫用,不招請勧誘行為等について,消費者取消権を付与すること,⑤信義誠実の原則に反する不当勧誘行為について消費者取消権を付与する一般規定を制定すること,⑥適合性の原則違反があった場合に契約を無効とすること,⑦不適正勧誘行為に対する損害賠償責任を明定すること,⑧取消権の行使期間を短期3年,長期10年に延長すること,⑨法定追認規定を排除すること等を提唱している。
ⅲ また,契約内容の適正化を図るための改正提案として,①違約金条項に 関する不当条項リスト(消費者契約法第9条1号)の「平均的損害」に関する立証責任を事業者に転換すること,②一般条項(消費者契約法第10条)の法文を「信義誠実の原則に反して消費者の利益を不当に害する消費者契約の条項は無効とする。」と改訂すること,③契約条項の開示,不意打ち条項の禁止,消費者有利解釈準則を採用すること,④継続的契約に関する消費者中途解約権を付与すること,⑤不当条項リストを拡張すること(ブ ラックリスト 6 類型,グレーリスト 11 類型)等を提唱している。
(2) 民法(債権法)の改正論議に伴う新たな消費者契約の特則の検討の必要性
<例> 債権の消滅時効の特則【中間論点整理「第62,2③」185頁】
【意見】
1) もし仮に債権の消滅時効に関して当事者の合意により法律の規定と異なる時効期間や起算点を設定できるようにするのであれば,消費者契約においては法律の規定より消費者に不利となる合意変更はできないという特則規定を設ける立法に賛成である。
2 民法と消費者契約法との役割分担のあり方
【中間論点整理「第62,1(3)」184頁】
【配付資料(1)・意見書170~171頁】
【意見】
(1) 上記のような消費者契約に関する特則の法制化については,法務省と消費 者庁の協力によって,民法と同時に消費者契約法を改正する方法で立法化することが望ましいと考える。
また,民法の改正を機に,消費者契約法の私法実体規定を民法に取り込ん で消滅させるという考え方(いわゆる統合論)には反対である。
(2) もっとも,もし万一消費者契約法の同時改正が難しい場合には,消費者保 護を進めるという観点から,次善の策として,既存の消費者契約法の私法実体規定はそのままに,消費者契約に関する特則を民法に設けるということも
*1 日本弁護士連合会「消費者契約法の実体法改正に関する意見書」。
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/061214.html 。
視野に入れておく必要がある。
その場合には,消費者契約に関する特則の存在が,他の社会的弱者に対し て不当に反対解釈されたりしないように,むしろ格差契約の典型例として類推適用されるように,格差是正の必要性に関する理念規定を併せ規定すべきものと考える。
また,将来的に,民法における消費者契約に関する特則は,消費者契約法 ないしそれを包含する包括消費者法典に吸収する方向で検討される必要があると考える。
【理由】
(1) 消費者契約に関する特則の性格
① 社会実態に適合した迅速な法改正の必要性
② 消費者保護水準の低下への懸念
→ 民法よりも消費者契約法で立法化した方が望ましいと考える。
(2) 消費者契約法の民法典への統合について
民法の改正を機に,消費者契約法の私法実体規定を民法に取り込んで消 滅させるという考え方(いわゆる統合論)には反対である。
※ これまでの法制審議会における議論や中間論点整理を拝見すると,考え方の分岐点や考えられる選択肢は別紙「フローチャート」(説明資料
(2)-2)のようなところか。
(3) 民法改正に伴う消費者契約に関する特則の立法化の必要性
民法で原則規定のみが立法され,消費者契約に関する特則規定(例外規定 を含む)の立法が遅れるといった事態は問題である。
→ 法務省と消費者庁の協力によって,民法と同時に消費者契約法を改正す る方法で,消費者契約に関する特則規定を立法化することが最も望ましいと考える。
<参考>
「消費者基本計画2010」(平成22年3月30日閣議決定) 施策番号 42
具体的施策 消費者契約法に関し,消費者契約に関する情報提供, 不招請勧誘の規制,適合性原則を含め,インターネット取引の普及を踏まえつつ,消費者契約の不当勧誘・不当条項規制の在り方について,民法(債権関係)改正の議論と連携して検討します。
担当省庁等 消費者庁,法務省,関係省庁等
実施時期 平成22年度以降,前段については,問題点の把握を行 い(中略)ます。
(4) 何らかの事情で民法と消費者契約法の同時改正が困難な場合
新たな消費者保護規定を立法して消費者保護を進めるという観点から,既 存の消費者契約法の私法実体規定はそのままに,消費者契約に関する特則を民法に設けるということも選択肢である。
その場合には,消費者契約に関する特則の存在が,他の社会的弱者に対し て不当に反対解釈されたりしないように(むしろ格差契約の典型例として類推適用がなされるように),格差是正の必要性に関する理念規定を併せ規定すべきものと考える。
また,将来的に,民法における消費者契約に関する特則は,消費者契約法 ないしそれを包含する包括消費者法典に吸収する方向での検討がなされる必要があると考える。
3 消費者契約に関する規定の具体的内容
【中間論点整理「第62,1(3)」184頁】
【配付資料(1)・意見書171~172頁】
【意見】
① 消費者契約法の同時改正によって同法に消費者契約に関する特則が十分に規定されるのであれば,民法には,消費者契約の解釈に関する理念的な規定ないし契約当事者間の格差是正に関する理念的な規定を設けるだけでもよいと考える。
② しかし,もし仮に消費者契約法に消費者契約に関する特則が十分に規定されないのであれば,民法には,消費者契約の解釈に関する理念的な規定のみならず,個別の特則規定を設ける必要があると考える。
4 消費者の定義
【意見】
【中間論点整理「第62,1(3)」184頁】
【配付資料(1)・意見書172~173頁】
① 消費者の定義は消費者契約法における定義よりも拡大すべきである(例:
「個人(事業活動に直接関連する目的で取引するものを除く)」など)。
② 消費者と実質的に大差ない零細事業者などを保護できるよう,上記のような消費者の定義の拡大のほか,「消費者」概念の相対化や,格差契約一般に関する格差是正の理念規定を介した消費者保護規定の準用ないし類推適用といった方策を検討すべきである。
【理由】
① 消費者と大差ない中小零細事業者など他の社会的弱者にも消費者に関する特則を適用できる余地を高めるためには,消費者の定義を消費者契約法における定義よりも拡大することが望ましい(例:個人事業主が当該事業と直接に関連しない目的で契約の当事者となった場合など)。
② また,上記の場合以外でも,個人事業主や中小零細事業者等の場合には,相手方事業者との間の情報・交渉力格差が一般の消費者と事業者との間におけるものと大差ない場合がある。かかる消費者と実質的に大差ない零細個人事業主などを保護できるよう,下記のような対応などを検討すべきである。
ⅰ「消費者」「事業者」「消費者契約」概念を事案によって相対化させて,個別事案によっては消費者契約に関する特則規定を中小零細事業者にも適用できるようにする。
