Contract
4-1 労働時間は 1 日 8 時間・1 週 40 時間が原則
第4章 労働時間と休日・休暇
4-1
労働時間は1日8時間•1週40時間が原則
労働基準法は、始業・終業時間、休憩時間、休日・休暇等について、就業規則に記載するか書面で明らかにすることを求めています。賃金同様、労働時間についても、就業規則や労働契約によって決められているといえます。
しかし、労働者と使用者が合意したからといって何時間でも働かせて良いわけではありません。
労働者を守るため、労働基準法等の法律によって労働時間に関する規制が加えられています。
また、平成30年6月に働き方改革関連法が成立し、長時間労働の是正や柔軟な働き方などを中心とした法改正が行われました。
◆法定労働時間
使用者は、労働者を、休憩時間を除いて1週40時間、1日8時間を超えて働かせてはなりません(労働基準法第32条)。これを法定労働時間といいます。
ただし、商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)、保健衛生業及び接客娯楽業で、常時10人未満の労働者を使用する事業場については、特例措置事業場として、1日8時間、1週44時間とする特例措置が認められています(労働基準法施行規則第25条の2)。
4-2
休憩時間-自由な利用が原則-
休憩時間とは、労働時間の途中において、労働者が権利として労働から離れることを保障された時間のことをいいます。使用者は、労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩を、労働時間の途中で与えなければなりません。
労働基準法では、休憩時間について、次の3つの原則が定められています(労働基準法第34条)。
①労働時間の途中に
②一斉に
③自由に利用させること
休憩時間には、いわゆる「手待ち時間」(実際に作業していないけれども、業務の指示を受けたときにはすぐ就労できるようにするための待機時間)は含まれません。同様に、昼休み時間中の電話や来客に備えて、「昼休み当番」として労働者を待機させておく場合には、労働者は自由に休憩時間を利用することができませんので、使用者は、昼休み時間とは別に、休憩時間を与えなければなりません。
なお、運輸交通業、商業、通信業、接客娯楽業等については、業務の性質上、休憩時間を一斉に与えなくても良いことになっています。その他の業種では、労働者の範囲と休憩時間の与え方を労使協定で定めておけば、一斉に与えないことが可能です。
4-3
労働から離れる日-休日-
労働契約上、労働者が労働しなくても良い日を休日といいます。例えば、月曜日から金曜日が労働日である場合には土・日曜日が休日となりますが、労働基準法等の法律には「日曜日を休みとしなければならない」というような規定はありません。労働条件明示の観点から、特定の曜日を休日にする場合には、就業規則に定めておくことが必要です。
休日の最低基準として、使用者は、労働者に毎週少なくとも1回、あるいは4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません(労働基準法第35条)。ただし4週4日制はあくまで例外であり、「4週間」の起算日については就業規則等により明らかにする必要があります。
ところで、使用者が業務の必要に応じて労働者に休日出勤を命ずる場合に、休日出勤の代わりとして別の日を休みにすることがあります。この休みの与え方には二つあり、ひとつは休日の振替、もうひとつは代休という方法です。休日の振替と代休はxx似ていますが、どちらの方法を選ぶかによって、割増賃金の支払いや割増率など、労働基準法上の取扱いが異なってきます。
◆休日の振替
事前に休日と労働日を変更することを休日の振替といいます。休日の振替を行うためには、次の要件が必要です。
○ 就業規則等に、「業務上必要が生じたときには、休日を他の日に振り替えることがある」等の規定を設けること。
○ あらかじめ、休日を振り替える日を特定しておくこと。
○ 遅くとも、前日の勤務時間終了までには、当該労働者に通知しておくこと。
「休日の振替」を行わない場合、出勤日は休日労働としての取扱いを行わなければなりません。一方、「休日の振替」の場合には、もとの休日が本来の労働日に変わったので、その日に働かせても休日労働とならず割増賃金の支払義務も生じません。ただし、その日に1日8時間を超えて働かせた場合には、超えた時間について通常の時間外労働の取扱いとなります。
休日の振替は、原則的には同一の週の中で行いますが、同一の週に予定どおり振替休日を取らせることができず、翌週に持ち越され、その結果、週の法定労働時間を超えてしまう場合は、振替休日を取れなかった日の労働時間が、通常の時間外労働の取扱いとなります。
◆代休
休日に労働をさせ、事後的に休日を与えることを代休といいます。代休自体は、任意に与えることができますが、労働者の体を休めることが代休の本来の目的ですので、なるべく早目に与えることが望ましいでしょう。
ただし、改めて別の日に休みを与えても休日労働をしたということに変わりはありませんので、休日労働した分の賃金は、休日労働の割増率である3割5分増以上の割増賃金を支払わなければなりません。
なお、代休日の賃金を有給とするか無給とするかについては、就業規則等の定めに従います。
4-4
労働時間規制等の適用除外
労働基準法では、①農業・畜産・水産業に従事する労働者、②管理監督者および機密事務取扱者、③監視・断続的労働従事者、
④高度プロフェッショナル制度(特定高度専門業務・成果型労働制)については、労働時間・休憩・休日に関する規定を適用しないと定めています。
労働時間・休日等の基準は、労働者の健康や生活を守るための基本となる制度ですので、これを適用除外とする場合には、厳しい条件が課されています。
