第1章 労働契約の当事者 p1~4
…略…
第1部 労働法総論
第1章 労働契約の当事者 p1~4
[論点 1]労働基準法の「労働者」
[論点 2]黙示の労働契約
[論点 3]法人格否認の法理
第2部 労働保護法(雇用関係法)
第2章 就業規則 p5~9
[論点 1]労働契約締結後に周知された就業規則の効力
[論点 2]届出・意見聴取義務と就業規則の効力の関係
[論点 3]就業規則の不利益変更に関する一般的説明
[論点 4]就業規則を新設して労働条件を不利益に変更する場合
[論点 5]労働条件を労働者にとって有利に変更する場合
[論点 6]労使間に就業規則変更合意がある場合
[論点 7]「労働者の不利益に…変更」
[論点 8]変更の「合理」性
第3章 労働憲章・雇用平等
第1節 労働憲章 p10
[論点 1]留学・研修費用返還条項
第2節 雇用平等 p10~16
[論点 1]外形上の性中立的基準
[論点 2]労基法 4 条違反の場合における差額賃金請求権
[論点 3]妊娠中の軽易業務への転換を理由とする降格
[論点 4]セクシャル・ハラスメント
第4章 雇用関係の成立
第1節 募集・採用 p17~18
[論点 1]明示した賃金見込額よりも確定賃金額が低い場合
[論点 2]実際の労働条件が求人広告で示されたものと異なる場合
第2節 採用内定 p18~20
[論点 1]採用内定の法的性質
[論点 2]採用内定の取消し(1)労働契約が成立している場合
[論点 3]採用内定の取消し(2)労働契約が成立していない場合
[論点 4]採用内定中の法律関係
第3節 試用期間 p21
[論点 1]試用の意味
[論点 2]試用期間と契約期間の区別
[論点 3]試用期間中の解雇(本採用拒否)
第4節.期待的利益の侵害を理由とする損害賠償請求 p21~23
[論点 1]期待的利益の侵害を理由とする損害賠償請求
第5章 労働契約上の権利義務
第1節 権利義務内容の決定 p24
[論点 1]労使慣行の法的拘束力第2節 労働契約の基本原則 p24第3節 基本的義務 p24~25
[論点 1]誠実労働義務の内容
[論点 2]就労請求権(労働受領義務)
第4節 付随義務 p25~27
[論点 1]秘密保持義務
[論点 2]競業避止義務(1)退職後の競業避止義務
[論点 3]競業避止義務(2)退職後の競業避止義務特約がない場合
[論点 4]競業避止義務(3)退職後の競業避止義務違反を理由とする差止請求
[論点 5]在職中の引抜行為の限界
第5節.使用者の労働者に対する損害賠償請求・求償請求 p27
[論点 1]使用者から労働者に対する損害賠償請求・求償請求の制限
第6章 人事
第1節 人事考課 / 昇進・昇格 / 降格 p28~30
[論点 1]人事考課の違法性判断
[論点 2]昇進・昇格
[論点 3]降格
第2節 配転・出向・転籍・休職 p31~36
第1.配転 p30~33
[論点 1]配転命令権の根拠
[論点 2]黙示の職種・勤務地限定合意
[論点 3]配転命令権の濫用
[論点 4]賃金の低下を伴う降格的配転
第2.在籍出向 p33~35
[論点 1]出向命令に必要な「労働者の承諾」の内容
[論点 2]出向命令権の濫用
[論点 3]出向労働関係
[論点 4]出向労働者に対する復帰命令
第3.転籍 p35
[論点 1]譲渡型における「労働者の承諾」の内容
第4.休職 p35~36
[論点 1]起訴休職の要件
[論点 2]傷病休職期間満了時に原職復帰できない労働者の退職扱い
第7章 賃金
第1節 賃金の意義 p37~41
[論点 1]支給日在籍要件
[論点 2]賞与の支給要件・算定基準との関係で産前産後休業期間等を欠勤扱いとすることの可否
[論点 3]懲戒解雇を理由とする退職金支給制限規定
[論点 4]退職後の競業避止義務違反を理由とする退職金支給制限規定
[論点 5]年俸制下での次年度の年俸額の決定
第2節 賃金請求権 p42~43
[論点 1]民法 536 条 2 項前段の要件事実としての就労の意思・能力の要否
[論点 2]従前の労務の提供不能と賃金請求権
[論点 3]減給
第3節 賃金の支払方法 p44~45
[論点 1]労働者による賃金債権の譲渡
[論点 2]使用者による相殺
[論点 3]合意相殺
[論点 4]労働者による賃金債権の放棄
[論点 5]過払い賃金の清算のための調整的相殺
第4節 解雇期間中の賃金請求と中間利益の控除 p46~48
[論点 1]解雇期間中の賃金請求と中間収入の控除
第5節 休業手当 p49
[論点 1]休業手当と使用者の帰責事由
第8章 労働時間
第1節 労働時間規制 p50
第2節 労働時間の概念 p50~52
[論点 1]労基法 32 条の労働時間
[論点 2]本来の業務の準備行為に要した時間
[論点 3]不活動仮眠時間
(論証 1)労働時間該当性
(論証 2)法定時間内に属する不活動仮眠時間に対する賃金請求権
(論証 3)法定時間外の不活動仮眠時間に対する割増賃金請求権
[論点 4]その他
第3節 労働時間の計算とその特例 p52~53
[論点 1]変形労働時間制の下で特定した労働時間を変更することの可否
[論点 2]フレックスタイム制における借り時間・貸し時間
(論証 1)借り時間
(論証 2)貸し時間
[論点 3]事業場外労働のみなし労働時間制における「労働時間が算定し難いとき」
第4節 休憩・休日 p54~55
第1.休憩 p54
[論点 1]休憩時間中の外出許可制
[論点 2]休憩時間中の政治活動の禁止
第2.休日 p54~55
[論点 1]事前の休日振替え
[論点 2]事後の休日振替え
第9章 時間外労働
第1節 36 協定による時間外・休日労働 p56~57
[論点 1]時間外・休日労働義務の発生根拠
[論点 2]労使協定の過半数要件の基準時
[論点 3]過半数代表者の選出方法
第2節 割増賃金 p57~59
[論点 1]割増賃金を労基法所定の計算方法によらずに一定額で支給することの可否
[論点 2]違法な法定時間外労働に対する割増賃金支払義務
第3節 例外 p60
[論点 1]管理監督者の要件
[論点 2]管理監督者と深夜業規制
第10x x次有給休暇 p61~65
[論点 1]「全労働日」
(論証 1)労働者の帰責事由による不就労日
(論証 2)使用者の帰責事由による不就労日
(論証 3)労使双方に帰責事由がない不就労日
[論点 2]年休権の法的構造
[論点 3]使用者の年休時季指定付与義務の意義
[論点 4]時季変更権の行使を差し控えるかどうかを判断するために年休の利用目的を問いただすことの可否
[論点 5]争議行為との関係
(論証 1)争議目的での年休請求
(論証 2)年休請求後の争議行為参加の発意
[論点 6]「事業の正常な運営を妨げる場合」
[論点 7]時季変更権の事後行使
[論点 8]計画年休協定の拘束力
[論点 9]年休の買上げ
[論点 10]年休取得を理由とする不利益取扱い
第11章 年少者・女性の保護 p66
[論点 1]生理休暇の取得を理由とする不利益取扱い
第12章 ワークライフバランス p67
[論点 1]育児介護支援措置の利用を理由とする不利益取扱い
第13章 労働災害
第1節 労災補償 p68~70
[論点 1]災害性の傷病・死亡の「業務上」判断
[論点 2]職業性の脳・心臓疾患の「業務上」判断
[論点 3]過重負荷による精神障害(うつ病など)の「業務上」判断
(論証 1)うつ病の業務起因性
(論証 2)うつ病と自殺の間の相当因果関係
第2節 労災保険給付と他の給付との調整 p70~71
[論点 1]労災保険給付終了後の労働基準法上の災害補償責任への切り替え
[論点 2]民事損害賠償からの労災保険の将来給付分の控除
(論証 1)保険給付と民事損害賠償の関係
(論証 2)現実の保険給付の要否
[論点 3]労災保険給付により免責される損害賠償責任の範囲
[論点 4]特別支給金の民事損害賠償からの控除
[論点 5]被災労働者の過失分の減額の順序
[論点 6]第三者行為災害と示談
第3節 安全配慮義務 p72
[論点 1]人的・物的組織の編成
[論点 2]過労自殺
(論証 1)加重労働等による心身の健康侵害への配慮
(論証 2)過失相殺
