UNIDROIT 国際商事契約原則 2016 版での修正箇所(10 月 1 日版)
UNIDROIT 国際商事契約原則 2016 版での修正箇所(10 月 1 日版)
修正された条文
-前文
-1.11(定義)
-2.1.14(未確定条項を含む契約)
-2.1.15(不誠実な交渉)
-4.3(考慮すべき事情)
-4.8(条項の欠缺とその補充)
-5.1.3(当事者間の協力)
-5.1.4(特定結果達成義務,最善努力義務)
-5.1.7(価格の決定)
-5.1.8(期間の定めのない契約の解除)
-7.1.7(不可抗力)
-7.3.5(解除の効果一般)
-7.3.6(一回的給付の契約に関する原状回復)
-7.3.7(長期契約に関する原状回復)
前 文
(本原則の目的)
本原則は,国際商事契約のための一般的準則を定めるものである.
本原則は,契約が本原則により規律される旨当事者が合意したときに適用される.(*[1])本原則は,当事者が,契約は,法の一般原則,lex mercatoria,その他これに準ずるものにより規律される旨合意したときに適用することができる.
* 契約が本原則により規律される旨を定めたい当事者は,、任意の例外または修正を加えた うえ で,以下の文言を用いることができる. 「本契約は UNIDROIT 原則(2010)[(ただし,…条を除く.)]により規律される.」 本原則に加えて,特定の法域の法の適用を定めたいと考える当事者は,以下の文言を用いることができる. 「本契約は UNIDROIT 原則 (2010)[(ただし,…条を除く.)]および必要な場合にそれを補充する[X] の法により規律される.」UNIDROIT 国際商事契約原則の利用のためのモデル条項
(xxxx://xxx.xxxxxxxx.xxx/xxxxxxxxxxx/xxxxxxxxxx-xxxxxxxxx/xxxxx-xxxxx-xxxxxx を参照) のいずれかを用いることができる.
本原則は,当事者がその契約を規律すべきいかなる法も選択していないときに適用することができる.
本原則は,国際的法統一文書を解釈し,または補充するために用いることができる.本原則は,国内法を解釈し,または補充するために用いることができる.
本原則は,国内および国際的分野における立法者のためのモデルとなり得る.
【注釈】
本原則は,基本的には「国際商事契約」のために作成された一般的準則を示すものである.
1.「国際」契約
・・・
2.「商事」契約
「商事」契約への限定は,「民事」と「商事」の当事者ないし取引を区別するという,い くつかの法体系が伝統的にとってきた区別を継承することを意図したものでは決してない.つまり,本原則の適用は,当事者が「商人(merchants)」(commerçants, Kaufleute)の身 分を有するか否か,あるいは,当該取引が商的性質を帯びているかによって決せられるの ではない.意図されているのは,むしろ,本原則の規律対象からいわゆる「消費者取引」 を除外することである.消費者とは,事業や職業の過程のなかで契約をするのではない者 をいうが,消費者取引は,多くの法体系において消費者保護を目的とした(ほとんどの場 合において強行的性格を有する)特別法の適用を受ける場合が増えてきているからである.消費者と非消費者を区別するために国内立法と国際立法のそれぞれのレベルで採用されて いる基準もまた多様である.本原則は明示的な定義をしていないが,想定されているのは
「商事」契約の概念をできるだけxxにとらえて,物品や役務の供給や交換に関する商取引だけでなく,投資取引,コンセッション契約,専門家の役務提供契約等,他の経済取引もそこに含めることである.
本原則は,もともと,一回で履行される売買契約のような通常の双務契約を主に想定していた.より複雑な取引-特に,長期契約-の重要性が増してきたことに鑑み,本原則はその後,これらの取引の性格やニーズをも考慮すべく改訂されている.「長期契約」という概念の定義については,1.11 条を参照.
3.x原則と私人間の国内契約
・・・
第 1.11 条
(定義)
本原則において,
─ 「裁判所」は仲裁xを含む.
─ 当事者が営業の場所を 2 つ以上有するときは,「営業所」とは,契約の締結前または締結時に両当事者に知られまたは予期されていた事情を考慮し,契約およびその履行と最も密接な関係を有する場所をいう.
─ 「債務者」とは,債務を履行すべき当事者をいい,「債権者」とは,その債務の履行に対する権利を有する当事者をいう.
─ 「長期契約」とは,ある期間に亘って履行されるべき契約であって,程度の差はあるが, 通常は,取引の複雑xx当事者の継続的な関係を含むものをいう.
─ 「書面」とは,そこに含まれる情報の記録を保存し,有体的な形で再生され得るすべての伝達方法をいう.
【注釈】
1.裁判所と仲裁x
・・・
2.2 つ以上の営業所を有する当事者
・・・
3.「長期契約」
本原則は,条文においても注釈においても,「長期契約」を一回で履行される売買契約の ような通常の双務契約と区別している.典型的には,契約の期間,当事者間の継続的な関係,取引の複雑さ,という 3 つの要素が,長期契約と通常の契約を区別する.本原則の適用にあたっては,契約の期間が必須の要素である.後の 2 つの要素は,程度の差はあれ通常存在するものであるが,必須の要素ではない.条文の適用や長期契約に関する注釈の関連性を考えるにあたり,後の 2 つの要素のいずれかあるいは双方が存在することが必要かどうか,必要だとするとどの程度かは,当該条文や注釈の趣旨次第である.たとえば,6.3.1条以下は継続的な関係の存在を前提としているし,5.1.3 条の注釈 2 は当事者間の継続的な関係と取引が複雑な性質の履行を含んでいることを前提としている.
長期契約は,状況に応じて,商業代理人,販売店,アウト・ソース,フランチャイズ, リース(設備リース等),基本契約,投資またはコンセッション契約,プロフェッショナル・サービス契約,O&M 契約,供給契約(原材料等),建設/土木工事契約,産業協力,契約型ジョイント・ベンチャーなどを含む.
長期契約に明示的に言及している本原則の条文や注釈は,前文の注釈 2;第 1.11 条と注 釈 3;第 2.1.14 条の注釈 1 と 3;第 2.1.15 条の注釈 3;第 4.3 条の注釈 3 と 4;第 4.8 条の注釈 1,2,3;第 5.1.3 条の注釈 1 と 2;第 5.1.4 条の注釈 3;第 5.1.8 条と注釈 2;第 6.2.2条の注釈 5;第 7.1.7 条の注釈 5;第 7.3.5 条の注釈 1 と 3;第 7.3.6 条の注釈 1;第 7.3.7
条と注釈 1 である.
他の幾つかの条項や注釈のなかにも長期契約に特に関係するものがある.第 1.7 条;第 1.8 条;第 2.1.1 条の注釈 2;第 2.1.2 条の注釈 1 と 2;第 2.1.6 条;第 2.1.13 条から第 2.1.18 条;第 3.3.1 条と第 3.3.2 条;第 5.1.2 条;第 5.1.7 条の注釈 3;第 5.1.8 条;第 5.3.1 条の注釈 5;第 5.3.4 条;第 6.1.4 条:第 6.1.4 条;第 6.1.5 条;第 6.1.11 条;第 6.1.14 条から第 6.1.17 条;第 6.2.1 条から第 6.2.3 条;第 7.1.3 条から第 7.1.7 条;第 7.3.5 条を参照.
