(https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/kankatsu/index.html)
農林水産業・食品産業の公的研究機関等のための知財マネジメントQ&A目 次
1.共同研究開発に関するQ
問1 共同研究開発契約書において共同研究の対象を記載する際に、どのような点に注意したらよいでしょうか。
問2 共同開発研究契約を締結する場合、共同研究の費用はどのように負担したらよいでしょうか。
問3 共同研究の成果はどのように利用できるのでしょうか。
2.実施許諾(ライセンス)に関するQ
問4 公立の研究開発機関が有する基本特許に基づく実用化にむけた共同研究をある外国企業と行うことを交渉していますが、当該外国企業は、研究成果について当該外国内での独占的実施権を希望しています。実施許諾には基本特許に基づく実施許諾を伴うことになりますが、外国企業に独占的実施権を与えることに問題がありますか。
問5 ライセンス契約や共同研究開発契約等の中で、どこの裁判所に訴えを提起できるかを規定(合意管轄)することがあります。どのように決めればよいでしょうか。契約で合意できれば、どこの裁判所でも良いのでしょうか。
問6 私たちの県のライセンス先が販売する製品のパッケージに「○○との共同研究にもとづき、開発された製品です」と記載されていますが、販売した製品に問題があり、けが人が出たと聞きました。私たちは、製造物責任を負いますか?
問7 登録前の特許発明について、ライセンス契約ができますか?
3.品種の開発に関するQ
問8 第三者から購入した種苗を使って新品種の開発をすることはできますか。また、開発した新品種を品種登録したり、販売していくことはできますか。
4.著作物の利用に関するQ
問9 オープンソースソフトウェア(OSS)の開発環境を用いてプログラムの開発を行ったが、開発したプログラムの開示、頒布を行ってよいか、著作権上問題ありませんか。
5.権利侵害への対応に関するQ
問 10 私(甲)が育成者権を有している植物(α)について、乙が無断で増殖し、かつ、丙に苗木の生産委託をしていることが判明しました。乙がαを入手した経緯は不明です。乙が増殖したα、丙に生産委託しているαの苗木を全て廃棄させるには、どのような事に留意すればよいですか。
6.種苗法に関するQ
問 11 県の試験場が保有している育成者権に基づいて、利用契約を組合と締結しましたが、組合員がこの契約に違反するようなことをした場合に、県試験場は、組合員に直接、契約違反だと主張できますか。
問 12 問 11 の場合、県試験場は、契約内容を組合員に遵守させるために、どのように契約書に規定すれば良いですか。
7.生物多様性条約に関するQ
問 13 生物多様性条約に係る外国の当該国の国内規制に抵触しないか、どのように確認すればよいでしょうか。
1.共同研究開発に関するQ
問1 共同研究開発契約書において共同研究の対象を記載する際に、どのような
点に注意したらよいでしょうか。
答1 共同研究の対象の記載は、共同研究が目的を達したか、目的を達する見込みがなくなったとして終了させることが妥当か、あるいは、共同研究の役割分担規定と合わせ検討することにより、それぞれの当事者が与えられた役割を果たしているかなどの判断をする際に、重要な役割を果たします。したがって、抽象的に「○○の開発に関わる件」というような記載の仕方ではなく、「特許〇号の○○製造方法の実証試験を行い、○○、○○、○○の収率及び合成速度に及ぼす影響等を明らかにし、製造方法の最適化に関する基礎データを得ること」という程度の具体的な記載が望ましいことになります。
問2 共同開発研究契約を締結する場合、共同研究の費用はどのように負担した
らよいでしょうか。
答2 共同開発研究の費用の負担については、予め定められた計算方法に基づいて当事者が支出した費用を合計して、一定の比率で費用を負担する方法と、それぞれの当事者が与えられた役割を果たすために必要な人件費、設備費等を負担し、金銭による精算を行わない方法のいずれかが一般的な方法です。これらの2つの方法の中間的な方法も考えられますので、事情に応じてその他の方法を採用しても、常識的に見てxxな負担であれば問題はありません。
問3 共同研究の成果はどのように利用できるのでしょうか。