[論点 3]元請会社の下請会社従業員に対する安全配慮義務
[論点 4]取締役の安全配慮義務
第14章 懲戒 p73~78
[論点 1]懲戒処分の有効要件
[論点 2]勤務時間中の政治活動
[論点 3]休憩時間中における企業施設内でのビラ配布
[論点 4]私生活上の犯罪行為
[論点 5]職場外での会社批判
[論点 6]無許可兼業
[論点 7]社内不倫
[論点 8]経歴詐称
[論点 9]内部告発
[論点 10]企業が行う企業秩序違反事件の調査の協力拒否
[論点 11]所持品検査拒否
[論点 12]精神的不調を理由とする長期間の無断欠勤
[論点 13]懲戒処分後に判明した非違行為を処分理由に追加することの可否
[論点 14]懲戒権行使の長期間留保
第15章 雇用関係の終了(解雇以外)
第1節 合意解約 p79
第2節 辞職 p79~81
[論点 1]黙示の更新の効果
[論点 2]非自発的退職と損害賠償
[論点 3]退職の意思表示
(論証 1)退職の意思表示の法的意味
(論証 2)労働者による合意解約の申込みの撤回
(論証 3)使用者の承諾の意思表示の要式性
(論証 4)使用者の承諾権限
第3節 定年制 p81
[論点 1]高年齢者雇用安定法 9 条 1 項の私法上の効力
第4節 当事者の消滅 p81
第5節 企業組織の変動 p82~83
[論点 1]事業譲渡(1)労働契約の承継の要件
[論点 2]事業譲渡(2)事業譲渡当事者間での労働契約の承継排除の合意
[論点 3]会社分割
(論証 1)商法等改正法附則 5 条の協議に違反したこと
(論証 2)労働契約承継法 7 条の措置を怠ったこと
第16章 解雇
第1節 解雇の意義 p84
第2節 就業規則における解雇に関する定め p84
第3節 法令等による解雇の制限 p84~87
[論点 1]労災保険給付による打切補償の可否
[論点 2]「業務上」の「負傷…又は疾病」
[論点 3]解雇予告義務に違反した解雇の効力
[論点 4]労基法 114 条の附加金支払義務
[論点 5]解雇権濫用法理
[論点 6]解雇事由の追加主張第4節 解雇事由の具体例 p87第5節 整理解雇 p87~90
[論点 1]整理解雇の有効性
第6節 変更解約告知 p90~91
[論点 1]解雇権濫用の判断枠組み
[論点 2]留保付き承諾の有効性
第7節 解雇と不法行為 p91
[論点 1]無効な解雇期間中の賃金相当額の損害賠償
[論点 2]無効な解雇による慰謝料の賠償
第17章 非xx雇用
第1節 有期雇用労働者 p92~94
[論点 1]「やむを得ない事由」(労契 17 条 1 項)
[論点 2]無期労働契約転換時に労働条件を不利益変更する旨の就業規則の合理性判断
[論点 3]労xx 19 条 1 号・2 号該当性の判断枠組み
[論点 4]高年齢者雇用確保措置の下での定年後の雇用継続
第2節 短時間・有期雇用労働法 p95~98
1.9 条と 8 条の適用の先後関係 p95
2.通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止(9 条) p95~97
[論点 1]強行的効力
[論点 4]直律的効力
3.不合理な待遇の禁止(8 条) p97~98
[論点 1]強行的効力
[論点 2]直律的効力
第3節 労働者派遣法 p98~99
[論点 1]違法派遣を理由とする派遣元・派遣労働者間の労働契約の無効
[論点 2]派遣元による派遣労働者の雇用安定措置義務違反の効果
[論点 3]派遣先により労働者派遣契約が中途解除された場合における派遣元による有期労働契約の中途解約
第3部 労働組合法
第1章 労働組合法総論 p101
[論点 1]労組法 7 条所定の不当労働行為に該当する法律行為の有効性
第2章 労使関係の当事者
第1節 労働者 p102~103
[論点 1]労組法上の「労働者」(3 条)
第2節 使用者 p103~105
[論点 1]労働契約関係に近似する関係の一方当事者
(論証 1)業務処理請負により社外労働者を受け入れている企業の使用者性
(論証 2)労働者派遣契約により社外労働者を受け入れている派遣先企業の使用者性
(論証 3)親子会社の事例における親会社の使用者性
[論点 2]労働契約関係に隣接する関係の一方当事者
第3節 労働組合 p105
[論点 1]使用者からの独立性の内容
第3章 労働組合の運営
第1節 運営のルール p106
第2節 組合員資格 p106~107
[論点 1]組合からの脱退そのものを制限する定め
[論点 2]ユニオン・ショップ協定
(論証 1)ユ・シ協定の有効性
(論証 2)x・x協定に基づく解雇
(論証 3)解雇理由とされた除名が無効である場合
第3節 便宜供与 p107~108
[論点 1]xxxx・xxの法律関係
第4節 労働組合の財政 p108
[論点 1]組合員の組合費納入義務
第5節 労働組合の統制権 p109~110
[論点 1]組合員の協力義務
[論点 2]個々の組合員の言論の自由
[論点 3]違法争議指令に対する服従義務
[論点 4]統制処分の司法審査
第6節 労働組合の組織変動 p110
[論点 1]分裂概念の肯否
第4章 団体交渉 p111~1115
[論点 1]団体交渉の労働者側の当事者
(論証 1)上部団体
(論証 2)企業内における複数の労働組合(企業内の併存組合など)からの共同交渉の申入れ
(論証 3)唯一交渉団体条項(一定の組合とのみ交渉に応じる旨の条項)
[論点 2]義務的団交事項
(論証 1)非組合員の労働条件
(論証 2)経営・生産事項
[論点 3]使用者の交渉義務
(論証 1)誠実交渉義務
(論証 2)併存組合に対する誠実交渉義務
(論証 3)団体交渉の日時・場所・出席者等の開催条件
(論証 4)団体交渉の打切り
[論点 4]団交義務違反の救済方法
(論証 1)団体交渉を求めうる地位にあることの確認請求
(論証 2)具体的団体交渉請求権
(論証 3)不法行為責任
第5章 労働協約 p116~121
[論点 1]労働協約の法的性質
[論点 2]協約締結権限
[論点 3]労働協約の要式性
(論証 1)往復文書等による合意
(論証 2)要式性を欠く労働協約の効力
(論証 3)複数ある交渉事項の一部についてのみの合意
[論点 4]労働協約の規範的効力
(論証 1)法的性質
(論証 2)有利原則
[論点 5]労働協約による労働条件の不利益変更
[論点 6]個別的授権事項に属する権利義務の処分・変更
[論点 7]事業場単位の拡張適用
(論証 1)拡張適用の要件具備の基準時
(論証 2)労働条件を不利益変更した労働協約の未組織労働者への拡張適用
(論証 3)少数組合員への拡張適用
[論点 8]平和義務・平和条項違反の争議行為
(論証 1)懲戒処分
(論証 2)争議行為の正当性
(論証 3)損害賠償請求・差止請求
[論点 9]労働協約の一部解約
[論点 10]労働協約のxxx
第6章 争議行為 p122~129
[論点 1]争議行為の概念
[論点 2]争議行為の主体の正当性
(論証 1)管理職組合
(論証 2)争議団
(論証 3)自主性不備組合
(論証 4)部分スト
(論証 5)山猫スト
(論証 6)非公認スト
[論点 3]争議行為の目的の正当性
(論証 1)政治スト
(論証 2)同条スト
(論証 3)経営・生産・人事に関する事項
(論証 4)抗議スト
[論点 4]争議行為の手続の正当性
(論証 1)団体交渉を経ない争議行為
(論証 2)予告を経ない争議行為等
(論証 3)組合規約違反の争議行為
(論証 4)平和義務・平和条項違反
[論点 5]争議行為の態様(手段)の正当性
[論点 6]配転命令を争うための指名スト
[論点 7]違法争議行為に関する組合幹部の懲戒処分
[論点 8]争議行為中の賃金カット
(論証 1)ストライキ参加者の賃金削減の可否及び限界
(論証 2)部分スト又は一部スト不参加者の賃金・休業手当
[論点 9]ストライキ以外の労務提供を伴う争議行為と賃金カット
[論点 10]ロックアウト期間中の賃金
第7章 組合活動 p130~133
[論点 1]組合活動の主体の正当性
(論証 1)未組織労働者の活動
(論証 2)自発的活動
(論証 3)組合内少数派の活動
(論証 4)政党構成員としての活動
