4 A 氏に対する経済的利益の供与の有無等 11
平成30年10月23日
株式会社日本貿易保険 調査委員会
目次
第1 調査委員会の設置と構成 1
1 本件調査依頼 1
2 調査委員会の設置及び構成 1
第2 前提となる事実関係 1
1 株式会社日本科学技術研修所(以下、「日科技研」という。)の契約について 1
2 株式会社ラック(以下、「ラック社」という。)社との契約について 2
第3 実施した調査 2
1 関係者の電子メール送受信記録の確認 2
2 関係者へのヒアリング 2
3 外部への調査依頼 2
4 その他資料の見分 3
第4 調査結果 3
1 調査結果の概要 3
2 日科技研との関係について 3
3 ラック社との関係について 5
4 A 氏に対する経済的利益の供与の有無等 11
5 監査役による調査について 12
第5 NEXI における問題点と再発防止策について 12
1 A氏との契約締結の適否 12
2 A 氏に対する管理・監督について 13
3 入札における照会手続 14
4 次期システム開発に向けた社内体制 14
5 社内のガバナンス体制(取締役会及び監査機能) 15
6 再発防止に向けて 15
7 結語 16
第1 調査委員会の設置と構成
1 本件調査依頼
本年7月13日、経済産業省貿易経済協力局長名において,「次期システム開発に係る入札等に関する調査について」と題する書面により,平成29年3月23日に実施された NEXI の次期貿易保険システム開発業務に係る入札及びその他の同システム開発に関連する各業務(「貿易保険情報システム資産分析業務」,「貿易保険情報システム第二次資産分析業務」,「次期貿易保険情報システム構想確立作業支援業務」,「次期貿易保険システム業務設計支援1」)の調達にかかる事項について,外部弁護士を含む調査委員会を設置して不正の有無を調査確認し,平成3
0年8月10日までに中間報告を,同年9月12日までに最終報告を行うよう, NEXI 代表取締役社長xxxxx(以下,「xx氏」という。)宛に指示がなされた。
同年8月3日に実施した中間報告の後,同年9月6日に NEXI から調査期間の延長を申し出たところ,同年9月12日付けで,調査期間の延期を認める旨の通知がなされている。
2 調査委員会の設置及び構成
前項記載の経緯から,NEXI は,外部弁護士を含めた構成による調査を行うこととし,平成30年7月20日,以下の構成により調査委員会(以下,「本委員会」という。)を設置した。
氏名 | 所属・役職等 | |
委員長 | xx x | xx法律事務所・弁護士 |
委員 | xx x | xx法律事務所・弁護士 |
委員 | xx xx | xxxxx法律事務所・弁護士 |
委員 | xx xx | NEXI 社外取締役 |
委員 | xx xx | NEXI 社外監査役・弁護士 |
なお,本委員会は,xxxxxに調査を補助するよう依頼し,NEXI 及び同人の承諾を得た。
第2 前提となる事実関係
1 株式会社日本科学技術研修所(以下、「日科技研」という。)の契約について
(1)貿易保険情報システム資産分析業務
① | 平成27年10月13日 | 入札公告(企画競争) |
② | 平成27年11月13日 | 技術審査委員会の審査により日科技研に決定 |
③ | 平成27年11月20日 | 日科技研との契約締結 |
(2)貿易保険情報システム第二次資産分析業務
① | 平成27年12月15日 | 入札公告(企画競争) |
② | 平成28年 2月 5日 | 技術審査委員会の審査により日科技研に決定 |
③ | 平成28年 2月10日 | 日科技研との契約締結 |
(3)次期貿易保険情報システム構想確立作業支援業務
① | 平成28年 | 3月29日 | 入札公告(企画競争) |
② | 平成28年 | 4月20日 | 技術審査委員会の審査により日科技研に決定 |
③ | 平成28年 | 4月28日 | 日科技研との契約締結 |
(4)次期貿易保険システム業務設計支援1
① | 平成28年11月 7日 | 入札公告(企画競争) |
② | 平成29年 1月 5日 | 日科技研が落札(一社応札) |
③ | 平成29年 1月13日 | 日科技研との契約締結 |
2 株式会社ラック(以下、「ラック社」という。)社との契約について
(1)次期貿易保険システム業務システム開発契約
① | 平成28年12月28日 | 入札公告 |
② | 平成29年 3月 9日 | 各社提案受付・締め切り |
③ | 平成29年 3月21日 | 入札予定価格の確定 |
④ | 平成29年 3月21日 | 技術審査委員会を開催し,技術点を確定 |
⑤ | 平成29年 3月22日 | 入札及び開札を実施し,ラック社が落札 |
⑥ | 平成29年 3月31日 | ラック社との請負契約締結 |
第3 実施した調査
1 関係者の電子メール送受信記録の確認
次期貿易保険システム開発の入札手続等に関与した者として XXXX の役職員及び元顧問A氏の計9名について,電子メールの送受信記録を確認した。
