事件番号 H16.4.23 東京地裁 平成15(ワ)6670 著作権 民事訴訟事件 争点 ゲームソフトの開発委託に関し、著作権の帰属が争点になった事件。開発者は個人。委託者は企業。契約書には、著作権は企業に帰属する旨の条項があった。 契約上の留意事項 契約書において、開発されたソフトの著作権の帰属を明確にしておくべきである。 分析担当 原田洋平 事件番号 H14.12.18 東京地裁 平成13(ワ)21182 著作権 民事訴訟事件 争点...
ソフトウエア開発委託契約における著作権上の留意事項についての研究成果
2006年1月13日日本弁理士会近畿支部
平成17年度知的財産権制度検討委員会
第1部会委員 xxxx
目次
1.はじめに
2.ソフトウエア開発委託契約関係の判例
3.ソフトウエア開発委託契約関係の判例から分かること
4.著作権の原始的帰属について
(1)著作権の原始的帰属先の重要性
(2)著作権の原始的帰属先の確定
(3)開発会社と役員・従業員との権利関係
(4)開発会社と下請け会社との権利関係
(5)下請け会社と下請け会社の役員・従業員との関係
(6)開発会社と開発会社への派遣社員との関係
(7)開発会社とユーザへの派遣社員との権利関係
(8)共同開発における権利関係
(9)開発会社と既存プログラムの著作権者との権利関係
①開発会社が保有する既存プログラムの場合
②第三者が保有する既存プログラムの場合
5.著作権の移転について
(1)著作者人格権
(2)支分権
(3)開発費との関係
(4)ライセンス
(5)登録
(6)ノウハウ・発明について
6.まとめ
7.参考文献
1.はじめに
日本弁理士会近畿支部平成17年度知的財産権制度検討委員会第1部会では、新規業務に関する調査研究を行いました。特に、著作権に関する研究、とりわけソフトウエア開発委託契約における著作権上の留意事項を研究し、当該留意事項をふまえた上で、実際の契約書を如何に作るべきかを研究しました。第1部会を代表いたしまして、筆者が、第1部会での研究結果を、本研究成果としてまとめさせて頂きました。
2.ソフトウエア開発委託契約関係の判例
事件番号 | H16.4.23 東京地裁 平成15(ワ)6670 著作権 民事訴訟事件 |
争点 | ゲームソフトの開発委託に関し、著作権の帰属が争点になった事件。開発者は 個人。委託者は企業。契約書には、著作権は企業に帰属する旨の条項があった。 |
契約上の 留意事項 | 契約書において、開発されたソフトの著作権の帰属を明確にしておくべきであ る。 |
分析担当 | xxxx |
第1部会では、ソフトウエア開発委託契約に関係する判例を抽出した上で、争点となった事項を整理し、契約上の留意事項を検討した。以下に、抽出した判例の争点及び契約上の留意事項を簡単にまとめた。
事件番号 | H14.12.18 東京地裁 平成13(ワ)21182 著作権 民事訴訟事件 |
争点 | 誰が著作者であるか。 裁判所は、事実関係から、誰が著作者であるかを判断した。 |
契約上の留意事項 | ソフトウエア開発委託契約においては、誰が著作者であるかを明確にすることよりも、むしろ、著作権の帰属関係を明確にしておくべきである。それによっ て、誰が利益を得ることができるのかが明らかになるからである。 |
分析担当 | xxxx |
事件番号 | H14.7.25 東京地裁 平成11(ワ)18934 不正競争 民事訴訟事件 |
争点 | 著作権の帰属関係について。 裁判所は、契約書の条項を参照して、著作権の帰属について判断した。 |
契約上の 留意事項 | 著作権の帰属先を契約書において明確にしておくことが有効である。 |
分析担当 | xxxx |
事件番号 | H9.2.18 東京地裁 |
争点 | プログラムのバグが契約の解除理由に該当するか。 |
契約上の | どのような手順で原因調査を行うか。 |
留意事項 | 受託者の責任の範囲をどのように設定するか。 どのような場合に契約解除可能か。 |
分析担当 | xxx |
事件番号 | H7.6.12 東京地裁 昭和63(ワ)10976 |