◆管理監督者および機密事務取扱者(労働基準法第41条2号)管理監督者(管理職)の地位にある労働者に対しては、労働時
間・休日に関する規制が適用されないため、時間外・休日労働に対する割増賃金を支払う必要はありません。
ここでいう管理監督者とは「労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的な立場にある者」とされており、会社における「部長」「営業所長」といった肩書きがあれば良いというわけではありません。
例えば、営業上の理由で、大勢に「課長」という肩書きが与えられている部署があったとしても、それらの従業員が必ずしも管理監督者にあたるとは限りません。
管理監督者にあたるかどうかは、個々の労働者の具体的な立場や権限を踏まえて判断することになります。
【管理監督者の判断基準】
1.経営者と一体的な立場と呼ぶにふさわしい重要な職務内容、責任となっており、それに見合う権限の付与が行われているか。
2.重要な職務と責任を有していることから、現実の勤務が実労働時間の規制になじまないようなものとなっているか。
3.①定期給与である基本給、役付手当等においてその地位にふさわしい待遇がなされているか。
②ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられているか。
4.スタッフ職の場合、経営上の重要事項に関する企画立案等の部門に配置され、ラインの管理監督者と同格以上に位置付けられる等、相当程度の処遇を受けているか。
(昭22. 9.13発基第17号、昭63. 3.14基発第150号)
特に、小売業・飲食業でチェーン展開する会社の店長等については、十分な権限や待遇が与えられていない労働者に関する不適切な事案(名ばかり管理職)が見られるとして、基本的な判断基準を適正に運用するよう通達が発出されています(平20. 9. 9基発第0909001号)。
機密事務取扱者とは、取締役付の秘書室長など、幹部と常に行動を共にし、情報を共有・伝達し、経営方針や提携、企業買収の交渉などの重要機密をとりまとめたりするなど、幹部の行動時間に合わせるために時間外労働や休日勤務がやむを得ない立場の人をいいます。単に、来客に茶菓子を出したり、1日のスケジュー
ルをまとめて幹部に伝えたり、社内外からのアポイントメントの照会をする程度の事務をする人は含みません。
なお、深夜労働に対する割増賃金は管理監督者等に対しても支払う必要があります。
◆監視・断続的労働従事者(労働基準法第41条3号)
監視労働とは、原則として一定の部署にあって監視することを本来の業務とし、常態として身体又は精神的緊張の少ない労働のことをいいます。断続的労働とは、本来の業務が断続的であるため、労働時間中に手待ち時間が多く実作業時間が少ない業務のことをいいます。
このような労働に従事する労働者については、労働基準監督署長の許可を条件に労働時間等の規制を全部又は一部除外しています。
◆高度プロフェッショナル制度
(特定高度専門業務・成果型労働制:労働基準法第41条の2)高度プロフェッショナル制度(特定高度専門業務・成果型労働
制)は、労働基準法の改正により、平成31年4月1日以降、新たに導入された制度です。
この制度は、職務範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象に、一定の手続や健康確保措置を講じることを条件に、労働時間・休憩・休日・深夜の割増賃金等の規定を適用しないとするものです。
具体的には、厚生労働省令で定められる高度の専門的知識等を必要とし、従事した時間と成果との関連が高くない業務についていること、従事する時間帯の選択や時間配分に関してのxxな裁量が労働者にあり、使用者から具体的な指示を受けないこと、年
収が1,075万円以上であること、本人同意があることなどの条件を満たしていることが必要です。
また、労使委員会における5分の4以上による決議や健康管理時間(事業場内にいた時間と事業場外で労働した時間の合計)の把握などの手続も必要となっています。
【高度プロフェッショナル制度の対象業務・労働者】
1.対象業務
高度な専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる業務。ただし、対象業務に従事する時間に関し、使用者から具体的な指示を受けて行うものは含まれません。
具体的には厚生労働省令により定められており、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務(企業・xxxの高度な分析)、コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案または助言)、研究開発業務などが相当します。
2.対象労働者
次の①・②の両方に該当する労働者
① 職務を明確に定める「職務記述書」等により、同意している労働者。制度の適用には、書面等による本人同意が必要であり、希望しない労働者には適用されません。
② 1年間に支払われることが確実に見込まれる賃金の額が基準年間平均給与額の3倍を相当程度上回る労働者。この額は厚生労働省令で定められ、現在は1,075万円となっています。
4-5
時間外労働・休日労働
労働時間や労働日は、就業規則や労働契約において、明確に定めておく必要があります。そのため、使用者は、原則として、決められた労働時間や労働日(所定労働時間・所定労働日)を超えて労働者を働かせることはできません。
