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[15] アルバイトの競合店での副業を理由とする期間途中解雇
(個別)
(1 ) 労xxは、「使用者は、期間の定めのある労働契約 について、やむを得ない事由がある場合でなければ、 その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」( 17 条 1 項) と規定している。
(2 ) 「 やむを得ない事由」 とは、 一般的にいえば、 当該契約期間は雇用するという約束があるにもかかわらず、 期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由ということとなる。
(3 ) 裁判例では、就業規則で副業を禁止していた場合であっても、「職場秩序に影響せず、 かつ、 使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・ 態様の二重就職については、 兼職( 二重就職) を禁止した就業規則の条項には実質的には違反しない」 と判示している( 上智学院( 懲戒解雇) 事件― 東京地判平 20 ・12 ・5 )。
(4 ) 副業が認められていた本件の場合、副業をしたこと だけをもって「やむを得ない解雇事由」 と言うことは難しく、 競合店で副業したことにより会社に対して重大な損害を与えた事実等が認められなければ、「やむを得ない解雇事由」と言うことはできないと考えられる。
事件の概要
1 申請者 : ○1 労 2 使 3 双方 4 その他
2 調整申請に至るまでの経過
申請者Xは、平成○年 4 月にYが経営するコンビニエンスストアで 1 年間の有期雇用契約のアルバイトとして雇用された。勤務態度は良好で働きぶりが認められ、一部商品の発注や廃棄などの業務を任されるようになり、アルバイトのリーダー的な存在となっていた。
Xは、8 月から、近隣の他のコンビニエンスストアでもアルバイトを始めた。10 月にそのことを知ったYは、競合店での副業は認められないとして、Xに対しどちらかの店を辞めるよう迫ったところ、Xは競合店を辞めるつもりはないと回答したため、10 月 31 日に 11 月 30日付けの解雇を通知した。
Xは、雇用契約開始前に副業が可能であることは確認済みであったことから、このような
解雇は不当であるとし、本来の雇用契約終了までに得られるであろう給与相当分の支払を求め、あっせんを申請した。
3 主な争点と労使の主張
争点 競合店での副業の発覚を理由とする解雇
労働側主張 | 使用者側主張 |
・ アルバイトとして雇用されており、副業は禁止されていないことを確認のうえ就業した。 ・ 副業が他のコンビニ店であるといえども認められるべきであり、このようなことを理由に解雇するのは不当である。 | ・ アルバイトであるが、シフトリーダーとして他のアルバイトを指導する中心的存在である。 ・ 一部商品の発注、廃棄を任しており、新製品情報など重要な情報にも触れる立場にある。 このような者が競合他店で副業することを許すことはできない。 他店を選択するか否か検討する猶予を与え ており、さらに、30日前に解雇予告している。 |
4 調整開始より終結に至るまでの経過(用いた調整手法)
事前の事務局調査では、Xから「気に入った職場であった」、Yからは「仕事ぶりを評価し、リーダーに抜擢した。時給も上げた」等の話があり、職場復帰による解決も期待したが、実際のあっせんでは、Xは「顔を合わせたくない」、Yも「再雇用は全く考えられない」ということであった。なお、Xの意を汲み、あっせんは開始から終結まで、XとYを完全に分けて実施した。
あっせんでは、あっせん員が、X、Yの順にそれぞれの主張を確認した。
その後、あっせん員からYに対し、労xx 17 条 1 項により有期契約労働者の契約期間途中の解雇はやむを得ない事由がある場合を除きできないこと、本件解雇にそのような事由があるとは認められず解雇権濫用の可能性が高いことを説明したところ、Yは非を認め、解雇の翌日から契約期間満了までに支払われるはずであった給与相当分を解決金とすることでYが了承したため、事件は解決した。
5 あっせん案の要旨及び案の内容を決めた背景・理由
(あっせん案要旨)
Yは、Xに対し、解雇の翌日から契約期間満了までに支払われるはずであった給与相当分を解決金として支払うこと。
解 説
(1) 本事件は、アルバイト(有期契約労働者)が競合店で副業したことを理由とする契約期間途中の解雇をめぐる事案であり、労xx 17 条 1 項の適用が焦点となる。