答3 共同研究は、当事者双方にとって利益があるからこそ行われると考えられますので、当事者双方が成果を利用できることが原則ですが、一方が公的研究機関、他方が民間企業の場合には、公的研究機関は物を製造したり、販売したりすることはないことが普通です。その場合に、公的研究機関に認められる利用形態としては、民間企業にライセンスすることによって研究開発費の還元を受けることが必要になります。このような場合に、共同研究開発の相手方である民間企業が共同研究の費用を負担している場合には、当該民間企業に不利益にならないようにその他の民間企業に対するライセンス条件を定める必要があります。
2.実施許諾(ライセンス)に関するQ
問4 公立の研究開発機関が有する基本特許に基づく実用化にむけた共同研究を
ある外国企業と行うことを交渉していますが、当該外国企業は、研究成果について当該外国内での独占的実施権を希望しています。実施許諾には基本特許に基づく実施許諾を伴うことになりますが、外国企業に独占的実施権を与えることに問題
がありますか。
答4 まず、当該研究成果の利用が、本件基本特許の実施を伴う場合には、本件基本特許の実施許諾について検討しなければなりません。ここでは、この問題については検討しないこととします。
公立の研究開発機関は税金で運営されているわけですから、研究成果は最終的には納税者に還元されるべきものです。また、実施料収入を得ることが目的ではなく、何らかの意味で国内産業の振興にも寄与すべきものであると考えられます。このような観点からすると、外国企業に対して世界的な独占的実施権を与えることは研究開発機関の設置目的に反するのではないかと考えられます。しかし、他方で、共同研究の相手方は、国内企業であろうと、外国企業であろうと、共同研究に伴う費用とリスクに見合う見返りがあることを期待して共同研究開発契約を締結するはずです。また、研究開発機関の側でも、外国企業との共同研究を必要とする事情があるはずです。したがって、一定の国または地域を限定して外国企業に独占的実施権を与えることは、必ずしも公的な研究開発機関の設置目的に反するものではないと考えられます。なお、公有特許に基づく実施許諾については、関係省庁等のガイドラインがある場合もありますので、基本的にはガイドラインの範囲内で交渉をすることになると思います。
問5 ライセンス契約や共同研究開発契約等の中で、どこの裁判所に訴えを提起できるかを規定(合意管轄)することがあります。どのように決めればよいでし
ょうか。契約で合意できれば、どこの裁判所でも良いのでしょうか。
答5 第xxの裁判所は、当事者の合意で、どの裁判所に訴訟を提起するか決めることができます。契約当事者のどちらかの本店所在地を基準に裁判所を決めるケースが多いと言えますが、例えば、共同研究開発を別の場所で行っている場合にはその土地を基準に判断したり、訴えを提起する場合に依頼することを予定する弁護士の事務所も検討する場合もあります(代理人が移動する時間、費用等が生じるため)。しかし、知的財産権が関連する訴え、具体的には、(ア)特許権,(イ)実用新案権, (ウ)回路配置利用権,又は,(エ)プログラム著作権に関する訴えのうち,民事訴訟法の管轄の原則規定(民事訴訟法 4 条,5 条)により東日本の地方裁判所(東京,名古屋,仙台又は札幌の各高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所)に管轄権がある場合については,東京地方裁判所が専属管轄を有するので(民事訴訟法 6
条 1 項),東京地方裁判所に訴えを提起してください。西日本の地方裁判所(大阪、広島、福岡、xx高等裁判所の各管轄区域内)に管轄権がある場合は、その訴えは大阪地方裁判所に訴えを提起してください。これは、特許xxに関する訴えを、専門的処理体制の整った東京地方裁判所と大阪地方裁判所に集中することにより、審理の一層の充実及び迅速化を図るためです。
(xxxxx://xxx.xxxxxx.xx.xx/xxxxx/xxxxxx/xxxxxxxx/xxxxx.xxxx)
(xxxxx://xxx.xxxxxx.xx.xx/xxxxx/xxxxxx/xxxxxxxx_xx/xxxxxxx_xxxxx_xxxxxxx/x ndex.html)
問6 私たちの県のライセンス先が販売する製品のパッケージに「○○との共同研究にもとづき、開発された製品です」と記載されていますが、販売した製品に問
題があり、けが人が出たと聞きました。私たちは、製造物責任を負いますか?
