Contract
労働契約法のあらまし
労働契約法は、平成20年3月から施行され、平成24年8月に一部が改正されました。
このパンフレットでは、労働契約法について、条文ごとにその趣旨や内容を解説しています。
労働契約法の趣旨や内容を踏まえ、使用者と労働者の皆さまでよく話し合っていただき、お互いの十分な理解と協力の下に、安心・納得して働けるようにしましょう。
厚 生 労 働 省
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(H24.12)
<目 次>
○ 法制定の趣旨等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
【第1章 総則】
○ 目的(第1条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
○ 定義(第2条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
○ 労働契約の原則(第3条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
○ 労働契約の内容の理解の促進(第4条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
○ 労働者の安全への配慮(第5条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
【第2章 労働契約の成立及び変更】
○ 総論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
○ 労働契約の成立(第6条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
○ 労働契約の内容と就業規則の関係(第7条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
○ 労働契約の内容の変更(第8条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
○ 就業規則による労働契約の内容の変更(第9条・第10条)・・・・・・・・・・・・・・・15
○ 就業規則の変更に係る手続(第11条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
○ 就業規則違反の労働契約(第12条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
○ 法令及び労働協約と就業規則との関係(第13条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
【第3章 労働契約の継続及び終了】
○ 出向(第14条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
○ 懲戒(第15条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
○ 解雇(第16条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
【第4章 期間の定めのある労働契約】
○ 総論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
○ 契約期間中の解雇等(第17条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
○ 有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換(第18条)・・・・・・・・・・・・・30
○ 有期労働契約の更新等(第19条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
○ 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止(第20条)・・・・・・・・・・・・39
【第5章 雑則】
○ 船員に関する特例(第21条)、適用除外(第22条)・・・・・・・・・・・・・・・・・・41
【附則】
○ 施行期日(附則第1条)、労働基準法その他関係法律の一部改正(附則第2条~第6条)・・・43
【改正法附則】
○ 改正法の施行期日(第1項)、経過措置(第2項)、検討(第3項)・・・・・・・・・・・・44
【参考】
○ 参考となる主な裁判例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46
○ 関連する他の法令・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67
法制定の趣旨等
(1) 背景及び趣旨
労働関係を取り巻く状況をみると、就業形態が多様化し、労働者の労働条件が個別に決定され、又は変更される場合が増加するとともに、個別労働関係紛争が増加しています。しかしながら、我が国においては、最低労働基準については労働基準法(昭和22年法律第49号)に規定されているが、個別労働関係紛争を解決するための労働契約に関する民事的なルールについては、民法(明治29年法律第89号)及び個別の法律において部分的に規定されているのみであり、体系的な成文法は存在していませんでした。
このため、個別労働関係紛争が生じた場合には、それぞれの事案の判例が蓄積されて形成された判例法理を当てはめて判断することが一般的となっていましたが、このような判例法理による解決は、必ずしも予測可能性が高いとは言えず、また、判例法理は労働者及び使用者の多くにとって十分には知られていないものでした。
一方、個別労働関係紛争の解決のための手段としては、裁判制度に加え、平成13年10月から個別労働関係紛争解決制度が、平成18年4月から労働審判制度が施行されるなど、手続面における整備が進んできたところです。
このような中、個別の労働関係の安定に資するため、労働契約に関する民事的なルールの必要性が一層高まり、今般、労働契約の基本的な理念及び労働契約に共通する原則や、判例法理に沿った労働契約の内容の決定及び変更に関する民事的なルール等を一つの体系としてまとめるべく、労働契約法が制定されました。
労働契約法(以下「法」といいます。)の制定により、労働契約における権利義務関係を確定させる法的根拠が示され、労働契約に関する民事的なルールが明らかになり、労働者及び使用者にとって予測可能性が高まるとともに、労働者及び使用者が法によって示された民事的なルールに沿った合理的な行動をとることが促されることを通じて、個別労働関係紛争が防止され、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することが期待されるものです。
(2) 労働基準法及び個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律との関係
労働基準法は、罰則をもって担保する労働条件の基準(最低労働基準)を設定しているも のですが、法は、これを前提として、労働条件が定められる労働契約について、合意の原則 その他基本的事項を定め、労働契約に関する民事的なルールを明らかにしているものであり、その締結当事者である労働者及び使用者の合理的な行動による円滑な労働条件の決定又は 変更を促すものです。
また、労働基準法については労働基準監督官による監督指導及び罰則により最低労働基準の履行が確保されるものですが、法については労働基準監督官による監督指導及び罰則による履行確保は行われず、法の趣旨及び内容の周知により、また、法に規定する事項に関する個別労働関係紛争について、個別労働関係紛争の迅速かつ適正な解決を図ることを目的とする個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号)による総合労働相談コーナーにおける相談、都道府県労働局長による助言及び指導、紛争調整委員会によるあっせん等が行われ、その防止及び早期解決が図られることにより、法の趣旨及び内容に沿った合理的な労働条件の決定又は変更が確保されることを期するものです。
第1条 この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。
【第1章 総則】目的
【解説】 (1) 趣旨
法第1条は、法の目的を明らかにしたものです。
(2) 内容
① 法第1条は、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項として民事的効力を明らかにする規定等を定めることにより、労働者及び使用者による合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働者及び使用者の間において個別労働関係紛争が生じることのない円滑な関係の維持を図っていくこと、すなわち「労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資すること」が法の目的であることを規定したものです。
② 法第1条の「労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則」には、法第3条第1項の労使対等の原則、法第6条の労働契約の成立についての合意の原則及び法第8条の労働契約の変更についての合意の原則が含まれるものです。
③ 法第1条の「その他労働契約に関する基本的事項」には、法第3条第1項以外の法第
1章の労働契約の原則等を定める規定、法第6条及び第8条以外の法第2章の就業規則と労働契約との法的関係等を定める規定、法第3章の出向、懲戒及び解雇に関する権利濫用禁止規定及び法第4章の期間の定めのある労働契約に関する規定が含まれるものです。
④ ②及び③のような規定を法に定めることにより、法第1条の「合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われる」ことが促されることによって、個別労働関係紛争が防止されることとなり、これにより「労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資する」こととなるものです。
定義
第2条 この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。
2 この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。
【解説】 (1) 趣旨
法第2条は、法の対象である「労働契約」の締結当事者としての「労働者」及び「使用者」について、その定義を明らかにしたものです。
(2) 労働者(第1項関係)
① 法第2条第1項の「労働者」とは、「使用者」と相対する労働契約の締結当事者であり、「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」のすべてが含まれるものです。
② 法第2条第1項の「労働者」に該当するか否かは、同項に「使用者に使用されて」と規定されているとおり、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素を勘案して総合的に判断し、使用従属関係が認められるか否かにより判断されるものであり、これが認められる場合には、「労働者」に該当するものです。これは、労働基準法第9条の「労働者」の判断と同様の考え方です。
③ 民法第623条の「雇用」の労働に従事する者は、法第2条第1項の「労働者」に該当するものです。
また、民法第632条の「請負」、同法第643条の「委任」又は非典型契約で労務を提供する者であっても、契約形式にとらわれず実態として使用従属関係が認められる場合には、法第2条第1項の「労働者」に該当するものです。
④ 法第2条第1項の「賃金」とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいうものです。これは、労働基準法第11条の「賃金」と同義です。
(3) 使用者(第2項関係)
法第2条第2項の「使用者」とは、「労働者」と相対する労働契約の締結当事者であり、「その使用する労働者に対して賃金を支払う者」をいうものです。したがって、個人企業の場合はその企業主個人を、会社その他の法人組織の場合はその法人そのものをいうものです。これは、労働基準法第10条の「事業主」に相当するものであり、同条の「使用者」より狭い概念です。
労働契約の原則
第3条 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
2 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
3 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、xxに従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。
【解説】 (1) 趣旨
法第3条は、労働契約の基本的な理念及び労働契約に共通する原則を明らかにしたものです。
(2) 労使対等の原則 (第1項関係)
当事者の合意により契約が成立し、又は変更されることは、契約の一般原則ですが、個別の労働者及び使用者の間には、現実の力関係の不平等が存在しています。
このため、法第3条第1項において、労働契約を締結し、又は変更するに当たっては、労働契約の締結当事者である労働者及び使用者の対等の立場における合意によるべきという
「労使対等の原則」を規定し、労働契約の基本原則を確認したものです。これは、労働条件の決定について労働者と使用者が対等の立場に立つべきことを規定した労働基準法第2条第1項と同様の趣旨です。
(3) 均衡考慮の原則(第2項関係)
法第3条第2項は、労働契約の締結又は変更に当たり、均衡を考慮することが重要であることから、労働契約の締結当事者である労働者及び使用者が、労働契約を締結し、又は変更する場合には、就業の実態に応じて、均衡を考慮すべきものとするという「均衡考慮の原則」を規定したものです。
(4) 仕事と生活の調和ヘの配慮の原則(第3項関係)
法第3条第3項は、近年、仕事と生活の調和が重要となっていることから、この重要性が改めて認識されるよう、労働契約の締結当事者である労働者及び使用者が、労働契約を締結し、又は変更する場合には、仕事と生活の調和に配慮すべきものとするという「仕事と生活の調和への配慮の原則」を規定したものです。
(5) xxxxの原則(第4項関係)
当事者が契約を遵守すべきことは、契約の一般原則であり、「権利の行使及び義務の履行は、xxに従い誠実に行わなければならない」旨を規定した民法第1条第2項は労働契約についても適用されるものであって、労働契約が遵守されることは、個別労働関係紛争を防止するために重要です。
このため、法第3条第4項において、労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、xxに従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならないことを規定し、「xxxxの原則」を労働契約に関して確認したものです。これは、労働条件を定める労働協約、就業規則及び労働契約の遵守義務を規定した労働基準法第2条第2項と同様の趣旨です。
(6) 権利濫用の禁止の原則(第5項関係)
当事者が契約に基づく権利を濫用してはならないことは、契約の一般原則であり、「権利の濫用は、これを許さない」旨を規定した民法第1条第3項は労働契約についても適用されるものですが、個別労働関係紛争の中には、権利濫用に該当すると考えられるものもみられるところです。
このため、法第3条第5項において、労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならないことを規定し、「権利濫用の禁止の原則」を労働契約に関して確認したものです。
なお、法第3章において、出向、懲戒及び解雇に関する権利濫用を禁止する旨を規定しているが、同章で規定していない場面においても、法第3条第5項の「権利濫用の禁止の原則」が適用されるものです。
労働契約の内容の理解の促進
第4条 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
2 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。
【解説】 (1) 趣旨
労働契約は、労働契約の締結当事者である労働者及び使用者の合意のみにより成立する契約(諾成契約)ですが、契約内容について労働者が十分理解しないまま労働契約を締結又は変更し、後にその契約内容について労働者と使用者との間において認識の齟齬が生じ、これが原因となって個別労働関係紛争が生じているところです。労働契約の内容である労働条件については、労働基準法第15条第1項により締結時における明示が義務付けられていますが、個別労働関係紛争を防止するためには、同項により義務付けられている場面以外においても、労働契約の締結当事者である労働者及び使用者が契約内容について自覚することにより、契約内容があいまいなまま労働契約関係が継続することのないようにすることが重要です。
このため、法第4条において、労働契約の内容の理解の促進について規定したものです。
(2) 労働者の理解の促進(第1項関係)
① 法第4条第1項は、労働条件を提示するのは一般的に使用者であることから、使用者は労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について労働者の理解を深めるよう にすることを規定したものです。
② 法第4条第1項は、労働契約の締結前において使用者が提示した労働条件について説明等をする場面や、労働契約が締結又は変更されて継続している間の各場面が広く含まれるものです。これは、労働基準法第15条第1項により労働条件の明示が義務付けられている労働契約の締結時より広いものです。
③ 法第4条第1項の「労働者に提示する労働条件」とは、労働契約の締結前又は変更前において、使用者が労働契約を締結又は変更しようとする者に提示する労働条件をいうものです。
④ 法第4条第1項の「労働契約の内容」は、有効に締結又は変更された労働契約の内容をいうものです。
⑤ 法第4条第1項の「労働者の理解を深めるようにする」については、一律に定まるものではありませんが、例えば、労働契約締結時又は労働契約締結後において就業環境や労働条件が大きく変わる場面において、使用者がそれを説明し又は労働者の求めに応じて誠実に回答すること、労働条件等の変更が行われずとも、労働者が就業規則に記載されている労働条件について説明を求めた場合に使用者がその内容を説明すること等が 考えられるものです。
(3) 書面確認(第2項関係)
① 法第4条第2項は、労働者及び使用者は、労働契約の内容について、できる限り書面で確認することについて規定したものです。
② 法第4条第2項は、労働契約が締結又は変更されて継続している間の各場面が広く含まれるものです。これは、労働基準法第15条第1項により労働条件の明示が義務付けられている労働契約の締結時より広いものです。
③ 法第4条第2項の「労働契約の内容」については、(2)の④と同様です。
④ 法第4条第2項の「(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)」は、期間の定めのある労働契約が締結される際に、期間満了時において、更新の有無や更新の判断基準等があいまいであるために個別労働関係紛争が生じていることが尐なくないこと から、期間の定めのある労働契約について、その内容をできる限り書面により確認することが重要であることを明らかにしたものです。
「期間の定めのある労働契約に関する事項」には、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(平成15年厚生労働省告示第357号)において使用者が明示しなければならないこととされている更新の有無や更新の判断基準が含まれるものです。
なお、法第4条第1項等法の他の規定における「労働契約の内容」についても、期間の定めのある労働契約に関する事項は含まれるものです。
⑤ 法第4条第2項の「できる限り書面により確認する」については、一律に定まるものではありませんが、例えば、労働契約締結時又は労働契約締結後において就業環境や労働条件が大きく変わる場面において、労働者及び使用者が話し合った上で、使用者が労働契約の内容を記載した書面を交付すること等が考えられるものです。
労働者の安全への配慮
第5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
【解説】 (1) 趣旨
通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労働に従事するものであることから、判例において、労働契約の内容として具体的に定めずとも、労働契約に伴いxxx上当然に、使用者は、労働者を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負っているものとされていますが、これは、民法等の規定からは明らかになっていないところです。
このため、法第5条において、使用者は当然に安全配慮義務を負うことを規定したものです。
【第5条については、次の裁判例が参考になります】
○ 陸上自衛隊事件
(最高裁昭和50年2月25日第三小法廷判決。最高裁判所民事判例集29巻2号143頁)
(→P46参照)
○ xx事件
(最高裁昭和59年4月10日第三小法廷判決。最高裁判所民事判例集38巻6号557頁)
(→P47参照)
(2) 内容
① 法第5条は、使用者は、労働契約に基づいてその本来の債務として賃金支払義務を負うほか、労働契約に特段の根拠規定がなくとも、労働契約上の付随的義務として当然に安全配慮義務を負うことを規定したものです。
