なお、就業規則の届出は、CD-ROM、DVD-R 又はDVD-RW 等の電子媒体で提出することも可能ですし、電子政府の総合窓口「e-Gov(イーガブ)」への電子申請による届出も可能です。
Ⅱ
1 就業規則の意義と役割
就業規則とは、労働条件の詳細や、職場において守るべきルール(服務規律)等を定めた文書をいいます。多くの労働者を雇用し、一定の目的にそって働かせるにあたって、労働条件や服務規律などを就業規則に明確に定め、労働者に周知しておくことは労務管理の基本です。
就業規則の規定が合理的であって、労働者に周知されている場合には、就業規則の規定は労働契約の内容となり、使用者・労働者ともその内容に拘束されます(労xx7条)。すなわち、就業規則の労働条件の定めにより、当事者の労働契約上の権利義務が形成されます。
なお、法律が改正された場合には、使用者は必要に応じて、法改正に対応するように就業規則を改正しなければなりません。
2 就業規則の作成・変更の手続
就業規則は使用者が作成しますが、労働者保護の観点及び就業規則の労働条件の決定に果たす役割に着目し、以下のように一定の規制が行われています。
【作成義務】
労基法が適用される事業場において、常時 10 人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません(労基法 89条)。就業規則は、原則として、事業場(職場)ごとに作成することとされています。
この「常時 10 人以上の労働者」には、臨時的な雇用(例えば、棚卸し時に日雇いで雇った臨時アルバイト等)は含まれませんが、それ以外は常時使用される者としてカウントします(ただし派遣労働者は派遣先事業場では除外されます)。
なお、10 人未満の事業場は労基法では就業規則の作成が義務付けられていませんが、労働条件を明確にするために就業規則を作成することが望ましいでしょう。
【記載事項】
労基法 89 条は、就業規則の記載事項について、必ず定めておくべき絶対的必要記載事項(89 条1号から3号)と、制度が存在する場合には就業規則に定めておく相対的必要記載事項(89 条3号の2から 10 号)とを定めています。また、これら以外の事項も任意的記載事項として定めを置くことができます。
絶対的必要記載事項を欠く就業規則は、労基法 89 条違反となります。これに対し、
相対的必要記載事項は、当該事業場にその制度がある場合に、必ず就業規則に規定を置いておかなければならない事項です。絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項はそれぞれ以下のとおりです。
絶対的必要記載事項 | ①始業及び終業の時刻、休憩時間(休憩の長さ、与え方等を含む)、休日(日数、与え方等を含む)、休暇(年休、産前産後休業、いわゆる生理休暇、育児・介護休業などを含む)、交替制の場合には就業時転換に関する事項(交替期日、交替順序等)、 ②賃金(退職金、臨時の賃金等を除く)の決定、計算、支払の方法、賃金の締切り、支払の時期、昇給に関する事項(昇給の有無、昇給期間、昇給率、昇給基準等)、 ③退職に関する事項(解雇の事由のほか、自己都合退職、合意解約、定年制度等も含む) |
相対的必要記載事項 | ①退職手当に関する事項(適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算、支払の方法、退職手当の支払の時期に関する事項等)、 ②退職手当以外の臨時の賃金(たとえば賞与、一時金、結婚祝金など)および最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項、 ③食費、作業用品などの負担に関する事項、 ④安全衛生に関する事項、 ⑤職業訓練に関する事項、 ⑥災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項、 ⑦表彰(表彰の種類、事由等)および制裁に関する事項(懲戒事由、懲戒処分の種類、手続き等)、 ⑧その他全労働者に適用される事項(たとえば、旅費規程、福利厚生施設の利用、休職制度、配置転換、出向等が該当する) |
相対的必要記載事項を定めるべきであるのにもかかわらず、これを規定していない場合も労基法 89 条違反となりますので注意が必要です。
このほか、就業規則の制定趣旨、xx精神を宣言した規定、就業規則の解釈や適用などに関する規定を設けることもあり、それらは任意的記載事項に分類されます。
【意見聴取義務】
常時 10 人以上の労働者を使用する使用者が就業規則の作成・変更をするにあたっては、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合(以下、「過半数組合」)、当該事業場に過半数で組織する労働組合が存在しない場合には民主的手続によって選出された当該事業場の過半数を代表する者(以下、過半数組合と過半数代表者をまとめて「過半数代表」ということがある)の意見を聴取しなければなりません(労基法 90 条)。
労働者側の意思を反映させるのが趣旨ですが、過半数代表者の同意を得る義務まではありません。過半数代表者の意見を記した書面を添付して所轄労働基準監督署長に届出をすることになります(労基法 90 条2項)。なお、過半数組合がない事業
Ⅱ 就業規則
場における過半数代表者の選出条件については後述します。
【届出義務】
使用者は、作成・変更した就業規則を所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません。届出に当たっては、前述のとおり、過半数組合又は過半数代表者の意見書の添付が必要です(労基法 90 条2項)。労xx 49 条2項は、労基法 90 条2項の規定により「所轄労働基準監督署長に届け出る際に添付する意見を記した書面は、労働者を代表する者の署名又は記名押印のあるものでなければならない。」としています。
添付される意見書は、反対意見が記載されている場合でも、所轄労働基準監督署長への届出に支障はなく、また、過半数組合ないし過半数代表者が意見書の提出を拒む場合には、意見を聴いたことが証明できれば所轄労働基準監督署長では受理されます(昭 23.5.11 基発 735 号、昭 23.10.30 基発 1575 号)。
なお、就業規則の届出は、CD-ROM、DVD-R 又はDVD-RW 等の電子媒体で提出することも可能ですし、電子政府の総合窓口「e-Gov(イーガブ)」への電子申請による届出も可能です。
