ブリュッセル事務所、欧州ロシア CIS 課
『ベルギーの労働法-雇用契約と解雇など』
ブリュッセル事務所、欧州ロシア CIS 課
ベルギーの労働法制は、日本の労働法制と比較して、規制色が強いという特徴がある。また、特に、労働者の保護(例えば解雇のルール)は、一般的には、管理職から経営陣にまで及ぶ。また、労働者の保護という観点のみならず、時限法で賃金・給与の引上げを禁止したり、逆に物価上昇に連動して賃金・給与引上げを義務づける等一般的な雇用の確保という観点からの規制があることに注意する必要がある。
ベルギーの労働法制を規律するのは、法令だけではない。国レベルの全産業にわたる労働協約、さらには、産別・地域別の労働協約、企業レベルの労働協約において、法律と異なる(多くの場合は、労働者に有利な)定めがなされている場合が多いので、適用され得る労働協約の内容を知っておくことが必要である。
上記の他に事業所ごとに、就業規則が定められるが、就業規則は、労働協約または法令と矛盾してはならないだけではなく、個別の雇用契約にも優先される。
本稿においては、最も問題になりやすい雇用契約および解雇に焦点を当てるが、その他の雇用契約に関係するいくつかの重要な問題点として、賃金、勤務時間、セクハラ、差別、休暇等を取り上げてその重要点を要約する。
【本レポートの取り扱いについて】
本資料は、DLA Piper 法律事務所のxxxx弁護士に委託して作成されたものです。本資料は、xxxx弁護士によって作成され、同氏がその著作権を有し、ジェトロに著作権の実施権が許諾されています。日本貿易振興機構(ジェトロ)の許可なく本資料の内容を無断転載・複写することを禁じます。なお、本資料は 2012 年 3 月現在で入手した情報に基づくもので、内容はその後の法律改正等によって変わる場合があります。なお、ジェトロは本資料の記載内容に関して生じた直接的、間接的、あるいは懲罰的損害および利益の損失については一切責任を負いません。たとえ、ジェトロがかかる損害の可能性を知らされていても同様とします。
目 次
7. 解雇予告によらない解雇(解雇補償の支払いによる解雇) 17
1. 一般的特徴
一般的にいうと、ベルギーの労働法制は、日本の労働法制と比較して、規制色が強いという特徴がある。また、特に、労働者の保護(例えば解雇のルール)は、一般的には、管理職から経営陣にまで及ぶ。また、労働者の保護という観点のみならず、時限法で賃金・給与の引上げを禁止したり、逆に物価上昇に連動して賃金・給与引上げを義務づける等一般的な雇用の確保という観点からの規制があることに注意する必要がある。
ベルギーの労働法制を規律するのは、法令だけではない。国レベルの全産業にわたる労働協約、さらには、産別・地域別の労働協約、企業レベルの労働協約において、法律と異なる(多くの場合は、労働者に有利な)定めがなされている場合が多いので、適用され得る労働協約の内容を知っておくことが必要である。
上記の他に事業所ごとに、就業規則が定められるが、就業規則は、労働協約または法令と矛盾してはならないだけではなく、個別の雇用契約にも優先される。
本稿においては、最も問題になりやすい雇用契約および解雇に焦点を当てるが、その他の雇用契約に関係するいくつかの重要な問題点として、賃金、勤務時間、セクハラ、差別、休暇等を取り上げてその重要点を要約する。
2. 被用者と雇用契約の種別
(1) 被用者のカテゴリー
① ホワイトカラーとブルーカラー
雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律(以下「雇用契約法」という)を始めとするベルギーの労働法制上、ホワイトカラー(employé)とブルーカラー (ouvrier) は峻別されている(両者を集合的な呼称としては、travailleur という言葉が使われる。) 例えば、この二つのカテゴリーの間では、解雇の予告期間、試用期間など、種々の点で扱いが異なっている。xxxxxxよりもホワイトカラーの方が解雇その他の面で遥かに保護されている点など日本人のxx感に反し理解しにくい点もある。また、労働組合なども、ホワイトカラーとブルーカラーでは、別々に組織されているので労働協約もそれぞれ異なるものを参照する必要がある。
ホワイトカラーとブルーカラーとの間の区別は、その職務内容によって、自ずから定まる。ホワイトカラーは、主として知的な性質を有する業務1であり、ブルーカラーは主として手を使う業務2である。もっとも、その境界領域にあって、いずれに属するかの判断が難しい場合、職務の一部がホワイトカラーで一部がブルーカラーという場合などグレーなケースもある。また、日本の法律上ホワイトカラーとブルーカラーとで労働法規がまったく異なるという事情が日本ではないためか、日本人には秘書はホワイトカラーだが運転手やメッセンジャーはブルーカラーであるというようなことはわかりにくいようである。
原則論としては、例えば、使用者・被用者間の合意によって、ブルーカラーの被用者をホワイトカラーとして扱うことはできない。しかし、ベルギーで生産活動を営む会社以外の日系企業は、ほとんどの従業員が、ホワイトカラーである場合に、誤解に基づいてブルーカラーに対して、ホワイトカラーとしての契約書の様式をそのまま使ってしまう場合もある。
また、誤解に基づいてホワイトカラー用の契約書を用いて雇用した従業員に後になって、使用者側から、職種がブルーカラーだからといって、ブルーカラーに適用されるルールを適用して、例えば解雇するというようなことは、一般的には困難である。実際問題として、ジョブデスクリプションが詳細に作成されているような場合を除き、職務の内容が必ずしもはっきりしないあるいは立証が容易でない場合もしばしばある。このような場合、ブルーカラーに適用される短い解雇予告期間によって解雇すると、従業員がホワイトカラーに適用される長い解雇予告期間に基づく補償金の請求をする場合が十分に考えられる。
尚、最近ベルギーでもxxxxxxとホワイトカラーの顕著な差別はおかしいまたは憲法違反であるという判決まで出て議論が盛んに行われている。しかし、2012 年 3 月の本書の改定時にはまだ解雇の際の事前通知期間3等のブルーカラーとホワイトカラーの間の法令の相違は極めて大きく今後の立法を待たなくてはならない。後述 6 章参照。
1ホワイトカラーの業務は、雇用契約法 3 条によると、”un travail principalement d’ordre intellectual”と定義されており、単に事務的な仕事ではなく、経営陣、営業職等の業務も含まれる。
2ブルーカラーの業務は、雇用契約法 2 条によると、”un travail principalement d’ordre manuel”と定義されており必ずしも、肉体労働ではなく、手を使う軽い仕事も含まれる。社長の車の運転手は、肉体労働者ではないが通常ブルーカラーである。また、必ずしも工場・xxxの現場における業務に限定されない。
3 ブルーカラーの「最長 112 日」と 6 年以上勤続のホワイトカラーの事前通知期間の「勤続年数 1 年につき 30 日」との間の差異は、顕著である。
② 外勤の営業員(représent de commerce)
顧客を開拓し、交渉するために顧客訪問などの営業活動を行う外勤の営業員は、通常のホワイトカラーの従業員が有する解雇の際の保護に加えて、一定の追加補償を請求する権利を有する場合が通常である4。また、独立のエイジェントまたはコンサルタントという契約を締結しても、勤務時間その他の活動につき拘束の存する場合に雇用関係が認められ得る。この場合、契約の終了にあたって、雇用契約の解雇手当を支払う(あるいは予告期間を与える)必要がある。
③ 派遣従業員
通常、派遣従業員の雇用は、派遣会社からの派遣の場合である。派遣業務、派遣従業員および派遣先での勤務に関する 1987 年 7 月 24 日の法律(以下「派遣法」という)第 1 条
1 項によると、派遣従業員の雇用は、病気もしくは退職等により生じた雇用契約の期限の定めのない従業員の代替要員としての雇用、一時的な業務の増大または例外的な業務の遂行に対応するための雇用に限定される5。この点、2.2.2 の期間の定めのある雇用契約のルールは、雇用契約期間が尐なくとも 3 ヶ月または 6 ヶ月以上と参照されているようにある程度長い場合を想定しており、かつ会社と当該従業員の間で直接締結される通常の雇用契約である。他方、派遣の場合には、派遣契約は、実務上、1 週間というような短い単位で多数回更新され、かつ更新された結果も 6 ヶ月または合計 1 年を限度とする場合が原則で6、雇用契約は、従業員と派遣企業の間でなされ、受け入れ先企業は、利用者(utilisateur)として派遣会社と派遣契約を結ぶため、その派遣契約と派遣会社と従業員の雇用契約という 2 つの異なる契約関係を形成する。その結果、派遣業務に関する極めて期間の短い契約の更新を 5 回以上反復しても 1987 年 7 月 24 日の法律に従って期限の定めのない契約を締結したとみなされることはない7。したがって、受け入れ先企業は、雇用契約、それに伴う給与、社会保険、解雇等の煩わしさを避けたい場合、または極めて短期の人手が必要な場合には、派遣契約のスキームを使うことになる。派遣のルールと期間の定めのある雇用契約のルールとを正しく区別することが重要である。(尚、実際には、派遣制度をお見合いのように人を評価する機会として利用し、追って直接採用する例は極めて多いが、だからといって、
4後掲8項参照。
5 派遣業務、派遣従業員および派遣先での勤務に関する 1987 年 7 月 24 日の法律第 1 条 1 項
6派遣業務、派遣従業員および派遣先での勤務に関する 1987 年 7 月 24 日の法律第 1 条 7 項第二段落
7派遣業務、派遣従業員および派遣先での勤務に関する 1987 年 7 月 24 日の法律第 3 条
制度を混同することはできない。)
代替要員の派遣従業員は代替される従業員と同じ職業上の範疇に属し8かつその賃金は、派遣先で同じ職務につく正社員より、低いものであってはならない9。これは、正社員より安い労働力として、派遣従業員が使われ、その結果、正社員の雇用が脅かされることを防ぐための規制である。
(2) 雇用契約(contrat de travail)のカテゴリー
① 期間の定めない雇用契約(contrat de travail conclu pour une durée indéterminé)
原則的な雇用形態である。勤務開始前に書面の雇用契約により期間の定めまたは雇用の範囲(un travail nettement défini)を規定しない限り期間の定めのない雇用契約を締結したものと看做される10。また、期間の定めのある契約の終了後、契約の履行を継続する場合には、同じ条件でかつ期間の定めのない契約を締結したものと看做される11。
② 期間の定めのある雇用契約(contrat de travail conclu pour une durée déterminé)