43.「債権者」,「債務者」
・・・
54.「書面」
・・・
第 2.1.14 条
(未確定条項を含む契約)
(1) 当事者がある条項の内容を意図的に将来の交渉による合意,または,当事者の一方 もしくは第三者の決定に委ねたとしても,当事者が契約を締結する意思を有するときは,契約の成立は妨げられない.
(2) 前項の場合において,当事者の意思を考慮し,当該状況のもとにおいて合理的な他の方法で当該条項を確定することができるときは,その後生じた以下の各号に定める事実は契約の存在に影響を及ぼさない.
(a) 当事者が当該条項につき合意に達しないこと.
(b) 当該条項を決定すべき者が決定しないこと.
(cb) 第三者が当該条項を決定しないこと.
【注釈】
1.未確定条項を含む契約
当事者が交渉中にそれに思い至らなかったために,1 つまたは複数の点について契約が沈黙している場合がある.その場合でも,当該取引類型に本質的な条項について当事者が合意していたのであれば契約は成立しており,欠けている条項は第 4.8 条または第 5.1.2 条に
基づいて補充されることになる(第 2.1.2 条の注釈 1 参照).本条が扱うのは,それとは異なり,契約締結時において当事者がそれを確定することができないため,または,確定したくないために,1 つまたは複数の条項を意図的に未確定にしておき,当事者の事後的な合意,または,当事者の一方もしくは第三者にその決定を委ねているという状況である.
この後者の状況は,長期契約継続的取引において─その場合に限られるわけではないが
─よくみられるが,2 つの問題を生じさせる.すなわち,第 1 に,当事者が意図的に条項を 未確定にしておいたことによって契約の成立が妨げられるか否か,第 2 に,契約成立が妨 げられないとして,当事者が事後的にその条項について合意できないとき,または当事者 もしくは決定をすべき第三者が決定をしない場合に契約はどうなるのかという問題である.
2.未確定条項は,それだけでは契約の有効な成立を妨げない
本条第 1 項は,当事者がある条項の内容を意図的に将来の交渉による合意または当事者 の一方もしくは第三者の決定に委ねたとしても,当事者が契約を締結する意思を有するときは,契約の成立は妨げられないと定める.
未確定条項がある場合において,契約を締結する意思が明示的に述べられていないときは,その意思は他の事情から推認することができる.そのような事情としては,たとえば,当該条項が非本質的な内容に関するものであること,合意が全体としてある程度確定していること,未確定条項がその性質上,後にならなければ決定できない事項に関するものであること,合意が既に部分的に履行されていること等をあげることができる.
《具体例》
1. 海運会社 A は,ターミナル・オペレーターB との間で,B のコンテナ・ターミナルの使用に関する詳細な合意をした.その合意は,荷降ろしや荷積みされるコンテナの年間最低量とその使用料を定めていたが,それを超えるコンテナについて支払われるべき使用料については,最低量に達した場合にその時点で決定することとされた.2 カ月後,B の競業者の方が条件がよいことを知った A は,B との合意は,使用料の問題が処理されずに残っているので,拘束力ある契約になったことはないと主張して,履行を拒絶した.A は不履行の責任を負う.合意が詳細であったことと,Aと B がともに即座に履行を開始したことから,両者の意思が拘束力ある合意を締結することにあったことが明確に示されているからである.
3.当事者の定めた未確定条項決定メカニズムの機能不全
未確定条項について当事者が合意に達することができない場合,または,当事者または 決定をすべき第三者がその条項を決定しない場合には,契約は終了するのか否かという問題が生じる.本条第 2 項は,「当事者の意思を考慮し,当該状況のもとにおいて合理的な他の方法で当該条項を確定することができるときは」契約の存在は影響を受けないと定める.まず,欠けている条項を補充する代替的な方法は,通常,第 5 章の第 1 節や第 6 章の第 1節における「欠缺補充(gap-filling)」条項の適用,たとえば,第 5.1.7 条(1)に基づき価格を決定したり,第 6.1.1 条に基づき履行のための期間を定めたりするものであり,これらの規定が関係する条項を適切に補充することができる場合にこれらを適用するというもので
ある.欠けている条項が対象とする問題をこれらの規定がカバーする場合であっても,特 に長期契約の場合,その内容が適切ではない場合があり得る.そのような場合には,第 4.8条または第 5.1.2 条により基づいて補充される.することができるのであれば,その条項を確定する他の方法があるといえる.
また,当事者が,欠けている条項の決定を指名された機関や個人,たとえば仲裁裁判所の所長や商業会議所等の所長が選任する第三者に委ねていた場合であってには,当該第三 者が条項を決定しない場合には,新しい第三者がを任命され得るするという方法がある.もっとも,新しい第三者を任命する必要があるそのような代替手段を用いることによって契約が維持されるような事案は,実際にはきわめて稀だと思われる.なお,補充されなければならない条項がそれほど重要でない場合には,問題はほとんど起こらないと思われるが,その条項が当該種類の取引にとって本質的な場合には,契約を維持するという両当事者の意思を確認できる明白な証拠がなければならない.これを判断するにあたって考慮すべきファクターとしては,問題の条項が,その性質上,後にならなければ決定できなかった事項に関するものであるか否か,合意が既に部分的に履行されているか否かなどをあげることができる.
《具体例》
2. 具体例 1 と同じ事案で,ただ,荷降ろしまたは荷積みされるべきコンテナの最低量に達した段階で,それを超えるコンテナについて支払われるべき使用料を当事者が合意できなかったとする.A は契約が終了したと主張して履行を中止したのだが,この場合 A は不履行の責任を負うこととなる.両当事者が,欠けている条項について将来合意に達することを取引継続の条件とせずに履行を開始したという事実は,合意に達しなくても契約を維持するという両当事者の意思の証拠として十分だからである.追加的コンテナについての使用料は,通常,第 5.1.7 条の定める基準に従って決定される.
4.長期契約における未確定条項
上で述べたように,また,特に長期契約の場合,当事者は,契約の後の方の段階におけ る義務にしか適用されない条項については,後で合意することとしておくことができる.たとえば,当事者は契約の最初の 1 年間についてのみ適用される価格について合意し,2 年目以降に適用される価格については決めないでおくことができる.同様に,たとえば,機械の引渡しの前に建物が完成していないといけないような場合,当事者は機械の引渡日を決めないでおくことができる.そのような状況では,価格に関する条項は第 5.1.7 条によって適切に補充することができないかもしれず,履行時期も第 6.1.1 条によって適切に補充することができないかもしれない.そのような場合,適切な条項は第 4.8 条または第 5.1.2 条によって補充されることになるだろう.
《具体例》
3. 具体例 1 と同じ事案で,ただ,最初の 1 年目に最低量を超えるコンテナについて支 払われるべき使用料は決まっていたが,2 年目以降に支払われるべき使用料に関する条項がなかったとする.そのような場合,第 5.1.7 条に従って「契約締結時」の価格を参考に使用料を決めるのは適切ではない可能性がある.代わりに,1 年目の最終日を参考に使用料を決めることが適切かもしれない.そのような条項は,第 4.8 条または第 5.1.2 条によって補充され得る.