[論点 2]組合活動の目的の正当性(政治活動としての組合活動)
[論点 3]組合活動の態様の正当性態様
(論証 1)就業時間中の組合活動
(論証 2)企業施設利用の組合活動
(論証 3)街頭宣伝活動
[論点 4]勤務時間中の組合活動と賃金カット
第8章 不当労働行為制度
第1節 総論 p134
第2節 不利益取扱い p134~136
[論点 1]採用拒否による「不利益な取扱い」
[論点 2]配転による「不利益な取扱い」
[論点 3]不当労働行為の意思
(論証 1)不当労働行為の意思の要否及び内容
(論証 2)動機の競合
(論証 3)第三者の強要による不利益取扱い
[論点 4]不利益取扱いの不当労働行為に該当する法律行為の有効性
第3節 支配介入 p136~141
1.成立要件 p136~137
[論点 1]組合活動の正当性と支配介入の成否の関係
[論点 2]支配介入行為の使用者への帰責
(論証 1)代表取締役等の代表者・2 条但書 1 号の利益代表者
(論証 2)利益代表者に近接する職制上の地位にある者
(論証 3)より下位の職制
(論証 4)一般社員・別組合の組合員・企業外の第三者
2.使用者の言論の自由・施設管理権との関係 p137~138
[論点 1]組合に対する使用者の意見表明
[論点 2]職場集会に対する警告
[論点 3]組合掲示板からの組合掲示物の撤去
3.複数組合の併存と不当労働行為 p138~141
[論点 1]大量観察方式
[論点 2]併存組合間の便宜供与差別
[論点 3]団体交渉を経た別異取扱い
(論証 1)同一条件の提示
(論証 2)残業差別
第4節.労働委員会の救済命令 p141~147
[論点 1]支配介入についての組合員個人の申立人適格
[論点 2]不利益取扱いを受けた労働者の組合員資格の喪失
[論点 3]バックペイにおける中間収入の控除
[論点 4]昇給・昇格・昇進差別
[論点 5]会社解散と不当労働行為
[論点 6]抽象的不作為命令
[論点 7]私法上の法律関係・強行法規との関係
[論点 8]昇給査定差別における除斥期間の起算点
[論点 9]昇進・昇格査定差別における除斥期間の起算点
[論点 10]査定差別が繰返された場合における除斥期間の起算点
第4部 労働紛争の解決制度
第1章 労働紛争解決制度の全体像 p149
第2章 個別労働紛争の解決制度 p149
第3章 集団的労働紛争の解決制度 p149
[論点 1]労働組合の消滅後の救済命令の拘束力
第4章 保全訴訟 p149
第2節.配転・出向・転籍・休職 第1.配転 企業内における労働者の配置の変更をいい、転勤(勤務地の変更)と配置転換 (職務内容の変更)に分類される。 [論点 1]配転命令権の根拠 労働条件対等決定の原則(労基 2 条 1 項)及び合意原則(労契 1 条、3 条 1 項)に照らし、使用者に配転命令権が認められるためには、就業規則(労契 7 条)などによる契約上の根拠が必要であると解する(契約説)。 [論点 2]黙示の職種・勤務地限定合意 労働契約締結時に勤務地・職種を限定する合意をした労働者に対する関係では、使用者の配転命令権が否定される(労契 7 条但書)。配転条項の周知後の労 使間合意であれば、労xx 8 条が根拠となる。 使用者としては、当該労働者の個別的同意を得ることで配転を命じることは可能であるが、xxx(労契 3 条 4 項)及び労働契約内容の理解促進の責務(労契 4 条 1 項)に照らし、労働者の同意について、労働者の自由意思に基づくと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが要求される。 (論証 1)職種限定合意 以下の要素を総合考慮して判断する。 ①採用時における職種の特定の有無 ②職務の性質(専門性など) ③当該労働者の勤続態様 ④職種を同じくする他の労働者の勤続態様 (論証 2)勤務地限定合意 以下の要素を総合考慮して判断する。 ①採用時における勤務地の特定の有無 ②職務の性質(特定の場所に対する依存性など) ③当該労働者の勤続態様 ④他の労働者の勤続態様 (論証 3)職種・勤務地限定合意 以下の要素を総合考慮して判断する。 ①採用時における職種・勤務地の特定の有無 ②職務の性質 ③当該労働者の勤続態様 ④他の労働者の勤続態様 | A 速修 120~129 頁司 H21 司 H26 司 R4 A 東亜ペイント事件・最判 S61.7.14 (百 62) A 司 H21 司 H26 司 R4 日産自動車xx工場事件・最判H 元 12.7 山梨県民信用組合事件・最判 H28.2.19(百 23) ③・④はあまり重視されない。契約後の事情である③・④が契約時の黙示的合意を推認する力は弱いからである。 |
[論点 3]配転命令権の濫用 使用者の配転命令権の「行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない」(労契 3 条 5 項) 配転命令には、企業内での労働力の配置についての人事権の行使として、原則として使用者に広い裁量が認められる。 そこで、①業務上の必要性がない、②不当な動機・目的に基づく、又は③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせるものであるなど、特段の事情が存する場合でない限り、権利濫用(労契 3 条 5 項)にならないと解する。 (補足) ①は、㋐A 配転自体の必要性と、㋑A A 配転の対象として当該労働者を選択したことの合理性からなる。 ②では、特に不当な動機・目的の存在を疑わせる事情がない事案であれば、人選基準の合理性が認められることにより、不当な動機・目的の不存在が推定される。 ③では、転勤の際の育児・介護状況への配慮(育介 26 条)・仕事と生活のx xへの配慮(労契 3 条 3 項)の有無・内容が考慮される。 ③では、現実的に選択可能なものとして労働者が選んだ選択肢よりも不利益性の低い選択肢が無い場合には、労働者が選んだ選択肢を前提として不利益の程度を判断するべきである。これに対し、現実的に選択可能な選択肢の中に不利益性が通常甘受すべき程度にとどまるものがある場合には、これを選択せずにより不利益性の高い選択肢を選んだことによる不利益性は、労働者自身の選択の結果であるから、労働者が選んだ選択肢を前提として不利益の程度を判断するべきではない。 [論点 4]賃金の低下を伴う降格的配転 配転命令と降格が同時に行われ、降格によって賃金が引き下げられる場合には、配転の要件に加え、降格の要件をも満たす必要がある。降格の要件を満たさない場合、配転と降格が一体となって無効となる。 例えば、Y 社において、X が配転(東京本店 店長 P 職→北海道支店 店員 Q職)に伴い職能資格を引き下げられた(給与等級 3→給与等級 2)という事案では、X は、配転及び降格が無効であるとして、①北海道支店で店員として就労する義務の不存在の確認、②給与等級 3 の地位にあることの確認及び③降格前後の基本給月額の差額分の賃金支払い求める訴えを提起することが考えられる。 1.配転命令に伴い降格も行われている場合には、配転命令と降格の双方の要件を満たす必要がある。 (1)配転命令 ア.まず、…略…(論点 1) Y 社では、配転について定める就業規則が「周知」されているから、 | A 司 H21 司 H26 司 R4 東亜ペイント事件 対象労働者側の事情を直接の理由とする配転では㋐㋑を区別しない。 ケンウッド事件・最判 H12.1.28・xxxx裁判官の補足意見 A |