ⅱ「消費者」「事業者」「消費者契約」概念の定義や本来の適用範囲はきっちりと規定しておき,そのうえで,個別事案において契約当事者間に消費者契約と同程度の情報・交渉力格差が認められる場合には,解釈論において,消費者契約に関する特則規定の準用ないし類推適用を認める。
ⅲ 上記ⅱのような消費者契約に関する特則規定の準用ないし類推適用が可能なことを,格差契約に関する格差是正の理念規定を設けることで明確化する。
ⅳ 上記ⅱのような消費者契約に関する特則規定の準用ないし類推適用が可能なことを,法文に定めて明確にする。
ⅴ 消費者契約に関する特則規定とは別に,格差契約一般に妥当する格差是正規定を設け,その規定による救済を図る。
第3 消費者契約の特則
2 消費者契約の特則
(1) 不当条項規制の特則
【意見】
【中間論点整理「第62,1(3)」184~5頁】
【配付資料(1)・意見書173~181頁】
【中間論点整理「第62,2①」184頁】
1) 消費者契約を対象とした不当条項規制・不当条項リストの拡充という立法には賛成である。
2) ただし,特則を消費者契約法ではなく民法で立法することの是非については,慎重に検討すべきである。
【意見】
1) 消費者契約に関する不当条項規制や不当条項リストの拡充のための消費者契約法の早期改正については,日本弁護士連合会が従前から求めているところである(2006年12月14日付け「消費者契約法の実体法改正に関する意見書」)。
2) ただし,上述のとおり,消費者契約に関する特則の法制化については,法務省と消費者庁の協力によって,民法と同時に消費者契約法を改正する方法で立法化することが望ましいと考える。
もっとも,もし万一消費者契約法の同時改正が難しい場合には,次善の策として,既存の消費者契約法の私法実体規定はそのままに,消費者契約に関する特則を民法に設けるということも視野に入れておく必要があることは,前述のとおりである。
(2) 全部無効の原則
【中間論点整理「第62,2②」185頁】
【意見】
1) 消費者契約について,法律行為に含まれる特定の条項の一部に無効原因がある場合には当該条項全体を無効とするとの規定を設ける立法に賛成である。
2) 一方,民法において一部無効を原則として法制化することの是非については,慎重に検討すべきである。
3) また,特則を消費者契約法ではなく民法で立法することの是非についても,慎重に検討すべきである。
【理由】
1) 消費者契約においては全部無効を原則とすべきという考え方には,不当条項の作成の助長を回避できるという長所があるので賛成である。
2) 一方,民法において,一部無効を原則として定めることの是非については,慎重に検討すべきである。一般的に特定の条項の一部に無効原因がある場合に当該条項全部が無効となるか残部の効力が維持されるかは個別事案ごとに異なりうる問題であって,「原則として残部の効力が維持される」とまで言いうるのかについては慎重な検討が必要と考える。
3) また,消費者契約に関する特則の法制化は,民法と同時に消費者契約法を改正する方法で立法化することが望ましいと考えることは同上である。
(3) 債権の消滅時効の特則
【中間論点整理「第62,2③」185頁】
【意見】
1) もし仮に債権の消滅時効に関して当事者の合意により法律の規定と異なる時効期間や起算点を設定できるようにするのであれば,消費者契約にお
いては法律の規定より消費者に不利となる合意変更はできないという特則規定を設ける立法に賛成である。
2) ただし,上記については,その前提として,そもそも債権の消滅時効に関して当事者の合意により法律の規定と異なる時効期間や起算点を設定できるようにすること自体に反対である。まず,民法に上記のような原則を立法すること自体の是非について,慎重に検討すべきである。
3) また,特則を消費者契約法ではなく民法で立法することの是非についても,慎重に検討すべきである。
【理由】
1) もし仮に債権の消滅時効に関して当事者の合意により法律の規定と異なる時効期間や起算点を設定できるようにするのであれば,消費者について法律の規定よりも消費者に不利になるような合意変更はできないという特則規定を設けることに賛成である。
2) しかし,そもそも債権の消滅時効に関しては,当事者の合意により法律の規定と異なる時効期間や起算点を設定できるようにすること自体に反対である。
3) また,消費者契約に関する特則の法制化は,民法と同時に消費者契約法を改正する方法で立法化することが望ましいと考えることは同上である。
(4) 売買契約の特則
【中間論点整理「第62,2④」185頁】
【意見】
1) 消費者契約である売買契約において,消費者である買主の権利を制限したり,消費者である売主の責任を加重する契約条項の効力制限規定を設ける立法には賛成である。
2) ただし,上記については,そのような消費者の権利制限規定や責任加重規定については,売買契約に限らず他の契約類型においても不当条項規制の対象とすべきではないかという点を,検討すべきである。
3) また,特則を消費者契約法ではなく民法で立法することの是非についても,慎重に検討すべきである。
【理由】
1) 消費者契約である売買契約について,消費者である買主の権利を制限したり,消費者である売主の責任を加重する条項の効力制限規定の立法には賛成である。
2) むしろ,売買契約に限らず,消費者の権利の制限規定や責任加重規定については,他の契約類型でも広く不当条項規制で対応すべきではないかと思われる。
3) また,消費者契約に関する特則の法制化は,民法と同時に消費者契約法を改正する方法で立法化することが望ましいと考えることは同上である。
(5) 消費貸借契約の特則①(目的物交付前の解除権)
【中間論点整理「第62,2⑤」185頁】
【意見】
1) 消費者契約たる諾成的利息付き消費貸借について,消費者借主に,目的物の引渡前の解除権を認める立法自体には賛成である。
2) ただし,「消費者」借主に限らず,また利息の有無・書面の有無を問わずに,借主に引渡前解除権を認めるべきである。
3) また,特則を消費者契約法ではなく民法で立法することの是非についても,慎重に検討すべきである。
【理由】
1) 消費者契約たる諾成的利息付き消費貸借について,消費者借主に,目的物
の引渡前の解除権を認めることは,消費者に不要な借入が強制されないこととなり,消費者の保護に資するので賛成である。
2) しかしながら,そもそも,現実に元本の交付がなされていないのであるから,民法ルールとしては貸主に損害はないものとして借主が消費者・中小零細事業者に限らず解除を認めて良いと考える。
3) ところで,解除により借主がどのような債務から解放されるのかを整理する必要があると言われているが,諾成的消費貸借においては,借主には,借りる債務があると考えられ,この債務の不履行による損害賠償が想定されるので,借主はこの債務から解放されることとなる。
4) なお,契約の成立を認めながら,他方で広範に引渡前解除権を認めることは,整合的でないという見方もある。しかし,契約の成立によって契約の効力が生じることとその契約の効力の強さ(拘束力)は,別個の問題であり,整合的でないとはいえない。そもそも,諾成的消費貸借を認めるべきとの意見が出てきた背景は,金銭交付前の公正証書作成や抵当権設定の効力についての疑義をなくすためであるところ,そのためには,契約の効力が生じることを確認すれば足りるのであり,引渡前解除権のような契約の拘束力を弱める法制度の導入まで否定的に解する必要はない。