4. 電力会社である X は新しい発電所を建設することを決めた.X は Y から発電機を購 入するつもりである.発電機は,発電所の発電施設の建設が完了した後に,施設の 基礎に直接備え付けることになっている.発電機は,注文から 3 年経過後でなければ引渡すことができない.X はまだ発電所の建設契約を締結していないが,建設契約が開始すれば発電施設は 6 カ月あれば建設できる.X は発電機が時期に間に合うよう,現時点で発電機の購入契約を行うこととしたが,引渡しの時期を決めることができない.当事者は引渡日を「後に合意する」として決めないでおくこととした.もし,当事者が引渡日について合意できなかった場合,第 6.1.1 条に従って,引渡日を XY間の「契約締結後の合理的期間内」と決定することは適切ではない可能性がある.発電施設の完成を参考にして引渡に関する条項を決めるのが適切かもしれない.そのような条項は,第 4.8 条または第 5.1.2 条によって補充され得る.
第 2.1.15 条
(不誠実な交渉)
(1) 当事者は自由に交渉することができ,合意に達しなくても責任を負わない.
(2) 前項の規定にかかわらず,交渉を不誠実に行いまたは交渉を不誠実に破棄した当事者は,相手方に生じた損害につき賠償の責任を負う.
(3) 特に,合意に到達しない意思を有しながら相手方との交渉を始め,または交渉を継続することは,不誠実なものとする.
【注釈】
1.交渉の自由
・・・
2.不誠実な交渉に基づく責任
しかしながら,交渉を自由に開始し,交渉事項を自由に決定できるという当事者の権利
は,無制約ではない.それは,第 1.7 条が定めるxxxxおよびxx取引の原則の制約を受
けるのである.不誠実な交渉の一例として本条第 3 項が特に明示的に定めているのは,相手方と契約を締結する意思がないのに交渉を始めたり,交渉を継続したりするという事例である.その他の事例としては,これから締結する契約の内容について,当事者の一方が意図的に,または過失によって相手方の誤認を惹起したという事例が考えられる.これには,事実に関する不実表示を現実に行った場合も含まれるし,当事者や契約の性質からして開示されるべきであった事実を開示しなかったという場合も含まれる.守秘義務については,第 2.1.16 条参照.
不誠実な交渉に基づく責任の範囲は,相手方に生じた損害に限定される(第 2 項).換言すれば,被害当事者は,交渉中に出捐した費用を回復できるし,第三者と契約を締結する機会を逸したという損害(いわゆる信頼利益・消極的利益)についても補償を受けるが,当該契約が締結されていれば得られたであろう利益(いわゆる期待利益・積極的利益)は,原則として回復することはできない.
xxxxに交渉を行う義務に契約当事者が明示的に合意していた場合に限り,当事者は, 履行請求権による救済を含む,契約違反に対するすべての救済を受けることができる.
《具体例》
1. A は,B がレストランを売却する意思があることを知った.A には,そのレストランを買収する意思は全くなかったが,B が,A の競争相手 C にそのレストランを売却することを妨げるだけのために,B と長期間にわたる交渉を開始した.C が別のレストランを買収した時点で,A は交渉を破棄した A は,B の損害について責 任を負う.この損害は,B は,最終的には C が提示していたよりも低い額でレストランを売却した.この場合,A はその差額や他の立証可能な損害を含むについて B に対して責任を負う.
2. A は,B との間で,B の国の軍隊への兵器売込みの交渉を進めていたが,B が政府当局から輸入許可を得られないことを知った.この許可を得ることが,B への報酬支払の必要条件であった.A はこの事実を B に知らせずに契約を締結したが,この契約は許可がないために強制できない.この場合,必要な許可を得ることができないことを A が知った後の交渉でB に生じた費用について,A は責任を負う.
3. A は,B 銀行の支店との間で,融資に関する長期間の交渉を開始した.最後の段階になって,その支店は,その支店には契約締結権限がないこと,そして本店が契約草案を承認しなかったことを明らかにした.その交渉中に他行から融資を受けることもできた A は,交渉によって生じた費用と,他行からの融資の遅延がなければ得られたであろう利益を回復する権利がある.
3.誠実に交渉するとの合意
これに対し,当事者が誠実に交渉する義務について特に合意していた場合には,その不 履行については,履行を求める権利(当事者に交渉を命じることによる等)やその期待利益や積極利益を反映した他の救済(それらの救済の要件が満たされている範囲において)を含む,適切な全ての救済が与えられる.
合意された誠実に交渉する義務とは,少なくとも,合意を成立させる意図をもって真剣 に交渉(あるいは再交渉)する義務を意味するが,合意に至らなければならないということを意味しない.もちろん,この義務は,本原則の下での他の義務(たとえば,第 1.8 条や第 2.1.16 条)に取って代わるものではない.複雑な長期契約の場合には,誠実に交渉する義務に合意した当事者は,その義務を,契約の性質やその商業的な観点に照らして,更に定義したいと考えるかもしれない.たとえば,守秘義務の基準を設定したり,交渉のタイム・テーブルについて合意したりすること等も可能である.
《具体例》
4. 建設業者 A と供給業者 B は,A が大建設プロジェクトの元請業者となった場合には設備供給に関してxxxxに交渉を行うこととする入札前合意を締結した.A は建設請負契約を獲得したが,B に事前通知した後,交渉の継続を拒絶した.B はxxxxに交渉する義務の履行を要求することができる.
43.不誠実な交渉破棄による責任
・・・
第 4.3 条
(考慮すべき事情)
第 4.1 条および第 4.2 条の適用にあたっては,以下の各号に定める事情その他一切の事情を考慮しなければならない.
(a) 契約準備段階における当事者間の交渉
(b) 当事者がその間で確立させている慣行
(c) 契約締結後の当事者の行為
(d) 契約の性質および目的
(e) 当該取引分野において条項や表現に一般に与えられている意味
(f) 慣習
【注釈】
1.解釈過程において考慮すべき事情
・・・
2.「具体的」事情と「一般的」事情の比較
・・・
3. 「完結」条項
3.特に長期契約の解釈において考慮すべき当事者間で確立した慣行及び契約締結後の行為
契約締結後の行為は,当事者が自分たちの義務として何を意図していたかを決定する際 の助けとなる.これは特に,複雑な履行を含み「進展していく」性格の長期契約の場合に当てはまり,履行の過程において適合させていくことが必要になることがある.そのような契約では,一方当事者が繰り返して履行を行い,相手方には,そうした履行が契約に適合しないと主張する機会があることがある.
原則として,当事者の契約締結後の行為は解釈のための手段に止まり,すなわち,説明 したり解説したりするためのみ用いられるべきものであり,当事者がもともと合意した契約条項を否認するために用いることができるものではない.
《具体例》
5.供給業者 A はショッピング・モール B との間で,B が駐車場や歩道の氷を溶かす のに必要な「塩」を供給するという 5 年間の契約を締結した.最初の 2 度の冬,供給業者 A は塩ではなく融氷剤を供給したが,B は異議を述べなかった.その次の冬の最初に,B は契約で定められた「氷」とは異なる物質であることに異議を述べた.2 度の冬の間,A とB の双方が契約を充足する物質が供給されたかのように振舞ってきたという事実から,契約における「塩」には融氷剤のようなものも含むというのが当事者の意思であったということが推認できる.
6.建設業者 A は顧客 B に対して,建築用の特定の厚さのコンクリートの板を単価 X で供給することに合意したが,その単価が板 1 平方メートル当たりか,コンクリート1立方メートル当たりかを特定しなかった.当事者は数か月間,何ら異議を述べることなく,単価が板の平方メートルについてのものであるかのように取引を行ってきた.その後,単価の単位に関して紛争が生じた.数か月間,A と B が単価の単位が板の平方メートルであるかのように取引を行ってきたという事実から,当事者がそれが単価の単位であると意図していたことを推認できる.