就業規則の契約内容規律効(労契 7 条本文)によって Y 社の配転命令権が根拠づけられている。 イ.次に、…略… X の職種・勤務地を限定する旨の黙示の合意(労契 7 条但書)が成立していたとはいえない。 ウ.そして、…略…X の職種・勤務地を北海道支店の店員 G 職に変更する 「業務上の必要」があったといえ、就業規則上の配転事由に該当する。したがって、Y 社はX に対して配転命令権を行使し得る。 (2)降格 ア.まず、職能資格の引下げは労働条件たる基本給の引下げを伴うから、労働契約の内容変更として、労働者の個別同意又は就業規則等における明確な根拠規定が必要である。 Y 社の就業規則では、職能資格に関する降格規定があり、降格事由を具体的に定められているとともに、…略…xxな評価手続も定められている。そのため、降格規定は「合理的」である。また、これは「周知」されているから、降格規定の契約内容規律効(労契 7 条本文)によりY社の降格権限が根拠づけられている。 イ.次に、…略…X は就業規則上の降格事由に該当する。 ウ.したがって、Y 社は X に対して降格権限を行使し得る。 2.配転・降格の要件を満たすとしても、配転・降格は権利濫用(労契 3 条 5 項)に当たらないか。 最も重要な労働条件である賃金の低下を伴う降格的配転については、配転の側面における使用者の人事裁量を重視した東亜ペイント事件判決の判断枠組みを用いるべきでない。 そこで、賃金の低下を伴う降格的配転については、降格と配転を一体的に捉えた上で、従前の賃金の減少を相当とする客観的合理性がない限り、降格と配転の双方が権利濫用(労契 3 条 5 項)により無効になると解する。 この判断では、①労働者の適性・能力・実績等の労働者の帰責性の有無・程度、②降格の動機・目的、③業務上の必要性の有無・程度及び④降格の運用状況等を総合考慮する。 第2.在籍出向 出向元での従業員としての地位を保ちつつ、出向先の雇用管理に服し、その指揮命令に従い就労すること。 [論点 1]出向命令に必要な「労働者の承諾」の内容 出向は労務提供請求権の譲渡を伴うから、「労働者の承諾」(民 625 条 1 項)が必要である。ここで、「承諾」の内容が問題となる。 出向の企業グループ内の人事異動としての側面に配慮する一方で、出向に伴 う労働条件・法律関係の複雑化や労働条件面での不利益のおそれにも配慮する | 日本ガイダント事件・仙台地決 H14.11.14 A 速修 130~134 頁 A 新日本製鐵事件・最判 H15.4.18(百 63) |
第9章 時間外労働 第1節.36 協定による時間外・休日労働 [論点 1]時間外・休日労働義務の発生根拠 使用者は、適法な 36 協定の締結・届出により、36 協定の内容に従い、適法に時間外・休日労働を行わせることができる(労基 36 条)。では、36 協定によって当然に時間外・休日労働義務が発生するか。 (論証 1)36 協定の有効性 改正労基法 36 条の限度時間に関する定めは強行法規としての性格を有するから、就業規則の内容が同条 3 項・4 項(原則限度時間)又は 5 項・6 項(特別条項)に反するのであれば、「合理」性を問うまでもなく、36 条違反の就業規則として無効となり(労基 13 条前段)、その契約内容補充効が否定される。 平成 30 年改正労基法の下では、時間外・休日労働義務の発生根拠の論点(論証 2)に入る前に、36 協定の有効性を確認することになる。 (論証 2)時間外労働・休日労働義務の発生根拠 36 協定は違法性阻却効果を有するにとどまるから、時間外・休日労働義務の発生には契約上の根拠が必要である。 そして、36 協定に従い時間外・休日労働をさせることができる旨の合理的な就業規則規定が周知されていれば、就業規則の契約内容補充効(労契 7 条本文)により、同規定に従い時間外・休日労働をする義務が発生すると解する。 補足1:例えば、時間外労働に関する就業規則の合理性では、時間外労働の「事由」と「時間」が限定的に定められているかが重要となる。そして、時間外労働の「事由」の一部について「いささか概括的・網羅的」な定めがあるとしても、そのような定めをする必要性と時間外労働による労働者の負担(対象労働者の担当業務の内容等に着目する)如何によっては、なお合理性が認められることがある。 補足2:労基法上、時間外労働は 36 協定の範囲内において許されるのだから、 時間外労働を定めた就業規則の内容は 36 協定に依拠することとなる。したがって、例えば、時間外労働について定める就業規則が「…36 協定に従い、時間外労働をさせることができる」旨を規定するにとどまり、時間外労働の事由・時間等について具体的に定めていない場合には、時間外労働の事由・時間等についての就業規則の内容としては、36 協定で定めた具体的内容が取り込まれることになるのだから、当該就業規則の内容の合理性は、時間外労働の具体的内容を定めた 36 協定の内容に沿って判断することになるのである。 | A 速修 186~192 頁 A 司 H19 施行日は 2019 年 4 月 1 日、中小企 業では 2020 年 4 月 1 日。 日立製作所武蔵工場事件・最判 H3.11.28(百 38) |
[論点 2]労使協定の過半数要件の基準時 労使協定の締結主体は、労働者側においては、当該事業場における労働者の過半数代表(過半数組合、これがないときは過半数代表者)である労基 36 条 1 項)。 では、「労働者の過半数」という過半数要件(労基 36 条 1 項)の基準時についてどのように解すべきか、36 協定締結後に締結組合の過半数割れが生じた場合などに問題となる。 労基法 36 条 1 項の過半数要件の趣旨は、個々の労働者よりも交渉力が強い過半数代表を締結主体とすることで、労働者の自由意思による規制解除を担保しようとしたことにあると考えられる。 こう考えると、過半数代表により労使協定が締結されることで上記趣旨が満たされるから、過半数要件は労使協定締結時に備わっていれば足りると解すべきである。 [論点 3]過半数代表者の選出方法 労使協定が労基法上の原則を解除する効果を持つことから、同法施行規則 6 条の 2 第 1 項各号は、「過半数代表者」が使用者の意向に沿って選出されることを防ぐ趣旨で、公正な選出を担保するために、「過半数代表者」の地位(適格性)及び選出方法について規定している。 地位(適格性)については、原則として、過半数代表者が管理監督者(労基 41 条 2 号)でないことが必要とされる(規 6 条の 2 第 1 項 1 号、2 項) 選出方法については、「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であつて、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと」が必要とされる(規 6 条の 2 第 1 項 2 号)。 第2節.割増賃金 法定時間外労働・休日労働・深夜労働に対しては、労基法 37 条所定の割増賃金 を支払う必要がある(労基法 37 条)。 [論点 1]割増賃金を労基法所定の計算方法によらずに一定額で支給することの可否 割増賃金を労基法 37 条 1 項所定の計算方法によらずに一定額で支給する制度を「定額残業代」制度という。 定額残業代には、(1)基本給などの総賃金のなかに割増賃金部分を組み込んでいる基本給組込みタイプと、(2)基本給とは別に営業手当、役職手当など割増賃金に代わる手当等を定額で支給する別枠手当タイプに大別される。 (論証 1)対価性を問題としない場合 労基法 37 条は同条所定の方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるから、①通常の労働時間の賃金に当た | B 司 H22 B A 速修 193~202 頁 A 司 H20 司 H30 司 R2 高知県観光事件・最判 H6.6.13 |
