2 本件成果物等のうち「著作権の対象となるもの」については、契約締結時点において、ユーザ・ベンダどちらに権利帰属するかを明確にしておきたいというニーズが強いと 思われることからかかる規定を設けるものとし、モデル契約 2007 と同様に、成果物等の有効活用とユーザの競争力の保持とのバランスから、A から C の 3 種類の条項案を用意した。【A 案】はベンダに全ての権利を帰属させる場合、【B 案】はユーザに全ての権利を帰属させる場合、【C 案】はユーザ・ベンダ共有の場合である。 4 モデル契約...
【16 条の対象】
1 本条項は、本件成果物等のうち「著作権の対象となるもの」の権利帰属についての条項である。
2 本件成果物等のうち「著作権の対象となるもの」については、契約締結時点において、ユーザ・ベンダどちらに権利帰属するかを明確にしておきたいというニーズが強いと思われることからかかる規定を設けるものとし、モデル契約 2007 と同様に、成果物等の有効活用とユーザの競争力の保持とのバランスから、A から C の 3 種類の条項案を用意した。【A 案】はベンダに全ての権利を帰属させる場合、【B 案】はユーザに全ての権利を帰属させる場合、【C 案】はユーザ・ベンダ共有の場合である。
3 本条項は、xxx・xxxが従前から保有している権利は権利帰属の対象外と規定しているため、当該権利はユーザ・ベンダに留保されることになる。当該権利の取得を欲するのであれば、本条項を修正する必要があり、その場合には、委託料には当該権利取得の対価を考慮することになる。
4 モデル契約 2007 第 45 条 C 案においては、納入物の著作権をxxx・xxxの共有とする場合、いずれの当事者も相手方への支払いの義務を負うことなく第三者への利用許諾を含めた共有著作権の行使ができるとしている。しかし AI 技術を利用したソフトウェアの開発の場合、第三者への利用許諾は様々なバリエーションがあり得ることから、本モデル契約においては相手方への支払いの義務を負うことなく利用できるのは自己利用のみとしている。もっとも、第三者への利用許諾を認めることも考えられ、その場合には、【C案】2 項に、次のとおりの規定を設けることになろう。
【C 案】xxx・xxxの共有とする場合
2 前項の場合、ユーザおよびベンダは、共有にかかる著作権につき、本契約に別に定めるところに従い、前項の共有にかかる著作権の行使についての法律上必要とされる共有者の合意を、あらかじめこの契約により与えられるものとし、相手方の同意なしに、かつ、相手方に対する対価の支払いの義務を負うことなく、第三者への利用許諾を含め、かかる共有著作権を行使することができるものとする。
5 なお、本件成果物等が複数あり、それらの著作権の帰属主体が別々となる場合、たとえば、学習済みモデルの著作権をベンダに帰属させる一方、学習用データセットの著作権をユーザに帰属させる場合には、それぞれについて 16 条
1 項の権利帰属を規定する条項を設けることになる。
【モデル契約 2007 との関係】
1 モデル契約 2007 においては、「納入物の特許xx」(44 条)として「業務遂行の過程で生じた発明その他の知的財産」に関する「特許権その他の知的財産権(ただし著作権は除く)」を定め、「納入物の著作権」(45 条)として
「納入物」に関する「著作権」に分けて規定している。さらに、成果物の利用条件について詳細に設定することは予定されていない。
2 これは、同モデル契約が前提とする通常のシステム開発契約においては、プログラムが主要な成果物であり、当該プログラムに関する著作権の権利帰属が主要な交渉ポイントとなる場合が多いためと思われる。
3 一方、本モデル契約が前提としている、AI 技術を利用したソフトウェア開発においては、業務遂行の過程で生じた発明その他の知的財産として、プログラムだけでなく、多種多様なもの(学習用データセット、学習済みパラメータ等)が発生することが予定されている。そのため、本モデル契約では、前述のように本件成果物等を「知的財産権の対象となるもの」と「ならないもの」に分け、前者については「権利帰属」(16 条および 17 条)と「利用条件」(18条)の問題として取り扱い、後者については、専ら「利用条件」(18 条)の問題として整理している。
4 また、モデル契約 2007 においては、「納入物の所有権」(43 条)に納入物の所有権の移転と時期が定められている。しかし、ソフトウェアの成果物の本質は無体物であることから、記録媒体等の所有権は観念できるものの、記録媒体自体が開発対象ではないこと、当事者間の合理的意思からすると記録媒体を引き渡すことで、その所有権は移転するのが通常であり、わざわざ契約条項として規定する意味に乏しいと考えられることから、本モデル契約では納入物の所有権に関する規定は設けていない。
第17条(本件成果物等の特許xx)
1 本件成果物等にかかる特許権その他の知的財産権(ただし、著作権は除く。以下「特許xx」という。)は、本件成果物等を創出した者が属する当事者に帰属するものとする。
2 ユーザおよびベンダが共同で創出した本件成果物等に関する特許xxについては、ユーザおよびベンダの共有(持分は貢献度に応じて定める。)とする。この場合、ユーザおよびベンダは、共有にかかる特許xxにつき、本契約に定めるところに従い、それぞれ相手方の同意なしに、かつ、相手方に対する対価の支払いの義務を負うことなく、自ら実施することができるものとする。
3 ユーザおよびベンダは、前項に基づき相手方と共有する特許xxについて、必要となる職務発明の取得手続(職務発明規定の整備等の職務発明制度の適切な運用、譲渡手続等)を履践するものとする。
<ポイント>
・ 本件成果物等のうち「著作権以外の知的財産権の対象となるもの」の特許xxの権利帰属について定める条項である。
<解説>
1 本件成果物等のうち「著作権以外の知的財産権の対象となるもの」(たとえば、発明等)については、その特許xxの帰属について、モデル契約 2007 第
44 条と同様に発明者主義を採用した。もっとも、当事者が、契約締結時に特許xxの権利帰属について定めることを希望するのであれば、著作権と同様に、そのような規定を設けることも考えられる。一方、開発段階における契約締結時に、特許xxの権利帰属について定めることが難しい場合は、PoC 段階の導入検証契約書の 17 条【A 案】と同様に、両者協議して決定する、と規定することも考えられる。
2 なお、特許xxがユーザ・ベンダの共有となる場合(2 項)には、前条と同様の理由から、本モデル契約においては相手方への支払いの義務を負うこと
【A 案】原則型
ユーザおよびベンダは、本件成果物等について、別紙「利用条件一覧表」記載のとおりの条件で利用できるものとする。同別紙の内容と本契約の内容との間に矛盾がある場合には同別紙の内容が優先するものとする。
なく利用できるのは自己実施のみとしている。第18条(本件成果物等の利用条件)
【B 案】xxx著作権帰属型(16 条 A 案)の場合のシンプルな規定
ベンダは、本件成果物等を利用でき、ユーザは、本件成果物をユーザ自身の業務のためにのみ利用できる。
【C 案】ユーザ著作権帰属型(16 条 B 案)の場合のシンプルな規定
ユーザは、本件成果物等を利用でき、ベンダは、本件成果物等を本開発遂行のためにのみ利用できる。
<ポイント>
・ 本件成果物等のうち「知的財産権の対象となるもの」および「対象とならないもの」についての「利用条件」を定める条項である。
<解説>
【A 案】原則型
1 【A 案】は、本件成果物等の各対象(学習済みモデル、学習用データセット、学習済みパラメータ、発明、ノウハウ等)について、ユーザ・ベンダによる利用条件を詳細に定める場合に利用する条項である。
2 別紙「利用条件一覧表」は、対象となる本件成果物等ごとに、①本開発目的
(およびユーザの業務)のための自己利用、②上記①以外の他目的(再利用モデル生成目的等)のための自己利用、③第三者への開示、利用許諾、提供が認められるか否か、認められる場合の詳細条件を記載するようになっている。なお、末尾に、3 つのケースについての別紙「利用条件一覧表」の記載例を添付した。また、別紙「利用条件一覧表」の内容を本条で条文化することも考えられる。
3 より複雑な利用条件を設定する場合は、別途ライセンス契約を作成することも考えられる。
4 16 条において【C 案】をとる場合、著作権について共有することとなり、権利関係が複雑になるため、18 条においては【A 案】を利用することを想定している。
【B 案】xxx著作権帰属型(16 条 A 案)の場合のシンプルな規定
1 【A 案】では細かく利用条件を定めることができるが、実際には「本開発で生成された本件成果物等の知的財産権を全てベンダに帰属させ、ユーザは開発対象物である『本件成果物』の利用のみ行う」(それでユーザの目的を達することができる)というシンプルなケースもあると思われる。また、開発段階では、細かな利用条件について設定・合意することが困難な場合もある。
2 そのような場合には、16 条において【A 案】を採用し、かつ 18 条において
【B 案】を採用することが考えられる。【B 案】は、ユーザがユーザ自身の業務のために本件成果物を利用できるようにしたシンプルな規定である。これと異なる条件を定めたい場合には、【A 案】を採用するか、【B 案】を修正することになる。
3 【B 案】においては、ベンダが特段の条件なく本件成果物等を利用できること、ユーザは、本件成果物をユーザ自身の業務のためにのみ利用することができることを定めている。
4 また、ユーザの利用対象が「本件成果物等」ではなく「本件成果物」と規定されていることから明らかなように、本規定では、ユーザが利用できるのは
「本件成果物」(本モデル契約においては開発対象の学習済みモデルであるが、契約内容によっては学習用データセット等も含むことがある。)のみであり、 それ以外の知的財産(学習用データセット、学習済みパラメータ、発明、ノウ ハウ等)については利用できないことになる。
【C 案】ユーザ著作権帰属型(16 条 B 案)の場合のシンプルな規定
1 【B 案】と逆に「本開発で生成された本件成果物等の知的財産権を全てユーザに帰属させ、ベンダは本件成果物等の利用のみ行う」場合に用いるのが【C案】である。
2 その場合には 16 条において【B 案】を採用し、かつ 18 条において【C 案】を採用することになる。【C 案】も【B 案】と同様にシンプルさを追求した規定である。これと異なる条件を定めたい場合は、【A 案】を採用するか、【C案】を修正することになる。
3 なお、【B 案】と異なり、ベンダが利用できるのが「本件成果物」でなく「本件成果物等」になっているのは、ベンダは本件成果物に含まれないノウハウ等を自社業務のために利用する必要性が高いこと、および「本開発遂行のためにのみ」という目的限定がなされていることから、そのように規定してもユーザに大きな支障がないと考えられることによる。
第19条(リバースエンジニアリングおよび再利用等の生成の禁止)
【ユーザ/ベンダ】は、本契約に別段の定めがある場合を除き、本件成果物について、次の各号の行為を行ってはならない。
① リバースエンジニアリング、逆コンパイル、逆アセンブルその他の方法でソースコードを抽出する行為
[② 再利用モデルを生成する行為]
[③ 学習済みモデルへの入力データと、学習済みモデルから出力されたデータを組み合わせて学習済みモデルを生成する行為]
[④ その他前各号に準じる行為]
<ポイント>
・ 本件成果物のうち学習済みモデルをユーザまたはベンダが使用する際の禁止行為を定める条項である。
<解説>
1 本条項は、①リバースエンジニアリング、②学習済みモデルの再利用モデル、
③いわゆる蒸留モデルの生成を禁止する条項である。また、契約の対象となる AI 技術によっては、上記①から③には必ずしも合致しない利用類型も想定されることから、④バスケット条項を設けている。ただし、いかなる場合に「準じる行為」に該当するといえるかは、対象となる技術のみならず、当事者の置かれた具体的な状況によっても左右されることから、原則論としては、可能な限り、禁止行為を特定することが望ましいといえるであろう。
2 また、ユーザとベンダのいずれが主体となるかは、17 条及び 18 条を踏まえて、定める必要がある。
3 契約本文または別紙において、学習済みモデルの利用条件としてユーザに再利用モデル生成を許容する場合には 2 号を削除する等、利用条件規定との整合性をとる必要がある。
第20条(本件成果物等の使用等に関する責任)
ユーザによる本件成果物等の使用、複製および改変、並びに当該、複製および改変等により生じた生成物の使用(以下「本件成果物等の使用等」という。)は、ユーザの負担と責任により行われるものとする。ベンダはユーザに対して、本契約で別段の定めがある場合またはベンダの責に帰すべき事由がある場合を除いて、ユーザによる本件成果物等の使用等によりユーザに生じた損害を賠償する責任を負わない。