② 法第5条の「労働契約に伴い」は、労働契約に特段の根拠規定がなくとも、労働契約上の付随的義務として当然に、使用者は安全配慮義務を負うことを明らかにしたものです。
③ 法第5条の「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれるものです。
④ 法第5条の「必要な配慮」とは、一律に定まるものではなく、使用者に特定の措置を求めるものではありませんが、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて、必要な配慮をすることが求められるものです。
なお、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)をはじめとする労働安全衛生関係法令においては、事業主の講ずべき具体的な措置が規定されているところであり、これらは当然に遵守されなければならないものです。
【第2章 労働契約の成立及び変更】
総論
労働契約は、その締結当事者である労働者及び使用者の合意により成立し、又は変更されるものです。
一方、我が国においては、個別に締結される労働契約では詳細な労働条件は定められず、就業規則によって統一的に労働条件を設定することが広く行われています。また、労働契約関係は、一定程度長期にわたる継続的な契約関係であるのが通常であり、社会経済情勢の変化を始めとする契約当事者を取り巻く事情の変化に応じて、当初取り決めた労働契約の内容を統一的に変更する必要が生じる場合があることから、就業規則の変更により労働契約の内容である労働条件を変更することが広く行われてきたところです。
この就業規則の法的性質については、秋北バス事件最高裁判決(昭和43年12月25日最高裁大法廷判決。最高裁判所民事判例集22巻13号3459頁)において、「合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている」と判示され、また、就業規則によって労働条件を不利益に変更する効力については、「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべき」であるが、「当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者においてこれに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」と判示され、その後の累次の最高裁判決においても同様の考え方がとられ、判例法理として確立しているものです。
しかしながら、就業規則に労働契約における権利義務関係を確定させる法的効果を認める法的根拠が成文法上は存在せず、また、判例法理は、労働者及び使用者の多くにとって十分には知られておらず、どのような場合に就業規則による労働条件の変更が有効に認められるのかについての予測可能性は必ずしも高くない状況にありました。
このような状況の中で、個別労働関係紛争が多く発生していることにかんがみれば、労働契約の内容の決定及び変更の枠組みを明らかにし、実態として多く行われている就業規則の変更による労働条件の変更に当たっては、変更後の就業規則を労働者に周知させること及び就業規則の変更が合理的なものであることが必要であること等を判例法理に沿って明らかにすることにより、使用者は安易に一方的に就業規則を変更することにより労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないこと等が明らかとなり、その結果、使用者が就業規則において合理的な労働条件を定めることが促され、これにより、就業規則において不合理な労働条件が定められ、又は不合理な労働条件の変更が行われたこと等を契機とした個別労働関係紛争の防止につながることが期待されるものです。
このため、法第2章において、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという「合意の原則」を定めた上で、我が国における労務管理実務において定着している就業規則について、労働契約との法的関係等を規定することにより、労働契約の内容の決定及び変更に関するルールを明らかにしたものです。
これらの内容は、判例法理に沿って規定したものであり、判例法理を変更するものではありません。
労働契約の成立
第6条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
【解説】 (1) 趣旨
当事者の合意により契約が成立することは、契約の一般原則であり、労働契約についても当てはまるものであって、法第6条は、この労働契約の成立についての基本原則である「合意の原則」を確認したものです。
(2) 内容
① 法第6条は、労働契約の成立は労働者及び使用者の合意によることを規定するとともに、「労働者が使用者に使用されて労働」すること及び「使用者がこれに対して賃金を支払う」ことが合意の要素であることを規定したものです。
② 法第6条に「労働者が使用者に使用されて労働し」と規定されているとおり、労働契約は、使用従属関係が認められる労働者と使用者との間において締結される契約を把握する契約類型であり、労働者側からみた場合には、一定の対価(賃金)と一定の労働条件のもとに、自己の労働力の処分を使用者に委ねることを約する契約です。
③ 民法第623条の「雇用」は、労働契約に該当するものです。また、民法第632条の「請負」、同法第643条の「委任」又は非典型契約であっても、契約形式にとらわれず実態として使用従属関係が認められ、当該契約で労務を提供する者が法第2条第1項の「労働者」に該当する場合には、当該契約は労働契約に該当するものです。
④ 法第6条の「賃金」については、第2条の(2)④と同様です。
⑤ 法第6条に「合意することによって成立する」と規定されているとおり、労働契約は、労働契約の締結当事者である労働者及び使用者の合意のみにより成立するものです。したがって、労働契約の成立の要件としては、契約内容について書面を交付することまでは求められないものです。
また、法第6条の労働契約の成立の要件としては、労働条件を詳細に定めていなかった場合であっても、労働契約そのものは成立し得るものです。
労働契約の内容と就業規則の関係
第7条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。
【解説】 (1) 趣旨
我が国においては、個別に締結される労働契約では詳細な労働条件は定められず、就業規則によって統一的に労働条件を設定することが広く行われていますが、就業規則で定める労働条件と個別の労働者の労働契約の内容である労働条件との法的関係については法令上必ずしも明らかでありません。
このため、法第7条において、労働契約の成立場面における就業規則と労働契約との法的関係について規定したものです。
【第7条については、次の裁判例が参考になります】
○ 労働契約と就業規則との関係について、秋北バス事件最高裁判決
(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決)(→P48参照)
○ 秋北バス事件最高裁判決を踏襲した電電公社帯広局事件最高裁判決
(最高裁昭和61年3月13日第xx法廷判決)(→P50参照)及び日立製作所武蔵工場事件最高裁判決
(最高裁平成3年11月28日第xx法廷判決)(→P52参照)
○ 就業規則が拘束力を生ずるために周知が必要であるとしたものとして、
フジ興産事件最高裁判決(最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決)(→P60参照)
(2) 内容
① 法第7条は、労働契約において労働条件を詳細に定めずに労働者が就職した場合において、「合理的な労働条件が定められている就業規則」であること及び「就業規則を労働者に周知させていた」ことという要件を満たしている場合には、就業規則で定める労働条件が労働契約の内容を補充し、「労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件による」という法的効果が生じることを規定したものです。
これは、労働契約の成立についての合意はあるものの、労働条件は詳細に定めていない場合であっても、就業規則で定める労働条件によって労働契約の内容を補充することにより、労働契約の内容を確定するものです。
② 法第7条本文に「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において」と規定されているとおり、法第7条は労働契約の成立場面について適用されるものであり、既に労働者と使用者との間で労働契約が締結されているが就業規則は存在しない事業場にお いて新たに就業規則を制定した場合については適用されないものです。また、就業規則
が存在する事業場で使用者が就業規則の変更を行った場合については、法第10条の問題となるものです。
③ 法第7条本文の「合理的な労働条件」は、個々の労働条件について判断されるものであり、就業規則において合理的な労働条件を定めた部分については同条の法的効果が生じ、合理的でない労働条件を定めた部分については同条本文の法的効果が生じないこととなります。
就業規則に定められている事項であっても、例えば、就業規則の制定趣旨やxx精神を宣言した規定、労使協議の手続に関する規定等労働条件でないものについては、法第
7条本文によっても労働契約の内容とはならないものです。
④ 法第7条の「就業規則」とは、労働者が就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について定めた規則類の総称をいい、労働基準法第89条の「就業規則」と同様ですが、法第7条の「就業規則」には、常時10人以上の労働者を使用する使用者以外の使用者が作成する労働基準法第89条では作成が義務付けられていない就業規 則も含まれるものです。
⑤ 法第7条の「周知」とは、例えば、
ⅰ)常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
ⅱ)書面を労働者に交付すること
ⅲ)磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
等の方法により、労働者が知ろうと思えばいつでも就業規則の存在や内容を知り得るようにしておくことをいうものです。このように周知させていた場合には、労働者が実際に就業規則の存在や内容を知っているか否かにかかわらず、法第7条の「周知させていた」に該当するものです。
なお、労働基準法第106条の「周知」は、労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第52条の2により、ⅰ)からⅲ)までのいずれかの方法によるべきこととされていますが、法第7条の「周知」は、これらの3方法に限定されるものではなく、実質的に判断されるものです。
⑥ 法第7条本文の「労働者に周知させていた」は、その事業場の労働者及び新たに労働契約を締結する労働者に対してあらかじめ周知させていなければならないものであり、新たに労働契約を締結する労働者については、労働契約の締結と同時である場合も含まれるものです。
⑦ 法第7条は、就業規則により労働契約の内容を補充することを規定したものであることから、同条本文の規定による法的効果が生じるのは、労働契約において詳細に定められていない部分についてであり、「就業規則の内容と異なる労働条件」を合意していた部分については、同条ただし書により、法第12条に該当する場合(合意の内容が就業規則で定める基準に達しない場合)を除き、その合意が優先するものです。
【事業場に就業規則がある場合には、労働者の労働条件は、次のように決まります】
① 労働契約は、「労働者が使用者に使用されて労働」することと「使用者がこれに対して賃金を支払う」ことについて、労働者と使用者が合意することにより成立します。
② 労働者と使用者の合意により労働者の労働条件が決定します。
③ 労働契約において労働条件を詳細に定めずに労働者が就職した場合において、「合理的な労働条件が定められている就業規則」であることに加え、「就業規則を労働者に周知させていた」ことという要件を満たす場合には、労働者の労働条件は、その就業規則に定める労働条件によることとなります。
④ ただし、「就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分」は、その合意が優先することとなります(合意の内容が就業規則で定める基準に達しない場合を除きます)。
労働契約の内容の変更
第8条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
【解説】 (1) 趣旨
当事者の合意により契約が変更されることは、契約の一般原則であり、労働契約についても当てはまるものであって、法第8条は、この労働契約の変更についての基本原則である「合意の原則」を確認したものです。
(2) 内容
① 法第8条は、「労働者及び使用者」が「合意」するという要件を満たした場合に、「労働契約の内容である労働条件」が「変更」されるという法的効果が生じることを規定したものです。
② 法第8条に「合意により」と規定されているとおり、労働契約の内容である労働条件は、労働契約の締結当事者である労働者及び使用者の合意のみにより変更されるものです。したがって、労働契約の変更の要件としては、変更内容について書面を交付することまでは求められないものです。
③ 法第8条の「労働契約の内容である労働条件」には、労働者及び使用者の合意により労働契約の内容となっていた労働条件のほか、法第7条本文により就業規則で定める労働条件によるものとされた労働契約の内容である労働条件、法第10条本文により就業規則の変更により変更された労働契約の内容である労働条件及び法第12条により就 業規則で定める基準によることとされた労働条件が含まれるものであり、労働契約の内容である労働条件はすべて含まれるものです。
就業規則による労働契約の内容の変更
第9条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
第10条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。
【解説】 (1) 趣旨
労働契約関係は一定の期間にわたり継続するという特徴を有しており、その継続する期間においては、労働契約の内容が変更される場合が尐なくありません。
この労働契約の内容である労働条件の変更については、法第8条の「合意の原則」によることが契約の一般原則ですが、我が国においては、就業規則によって労働条件を統一的に設定し、労働条件の変更も就業規則の変更によることが広く行われており、その際、就業規則の変更により自由に労働条件を変更することができるとの使用者の誤解や、就業規則の変更による労働条件の変更に関する個別労働関係紛争もみられるところです。
このため、法第9条において、法第8条の「合意の原則」を就業規則の変更による労働条件の変更の場面に当てはめ、使用者は就業規則の変更によって一方的に労働契約の内容である労働条件を労働者の不利益に変更することはできないことを確認的に規定した上で、法第
10条において、就業規則の変更によって労働契約の内容である労働条件が変更後の就業規則に定めるところによるものとされる場合を明らかにしたものです。
これらの規定により、就業規則の変更によって生じる法的効果を明らかにし法的安定性を高めるとともに、使用者の合理的な行動を促すことを通じ、労働条件の変更に関する個別労働関係紛争の防止に資するようにすることとしたものです。
法第9条及び第10条は、以下の確立した最高裁判所の判例法理に沿って規定したものであり、判例法理に変更を加えるものではありません。
【第9条及び第10条については、次の裁判例が参考になります】
○ 労働契約と就業規則との関係について、秋北バス事件最高裁判決(→P48参照)
○ どのような場合に就業規則の変更が「合理的なものである」と判断されるのかを明らかにしたものとして、xx市農業協同組合事件最高裁判決(最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決)
(→P54参照)
○ 就業規則の変更が「合理的なものである」か否かを判断するに当たって考慮すべき7つの要素を明らかにしたものとして、第四銀行事件最高裁判決(最高裁平成9年2月28日第二小法廷判決)(→P56参照)
○ 一部の労働者のみに大きな不利益が生じる就業規則の変更による労働条件の変更事案について、就業規則の変更の合理性を否定したものとして、みちのく銀行事件最高裁判決(最高裁平成
12年9月7日第xx法廷判決)(→P58参照)
○ 就業規則が拘束力を生ずるために周知が必要であるとしたものとして、フジ興産事件最高裁判決(最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決)(→P60参照)
(2) 法第9条の内容
① 法第9条本文は、法第8条の労働契約の変更についての「合意の原則」に従い、使用者が労働者と合意することなく就業規則の変更により労働契約の内容である労働条件
を労働者の不利益に変更することはできないという原則を確認的に規定したものです。法第9条ただし書は、法第10条の場合は、法第9条本文に規定する原則の例外であ
ることを規定したものです。
② 法第9条の「就業規則」については、法第7条の(2)の④と同様です。
③ 法第9条の「労働者の不利益」については、個々の労働者の不利益をいうものです。 (3) 法第10条の内容
① 法第10条は、「就業規則の変更」という方法によって「労働条件を変更する場合」において、使用者が「変更後の就業規則を労働者に周知させ」たこと及び「就業規則の変更」が「合理的なものである」ことという要件を満たした場合に、労働契約の変更についての「合意の原則」の例外として、「労働契約の内容である労働条件は、当該変更
後の就業規則に定めるところによる」という法的効果が生じることを規定したものです。
② 法第10条は、就業規則の変更による労働条件の変更が労働者の不利益となる場合に適用されるものです。なお、就業規則に定められている事項であっても、労働条件でないものについては、法第10条は適用されないものです。
③ 法第10条の「就業規則の変更」には、就業規則の中に現に存在する条項を改廃することのほか、条項を新設することも含まれるものです。
④ 法第10条の「就業規則」及び「周知」については、法第7条の(2)の④及び⑤と同様です。
⑤ 法第10条本文の合理性判断の考慮要素
ⅰ)法第10条本文の「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更 後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況」は、就業規則の変更が合 理的なものであるか否かを判断するに当たっての考慮要素として例示したものであり、個別具体的な事案に応じて、これらの考慮要素に該当する事実を含め就業規則の変更 に係る諸事情が総合的に考慮され、合理性判断が行われることとなるものです。
ⅱ)法第10条本文の「労働者の受ける不利益の程度」については、実際に紛争となる事例は、就業規則の変更により個々の労働者に不利益が生じたことに起因するものであり、個々の労働者の不利益の程度をいうものです。
また、法第10条本文の「変更後の就業規則の内容の相当性」については、就業規則の変更の内容全体の相当性をいうものであり、変更後の就業規則の内容面に係る制度変更一般の状況が広く含まれるものです。
ⅲ)法第10条本文の「労働条件の変更の必要性」は、使用者にとっての就業規則による労働条件の変更の必要性をいうものです。
ⅳ)法第10条本文の「労働組合等との交渉の状況」は、労働組合等事業場の労働者の意思を代表するものとの交渉の経緯、結果等をいうものです。
「労働組合等」には、労働者の過半数で組織する労働組合その他の多数労働組合や事業場の過半数を代表する労働者のほか、尐数労働組合や、労働者で構成されその意思を代表する親睦団体等労働者の意思を代表するものが広く含まれるものです。
ⅴ)法第10条本文の「その他の就業規則の変更に係る事情」は、「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況」を含め就業規則の変更に係る諸事情が総合的に考慮されることをいうものです。
ⅵ)法第10条本文の合理性判断の考慮要素と判例法理との関係については、次のとおりであり、同条本文は、判例法理に沿ったものです。
○ 就業規則の変更の合理性判断に関する裁判例として、第四銀行事件最高裁判決においては、
① 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
② 使用者側の変更の必要性の内容・程度
③ 変更後の就業規則の内容自体の相当性
④ 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
⑤ 労働組合等との交渉の経緯
⑥ 他の労働組合又は他の従業員の対応
⑦ 同種事項に関する我が国社会における一般的状況
という7つの考慮要素が列挙されていますが、これらの中には内容的に互いに関連し合うものもあるため、法第10条本文では、関連するものについては統合して列挙しているものです。
具体的には、第四銀行事件最高裁判決において示された「①就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度」「②使用者側の変更の必要性の内容・程度」「③変更後の就業規則の内容自体の相当性」「⑤労働組合等との交渉の経緯」について、法第10条本文ではそれぞれ「労働者の受ける不利益の程度」「労働条件の変更の必要性」「変更後の就業規則の内容の相当性」「労働組合等との交渉の状況」として規定したものです。