(6) 消費貸借契約の特則②(期限前弁済)
【中間論点整理「第62,2⑥」185頁】
【意見】
1) 返還時期が定められている利息付消費貸借であっても,貸主が事業者であり,借主が消費者である場合には,借主は貸主に生ずる損害を賠償することなく期限前弁済をすることが許されるとの特則の立法に賛成である。
2) ただし,特則を消費者契約法ではなく民法で立法することの是非については,慎重に検討すべきである。
【理由】
1) 期限前弁済がされた場合に,貸主に生じた損害を賠償しなければならないことを条文上明らかにすることには反対である。ただし,一般法理による損害賠償については,借主としても負担せざるを得ないのが原則である。
しかし,貸主が事業者であり,借主が消費者である場合,消費者借主が,期限前弁済による事業者の損害をそのまま負担させられることは酷であるし,期限前弁済を認める意義がかなりの部分失われることとなる。これに対し,事業者側において,期限前弁済による損害を回避ないし軽減することは容易と思われることからすれば,上記特則を設けるべきである。
2) なお,期限前弁済があった場合に貸し主に生ずる損害を賠償する義務を負うことは,交渉力や情報量の格差とは関係しないという意見もあるようであるが,実務においては,期限前弁済のときに,一定の損害賠償をすることが予め契約条項に盛り込まれることが想定され,このような契約内容が盛り込まれないようにすることは,事業者との間で情報力格差,交渉力格差のある消費者には無理であって,この問題もやはり格差に関係している。
3) また,消費者契約に関する特則の法制化は,民法と同時に消費者契約法を改正する方法で立法化することが望ましいと考えることは同上である。
(7) 消費貸借契約の特則③(抗弁の接続)
【中間論点整理「第62,2⑦」185頁】
【意見】
1) 消費者契約たる消費貸借契約について抗弁の接続規定を設ける立法自体には賛成である。
2) ただし,抗弁の接続規定は,主体を「消費者」に限定せず,ひろく適用すべきである。
3) さらに,抗弁の接続規定は,「消費貸借」契約を締結した場合だけに限定せず,第三者与信型の「販売信用取引」において与信契約を締結した場合に広く適用されるよう規定するべきである。
4) 「販売信用取引」を利用した商品等購入取引において,販売業者等に対して生じている事由をもって信用供与者に対抗することができるとすべきである。
5) 「販売信用取引」と認められるためには,販売契約と与信契約との間に「密
接関連性」があることを要件とするべきであるが,この要件については,①貸付契約と販売契約との手続的一体性・内容的一体性や,②与信者と販売者との一体性(人的関係・資本関係等)等の要素を考慮し,総合的に判断されるものとすることが考えられる。
6) 販売業者と与信業者の合意を要件とすることについては反対である。
7) なお,消費者契約の特則を消費者契約法ではなく民法で立法することの是非については,慎重に検討すべきである。
【理由】
1) 消費者契約たる消費貸借について抗弁の接続規定を明文化することについては検討に値するが,抗弁接続規定の必要性は,消費者契約以外にも認められるし,「消費貸借」以外の第三者与信型契約にも認められる。。第三者与信の中心であるクレジット・賃貸借・リースを含めて「販売信用」について抗弁の接続規定が検討されなければならない。
2) その場合には割賦販売法を参照しつつ,割賦販売法よりも購入者保護が後退することはあってはならない。検討委員会改正試案の「あらかじめ供給者と貸主との間に,供給契約と消費貸借契約を一体として行うことについての合意が存在した場合」という要件については,割賦販売法における抗弁の接続の規定でも要求されていないものであり,要件とすることには反対である。
3) 抗弁の接続規定は「販売者と融資者との間の密接な取引関係があること(提携関係)」,「このような密接な関係から購入者は商品の引渡がなされないような場合には支払い請求を拒むことができると期待していること」,「融資者は販売業者を提携関係を通じて監督でき,またリスクを分散できること」「これに対して購入者は一時的に販売業者と接触するに過ぎず,また契約に習熟していない。損失負担能力が低く,損失負担能力が低いこと。融資者に対して不利な立場におかれていること」が割賦販売法の抗弁接続規定の立法趣旨であるが,かかる趣旨は「消費貸借」に限定されるものではないし,「消費者」に限定されるものでもない。中小零細事業者をターゲットにしたクレジット被害やリース被害が頻発している。割賦販売法は,必ずしも消費者だけを対象としていない。「営業のためにもしくは営業として締結する場合」という適用除外規定(法35条の3の60)に該当しない事業者には適用はある点に留意すべきである。
4) 要件としては信用供与契約と販売契約が手続的に一体である場合,販売業者と信用供与業者との間に反復継続的取引関係・相互依存関係がある場合など密接な牽連関係がある場合には抗弁の接続を認めるべきである(日弁連統一消費者信用法要綱案参照)。
5) 要件の具体化は容易ではないが「販売信用」を定義して抗弁接続規定を求めるアプローチと複数契約の結合関係・密接関連性・牽連性から無効・解除の効力連動と基を一にして抗弁接続規定を(契約総則に)設けるアプローチがあるのではないか。
6) また,消費者契約に関する特則の法制化は,民法と同時に消費者契約法を改正する方法で立法化することが望ましいと考えることは同上である。
(8) 賃貸借契約の特則
【中間論点整理「第62,2⑧」185頁】
【意見】
1) 賃借人が消費者である借家契約において原状回復の範囲に「通常損耗」及び賃借物の経年変化に伴う「自然損耗」が含まれないことを片面的強行法規として明文化する立法に賛成する。
2) なお,上記については,原状回復義務を加重する特約の有効性やかかる規定を消費者契約に限って置くことの是非についても,併せ検討すべきである。
3) また,特則を消費者契約法ではなく民法で立法することの是非についても,検討すべきである。
【理由】
1) また,特則を消費者契約法ではなく民法で規定することの是非についても,検討すべきである。賃貸人は賃借人に対し賃料の対価として借家を使用収益させる義務を負っているのであるから,その使用収益に伴う通常損耗(賃借人の通常の使用により生ずる損耗)及び使用収益賃貸借期間の経過に伴う自然損耗(通常損耗とは別に建物・設備等の経年変化に伴う自然的劣化による損耗)は,賃貸人の負担とするのが公平である。
2) しかし,実際の契約実務においては,特約により通常損耗等が賃借人の負担とされる場合が多く,当該特約は契約自由の原則から安易に有効とされるおそれが高いことから,賃貸人が事業者,賃借人が消費者である場合の借家契約においては,賃借人を保護するため,片面的強行法規違反として当該特約は無効とすることも明文化すべきである。
3) なお,上記に関しては,原状回復義務を加重する特約も無効とすべきである。また,かかる規定を消費者契約に限って置くことの是非についても,併せ検討すべきである。
4) また,特則を消費者契約法ではなく民法で規定することの是非についても,検討すべきである。
(9) 委任契約の特則
