Contract
労務提供契約(その1)
明治学院大学法学部教授xxx x
目次(下枠の をクリックすると,この目次に戻る)
◼ 第1節 雇用契約の意義と性質
◼ 第2節 雇用契約の効力
◼ 第3節 雇用契約の終了
◼ 第4節 労働契約法
◼ 参考文献
1.贈与
財産権移転
無償
2.売買
返還不要
3.交換
有償
返還必要
契
約
各 物の利用
論
財産権非移転
典型契約
役務の提供
4.消費貸借
7.雇用
6.賃貸借
5.使用貸借
8.請負
無償有償一般
9.委任
特別
(専門家)
10.寄託
11.組合 | |
12.終身定期金 | |
13.和解 | |
事業
紛争の解決
典型契約の当事者の呼び方
贈与
売買
交換
消費貸借,使用貸借
賃貸借
労働者(被用者)
使用者(雇主)
雇用
賃貸人 賃借人
貸主 借主
交換当事者 交換当事者
売主 買主
贈与者 受贈者
請負
委任
寄託
組合
終身定期金
和解当事者
和解当事者
和解
終身定期金債権者 終身定期金債務者
組合員 組合員
寄託者 受寄者
委任者 受任者
注文者 請負人
種類
雇用
請負
委任寄託
内容
使用者の支配の下で,時間決めで労務を提供する。
独立して,仕事を完成
する。
独立して,事務を処理する。
物を一定期間預かり,その後返還する。
債務
手段債務
結果債務
手段債務
手段債務
xx雇用
雇用形態
非xx雇用
期間の定めのない労働契約
(無期労働契約)
期間の定めのある労働契約
(有期労働契約)
期間の定めのない労働契約
(無期労働契約)
フルタイム労働
パートタイマーアルバイト
期間工 契約社員 派遣労働者
◼ 第623条(雇用)
◼ 雇用は,当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し,
◼ 相手方がこれに対してその報酬 を与えることを約することによって,
◼ その効力を生ずる。
◼ 労働契約法
◼ 第6条(労働契約の成立)
◼ 労働契約は,労働者が使用者に使用されて労働し,使用者がこれに対して賃金を支払うことについて,労働者及び使用者が合意することによって成立する。
◼ 第22条(適用除外)〔旧20条〕
◼ ①この法律は,国家公務員及び地方公務員については,適用しない。→労働基準法112条(適用)
◼ ②この法律は,使用者が同居の親族のみを使用する場合の労働契約については,適用しない。
◼ 労働基準法
◼ 第106条(適用除外)
◼ この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。
◼ 第623条(雇用)
◼ 雇用は,当事者の一方〔労働者〕が相手方〔使用者〕に対して労働に従事することを約し,
◼ 相手方がこれに対してその報酬
〔賃金〕を与えることを約することによって,
◼ その効力を生ずる。
◼ 諾成契約 →第6条(労働契約の成立)
◼ 労働契約法 第4条
◼ ②〔書面確認〕労働者及び使用者は,労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)に ついて,できる限り書面により確認するものとする。
◼ 有償契約,双務契約
◼ 労働基準法 第11条
◼ この法律で賃金とは,賃金,給料,手当,賞与その他名称の如何を問わず,労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
◼ 役務提供型契約の典型
◼ 報酬の後払い(民法624条が他の役務提供契約で準用されている)
◼ 第633条(請負の報酬の支払時期)
◆報酬は,仕事の目的物の引渡しと同時に,支払わなければならない。ただし,物の引渡しを要しないときは,第624条第1項〔報酬の支払時期・労務の提供の後〕の規定を準用する。
◼ 第648条(受任者の報酬)
◆②受任者は,報酬を受けるべき場合には,委任事務を履行した後でなければ,これを請求すること ができない。ただし,期間によって報酬を定めたときは,第624条第2項〔報酬の支払時期・期間経過後〕の規定を準用する。
◼ 第665条(寄託における委任の規定の準用)
◆第646条から第650条まで(同条第3項を除く。)の規定は,寄託について準用する。
◼ 継続的契約(賃貸借に類似し,一部は賃貸借の規定が準用されている)
◼ 期間の定めのある契約の解除(民法626条, 628条)
◼ 期間の定めのない契約の解約の申し入れ(民法627条)
◼ 解除の将来効(民法 630条による民法620条の準用)
◼ 役務提供契約は,「人手を借りる」というように,役務の「賃貸借」と考えられてきた。
第2節 雇用契約の効力
1. 労働者の義務は何か?
2. 使用者の義務は何か?
3. 報酬が後払いとされている理由は何か?