2 関係者へのヒアリング
次期保険貿易システム開発の入札手続等に関与した者として,NEXI の役職員並びに A 氏の計9名(上記の電子メール送受信調査の対象者と同一)及び日科技研の元社員 B 氏の合計10名に対してヒアリングを行った。
3 外部への調査依頼
日科技研及びラック社に対して,本委員会から調査依頼書を発出して,調査を依頼した。調査結果は,日科技研については平成30年9月11日付,ラック社については同月14日付各「回答書」により受領した。
4 その他資料の見分
本委員会は,本件調査に先立つ監査役による調査報告に関連する資料を見分するとともに,上記1ないし3記載の調査を実施する過程において判明した事実の確認等のため必要な資料については,NEXI 内部に保存されるものに限らず登記情報等外部に存在する資料についても収集,見分を行った。
第4 調査結果
1 調査結果の概要
本調査の結果,以下の事実が確認された。
NEXI が日科技研との間で締結した4つの契約のうち,2つの契約について,A氏が同社の提案書の一部を作成したり,提案書の内容を修正したりしていたことが確認できた。このような行為は企画競争のxxな実施を害するものであると認められる。
また,NEXI とラック社との契約について,A氏が同社の提案書の一部を作成したり,同社に対して内容の修正を指示したりしている他,その過程では社外に非開示とされている部分が同社に対してのみ開示されていたといった事実が確認できた。このような行為は入札のxxな実施を著しく害するものであると認められる。
2 日科技研との関係について
(1)契約手続等
NEXI は,日科技研との間で貿易保険情報システム資産分析業務に関する契約
(以下「第一次資産分析契約」という。),貿易保険情報システム第二次資産分析業務に関する契約(以下「第二次資産分析契約」という。),次期貿易保険システム構想確立作業支援業務に関する契約(以下「構想確立支援契約」という。)及び次期貿易保険システム業務設計支援1に関する契約(以下「設計支援契約」という。)をそれぞれ締結している。
なお,各契約の締結に至る経緯については,第2に記載のとおりである。各契約の締結にかかる意思決定のプロセスや企画競争入札の手続など,NEXI が各契約の締結に至る手続自体には特に問題は認められない。
(2)日科技研が企画競争に参加した経緯
貿易保険システムの分析について日科技研が企画競争に参加したことについては,A 氏がxxxxその旨の提案をしたことが契機となっている(A 氏及びxx氏ヒアリング結果)。なお,A 氏が関わっていた X 社における業務に日科技研も加わっており,xx氏もその際の同社の仕事ぶりについて一定の評価をしていた(xx氏ヒアリング結果)。
A 氏は,第一次資産分析契約に関して日科技研以外の企業にも競争への参加を
呼びかけた旨の供述をしているが,これを裏付ける資料はない。むしろ,NEXI職員に対するヒアリングでは,A 氏の意図として日科技研が資産分析業務を行うことが予定されていると思った旨の供述を得ている。
(3)提案書作成に対する A 氏の関与ア 事実関係
日科技研は,上記各契約に関して,NEXI に対して次のとおり提案書を提出している。
① 第一次資産分析契約について:平成27年11月6日付
② 第二次資産分析契約について:平成28年1月26日付
③ 構想確立支援契約について:平成28年4月19日付
④ 設計支援契約について:平成28年12月27日付
これらの作成にいずれも A 氏が関与していることについては,A 氏及び B氏ともにヒアリングにおいて自認しており,②及び③については,A 氏の送受信メールにおいてもその事実が確認できる。
イ A 氏及び日科技研の説明
A 氏は,こうした行為について,自らが構想したシステムに自信があったので,そこから逸れることをされないように提案書を「レビュー」したものであって,システム開発においては常識であると説明している(A 氏ヒアリング結果)。
また,日科技研は,「各契約につき,企画競争の公示前から,A 氏からの求めに応じて,A 氏との間で技術的事項についての協議を重ねていました。その流れの中で,B 氏は,企画提案書の作成に際しても,仕様書から読みとれない事項についての XXXX の考え方を A 氏に質問し,また,弊社作成の企画提案書の内容が NEXI の意図に沿ったものとなっているかを A 氏に確認してもらい,適宜助言を頂くなどしたものと推察しています。」とし(日科技研からの回答書),A 氏と B 氏とのやりとりの詳細までは把握していなかったと説明している。
ウ 行為の評価
上記各メールでは,日科技研(B 氏)から A 氏に対して提案書そのものの電子データを提供した上で,それに A 氏が修正を加えるといったやりとりや,提案書の少なくとも一部は A 氏が文案を作成して日科技研(B 氏)に提供していると見られるようなやりとりがなされており,実際に日科技研から提出された提案書には,X xによる修正や A 氏が作成した文案がほぼそのまま反映されている。