【中間論点整理「第62,2⑨」185頁】
【意見】
1) 現民法650条3項規定の委任者の責任について,委任者に無過失責任を負わせることを原則とするのであれば,消費者契約である委任契約について消費者が委任者である場合には委任者が無過失を立証すれば免責を認める特則規定を設ける立法に賛成である。
2) ただし,上記については,まず,委任者の無過失責任を負わせることを原則とすること自体の是非について,慎重に検討すべきである。
3) また,特則を消費者契約法ではなく民法で立法することの是非についても,慎重に検討すべきである。
【理由】
1) 消費者が委任者である場合には委任者が無過失を立証すれば免責を認める規定の立法化には賛成であるが,まず,一般的に委任者の無過失責任が合理的か否かについて慎重に検討すべきである。その意味で,「原則と例外」という規定の仕方の是非については,慎重に検討すべきである。
2) また,消費者契約に関する特則の法制化は,民法と同時に消費者契約法を改正する方法で立法化することが望ましいと考えることは同上である。
(10) 寄託契約の特則
【中間論点整理「第62,2⑩」185頁】
【意見】
1) 現民法661条規定の寄託者の損害賠償責任については,寄託者に無過
失責任を負わせることを原則とするのであれば,消費者が寄託者である場合には寄託者が無過失を立証すれば免責を認める特則規定を設ける立法に賛成である。
2) ただし,上記については,まず,寄託者に無過失責任を負わせることを原則とすること自体の是非について,慎重に検討すべきである。
3) また,特則を消費者契約法ではなく民法で立法することの是非についても,慎重に検討すべきである。
【理由】
1) 消費者契約である寄託契約について,消費者が寄託者である場合には寄託者が無過失を立証した場合に免責を認める特則規定を設けることに賛成であるが,まず,一般的に受寄者の無過失責任が合理的か否かについて慎重に検討すべきである。その意味で,「原則と例外」という規定の仕方の是非については,慎重に検討すべきである。
2) また,消費者契約に関する特則の法制化は,民法と同時に消費者契約法を改正する方法で立法化することが望ましいと考えることは同上である。
(11) 条項使用者不利の原則
【中間論点整理「第62,2⑪」185頁】
【意見】
1) 消費者契約の解釈について,条項使用者不利の原則を採用する立法には賛成である。
2) ただし,上記については,まず,かかる解釈規定の立法化を消費者契約に限る必要がないのではないかという点について,慎重に検討すべきである。
3) また,特則を消費者契約法ではなく民法で立法することの是非についても,慎重に検討すべきである。
【理由】
1) 消費者契約について条項使用者不利の原則という解釈規定の立法には賛成である。
2) むしろ,かかる解釈原則は,消費者契約に限らずに立法化すべきではないかと考える。その意味で,「原則と例外」という規定の仕方の是非については,慎重に検討すべきである。
3) また,消費者契約に関する特則の法制化は,民法と同時に消費者契約法を改正する方法で立法化することが望ましいと考えることは同上である。
(12) 継続的契約の中途解約権の特則
【中間論点整理「第62,2⑫」185頁】
【意見】
1) 継続的契約が消費者契約である場合に消費者は将来に向けて契約を任意に解除することができるという規定の立法には賛成である。
2) ただし,これを消費者契約法ではなく民法で立法することの是非については慎重に検討すべきである。
【理由】
1) 継続的契約に関する消費者の任意解除権付与のための消費者契約法の早期改正は,日本弁護士連合会が従前から求めているところであり,その立法化には賛成である(2006年12月14日付け「消費者契約法の実体法改正に関する意見書」)。
2) しかし,消費者契約に関する特則の法制化は,民法と同時に消費者契約法を改正する方法で立法化することが望ましいと考えることは同上である。
(13)その他
【中間論点整理「第62,2」184~185頁】
【意見】
1) 他に消費者契約に関する特約として,立法化が検討されるべき事由としては,下記のようなものがある。ただし,消費者契約に関する不当条項リストの詳細な内容については,当該論点における記載に譲る。
① 不実表示規定についての事業者から消費者への取消権行使の制限
② 状況の濫用,不招請勧誘,不当勧誘一般を理由とした消費者取消権の創設,適合性原則による無効の創設
③ 契約条項の明確化・平易化規定の新設
④ 不意打ち条項の新設
⑤ 法定追認事由から「履行の全部又は一部の受領」「担保の受領」の削除
⑥ 消費者契約の取消権行使の効果に関する現存利益の特則の明文化など。
2) ただし,これらを消費者契約法ではなく民法で立法することの是非については慎重に検討すべきである。
【理由】
1) 状況の濫用,不当勧誘一般を理由とした消費者取消権の創設などは,日本弁護士連合会が従前から求めているところであり,早期立法化が望まれるところである(1999年10月22日付け「消費者契約法日弁連試案」,2006年 12月14日付け「消費者契約法の実体法改正に関する意見書」)。
2) ただし,消費者契約に関する特則の法制化は,民法と同時に消費者契約法を改正する方法で立法化することが望ましいと考えることは同上である。
以上
<別紙①>
【 消費者契約法日弁連試案 】
~ 契約締結過程に関係する部分のみ抜粋 ~
1999(平成 11)年 10 月 22 日
日本弁護士連合会
第2章 契約締結過程における事業者の義務
第4条(契約内容の情報提供)
(1)事業者は消費者に対し,消費者契約の締結前に,当該消費者が契約の締結を決定するにあたり必要な事項について,消費者が理解できる方法で情報を提供しなければならない。
(2)当該消費者が契約の締結を決定するにあたり必要な事項とは,当該契約において客観的に必要な事項と評価できるもの,当該消費者から必要であると特に告げられたもの,及び当該消費者から特に告げられていないが当該消費者にとって必要であることを事業者が知りまたは知り得るものをいう。
(3)消費者が理解できる方法とは,一般的に当該契約の当事者となる消費者が理解できる方法,当該消費者が特に詳しく説明を求めた内容についてはその内容を理解させる方法,及び当該消費者の理解力が劣っていることを事業者が知りまたは知り得べき場合にはその理解力に応じた方法をいう。
第5条(不当勧誘の禁止)
(1)事業者が消費者に対し,消費者契約の締結について,次の各号の一に該当する行為を行った場合には,消費者は当該契約を取り消すことができる。ただし,各号に該当する行為がなかったとしても消費者が当該契約を締結した場合はこの限りではない。
① 当該消費者が契約の締結を決定するにあたり必要な事項について,消費者が理解できる方法で情報を提供しなかったこと
② 当該消費者が契約の締結を決定するにあたり必要な事項について,不実の告知をすること
③ 消費者を威迫する言動
④ 消費者の私生活又は業務の平穏を害する言動
⑤ 消費者の知識や判断力が不足している状況を利用すること
⑥ その他信義誠実に反する不当勧誘行為
(2)前項により消費者が契約を取り消すことができる場合に,消費者は事業者に対し,契約の取消に基づく原状回復と共に損害賠償の請求を行うこと,もしくは契約の効力を維持しつつ蒙った損害について賠償請求を行うことができる
