特許法第 69 条に定める試験研究の例外について、大学での学術研究のための実施が必ずしも適用されるとは限らないと考えております。(大学の学術研究のための実施は 、商業的な利益を生まなくとも、「業」としての実施であるとの解釈が科学技術・学術審議会 第24 回WG で示されております。)
静岡大学共同研究契約雛形の趣旨
本学の共同研究契約雛形の主要部分について、その意図を以下のとおり説明いたします。契約書の甲:静岡大学(大学) 契約書の乙:共同研究先企業(企業)
第6 条 (ノウハウの取扱)
第4項 乙が本条第1項の規定により指定されたノウハウを実施するときは、甲はこれに同意するものとし、実施の範囲・甲への対価等について甲乙協議により実施契約を定めて行うものとする。
第5 項 甲及び乙は、本条第1 項の規定により指定されたノウハウを第三者に実施許諾するときは、あらかじめ、相手方の同意を得て行うものとする。なお、当該第三者への実施許諾は、甲乙及び第三者の協議により実施許諾契約を定めて行うものとする。
※ 共同研究成果のうちノウハウについて、その活用を図るため、第4 項で企業が実施する場合の手続きを
第2 項 原則として、本共同研究の実施により得られる知的財産権のうち甲に属する研究担当者の持分は、甲に帰属するものとし、乙に属する研究担当者の持分は、乙に帰属するものとする。
定めました。また、第5 項で第三者に実施させる場合の手続きを定めました。第14 条(研究成果の出願等)
※ 大学の研究者による発明に係る知的財産権は原則として大学が承継します。
共同研究の成果に関して、特許法第 35 条に基づき大学研究者の発明の権利持分を大学が承継することで、企業に対して法人としての責任を果たす姿勢を表明することを意図しております。大学は、企業の意向や共同研究の意義に十分配慮し、発明の機関帰属の是非について学内審議の上、積極的に権利化と維持に努めます。
第 3 項 甲及び乙は、甲に属する研究担当者及び乙に属する研究担当者が本共同研究の実施に伴い共同して発明等を行ったときは、当該共同発明等に係る知的財産権(以下、「共有知的財産権」という。)は甲乙の共有とし、乙が当該共同発明等についての出願等を行おうとするときは、当該共有知的財産権の甲及び乙の持分を協議して定めた上で、別途締結する共同出願等契約にしたがって乙が出願等を行うものとし、甲はこれに協力する。この場合、出願手続き及び権利保全に要する費用(以下、「特許等費用」という。)は乙が全て負担するものとする。
※ 共同研究による共有特許権を大学は積極的に他の企業等へライセンス活動をすることはございません。
その理由は、共同研究先企業が権利者である当該共有特許権のライセンスを競合する他の企業等が希望するとは考え難く、仮に他の企業等が希望したとしても、共同研究先企業の同意を必要とする等の制約があることからライセンス活動が実質困難であるためです。
その結果、大学は、共同発明について共同出願をしても収益を得ることができないことから、知的創造サイクルを回すことができず、共同発明の権利取得自体に意義を見出せない状況にあります。
また、企業の知財戦略から防衛出願等も少なからずあり、その全てについて大学が自己資金を用いて共同出願することは公共性に反しており、社会に対する説明責任を果たすことができません。
従いまして、大学は、共同研究における共同発明につきましては、研究成果を公開等により社会に還元する大学の責務に基づき、積極的に特許出願するのではなく論文等で公開することにより広く社会の利用に供することが社会の利益に資するものと考え、これを方針と致します。
しかしながら、企業が事業化の観点から共同発明の権利化を希望される場合は、大学は特許出願に協力させていただきます。(特許法第38 条)ただし、上記の方針であることから、共同出願に係る手続きと費用は企業にて全てご負担願います。
第4 項 甲又は乙は、自己に属する研究担当者等が本共同研究の実施に伴い単独で発明等を行ったときは、自己の単独所有とし、単独で出願等の手続きを行うものとするが、当該発明等(著作物及びノウハウを除く。)についての出願等の前に相手方の確認を得るものとする。この場合、特許等費用は、原則として出願等を行おうとする者が負担するものとする。
※ 特許を受ける権利は本来、特許法第 29 条により原始的に発明者に帰属しておりますが、大学は(企業
も)、特許法第35 条に基づく職務発明に関する内規により自己の研究担当者から当該権利を承継しております。なお、当該承継に伴う自己の発明者への補償は、当該内規により自己負担します。
第15 条(国外出願)
前条の規定は、日本以外の国又は地域における発明等(著作物及びノウハウを除く。)についての登録出願、権利保全についても適用する。
※ 外国での権利化につきましては、特許を受ける権利は国毎に発生し、その他の点において国内の特許を
受ける権利と変わるところはございませんので、国内の特許を受ける権利と同様の取扱いとさせて頂きます。
第16 条(優先実施)