答6 製品に製造者、販売者またはそのように誤解される表示がなされていると、製造物責任法上の責任を負うことがあります。具体的には、製造物責任法では、問題となった製品を業として製造、加工又は輸入したり、製造業者として商品に氏名、商号、商標その他の表示をしり、製造業者と誤認させるような氏名等の表示をしたり、製造、加工、輸入又は販売の状況から実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をすると責任を負います。ここでは、単に共同研究の成果としての記載だけであれば、責任を負う危険は低いと言えます。念のため、ライセンス契約において、商品に欠陥があったとしても、責任を負わないことをはっきり規定すると安心です。
問7 登録前の特許発明について、ライセンス契約ができますか?
答7 登録前の特許発明についてもライセンスすることはできます。
ただし、訂正したり、拒絶されたりする場合があるので、その場合にどうするか、契約で規定しておくと安心です。
具体的には、以下のような例が挙げられます。
・最終的に特許庁で特許としてみとめられなくても、それまでに支払ったライセンス料は返還しない。
・訂正した場合、ライセンス対象の製品が、特許発明の範囲に入るか否か両者で協議する。
3.品種の開発に関するQ
問8 第三者から購入した種苗を使って新品種の開発をすることはできますか。
また、開発した新品種を品種登録したり、販売していくことはできますか。
答8 まず購入時の契約で、どのような制限が課されていたのかを確認する必要があります。購入時の契約で新品種の開発などへの利用が禁止されていた場合には、契約違反の問題が生じます。契約上の制限は登録品種であるか否かを問わず問題となりえますが、種苗法第 21 条第1項第1号の解釈に関して、農林水産省は、試験研究目的の利用を制限する契約は強行法規違反として無効ではないかとの見解を示していると言えます(逐条解説 102 頁)ので、ご留意ください。
また、第三者から購入した種苗が登録品種である場合には、育成者権のことも考える必要があります。新品種の開発行為自体については、種苗法上、新品種の育成のための利用には育成者権が及ばないとされていますので、育成者権侵害の問題は生じません。開発された新品種の利用については、通常の交雑によって開発されたものであれば、元の品種の育成者権は及びませんので、新品種の品種登録や利用は可能です。戻し交雑や遺伝子組換えなど、一定の方法で開発された品種(従属品種と呼ばれます。)については、元の品種の育成者権が及びますので、注意が必要です。
4.著作物の利用に関するQ
問9 オープンソースソフトウェア(OSS)の開発環境を用いてプログラムの開
発を行ったが、開発したプログラムの開示、頒布を行ってよいか、著作権上問題ありませんか。
答9 OSSとひとくちにいっても、ライセンスごとに対応すべき内容は異なりますが、開発したプログラムのソースコードの開示や、プログラムの頒布についてはライセンスに従う限りは、OSSにおいては自由です。OSSのライセンスは、著作権法上の複製権や翻案権などに関する利用を許諾していますが、ライセンスに従う限り、それらの利用は自由とされています。
なお、上記設問の場合に、自らが開発したプログラムについても、OSSのライセンスが適用されるか否かについては、当該開発環境に適用されるライセンスが、 GPL(GNU General Public License。有名なOSSライセンス。バージョン2や
3などいくつかの種類があります)のような二次的著作物を開示する場合にも一定の利用条件を守らなければならず、自らの開発部分のうち全部または一部についてソースコードを開示しないといけないライセンス(いわゆるコピーレフト型のライセンス)の場合には気になるところですが、例えばGPLが適用される開発環境やインタプリタ(ソースコードや中間表現を解釈・実行するプログラム)を用いてプ
ログラムの開発を行ったとしても、当該開発環境やインタプリタを構成するプログラムの一部が開発したプログラムに含まれたり、開発したプログラムがGPLの適用されるプログラムとリンクして動作したりするようなものではない場合には、特にGPLが適用されるわけでもありません。
5.権利侵害への対応に関するQ