(3)第三者が消費者契約の勧誘を行った場合に,当該第三者の勧誘行為に第1項各号の一に該当する行為があったときにも,消費者は契約の取消しおよび損害賠償の請求を行うことができる。ただし,当該第三者の行為について事業者が善意無過失の場合はこの限りでない。
第6条(第三者に対する効果)
消費者による消費者契約の取消は善意の第三者に対抗することができない。
第7条(時効等)
(1)消費者による消費者契約の取消権は,消費者が事業者又は第三者の勧誘行為に第5条第1項1号,2号,5号又は6号に該当する行為があったことを知ったとき,もしくは同項3号又は4号に該当する行為が止んだときから3年間これを行使しないときは時効によって消滅する。
(2)消費者による消費者契約の取消権は,当該消費者契約の締結をしたときから10年を
経過したときも消滅する。但し,契約期間が7年を超えて継続する場合には当該契約期間の終了後3年を経過したときに消滅する。
第8条(追認・法定追認の排除)
民法122条ないし125条の追認・法定追認に関する規定は,消費者契約の取消には適用しない。
以上
<別紙②>
第1 意見の趣旨
【 消費者契約法の実体法改正に関する意見書 】
~ 契約締結過程に関係する部分のみ抜粋 ~
2006 年 12 月 14 日
日本弁護士連合会
4 現行法3条1項に規定されている事業者の情報提供努力義務について,下記のとおり改正すべきである(下記の「重要事項」は9項で述べるところと同じである。)。
① 事業者は消費者契約の締結について勧誘するに際し,重要事項について消費者に対し,消費者が理解できる方法で情報を提供しなければならない。
② 前項において,消費者が理解できる方法とは,一般的に当該契約の当事者となる消費者に理解できる方法をいうが,当該消費者が特に詳しく説明を求めた事項についてはその事項を理解させる方法,及び当該消費者の理解力が劣っていることを事業者が知り又は知り得べき場合にはその理解力に応じた方法をいう。
5 現行法3条2項は削除すべきである。
6 現行法4条1項を以下のとおりに改正すべきである。
消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたときは,当該消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示を取り消すことができる。ただし,各号に該当する行為がなかったとしても当該消費者が当該消費者契約を締結した場合はこの限りではない。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。
二 当該消費者に対して,物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し,将来における変動または結果が不確実な事項であって,消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすものにつき断定的判断を提供すること。
7 現行法4条2項を下記のとおり改正すべきである。
消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ,かつ,当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意又は過失により告げなかったときは,当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができる。
8 現行法4条3項本文を下記のとおり改正すべきである。
消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対して次に掲げる行為をしたときは,当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができる。ただし,各号に該当する行為がなかったとしても当該消費者が当該消費者契約を締結した場合はこの限りではない。
9 現行法4条4項を下記のとおり改正すべきである。
本法における「重要事項」とは,消費者が当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。
10 現行法5条を下記のとおり改正すべきである。
① 本法の各取消及び民法第96条第1項の詐欺による取消の規定は,事業者が第三者に対し,当該事業者と消費者との間における消費者契約の締結について媒介をすることの委
託(以下この項において単に「委託」という。)をし,当該委託を受けた第三者(その第三者から委託を受けた者(2以上の段階にわたる委託を受けた者を含む。)を含む。次項において「受託者等」という。)が消費者に対して前各取消の条項に規定する行為をした場合について準用する。
② 消費者契約の締結に係る消費者の代理人(復代理人(2以上の段階にわたり復代理人として選任された者を含む)を含む。以下同じ。),事業者の代理人及び受託者等の代理人は,本法及び民法第96条第1項(前項において準用する場合を含む。次条及び第7条において同じ。)の各規定の適用については,それぞれ消費者,事業者及び受託者等とみなす。
11 現行法7条1項を下記のとおり改正すべきである。
① 本法の規定による取消権は,取消しの原因となっていた状況が消滅した時から3年間これを行使しないときは,時効によって消滅する。当該消費者契約の締結の時から10年を経過したときも,同様とする。
② 民法第122条ないし第125条の規定は,本法の取消については適用しない。
16 現行法に,下記の内容を追加すべきである。
(不招請勧誘の禁止)
事業者は,消費者契約の締結について勧誘をするに際し,あらかじめ消費者の要請がないにも拘わらず次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 当該消費者の住居又は勤務先を訪問すること。
二 当該消費者の住居又は勤務先に対して,電話,ファクシミリ,電子メールを送信すること。
17 現行法に下記の内容を追加すべきである。
消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたときは,当該消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示を取り消すことができる。ただし,各号に該当する行為がなかったとしても当該消費者が当該消費者契約を締結した場合はこの限りではない。
一 重要事項に関して消費者が理解できる方法で情報提供を行わなかったこと。二 当該消費者を威迫すること。
三 当該消費者の私生活又は業務の平穏を害すること。 四 当該事業者が当該消費者を心理的に動揺させること。
五 当該消費者の知識の不足,加齢・疾病・恋愛感情・急迫状態等による判断力の不足を知り,または,知りうるため信義則上勧誘を行うべきでないにもかかわらず勧誘を行うこと。
六 あらかじめ当該消費者の要請がないにもかかわらず次のいずれかの行為をすること。イ 当該消費者の住居又は勤務先を訪問すること。
ロ 当該消費者の住居又は勤務先に対して,電話,ファクシミリ,電子メールを送信すること。
