③自社独自の技術をパートナーに開示・提供したことにより生じ得る技術の混同や汚染(コンタミネーション)の可能性、④パートナー間の利害対立や目的意識の相違等から生 じうるa)役割分担、b)成果の帰属、c)費用負担、d)事業化等(開発の成果の利用)に関連した紛争、さらには⑤共同研究開発における当事者間の力関係を背景とした一 方当事者にとって有利な各種の合意事項等と独占禁止法との抵触の問題等も生じ得る。
共同研究開発契約における重要事項について
xxxx特許事務所弁護士 xx xx
第1 はじめに
1 現代における共同研究開発の重要性
かつて、企業は自社内の研究開発部門のみにて技術開発を行い、競合他社との関係で差別化をはかろうとしていた。もちろん、現代においても、このような研究開発体制が主であることはかわりないと思われるが、経済のグローバル化が進展し、新興国の技術革新も進んでいる現代においては、企業が自社内の研究開発部門で技術開発を行うのみでは資金的にも体制的にも競争力のある技術や商品を生み出すのに必ずしも万全ではない。
そこで、近年は、企業が上記のような状況を補うべく、外部の企業や大学等の研究機関と共同研究開発を実施するケースが増えてきている。
企業が外部のパートナーと共同にて研究開発を行う典型的な例は、市場において競合関係にない異業種の企業間における共同研究開発と言えるであろう。これは、共同研究開発の主たる動機が同業他社との関係で競争力のある技術を開発する点に存在することに鑑みれば、自然なことである。
もっとも、市場において競合関係にある同業他社との関係であったとしても、多数ある同業他社のうちの数社が他の同業他社との関係において技術的に優位に立つべく共同研究開発に乗り出すこともあるであろうし、従来にはなかった新たな需要を掘り起こすための(競合他社との差別化をはかる前段階となる)技術基盤となる技術を開発すべく共同研究開発に乗り出すこともあるであろう。
また、これまでは真理の探究に重きが置かれていた大学等の研究機関における研究活動についても、社会との繋がりや実学の重要性が意識されるようになった社会的背景もあって、企業と共同での研究活動に踏み出す事例が増えてきている。
このように、自社にはなかった新たな視点や技術あるいは資金力等を取り入れつつ外部との協力関係のもと共同研究開発を行うことの重要性は増大してきている。
2 共同研究開発の問題点
ただ、自社内で自社の社員にて自社内に蓄積された知見や技術を用いて研究開発を行っていた際には、情報の管理や各種方針の策定が比較的容易であり、基本的には利害対立に関する事前の
調整が求められることもなかったのに対して、外部との共同研究開発においては異なる配慮が求められるようになる。
すなわち、①共同研究開発の対象に関する共通認識が形成されていないことに起因して生じうる活動範囲等に関する意識の齟齬や共同研究開発対象外の独自開発技術(あるいは、共同研究開発の終了後に同技術から独自に改良を加えた改良技術)の帰属等について紛争が生じることもあるし、②共同研究開発のパートナーに提供した自社独自の技術が流出してしまうおそれの存在、
③自社独自の技術をパートナーに開示・提供したことにより生じ得る技術の混同や汚染(コンタミネーション)の可能性、④パートナー間の利害対立や目的意識の相違等から生じうるa)役割分担、b)成果の帰属、c)費用負担、d)事業化等(開発の成果の利用)に関連した紛争、さらには⑤共同研究開発における当事者間の力関係を背景とした一方当事者にとって有利な各種の合意事項等と独占禁止法との抵触の問題等も生じ得る。
もちろん、これらの各種問題は、共同研究開発の関係に入った当事者間において各種の通知や意見交換等の意思疎通を密に行うことで共通認識やコンセンサスを得ることにより回避することが好ましい。しかしながら、共同研究開発は自社内にて完結するのではなく、置かれた立場や利害あるいは目的意識の異なる他者等との関係において研究開発を進めるという点に特殊性があり、それが故に、意思疎通による共通認識やコンセンサスの形成という不明確かつ不確実で反故にされやすい障壁では、紛争を回避するに十分ではない。
そこで、上記のような問題に対処すべく、共同研究開発の関係に入ろうとする当事者間においては、共同研究開発を進めていくにあたって(及び、共同研究開発が終了した後も含めて)想定される多様な局面を可能な限り事前に想定しつつ、事前に明確かつ確実に合意し、あるいは合意に至り得る体制の整備等につき文章化しておくことが好ましい。