る部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができ、かつ、②割増賃金に当たる部分が法定計算額以上である場合には、同条所定の計算方法によらずに一定額を支給することにより割増賃金を支払うこともできると解する(判例)。 ①は、労基法 37 条適合性を判断する前提として割増賃金の計算を可能とす るための要件であり、②は、具体的な支給額として労基法 37 条適合性を判定するための要件である。 (論証 2)対価性を問題とする場合 労基法 37 条は同条所定の方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるから、①使用者側が割増賃金として支払ったと主張している賃金部分が時間外労働等に対する対価として支払われるものといえることを前提として、②通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができ、かつ、③割増賃金に当たる部分が法定計算額以上である場合には、同条所定の計算方法によらずに一定額を支給することにより割増賃金を支払うこともできると解する(判例)。 ①は、②の判断の前提として問題となる要件であり、㋐当該労働契約に係る契約書等の記載内容、㋑使用者の説明及び㋒実際の勤務状況などを考慮して判断される(判例)。1) [帰結 1] Y 社に雇用されるX の基本給月額は 30 万(労基 37 条 5 項や規 21 条各号の各種手当は含まない。以下同じ。)であり、残業代については就業規則で「残業代は基本給に含めて支払う」とだけ定められている場合、基本給月額 30 万円のうち、いくらまでが通常の労働時間の賃金に当たる部分で、残りいくらが残業代に当たる部分であるのかが判別できないため、「残業代は基本給に含めて支払う」旨の就業規定は判別性を欠くものとして無効になる。2) そうすると、基本給月額 30 万円全額が「通常の労働時間…の賃金」(労基 37 条 1 項)として割増賃金の算定基礎となる。 また、割増賃金は 1 円も支払われていないことになる。 [帰結 2] Y 社に雇用される X の基本給月額は 30 万であり、残業代については就業規則で「基本給の 20%は残業代である」と定められている場合、判別性が認めら | 日本ケミカル事件・最判 H30.7.19 |
1) ①対価性は、日本ケミカル事件(最判 H30.7.19)において明確に言及された要件であり、その後、国際自動車事件(最判 R2.3.30・百 40)でも問題とされている。
①対価性は②判別性の前提要件であるところ、対価性の存在が問題なく認められる事案では、①に言及す
る必要はないと考えられる。
②判別性は、㋐通常の労働時間の賃金に当たる部分と労基法 37 条の定める割増賃金に当たる部分とが明
確に区分されていることと(「明確区分性」)、㋑明確に区分された労基法 37 条の定める割増賃金に当た
る部分が労基法 37 条の定める時間外労働に対する対価としての性質を有していること(「対価性」)の 2
つの要件からなると整理できる。
2) 対価性を満たさない場合は、これを前提とする判別性も満たさないから、結論は判別性を満たさない場合と同じとなる。
れるから、少なくとも、就業規則は判別性を欠くものとして無効になることはない。また、基本給 20%が労働基準法所定の計算方法による額以上であるならば、割増賃金額要件も満たすから、就業規則は有効である。 そうすると、基本給月額 30 万円の 80%である 24 万円が「通常の労働時間… の賃金」(労基 37 条 1 項)として割増賃金の算定基礎となる。 また、基本給月額 30 万円の 20%である 6 万円が、毎月、残業代として支払われていたことになる。 [帰結 3」 Y 社に雇用される X の基本給月額は 37 万、1 か月の所定労働時間は 160 時間であり、残業代については就業規則で「基本給のうち、5 万円は残業代である」と定められているとする。この事例では、(帰結 2)と同様、判別性が認められる。 他方で、X の残業時間が毎月 45 時間であったとする。X の割増賃金の算定基礎となる「通常の労働時間…の賃金」は、1 時間 2,000 円である((37 万円 -5 万円)÷160 時間)。そうすると、X に支払われるべき割増賃金額は、労働基準法所定の計算方法によると、毎月 112,500 万円である(2,000 円×1.25× 45 時間)。したがって、「基本給のうち、5 万円は残業代である」とする就業規則の定めは、X との関係では割増賃金額要件を欠き、部分的に無効となる。具体的には、当該就業規則の定めは、基本給に含めて支払う残業代が 5 万円に固 定されている限りで、労基法 37 条「で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約」として無効となり(労基 13 条前段)、5 万円を超える残業代の支払いの要否・内容という契約内容の空白部分については、労基法 37 条で定め る基準(本事例では、残業 1 時間当たり 2,500 円の割増賃金を支払うという基準)により修正される(規律される)。したがって、X は、このような内容に規律された労働契約に基づき、1 か月あたり 62,500 円(112,500 円-5 万円)の割増賃金の支払を請求することができる。 [論点 2]違法な法定時間外労働に対する割増賃金支払義務 労基法 36 条の要件を満たさない違法な法定時間外労働についても、過重労 働に対する労働者への経済的補償といった労基法 37 条の趣旨が妥当するか ら、労基法 37 条の割増賃金の支払義務は発生すると解する。3) | B 司 R2 小島撚糸事件・最判 S3 |
5.7.14
3) 上記[論点 2]は、使用者が確信犯的に違法な法定時間外労働をさせた場合に顕在化する。例えば、大手飲食店で接客業務に従事する従業員 X が 36 協定の締結なしに 1 日 10 時間、接客業務に従事していたとい
う事案では、X が接客業務に従事した時間のうち 1 日 8 時間を超える部分が労基法上の労働時間に該当す
ることは明らかであるから、上記[論点 2]が顕在化する。
これに対し、不活動仮眠時間の労働時間該当性が問題となった大星ビル管理事件(最判 H14.2.28・百 36) は、不活動仮眠時間の労働時間該当性が問題になっていることからしても、使用者が労働時間ではないと認 識していた不活動仮眠時間について事後的に労基法上の労働時間該当性が明らかになっているため、使用 者が確信犯的に違法な法定時間外労働をさせた事案ではない。こうした事案では、①まず初めに、法定時間 内労働に属する不活動仮眠時間と法定時間外労働に属する不活動仮眠時間について「通常の労働時間の賃金」や「割増賃金」を支払うという内容に労働契約を解釈することができるかが問題となり、②そのような契約 解釈をすることができない場合には、労基法 13 条の強行的効力と直律的効力により、労働契約を「法定時
間外労働に属する不活動仮眠時間にも労基法 37 条所定の割増賃金を支払う」という内容に修正することになり、③②の通り修正された労働契約を根拠として割増賃金支払義務の発生が認められることになる。なお、
第3節.例外 適用除外(労基 41 条)、高度プロフェッショナル制度(平成 30 年改正労基 41 条の 2)、災害・公務の必要による場合(労基 33 条)、恒常的例外(労基 40 条)がある。 [論点 1]管理監督者の要件(労基 41 条 2 号前段) 労基法 41 条 2 号前段の趣旨は、管理監督者は時間外労働等を要請されてもやむを得ないような重要な職務と権限を付与され、また、賃金や勤務態様面での優遇措置ゆえに保護に欠けないという点にある。 そこで、同号前段の「監督若しくは管理の地位にある者」に該当するには、 ①労務管理を含め企業全体の事業経営に関する重要事項に経営者と一体的な立場において関与していること、②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないこと、③管理監督者にふさわしい待遇の存在が必要であると解する。 (補足) ①では、職務内容・権限・責任に照らして、企業全体の事業経営に関する重要部分に経営者と一体的な立場において関与していることが必要であり、個々の店舗運営において重要な職責を負っているだけでは足りない。 ②では、勤務実態からみて実質的に労働時間に関する自由裁量性があることが必要である。 ③では、給与(基本給・役職手当等)・一時金の金額だけで判断するのではなく、労働時間等の勤務実態との関係を踏まえて実質的に判断する。 [論点 2]管理監督者と深夜業規制 管理監督者(労基 41 条 2 号前段)にも深夜業規制(労基 37 条 4 項)が適用されるか。 深夜業規制(労基 37 条 4 項)は労働の時間帯に着目したものであり、労働時間の長さに着目した他の労働基準法上の規制と趣旨目的を異にする。 そこで、41 条の「労働時間、休憩及び休日に関する規定」には、深夜業規制は含まれず、同条 2 号前段の管理監督者についても、深夜業規制が適用される と解する。 | A 速修 203~206 頁 A 司 H20 日本マクドナルド事件・東京地判 H20.1.28 B ことぶき事件・最判 H21.12.18 |
