Contract
Ⅸ 労働契約の終了
労働契約の終了は、労働者の退職、使用者による労働者の解雇、有期雇用契約の更新拒否など多様です。ここでは、主な終了事由についてみておきましょう。
退職の自由と合意解約
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労働者の方から労働契約を解約することを退職といいます。
退職の意思表示には、労働者による労働契約の一方的解約の意思表示(任意退職または辞職)と、使用者の承諾を待って労働契約を解約する合意解約の申込の2 つの場合があります。
いずれにあたるかは実態によって判断されます。例えば、労働者の「退職願」の提出も、使用者に最終判断が委ねられている場合は、合意解約の申込と考えられます。
辞職は、期間の定めのない労働契約の場合は、理由のいかんを問わず、いつでも解約することができます(民法627条1 項)。
ただし、辞職の意思表示が使用者に到達すれば撤回できません。合意解約の場合は、使用者の承諾があるまでは撤回できます。
いずれもの意思表示も、錯誤による意思表示は無効となり(民法95 条)、詐欺・強迫による場合は、後に労働者は取消すことができます( 民法96 条)。
解雇の種類と制限
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(1)解雇の種類
使用者による労働契約の一方的解約が解雇です。
解雇には、病気等によって労働義務が遂行できないことを理由とする普通解雇、業務命令違反など経営秩序侵害を理由とする懲戒解雇、経営悪化を理由とする整理解雇があります。いずれも退職と違って多くの制限があります。
(2)解雇の制限
【解雇の法律による制限】
まず、法律による制限があります。
労働契約法では、解雇は、「客観的に合理性な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、解雇権の濫用として無効になるとしています(労xx
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16 条)。
また、懲戒解雇についても、「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当と認められない場合」は、懲戒権の濫用として当該懲戒解雇は無効としています(労xx15 条)。これらは、いずれも判例法理を立法化したものです。
労働組合法では、労働者が「組合員であること、組合の加入・結成、正当な組合活動」をしたことを理由とする解雇(労組法7条1 号)、すなわち不当労働行為(労働者の団結を侵害する使用者の行為をいいます)となる解雇は無効です。
労基法関係では、労働者の「国籍・信条・社会的身分」を理由とする解雇(労基法3 条)も無効です。労災で休業中及び産休中とその後の30 日間は解雇が禁止されます(労基法19 条)。
また、解雇理由が妥当である場合でも、使用者は少なくとも30 日以上前に解雇の予告をするか、30 日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。( 労基法20 条)。懲戒解雇の場合でも、労働基準監督署長の認定がなければ解雇の予告もしくは解雇予告手当の支払いが必要です。
さらに、労働者による労基署長への労基法等違反の申告を理由とする解雇(同法 104 条2 項、安衛法97 条2 項)も無効とされます。
均等法関係では、既述のように、性別(女性)を理由とする解雇、及び女性労働者の「婚姻・妊娠・産休取得等」を理由とする解雇は無効です(均等法6条4 号、 9条3 項)。
育児・介護休業法関係では、労働者が育児休業又は介護休業の申出・取得等を理由とする解雇(育介法10 条、同16 条)も無効とされます。
公益通報者保護法は、公益通報者が企業内に(企業内のヘルプラインなどに)、又は対外的に(当該行政機関、マスコミなどに)公益通報をしたことを理由とする使用者による解雇は無効としています(公益通報者保護法3 条)。
【労働協約・就業規則による解雇の制限】
解雇は、法律による制限のほかに労働協約や就業規則による制限もあります。 労働協約との関連では、協約中に「組合員の解雇については組合との協議のうえ
行う」との解雇協議条項がある場合には、組合との協議なしに行った組合員の解雇は無効とされます。
また、多くの企業では、就業規則で懲戒解雇事由及び普通解雇事由を定めています。
このうち、懲戒解雇事由については就業規則に定めがないと、使用者は労働者に経営秩序侵害となる行為があっても、懲戒解雇にすることはできません(懲戒事由の限定列挙)。そのため、就業規則の懲戒解雇事由を定めた規定の末尾に「その他前各号に準ずる程度の不適切な行為があったとき」という包括条項を設けるのが普通です。
就業規則所定の普通解雇事由については、これを例示列挙(それ以外の事由も排除されない)とみて就業規則の事由以外の事由による普通解雇を肯定する考えが強いようです。
【解雇権濫用の法理】
解雇が、法律に違反せず、労働協約、就業規則に反しないとしても、解雇権の濫用にあたる解雇は許されません。解雇権濫用論とは、使用者の解雇権、すなわち使用者による労働契約の解約の自由を基本的に承認しながら(民法627条1 項)、その濫用は許されない(民法1条2 項)との法理をいいます。濫用かどうかの一般的基準は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない」 場合かどうかによっています(高知放送事件最判章52.1.31)。