<ポイント>
・ ユーザによる本件成果物等の使用等について、ベンダが原則として責任を負わない旨を定める条項である。
<解説>
1 本契約の法的性質(準委任契約)から、本件成果物等の使用等によって生じた損害については、ユーザの負担としている。もっとも、「本契約で別段の定めがある場合」と「ベンダの責に帰すべき事由がある場合」はその例外としている。
2 「本契約で別段の定めがある場合」とは、本モデル契約で言うと具体的には、第 21 条(知的財産権侵害の責任)の【A-1 案】1 項、【A-2 案】1 項及び【B案】1 項を指しているが、それ以外にもユーザ・ベンダの交渉により「別段の定め」を置くことは可能である。
第21条(知的財産権侵害の責任)
【A-1 案】xxxが知的財産権非侵害の保証を行う場合(ユーザ主導)
1 本件成果物等の使用等によって、ユーザが第三者の知的財産権を侵害したときは、ベンダはユーザに対し、第 22 条(損害賠償)第 2 項所定の金額を限度として、かかる侵害によりユーザに生じた損害(侵害回避のための代替プログラムへの移行を行う場合の費用を含む。)を賠償する。ただし、知的財産権の侵害がユーザの責に帰する場合はこの限りではなく、xxxは責任を負わないものとする。
2 ユーザは、本件成果物等の使用等に関して、第三者から知的財産権の侵害の申立を受けた場合には、直ちにその旨をベンダに通知するものとし、ベン
ダは、ユーザの要請に応じてユーザの防御のために必要な援助を行うものとする。
【A-2 案】xxxが知的財産権非侵害の保証を行う場合(ベンダ主導)
1 ユーザが本件成果物等の使用等に関し第三者から知的財産権の侵害の申立を受けた場合、次の各号所定のすべての要件が充たされる場合に限り、第 22 条(損害賠償)の規定にかかわらずベンダはかかる申立によってユーザが支払うべきとされた損害賠償額及び合理的な弁護士費用を負担するものとする。ただし、第三者からの申立がユーザの帰責事由による場合にはこの限りではなく、xxxは一切責任を負わないものとする。
① ユーザが第三者から申立を受けた日から●日以内に、ベンダに対し申立の事実及び内容を通知すること
② ユーザが第三者との交渉又は訴訟の遂行に関し、xxxに対して実質的な参加の機会およびすべてについての決定権限を与え、ならびに必要な援助をすること
③ ユーザの敗訴判決が確定すること又はxxxが訴訟遂行以外の決定を行ったときは和解などにより確定的に解決すること
2 ベンダの責に帰すべき事由による知的財産権の侵害を理由として本件成果物等の将来に向けての使用が不可能となるおそれがある場合、ベンダは、ベンダの判断及び費用負担により、(ⅰ)権利侵害のないものとの交換、(ⅱ)権利侵害している部分の変更、(ⅲ)継続使用のための権利取得のいずれかの措置を講じることができるものとする。
3 第 1 項に基づきベンダが負担することとなる損害以外のユーザに生じた損害については、第 22 条(損害賠償)の規定によるものとする。
【B 案】xxxが知的財産権非侵害(著作権を除く)の保証を行わない場合
1 本件成果物等の使用等によって、ユーザが第三者の著作権を侵害したときは、ベンダはユーザに対し、第 22 条(損害賠償)第 2 項所定の金額を限度として、かかる侵害によりユーザに生じた損害(侵害回避のための代替プログラムへの移行を行う場合の費用を含む。)を賠償する。ただし、著作権の侵害がユーザの責に帰する場合はこの限りではなく、xxxは責任を負わないものとする。
2 ベンダはユーザに対して、本件成果物等の使用等が第三者の知的財産権
(ただし、著作権を除く)を侵害しない旨の保証を行わない。
3 ユーザは、本件成果物等の使用等に関して、第三者から知的財産権の侵害の申立を受けた場合には、直ちにその旨をベンダに通知するものとし、ベンダは、ユーザの要請に応じてユーザの防御のために必要な援助を行うものとする。
<ポイント>
・ ユーザが本件成果物等を使用等したことにより第三者の知的財産権を侵害した場合の条項である。
<解説>
1 20 条においてユーザによる本件成果物等の使用等によって生じた損害についての定めを置いているが、本条は、そのうち「第三者の知的財産権の侵害による損害」についての特則である。
2 第三者の知的財産権(特許xx)については、ベンダにおいて侵害の有無を完全に調査検証することは事実上困難なことも少なくなく、海外を含めて調査検証をするとなれば多額の費用を要することもあると考えられる。第三者の知的財産権の侵害時の責任分担については、個別取引の実情にしたがった規定を設けることになるが、本モデル契約では 3 案を提示した。
3 【A-1 案】では、ベンダが本件成果物等の利用について、第三者の知的財産権の非侵害を保証している。【A-1 案】1 項は、20 条における「本契約で別段の定めがある場合」に該当する。
【A-1 案】では、ユーザが主体的に紛争を解決することを想定しており、xxxが権利者に支払うこととなった損害賠償額等について委託料を上限としてベンダが負担することとしている。
なお、xxxによる知的財産権の非侵害の保証について「ベンダの知る限り」と留保を付すことも考えられる。その場合、【A-1 案】1 項を、次のようにx xすることになる。
【A-1 案】xxxが知的財産権非侵害の保証を行う場合(ユーザ主導)
1 ベンダは、ユーザに対し、ベンダの知る限りにおいて、本件成果物等が第三者の知的財産権を侵害しないことを保証する。当該保証に違反して、ユーザによる本件成果物等の使用等によって、ユーザが第三者の知的財産権を侵害したときは、ベンダはユーザに対し、第 22 条(損害賠償)第 2 項所定の金額を限度として、かかる侵害によりユーザに生じた損害(侵害回避のための代替プログラムへの移行を行う場合の費用を含む。)を賠償する。ただし、知的財産権の侵害がユーザの責に帰する場合はこの限りではなく、xxxは責任を負わないものとする。
4 【A-2 案】も、【A-1 案】同様に、ベンダが本件成果物等の利用について、第三者の知的財産権の非侵害を保証している。【A-2 案】1 項も、20 条における「本契約で別段の定めがある場合」に該当する。
【A-2 案】では、xxxが主体的に紛争を解決することを想定しており、そのため、損害賠償額について、特に上限を定めていない。
5 【B 案】では、ベンダに本件成果物等に関する知的財産権(著作権を除く)の非侵害の保証をしないものとしている。たとえば、ベンダがベンチャー企業 のような場合には、侵害の有無を調査検証する十分な人材や財力がないこと も多く、ベンダに知的財産権の非侵害の調査義務や責任分担を課すとすれば、開発そのものが阻害されたり、開発スピードの低下が生じることになる。AI 技 術においては技術発展のスピードは著しく早いことから、開発スピードの低 下は致命的なマイナスを招くこともある。また、委託料についても、xxxが 知的財産権の非侵害調査を行わなければならないとすれば、そのコストを反 映して、増加することになる。そこで、開発の実施、開発のスピード確保、委 託料の増加の防止といった観点から、ベンダにそのような義務や責任を負担 させないことがユーザにとっても合理的な選択となる場合も想定されるため、
ベンダに知的財産権の非侵害の保証をしない規定も設けた。
6 もっとも、【B 案】においても、知的財産権のうち、著作権(たとえばプログラムの著作権)については、侵害成立の要件として依拠性が必要とされるところ、ベンダにおいて侵害がないことを保証できる場合が多いと思われる。そのため 1 項において本件成果物等が第三者の著作権を侵害する場合の損害賠償義務を定めている。【B 案】1 項は、20 条における「本契約で別段の定めがある場合」に該当する。
7 また、本モデル契約では成果物の使用地域が日本国内であることを前提としているが、国外での使用が想定される場合、知的財産権の非侵害保証の地域限定(たとえば、日本およびアメリカにおける著作権の非侵害について保証するとする等)について規定することも考えられる。
第22条(損害賠償)
1 ユーザおよびベンダは、本契約の履行に関し、相手方の責めに帰すべき事由により損害を被った場合、相手方に対して、損害賠償(ただし直接かつ現実に生じた通常の損害に限る。)を請求することができる。ただし、この請求は、業務の終了確認日から●か月が経過した後は行うことができない。
2 ベンダがユーザに対して負担する損害賠償は、債務不履行、法律上の瑕疵担保責任、知的財産権の侵害、不当利得、不法行為その他請求原因の如何にかかわらず、本契約の委託料を限度とする。
3 前項は、損害が損害賠償義務者の故意または重大な過失に基づくものである場合には適用しないものとする。
<ポイント>
・ 契約の履行に関して損害が発生した場合の賠償に関する条項である。
<解説>
1 本条は、本契約の履行に関しての損害賠償責任について規定する。損害賠償責任の範囲・金額・請求期間についてどのように定めるかについては、開発対象の内容を考慮してユーザ・ベンダの合意により決められるべきものであるが、本モデル契約では、モデル契約 2007 と同様の規定を設けた。なお、損害賠償責任のうち、「本契約の履行」に関するものではない「本件成果物等の使用等に関する損害賠償責任」については、20 条および 21 条に定めている。
2 1 項において、損害賠償責任は、相手方に故意・過失がある場合に負うものとし、賠償の範囲を、直接かつ現実に生じた通常の損害に限定している。
3 また、2 項において、何を請求原因とするのかにかかわらず、損害の上限は委託料を限度とすることを定めている。
4 ただし、故意・重過失の場合には、上限規定は適用されないものとしている
(3 項)。損害発生の原因が故意による場合には、判例では免責・責任制限に関する条項は無効になるものと考えられており、故意に準ずる重過失の場合にも同様に無効とするのが有力な考え方であることから、このような規定を設けた。
第23条(OSS の利用)
1 ベンダは、本開発遂行の過程において、本件成果物を構成する一部としてオープン・ソース・ソフトウェア(以下「OSS」という。)を利用しようとするときは、OSS の利用許諾条項、機能、脆弱性等に関して適切な情報を提供し、ユーザに OSS の利用を提案するものとする。
2 ユーザは、前項所定のベンダの提案を自らの責任で検討・評価し、OSS の採否を決定する。
3 本契約の他の条項にかかわらず、xxxは、OSS に関して、著作権その他の権利の侵害がないことおよび瑕疵のないことを保証するものではなく、ベンダは、第 1 項所定の OSS 利用の提案時に権利侵害または瑕疵の存在を知りながら、もしくは重大な過失により知らずに告げなかった場合を除き、何らの責任を負わないものとする。
<解説>
AI 技術を利用したソフトウェアの開発においては OSS が利用されることも多いことから OSS の利用に関する規定を設けている。内容はモデル契約 2007 第 49条 A 案と同様である。
第24条(権利義務譲渡の禁止)
ユーザおよびベンダは、互いに相手方の事前の書面による同意なくして、本契約上の地位を第三者に承継させ、または本契約から生じる権利義務の全部もしくは一部を第三者に譲渡し、引き受けさせもしくは担保に供してはならない。
第25条(解除)
1 ユーザまたはベンダは、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。
① 重大な過失または背信行為があった場合
② 支払いの停止があった場合、または仮差押、差押、競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てがあった場合
③ 手形交換所の取引停止処分を受けた場合
④ 公租公課の滞納処分を受けた場合
⑤ その他前各号に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合
2 ユーザまたはベンダは、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約の全部または一部を解除することができる。
3 ユーザまたはベンダは、第 1 項各号のいずれかに該当する場合または前項に定める解除がなされた場合、相手方に対し負担する一切の金銭債務につき相手方から通知催告がなくとも当然に期限の利益を喪失し、直ちに弁済しなければならない。
第26条(有効期間)
本契約は、本契約の締結日から第 4 条の委託料の支払いおよび第 11 条に定める確認が完了する日のいずれか遅い日まで効力を有するものとする。
第27条(存続条項)
本契約第 7 条(ベンダの義務)、第 12 条(ユーザがベンダに提供するデー