企画競争をxxに実施するという観点からすれば,A 氏の関与が,仮に A 氏や日科技研の説明にあるような「レビュー」や「助言」と評価し得る程度のも
のであったとしても,それが許容されるかは疑問であるが,実際の関与の度合いは「助言」などという範囲をxxxに超えるものであり,A 氏らによる行為は,xxな企画競争の実施を害するものであったといわざるを得ない。
(4)その他問題となる行為の有無
本委員会の調査では,日科技研との間の契約締結(これらの契約にかかる企画競争)に関して,上記の点以外には,入札のxxを害する(おそれのある)行為は特に認められなかった。
(5)他の役員・社員の関与について
上記(3)で指摘した行為について,A 氏以外に XXXX の役員又は社員が関与したことを示すメールその他の客観的資料はなく,ヒアリング等の調査においても,そうしたことをうかがわせる事情は存しない。
3 ラック社との関係について
(1)契約手続等
NEXI は,平成28年10月13日の経営会議において承認された「貿易保険システム再構築基本計画書」を前提として,次期貿易保険システム業務システム開発にかかる一般競争入札(以下,「本件入札」という。)を実施し,これに対して Y 社及びラック社が応札した。NEXI では,総合評価方式によって両社の提案を評価した結果,ラック社が落札した。
ラック社との契約締結に至る意思決定プロセスにおいては,契約決裁者であった理事長による最終的な決定に至るまでに,経営会議での複数回の議論を経るなど慎重な検討が重ねられており,この点について特に指摘すべき事項はない。また,入札手続についても,予め定められた手続きに従って進められており,この点にも瑕疵は見当たらない。
このように,本件入札に関する一連の手続自体には,特に問題となる点は認められない。
(2)ラック社が入札に参加した経緯
A 氏及び NEXI 職員に対するxxxxxによれば,ラック社が X 社関連の業務に関わっていた関係で,かねてから A 氏との繋がりがあったことから,A 氏から本件入札への参加を促され,これに応じたものとのことである。
(3)提案書作成に対する A 氏の関与ア 事実関係
ラック社からは,NEXI に対して平成29年3月9日付で提案書が提出されているが,A 氏は当該提案書の作成にも関与していたことを自認しており,A氏の送受信メールによってもその事実が確認できる。
具体的には,①提案書の「はじめに」の部分において入札仕様書,要求仕様
書に対するラック社の受け止め方を表形式で作成してはどうかと提案し,その一部を A 氏が自ら作成してラック社に提供する,②プロジェクト体制についての記載等を A 氏が作成してラック社に提供する,③提案書の「ご提案のポイント」部分を A 氏が修正したり,「機能要件」に関する記載を A 氏が自ら作成したりしてラック社に提供する,といったものである。
これらのやりとりは,各社からの提案の受付締切日であった平成29年3月
9日の直前から当日にかけて頻繁に繰り返されていた。また,A 氏とラック社との間では提案書に関して何らかの打合せが行われていた可能性もある。
イ A 氏及びラック社の説明
A 氏がラック社との関係でもかかる行為に及んだ理由について,A 氏は,日科技研の提案書作成への関与と同じく,自らが構想したシステムから逸れることをされないように提案書を「レビュー」したものであって,システム開発においては常識であると説明している(A 氏ヒアリング結果)。
また,ラック社は,B 氏(同氏とラック社との関係については後述する。)が A 氏と直接やりとりをする中で,B 氏が提案書の一部について文案を受領したことは認めつつ(実際には,A 氏との提案書のやりとりには,B 氏だけではなく,ラック社の C 氏,D 氏も加わっていた。),これは入札の仕様及びシステムの要求仕様の不明確な点を確認していく際に,発注者から指示があった形式や内容について可能な限り対応するという中での出来事で,特別な取り計らいを受けた認識はなかったと説明している(ラック社からの回答書)。
ウ 行為の評価
A 氏の送受信メールからは,ラック社の提案書の重要な部分の作成を A 氏が自ら行ったり,ラック社に修正等を提案(指示)したりしていたことが認められ,A 氏の関与が「レビュー」や「助言」にとどまるものではないことは明らかである。
また,A 氏による修正や文案の作成は,ほぼそのままラック社が提出した提案書に反映されており,一連のやりとりを,ラック社が説明するような確認作業の一環であったと評価することも困難である。
A 氏による修正や文案の作成が,評価点のxxxxが高い「基本方針の理解」,
「スケジュール」,「実施体制」に関わるものに対して行われていることからすれば,少なくとも A 氏においては,ラック社の提案書が高い評価を得られるようにするという意図をもって作成に関与したと考えるのが合理的である。また,NEXI 社員に対するヒアリングでは,A 氏が修正や文案の作成をしていた