契約の内容についての契約締結後の行為の効果に関する不確実さを回避するため,当事 者が,履行の過程において契約を変更したり調整したりできるような特定の仕組みの採用を望むこともある.たとえば,一方の当事者が「変更命令書」を出し,他方の当事者がそ
れを承諾する,といったことを定めておくことができる(たとえば,建設契約では,「施主 の代表者」が発行し,「建設業者の代表者」が承諾する).また,両当事者の代表や,あるいは,独立の専門家から構成される特別の機関(「契約管理委員会」,「監査委員会」といわれるようなもの)を作って両当事者の履行を監督する役割を課すこともできるし,加えて,取引の進展に適合したものとなるように契約の調整を提案する役割を課すことも考えられる.明らかに,当事者が契約の調整手続について詳細に規定すればするほど,当事者の非公式な行動が契約の解釈に関係する程度は低くなる.
《具体例》
7.施主A と建築業者B との間の建築契約では,B によって行われるべき作業の追加, 削除,または変更に関する指示を行う権限が A の「代表」にあると定めている.これらの追加,削除,変更が契約の全体としての範囲に含まれている限りにおいて,B はそれらを履行する義務を負い,それらはもともとの契約に定められていた関係する作業を変更する効果を有する.
8.建築業者 A は企業 B との間で,工場の設計と建設を行い,20 年間操業するという 設計・建設・操業(DBO)契約を締結した.契約では,当事者が共同で独立でxxな監査機関を任命し,各当事者が契約で定められた操業管理上の要請を遵守しているかどうかを監査・監督させることとしていた.契約ではさらに,当事者に不遵守があるとこの監査機関が決定した場合には,当該当事者は適切な是正措置を取らなければならないと規定することもできる.この結果,もし,あるケースについて,監査機関がAが契約上の義務を果たしていないと決定したならば,Aは適切な措置を取る義務を負う.
4. 「完結」条項及び「口頭による変更禁止」条項 3.「完結」条項
国際商取引一般においては,そして,複雑な長期契約においては特に,当事者の合意した内容はすべて契約書に含まれている旨の条項(が用いられることが多い.これらのいわゆる「完結」条項あるいは「完全合意」条項)や契約や契約の特定の条項の変更は書面に よらなければならない旨の条項(いわゆる「口頭による変更禁止」条項)が用いられることが多い.(“merger” or “integration” clauses)前者の種類の条項の効力,特にそれらの条項が,契約準備段階における交渉を考慮に入れることを,たとえそれが契約解釈の目的のためだけであったとしても排除するのか,排除するとしてどの範囲において排除するのかについては,第 2.1.17 条参照.後者の種類の条項については,第 2.1.18 条,及び,そこに含まれたルールに対する第 1.8 条に定められた矛盾する行為の禁止の原則による制限を参照.
《具体例》
9.製造業者 A は販売店 B と A の製品の X 国における販売について契約を締結し た.契約では,販売店契約は非独占的であると定めており,実際,X 国では Aの製品は販売店 C によっても販売されていた.A と B との間の契約には「口頭による変更禁止」条項もあり,それによれば,契約条項の変更は書面によらなければならず,かつ,A の親会社によって承認されなければならないとされていた.その後,C は活動を停止し,B はまるで A の製品の X 国における独占的販売店であるかのような状態に振舞っており,A もそのことを知っていた.とりわけ,B は C の顧客に対して,自分は A の独占的販売店であると説明したが,Aはこれについて何ら対応をとらなかった.A が C に代えて新たな販売店を置いたとき,もともとの契約は A と B の両者の行為によって独占的契約に変更されたといって,B がそれに異議を唱えることはできない.
第 4.8 条
(条項の欠缺とその補充)
(1) 契約の当事者が,双方の権利義務の確定にとって重要な条項について合意していないときは,当該状況のもとで適切な条項が補充されなければならない.
(2) 何が適切な条項であるかを判断するにあたっては,他の要素とともに以下の各号に定める要素が考慮されなければならない.
(a) 当事者の意思
(b) 契約の性質および目的
(c) xxxxおよびxx取引
(d) 合理性
【注釈】
1.欠缺条項の補充と解釈
第 4.1 条から第 4.7 条までの規定は,厳密な意味での契約解釈,すなわち,不明瞭な契約条項に与えられるべき意味の確定について定める.これに対して,本条が規定するのは,それと関連するが異なる問題,すなわち欠缺条項の補充についてである.条項の欠缺が起こるのは,当事者がある問題に触れないことを望んだり,単にその問題を予見しなかったために,契約で取り決めていなかった問題が契約締結後に生じた場合である.
しかし,他の場合には,当事者は意図的に条項を未確定にしておくこともでき,そうし た条項は今後の交渉で合意するとしたり,当事者の一方あるいは第三者によって決定されるとしたりすることもできる.これは,特に長期契約の場合に行われることである.もし,
当事者が合意できなかったり,当事者あるいは第三者が未確定条項を決定しなかった場合 には,第 2.1.4 条が適用される.
2.欠缺条項が補充されるべき場合
契約における条項の欠缺の事案の多くについては,本原則自体が問題の解決策を示している(たとえば,第 5.1.6 条(履行の質の確定),第 5.1.7 条(価格の決定),第 6.1.1 条(履
行期),第 6.1.4 条(履行の順序),第 6.1.6 条(履行地),第 6.1.10 条(通貨が表示されて
いないとき)等を参照.また,より一般的には,黙示の債務に関する第 5.1.2 条も参照).しかし,そのような汎用的な一般的には適用できる「欠缺補充(gap-filling)補充的準則, または「穴埋め的(stop-gap)」な準則」のための解決策があっても,によっても,特に長期契約の場合には,両当事者の期待や契約の特殊な性質を考慮すると当該状況のもとでの適切な解決がもたらされないことがある.そのような場合には,本条が適用されることとなるが,適切な場合に第 5.1.2 条を適用することを妨げるものではない..
3.欠缺条項の補充基準
本条に基づいて補充される条項は,特に長期契約との関係では,当該事案の状況のもとで適切なものでなければならない.何が適切であるかを判断するためには,まず第 1 に,多くの要素の中でも特に,契約に定められている明示の条項,契約の前文,契約準備段階の交渉,または契約締結後のあらゆる行為から推認される,当事者の意思を考慮しなければならない.
《具体例》
1. 建設契約の両当事者が,購入者による代金支払遅延の場合に支払われるべき利息について特別の利率を合意した.工事開始前に両当事者は契約解除を決定した.建設業者が前払金の返還を遅滞し,適用されるべき利率が問題となった.当該契約にはこの問題を扱う明示の規定がないので,この状況のもとでは,購入者による代金支払遅延について合意された特別利率を,建設業者による返還の遅延にも適用するのが適切だとされ得る.
当事者の意思を確定することができない場合には,補充されるべき条項は契約の性質と目的,xxxxおよびxx取引の原則,そして合理性の原則に従って確定されるべきである.