争点 | 受託した業務の範囲は何か。システム設計を受託していたか。 |
契約上の 留意事項 | システム設計をシステム開発業務に含めるか否かを予め明確にすべき。 |
分析担当 | xxxx |
事件番号 | H11.10.27 広島地裁 平成8(ワ)805 |
争点 | システム開発契約における請負内容。 |
契約上の留意事項 | 注文者の指示によって発生した瑕疵が注文者の指示の不適切が原因であった場合、請負人には専門的知識があるのが通常であるから、請負人が知って告げ ていない場合は、請負人は、責任を負う。 |
分析担当 | xxxx |
事件番号 | 大阪地裁 平成12(ワ)10231 |
争点 | ゲーム作成にあたり部材となるシナリオの修正、変更の適否。 |
契約上の 留意事項 | 同一性保持権侵害となるので、シナリオの修正、変更には、制作者の了解を得 る必要がある。 |
分析担当 | xxxx |
事件番号 | H3.2.22 東京地裁 昭和62(ワ)473、昭和62(ワ)4869 |
争点 | 原告はプログラムの開発義務を負っていたか否か。 プログラム未完成の場合でも開発費が支払われる慣行が存在しているか。トラブル発生時に契約変更の合意があったか。 |
契約上の 留意事項 | 慣行慣例が存在する場合でも、契約書に盛り込んで明確にすべき。 |
分析担当 | xxxx |
事件番号 | H11.11.18 大阪地裁 平成10(ワ)1743 |
争点 | シリーズソフトにおける後発ソフトの著作権の帰属。 |
契約上の 留意事項 | ソフトウエアのバージョンアップあるいはシリーズソフトの続編ソフトが制 作された場合の著作権の帰属について、契約条項を作成する必要がある。シリ |
ーズソフトの開発予定の有無によって、具体的に契約条項は異なる。 | |
分析担当 | xxxx |
事件番号 | H12.12.26 大阪地裁 平成10(ワ)10259 |
争点 | 本件プログラムは著作物かどうか。 本件プログラムの著作権は原告か訴外会社か。 本件プログラムの改良は翻案または複製に相当するか。 |
契約上の 留意事項 | 改良やバージョンアップがなされるプログラムの特質を考えると、無用なトラ ブルを避けるため、翻案権の帰属関係も明確に規定しておくべき。 |
分析担当 | xxxx |
事件番号 | H14.8.29 大阪地裁 平成11(ワ)965 平成11(ワ)965 平成11(ワ)13193 |
争点 | 本件ソフトが原告および被告の共有にかかる著作物かどうか。持ち分の比率に合意があったかどうか。 原告に本件ソフトの独占販売権を付与する合意があったかどうか。 |
契約上の 留意事項 | 共有にかかるか否か、持ち分比率について、契約書に明確に盛り込むべき。 |
分析担当 | xxxx |
事件番号 | H15.4.11 最高裁 平成13(ワ)216 |
争点 | 著作xx15条1項「法人等の業務に従事する者」の範囲。 |
契約上の留意事項 | 受託者と従業者との間の権利処理を明確にすべき。 従業者に原始的に帰属している著作権が受託者に譲渡されたことを委託者にどのように保証するか。 |
分析担当 | xxxx |
3.ソフトウエア開発委託契約関係の判例から分かること
ソフトウエア開発委託契約関係の判例から、著作権上、以下のような点を明確にした上で、当事者間で契約を締結すべきであることが分かる。
①著作者は誰であるか。
②著作権の帰属先は誰であるか。
③法人著作に該当するか。法人著作に該当している場合、その保証を委託者にどのように行うか。
④バージョンアップ等、翻案がなされたプログラムの著作権は誰に帰属するか。
これらの留意点は、xxすると当たり前のことではあるが、ソフトウエア開発委託には、
多くの人材が関わること、既に開発済みのプログラムが組み込まれる場合があること等を考慮すると、適切な当事者間において、適切な契約を締結しておかなければ、後々紛争が生じるおそれがある。この点について、以下に整理していく。