一定の雇用期間を定めて雇用する契約である。この契約を更新した場合、原則として、以下の要件をみたさないかぎり、期間の定めない雇用契約とみなされる。
a. 最大 4 回の連続した定期期間の雇用契約であり、個々の契約期間が三ヶ月以上で、かつ、連続した雇用期間が二年間を超えないこと12。
b. 連続した定期期間の雇用契約であり、個々の契約期間が六ヶ月以上で、かつ、連続した雇用期間が三年間を超えないこと。但し、労働監督官の事前の承認がある場合に限る13。
c. 連続した定期期間の雇用契約で、労働の性質その他の適法な理由により、正当化される契約14
また、期間の定めが明確でない雇用契約は、期間の定めない契約とみなされることがある。例えば、6年間の期間の定めがあるが、二年毎に、三ヶ月の通知期間をもって雇用契約を終了させることができるといった契約は、期間の定めのない契約とみなされることがある。なお、期間の定めのある雇用契約では、雇用契約の開始時までに雇用契約書を作成・
8派遣業務、派遣従業員および派遣先での勤務に関する 1987 年 7 月 24 日の法律第 1 条 3 項
9 派遣業務、派遣従業員および派遣先での勤務に関する 1987 年 7 月 24 日の法律第 10 条 1 段落目
10雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律 9 条
11雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律 11 条
12雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律 10 条の 2、2 項
13雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律 10 条の 2、3 項
14雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律 10 条、1項但書
締結する必要がある。
次の二つの契約は、一般に、期間の定めのある雇用契約と考えられている。
d. ある季節に限った雇用契約
季節による期間を正確に特定した場合には、その季節終了時に雇用契約は終了する。
e. 代替要員としての雇用契約
正社員の雇用契約が当事者の責めに帰すべき事由によらないで履行不能の場合(産休、病欠、ストライキなど)、その代替要員として、正社員の復帰までの期間に限定した雇用契約を従業員と締結することができる15。(これは、前述 2.2.3 の派遣契約とは異なる直接の雇用契約である) この場合、雇用契約書を勤務開始までに作成・署名する必要がある。雇用契約書には、代替要員としての雇用契約締結の理由(正社員の産休など)および代替の対象となっている正社員を特定する必要がある。代替社員の雇用契約は、2年を超えてはならない16。
③ パート・タイム(travail á temps partial)の雇用契約
パートタイム労働とは、定期的かつ任意に行われる労働のうち、通常の労働時間よりも時間が短い労働をいう。パートタイムの従業員の中にも、期間の定めのない雇用契約による者、期間の定めのある雇用契約によるものなど、フルタイムの従業員と同様のカテゴリーの従業員が含まれる。パートタイム労働は、厳格に規制されている。
パートタイムの従業員は、区別を正当化する客観的な事由がない限り、フルタイムの従業員と平等に扱う必要がある。すなわち、休暇、賃金などについて、フルタイムの従業員の労働時間に対するパートタイムの従業員の労働時間に比例した権利を認めなければならない。
勤務開始前に個別に雇用契約書を作成・署名する必要がある17。雇用契約書には、パートタイムの勤務形態(一週間当たりの労働時間数)及び時間割を明記する必要がある。雇用契約書にこれらの記載を欠いた場合、パートタイム労働者は、就業規則あるいはその他の雇用関係の書面に記載された労働のうち、最も有利な労働を選択することができる18。
勤務時間は、原則として、1 日3時間以上であり、かつ、フルタイムの従業員の労働時間の
15雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律 11 条の 3
16雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律 11 条の 3、第 3 段落
17雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律 11 条の2
18雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律 11 条の 2、第 4 段落
三分の一以上でなければならない19。1 日3時間未満の場合には、刑事罰の対象となり得る 20。パートタイムの場合、1 日または 1 週間の所定の勤務時間数を超えても直ちに時間外「割増」手当の対象になるわけではない。(18.6 参照)
パートタイムの従業員は、フルタイム又はより長時間のパートタイムのポストが空いた場合には、このポストについて優先的に雇用される権利を有する。
3. 採用
(1) 採用の手続きについての注意点
使用者は、採用にあたっては、雇用の期間中差別をしないこと、秘密およびプライバシーの保持を保証し、かつ HIV および遺伝に関する医療検査をしてはいけない。さらに、次のような点を始めとする種々の情報を採用者に対して提供しなければならない。また、就業規則のコピーを交付する必要がある。
◼ 欠員補充のポジションに関する十分な情報
◼ 賃金、賞与、就業時間その他の雇用条件、社会保険、その他の法定外フリンジベネフィット
◼ 安全衛生
◼ 労働災害防止
◼ 医療サービス
◼ 事業所の所属するセクター
(2) 雇用契約の形式
18 歳以上の者は、単独で、雇用契約を締結できる。法律上、以下のような場合・事項は、書面の契約書を作成する必要がある。
◼ 期限の定めのある契約(労働協約で契約の形態が規定されている場合を除く)
◼ パートタイム労働
◼ 代替要員としての雇用契約
◼ 試用期間
19雇用に関する 1971 年 3 月 16 日の法律 11 条の 2、第 5 段落および 21 条
20雇用に関する 1971 年 3 月 16 日の法律 53 条 2 号
◼ 就業規則または労働協約と異なる定め
◼ 競業避止義務
◼ 知的財産権(職務発明)の扱い
なお、雇用契約書は、オランダ語地域の場合にはオランダ語でフランス語地域の場合にはフランス語で作成しないと無効である。ブリュッセルの場合には、従業員の母語等を考慮して、オランダ語あるいはフランス語を選択すべきである。21(ベルギー人でない従業員についてもいずれかの言語を使用する。)また、上記の言語に関するルールは、雇用契約だけではなく、他の雇用関係の書類にもあてはまる
(3) 試用期間(clause d’essai)
試用期間の定めを明記した書面の契約書に遅くとも勤務開始前に署名する必要がある22。この条件が満たされない場合には、試用期間ではなく、確定的な雇用契約が締結されたものとみなされる。また、試用期間経過後も雇用が継続した場合には、期限の定めのない雇用契約が締結されたものとみなされる。
なお、同じ職務について、同じ求職者について再度試用期間を設けることはできない。
① ホワイトカラーの場合
試用期間は、ホワイトカラーでは、賃金の金額によって、1ヶ月以上 6 ヶ月以下(年間
賃金が 37,721 ユーロ以下である場合)又は1ヶ月以上 12 ヶ月以下(年間賃金が 37,721 ユ
ーロを超える場合)の範囲である23。(上記の数字は 2012 年度のものである。)
当初の一ヶ月間は解雇できないが、その後、試用期間終了までは、7日間の通知期間をもって解雇できる24。解雇通知は、原則として、書留により、なされなければならない。解雇通知には、通知期間の始期と終期を実質的に明記しなければならない。
② ブルーカラーの場合
ブルーカラーの場合、試用期間は、7日以上 14 日以下に限定される25。その期間内は、予告期間なしに即時に解雇できる。
21 しかし、ブリュッセルの場合には、無効とならず、正しい言語の契約書に正す権利・義務が生じる。
22雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律 48 条 、第 1 項(ブルーカラーの場合)67 条(ホワイトカラーの場合)
23雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律 67 条第 2 項(ホワイトカラーの場合)
24雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律 81 条 、第 1 項
25雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律 48 条 、第 2 項(ブルーカラーの場合)
③ 試用期間中の病欠
ホワイトカラーの従業員の試用期間中に、病気などの理由で勤務できない期間が 7 日を超えて、継続した場合には、使用者は、補償なしに、即時に解雇できる26。
4. 被用者の義務
(1) 競業避止義務(la clause de non-concurrence)
従業員は、雇用契約継続中は、競業避止義務がある。しかし、雇用契約終了後の競業避止義務は、雇用契約中に明記しない限り無効である。しかも、競業避止義務が有効であるためには、一定の要件と限界がある。ここでは国際業務にかかわる企業について述べる。
① 要件
◼ 競業避止義務の対象が、従業員が従事していた業務に関連していること。 実際に競業が行われる地域に限定される。
◼ 競業避止義務を課している期間中(原則として 1 年を超えてはならない)、旧雇用契約における賃金の尐なくとも半額以上の補償金を支払うこと。
② 競業避止義務を課しうる従業員の最低賃金(2012 年現在)
◼ 年間賃金が、31,467 ユーロ以下の従業員については、かかる競業避止義務は無効である。
◼ 年間賃金が、31,467 ユーロを超え、62,934 ユーロ以下の場合には、労働協約が競業避止義務を有効としている場合に限り、有効である。(そのような労働協約を有するセクターは、ホテル等に限られる。)
◼ 年間賃金が、62,934 ユーロを超える場合には、労働協約が競業避止義務を無効としていない限り、有効である。
③ 手続き及び補償金の支払い
使用者は、解雇から 15 日以内に、競業避止義務を適用するか放棄するかを決定しなければならない。これを放棄しない場合には、使用者は、競業避止義務の期間中、グロスの賃金の半額以上の補償金を支払わねばならない。
26雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律 79 条 、第 1 段落
④ 解雇通知後の競業避止義務についての合意.