《具体例》
2.ある流通業のフランチャイズ契約が,契約解除後 1 年間,フランチャイジーが同種の事業に携わることを禁止する旨規定がしていた.契約には,この禁止が適用される地域について何の定めもなかったが,そのフランチャイズ契約の性
質と目的から考えて,この禁止の適用は,フランチャイジーが当該フランチャイズ事業を行っていた地域に限定されるのが適切である.
第 5.1.3 条
(当事者間の協力)
各当事者は,相手方の債務の履行のために協力することが合理的に期待されているときは,相手方に協力しなければならない.
【注釈】
1.xxxxおよびxx取引の一般原則の適用としての協力義務
契約は,単に相対立する利益の交差点であるだけでなく,両当事者が互いに協力をしなければならない共同事業としての側面も有するとみなければならない.この見方が,契約法を貫くxxxxおよびxx取引の原則(第 1.7 条参照)と,不履行の場合の損害軽減義務
(第 7.4.8 条参照)と関係することは明らかである.
本条は,お互いの債務の履行のために当事者間の協力が合理的に期待されている範囲で, 当事者が相互に協力する義務を負う旨規定する.そうした義務の具体例は,本原則の条文
(第 5.3.3 条,第 7.1.2 条,第 7.4.8 条を参照)や注釈(たとえば,第 6.1.6 条の注釈 3,第 6.1.14 条の注釈 3(a),第 7.1.4 条の注釈 10 を参照)において明示的または黙示的に述べら れている.しかし,契約の成立から履行の過程で,当事者がお互いに協力することが求められるような例は他にも多くある.
もちろん,契約の履行における義務の配分を覆えさないようにしなければならないから,協力義務には一定の限界がある(本条は「合理的期待」を限界としてあげる).すなわち, 協力義務は,相手方の履行を可能にするためにそうした協力が合理的に期待される範囲においてのみ存在し,契約における義務の配分を覆すことのないものである.こうした限界の範囲内で,各当事者は,相手方の義務の履行を妨害してはならないという義務のみならず,相手方の履行を可能にするようなより積極的な措置を取る義務を負い得る本条の主たる関心は,相手方の履行を妨げない義務にあるが,より積極的な協力が要求される状況もあろう.
《具体例》
1. A は,B が一定料の石油を直ちに A に引き渡すという契約を締結した後で, スポット市場で調達可能なすべての石油を他の業者から購入した.そのような行為は,B の履行を妨げるものであって,協力義務に反する.
2. X 国の画廊 A は,Y 国の個人収集家B から 16 世紀の絵画を購入した.その絵画を輸出するためには特別な許可が必要であり,契約では B がその許可を申請
することとなっていた.そのような手続の経験がない B は,申請手続上の深刻な困難に直面した.他方,A はこのような手続に通じている.この状況下では,契約の定めにもかかわらず,A が少なくとも何らかの手助けを B に与えることが期待される.
2. A 社とB 社は A 社がB 社に電気を販売する契約を締結した.B が契約を履行せ ず,A は B を契約違反と損害賠償で訴えた.B は,公的登録簿への登録がなされていないことを理由として契約の無効を主張している.準拠法によれば,契約の登録については当事者が共同で義務を負うとされているが,登録を得るためにB がしなければならなかったことを怠ったため,登録が完了しなかった.Bは,A の請求に対する抗弁として,契約の登録がないことに依拠することはできない.
3.X 国の売主 A は Y 国の買主 B と物品の売買契約を締結したが,契約では物品 は分割して引渡すこととされていた.引渡し済みの物品の一部に欠陥があることを B が発見し,A は値引きと支払時期の延期に同意したが,A は代わりに Bに対して,欠陥についての正式な通知と,A が厳しい罰則を避けるため,X 国の輸出管理当局に対して値引きと支払日の延期の理由を説明するために必要な書類を速やかに送るよう求めた.B が少しずつ,そして,部分的にしか A の要請に応じなかったため,A は B に対して,B が要求された書類を提出し,かつ,引渡済みの物品の代金を直ちに支払わない限り,残りの物品は引渡さないと伝えた.B は A に対して,そうした A の行為が契約(そして支払期日の延期に関する後日の合意)に反するものであると主張することはできない.なぜなら,妨害行為によって契約上の一般的な協力義務を守っていないのは B だからである.
2.長期契約の場合の当事者間の協力義務
本条は全ての種類の契約における協力義務一般について述べるものであるが,実務では, 長期契約の場合に協力が特に重要になり得る.特に,複雑な性格の履行を含むような契約では,取引が進むようにするためには,常に合理的な期待の範囲内であるとはいえ,契約の全過程を通じて協力がなされることが特に必要となる.このため,たとえば,産業施設の建設契約においては,施主は,同じ現場で作業をさせるために自分が雇った別の建設業者が,当該現場における他の建設業者の仕事を妨害しないようにすることが求められる.同様に,販売店契約では,供給者は販売店が契約で合意された最低注文量を達成することを妨害するような行為をとってはならないという義務を負うし,フランチャイズ契約では,たとえ排他的契約でなかったとしても,フランチャイザーはフランチャイジーのすぐ近く
で競合する事業を立ち上げることは許されない.
長期契約の場合であっても,当事者の協力義務は合理的な期待の範囲内でのみ存在する ことは明らかである.
《具体例》
4.建設業者 A は X 国の政府機関 B との間で,X 国における集合住宅 3000 戸を建 設するという契約を締結した.これは一から開発するプロジェクトであったため,電気や水も引き込まねばならず,相互に邪魔にならないように,一定の順番で関係する作業を進めなければならなかった.Bが電気に関する契約を地元の業者達に任せたが,地元の業者達の作業と A の作業を調整することを全く行わず,この結果,A の作業は度々中断を余儀なくされ,A は多額の損害を被った.こうした状況においては,B は,A の作業がそのような形で邪魔されることのないように,地元の業者の作業を調整すべきであったのであるから,B は Aが被った損害について責任を負う.
5.X 国の A 社はY 国のB 社との間で,X 国における公募入札手続への参加につい てのジョイント・ベンチャー契約を締結した.最終的に,他の業者が落札した.入札手続は明らかに不適切であったが,B は A に対して,A が然るべき当局に対して不服申立てを行うために必要な情報を提供することを拒否し,この結果, A が不服申立てをすることを阻害した.この拒否により,B はジョイント・ベンチャー契約上の一般的な協力義務に違反したことになる.
第 5.1.4 条
(特定結果達成義務,最善努力義務)
(1) 当事者の債務が,特定結果達成義務を含むときは,その当事者は当該結果を達成しなければならない.
(2) 当事者の債務が,ある業務の履行についての最善努力義務を含むときは,その当事者は,同種の合理的な者が同じ状況のもとでするであろう最善の努力をしなければならない.
【注釈】
1.特定結果達成義務と最善努力義務の区別
・・・
2.当事者が債務を履行したか否かの判断基準
・・・
3.長期契約
国際契約の実務,特に長期契約の場合において,問題が発生した場合にはそれを解決す るために当事者が協力するとの規定が設けられている場合,「誠実に交渉する」義務ではなく,そうした問題を解決するために「ベスト・エフォートを尽くす」義務について議論されることが一般的である.長期契約の当事者がそうしたベスト・エフォートを尽くす義務に合意した場合,その義務は,実際上は,誠実に交渉する義務に達することもあり得る(第 2.1.15 条注釈 3 を参照).