第1 項 (甲の発明等の乙の優先交渉権)
乙は、第 14 条第 4 項の規定により甲に承継された知的財産権(以下、「甲の知的財産権」という。)に係る発明等(著作物及びノウハウ並びに本条第3 項に規定するものを除く。以下、「甲の発明等」という。)について、出願等の翌日から起算して1年間、譲渡又は独占的若しくは非独占的実施権の許諾を甲から受けるための優先交渉権を有するものとし、甲は、当該期間中は甲の知的財産権を乙以外の者に実施許諾できないものとする。
※ 大学単独に帰属する特許も共同研究の成果であることから、企業の事業化活用を優先させていただきま
す。このため、出願後1年間は、企業での特許活用に関する検討や、実施許諾条件に関する大学との優先交渉のための期間とさせていただきます。企業は、この優先交渉期間中に大学単独の特許を①独占的に実施するか、②通常実施するか、③有償譲渡を受けるか、④実施しないかをご検討ください。
第 2 項 甲は、前項に掲げる乙との優先交渉の結果、甲の発明等について乙から独占的に実施することの通知を受けた場合は、出願等の翌日から起算して3年間、乙に独占的に実施する権利を許諾するものとし、別途実施契約を締結してこれを定める。なお、乙から当該独占的実施期間を延長したい旨の申し出があった場合には、延長する期間について甲乙協議の上、実施契約を更新するものとする。
※ 大学単独に帰属する特許について、優先交渉の結果、企業が独占実施を選択したときは、出願後3 年間、
独占実施を許諾いたします。
第3 項(共有特許の独占実施)
乙は、共有知的財産権に係る共同発明等(著作物及びノウハウを除く。)を、知的財産権を受ける権利が生じたときから、独占的に実施することができるものとし、甲は、学術研究の目的で自ら実施する場合を除き、共同発明等を実施しないものとする。
※ 共有知的財産権は、第 14 条第 3 項に規定するとおり、企業の希望で出願した権利ですので、企業が独
占的に実施してください。
なお、企業が独占実施を望まれない場合には、大学は、自由に第三者にライセンスできるものとさせていただきます。研究成果が広く世の中で実施されることが、社会の利益になると考えるからです。この場合、別の共同研究契約雛形(非独占型)を用意しておりますのでその旨お申し出ください。
第17 条(第三者への実施許諾)
乙は、共有知的財産権を、当該共同発明等について出願等したときから、第三者に対し実施許諾(クロスライセンスを含む。)をすることができるものとする。
※ 共有知的財産権は、企業のみが活用しますので、第三者実施許諾についても、大学の同意不要で企業の
判断のみで実施許諾することができます。なお、大学は第三者への実施許諾は行いません。
第18 条(甲のバックグランド知的財産の乙の実施)
第1 項-第3 項 共同研究実施期間中の大学のバックグランド知的財産権の企業への許諾に関する条項第4 項 共同研究完了後の大学のバックグランド知的財産権の企業への許諾に関する条項
※ 第 22 条の情報交換に際して、秘密情報として大学から企業に開示した情報であって、大学が本共同研
究以前から保有しているノウハウや著作xxのバックグランド知的財産に関して、本共同研究成果である発明等を企業が実施するに当たり、当該バックグランド知的財産の実施が必要となる場合を想定し、企業が希望した場合は、これを許諾するよう新たに規定しました。
バックグランド知的財産権の開示及び実施許諾が共同研究の実施上マストである場合、原則として有償とさせていただきますが、この場合、共同研究申込時に弊学の担当コーディネータにご連絡いただき、事前に実施許諾の条件についてご相談願います。
また、共同研究完了後引き続きバックグランド知的財産権の実施を希望されるときは、これを許諾しますので、別途協議により実施許諾契約を締結していただきます。
第19 条(持分の譲渡)
第1 項(甲の持分の乙の優先的譲受)
乙は、甲の知的財産権又は共有知的財産権の甲の持分の全て又はその一部について優先的に有償譲渡を受けることについて、甲に協議の申入れをすることができるものとし、協議が成立した場合は、別に定める譲渡契約により、これを行う。
※ 共同研究成果に係る知的財産権は、企業による事業化を優先するため、企業が希望するときは大学の持
分を有償で譲渡いたします。その場合、譲渡後の持分割合や譲渡対価については協議により決定させていただきます。
第2 項(甲の持分譲渡後の通常実施)
甲及び本共同研究の甲の研究担当者であって甲の所属を離れ他の大学等の教育研究機関に所属することとなった者は、前項の規定により甲の知的財産権又は共有知的財産権の甲の持分の全てを乙に譲渡した以後においても、学術研究の目的に限り、甲の発明等及び共同発明等を実施できるものとする。
※ 本条第1 項の結果、大学が特許権を持たなくなった場合においても、利益を生まない学術研究の為の自
己実施をお認めいただくため本項を規定しております。