答 10 私(甲)が育成者権を有している植物(α)について、乙が無断で増殖し、かつ、丙に苗木の生産委託をしていることが判明しました。乙がαを入手した経緯は不明です。乙が増殖したα、丙に生産委託しているαの苗木を全て廃棄させ
るには、どのような事に留意すればよいですか。
答 10
① 増殖したαについては、いつまでに伐採するか、伐採方法はどうするかを決めておくことが必要です。
また、xxが完了したことを確認する方法を決めておくことが望ましいです。立ち入り検査をしたいという場合には、その旨定めておくべきでしょう。
② 丙に生産委託している苗木については、いつまでに廃棄をするか決めておくことが必要です。また、廃棄が完了したことを確認する方法を決めておくことが望ましいです。
さらに、丙が第三者にαを提供していないことの証明書も徴求しておくべきでしょう。
③ 乙が丙以外にはαを提供していないこと、今後甲の許諾なくαの一切の利用及び第三者への提供をしないことを確認しておくべきでしょう。
④ 丙に生産委託した苗木を廃棄させることなどに伴い、乙丙間に費用をめぐるトラブルなどが発生することが考えられます。そうしたトラブルは全て乙が解決することとし、甲には何らの請求もしないことを確認しておくことが望ましいです。
⑤ 期日までに増殖したαの伐採あるいは丙に生産委託した苗木の廃棄ができなかった場合の対処方法も決めておくことが必要です。
たとえば、(1)一定額の違約金を支払う、(2)伐採あるいは廃棄が完了するまでの間 1 日につき○○円の違約金を支払う、(3)増殖したαについては、甲が代わりに伐採することを認めさせ、その費用は全て乙が負担するという約束をすることなどが考えられます。
⑥ 大前提として対象となる植物αを品種登録の番号等をもって特定することが必要です。
6.種苗法に関するQ
問 11 県の試験場が保有している育成者権に基づいて、利用契約を組合と締結しましたが、組合員がこの契約に違反するようなことをした場合に、県試験場は、組
合員に直接、契約違反だと主張できますか。
答 11 契約の当事者は、県試験場と組合であるため、契約の拘束力が及ぶのは、この県試験場と組合そのものだけになります。よって、契約関係がない組合員には、直接契約違反だということはできません。
しかし、県と組合との契約で認められた以上の利用を組合員がした場合、そのような利用については、組合員の行為は、種苗法違反となります。
問 12 問 11 の場合、県試験場は、契約内容を組合員に遵守させるために、どのよ
うに契約書に規定すれば良いですか。
答 12 組合員に遵守させることを組合の契約上の義務として規定します。例えば、以下のような内容が考えられます
・組合は、その組合員又は構成員に、本契約に定める利用権の内容を周知し、その組合員又は構成員が種苗法違反をすることとならないよう指導監督しなければならない。
・組合は、登録品種の生産及び収穫物(果実)とその加工品を利用するその組合員又は構成員から、以下について遵守する旨の同意書を得なければならない。
7.生物多様性条約に関するQ
問 13 生物多様性条約に係る外国の当該国の国内規制に抵触しないか、どのよう
に確認すればよいでしょうか。
答 13 遺伝資源の取得の機会(Access)とその利用から生ずる利益のxxかつxxな配分(Benefit-Sharing)は、生物多様性の重要課題の一つで、Access and Benefit- Sharing の頭文字をとって ABS と呼ばれています。「遺伝資源の利用から生ずる利益のxxかつxxな配分」は生物の多様性に関する条約の 3 つ目の目的に位置づけられ、この目的を達成するための ABS に関する基本的なルールが、条約第 15 条に規定されています。
名古屋議定書の批准の有無にかかわらず、生物多様性条約批准国では、遺伝資源に該当すると事前の情報に基づく同意(Prior Informed Consent:PIC)の取得及び相互に合意する条件(Mutually Agreed Terms:MAT)の設定が必要と解釈されます。
The Access and Benefit-sharing Clearing-House (ABSCH) のウェブサイトは、この PIC の取得及び MIT に関する情報を交換しあうウェブサイトになっています。
(xxxxx://xxxxx.xxx.xxx/xx/)
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