第 5.1.7 条
(価格の決定)
(1)契約に価格が定められておらず,かつ,価格を決定するための規定も置かれていない場合,当事者は,反対に解すべき事情がない限り,契約締結時に,当該取引分野での類似の状況において,そのような履行につき一般に請求されていた価格,または,そのような価格を利用することができないときは合理的な価格を指示していたものと推定する.
(2)価格が当事者の一方により決定されるべき場合において,なされた決定が明白に不合理なものであるときは,反対の契約条項にかかわらず,合理的な価格をもってこれに代える.
(3)価格が当事者の一方または第三者により定められるべき場合において,その当事者ま たは第三者がこれを定めることができないとき,または定めようとしないときは,合理的な価格をもってその価格とする.
(4)価格が,ある要素に依拠して定められるべき場合において,その要素が存在しないとき,またはそれが消滅しもしくは利用し得なくなったときは,それに最も近い同等の要素をもってこれに代える.
【注釈】
1.価格決定に適用される一般原則
契約は,通常,支払われるべき価格を定めているか,価格を決定するための条項を置いている.しかし,そうでない場合については,本条第 1 項が,契約締結時に,当該取引分野での類似の状況において,そのような履行につき一般的に請求されていた価格を指示していたものと推定する.ここにあげられている条件は,すべて重要である.また,反対に解すべき事情がある場合には,この推定を覆すことが認められる.
本条は,CISG 第 55 条から示唆を受けたものであり,国際取引において必要な柔軟性を備えている.
市場で通常請求されている価格が,本条が他方で定める合理性基準を満たさない場合があることはたしかである.その場合には,xxxxおよびxx取引の一般原則(第 1.7 条参
照)や,場合によって錯誤,詐欺,過大な不均衡に関する規定のいくつか(第 3 章第 2 節参照)に頼らなければならない.
国際契約が,特殊な事業,または少なくともきわめて特化された事業に関する場合がある.そのような場合には,類似の状況において同様の履行について請求されている価格を参照することができない.第 1 項によれば,当事者はそのような場合には合理的な価格を指示していたものとされ,後から裁判所や仲裁廷による審査に服する可能性はあるものの,当事者自身が合理的水準に価格を設定することになる.
《具体例》
1.世界各地への急送便を専門とする A 社が,至急に X 国から Y 国に送られるべき荷物を B から受け取った.価格については何も言及がなかった.A は,当該取引分野においてそのような役務に対して通常請求される価格を請求すべきである.
2.A がB から次に受け取った注文は,探検家たちが緊急に必要としている別の荷物を,できるだけ早く,遠く離れていて行くのが困難な Z 国に届けるというものであった.今回も,価格については何も言及がなかったが,市場における価格の比較は不可能なので,A は合理的に価格を設定しなければならない.
2.当事者の一方による価格の決定
契約によっては,当事者の一方が価格を決定すると明示的に定めていることがある.これは,たとえば役務提供等の取引分野においてよくみられることである.価格をあらかじめ定めることは容易でなく,なしたことの価値を定めるために最も適した立場にいるのは,履行をした当事者だからである.
当事者がそのような価格決定条項を定めた場合には,それは法的拘束力を有する.しかし,濫用を避けるために,第 2 項は,裁判官や仲裁人が,明白に不合理な価格を合理的なものに変更することを認めている.本条は強行規定である.
もし当事者が価格を決定しない場合には,第 3 項は,裁判官や仲裁人が決定であろう価 格は合理的なものでなくてはならないと定める.
3.第三者による価格の決定
第三者が価格を決定するという契約条項は,その第三者が,その役目を果たすことができない場合(専門家だと思われていたがそうではなかった場合)や,価格を決定しないを 拒絶した場合等に,深刻な問題を生じさせ得る.その場合には裁判官や仲裁人が価格を決定するであろうが,第 3 項は,その価格は合理的でなければならないと定める.第三者が
詐欺,強迫,過大な不均衡,強迫のある状況で価格を決定した場合には,第 3.2.8 条第 2 項が適用され得る.
当事者は,第三者が価格を決定する際に準拠しなくてはならない基準や手続を定めるこ とも自由にできる.もし,決定がそうした基準や手続に従っていない場合には,当事者は決定を争うことができる.また,当事者は,第三者による価格の決定を争う際に理由とすることのできる事由を定めておくこともできる.たとえば,合意された基準が「市場価格」に関する意見であれば,当事者は,専門家が決定した価格は,それが「明らかに不合理」であることを理由として争うことができると合意しておくことができる.あるいは,基準が,「インデックスの中間値」といったような,事実の確定に関する場合には,当事者は,それが「間違っている」場合には争うことができると合意しておくことができる.
4.外的要素を基準とする価格決定
価格が,外的な要素,典型的には公表されている指標や商品取引所xxxに依拠して定められることがある.依拠すべき要素が存在しなくなったり,利用できなくなったりした場合については,第 4 項が,それに最も近い同等の要素をもって代えると定める.
《具体例》
3.建設契約の価格が複数の指標に関連づけられ,そこには,地元政府が定期的に公表する「建設産業における価格に関する公式指標」が含まれていた.その指標が公表されなくなったが,まだ数回の支払分の価格を計算する必要があったとする.民間の業界団体である『建設連合会』が,従前の指標に代わる類似の指標の公表を始めることを決定した.このような状況下においては,新しい指標が代わりのものとなる.
第 5.1.8 条
(期間の定めのない契約の解除)
期間の定めのない契約は,各当事者が,あらかじめ合理的な期間を置いて通知をすることにより,解除す終了させることができる.解除の効果一般,および原状回復については, 7.3.5 条と 7.3.7 条が適用される.
【注釈】
1.期間の定めのない契約
契約の期間は,明示の条項で定められるか,契約の性質と目的から決定できる場合(たとえば,専門的作業を支援するための技術援助)が多い.しかし,期間が決定されておら
ず,決定することもできない場合がある.また,当事者は,期間の定めのない契約を締結することもできる.
本条は,そのような場合について,いずれの当事者も,あらかじめ合理的な期間を置いて通知をすることによって契約関係を終了させることができると規定する.何が合理的な期間であるかは,両当事者が協力してきた期間や,両者の関係への相対的投資の重要性,新しい取引相手を探すのに必要な時間等,状況に依存する.
この準則は,当事者が契約の存続期間を特定しなかった場合のための補充規定であると理解できる.また,この準則はより一般的には,契約によって当事者を永久に拘束することはできず,当事者はあらかじめ合理的な期間を置いて通知をすることによってその契約から離脱することができるという,広く認められた原則にもかかわる.
ここで問題となる状況は,第 6.2.1 条から第 6.2.3 条が適用されるハードシップの事案とは区別される.ハードシップは,契約の均衡の重大な変更が要件であり,少なくとも第一次的には,再交渉がなされなければならないが,本条の準則には,契約の存続期間について定めがないこと以外に特別な要件はなく,契約の一方的な解除解消が認められる.
《具体例》
1.A は,B の製品を X 国で販売することに合意した.この契約に期間の定めはない.いずれの当事者も,相手方にあらかじめ合理的期間を置いた通知をすることによって,一方的にこの契約取決めを解除解消することができる.
2.解除とその結果
契約の解除の効果一般については第 7.3.5 条に規定されたところによる.両当事者は将来 の履行を行う義務および履行を受領する義務から解放される.
解除によって契約が終了したからといって,当事者は,債務不履行を理由とする損害賠 償請求権を奪われない.