「提案のポイント」部分は技術審査委員(特に技術者ではない委員)の心証に大きく影響する可能性があり,特にここに「弊社の理解」という表を挿入することは,本件入札において入札仕様書,要求仕様書の要求事項に対する理解度
が重視されていたこととの関係で,提案書の評価に大きく影響した可能性があるとの指摘もあった。
なお,本件入札は総合評価方式で実施され,技術点の比重が価格点の2倍とされていたことから,提案書の内容が仕様書の要求事項を充たしているか否かが極めて重要な意味を持っていたが,A 氏関与のもとで作成されたラック社の提案書は,入札仕様書及び要求仕様書をなぞるような内容となっていたことから,結果的に高い評価を得ることとなった。
以上のように,ラック社の提案書作成に対する A 氏の関与は,当該提案書の評価(入札結果)に大きな影響を及ぼしており,A 氏らの行為は,本件入札のxxな実施を著しく害するものであったというべきである。
(4)評価基準の開示等について
ア 評価基準の非開示部分がラック社に開示されていたこと
A 氏の送受信メールによって,A 氏とラック社との間の提案書のやりとりの際に,A 氏からラック社に対して審査・評価基準が本来非開示である部分(備考欄)も含めて提供されていることが確認できる。
このとき A 氏は,ラック社に対して「審査・評価基準を送ります。赤字のところが充たされているかを十分にチェックし,不十分であればそれなりに追記をしてください。」と伝えており,ラック社の提案書を審査・評価基準に沿うものにしようとする意図がうかがえる。
イ 審査・評価基準の変更等について
また,提案の締切日の翌日(平成29年3月10日)には,A 氏によって,審査・評価基準案に追記が行われ,同日に開催された技術審査委員会において, A 氏による追記を反映させた内容どおりに審査・評価基準が決定された。この追記は,提案書が入札仕様書及び要求仕様書に沿っていることを評価の際により重視する方向のものであり,A 氏の関与により各仕様書を「なぞるような」内容の提案書を提出していたラック社に有利となる内容であった。
さらに,A 氏は,審査・評価基準を決定した同じ技術審査委員会の場において,評価シートの基礎点部分である仕様書の理解及び提案書の構成という評価項目について,「全て満たしていないと0点にする」旨の発言をし,翌3月1
1日にはこれに沿って上記評価項目について,評価基準を「全て満たしている場合のみ基礎点を与える」との記載を追加して,提案書が各仕様書の内容に沿っていることをより重視する方向の変更を行っていることが認められる。
ウ 行為の評価
これらの行為について,A 氏は,特に意図をもって行ったものではなく,非開示部分を第三者に開示したことはないと説明しているが,非開示部分の開示の事実については A 氏の送受信メールにより明らかである。
また,ラック社は,「A 氏から審査・評価基準の中で発注者として重視する点に関する資料を送付された事実は確認できましたが,開示された時期は提案書提出日当日」であるから,この資料をラック社において参考にした事実は確認できなかったとしている(ラック社からの回答書)。しかし,A 氏がラック社に審査・評価基準を開示した後も,A 氏とラック社との間では提案書に関わるメールのやりとりが続いていることが確認できることから,ラック社の説明はにわかには措信しがたい。
A 氏による審査・評価基準の開示や変更等については,ラック社の提案書作成に A 氏が深く関与する中で行われているものであり,単に非開示情報を漏洩したというものにとどまらず,本件入札がxxに実施されることを害する行為の一つとして位置付けることが適当である。
(5)ルールエンジンに関する情報の取扱いについてア 事実関係
本件入札では,ラック社は入札仕様書及び要求仕様書に指定されている「P」をルールエンジンとして提案し,他方で Y 社は,これとは異なる「Q」をルールエンジンとして提案していた。
A 氏は,両社からの提案書が提出された後で,Y 社が「Q」を採用した理由として示した内容を Z 社に提供した上で,これについて意見を求めるという行為に及んでいることが A 氏の送受信メールから確認できる。
「P」は,Z 社の商品であり,同社は,本件入札でラック社と Y 社のいずれの提案が採用されるかについて利害関係を有する者であった。
イ 行為の評価
入札参加者の提案内容を他社(それも提案の採否について利害関係を有する者)に漏洩するという A 氏の行為は,不適切なものであったというほかない。この点について A 氏は,Z 社への情報提供の目的について,Y 社からの説 明だけでは同社の提案について評価できなかったためで,他に意見を求められ
るところもなかったと説明している(A 氏ヒアリング)。
しかしながら,A 氏の送受信メールでは,A 氏が Y 社からの提案(「Q」を採用する理由)への「反論があればお答えください」と Z 社に求めていることが確認できており,およそ中立的な立場で専門家の知見を求めたものであるとは評価しがたい。