このうち、法第10条の「変更後の就業規則の内容の相当性」には、就業規則の内容面に係る制度変更一般の状況が広く含まれるものであり、第四銀行事件最高裁判決で列挙されている考慮要素である「③変更後の就業規則の内容自体の相当性」のみならず、「④代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況」「⑦同種事項に関する我が国社会における一般的状況」も含まれるものです。
また、これらの考慮要素に含まれない事項についても、「その他の就業規則の変更に係る事情」という文言で包括的に表現されているものです。
また、法第10条の「労働組合等との交渉の状況」の労働組合等には、労働者の過半数で組織する労働組合その他の多数労働組合や事業場の過半数を代表する労働者のほか、尐数労働組合や、労働者で構成されその意思を代表する親睦団体等労働者の意思を代表するものが広く含まれるものであり、第四銀行事件最高裁判決で列挙されている「⑤労働組合等との交渉の経緯」「⑥他の労働組合又は他の従業員の対応」はこれに該当するものです。
したがって、法第10条の規定は判例法理に沿った内容であり、判例法理に変更を加えるものではありません。
○ xx市農業協同組合事件最高裁判決においては、「特に、賃金、退職金など労働者にとつ
て重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の 必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべ きである。」と判示されており、法第10条の規定は、この判例法理についても変更を加え
るものではありません。
○ みちのく銀行事件最高裁判決においては、秋北バス事件最高裁判決、大曲市農業協同組合事件最高裁判決及び第四銀行事件最高裁判決の判旨を引用した上で、「本件における賃金体系の変更は、短期的にみれば、特定の層の行員にのみ賃金コスト抑制の負担を負わせているものといわざるを得ず、その負担の程度も前示のように大幅な不利益を生じさせるものであり、それらの者は中堅層の労働条件の改善などといった利益を受けないまま退職の時期を迎えることとなるのである。就業規則の変更によってこのような制度の改正を行う場合には、一方的に不利益を受ける労働者について不利益性を緩和するなどの経過措置を設けること
による適切な救済を併せ図るべきであり、それがないままに右労働者に大きな不利益のみを受忍させることには、相当性がないものというほかはない。」と判示され、また、「本件では、行員の約73%を組織する労組が本件第一次変更及び本件第二次変更に同意している。しかし、Xらの被る前示の不利益性の程度や内容を勘案すると、賃金面における変更の合理性を判断する際に労組の同意を大きな考慮要素と評価することは相当ではないというべきである。」と判示されており、法第10条の規定は、この判例法理についても変更を加えるものではありません。
⑥ 就業規則の変更が法第10条本文の「合理的」なものであるという評価を基礎付ける事実についての主張立証責任は、従来どおり、使用者側が負うものです。
⑦ 法第10条本文の「当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする」という法的効果が生じるのは、同条本文の要件を満たした時点であり、通常は、就業規則の変更が合理的なものであることを前提に、使用者が変更後の就業規則を労働者に周知させたことが客観的に認められる時点です。
⑧ 法第10条ただし書の「就業規則の変更によっては変更されない労働条件」として合意していた部分については、同条ただし書により、法第12条に該当する場合(合意の内容が就業規則で定める基準に達しない場合)を除き、その合意が優先するものです。
⑨ なお、法第7条ただし書の「就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分」については、将来的な労働条件について
ⅰ)就業規則の変更により変更することを許容するもの
ⅱ)就業規則の変更ではなく個別の合意により変更することとするもの
のいずれもがあり得るものであり、ⅰ)の場合には法第10条本文が適用され、ⅱ)の場合には同条ただし書が適用されるものです。
【事業場に就業規則がある場合には、労働者の労働条件は、次のように決まります】
① 労働者と使用者の合意により、労働者の労働条件は変更されます。
② 就業規則の変更により労働条件を変更する場合には、原則として労働者の不利益に変更することはできません。しかし、使用者が「変更後の就業規則を労働者に周知させた」ことに加え、「就業規則の変更が合理的なものである」ことという要件を満たす場合には、労働者の労働条件は、変更後の就業規則に定める労働条件によることとなります。
③ ただし、「就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分」は、その合意が優先することとなります(合意の内容が就業規則で定める基準に達しない場合を除きます)。
就業規則の変更に係る手続
第11条 就業規則の変更の手続に関しては、労働基準法(昭和22年法律第49号)第89条及び第90条の定めるところによる。
【解説】 (1) 趣旨
就業規則に関する規定は、法第2章のほか、労働基準法第9章においても定められており、使用者は、就業規則に関して、法の規定の趣旨及び内容を理解するとともに、労働基準法の規定について遵守しなければならないものです。
特に、労働基準法第89条及び第90条に規定する就業規則に関する手続は、法第10条本文の法的効果を生じさせるための要件ではないものの、就業規則の内容の合理性に資するものです。
このため、法第11条において、就業規則の変更の手続は、労働基準法第89条及び第9
0条の定めるところによることを規定し、それらの手続が重要であることを明らかにしたものです。
(2) 内容
① 法第10条は、就業規則の変更により労働契約の内容である労働条件を変更することができる場合について規定していますが、法第11条は、労働基準法において、就業規則の変更の際に必要となる手続が規定されていることを規定したものです。
② 就業規則の変更の手続については、
ⅰ)労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、変更後の就業規則を所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないこと
ⅱ)労働基準法第90条により、就業規則の変更について過半数労働組合等の意見を聴かなければならず、ⅰ)の届出の際に、その意見を記した書面を添付しなければならないこと
とされているものです。
③ 労働基準法第89条及び第90条の手続が履行されていることは、法第10条本文の法的効果を生じさせるための要件ではないものの、同条本文の合理性判断に際しては、就業規則の変更に係る諸事情が総合的に考慮されることから、使用者による労働基準法第89条及び第90条の遵守の状況は、合理性判断に際して考慮され得るものです。
就業規則違反の労働契約
第12条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
【解説】 (1) 趣旨
就業規則は、労働条件を統一的に設定するものであり、法第7条本文、第10条本文及び第12条においては、一定の場合に、労働契約の内容は、就業規則で定めるところとなることを規定しているところです。
一方、就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた場合及び就業規則の変更によっては変更されない労働条件を合意していた場合には、それぞれ、法第7条ただし書及び第10条ただし書によりその合意が優先されることとなるものですが、就業規則を下回る個別の合意を認めた場合には、就業規則の内容に合理性を求めている法第7条本文及び第10条本文の規定の意義が失われ、個別労働関係紛争をも惹起しかねないものです。
このため、個別労働関係紛争の防止にも資するよう、法第12条において、就業規則を下回る労働契約の効力について規定したものです。
(2) 内容
① 法第12条は、就業規則を下回る労働契約は、その部分については就業規則で定める基準まで引き上げられることを規定したものです。
② 法第12条の「就業規則」については、法第7条の(2)の④と同様です。
③ 法第12条の「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約」とは、例えば、就業規則に定められた賃金より低い賃金等就業規則に定められた基準を下回る労働条件を内容とする労働契約をいうものです。
④ 法第12条は、就業規則で定める基準以上の労働条件を定める労働契約は、これを有効とする趣旨です。
⑤ 法第12条の「その部分については、無効とする」とは、就業規則で定める基準に達しない部分のみを無効とする趣旨であり、労働契約中のその他の部分は有効です。
⑥ 法第12条の「無効となった部分は、就業規則で定める基準による」とは、労働契約の無効となった部分については、就業規則の規定に従い、労働者と使用者との間の権利義務関係が定まるものです。
⑦ なお、労働基準法第93条については、法附則第2条による改正により、「労働契約と就業規則との関係については、労働契約法第12条の定めるところによる」旨を規定したところであり、これは、改正前と同内容です。
法令及び労働協約と就業規則との関係
第13条 就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、第7条、第10条及び前条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。
【解説】 (1) 趣旨
就業規則が法令に反してはならないこと及び労働組合と使用者との間の合意により締結された労働協約は使用者が作成する就業規則よりも優位に立つことは、法理上当然であり、就業規則は法令又は労働協約に反してはならないものです。
一方、法第7条、第10条及び第12条においては、一定の場合に就業規則で定める労働条件が労働契約の内容となることを規定していますが、就業規則が法令又は労働協約に反している場合においても当該就業規則で定める労働条件が労働契約の内容となることは適当ではありません。
このため、法第13条において、法令又は労働協約に反する就業規則の効力について規定したものです。
(2) 内容
① 法第13条は、就業規則で定める労働条件が法令又は労働協約に反している場合には、その労働条件は労働契約の内容とはならないことを規定したものです。なお、法第13 条は、労働基準法第92条第1項と同趣旨の規定であり、就業規則と法令又は労働協約 との関係を変更するものではありません。
② 法第13条の「就業規則」については、法第7条の(2)の④と同様です。
③ 法第13条の「法令」とは、強行法規としての性質を有する法律、政令及び省令をいうものです。なお、罰則を伴う法令であるか否かは問わないものであり、労働基準法以外の法令も含むものです。
④ 法第13条の「労働協約」とは、労働組合法(昭和24年法律第174号)第14条にいう「労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する」合意で、「書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印したもの」をいうものです。また、法第
13条の「労働協約に反する場合」とは、就業規則の内容が労働協約において定められた労働条件その他労働者の待遇に関する基準(規範的部分)に反する場合をいうものです。
⑤ 法第13条の「労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については」とは、事業場の一部の労働者のみが労働組合に加入しており、労働協約の適用が事業場の一部の労働者に限られている場合には、労働協約の適用を受ける労働者(労働組合法第17条及び第18条により労働協約が拡張適用される労働者を含む。)に関してのみ、法第
13条が適用されることをいうものです。
第14条 使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。
【第3章 労働契約の継続及び終了】出向
【解説】 (1) 趣旨
出向は大企業を中心に広く行われていますが、出向の権利濫用が争われた裁判例もみられ、また、出向は労務の提供先が変わることから労働者への影響も大きいと考えられることから、権利濫用に該当する出向命令による紛争を防止する必要があります。
このため、法第14条において、権利濫用に該当する出向命令の効力について規定したものです。
(2) 内容
① 法第14条は、使用者が労働者に出向を命ずることができる場合であっても、その出向の命令が権利を濫用したものと認められる場合には無効となることを明らかにする とともに、権利濫用であるか否かを判断するに当たっては、出向を命ずる必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情が考慮されることを規定したものです。
② 法第14条の「出向」とは、いわゆる在籍型出向をいうものであり、使用者(出向元)と出向を命じられた労働者との間の労働契約関係が終了することなく、出向を命じられた労働者が出向先に使用されて労働に従事することをいうものです。
③ 法第14条の「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において」とは、労働契約を締結することにより直ちに使用者が出向を命ずることができるものではなく、どのような場合に使用者が出向を命ずることができるのかについては、個別具体的な事案に応じて判断されるものです。
懲戒
第15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
【解説】 (1) 趣旨
懲戒は、使用者が企業秩序を維持し、企業の円滑な運営を図るために行われるものですが、懲戒の権利濫用が争われた裁判例もみられ、また、懲戒は労働者に労働契約上の不利益を生じさせるものであることから、権利濫用に該当する懲戒による紛争を防止する必要があります。
このため、法第15条において、権利濫用に該当するものとして無効となる懲戒の効力について規定したものです。
(2) 内容
① 法第15条は、使用者が労働者を懲戒することができる場合であっても、その懲戒が
「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には権利濫用に該当するものとして無効となることを明らかにするとともに、権利濫用であるか否かを判断するに当たっては、労働者の行為の性質及び態様その他の事情が考慮されることを規定したものです。
② 法第15条の「懲戒」とは、労働基準法第89条第9号の「制裁」と同義であり、同条により、当該事業場に懲戒の定めがある場合には、その種類及び程度について就業規則に記載することが義務付けられているものです。
解雇
第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
【解説】 (1) 趣旨
解雇は、労働者に与える影響が大きく、解雇に関する紛争も増大していることから、解雇 に関するルールをあらかじめ明らかにすることにより、解雇に際して発生する紛争を防止し、その解決を図る必要があります。
このため、法第16条において、権利濫用に該当する解雇の効力について規定したものです。
【第16条については、次の裁判例が参考になります】
○ 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると判示した日本食塩製造事件最高裁判決(最高裁昭和50年4月2
5日第二小法廷判決)(→P62参照)
(2) 内容
① 法第16条は、最高裁判所判決で確立しているいわゆる解雇権濫用法理を規定し、解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、権利濫用に該当するものとして無効となることを明らかにしたものです。
なお、法第16条は、法附則第2条による改正前の労働基準法第18条の2と同内容です。
② 法附則第2条による改正前の労働基準法第18条の2については、「解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち、圧倒的に多くのものについて使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判実務を何ら変更することなく最高裁判所判決で確立した解雇権 濫用法理を法律xxxしたもの」であり、「最高裁判所で確立した解雇権濫用法理とこれに基づく民事裁判実務の通例に則して作成されたものであることを踏まえ、解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち圧倒的に多くのものについて使用者側に主張立証責 任を負わせている現在の裁判上の実務を変更するものではない」ことが立法者の意思であることが明らかにされており、これについては法第16条においても同様です。
【第4章 期間の定めのある労働契約】
総論
期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」といいます。)については、使用者のみならず労働者のニーズもあることから、有期労働契約が良好な雇用形態となるようにすることが重要ですが、その実態をみると、契約の終了場面において紛争がみられるところです。有期労働契約の予期せぬ終了は、有期労働契約により労働する労働者(以下「有期契約労働者」といいます。)への影響が大きいことから、有期労働契約の終了場面における紛争を防止する必要があります。
このため、法第17条において、契約期間中の解雇及び契約期間についての配慮について規定することにより、有期労働契約の終了場面に関するルールを明らかにしたものです。
また、有期労働契約は、パート労働、派遣労働を始め、いわゆる正社員以外の多くの労働形態に共通してみられる特徴になっていますが、有期労働契約の反復更新の下で生じる雇止めに対する不安を解消していくことや、期間の定めがあることによる不合理な労働条件を是正していくことが課題となっていることに対処し、労働者が安心して働き続けることができる社会を実現するため、有期労働契約の適正な利用のためのルールを整備するものとして、法第18条から第20条までの規定が設けられたものです。
契約期間中の解雇等
第17条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
2 使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。
【解説】
(1) 契約期間中の解雇(第1項関係)
① 趣旨
有期契約労働者の実態をみると、契約期間中の雇用保障を期待している者が多くみられるところです。この契約期間中の雇用保障に関しては、民法第628条において、「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる」ことが規定されていますが、「やむを得ない事由があるとき」に該当しない場合の取扱いについては、同条の規定からは明らかでありません。
このため、法第17条第1項において、「やむを得ない事由があるとき」に該当しない場合は解雇することができないことを明らかにしたものです。
② 内容
ⅰ)法第17条第1項は、使用者は、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間中は有期契約労働者を解雇することができないことを規定したものです。
ⅱ)法第17条第1項の「やむを得ない事由」があるか否かは、個別具体的な事案に応じて判断されるものですが、契約期間は労働者及び使用者が合意により決定したものであり、遵守されるべきものであることから、「やむを得ない事由」があると認められる場合は、解雇権濫用法理における「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」以外の場合よりも狭いと解されるものです。
ⅲ)契約期間中であっても一定の事由により解雇することができる旨を労働者及び使用者が合意していた場合であっても、当該事由に該当することをもって法第17条第1項の「やむを得ない事由」があると認められるものではなく、実際に行われた解雇について「やむを得ない事由」があるか否かが個別具体的な事案に応じて判断されるものです。
ⅳ)法第17条第1項は、「解雇することができない」旨を規定したものであることから、使用者が有期労働契約の契約期間中に労働者を解雇しようとする場合の根拠規定になるものではなく、使用者が当該解雇をしようとする場合には、従来どおり、民法第6
28条が根拠規定となるものであり、「やむを得ない事由」があるという評価を基礎付ける事実についての主張立証責任は、使用者側が負うものです。
(2)契約期間についての配慮(第2項関係)
① 趣旨
有期労働契約については、短期間の契約が反復更新された後に雇止めされることによる紛争がみられるところですが、短期間の有期労働契約を反復更新するのではなく、当初からその有期契約労働者を使用しようとする期間を契約期間とする等により全体として契約期間が長期化することは、雇止めに関する紛争の端緒となる契約更新の回数そのものを減尐させ、紛争の防止に資するものです。
このため、法第17条第2項において、その有期労働契約により労働者を使用する目的に応じて適切に契約期間を設定するよう、使用者は配慮しなければならないことを規定したものです。
② 内容