タ・資料等)第 3 項から第 6 項、第 13 条(ユーザ提供データの利用・管理)、第 14 条(秘密情報の取扱い)から第 23 条(OSS の利用)、本条および第 28 条
(管轄裁判所)は、本契約終了後も有効に存続するものとする。
第28条(管轄裁判所)
本契約に関する一切の紛争については、●地方裁判所を第xxの専属的合意管轄裁判所として処理するものとする。
第29条(協議)
本契約に定めのない事項または疑義が生じた事項については、xxxxの原則に従いユーザおよびベンダが協議し、円満な解決を図る努力をするものとする。
本契約締結の証として、本書 2 通を作成し、ユーザ、ベンダ記名押印の上、
各 1 通を保有する。
年 月
日
ユーザ
ベンダ
【別紙】業務内容の詳細
1 本開発の対象
(例)次の機能を有するソフトウェア(名称「●」)
⑴ 機能
・・・・
⑵ 使用環境
・・・・
⑶ 前提条件
・・・・
2 本データの明細
⑴ ユーザが提供するデータの明細
(例)別紙データ目録に記載するデータ
[⑵ ベンダが提供するデータの明細]
3 ユーザが提供する資料等
⑴
⑵
その他、本開発遂行のために必要な資料等が生じた場合は別途協議する。
4 作業体制
【ベンダおよびユーザの責任者および必要に応じてメンバそれぞれの役割、所属、氏名の記載とソフトウェア開発の実施場所等を記載】
⑴ ベンダの作業体制
・xxx側責任者氏名: ●● ●●
ベンダ側責任者は次の役割を担当する。
①・・・・・
②・・・・・
[・メンバ]
xxxは次の役割を担当する。
【※組織図/氏名/役割を記載】
⑵ ユーザの作業体制
・ユーザ側責任者氏名: ●● ●●
ユーザ側責任者は次の役割を担当する。
①・・・・・
②・・・・・
[・メンバ]
xxxは次の役割を担当する。
①・・・・・
②・・・・・
【※組織図/氏名/役割を記載】
⑶ ソフトウェア開発実施場所
【ソフトウェア開発の作業等の実施場所を記載】
5 具体的作業内容(範囲、仕様等)
⑴ ベンダの担当作業:
⑵ ユーザの担当作業:
(注)共同担当作業がある場合には両方に入れる
6 連絡協議会
⑴ 開催予定頻度:
⑵ 場所:
7 作業期間、スケジュール
8 ベンダがユーザの委託に基づき開発支援を行う成果物の明細
(例)(該当するものに○をつける)
対象物 | 納品有無 | 納品形態(※) | |
学習用データセット | |||
学習用プログラム | |||
学習済みモデル |
※ データの場合はデータ形式、プログラムの場合はソースコード・バイナリコード等)
9 業務の完了
⑴ ベンダからの成果物提供期限:●年●月●日
⑵ ユーザによる確認期間:成果物提供日から●日間
10 委託料
11 委託料の支払時期・方法
(例)ユーザが本件業務の確認を完了してから●日以内にユーザは委託料をベンダ指定の銀行口座に振り込み送金の方法により支払う。振込手数料はユーザの負担とする。
【別紙】ユーザ提供データの利用条件(13 条 2 項ただし書関係)
[*以下の記載は参考例であり、実際に利用する際は修正されることを前提としている。また、以下は、ユーザ提供データに個人情報等を含まない場合を想定した記載である。個人情報等を含むデータの取扱いについては、個人情報保護規制の遵守が必要となる。]
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 本開発目的以外の目的での利用 | • 不可/可 • 可の場合の条件 【条件の記載例】 例① ベンダの製品・サービス開発や改善目的での利用。 例② 研究目的のための利用。 例③ 第三者に提供しないことを条件に、学習済みモデルの生成および当該学習済みモデルの利用。 例④ 平成●年●月●日から●か月間は、 ●●業の分野で利用できる学習済みモデルの生成のためには利用できないものとする。 |
② 第三者への提供 | • 不可/可 • 可の場合の条件 【条件の記載例】 例① ユーザを特定できない形に加工したデータに限り提供可能とする。なお、ユーザはデータの有用性や正確性について責任を負わないものとする。 例② ユーザが別途指定するデータを除外したデータに限り提供可能とする。なお、ユーザはデータの有用性や正確性について責任を負わないものとする。 例③ ベンダの子会社に限り提供可能とす る。 |
【別紙】利用条件一覧表(18 条関係)
利用条件一覧表
[*記載例は次頁以下のケース 1 から 3 を参照すること。]
本一覧表の対象 |
【ユーザ】
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 自己の業務遂行に必要な範囲での利用(ただし、②に記載の利用を 除く。) | |
② 再利用モデルの生成 | |
③ 第三者への開示、利用許諾、提供等(以下 「第三者提供等」とい う。) |
【ベンダ】
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 本開発目的以外の目的のための利用(再利用モデルの生成等) | |
② 第三者提供等 |
<ケース 1>
ベンダに知的財産権が帰属し、ユーザに成果物として学習済みデータセットと学習済みモデルを提供するケース
【状況】
1 ユーザが提供した生データのみ利用。
2 本学習用データセットは専らベンダのノウハウを利用してベンダが生成し、ユーザは特に寄与なし。
3 学習用プログラムはベンダが OSS を利用して開発したものを利用。
4 本学習済みモデルの生成は専らベンダのノウハウを利用してベンダが生成し、ユーザは特に寄与なし。
5 本学習済みモデルは、汎用的に利用できる可能性が高いものであり、ベンダは開発した本学習済みモデルを第三者に提供することを予定している。
6 ユーザは、本学習済みモデルをベンダが第三者提供することは認めているが、ユーザの競合事業者に対して提供することは認めていない。
7 ユーザは、本学習済みモデルについて追加でデータを学習させ、本学習済みモデルの精度を上げることを予定している。
8 ユーザに提供される成果物は、本学習用データセットと本学習済みモデル。
【前提とする権利帰属および利用条件】
1 本学習用データセットと本学習済みモデルの知的財産権はベンダに帰属する。
2 本学習用データセットは、成果物としてユーザに提供され、ユーザが利用できる。ユーザは、本学習用データセットを利用して再利用モデルを生成することができるが、当該再利用モデルを第三者に提供してはならない。ユーザは本学習用データセットそのものを第三者に開示、利用許諾、提供してはならない。ベンダは、本学習用データセットを利用して再利用モデルを生成できるが、それを第三者へ提供することについては本学習済みモデルの第三者提供と同様の条件に服する。また、ベンダは本学習用データセットそのものを第三者に開示、利用許諾、提供してはならない。
3 本学習済みモデルは、成果物としてユーザに提供され、ユーザが利用できる。ユーザは、本学習済みモデルの自社利用とそれを使った再利用モデルの生成ができるが、本学習済みモデルとその再利用モデルを第三者に提供してはならない。ベンダは、本学習済みモデルを、本開発目的のための自己利用の他、ユーザと競合する事業領域に属さない会社のための再利用モデルの生成のために利用可能。また、ベンダはユーザと競合する事業領域に属さない会社には本学習済みモデルそのものを利用許諾可能。
<ケース 1>
利用条件一覧表
[*以下の記載は参考例であり、実際に利用する際は修正されることを前提としている。]
本一覧表の対象 | 本学習用データセット |
【ユーザ】
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 自己の業務遂行に必要な範囲での利用(ただし、②に記載の利用を 除く。) | 可。ただし、ユーザ内部での利用に限る。 |
② 再利用モデルの生成 | 可。ただし、生成した再利用モデルを第三者提供等してはならない。 |
③ 第三者への開示、利用許諾、提供等(以下 「第三者提供等」とい う。) | 不可。 |
【ベンダ】
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 本開発目的以外の目的のための利用(再利用モデルの生成等) | 可。ただし、本学習用データセットを用いて生成した再利用モデルの第三者提供等については、別紙記載の本学習済みモデルの利用条件に従うもの とする。 |
② 第三者提供等 | 不可。 |
<ケース 1>
利用条件一覧表
[*以下の記載は参考例であり、実際に利用する際は修正されることを前提としている。]
本一覧表の対象 | 本学習済みモデル |
【ユーザ】
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 自己の業務遂行に必要な範囲での利用(②に 記載の利用を除く) | 可。ただし、ユーザ内部での利用に限る。 |
② 再利用モデルの生成 | 可。 |
③ 第三者への開示、利用許諾、提供等(以下 「第三者提供等」とい う。) | 学習済みモデルおよび再利用モデルの第三者提供等は不可。 |
【ベンダ】
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 本開発目的以外の目的のための利用(再利用モデルの生成等) | 可。ただし、生成した再利用モデルの第三者提供等については②にしたがう。 |
② 第三者提供等 | 可。ただし、平成●年●月●日から●か月間は、 ●●業の分野を事業領域とする事業者には第三者提供等しないものとする。 |
<ケース 2>ベンダに知的財産権が帰属し、ユーザに成果物が提供されないケース
【状況】
1 ユーザが生データを提供。
2 本学習用データセットはユーザとベンダのノウハウを利用して生成。
3 本学習用プログラムはベンダが OSS を利用して開発したものを利用。
4 本学習済みモデルの生成は専らベンダのノウハウを利用してベンダが生成し、ユーザは特に寄与なし。
5 ユーザは本学習済みモデルの利用のみ希望し、再利用を予定していない。
6 ベンダは本学習済みモデルの第三者への提供と再利用を希望。
7 ユーザは、xxxが本学習済みモデルや再利用モデルを自己の競合事業者へ提供することは拒否。それ以外の第三者に対する提供については承諾。
8 ユーザに提供される成果物はなし。
【前提とする権利帰属および利用条件】
1 本学習用データセットと本学習済みモデルの知的財産権はベンダに帰属する。
2 本学習用データセットは成果物ではなく、ユーザは、本学習用データセットを利用できない。ベンダは、本学習用データセットを利用して再利用モデルを生成できるが、その第三者への提供については本学習済みモデルの第三者提供と同様の条件に服する。また、ベンダは本学習用データセットそのものを第三者に開示、利用許諾、提供してはならない。
2 本学習済みモデルは成果物としてユーザに提供されないが、ユーザは、ベンダのサーバにアクセスして、本学習済みモデルを利用することができる。ユーザは、ユーザの業務のための自己利用のみ可能であり、再利用モデルの生成はできず、本学習済みモデルや再利用モデルを第三者に開示・利用許諾・提供等はできない。ベンダは本開発目的のための自己利用の他、ユーザと競合する事業領域に属さない会社のための再利用モデルの生成のために利用可能。また、ベンダはユーザと競合する事業領域に属さない会社には本学習済みモデルそのものを利用許諾可能。
<ケース 2>
利用条件一覧表
[*以下の記載は参考例であり、実際に利用する際は修正されることを前提としている。]
本一覧表の対象 | 本学習用データセット |
【ユーザ】
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 自己の業務遂行に必要な範囲での利用(②に 記載の利用を除く) | 不可。 |
② 再利用モデルの生成 | 不可。 |
③ 第三者への開示、利用許諾、提供等(以下 「第三者提供等」とい う。) | 不可。 |
【ベンダ】
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 本開発目的以外の目的のための利用(再利用モデルの生成等) | 可。ただし、学習用データセットを用いて生成した再利用モデルの第三者提供等については、別紙記載の本学習済みモデルの利用条件に従うものと する。 |
② 第三者提供等 | 不可。 |
<ケース 2>
利用条件一覧表
[*以下の記載は参考例であり、実際に利用する際は修正されることを前提としている。]
本一覧表の対象 | 本学習済みモデル |
【ユーザ】
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 自己の業務遂行に必要な範囲での利用(②に 記載の利用を除く) | 可。 |
② 再利用モデルの生成 | 不可。 |