なお、ソフトウエア開発委託契約においては、当然、著作権以外の問題も生じる。知的財産権に関する問題であれば、他人の特許権を侵害していないことの保証をどうするかといった問題も手当しておく必要がある。また、重大なバグが存在している場合の責任の所在も明確にしておかなければならない。そのような観点からすると、ソフトウエア開発委託契約においては、様々な留意点が存在するわけであるが、本研究成果では、弁理士の新規業務という観点から、著作権上の問題に特化した形で論述させていただく。
4.著作権の原始的帰属について
(1)著作権の原始的帰属先の重要性
開発されたソフトウエアの著作権が最終的に誰に帰属するのかを契約上決定するにあたり、まず、大前提となるのは、著作権の原始的帰属先である。著作権の原始的帰属先(著作者)が確定すれば、最終的に著作権を取得したい者は、当該著作者から、著作権を譲り受けることによって、著作権を取得することができる。
第○条(著作権の帰属)
本契約において開発されたプログラムの著作権は、甲(ユーザ)に帰属する。
しかし、実際の契約において、著作権の原始的帰属先が明確に認識されていない場合がある。以下の契約条項をご覧頂きたい。
発注者(ユーザ)と受注者(開発会社)との力関係によっては、上記のように、開発されたプログラムの著作権が最終的にユーザに帰属するとの契約がなされることは多々見受けられると思う。
しかし、上記のような条項だけでは、著作権の原始的帰属先が明確になっていないので、種々の問題を生じる可能性がある。
まず、ソフトウエア開発において、ユーザは、開発会社に対して、仕様を提示し、開発を委託するソフトウエアの概略を示すに過ぎない。場合によっては、開発会社自らが、ユーザ側の業務を認識することによって、仕様を確定する場合も多いであろう。いずれの場合であっても、実際にプログラムを作成するのは、開発会社である。すなわち、プログラムの著作権は、プログラムを開発した開発会社に原始的に帰属すると考えるのが当然である。
上記のような条項では、最悪、開発会社は、著作権の原始的帰属先が自身であると主張し、ユーザは、著作権の原始的帰属先が自身であると主張する場合もある。最終的に著作権がユーザに帰属していたとしても、原始的帰属先がどちらであるかは、実は大きな問題である。開発会社に著作権が原始的に帰属し、原始的に開発会社に帰属した著作権をユーザが譲り受けるという認識で契約がなされているのであれば、ソフトウエア開発委託契約
における対価には、開発委託料に加え、著作権の譲渡料も含まれていなければならない。また、汎用なプログラムであれば、開発会社は、開発したプログラムを流用して、新た
なプログラムを開発することができる。しかし、ユーザに著作権を譲渡してしまっていては、当該プログラムを使用して新たなプログラムを開発することができない。
このように、著作権の原始的帰属先、すなわち、著作者は誰であるかという点を明確に当事者間で認識し合い、開発成果物の著作権を譲渡するのか、それとも、使用許諾するのかを決めることは最も重要な問題である。
なお、実際にプログラムを作成しているのは開発会社であることがほとんどであるので、プログラムの著作権の原始的帰属先がユーザ側であるとする契約は、無効と解釈される可能性が高いと思われる。
なお、場合によっては、完成したプログラムがユーザと開発会社との共同著作物であり、ユーザと開発会社との間に著作権が原始的に帰属するとの主張がなされるかもしれない。しかし、プログラムの著作物は、電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう(著作xx第2条1項10の2)であって、仕様書はプログラムの著作物に含まれないのであるから、ユーザが作成したプログラムや表示画面等が完成したソフトウエアに含まれていない限り、完成したプログラムがユーザと開発会社との共同著作物となることはないように思う。
(2)著作権の原始的帰属先の確定
上記では、開発会社に著作権が原始的に帰属すると説明したが、実は、この点についても、注意すべき事項が多い。
まず、ソフトウエア開発委託契約に登場する当事者が如何に多いかを考えていただきたい(下記図参照)。
ユーザ
(発注者)
開発会社
(受注者)
下請け