ⅰ)使用者が有期労働契約により労働者を使用する目的は、臨時的・一時的な業務の増加に対応するもの、一定期間を要する事業の完成のためのもの等様々ですが、法第1
7条第2項は、当該目的に照らして必要以上に短い契約期間を設定し、その契約を反 復して更新しないよう使用者は配慮しなければならないことを明らかにしたものです。
例えば、ある労働者について、使用者が一定の期間にわたり使用しようとする場合には、その一定の期間において、より短期の有期労働契約を反復更新するのではなく、その一定の期間を契約期間とする有期労働契約を締結するよう配慮しなければならないものです。
ⅱ)法第17条第2項の「その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間」に該当するか否かは、個別具体的な事案に応じて判断されるものであり、同項は、契約期間を特定の長さ以上の期間とすることまでを求めているものではありません。
有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換
第18条 同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が5年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。
2 当該使用者との間で締結された1の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が6月(当該空白期間の直前に満了した
1の有期労働契約の契約期間(当該1の有期労働契約を含む2以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該2以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が1年に満たない場合にあっては、当該1の有期労働契約の契約期間に2分の1を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない。
労働契約法第十八条第一項の通算契約期間に関する基準を定める省令
(法第18条第2項の厚生労働省令で定める基準)
第1条 労働契約法(以下「法」という。)第18条第2項の厚生労働省令で定める基準は、次の各号に掲げる無契約期間(1の有期労働契約の契約期間が満了した日とその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間がある場合の当該期間をいう。以下この条において同じ。)に応じ、それぞれ当該各号に定めるものであることとする。
一 最初の雇入れの日後最初に到来する無契約期間(以下この項において「第一無契約期間」という。) 第一無契約期間の期間が、第一無契約期間の前にある有期労働契約の契約期間
(2以上の有期労働契約がある場合は、その全ての契約期間を通算した期間)に2分の1を乗じて得た期間(6月を超えるときは6月とし、1月に満たない端数を生じたときはこれを1月として計算した期間とする。)未満であること。
二 第一無契約期間の次に到来する無契約期間(以下この項において「第二無契約期間」という。) 次に掲げる場合に応じ、それぞれ次に定めるものであること。
イ 第一無契約期間が前号に定めるものである場合 第二無契約期間の期間が、第二無契約期間の前にある全ての有期労働契約の契約期間を通算した期間に2分の1を乗じて得た期間(6月を超えるときは6月とし、1月に満たない端数を生じたときはこれを1月として計算した期間とする。)未満であること。
ロ イに掲げる場合以外の場合 第二無契約期間の期間が、第一無契約期間と第二無契約期間の間にある有期労働契約の契約期間(2以上の有期労働契約がある場合は、その全ての契約期間を通算した期間)に2分の1を乗じて得た期間(6月を超えるときは6月とし、
1月に満たない端数を生じたときはこれを1月として計算した期間とする。)未満であること。
三 第二無契約期間の次に到来する無契約期間(以下この項において「第三無契約期間」という。) 次に掲げる場合に応じ、それぞれ次に定めるものであること。
イ 第二無契約期間が前号イに定めるものである場合 第三無契約期間の期間が、第三無契約期間の前にある全ての有期労働契約の契約期間を通算した期間に2分の1を乗じて得た期間(六月を超えるときは6月とし、1月に満たない端数を生じたときはこれを1月として計算した期間とする。)未満であること。
ロ 第二無契約期間が前号ロに定めるものである場合 第三無契約期間の期間が、第一無契約期間と第三無契約期間の間にある全ての有期労働契約の契約期間を通算した期間に2分の1を乗じて得た期間(6月を超えるときは6月とし、1月に満たない端数を生じたときはこれを1月として計算した期間とする。)未満であること。
ハ イ又はロに掲げる場合以外の場合 第三無契約期間の期間が、第二無契約期間と第三無契約期間の間にある有期労働契約の契約期間(2以上の有期労働契約がある場合は、その全ての契約期間を通算した期間)に2分の1を乗じて得た期間(6月を超えるときは6月とし、1月に満たない端数を生じたときはこれを1月として計算した期間とする。)未満であること。
四 第三無契約期間後に到来する無契約期間 当該無契約期間が、前3号の例により計算して得た期間未満であること。
2 前項の規定により通算の対象となるそれぞれの有期労働契約の契約期間に1月に満たない端数がある場合は、これらの端数の合算については、30日をもって1月とする。
(法第18条第2項の厚生労働省令で定める期間)
第2条 法第18条第2項の厚生労働省令で定める期間は、同項の当該1の有期労働契約の契約期間に2分の1を乗じて得た期間(1月に満たない端数を生じたときは、これを1月として計算した期間とする。)とする。
附 則
1 この省令は、労働契約法の一部を改正する法律(平成24年法律第56号)附則第1項ただし書に規定する規定の施行の日(平成25年4月1日)から施行する。
2 第1条第1項の規定は、この省令の施行の日以後の日を契約期間の初日とする期間の定めのある労働契約について適用する。
【解説】 (1) 趣旨
有期労働契約(期間の定めのある労働契約をいいます。以下同じ。)については、契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されずに終了する場合がある一方で、労働契約が反復更新され、長期間にわたり雇用が継続する場合も尐なくありません。こうした中で、有期契約労働者(有期労働契約を締結している労働者をいいます。以下同じ。)については、雇止め(使用者が有期労働契約の更新を拒否することをいいます。以下同じ。)の不安があることによって、年次有給休暇の取得など労働者としての正当な権利行使が抑制されるなどの問題が指摘されています。
こうした有期労働契約の現状を踏まえ、法第18条において、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、有期契約労働者の申込みにより期間の定めのない労働契約(以下
「無期労働契約」といいます。)に転換させる仕組み(以下「無期転換ルール」といいます。)を設けることにより、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し労働者の雇用の安定を図ることとしたものです。
(2) 内容
① 法第18条第1項は、同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間(以下「通算契約期間」といいます。)が5年を超える有期契約労働者が、使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、無期労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者が当該申込みを承諾したものとみなされ、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日の翌日から労務が提供される無期労働契約が成立することを規定したものです。
② 法第18条第1項の「同一の使用者」は、労働契約を締結する法律上の主体が同一であることをいうものであり、したがって、事業場単位ではなく、労働契約締結の法律上の主体が法人であれば法人単位で、個人事業主であれば当該個人事業主単位で判断されるものです。
ただし、使用者が、就業実態が変わらないにもかかわらず、法第18条第1項に基づき有期契約労働者が無期労働契約への転換を申し込むことができる権利(以下「無期転換申込権」といいます。)の発生を免れる意図をもって、派遣形態や請負形態を偽装して、労働契約の当事者を形式的に他の使用者に切り替えた場合は、法を潜脱するものとして、同項の通算契約期間の計算上「同一の使用者」との労働契約が継続していると解されるものです。
なお、派遣労働者の場合は、労働契約の締結の主体である派遣元事業主との有期労働契約について法第18条第1項の通算契約期間が計算されるものです。
③ 無期転換申込権は、「2以上の有期労働契約」の通算契約期間が5年を超える場合、すなわち更新が1回以上行われ、かつ、通算契約期間が5年を超えている場合に生じるものです。したがって、労働基準法第14条第1項の規定により一定の事業の完了に必要な期間を定めるものとして締結が認められている契約期間が5年を超える有期労働 契約が締結されている場合、一度も更新がないときは、法第18条第1項の要件を満たすことにはなりません。
④ 無期転換申込権は、当該契約期間中に通算契約期間が5年を超えることとなる有期労働契約の契約期間の初日から当該有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に行 使することができるものです。
なお、無期転換申込権が生じている有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に無期転換申込権を行使しなかった場合であっても、再度有期労働契約が更新された場合は、新たに無期転換申込権が発生し、有期契約労働者は、更新後の有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、無期転換申込権を行使することが可能です。
⑤ 無期転換申込権が発生する有期労働契約の締結以前に、無期転換申込権を行使しないことを更新の条件とする等有期契約労働者にあらかじめ無期転換申込権を放棄させる ことを認めることは、雇止めによって雇用を失うことを恐れる労働者に対して、使用者が無期転換申込権の放棄を強要する状況を招きかねず、法第18条の趣旨を没却するものであり、こうした有期契約労働者の意思表示は、公序良俗に反し、無効と解されるものです。
⑥ 法第18条第1項の規定による無期労働契約への転換は期間の定めのみを変更する ものですが、同項の「別段の定め」をすることにより、期間の定め以外の労働条件を変
更することは可能です。この「別段の定め」は、労働協約、就業規則及び個々の労働契約(無期労働契約への転換に当たり従前の有期労働契約から労働条件を変更することについての有期契約労働者と使用者との間の個別の合意)をいうものです。
この場合、無期労働契約への転換に当たり、職務の内容などが変更されないにもかかわらず、無期転換後における労働条件を従前よりも低下させることは、無期転換を円滑に進める観点から望ましいものではありません。
なお、就業規則により別段の定めをする場合においては、法第18条の規定が、法第
7条から第10条までに定められている就業規則法理を変更することになるものではありません。
⑦ 有期契約労働者が無期転換申込権を行使することにより、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日の翌日から労務が提供される無期労働契約がその行使の 時点で成立していることから、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日をもって当該有期契約労働者との契約関係を終了させようとする使用者は、無期転換申込権の行使により成立した無期労働契約を解約(解雇)する必要があり、当該解雇が法第16条に規定する「客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合」には、権利濫用に該当するものとして無効となります。
また、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日前に使用者が当該有期契約労働者との契約関係を終了させようとする場合は、これに加えて、当該有期労働契約の契約期間中の解雇であり法第17条第1項の適用があります。
なお、解雇については当然に労働基準法第20条の解雇予告等の規定の適用があるものです。
⑧ 有期労働契約の更新時に、所定労働日や始業終業時刻等の労働条件の定期的変更が行われていた場合に、無期労働契約への転換後も従前と同様に定期的にこれらの労働条件の変更を行うことができる旨の別段の定めをすることは差し支えないと解されます。
また、無期労働契約に転換した後における解雇については、個々の事情により判断されるものですが、一般的には、勤務地や職務が限定されている等労働条件や雇用管理がいわゆる正社員と大きく異なるような労働者については、こうした限定等の事情がない、いわゆる正社員と当然には同列に扱われることにならないと解されます。
⑨ 法第18条第2項は、同条第1項の通算契約期間の計算に当たり、有期労働契約が不存在の期間(以下「無契約期間」といいます。)が一定以上続いた場合には、当該通算契約期間の計算がリセットされること(いわゆる「クーリング」)について規定したものです。
法及び「労働契約法第十八条第一項の通算契約期間に関する基準を定める省令」(平成
24年厚生労働省令第148号。以下「基準省令」といいます。)の規定により、同一の有期契約労働者と使用者との間で、1か月以上の無契約期間を置いて有期労働契約が再度締結された場合であって、当該無契約期間の長さが次のⅰ)、ⅱ)のいずれかに該当するときは、当該無契約期間は法第18条第2項の空白期間に該当し、当該空白期間前に終了している全ての有期労働契約の契約期間は、同条第1項の通算契約期間に算入されない(クーリングされる)こととなります。
なお、無契約期間の長さが1か月に満たない場合は、法第18条第2項の空白期間に該当することはなく、クーリングされません(基準省令第2条。⑫参照)。
ⅰ)6か月以上である場合
ⅱ)その直前の有期労働契約の契約期間(複数の有期労働契約が間を置かずに連続している場合又は基準省令第1条第1項で定める基準に該当し連続するものと認められる場合にあっては、それらの有期労働契約の契約期間の合計)が1年未満の場合にあっては、その期間に2分の1を乗じて得た期間(1か月未満の端数は1か月に切り上げて計算します。)以上である場合
⑩ 基準省令第1条第1項は、法第18条第2項の「契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準」を規定したものです。具体的には、次のⅰ)から
ⅲ)までのとおりです。
なお、⑨ⅰ)のとおり、6か月以上の空白期間がある場合には当該空白期間前に終了している全ての有期労働契約の契約期間は通算契約期間に算入されません。このため、通算契約期間の算定に当たり、基準省令第1条第1項で定める基準に照らし連続すると認められるかどうかの確認が必要となるのは、労働者が無期転換の申込みをしようとする日から遡って直近の6か月以上の空白期間後の有期労働契約についてです。
ⅰ)最初の雇入れの日後最初に到来する無契約期間からxx、無契約期間とその前にある有期労働契約の契約期間の長さを比較し、当該契約期間に2分の1を乗じて得た期間よりも無契約期間の方が短い場合には、無契約期間の前後の有期労働契約が「連続すると認められるもの」となり、前後の有期労働契約の契約期間を通算します。
ⅱ)ⅰ)において、無契約期間の前にある有期労働契約が他の有期労働契約と間を置かずに連続している場合、又は基準省令第1条第1項で定める基準に該当し連続すると認められるものである場合については、これら連続している又は連続すると認められる全ての有期労働契約の契約期間を通算した期間と、無契約期間の長さとを比較します。
ⅲ)基準省令第1条第1項各号の「2分の1を乗じて得た期間」の計算において、1か月に満たない端数を生じた場合は、1か月単位に切り上げて計算した期間とします。また、「2分の1を乗じて得た期間」が6か月を超える場合は、無契約期間が6か月未満のときに前後の有期労働契約が連続するものとして取り扱います。
すなわち、次の表の左欄に掲げる有期労働契約の契約期間(ⅱ)に該当する場合は通算後の期間)の区分に応じ、無契約期間がそれぞれ同表の右欄に掲げる長さのものであるときは、当該無契約期間の前後の有期労働契約が連続すると認められるものとなります。
有期労働契約の契約期間 (ⅱ)に該当する場合は通算した期間) | 無契約期間 |
2か月以下 | 1か月未満 |
2か月超~4か月以下 | 2か月未満 |
4か月超~6か月以下 | 3か月未満 |
6か月超~8か月以下 | 4か月未満 |
8か月超~10か月以下 | 5か月未満 |
10か月超~ | 6か月未満 |
※ⅰ)からⅲ)までの説明を図示すると、36ページのとおりです。
➃ 基準省令第1条第2項は、同条第1項で定める基準に該当し無契約期間の前後の有期労働契約を通算する際に、1か月に満たない端数がある場合には、30日をもって1か月とすることを規定したものです。
また、1か月の計算は、暦に従い、契約期間の初日から起算し、翌月の応当日の前日をもって1か月とします。具体例を示すと次のとおりです。
前の契約 平成25年4月5日~同年7月15日(3か月+11日)
次の契約 平成25年8月3日~同年10月1日(1か月+29日)の場合
(3か月+11日)+(1か月+29日)
=4か月+40日
=5か月+10日 として、⑩ⅲ)の表に当てはめ、無契約期間が3か月未満であるときは前後の有期労働契約が連続すると認められます。
なお、法第18条第1項の通算契約期間の計算においても、これと同様に計算すべきものと解されます。
⑫ 基準省令第2条は、法第18条第2項の「2分の1を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間」を規定したものです。
具体的には、⑩ⅲ)と同様、1か月に満たない端数を生じた場合は、1か月単位に切り上げて計算した期間とします。すなわち、次の表の左欄に掲げる有期労働契約の契約期間の区分に応じ、空白期間がそれぞれ同表の右欄に掲げる長さのものであるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない(クーリングされる)こととなります。
有期労働契約の契約期間 | 空白期間 |
2か月以下 | 1か月以上 |
2か月超~4か月以下 | 2か月以上 |
4か月超~6か月以下 | 3か月以上 |
6か月超~8か月以下 | 4か月以上 |
8か月超~10か月以下 | 5か月以上 |
10か月超~1年未満 | 6か月以上 |
【基準省令第1条第1項を図示すると次のとおりです】
1
2
3
4
5
n-1
n
・・ ・・・・
① ② ③ ④
第一無契約期間 第二無契約期間 第三無契約期間 第四無契約期間
第n-1無契約期間
n-1
最初の雇入れ日
現在の契約
号 | 無契約期間の位置 | 次の基準を満たすときは、左欄の無契約期間の前後の有 期労働契約が連続すると認められる。 | |
一 | ①(最初の雇入れの日後最初に到来する無契約期間) | ①の期間が、1に2分の1を乗じて得た期間(★)未満で あるときは、1と2が連続すると認められる。 | |
二 | ② | 次に掲げる場合に応じ、それぞれ次に定めるものである ときは、2と3が連続すると認められる。 | |
イ | 1と2が連続すると認められる場合 | ②の期間が、(1+2)に2分の1を乗じて得た期間(★)未満であること。 | |
ロ | イに掲げる場合以外の場合 | ②の期間が、2に2分の1を乗じて得た期間(★)未満であること。 | |
三 | ③ | 次に掲げる場合に応じ、それぞれ次に定めるものである ときは、3と4が連続すると認められる。 | |
イ | 3以前の全ての有期労 働契約が連続すると認められる場合 | ③の期間が、(1+2+3)に2分の1を乗じて得た期間(★)未満であること。 | |
ロ | 2と3が連続すると認められる場合 | ③の期間が、(2+3)に2分の1を乗じて得た期間(★)未満であること。 | |
ハ | イ又はロに掲げる場合以外の場合 | ③の期間が、3に2分の1を乗じて得た期間(★)未満であること。 | |
四 | ④以降の無契約期間 | 当該無契約期間が、前三号の例により計算して得た期間 未満であること。 |
※ ★印は「6か月を超えるときは6か月とし、1か月に満たない端数を生じたときは、これを1か月として計算した期間とする。」の略。
有期労働契約の更新等
第19条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
【解説】 (1) 趣旨
有期労働契約は契約期間の満了によって終了するものですが、契約が反復更新された後に雇止めされることによる紛争がみられるところであり、有期労働契約の更新等に関するルールをあらかじめ明らかにすることにより、雇止めに際して発生する紛争を防止し、その解決を図る必要があります。
このため、法第19条において、最高裁判所判決で確立している雇止めに関する判例法理
(いわゆる雇止め法理)を規定し、一定の場合に雇止めを認めず、有期労働契約が締結又は更新されたものとみなすこととしたものです。
(2) 内容
