Contract
写真家のための契約マニュアル
著作権契約の基礎知識
ここでいう、著作物を「写真」、著作者・権利者を「写真家」と読み替えると理解しやすいかもしれません。
作成にあたっては、文化庁の許諾のもと「誰でもできる著作権契約マニュアル」を写真家向けにアレンジしています。*
1.著作権について
(1)著作物を創作した者が著作者です。
☆著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」です。つまり人間の考えや思いを創作的に表現したものです。
☆著作者とは、「著作物を創作した者」です。写真・原稿・ビデオ等の作成依頼の場合は依頼
を受けて作成した者、公募の場合は作品を作り応募した者が著作者となります。
☆報酬や対価、制作費、謝金、賞金等が支払われていても、依頼者や主催者が著作者になるわけではありません(依頼者や主催者を著作者とする旨の契約を結んだとしても、依頼者や主催者が著作者になることはできません。)
(2)著作者は自分の作った著作物を無断で利用されない権利を持っていますので、著作物を利用する場合は、原則として著作者の了解が必要です。
☆著作者は、自分が作った著作物について、無断で利用されない権利(利用してよいかどうかを決定することができる権利)である著作権(財産権)を持っています。
☆次のような場合は、原則として著作者の了解が必要です。
・写真や美術の著作物を展示する[展示権]
・著作物をコピー(複製)する[複製権]
・著作物を譲渡または貸与する[譲渡権、貸与権、頒布権]
・著作物をホームページ等へアップロードし送信する[公衆送信権、送信可能化権]
他に上演権・演奏権、上映権、口述権、翻訳権・翻案xx(二次的著作物の創作権、二次的著作物の利用権)などがあります。
(3)著作者は、自分の著作物に関して人格権を持っています。
☆著作者の持つ著作者人格権は次のとおりです。
・未公表の著作物を無断で公表されない権利 [公表権]
・著作物を公表する際に著作者名の表示方法を決定できる権利 [氏名表示権]
・著作物の内容(トリミング、色調、合成等)
・題号を意に反して改変されない権利 [同一性保持権]
(4)写真、書籍、絵画等を購入しても著作権を得たことにはなりません。
☆「著作権」と「所有権」は別の権利です。写真、書籍、絵画等を購入した場合、それらの所有者になることができますが、その中に含まれている著作物の著作権が譲渡されたことには
なりません(したがって、購入者は、例外を除き、権利者の了解を得ずに、写真、書籍、絵画をコピーしたり、インターネットでの配信はできません)。著作権の譲渡をするには別途契約が必要になります。
(5)著作権はxxxxxxが、著作者人格権は譲渡できません。
☆財産的な権利である著作権は、譲渡することができます(権利を持っている人を著作権者といいます)。
☆一方、人格的な権利である著作者人格権は譲渡できないことになっています(著作者人格権を譲渡する旨の合意をしてもその合意は無効になります)。
2.契約について
(1)契約とは、法的な拘束力を持った合意のことです。
☆契約が有効に結ばれると、相手方に対して単に道徳的に「約束を守れ」といえるだけでなく、裁判を通じて強制的に約束の内容を実現させたり、相手方の約束違反によって被った損害の賠償を請求することができます。
(2)契約の内容等は当事者が自由に決めることができます。
☆契約の内容等は当事者が自由に決めることができます(契約自由の原則)。つまり、契約を結ぶかどうか、誰と契約を結ぶか、どんな内容の契約を結ぶか、どのような方式で契約を結
ぶか等は、原則として当事者が自由に決めることができます。
☆ただし、一定の場合には、この原則が制限される場合もあります。
・いわゆる「強行規定」に違反する内容の契約は無効になります。たとえば契約書で実際に著作物を創作していない者を「著作者」とすることを規定しても、その規定は無効です。
・契約の中に法的に無効な条項があっても常に契約全体が無効になるわけではなく、その条項の効力が認められないにとどまるのが原則です。ただし、無効な条項が契約の本質的内容になっている場合には、契約全体が無効になることもあります。
(3)契約書の作成は契約成立の要件ではありません。
☆契約は、原則として当事者の合意のみで成立しますので、契約書の作成は契約成立の要件ではありません。
☆しかし、契約書を作成せずに、口頭で契約を結んだ場合には、契約が成立したのかどうか、その内容はどうかが後で不明確になりやすいといえます。したがって、重要な契約を結ぶ場合は、契約書を作成して契約の成立およびその内容を明確にし、後に紛争が生じないよう
にするのが望ましいといえます。
☆契約書は、必ず両当事者が同一の書面に署名押印する形式で作成しなければならないわけではありません。承諾書のように当事者の一方のみが署名押印する形式や、募集要項等のように、当事者の一方のみが作成する形式で契約内容を定める場合もあります。このような場合でも両者の意思が合致する限り契約書となります。
(4)契約は、当事者の合意が成立したときにその効力が発生します。
☆契約は、当事者の一方からの申込みに対して相手方が承諾したときに成立します。
☆両当事者が離れた場所にいて、承諾の意思表示を書面の郵送によって行うような場合には、承諾の書面を発信したときに契約は成立します。