③ 第三者への開示、利用許諾、提供等(以下 「第三者提供等」とい う。) | 不可。 |
【ベンダ】
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 本開発目的以外の目的のための利用(再利用モデルの生成等) | 可。ただし、生成した再利用モデルの第三者提供等については②にしたがう。 |
② 第三者提供等 | 可。ただし、平成●年●月●日から●か月間は、 ●●業の分野を事業領域とする事業者には第三者提供等しないものとする。 |
<ケース 3>ユーザに知的財産権が帰属し、ユーザに成果物として学習済みデータセットと学習済みモデルを提供するケース
【状況】
1 ユーザが提供した生データのみ利用。
2 本学習用データセットはユーザとベンダのノウハウを利用してベンダが生成。
3 学習用プログラムはベンダが OSS を利用して開発したものを利用。
4 本学習済みモデルの生成はユーザとベンダのノウハウを利用してベンダが生成。
5 ユーザは、本学習済みモデルをベンダが第三者提供することは認めているが、ユーザの競合事業者に対して提供することは認めていない。
6 ベンダは、本学習済みモデルについて追加でデータを学習させ、本学習済みモデルの精度を上げることを予定している。
7 ユーザに提供される成果物は、本学習用データセットと本学習済みモデル。
【前提とする権利帰属および利用条件】
1 本学習用データセットと本学習済みモデルの知的財産権はユーザに帰属する。
2 本学習用データセットは、成果物としてユーザに提供され、ユーザが利用できる。ユーザは、本学習用データセットを利用して再利用モデルを生成することができる。ユーザは本学習用データセットそのものを第三者に開示、利用許諾、提供してはならない。ベンダは、本学習用データセットを利用して再利用モデルを生成できるが、それを第三者へ提供することについては本学習済みモデルの第三者提供と同様の条件に服する。また、ベンダは本学習用データセットそのものを第三者に開示、利用許諾、提供してはならない。
3 本学習済みモデルは、成果物としてユーザに提供され、ユーザが利用できる。ユーザは、本学習済みモデルの利用とそれを使った再利用モデルの生成ができ、また、本学習済みモデルとその再利用モデルを第三者に提供することができる。ベンダは、本学習済みモデルを、本開発目的のための自己利用の他、ユーザと競合する事業領域に属さない会社のための再利用モデルの生成のために利用可能。また、ベンダはユーザと競合する事業領域に属さない会社には本学習済みモデルそのものを利用許諾可能。
<ケース 3>
利用条件一覧表
[*以下の記載は参考例であり、実際に利用する際は修正されることを前提としている。]
本一覧表の対象 | 本学習用データセット |
【ユーザ】
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 自己の業務遂行に必要な範囲での利用(ただし、②に記載の利用を 除く。) | 可。ただし、ユーザ内部での利用に限る。 |
② 再利用モデルの生成 | 可。ただし、ユーザ内部での利用に限る。 |
③ 第三者への開示、利用許諾、提供等(以下 「第三者提供等」とい う。) | 不可。 |
【ベンダ】
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 本開発目的以外の目的のための利用(再利用モデルの生成等) | 可。ただし、本学習用データセットを用いて生成した再利用モデルの第三者提供等については、別紙記載の本学習済みモデルの利用条件に従うもの とする。 |
② 第三者提供等 | 不可。 |
<ケース 3>
利用条件一覧表
[*以下の記載は参考例であり、実際に利用する際は修正されることを前提としている。]
本一覧表の対象 | 本学習済みモデル |
【ユーザ】
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 自己の業務遂行に必要な範囲での利用(②に 記載の利用を除く) | 可。 |
② 再利用モデルの生成 | 可。 |
③ 第三者への開示、利用許諾、提供等(以下 「第三者提供等」とい う。) | 可。 |
【ベンダ】
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 本開発目的以外の目的のための利用(再利用モデルの生成等) | 可。ただし、生成した再利用モデルの第三者提供等については②にしたがう。 |
② 第三者提供等 | 可。ただし、平成●年●月●日から●か月間は、 ●●業の分野を事業領域とする事業者には第三者提供等しないものとする。 |
第8 総括
以上のとおり、本ガイドライン(AI 編)において、AI 技術を利用したソフトウェアの開発・利用に関する基本的考え方およびモデル契約を示した。本ガイドライン(AI 編)が、AI 技術を利用したソフトウェアの開発・利用についての契約プラクティスを形成する一助となり、AI 技術の開発・利用に資することになれば幸いである。
なお、本ガイドライン(AI 編)および本モデル契約は、特定目的のための特化型 AI 技術を利用したソフトウェアを対象としており、将来、汎用型 AI 技術を利用したソフトウェアが登場する場合や学習にデータが不要となった場合などには、大幅な改訂が必要となる。AI 技術は日々進歩しており、本ガイドライン(AI 編)が提示した本モデル契約は、近い将来、進歩した AI 技術に合うように修正していく必要がある点に留意されたい。
別添
―作業部会で取り上げたユースケースの紹介―
ユースケース 1: データホルダがベンダにデータ提供をすることで開発された学習済みモデルおよび再利用モデルに対する権利等の事例
<ケース 1>
1 事案の概要
⑴ X 社は、各種データを保有する事業者である。Y 社は、AI 開発を行っているベンダである。
⑵ X 社は、Y 社に X 社の自社サービスに利用する画像認識のための学習済みモデル(学習済みモデル A)開発を委託した。
⑶ 学習済みモデル A の開発のために、X 社は Y 社に対して自社が保有する生データを提供した。なお、契約上、X 社から Y 社へのデータ提供は「貸与」とされており、開発等の契約目的を達成した後には返却することとなっている。
⑷ Y 社は、X 社から提供された生データを用いて、学習済みモデル A を開発した。なお、学習済みモデル A を生成するために用いた学習用プログラムは汎用的な OSS を Y 社においてカスタマイズしたものである。
⑸ X 社は、開発に利用した生データが自社保有のデータであり、学習済みモデルA の開発にかかる委託料も負担していることから、学習済みモデル A について自社に独占的に権利を帰属させたいと考えている。しかし、Y 社は学習済みモデル A の開発においては、自社のノウハウ等の提供も含まれていることから、X 社の独占的な権利とすることに対しては、異論をもっている。
⑹ X 社は、開発した学習済みモデル A に対して、今後さらにデータを追加して学習させて、当該モデルを高度化することも検討している。
2 相談事項および検討の視点
相談事項
① X 社は学習済みモデル A を独占的に利用することができるか。
② Y 社は、技術の進展が早い分野であることを理由に、学習済みモデル A について、早期に Y 社の単独出願で特許を取得することを希望している。一方、X 社は、特許取得自体に異論はないものの、自らも実施を希望していることから、Y 社を単独の権利者とすることには慎重な姿勢である。X 社は Y社の単独出願の主張に対して、どのように対応すべきか。
③ X 社が、新たなデータを用いて、追加学習を行い、学習済みモデル A を高度化した新たな再利用モデル(学習済みモデル B)を生成した場合、Y 社はかかる再利用モデルを利用することができるか。
検討の視点
(1) 相談事項①について
契約締結交渉において「学習済みモデル」という言葉は、多義的に用いられることがあり、当事者間においてその意味内容を明確にすることが重要である。本事例では「学習済みモデル」とは、「特定の機能を実現するために学習済みパラメータを組み込んだプログラム」を指すものと仮定する(本ガイドライン(AI 編)第 2-3-⑵-④および第 4-4-⑵-④参照)。学習済みモデルの利用条件については、①法律上、当該学習済みモデル について、誰に、いかなる権利(知的財産権)が帰属するかということと、
②①を前提とした上で、当事者間の合意による修正が必要であるかを検討することが重要となる。
① 知的財産権の整理
a 学習済みパラメータ
学習済みパラメータは、知的財産権の対象とならない数値等のデータにすぎないことが多いと思われる(本ガイドライン(AI 編)第 3-3-⑵-①-b 参照)。このような場合には、営業秘密に該当して不正競争防止法上の保護を受ける他は、X 社・Y 社間で利用条件を設定しない限りは、これに現実にアクセスできる者が自由に利用できることになる(本ガイドライン(AI 編)第 3-3-⑴-③参照)。
b 推論プログラム
学習済みモデルのプログラム部(推論プログラム)は、そのソースコード(オブジェクトコードに変換されていても同様である。)についてはプログラムの著作物(著作xx 10 条 1 項 9 号)として著作権法上の保護を受け得る。また、そのアルゴリズムは、特許法上の要件を充足すれば「物の発明」として、特許法の保護を受け得る。これらの権利については、職務著作(著作xx 15 条)や職務発明(特許法
35 条)等の制度を通じて、ベンダに帰属することが多い(本ガイドライン(AI 編)第 3-3-⑴-②参照)。
本事例では、X 社は生データを提供しているものの、推論プログラムの開発は Y 社が行っている以上、Y 社が著作権および特許を受ける権利を取得したと認められることが多いであろう。
したがって、ユーザである X 社としては、推論プログラムについて、独占的な利用をしたいのであれば、ベンダである Y 社からこれらの権利を譲り受けるか、またはその独占的利用許諾を受けることが必要である(本ガイドライン(AI 編)第 3-3-⑴-②参照)。
② 権利帰属・利用条件の設定
学習済みモデルの権利帰属や利用条件について X 社・Y 社間で交渉する際には、その対象となるプログラムやデータの作成・生成に寄与した程度(寄与度)が主たる基準となる(具体的に寄与度に影響する要素については本ガイドライン(AI 編)第 3-3-⑵-②-a 参照)。
本事例においては、ユーザ X 社が提供した生データの希少性、生データ処理に際してのY 社のノウハウや労力、学習用プログラムの独自性、支払われる対価の額や支払条件が考慮されることになろう。
さらに、契約締結交渉においては、双方共に学習済みモデルの「権利帰属」のみにいたずらにこだわるのではなく、むしろ「利用条件」をきめ細やかに設定することで適切な合意に至る可能性に留意すべきである(本ガイドライン(AI 編)第 3-3-⑵-②-b、同 c および第 4-4-⑵-④参照)。
本事例においても、X 社・Y 社間の契約において、たとえば次のような内容での権利帰属および利用条件の設定することが考えられる。
• 学習済みモデル A に関する知的財産権を X 社に帰属させる。
• X 社は学習済みモデル A を特段の利用条件なく自由に利用できる。
• Y 社は学習済みモデルA を再利用モデル(学習済みモデル B)の生成目的のために利用できるが、一定期間は X 社の競合事業者に対して、当該再利用モデルを提供できない。また、Y 社は学習済みモデル A をそのままの形で第三者提供や譲渡ができない。
(2) 相談事項②について
推論プログラムのアルゴリズムについては、特許法上の要件を充足すれば特許法の保護を受け得ること、および、その特許を受ける権利は、一般的には、実際に開発行為を行ったベンダに単独で帰属することは前記
⑴-①のとおりである。そのため、契約上何も定めなければ、Y 社はかかるアルゴリズムについて、単独出願をすることができ、特許法上の要件を満たす場合には、特許を受けることができる。
このような場合、X 社が特許発明を自ら実施するためには、特許を受ける権利を共有とし、Y 社と共同出願をするか、あるいは、Y 社からかかるアルゴリズムについて、実施許諾を受ける必要がある。
このいずれが適切であるかは、まさに事案により異なるため、X 社・Y社間の協議が必要である。その際には、単独出願したいという Y 社の必要性と、特許発明を実施したいという X 社の必要性の両方を検討することが重要であろう。
たとえば、Y 社としては、単独出願することでクレームの範囲を自ら設定することを希望しているのかもしれないし、あるいは、宣伝広告効果や信用力の向上に期待しているのかもしれない。また、権利化した上で、自らの実施可能性を確保したいということなのか、それとも、他者の市場への参入を損害賠償のみならず、差止をもって排除することが可能な地位を独占したいのか、によっても契約条件は変わってくるであろう。