① 法第19条は、有期労働契約が反復して更新されたことにより、雇止めをすることが解雇と社会通念上同視できると認められる場合(同条第1号)、又は労働者が有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについ て合理的な理由が認められる場合(同条第2号)に、使用者が雇止めをすることが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、雇止めは認められず、したがって、使用者は、従前の有期労働契約と同一の労働条件で労働者による有期労働契約の更新又は締結の申込みを承諾したものとみなされ、有期労働契約が同一の労働条件(契約期間を含む。)で成立することとしたものです。
② 法第19条は、次に掲げる最高裁判所判決で確立している雇止めに関する判例法理
(いわゆる雇止め法理)の内容や適用範囲を変更することなく規定したものです。
法第19条第1号は、有期労働契約が期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していた場合には、解雇に関する法理を類推すべきであると判示した東芝xx工場事件最高裁判決(最高裁昭和49年7月
22日第xx法廷判決)の要件を規定したものです。
また、法第19条第2号は、有期労働契約の期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には,解雇に関する法理が類推されるものと
解せられると判示した日立メディコ事件最高裁判決(最高裁昭和61年12月4日第xx法廷判決)の要件を規定したものです。
③ 法第19条第1号又は第2号の要件に該当するか否かは、これまでの裁判例と同様、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無などを総合考慮して、個々の事案ごとに判断されるものです。
なお、法第19条第2号の「満了時に」は、雇止めに関する裁判例における判断と同様、「満了時」における合理的期待の有無は、最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた有期労働契約の満了時までの間におけるあらゆる事情が総合的に勘案されることを明らかにするために規定したものです。したがって、いったん、労働者が雇用継続への合理的な期待を抱いていたにもかかわらず、当該有期労働契約の契約期間の満了前に使用者が更新年数や更新回数の上限などを一方的に宣言したとしても、そのことのみをもって直ちに同号の該当性が否定されることにはならないと解されるものです。
④ 法第19条の「更新の申込み」及び「締結の申込み」は、要式行為ではなく、使用者による雇止めの意思表示に対して、労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わるものでもよいものです。
また、雇止めの効力について紛争となった場合における法第19条の「更新の申込み」又は「締結の申込み」をしたことの主張・立証については、労働者が雇止めに異議があることが、例えば、訴訟の提起、紛争調整機関への申立て、団体交渉等によって使用者に直接又は間接に伝えられたことを概括的に主張立証すればよいと解されるものです。
⑤ 法第19条の「遅滞なく」は、有期労働契約の契約期間の満了後であっても、正当な又は合理的な理由による申込みの遅滞は許容される意味です。
【第19条については、次の裁判例が参考になります】
○ 有期労働契約が期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していた場合には、解雇に関する法理を類推すべきであると判示した東芝xx工場事件最高裁判決(最高裁昭和49年7月22日第xx法廷判決)(→P63参照)
○ 有期労働契約の期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には、解雇に関する法理が類推されるものと解せられると判示した日立メディコ事件最高裁判決(最高裁昭和61年12月4日第xx法廷判決)(→P65参照)
期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止
第20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
【解説】 (1) 趣旨
有期契約労働者については、期間の定めのない労働契約を締結している労働者(以下「無期契約労働者」といいます。)と比較して、雇止めの不安があることによって合理的な労働条件の決定が行われにくいことや、処遇に対する不満が多く指摘されていることを踏まえ、有期労働契約の労働条件を設定する際のルールを法律上明確化する必要があります。
このため、有期契約労働者の労働条件と無期契約労働者の労働条件が相違する場合において、期間の定めがあることによる不合理な労働条件を禁止するものとしたものです。
(2) 内容
① 法第20条は、有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合、その相違は、職務の内容(労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいいます。以下同じ。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、有期契約労働者にとって不合理と認められるものであってはならないことを明らかにしたものです。
したがって、有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件の相違があれば直ちに不合理とされるものではなく、法第20条に列挙されている要素を考慮して「期間の定めがあること」を理由とした不合理な労働条件の相違と認められる場合を禁止するものです。
② 法第20条の「労働条件」には、賃金や労働時間等の狭義の労働条件のみならず、労働契約の内容となっている災害補償、服務規律、教育訓練、付随義務、福利厚生等労働者に対する一切の待遇を包含するものです。
③ 法第20条の「同一の使用者」は、労働契約を締結する法律上の主体が同一であることをいうものであり、したがって、事業場単位ではなく、労働契約締結の法律上の主体が法人であれば法人単位で、個人事業主であれば当該個人事業主単位で判断されるものです。
④ 法第20条の「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」は、労働者が従事している業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度を、「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」は、今後の見込みも含め、転勤、昇進といった人事異動や本人の役割の変化等(配置の変更を伴わない職務の内容の変更を含みます。)の有無や範囲を指すものです。「その他の事情」は、合理的な労使の慣行などの諸事情が想定されるものです。
例えば、定年後に有期労働契約で継続雇用された労働者の労働条件が定年前の他の無期契約労働者の労働条件と相違することについては、定年の前後で職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲等が変更されることが一般的であることを考慮すれば、特段の事情がない限り不合理と認められないと解されるものです。
⑤ 法第20条の不合理性の判断は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されるものです。とりわけ、通勤手当、食堂の利用、安全管理などについて労働条件を相違させることは、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して特段の理由がない限り合理的とは認められ ないと解されるものです。
⑥ 法第20条は、民事的効力のある規定です。法第20条により不合理とされた労働条件の定めは無効となり、故意・過失による権利侵害、すなわち不法行為として損害賠償が認められ得ると解されるものです。
また、法第20条により、無効とされた労働条件については、基本的には、無期契約労働者と同じ労働条件が認められると解されるものです。
⑦ 法第20条に基づき民事訴訟が提起された場合の裁判上の主張立証については、有期契約労働者が労働条件が期間の定めを理由とする不合理なものであることを基礎づけ る事実を主張立証し、他方で使用者が当該労働条件が期間の定めを理由とする合理的なものであることを基礎づける事実の主張立証を行うという形でなされ、同条の司法上の判断は、有期契約労働者及び使用者双方が主張立証を尽くした結果が総体としてなされるものであり、立証の負担が有期契約労働者側に一方的に負わされることにはならないと解されるものです。
【第5章 雑則】
船員に関する特例
第21条 第12条及び前章の規定は、船員法(昭和22年法律第100号)の適用を受ける船員(次項において「船員」という。)に関しては、適用しない。
2 船員に関しては、第7条中「第12条」とあるのは「船員法 (昭和22年法律第100号)第100条」と、第10条中「第12条」とあるのは「船員法第100条」と、第11条中「労働基準法 (昭和22年法律第49号)第89条 及び第90条」とあるのは「船員法第97条及び第98条」と、第13条中「前条」とあるのは「船員法第100条」とする。
【解説】
① 法第21条第1項は、法第12条については、船員法(昭和22年法律第100号)第
100条に同趣旨の規定が定められていることから、船員に関しては適用しないこととしたものです。
また、船員法における雇入契約は、有期契約が原則となっていますが、雇入契約の解除事由については、船員法第40条及び第41条に具体的な規定が定められていることなどから、法第4章については、船員に関しては適用しないこととしたものです。
② 法第21条第2項は、船員に関して法を適用するに当たって必要となる読替えを規定したものです。
適用除外
第22条 この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない。
2 この法律は、使用者が同居の親族のみを使用する場合の労働契約については、適用しない。
【解説】
(1) 公務員の適用除外(第1項関係)
法は労働者と使用者との間において成立する労働契約についての基本的規範を定めるものですが、国家公務員及び地方公務員は、任命権者との間に労働契約がないことから、法が適用されないことを確認的に規定したものです。
(2) 同居の親族のみを使用する場合の適用除外(第2項関係)
① 法第22条第2項は、親族については、民法において、夫婦の財産、親子の財産等に関する様々な規定が定められており、中でも同居の親族についてはその結びつき(特に経済的関係)が強く、一般の労働者及び使用者と同様の取扱いをすることは適当でないことから、同居の親族のみを使用する場合の労働契約については、法を適用しないこととしたものです。
② 法第22条第2項の「同居」とは、世帯を同じくして常時生活を共にしていることをいうものです。
③ 法第22条第2項の「親族」とは、民法第725条にいう6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族をいい、その要件については、民法の定めるところによるものです。
【附則】
施行期日
第1条 この法律は、公布の日から起算して3月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
法の趣旨及び内容の周知に必要な期間を勘案して、「公布の日から起算して3月を超えない範囲内において政令で定める日」を施行期日としたものであり、労働契約法の施行期日を定める政令(平成20年政令第10号)により、法の施行期日は、平成20年3月1日とされたものです。
労働基準法その他関係法律の一部改正
(労働基準法の一部改正)
第2条 労働基準法の一部を次のように改正する。第18条の2を削る。
第93条を次のように改める。
(労働契約との関係)
第93条 労働契約と就業規則との関係については、労働契約法(平成19年法律第128号)第12条の定めるところによる。
(地方公務員法の一部改正)
第3条 地方公務員法(昭和25年法律第261号)の一部を次のように改正する。第58条第3項中「、第18条の2」を削る。
(地方公営企業法及び地方独立行政法人法の一部改正)
第4条 次に掲げる法律の規定中「並びに第18条の2」を削る。一 地方公営企業法(昭和27年法律第292号)第39条第1項
二 地方独立行政法人法(平成15年法律第118号)第53条第1項第1号
(公益通報者保護法の一部改正)
第5条 公益通報者保護法(平成16年法律第122号)の一部を次のように改正する。
第6条第2項中「労働基準法第18条の2」を「労働契約法(平成19年法律第128号)第16条」に改め、同条に次の1項を加える。
3 前条第1項の規定は、労働契約法第14条及び第15条の規定の適用を妨げるものではない。
(日本年金機構法の一部改正)
第6条 日本年金機構法(平成19年法律第109号)の一部を次のように改正する。
第51条第2項中「(労働契約法(平成19年法律第128号)第14条第2項に規定する出向をいう。)」を削る。
法の制定に伴い、労働基準法第18条の2を削除すること、労働基準法第93条を改正し労働契約と就業規則との関係については労働契約法第12条の定めるところによる旨を規定すること等の労働基準法その他の関係法律の規定の整理を行ったものです。
【改正法附則】
改正法の施行期日
1 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第2条並びに次項及び附則第3項の規定は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
労働契約法の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令
労働契約法の一部を改正する法律附則第1項ただし書に規定する規定の施行期日は、平成2
5年4月1日とする。
法第19条(有期労働契約の更新等)は、改正法の公布日(平成24年8月10日)から施行されるものです。また、法第18条(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)及び第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)の施行期日は、これらの規定の趣旨及び内容の周知に必要な期間を勘案して、「労働契約法の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」(平成24年政令第267号)により、平成25年4月1日とされたものです。
経過措置
(経過措置)
2 第2条の規定による改正後の労働契約法(以下「新労働契約法」という。)第18条の規定は、前項ただし書に規定する規定の施行の日以後の日を契約期間の初日とする期間の定めのある労働契約について適用し、同項ただし書に規定する規定の施行の日前の日が初日である期間の定めのある労働契約の契約期間は、同条第1項に規定する通算契約期間には、算入しない。
法第18条(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)の規定は、同条の施行の日(平成25年4月1日)以後の日を契約期間の初日とする期間の定めのある労働契約について適用し、当該施行の日前の日が初日である有期労働契約の契約期間は、同条第1項の通算契約期間には算入しないものとされたものです。
検討
(検討)
3 政府は、附則第1項ただし書に規定する規定の施行後8年を経過した場合において、新労働契約法第18条の規定について、その施行の状況を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
法第18条に基づく無期転換申込権が多くの労働者に生じる時期である同条の施行の日(平成25年4月1日)以後5年を経過する時期から3年を経過した時期として、同条の施行後8年を経過した場合に、施行状況を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとされたものです。検討の対象は、法第18条、すなわち無期転換ルール全体です。
参考となる主な裁判例
【第5条に関する裁判例】
陸上自衛隊事件(最高裁昭和50年2月25日第三小法廷判決)
【概要】
陸上自衛隊員が、自衛隊内の車両整備工場で車両整備中、後退してきたトラックにひかれて死亡した事例で、国の公務員に対する安全配慮義務を認定した。
(事案の概要)
陸上自衛隊員Aは、自衛隊内の車両整備工場で車両整備中、後退してきたトラックにひかれて死亡した。これに対し、Aの両親Xらは、国Yに対し、Yは使用者として、自衛隊員の服務につき、その生命に危険が生じないように注意し、人的物的環境を整備し、隊員の安全管理に万全を期すべき義務を負うにもかかわらず、これを怠ったとして、債務不履行に基づく損害賠償を求めて訴えをおこした。
(判決の要旨)
思うに、国と国家公務員(以下「公務員」という。)との間における主要な義務として、法は、公務員が職務に専念すべき義務(国家公務員法 101 条1項前段、自衛隊法 60 条1項等)並びに法令及び上司の命令に従うべき義務(国家公務員法 98 条1項、自衛隊法 56 条、57 条等)を負い、国がこれに対応して公務員に対し給与支払義務(国家公務員法 62 条、防衛庁職員給与法4条以下等)を負うことを定めているが、国の義務は右の給付義務にとどまらず、国 は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたつて、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解すべきである。もとより、右の安全配慮義務の具体的内容は、公務員の職種、地位及び安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものであり、自衛隊員の場合にあつては、更に当該勤務が通常の作業時、訓練時、防衛出動時(自衛隊法 76 条)、治安
出動時(同法 78 条以下)又は災害派遣時(同法 83 条)のいずれにおけるものであるか等によつても異なりうべきものであるが、国が、不法行為規範のもとにおいて私人に対しその生命、健康等を保護すべき義務を負つているほかは、いかなる場合においても公務員に対し安全配慮義務を負うものではないと解することはできない。けだし、右のような安全配慮義務は、ある 法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入つた当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対してxxx上負う義務として一般的に認められるべきものであつて、国と公務員との間においても別異に解すべき論拠はなく、公務員が前記の義務を安んじて誠実に履行するためには、国が、公務員に対し安全配慮義務を負い、これを尽くすことが必要不可欠であり、また、国家公務員法 93 条ないし 95 条及びこれに基づく国
家公務員災害補償法並びに防衛庁職員給与法 27 条等の災害補償制度も国が公務員に対し安全配慮義務を負うことを当然の前提とし、この義務が尽くされたとしてもなお発生すべき公務災害に対処するために設けられたものと解されるからである。
xx事件(最高裁昭和59年4月10日第三小法廷判決)
【概要】
宿直勤務中の従業員が盗賊に殺害された事例で、会社に安全配慮義務の違背に基づく損害賠償責任があるとされた。
(判決の要旨)
雇傭契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、 労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解するのが相当である。もとより、使用者の右の安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものであることはいうまでもないが、これを本件の場合に即してみれば、上告会社は、A一人に対し昭和 53 年8月 13 日午前9
時から 24 時間の宿直勤務を命じ、宿直勤務の場所を本件社屋内、就寝場所を同社屋一階商品陳列場と指示したのであるから、宿直勤務の場所である本件社屋内に、宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入できないような物的設備を施し、かつ、万一盗賊が侵入した場合は盗賊から加えられるかも知れない危害を免れることができるような物的施設を設けるとともに、これら物的施設等を十分に整備することが困難であるときは、宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなどし、もつて右物的施設等と相まつて労働者たるAの生命、身体等に危険が及ばないように配慮する義務があつたものと解すべきである。
【第7条、第9条及び第10条に関する裁判例】
秋北バス事件(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決)
【概要】
就業規則の変更により、定年制度を改正してxx以上の職の者の定年を 55 歳に定めたため、新たに定年制度の対象となった労働者が解雇された事例で、新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないが、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきとし、不利益を受ける労働者に対しても変更後の就業規則の適用を認めた。
(事実の概要)
被上告会社 Y は、就業規則を変更し、これまでの定年制度を改正して、xx以上の職にある者の定年を 55 歳に定めた(一般従業員については 50 歳)。このためそれまで定年制の適用のなかった上告人X らは定年制の対象となり、解雇通知を受けた。