(5)契約書のタイトルや書式に決まりはありません。
☆契約書にどのようなタイトルを付けるかは当事者の自由です。「契約書」というタイトルでも、
「覚書」、「合意書」、「確認書」等といったタイトルでも、タイトルの名称だけで契約の効力が変わることはありません。
☆契約条項(条文)には、お互いに合意した契約の内容を、できるだけ明確に、誤解の生じないように具体的に規定することが求められます。内容を明確にするためには、5W1H(いつ、どこで、誰が、誰に、何を、どうやって)を明示するように心掛けるとよいでしょう。
(6)契約の当事者になれるのは
☆人は、原則として誰でも契約の当事者になれます。ただし、未xx者は親権者の同意が必要です。また、契約は代理人によって締結することもできますが、その場合、その代理人は、本人からの委任状等が必要です。
☆会社等の団体を当事者として契約を結ぶ場合には、その団体を代表して契約を締結する権限を有している人が契約締結の意思を示さなければなりません。株式会社の場合、会社を代表して契約を締結できるのは代表取締役です。そのほか、会社の支店xx(支配人)はその支店等の営業に関して、営業部の部長等はその担当する営業に関して、契約を締結する権限を有するものとされています。
(7)押印について
☆契約書への押印は契約当事者が内容を承諾し、契約を締結したことの証拠にすぎず、契約成立の要件ではありません。
☆しかし、契約書に押印がないと後々契約が成立したか否かが不明確になり、争いの種になりかねないので、契約書を作成するときには、当事者双方がしっかり署名し、必ずしも実印である必要はありませんが、押印をするべきです。
3.著作権に関する契約について
著作物を利用するための契約は、著作物の利用を許諾する契約(利用許諾契約)と、著作権の譲渡をする契約(著作権譲渡契約)の二つに大別できます。
3-1 利用許諾契約
(1)利用者は契約に定められた範囲内で著作物を利用できます。
☆利用許諾契約の場合、利用者は、契約に定められた利用方法や条件の範囲内で著作物を利用することができます。
☆たとえば、著作物をコピー(複製)してよいとの了解を得ただけでは、ホームページにアップロードすることはできません(ホームページにアップロードすると、アクセスがあれば著作物を自動的に送信することになるため、別途自動公衆送信について著作権者の了解が必要です)。
(2)著作物を利用する権利は、著作権者の承諾を得ない限り譲渡できません。
☆著作権者にとって誰が著作物を利用するかは大きな関心事であるため、契約の範囲内で了解を得た著作物を利用することのできる権利(地位)を第三者に譲渡するには、著作権者の承諾が必要とされています。
(3)利用者がさらに第三者に対して著作物の利用を許諾するためには、権利者と合意し、その旨を規定する必要があります。
☆利用許諾契約は、通常、契約当事者に対して著作物の利用を認めるものであり、利用者が第三者の利用についての了解を与えることまで認めるものではありません。そのため利用者が第三者の利用に了解を与える必要がある場合には、契約書にその旨規定しておくことが必要です。
(4)独占的に利用したい場合は、その旨規定する必要があります。
☆利用許諾契約には、独占的な利用許諾契約と非独占的な利用許諾契約があります。独占的利用許諾契約とは、著作権者が、その利用者以外の者に対しては利用の了解を与えてはいけないという義務を負う契約であり、非独占的利用許諾契約とは、そのような義務を負わない契約です。特に規定されていないときは、原則として、非独占的利用許諾契約となります。
☆利用者が、写真等のインターネット有料配信を計画しており、同じ写真等を他者がインターネット配信しては困る様なケースなどでは、独占的利用許諾契約を結ぶことがあります。また、独占的利用許諾契約の場合には、著作権者自身が利用することを認める場合と認めない
場合がありますので、著作権者自身の利用も認めない場合はその旨規定する必要があります。
(5)使用料の支払いについて規定するようにしましょう。
☆著作物の利用の対価として、使用料、支払方法、支払時期等を明記する必要があります。無償の場合はその旨を明記しましょう。
☆使用料の支払方法としては様々なものが考えられます。支払方式は一括払い、印税方式等あります。印税方式の場合は、算定の基礎となる販売価格はいくらにするか、印税率は 何%か、部数は製造部数か実売部数か、最低保証金(ミニマム・ギャランティ)を設けるか等についても、決定しておく必要があります。また、支払方法一般の問題として、いつ支払うか(支払期日)、お金はどのように支払うか(現金払いにするのか、口座振込にするのか、その場合の振込手数料は誰が負担するのか)、税金の取扱いはどのようにするか等につき、取り決めておく必要があるでしょう。
(6)契約期間は必要に応じて規定しましょう。
☆一定期間反復して著作物を利用する場合は、双方に誤解が生じることのないよう、契約期間(利用可能期間)を規定するようにしましょう。契約期間を定めてないと契約の終了時期を
めぐりトラブルになることもありますので注意しましょう。
☆契約期間の満了の際に、当事者から異議のない場合には、自動的に契約が更新される旨の条項(自動更新条項)が設けられることもあります。