また、X 社についても、同様に、単に自らが事業上、特許発明を実施可能な地位を確保すれば足りるのか、それとも、さらに、損害賠償請求や差止請求が可能な地位を確保したいのかが問題となる。加えて、特許取得や維持に際しては、費用が発生するため、これら費用を踏まえても、特許を得る意味があるかの検討も重要である。
仮に、Y 社の単独出願の主たる動機が損害賠償請求や差止請求により、競合事業者の参入を防ぎたいということにあり、かつ、逆に X 社としては、自らの実施可能性を確保したいという動機を有するのであれば、Y 社の単独出願を認めた上で、特許を受ける権利に基づいて Y 社が取得すべき特許権について、独占的仮通常実施権を設定することで、X 社・Y 社双方のニーズを満たす可能性があるのではないかと思われる。
(3) 相談事項③について
相談事項③については、学習済みモデル A について、X 社においてデータの追加学習をさせて再利用モデル(学習済みモデル B)を生成することが X 社・Y 社間の契約で許容されるのかは定かではない。また、仮に、X社・Y 社間の契約において、X 社による再利用モデルの生成が禁止されていたとしても、そのことをもって、当然に Y 社がかかる再利用モデルを利用できることにはならない。
そのため、Y 社において、X 社が学習済みモデル A を利用して生成した再利用モデル(学習済みモデル B)を利用したいという希望があるのであれば、X 社・Y 社間の契約において、利用条件を明確に定める必要がある。たとえば、学習済みモデル A に関しては次のような内容で利用条件の
設定をすることが考えられる。
• X 社は学習済みモデル A を利用して再利用モデルを生成できる。
• X 社が学習済みモデル A を利用して生成した再利用モデルについては、X 社も Y 社も自由に利用できる。
<ケース 2>
1 事案の概要
⑴ X 社は、各種データを保有する事業者である。Y 社は SIer 企業であり、Z社は学習済みモデルの生成を行っているベンダである。
⑵ X 社は、Y 社との間で学習済みモデル A を開発委託する契約を締結し、X社はさらに本開発委託を遂行するためにベンダ Z 社と再委託契約を締結して、学習済みモデル A の開発を委託している。
⑶ Z 社は学習済みモデル A を開発して Y 社に納品し、Y 社は当該学習済みモデル A を X 社・Y 社間の開発委託契約の納品物として X 社に納品した。
⑷ Y 社は学習済みモデル A の納品後、自ら創出した、あるいは Z 社から提供を受けたノウハウを用いて、学習済みモデル A を基にして、新たに学習済みモデル B を開発して(この学習済みモデル B は学習済みモデル A のプログラムを利用していない。)、他社へ販売することを考えている。
2 相談事項および検討の視点
相談事項
X 社は、Y 社が開発した学習済みモデル B に対して、学習済みモデル A における権利に基づいて、その開示および利用を求めることができるか。
検討の視点
X 社・Y 社間の開発委託契約において、開発過程で生じたノウハウや、開発対象である学習済みモデル A の権利帰属や利用条件について別段の定めがない場合、前記ケース 1 の解説のとおり、推論プログラムについては、Y 社または Z 社に権利帰属し(Y 社・Z 社間の再委託契約の定めによる。)、また、学習済みパラメータやノウハウについては、Y 社が自由に利用することができることが多いと考えられる。
その場合、Y 社において、推論プログラムや、学習済みパラメータ、そして、 当該ノウハウを用いて学習済みモデル B を開発することには特段の制約はな い(これらが、営業秘密として不正競争防止法上の制約を受ける場合を除く。)。このような状況では、X 社が、学習済みモデル B について何らかの権利主張を 行うことは難しいと思われる。
また、X 社・Y 社間の契約において、学習済みモデル A が X 社に権利帰属すると定めたとしても、当該条項のみでは、X 社が、学習済みモデル A から生成された学習済みモデル B の開示を受け、かつ、これを利用することができるわけではない。このことは、ケース 1 相談事項③と同様である。
したがって、X 社が、Y 社が開発した学習済みモデル B を利用して何らかの利益を得たいとのことであれば、X 社・Y 社間の開発委託契約において、学習済みモデル A の権利帰属条項に加えて、Y 社における学習済みモデル B を含む再利用モデル生成の可否、およびこれが可能な場合の再利用モデルの X 社および Y 社の利用条件について明確に定める必要がある。
たとえば、学習済みモデル A に関する知的財産権を X 社に帰属させつつ、学習済みモデル A を用いて、Y 社が学習済みモデル B を新たに創出することを可能とする場合には、その利用に際して、X 社に対して一定のライセンス料を支払うという利用条件設定が考えられるであろう。なお、これらの契約締結交渉および利用条件設定の際には、上述のように、学習済みモデル A やノウハウ創出にかかる寄与度を十分考慮することが必要である(本ガイドライン(AI編)第 3-3-⑵-②-b、同 c および第 4-4-⑵-④参照)。
ユースケース 2: ベンダが開発したシステムに対する権利等の事例
<ケース 1>
1 事案の概要
⑴ X1 社は、学習済みモデルの生成を行っている事業者(ベンダ)である。
X2 社は、システム開発を行っている事業者(SIer)である。
⑵ Y 社は、X1 社および X2 社に、Y 社の自社サービスに利用する、本人確認 システムの開発を委託し、X1 社および X2 社は共同で受注した。なお、本人 確認システムでは、生体情報を用いて、本人確認を行うことを想定している。
⑶ Y 社と X1 社、X2 社との間で、本人確認システムの業務委託契約が締結されたが、当該契約において本人確認の精度に関する取決めはない。
⑷ X1 社は、自己の準備した生データを用いて、情報照合にかかる学習済みモデルを生成した。
⑸ X2 社は、X1 社が開発した学習済みモデルを組み込んで、本人確認システムを開発した(なお、X1 社と X2 社間の契約の詳細は不明である。)。
⑹ X1 社が開発した学習済みモデルに、入力データを読み込ませることにより得られる結果は、予測に基づく点数(スコアリング)として出力され、当該スコアリングに基づく、本人判定のしきい値は、システムにおいて設定されている(しきい値を超える、または下回る場合に本人と判定される。)。
2 相談事項および検討の視点
相談事項
① 本人確認システムが、本人でない者を本人と認識する、あるいは本人を本人でない者と認識する等の誤った判断を出した場合、X1 および X2 社は Y 社に対して、どのような責任を負うことになるか。
② X1 社、X2 社と Y 社は、業務委託契約において、どのような取決めをすることが望ましいか。
③ X1 社、X2 社間の契約において、どのような点に注意すべきか。
検討の視点
(1) 相談事項①について
本人確認システムの判断に誤り(誤判定)があった場合、ユーザ(Y 社)のベンダ(X1 社および X2 社)に対する責任追及の法的構成としては、債務不履行責任(民法 415 条)と不法行為責任(民法 709 条)が考えられる。前者は契約上の義務の違反を、また、後者は故意または過失による権利または法律上保護された利益の侵害を責任原因とするところ、契約関係における当事者間においては、両構成における主張内容は事実上一致することが多いであろう。
この場合、ベンダ(X1 社および X2 社)のユーザ(Y 社)に対する責任内容は、まずは、両者間の業務委託契約の定め(ベンダの義務内容や、結果に誤りが生じた場合の責任に関する定め)に基づき判断される。
もっとも、本事例において、業務委託契約では、結果の精度に関する取決め等、誤判定が生じた場合の責任に関する明確な定めはない。このように契約上の定めがない場合には、通常、学習済みモデルの生成の目的、当事者の技術力、支払われる対価の額や支払条件等を総合的に考慮し、当事者がどの程度の水準のサービスを相手方に提供することを約していたかを探求することになる(本ガイドライン(AI 編)第 3-4-⑴-①参照)。
ただし、学習済みモデルについては、その性質上、xxの入力(データ)に対しては、一定の性能や結果を保証することが難しいということに鑑みると、業務委託契約において、学習済みモデルの性能に関して取決めがなされていない限り、両者間で学習済みモデルの性能や結果について保証することが合意されていたと認められる場合は少ないであろう。よって、ベンダ(X1 社)が、ベンダに通常期待される注意をもって(開発時点の技術水準にしたがって)、学習済みモデルを生成していたといえるのであれば、学習済みモデルの誤判定についてベンダ(X1 社)に責任が認められる可能性は低いと考えられる。
(2) 相談事項②について
ベンダおよびユーザ間の争いを避けるため、両者間の業務委託契約に おいて、誤判定が生じた場合の責任について、定めておくことが望ましい。もっとも、学習済みモデルの品質や性能については、その性質上、xxの 入力(データ)に対しては、一定の結果を約束または保証することは困難 であるため、ベンダの責任を規定するとしても、一定の範囲に限定する
(たとえば、特定のデータを入力した場合の精度等)ことにならざるを得ないであろう(本ガイドライン(AI 編)第 4-4-⑴-②等参照)。
ベンダとユーザとの間で、学習済みモデルの性能に関する争いを予防するためには、複数フェーズにわたって、学習済みモデルの生成、検証を繰り返し行い、両者間で性能について協議、情報共有を行いながら開発を進めていくこと(「探索的段階型」な開発手法)が重要となる(「探索的段階型」の開発手法については、本ガイドライン(AI 編)第 4-3-⑵参照)。
(3) 相談事項③について
本事例における本人確認システムは、学習済みモデルの出力結果であるスコアリングを基に、本人か否かの判定結果を出すものであるが、どの程度のスコアが出れば本人と判定するかの基準値(しきい値)はシステムにおいて設定されている。そのため、誤判定が生じた場合、当該誤判定が、学習済みモデルの出力結果に起因する場合もあれば、しきい値の設定(システム)に起因する場合もあるであろう。このように、学習済みモデルのベンダ(X1 社)とシステムのベンダ(X2 社)が異なる場合、誤判定について、いずれの責任範囲に起因するものであるか、検証することが必要になる。
もっとも、両者間での責任範囲や責任分担について、明確にしておかないと、後に争いが生じるおそれがあるので、この点、両者間の契約で明示しておくことが望ましい。
基本的には、各自が作成、構築した部分について(つまり、学習済みモデルに起因する場合は X1 社が、システムや組み込みに起因する場合は X2社が)、責任を負うことになると思われるが、互いの責任範囲について、両者で協議の上で、合意することになる。
なお、学習済みモデルのベンダとシステムのベンダが異なる場合、学習 済みモデルのシステムへの組み込みやシステムとの連携に関して問題が 生じることも多く、また、このような場合、双方のいずれが責任を負うべ きか争いになりやすい。通常のシステム開発においても、複数ベンダによ る開発(マルチベンダ)の場合、同様の問題が生じるが、学習済みモデル を組み込んだシステムの開発の場合、システムのベンダ及び学習済みモ デルのベンダ双方が、互いの技術や開発手法などについての理解の浅さ に起因して、連携がうまくいかない等の問題が生じることが考えられる。そのため、学習済みモデルとシステムとを円滑に連携するため、両者間で、必要な情報(それぞれの開発対象の仕様や機能に関する情報、インターフ ェース情報等)を、適宜、ユーザも含めて、共有していくことが必要であ ろう。
<ケース 2>
1 事案の概要
⑴ X 社はデータ解析事業者である。Y1 社は物流業界企業向けに、荷物の積載を自動計算するソフトウェア開発を行う事業者(SIer)である。Y1 社は開発した自動計算ソフトウェアを基に、複数の物流業界の顧客(Z1 社~Zn社)にサービスを提供している。
⑵ Y1 社のソフトウェアで用いる学習済みモデルは、Y1 社から委託を受けた
X 社が開発しており、X 社・Y1 社間で開発委託契約が締結されている。
⑶ X 社は、Y1 社が Z 社から受領した生データを用いて、学習済みモデルを生成している。なお、X 社が学習済みモデルの生成を行うにあたっては、物流業界に精通している Y1 社からノウハウ(積み方の条件や荷物を出し入れする者の利便性等の条件等)の提供を受け、パラメータの調整等の際に、このノウハウを利用している。