《具体例》
2. 具体例 1 と同じ事実関係で,契約が 5 年間にわたり履行された後,B が解除の 通知を行った.その後,B が解除の通知を行った前年,6 カ月間にわたり A が義務を果たさなかったことが確認された.この結果,B は収益を失った.契約解除に関わらず,B は第 7 章第 4 節に規定されたルールに従って損害賠償を請求することができる.
解除は紛争解決に関する契約条項や,契約解除後であっても効力を有すべき他の契約条 項(第 7.3.5 条の注釈 3 及び 4 を参照)に影響を与えるものではない.
期限の定めのない契約の履行は契約の解除に至るまで長期間にわたって履行がされてい
る可能性があるため,既になされた履行を覆すことには不都合があり得る.さらに,解除 は,将来効のみを有する救済である.したがって,原状回復は,解除後の期間についてのみ請求することができる.これは,第 7.3.7 条(1)に規定されていることであり,その結果,原状回復がなされた場合には,第 7.3.7 条(2)に規定されているように,第 7.3.6 条の規定が適用される.
第 7.1.7 条
(不可抗力)
(1)債務者は,その不履行が自己の支配を超えた障害に起因するものであることを証明し,かつ,その障害を契約締結時に考慮しておくことまたはその障害もしくはその結果を回避し,もしくは克服することが合理的にみて期待し得るものでなかったことを証明したときは,不履行の責任を免れる.
(2)障害が一時的なものであるときは,前項の免責は,その障害が契約の履行に及ぼす影響を考慮して合理的な期間についてのみその効力を有する.
(3)履行をしなかった債務者は,その障害およびその障害が自己の履行能力に及ぼす影響について債権者に通知しなければならない.その通知が,債務者が障害を知り,または知るべきであった時から合理的期間内に債権者に到達しないときには,債務者は,不到達の結果生じた損害につき責任を負う.
(4)本条は,当事者が,契約の解除権を行使すること,または履行を留保し,もしくは支払われるべき金銭の利息を求めることを妨げるものではない.
【注釈】
1.不可抗力の観念
・・・
2.不可抗力が当事者の権利義務に与える効果
・・・
3.不可抗力とハードシップ
本条は,ハードシップに関する本原則第 6 章第 2 節と併せて読まれなければならない(第
6.2.2 条の注釈 6 参照).
4.不可抗力と契約実務
・・・
5.長期契約
不可抗力は,ハードシップと同様,長期契約において典型的に問題となり(第 6.2.2 条の
注釈 5 参照),同じ事実がハードシップにも不可抗力にもなり得る(第 6.2.2 条の注釈 6 x x).ハードシップの場合には,本原則は当事者が関係を解消するのではなく,関係を継続するといった結論に至るよう,当事者間での交渉を勧奨している(第 6.2.3 条).
同様に,不可抗力の場合も,取引関係の期間や性格,そして,場合によっては,長期間か けてはじめて利益を回収できるような巨額の初期投資といった点に照らすと,長期契約の当事者は,自分たちの取引関係を終了させるよりも継続させることに利益があると予測することがあるだろう.従って,当事者は契約において,不可抗力の場合であっても可能な限り取引関係を継続し,契約の終了は最後の手段にすぎない,とするような定めを置きたいと考えるかもしれない.そのような条項には様々な形のものがあり得る.
《具体例》
3.ある長期契約に以下のような内容の条項が含まれている.すなわち,当事者の履 行についての障害が最初から永続的なものであることが明らかである場合を除 き,障害によって影響を受ける当事者の義務は障害の期間について一時的に停止されるが,その期間は 30 日を超えないものとし,当事者が契約を終了させる権利も同様に停止される,といった条項である.この条項は更に次のように規定する.当該期間の満了時において障害が継続している場合には,当事者は,両者が同意する条項の停止の延長について合意に至ることを目指して交渉する.また,次のように規定する.もし,そうした合意に至らなかった場合には,紛争は ICC 紛争裁定委員会規則に従って,紛争裁定委員会の判断に委ねられる.当事者はそうした手続に拘束される.
第 7.3.5 条
(解除の効果一般)
(1) 契約の解除は,将来の履行を実現しこれを受領すべき債務から両当事者を免れさせる.
(2) 解除は,不履行に対する損害賠償の請求を妨げない.
(3) 解除は,契約中の紛争解決のための規定,その他解除後にも適用されるべき契約の条項には影響を及ぼさない.
【注釈】
1.解除は将来の債務を消滅させる
本条第 1 項は,将来の履行を実現する債務,およびこれを受領すべき債務から両当事者を免れさせるという意味で,解除の効果は将来に向かって生じるという一般原則を定める.
2.損害賠償請求権は影響を受けない
解除によって契約が終了しても,そのことによって,本章第 4 節に定められたルールに従って不履行に基づく損害賠償を求める債権者の権利が奪われることはない.
《具体例》
1. A はある製品組立用の機械を B に販売した.B がその機械を稼動させたところ,重大な欠陥によってB は組立工場の操業を停止しなければならなくなった. B は契約を解除することができるが,同時に損害賠償も請求できる(第 7.3.5 条第 2 項参照).
3.解除に影響を受けない契約条項
本条第 1 項の一般原則にもかかわらず,契約が解除されてもなお存続する契約条項や債 務があり得る.特に紛争解決や準拠法に関するのための条項や債務はこれに当たるが,その他にもその性質上,契約解除後であってもに効力を有し続けるすることが意図されていたり,契約解除後においてのみ効力を有することが意図されていたりするる条項や債務があり得る.そうした条項は,守秘義務,競業避止,利息の支払い,契約関係の巻き戻し(在庫,書類,宣伝素材の返却;秘密情報を含んだ媒体や書類の返却;損失補償;知的財産権やデータベースの取扱い;撤退費用等)に関するものであり得る.
《具体例》
2. 具体例 1 と同じ事例で,ただ,A が製造に必要な秘密情報を B に開示しており,それが公知の知識とならない限りそれを開示しないことに B が合意していたとする.さらに,その契約には,紛争は A の国の裁判所に係属すべきことを定める条項があったとする.B が契約を解除した後でも,秘密情報を開示しないという B の義務は存続するし,この契約とその効果に関する紛争は,すべて Aの国の裁判所で解決されなければならない(第 7.3.5 条第 3 項参照).
3.X 国の設備リース会社である A は,Z 国の国内路線を運航している航空会社であ る B に,商用航空機をリースした.航空機は Z 国をxxとしてB の名義で登録された.国際的な航空機の規制では,Z の登録を取消さない限り航空機の配置転換は許されないため,B はリース契約の終了時には登録の取消を行うことを契約上合意した.B は自社の航空機を標準化することを決定し,リースを終了した.これより前,A に対して航空機の登録取消と輸出に必要な権限を与えるような委
任状が発行されたことはなかった.B は,A が航空機を他の国に配置転換できる ようにするために,登録の取消及び必要な行政上の許可を得ることについて,Aに協力する義務を負う.
4. 長期契約における契約解除後の義務
契約解除後の義務は,特に長期契約との関係で問題となる.存続する条項との関係では, 当事者は以下のような論点を検討すべきである:どの条項が解除後も存続するか,契約解除の後そのような条項は当事者の一方または双方の当事者を拘束するか,どれくらいの期間存続するか,誰が費用を負担するか,不履行の場合にはどのような救済が与えられるか等.存続する条項を規定するには様々なやり方がある:その性質上契約解除後であっても効力を有することが意図されている全ての条項といった一般条項を設ける方法;存続させるつもりの特定の条項を列挙する方法;契約の解除に関わらず効力を有し続けることを該当する条項の中で述べる方法.契約を起草する者は,存続する条項が強行的に適用される国内法と両立するかどうかをよく注意すべきである(たとえば,競業避止義務に対する制限など).