(7)利用の了解を得た者が著作権侵害をした者を訴えることは原則としてできません。
☆利用の了解を得た者は著作権者ではないため、第三者が著作権者に無断でその著作物を利用した(著作権を侵害した)としても、自らその利用の差し止め等を求めることは原則としてできません。著作権者が差し止め等を求めることになります。
3-2 著作権譲渡契約
(1)著作物の創作を依頼され、報酬を受けても、著作権を譲渡したことにはなりません。
☆著作権譲渡の希望があった場合は、契約書に譲渡金額、条件等を明記する必要があります。ただし、著作者人格権の譲渡はできません。
(2)著作権が譲渡されると、譲受人は著作物を自由に利用したり、他人の利用を了解することができるようになりますが、譲渡人は著作者であっても譲受人の了解を得られないと著作物を利用できなくなります。
☆著作権が譲渡されると譲受人が著作権者になるため、譲受人が著作物を自分で利用できるだけでなく、他人が著作物を利用することを了解することも可能になりますし、権利侵害が発生した場合には、その利用の差し止め等を求めることもできます。また、著作権を再譲渡することもできます。
☆逆に、譲渡人は、譲受人(著作権者)の了解がなければ、たとえ著作者であっても、その著
作物を利用することができなくなりますし、類似した著作物を作成することが制約されることも考えられます。
☆したがって、著作権の譲渡は慎重にする必要があります。譲渡人が将来一定の利用や類似作品の創作を予定しているのであれば、譲渡に際し、これらの了解を併せて得ておくなどの方法が考えられます。
(3)譲渡する著作権の範囲を明確にする必要があります。
☆「著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる」(第 61 条第 1 項)ため、著作権譲渡契約では、著作権のどの範囲を譲渡するのか明確にする必要があります。
☆著作xxには「使用権」や「利用権」という名前の権利はありません。契約書においては、著作xxに規定されている権利の名称を使うなどして、譲渡対象を明確にしてください。
(4)二次的著作物に関する権利を譲渡する場合は、その旨明記する必要があります。
☆著作権を譲渡する契約において、二次的著作物に関する権利(二次的著作物を創作する権利および二次的著作物を利用する権利)が譲渡の目的として特に明記されていないときは、譲渡の対象でないと推定されます(第 61 条第 2 項)。
☆そのため、二次的著作物に関する権利(著作xx第 27 条および第 28 条に規定されている権利)も譲渡の対象とする場合には、その旨を契約書に明記しておきましょう。
4.その他契約書に盛り込まれることのある事項
4-1 契約違反があった場合の措置
(1)損害賠償について
☆相手方の契約違反により損害を被ったときは、相手方にその損害の賠償を請求することができます。
☆契約違反が金銭債務の不履行である場合には、損害賠償の額は、原則として法定利率(会社等
の商人の場合には 6%、それ以外の場合には 5%)によって計算されます。
☆契約違反があった場合に賠償すべき損害の額や率をあらかじめ契約で定めておくことができます(ただし、法律で制限されている場合があります)。損害の予定額等を契約で定めておくと、相手方に契約違反があったことだけを証明すればその予定額の賠償を請求できるようになり、実際に
どのような損害が発生したかについて証明する必要がなくなります。
(2)契約解除について
☆相手方が、契約で決められた期限までに決められた義務を履行しない場合(契約で定めたことを守らない場合)、相当な期間を定めて相手方に履行するよう求め、その期間内に義務が履行されないときは、契約を解除することができます。
☆契約が解除されると、契約がはじめから無かったことになります。ただし、継続的な著作物の利用を許諾する契約のような場合には、解除の効力は過去にはさかのぼらず、将来に向かって発生します。
4-2 裁判管轄について
☆その契約に関して争いが生じたときに、どこの裁判所で裁判を起こすかを当事者の合意で定めることができます。この場合、当事者が裁判所に関する合意をしたことを契約書に明記しておく必要があります。
4-3 契約上の権利義務の譲渡について
☆著作権者から了解を得て著作物を利用する権利は、著作権者の承諾を得ない限り、第三者に譲渡することができません(著作xx第 63 条第 3 項)。
4-4 秘密保持に関する定め
☆契約に関して知り得る個人情報や営業情報、xxxx等の秘密情報に関し、これを秘密として守るよう義務を負わせることがあります。
4-5 契約内容の変更について
☆契約内容を後で変更することは、契約を締結する場合と同様に口頭でもできます。また、契約内容の変更は文書で行わなければならないと定めることもできます。
4-6 協議事項について
☆契約を締結した後に、契約を結ぶ段階では想定していなかったことが起きることがあります。このような場合に備えて、以下のように定めることがあります。
規定例:第○条(協議事項) 本契約に定めのない事態が生じた場合は、甲乙間で誠意をもって協議し、解決にあたるものとします。
*注 「著作権契約の基礎知識」は、文化庁「誰でもできる著作権契約マニュアル」を文化庁著作権
課の許諾のもと使用しております。
文化庁「誰でもできる著作権契約マニュアル」