本稿においては、このような共同研究開発の重要性と特殊性に鑑みて、共同研究開発を進めるに際して当事者間において締結する共同研究開発契約1の具体的内容と留意点につき解説することを目的とする。
第2 共同研究開発契約の具体的内容と留意点
1 共同研究開発の対象に関する共通認識の形成
自社内のみで研究開発を実施している場合には、ある研究活動から派生して思わぬ研究成果に至っても権利関係について調整をはかる必要はないし、派生的な研究等に関連する作業についても自社内における調整や業務命令で処理することが可能である。それは、ひいては特定企業内においては研究開発の対象につき特段の限定がなく、基本的には無限定の研究分野につき当該企業
(及び、その従業員)の活動範囲が及んでいるからである。
ところが、外部との共同研究開発は、前記のように自社内での研究開発に比べて資金的にも体制的にも多くの利点が認められる反面、利害対立を内包したり組織としての目的意識も異なったりする複数の外部者による活動であることから協力し得る範囲を事前に設定せざるを得ず、かかる設定が不十分であることに起因して想定外の事態が生じた場合に関する迅速かつ柔軟な対処に
1 実際に共同研究開発を実施するにあたっては、そのパートナーを選定する段階から各種の問題が生じ得る。また、パートナーを選定して共同研究開発が進展した後の段階においても、本稿において摘示する以外の多くの問題が生じ得る。ただ、それらの問題点について網羅的に検討することは紙幅の都合上も困難であることから、本稿においては、共同研究開発をすすめるにあたって問題となる事項の一部分につき概説するにとどめる。
共同研究開発契約における重要事項について
不都合が生じてしまう。
つまり、共同研究開発の対象は、共同研究開発の関係に入った複数の当事者を結びつける最も基本的な単位であり、共同研究開発を進めていくにあたって生じる様々な問題を合理的に解決するための判断指標となるものであるから、かかる共同研究開発の対象が明確に設定されていないと、様々な問題に関する合理的な解決に至ることができなくなってしまう。言い換えるならば、共同研究開発の対象が明確かつxx的に特定されているならば、その後に生じる様々な問題を合理的に解決するための指標が設定されていることになる。
このように、共同研究開発の対象は明確かつxx的に特定されておくことが望ましいが、共同研究開発は同時点においてはいまだ存在しない技術や商品に関するものであることから、これを明確かつxx的に特定することは容易でない。そこで、例えば、冒頭の目的規定等において、共同研究開発の関係に入った各当事者において、そのような共同研究開発の関係に入る以前の状況や同関係に入った動機及び各当事者において解決しようとする技術的課題や到達しようとする技術等についても可能な限り具体的に明記しておくことが好ましいであろう。また、このようにして共同研究開発の対象を特定したとしても、なお共同研究開発の対象となることにつき疑義の生じ得る技術等については、これが対象として含まれるのか含まれないのかにつき、明示的に記載しておくという手法も考えられる。更に、本来的にはこのようにして特定された共同研究開発の対象から外れる技術等については、各企業における共同活動の範囲には含まれないし、共同研究活動に起因する各種の制約等も及ばないと考えられるが、これらの点についても紛争を予防する観点から条項を設けて明確に記載しておくという手法もあり得るところである。特に、共同研究開発の終了後に、共同研究開発によりもたらされた成果に基づいて、各企業が独自に更なる研究開発を重ねて発展させた技術については、その帰属や利用関係等につき争いとなる可能性が比較的高いことから、その取り扱いを明確にしておくべき必要性は高いであろう。
2 技術流出の防止
自社内のみで研究開発を実施している場合には、自社の判断と責任において保有する技術情報を管理することができるし、自社の技術情報を用いて新たな技術開発に取り掛かることも、外部の第三者と新たな共同研究開発に踏み出すべく自社の技術情報を外部に提供することも自社の判断と責任のもとで自由になし得るところである。