解雇通知後に競業避止義務について合意された場合には、上記の制限は適用されない。その場合の競業避止義務の有効性は、専ら、契約としての有効性の観点から判断される。
(2) 知的財産権(職務発明)の扱い
職務発明の帰属や職務遂行の中で作成された知的財産権の帰属については、雇用契約で定めておく必要がある。なお、コンピュータープログラムについては、原則として、雇用者に帰属するものとされている。
(3) 守秘義務
全ての労働者は、職務遂行中に知り得た雇用者の営業秘密その他の商業上の情報について、秘密を維持する義務を負う。
5. 雇用契約終了事由と解雇に関する法規制の概観
(1) 終了事由
雇用契約は次の事由などによって終了する。
◼ 合意解約(日本的には依願退職)
◼ 解約申入れ(解雇または辞職)
◼ 懲戒解雇
◼ 期間限定の雇用契約の期間満了
◼ 事業目的限定の雇用契約の目的達成
(2) 解雇に関する法規制の概観
雇用契約の終了に関しては様々な法規制がある。主要な原則は雇用契約に関する 1978 年
7 月 3 日法に規定されている27。法規制の中でもっとも重要なものは解雇の制限であり、従業員を保護するための種々の規制がおかれている。ベルギー法は、従業員をブルーカラー、
27いわゆるジェネレーション・パクト(2005 年 12 月 23 日の Loi relative au pacte de solidalité entre les générations, Mon. 30.12.2005)の 36 条および 37 条によると、一定の要件をみたすリストラ中の使用者の場合、雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律による事前通知の期間が短縮または(ブルーカラーの場合が多いと思われるが)延長される可能性がある。
ホワイトカラー、営業担当者などに分類し、それぞれにつき異なった取り扱いをしている。なお、法規制以外に、労働協約に特則が定められていることがある。その場合には労働 協約が優先的に適用されるので、労働協約の存在に注意しなければならない。また、従業員との間に雇用契約が存在する場合には、その内容が法規制または労働協約に違反しない
範囲で、雇用契約の規定が適用される。
6. 解雇予告による解雇
(1) 解雇予告の通知方法・時期
使用者が従業員を解雇するには、従業員に対して、書面で解雇を予告しなければならず28、かつ、その書面に予告期間の始期および期間の長さがわかるように特定しなければならない。この通常の解雇の場合には、懲戒解雇の場合と異なり、原則として、解雇の理由を従業員に提示する必要はない。しかし、ブルーカラー従業員については、従業員の勤務態度や適性あるいは正当な経営上の理由に関係しない理由で解雇する場合には、解雇権の濫用と推定される。ブルーカラー労働者の解雇が濫用と認められる場合には、6 ヶ月分給与相当の補償金を支払う必要がある。
使用者が解雇予告を通知する方法は、予告通知を(1)書留で郵送する、(2)送達機関(執行官 huissier)を介して送達する、のいずれかの方法によらなければならない。書留で予告通知をした場合、当該通知は発送から 3 労働日目に到達したとみなされる。雇用契約が、疾病等により履行不能となっている場合には、その履行不能の期間中予告通知の期間は進行しない29。尚、従業員が依願退職する場合には、従業員が辞職予告の通知を行う。
(2) 解雇予告期間
解雇予告期間は、解雇される従業員が、ブルーカラー従業員、ホワイトカラー従業員かによって異なる。しかし、実際には、引き継ぎ等の必要がある場合などの期間を除き、予告期間に相当する補償金を支払う場合が多い。(これは、予告期間が、疾病等で長期化したり、他の従業員に対する関係で悪影響を与えるからである。)
28雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 37 条
29雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 38 条 2 項
① ブルーカラー従業員
2012 年 1 月 1 日より前に採用されたブルーカラー従業員には、当該従業員の勤続年数に
応じて、法律30により 28 日から 56 日または労働協約により典型的には 28 日から 112 日の間で予告期間が定められている。
勤続期間 | 事前通知期間 |
6 か月未満 | 28 |
6 か月以上 5 年未満 | 40 |
5 年以上 10 年未満 | 48 |
10 年以上 15 年未満 | 64 |
15 年以上 20 年未満 | 97 |
20 年以上 25 年未満 | 129 |
2012 年 1 月 1 日以後に採用されたブルーカラー従業員には、下記の事前通知期間が適用される。
解雇の予告期間は、解雇予告を通知した週の翌週の月曜日から進行する。これらの場合、短縮された予告期間は、解雇予告を通知した翌週の最初の日から開始する。書留により通知した場合には、書留を送付した日から 3 日後に通知されたものとみなされる。
依願退職の場合には、使用者は事前通知もこれに変わる補償金の支払いも不要である。(この点日本では、依願退職の場合も退職金を払うので、誤解してはならない。)ブルーカラー従業員が依願退職する場合には、勤続年数が 20 年以下の場合には 14 日、勤続年数が 20 年
以上の場合には 28 日、の事前通知を、ブルーカラー従業員が送付しなければならない。
② ホワイトカラー従業員
予告期間の長さは、年齢が 65 歳に達したホワイトカラーの従業員の場合には、6 ヶ月である31(勤続年数が 5 年未満の場合には、3 ヶ月)。(日系企業の場合、年金受領資格の取得または、60 歳または 65 歳に達すると当然雇用契約が終了すると考えて解雇の予告を忘れたり、また、逆に下記の一般のルールを適用してしまう場合があるので注意が肝要である。)
30雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 59 条
31雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 83 条 1 項
それ以外の従業員の場合には、当該従業員の年間給与額によって異なる。給与額は、年間賞与を含む付加給付(フリンジベネフィット)を加えた年収に基づいて算定されるので、月給を 12 倍して計算しようとすると大きな誤差が生じる。(以下説明する、予告期間算定
の基準となる年間給与額は、毎年更新される。以下の数字は 2012 年度のもの)。予告期間は、解雇を通知した月の翌月の初日から進行を始める。
a. 31,467 ユーロ以下
勤続 5 年未満の従業員に対する法律上の最低解雇予告期間は 3 ヶ月である32。以後、勤続年
数が 5 年を超える毎に、この最低解雇予告期間は 3 ヶ月ずつ伸長される。例えば、勤続年
数が 7 年であると、解雇予告期間は 6 ヶ月になる。従業員が依願退職する場合には、その従業員が行う雇用契約解除の予告期間は、上記の場合の半分でかつ3ヶ月を上回らない33。しかし、実務上は、退職したい従業員をその意に反して引きとめてもメリットがないので、特別の理由がなければ 1 ないし 2 ヶ月で退社させる場合が通常である。
b. 31,467 ユーロ超
解雇予告期間は使用者と従業員の解雇予告以後の合意によって定める(解雇予告を行う前に合意した解雇予告期間は無効である)。ただし、この解雇予告期間は、i項で説明した法律上の最低解雇予告期間を下回ることはできない。合意ができない場合には裁判所が予告期間を定める。34
2012 年 1 月 1 日以後に締結された雇用契約については、下記の事前通知を要する。
勤続年数 | 事前通知日数 |
3 年未満 | 91 日 |
3 年以上 4 年未満 | 120 |
4 年以上 5 年未満 | 150 |
5 年以上 6 年未満 | 182 |
6 年以上 30 年未満 | 勤続年数 1 年につき 30 日 |
32雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 82 条 2 項
33雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 82 条 2 項第 3 段落(最終文)
34雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 82 条 3 項
従業員が依願退職する場合には、その従業員が行う雇用契約解除の予告期間は、4.5 ヶ月を上回らない35。しかし、実務上は、退職したい従業員をその意に反して引きとめてもメリットがないので、特別の理由がなければ 1 ないし 2 ヶ月で退社させる場合が通常である。
c. 1994 年 4 月 2 日以降になされた雇用契約で、62,943 ユーロを超える場合
この場合には、上記に関わらず、雇用契約発効日までに、解雇予告期間について予め合意することができる36。ただし、この解雇予告期間は、(i)項で説明した法律上の最低解雇予告期間を下回ることはできない。
このような事前の合意がない場合には、(ii)項の場合と同様、解雇予告期間は、使用者と従業員の解雇予告受領以後の合意によって定める。合意ができない場合には、裁判所が解雇予告期間を定める。
2012 年 1 月 1 日以後に締結された雇用契約についても、上記のルールは変わらない。
従業員が依願退職する場合には、その従業員が行う雇用契約解除の予告期間は、6 ヶ月を上回らない37。しかし、実務上は、退職したい従業員をその意に反して引きとめてもメリットがないので、特別の理由がなければ 1 ないし 2 ヶ月で退社させる場合が通常である。
d. 上場会社の経営者の解雇
2010 年 4 月 6 日の法律により、上場会社の日常の業務執行を担う代表取締役、取締役およ
びその他の上級職の従業員および独立受託者との契約解除は、原則として 12 か月(報酬委員会の特別の議決がある場合には、18 か月)を超えないこととなった。これは、最近上記の経営者の契約解除の補償金が過度に高額であったことを是正しようとするものである。
e. 裁判所が予告期間を定める基準
裁判所が解雇予告期間を認定する場合は、上記のように 2012 年 1 月 1 日より前に締結された雇用契約に限られるようになった。この場合は、以前と同様個々の事件毎に、従業員の勤続年数、年令、報酬のレヴェル、職務権限、年間のグロスの給与、及び適当な就職先を見つけることの難易度等を勘案して、解雇予告期間を認定する。
35雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 82 条 3 項第 3 段落(最終文)
36雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 82 条 5 項
37雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 82 条 3 項第 3 段落(最終文)
裁判所により具体的に算定される解雇予告期間は、同一裁判所の各属部、各裁判所、各地域、各産業部門毎に異なるのが通常である。
裁判所による認定される解雇の予告期間/補償を当事者が予測するために、実務上利用されている計算式の一つは、判例を統計処理した平均値に基づく、下記記載のいわゆるクラエス・フォーミュラ(Claeys Formule)である。クラエス・フォーミュラは、昨年新しく改定されたので新しいものを使うのが重要である。若干であるが尐ない数字になる場合が多い。 Xxxxxx Formule の計算式 (2008 年時点)給与は、1,000 EUR 単位とする。
i. 年収 120,000 ユーロ未満の従業員の場合38
解雇予告期間=0.055×年令 + 0.87×勤続年数 + (0.038×年間給与 ×2011 年インデックス / 1000・解雇月のインデックス)– 1.95
ii. 年収 120,000 ユーロ以上の従業員の場合
解雇予告期間 =0.055×(年令) + 0.87×(勤続年数) - (0.0029×年間給与 2011 年インデックス / 1000・解雇月のインデックス)+2,96
ただし、労働裁判所は Xxxxxx Formule に拘束されるわけではなく、裁量で、より長期、あるいは、より短期の解約予告期間を定めることができる。
f. xxxx・xxx従業員の依願退職の場合
依願退職の場合には、使用者は事前通知もこれに変わる補償金の支払いも不要である。
(この点日本では、依願退職の場合も退職金を払うので、誤解してはならない。)また、依願退職者は、直ちに失業保険を受領することもできない。ときどき、辞職したい従業員から解雇してくれと頼まれることがあるが、注意しなければならない。ホワイト・カラー従業員側が必要とされる事前通知期間は、下記のとおりである。年収の基準は、2012 年現在である。)
38計算例:勤続年数9年、年齢 46 歳、年間実質給与 60,000EUR の人を先月解雇した場合、46 x 0.055 + 9 x
0.87 + 0,038 x 60 x – 1.95 = 2.53 + 7.83 + 2.28 – 1.95 = 10,69
勤続年数 | 年収 31,467€未満 | 年収 31,467€以上 |
5 年未満 | 45 日 | 45 日 |
5 年以上 10 年未満 | 90 日 | 90 日 |
10 年以上 15 年未満 | 90 日 | 135 日 |
15 年以上 20 年未満 | 90 日 | 135 日(年収 629,34€な ら 180 日) |
7. 解雇予告によらない解雇(解雇補償の支払いによる解雇)
解雇予告なしに又は予告期間を短縮して解雇する場合は、解雇予告に代わる解雇補償(予告期間不足分の給与)を支払わなければならない。実際には、解雇した従業員を長く社内に引き止めることは、害悪を生ぜしめることが多いので、引継ぎ等のために必要なミニマムの期間を除き補償金を払ってしまう場合が多い。また、通常の解雇予告の通知をした後和解契約の調印を条件に就労義務を解除して残存期間につき補償金を払う場合もある。
解雇補償を支払うことによって、解雇予告なしで解雇する場合には、解雇通知の形式は問わない。実務上は、その旨告知して、執務を停止させた上で、後日のための証拠を残しておくため、書留で解雇通知を当該従業員に送付することが行われている。
解雇補償は、前記で説明した解雇予告期間中に受領することができる一切の契約上及び法定の給付に、年間賞与を含む一定の付加給付(フリンジベネフィット)を加えた額に基づいて算定される。
8. 営業担当者に対する特別の補償
1 年以上勤続し、新規顧客を獲得した営業担当者(ホワイトカラー)が、懲戒以外の理由で解雇された場合、使用者は、上記営業担当者に対して、通常支払うべき解雇補償に加えて、特別の「顧客補償」義務を負う。この顧客補償は、勤続 1 年から 5 年までの営業担当者
について給与 3 ヶ月分相当額であり、以後、勤続年数が 5 年を超える毎に給与 1 ヶ月分相
当額が加算される39。この営業担当者に対する特別補償は、解雇予告による解雇、解雇予告によらない解雇のいずれの場合にも支払う必要がある。
9. 期間の定めのある雇用契約
期間の定めのある雇用契約の期限が終了した場合には、雇用契約は当然に終了する。期限が終了した後、期限を定めずに雇用を継続すれば期間の定めのない契約となる。(期間の定めのある契約を反復できる条件については、2.2.2 参照のこと。)
期間の定めのない契約の期間の途中使用者が契約を解除する場合には、当該期間の残存期間の給与を支払わなければならないが、当該契約が期限の定めのない場合であった場合の解雇予告期間の2倍に相当する期間の給与の補償を超える必要はない40。
10. 懲戒解雇および重大な事由による雇用契約の解除
(1) 懲戒解雇および重大な事由による雇用契約の解除の事由
予告期間及び解雇補償なしの懲戒解雇は、それを正当化しうる重大な事由、すなわち雇用関係の継続を (i) 即時かつ (ii) 永久に不可能ならしめる契約上の義務又は重大なxxx違反がある場合に限って認められる41。(法 35 条第1文は、重大な事由がある場合には、各当事者は、雇用契約を事前通知なくして解除できる旨規定しているので、当然従業員も、使用者の重大な事由に基づいて雇用契約を解除することができる。日系企業にとって重要なのは、予告通知も補償金も払わずに済む懲戒解雇の場合であるので、以下この場合につき述べる。)
懲戒解雇を正当化する重大な事由には、例えば下記の事由が含まれる。
◼ 窃盗(原則として価値の如何を問わない)、不正・暴力行為
◼ (意図的な)業務上の重過失
◼ 無断欠勤・遅刻・早退の反復
◼ 不当な業務命令違背
39雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 101 条
40雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 40 条 1 項
41雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 35 条第 1 段落
◼ 競業禁止義務の違反
これに対して、適格性の欠如、「成績不良」及び時々の欠勤等は、懲戒解雇事由とはならない。さらに従業員の私生活上の事実も、原則として懲戒解雇事由にはならない。尚、グレーな場合として就業時間中の、電話やインターネットの私的使用を理由とする懲戒解雇は、解雇無効に繋がるリスクがある。日系企業は、このような従業員の行為について、厳しい姿勢で臨む例が多いが、慎重な対応が必要である。実際、ホワイトカラーの解雇予告による通常解雇は極めて多額の費用がかかる場合が多いので、懲戒解雇で解雇しようとする例はかなりある。使用者が主張する懲戒解雇事由が否定された場合、通常の解雇補償の支払いが命じられる。但し、解雇権の濫用の場合に相当する場合には、そのルールに従う。
(2) 手続
使用者は懲戒解雇事由に該当する事実を知ったとき42から 3 労働日以内に解雇を実行し
なければならない43。また、使用者は当該従業員に対して、当該解雇の日から 3 労働日以内に、当該事実を書留郵便または執行官の送達により通知しなければならない44。
懲戒解雇の有効性につき紛争が生じた場合、原則として、解雇通知に記載された懲戒解雇事由のみが審理の対象になる。懲戒解雇事由に該当する事実の存在は、使用者が証明責任を負う。
(3) 懲戒解雇事由が認定されない場合
裁判所が、使用者の主張する懲戒解雇事由に該当する事実の存在を否定した場合、当該解雇については、解雇権の濫用に該当する場合を除いては、解雇予告によらない解雇に準じて通常の解雇補償の支払が命じられる。
42 この「事実を知ったとき」とは、当該懲戒解雇事由に該当する全ての関連事実を、十分な程度の確証により認識したときをいう。従って、使用者は、懲戒解雇事由があるとの疑義を抱いた場合には、短期間での調査、本人からの聴き取り等を行うことができる。過去の判例も、使用者は、従業員の懲戒解雇を行う前に、事実調査を行い、かつ当該従業員に対し弁明の機会をあたえる義務があるとしている。
43雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 35 条、第 3 段落
44雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 35 条、第 4 段落
11. 解雇権の濫用
(1) 定義
解雇権の濫用とは、当該労働者の適格性または行為と何ら関係のない理由、または事業者、組織、事業部門の業務上の必要性に基づかない理由による行われる解雇をいう45。
(2) 特別補償金
解雇権の濫用が認められた場合には、使用者は、通常の解雇に伴う解雇予告期間/解雇補償等のほかに、(i)ブルーカラー従業員に対しては、給与 6 ヶ月分相当の補償金を46、(ii)ホワイトカラー従業員に対しては、当該従業員が被った経済的および精神的損害を基に、裁判所が裁量により決定する金額の補償金を、支払う義務を負う。実務上、裁判所により認定される補償金額は、25,000 ユーロを上限として、個々の案件により異なる。
(3) 解雇権濫用の証明責任
ブルーカラー従業員の解雇は、当該解雇が当該従業員の適格性・行為または使用者の業 務上の必要性に起因するものであることが推定される程度に、使用者が証拠により証明し ない限り、法律上解雇権の濫用とみなされる47。ホワイトカラー従業員の解雇の場合は、解 雇される当該従業員が、当該解雇が解雇権の濫用にあたる旨およびその損害を証明する必 要がある。(ブルーカラー従業員の解雇の場合、上記法律には立証責任の転換の規定がない。)
12. その他の解雇制限
特定の従業員に対しては、法規制により解雇からの特別な保護が定められている。以下、いくつか重要なものを挙げる。
(1) 妊娠出産
使用者が妊娠を知った時から、産休後の翌月末までの期間、使用者は従業員を解雇する
45雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 63 条 、第 1 段落
46雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 63 条 、第 3 段落
47雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律 63 条第 2 段落にxxの規定がある。
ことができない。ただし、妊娠出産に基づく健康状態とは関係のない理由で解雇する場合はこの限りではない。使用者が解雇理由を正当化できない場合、従業員に対して、通常の解雇補償に加えて、給与 6 ヶ月分相当の補償を支払う義務を負う。父性休暇についても同様である。
(2) 労働協議会 (Works Council) または労働予防保護委員会 (Committee for Prevention and Protection at Work)の委員及び候補者
従業員 100 人以上の事業所には労働協議会、50 人以上の事業所には労働予防保護委員会を、設置しなければならない。
上記協議会・委員会の委員又はその候補者は、候補者の期間及び在任期間、さらに、次の選挙(4 年後)終了後新たに選出された委員がその執務を開始する日までの期間(最長 8 年に及ぶ。但し選任されなかった候補者は、候補者であった期間のみ)、懲戒解雇事由に該当する事実がない限り、解雇されない。労働選挙の期間中この規程は重要であり、金融危機、深刻な不況で解雇を恐れる組合活動家の多くは、選挙に立候補している。従って、このような人たちを今解雇するのは極めてコストのかかる行為といえる。
(3) 組合代表 (Union Delegation)の委員
組合代表は労働協約と組合の要求に基づいて設置される。組合代表委員である従業員を解雇するには、1971 年 5 月 24 日付中央労働協議会 (National Labor Council) 労働協約第 5 号の定める特別の手続きによらなければならない。
所定の手続によることなく解雇した場合、使用者は、通常の解雇補償に加えて、給与 1年分相当の補償を支払わなければならない。(労働協議会または労働予防保護委員会の委員または候補者に比べると保護の程度は、顕著に低い。)
(4) 傷病による勤務能力喪失
傷病または事故によって勤務能力を喪失した従業員を解雇する場合、解雇予告期間は、傷病・事故休職期間が満了するまで進行を開始しない。
ただし、勤務能力喪失期間が 6 ヶ月を超える場合、使用者は法定の解雇補償を支払うこ
とによって、解雇予告なしに期間の定めのない雇用契約の従業員を解雇することができる48。
(5) 差別、パワハラまたはセクハラに関する不服申立てを行った従業員もしくはその際の証人となった者、または就業規則に関する意見の表明を行った従業員
2007 年 5 月 10 日の差別に対処する法律により、使用者は、職場における差別(性、人種、宗教等)またはセクシャル・ハラスメントを防止する義務を負う。従業員またはこれを保護する利害関係者は、職場においてこのような差別またはセクシャル・ハラスメントを受けた場合には、使用者または関連当局に不服申立てができる。49
この場合、使用者が、当該従業員を解雇または一方的な雇用条件の変更をするにあたり、上記の不服申立てが解雇等の理由でないことを証明できない場合、当該従業員に対して、
(通常の解雇補償に加えて)当該従業員の選択により給与 6 ヶ月分相当の追加的補償または実際の損害賠償額を支払う義務を負う50。
(6) 通学有給休暇を行使している従業員等
通学有給休暇を行使している従業員、就業規則につき意見を表明した者、政治活動をしている者、新技術の導入になじめない者、重病人の介護をしている者、子供の教育を行う者、その他の者も解雇から保護されている。
(7) その他
政治的役職の候補者、新技術により影響を被る従業員、親権者または養親の義務として休暇を行使する者、パートタイム勤務に変更する権利を有する者、昼間勤務への変更を申請中の夜間勤務者、安全・保安責任者。
13. 勤務条件の一方的変更と「みなし解雇」の法理
勤務条件の一方的変更には、いわゆる「みなし解雇」の法理 (constructive dismissal theory)が適用される。
48雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律第 78 条
49反差別法 21 条 2 項
50反差別法 22 条 6 項
(1) 勤務条件の一方的変更
雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日法第 25 条は、使用者に勤務条件の一方的な変更権を
与える一切の契約条項が無効であると規定している。ただし、判例によれば、第 25 条は重要な勤務条件の変更についてのみ適用される。
判例上一般的に重要な勤務条件と解されているのは、
◼ (一切の)給与その他の給付
◼ 職責と職務の性質
◼ 勤務時間、職場及び営業担当者の割当地域である。
判例によると、次の条件をすべて充たすならば、勤務条件の一方的変更条項も有効である。
◼ 変更しうる勤務条件を重要でないものとして雇用契約に特定すること、
◼ 変更を使用者に白紙委任しないこと。すなわち、変更権の発生原因や行使方法に関する客観的要件/基準を明示すること、
◼ 変更権の行使がxxxに反しないこと。
(2) 「みなし解雇」の法理
判例によると、上記 25 条の結果、使用者による重要な勤務条件の重大、永久かつ一方的な変更は、解雇に等しい契約違反と解され、従業員に相当な解雇補償請求権を発生させる
(「みなし解雇」の法理)。
14. 集団的解雇
2011 年 12 月にベルギー政府は、集団解雇に関する法改正を発表した。主たる内容は、雇用者は、会社の従業員の年齢ピラミッドを維持する義務があり、これに反する集団解雇を行った場合には、政府に対して追加支払い義務を負担する。詳細については立法を待たなければならない。以下、現行法の説明である。
EU 指令98/59 に基づく1998 年2 月13 日法による集団的解雇に関する特別規定がある。整理解雇や事業所閉鎖の決定は使用者の専権事項であるが、従前より、集団的解雇又は事業所閉鎖における事前通知及び協議手続を定める様々な労働協約、法令が存在してきた。
ルノーの工場閉鎖事件51(1997 年)がきっかけとなって、通知と協議に関する従業員の権利を強化するために EU 指令 98/59 に基づく 1998 年 2 月 13 日法が制定された。
(1) 適用範囲
集団的解雇の協議に関する規定は52、以下の要件を全て満たす場合に適用される53。
◼ 解雇を行う事業が、20 人以上の従業員を雇用していること
◼ 解雇の理由が、当該従業員の勤務上の成績または適格性に関係しないこと
◼ 60 日間の期間に解雇された従業員数が、以下の人数を満たすこと。
− 前年の平均従業員数が 20 人超-100 人未満の事業につき 10 人以上前年の平均従業員数 100 人-300 人未満の事業につき従業員数の 10% 以上前年の平均従業員数 300 人以上の事業につき 30 人以上
(2) 情報提供および協議手続
集団的解雇が適用される場合には、使用者は、以下の情報提供および協議手続を経なければならない。
① 従業員代表に対する集団的解雇の通知
使用者は、第1に、従業員代表者に対し、予定する集団的解雇の内容につき通知しなければならない。
従業員代表は、労働協議会、組合代表者(労働協議会が設置されていない場合)、職場の安全保護委員会または従業員全員(労働協議会、組合代表、職場の安全保護委員会の存しな
51ルノー社が、欧州労使協議会指令、集団解雇指令に違反して、従業員への事前通知・協議なく、ベルギ
ー工場の閉鎖を決定した。大規模なストライキ、でも、訴訟が発生し、EU の社会・政治問題に発展した。その後、EU集団的解雇指令 98/59 号およびベルギー1998 年 2 月 13 日法が成立した。
522006 年からジェネレーションパクトの新法(2005 年 12 月 23 日の Loi relative au pacte de solidalité entre les générations, Mon. 30.12.2005)が適用されている。リストラの必要な困難な状況にある企業が、「集団解雇」 (但し、その定義は、同法 3 条によると従業員数が 11 人超 21 人未満の場合、6 人等本文に説明のある一般
の定義と尐し異なるが、従業員数が 20 人以上 100 人未満の場合、10 人である)を行う場合に、再就職を可能にするためのいくつかの手続きを経て始めて、定年前の高齢従業員を解雇して早期の年金制度(early retirement)を適用する手続きである。(一般の年金支給は、65 歳からである。2008 年 1 月から、早期年金の支給条件を、58 歳 25 年勤務から 60 歳 30 年勤務に引き上げている。例外あり。)例えば、45 歳以上勤続年数1年以上のの従業員を再就職援助スキーム(employment cell / “une cellule pour l’emploi”)に 1 年以上入れて再就職を計る。リストラ計画に関しては、一定の要件および当局の認定手続きを経ることが必要である。ジェネレーションパクトの 36 条および 37 条によると、一定の要件をみたすリストラ中の使用者の
場合、の雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律による事前通知の期間が短縮または(ブルーカラーの場合が多いと思われるが)延長される可能性がある。
53 雇用の保護に関する 1998 年 2 月 13 日の法律 62 条
い場合)がこれにあたる。
通知の主要な内容は、集団的解雇の理由、対象となる従業員の数およびカテゴリー、実施時期、対象者の選定方法、集団的解雇補償の計算方法等である。
② 従業員代表との協議手続の実施
上記の通知後、使用者は、従業員代表者との間で、集団的解雇の内容につき協議を行わなければならない。
協議のための情報開示としては、下記の項目を含む。
• 解雇の理由
• 解雇される従業員の数およびカテゴリー
• 通常雇用されている従業員の数およびカテゴリー
• 解雇の行われる時期
• 提案される解雇対象者の選択基準54
• 法令または労働協約に定めるもの以外の解雇の補償金の計算方法55
この協議手続において、使用者は、上記の情報を与えた後、一定の期間後に従業員代表に対し質問、討論、修正提案の機会を与え、かつ、かかる質問、討論、提案を検討した上で、これらに対し回答、反論、説明を行わなければならない。56協議の際の議論は、下記の点を含む。
• 解雇の回避は可能か?
• 解雇される従業員の人数の減尐は可能か?