会社
役員/従業員
共同 開発先
役員/従業員
派遣会社
派遣社員
既存プログラムの著作権者
派遣社員
(ソフトウエア開発委託契約に登場する当事者の例)
まず、開発会社には、当然ながら、役員/従業員が存在し、実際は、彼らが発注されたプログラムを作成する。また、開発会社は、下請け会社に、プログラムの全部または一部の開発を委託する場合がある。当然、下請け会社にも役員/従業員が存在する。また、開発会社は、既存のプログラム(第三者プログラム)を利用して、発注されたプログラムを完成させるかもしれない。さらに、開発会社には、共同開発先と提携して、発注されたプログラムを完成させるかもしれない。また、開発会社には、派遣会社から派遣された派遣社員が従事しており、当該派遣社員がプログラムを開発するかもしれない。さらに、開発会社は、ユーザ側に社員を派遣して、ユーザの会社内部で直接プログラムを開発するかもしれない。
このように、様々な当事者が存在する場合、単に、開発会社に著作権が原始的に帰属するとして片付けるわけにはいかなくなる。また、ユーザと開発会社との間の契約だけでは済まない。
このように、当事者が様々存在する場合、プログラムを作成する者を特定し、著作権の原始的帰属先を慎重に確定しなければ、後々、思わぬ争いが生じかねない。
以下、開発会社と各当事者との関係について整理しながら、著作権の原始的帰属先の確定における留意点について考える。
(3)開発会社と役員・従業員との権利関係
著作xx第15条2項
法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事するものが職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
まず、開発会社と役員・従業員との権利関係について考える。著作xx第15条2項には、以下のように規定されている。
ここで問題となるのは、「職務上作成するプログラム」の範囲である。ソフトウエア開発会社の法人の役員・従業員は、プログラムの作成に精通している人材であり、有益なプログラムを日常的に作ることが可能である。場合によっては、個人的な使用のために、そのようなプログラムを作成することもあると思う。個人的な作成と職務上の作成との線引きを明確にしておかなければ、後々無用な争いの種となりかねない。したがって、法人の役員・従業員が作成したプログラムが職務上作成したプログラムに該当するのか否かについては、職務の範囲との関係において、就業規則や労働契約の中で明確にしておかなければならない。
また、次のような問題も考えられる。プログラムに役員・従業員が作成したイラスト等の美術の著作物が含まれている場合である。当該美術の著作物の著作権は、職務上作成され、法人名義で公表されるのであれば、著作xx第15条1項によって、著作権の原始的帰属先は法人となるが、法人名義で公表されない場合、当該当該美術の著作物の著作権の原始的帰属先が問題となる。当該当該美術の著作物をプログラムの著作物の一部であると
して、15条2項の適用を主張する場合もあるだろうが、念のために、当該美術の著作物を作成して役員・従業員から、著作権を譲り受けるように、勤務規則への記載や個別の契約を締結しておいた方が安全であると思う。
さらに、法人著作に該当する場合、ユーザは、開発会社から、真に法人著作に該当することの保証を得ておくことも重要である。開発会社が一方的に法人著作に該当すると認識し、従業員との間で何らの手当もしていない場合もあり得るからである。具体的には、開発会社がユーザに対して、就業規則や労働契約書等を開示することによって、開発会社の従業員によって完成したプログラムの著作権は開発会社に帰属することを保証する条項を盛り込むとよい。
(4)開発会社と下請け会社との権利関係
開発会社と下請け会社との間では、当然、プログラムの開発を外部委託するという意味から、個別に契約を締結し、開発会社に著作権が帰属しておくようにすべきである。