4. 使用者の権利の譲渡や労働者の地位を第三者に
移転することが制限されているのはなぜか?
労働者の義務
◼ 労務提供義務
◼ 労働者は,給付義務として,労務提供義務
を負う。
◼ 付随義務
◼ 解釈上,就業規則を遵守する義務,職務上知り得た事項の守秘義務,退職後の競業避止義務の存在が認められている。
◼ 違反の効果と制限
◼ 労働者が上記の義務に違反する場合,使用者は,就業規則に従い,解雇を含む各種の懲戒権を行使することができる。
◼ ただし,労働契約法3条5項の原則に基づく,同法15条,16条によって,それぞれ,懲戒・解雇は,厳格に制限されている。
使用者の義務
◼ 報酬支払義務
◼ 民法624条で後払いの原
則が規定されている。
◼ 最高裁の判決(最三判昭 50・2・25(陸上自衛隊事件)等)を通じて確立した法理であり,労働契約法5条で明文化されている。
◼ 労働災害に関する無過失責任
◼ 労働基準法75条~労働基準法88条で規定されている。
◼ 第624条(報酬の支払時期)
◼ ①労働者は,その約した労働を終わった後でなければ,報酬を請求することができない。
◼ ②期間によって定めた報酬は,その期間を経過した後に,請求することができる。
◼ 第633条(請負の報酬の支払時期)
◼ 報酬は,仕事の目的物の引渡しと同時に,支払わなければならない。
◼ ただし,物の引渡しを要しないときは,第 624条第1項〔報酬の支払時期・労務の提供の後〕の規定を準用する。
◼ 第648条(受任者の報酬)
◼ ②受任者は,報酬を受けるべき場合には,委任事務を履行した後でなければ,これを請求することができない。
◼ ただし,期間によって報酬を定めたときは,第624条第2項〔報酬の支払時期・期間経過後〕の規定を準用する。
◼ 第665条(寄託での委任の規定の準用)
◼ 第646条から第650条まで(同条第3項を除く。)の規定は,寄託について準用する。
◼ 第625条(使用者の権利の譲渡の制限等)
◼ ①使用者は,労働者の承諾を得なければ,その権利を第三者に譲り渡すことができない。
◼ ②労働者は,使用者の承諾を得なければ,自己に代わって第三者を労働に従事させることができない。
◼ ③労働者が前項の規定に違反して第三者を労働に従事させたときは,使用者は,契約の解除をすることができる。
◼ 債権の譲渡制限
◼ 民法466条1項の例外
◼ 労務提供義務の一身専属性
◼ 役務提供契約を労務の賃貸借
とする考え方
◼ 「人手を借りている」,「大切な人をお預かりしている」などの表現がある。
◼ 無断譲渡は,賃貸借の無断譲渡となり,解除ができることになる(民法612条)。
第3節 雇用契約の終了
1. 労働契約の期間についてはどのような制限があるか?
2. 雇用契約はどのような場合に更新されるか?
3. 労働契約はどのような場合に解除できるか?
4. 解除にはどのような効力があるか?
5. 使用者が破産した場合には,労働契約はどうなるか?
◼ 第626条(期間の定めのある雇用の解除)→特別法による 制限
◼ ①雇用の期間が5年を超え,又は雇用が当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続すべきときは,当事者の一方は,5年を経過した後,いつでも契約の解除をすることができる。
◼ ただし,この期間は,商工業の見習を目的とする雇用については,10年とする。
◼ ②前項の規定により契約の解除をしようとするときは,3箇月前にその予告をしなければならない。
◼ 労働基準法 第14条(契約期間等)
◼ ①労働契約は,期間の定めのないものを除き,一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは,3年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあっては,5年)を超える期間について締結してはならない。
◼ 労働契約法 第17条(契約期間中の解雇等)→民法628条の反対解釈の明文化
◼ 使用者は,期間の定めのある労働契約
(以下この章において「有期労働契約」という。)について,やむを得ない事由がある場合でなければ,その契約期間が満了するまでの間において,労働者を解雇することができない。〔解雇する場合の根拠規定は民法628条〕
◼ 第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
◼ ①当事者が雇用の期間を定めな
かったときは,各当事者は,いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において,雇用は,解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
◼ ②期間によって報酬を定めた場合には,解約の申入れは,次期以後についてすることができる。ただし,その解約の申入れは,当期の前半にしなければならない。
◼ ③6箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には,前項の解約の申入れは,3箇月前にしなければならない。
◼ 労働基準法 第20条(解雇