この行為自体は,本件入札における審査等に影響するものではなかったと思われるが,本件入札におけるxxさに外形的な疑念を生じさせるものであったということができる。
(6)概算見積もりの依頼をめぐる問題
ア 本件入札における概算見積もり依頼
NEXI では,本件入札の意見招請段階であった平成28年11月から同年1
2月初旬に,ラック社を含む複数の企業に対して概算見積もりを依頼している
(なお,この依頼に対応したのはラック社のみである。)。
これは,平成28年11月当時の契約事務取扱規則では,予定価格を記載した予定価格調書は入札実施伺いの段階で決裁伺いに添付して決裁を得なければならないこととされていた(同規則第15条及び第17条)ことから,本件入札に関しても,入札実施にかかる決裁(平成28年12月27日)までに予定価格の算出を行う必要があったことによるものである。
なお,契約事務取扱規則の予定価格決定に関する規定は,平成28年12月
27日付で改定されている。改定の内容は,入札価格の決定時期を入札実施伺いの段階よりも遅い時期とするというもので,意見招請の段階での概算見積もりには提供できる情報量に限界があり,各社における対応が困難である,又は算出結果に対する信頼性が欠けるとの問題があること,入札公告から実際の入開札まで3か月弱の期間があるので,その間に予定価格が流出する懸念があることが理由とされている。その結果,本件入札にかかる予定価格算出の参考とした概算見積もりの依頼は入札仕様書及び要求仕様書を提示した上で,上記依頼とは別に行われている。
イ 見積もり方法や指定数値を指定していること
A 氏は,ラック社に対する概算見積もりの依頼に際して,「ファンクションポイント概算法」によって見積もりをすること,その際に使用する数値を指示していることが A 氏の送受信メールで確認できている。
開発コストの一般的な見積もり方法としては,①ファンクションポイント概算法,②ファンクションポイント法,③プログラムステップ法(SLOC法)があるところ,どの方法を選択するかは見積もりを行う業者側で判断すべきものであり,その判断によって見積工数(見積額)に差異が生ずる。
また,ファンクションポイント概算法によるとしても,データファンクション数のうち外部インターフェースファイルの数,トランザクションファンクション数,調整値,精算基準値,管理工数費,コンティンジェンシーの数値,工数単価については,その数値の設定により算出される見積工数(見積額)に違いが生じることとなる。
ウ 行為の評価
A 氏がラック社に見積もり方法や使用数値を指示した意図は判然としないが(A 氏自身は,見当違いの見積もりとならないように指示をしたとヒアリングで説明している。),A 氏がかかる行為に及んだ時点における NEXI のル
ールでは,概算見積もりは予定価格算出の資料とする目的で依頼していたものなのであるから,A 氏によるラック社への情報提供は,一般的に許容される限度を超えている。
なお,A 氏の送受信メールによって,A 氏とラック社との間では,ラック社が概算見積もりを作成後にその内容を A 氏が確認するというやりとりもなされていることも確認できた。
ラック社は,これらの事実があったことは認めつつ,その目的は「弊社が提出する概算見積の記載の仕方が入札の仕様に適合したものとなっている か」を発注者に確認する目的であったと説明しているが(ラック社からの回答書),かかる説明は,A 氏とラック社との間のメールのやりとりと必ずしも整合しない。
本件入札における予定価格算定のための概算見積もりは,後日,別途依頼することとなったことは上述のとおりであり,結果的にはラック社とのやりとりが本件入札の予定価格算定に直接影響することはなかったと考えられるが,A 氏の行為は,その行為時においては,予定価格算定の参考とする見積もりの適正を害する可能性があるものであった。さらに,ラック社は,本件入札に参加しているところ,A 氏による詳細な指示は,ラック社に対して NEXI による予定価格の算定方法を把握する材料を提供したとも評価し得 る。
なお,A 氏は,概算見積もりに関して NEXI の職員から,「W 社及びラックについては」「(自分が)声をかけても問題ないでしょうか。」と問われたのに対して,「ラックは私の方で対応します。W 社の方をお願いします。」と応答して,ラック社とのやりとりについてのみ積極的な姿勢を示している。また,Y 社については「こちらの考えは一切言わずに見積り依頼をしてください。」と NEXI 職員に指示しており,ラック社に対する対応とは著しく異なる姿勢を示している。
(7)他の役員・社員の関与について
上記(3)乃至(6)で指摘した各行為について,A 氏以外に NEXI の役員又は職員が関与したことを示すメールその他の客観的資料はなく,ヒアリング等の調査においても,そうしたことをうかがわせる事情は存しない。
(8)小括
このように,A 氏は,本件入札に関して一貫してラック社を支援し,又は同社の提案が高い評価を得られるように行動し,結果として本件入札についてはラック社が落札者となっている。
