裁判所は、地役権者が登記をしなければ権利を主張できない相手方(民法177条にいう「第三者」)について、地役権の存在を知っていて、登記されていないことを主張する ことが信義則に反する者(背信的悪意者)は除くとしてきたが、前出の引用判例(RETIO40- 38)において、承役地取得時に通行地役権の存在が明らかで、地役権の存在を知らないことに過失がある場合、取得者は民法177条にいう
最近の判例から
⒀−連帯保証契約の免責−
賃貸人と保証会社の連帯保証契約に基づく保証会社の免責事由の適用が、4割に限定して認められた事例
(名古屋地判 平24・5・31 ウエストロー・ジャパン) xx xx
保証会社と建物賃貸人との間の連帯保証契約に基づく責任について、保証会社が契約上の免責事由(賃貸人が一定期間内に賃借人による賃料滞納を通知しなかった場合には保証会社は免責される)の適用を主張した事案において、保証会社が賃貸人に免責事由の存在や内容を説明していなかったことなどから、xxxないしxxの観念に基づき、免責の範囲を4割に限定した事例(名古屋地裁 平成 24年5月31日 一部認容 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
⑴ 賃貸人X(原告)は、平成22年6月5日、 Aに対し、本件建物を次の約定で賃貸した(以下、この契約を「本件賃貸借契約」という。)。
⑵ 保証会社Y(被告)は、平成22年6月15日、Xに対し、Aが本件賃貸借契約に基づき負う債務について連帯保証した(以下、この契約を「本件連帯保証契約」という。)。
⑶ 本件連帯保証契約条項には、家賃滞納が発生した場合、報告までの経過日数が40日以内の場合には100パーセント賃料等を保証する。41日以上60日以内の場合には80パーセント賃料等を保証する。61日以上80日以内の場合には50パーセント賃料等を保証する。81日以上を過ぎた場合には対象月の代位弁済は全額免責とするとの定めがある。
⑷ Aは、平成23年3月分の賃料等(月額6万円)のうち36,000円を滞納し、同年4月分以降の賃料等も滞納した。そのため、Xは、A
に対し、催告するとともに、期限内に滞納している賃料等を支払わない場合には、本件賃貸借契約を解除するとの意思表示をした。
⑷ Xは、平成24年3月15日、Aから、強制執行により本件建物の明渡しを受けた。
⑸ よって、Xは、Yに対し、本件連帯保証契約に基づき、連帯保証債務の履行を請求したが、YはXが賃貸人としての義務を怠り、 81日以内にYに対し賃料等の滞納を報告しなかったことから、連帯保証人としての責任を免れる旨を主張し、争った。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を一部認容した。
⑴ 本件連帯保証契約の契約書には、Aが賃料等を滞納した場合には、40日以内にYに通知して事故報告を行うべきこと、81日以上経過して事故報告を行った場合にはYは保証債務の支払義務を負わないことが明記されており、この内容自体、明確であるし、Xも契約書を受領しており、少なくともその内容を認識し得る状態であった。
⑵ 他方で、連帯保証人が賃貸人に対して通知を求める以上、賃貸人において通知しなければならないことを認識している必要があることはいうまでもないことであって、連帯保証人であるYとしては、契約の相手方である Xに対して通知を求める旨を説明すべき義務
(責務)を負っていることは明らかである。
⑶ そうすると、賃貸人に賃料等の滞納の通
知を求めること自体は合理性のあることであったとしても、80日以内に通知しなかったことをもって直ちに連帯保証人が全責任を免れるとすることは、事案によっては、xxxないしxxの観念に反し許されないと考えられる(最高裁昭和60年(オ)第1365号同62年
2月20日第2小法廷判決・民集41巻1号159頁、最高裁平成7年(オ)第1659号同平成13年3月27日第3小法廷判決・民集55巻2号 434頁等参照)。
⑷ Yによる説明の問題について検討すると、YはXに対して本件連帯保証契約の契約書を交付したとはいえ、本件免責の定めが記載されている裏面の文字は非常に細かい文字で、しかも行間を詰めて記載されているのであり、契約書が交付されたことをもって連帯保証人としての義務(責務)を果たしたとはいえず、Yは賃料等の滞納について通知が必要なことや通知の方法等について、Xに対する説明義務(責務)を十分に履行したということはできない。
⑸ 本件免責の定めでは、通知が遅れた日数に応じてYの責任の割合を変えており、その日数自体、ある程度余裕をもった形で設定されているものの、通知すべきことや本件免責の定めを認識していない者との関係ではその日数に余裕があることそのものには特段の意味はない。むしろ、Yへの通知の方法を知らされず、そのための書面も渡されていなかったXが、変更後のYの本店所在地を調べて内容証明郵便を送付したという経緯や、賃貸借契約を解除するためには一定期間の賃料等の滞納の事実が必要と解されていることを踏まえると、XがYに連絡をとったのが賃料等の滞納から約7か月後であったということが、不合理というほど遅いとまでいうことはできない。