の予告)
◼ ①使用者は,労働者を解雇 しようとする場合においては,少くとも30日前にその予告をしなければならない。
◼ 30日前に予告をしない使用者は,30日分以上の平均賃
金を支払わなければならない。
◼ 但し,天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては,この限りでない。
◼ 第628条(やむを得ない事由による雇用の解除)
◼ 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても,やむを得ない事由があるときは,各当事者は,直ちに契約の解除をすることができる。
◼ この場合において,その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは,相手方に対して損害賠償の責任を負う。
◼ 民法628条の反対解釈の明文
◼ 解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。
◼ 最二判昭50・4・25(日本食塩製造事件)
◼ 使用者の解雇権の行使も,それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には,権利の濫用として無効になると解するのが相当である。
◼ 第629条(雇用の更新の推定等)
◼ ①雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において,使用者がこれを知りながら異議を述べないときは,従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。
◼ この場合において,各当事者は,第 627条〔期間の定めのない雇用 の解約の申入れ〕の規定により解約の申入れをすることができる。
◼ ②従前の雇用について当事者が担保を供していたときは,その担保は,期間の満了によって消滅する。ただし,身元保証金については,この限りでない。
◼ 第619条(賃貸借の更新の推定等)
◼ ①賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において,賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは,従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。
◼ この場合において,各当事者は,第 617条〔期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ〕の規定により解約の申入れをすることができる。
◼ ②従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは,その担保は,期間の満了によって消滅する。ただし,敷金については,この限りでない。
雇用の解除の効力(将来効)
◼ 第630条(雇用の解除の効力)
◼ 第620条〔賃貸借の解除の効力の不遡及〕の規定は,雇用について準用する。
◆賃貸借の規定が準用されているのはなぜか?
◆継続的契約の典型だから。
◆労務提供契約は,労務の賃貸借と考えられていたから(「人手を借りる」)。
◼ 第620条(賃貸借の解除の効力)
◼ 賃貸借の解除をした場合には,その解除は,将来に向かってのみその効力を生ずる。
◼ この場合において,当事者の一方に過失があったときは,その者に対する損害賠償の請求を妨げない。
使用者の破産
◼ 第631条(使用者についての破産手続の開始による解約の申入れ)
◼ 使用者が破産手続開始の決定を受けた場合には,雇用に期間の定め があるときであっても,労働者又は破産管財人は,第627条〔期間の定めのない雇用の解約の申入れ〕の規定により解約の申入れをすることができる。
◼ この場 合において,各当事者は,相手方に対し,解約によって生じた損害の賠償を請求することができない。
◼ 破産法 第55条(継続的給付を目的
とする双務契約)
◼ ①破産者に対して継続的給付の義務を負う双務契約の相手方は,破産手続開始の申立て前の給付に係る破産債権について弁済がないことを理由としては,破産手続開始後は,その義務の履行を拒むことができない。
◼ ②前項の双務契約の相手方が破産手続開始の申立て後破産手続開始前にした給付に係る請求権(一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付については,申立ての日の属する期間内の給付に係る請求権を含 む。)は,財団債権とする。
◼ ③前二項の規定は,労働契約には,適用しない。
Coffee Break
第4節 労働契約法
(2008(平成20)年施行,2012(平成24)年改正)
1. 第1款 総則
2. 第2款 労働契約の成立及び変更
3. 第3款 労働契約の継続及び終了
4. 第4款 期間の定めのある労働契約〔2012年新設〕
5. 第5款 適用除外
第4節 労働契約法
第1款 労働契約法総論
1. 労働契約法の目的は何か?
2. 労働契約法の原則とは何か?
3. 安全配慮義務はどのように規定されているか?