(判決の要旨)
元来、「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」(労働基準法2条1項)が、多数の労働者を使用する近代企業においては、労働条件は、経営上の要請に基づき、統一的かつ画一的に決定され、労働者は、経営主体が定める契約内容の定型に従って、附従的に契約を締結せざるを得ない立場に立たされるのが実情であり、この労働条件を 定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている(民法 92 条参照)ものということができる。
そして、労働基準法は、右のような実態を前提として、後見的監督的立場に立って、就業規則に関する規制と監督に関する定めをしているのである。すなわち、同法は、一定数の労働者を使用する使用者に対して、就業規則の作成を義務づける(89 条)とともに、就業規則の作成・変更にあたり、労働者側の意見を聴き、その意見書を添付して所轄行政庁に就業規則を届 け出で、(90 条参照)、かつ、労働者に周知させる方法を講ずる(106 条1項、なお、15 条参照)義務を課し、制裁規定の内容についても一定の制限を設け(91 条参照)、しかも、就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならず、行政庁は法令又は労働協約に抵触する就業規則の変更を命ずることができる(92 条)ものとしているのである。これらの定めは、いずれも、社会的規範たるにとどまらず、法的規範として拘束力を有するに至っている就業規則の実態に鑑み、その内容を合理的なものとするために必要な監督的規制にほかならない。このように、就業規則の合理性を保障するための措置を講じておればこそ、同法は、さらに進んで、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」ことを明らかにし(93 条)就業規則のいわゆる直律的効力まで背認しているのである。右に説示したように、就業規則は、当該事業場内での社会的規範たるにとどまらず、法的規
範としての性質を認められるに至っているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別 的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるものというべきである。
新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を
一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合 理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきであり、これに対する不服は、団体交渉等の正当な手続による改善に待つほかない。
停年制は、〈中略〉人事の刷新・経営の改善等、企業の組織及び運営の適正化のために行われるものであって、一般的にいって、不合理な制度ということはできない。また、本件就業規則については、新たに設けられた 55 歳という停年は、産業界の実情に照らし、かつ、Y 会社の一般職種の労働者の停年が 50 歳と定められていることとの比較権衡からいっても、低きに失するともいえない。しかも、本件就業規則条項は、停年に達したことによって自動的に退職するいわゆる「停年退職」制を定めたものではなく、停年に達したことを理由として解雇するいわゆる
「停年解雇」制を定めたものと解すべきであり、同条項に基づく解雇は、労働基準法第 20 条所定の解雇の制限に服すべきものである。さらに、本件就業規則条項には、必ずしも十分とはいえないにしても、再雇用の特則が設けられ、同条項を一律に適用することによって生ずる過酷な結果を緩和する道が開かれているのである。しかも、原審の確定した事実によれば、現に X らに対しても引き続き嘱託として、採用する旨の再雇用の意思表示がなされており、また、 X ら中堅幹部をもって組織する「輪心会」の会員の多くは、本件就業規則条項の制定後、同条項は、後進に譲るためのやむを得ないものであるとして、これを認めている、というのである。以上の事実を総合考慮すれば、本件就業規則条項は、決して不合理なものということはできず、同条項制定後、直ちに同条項の適用によって解雇されることになる労働者に対する関係において、Y 会社がかような規定を設けたことをもって、xxx違反ないし権利濫用と認めることもできないから、X は、本件就業規則条項の適用を拒否することができないものといわなければならない。
電電公社帯広局事件(最高裁昭和61年3月13日第xx法廷判決)
【概要】
健康診断受診の業務命令を拒否した労働者に対して、懲戒処分を行った事案で、秋北バス事件の最高裁判決の考え方を踏襲し、就業規則上の労働者の健康管理上の義務は合理的であり、労働契約の内容となっているとし、健康診断の受診拒否は懲戒事由に当たり、懲戒処分が有効とされた。
(事案の概要)
Xは、Y公社帯広電報電話局に勤務し、電話交換の作業に従事する職員であった。Xは、昭和 49 年7月、頸肩腕症候群と診断され、公社の健康管理規程に定める
指導区分のうち、最も病状の重い「療養」にあたることとされた。その後、指導区分の変遷を繰り返し、Xは、本来の職務である電話交換の作業には従事せず、電話番号簿の訂正等の事務に従事していた。Yは、昭和 53 年 10 月、Xに対し、頸肩腕症候群の精密検診を受診するよう、二度にわたって業務命令を発したが、Xはこれを拒否した。労働組合は、この検診が労使確認事項であるとしながらも、Xが受診拒否の意向を示しており、業務命令発出という形にまで発展したことを重視し、非公開で団交を行った。この際、Xは、会議室に立ち入り、組合役員の退去指示にも従わなかった。この間、Xは、約 10 分間にわたり、職場を離脱した。
Yは、Xに対し、受診拒否が就業規則 59 条3号(上長の命令に服さないとき)の懲戒事由に該当し、また、職場離脱は、同 59 条 18 号(第5条の規定に違反したとき)所定の懲戒事由に該当するとして、懲戒処分をした。
(判決の要旨)
一般に業務命令とは、使用者が業務遂行のために労働者に対して行う指示又は命令であり、使用者がその雇用する労働者に対して業務命令をもって指示、命令することができる根拠は、労働者がその労働力の処分を使用者に委ねることを約する労働契約にあると解すべきである。すなわち、労働者は、使用者に対して一定の範囲での労働力の自由な処分を許諾して労働契約を締結するものであるから、その一定の範囲での労働力の処分に関する使用者の指示、命令としての業務命令に従う義務があるというべきであり、したがって、使用者が業務命令をもって指示、命令することのできる事項であるかどうかは、労働者が当該労働契約によってその処分を許諾した範囲内の事項であるかどうかによって定まるものであって、この点は結局のところ当該具体的な労働契約の解釈の問題に帰するものということができる。
ところで、労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有する だけでなく、その定めが合理的なものであるかぎり、個別的労働契約における労働条件の決定は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、法的規範としての性質を認められるに至っており、当該事業場の労働者は、就業規則の存在及び内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然にその適用を受けるというべきであるから(最高裁昭和 43 年 12 月 25 日大法廷判決〈秋北バス事件〉)、使用者が当該具体的労働契約上いかなる事項について業務命令を発することができるかという点についても、関連する就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいてそれが当該労働契約の内容となっているということを前提として検討すべきこととなる。換言すれば、就業規則が労働者に対し、一定の事項につき使用者の業務命令に服従すべき旨を定めているときは、そのような就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいて当該具体的労働契約の内容をなしているものということができる。
公社就業規則及び健康管理規程によれば、公社においては、職員は常に健康の保持増進に努
める義務があるとともに、健康管理上必要な事項に関する健康管理従事者の指示を誠実に遵守する義務があるばかりか、要管理者は、健康回復に努める義務があり、その健康回復を目的とする健康管理従事者の指示に従う義務があることとされているのであるが、以上公社就業規則及び健康管理規程の内容は、公社職員が労働契約xxx労働力の処分を公社に委ねている趣旨に照らし、いずれも合理的なものというべきであるから、右の職員の健康管理上の義務は、公社と公社職員との間の労働契約の内容となっているものというべきである。
もっとも、右の要管理者がその健康回復のために従うべきものとされている健康管理従事者による指示の具体的内容については、特に公社就業規則ないし健康管理規程上の定めは存しないが、要管理者の健康の早期回復という目的に照らし合理性ないし相当性を肯定し得る内容の指示であることを要することはいうまでもない。しかしながら、右の合理性ないし相当性が肯定できる以上、健康管理従事者の指示できる事項を特に限定的に考える必要はなく、例えば、精密検診を行う病院ないし担当医師の指定、その検診実施の時期等についても指示することができるものというべきである。
以上の次第によれば、Xに対し頸肩腕症候群総合精密検診の受診方を命ずる本件業務命令については、その効力を肯定することができ、これを拒否したYの行為は公社就業規則 59 条3号所定の懲戒事由にあたるというべきである。
そして、前記の職場離脱が同条 18 号の懲戒事由にあたることはいうまでもなく、以上の本件における2個の懲戒事由及び前記の事実関係にかんがみると、原審が説示するように公社における戒告処分が翌年の定期昇給における昇給額の4分1減額という効果を伴うものであること(公社就業規則 76 条4項3号)を考慮に入れても、公社がXに対してした本件戒告処分が、社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え、これを濫用してされた違法なものであるとすることはできないというべきである。
日立製作所武蔵工場事件(最高裁平成3年11月28日第xx法廷判決)
【概要】
就業規則に、36 協定に基づき時間外労働をさせることがある旨の定めがあったが、労働者が残業命令に従わなかったため、懲戒解雇した事例で、秋北バス事件の最高裁判決の考え方を踏襲し、就業規則は合理的であり、労働契約の内容となっているとし、懲戒解雇は権利の濫用にも該当せず、有効とされた。
(事案の概要)
Xは、Yに雇用されてそのM工場に勤務し、トランジスターの品質及び歩留りの向上を所管する製造部低周波製作課特性管理係に属していた。
YのM工場の就業規則には、Yは、業務上の都合によりやむを得ない場合には、Xの加入するM工場労働組合(以下「組合」という。)との協定により1日8時間の実働時間を延長することがある旨定められていた。そして、M工場とその労働者の過半数で組織する組合との間において、昭和 42 年1月 21 日、「会社は、1 納期に完納しないと重大な支障を起すおそれのある場合、2 賃金締切の切迫による賃金計算又は棚卸し、検収・支払等に関する業務ならびにこれに関する業務、3 配管、配線工事等のため所定時間内に作業することが困難な場合、
4 設備機械類の移動、設置、修理等のため作業を急ぐ場合、5 生産目標達成のため必要ある場合、6 業務の内容によりやむを得ない場合、7 その他前各号に準ずる理由のある場合は、実働時間を延長することがある。前項により実働時間を延長する場合においても月 40 時
間を超えないものとする。但し緊急やむを得ず月 40 時間を超える場合は当月1ケ月分の超過
予定時間を一括して予め協定する。」旨の書面による協定(以下「本件 36 協定」という。)が締結され、所轄労働基準監督署長に届け出られた。
上司であるAxxは、同年9月6日、Xに対し、残業をしてトランジスター製造の歩留りが低下した原因を究明し、その推定値を算出し直すように命じたが、Xは右残業命令に従わなかった。Yは、後日Xに対し、始末書の提出を求めたが、このことにつき、2度にわたり争いが生じ、警備員に付き添われて、ようやく退場した。そこで、Yは、組合の意向も聴取した上で、それに従い、就業規則上の懲戒事由(しばしば懲戒を受けたにもかかわらず、なお悔悟の見込がないとき)に該当するとして、懲戒解雇した。
(判決の要旨)
思うに、労働基準法(昭和 62 年法律第 99 号による改正前のもの)32 条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる 36 協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合
において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該 36 協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契 約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする(最高裁昭和 43 年 12 月 25 日大法廷判決〈秋北バス事件〉、最高裁昭和 61 年3月 13 日第xx法廷判決
〈電電公社帯広局事件〉)。
本件の場合、右にみたように、YのM工場における時間外労働の具体的な内容は本件36協定によって定められているが、本件 36 協定は、Y(M工場)がXら労働者に時間外労働を命ずるについて、その時間を限定し、かつ、前記「1」ないし「7」所定の事由を必要としているのであるから、結局、本件就業規則の規定は合理的なものというべきである。
そうすると、Yは、昭和 42 年9月6日当時、本件 36 協定所定の事由が存在する場合にはXに時間外労働をするよう命ずることができたというべきところ、Axxが発した右の残業命令は本件 36 協定の「5」ないし「7」所定の事由に該当するから、これによって、Xは、前記の時間外労働をする義務を負うに至ったといわざるを得ない。
Axxが右の残業命令を発したのはXのした手抜作業の結果を追完・補正するためであった こと等原審の確定した一切の事実関係を併せ考えると、右の残業命令に従わなかったXに対し Yのした懲戒解雇が権利の濫用に該当するということもできない。以上と同旨の見解に立って、 Yのした懲戒解雇は有効であるから、〈中略〉原審の判断は、正当として是認することができ る。
大曲市農業協同組合事件(最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決)
【概要】
農協の合併に伴い、新たに作成・適用された就業規則上の退職給与規定が、ある農協の従前の退職給与規定より不利益なものであった事例で、秋北バス事件の最高裁判決の考え方を踏襲した上で、就業規則の合理性について、就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうとし、新規則の合理性を認めて、不利益を受ける労働者に対しても拘束力を生ずるものした。
(事実の概要)
組合 Y は、X らが在職していた訴外旧 A 農協等七つの農業協同組合が合併して新設された農業協同組合である。旧A 農協には、従来より退職給与規定が存したが、合併後に Y 組合が新たに退職給与規定を作成・適用したが、この新規定は、X らの退職金支給倍率を低減させるものであった。他方、X らの給与額は合併に伴う給与調整等により相当程度増額されており、退職時までの給与調整の累積額はおおむね本訴の請求額に等しい。また、合併の結果 X は休日・休暇、諸手当等の面で旧A 農協当時よりも有利になり、定年も男子は 1 年間延長された。
(判決の要旨)
当裁判所は、昭和 40 年(オ)第 145 号同 43 年 12 月 25 日大法廷判決〈秋北バス事件〉において、「新たな就業規則の作成又は変更によつて、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいつて、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」との判断を示した。右の判断は、現在も維持すべきものであるが、右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は 変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによつて労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される。特に、賃金、退職金など労働者にとつて重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。
これを本件についてみるに、まず、新規程への変更によつてXらの退職金の支給倍率自体は 低減されているものの、反面、Xらの給与額は、本件合併に伴う給与調整等により、合併の際 延長された定年退職時までに通常の昇給分を超えて相当程度増額されているのであるから、実 際の退職時の基本月俸額に所定の支給倍率を乗じて算定される退職金額としては、支給倍率の 低減による見かけほど低下しておらず、金銭的に評価しうる不利益は、本訴におけるXらの前 記各請求額よりもxxxに低額のものであることは明らかであり、新規程への変更によつてX らが被つた実質的な不利益は、仮にあるとしても、決して原判決がいうほど大きなものではな いのである。他方、一般に、従業員の労働条件が異なる複数の農協、会社等が合併した場合に、 労働条件の統一的画一的処理の要請から、旧組織から引き継いだ従業員相互間の格差を是正し、単一の就業規則を作成、適用しなければならない必要性が高いことはいうまでもないところ、本件合併に際しても、右のような労働条件の格差是正措置をとることが不可欠の急務となり、その調整について折衝を重ねてきたにもかかわらず、合併期日までにそれを実現することがで きなかつたことは前示したとおりであり、特に本件の場合においては、退職金の支給倍率につ
いての旧花館農協と他の旧六農協との間の格差は、従前旧花館農協のみがxx県農業協同組合中央会の指導・勧告に従わなかつたことによつて生じたといういきさつがあるから、本件合併に際してその格差を是正しないまま放置するならば、合併後の上告組合の人事管理等の面で著しい支障が生ずることは見やすい道理である。加えて、本件合併に伴つてXらに対してとられた給与調整の退職時までの累積額は、賞与及び退職金に反映した分を含めると、おおむね本訴における被上告人らの前記各請求額程度に達していることを窺うことができ、また、本件合併後、Xらは、旧花館農協在職中に比べて、休日・休暇、諸手当、旅費等の面において有利な取扱いを受けるようになり、定年は男子が1年間、女子が3年間延長されているのであつて、これらの措置は、退職金の支給倍率の低減に対する直接の見返りないし代償としてとられたものではないとしても、同じく本件合併に伴う格差是正措置の一環として、新規程への変更と共通の基盤を有するものであるから、新規程への変更に合理性があるか否かの判断に当たつて考慮することのできる事情である。
右のような新規程への変更によつてXらが被つた不利益の程度、変更の必要性の高さ、その内容、及び関連するその他の労働条件の改善状況に照らすと、本件における新規程への変更は、それによつて被上告人らが被つた不利益を考慮しても、なおY組合の労使関係においてその法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものといわなければならない。したがつて、新規程への変更はXらに対しても効力を生ずるものというべきである。
第四銀行事件(最高裁平成9年2月28日第二小法廷判決)
【概要】
就業規則により定年を延長する代わりに給与が減額された事例で、秋北バス事件、大曲市農協事件の最高裁判決の考え方を踏襲し、さらに合理性の有無の判断に当たっての考慮要素を具体的に列挙し、その考慮要素に照らした上で、就業規則の変更は合理的であるとした。
(事実の概要)
X は、昭和 28 年4月に Y 銀行に入行し、xxx年 11 月4日をもって 60 歳達齢により定年退職したが、Y 銀行とY 銀行労働組合との間では、昭和 58 年 3 月 30 日に、定年を 55 歳から 60 歳に延長するかわりに給与等の減額、特別融資制度の新設等を内容とする労働協約を締結していたため、X の 55 歳以後の年間賃金は 54 歳時の 6 割台に減額となり、従来の 55 歳から 58 歳まで
の賃金総額が新定年制の下での 55 歳から 60 歳までの賃金総額と同程度となつた。
(判決の要旨)
1 新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されない。そして、右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該 就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。右の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。
2 これを本件についてみると、定年後在職制度の前記のような運用実態にかんがみれば、勤務に耐える健康状態にある男子行員において、58 歳までの定年後在職をすることができることは確実であり、その間 54 歳時の賃金水準等を下回ることのない労働条件で勤務することができると期待することも合理的ということができる。そうすると、本件定年制の実施に伴う就業規則の変更は、既得の権利を消滅、減尐させるというものではないものの、その結果として、右のような合理的な期待に反して、55 歳以降の年間賃金が 54 歳時のそれの 63