厳密には、②において、労基法 13 条を適用する際に労基法 37 条を用いることになるため、上記[論点 2]における肯定説が前提になっていると思われる。
第4章 団体交渉 [論点 1]団体交渉の労働者側の当事者 団体交渉の労働者側の当事者である「雇用する労働者の代表者」(労組 7 条 2 号)は、労組法 2 条の要件を満たす「労働組合」を意味する。 (論証 1)上部団体 上部団体とは、単位組合が企業別組合である場合の産業別組合その他の連合体などを意味する。 ①上部団体自体が「労働組合」の要件を満たすのであれば、㋐当該上部団体に固有な事項について交渉当事者となることができるのは当然である。 ②上部団体が所属組合に統制力を及ぼしうるのであれば、㋑傘下の各組合に共通な事項、㋒単位組合に固有の事項のうち各組合の規約や慣行により上部団体に交渉権が与えられたものについても、交渉当事者となりうる。 ㋒の場合は、上部団体と単位組合が連名で共同交渉を申し入れることがあるが、同一の交渉担当者が選任されるなど交渉を遂行する権限が統一されている限り、使用者は交渉を拒むことができない。 他方、㋒の場合において、上部団体と単位組合が別々に、あるいは上部団体のみ交渉を申し入れてきたときには、二重交渉による弊害が懸念されるため、使用者は、交渉権限の調整・統一を求めることができ、それが可能となるまでは団交を拒否できる。 (論証 2)企業内における複数の労働組合(企業内の併存組合など)からの共同交渉の申入れ 企業内における複数の労働組合から共同交渉の申入れがあった場合、両組合間で交渉を統一的に遂行しかつ妥結できるために、統一的な団体意思が形成されていることが必要であり、これを欠く場合には、使用者が共同交渉の申入れを拒むことができると解される。 上記のうち、交渉の統一的遂行のためには、要求内容の統一と統一代表(交渉担当者)の選定(交渉権限の一統一)が必要とされ、統一的妥結のためには、妥結権限と協約締結権限の統一が必要とされる。1) (論証 3)唯一交渉団体条項(一定の組合とのみ交渉に応じる旨の条項) 憲法 28 条は複数組合主義を採用し、複数の企業別組合にはそれぞれ別個の団体交渉権が保障されている。 そこで、使用者と多数組合の間で唯一交渉団体条項を合意したとしても、この合意は少数組合の団体交渉権を侵害するものとして無効であると解する。2) | A 速修 366~377 頁 司 H18 司 H22 司 H24 司 H28 司 H29 司 R2 司 R5 B 司 R2 B B 司 H29 |
1) これらを簡潔にまとめて、「交渉事項と交渉権限の統一」と表現することもある。
2) この論点は、団体交渉拒否の「正当な理由」の有無として、要件検討の一番最後に論じるものである(平成 29 年司法試験の出題趣旨・採点実感)。
[論点 2]義務的団交事項 使用者が団体交渉に応じることを法律上義務づけられる事項をいう。 義務的団交事項は、①団体交渉を申し入れた労働組合の組合員の労働条件その他の待遇及び集団的労使関係の運営に関する事項であって、②使用者が解決可能な事項に限られる。 (論証 1)非組合員の労働条件 労働条件その他の待遇のうち、義務的団交事項に該当するのは団体交渉を申し入れた労働組合の所属組合員のものに限られる。 なぜならば、労働組合は所属組合員の利益を代表する組織であり、非組合員の利益のために交渉する権限を有しないからである。 もっとも、非組合員の労働条件であっても、組合員の労働条件との関連性などに照らし、その帰趨が将来において組合員の労働条件に影響を及ぼす可能性が高い場合には、組合員の労働条件に関する事項として、義務的団交事項に当たると解すべきである。3) (論証 2)経営・生産事項 会社の経営や生産に関わる事項をいい、新機械の導入、設備の更新、生産の方法、工場事務所の移転、経営者・上級管理者の人事(役員人事など)、事業譲渡、会社組織の再編、業務の下請化などがその例である。 確かに、経営・生産事項は、それ自体としては、使用者の経営者としての専権に属する事項であるといい得る。 しかし、経営・生産事項であっても、その決定が組合員の労働条件その他の待遇に影響を及ぼす場合には、その限りで義務的団交事項に当たる。 [論点 3]使用者の交渉義務 (論証 1)誠実交渉義務 使用者が誠実に団体交渉に応じることは、団体交渉による合意達成を促進することに繋がり、労組法の基本的目的(1 条 1 項)に資する。 そこで、「団体交渉を…拒む」には、団体交渉に応じないことだけでなく、合意達成の可能性を模索して誠実に交渉する義務に違反することも含まれると解 | 司 H18 司 H24 司 H28 司 R5 A 司 H28 司 R3(争議行為) 根岸病院事件・東京高判 H19.7.31 B 司 H24 A 司 H24 山形大学事件・最判 R4.3.18(R4 重判 10) |
3) 根岸病院事件は、労働組合が新規採用者の初任給引下げの白紙撤回を要求したという事案において、新規採用者の初任給引下げにより労働者の間で入職の時期の先後によって賃金ベースが異なり、大幅な賃金格差があることは、格差是正のために既存組合員の賃金が抑制される可能性が高いから、その帰趨が将来において組合員の労働条件に影響を及ぼす可能性が高いといえ、組合員の労働条件に関する事項として、義務的団交事項に当たると判断している(東京高判 H19.7.31)。
4) 山形大学事件判決は、「使用者は、必要に応じてその主張の論拠を説明し、その裏付けとなる資料を提示するなどして、誠実に団体交渉に応ずべき義務(以下「誠実交渉義務」という。)を負い、この義務に違反することは、同号の不当労働行為に該当するものと解される。」と述べ、誠実交渉義務の存在を認めるとともに、「使用者は、必要に応じてその主張の論拠を説明し、その裏付けとなる資料を提示するなどして」という誠実交渉義務の内容の一例を示した。
なお、誠実交渉義務の中核は合意達成の可能性を模索することであり、「必要に応じてその主張の論拠を説明し、その裏付けとなる資料を提示するなど…」はそのための手段にすぎないから、誠実交渉義務の内容はこれに限られない。
高 判
(論証 2)併存組合に対する誠実交渉義務 使用者が多数派組合との間で設置した経営協議会において多数派組合に対して行った資料提示・説明(あるいは協議)を経営協議会を設置していない少数派組合に対して行わないことは、誠実交渉義務違反に当たらないか。 使用者は団体交渉においても各併存組合に対して中立保持義務を負うが、各組合の組織力・交渉力に応じた合理的・合目的的な対応は許容される。 そして、使用者が多数派組合との間で設置した経営協議会において行った資料提示・説明は両者間の取り決めに基づくものであるから、直ちに少数派組合に対して同様の資料提示・説明をする義務があるとはいえない。 しかし、団体交渉における使用者の実質的な平等取扱いを確保する観点から、少数派組合に対しても同様の資料提示・説明をする義務を誠実交渉義務として負うことがあると解する。 具体的には、当該資料・説明の内容がその後の団体交渉における使用者の説明・協議の基礎となるものである場合において、少数派組合から同一交渉事項に関する団体交渉において交渉のために必要なものとしてこれと同一内容の資料提示・説明を求められたときには、使用者としては、少数派組合に対しても同様の資料提示・説明をする義務を負うことになる。 (論証 3)団体交渉の日時・場所・出席者等の開催条件 使用者が団体交渉の開催条件を指定し、これに固執して団体交渉を拒否することが許されるか。 団体交渉の開催条件は合理的な範囲内で労使自治に委ねられている。 そこで、開催条件について労使間で合意が成立していない場合において、使用者が開催条件を指定し、これに固執して団体交渉を拒否したとしても、①そのことに合理的な理由があり、かつ、②当該開催条件に従って団体交渉することが労働者に格別の不利益をもたらさないときは、団交拒否につき「正当な理由」(7 条 2 号)があるといえると解する。 (論証 4)団体交渉の打切り 使用者が団体交渉が進展する見込みがなくなったとして団体交渉を打ち切った場合、団体交渉の打切りにより「団体交渉を…拒む」ことについて「正当な理由」があるのかが問題となる。 ①労使双方の主張が対立し、いずれかの譲歩により交渉が進展する見込みがなく、団体交渉を継続する余地がなくなった場合には、②その後の事情の変更が生じない限り、団体交渉の打切りについて「正当な理由」(7 条 2 号)があると解する。 [論点 4]団交義務違反の救済方法 1.労働委員会による救済命令 法適合組合は、労働委員会に対して救済命令の申し立て(27 条以下)を行 | B NTT 西 日 本 事 件 ・ 東 京 H22.9.28 B B 池田電器事件・最判 H4.2.14 A 司 H18 司 H22 司 H24 司 H28 司 H29 司 R2 |