⑹ 以上のことを総合すると、Yが自らの説
明義務(責務)を怠っておきながら、Xによる通知の懈怠の責任だけを主張し、連帯保証人としての責任を全部免れることは、xxxないしxxの観念に反するといわざるを得ない。
⑺ もっとも、Xは本件連帯保証契約の契約書を受領しており、Yに通知すべきことや本件免責の定めの存在を認識し得たこと、その他の上記認定事実を考慮すれば、Yにおいて
4割の限度で連帯保証人としての責任を免れることを主張することはxxxないしxxの観念に反しないと考えられる。
⑻ 以上より、Xの本件請求のうち4割については、本件免責の定めによりYは責任を負わない。
3 まとめ
本判決は、引用判例の一つで、平成3年当時、電気通信事業者の高額な通話料請求について、公益的事業者である上告人としては、一般家庭に広く普及していた加入電話から一般的に利用可能な形で情報サービスを開始するに当たっては、同サービスの内容やその危険性等につき具体的かつ十分な周知を図るとともに、その危険の現実化をできる限り防止するために可能な対策を講じておくべきxxx上の責務があったというべきであるとして、xxxないしxxの観念に照らし、請求権を5割をもって相当とした判断(最高裁 平成13年3月27日第3小法廷判決)に基づく事例であり、xxxをめぐる一つの事例として実務上参考になろう。
最近の判例から
⒁−通行地役権−
競売による承役地取得者が、地役権設定登記の欠缺を主張できるか否かは、抵当権設定時の事情によるとした事例
(最高裁三小判 平25・2・26 ウエストロー・ジャパン) xx xxx
通行地役権者らが、担保不動産競売による承役地の取得者に対し、通行地役権の確認を求めた事案において、承役地の取得者が、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たるか否かは、担保不動産競売による土地の売却時における事情ではなく、最先順位の抵当権の設定時の事情によるとした事例(最高裁判所第三小法廷平成25年2月26日判決 破棄差戻し ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
⑴ Y(上告人)が担保不動産競売により取得した土地(以下「本件土地」という。)の一部(以下「本件通路」という。)は、国道に通ずる通路の一部である。この通路は、昭和55年頃までに、当時本件土地を所有していた訴外A及び被上告人X1により開設された。
本件土地の一部につき、昭和56年11月2日、訴外Cを根抵当権者とする根抵当権が設定され、同月10日、その旨の登記がされ、本件土地につき、平成10年9月25日、訴外Dを根抵当権者とする根抵当権が設定され、同日、その旨の登記がされた。
平成18年7月20日にDから根抵当権の移転を受けた訴外Eの申立てに基づいて、本件土地につき、担保不動産競売の開始決定がされ、平成20年4月11日、買受人であるYが代金を納付して、本件土地を取得した。
Aは、平成19年1月頃までに、本件通路を a市に公衆用道路として移管することを計画
し、本件通路を使用する者との間でxx「私設道路通行契約書」と題する書面を作成した。
⑵ Aは、昭和55年頃から各私設道路通行契約書の作成時までに、被上告人X1~X6との間で、X1~X6がそれぞれ所有する土地を要役地とし、本件通路を承役地とする通行地役権を設定する旨をxx合意した。また、 Aは、訴外Fとの間で平成18年8月7日に、 Fが所有する土地を要役地とし、本件通路を承役地とする通行地役権を設定する旨合意した。その後、上記土地をFから訴外Gが取得し、同社から被上告人X7が賃借した。これらの通行地役権の設定登記はない。
⑶ 原審は、本件土地の担保不動産競売による売却時に、本件通路は外形上通路として使用されていることが明らかであり、Yは、本件通路が使用されていることを認識していたか又は容易に認識し得る状況にあったとして、 X1~X7(以下「Xら」という。)は、Yに対し、通行地役xxを主張することができると判断したため、不服とするYが上告した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示し、原審に差し戻した。
⑴ 通行地役権の承役地が担保不動産競売により売却された場合において、最先順位の抵当権の設定時に、既に設定されている通行地役権に係る承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観