ないし 67 パーセントとなり、定年後在職制度の下で 58 歳まで勤務して得られると期待する
ことができた賃金等の額を 60 歳定年近くまで勤務しなければ得ることができなくなるというのであるから、勤務に耐える健康状態にある男子行員にとっては、実質的にみて労働条件を不利益に変更するに等しいものというべきである。そして、その実質的な不利益は、賃金という労働者にとって重要な労働条件に関するものであるから、本件就業規則の変更は、これを受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合に、その効力を生ずるものと解するのが相当である。
3 そこで、以下、右変更の合理性につき、前示の諸事情に照らして検討する。
〈本件就業規則の変更によるXの不利益はかなり大きなものであること、Yにおいて、定年延長の高度の必要性があったこと、定年延長に伴う人件費の増大等を抑える経営上の必要から、従前の定年である 55 歳以降の賃金水準等を変更する必要性も高度なものであったこと、
円滑な定年延長の導入の必要等から、従前の定年である 55 歳以降の労働条件のみを修正し
たこともやむを得ないこと、従前の 55 歳以降の労働条件は既得の権利とまではいえないこ
と、変更後の 55 歳以降の労働条件の内容は、多くの地方銀行の例とほぼ同様の態様であること、変更後の賃金水準も、他行の賃金水準や社会一般の賃金水準と比較して、かなり高いこと、定年が延長されたことは、女子行員や健康上支障のある男子行員にとっては、明らかな労働条件の改善であること、健康上支障のない男子行員にとっても、60 歳まで安定した雇用が確保されるという利益は、決して小さいものではないこと、福利厚生制度の適用延長や拡充等の措置が採られていること、就業規則の変更は、行員の約 90 パーセントで組織されている組合との合意を経て労働協約を締結した上で行われたものであること、変更の内容が統一的かつ画一的に処理すべき労働条件に係るものであることを認定した上で、〉
〈以上について〉考え合わせると、Yにおいて就業規則による一体的な変更を図ることの必要性及び相当性を肯定することができる。〈中略〉
したがって、本件定年制導入に伴う就業規則の変更は、Xに対しても効力を生ずるものというべきである。
みちのく銀行事件(最高裁平成12年9月7日第xx法廷判決)
【概要】
労組(従業員の 73%が加入)の同意を得て行われた賃金制度が見直され、特定の労働者が管理職の肩書きを失い、賃金を減額された事例で、第四銀行事件までの最高裁判決の考え方を踏襲し、就業規則の変更は合理的なものということはできず、就業規則等変更のうち賃金減額の効果を有する部分は、不利益を受ける労働者らにその効力を及ぼすことができないとした。
(事案の概要)
Xら6名(尐数組合の組合員でいずれも当時55歳以上の管理職・監督職階にあった)は、 60 歳定年制を採用していた東北地方のxxxYの銀行員であった。Yは賃金制度の2度わたる見直しを行う際に、労組(従業員の 73%が加入)の同意は得たが、尐数組合の同意を得ないまま実施した。この変更に基づいて、専任職発令がXらに出され、Xらは管理職の肩書きを失うとともに賃金が減額した。Xらは、本件就業規則の変更は、同意をしていないXらには効力が及ばないとして、専任職への辞令及び専任職としての給与辞令の各発令の無効確認、従前の賃金支払を受ける労働契約上の地位にあることの確認並びに差額賃金の支払を請求する訴えを起こした。
(判決の要旨)
〈新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されない。しかし、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されない。そして、当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。右の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不 利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。〉以上は、当裁判所の判例〈第四銀行事件等〉の趣旨とするところである。
〈他の地銀では従来定年年齢がYよりも低かったこと、Yの経営効率を示す諸指標が全国の地銀の中で下位を低迷していたこと、金融機関間の競争が進展しつつあったこと等を考慮した上で、〉本件就業規則等変更は、Yにとって、高度の経営上の必要性があったということができる。
本件就業規則等変更は、〈中略〉これに伴う賃金の減額を除けば、その対象となる行員に格別の不利益を与えるものとは認められない。したがって、本件就業規則等変更は、職階及び役職制度の変更に限ってみれば、その合理性を認めることが相当である。
本件就業規則等変更は、変更の対象層、前記の賃金減額幅及び変更後の賃金水準に照らすと、高年層の行員につき雇用の継続や安定化等を図るものではなく、逆に、高年層の行員の労働条件をいわゆる定年後在職制度ないし嘱託制度に近いものに一方的に切り下げるものと評価せ
ざるを得ない。
本件就業規則等変更は、多数の行員について労働条件の改善を図る一方で、一部の行員について賃金を削減するものであって、従来は右肩上がりのものであった行員の賃金の経年的推移の曲線を変更しようとするものである。もとより、このような変更も、前述した経営上の必要性に照らし、企業ないし従業員全体の立場から巨視的、長期的にみれば、企業体質を強化改善するものとして、その相当性を肯定することができる場合があるものと考えられる。しかしながら、本件における賃金体系の変更は、短期的にみれば、特定の層の行員にのみ賃金コスト抑 制の負担を負わせているものといわざるを得ず、その負担の程度も前示のように大幅な不利益を生じさせるものであり、それらの者は中堅層の労働条件の改善などといった利益を受けないまま退職の時期を迎えることとなるのである。就業規則の変更によってこのような制度の改正を行う場合には、一方的に不利益を受ける労働者について不利益性を緩和するなどの経過措置を設けることによる適切な救済を併せ図るべきであり、それがないままに右労働者に大きな不利益のみを受忍させることには、相当性がないものというほかはない。本件の経過措置は、前示の内容、程度に照らし、本件就業規則等変更の当時既に 55 歳に近づいていた行員にとっては、救済ないし緩和措置としての効果が十分ではなく、Xらは、右経過措置の適用にもかかわらず依然前記のような大幅な賃金の減額をされているものである。したがって、このような経過措置の下においては、Xらとの関係で賃金面における本件就業規則等変更の内容の相当性を肯定することはできないものといわざるを得ない。
本件では、行員の約 73%を組織する労組が本件第一次変更及び本件第二次変更に同意して いる。しかし、Xらの被る前示の不利益性の程度や内容を勘案すると、賃金面における変更の合理性を判断する際に労組の同意を大きな考慮要素と評価することは相当ではないというべきである。
専任職制度の導入に伴う本件就業規則等変更は、それによる賃金に対する影響の面からみれば、Xらのような高年層の行員に対しては、専ら大きな不利益のみを与えるものであって、他の諸事情を勘案しても、変更に同意しないXらに対しこれを法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできない。したがって、本件就業規則等変更のうち賃金減額の効果を有する部分は、Xらにその効力を及ぼすことができないというべきである。
フジ興産事件(最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決)
【概要】
就業規則に基づき労働者を懲戒解雇したが、懲戒事由に該当するとされた労働者の行為の時点では就業規則は周知されていなかった事例で、就業規則が拘束力を生ずるためには、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するとし、懲戒解雇を有効とした原審を破棄し、差し戻した。
(事案の概要)
Xは、Y社の設計部門であるエンジニアリングセンターにおいて、設計業務に従事していた。 Y社は、昭和 61 年8月1日、労働者代表の同意を得た上で、同日から実施する就業規則(以
下「旧就業規則」という。)を作成し、同年 10 月 30 日、A労働基準監督署長に届け出た。旧就業規則は、懲戒解雇事由を定め、所定の事由があった場合に懲戒解雇をすることができる旨を定めていた。
Y社は、平成6年4月1日から旧就業規則を変更した就業規則(以下「新就業規則」という。)を実施することとし、同年6月2日、労働者代表の同意を得た上で、同月8日、A労働基準監督署長に届け出た。新就業規則は、懲戒解雇事由を定め、所定の事由があった場合に懲戒解雇をすることができる旨を定めている。
Y社は、同月 15 日、新就業規則の懲戒解雇に関する規定を適用して、その従業員Xを懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」という。)した。その理由は、Xが、同5年9月から同6年5月 30 日までの間、得意先の担当者らの要望に十分応じず、トラブルを発生させたり、上司の指示に対して反抗的態度をとり、上司に対して暴言を吐くなどして職場の秩序を乱したりしたなどというものであった。
Xは、本件懲戒解雇以前に、Yの取締役Bに対し、センターに勤務する労働者に適用される就業規則について質問したが、この際には、旧就業規則はセンターに備え付けられていなかった。
(判決の要旨)
原審は、次のとおり判断して、本件懲戒解雇を有効とし、Xの請求をすべて棄却すべきものとした。
(1) Y社が新就業規則について労働者代表の同意を得たのは平成6年6月2日であり、それまでに新就業規則がY社の労働者らに周知されていたと認めるべき証拠はないから、Xの同日以前の行為については、旧就業規則における懲戒解雇事由が存するか否かについて検討すべきである。
(2) 前記2(3)〈Y社は、昭和 61 年8月1日、労働者代表の同意を得た上で、旧就業規則を作成し、同年 10 月 30 日、A労働基準監督署長に届け出ていたこと〉の事実が認められる以上、Xがセンターに勤務中、旧就業規則がセンターに備え付けられていなかったとしても、そのゆえをもって、旧就業規則がセンター勤務の労働者に効力を有しないと解することはできない。
(3) Xには、旧就業規則所定の懲戒解雇事由がある。X社は、新就業規則に定める懲戒解雇事由を理由としてXを懲戒解雇したが、新就業規則所定の懲戒解雇事由は、旧就業規則の懲戒解雇事由を取り込んだ上、更に詳細にしたものということができるから、本件懲戒解雇は有効である。
しかしながら、原審の判断のうち、上記(2)は、是認することができない。その理由は、次
のとおりである。
使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する(最高裁昭和 54 年 10 月 30 日第三小法廷判決〈国労札幌支部事件〉)。そして、就業規則が法的規範としての性質を有する(最高裁昭和 43 年 12 月 25 日大法廷判決〈秋 北バス事件〉)ものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきである。
原審は、Y社が、労働者代表の同意を得て旧就業規則を制定し、これをA労働基準監督署長に届け出た事実を確定したのみで、その内容をセンター勤務の労働者に周知させる手続が採られていることを認定しないまま、旧就業規則に法的規範としての効力を肯定し、本件懲戒解雇が有効であると判断している。原審のこの判断には、審理不尽の結果、法令の適用を誤った違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由がある。
そこで、原判決を破棄し、上記の点等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
【第16条に関する裁判例】
日本食塩製造事件(最高裁昭和50年4月25日第二小法廷判決)
【概要】
ユニオン・ショップ協定に基づき労働者を解雇した事例で、使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当であるとし、本件解雇を無効とした。
(事案の概要)
Y会社と組合との間には、新機械の導入に関し意見の対立がみられたが、この間Xは、一部 職場の女子従業員に対し職場離脱をなさしめたほか、無届集会をしたこと、更に夏期一時xx 求に伴う闘争に関し会社役員の入門を阻止した等の事案が会社の職場規律を害するものとし て使用者により懲戒解雇された。なお、この時、組合委員長ほか他の組合員も、出勤停止、減 給、けん責などの処分を受けている。組合は地労委に不当労働行為を申立て処分撤回の和解が 成立したが、この和解には和解の成立の日をもってXが退職する旨の規定が含まれていた。し かし、Xに退職する意思は見受けられなかったところ、組合は、和解案の受諾にXのみの退職 を承認したのは闘争において同人の行き過ぎの行動があったこと、受諾の趣旨はこれにより会 社と組合との闘争を終止せしめ、労使間の秩序の改善を意図したものであることなどを背景に、 Xが退職に応じないときは組合から離脱せしめることも止むを得ないと考えて同人を離籍(除 名)処分に付した。Y会社と組合との間には、「会社は組合を脱退し、または除名された者を 解雇する。」旨のユニオン・ショップ協定が結ばれており、Y会社は、この協定に基づきXを 解雇した。そこで、Xは、雇用関係の存在確認の請求を行った。
(判決要旨)
使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認す ることができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。
ところで、ユニオン・ショップ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又は これを失つた場合に、使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に 労働組合の組織の拡大強化を図ろうとする制度であり、このような制度としての正当な機能を 果たすものと認められる限りにおいてのみその効力を承認することができるものであるから、ユニオン・ショップ協定に基づき使用者が労働組合に対し解雇義務を負うのは、当該労働者が 正当な理由がないのに労働組合に加入しないために組合員たる資格を取得せず又は労働組合 から有効に脱退し若しくは除名されて組合員たる資格を喪失した場合に限定され、除名が無効 な場合には、使用者は解雇義務を負わないものと解すべきである。そして、労働組合から除名 された労働者に対しユニオン・ショップ協定に基づく労働組合に対する義務の履行として使用 者が行う解雇は、ユニオン・ショップ協定によって使用者に解雇義務が発生している場合に限 り、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当なものとして是認することができるのであり、同除名が無効な場合には、前記のように使用者に解雇義務が生じないから、かかる場合には、客観的に合理的な理由を欠き社会的に相当なものして是認することはできず、他に解雇の合理 性を裏付ける特段の事由がないかぎり、解雇権の濫用として無効であると言わなければならな い。(原判決(東京高裁昭和43年2月23日判決)を破棄差戻)
【第19条に関する裁判例】
東芝xx工場事件(最高裁昭和49年7月22日第xx法廷判決)
(事案の概要)
Xらは、Yに契約期間を2か月と記載してある臨時従業員としての労働契約書を取り交わした上で基幹臨時工として雇い入れられた者であるが、当該契約が5回ないし 23 回にわたって更新された後、YはXに雇止めの意思表示をした。
Yにおける基幹臨時工は、採用基準、給与体系、労働時間、適用される就業規則等において本工と異なる取扱いをされ、本工労働組合に加入し得ず、労働協約の適用もないが、その従事する仕事の種類、内容の点において本工と差異はない。基幹臨時工が2か月の期間満了によって雇止めされた事例はなく、自ら希望して退職するもののほか、そのほとんどが長期間にわたって継続雇用されている。Yの臨時従業員就業規則(臨就規)の年次有給休暇の規定は1年以上の雇用を予定しており、1年以上継続して雇用された臨時工は、試験を経て本工に登用することとなっているが、右試験で不合格となった者でも、相当数の者が引き続き雇用されている。
Xらの採用に際しては、Y側に長期継続雇用、本工への登用を期待させるような言動があり、 Xらも期間の定めにかかわらず継続雇用されるものと信じて契約書を取り交わしたのであり、本工に登用されることを強く希望していたという事情があった。また、Xらとの契約更新に当たっては、必ずしも契約期間満了の都度直ちに新契約締結の手続がとられていたわけではなかった。
(判決の要旨)
(略)原判決は、以上の事実関係からすれば、本件各労働契約においては、Yとしても景気変動等の原因による労働力の過剰状態を生じないかぎり契約が継続することを予定していたものであつて、実質において、当事者双方とも、期間は一応2か月と定められてはいるが、い ずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であつたものと解するのが相当であり、したがつて、本件各労働契約は、期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわなければならず、本件各傭止めの意思表示は右のような契約を終了させる趣旨のもとにされたのであるから、実質において解雇の意思表示にあたる、とするのであり、また、そうである以上、本件各傭止めの効力の判断にあたつては、その実質にかんがみ、解雇に関する法理を類推すべきであるとするものであることが明らかであつて、上記の事実関係のもとにおけるその認定判断は、正当として首肯することができ、その過程に所論の違法はない。
そこで考えるに、就業規則に解雇事由が明示されている場合には、解雇は就業規則の適用として行われるものであり、したがつてその効力も右解雇事由の存否のいかんによつて決せらるべきであるが、右事由に形式的に該当する場合でも、それを理由とする解雇が著しく苛酷にわたる等相当でないときは解雇権を行使することができないものと解すべきである。ところで、本件臨就規8条はYにおける基幹臨時工の解雇事由を列記しており、そのうち同条3号は契約期間の満了を解雇事由として掲げているが、上記のように本件各労働契約が期間の満了毎に当 然更新を重ねて実質上期間の定めのない契約と異ならない状態にあつたこと、及び上記のようなYにおける基幹臨時工の採用、傭止めの実態、その作業内容、Xらの採用時及びその後におけるXらに対するY側の言動等にかんがみるときは、本件労働契約においては、単に期間が満了したという理由だけではYにおいて傭止めを行わず、Xらもまたこれを期待、信頼し、このような相互関係のもとに労働契約関係が存続、維持されてきたものというべきである。そして、このような場合には、経済事情の変動により剰員を生じる等Yにおいて従来の取扱いを変更し
て右条項を発動してもやむをえないと認められる特段の事情の存しないかぎり、期間満了を理由として傭止めをすることは、xxx上からも許されないものといわなければならない。しかるに、この点につきYはなんら主張立証するところがないのである。もつとも、前記のように臨就規8条は、期間中における解雇事由を列記しているから、これらの事由に該当する場合には傭止めをすることも許されるというべきであるが、この点につき原判決はYの主張する本件各傭止めの理由がこれらの事由に該当するものでないとしており、右判断はその適法に確定した事実関係に照らしていずれも相当というべきであつて、その過程にも所論の違法はない。そうすると、YのしたXらに対する本件傭止めは臨就規8条に基づく解雇としての効力を有するものではなく、これと同趣旨に出た原判決に所論の違法はない。(以下略)
日立メディコ事件(最高裁昭和61年12月4日第xx法廷判決)
(事案の概要)
Xは、昭和 45 年 12 月1日から同月 20 日までの期間を定めてYのP工場に臨時員として雇
用され、同月 21 日以降、期間2ヶ月の労働契約が5回更新されてきたが、Yは不況に伴う業
務上の都合を理由に、昭和 46 年 10 月 21 日以降の契約の更新を拒絶した。
YのP工場の臨時員制度は、景気変動に伴う受注の変動に応じて雇用量の調整を図る目的で設けられたものであり、臨時員の採用に当たっては学科試験や技能試験等は行わず簡易な方法で採用を決定していた。
Yが昭和 45 年8月から 12 月までの間に採用したP工場の臨時員 90 名のうち、昭和 46 年
10 月 20 日まで雇用関係が継続した者は、本工採用者を除けば、Xを含む 14 名である。
P工場においては、臨時員に対し、一般的には前作業的要素の作業、単純な作業、精度がさほど重要視されていない作業に従事させる方針をとっており、Xも比較的簡易な作業に従事していた。
Yは、臨時員の契約更新に当たっては、更新期間の約1週間前に本人の意思を確認し、当初作成の労働契約書の「4雇用期間」欄にxx雇用期間を記入し、臨時員の印を押捺せしめていたものであり、XとYとの間の5回にわたる労働契約の更新は、いずれも期間満了の都度新たな契約を更新する旨を合意することによってされてきたものである。
なお、Yは雇止めをXら臨時員等に告知した際、P工場の業績悪化等を説明した上で、希望者には就職先の斡旋をすることを告げたが、Xはそれを希望しなかった。