⑷ X 社は、開発した学習済みモデルについて、原則としてソースコードを含めて Y1 社に納品している。
2 相談事項および検討の視点
相談事項
① X 社が開発した学習済みモデルについては、どの部分に誰の権利が生じると考えるべきか。なお、本事例における学習済みモデルの生成手順は、簡潔に述べると次のとおりである。
⑴ Z 社が案件に特化した生データを Y 社を通じて X 社に提供する。
⑵ X 社がこのケースに最も適していると考えられる、単一あるいは複数の分析手法・アルゴリズムを選定して(組み合わせて)、問題を解く機能を備えた学習用プログラムを開発する。
⑶ X 社が生データを処理・加工して、作成した学習用データセットを、上記の学習用プログラムに読み込ませ、生成された学習済みモデルを、Y 社・ Z 社を含めて検討し、問題があれば⑵に戻る、あるいは学習用プログラムのパラメータを設定して要求に合うよう調整(チューニング)する。
② X 社は、案件に応じて、分析手法やアルゴリズムを選択して学習用プログラムを開発しているが、どの手法を選択し、どのような順番で、どう組み合わせるとうまくいくか、というノウハウは、X 社が自由に利用できると考えて問題ないか。
③ X 社は、Z 社向け案件における学習済みモデルの生成の際に用いた、分析手法やアルゴリズムの選択、組合せ、適用する順番といった汎用的なアイデアやノウハウを、別業界向けの学習済みモデルの生成に利用することを検討している(ただし、Z 社向けの案件で利用した、生データや学習用データセットは使用しない。)。このようにして開発した学習済みモデル(以下「汎用化モデル」という。)を、別の SIer(Y2 社)に販売する場合、元の SIer
(Y1 社)との契約において注意すべき事項や、盛り込むべき規定はどのようなものがあるか。
検討の視点
(1) 相談事項①について
契約締結交渉において「学習済みモデル」という言葉は、多義的に用いられることがあり、当事者間においてその意味内容を明確にすることが重要である。本事例では「学習済みモデル」とは、「特定の機能を実現するために学習済みパラメータを組み込んだプログラム」を指すものと仮定する(本ガイドライン(AI 編)第 2-3-⑵-④および第 4-4-⑵-④参照)。
① 知的財産権の整理
a 学習済みパラメータ
学習済みパラメータは、基本的には数値等のデータであり、著作物とは認められない可能性が高い(本ガイドライン(AI 編)第 3-3-⑵
-①-b 参照)。そのため、営業秘密に該当して不正競争防止法上の保護を受ける他は、契約上の取決めがない限り、学習済みパラメータの取扱いについて法律上の明確なルールはない。よって、開発委託契約で別段の定めがない限り、学習済みパラメータに現実にアクセスで
きる者(本事例では、X 社およびソースコードの提供を受けている Y1社)が、利用できることになるであろう(本ガイドライン(AI 編)第 3-3-⑴-③参照)。
b 推論プログラム
学習済みモデルのプログラム部(推論プログラム)は、創作性が認められる場合は「プログラムの著作物」として著作権が発生し(著作xx 10 条 1 項 9 号)、当該プログラムの著作権は、作成者である X
社に帰属することになるであろう(著作xx 15 条)。よって、開発委託契約において別段の定めがない限り、推論プログラムの権利者は X 社となるが、ただし、X 社は Y 社に、プログラムのソースコードを納品していることから、開発委託契約上別段の定めがなくとも、推論プログラムについて、Y 社が一定の利用が可能であることに注意が必要である(著作xx 47 条の 31(プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等))。
② 権利帰属・利用条件の設定
以上の原則論を踏まえつつも、推論プログラムや学習済みパラメー タの取扱いについては、後の争いを避けるため、X 社・Y1 社間の開発委 託契約において、⒜学習済みパラメータについては、利用条件について、
⒝推論プログラムについては著作権の帰属および利用条件について、それぞれ、あらかじめ合意しておくことが必要だと思われる。
取決めにあたっては、寄与度を主たる基準として判断されることになると思われ、本事例では、⒜学習済みパラメータについては、分析手法やアルゴリズムの選択、組合せ、適用の順番といった X 社のノウハウおよび Y1 社(Z 社)のデータやノウハウの双方の寄与があること、⒝推論プログラムについては、上記の X 社のノウハウの寄与度が高いこと等が考慮されることになるであろう(その他、考慮が必要な要素について本ガイドライン(AI 編)第 3-3-⑵-②や同第 4-4-⑵-④から⑥参照)。
(2) 相談事項②について
分析手法やアルゴリズムの選択、組合せ、順番に関する X 社の知見は、 ノウハウといえるが、ノウハウの取扱いについては、営業秘密として不正 競争防止法上の保護を受ける他は、法律上明確なルールはない。そのため、契約上の定めがない限り、現実にアクセスできる者が、自由に利用できる ことになると考えられる(本ガイドライン(AI 編)第 3-3-⑴-②参照)。
よって、仮に、X 社が自己の上記ノウハウを Y 社に開示する場合は、その利用条件について、X 社・Y 社間の契約においてあらかじめ合意しておく必要がある。考慮が必要な要素については、前記⑴と同様であるが、上記 X 社のノウハウは、通常ベンダである X 社の寄与度が高いと考えられることについて考慮が必要であろう(その他の考慮要素については、本ガイドライン(AI 編)第 3-3-⑵-②や同第 4-4-⑵-③および⑦参照)。
1 平成 30 年改正著作xx施行後は、著作xx 47 条の 4 等にも留意されたい。
(3) 相談事項③について
X 社が、汎用化モデルの開発にあたり、Y1 社に納品したソースコードを使わず、自己のノウハウ(アイデアを含む。)のみを利用する場合、原則として、ノウハウの利用については、法律上の明確な制約はないので(営業秘密として不正競争防止法上の制約を受ける場合を除く。)、X 社・Y1社間の契約において、当該ノウハウの利用に関する制限が課されていないのであれば、X 社が、汎用化モデルの開発について当該ノウハウを利用することは可能だと考えられる。
しかしながら、当該 X 社のノウハウが、Y1 社のデータやノウハウなくしては X 社が知りえなかった場合等、X 社のノウハウについて Y1 社の寄与度が高いといえる場合には、X 社がノウハウを別の案件に利用することについて、Y1 社との間でトラブルになる可能性がある。
このように、対象となるノウハウに、X 社・Y1 社双方のノウハウやデータが寄与している場合は、当事者間で後の争いを防ぐために、X 社のノウハウの利用条件について、X 社・Y1 社間の契約において取り決めることが望ましいと考える。この場合の利用条件は、当該ノウハウへの互いの寄与度を考慮の上判断されることになると思われるが、両者間で協議の上、取り決めることが望ましいであろう(考慮要素については、本ガイドライン
(AI 編)第 3-3-⑵-②-c、考え方については、同第 4-4-⑵-⑦を参照)。
ユースケース 3: 機器製造事業者が開発する学習済みモデルの権利や責任等の事例
1 事案の概要
⑴ 機器製造事業者 X 社は、取引先 Y 社に提供する監視機器に関して、特定の特徴のある者を画像から検出できることを目的とした学習済みモデルの搭載を検討している。
⑵ 学習済みモデルは、X 社、Y 社双方が提供する画像データ(生データ)を基にした学習用データセットを使用して生成されている。生データを加工して学習用データセットに加工するプロセスは、X 社のみが行う。また、学習用プログラムおよび推論プログラムは、X 社が、OSS を使用せず、その全部を独自に開発する。
⑶ X 社が Y 社から画像データの提供を受けるにあたっては、X 社・Y 社間で秘密保持契約を締結しており、同契約により、X 社は、Y 社から提供を受けた画像データに関し、①Y 社に納入する監視機器の開発以外の目的での使用禁止、②契約終了時の返却・消去の義務を負っている。
⑷ X 社は、X 社が開発した学習済みモデルの精度について、X 社・Y 社間の契約により、売主として Y 社に対して一定の保証責任を負うことを想定している。
⑸ X 社は、学習済みモデルの生成完了後、学習済みモデルの生成を通じて得たノウハウを活用して他の取引先にも同様の学習済みモデルを販売したいと考えている。
2 相談事項および検討の視点
相談事項
① X 社は、X 社と Y 社のいずれもが提供した画像データを基にした学習用データセットとして使用して開発された学習済みモデルを生成した。X 社は、 Y 社の承諾なくして、他の取引先 A 社、B 社から提供を受けた画像データを学習用データセットとして使用して、学習済みモデルを追加学習させることで、その精度を向上させて、A 社、B 社向けに転用したいと考えている。このような追加学習は可能か。
② 学習済みモデルを搭載した監視機器の検出精度の保証について、契約でどのように定めるべきか。
③ 学習済みモデルを搭載した監視機器が、納品・稼働後も継続的に学習する機能を備えた場合において、検出精度が低下した場合の責任の分担について、どのように考えるべきか。
検討の視点
(1) 相談事項①について
学習済みモデルの権利関係について検討する際は、契約当事者間において、学習済みモデルの具体的な意味について認識を共有することが重要である。本事例では、「特定の機能を実現するために学習済みパラメータを組み込んだプログラム」を指すものと仮定する(本ガイドライン(AI編)第 2-3-⑵-④および第 4-4-⑵-④参照)。
本事例では、学習済みモデルを構成する学習済みパラメータおよび推論プログラムのそれぞれについて、著作権や特許xxの知的財産権および秘密保持契約との関係について検討する必要があるが、結論として後の紛争を避けるため、利用条件や権利の帰属を契約で定めることが望ましいといえる(その際の考慮要素としては、本ガイドライン(AI 編)第 3-3-⑵を参照)。
① 学習済みパラメータ
a 知的財産権の整理
本事例における生データは画像データであり、それ自体が著作物に該当する可能性がある。仮に著作物に該当する場合には、生データの複製や翻案には、著作権者の同意が必要となるものの、学習済みパラメータは、生データとは異なる数値等のデータ(生データを加工した学習用データセットを使用する学習により得られたパラメータ)であり、両者に本質的な特徴の同一性はないと考えられる。
学習済みパラメータについては、著作権や特許を受ける権利を含む知的財産権の対象とならない数値等のデータにすぎないことが多いと思われる(本ガイドライン(AI 編)第 3-3-⑵-①-b 参照)。
そうすると、学習済みパラメータは、X 社および Y 社がそれぞれ提供した画像データを用いて生成されていたとしても、著作xxを含む知的財産法上の保護の対象とならない場合が多いと考えられる。
b 秘密保持契約との関係
知的財産権としての保護を受けない場合、契約上の取決めがない 限り、営業秘密として不正競争防止法上の保護を受ける他は、学習済 みパラメータの取扱いについて、法律上のルールはない。したがって、学習済みモデルを構成する学習済みパラメータについては、契約上 の定めがない限り、学習済みパラメータに現実にアクセスできる X 社 が自由に利用できることになる(本ガイドライン(AI 編)第 3-3-⑴
-③参照)。
もっとも、本事例では、X 社・Y 社間で秘密保持契約が締結されているため、Y 社の提供した画像データを用いて生成された学習済みパラメータを用いて追加学習をすることに関して、同契約上の、Y 社に納入する監視機器の開発以外の目的での画像データの利用(目的外利用)禁止義務に違反するか検討をする必要がある。
この点、前記のとおり、学習済みパラメータは生データとは別個のデータであるため、追加学習のための転用は、生データそのものを目的外に利用しているものではない。したがって、Y 社が学習済みパラメータの転用を認めない場合には、これを契約xxxxすることが必要になるであろう。他方、X 社としても、学習済みパラメータの転用を希望するのであれば、これを契約xxxxすることが望ましい場面もあると思われる。
また、仮に、学習済みパラメータに加えて、Y 社の画像データを追加学習に利用する場合には、画像データの目的外利用禁止義務違反が直接問題となることに加えて、契約終了時の返却・消去義務との関係で問題がないかを検討する必要がある。Y 社との秘密保持契約において、契約終了時の画像データの返却・消去義務が設けられている場合には、たとえ、Y 社の画像データの転用が目的外利用にあたらないと定めても契約終了後に Y 社の画像データを削除しなければ、契約違反となるからである。
