https://www.mhlw.go.jp/content/000780136.pdf
【令和6年3月更新】
1 労働契約
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※本項では、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」を「パートタイム・有期雇用労働法」と、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」を「労働者派遣法」と表記。
1 労働契約とは【労働契約法】【労働基準法第2章】
法律上の契約行為であり、労働者が「労務を提供する(働く)こと」に対し、使用者がその対償として「賃金を支払うこと」について労使が合意することにより効力が生じ、これは口頭でも成立する【労働契約法第6条】【「労働契約法の施行について」平24.8.10基発0810第2号 最終改正 平30.12.28】。
この「合意」は、抽象的・包括的な合意でも足り、業務の内容や賃金の額・計算方法等に関する具体的な内容であることを要しないとされている。ただし、できる限り早期に労働条件を確定し、労働者に書面により周知する必要がある。
[労働条件の明示については「№3」参照]
労働契約の成立によって、労働者は「労務提供義務(誠実労働義務含む)」、「秘密保持義務」、「競業避止義務」のほか、企業の信用・名誉を傷つけないなどの義務を負い、使用者は「賃金支払義務」、「安全配慮義務」、「職場環境保持義務」などの義務を負う。
(1)労働契約における「労働者」とは
労働契約法第2条は、労働契約の締結当事者としての「労働者」を「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」と定義している。「労働者」に該当するか否かは、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素を勘案して総合的に判断し、「使用従属関係」が認められるか否かによって判断される【「労働契約法の施行について」平24.8.10基発0810第2号 最終改正 平30.12.28】。これは、「職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で賃金を支払われる者」と規定する労働基準法第9条の「労働者」の定義と概ね同様である。
なお、労働組合法第3条は、労働者を「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と規定し、退職者や被解雇者も含まれる場合があるなど(退職や解雇の当・不当やその条件面で紛争となっている場合等)、労働契約法、労働基準法の考え方とは異なる観点で規定されている。
(2)労働契約における「使用者」とは
労働契約法第2条は、「使用者」について、「その使用する労働者に対して賃金を支払う者」と定義している。個人事業主の場合はその事業主個人を、会社その他の法人組織の場合はその法人をいい、労働基準法第10条の「事業主」に相当するもので、同条の「使用者」より狭い概念であるとされている【「労働契約法の施行について」平24.8.10基発0810第2号 最終改正 平30.12.28】。
労働基準法第10条では「使用者」について、「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう」と定義されており、労働契約の当事者たる使用者ではなくとも、労働基準法上の使用者として責任を問われ得る。
この点について行政解釈では、「『使用者』とは、本法各条の義務の履行責任者をいい、その認定は部長、課長等の形式にとらわれることなく、各事業において、本法各条の義務について実質的に一定の権限を与えられているか否かによるが、かかる権限が与えられておらず、単に上司の命令の伝達者に過ぎない者は使用者ではない」【昭22.9.13 発基17号】とされている。
なお、労働組合法では、労働契約上の雇用主以外の事業主であっても、その労働者の基本的な労働条件等について雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合は、その限りにおいて「使用者」に当たると解されている【朝日放送事件 最三小判 平7.2.28】。
(3)労働契約の原則【労働契約法第3条】
ア 労使対等の原則
労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする(第1項)。
イ 均衡考慮の原則
労働契約は、労働者及び使用者が就業の実態に応じて均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする(第2項)。
ウ 仕事と生活の調和への配慮の原則
労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする(第3項)。
x xxxxの原則
労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、xxに従い誠実に権利を行使し、及び義務を履行しなければならない(第4項)。
オ 権利濫用の禁止の原則
労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない(第5項)。
◇ 労働契約と請負契約、委任契約
労働契約が締結されている場合、一方の当事者である労働者には、労働基準法、労災保険法などの労働関係法規が適用されるが、労働契約ではなく請負契約[※1]【民法第632条】や委任契約[※2]【民法第643条・第656条など】の場合は、労働関係法規が適用されず、労働者としての保護を受けることはできない。
労働関係法規が適用される労働者に該当するかどうかの判断基準は、「相手方の指揮監督に従って労務を提供しているかどうか」及び「労務の対償としての賃金が支払われているかどうか」である。