これに対して、外部との共同研究開発においては、共同研究開発のため自社が提供した技術情報に対する外部パートナーの管理体制を把握することは困難であるし、同技術情報が外部パートナーを通じて外部に流出してしまう可能性も否定できない。
そこで、外部のパートナーと共同研究開発を進めるにあたっては、外部パートナーに提供する自社の技術情報を明確に定め、かつ、同技術情報に対する管理体制や共同研究開発以外での利用等についても具体的かつ詳細に規定を設けておくことが好ましい。
まず、共同研究開発に関して外部のパートナーに提供する技術情報として、おおきく分けて、
①共同研究開発を実施するにあたり必要となる各企業が従前より保有していた既存技術と②共同研究開発を実施していく過程で新たに得られた開発成果2が想定されるが、提供していない情報についての流出は懸念する必要がないのであるから、提供する技術情報を精査して明確化しておくことが重要となる。共同研究開発の関係に入ることが、すべての既存技術及び開発成果を提供
2 既存技術と開発成果については、いずれも各種実験の成功及び失敗に関するような基礎データや基礎データから発展させた成果情報など幅広いものが含まれる。
することを意味するものではないことから、提供する技術情報の精査は許容されるところであるが、パートナーに対する不信感のあまりに提供する技術情報の範囲を限定的にすることで共同研究開発が成果を挙げられない事態となってしまっては本末転倒ということにもなりかねない。この点は、共同研究開発に入った目的・動機やパートナーとの競合関係あるいはパートナーに対する信頼の程度等により、事案に応じて個々に判断するほかないが、可能な限り明確かつ詳細に記載しておくことが望ましい。
また、共同研究開発が成果を挙げることを期待してパートナーに提供する技術情報の範囲を広げるとしても、提供された技術情報に対する管理体制の構築や確認、及び共同研究開発の関係が終了した後の技術情報の保管・廃棄・返却等についても具体的に規定しておくことが望ましい。
3 技術の混同や汚染(コンタミネーション)の防止
上記の技術情報の流出とも類似する問題であるが、技術の混同や汚染(コンタミネーション)に対処するためのシステムを設けておくことも必要である。このようなコンタミネーションが発生すると、提供した技術情報の管理が杜撰になって流出の恐れが高まるのみならず、技術情報の帰属につき誤認が生じて冒認出願に及んだり、そのような誤認に起因して本来の保有者に対して差し止めや損害賠償の請求に及んでしまうなどの問題も生じてしまう。
このようなコンタミネーションを防止する方策としては、自社の技術については提供前に特許等の出願をしてしまうという方法もあるが、出願してしまうと技術内容が一般に開示されてしまうという問題もある。その他の方策として、例えば、ラボノートで研究開発の記録を残しておくことやxx証書で保存するということも考えられるであろうが、共同研究開発に携わっている当事者において、提供しあった技術情報につき帰属関係を確認する場を頻繁に設け、各当事者の確認のもと、各技術情報につき帰属関係を明示するということも有効であろう。
4 利害対立や目的意識の相違等に関連する各種事項の調整
⑴ 役割分担
実際に研究開発を進めるにあたって各担当者の役割分担を明確にすることは、的確かつ効率的な業務遂行を実施するために重要であるところ、この点においては自社のみによる研究開発と外部との共同研究開発との間に差異はない。しかしながら、外部との共同研究開発においては、前記のようにそれぞれの有する利害や目的意識の異なる複数の当事者が関与しているという特殊性があり、各担当者の果たしている役割が不明確あるいは流動的であれば、共同研究による開発成果の帰属の問題だけでなく、パートナーに提供することが好ましくない技術情報等の管理や流出等についても問題が生じかねない3。
そこで、各担当者の役割分担を明確に定めておくことは有益であるが、共同研究開発に必要な役割分担は、実際に共同研究開発を進めるに従って明らかとなることも多いであろうし、多種多様な作業内容を事前に取り決めて文書化することは容易でない。
もちろん、共同研究開発を実施するにあたり必要となる作業内容が事前に予測でき、各担当者の役割分担を明確に定め得るのであれば、そのように規定することが好ましい。ただ、そのように事前の定めを設けることが容易でない場合には、あらかじめ定め得る限りにおいて大枠のみ定