• 解雇の影響を和らげる措置。
54 同じカテゴリーの従業員を全員を解雇せず、一部の従業員のみ解雇する場合の選択基準は明確にかつ合理的に示さなければならない(例えば勤続年数)。
55 この追加補償は、xxxx・xxxと言われており、協議を早期に終了するためには重要である。従業員の大多数がこの支払いのみに関心がある場合には、協議は、速やかにxxxx・xxxの議論に入る場合が多い。「困難な状況にある会社」「リストラ中の会社」の集団解雇事件では、事前通知による解雇補償に変えて、例えば 52 歳以上の従業員には、いわゆる「つなぎ年金」(実際には失業保険と使用者からの補助の組み合わせである)を 13 年間支払うことが可能である。(昨年までは 50 歳まで「つなぎ年金」が可能であった。)ベルギー人は、欧州の他の国の国民に比べて、雇用の維持よりも支払いを受けることを好む強い傾向がある。ある「困難な状況にある会社」の集団解雇事件では、52 歳でいわゆる「つなぎ年金」 (実際には失業保険と使用者からの補助の組み合わせである)をもらい「悠々自適」の老後を好む者が多かった。他の国で年金年齢がどんどん引き上げられているが、ベルギーでは、働かずに比較的若年で引退する人をある程度優遇する制度が残っている。
56 雇用の保護に関する 1998 年 2 月 13 日の法律 66 条 1 項
通常は、数回のミーテイングが必要である。裁判例では、事案により3週間から4ヶ月程度を必要としている。もし協議の手続きが適法に行われない場合、下記のペナルテイーが適用される。
• 罰金、懲役、行政罰
• 労働裁判所は、協議のやり直しを命じることができる。適法な協議手続きが終了するまで使用者は、給与を支払う義務を負う。これは、極めて高額の費用となる。
• フランダースでは、政府補助の補助金の返還を請求することができる。
③ 地方労働事務所への集団的解雇の通知
使用者は、上記の協議手続の終了後、地方労働事務所(Sub Regional Employment Office)に対し、集団的解雇を実施する旨の通知をしなければならない。通知書の写しを事業所内 に掲示する。使用者は、この通知日から、原則として 30 日のクーリングオフ期間は、集団 的解雇の対象となる当該従業員に対し解雇通知を送付してはならない。この期間にいわゆ るソーシャル・プラン(最終的には労働協約の形式を取る)についての交渉が行われる場合が 多い。地方労働事務所は、裁量により、このクーリングオフ期間をさらに 30 日間延長する ことができる。
④ 集団的解雇補償
使用者は、集団的解雇により解雇される全ての従業員に対し、通常の解雇補償等を支払うほか、さらに、下記の要件を満たす集団的解雇により解雇される従業員に対しては、特別の集団的解雇補償を支払う義務がある。57
◼ 解雇が、技術的および経済的理由による集団的なものであること。
◼ 60 日間にわたって解雇された従業員数が、以下の人数を満たすこと。
− 前年の平均従業員数が 20 人-59 人の事業につき 6 人以上
− 60 人以上の事業につき前年の平均従業員数の 10%以上
集団的解雇補償の金額(月額)は、参照ネット給与(2011 年 5 月時点で、3,082.44 ユーロが上限)および政府による失業給付(2008 年 9 月時点で約 1,000 ユーロ)の差額の 2 分の 1
57 集団解雇に関する 1973 年 5 月 8 日の労働協約
である。この集団的解雇補償は、最長 4 ヶ月支給され、通常の解雇補償/解雇予告期間が 3
ヶ月を超える場合には、その超過期間分だけ短縮される(従って、解雇予告期間が 7 ヶ月以上の場合には、集団的解雇補償の支給は不要となる)。なお、上記の集団的解雇補償は、以下で説明する事業所閉鎖補償を受ける従業員には支払われない。
通常の解雇予告期間 | 支払額 |
3ヶ月 | 4ヶ月 |
4ヶ月 | 3ヶ月 |
5ヶ月 | 2ヶ月 |
6ヶ月 | 1ヶ月 |
7ヶ月以上 | 0 |
(3) 雇用促進計画
以下の企業につきジェネレーションパクトの新法(2005 年 12 月 23 日の Loi relative au pacte de solidalité entre les générations, Mon. 30.12.2005)が適用されている。
◼ 解雇を行う事業が、20 人以上の従業員を雇用していること
◼ 解雇の理由が、当該従業員の勤務上の成績または適格性に関係しないこと
◼ 60 日間にわたって解雇(または雇用契約の更新を拒否)された従業員数が、以下の人数を満たすこと。
− 前年の平均従業員数 100 人以上の事業につき従業員数の 10% 以上
− 前年の平均従業員数が 20 人超 100 人以下の事業につき 10 人以上
− 前年の平均従業員数が 11 人超-20 人以下の事業につき 6 人以上
− 前年の平均従業員数が 11 人未満の事業につき半数以上
但し、上記の最後の 2 つの場合には、いわゆる「つなぎ年金」(bridge pension)の年齢制限の削減を申請する場合のみに適用される。その場合には、情報供与および協議の手続を行わなければならない。
リストラの必要な困難な状況にある企業が、「集団解雇」を行う場合に、再就職を可能にするためのいくつかの手続きを必要とする。これを経て始めて、定年前の高齢従業員を解雇して早期の年金制度(early retirement)を適用する手続きである。(一般の年金支給は、
65 歳からである。2008 年 1 月から、早期年金の支給条件を、58 歳 25 年勤務から 60 歳 30年勤務に引き上げている。(例外あり。58)また、45 歳以上勤続年数1年以上のの従業員を再就職援助スキーム(employment cell / “une cellule pour l’emploi”)に 1 年以上入れて再就職を計る。リストラ計画に関しては、一定の要件および当局の認定手続きを経ることが必要である。ジェネレーションパクトの 36 条および 37 条によると、一定の要件をみたす
リストラ中の使用者の場合、の雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の法律による事前通知の期間が短縮または(ブルーカラーの場合が多いと思われるが)延長される可能性がある。
15. 事業所閉鎖
集団的解雇が、下記の事業所閉鎖の要件を満たす場合には、情報提供および協議手続、事業所閉鎖による従業員への補償等につき特別ルールが適用される。
(1) 適用範囲
事業所閉鎖の規定は、以下の要件を全て満たす場合に適用 される。
◼ 事業所閉鎖を行う事業が、20 人以上の従業員を雇用していること
◼ ベルギーにおける主要な事業またはその事業部門を停止すること
◼ 事業所閉鎖の行われた四半期の従業員数が、その直前の 4 四半期の平均従業員数の 25%未満に減尐すること(すなわち、前年の平均従業員数の 75%以上の従業員が解雇されまたは辞職すること)59
また、2007 年 4 月 1 日より、事業所を閉鎖する前の 4 四半期間において、平均して、5 人
以上 19 人以下の従業員を雇用する事業所についても、破産に引き続いて、事業所の閉鎖に至った場合には、補償金支払義務が発生する。60
58 「困難な状況にある会社」「リストラ中の会社」の集団解雇事件では、事前通知による解雇補償に変えて、52 歳以上の従業員には、いわゆる「つなぎ年金」(実際には失業保険と使用者からの補助の組み合わせである)を年金年齢に達するまで(13 年間)支払うことが可能である。(昨年までは 50 歳まで「つなぎ年金」が可能であった。)
59事業所閉鎖に関する 2002 年 6 月 26 日の法律 3 条 1 項 。尚、同項第 2 段落によると、事業所閉鎖は、直
近の四半期の平均従業員数の 4 分の 1 になった月の翌月の1日を、事業所閉鎖の行われた日と考える。
60 事業所閉鎖に関する 2002 年 6 月 26 日の法律 10 条 2 項
(2) 情報提供および協議手続
事業所閉鎖が適用される場合には、使用者は、前記の集団的解雇における情報提供および協議手続を行うほか、さらに、事業所閉鎖の決定を、従業員代表者、従業員および政府当局に通知しなければならない。
(3) 解雇者への事業所閉鎖補償
使用者は、事業所閉鎖により解雇される全ての従業員に対し、通常の解雇補償等を支払うほか、さらに、不特定期間の雇用契約に基づき 1 年以上勤続した従業員に対しては、原則として特別の事業所閉鎖補償を支払う義務がある61。さらに、以下の従業員も、原則として事業所閉鎖補償を受けることができる。
◼ 事業所閉鎖日62前の 12 ヵ月以内に解雇されたブルーカラー従業員
◼ 事業所閉鎖日前の 18 ヵ月以内に解雇されたホワイトカラー従業員
部分的または段階的な事業所閉鎖の場合、事業所閉鎖日後の 12 ヵ月以内に解雇されたブルーカラーおよびホワイトカラー従業員。ただし、閉鎖事業の清算を担当する従業員についてはこの期間は 3 年間に延長される。
事業所閉鎖補償の金額は、147.83 ユーロ(2011 年 5 月時点)に当該従業員の勤続年数を乗じて計算される金額で、最高で勤続 20 年分まで支払われる。また、45 歳超の従業員に対しては、上記の金額に加え、やはり 147.83 ユーロ(2011 年 5 月時点)に当該従業員の 45
歳以降の勤続年数を乗じて計算される金額(最高で勤続 19 年分まで)が支払われる。ただし、事業所閉鎖後、早期に年金を受領する従業員は、事業所閉鎖補償を受領できない。
また、事業所閉鎖により解雇される従業員に対し、使用者自らまたは使用者の仲介により、適当な新しい職場が提供された場合には、当該職場が 6 ヶ月以上存続しなかった場合を除き、使用者は、当該従業員に対し、事業所閉鎖補償を支払う必要はない。63
61 事業所閉鎖に関する 2002 年 6 月 26 日の法律 18 条 1 項
62 事 業 所 閉 鎖 日 と は 、 事 業 所 閉 鎖 に よ り 、 従 業 員 数 が 前 年 の 平均 従 業 員 数 の 25%未 満 に 減 尐 し た 月 の 翌 月 の 初 日 を 意 味 す る 。
63 事業所閉鎖に関する 2002 年 6 月 26 日の法律 18 条 1 項 2 号
16. 使用者の一般的義務
使用者には以下のような種々の義務がある。
◼ 被用者の健康・安全に関する規制を遵守する義務
◼ 各社会保障関係機関での登録義務
◼ 従業員名簿及び各従業員の account を作成する義務
◼ 就業規則を制定する義務
◼ 職業医療サービスを提供する義務
以下、雇用契約の履行に関連して特に注意すべき問題のいくつかにつきにつき説明する。
(1) 就業規則(règlement de travail)