しかし、実際的には、そのような契約が締結されていない場合も多いと思う。そのような契約が締結されていない場合、著作権法上、開発会社と下請け会社とのいずれに著作権が帰属するのか、学説上も分かれている。すなわち、著作xx第15条2項にいう「業務に従事する者」に下請け会社が含まれるか否かという問題がある。
xxxx著「著作xx逐条講義(第四訂新版)」の144頁~145頁には、以下のように記載されている。「第2の要件としては、法人等の業務に従事するものが作成したものであることであります。著作物作成者がその著作行為において会社との間に支配・従属の関係にある従業者であることですから、一般的には、いうなれば労働法上の労働者と概念してもよいと思います。もちろん、法人等の業務の従事者の中には、会社の役員も入りますが、雇用関係のない部外者に対して委託し、あるいは委嘱して作成してもらったものは、使用者の支配下にある業務従事者の作成物には該当しません。」すなわち、「業務に従事する者」の範囲を法人内部の者に限定するとの考え方が取られている。
一方、xxxx著「著作xx概説(第10版)」の79頁には、以下のように記載されている。「下請けの場合は、請負とはいえ下請人が請負人の命令に従って仕事を完成する場合が少なくない。したがってこの場合には使用関係ありと解すべきであろう。」すなわち、「業務に従事する者」の範囲を法人内部の者に限定しないとの考え方が取られている。
弁理士が契約締結に携わる場合、どちらかの学説の立場に立った上で、著作権の原始的帰属先を明確にし、著作権が開発会社側に移転するように契約を締結しておく必要がある。
(5)下請け会社と下請け会社の役員・従業員との関係
上記(4)のように、開発会社が下請け会社から著作権を譲渡してもらう契約をなしたとしても、実際に下請け会社においてプログラムを作成する下請け会社の役員・従業員の権利処理が適切になされていなければ、争いを生じかねない。
下請け会社は、上記(3)と同様、適切に権利処理を行い、開発会社に著作権を譲渡しなければならない。
(6)開発会社と開発会社への派遣社員との関係
開発会社は、派遣会社から派遣された派遣社員を使用して、プログラムを完成させる場合がある。
著作権法令研究会編著「著作xxハンドブック(第4版)」の26頁~27頁には、以下のように記載されている。「なお、「業務に従事する者」の解釈のうち、労働派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律に基づく派遣労働者については、派遣先の業務に従事する者に当たると解されています。」すなわち、派遣社員の成果物の著作権は、法人著作の他の要件を満たせば、開発会社に帰属するとされている。
しかし、ここで注意すべきは、著作xx第15条2項「別段の定め」である。派遣会社と派遣社員との契約において、当該別段の定めがなされている可能性も否定できないので、開発会社は、派遣会社と派遣社員との契約関係を適切に把握し、派遣社員の成果物の著作権が自己の法人著作となることを確認すべきである。
(7)開発会社とユーザへの派遣社員との権利関係
開発会社は、ユーザに対して、社員を派遣し、ユーザの会社内部でプログラムを完成させる可能性もある。この場合、派遣社員が労働派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律に基づく派遣労働者である場合、派遣社員の成果物の著作権がユーザに帰属することとなる。しかし、これでは、最終的な著作権がユーザに安易に帰属してしまうこととなるので、注意が必要である。
開発会社は、ユーザの会社内部でプログラムを完成させ、かつ、完成したプログラムの著作権を自己の権利とした上で、xxxとの交渉を行いたいならば、派遣社員という名目で、ユーザ側に社員を安易に派遣してはならない。ユーザの会社内部でプログラムを完成させるような場合であっても、開発委託契約の名の下、開発業務を行った方が良い。
(8)共同開発における権利関係
開発会社に共同開発先がある場合も、著作権の帰属先を明確にしておかなければならない。共同開発先がソフトウエアに含まれるプログラムの一部を開発したような場合、完成したプログラムの著作権は、開発会社との共有にかかるわけであるが、最終的に開発会社の単独所有の著作権にしたい場合、開発会社は、共同開発先から、持ち分の譲渡を受けなければならない。