労xxは、「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合で
なければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」(17条 1 項)と規定している。
労xxの前提である一般法たる民法は 628 条で、雇用契約の当事者が契約期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときには、各当事者は直ちに契約の解除をすることができることしている。同条は、そもそも、有期雇用(労働)契約においては、その契約期間を設定した契約意思から、期間中は原則として契約の両当事者は解約することができず、つまり、使用者は解雇できず、労働者は退職できないこととされ、ただ、「やむを得ない事由」がある場合にのみ解約できることを定めたものと解されている。そして、「やむを得ない事由」とは、相手方の強度の不誠実な行動などにより期間満了まで労働契約関係を維持することが不当と認められるほどの重大な事由を意味するものと解されてきた。
労xx 17 条 1 項は、民法 628 条の趣旨をあらためて確認し、特に、契約期間中の使用者からの解雇についてのみ規定したものであり、「やむを得ない事由」が存在しない場合の使用者による契約期間中の解雇を一切認めず、解雇は無効となると定めた強行規定と解される。
労xx 17 条 1 項の「やむを得ない事由」とは、民法 628 条の「やむを得ない事由」と同様の 内容と解され、一般的にいえば、期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ない ような特別の重大な事由と解されている。また、同条は、契約期間内は「やむを得ない事由」 がない限り解雇されないという形で労働者に期間内の雇用を保障する強行規定であることから、契約期間中であっても一定の事由により解雇することができる旨を労働者及び使用者が合意し た場合の特約の法的効力をも否定したものと解されている。同条の制定は、有期労働契約にお ける解約特約の効力に関する裁判例の混乱に決着をつけた意義をもつものと評価されている。
さらに、同条のxxが「やむを得ない事由がある場合でなければ」としていること及び立法経緯をふまえて、「やむを得ない事由がある」ことの主張立証は使用者がしなければならないと解されている。
以上のとおり、有期契約労働者の契約期間途中の解雇は、期間の定めのない労働者の解雇(客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に無効。労xx 16 条)に比べてより厳格な解雇事由が求められることに留意することが必要である。
裁判例をみると、労xxの施行前ではあるが、xx電機八幡工場(仮処分)事件(xxx決平 14・9・18 労判 840 号 52 頁)判決は、民法 628 条の強行規定性を認めたうえで、「やむを得ない事由」を厳格に解して、事業の縮小その他のやむを得ない事由が発生したときは契約期間中といえども解雇する旨定めた就業規則の解釈にあたっては、解雇が雇用期間の中途でなさなければならないほどのやむを得ない事由の発生が必要であるというべきと判示している。また、モーブッサン・ジャパン事件(東京地判平 15・4・28 労判 854 号 49 頁)においては、有期契約労働の契約期間中においていつでも 30 日前の書面による予告のうえ本件契約を終了できる旨を記載した労働契約書により契約を締結した者に対する契約期間中の解雇について、解雇の理由がやむを得ない事由(民法 628 条)に当たるとは認められないため無効と判示されている。
(2) 次に、競合店で副業をしたことが「やむを得ない解雇事由」と言えるかが問題となる。
実務上、就業規則で副業を禁止したり、許可制にしたりすることが広く認められるが、そも
そも、所定の労働時間以外の時間をどのように利用するかは労働者の自由であり、職業選択の自由も保障されていると解され、その法的効力が直ちに認められるとは言えない。しかし、他方、労働契約上、労働者は労働時間以外においても従業員としての地位・身分による規律に従う義務をも負っていることなどから、就業規則上の副業禁止規定や許可規定は、この義務を定めた規定であると解される。