判例等では、この二つの基準を合わせて「使用従属関係にあること」と表現した上で、様々な要素を総合して判断しており、具体的には厚生労働省の研究会が判断基準(ア 仕事の依頼・業務従事の指示への諾否の自由の有無、イ 業務遂行上の指揮監督の有無、ウ 拘束性の有無、エ 代替性の有無(本人に代わって補助者や他の者が労務を提供することが認められている場合、指揮監督関係を否定する要素となり得る))を整理している【昭60.12.19 労働基準法研究会報告】。
また、運送請負契約のもと、契約上は業務請負として配送業務に従事しているいわゆるバイシクルメッセンジャーやバイクライダーについて、業務遂行上の指揮監督が行われており、時間的・場所的な拘束性があり、総合的に使用従属関係が認められるとして、労働基準法上の労働者に当たるとする行政解釈が発出されている【平19.9.27 基発0927004号】。
近時の判例では、工場における建材(巾木)の製造過程等において、派遣法第40条の6の「みなし規定」の要件である偽装請負に該当するか否かの判断に当たり、労務提供を目的とした契約でなく請負事業者として独立性と専門性を備えているかという点を厳格に判断し、特に厚生労働省による【「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)】により、形式的契約ではなく過去の経緯や日常的な就労実態を踏まえた判断の上で偽装請負を認定し、さらに「派遣先に派遣法等の規定の適用を免れる目的があったか否か」の判断に当たっては、就労実態を詳細に認定した上で、「日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には、特段の事情がない限り、労働者派遣の役務の提供を受けている法人の代表者または当該労働者派遣の役務に関する契約の締結権限を有する者は、偽装請負等の状態にあることを認識しながら組織的に偽装請負等の目的で当該役務の提供を受けていたものと推認する」という基準を示したもの【東リ事件 最三小決(上告棄却)令4.6.7】がある。
[※1]請負人が仕事を完成することを約し、注文者が仕事の完成に対して報酬を支払う契約。
[※2]委任者が受任者を信頼し、法律行為などの事務の処理を依頼し、受任者がこれを引き受けることにより成立する契約。雇用のように使用者の指揮命令の下に労務を提供するのではなく、受任者は委任された事務の目的に従いある程度の自由裁量をもって事務を処理することができる。また、委任は当事者間の信頼関係に基づくものであるため、受任者は自ら事務の処理を行う必要があり、請負人が下請負人を使用できるのと異なり、第三者に処理を代行させることはできない。
xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx
労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集(厚生労働省ホームページ)
xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxx/xxxxx/xxxx_xxxxx00.xxxx
「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」について(厚生労働省ホームページ)
xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxx/xxxxxxxxxxxxxxx/xxxxx/0000000000_00000.xxxx
2 「期間の定めのない労働契約」と「期間の定めのある契約」
(1)「期間の定めのない労働契約」とは
契約の期間が定められていない労働契約。特に問題がなければ定年まで働くもの(以下「無期労働契約」という。)。
(働く)
入社 定年(60~65歳)
(2)「期間の定めのある労働契約」とは
契約の期間をあらかじめ「いつからいつまで」と定める労働契約(以下、「有期労働契約」という。)。
期間を定める場合、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの(建設工事等)のほかは、原則として3年を超えることはできない【労働基準法第14条】。
ただし、特例として、医師、弁護士、公認会計士など、【労働基準法第14条第1項第1号の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準(平15.10.22 厚生労働省告示第356号)】に定める「高度の専門的知識等を有する者」又は「満60歳以上の者」との労働契約の期間については、5年以内とすることができる。
ア 有期労働契約の更新
有期労働契約で恒常的な業務に従事し、契約期間終了後に同じ会社で同じ期間の契約が繰り返し更新されることがある(下図例2)。
■(例1):専門技術が一定期間必要な特定業務の有期労働契約の場合
(働く)
(働く)
■(例2):x
<1年>
常的な業務に有期労働契約が繰り返し更新されて働く場合
<1年>
<1年>
入社
(働く) (働く) (働く)
・・・・・
〇 契約を1回以上更新し、1年を超えて継続して雇用している労働者の有期労働契約を更新しようとする場合は、契約の実態及びその労働者の希望に応じ、契約期間をできる限り長くするように努めなければならない【有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準 平15年厚生労働省告示第357号 最終改正 令5.3.30厚生労働省告示第114号】。
〇 使用者は、必要以上に短い期間を定めることにより、当該労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない【労働契約法第17条第2項】。
イ 雇止め法理
有期労働契約の期間満了に伴い、使用者が契約の更新を拒否することを「雇止め」というが、恒常的な業務内容に従事し形式的な手続きのみで契約が繰り返し更新されている場合や、当初の契約締結時から雇用継続への合理的な期待が生じていると認められる場合における「雇止め」については、労働者保護の観点から、過去の最高裁判例により一定の場合に雇止めを無効とする「雇止め法理」が確定しており、労働契約法第19条に明文化された。その内容は、以下のとおりである。