そのため、A 社、B 社から提供を受けた画像データに加えて、Y 社から提供を受けた画像データを利用して、追加学習を行うことが必要である場合には、追加学習に必要なデータについては、返却・消去義務を免除する等、目的外利用に関する定めと平仄を合わせておくことが重要になる。
② 推論プログラム
a 知的財産権の整理
学習済みモデルのプログラム部分(推論プログラム)は、そのソースコード(オブジェクトコードに変換されていても同様である。)についてはプログラムの著作物(著作xx 10 条 1 項 9 号)として著作権法上の保護を受け得る。また、そのアルゴリズムは、特許法上の要件を充足すれば「物の発明」として、特許法の保護を受け得る。これらの権利については、職務著作(著作xx 15 条)や職務発明(特許
法 35 条)等の制度を通じて、ベンダに帰属することが多い(本ガイドライン(AI 編)第 3-3-⑴-②参照)。
本事例では、推論プログラムは、その全部をベンダ X 社が開発した
のであるから、その著作権および特許を受ける権利は、X 社に帰属する。したがって、推論プログラムの転用は、著作xxおよび特許法上の問題を生じない場合が多いと思われる。
b 秘密保持契約との関係
推論プログラムも、画像データとは独立して生成されたものであ るから、秘密保持契約との関係においても、推論プログラムの転用は、画像データの目的外使用には該当しないと考えられる。ただし、疑義 を避けるべく契約xxx取扱いを明記することが望ましい。この場 合の留意点は、学習済みパラメータの場合と同様である。
(2) 相談事項②について
① AI 技術の特性と保証の関係
学習済みモデルの生成は、従来型のソフトウェア開発等と異なり、統計的な本質を有し、試行錯誤が必要不可欠(帰納的)であって、ベンダにおいて、技術上、ユーザの求める品質を約束できないことが多いといえる(ガイドライン(AI 編)第 3-4 参照)。
たとえば、ある特定の画像データを基に検出精度が一定程度確保できることが検証できたとしても、実際に使用した場合に、xxの入力
(データ)に対しては、技術的・原理的な観点からは、同等の検出精度を保証することは難しい場合が多いと考えられる(本ガイドライン(AI編)第 3-4 参照)。
さらに、仮にベンダが一定の保証をした場合であっても、期待された検出精度が実現できなかった場合において、その不十分な結果についてベンダ側に法的に帰責できるか(具体的には帰責性や因果関係が認められるか)についても、不明な場合が多いと考えられる(ガイドライン(AI 編)第 3-4-⑴参照)。
以上から、ベンダ側が、xxの入力(データ)に対する学習済みモデルの性能について何らかの保証(たとえば「検出精度●●%の保証」)をすることは技術上困難であることが多いし、学習済みモデルの利用に際しては、学習済みモデルを利用したサービスの提供者の責任を一定の範囲に限定する等の対応もよく見られる。
② 実務上の考慮
もちろん、契約上の取決めは自由であるから、xxxが、xxの入力
(データ)に対する学習済みモデルの品質について一定の保証をすることも自由である。しかし、通常、そのような場合においては、対価を高く設定したり、あるいは対価の支払いを一定の結果や KPI の達成にかからせる等支払条件を工夫したり、入力データの品質等に一定の条件を付したりする等、何らかの手当を行うことは考えられる。
学習済みモデルの品質については、ユーザとしても特に重視する場合があると考えられる。また、当事者間の力関係により、ユーザ側が学習済みモデルの品質保証を強く求める場合もあり得る。高い品質の学習済みモデルの生成の実現のためには、ユーザとベンダにおいて、何を開発の目的とするか、成果物をどのように評価するか、どのような基準で報酬等を支払うかといった点を十分に協議した上で、契約において
明確に定めておくことが考えられる他、探索的段階型の開発方式を採用することが望ましい。
以上から、X 社が Y 社に対し、契約上、xxの入力(データ)に対しては、学習済みモデルの検出精度について何らかの保証を行うことが技術的には困難である場合は多いと考えられるが、契約上は、対価や支払条件の設定の仕方等の手法と合わせて、一定の保証をすることは考えられる。
(3) 相談事項③について
前記⑵と異なり、監視機器に搭載された学習済みモデルが、実稼働後も継続的に学習する機能を備えた場合においては、さらに別の考慮が必要になる。
学習済みモデルの生成は、学習用データセットの統計的な性質を利用して行われるため、学習済みモデルは、学習時と推論時の確率分布が大きく異なるような場合には機能しない場合があり得ることや、学習用データセットに通常性質が反映されないような「まれな事象」に対して、推論が及ばない可能性がある等、学習済みモデルの品質等が入力データの内容や性質によって左右される特性がある(ガイドライン(AI 編)第 2-4-
⑴-②参照)。
したがって、実稼働後も継続的に学習を行う機能を有する学習済みモデルについては、ベンダまたは学習済みモデルを利用したサービスの提供者は、前記⑵の場合より一層、学習済みモデルの品質について保証をすることが困難である点に留意すべきである。
また、学習済みモデルを継続的に学習させる場合に、誰がデータの提供者であるかは、責任分担を考える上で重要である。学習済みモデルの量や品質は学習用データセットにも依存するからである。本件において、実稼働後に入力されるデータが Y 社において収集されるデータである場合には、そのデータに基づいて追加学習した学習済みモデルの品質をベンダが保証することは困難な場合が多いであろう。
以上を踏まえて、継続的学習により検出精度が低下した場合の責任の分担を考えることになろう。
なお、実稼働後も学習する機能を備えた学習済みモデルについては、より確実に品質や性能を高めるため、さらに追加的に実稼働環境における検証(PoC)を行うことも検討に値する。
ユースケース 4: 産学連携による学習済みモデルの生成における権利関係
<ケース 1>
1 事案の概要
⑴ X 社は、顧客要求(強度や寸法精度)を満たす製品を開発している製造事業者である。Y 大学は、データ解析や学習済みモデルの生成を行っている。
⑵ X 社は、自社の開発している製品が顧客要求を満たしていることを確認するために、多くの実験用サンプルに対して、テスト(特に強度テスト)を実施する必要があった。
⑶ この実験用サンプルは、今までの経験や勘によって仕様を決定しているため、うまくいかない場合、都度作り直す必要があり、設計・製作およびテストの工数が増大し、業務負担が大きくなっていた。そのため、X 社は、自社のテストデータに基づいて、強度検証用のシミュレータを開発し、このシミュレータの解析結果を利用して、学習済みモデルの生成を行うこととした。
⑷ なお、本事業は、X 社と Y 大学の共同研究により進められるものであり、契約においては、①X 社が解析用のデータを提供すること、②Y 大学がシミュレータおよび学習済みモデルの生成を行うこと、③共同研究にかかる費用については、X 社および Y 大学で分担して負担する旨合意された。また、開発されたシミュレータおよび学習済みモデルの権利関係については、事前に明確に定めてはいないものの、最終的な成果物の権利は共有となる旨は明記されており、その割合については明確に定められていなかった。
⑸ X 社は、開発されたシミュレータおよび学習済みモデルについて、適宜、助言やノウハウの提供を行い、精度の向上に努めていた。
2 相談事項および検討の視点
相談事項
① 上述の共有規定が存在しない場合、X 社が提供したデータに基づいて開発されたシミュレータおよび学習済みモデルに対する権利関係について、どのように考えればよいか。
② 上述の規定に基づいて、シミュレータおよび学習済みモデルの権利関係が共有とされた場合、その持分比率については、どのように考えれば良いか。
③ 学習済みモデルの機能向上を目指して、新たなデータを用いて再度学習を行う場合に特に留意すべき事項はあるか。
検討の視点
(1) 相談事項①について
契約交渉において「学習済みモデル」という言葉は、多義的に用いられることがあり、当事者間においてその意味内容を明確にすることが重要である。本事例では「学習済みモデル」とは、「特定の機能を実現するために学習済みパラメータを組み込んだプログラム」を指すものと仮定する(本ガイドライン(AI 編)第 2-3-⑵-④および第 4-4-⑵-④参照)。この場合、本事例で知的財産権の対象として、権利帰属を検討する必要があるのは、学習済みパラメータ、学習済みモデルのプログラム(推論プログラム)およびシミュレータである。
① 学習済みパラメータ
学習済みパラメータについては、単なる数値等のデータにすぎず、知的財産権の対象とならないことが少なくないと考えられる。このような場合には、そもそも持分を観念することができないと考える。
② 推論プログラムおよびシミュレータ
推論プログラムおよびシミュレータのいずれについても、そのソースコード(オブジェクトコードに変換されていても同様である。)についてはプログラムの著作物(著作xx 10 条 1 項 9 号)として著作権法上の保護を受け得る。また、そのアルゴリズム 2は、特許法上の要件を充足すれば「物の発明」として、特許法の保護を受け得る。これらの権利については、職務著作(著作xx 15 条)や職務発明(特許法 35 条)等の制度を通じて、ベンダに帰属することが多い(本ガイドライン(AI編)第 3-3-⑴-②参照)。
本事例では、X 社は、シミュレータの開発にテストデータを提供し、これを基に Y 大学がシミュレータの開発を行っているものの、通常、データを提供するのみでは、Y 大学が行ったデータの加工や分析過程にこそ創意・工夫が存するとして、Y 大学が単独の権利者と認定される可能
2正確には、アルゴリズムの実行対象であるプログラムや当該アルゴリズムを機能させる情
報処理装置等が直接または間接的に特許法上の保護対象となり得る。
性が高いと思われる。
ただし、たとえば、X 社が、シミュレータや学習済みモデルの生成に 対して有用な助言を十分に行っており、シミュレータおよび学習済み モデルの生成について実質的に創作に寄与したと認められる場合には、 Y 大学に加えて、X 社が権利の共有者として認められることもあるであ ろう。この場合には、当事者間の特段の合意がない限り、その持分は均 等となる(民法 264 条、250 条)。
(2) 相談事項②について
法的な一般論は前記⑴で説明したとおりであるものの、仮に訴訟で著作者または発明者が誰であるかが問題となった場合には、その事実認定には困難を伴うことが少なくなく、ひいては権利の帰属が不明確となる。このような状況は、シミュレータおよび推論プログラムを事業上利用することの障害となりかねないため、権利帰属および利用条件について、当事者間において契約により可能な限り事前に取り決めておくことが望ましいといえる。
権利帰属については、X 社の単独帰属、Y 大学の単独帰属、X 社・Y 大学の共有が考えられるが、必ずしも帰属にこだわる必要はなく、利用条件を設定することで当事者の目的が達せられる場合もある。
また、仮に、権利帰属について共有にするのであれば、その持分割合についても合意しておくことが後の紛争回避の観点からは望ましい。もっとも、持分割合をどのように設定するかは正解があるわけではなく、究極的には当事者間の合意によらざるをえない(考えられる要素については、本ガイドライン(AI 編)第 3-3-⑵-②および同第 4-4-⑵-④から⑥参照)。
(3) 相談事項③について
追加学習を行う場合には、学習済みモデル内の学習済みパラメータが更新されることになるが、当該パラメータはデータであり、知的財産権の対象とならず、当事者間で別段の合意がなければ、これに現実にアクセスできる者が自由に利用できることになる(本ガイドライン(AI 編)第 3- 3-⑴-③参照)。
そのため、追加学習の結果生成された新たなパラメータについては、その利用条件を契約xxxすることが望ましい。ただし、仮にパラメータの無断利用を禁止しても、その違反を立証することが困難である場合が多いと思われる。そのため、たとえば、競合事業者に対する提供を禁止する等、客観的外形的に特定および立証が容易な行為を禁止することも検討に値するであろう(ただし、独占禁止法違反の可能性には留意が必要である。)。
また、たとえば、生成された学習済みモデルがそのままの形で、X 社に提供された場合、当該学習済みモデルから Y 大学の保有するノウハウの一部が流出する可能性がある。そのため、追加学習の前提として、どのような方法で学習済みモデルを共有するかも含めて、X 社および Y 大学は、学習済みモデルの機能を向上させるための方法や条件につき、協議しておくことが望ましい。
<ケース 2>
1 事案の概要