七 信義誠実の原則に反する行為。
18 現行法に下記の内容を追加すべきである。
(損害賠償請求)
本法の規定により消費者が消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができる場合に,消費者は,事業者に対し,当該取消に基づく原状回復とともに損害賠償を請求し,若しくは当該消費者契約の効力を維持しつつ損害賠償を請求することができる。
以上
<別紙③>
第1章 目的・定義
【 消費者契約法日弁連試案 】
~ 不当条項規制に関係する部分のみ抜粋 ~
1999(平成 11)年 10 月 22 日
日本弁護士連合会
第2条(定義)
(4)本法において,約款とは,事業者が,多数の消費者との契約のために予め作成した契約条項で,契約内容になるものをいい,その名称,範囲,形態を問わない。
第2章 契約締結過程における事業者の義務第3条(契約書面・約款の開示)
(1)事業者は,消費者契約の締結に際し契約書面又は約款を用いた場合には,契約締結前
あるいは契約締結後遅滞なく契約書面又は約款内容を記載した書面を消費者に交付しなければならない。但し,契約の性質上又は社会通念上,約款の内容を記載した書面を交付することが不要と認められる場合は,この限りでない。
(2)事業者は契約の性質上又は社会通念上,約款の内容を記載した書面を交付することが不要と認められる場合であっても,その各営業所において掲示,備え置きその他これに準ずる方法で,消費者契約の締結に際し消費者が認識できるように約款の内容を開示しなければならない。
(3)前項の場合であっても,消費者の要求がある場合は,事業者は約款の内容を記載した書面を消費者に交付しなければならない。
(4)事業者が前3項に規定した各義務の一に違反し,契約条項の開示を怠ったと認められる場合は,消費者に不利益な契約条項は契約の内容とはならない。
第3章 契約条項に関する一般規定第9条(契約条項の明瞭化)
事業者は,消費者契約の条項について,常に明確かつ理解しやすい平易な言葉で表現し
なければならない。
第 10 条 (契約条項の解釈原則)
消費者契約の内容の解釈において明確でない契約条項については,消費者に最も有利に解釈する。
第 11 条 (不意打ち条項の禁止)
消費者契約の類型及び交渉の経緯等に照らし,消費者にとって予測することができない契約条項は無効とする。
第 12 条 (不当条項の禁止)
(1)消費者契約における消費者に不当に不利な契約条項は無効とする。
(2)次の各号のいずれかに該当する契約条項は,消費者に不当に不利と推定する。
① ある事項に関する法律規定が存する場合に,当該法律規定よりも消費者に不利な条項
② 契約の性質から判断して,契約目的の達成を不可能もしくは困難とするような消費者の権利の制限または義務の付加,及び,事業者の責任の制限または免除を定める条項
第 13 条 (不当条項と見倣す契約内容)
消費者契約において以下に記載する内容を有する条項は消費者に不当に不利な条項とみなす。
① 契約文言を解釈する排他的権利を事業者に認める条項
② 法令上,消費者の有する同時履行の抗弁権,留置権,相殺権を排除又は制限する条項
③ 事業者の作為義務を内容とする契約において,消費者の同意なく事業者が第三者に契約上の地位を移転できるとする条項
④ 事業者が契約上消費者に対して有する債権を第三者に譲渡する場合に,消費者があらかじめ異議を留めない承諾をする旨の条項
⑤ 事業者の権利の担保責任を全面的に排除する条項
⑥ 事業者が,保証人に対し,保証期間又は限度額を一切定めない包括根保証をさせる条項
⑦ 事業者の保証人に対する担保保存義務を免除する条項
⑧ 消費者の解除権を一切認めない条項
⑨ 継続的契約において,消費者が正当な理由に基づき解約告知をする場合に,違約金を支払わねばならないとする条項
⑩ 継続的契約において,消費者が正当な理由がなく解約告知をする場合に,契約が期間満了まで継続していれば事業者が得られた対価から解約告知により事業者が免れた費用を控除した金額を超える違約金を定める条項
⑪ 事業者又は第三者が一切の過失行為の責任を負わないとする条項
⑫ 管轄裁判所を事業所の住所地もしくは営業所所在地に限定する条項
第 14 条 (不当条項と推定する契約内容)
消費者契約において以下に記載する内容を有する条項は消費者に不当に不利な条項と推定する。
① 消費者に与えられた期限の利益を奪う条項
② 事業者が契約上の給付の内容又は契約条件を一方的に決定し,又は変更できるとする条項
③ 事業者又は消費者がその義務を履行したか否かの判断を事業者に委ねる条項
④ 消費者の一定の作為又は不作為により,消費者の意思表示がなされたもの又はなされなかったものとみなす条項
⑤ 消費者の利益に重大な影響を及ぼす事業者の意思表示が消費者に到達したものとみなす条項
⑥ 消費者の権利行使又は意思表示の形式又は要件に対して制限を課する条項
⑦ 事業者の物の担保責任を全面的に排除する条項
⑧ 事業者の権利又は物の担保責任について,担保責任発生事由,担保責任の内容,権利行使期間,権利行使方法を制限する条項
⑨ 事業者が,一方的に予めもしくは追加的に担保を要求できるものとする条項
⑩ 保証人が保証債務を履行した場合の,主債務者に対する求償権の範囲を制限する条項
⑪ 消費者に通常必要とされる程度を超えた多量の物品または役務を購入させる条項
⑫ 消費者に通常必要される程度を超えた長期にわたる継続した物品または役務の購入をさせる条項
⑬ 継続的契約において,消費者からの解約申し入れを制限する条項
⑭ 消費者の法定解除権を制限する条項
⑮ 消費者の債務不履行があった場合に,事業者の損害として通常予想できる額を越える違約金を定める条項
⑯ 事業者又は第三者の損害賠償責任を制限する条項
⑰ 消費者の事業者又は第三者に対する損害賠償その他の法定の権利行使方法を制限する条項
⑱ 消費者の契約に基づく給付請求について,権利行使方法を制限し,その行使方法違反
を理由に消費者の給付請求を奪う条項
⑲ 契約が解除又は解約告知によって終了した場合に既に給付された金員は返還しないとする条項
⑳ 契約が解除又は解約告知によって終了した場合に,給付の目的である商品,権利,役務の対価相当額を上回る金員を請求できるとする条項
21 事業者の証明責任を軽減し,又は消費者の証明責任を過重する条項
第4章 契約条項が無効又は契約内容とならない場合の効果
第 15 条 (契約条項が無効又は契約内容とならない場合の効果)
(1)第3条により契約条項が契約の内容とならず,又は前章により契約条項が無効であるときは,契約は残部につき有効である。
(2)第3条により契約条項が契約の内容とならず,又は前章により契約条項が無効であるときは,当該契約条項によって定められた事項については,民法その他の法律規定に従い補充する。
(3)前二項の場合,変更された契約内容の維持が一方の当事者に著しく不利益な場合には契約は全部無効になる。
以上
<別紙④>
第1 意見の趣旨
【 消費者契約法の実体法改正に関する意見書 】
~ 不当条項規制に関係する部分のみ抜粋 ~
2006 年 12 月 14 日
日本弁護士連合会
3 現行法3条1項前段を下記のとおり改正すべきである。