下記(ア)、(イ)のいずれかに該当する有期契約労働者が、使用者による雇止めの意思表示に対して、契約期間が満了する日までの間に当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後、遅滞なく有期労働契約の締結の申込みを行った場合、その申込みを拒絶(雇止め)することが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなされる【労働契約法第19条】。
(ア)過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの【東芝xx工場事件 最一小判 昭49.7.22】
※「更新の申込み」及び「締結の申込み」は、要式行為ではなく、使用者による雇止めの意思表示に対して労働者による何らかの反対の意思表示が使用者側に伝わるものでよいとされている【「労働契約法の施行について」平24.8.10基発0810第2号 最終改正 平30.12.28】。
(イ)労働者において、有期労働契約期間の満了時に当該契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由(※1、2)があると認められるもの
【日立メディコ事件 最一小判 昭61.12.4】
※1合理的な理由の有無については、最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた有期労働契約の満了時までの間におけるあらゆる事情が総合的に勘案される。
※2労働者が雇用継続への合理的な期待を抱いていたにもかかわらず、契約期間の満了前に更新年数及び回数の上限などを使用者が一方的に宣言したとしても、そのことのみをもって直ちに合理的な理由の存在が否定されることにはならないとされている。
[詳細については「No48」6(1)有期労働契約の反復更新と雇止め 参照]
ウ 有期労働契約の無期労働契約への転換(無期転換ルール)【労働契約法第18条】
○以下の3つの要件をすべて満たす場合、労働者の申込みにより、無期労働契約に転換することができる。
(ア)同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間(通算契約期間)が5年を超えていること
(イ)契約更新が1回以上行われていること
(ウ)通算5年を超えて契約をしてきた使用者との間で、現時点で有期労働契約を締結していること
※5年の間に雇用形態や賃金体系(例:時間給→日給)等に変更があった場合でも適用される。
※口頭でも契約は成立するが、トラブル防止の観点から書面による申込み・承諾を行うことが望ましい。
※法は労働契約があることのみを要件としており、労務の提供の有無については問われていないため、通算期間中に育児休業や私傷病休職により労務の提供をしなかった期間があったとしても、通算契約期間としてカウントする。
○「クーリング期間」
・2つの有期労働契約の間に「空白期間」(同一使用者の下で労働契約を締結していない期間)が6か月以上あるときは、その空白期間より前の有期労働契約は5年のカウントに通算しない。これを「クーリング期間」という。
・通算対象の契約期間(2つ以上の有期労働契約があるときは通算した期間)が1年未満の場合は、その2分の1以上の空白期間があれば、それ以前の有期労働契約は5年のカウントに通算しない【労働契約法第18条第1項の通算契約期間に関する基準を定める省令 平24.10.26 厚生労働省令第148号】。
〇無期転換後の労働条件
・無期転換後の労働条件については、就業規則等で別段の定めのない限り、直前の有期労働契約と同一の条件となる。このため、高年齢者雇用安定法第9条の規定に基づく継続雇用制度が適用される高年齢者については、第2の定年退職に関する規定など、有期契約時と異なる定めを行う場合が多い。また、トラブルを避けるため、あらかじめ無期転換後の労働条件について定め、労働者に周知しておく必要がある。
・無期転換者と有期契約労働者との待遇については、均衡考慮が求められる。
○「無期転換ルールの特例」
【専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法第4条、第6条、第8条】
以下の有期雇用労働者については、無期転換申込権の期間が延長され、又は発生しない特例がある。
(ア)大学及び研究開発法人の教員等、研究者、技術者、リサーチアドミニストレーター
(民間企業の研究者等で大学等及び研究開発法人との共同研究に専ら従事する者も同様)
⇒ 無期転換申込権の発生までの期間は10年となる。
(イ)年収1,075万円以上で高度の専門的知識等を有し、「5年を超える一定の期間に完了することが予定されている業務(プロジェクト)」に就く労働者
⇒ 使用者が「雇用管理措置に関する第1種計画」を作成し、都道府県労働局長の認定を受ければ、プロジェクトの期間中(10年を上限)は無期転換申込権が発生しない。
(ウ)定年後に同一の事業主(高年齢者雇用安定法に規定する特殊関係事業主を含む)に継続雇用される高齢者
使用者が「雇用管理に関する措置についての計画(第2種計画)」を作成し、都道府県労働局長の認定を受ければ、定年に達した後引き続いてその事業主に引き続いて雇用される期間は、無期転換申込権が発生しない。
(※)無期労働契約転換申込書(例)及び無期労働契約転換申込み受理通知書(例)
無期労働契約転換申込書
様
申出日 年 月 日
申出者氏名 印
私の有期労働契約期間については、通算5年を超えましたので、労働契約法第18条第1項の規定に基づき、無期労働契約への転換を申し込みます。
無期労働契約転換申込み受理通知書
様
受理日 年 月 日
職氏名 印
あなたから 年 月 日に提出された無期労働契約転換申込書について受理しましたので通知します。
〇「更新上限条項(雇止め条項)」について