3 もっとも、各担当者の役割を流動的にして多様な視点や意見を取り入れることで、共同研究開発が成果を挙げることも想定される場合があり、必ずしも各担当者の役割を固定的かつ明確に定めることが好ましいというわけではない。
共同研究開発契約における重要事項について
めておき、それより細部に至る作業内容については、例えば、定期的に状況を確認しつつ所定の責任者等において協議の場を設けて必要に応じて分担を取り決めて書面化するなどのルールを策定しておくのも方策のひとつと思われる。
また、各種の事情や要請から各担当者の役割分担を明確には定め難い(あるいは、流動的にせざるを得ない)場合には、前記のような開発成果の帰属や技術情報の管理等に問題が生じてしまう事態を避けるため、誰がいつ如何なる業務を担当したのかにつき事後的にでも記録しておくことが好ましい。
⑵ 成果の帰属
自社のみにて研究開発を行う場合には、職務発明規定等が整備されている前提において、その研究開発に基づく成果が自社に帰属することは問題とならない。これに対して、共同研究開発は、それぞれの有する利害や目的意識の異なる複数の当事者が関与している点に特殊性があり、しかも、その成果の帰属は各当事者が共同研究開発に踏み込むに至った動機に直結するものであることから、事前の取り決めが不十分であると思わぬ紛争に発展しかねない。この点、営利ではなく真理の探究を主目的とする大学等の研究機関との共同研究開発においても、当然に企業が開発の成果を取得できる前提で活動し得るとは限らないので、やはり共同研究開発の成果に関する帰属につき事前に取り決めておくことは必須である。
共同研究開発による成果の帰属については、①帰属主体として、いずれか一方のみに帰属させるのか、共同研究開発に携わった当事者すべての共有とするのかが問題となる。また、②帰属内容として、特許等として保護するため出願の対象とするのか、権利化はせずにノウハウとして社内等にて秘密とするのかも問題となる。
このうち、帰属主体の判断については、例えば、費用負担の有無や程度、開発による成果と関係各当事者の業務分野との関係、あるいは共同研究開発における業務分担や当該成果に関する発明者の認定4等が基準として用いられることが多い。もっとも、このような基準を事前に設けていたとしても、成果の帰属は関係各当事者の利害対立が最も表面化しやすい局面でもあるし、成果の内容や成果に関与した担当部署又は発明者等の実質的な認定につき、認識や意見の齟齬が生じることも想定されるところである。そこで、共同研究開発に関与している各当事者において、成果の有無や内容、成果に携わった担当部署や発明者等につき、十分な確認作業を行い、記録化しておく制度の策定は必須と言える。更に、想定するならば、このような確認作業においても関係各当事者の認識や意見に生じた齟齬を解消できない場合に、関係各当事者が従うべき一定の判断を示すための制度まで策定しておくことが望ましい。
また、帰属主体のほかに、帰属内容として権利化を目指すのかノウハウとして社内秘とするのかも難しい判断を要する事項である。この点については、共同研究開発により生み出された成果の内容や関係各当事者の置かれている状況その他の多様な事情によって判断が異なってくるであ
4 知財高裁平成20年5月29日判決(ガラス多孔体事件判決。判時2018号146頁)は、「発明者とは、自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与した者、すなわち、当該技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動に関与した者を指すというべきである。当該発明について、例えば、管理者として、部下の研究者に対して一般的管理をした者や、一般的な助言・指導を与えた者や、補助者として、研究者の指示に従い、単にデータをとりまとめた者又は実験を行った者や、発明者に資金を提供したり、設備利用の便宜を与えることにより、発明の完成を援助した者又は委託した者等は、発明者には当たらない。」と判示して、発明者の認定に関する判断基準を提示している。
ろうし、前記の帰属主体の判断とも密接に関連してくるところと思われる。そこで、この点についても、事前の取り決めが容易でない場合には、帰属主体におけるのと同じく、共同研究開発に関与している各当事者において十分な確認と意見交換を行い、記録化しておく制度を策定することが望まれる。