事業者は,消費者契約の条項を定めるにあたっては,消費者の権利義務その他の消費者契約の内容について消費者にとって明確かつ平易な表現を用いなければならない。
12 現行法9条1号を下記のとおり改正すべきである。
損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める消費者契約の条項は無効とする。ただし,これらを合算した額が,当該消費者契約と同種の消費者契約につき,当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えないときは,この限りではない。
13 現行法10条を下記のとおりと改正すべきである。
信義誠実の原則に反して消費者の利益を不当に害する消費者契約の条項は無効とする。
14 現行法に下記の内容を追加すべきである。
(契約条項の開示)
① 事業者は,消費者契約の締結に際し契約書面又は約款を用いる場合は,消費者に対し,契約書面又は約款を交付し,又は交付することが契約締結の態様において困難なときは,契約締結の場所において掲示,備え置き,その他これに順ずる方法で,消費者が契約内容を認識できるように開示しなければならない。
② 事業者が前項の義務に違反し,契約条項の開示を怠ったと認められる場合は,消費者に不利益な契約条項は契約の内容とならない。
15 現行法に下記の内容を追加すべきである。
(不意打ち条項)
消費者契約の類型及び交渉の経緯等に照らし,消費者にとって予測することができない消費者契約の条項は契約の内容とならない。
19 現行法に下記の内容を追加すべきである。
(消費者契約の解釈準則)
消費者契約の契約条項が,合理的解釈を尽くしても,不明確であるがゆえに,その条項につき複数の解釈が成り立つときは,消費者にとってもっとも有利に解釈する。
21 現行法に下記の内容を追加すべきである。
(消費者の中途解約権)
消費者は,消費者契約にかかる継続的契約を,将来に向かって解除することができる。
22 下記の消費者契約の条項は無効と推定すべきである。
① 事業者が契約上の給付の内容又は契約条件を一方的に決定し,または変更できるとする条項
② 事業者または消費者がその義務を履行したか否かの判断を事業者に委ねる条項
③一 事業者の債務不履行(当該事業者,その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
二 消費者契約における事業者の債務の履行に際してなされた当該事業者の不法行為(当
該事業者,その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の一部を免除する条項
④ 法律により認められた消費者の解除権を制限する条項
⑤ 継続的契約において,消費者の中途解約権を制限する条項
⑥ 消費者の利益のために定められた期限の利益を喪失させる条項(但し,民法第137条各号に規定する事由を,期限の利益を喪失する事由として定めた場合を除く。)
⑦ 消費者が一定の作為又は不作為をしたときは,当該消費者が一定の意思表示をしたもの又はしないものとみなす条項
⑧ 一定の事実があるときは,事業者の意思表示(消費者契約の解除等,消費者の利益に重大な影響を及ぼすものに限る。)が消費者に到達したものとみなす条項
⑨ 消費者の法定の権利行使又は意思表示の形式又は要件に対して制限を課す条項
⑩ 事業者の証明責任を軽減し,又は消費者の証明責任を加重する条項
⑪ 管轄裁判所を事業者の住所地又は営業所所在地に限定する条項
23 下記の消費者契約の条項は無効とみなすべきである。
① 契約文言を解釈する排他的権利を事業者に認める条項
② 民法第541条ないし第543条による消費者の解除権を認めない条項
③ 消費者の民法第295条,第505条(ただし,民法その他の法律の規定により制限される場合を除く。),第533条(民法その他の法律の規定により準用される場合を含む。)により認められる権利を制限する条項
④ 事業者が消費者に対して役務の提供を約する消費者契約において,当該消費者の同意(あらかじめ得た同意は除く。)なく,事業者が第三者に当該消費者契約上の地位を承継させることができるものとする条項
⑤ 事業者が契約上消費者に対して有する債権を第三者に譲渡する場合に,消費者があらかじめ異議をとどめない承諾をなすものとする条項
⑥ 消費者が限度額を定めないで根保証をする条項
以上
<別紙⑤>
【 民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理(抜粋) 】
第62 消費者・事業者に関する規定
1 民法に消費者・事業者に関する規定を設けることの当否
(1) 今日の社会においては,市民社会の構成員が多様化し,「人」という単一の概念で把握することが困難になっており,民法が私法の一般法として社会を支える役割を適切に果たすためには,現実の人には知識・情報・交渉力等において様々な格差があることを前提に,これに対応する必要があるとの問題意識が示されている。これに対し,契約の当事者間に格差がある場合への対応は消費者契約法や労働関係法令を初めとする特別法に委ねるべきであり,一般法である民法には抽象的な「人」を念頭に置いて原則的な規定を設けるにとどめるべきであるとの指摘もある。以上を踏まえ,民法が当事者間の格差に対してどのように対応すべきかについて,消費者契約法や労働関係法令等の特別法との関係にも留意しながら,例えば下記(2)や(3)記載の考え方が示されていることを踏まえて,更に検討してはどうか。
(2) 上記(1)で述べた対応の在り方の一つとして,当事者間に知識・情報等の格差がある場合には,劣後する者の利益に配慮する必要がある旨の抽象的な解釈理念を規定すべきであるとの考え方がある(下記(3)の考え方を排斥するものではない。)。このような考え方の当否について,検討してはどうか。
(3) また,上記(1)で述べた対応の他の在り方として,抽象的な「人」概念に加え,消 費者や事業者概念を民法に取り入れるべきであるという考え方がある(上記(2)の考え方を排斥するものではない。)。このような考え方については,現実の社会においては消費者や事業者の関与する取引が取引全体の中で大きな比重を占めていることや,消費者に関する法理を発展させていく見地から支持する意見がある一方で,法律の規定が複雑で分かりにくくなり実務に混乱をもたらすとの指摘,民法に消費者に関する特則を取り込むことにより消費者に関する特則の内容を固定化させることにつながるとの指摘,抽象的な規定が設けられることになり本来規制されるべきでない経済活動を萎縮させるとの指摘などが示されている。これらの指摘も考慮しながら,民法に「消費者」や「事業者」の概念を取り入れるかどうかについて,設けるべき規定の具体的内容の検討も進めつつ,更に検討してはどうか。
消費者や事業者に関する規定を設ける場合には,これらの概念の定義や,民法と特 別法との役割分担の在り方が問題となる。「消費者」の定義については,消費者契約法上の「消費者」と同様に定義すべきであるとの考え方や,これよりも拡大すべきであるとの考え方がある。また,民法と特別法との役割分担の在り方については,消費者契約に関する特則(具体的な内容は後記2参照)や事業者に関する特則(具体的な内容は後記3参照)を民法に規定するという考え方や,このような個別の規定は特別法に委ね,民法には,消費者契約における民法の解釈に関する理念的な規定を設けるという考え方などがある。これらの考え方の当否を含め,消費者や事業者の定義や,これらの概念を取り入れる場合の民法と特別法の役割分担について,更に検討してはどうか。