・有期労働契約に例えば「契約期間は通算で最長5年未満とする」といった更新上限条項を設けることについては、最高裁において、使用者が5年を超えて労働者を雇用する意図が無い場合に当初から更新上限を定めることが直ちに違法となるものではなく、無期転換阻止を狙ったものとしか言い難い不自然な態様で行われる雇止めが行われた場合であれば格別、労働契約法第18条の潜脱に当たるとはいえない、という基本的な考え方を示した上で、契約締結当初から契約期間の更新限度が5年である旨が雇用契約書に明確に示されており、その後も更新に係る条件には特段の変更もなく更新が重ねられ、4回目の更新時には当初の予定どおり以降は更新しないことを説明し、説明を受けたことを確認する内容が記載された確認票が提出されていたことから、合理的期待の生じる余地も認められないとして契約期間の満了を認めた判例がある【日本通運(xx・雇止め)事件 最一小判 令5.5.25(不受理)】。
・ただし、契約当初からでなく途中で条項を追加した場合や、労働者への説明が不足していたケースなどでは、労働条件の不利益変更や契約更新への期待権の発生、公序良俗違反等の見解が生じる可能性がある。
「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」(厚生労働省ホームページ)
3 労働契約を結ぶときのルール(労働条件の明示等)
(1)使用者は、労働者を雇い入れる時に、法に定められた労働条件を明示しなければならない【労働基準法第15条第1項、同法施行規則第5条第1項】。そのうち、特に、ア 労働契約の期間に関すること及び期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準、イ 仕事をする場所と仕事の内容に関すること及びその変更の範囲、ウ 仕事の始めと終りの時刻、時間外労働の有無、休憩時間・休日・休暇等に関すること、エ 賃金の決定・計算と支払の方法、賃金の締切りと支払の時期に関すること、オ 退職に関すること(「解雇の事由」を含む)については、書面の交付等により明示しなければならない。
(2)パートタイム労働者及び有期雇用労働者に対しては、(1)の項目に加え、カ 昇給の有無、キ 退職手当の有無、ク 賞与の有無、ケ 相談窓口、コ 契約の更新の有無、サ 更新する場合の基準、シ 更新上限(有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限)の有無及びその内容、ス 無期転換申込機会、セ 無期転換後の労働条件についても、書面の交付等により速やかに明示しなければならない(シについては更新上限がある場合は契約締結時のみならず契約更新のタイミングごとにも明示が必要。ス・セについては無期転換権が発生する更新のタイミングごとに(無期転換権を行使しない旨を表明している有期雇用労働者も含めて)明示が必要)【パートタイム・有期雇用労働法第6条第1項、同法施行規則第2条】【労働基準法施行規則第5条第5項、第6項】。
なお、更新上限を新設・短縮する場合は、その理由をあらかじめ有期契約労働者に説明しなければならない。また、無期転換後の労働条件の決定に当たっては、無期転換者と正社員(無期雇用フルタイム労働者)との待遇については均衡考慮が求められるため、就業の実態に応じて均衡を考慮した事項について説明するよう努めなければならない【有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(平成15年厚生労働省告示第357号 最終改正 令5.3.30厚生労働省告示第114号)】。
(3)派遣労働者については、派遣元事業主は(1)及び(2)のカからクまでに項目に加え、ソ 労使協定の対象となる派遣労働者であるか否か(対象である場合には、当該協定の有効期間の終期)や、タ 派遣労働者からの申出を受けた苦情の処理に関する事項についても書面の交付等により明示する【労働者派遣法第31条の2第2項第1号、同法施行規則第25条の16】とともに、不合理な待遇差を解消するための措置の内容や職務の内容等を勘案した賃金の決定等について講じた措置の内容を説明しなければならない【労働者派遣法第31条の2第2項第2号】。
(4)なお、就業規則に当該労働者に適用される条件が具体的に定められている限り、その労働者に適用される部分を明らかにした上で就業規則を交付した場合、同じ事項について明示する必要はない。
[「労働条件の明示」の詳細については、「№3」参照]
4 労働契約の内容と確認
労働契約において合意された内容(賃金、労働時間など)が労働者の労働条件となるが、労働契約法においては「使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにする」、「労働者及び使用者は、労働契約の内容について、できる限り書面により確認するものとする」こととされている【労働契約法第4条】。
5 求人票等に記載の労働条件
法的には、事業主(求人者)がハローワークや就職情報誌、求人サイトなどに求人を申し込むことは、働こうとする者(求職者)への申込みの誘引に過ぎず、求職者がそれに応募することが契約の申込みであると考えられている。
採用前の面接や入社時の話し合いにより賃金や労働時間などの労働条件について労働者と使用者が合意して変更したと認められるような特段の事情がなければ、求人票の労働条件が確定したものになるとされており【千代田工業事件 大阪高判 平2.3.8】、逆に、求人票等に記載の労働条件と異なる条件で労働者と使用者とが合意の上で労働契約を締結した場合には、当該労働契約における労働条件が有効となる。
6 副業・兼業
政府が推進する「働き方改革実行計画」を踏まえ、副業・兼業の普及促進が図られており、副業・兼業について企業や労働者が現行法令のもとで留意すべき事項をまとめた【副業・兼業の促進に関するガイドライン】が示されている。
このガイドラインでは、副業・兼業を希望する労働者が適切な職業選択を通じ多様なキャリア形成を図っていくことを促進するため下記の事項が定められるとともに、企業が副業・兼業に関する情報を公表することが推奨されている。
一方で、労働時間管理が不十分・不適切で健康被害が生じた場合には、使用者が安全配慮義務違反に基づく損害賠償を求められる可能性もあるので注意が必要である。
(1)労働時間管理
労働者が事業主を異にする複数の事業場で労働する場合には、労働基準法第38条第1項の規定に基づき、以下により、労働時間を通算して管理する必要がある。
ア 労働時間の通算が必要となる場合
・労働者が事業主を異にする複数の事業場において「労働基準法に定められた労働時間規制が適用される労働者」に該当する場合