◼ 第1条(目的)
◼ この法律は,労働者及び使 用者の自主的な交渉の下で,労働契約が合意により成立 し,又は変更されるという合意の原則
◼ その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより,
◼ 合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて,労働者の保護を図りつつ,個別の労働関係の安定に資することを目的とする。
◼ 合意の原則
◼ 法第3条第1項の労使対等の原則,法第6条の労働契約の成立につい ての合意の原則及び法第8条の労働契約の変更についての合意の原則が含まれる。
◼ 労働契約に関する基本的事項
◼ 法第3条第1項以外の法第1章の労働契約の原則等を定める規定,法第6条及び第8条以外の法第2章の就業規則と労働契約との法的関係等を定める規定,法第3章の出向,懲戒及び解雇に関する権利濫用禁 止規定及び法第4章の期間の定めのある労働契約に関する規定が含まれる。→解雇制限(第17条)
労働契約法の定義
◼ 第2条(定義)
◼ ①この法律において「労働者」とは,使用者に使用されて労働し,賃金を支払われる者をいう(労働基準法第9条)。
◼ ②この法律において「使用者」とは,その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう(労働基準法第10条)。
◼ 労働者の範囲の拡張
◼ 民法第632条の「請負」,同法第643条の「委任」 又は非典型契約で労務を提供する者であっても,契約形式にとらわれず,実態として使用従属関
係が認められる場合に
は,法第2条第1項の
「労働者」に該当する。
◼ 第3条(労働契約の原
則)
◼ ①〔労使対等の原則〕
◼ 労働契約は,労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し,又は変更すべきものとする。
◼ ②〔均衡考慮の原則〕
◼ 労働契約は,労働者及び使用者が,就業の実態に応じて,均衡を考慮しつつ締結し,又は変更すべきものとする。
◼ ③〔仕事と生活の調和への配慮の原
則〕
◼ 労働契約は,労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し,又は変更すべきものとする。
◼ ④〔xxxxの原則〕
◼ 労働者及び使用者は,労働契約を遵守するとともに,xxに従い誠実に,権利を行使し,及び義務を履行しなければならない。
◼ ⑤〔権利濫用の禁止の原則〕
◼ 労働者及び使用者は,労働契約に基づく権利の行使に当たっては,それを濫用することがあってはならない。
労働契約の内容の理解の促進
◼ 第4条(労働契約の内容の理解の促進)
◼ ①〔労働者の理解の促進〕使用者は,労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について,労働者の理解を深めるようにするものとする。
◼ ②〔書面確認〕労働者及び使用者は,労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について,できる限り書面により確認するものとする。
◼ 労働基準法 第15条(労働条件の明示)
◼ 使用者は,労働契約の締結に際し,労働者に対して賃金,労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
◼ この場合において,賃金 及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については,厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
◼ 第5条(労働者の安全への配慮)
◼ 使用者は,労働契約に伴い,労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をするものとする。
◼ 最三判昭50・2・25民集29巻2号143頁
◼ 陸上自衛隊員が,自衛隊内の車両整備工場で車両整備中,後退してきたトラックにひかれて死亡した事例で,国の公務員に対する安全配慮義務を認定した。
◼ 最三判昭59・4・10民集38巻6号557頁
◼ 宿直勤務中の従業員が強盗に殺害された事例で,会社に安全配慮義務の違背に基づく損害賠償責任があるとされた。
第4節 労働契約法第2款 労働契約の成立及び変更
1. 雇用契約と労働契約とはどの点が異なるか?
2. 用語法で異なる点はあるか?
3. 適用除外ついてはどうか?
4. 契約を制限する仕組みについてはどうか?
◼ 第6条(労働契約の成立)
◼ 労働契約は,労働者が使用者に使用されて労働し,使用者がこれに対して賃金を支払うことについて,労働者及び使用者が合意することによって成立する。
◼ 民法 第623条(雇用)
◼ 雇用は,当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し,相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって,その効力を生ずる。
◼ 第7条
◼ 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において,使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には,
◼ 労働契約の内容は,その就業規則で定める労働条件によるものとする。
◼ ただし,労働契約において,労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については,第12条に該当する場合を除き,この限りでない。
◼ 最大判昭43・12・25民集22巻13号3459頁(秋北バス事件)
◼ 就業規則の変更により,定年制度を改正してxx以上の職の者の定年を55歳に定めたため,新たに定年制度の対象となった労働者が解雇された事例