A 氏による上記各行為とラック社による落札との因果関係の有無(A 氏の各行為がなければラック社が落札できなかったという関係の有無)について断定する
ことはできないが,A 氏の各行為が,ラック社の提案が NEXI において高い評価を得ることにかなりの貢献をしていることは明らかであるし,これによって本件入札の公正は著しく害されたものということができる。
4 A 氏に対する経済的利益の供与の有無等
(1)経済的利益の供与は確認できなかったこと
A 氏は,日科技研やラック社による提案書作成への関与について,次期貿易保険システムに関する自らの構想に沿った提案がなされるように企図したものであったと説明しており,その他の不適切な行為についても,違法・不当な行為ではなく,不正の意思もなかったと述べている(A 氏に対するヒアリング)。
一般的には,そのような意図のみをもって,これほどまでに特定の応札者等のために便宜を図る理由が明らかではない。特に A 氏のラック社に対する「支援」は極めて手厚いものがあり,A 氏の送受信メールからは,A 氏が貿易保険システム基盤再構築に関する契約について実施された一般競争入札においても,入札に参加した W 社の提案内容を,同じく入札に参加したラック社に提供していた事実も判明している。
しかしながら,A 氏に対する経済的な利益の供与を示す証拠は発見できなかった。
(2)A 氏と B 氏の関係
B 氏は,日科技研のプロジェクトマネージャーとして本件に関与する一方で, A 氏とラック社との間の提案書に関するやりとりでも,ラック社の窓口のように振る舞っているが,これは,平成28年11月頃,A 氏から「ラック社が次期貿易保険システム業務システム開発への提案を考えているので,その提案書の作成に B 氏の支援をお願いできないか」と依頼を受けた B 氏が,日科技研の業務に支障がないかを同社の E 氏(既に退職)に確認してその了解を得た上で,A 氏からの依頼を受けたことによるものである(日科技研の回答書及び B 氏に対するヒアリング)。なお,A 氏は,ラック社とのやりとりに B 氏が関わっていたことを認識していなかったなどと述べているところ,A 氏から B 氏に宛てたメールの存在も確認できており,A 氏の供述は明らかに虚偽であるが,そのような虚偽の供述をする理由は判明していない。
なお,A 氏と B 氏とは古くからの知人で,A 氏が X 社の業務を行っている際にも共に仕事をしていた間柄であり,第二次資産分析業務に日科技研と共に参加している V 社の社員のコーディネートで海外旅行を共にするなど,相当に親しい関係にあったことが A 氏の送受信メールからうかがえる。
5 監査役による調査について
本調査に先立ち,平成29年11月から翌年 3 月にかけて,次期貿易保険システム開発に関係した不正行為がある旨の告発文書が経済産業省や NEXI に送付されたことを受けて,NEXI では,中村監査役による調査が二度にわたり行われた。
この調査においては,A 氏をはじめとした次期システム開発に関係する役職員からのヒアリングが実施されていることに加え,関係資料の調査も一通り行われており,時間的制約や NEXI 内での秘密保持(情報拡散の防止)の必要がある中での調査としては十分なものであったと考えられる。
また,監査役調査では,ヒアリングの結果,A 氏が提案書作成には関与していなかった旨の報告がなされているが,A 氏,日科技研及びラック社の認識は上記のとおりである以上,かかるヒアリング結果となることはやむを得ないものであり,この点をもって調査自体の信用が損なわれるものではない。
第5 NEXI における問題点と再発防止策について
本件での問題は,専らA氏個人の不適切な行為が原因である。しかし,本件のような問題の発生を未然に防ぐことができなかったのかを検証するために,①A氏との契約締結の適否②A氏に対する管理・監督,③入札における照会手続,④次期システム開発に向けた社内体制,⑤社内のガバナンス体制(取締役会及び監査機能)について,以下検討する。
1 A氏との契約締結の適否
NEXI とA氏は,平成27年9月30日に業務委嘱契約を締結した。
契約締結に至った経緯については,監査役第一次報告書において,X 社在職時に A氏と知り合った当時の理事長板東氏が,A氏の知見や能力,X 社のシステム統合 における成果を高く評価したこと,IT 業界専門家とのネットワークも広く NEXI の次期システム開発に向けての貢献を期待できることなどから嘱託として採用す ることとし,適正な社内手続きを経て契約締結に至った旨の報告がなされているが,本委員会による板東氏に対する事情聴取等に基づく調査結果もこれと同様である。
このとおり,NEXI が A 氏との間で業務委嘱契約を締結したきっかけは,板東氏のいわば推薦によるものであったが,その時点において A 氏が本報告書で指摘したような不適切な行為を行うおそれがあることを認識し得たような事情はなく,それまでの実績等を踏まえれば,A 氏を推薦したことが合理性を欠いていたとはいえない。