《具体例》
4.具体例 3 と同じ事例で,A と B の間の契約には航空機の登録の取消の遅延によ って生じた損失については B が A に補償する旨の条項が含まれており,当該条項は契約の解除後も存続する旨が明示的に定められていたとする.この損失補償条項は,解除された契約のもとでの損害賠償請求とは独立に,効力を有し強制できるものである.但し,損失補償条項に基づく支払は契約のもとでの損害賠償額の計算に影響を与える.
5.コンサルタント A は顧客 B に対して新商品のためのコンサルタント・サービス を期間を定めずに提供することを約束した.A のサービスから生じる知的財産権は常に B に帰属するが,最初の売買の日から 15 年間,ロイヤリティが支払われることとなっていた.B の A に対するロイヤリティの支払義務が発生してから 5年後,第 5.1.8 条により契約が解除された.B のロイヤリティの支払義務は契約解除後も残りの 10 年間存続する.
6.顧客 A と供給者 B は,B が A に対して通信システムを提供する契約の当事者で ある.契約によれば,契約解除時,B は A が他の供給者に移行するのを援助しなければならず,A は終了費用を支払わなければならないとされていた.契約が終了した.B は A がシステムを移行することを支援する義務を負い,A は終了費用を支払わなければならない.
第 7.3.6 条
(一回的給付の契約に関する原状回復)
(1) 一回的給付の契約の解除により,各当事者は,契約に基づき自己が給付したものの返還を請求することができる.ただし,契約に基づき自己が受領したものを同時に返還するときに限る.
(2) 現物による返還が可能でないときまたは適切でないときは,それが合理的である限り金銭による価額の返還がなされなければならない.
(3) 現物による返還が不可能となった原因が相手方にあるときには,その給付の受領者は金銭による価額の返還をすることを要しない.
(4) 受領された給付の保存または保守のために合理的に要した費用については,その償還を請求することができる.
【注釈】
1.一回的給付の契約
本条第 1 項は,一回的給付の契約,または,についてのみ規定する.少なくとも特徴的給付が一回で一定期間にわたって行われなければならないる契約についてのみ規定する. 一方,長期契約については,別の制度が適用される(第 7.3.7 条第 1 項参照).一回的給付の契約の最も普通の例は,目的物全部を特定の時に移転することとされている通常の売買契約である.しかし,x条は,たとえば,請負人が仕事を完成させてその全部を特定の時に注文者に引き渡すべき義務を負う建設契約についても規定するものである.ターンキー契約はその重要な例である.
商事契約においては,当事者の一方は,通常は受領した給付に対して金銭を支払わなければならない.その義務は,当該契約における特徴的な義務ではない.したがって,購入代金を分割して支払うこととされている売買契約であっても,売主の給付が一回的になされるべきものであれば,本条の適用を受ける.
2.契約解除に基づく原状回復請求
・・・
第 7.3.7 条
(長期履行が一定期間にわたる契約に関する原状回復)
(1) 長期履行が一定期間にわたる契約の解除においては,原状回復は解除の効果発生後の期間についてのみ請求することができる.ただし,当該契約が分割可能であるときに限る.
(2) 原状回復がなされなければならない限りにおいて,第 7.3.6 条の規定を適用する.
【注釈】
1.長期一定期間にわたって履行される契約
一回的給付の契約に関する第 7.3.6 条第 1 項の定めるルールとは異なり,本条第 1 項は,長期契約の解除について,契約が分割可能である場合には,解除の効果が発生した後の期間についてのみ原状回復を請求することができることを規定している.履行が一定期間にわたる契約は,特定の一時点に目的物を移転することとされている売買契約のような一回的給付の契約と,少なくとも同等の商取引上の重要性を有している.このような契約には,リース契約(たとえば,機械リース),販売店,アウトソーシング,フランチャイズ,ライセンス,代理店に関する契約,役務提供契約一般が含まれる.本条は,物品の引渡しが分割履行されることとされている売買契約にも適用される.実際,これらの契約は,解除に至るまで長期間にわたって履行がされ得るている可能性があるため,既になされた履行を覆すことには不都合があり得る.さらに,解除は,将来効のみを有する救済である(第 7.3.5 条参照).したがって,原状回復は,解除後の期間についてのみ請求することができる.
《具体例》
1. A は,B 社のコンピュータのハードウェアとソフトウェアの保守整備を 5 年間にわたって行うことを契約した.正常なサービス提供が 3 年間なされた後で,A は病気のためにそれ以上契約を続けることができなくなり,契約は解除された.4 年目のための支払を既に A にしていた B は,4 年目のための前払金の返還を求めることができるが,正常なサービス提供がなされた 3 年間のために支払った金銭の返還を求めることはできない.
契約解除の効果は将来に向かってのみ生ずるので,過去の履行に対する未払いの対価は,なお請求することができる.本条は,損害賠償請求を妨げるものではない.
《具体例》
2. A 社は,B 社に対して,期間 3 年間,リース料月額 1 万ユーロの約定で,機械をリースした.B は,最初の 2 カ月は期日どおりに支払をしたが,それ以後は B の繰り返しの要求にもかかわらず,一切の支払をしていない.5 カ月経過後, A はリース契約を解除した.A は,既に受領した 2 万ユーロを保持すること(第
7.3.7 条第 1 項参照),既に発生し,支払期日を過ぎた 5 万ユーロの支払を(将
来に向かってのみ解除されたリース契約に基づいて)求めること,そして,契約違反によって被った損害のすべてについて損害賠償請求をすること(第 7.3.5
条第 2 項参照)ができる.
3.病院 A は,期間 3 年間の約定で,B に病院の清掃サービスを委託した.1 年後, B は A に対して,報酬を 2 倍にしなければ,これ以上清掃サービスを続けることはできないと告げた.A は同意することを拒んだので,B はサービスの提供を止めた.契約が解除された場合,A は,別の清掃業者を雇うことによって生じる追加的な費用について損害賠償請求をすることができ(第 7.4.1 条を第 7.3.5 条第 2 項と併せて参照),他方,B は既に提供したサービスに対する対価として受領した支払を保持することができる(第 7.3.7 条第 1 項参照).
原状回復は解除の効果発生後の期間についてのみ請求することができるというルールは,当該契約が分割不可能である場合には適用されない.
《具体例》
4.A は,B のコンサートホールのために,ある歴史上の事件を描いた 10 枚の絵画を描くことを引き受けた.5 枚の絵画を引き渡し,その支払を得た後で,A は仕事を放棄した.ホールの展示は,1 つの歴史上の事件の異なる側面を 1 人の画家が描いた 10 枚の絵画から成ることとされていたことに鑑みれば,B は,5 枚の絵画を A に返還して,A に支払った金銭の返還を請求することができる.
2.原状回復
本条は,長期一定の期間にわたって履行される契約について,過去になされた給付の原状回復を否定するための特則である.本条に基づく原状回復が認められる限りにおいては,その原状回復は第 7.3.6 条の規定によって規律される.
(訳:xxxx)