使用者は、就業規則を作成し、以下を含む事項について定めなければならない64。(以下の列挙は例示に過ぎない。)就業規則の制定義務の対象として、従業員数の用件はない。尐数の現地従業員しか雇用していない日系企業の中には、就業規則を制定していないところがまだかなりあるようであるが、労働検査官の検査が入る場合、最も簡単に発見される違法行為の典型例なので是正すべきである。日系企業のなかには、労働検査でこのような指摘を受けた例がある。また、この違反行為については 1 月以下の懲役または罰金の対象となる65。(もっとも、ベルギーでは、悪質な場合にしか懲役刑は適用されないのが通常である。)
◼ 始業、終了時間、休息時間、シフト制またはパートタイムの場合のこれらの時間及び休日
◼ 給与を決定するための勤怠管理の方法、給与支払いの方法
◼ 懲戒解雇事由および減給の場合の金額(ただし、紛争があった場合には、就業規則の定めは労働裁判所により評価される。)
◼ 管理職の権利義務
◼ 種々の懲戒処分とこれに対する不服申し立ての方法
◼ 救急措置の提供者の所在場所
64就業規則に関する 1965 年 4 月 8 日の法律 6 条。但し、他の法律で就業規則に定めなければならない事項を規定している場合もある。
65就業規則に関する 1965 年 4 月 8 日の法律 25 条
◼ 救急医薬品の保管場所
◼ 会社全体の休暇時期(これがある場合)
◼ 労働協議会、安全・衛生委員会、組合代表などのメンバーの氏名(これらがある場合)
◼ 労働災害を処置する医師の氏名、その他の医療機関
◼ 労働監督機関の住所
◼ 差別、パワハラ、セクシャル・ハラスメントに関する事項(後述)
(2) 差別禁止(discrimination)
ベルギーでは、2007 年 5 月 10 日の差別に対処する法律(以下「反差別法という)により下記の理由による合理的理由のない直接または間接の差別が禁止されている。66年齢、性的傾向、婚姻、出生、財産、宗教的または政治的信条、組合加入、言語、健康状態、身体障害、身体的または遺伝的特徴、社会的地位。67違反行為は、1 年以下の懲役および罰金(またはそのいずれか)の刑事罰の対象となる。68
また、同日付けの男女間の差別に対処する法律(以下「男女間反差別法という)により男女間の合理的客観的理由のない直接の差別が禁止されている。
外国人、人種に基づく差別やハラスメントについては、2007 年 5 月 10 日の改正にかかる
ラシズム・外国人排斥に関する 1981 年 7 月 30 日の法律で禁止されている。
(3) 暴力、および道徳的またはセクシャル・ハラスメント(le harcèlement sexuel)
セクシャル・ハラスメントは、男女間反差別法第 5 条 10 号で、「身体的行為、言語または言語以外のいかなる形態であれ、性的性質を有する行為であって、特に、威圧、憎しみ、卑しめ、攻撃的等の環境を生ぜしめることにより、男女もしくは人間の尊厳を傷つける目的または効果をもたらすこと」と定義されている。
違反行為は、刑事罰(1 年以下の懲役および罰金またはそのいずれか)の対象となる。物理的または口頭の暴力および道徳的またはセクシャル・ハラスメントは、早くから禁止されるようになった。その被害者は、安全・保安責任者もしくは信頼しうる者または裁判
66 反差別法 7 条及び 9 条
67 反差別法 4 条 4 号
68 反差別法 22 条
所にに対して苦情申立を行うことができるようになった69。また、損害賠償の請求も認められる70。最近は、使用者がこれらを防止するための対策に重点が置かれる。(2007 年に改正された勤務中の厚生に関する法律の第 3 章がこれに代わる。)使用者は、次のような対応をしなければならない。
◼ 暴力、および道徳的またはセクシャル・ハラスメントの正式な申立てがあった場合に、これに対応する責任者を予め指名しなければならない。
◼ 暴力、および道徳的またはセクシャル・ハラスメントについての訴えは、当事者のみならず、利害関係のある労働組合、セクシャル・ハラスメント防止を目的とする機関などの利害関係者も、これを提起することができる。71
◼
セクシャル・ハラスメントに関する法律違反については、刑事罰が課され得る。セクシャル・ハラスメントに伴う解雇の禁止、契約の一方的変更の禁止については、前記 12.5 およ
び 13.2 参照。
(4) 従業員のプライバシーの尊重
従業員に関する情報収集は、事前に公表し明確に示された正当な目的に基づき、かつその目的の実現に必要な範囲でのみ認められる。情報収集に関して、以下の点について従業員に対して情報を提供しなければならない。
◼ 会社の名称および住所並びに情報取得・保存・使用の目的
◼ 情報取得者、又は、情報を取得する者のカテゴリー、及び、情報が EEA 外の国(日本を含む情報保護の保障の程度の低い国)に転送されるか否か。これは、ベルギーの子会社が日本の親会社に事業の報告を行う場合のみならず、日本の会社がベルギーの会社を買収しようとする場合にも生じる問題である。
◼ 従業員は、保存されている自己の情報に対してアクセスし、間違いがあればこれを訂正する権利があること。従業員から直接情報を取得する場合には、情報収集に応じる義務があるのか否か、及び、義務に応じなかった場合に生じる結果。
従業員の電話や E メールの内容をチェックすることは、法的に規制されており、法律が規
69 2007 年に改正された勤務中の厚生に関する法律 32-9(1)
70 勤務中の厚生に関する法律 32-10(1)
71 勤務中の厚生に関する法律 32-10(1)
定する条件に従って行う必要がある。
17. 賃金
(1) 最低賃金
最低賃金については、全国レベルの全産業に及ぶ労働協約に定めがある。しかし、この定めのみならず、産別又は地域別の joint committee で合意された労働協約で定めがある場合が多いので、個々の企業に適用され得るこれらの労働協約の定めに注意する必要がある。なお、全国レベルの最低賃金(グロス)は、2012 年 3 月現在、月 1,443,.54 ユーロである。
(2) 昇給に対する制限
時限立法で毎年定められた割合以上に人件費を上昇させた使用者には、行政罰が課され得る。原則として、管理職・駐在員にもこの制限は及ぶ。
(3) 賃金からの控除制限
就業規則に定める罰金などは、給与から控除できるが、その額は、給与から、税金、義務的社会保障負担、雇用契約又は労働協約に定められた追加的社会保障負担控除した後の金額の5分の1を超えてはならない。
給与のうち、差し押さえなどの対象となる金額は、給与の額に応じて、制限がある(一定金額以下の場合は、差し押さえ等は許されない。)ただし、養育費の支払いの場合には、この差し押さえ制限は適用されない。
18. 労働時間
労働協約(convention collective)または就業規則で、例えば、個々の産業に特有の労働形態に応じた種々の定めがなされている場合が多いので、法令のみで判断するのは極めて危険である。
(1) 原則
一日あたり 8 時間(但し、日曜以外に半日以上の休日がある場合には、9 時間72)、一週間あたり 40 時間73。74 (但し、労働協約や就業規則でさらにこの 1 週間の労働時間もしくは
週平均労働時間を 38 時間に減じている場合がしばしばあるが75、それは、雇用と生活の質
に関する 2001 年 8 月 10 日の法律 2 条 1 項で確認され、そのような協約または就業規則が
2003 年 1 月 1 日に存しない場合には、同法 2 条 2 項により、上記の最大週 40 時間の労働
時間の制限は、一般的には 38 時間に短縮されている。しかし例外はかなりあるので個別の検討が肝要である。)但し、一定の管理職(personnel de confiance/ vertrouwenspersoneel)、及び、外勤の営業員には適用がない。シフト制の場合にも適用がない。また、休憩を与えずに 6 時間以上継続して勤務させてはならない76。
(2) 例外(時間外勤務)
この労働時間の制限には一定の例外がある。例えば、棚卸または決算のための時間外勤務(ただし、従業員一人当り暦年中 7 日以下に限る。)の場合には、例外的に、法定労働時
間を超えて、一日あたり合計勤務時間数が 11 時間または一週間あたり 50 時間までの延長が許される77。シフト制、性質上業務を中断できない活動については、かつ四半期ごとに一週間の平均労働時間が 40 時間を超えてはならない78。また、性質上業務を中断できない活
動については、さらに原則として一日あたり 12 時間または一週間あたり 50 時間(一日あ
たり合計勤務時間数が 8 時間の場合には、一週間あたり 56 時間)までの労働時間を超えてはならない79。事故の処理もしくは機会もしくは材料の緊急修理については労働協約もしくは法令により、超過勤務の更なる延長も可能であるが、複雑な手続と上限設定がなされて
72勤務に関する 1971 年 3 月 16 日の法律 20 条 1 項
73勤務に関する 1971 年 3 月 16 日の法律 19 条 40 時間とするが、2001 年 8 月 10 日の法律で一般的に 38 時
間に短縮されている場合が多い。尚、以下の 2 つの注参照。
74ここでは、1 日または 1 週間の「平均」労働時間のことではなくて、1 日または 1 週間単位で原則として常に超えてはならない「最大」時間数に関するルールである。(超過勤務はその例外となる。) 例えば、週当たり各従業員が、40 時間勤務するが、年間ベースで週平均 38 時間を達成するために超過分の勤務時間につき休暇を取得させる例もある。
75例えば、週あたりの労働時間を 40 時間(= 8 x 5)とするが、週当たり2時間分つまり年間 12 日の追加的休暇を与えるという就業規則もある。
76勤務に関する 1971 年 3 月 16 日の法律 38 条の 4、1 項
77勤務に関する 1971 年 3 月 16 日の法律 22 条 3 号、27 条 1 項
78勤務に関する 1971 年 3 月 16 日の法律 26 条の 2
79勤務に関する 1971 年 3 月 16 日の法律 27 条 1 項
いる80。いずれにしろ、勤務時間および時間外勤務のルールは極めて複雑で多くの場合わけ、例外規定、異なる手続が労働協約や就業規則等で規定されているので、ケースバイケースで慎重に検討しなければならない。他社の例を聞いて、または類似の例を経験したからといってそれを適用すると危険である。
(3) 年間労働時間按分制
労働協約によって、最大一年間の範囲で労働時間を平均する制度が認められている場合がある。この場合、より長い期間で平均すれば、合意した労働時間の範囲におさまる限り、時間外勤務手当ての支払いなしに、特定の日あるいは週においては、法定労働時間を超えることができる。(ただし、一日あたりの労働時間は、最長 12 時間、四半期の平均週労働
時間が 40 時間以下とされるなど様々な制限がある。)
(4) 夜勤
午後 8 時から午前 6 時までの労働は原則として禁止される81。この時間帯に従業員を働かせる場合には、の割増賃金を支払わなければならない。
(5) 日祝日
月曜日に稼動開始するための清掃といった例外的業務や、種々の小売店といった例外的業種を除き、原則として、日祝日に従業員を働かせることは禁止される。シフト制を採用する場合には、1週間に尐なくとも1回 24 時間以上の勤務の中断がありかつそのうち尐な