なお、上記のようにして共同研究開発の成果を関係各当事者に帰属させるとしても、各当事者の内部において職務発明規定等を整備するなどして適切な措置を講じておかなければ、合意された内容に従った円滑な帰属が実現されないことになりかねない。そこで、各当事者の内部における職務発明規定等の整備は適切に行われる必要があるところ、これは各企業等の内部における手続の問題でもあり、外部からは確認することが容易でないことも多々あることから、かかる手続が適切に処理されていることについて双方から表明保証を求めることもひとつの方法であろう。
⑶ 費用負担
自社のみにて研究開発を行う場合には、自社がそれに要する費用をすべて負担することになる。これに対して、共同研究開発は、それぞれの有する利害や置かれた状況等の異なる複数の当事者が関与している点に特殊性があるから、それに要する費用をいかに分担するかが問題となる。
共同研究開発における費用負担については、関係各当事者の置かれた状況や目的及び利害関係の程度等を参酌のうえ、各当事者が十分に意思疎通を図ったうえで詳細かつ具体的に定めておくことが望ましい。例えば、独創的な発想や技術を有するが資金力に乏しいベンチャー企業との共同研究開発であれば、ベンチャー企業の費用負担が過度にならないように合意されることも多いであろう。また、営利ではなく真理の探究等を主目的として開発成果の商業利用を念頭に置いていない大学等の研究機関との共同研究開発においても、企業側が多くの費用を負担するのが通常であろう。ただ、もちろん、個々の事情等に応じて、必ずしもそのように取り決めることのできないこともあり得るし、ベンチャー企業や大学等の研究機関の費用負担を軽くするといっても、具体的にどのように費用分担を定めるのかは個々の事情に応じて詳細に取り決めておかなければ事後的に紛争となりかねない。
一般論として、共同研究開発における費用負担の問題は、本稿においても前述した役割分担の定めに従って、それぞれが担当する各業務に応じて負担するとされることも多いであろうが、個々の事情や負担割合のxx性等に応じて修正されることも珍しくないので、想定される業務内容を念頭に置いたうえで、具体的かつ詳細に合意しておくことが望ましい。また、想定外の費用が発生してしまった場合や、いずれの負担となるのかが不明な費用が発生した場合等の対処についても、例えば、そのような事態においては関係各当事者において均等の負担とするなど、合理的な解決策を定めておくことが望ましい。
⑷ 事業化等(開発の成果の利用)に関連した紛争
自社のみにて研究開発を行う場合には、自社が自らの判断と責任において同開発成果を利用し得ることに問題はない。これに対して、共同研究開発は、それぞれの有する利害や目的等の異なる複数の当事者が関与しており、その開発の成果による何らかのメリットを動機として関係各当事者それぞれが共同研究開発の関係に入っている点に特殊性があるから、開発成果の利用はそれぞれの利害や思惑が真正面から衝突する局面とも表現できる。そこで、共同研究開発による開発の成果については、その利用関係について慎重な意見交換のうえに取り決めておく必要が認められる。
共同研究開発契約における重要事項について
本稿の冒頭においても指摘したように、企業が外部のパートナーと共同にて研究開発を行う典型的な例は、市場において競合関係にない異業種の企業間における共同研究開発である。また、市場において競合関係にある同業他社との関係であったとしても、多数ある同業他社のうちの数社が他の同業他社との関係において技術的に優位に立つべく共同研究開発に乗り出すこともあるであろうし、従来にはなかった新たな需要を掘り起こすための(競合他社との差別化をはかる前段階となる)技術基盤となる技術を開発すべく共同研究開発に乗り出すこともあるであろう。そして、大学等の研究機関と企業が共同で共同研究開発に及ぶ事例も認められる。
このような各種の事例を概観すると、共同研究開発による開発の成果については、共同であるのか各自であるのかは別としても、関係各当事者それぞれが成果を利用し得ることを想定しているケースが多いようにも思われる。もっとも、自ら実施することは想定しておらず当初より実施料の取得のみ想定している場合もあるであろうし、むしろ大学等の研究機関は開発の成果を自ら利用することを想定していないケースが殆どであるようにも思われる。