(判決の要旨)
(略)原審の確定した右事実関係の下においては、本件労働契約の期間の定めを民法 90 条に違反するものということはできず、また、5回にわたる契約の更新によつて、本件労働契約が期間の定めのない契約に転化したり、あるいはXとYとの間に期間の定めのない労働契約が存在する場合と実質的に異ならない関係が生じたということもできないというべきである。
(中略)
原判決は、本件雇止めの効力を判断するに当たつて、次のとおり判示している。
(1) P工場の臨時員は、季節的労務や特定物の製作のような臨時的作業のために雇用され るものではなく、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであり、Xとの間においても5回にわたり契約が更新されているのであるから、このような労働者を契約期間満了によつて雇止めにするに当たつては、解雇に関する法理が類推され、解雇であれば解雇権の濫用、xxx違反又は不当労働行為などに該当して解雇無効とされるような事実関係の下に使用者が新契約を締結しなかつたとするならば、期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となるものと解せられる。(2) しかし、右臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上、雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである。(3) したがつて、後記のとおり独立採算制がとられているYのP工場において、事業上やむを得ない理由により人員削減をする必要があり、その余剰人員を他の事業部門へ配置転換する余地もなく、臨時員全員の雇止めが必要であると判断される場合には、これに先立ち、期間の定めなく雇用されている従業員につき希望退職者募集の方法による人員削減を図らなかつたとしても、それをもつて不当・不合理であるということはできず、右希望退職者の募集に先立ち臨時員の雇止めが行われてもやむを得ないというべきである。
原判決の右判断は、本件労働契約に関する前示の事実関係の下において正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。(中略)
そして、原審は、次のように認定判断している。すなわち、YにおいてはP工場を一つの事業部門として独立採算制をとつていたことが認められるから、同工場を経営上の単位として人員削減の要否を判断することが不合理とはいえず、本件雇止めが行われた昭和 46 年 10 月の時点において、P工場における臨時員の雇止めを事業上やむを得ないとしたYの判断に合理性に欠ける点は見当たらず、右判断に基づきXに対してされた本件雇止めについては、当時のYの Xに対する対応等を考慮に入れても、これを権利の濫用、xxx違反と断ずることができないし、また、当時のP工場の状況は同工場の臨時員就業規則 74 条2項にいう「業務上の都合がある場合」に該当する。
右原審の認定判断も、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らしていずれも肯認することができ、その過程に所論の違法はない。(以下略)
関連する他の法令
【第2条に関する法令】
○ 民法(明治29年法律第89号)(抄)
(雇用)
第623条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
○ 労働基準法(昭和22年法律第49号)(抄)
(定義)
第9条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
第10条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
【第3条に関する法令】
○ 労働基準法(昭和22年法律第49号)(抄)
(労働条件の決定)
第2条 労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
2 労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。
○ 民法(明治29年法律第89号)(抄)
(基本原則)第1条 (略)
2 権利の行使及び義務の履行は、xxに従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
【第4条に関する法令等】
○ 労働基準法(昭和22年法律第49号)(抄)
(労働条件の明示)
第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
○ 労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)(抄)【平成25年4月1日以降】
※ 有期労働契約の継続・終了について予測可能性と納得性を高め、紛争の防止につなげるため、労働基準法施行規則第5条が改正され、労働契約締結時に、契約期間とともに
「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準」も書面の交付によって明示しなければならない事項となります(平成25年4月1日から施行)。
(下線部は改正箇所)第5条 使用者が法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければな
らない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第一号の二に掲げる事項について は期間の定めのある労働契約であつて当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、第四号の二から第十一号までに掲げる事
項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。一 労働契約の期間に関する事項
一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項 一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
三 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
五 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
六 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項七 安全及び衛生に関する事項
八 職業訓練に関する事項
九 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項十 表彰及び制裁に関する事項
十一 休職に関する事項
2 法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める事項は、前項第一号から第四号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。
3 法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。
○ 有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(平成15年厚生労働省告示第35
7号)
→第17条に関連する法令をご参照ください。
【第2章に関する法令】
○ 労働基準法(昭和22年法律第49号)(抄)
(作成及び届出の義務)
第89条 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
(作成の手続)
第90条 使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければなら ない。
2 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。
(法令及び労働協約との関係)
第92条 就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。
2 行政官庁は、法令又は労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる。
(労働契約との関係)
第93条 労働契約と就業規則との関係については、労働契約法 (平成19年法律第1
28号)第12条 の定めるところによる。
第106条 使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、第18条第2項、第24条第1項ただし書、第32条の2第1項、第32条の3、第32条の4第1項、第32条の5第1項、第34条第2項ただし書、第36条第1項、第37条第3項、第38条の2第2項、第38条の3第1項並びに第39条第4項、第6項及び第7項ただし書に規定する協定並びに第38条の4第1項及び第5項に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。
② (略)
○ 労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)(抄)
<法令等の周知方法>
第52条の2 法第106条第1項の厚生労働省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。
一 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。二 書面を労働者に交付すること。
三 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
【第15条に関する法令】
○ 労働基準法(昭和22年法律第49号)(抄)
(作成及び届出の義務)
第89条 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一~八 略
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項十 略
(制裁規定の制限)
第91条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、
1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の
10分の1を超えてはならない。
【第16条に関する法令】
○ 労働基準法(昭和22年法律第49号)(抄)
(労働条件の明示)
第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令(※)で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
2 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
3 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
※ 労働基準法施行規則において、「退職に関する事項(解雇の事由を含む)」について、書面の交付により明示することが定められています。
(解雇制限)
第19条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によつて休業する期間 及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によ
つて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
2 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
(解雇の予告)
第20条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、尐くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合に おいては、この限りでない。
2 前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
3 前条第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する。
(退職時等の証明)
第22条 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
2 労働者が、第20条第1項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。
3 前2項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。
4 使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第1項及び第2項の証明書に秘密の記号を記入してはならない。
(作成及び届出の義務)
第89条 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一、二 (略)
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)三の二~十 (略)
【第4章に関する法令等】
○ 労働基準法(昭和22年法律第49号)(抄)
(契約期間等)
第14条 労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、5年)を超える期間について締結してはならない。
一 専門的な知識、技術又は経験(以下この号において「専門的知識等」という。)であつて高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約
二 満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)
2 厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての 基準を定めることができる。
3 行政官庁は、前項の基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結する使用者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。
(労働条件の明示)
第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
○ 労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)(抄)【平成25年4月1日以降】
※ 有期労働契約の継続・終了について予測可能性と納得性を高め、紛争の防止につなげるため、労働基準法施行規則第5条が改正され、労働契約締結時に、契約期間とともに
「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準」も書面の交付によって明示しなければならない事項となります(平成25年4月1日から施行)。
(下線部は改正箇所)第5条 使用者が法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければな
らない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第一号の二に掲げる事項について は期間の定めのある労働契約であつて当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、第四号の二から第十一号までに掲げる事
項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。一 労働契約の期間に関する事項
一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項 一の三~十一 (略)
2、3 (略)
○ 有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(平成15年厚生労働省告示第35
7号)【平成25年4月1日以降】
※ 下記のほか、現行の告示では、更新の有無・更新の判断基準について、明示することが求められています(平成25年4月1日からは、労働基準法施行規則で、「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準」を書面の交付により明示することが義務付けられます。上記の労働基準法施行規則第5条をご覧下さい。)。
(雇止めの予告)
第1条 使用者は、期間の定めのある労働契約(当該契約を3回以上更新し、又は雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。次条第二項において同じ。)を更新しないこととしようとする場合には、尐なくとも当該契約の期間の満了する日の30日前までに、その予告をしなければならない。
(雇止めの理由の明示)
第2条 前条の場合において、使用者は、労働者が更新しないこととする理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。
2 期間の定めのある労働契約が更新されなかった場合において、使用者は、労働者が更新しなかった理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。
(契約期間についての配慮)
第3条 使用者は、期間の定めのある労働契約(当該契約を1回以上更新し、かつ、雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者に係るものに限る。) を更新しようとする場合においては、当該契約の実態及び当該労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければならない。
○民法(明治29年法律第89号)(抄)
(やむを得ない事由による雇用の解除)
第628条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
※ 有期契約労働者には、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パートタイ ム労働法」といいます。)の対象となる労働者が多く含まれると考えられますので、パートタイム労働法関連資料も併せて御覧ください。
【第21条に関する法令】
○船員法(昭和22年法律第100号)
(雇入契約の解除)
第40条 船舶所有者は、左の各号の一に該当する場合には、雇入契約を解除することができる。
一 船員が著しく職務に不適任であるとき。
二 船員が著しく職務を怠つたとき、又は職務に関し船員に重大な過失のあつたとき。三 海員が船長の指定する時までに船舶に乗り込まないとき。
四 海員が著しく船内の秩序をみだしたとき。
五 船員が負傷又は疾病のため職務に堪えないとき。
六 前各号の場合を除いて、やむを得ない事由のあるとき。
第41条 船員は、左の各号の一に該当する場合には、雇入契約を解除することができる。一 船舶が雇入契約の成立の時における国籍を失つたとき。
二 雇入契約により定められた労働条件と事実とが著しく相違するとき。三 船員が負傷又は疾病のため職務に堪えないとき。
四 船員が国土交通省令の定めるところにより教育を受けようとするとき。
2 船舶が外国の港からの航海を終了した場合において、その船舶に乗り組む船員が、2
4時間以上の期間を定めて書面で雇入契約の解除の申入をしたときは、その期間が満了した時に、その者の雇入契約は、終了する。
3 海員は、船長の適当と認める自己の後任者を提供したときは、雇入契約を解除することができる。
(就業規則の作成及び届出)
第97条 常時10人以上の船員を使用する船舶所有者は、国土交通省令の定めるところにより、次の事項について就業規則を作成し、これを国土交通大臣に届け出なければならない。これを変更したときも同様とする。
一 給料その他の報酬二 労働時間
三 休日及び休暇四 定員
2 前項の船舶所有者は、次の事項について就業規則を作成したときは、これを国土交通大臣に届け出なければならない。これを変更したときも同様とする。
一 食料並びに安全及び衛生二 被服及び日用品
三 陸上における宿泊、休養、医療及び慰安の施設四 災害補償
五 失業手当、雇止手当及び退職手当六 送還
七 教育八 賞罰
九 その他の労働条件
3 船舶所有者を構成員とする団体で法人たるものは、その構成員たる第1項の船舶所有者について適用される就業規則を作成して、これを届け出ることができる。その変更についても同様とする。
4 前項の規定による届出があつたときは、同項に規定する船舶所有者は、当該就業規則の作成及びその作成又は変更の届出をしなくてもよい。
5第1項乃至第3項の規定による届出には、第98条の規定により聴いた意見を記載した書面を添附しなければならない。
(就業規則の作成の手続)
第98条 船舶所有者又は前条第3項に規定する団体は、就業規則を作成し、又は変更するには、その就業規則の適用される船舶所有者の使用する船員の過半数で組織する労働組合があるときは、その労働組合、船員の過半数で組織する労働組合がないときは、船員の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
(就業規則の効力)
第100条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める雇入契約は、その部分については、無効とする。この場合には、雇入契約は、その無効の部分については、就業規則で定める基準に達する労働条件を定めたものとみなす。