特許法第 69 条に定める試験研究の例外について、大学での学術研究のための実施が必ずしも適用されるとは限らないと考えております。(大学の学術研究のための実施は、商業的な利益を生まなくとも、「業」としての実施であるとの解釈が科学技術・学術審議会 第24 回WG で示されております。)
大学の研究者は、自身の研究テーマを生涯探究する必要のあることから、その過程において共同研究を行ったために、その後の研究の障害となることを避けるため、このように規定しております。
特許法第 69 条の解釈については、少々長くて恐縮ですが、2004年2月に開催された科学技術・学術審議会 技術・研究基盤部会 第24 回WG で検討された内容について、以下のとおり科学新聞社の記事を引用させていただきます。
引用ここから--------------------------------------------------------
科学技術・学術審議会 技術・研究基盤部会 産学官連携推進委員会(委員長=xxxx国立情報学研究所長)は2月26日、第24 回の会合を開催した。
すでに知的財産化された技術を大学で研究目的で実施する場合に、その行為が権利侵害にあたるかなど
「試験・研究の例外」に関する審議が進む特許庁産業構造審議会での状況を、xxx特許庁技術調査課長が説明。“業として”大学が実施する研究は特許権侵害に該当する(特許法第68 条)が、技術の進歩・改良
を目的した場合、同第69 条第1 項が適用されて特許権の効力が及ばない範囲と解釈される見解を示した。同第 69 条第 1 項は、「試験又は研究」のためにする実施には特許権の効力が及ばないと規定している。
問題は「試験又は研究」の具体的内容で、特許性の調査や機能調査、改良・発展を目的にした“技術の進歩”に関わる試験が同項に適用される。技術の進歩に関わらない大学での研究・試験は、非営利目的であっても“業として”の行為のため、特許権の効力はおよぶことになるという。
大学はこのため、文献の引用の手順と同様に、特許権に触れるかどうかを調べる必要があり、特許権の実施に該当する場合に権利者からのライセンスを受けることになる。
ただ、南技術調査課長は「大学での研究の円滑な促進のため、また事業化の意志がないことを権利者との間で契約するなどで事実上、ロイヤリティフリーに近い契約ができると解釈される」と述べた。
引用ここまで--------------------------------------------------------
第20 条(実施料)
第2 項(共有特許に係る不実施補償)
乙は、共同発明等を実施しようとするときは、共同発明等に係る乙の独占実施を甲が許諾(第16 条第3
項、第 17 条)したことへの甲への補償(以下、「不実施補償」という。)として、別に実施契約で定める対価を甲に支払う。
※ 企業が共同発明の実施に至った場合は、大学が企業に独占実施を許諾した対価を、「不実施補償」として
頂きます。
また、企業がライセンス等により収益を得た場合は、大学の持分に応じた実施料を頂きます。
社会の利益よりも一企業の利益を優先し、独占実施を認めたことにより生じた利益のアンバランスを、不実施補償等を頂くことで社会の利益となる新たな研究を行い、知xxxサイクルを回すことにより是正したいと考えます。
第21 条(不実施補償からの控除)
乙は、前条第2 項の不実施補償の支払い及び同条第4 項の実施料の配分に際して、乙が既に負担した特許等費用のうち甲の持分に相当する額を控除することができる。
※ 企業が共有発明を実施する際に発生する大学への不実施補償料から、企業が既にご負担頂いた特許費用
のうち、大学持分相当額を控除することができます。
第22 条(情報交換)
第3 項 甲及び乙は、本共同研究の進捗状況に関する情報交換のため、定期的に打ち合わせ会を開催する。
※ 新設 共同研究の計画的な実施のため、情報交換会を定期的に開催するよう規定しました。打ち合わせ
会を開催する頻度は、企業の必要に応じて大学の研究担当者とご相談の上お決めください。なお、打ち合わせの議事録の作成は企業にてお願いいたします。
第23 条(秘密の保持)各条文省略
※ 第1 項について、秘密情報の範囲を明確にしました。
※ 第2 項について、個人情報の取扱について秘密情報に準ずるよう規定しました。
※ 第3 項について、秘密情報と個人情報の管理期間を個別に規定しました。
第25 条(研究協力者の参加)各条文省略
※ 第3 項について、研究協力者による契約違反・過失は、研究協力者を参加させた大学または企業が、直
接責任を負うよう規定しました。
※ 第4 項について、研究協力者が行った発明等に係る知的財産権は、研究協力者を参加させた大学または企業が譲り受けるために必要な措置を規定しました。
第26 条(反社会的勢力の排除)条文省略
※ 新設 反社会的勢力の排除について規定しました。
第27 条(輸出管理)条文省略
※ 新設 安全保障輸出管理の観点から、共同研究で相互に開示された情報について、外為法他、関連法令
を大学および企業が遵守するよう規定しました。