共同研究開発の関係に入った各当事者は、上記のように、その成果に関連する何らかのメリットを動機として関与するに至っているのであるから、その動機の内容に応じて成果の利用を認めることになると思われる。
いずれにしても、上記のように、開発成果の利用はそれぞれの利害や思惑が真正面から衝突する局面であるから、共同研究開発の関係に入った関係各当事者の動機をも参酌しつつ、可能な限り具体的かつ詳細に定めておくことが好ましい。
5 独占禁止法との抵触の回避
本稿の冒頭においても指摘したように、現代において共同研究開発は競争力のある商品や技術を生み出すため欠かせないものとなってきている。ただ、共同研究開発は複数の企業等によるものであり、研究開発の共同化が市場における競争の制限をもたらしたり、共同研究開発に関する取り決めが市場におけるxxな競争を阻害したりする危険性も内包している。
このような危険性に鑑みて、xx取引委員会はホームページ5において、①研究開発の共同化に対する独占禁止法の適用、及び②共同研究開発の実施に伴う取決めに対する独占禁止法の適用の2つにつき、具体的な判断の指針等を開示している。
すなわち、xx取引委員会が開示する「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」によると、
①研究開発の共同化が独占禁止法に抵触する事例は多くないものの、例えば、寡占産業における複数の事業者、あるいは市場で競争関係にある大部分の事業者が、単独でも行い得る開発を共同することにより、市場における競争が実質的に制限されてしまう事案等は独占禁止法に抵触する可能性があると指摘されている。そして、市場における競争が実質的に制限されるか否かについては、(a)参加者の数、市場シェア等、(b)研究の性格、(c)共同化の必要性、(d)対象範囲、期間等の各事項が総合的に勘案されるとされている。
また、xx取引委員会が開示する「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」によると、②共同研究開発の実施に伴う取決めが、参加者の事業活動を不当に拘束してxxな競争を阻害するおそれがある場合、あるいは、市場において競争関係にある事業者間の共同研究開発において製品の価格や数量等につき相互に事業活動の制限がなされる場合等には独占禁止法との抵触が問題になり得るとされている。そして、共同研究開発の実施に伴う取決めについて、「原則として不
5 「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」(xxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xx/xxxxxxxxx/xxxxxxxxxx/ kyodokenkyu.html)
xxな取引方法に該当しないと認められる事項」「不xxな取引方法に該当するおそれがある事項」「不xxな取引方法に該当するおそれが強い事項」の3つに分けて各事項の要素を具体的に示している。
このように、共同研究開発は競争力のある商品や技術を生み出し得る一方で、独占禁止法に抵触する危険性も内包していることから、その実施や取り決めに際しては十分に注意することが求められる。
第3 おわりに
共同研究開発の重要事項を説明するにあたっては、共同研究開発に至る前段階のパートナー選定から共同研究開発終了後の改良成果の取り扱いなどについてまで検討する必要があるのみならず、本体たる共同研究開発契約の内容に関しても実に多くの検討事項が想定され、本稿で説明し得たのは重要事項のごく一部にすぎない。
共同研究開発には実に多種多様な関係者が携わり得るものであり、その態様等も実に様々であるから、限られた紙幅の中で想定される共同研究開発の内容を網羅的に説明することは容易でない。
共同研究開発の関係に入るに際しては、想像力を膨らませて想定し得る多くの事態について十分な協議を重ねて文章化し、協議内容等を記録化することが求められ、醸成された信頼関係のもとで緊密に連携しながら事態に対処していくことが重要である。
本稿は、具体的な契約条項を策定するに際しての検討事項等の一部を提示するのみであるが、共同研究開発が積極的かつ効果的に運用されるための指針として頂けるのであれば幸いである。
以 上