したがって、就業規則上の副業禁止規定等は、本来、労働時間外の兼職が労働者の自由であるべきことを踏まえれば、この自由を不当に制約しない範囲でのみ法的効力が認められることとなる。具体的には、①兼職の目的、②態様、③期間に即して、労働契約上の本来の業務遂行を不能又は困難とする場合、あるいは企業秩序を著しく乱すような場合のみが許可制違反に当たると解される。
上智学院(懲戒解雇)事件(東京地判平 20・12・5 労判 981 号 179 頁)では、「就業規則は使用者がその事業活動を円滑に遂行するに必要な限りでの規律と秩序を根拠づけるにすぎず、労働者の私生活に対する一般的支配までを生ぜしめるものではない。兼職(二重就職)は、本来は使用者の労働契約上の権限の及び得ない労働者の私生活における行為であるから、兼職(二重就職)許可制に形式的には違反する場合であっても、職場秩序に影響せず、かつ、使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就職については、兼職(二重就職)を禁止した就業規則の条項には実質的には違反しないものと解するのが相当である。」と判示されている。この他兼職禁止規定違反を理由とした解雇を無効とした裁判例としては、国際タクシー事件(福岡地判昭 59・1・20 労判 429 号 64 頁)、十和田運輸事件(東京地判平 13・6・ 5 労経速 1779 号 3 頁)などがある。
一方、労務提供に支障をきたす程度の長時間の二重就職(xx建設事件―東京地決昭 57・11・ 19 労判 397 号 30 頁)や、競業会社の取締役への就任(東京メデカルサービス事件―東京地判平 3・4・8 労判 590 号 45 頁)、使用者が従業員に特別加算金を支給しつつ残業を廃止し、疲労回復・能率向上に努めていた期間中の同業会社における労働(昭和室内装備事件―福岡地判昭 47・10・20 労判 164 号 51 頁)、病気による休業中の自営業経営(ジャムコ立川工場事件―東京地xxxx判平 17・3・16 労判 893 号 65 頁)などが、解雇事由に相当する二重就業とされている。
ただし、本件の場合、Xは雇用契約開始前に副業が可能であることを確認している。コンビニエンスストアのアルバイトの場合、副業は認められていることが多く、本件も同様と考えられるが、その場合、あらかじめ認められていた副業をしたことだけをもって「やむを得ない解雇事由」と言うことは難しく、競合店で副業したことによりYに対して重大な損害を与えた事実等が認められなければ、「やむを得ない解雇事由」と言うことはできないと考えられる。
(3) 本事件は、アルバイト(有期契約労働者)が競合店で副業したことを理由とする契約期間途中の解雇をめぐる事案である。あっせん員からYに対し、労xxの規定によれば本件解雇は解雇権濫用の可能性が高いことを説明したところ、Yは非を認めたため、Xの主張した解決金の金額で解決した事例である。
(参照すべき法令)
民法
(やむを得ない事由による雇用の解除)
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
労働契約法
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
(契約期間中の解雇等)
第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
(略)
(参考となる判例・命令)
・xx電機八幡工場(仮処分)事件―xxx決平 14・9・18 労判 840 号 52 頁
・xx電機八幡工場(本訴)事件―福岡地xxx判平 16・5・11 労判 879 号 71 頁
・モーブッサン・ジャパン事件―東京地判平 15・4・28 労判 854 号 49 頁
・ネスレコンフェクショナリー関西支店事件―大阪地判平 17・3・30 労判 892 号 5 頁
・角川文化振興財団事件―東京地決平 11・11・29 労判 780 号 67 頁
・上智学院(懲戒解雇)事件―東京地判平 20・12・5 労判 981 号 179 頁
・国際タクシー事件―福岡地判昭 59・1・20 労判 429 号 64 頁
・十和田運輸事件―東京地判平 13・6・5 労経速 1779 号 3 頁
・xx建設事件―東京地決昭 57・11・19 労判 397 号 30 頁
・東京メデカルサービス事件―東京地判平 3・4・8 労判 590 号 45 頁
・昭和室内装備事件―福岡地判昭 47・10・20 労判 164 号 51 頁
・ジャムコ立川工場事件―東京地xxxx判平 17・3・16 労判 893 号 65 頁