【部会資料20-2第1,1[1頁]】
2 消費者契約の特則
仮に消費者・事業者概念を民法に取り入れることとする場合に,例えば,次のよう な事項について消費者契約(消費者と事業者との間の契約)に関する特則を設けるという考え方があるが,これらを含め,消費者契約に適用される特則としてどのような規定を設ける必要があるかについて,更に検討してはどうか。
① 消費者契約を不当条項規制の対象とすること(前記第31)
② 消費者契約においては,法律行為に含まれる特定の条項の一部について無効原因が ある場合に,当該条項全体を無効とすること(前記第32,2(1))
③ 消費者契約においては,債権の消滅時効の時効期間や起算点について法律の規定よ り消費者に不利となる合意をすることができないとすること(前記第36,1(4))
④ 消費者と事業者との間の売買契約において,消費者である買主の権利を制限し,又 は消費者である売主の責任を加重する合意の効力を制限する方向で何らかの特則を設けること(前記第40,4(3))
⑤ 消費貸借を諾成契約とする場合であっても,貸主が事業者であり借主が消費者であ るときには,目的物交付前は,借主は消費貸借を解除することができるものとすること(前記第44,1(3))
⑥ 貸主が事業者であり借主が消費者である消費貸借においては,借主は貸主に生ずる 損害を賠償することなく期限前弁済をすることができるとすること(前記第44,4 (2))
⑦ 消費者が物品若しくは権利を購入する契約又は有償で役務の提供を受ける契約を締 結する際に,これらの供給者とは異なる事業者との間で消費貸借契約を締結して信用供与を受けた場合は,一定の要件の下で,借主である消費者が供給者に対して生じている事由をもって貸主である事業者に対抗することができるとすること(前記第44,
5)
⑧ 賃貸人が事業者であり賃借人が消費者である賃貸借においては,終了時の賃借人の 原状回復義務に通常損耗の回復が含まれる旨の特約の効力は認められないとすること
(前記第45,7(2))
⑨ 受任者が事業者であり委任者が消費者である委任契約においては,委任者が無過失 であった場合は,受任者が委任事務を処理するに当たって過失なく被った損害についての賠償責任(民法第650条第3項)が免責されるとすること(前記第49,2(3))
⑩ 受託者が事業者であり寄託者が消費者である寄託契約においては,寄託者が寄託物 の性質又は状態を過失なく知らなかった場合は,これによって受寄者に生じた損害についての賠償責任(民法第661条)が免責されるとすること(前記第52,5(1))
⑪ 消費者契約の解釈について,条項使用者不利の原則を採用すること(前記第59,
3)
⑫ 継続的契約が消費者契約である場合には,消費者は将来に向けて契約を任意に解除 することができるとすること(前記第60,2(3))
【部会資料20-2第1,2[11頁]】
消費者委員会・説明資料(2)
消費者契約トラブル
★消費者側=真に望む契約に基づく支出。
★事業者側=良質の販売方法や契約条件を提供する事業者が消 費者に支持・評価され売上げを確保できる健全な消費者取引市場の実現。
① 事業者が十分に情報提供や説明をせずに契約を勧誘
② 事業者が一方的に有利な契約書や約款で契約を締結
★消費者側=不本意な契約への支出・拘束を余儀なくされる不利益
★事業者側=本来なら消費者に支持されないはずの劣悪な販売方法や契約条件しか提供していない事業者に健全な事業者が売上げを奪われるという社会正義に反する事態。
現在の民法:詐欺・錯誤・公序良俗といった規定しかない。
現在の消費者契約法:消費者契約に関する包括的民事ルールだが、契約締結過程を規律する規定も、契約内容を規律する規定も極めて不十分な内容である。
契約締結過程
① 情報提供義務・説明義務の明定
② 消費者取消権(不実告知、断定的判断の提供、威迫・困惑)の要件見直し。
③ 新たな消費者取消権の導入(情報提供義務違反、状況の濫用、不招請勧誘、不当勧誘行為に関する一般規定の導入)
など
契約内容
① 一般規定(第 10 条)の要件見直し
② 現行の不当条項リストの要件見直し(第 9 条)
③ 不当条項リストの大幅な拡張(ブラックリスト・グレーリスト等)
④ 継続的契約に関する中途解約権の明定
など
民法改正と要検討論点例
1 契約締結過程
① 情報提供・説明義務
② 不実表示
③ 暴利行為・公序良俗
2 契約内容
① 約款規制
② 不当条項規制
ⅰ 消費者契約
ⅱ 約款
3 その他の問題
① 保証
② 抗弁接続
③ 債権各論の諸問題
4 民法と消費者概念
など
日本弁護士連合会の消費者契約法の改正提案(2006/12/14 意見書)
<別紙図面①>
消費者契約=事業者・消費者間の契約
消費者契約の特徴
= 契約当事者間の格差(情報や交渉力の格差)の存在
対策①
契約締結過程の公正現在の民法
対策②
契約内容の公正
解消・減少
現行法の不十分さ
【 消費者概念導入問題フローチャート 】 消費者委員会・説明資料(2)
「問題」
民法は格差に対応する必要があるか否か。
格差是正に対応する必要なし
消費者保護規定を置く。
「問題」
民法に「消費者」という表現は一切要らないか。
一切要らない。
消契法へのレファレンス規定は有ってもよい。
←分かり易い民法
「問題」
どういう方法で民法で格差是正を実現するか。
消費者保護規定+
格差是正規定
消費者保護規定も、一般的な格差是正規定も、その両方を民法に
置く。
一般的な格差是正規定を置く。
格差是正に対応する必要あり
「問題」
消費者契約法の私法実体規定との役割分担をどう考えるのか。
民法に一元化する考え方(統合論)。
消契法の消費者保護規定と異なる消費者保護規定が民法にあってもかまわないという考え方(併存説)。
P説
理念規定のみ。
Q1説
「問題」
民法固有の消費者保護規定として何を定めるのか。
<注> Q1の場合、消費者契約に関
する特則は消費者契約法の改正で充実させることが前提。
個別の特則規定のみ。
Q2説
理念規定+個別の特則規定
Q3説
R1説
<例>
S1説(格差是正の理念規定)
+Q2説(消費者保護の個別規定)
Q1~3(いずれか)+S1~3(いずれか)
「問題」
民法の一般的格差是正規定として何を定めるのか。
「問題」 両方とは、具
体的にどのような規定を民法に置くという
S1~S3+格差契約への消費者契約に関する特則の準用規定な
理念規定のみ。
個別の特則規定のみ。
理念規定+個別規定
S3説
R2説
<例>
S1説+Q2説+格差契約への消費者契約に関する特則の準用規定
R1+格差契約への消費者契約に関する特則の準用規定など
S1説
S2説
S4説
T説
U説
格差是正規定
消費者保護規定
<注>
S1~4説の場合、消費者契約に関する特則は、民法改正と同時に消費者契約法の改正で充実させることが前提。
<別紙図面②>
民法典に「消費者」という文言が入る考え方 | P説、Q1~3説、R1~2説、S4説、T説 |
民法典に「消費者」という文言が入らない考え方 | S1~S3説、U説 |