◼ 新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないが,
◼ 当該規則条項が合理的なものである限り、 個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきとし,
◼ 不利益を受ける労働者に対しても変更後の就業規則の適用を認めた。
労使合意 (§3) |
労使合意と就業規則との関係
就業規則なし(§6) |
就業規則あり(§7)
就業規則法令違反 (§13) |
就業規則合理性なし(§7) |
就業規則周知せず (§7) |
就規と異なる労使合意(§7) |
労使合意就規基準到達(§12) |
労使合意優先 就業規則優先
START
労使合意 (§3) |
就業規則なし(§6) |
労使合意優先
労使合意と就業規則との関係労使合意が優先する場合
就業規則あり(§7)
就業規則法令違反 (§13) |
就業規則合理性なし(§7) |
就業規則周知せず (§7) |
就規と異なる労使合意(§7) |
労使合意就規基準到達(§12) |
START
労使合意 (§3) |
就業規則なし(§6) |
労使合意優先
労使合意と就業規則との関係就業規則が優先する場合
就業規則法令違反 (§13) |
就業規則あり(§7)
就業規則合理性なし(§7) |
就業規則周知せず (§7) |
就規と異なる労使合意(§7) |
労使合意就規基準到達(§12) |
就業規則優先
労使合意
優先
就業規則
無効
就業規則
無効
就業規則
無効
労使合意
優先
労使合意が
就業規則の
基準をクリア
法令又は労働協約に
違反している
労働条件に合理性なし
周知せず
異なる労使合意
あり
労使合意
就業規則
就業規則が優先する場合
就業規則優先
就業規則優先
就業規則と異なる
労使合意なし
労使合意が就業規則の水準に到達せず(§12)
就業規則と異なる
労使合意あり(§7)
就業規則が周知されている(§7)就業規則の労働条件が合理的(§7)
就業規則が法令・労働協約に違反しない(§13)
◼ 第8条(労働契約の内容の変更)
◼ 労働者及び使用者は,その合意により,労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
◼ 第9条(就業規則による労働契約の内容の変更)
◼ 使用者は,労働者と合 意することなく,就業規 則を変更することにより,労働者の不利益に労働契約の内容である労働 条件を変更することはできない。ただし,次条の 場合は,この限りでない。
◼ 第10条
◼ 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において,変更後の就業規則を労働者に周知させ,かつ,就業規則の変更が,労働者の受ける不利益の程度,労働条件の 変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは,
◼ 労働契約の内容である労働条件は,当該変更
後の就業規則に定めるところによるものとする。
◼ ただし,労働契約において,労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については,
第12条に該当する場合を除き,この限りでない。
労働条件を変更する就業規則の合理性の判断基準
◼ 就業規則の合理性について,就業規則の作成又は変更が,その必要性及び内容の両面からみて,それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうとし,新規則の合理性を認めて,不利益を受ける労働者に対しても拘束力を生ずるものした。
◼ 最二判平9・2・28(第四銀行事件)
◼ 就業規則により定年を延長する代わりに給与が減額された事例で,秋北バス事件,大曲市農協事件の最高裁判決の考え方を踏襲し,さらに合理性の有無の判断に当たっての考慮要素を具体的に列 挙し,その考慮要素に照らした上で,就業規則の変更は合理的であるとした。
◼ 労組(従業員の73%が加入)の同意を得て行われた賃金制度が見直され,特定の労働者が管理職の肩書きを失い,賃金を減額された事例で,第四銀行事件までの最高裁判決の考え方を踏襲し,就業規則の変更は合理的なものということはできず,就業規則等変更のうち賃金減額の効果を有する部分は,不利益を受ける労働者らにその効力を及ぼすことができないとした。
就業規則変更の手続き
◼ 第11条(就業規則の変更に係る手続)
◼ 就業規則の変更
の手続に関しては,労働基準法(昭和 22年法律第49号)第89条 及び第90条の定めるところによる。
◼ (1)労働基準法第89条により,常時10人以上の労働者を使用する使用者は,変更後の就業規則を所轄の労働基準監督署長に届け出なければならない。
◼ (2)労働基準法第90条により,就業規則の変更について過半数労働組合等の意見を聴かなければならず,(1)の届出の際に,その意見を記した書面を添付しなければならない。
(就業規則の水準以上であること)
◼ 第12条(就業規則違反の労働契約)
◼ 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は,その部分については,無効とする。
◼ この場合において,無効となった部分は,就業規則で定める基準による。
◼ 消費者契約法 第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
◼ 民法(明治29年法律第89号) ,商法
(明治32年法律第48号)その他の法
律の
◼ 公の秩序に関しない規定〔任意規定〕の適用による場合に比し,消費者の 権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって,
◼ 民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは,無効とする。
労働契約法と消費者契約法
消費者 契約 (消契§10) |
◆消費者契約法は,労働契約には適用されない
(消費者契約法の唯一の除外契約である)。