したがって,次期貿易保険システム開発に関して NEXI が A 氏との間で業務委嘱契約を締結したこと自体は問題がない。
なお,NEXI とA氏との業務委嘱契約は,平成30年7月20日付で合意により
解除された。
2 A 氏に対する管理・監督について
(1) A氏との業務委嘱契約の内容
A 氏との業務委嘱契約では,以下の内容が定められている。
・ A 氏に対して,「NEXI のシステム企画・開発等の業務についての指導・助言」の業務を委嘱する
・ A 氏に対して,委嘱業務を行うために必要となる備品を貸与する
・ A 氏は,月次の作業報告書を NEXI の担当グループ長に提出する
・ A 氏は,委嘱業務に関して知り得た秘密を第三者に漏洩してはならず,また本業務の遂行以外の目的に使用してはならない
以上の契約内容については,業務委嘱契約としては一般的かつ妥当なものであり,A 氏との業務委嘱契約の内容に特段の問題があるとは認められない。
(2) A 氏の社内での待遇等
A 氏の待遇は,「顧問」という肩書きを付し,個室を供与するなど,それまでに外部から招聘したシステムの専門家とは異なるものであった。このこと自体は,当初よりA氏には次期貿易保険システム開発において重要な役割を果たすことが期待されており,それまでのシステムの専門家とは当社内での位置付けが異なっていたことから特に問題とすべき点はない。しかし,こうした特別の待遇が認められたことや,「A 氏は社長が招聘した人物である」という NEXI 内部における認識が,社長自らが次期貿易保険システム開発にかかる業務執行を担当する取締役であること,NEXI におけるシステム部門に A 氏と対峙できるような人材が乏しかったという体制の脆弱性などと相まって,次期貿易システム開発における A 氏の立場を著しく強めることとなったと考えられる。
(3)A 氏の業務遂行のチェック
A 氏の業務遂行に関しては,A 氏との業務委嘱契約に定められているとおり,月次の報告書を担当グループ長に提出され,担当グループ長が,その内容を確認した上で,毎月の報酬の支払いを行っていた。ただし,このような方法による管理・監督は形式的なものにとどまる。
NEXI と A 氏との契約関係は雇用契約ではなく,業務委嘱契約であるから,法的な意味で A 氏を上長の指揮命令下に置くことは困難であるが,それゆえに A氏に一定の権限を付与するのであれば,その業務遂行を管理・監督する方法が工夫されるべきところ,そのような観点からの措置は講じられていなかった。
例えば,社内情報の管理方法について,NEXI では,グループ長以下の職員については,上長を宛先や cc.に含まない外部向けのメール発信については,特別のフォルダに保管されて上長が確認できる制度を設けている。しかし,A 氏
については NEXI のメールアドレスを提供し,社内システムへのアクセスを開放するなどの点については他の職員と同様の扱いとしながら,外部向けのメール発信が確認できる体制はとらず,A 氏は,誰の監督も受けることなく自由に社外とメールの送受信を行い,内部情報を持ち出すことが可能となっていた。
3 入札における照会手続
契約事務取扱規則では入札説明書においては,問い合わせ先を必ず記載することが定められている。また,同規則の様式2-4で入札説明書のひな形が提示されており,そこでは「本件に関する照会先」として,入札に関する照会及び質問については,必ず定められた期限内に,指示された宛先に対して書面にて行うこととされている。これは,照会や質問への対応に関して,方法や時間について一定の制約を設けることで,寄せられた質問や照会に対する回答を応札希望者全員と共有することを通じて照会や質問に対する回答が特定の企業に対して有利とならないようにすることを目的とするものである。
しかしながら,本件では,入札説明書で設定された方法や期限に従わず,特にラック社のケースでは,同社の提案書の提出直前まで,A 氏の個人メールを用いた提案書の内容についてのやりとりがなされていたことが確認されている。このようなことは,特定の企業を特に有利に扱うことになりかねず,公平性・公正の観点から是認できるものではない。
4 次期システム開発に向けた社内体制
NEXI においてシステムの保守・開発は業務・IT 統括室が担当している。業務 IT 統括室に所属する職員数は10名にとどまり,責任残高14.3兆円,201
7年度の保険引受額7.3兆円,職員175名,システム関連費用年間30億円
(次期システム開発含む)という規模の組織におけるシステム部門としては脆弱な体制である。
また,所属する職員のほとんどが最近入社したばかりの中途社員であり,NEXIのシステムや業務に関する専門性という観点からも体制が手薄であったと言わざるをえない。
このような,体制において,外部から経験豊富な専門家を招けば,その権限が相当強いものとなることは当然であり,その結果,当該専門家による業務遂行に対して内部からのチェックが働きにくくなり,結果として A 氏の不適切な行為を阻止できなかったという側面があることは否定できない。