共同開発を巡る権利関係においては、著作権上の問題もさることながら、特許権の問題が生じかねないが、著作権上の問題を超えるので、さらなる研究課題とする。
なお、ユーザと開発会社との間でも共同開発問題が生じる。ユーザ側で仕様書を作成し、開発会社が当該仕様書に基づいて、プログラムを完成させるような場合である。この場合、開発自体は共同でなされているので、完成したプログラムについてのユーザの寄与を否定することはできない。この点については、著作物と技術的思想たる発明とを明確に区別して認識すべきである。著作物は「思想又は感情を創作的に表現したもの(著作xx第2条
1項1号)」であり、表現自体が保護対象となる。したがって、表現としての仕様書自体の
著作権はユーザ側に帰属するが、表現としてのプログラム自体の著作権は開発会社に帰属するものと思われる。この点を明確に把握した上で、プログラムの著作権を最終的にどちらに帰属させるのか、契約上は、留意しなければならない。
なお、上記のように認識したとしても、仕様書の完成度が高ければ高い程、完成したプログラムについてのユーザの寄与率は大きくなる。したがって、上記のような認識がユーザ側に理解されないことが多いかも分からない。そのような場合は、ユーザの寄与率を考慮して、開発対価の減額を行ったり、原始的帰属先を開発会社にした上で、最終的な著作権を共有にしたりしてはどうか。安易に、ユーザ側への著作権の原始的帰属を認めると思わぬトラブルが生じかねないので注意が必要である。
(9)開発会社と既存プログラムの著作権者との権利関係
開発会社は、既存プログラムを利用して、ユーザの仕様に応じたソフトウエアを完成させる場合がある。既存のプログラムとしては、開発会社が保有するプログラム(ストックルーチン)もあれば、第三者が保有するプログラムもある。
①開発会社が保有する既存プログラムの場合
開発会社が保有する既存プログラムを利用して、ユーザの仕様に応じたソフトウエアを完成させる場合、ユーザ仕様のソフトウエアの著作権がユーザに移転すると契約したとしても、既存プログラムの著作権は、開発会社側に留保されることに留意しなければならない。
このような既存プログラムは、汎用性の高いものが多く、今後のソフトウエア開発において、開発会社が使用する可能性が高い。したがって、開発会社は、自社が保有する既存プログラムの著作権については、自社に留保されるということを契約上明確にしておく必要がある。そのように契約しておかないと、ユーザが既存プログラムの著作権まで取得したかのような誤解が生じかねない。
②第三者が保有する既存プログラムの場合
第三者が保有する既存プログラムを利用して、ユーザの仕様に応じたソフトウエアを完成させる場合、ユーザは、権利処理を開発会社に適切に行うように契約条項に盛り込むことを考慮すべきである。そのように契約しておかないと、後々、xxxは、第三者から、著作権侵害を主張される可能性がある。一方、開発会社は、第三者が保有する既存プログラムを利用する場合、権利処理を明確に行わないと後々争いが生じかねないので、特に気をつけなければならない。フリーソフトとして入手可能なプログラムであっても、著作権自体は、提供者に留保されていることが多いので、注意が必要である。
5.著作権の移転について
上記で説明したように、ソフトウエアのプログラムの著作権の原始的帰属先を明確に把握した上で、当該著作権を最終的にいずれに帰属させるのかを契約上明確にしておかなければならない。
当該著作権をユーザに移転させるのか、開発会社に留保しておくのか、共有にするのか、これらは、完成したソフトウエアの機能や当事者間の力関係、委託契約の対価等によって、個別検討すべきである。以下では、著作権の移転の際に留意すべき点について説明する。
(1)著作者人格権
著作権の原始的帰属先には、著作者人格権も帰属していることとなる。著作者人格権は、譲渡できない(著作xx第59条)ことは、弁理士としては、当然認識しておくべきである。