(事業主、委任、請負など労働時間規制が適用されない場合には通算されない)
※ただし、ガイドラインにおいては「過労等により業務に支障を来さないようにする観点から、その者の自己申告により就業時間を把握すること等を通じて、就業時間が長時間にならないよう配慮することが望ましい」とされている。
・法定労働時間、上限規制(休日労働を含め単月100時間未満、複数月平均80時間以内)については、労働時間を通算して適用される(通算して法定労働時間を超える場合には、長時間の時間外労働とならないようにすることが望ましいとされている)。
イ 副業・兼業の確認
・使用者は、労働者からの申告等により、副業・兼業の有無・内容を確認・把握する。
・使用者は、就業規則等に、届け出制など副業・兼業の有無・内容を確認するための仕組みを設けておくことが望ましい
ウ 労働時間の通算の考え方
・副業・兼業を行う労働者を使用するすべての使用者は、自らの事業場における労働時間と他の使用者の事業場における労働時間を通算して管理する必要がある。
・労働時間の通算は、自らの事業場における労働時間と労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間を通算することによって行う。
・副業・兼業の開始前に、自らの事業場における所定労働時間と他の使用者の事業場における所定労働時間を通算して、法定労働時間を超える部分がある場合には、当該超える部分は後から労働契約を締結した使用者(副業先)における時間外労働となる。ゆえに、副業先は仮に従業員が10人未満であっても、36協定の作成・届出を行っておく必要がある。
・副業・兼業の開始後に、上記の所定労働時間の通算に加えて、自らの事業場における所定外労働時間と他の使用者の事業場における所定外労働時間を、所定外労働が行われる順に通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合には、当該超える部分が時間外労働となる(労働時間の先後関係をもって法定労働時間を超えたかを判断する)。
エ 時間外労働の割増賃金の取扱い
・上記ウの労働時間の通算によって時間外労働となる部分のうち、自ら労働させた時間について、時間外労働の割増賃金を支払う必要がある。
(通算した月の労働時間が60時間を超える部分に対しては、当該時間外労働をさせた事業主が50%以上の割増賃金を支払う必要がある)
オ 簡便な労働時間管理の方法(「管理モデル」)
・上記ウ・エのほかに、労働時間の申告等や通算管理における労使双方の手続き上の負担を軽減した簡便な労働時間管理の方法(「管理モデル」)が示されている。
・「管理モデル」では、副業・兼業の開始前に、A社(先契約)の法定外労働時間とB社(後契約)の労働時間を合計した時間数について、上限規制(単月100時間未満、複数月平均80時間以内)の範囲内でそれぞれ労働時間の上限を設定し、各々の使用者がそれぞれその範囲内で労働させ、A社は自らの事業場における法定外労働時間の労働について、B社は自らの事業場における労働時間について、それぞれ自らの事業場における36協定の延長時間の範囲内とし、割増賃金を支払うこととする。
これにより、副業・兼業の開始後は、それぞれあらかじめ設定した労働時間の範囲内で労働させる限り、他の使用者の事業場の実労働時間を把握しなくても労働基準法を遵守することが可能となる。
・「管理モデル」は、副業・兼業を行おうとする労働者に対してA社(先契約)が管理モデルによることを求め、労働者及び労働者を通じて使用者B社(後契約)が応じることによって導入されることが想定されている。
(2)健康管理
・使用者は、労働安全衛生法に基づき、健康診断、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックやこれらの結果に基づく事後措置等(健康確保措置)を実施しなければならない。
・使用者が労働者の副業・兼業を認めている場合は、健康保持のため自己管理を行うよう指示し、心身の不調があれば都度相談を受けることを伝えること、副業・兼業の状況も踏まえ、必要に応じ、法律を超える健康確保措置を実施することなど、労使の話し合い等を通じ、副業・兼業を行う者の健康確保に資する措置を実施することが適当である。
・健康確保の観点からも長時間労働を招くことのないよう、他の事業場における労働時間と通算して時間外労働の上限規制を遵守すること、また、それを超えない範囲内で自らの事業場及び他の使用者の事業場のそれぞれにおける労働時間の上限を設定する形で副業・兼業を認めている場合においては、自らの事業場における上限を超えて労働させないこと。
(3)労災保険の給付
・複数就業者においては、複数就業者の就業先の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定を行い、災害の発生していない事業場の賃金額も合算して労災保険給付を算定する。また、副業先への移動時に起こった災害は、通勤災害として労災保険給付の対象となる。
(4)情報の公表
・労働者の多様なキャリア形成を促進する観点から、その職業選択に資するよう、副業・兼業を許容しているか否か、また、条件付許容の場合はその条件について、自社のホームページ等において公表することが望ましい。
なお、ガイドラインにおいては、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に労働者の自由であるものの、各企業においてそれを制限することが合理的に許される場合として次のように例示されている。
ア 労務提供上の支障がある場合
イ 業務上の秘密が漏洩する場合
ウ 競業により自社の利益が害される場合
エ 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する恐れがある場合
ただし、形式的にこれらの要件に該当する場合であっても、実際に会社に及ぼす影響に応じた制限としなければならず、企業には、副業・兼業に関するルールの明確化や適切な運用体制の確保、従業員への周知等が求められる。
☆「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和4年7月改定)」(厚生労働省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf
☆「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」(厚生労働省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000996750.pdf
☆「副業・兼業の促進に関するガイドラインQ&A」(厚生労働省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000964082.pdf
☆「モデル就業規則について」(厚生労働省ホームページ)
7 「シフト制」について
(1)「シフト制」とは
人手不足や労働者のニーズの多様化、季節的な需要の繁閑への対処等を背景として、パートタイム労働者やアルバイトを中心に、労働日や労働時間を一定期間ごとに調整し、特定するような働き方が採り入れられている。このような形態を「シフト制」といい、シフト制労働契約に基づき就労する労働者を「シフト制労働者」という。
典型的なケースでは、労働契約時点では労働日や労働時間を確定的に定めず、一定期間(例:1週間、1か月等)ごとに作成される勤務割表や勤務シフトなどで初めて具体的な労働日や労働時間が確定するような勤務形態が取られる。
(2)「シフト制」の課題
「シフト制」は、その時々の事情に応じて柔軟に労働日・労働時間を設定できる点で労使双方にメリットがある一方、使用者の都合により労働日がほとんど設定されなかったり(シフトカット、ゼロシフト)、労働者の希望を超える、あるいは無視するような労働日・労働時間が設定されたりすることなどによりトラブルとなることもある。
厚生労働省では、紛争の未然防止のため【いわゆる「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項(令和4年1月7日)】を示している。
(3)「シフト制」における留意事項(労働契約締結時)
ア 労働条件の明示
(ア)始業・終業の時刻
契約時に始業・終業時刻が確定している日については、労働条件通知書などに単に「シフトによる」と記載するだけでは不足であり、労働日ごとの始業・終業時刻を明記するか、原則的な始業・終業時刻を記載した上で、契約締結と同時に定める一定期間分のシフト表等を併せて交付する必要がある。
(イ)休日
具体的な曜日が確定していない場合であっても、休日の設定に係る基本的な考え方などを明記する必要がある。
イ 特に定めておくことが望ましい事項
シフトの作成・変更・設定などについて、労使でよく話し合ってルールを定めておくことが望ましい。なお、いったん確定したシフトを変更する場合には、労使の合意が必要である。
(ア)シフトの作成
シフト作成に当たり事前に労働者の意見を聴くこと、作成したシフトの労働者への通知期限(例:「毎月〇日までに」等)・通知方法(例:「シフト表」の掲出、メール等による通知等)を定めておくこと
(イ)シフトの変更
いったん確定したシフトを変更する場合の申出期限や手続き、シフト期間の開始後、確定していた労働日や労働時間をキャンセル・変更する場合の期限や手続き
(ウ)シフトの設定
一定の期間中に労働日が設定される最大の日数・時間数・時間帯(例:毎週〇・〇・〇曜日から勤務する日をシフトで指定する等)、一定の期間中の目安となる労働日数・労働時間数(例:1か月〇日程度勤務、1週当たり平均〇時間勤務等)、一定の期間において最低限労働する日数・時間数など(例:1か月〇日以上勤務、少なくとも毎週〇曜日は勤務等)
(4)その他の留意点
・年次有給休暇についてはシフト希望の提出時に指定するのが一般的である。なお、「シフトの調整をして労働日を決めたのだから、その日に有休は使用できない」といった取扱いは認められない。
・「シフト制労働者」を使用者の責に帰すべき事由により休業させた場合、一般の労働者と同様、平均賃金の60%以上の休業手当の支払いが必要である【労働基準法第26条】。その際、使用者側が、具体的な労働日・労働時間が確定しておらず労働義務が生じていないためシフト未確定期間は法的に「休業」と評価し得ないと主張する場合があるが、労働基準法第15条(労働条件の明示)の趣旨からすれば望ましいとはいえず、使用者が恣意的にシフトを入れない扱いが可能になる懸念もあるが、現在、一般論としてシフト未確定期間についての休業手当の支払義務は明確に認められていない。
・「シフト制労働者」であっても、労働関係法令における定め(労働時間、休憩、年次有給休暇、休業手当、安全・健康管理、解雇・雇止め、募集・採用、均衡待遇、社会保険・労働保険)は他の労働者と同様に適用される。
(5)参考判例
・就業規則や労働契約書、労働条件通知書に明確な所定労働日の定めがなく、労働条件通知書に「週5日程度」、「業務の状況に応じて週の出勤日を決める」との記載のあるシフト制労働者について、従前の就労実態などの状況から所定労働日を認定することも可能としたもの【ホームケア事件 横浜地判 令2.3.26】。
・雇用契約書に「シフトによる」とのみ記載されていた場合であって、過去のスケジュールでも出勤回数が不定で1か月の勤務日数を固定することが困難であり、勤務時間に関する合意があったとは認められないとした上で、シフト制労働者にとっては、シフトの大幅な減少は収入の減少に直結し労働者の不利益が著しいため、合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合はシフト決定権限の濫用になるとしたもの【シルバーハート事件 東京地判 令2.11.25】。
☆【いわゆる「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項(令和4年1月7日)】
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000870905.pdf
8 フリーランスについて
(1)現状と課題