5 社内のガバナンス体制(取締役会及び監査機能)
(1)取締役の担当分担
NEXI では,平成29年4月の株式会社化とこれに伴う取締役会の設置の際に,取締役会決議により総務部と業務IT室は社長である板東氏の所管となった。
この背景には,会社の広範な業務範囲に比して業務執行取締役が4人と比較的少ないこと,独立行政法人時代から継続して役員として残ったのは板東氏のみであったところ,総務部については会社制度への円滑な移行という役割を担っており,業務IT室については次期貿易保険システムの開発という独立行政法人時代から継続する課題への取組みが求められていたといった事情があり,当時における判断としては合理的なものであったと考えられる。
一方で,NEXI において今般開発する次期システムは,営業から審査,債権管理,回収まで,NEXI の業務の根幹を担うシステムであり,全社をあげてそのシステム開発については管理・監督していくべき性質のものである。次期貿易保険システム開発との関係では,日科技研及びラック社との契約締結プロセス及び契約締結後の業務遂行に関しては取締役会における監督は適切に機能していたと評価できるが,①社長が担当取締役としてシステム開発を担当していると,他の取締役による監視・監督が必ずしも十分に機能しにくいこと,②NEXI においては内部監査部門が社長直属の組織と位置付けられていること,を考慮すると,社長が特定の業務を所管するという体制は必ずしも好ましいものではないと考えられる。
(2)監査機能
会社内で問題が生じた際には,会社としては,まずは監査役や内部監査部門による調査を行い,それに基づいて必要な措置を講ずるのが本則である。本件では,監査役による調査・報告の大半を中村監査役が一人で担うこととなったが,事案によっては,相当程度のサポート体制がなければ,調査等が困難な場合があり得ると思われる。
6 再発防止に向けて
(1) 入札過程における外部との接触ルールの厳格化
応札を希望する企業との接触について,入札説明書等で定められた時期や方式によることが,応札希望者側を含めて徹底されていれば本件の発生は避けられていた可能性が高い。
現在も関連する社内規則で接触ルールについての定めはあるものの,本件で発生した事象を踏まえ,そのルールの厳格化とその周知徹底及びチェック体制の確立,さらには,これに反した場合の取扱いについて更に明確に定めることが期待される。
(2)システム部門の強化
NEXI の貿易保険システムがさまざまな問題を抱えているということは社内の共通認識であり,今後も外部の専門家の知見を得るなどしながら貿易保険システム開発を進めていく必要があると思われ,そうしたシステム開発を適正かつ的確に進めていくためには,当該専門家の言動を正確に理解,把握して,検証できる人物を社内に配置しうるよう,システム部門の強化に向けて継続的かつ重点的な取組みを始める必要がある。
(3)外部専門家に対する管理・監督
外部専門家を招いた場合,雇用契約関係にある社員のように上長の指揮命令下に置くことが法的に困難であることを踏まえた上で,当該専門家に対する個人的な信頼の有無にかかわらず,付与する権限や地位などに応じて適切に管 理・監督する体制を整えることが必要である。その際には,単に業務報告を義務付けるといったことにとどまらず,問題の発生や拡大を防ぐための具体的な措置を講じるべきであり,外部とのメールのやりとりをチェックすることなどが考えられる。
本件では,A 氏による不適切な行為の多くで,NEXI のメールを使用していたことは本報告書で指摘したとおりであるが,A 氏についても外部とのメールのやりとりを確認できる体制がとられていれば,A 氏が不適切な行為に及ぶことを困難にし,又は NEXI において A 氏による不適切な行為を早期に発見できた可能性が高い。
(4)取締役の担当業務の見直し
上述のとおり,次期貿易保険システム開発との関係では,日科技研及びラック社との契約締結後も取締役会における監督は適切に機能していたと評価できるが,今後は,取締役(会)の体制について,ガバナンスをより一層強化する方向に改善することが検討されるべきである。特に,社長自身が担当業務を持つことは,可能な限り避けるべきである。
(5)監査機能の充実
社長を含む取締役による業務執行の監視・監督の実効性をより高める体制を構築し,内部統制の一層の充実をはかることも重要である。そのためには,監査役に対するサポート体制を強化すること,内部監査部門の人員を増やすなどして体制を強化すること,必要に応じて監査役と内部監査部門とが連携できる体制を整えることなどが考えられる。
7 結語
本件の原因は,もっぱら A 氏個人の不適切な行為にあるが,本件のような事態の再発を防止するためには,NEXI としても上記第5の6に掲げるような対応策を
着実に実施していくことが極めて重要であり,上記の提言が,その一助となれば幸いである。
以 上