なお、同一性保持権の例外として、特定の電子計算機において利用し得るようにするための改変及びプログラムの著作物を電子計算機においてより効率的に利用し得るようにするための必要な改変(著作xx第20条2項3号)が認められている点に留意すべきである。これらの改変がどの程度までをいうのかは、できれば、当事者間で明確にしておくべきである。バグの修正(デバグ)を認めるのはよいとしても、特定の電子計算機において利用できるように修正するということがどこまで認められるのか実際的には、問題となるであろう。
(2)支分権
著作権は、複数の支分権(著作xx第21条~28条)の固まりである。著作権を移転する場合、いずれの支分権を移転するかを明確にしておかなければならない。
著作権を全部譲渡する場合は、著作xx第61条2項に留意しなければならない。すなわち、単に、「著作権を全部譲渡する」と記載しただけでは、翻案xx(著作xx第27条)、及び二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(著作xx第28条)は、著作権の譲渡人(開発会社)に留保されたものと推定されるので、注意が必要である。
しかし、61条2項はあくまでも推定規定であるので、特に、プログラムの著作物の場合、バージョンアップする権利(翻案権)を開発会社側に残すのであれば、譲渡する著作権の内、28条及び29条の支分権は開発会社に留保することを明確にしておくべきである。
もし、28条及び29条の支分権をユーザに譲渡してしまった場合、開発会社は、自由にバージョンアップできなくなり、後のプログラム改変において、権利処理の手間が生じる可能性がある。尤も、ユーザからの要望に応じて、プログラムをバージョンアップするのであれば、翻案についての許諾が得られたとして、自由に改変可能である。しかし、別なユーザのために、プログラムを改変して提供する場合に問題が生じる。開発会社側に、
28条の支分権を留保しておけば、開発会社は、自由に改変することができ、改変によって完成したプログラムの著作権(二次的著作物の著作権)が開発会社に帰属することとなる。29条の支分権が留保されているので、ユーザは、改変後のプログラムの著作権と同一種類の権利を有していないこととなり、開発会社は、改めて、ユーザに対して、改変後のプログラムの著作権の買い取りを交渉することができる。
(3)開発費との関係
開発費の支払いと著作権の移転との関係は、当事者間で整理しておかなければならない。すなわち、開発費に著作権の譲渡料も含まれているのか否かを当事者間で明確にすべきである。開発費を支払っただけでは、一般的には、著作権が移転すると考えるのは困難である。いずれにせよ、著作権の移転が必要であるならば、当事者間において、納得のいく対価で契約すべきである。
(4)ライセンス
全ての著作権を開発会社に留保しておく場合は、開発会社とユーザとのライセンス契約の問題となる。ライセンス契約の内容については、今後の研究課題とする。
(5)登録
著作権の移転を第三者に対抗するには、登録しなければならない(著作xx第77条第
1号)。登録については、譲渡証書等必要な書類や押印等が必要であるので、契約条項として、登録についての協力義務を盛り込むべきである。なお、プログラムの著作物の登録手続きは、文化庁ではなく(財)ソフトウエア情報センターに行うので、弁理士であっても代理可能である。なお、文化庁への著作権登録手続き代理は、特許庁以外の行政庁への手続き代理であるので、弁護士・行政書士は行うことができるが(弁護士法第3条、行政書士法第1条の3)、弁理士は行うことができないと、筆者は認識している。しかし、あくまでも私見であるが、弁理士は著作権の契約代理が可能なわけだから(弁理士法第4条3項)、少なくとも、文化庁への著作権登録手続きの代理を弁理士も可能とするように、法律上、明確にしてほしいと考える。
(6)ノウハウ・発明について
プログラムの著作権がユーザに移転したとしても、当該プログラムに含まれているノウハウや発明に関する知的財産権は、当然、ユーザに移転するわけではない。したがって、ノウハウや発明がプログラムに含まれている場合、これらの知的財産権は、開発会社に留保している点を契約条項において明確にしておくべきである。