【周知義務】
使用者は,就業規則を常時各作業場の見やすい場所へ掲示し,または備え付けること,書面を交付すること、コンピュータなどで常時閲覧可能な状態にしておくこと等、労基法施行規則で定める方法によって,労働者に周知させなければなりません(労基法 106 条)。
周知の方法は、労基法施行規則(労xx)52 条の2に以下の通り定められています。
①常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
②書面を労働者に交付すること。
③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
なお、使用者は、就業規則だけではなく、労基法及び労xx、36 協定などの労使協定、労使委員会の決議についても労働者に周知する義務を負っています(労基法 106 条)。
3 就業規則が労働契約の労働条件決定にどのように作用するか
(1)手続違反の罰則
就業規則の作成義務違反(記載漏れなど)や、意見聴取義務・届出義務・周知義務に違反した場合、使用者には罰則の適用があります(労基法 120 条)。
(2)就業規則の定めと労働契約の労働条件
使用者が合理的な労働条件を定める就業規則を採用に際して労働者に周知させた場合には、その労働条件が労働契約の内容になります(労xx7条)。
就業規則の定める労働条件は、労働契約との関係で、最低基準としての効力を有します(労xx 12 条)。労働契約の定める労働条件のうち、就業規則に定める労働条件の基準に達しない部分を無効とし、それを就業規則に定める基準で補充することが定められています。
この就業規則に定める労働条件の基準に達しない部分を無効とすることを、専門用語では、「強行的効力」と言い、また、就業規則に定める基準で補充することを「補充的効力」と言います。また、労xx 12 条の法的効力は「最低基準効」と呼ばれています。
例えば、就業規則において時給 1,500 円と定められている場合に、使用者が新規採用の労働者と時給 1,300 円で合意したとしても、これは、就業規則の 1,500 円には達しないので、1,300 円という合意が無効となり、無効となった時給は、就業規則に定める 1,500 円によって補充され、結局、この労働契約の時給は、1,500 円となります。
(3)就業規則による労働条件の不利益変更
就業規則による労働条件の不利益変更が認められるかどうかについて、労xxは、
「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない(労xx9条)」と規定し、労働条件決定・変更における労使合意の原則を示しています。
ただし、この原則に対する例外として、労xx 10 条は、就業規則の変更が、「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況、その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なもの」であって、かつ、「変更後の就業規則を労働者に周知」 している場合には、労働契約の内容である労働条件は変更後の就業規則によって変更されると
Ⅱ 就業規則
します。その場合、不利益変更に合意しない労働者にも変更後の労働条件が適用されることになります。ただし、就業規則による労働条件の不利益変更が認められるのは、あくまで例外的と考えるべきであって、労働条件の変更には労働者の同意を要することが原則であると考えるべきでしょう。
また、この場合の労働者の同意においては、使用者が労働者に対し、変更の必要性やその内容について、十分に時間をかけて説明し、労働者の納得を得る必要があります。判例では、労使の交渉力の相違を考慮して、労働者の合意の存否は慎重に判断されて、「就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけではなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべき」(最判平 28.2.19、山梨県民信用組合事件)としました。
なお、労働者及び使用者が労働契約により、就業規則の変更によっては変更されない労働条件として個別に合意していた部分(いわゆる特約)については、その合意が就業規則を下回る場合を除き、就業規則の変更によって不利益変更することはできません(労xx 10 条但書)。
労働者の過半数代表者
労基法は、「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数を組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者」との書面の協定(労使協定)を締結したり、意見を聴いたりすることを規定しています(労xx6条の2参照)。
過半数組合のない事業場における労働者の過半数代表者の選出については、労基法 41 条2号に定める「管理監督者」(後述)を過半数代表者とすることはできません(労xx6条の2第1項1号)。また、選出に当たっては、協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続による必要があり、使用者の意向に基づき選出されたものであってはなりません(同2号)。
また、使用者は、過半数代表者が法に規定する協定等に関する事務を円滑に遂行することができるよう必要な配慮を行わなければなりません。
(労xx6条の2第4項。平成 31 年4月1日施行)
4 懲戒処分
懲戒処分は、企業秩序を維持するために必要な措置ですが、就業規則(作成義務がない場合には就業規則に準ずるもの)において、懲戒処分の事由とその種類(懲戒解雇、諭旨解雇、出勤停止、降格、減給、けん責など)及び程度とを定めておく必要があります。懲戒処分を行う場合には、処分の対象者にどのような非行がどの懲戒事由に該当し、どの懲戒処分を選択したのかを明らかにし、かつ弁明の機会を与えることが必要です。
懲戒処分には、懲戒権濫用法理(労xx 15 条「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」)が適用されます。ここでは、懲戒処分に至るまでに事前に警告したり、教育指導したりしたが、改善されなかったかどうか、前例に比べて厳しくないかなどの観点から懲戒処分の相当性が判断されます。