的に明らかであり、かつ、上記抵当権の抵当権者がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、特段の事情がない限り、登記がなくとも、通行地役権は上記の売却によっては消滅せず、通行地役権者は、買受人に対し、当該通行地役権を主張することができると解するのが相当である。上記の場合、抵当権者は、抵当権の設定時において、抵当権の設定を受けた土地につき要役地の所有者が通行地役権その他の何らかの通行権を有していることを容易に推認することができる上に、要役地の所有者に照会するなどして通行権の有無、内容を容易に調査することができる。これらのことに照らすと、上記の場合には、特段の事情がない限り、抵当権者が通行地役権者に対して地役権設定登記の欠缺を主張することはxxに反するものであって、抵当権者は地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらず、通行地役権者は、抵当権者に対して、登記なくして通行地役権を対抗することができると解するのが相当であり(最二小 H10・2・13判決)、担保不動産競売により承役地が売却されたとしても、通行地役権は消滅しない。
⑵ これに対し、担保不動産競売による土地の売却時において、同土地を承役地とする通行地役権が設定されており、かつ、同土地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用され、そのことを買受人が認識していたとしても、通行地役権者が承役地の買受人に対して通行地役権を主張することができるか否かは、最先順位の抵当権の設定時の事情によって判断されるべきものであるから、担保不動産競売による土地の売却時における上記の事情から、当然に、通行地役権者が、上記の買受人に対し、通行地役権を主張することができると解することは相当ではない。
⑶ 以上によれば、本件土地の担保不動産競売による売却時に、本件通路が外形上通路として使用されていることが明らかであって、Xらが本件通路を使用していたことをYが認識していたか又は容易に認識し得る状況にあったことを理由として、XらがYに対し、通行地役xxを主張することができるとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。論旨は理由があり、原判決中Xらに関する部分は破棄を免れない。本件土地に抵当権が設定された当時の事情等について更に審理を尽くさせるため、上記の部分につき、本件を原審に差し戻すこととする。
3 まとめ
裁判所は、地役権者が登記をしなければ権利を主張できない相手方(民法177条にいう「第三者」)について、地役権の存在を知っていて、登記されていないことを主張することがxxxに反する者(背信的悪意者)は除くとしてきたが、前出の引用判例(RETIO40-38)において、承役地取得時に通行地役権の存在が明らかで、地役権の存在を知らないことに過失がある場合、取得者は民法177条にいう
「第三者」に当たらないとした。
本判決は、同様の判断に加え、相手方が競売による承役地取得者であったため、地役権の認識可能性の判断時点を抵当権設定時としたものである。このことは、担保権者に対抗することができない地役権は競売により効力を失う(民事xxx59条2項、188条)こととも整合性がとれており、実務上参考になる。
なお、時効取得について、相手方が民法 177条にいう「第三者」に当たらないというためには背信的悪意者であることを要するとした最高裁平成18年1月17日第三小法廷判決
(RETIO65-50)も併せて参照されたい。
最近の判例から
⒂−司法書士の確認義務−
根抵当権設定登記の委任を受けた司法書士に、土地の前々所有者の登記意思を確認する義務があったとはいえないとして、登記委任者の損害賠償請求を棄却した事例
(東京高判 平24・4・17 ウエストロー・ジャパン) xx xx
土地の買主に購入資金を貸し付けた金融業者が、土地の前々所有者による不正登記防止の申出等により根抵当権設定登記申請が却下されたのは、当該登記申請手続きを委任した司法書士の職務上の過失によるものであるとして損害賠償を求めたところ、原審で棄却されたことから控訴した事案において、委任契約の内容として、司法書士に土地の前々所有者である訴外人の登記意思を確認する義務があったとはいえないとして棄却した事例(東京高裁 平成24年4月17日判決 控訴棄却 確定ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
金融業者X(控訴人)は、a社がb社から本件土地(本件土地は、b社において、所有者であるCから買い受け、これを直ちにa社に転売するというものであった。)を買い受けるに際し、その購入資金をa社に貸し付けたが、貸付に際して、b社からa社に対する所有権移転登記の手続を受任していた司法書士Y(被控訴人)に対し、本件土地に上記貸金債権を被担保債権とする根抵当権設定登記の手続をすることを委任した。