デジタル化の進展による新たな働き方(臨時雇いとして単発の仕事を行う「ギグ・ワーカー」等)の広がり、副業・兼業の促進など、働き方が多様化する中で、労働者のニーズに応じて柔軟に働き方を選択できる環境を整備することが求められる中、「ITエンジニア」、「WEBデザイナー」、「翻訳家」、「ライター」、「カメラマン」などの「フリーランス」とよばれる働き方が注目されている。
しかし、個人で業務の委託を受けるフリーランスと業務を委託する発注事業者とでは交渉力や情報収集力で大きな格差が生じやすく、近年、発注事業者とフリーランスとの取引において、一方的な発注の取消や業務内容の変更、報酬の支払遅延や一方的な減額、発注事業者からのハラスメントなどのトラブルが問題となっている。
令和4年11月25日には、東京都労働委員会が飲食宅配代行サービスの「ウーバーイーツ」の配達員について「労働組合法上の労働者」と認める初の判断を示した(ウーバーイーツユニオンによる不当労働行為(団交拒否)の救済申立てに対するもの)。ウーバー配達員の労組法上の労働者性については、同法の趣旨に照らし、会社と配達員の間に労務供給関係と評価できる実態があるかどうかを含めて検討され、
ア 配達員が事業に不可欠な労働力として確保され事業組織に組み入れられていたこと
イ 契約内容(配送料等)は会社が一方的・定型的に決定し、配達員は個別に交渉できないこと
ウ 配達員は業務の依頼に応ずべき関係(配達リクエストを拒否しづらい状況)にあること
エ 報酬である配送料が労務対価性を有すること
オ 広い意味での指揮監督下(事実上推奨経路に従わざるを得ない等)での労務提供であること
カ 一定の時間的・場所的拘束(GPSによる位置情報の把握、配達完了の報告)があること
キ 配達員は独自に固有の顧客を獲得することはなく、顕著な事業者性を有しないこと
等の判断要素から、同配達員は労働組合を結成して団体交渉を求める権利が保障されることとされた。
また、こうした状況に鑑み、フリーランスが安定的に働くことのできる環境を整備するため、国は【フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和3年3月26日 内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)】を策定し、「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」(フリーランス)が独占禁止法及び下請代金支払遅延等防止法(下請法)の適用を受けること、また、フリーランスが実質的に「雇用」に該当する場合には労働関係法規を適用すべきこととされた。
さらに令和5年5月12日には、フリーランスの取引の適正化及び就業環境の整備を図る目的で【「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化法)」(令和5年法律第25号)】が公布され、令和6年11月までに施行予定となっている。
同法において、「フリーランス(特定受託事業者)」とは、「業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないもの」をいい、個人事業者や一人社長を含むものとされている。
(2)「フリーランス・事業者間取引適正化法」における特定受託事業者に係る取引の適正化
ア 給付の内容その他の事項の明示(第3条)
・事業者が特定受託事業者に対して業務委託を行うときは、「特定受託事業者の給付の内容」、「報酬の額」、「支払期日」等を書面または電磁的記録により明示しなければならない。
イ 報酬の支払期日等(第4条)
・事業者は特定受託事業者に対し、給付を受領した日から60日以内に報酬支払期日を設定し、期日内に報酬を支払わなければならない。かつ、報酬支払期日はできる限り短い期間内において定められなければならない。
ウ 特定業務委託事業者の遵守事項(第5条)
・特定業務受託者との今後政令で定める期間(3~6か月を予定)以上の「継続的業務委託」に関し、次の(ア)から(オ)までの行為をしてはならない。また、(カ)及び(キ)の行為によって、特定受託事業者の利益を不当に害してはならない。
(ア)特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく給付の受領を拒むこと
(イ)特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬の額を減ずること
(ウ)特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく給付を受領した後、その給付に係る物を引き取らせること
(エ)給付の内容と同種または類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比して著しく低い報酬の額を不当に定めること
(オ)給付の内容を均質にし、またはその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、または役務を強制して利用させること
(カ)自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
(キ)特定受託事業者の責に帰すべき事由なく給付の内容を変更させ、または給付を受領した後に給付をやり直させること
・公正取引委員会または中小企業庁長官、厚生労働大臣は、上記の申出があったときは、必要な調査を行い、その申出の内容が事実であると認めるときは、この法律に基づく措置その他必要な措置をとらなければならない。
・事業者は、上記の申出をしたことを理由として、当該特定受託事業者に対して取引の数量の削減、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならない。
エ 募集情報の的確な表示(第12条)
・事業者が広告等により募集情報を提供するときは、その情報等を正確かつ最新の内容に保ち、虚偽の表示等をしてはならない。
オ 妊娠、出産若しくは育児または介護に対する配慮(第13条)
・事業者は、「継続的業務委託」を行う特定受託事業者からの申出に応じ、妊娠、出産若しくは育児または介護と両立しつつ当該継続的な業務に従事することができるよう、その者の妊娠、出産若しくは育児または介護の状況に応じた必要な配慮をするよう努めなければならない。