◆しかし,労働契約法における「労使合意と就業
任意規定なし(§91) |
規則との関係」は,消費者契約法における,
任意規定
あり(§91)
「消費者契約条項と任意規定との関係」(消費者契約法10条)との関係に非常によく似ている。
公序良俗に違反 |
任意規定に合理性なし |
任意規定周知せず (§7) |
任規と異なる条項 (消契§10) |
消費者に有利(消契§10) |
契約優先 任意規定優先
就業規則の効力要件
(法令等の違反がないこと)
◼ 第13条(法令及び労働協約
と就業規則との関係)
◼ 就業規則が法令〔労働基準法等〕又は労働協約〔労働組合法第14条~18条,特に第
16条参照〕に反する場合には,
◼ 当該反する部分については,第7条,第10条及び前条の規定は,
◼ 当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については,適用しない。
◼ 第90条(公序良俗)
◼ 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は,無効とする。
◼ 第91条(任意規定と異なる意思表示)
◼ 法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは,その意思に従う。
START
変更の 労使合意 (§8) |
労使合意を変更する就業規則の効力要件
就規による変更 なし(§6) |
就規による変更あり(§9)
就業規則法令違反 (§13) |
就業規則合理性なし(§10) |
就業規則周知せず (§10) |
就規と異なる合意 (§10) |
労使合意就規基準到達(§12) |
労使合意優先 就業規則優先
START
変更の労 使合意 (§8) |
就規による変更 なし(§9) |
労使合意優先
労使合意を変更する就業規則が効力を有しない場合
就規による変更あり(§9)
就業規則法令違反なし(§13) |
就業規則合理性なし(§10) |
就業規則周知せず (§13) |
就規と異なる合意 (§10) |
労使合意就規基準到達(§12) |
START
変更の労 使合意 (§8) |
労使合意を変更する就業規則が効力を生じる場合
就規による変更 なし(§9) |
就規による変更あり(§7)
就業規則法令違反 (§13) |
就業規則合理性なし(§10) |
就業規則周知せず (§13) |
就規と異なる合意 (§10) |
労使合意就規基準到達(§12) |
労使合意優先 就業規則優先
就業規則が効力を有しない場合
労使合意
優先
就業規則
無効
就業規則
無効
就業規則
無効
労使合意
優先
労使合意が
就業規則の
基準をクリア
法令又は労働協約に
違反している
労働条件に合理性なし
周知せず
異なる労使合意
あり
労使合意
就業規則による変更
労使合意を変更する就業規則が効力を生じる場合
就業規則優先
就業規則優先
就業規則と異なる労使合意なし
労使合意が就業規則の水準に到達せず(§12)
就業規則と異なる 労使合意あり(§10)
就業規則による変更が周知されている(§10)就業規則による労働条件の変更が合理的(§10)
就業規則による変更が法令・労働協約に違反しない(§13)
Coffee Break
第3款 労働契約の継続及び終了
1. 出向については,どのような制限があるか?
2. 懲戒・解雇については,どのような制限があるか?
3. 解雇はどのような場合になしうるか?
◼ 第14条(出向)
◼ 使用者が労働者に出向を命ずることができる 場合において,当該出向の命 令が,その必要性,対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして,そ の権利を濫用したものと認められる場合には,当該命令は,無効とする。
◼ 最二判昭61・7・14(東亜ペイント事件)
◼ 神戸営業所から名古屋営業所への転勤拒否を理
由とする懲戒解雇の効力が争われた事案において,業務上の必要性は優に存し、転勤が労働者に与える家庭生活上の不利益も「転勤に伴い通常甘受す べき程度のもの」であるとの判断から権利濫用の成立を否定し、原審に差し戻した事例
◼ 「当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない 場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限り」 権利濫用は成立せず、また業務上の必要性については、「企業の合理的運営に寄与する点」が認められれば足りる。
◼ 第15条(懲戒)
◼ 使用者が労働者を懲戒することができる場合において,
◼ 当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,
客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,
◼ その権利を濫用したものとして,当該懲戒は,無効とする。
◼ 第3条(労働契約の原則)
◼ ⑤〔権利濫用の禁止の原則〕労働者及び使用者は,労働契約に基づく権利の行使に当たっては,それを濫用することがあってはならない。
◼ 第16条(解雇)
◼ 解雇は,客観的に合理的
な理由を欠き,社会通念上
相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。
解雇
◼ 最二判昭50・4・25(日本食塩製造事件)
◼ ユニオン・ショップ協定に基づき労働者を解雇した事例(解雇無効)。
◼ 使用者の解雇権の行使も,それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には,権利の濫用として無効になると解するのが相当である。
第4款 期間の定めのある労働契約
1. 期間の定めのある契約については,どのような問題があるのか?
2. 契約期間中の解雇,更新拒絶にはどのような制限があるか?
3. どの程度契約が更新されると,期間の定めのない契約へと変更できるのか?