⑴ X 社は、自社の工作機械百数十台の可動データや、従業員のスキルデータ等をデータベース化して、これを用いて生産管理計画を策定したいと考えている。この X 社の生産管理計画は、現在、手動で対応している状態であるが、急な生産依頼やキャンセル対応等が発生した場合に、その都度生産計画を策定しなおさなければならず、X 社にとって負担が大きいものとなっている。また、将来的に X 社は、このデータベースを活用することにより、季節変動等も踏まえた受注予測を行うことも想定している。
⑵ そこで、X 社は、上述の生産管理計画の策定や受注予測に AI 技術を利用したいと考えており、Y 大学から、技術指導を受けるべく、技術指導契約を締結した。もっとも、現実には、Y 大学が実際の開発を行い、また、相当程度の知見を提供することで、学習済みモデルが開発された。
⑶ X 社および Y 大学間での契約では、学習済みモデル等の帰属に関する明確な取決めはないものの、成果物については、X 社が自由に使うことができ、商業利用時の実施料等は改めて協議することについては、合意されていた。
⑷ その後、X 社は第三者である Z 社に対して、生成された学習済みモデルを販売した。
2 相談事項および検討の視点
相談事項
① X 社が Y 大学から技術指導を受けて開発された学習済みモデルは、X 社に帰属するものと解して、第三者に販売することについて問題はあるか。問題がある場合には、どのような対応が必要か。
② X 社が、第三者である Z 社に学習済みモデルを販売して、当該学習済みモデルが想定していない挙動を示した場合、X 社および Y 大学の内部的な責任関係(分担)をどう考えるべきか。
検討の視点
(1) 相談事項①について
ケース 1 について解説したとおり、ここでも「学習済みモデル」の意味内容を確定する必要がある。仮に、学習済みパラメータを組み込んだ推論プログラムを意味する場合には、推論プログラムについては、プログラムの著作物または物の発明としての保護が問題になるが、その一般論については、前記のとおりである。ここでは、ケース 1 と同様に、実際に開発を行った Y 大学が権利者となることに問題はないであろうから、さらに X社が権利の共有者となるかが問題とはなる。
もっとも、本事例で特に問題となり得る推論プログラムのソースコードについては、仮にY 大学が著作者となる場合には、X 社による複製等は、 Y 大学の許諾が必要である。また、X 社が共同著作者となる場合であっても、その複製等には、やはり Y 大学の許諾が必要であるため(著作xx 65条 2 項)、いずれにせよ、X 社は自由にこれを複製等して第三者に販売することはできない。
他方、学習済みパラメータについては、データであるから、X 社・Y 大学間の契約においてどのような利用条件が設定されているか否かによることになる(本ガイドライン(AI 編)第 4-4-⑵等参照)。
そのため、X 社が、第三者への販売を希望する場合には、その旨を契約に明記しておく必要がある。
また、本事例では、「成果物は、X 社は、自社で自由に使うことができる」とされているため、X 社が自身で成果物である推論プログラムおよび学習済みパラメータを使用することが認められる可能性が高い。
(2) 相談事項②について
本事例において、学習済みモデルの挙動に伴う責任に関して、明確な定めはされていない(責任についての基本的な考え方は、ガイドライン(AI編)第 3-4-⑴、第 3-2-⑵および第 3-3 参照)。
上記の考え方に従った場合、推論プログラムの出力は、あくまでも予測値であり、その性質上、xxの入力(データ)に対しては、出力の結果を保証できるものではなく、たとえば、X 社および Y 大学が AI 開発事業者に通常期待される注意を持って(開発当時の技術水準にしたがって)学習済みモデルを生成していたといえるのであれば、学習済みモデルの誤判
定について、損害が発生した Z 社に対して X 社の責任が認められない場合も少なくないと考えられる。
ただし、当事者間の紛争の火種となり得ることに変わりはないため、事前の契約において、どのような学習済みモデルの生成を行うかについて入念に合意を行い、互いの認識をすり合わせることが非常に重要といえる。
そして、仮に Z 社に対する関係で X 社・Y 大学に責任が認められた場合の X 社・Y 大学間の内部的な責任分担については、契約で定めない場合には、Z 社が受けた損害に対して、X 社・Y 大学がそれぞれどの程度寄与したかによることになる。
以上を勘案して、実務上は、X 社は Z 社に対して推論プログラムの性能を保証しないことや、損害を補償する規定を設けるとしても、補償金額の上限を設定する規定を設けることが考えられる。
ユースケース 5: 学習済みモデルの生成と権利帰属
1 事案の概要
⑴ ベンダ X 社は、α技術と呼ばれる技術を活用した X 社システムを自ら開発し、顧客 Y 社に提供した。α技術には、X 社が開発した学習済みモデルが利用されている。
⑵ α技術は、書面データの構造化等を目的とした技術である。α技術の学習済みモデルは、①X 社が収集した公知情報を内容とする生データと②X 社の顧客 Y 社が収集した Y 社の固有情報を内容とする生データによって主に構成された学習用データセットを基礎として生成されている。
⑶ X 社は、Y 社から開示を受けた生データについて、X 社・Y 社間の製品販売契約により、秘密保持義務および目的外利用禁止義務を負っており、Y 社に提供する X 社システムの開発のためにのみ前記生データの利用が許諾されている。
⑷ X 社は、他の顧客 Z 社から別途生データの提供を受けて前記学習済みモデルを基礎とした追加学習を行い、精度を向上させた学習済みモデル(再利用モデル)の権利を Z 社に有償で利用許諾することを計画している。
2 相談事項および検討の視点
相談事項
開発された学習済みモデルには、X 社と Y 社がそれぞれ収集したデータや、 X 社の学習済みモデルの生成ノウハウ等が用いられている。この場合、次の各事項にどのような問題があるか。また、それをどのように解決したらよいか。
① 学習済みモデルの生成に用いた学習用データセットを、X 社または Y 社が再利用モデルを生成するために利用することは可能か。
② Y 社に提供した学習済みモデルを基礎として、X 社または Y 社が追加学習を行うことは可能か。また、追加学習により生成された再利用モデルの権利を、X 社が Z 社に有償で利用許諾することは可能か。
③ 追加学習その他の方法による新たな学習済みモデルの生成を契約により防ぐことは可能か。
検討の視点
(1) 相談事項①について
学習用データセットについては、著作権法上保護される著作物にあたるかという問題がある。たとえば、「データベースの著作物」として保護を受けるためには、学習用データセットが著作xxの定める「データベース」(著作xx 2 条 10 号の 3)に該当し、かつ、その情報の選択または体系的な構成によって創作性を有すると認められることが必要となる
学習用データセットがデータベースの著作物にあたる場合、その著作権が自らに帰属する当事者がこれを利用できることは当然であるが、著作権が自らに帰属しない当事者であっても、著作xx 47 条の 74の要件を満たすときには、著作権者の同意を得ずに、新たな学習済みモデルを生成するために学習用データセットを複製または翻案することに著作権法上の妨げはない 5。
もっとも、本事例のように、生データの開示を受けた当事者がそのデータについて相手方に対する秘密保持義務を負っており、契約の目的外の利用も禁じられている場合には、これに反する態様での学習済みモデルの生成は相手方に対する債務不履行を構成することには注意が必要である。また、契約の目的が不明確である等の理由により、そもそも契約の目的外の利用といえるか否かについて疑義が生じる場合もあり得る。
これらを回避するためには、生データの開示を受けた当事者が自らの研究開発目的その他一定の目的のために学習用データセットを利用でき
3 一般論として、学習用データセットに著作物が含まれるケースも考えられるが、本事例では、Y 社が X 社に提供するデータは手書き文字データであることから、当該データに著作権が生じることは通常考えられないため、ここではデータベースの著作物のみを取り上げている。
4 平成 30 年改正著作xx施行後は著作xx 30 条の 4。
5 ただし、同条ただし書に留意されたい。
ることを契約xxxしておく必要があるだろう(本ガイドライン(AI 編)第 4-4-⑵-②参照)。
(2) 相談事項②について
契約交渉において「学習済みモデル」という言葉は、多義的に用いられることがあり、当事者間においてその意味内容を明確にすることが重要である。本事例では「学習済みモデル」とは、「特定の機能を実現するために学習済みパラメータを組み込んだプログラム」を指すものと仮定する(本ガイドライン(AI 編)第 2-3-⑵-④および第 4-4-⑵-④参照)。
① Y 社による追加学習の可否
Y 社については、学習済みモデルについて、その知的財産権を Y 社に帰属させる旨の定めや、追加学習を Y 社に許諾する旨の明示的な定めがある場合には、Y 社が追加学習を行うことに特段の問題はない。もっとも、他方で、これらの定めを欠く場合には、追加学習の可否について疑義が生じる可能性がある。たとえば、X 社が Y 社に対して、バイナリ形式その他二次利用が困難な方法により、学習済みモデルを提供しているときには、X 社としては、追加学習を許さない趣旨であると解される場合もあり、契約書上明示の定めがない限りは、後に争いが生じるおそれは否定できない。
② X 社による追加学習等の可否
次に、X 社については、Y 社に学習済みモデルの非専属的な利用を許諾しただけの場合に X 社が追加学習を行い、また、その結果として生成された再利用モデルの利用を Z 社に有償許諾することは、法令やその他の契約の定め 6に反するといった事情がない限り、X 社の自由に委ねられる。他方、X 社が学習済みモデルの知的財産権を Y 社に帰属させる旨の定めや Y 社にその専属的な利用を許諾する旨の定めがある場合には、X 社による追加学習等が契約上認められない可能性が高い。
③ 契約の重要性
X 社または Y 社の追加学習等が X 社と Y 社との契約の締結時までに予定されている場合には、無用の紛争を避けるため、前記の内容を十分に考慮し、予定する行為を特に可とする旨を明示的に契約に定めるか、またはあえてこれを明示せずとも自らの目的を達することができるよう契約内容の定め方を工夫することが重要である。
(3) 相談事項③について
追加学習等による新たな学習済みモデルの生成の禁止を目的とした規定を契約に定めることはもちろん可能である。たとえば、X 社から Y 社
(または Z 社)への学習済みモデルの提供をバイナリ形式で行うことにした上で、そのリバースエンジニアリングと、その学習済みモデルを基礎
6 たとえば、X 社が Y 社に提供した学習済みモデルが Y 社の秘密情報に該当し、Z 社を含む第三者への利用許諾を目的として再利用モデルを生成する行為が Y 社に対する秘密情報の目的外利用禁止義務違反を構成する場合が考えられる。
とした追加学習等を不可とする内容を明示的に契約で定めることが考えられる。
しかし、問題はその実効性にある。相手方の事業所内で行われるリバースエンジニアリング行為を発見することは極めて困難であり、また、追加学習等により生成されたことが疑われる新たな学習済みモデルの存在を特定することが仮にできたとしても、その基礎となった学習済みモデルとは具体的な表現上の同一性が認められないことが通常であり、提供された学習済みモデルを基礎として新たな学習済みモデルが生成された具体的な事実を特定し、立証することは決して容易ではない。訴訟手続の場において、証拠の偏在等を理由に一定の立証責任の軽減が図られる場合がないではないだろうが、そのような不確定な事態を契約内容に織り込むことは決して望ましくない。
そこで、一般論ではあるが、客観的外形的に特定し、立証することが比較的容易な行為を制限することによって、リバースエンジニアリングや追加学習等を禁止することにより望む結果と類似した結果の実現を意図するやり方が考えられる。たとえば、リバースエンジニアリングを禁止する目的を実現するために必要な限度で、同等または類似した機能を持つ学習済みモデルを用いることで行うことができる事業を一定の時期や範囲で制限するという方法があり得る。なお、この場合、独占禁止法等への抵触に注意することは必要である(本ガイドライン(AI 編)第 3-5 参照)。
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■経済産業省 商務情報政策局 情報経済課
■AI・データ契約ガイドライン検討会作業部会 AI 班
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