う。
団体交渉自体を拒否された場合には、①特定の理由による団体交渉拒否をしてはならない旨の命令、②当該事項に関する団体交渉に応ぜよとの団交応諾命令を申し立てるべきであり、誠実交渉義務違反の場合には、③誠実に団体交渉に応ずべき旨の誠実交渉命令を申し立てるべきである。5)
労働組合が救済命令を申し立てた後に、使用者が誠実に団体交渉に応じるようになった場合には、①~③を命じる救済利益が消滅するが、正常な労使関係の回復・確保という観点からは、④過去に団体交渉拒否等の不当労働行為があった事実を確認し、今後同様の行為を行わないようにする旨の文書の交付や掲示等を命ずる救済命令が出されることはある。
特定の理由による団体交渉拒否をしてはならない旨の命令、団体交渉を誠実に行わなければならない旨の命令(団交応諾命令)、さらにはポスト・ノーティスを求めることができる。
ポスト・ノーティスとは、将来同種の行為を繰り返させないことを目的として、不当労働行為を行わない旨の文書を会社内に掲示することを命ずるものである。
2.裁判所による司法救済
裁判所に対しては、団体交渉を求めうる地位にあることの確認や不法行為に基づく損害賠償(民 709 条)を求めるのが通常であり、具体的団体交渉請求権については、特に問われていない限り、言及する実益は乏しい。
(1)団体交渉を求めうる地位にあることの確認請求
憲法 28 条に由来する労組法 7 条には労使間における私法上の効力が認
められるから、労働組合には労組法 7 条 2 号を根拠として使用者に対して団体交渉を求めうる法律上の地位が認められると解する。
したがって、「労働組合」(労組 7 条)は、団体交渉を求めうる地位(団交当事者適格)そのものを否定されている場合には、使用者に対して団体交渉を求めうる地位の確認を請求することができ、さらに、その地位を仮に定める仮処分の申請をすることもできる。
また、特定の団交事項について団体交渉を求めうる地位を否定された場合には、当該団交事項に関する団体交渉を求めうる地位の確認を請求する
5) 山形大学事件・最判 R4.3.18(R4 重判 10)は、誠実交渉義務違反の場合において、労働委員会は救済命令として誠実交渉命令を発することができると述べている。
また、「団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないと認められる場合」にも誠実交渉命令
を発することができるかについては、㋐「このような場合であっても、使用者が労働組合に対する誠実交渉義務を尽くしていないときは、その後誠実に団体交渉に応ずるに至れば、労働組合は当該団体交渉に関して使用者から十分な説明や資料の提示を受けることができるようになるとともに、組合活動一般についても労働組合の交渉力の回復や労使間のコミュニケーションの正常化が図られるから、誠実交渉命令を発することは、不当労働行為によって発生した侵害状態を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図ることに資するものというべきである。そうすると、合意の成立する見込みがないことをもって、誠実交渉命令を発することが直ちに救済命令制度の本来の趣旨、目的に由来する限界を逸脱するということはできない。」、㋑「上記のような場合であっても、使用者が誠実に団体交渉に応ずること自体は可能であることが明らかであるから、誠実交渉命令が事実上又は法律上実現可能性のない事項を命ずるものであるとはいえないし、上記のような侵害状態がある以上、救済の必要性がないということもできない。」との理由から、積極に解している。
ことができるとともに、その地位を仮に定める仮処分の申請をすることもできる。
(2)具体的団体交渉請求権
使用者に対し誠実交渉という具体的行為を請求する私法上の団体交渉請求権を意味する。
確かに、憲法 28 条・労組法 7 条の規定は抽象的であるし、団交紛争の相対的流動性により債務内容が不特定であるから、原則として具体的団体交渉請求権は認められない。
しかし、労働協約の定め、予備交渉、あるいは団体交渉についての従来の経過からして団体交渉の方法等がある程度具体的に特定されている場合には、債務内容や私法上の義務の形成が認められるから、具体的団体交渉請求権が認められると解する(強制執行の方法としては間接強制が用いられる)。
(3)不法行為責任
まず、憲法 28 条に由来する労組法 7 条には労使間における私法上の効
力が認められるから、労組法 7 条 2 号違反の団体交渉拒否には、労働組合の団体交渉権という「権利…を侵害」したとして不法行為上の違法性が認められる。
次に、使用者の「故意又は過失」による上記権利侵害「によって」、労働組合には無形的「損害」が生じるといえる。
そして、労組法 7 条 2 号が保障する団体交渉権は同法 2 条の要件に適合
する労働組合を権利主体とするものであるから、同法 7 条 2 号違反を理由
とする不法行為に基づく損害賠償請求権の帰属主体は、同法 2 条の要件に適合する労働組合に限られる。
第8章 不当労働行為制度 第1節.総論 労働組合法は、使用者による労働基本権侵害行為が行われた場合に、これを除去・是正するとともに、そうした侵害行為のない対等・公正な集団的労使関係を将来に向けて形成することを目的として、不当労働行為制度を設け、使用者による一定の労働基本権侵害行為を禁止する(7 条)とともに、労働委員会(行政機関)による特別の救済制度(27 条以下)を定めている。 第2節.不利益取扱い(労組 7 条 1 号本文前段) 不利益取扱いの不当労働行為の成立要件は、①不利益取扱いの禁止事由の存在、 ②「不利益な取扱い」の存在、及び③「故をもって」に対応する不当労働行為意思の存在(①の「故をもって」②が行われたこと)の 3 つである。 不利益取扱い禁止の趣旨は、組合員個人に対する不利益取扱いがこれを通じて組合活動一般を制圧ないし制約するという効果を伴うことにある。 [論点 1]採用拒否による「不利益な取扱い」 使用者は採用の自由を有する(憲 22 条 1 項)し、労組法 7 条 1 号本文前段は採用段階と採用後の段階とに区別を設けたものであると解される。 そこで、採用拒否は、それが従前の雇用契約関係における不利益な取扱いにほかならないといえる特段の事情がない限り、同号の「不利益な取扱い」にあたらないと解する。1)2) (補足) 上記①~③のうち②「不利益な取扱い」では、上記基準でいう「それが従前の雇用契約関係における不利益な取扱いにほかならないといえる特段の事情」の存否を問題とし、③不当労働行為意思では、①禁止事由の存在を認定した上で、採用拒否が禁止事由の存在を認識し、そのことを動機として行われたもの | 司 H22 司 H24 司 H27 司 H29 司 H30 司 R3 B 速修 432 頁 A 速修 433~438 頁 A 司 H22 JR 北海道・日本貨物鉄道事件・判 H15.12.22(百 103) |
最