特に、ノウハウや発明が、完成したプログラムの一部のコードによって実現されている場合、ユーザが当該コードを抜き取って、使用しないことを明確にしておくべきである。
また、ノウハウを不正競争防止法上の営業秘密として保護するためには、どの部分がノウハウであるかを明確にして、秘密管理性・有用性・非公知性を満たすように契約しなければならない。特に、不正競争防止法上の営業秘密としての要件を満たすためには、ユーザが、納入後のプログラムのソースコードを誰もが閲覧できる状態におかないように、また、当該ソースコードを公知にしてしまわないようにすべきであるが、現実問題としては、なかなか難しいと思われる。
6.まとめ
今回の研究成果では、著作権の帰属、著作権の移転を中心に契約条項に盛り込むべき内容を報告した。ソフトウエア開発には、多数の人材が携わる関係上、ユーザと開発会社と
の間だけではなく、登場する当事者間において適切な権利処理を行っていなければ、思わぬところから、争いが生じかねない。そういった意味では、まず、著作権の原始的帰属先を適切に把握した上で、最終的に著作権を誰に帰属させるのかを明確にすることが、ソフトウエア開発委託契約における著作権法上最初に留意すべき点であると考える。今回の報告において想定していない事態が生じるかも分からないが、その都度、著作権の帰属を明確に把握し、権利処理をしておけば、後々の争いを減らすことが可能であると思う。
最後になり恐縮ですが、本研究成果の作成にあたり、平成17年度知的財産権制度検討委員会委員xxxxx先生、副委員長(第1部会部会長)xxxx先生をはじめ、第1部会の委員であられますxxxx先生、xxxx先生、xxxx先生、xxx先生、xx平先生、xxxx先生、xxxxxx、xxxx先生には、多大なご助言ご協力を頂きましたことを、ここに御礼申し上げます。
なお、本研究成果の論述は、執筆者個人のものであって、日本弁理士会近畿支部を代表するものではないこと、完全性を保証するものではないことを念のため付記いたします。
本研究成果に対するご意見等がございましたら、「たかやま特許商標事務所 弁理士 xxxx Email:xxxxxx@xxxxxxxx.xxx」までご連絡いただければ幸いです。
7.参考文献
以下の文献には、具体的な契約条項が例示されているので、非常に参考になる。
・「ソフトウエア契約における留意点-開発委託と使用許諾-」、平成3年 3 月発行、(財)ソフトウエア情報センター
・(社)情報サービス産業協会 法的問題委員会契約部会、「新しいソフトウエア開発委託取引の契約と実務」、2002年7月24日発行、(株)商事法務
・xxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxx/xxx_xxxxxxxx0000.xxxx JISA ソフトウエア開発委託契約書
(平成14年5月版)
以下の文献は、判例の研究にあたり参考にさせて頂いた。
・「ソフトウエア契約関連判例に関する調査研究報告書-平成11年度-」、平成12年3月発行、(財)ソフトウエア情報センター
・「ソフトウエア契約関連判例に関する調査研究報告書-平成12年度版-」、平成13年
3月発行、(財)ソフトウエア情報センター
・「ソフトウエア契約関連判例に関する調査研究報告書-平成13年度版-」、平成14年
3月発行、(財)ソフトウエア情報センター
・「ソフトウエア契約関連判例に関する調査研究報告書-平成14年度版-」、平成15年
3月発行、(財)ソフトウエア情報センター
・「ソフトウエア契約関連判例の最新動向-平成16年度版-」、平成17年3月発行、(財)ソフトウエア情報センター
その他
・xxxx、「著作xx逐条講義四訂新版」、平成15年6月30日発行、(財)著作権情報センター
・著作権法令研究会、「著作xxハンドブック」、2001年8月発行、(財)著作権情報センター
・xxxx、「著作xx概説」、平成13年11月20日発行、(株)一粒社
以上