短期雇用の継続的更新の制限
◼ 第17条(契約期間中の解雇等)
◼ ①〔契約期間中の解雇〕使用者は,期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について,やむを得ない事由がある場合でなければ,その契約期間が満了するまでの間において,労働者を解雇することができない。(解雇する場合の根拠規定は民法628条)
◼ ②〔契約期間中の配慮〕使用者は,有期労働契約について,その有期労働契約 により労働者を使用する目的に照らして,必要以上に短い期間を定めることにより,その有期労働契約を反復して更新する
ことのないよう配慮しなければならない。
◼ 第628条(やむを得ない事由による雇用の解 除)→労働契約法第17条(反
対解釈)
◼ 当事者が雇用の期間を定 めた場合であっても,やむ を得ない事由があるときは,各当事者は,直ちに契約
の解除をすることができる。
◼ この場合において,その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは,相手方に対して損害賠償の責任を負う。
→http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/dl/h240829-01.pdf
◼ 第18条(有期労働契約の期間の定めのな
い労働契約への転換)〔新設〕
◼ ①同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が5年を超える労働者が,当該使用者に対し,現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に,当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは,使
用者は当該申込みを承諾したものとみなす。
◼ この場合において,当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は,現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件
(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。
→http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/dl/h240829-01.pdf
1年
1年
5年
1年
1年
1年
1年
無期労働契約
締 更 締 更
結 新 結 新
締 更 締 更 締 更 申 転結 新 結 新 結 新 込 換
1年
1年
無期労働契約
み
5年
締 更
結 新
3年
3年
申 転
込 換み
無期労働契約
締 更 申 転
結 新 込 換み
(アニメーション)→期間の定めのある雇用契約
1年
1年
5年
1年
1年
1年
1年
無期労働契約
締 更 締 更
結 新 結 新
締 更 締 更 締 更 申 転結 新 結 新 結 新 込 換
1年
1年
無期労働契約
み
5年
締 更
結 新
3年
3年
申 転
込 換み
無期労働契約
締 更 申 転
結 新 込 換み
有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換(2/2)
◼ 第18条(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)〔新設〕
◼ ②当該使用者との間で締結された 一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契 約期間の初日との間にこれらの契 約期間のいずれにも含まれない期 間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当 該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」と
いう。)があり,
◼ 当該空白期間が6月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは,当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が1年に満たない場合にあっては,当該一の有期労働契約の契約期間に2分の1を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは,当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は,通算契約期間に算入しない。
カウントせず 5年
1年
締 更結 新
1年
締 更結 新
1年
締 更結 新
1年
締 更結 新
1年
締 更結 新
1年
締 更結 新
1年
締 更結 新
1年
締 更結 新
1年
申 転込 換み
6ヶ月以上の
空白期間
◼ 第19条(有期労働契約の更新等)〔旧18条〕
◼ 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって,使用者が当該申込みを拒絶することが,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないときは,使用者は,従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
◼ 一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるもので あって,その契約期間の満了時に当
該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが,期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
◼ 「有期労働契約が期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していた場合には,解雇に関する法理を類推すべきである」
◼ 第19条(有期労働契約の更新等)〔旧18条〕
◼ 二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
◼ 「有期労働契約の期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には,解雇に関する法理が類推されるものと解せられる。」
期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止
◼ 第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
〔新設〕
◼ 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が,期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては,
◼ 当該労働条件の相違は,労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度