1) 不当労働行為禁止規定には、これに反する法律行為を当然に無効にするという私法上の効力が認められる(医療法人新光会事件・最判 S43.4.9)ものの、法律関係を創出するという積極的な効力までは認められないから、採用拒否について不当労働行為が成立したとしても、不当労働行為禁止規定の私法上の効力として使用者・労働者間の労働契約関係が創出されることはない。また、労働委員会の救済命令には私法上の効力がないから、労働委員会が使用者に対して採用命令を発したところ、使用者がこれに応じないという場合であっても、使用者・労働者間の労働契約関係が創出されることはない。
2) 青山会事件判決(東京高判H14.2.27)は、医療法人間で事業譲渡がなされ、譲受法人X が譲渡法人 Y の職員のうち B1・B2(いずれも A 労組の組合員である)の採用を拒否したという事案において、「X による Y の職員…採用の実態は、新規採用というよりも、雇用関係の承継に等しいものであり、労働組合法 7 条 1号本文前段が雇入れについて適用があるか否かについて論ずるまでもなく、本件不採用については同規定の適用があるものと解すべきである。…X…が B1 及び B2 に対して本件不採用に及んだのは、前記認定のような…採用の実態に照らすと、同人らをその従来からの組合活動を嫌悪して解雇したに等しいものというべきであり、本件不採用は、労働組合法 7 条 1 号本文前段の不利益取扱いに該当するものといわざるを得ない。」
と述べ、①「労働組合法 7 条 1 号本文前段が雇入れについて適用があるか否か」について論じることなく、かつ、②Y の使用者性について明示的に言及することもなく、Y を「使用者」とする不利益取扱いの不当労働行為の成立を認めている。
であるのかを問題にする。 ②では、例えば、事業の譲受会社が譲渡会社の元従業員を採用拒否した事案では、事業譲渡による権利義務の承継は特定承継であり、譲受会社が譲渡会社の雇用契約関係を承継するかは事業譲渡契約の内容によるから、譲渡会社間で雇用契約関係の承継を譲受会社の専権事項とする旨の合意があるときは、譲受会社による採用拒否が従前の雇用契約関係における取扱いであるといえるためには、譲受会社が実質的に譲渡会社の雇用関係も承継したに等しいといえることが必要である。 [論点 2]配転による「不利益な取扱い」 特に、労働者が労働条件その他の待遇の面では有利な取扱いを受けることになる栄転が「不利益な取扱い」に当たるのかが問題となる。 不利益取扱い禁止の趣旨は、組合員個人に対する不利益取扱いがこれを通じて組合活動一般を制圧ないし制約するという効果を伴うことにある。 そこで、同前段の「不利益」性は、当該取扱いにより組合活動に支障が生じるかどうかという観点から判断されるべきである。 [論点 3]不当労働行為の意思 (論証 1)不当労働行為の意思の要否及び内容 不利益取扱いの不当労働行為の成立には、「故をもって」に対応する要件として不当労働行為意思が必要である。 ここでいう不当労働行為意思は、使用者が禁止事由を認識し、認識した禁止事由を不利益取扱いの動機としたことを意味する。 (論証 2)動機の競合 不利益取扱いをする動機として、組合活動等のほかに、業務上の必要性など不利益取扱いを正当化する理由が併存している場合、どのようにして不利益取扱い意思を判断するべきか。 組合活動等が決定的動機である必要まではなく、組合活動等がなければ不利益取扱いがなされなかったといえれば、不利益取扱いの意思が認められると解する。 (論証 3)第三者の強要による不利益取扱い 使用者による不利益取扱いが第三者の強要によるものである場合、使用者に不当労働行為の意思は認められるか。 ①第三者に正当な組合活動等を理由として不利益な取扱いを求める意図があり、②使用者がこのような第三者の意図を認識しつつその求めに応じた場合には、第三者のそのような意図は使用者の意思に直結し、使用者の意思内容を形成するから、使用者に不当労働行為意思が認められる。 | 青山会事件・東京高判 H14.2.27 B 西神テトラパック事件・東京高判 H11.12.22 A 積極的な反組合的意図ないし動機に限定されない。 B 当該不利益取扱いに欠くことのできない原因の 1 つであれば足りるとする見解である。 B 山恵木材事件・最判 S46.6.15 |
[論点 4]不利益取扱いの不当労働行為に該当する法律行為の有効性 労組法 7 条は、憲法 28 条に由来し、労働者の団結権・団体行動権を保障するための規定である。 そこで、労組法 7 条違反の法律行為は同条を通じて当然に無効になると解する。 第3節.支配介入 支配介入禁止の趣旨は、労働組合の自主性・独立性を確保しその団結力を維持・確保することにある。 1.成立要件 支配介入の成立には、①使用者の「支配」「介入」行為と②使用者の支配介入の意思が必要である。 ①は、労働組合の組織を弱体化する行為全般を意味する広い概念である。 ②の要否については争いがあるものの、使用者の認識とは全く無関係に行為の結果のみから不当労働行為性を肯定することになると使用者の行為を過剰に制限することにもなるから、支配介入の成立には、反組合的意図(又は組合弱体化意図)を内容とする支配介入の意思も必要であると解される。 [論点 1]組合活動の正当性と支配介入の成否の関係 組合活動の正当性は、これを対象とした使用者の行為(例えば、組合活動を 理由とする懲戒処分など)についての支配介入の成否といかなる関係にあるか。組合活動の正当性と支配介入の主観的要件である反組合的意図は、両立し得 るものである。 もっとも、組合活動の正当性は、組合活動を理由とする使用者の行為についての反組合的意図の有無を推認する要素とはなる。 (補足) 例えば、組合活動を理由とする懲戒処分では、組合活動が正当性を欠くのであれば、特に疑わしい事情のない限り、正当性を欠く組合活動による企業秩序侵害の是正(予防)を目的としているといえ、反組合的意図が認められない。反対に、正当な組合活動を理由とする懲戒処分であれば、原則として、組合 活動を抑圧するという反組合的意図に基づくものであるといいやすい。 [論点 2]支配介入行為の使用者への帰責 責任主体としての使用者と現実の行為者とが一致しない場合に、支配介入行為を使用者に帰責できるかが問題となる。 (論証 1)代表取締役等の代表者・2 条但書 1 号の利益代表者 これらの者は使用者の利益を代表する立場にあり、その行為は使用者のため | A 司 H21 司 R3 医療法人新光会事件・最判 S43.4.9 A 司 H18 司 H20 司 H22 司 H24 司 H28 司 H30 司 R1 司 R2 A 速修 440~443 頁 反組合的意図の有無は、間接事実を総合して判断される。 A 司 H20 B |
(参考文献)
・「詳解 労働法」第3版(著:水町勇一郎‐東京大学出版会) 元考査委員
・「労働契約法」第2版(著:土田道夫‐有斐閣) 元考査委員
・「基本講義 労働法」初版(著:土田道夫‐新世社) 元考査委員
・「労働法概説」第4版(著:土田道夫‐弘文堂) 元考査委員
・「労働法」第4版(著:西谷敏‐日本評論社) 元考査委員
・「プラクティス労働法」第3版(著:山川隆一‐信山社) 元考査委員
・「労働法」第3版(著:荒木尚志‐有斐閣)
・「労働法」第12版(著:菅野和夫‐法律学講座双書)
→「菅野〇頁」と表記
・「労働協約法」初版(著:野川忍‐弘文堂) 元考査委員
・「労働法」初版(著:野川忍‐日本評論社) 元考査委員
→「野川〇頁」と表記
・「労働法」第3版(著:川口美貴‐信山社)
・「ウォッチング労働法」第4版(著:土田道夫ほか‐有斐閣) 元考査委員
・「条文から学ぶ労働法」(著:土田道夫・山川隆一ほか‐有斐閣) 元考査委員
・「ケースブック労働法」第8版(監修:菅野和夫‐弘文堂)
・「労働判例百選」第10版(編:村中孝史・荒木尚志‐有斐閣)
・「最新重要判例200労働法」第8版(著:大内伸哉‐弘文堂)
・「重要判例解説」平成18年~令和4年(有斐閣)
・「Before/After 民法改正」第2版(著:潮見佳男ほか‐弘文堂)
・「法学セミナー増刊 新司法試験の問題と解説」2006~2011(日本評論社)
・「法学セミナー増刊 司法試験の問題と解説」2012~2023(日本評論社