くとも 18 回が日曜に該当すれば日曜日の勤務も認められる82。
日曜日勤務に対しては、法定労働時間内である限り、特別の手当てを支払う必要はないが、 4 時間以上勤務した場合には、6 日以内に一日の代休、4 時間未満の場合には、6 日以内に半日以上の代休を与える必要がある。
他方、祝日勤務は、超過勤務に該当するので、超過勤務手当を支給しなければならない。また、祝日勤務から 6 週間以内に、4 時間以上勤務した場合には一日の代休、4 時間未満の場合には、半日の代休を与える必要がある。
80勤務に関する 1971 年 3 月 16 日の法律 27 条 2 項および 3 項
81勤務に関する 1971 年 3 月 16 日の法律 35 条
82勤務に関する 1971 年 3 月 16 日の法律 17 条
(6) 超過勤務手当
「法定」の 1 日 9 時間もしくは 1 週間で 40 時間または労働協約で定めたこれらを下回る最大労働時間を超えた超過勤務83に対しては、時間外超過勤務手当(平日では、通常の給与の 50%、日曜または祝日の場合には、通常の給与の 100%84)を支払わなければならない。 (但し、シフト制等の場合は、例外となる。)
(7) 遅刻
原則として、遅刻した時間分については、減給となる。懲戒処分としての減給も、懲戒処分の条件を満たす限り認められる。公共交通機関のストについては、事前にこれを知っていた従業員の給与請求を否定した判例もある。しかし、予想できない公共交通機関の遅延など、従業員の意思にかかわらない事由を理由として遅刻した場合には、減給できない。
19. 休暇など
(1) 祝祭日
祝祭日は有給休日であり、年間で 10 日である。祝祭日が日曜日と重なる場合は、労働協約に特別の定めがない限り、翌営業日が休日となる。
(2) 年次有給休暇
年次有給休暇は、前暦年の年間勤務日数に応じて与えられる。(尚、政府の声明によるとこのルールは近々変更され、1 年目から休暇の権利が取得される。)現在は、年間を通じ、フルタイムで週 5 日に勤務したホワイトカラー労働者の翌年の年次休暇の法定日数は 20 日
である。ブルーカラー労働者については、前暦年の実労働日数に応じて、最大 20 日の年次休暇が与えられる。尚、労働協約により、追加的な休暇が与えられているケースは多い。(例えば、勤続年数 5 年ごとに 1 日追加等。但し、この場合には二重休暇手当は支払われない。)原則として、年次休暇は、暦年を超えて繰り越すことはできないが、実務上、例えば1月には、前年の未消化分の休暇をとることを許容している場合も多い。
83勤務に関する 1971 年 3 月 16 日の法律 29 条 2 項および 28 条
84勤務に関する 1971 年 3 月 16 日の法律 29 条 1 項
(3) 二重休暇手当(Double Vacation Allowance)
年次有給休暇に関連して、二重休暇手当というものがある。これは、実際には、一定の算定割合に基づいて、支払われるべき追加賃金(ホワイトカラーの場合には、月給の 92%、ブルーカラー労働者については、前暦年の実収入の 15,38%)である。このような名称がついているのは、概念的には、この手当は、休暇中は、通常よりも費用がかかるはずなので、その分の追加的費用を手当として、使用者が支払うという考えからきたものである。そのため、二重休暇手当 と呼ばれる。
(4) 年末手当(Thirteenth month)
産業別の労働協約(又は個別の雇用契約)により、12 月に、1 か月分の追加手当が支払われる場合が多い。
(5) 病欠
疾病または事故のため勤務が不可能な場合には、従業員の就業義務は解除される。この場合、労働協約または就業規則に規定があれば、医師の診断書の提出を求めることができる。通常、就業規則で、これを必要と定めている。雇用者が、これを疑問とする場合にはその費用で別の医師を選択して更なる診断書を取得することができる。85ホワイトカラーの場合、最初の 30 日間については、賃金全額を支払わねばならない86。有給病欠期間の後の
インターバルが 14 日以内で病欠が続き、累積病欠期間が 30 日を越えたこととなった場合には、14 日以内に始まる次の病欠期間については、再度、同じ病気・事故を原因とする場合には、賃金を支払う必要はない87。賃金の支払いの対象とならない病欠期間については、通常社会保険が(その一部を)カバーする。
(6) 産休(Maternity leave)
妊娠中の従業員は、使用者に事前に告知して必要な検診を受けるための有給休暇を取得できる88。出産予定日前 1 週間および出産日後9週間は、妊娠中の従業員は勤務してはなら
ない。また、任意の出産休暇として、産前又は産後に 6 週間(多産の予想される場合には 8
85雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 31 条 2 項および 3 項
86雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 71 条
87雇用契約に関する 1978 年 7 月 3 日の雇用契約に関する法律 73 条
88勤務に関する 1971 年 3 月 16 日の法律 39 条の 2
週間)を上限として休暇を取ることができる89。実際の出産が遅れた場合にも、期間は延長される。また、産前休暇が 6 週間より短い場合には、その短い期間分産後の産休が延長さ
れる。出産予定日より 7 日間および出産後 9 週間は勤務することができない。また、2009
年 4 月から出産前産休のうち 2 週間を産休後(8 週間以内に)に行使することが可能になった。なお、産休の間は、使用者に賃金の支払い義務はない。社会保険がカバーする。母親が入院した場合等には、父親にも、上記の産休の権利がある。
(7) 子供誕生に際しての父親の休暇 (Paternity leave)
父親は、子供の誕生から 4 か月以内に 10 日間の休暇を取ることが認められる。10 日間
のうち、最初の 3 日間は、有給であるが、残りの 7 日間は、社会保険によってカバーされる。
(8) 授乳および育児休暇 (Parental leave)
2010 年 10 月 13 日に改正された 2001 年 11 月 27 日の労働協約 No 80bis によると、母
親は、4 時間ごと(1 日の勤務時間が 7,5 時間の場合には 1 日 2 回)に授乳のための 30 分の休憩時間の権利がある。休憩時間は、有給で健康保険から支払われる。この授乳期間中およびその後の 1 か月の期間これを理由とする解雇はできない。
母親又は父親(または養親)は、以下の要件を満たした場合、原則として、子供が 12 歳になるまでの間に、3ヶ月間の育児休暇(半日休暇の場合には 6 ヶ月間)、又は、15 ヶ月間にわたる労働時間 5 分の一削減の処遇が認められる。
◼ 過去 15 ヶ月間の中で最低 12 ヶ月間勤務していたこと。
◼ 3 ヶ月事前の通知をなすこと。
なお、この期間中使用者は、十分な理由のない解雇はできない。育児休暇中は、給料が支払われない。但し、フルタイムの従業員は、National Office for Employment に対し、補償を請求することができる。
89勤務に関する 1971 年 3 月 16 日の法律 39 条。産前は 6 週間で直前の1週間は勤務してはならないため、
出産直前の1週間のみ産前休暇を取得したとすると、産後は 5 週間の任意休暇が可能である。法律の文言は、”une durée de la période pendant laquelle elle a continue á travailler á partir de la sixème semaine précédent la date exacte de l’accouchement…”
(9) その他の休暇
① 家族行事のための休暇
結婚、葬儀などの家族行事がある場合、一定期間の休暇(有給)をとることができる。休暇が認められる事由はかなり広く、以下のようなものを含む。
◼ 本人の結婚(2日)
◼ 子供、兄弟姉妹、義兄弟、義姉妹、両親、義父母および孫の結婚(結婚式の日)、
◼ 子供、兄弟姉妹、義兄弟、義姉妹の变階式(Ordination)の日
◼ 配偶者、子供、父母、義父母(死亡から葬儀までのうち 3 日間)、兄弟姉妹、義兄弟、義姉妹、祖父母、x、xx、および子供の配偶者(同居の場合死亡から葬儀までのうち 2 日間、同居していない場合葬儀の日のみ)
◼ 子供の聖体拝領式(Communion)の日
◼
② やむを得ない事由による休暇
配偶者、子供の入院、住居の火事といったやむを得ない事由がある場合には、12 か月から 24 か月の範囲内で、被用者は休暇(無給)(または 24 か月から 48 か月の範囲内でパートタイム)を取る権利がある。
③ 職業キャリア中断制度
一定の勤続年数がある従業員は、社会人教育を受けるために、それぞれ一定の条件の下、次の権利が与えられる。
- 1 年間(労働協約により 5 年間まで延長可能)の範囲で、休職する、あるいは、50%もしくは 80%パートタイムで勤務する権利。
- 同じ使用者の下で尐なくとも 2 年間の勤続年数があることが条件。
-
④ 教育休暇
全てのフルタイムの従業員は、社会人教育を受けるために休暇をとる権利がある。上限時間は、コースの種類などによって異なる。雇用主は、一定の上限の範囲内で、従業員に対し、通常賃金を支払わなければならない。
● ジェトロアンケート ●
調査タイトル:ベルギーの労働法-雇用契約と解雇など
e-mail:XXX@xxxxx.xx.xx 日本貿易振興機構 海外調査部 欧州ロシア CIS 課宛
ジェトロでは、ベルギーの労働法-雇用契約と解雇などを目的に本調査を実施いたしました。報告書をお読みいただいた後、是非アンケートにご協力をお願い致します。今後の調査テーマ選定などの参考にさせていただきます。
■質問1:今回、本報告書で提供させていただきました「ベルギーの労働法-雇用契約と解雇など」について、どのように思われましたでしょうか?
(○をひとつ)
4:役に立った 3:まあ役に立った 2:あまり役に立たなかった 1:役に立たなかった
■ 質問2:①使用用途、②上記のように判断された理由、③その他、本報告書に関するご感想をご記入下さい。
■ 質問3:今後のジェトロの調査テーマについてご希望等がございましたら、ご記入願います。
■お客様の会社名等をご記入ください。(任意記入)
ご所属 | □企業・団体 □個人 | 会社・団体名 |
部署名 | ||
お名前 | ||
※ご提供頂いたお客様の個人情報については、ジェトロ個人情報保護方針(xxxx://xxx.xxxxx.xx.xx/xxxxxxx/)に基づき、適正に管理運用させていただきます。また、上記のアンケートにご記載いただいた内容については、ジェトロの事業活動の評価及び業務改善、事業フォローアップのために利用いたします。
~ご協力有難うございました~