(以下この条において「職務の内容」という。),当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,不合理と認められるものであってはならない。
◼参考判例
◼ 最高裁判例一覧
(年代順)
◼ 安全配慮義務
◼ 就業規則による労働条件の成立
◼ 就業規則による労働条件の変更
◼ 解雇制限
◼ 立法理由
◼ 教科書
◼ コンメンタール
◼ 総合判例研究
◼ 最三判昭50・2・25(陸上自
衛隊事件)
◼ 陸上自衛隊員が,自衛隊内の車両整備工場で車両整備中,後退してきたトラックにひかれて死亡した事例。
◼ 不法行為に基づく請求権については,時効期間(3年)が経過していたが,
◼ 債務不履行の時効期間(10年)が経過していないとして,国の公務員に対する安全配慮義務を認定した。
◼ 最三判昭59・4・10(川義事
件)
◼ 宿直勤務中の従業員が強盗に殺害された事例
◼ 使用者は,労働者が労務提供のため設置する場所,設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において,労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務があるとして,
◼ 会社に安全配慮義務の違背に基づく損害賠償責任があるとされた。
◼ 最大判昭43・12・25民集22巻13号3459頁(秋北バス事件)
◼ 就業規則の変更により,定年制度を改正して主任以上の職の者の定年を55歳に定めたため, 新たに定年制度の対象となった労働者が解雇された事例。
◼ 新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないが,
◼ 当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきとし,
◼ 不利益を受ける労働者に対しても変更後の就業規則の適用を認めた。
就業規則による労働条件の成立
◼ 最一判昭61・3・13(電電公社帯広局事件)
◼ 健康診断受診の業務命令を拒否した労働者に対して,懲戒処分を行った事例
◼ 秋北バス事件の最高裁判決の
考え方を踏襲し,
◼ 就業規則上の労働者の健康管理上の義務は合理的であり,労働契約の内容となっているとし,
◼ 健康診断の受診拒否は懲戒事由に当たり,懲戒処分が有効とされた。
◼ 最一判平3・11・28(日立製作所武蔵工場事件)
◼ 就業規則に,36協定〔労働基準法第36条(時間外及び休日の労働)に関する協定〕に基づき時間外労働をさせることがある旨の定めがあったが,労働者が残業命令に従わなかったため,懲戒解雇した事例。
考え方を踏襲し,
◼ 就業規則は合理的であり,労働契約の内容となっているとし,懲戒解雇は権利の濫用にも該当せず,有効とされた。
◼ 最二判平15・10・10フジ興産事件
◼ 就業規則に基づき労働者を懲戒解雇したが,懲戒事由に該当するとされた労働者の行為の時点では就業規則は周知されていなかった事例
◼ 就業規則が拘束力を生ずるためには,拘束力を生ずるためには,その 内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られてい ることを要するとし,懲 戒解雇を有効とした原 審を破棄し,差し戻した。
◼ 最三判昭63・2・16
(大曲市農業協同組合事件)
◼ 農協の合併に伴い,新たに作成・適用された就業規則上の退職給与規定が,ある農協の従前の退職給与規定より不利益なものであった事例。
え方を踏襲した上で,
◼ 就業規則の合理性について,就 業規則の作成又は変更が,その必要性及び内容の両面からみて,それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであ
ることをいうとし,
◼ 新規則の合理性を認めて,不利益を受ける労働者に対しても拘束力を生ずるものした。
就業規則による労働条件の変更合理性の判断基準(2/3)→条文
◼ 最二判平9・2・28(第
四銀行事件)
◼ 就業規則により定年を延長する代わりに給与が減額された事例。
◼ 秋北バス事件,大曲市 農協事件の最高裁判決の考え方を踏襲し,
◼ さらに合理性の有無の判断に当たっての考慮要素を具体的に列挙し,
◼ その考慮要素に照らした上で,就業規則の変更は合理的であるとした。
◼ 第四銀行事件で列挙された考慮要素
◼ ① 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
◼ ② 使用者側の変更の必要性の内容・程度
◼ ③ 変更後の就業規則の内容自体の相
当性
◼ ④ 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
◼ ⑤ 労働組合等との交渉の経緯
◼ ⑥ 他の労働組合又は他の従業員の対応
◼ ⑦ 同種事項に関する我が国社会における一般的状況
就業規則による労働条件の変更合理性の判断基準(3/3)→条文
◼ 最一判平12・9・7(みちのく銀行事件)
◼ 労組(従業員の73%が加入)の同意を得て行われた賃金制度が見直され,特定の労働者が管理職の肩書きを失い,賃金を減額された事例。
◼ 就業規則の変更は合理的なものということはできず,
◼ 就業規則等変更のうち賃金減額の効果を有する部分は,不利益を受ける労働者らにその効力を及ぼすことができないとした。
解雇制限
◼ 最二判昭50・4・25(日本食
塩製造事件)
◼ ユニオン・ショップ協定に基づき労働者を解雇した事例
◼ 使用者の解雇権の行使も,それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には,
◼ 権利の濫用として無効になると解するのが相当であるとし,本件解雇を無効とした。
◼ 労働契約法 第16条
(解雇)
◼ 解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。
◼ 有期労働契約が期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していた場合には,
◼ 解雇に関する法理を類推すべきである。
◼ 有期労働契約の期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には,
◼ 解雇に関する法理が類推されるものと解せられる。
◼ 現行民法の立法理由
◼ 広中俊雄『民法修正案(前三編)の理由書』有斐閣(1987)
◼ 法務大臣官房司法法政調査部
『法典調査会民法議事速記録3』
商事法務研究会(1984)
◼ 教科書
◼ 我妻栄『債権各論中巻一 (民法講義Ⅴ2)』岩波書店(1957)
◼ 半田吉信『契約法講義』〔第2版〕
信山社(2005)
◼ 加賀山茂『契約法』日本評論社
(2007)
◼ コンメンタール
◼ 我妻・有泉『コンメンタール民法
-総則・物権・債権-』〔第2版〕
日本評論社(2008)
◼ 松岡久和・中田邦博『新・コンメンタール民法(財産法)』日本評論社(2012)
◼ 債権法改正
◼ 民法(債権法)改正検討委員会『詳解・債権法改正の基本方針Ⅴ-各種の契約(2)』商事法務(2010)
◼ 厚生労働省ホームページ
(http://www.mhlw.go.jp)
契約法1講義
雇用契約
ご清聴ありがとうございました。