Yは、上記委任契約に基づき、本件土地について本件根抵当権設定登記の申請をしたが、本件土地の所有者であるXが不正登記防止の申出をしていたことなどから、本件根抵当権設定登記の申請は却下された。他方、X
は、そのころまでに、本件土地に本件根抵当権設定登記が経由されることを予定して、a社に対して2億9500万円を貸し付けており、その後、a社は、ほとんどその返済をしていない。Xは、本件土地に本件根抵当権設定登記を経由することができなかったことは、司法書士であるYの職務上の過失によるものであり、その結果、a社に対する貸金債権が無担保となり、貸金残金相当額の損害を被ったとして、Yに対し損害の賠償を求めた。
原審がXの請求を棄却したことから、Xはこれを不服として控訴した。
Xは、本件におけるYに対する委任の趣旨は、本件土地についてCからb社へ、b社からa社へと所有権が転々と移転するにあたり、それに伴う所有権移転登記が可能であるか否か、及び控訴人の本件根抵当権設定登記に対する支障の有無を調査確認することを依頼し、これらの確認ができた場合における本件根抵当権設定登記申請手続の一切を委任するというものであった。登記手続の法的専門家たる司法書士であるY(ないし履行補助者であるE)には、C、b社及びa社に対して、本件土地についての登記意思の有無を調査・確認し、登記申請に必要とされる書類を収集・確保する義務があったにもかかわらず、 Yの履行補助者Eは、単に、C・b社間の登記を受任したD司法書士が作成したとする虚偽内容の書面(本件本人確認情報)を確認し
たに過ぎず、Cの登記意思を確認したものとは認められない。Yは、Cの登記意思を確認する義務に違反し、これをしないままに、Eを介して、本件土地の所有権がCからb社へ、 b社からa社へと転々移転登記できる旨、本件根抵当権設定登記も支障なくできる旨を告げたのであり、このため、Xは、a社に融資して損害を被ったなどと主張した。
2 判決の要旨
裁判所は次のように判示して、Xの請求を棄却した。
Xは、XがYに委任したのは、Cがb社に、 b社がa社にxx所有権移転することになっている本件土地に本件根抵当権設定登記の登記申請手続をすることであったから、Yには、委任契約上、Cの登記意思を確認する義務があったと主張し、これを前提にして、原判決の認定・判断を批判している。
しかし、原判決が適切に認定した本件の経緯に照らせば、X・Y間で成立していたのは、 a社が取得した後の本件土地にXを権利者とする本件根抵当権設定登記をするための登記申請手続を行うことを内容とする委任契約であったと認められるのであり、本件土地が、 Cからb社へ、b社からa社へとxx売買されて所有権が移転する土地であったことは、上記委任契約成立の背景事情に過ぎなかったものであり、また、Cからb社への所有権移転登記の申請手続に関しては、D司法書士が受任していたのである(所有者本人の登記意思確認について過失があったとすれば、それは同司法書士の責任である)。
そうすると、何らかの特約のない以上は、 XとYの間の本件の委任契約の内容として、 Yが、a社の前々所有者であるCの登記意思
(本件土地をb社に売却する意思)を確認すること(言い換えれば、C・b社間の売買契
約の有効性を確認すること)が含まれていたということはできないところ、本件では、そのような特約を窺わせるに足りる証拠はない
(なお、原判決は、更に進んで、前件の司法書士が作成した本人確認情報について、xxして明白にその適正な作成を疑わせるような事情があるなどの特段の事情の有無についてまで判断しているが、仮にそのような判断が必要であるとの立場をとったとしても、原判決の認定判断に誤りはない)。
以上によれば、本件の委任契約の内容として、YにCの登記意思を確認する義務があったことを前提とするXの主張は、その前提を欠くものであり、採用することはできない。よって、Xの本訴請求はいずれも理由がな
く、これらを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却する。
3 まとめ
不正登記防止申出制度とは、不正な登記がされる差し迫った危険がある場合に、申出から3か月以内に不正な登記がされることを防止するための制度である。この申出をすることにより、申出から3か月以内に登記が申請された場合は、申出人に、当該登記が申請された旨が通知されるので、身に覚えのない登記がされることを防止することができる(法務省HPより)。本件は、C・b社間の取引に何らかの不正があったことから、Cが不正登記防止の申出を行ったものと推測される。不動産取引そのものが争われた事案ではないが、実務の参考になると思われる。
(調査研究部上席xx研究員)