懲戒解雇についても、「客観的合理性・社会通念上相当性」を懲戒権濫用の判断基準にしています(ダイハツ工業事件最判昭58.9.16)。
これらは、上記のように、現在では、労働契約法の中に取り入れられていますが、具体的基準は判例の基準が参考にされます。
【整理解雇の濫用基準】
解雇の有効・無効は多くの場合、解雇権濫用の成否をめぐって争われます。問題は解雇権濫用の一般的な基準である「客観的にみて合理性の認められる社会通念上相当な理由」の具体的事案へのあてはめです。解雇のうち社会的に最も重要な整理解雇についてみますと、判例は次の四つの基準を掲げています。
①第1 は、その整理解雇をしなければ経営が客観的に重大な危機に陥る程度の
「経営上の必要性」があることです。②第2 は「解雇回避措置」です。すなわち整理解雇を避けるために新規採用の停止、配転・出向、労働時間短縮、希望退職募集などのよりソフトな雇用調整措置をすべてとっていることです。③第3 は被解雇者として指名される労働者の「人選の合理性」です。④第4 は「手続の妥当性」です。整理解雇に至ったやむを得ない事情を労働者に時間をかけて、誠意を持って、十分に説明することです。
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これらを整理解雇の4 要件を呼んでいます。この4 つの基準のすべて満たさない整理解雇は「客観的合理性・社会通念上の相当性」を欠き解雇権の濫用として無効とされます(四要件説)。
【整理解雇の濫用基準の性格】
ところが、他方で、上の4 つの基準は解雇権濫用の判断にあたって考慮される「要素」であって、そのすべてを満たさなければ整理解雇が許されないという意味での
「要件」ではないとする主張(「要素説」)も判例にみられます。
これらによると、整理解雇が権利濫用か否かの判断にあたって、裁判所は4 つの基準に拘束されることはないと主張します。判例による整理解雇の規制緩和といえますが、判例全体としては、なお四要件説が強いようです。
契約期間に定めのある労働契約の更新拒否
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期間の定めのある労働契約は、契約期間の満了によって当然に終了します。雇用の終了に理由はいりません。
ただし、何度も契約更新を繰り返し、突然、契約の更新を拒否(雇止め)するような場合、判例は、契約更新拒否に対して解雇の法理を類推適用して「特段の理由」がなければ更新拒否は許されないとしています。
【解雇の法理の類推適用】
契約更新拒否に対して解雇法理を類推適用する場合、2 つのタイプがあります。 1 つは、期間の定めのある契約が「期間の定めのない契約と実質的に異ならない 状態」になっている場合に、解雇法理を類推適用し、雇止めには特段の理由が必要
とするものです(東芝xx工場事件最判昭49.7.22)。
この場合は、臨時従業員の契約が業務内容、勤務実態等から見て正社員と異ならない状態が成り立っていれば、特段の理由は正社員の解雇を正当とする理由に準じて判断され、更新拒否が無効とされる可能性が高くなります。
もう1 つは、「雇用の継続がある程度期待される状態」にある場合に解雇法理を類推適用しようとするものです(日立メディコ事件最判昭61.12.4)。
この場合は、解雇法理の類推適用は広く認められますが、特段の理由の判断は正社員の解雇の正当理由に比べて緩やかに判断されます。どのタイプで処理するかは臨時従業員の雇用の実態によります。
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65 歳定年制に向けて-高年齢者雇用安定確保措置
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【定年制の意義と一律定年制】
定年制とは、労働者が一定年齢に達したことを理由に、一律に雇用を終了させる制度です。これを一律定年制ともいいます。
定年制をとる場合、60 歳を下回る定年年齢を定めることは原則として許されません(高年齢者雇用安定法8 条)。
【高年齢者雇用安定確保措置】
これまで60 歳定年制のもとで、65 歳までの雇用継続が使用者の努力義務とされていました。
しかし、全労働力人口の減少の中で高齢労働力人口が増加すること、団塊の世代の定年退職に伴う技能継承の必要性が高まること、さらに現在60 歳定年制と公的年金の受給年齢65 歳(平成25年4月1 日以降すべて65 歳になる)とのギャップの解消が求められること等のために、平成16 年に高年齢者雇用安定法が改正され、65 歳までの高齢労働者の雇用の安定確保を図る措置の導入が、事業主に義務づけられました。
これによりますと、事業主は、①定年年齢の引き上げ、②雇用継続制度の導入(定年時にいったん雇用を終了させたうえ改めて雇用契約を締結する「再雇用制度」、又は、定年時の雇用契約を終了させずにそのまま延長する「勤務延長制度」を導入してそのための適用基準を労使協定によって定めること)、③定年制の廃止のいずれかによって65 歳までの雇用確保を実施しなければなりません(同法9 条)。
ただし、上の65 歳までの雇用確保措置には経過措置がとられ、平成18年4月 1 日~平成19年3月31 日までは62 歳、平成19年4月1日~平成22年3月
31 日までは63 歳、平成22年4月1 日~平成25年3月31 日までは64 歳とされ、平成25 年4 月1 日以降はすべて65 歳となります(同法付則4 条)。
なお、実際に企業が採用しているのは、②の「再雇用制度」が大多数ですが、再雇用の基準を労使協定によって設定するにあたっては、制度の趣旨からみて、高齢者の意思と能力が尊重されるものでなければなりません。