カ 業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等(第14条)
・事業者は、その行う業務委託に関して行われる次の各号に掲げる言動により、当該各号に掲げる状況に至ることのないよう、特定受託事業者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならない。
(ア)性的な言動に対する特定受託事業者の対応によりその者に係る業務委託の条件について不利益を与え、またはその者の就業環境を害すること
(イ)妊娠、出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動によりその者の就業環境を害すること
(ウ)取引上の優越的な関係を背景とした言動であって業務委託に係る業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲を超えたものにより特定受託事業者の就業環境を害すること
・事業者は、特定受託業務従事者が上記のハラスメント行為について相談をしたことまたは当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、その者に対し、契約の解除その他の不利益な取扱いをしてはならない。
キ 中途解除等の予告(第16条)
・事業者は、「継続的業務委託」を中途解約しようとする場合には、少なくとも30日前までにその予告をしなければならない。
・特定受託事業者が、契約が満了する日までの間に契約解約の理由の開示を請求した場合には、事業者は遅滞なくこれを開示しなければならない。
(3)申出等(第6条、第17条)
・業務委託事業者から業務委託を受ける特定受託事業者は、上記(2)のア~ウに違反する事実がある場合には、公正取引委員会又は中小企業庁長官に対し、その旨を申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができる。
・特定業務委託事業者から業務委託を受け、又は受けようとする特定受託事業者は、上記(2)のエ~キに違反する事実がある場合には、厚生労働大臣にその旨を申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができる。
・業務委託事業者または特定業務委託事業者は、特定受託事業者が申出をしたことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。
申出の対象 |
違 反 事 項 |
公正取引委員会又は中小企業庁長官 (第6条) |
〇給付の内容その他の事項の明示等(第3条) 〇報酬の支払期日等(第4条) 〇特定業務委託事業者の順守事項(第5条) |
厚生労働大臣 (第17条) |
〇募集情報の的確な表示(第12条) 〇妊娠、出産若しくは育児又は会議に対する配慮(第13条) 〇業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等(第14条) 〇解除等の予告(第16条) |
(4)勧告、命令(第8条、第9条、第18条、第19条)
・公正取引委員会は、業務委託事業者が上記(2)のア~ウに違反したと認めるときまたは(3)の申出に対し不利益な取扱いを行ったと認めるときは、速やかに必要な措置をとるべきことを勧告することができる。また、正当な理由なく当該勧告に係る措置を取らなかったときは、当該勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができ、その旨を公表することができる。
・厚生労働大臣は、特定業務受託事業者が上記(2)のエ、カ、キまたは(3)に申出に対し不利益な取扱いを行ったと認めるときは、速やかに必要な措置をとるべきことを勧告することができる。また、正当な理由なく当該勧告((2)のカに係るものを除く)に係る措置を取らなかったときは、当該勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができ、その旨を公表することができる((2)のカに関しては、命令を経ずとも勧告に従わないときにその旨を公表できる)。
(5)相談対応に係る体制の整備(第21条)
・国は、特定受託事業者に係る取引の適正化及び特定受託業務従事者の就業環境の整備に資するよう、相談対応などの必要な体制の整備等の措置を講じるものとする。
(6)フリーランス保護の方向性
・フリーランスとして委託契約を締結しながら、実質的には自由裁量がなく指揮命令を受けるといった「雇用」に当たる「偽装フリーランス」が問題となっているが、「フリーランス・事業者間取引適正化法」では解決が困難であり、今後さらに実効性のある対応(体制整備等)が求められる。
・厚生労働省は、令和5年10月にフリーランスや個人事業主でも労災保険に加入できる特別加入制度を拡大する方針を示しており、企業から業務委託を受ける場合は原則すべて対象に含めるなどの改正を令和6年秋までに開始する方向としている。
・現在、労働安全衛生法の対象にフリーランスや個人事業主を加える方向で法整備が検討されており、フリーランスに仕事を発注した企業などへの事故の予防や報告の義務付け、違反した場合の是正勧告(行政指導)、フリーランス本人から労働基準監督署に報告できる仕組みなども検討されている。
[労災保険については「№31」参照]
[安全衛生については「№32」参照]
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(公正取引委員会ホームページ)
https://www.jftc.go.jp/fllaw.html
「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和3年3月26日)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/000759477.pdf
「フリーランス・トラブル110番」(厚生労働省)0120-532-110(平日11:30~19:30)
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