使用者が、所定時間外・休日労働を命じるにあたっては、まず就業規則や労働契約等において、「業務上の必要のあるときは時間外労働や休日労働を命令できる」ということを明らかにしておくことが必要だとされています。判例でも、就業規則に時間外労働についての規定があって、それが合理的なものであれば、労働者には時間外労働を行う義務があるとしています(日立製作所武蔵工場事件 最一小判平成3・11・28)。ただし、業務上の必要性がない場合や、労働者側のやむを得ない事情などがある場合には、使用者の命令が権利の濫用として無効となる場合もあります
(トーコロ事件 東京高判平成9・11・17)。
◆例外としての時間外労働・休日労働
既に述べたように、労働基準法は、1日8時間・1週40時間の 法定労働時間や、原則毎週1日の法定休日の基準を定めています。しかし、やむを得ず、法定労働時間を超えた時間外労働や法定 休日に労働させる場合には、就業規則等で定めることに加え、あらかじめ労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署長に届け出な
ければならないことになっています(労働基準法第36条)。
この労使協定のことを、労働基準法第36条に基づき36協定(サブロク協定など)と呼んでいます。使用者は、あらかじめ会社(工場や営業所に分かれているときはその事業場ごと)と、労働者の過半数が加入している労働組合がある場合はその労働組合、労働
者の過半数が加入する労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者とのあいだに36協定を締結し、これを労働基準監督署長に届け出ておかなければなりません。
◆時間外労働の上限規制
これまで、36協定で定める時間外労働については、厚生労働大臣の告示によって上限基準が定められていましたが、罰則による強制力がなく、また、臨時的な特別の事情が予想される場合に特別条項付きの36協定を締結することにより、事実上、限度時間を超える時間外労働を行わせることも可能となっていました。
しかし、労働基準法の改正により、時間外労働の上限や、臨時的な特別の事情がある場合に労使協定で定められる労働時間の上限等については、全て法律で定められることになり、罰則も設けられました。
【時間外労働の上限規制】
時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間となります。
臨時的な特別な事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、以下を守らなければなりません。
① 時間外労働が年720時間以内
② 時間外労働と 日労働の合計が月100時間未満
③ 時間外労働と 日労働の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」が全て1月あたり80時間以内
④ 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月が限度
上記に違反した場合には罰則が科されるおそれがあります。
(注)特別条項の有無に関わらず、時間外労働と休日労働の合計は、1年を通して常に、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内にしなければなりません。時間外労働が月 45時間以内であれば特別条項の必要はありませんが、休日労働が増え、合計労働時間が月100時間以上になると法律違反となります。
◆適用猶予・除外となる事業等
建設事業・自動車運転の業務・医師・鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業については、令和6年3月31日までの間、一部又は全ての適用が猶予されます(猶予後の取扱はそれぞれ異なります)。
また、新技術・新商品等の研究開発業務については、適用除外となりますが、一定以上の労働時間となった場合には、医師の面接指導が義務付けられました。
◆36協定の内容について留意すべき事項
法改正に合わせて、36協定で定める時間外労働及び休日労働に係る留意すべき事項について、新たな指針が策定されています。
【36協定の内容について留意すべき事項】
① 時間外労働・ 日労働は必要最小限にとどめること(指針第2条)。
② 使用者は、36協定の範囲内であっても労働者に対する安全配慮義務を負う。また、労働時間が長くなるほど過労死との関連性が強まることに留意する必要がある(指針第
3条)。
③ 時間外労働・ 日労働を行う業務の区分を細分化し、業務の範囲を明確にすること(指針第4条)。
例えば、各種製造工程において、それぞれ労働時間管理を独立して行っているにもかかわらず「製造業務」とまとめているような場合は、細分化は不十分となる。
④ 臨時的な特別の事情がなければ、限度時間(月45時間・年 360時間)を超えることはできない。限度時間を超えて労働させる必要がある場合は、できる限り具体的に定めなければならない。この場合にも、時間外労働は、限度時間にできる限り近づけるように努めること(指針第5条)。
労使当事者は、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合をできる限り具体的に定めなければならず、「業務の都合上必要な場合」、
「業務上やむを得ない場合」など恒常的な長時間労働を招くおそれがあるものを定めることは認められないことに留意すること。
⑤ 1か月未満の期間で労働する労働者の時間外労働は、目安時間(1週間:15時間、2週:27時間、4週:43時間)を超えないように努めること(指針第6条)。
⑥ 日労働の日数及び時間数をできる限り少なくするように努めること(指針第7条)。
⑦ 限度時間を超えて労働させる労働者の健康・福祉を確保すること(指針第8条)。
健康・福祉を確保するための措置として、指針では9つが挙げられています。(1)医師による面接指導(2)深夜業の回数制限(3)終業から始業までの休息時間の確保(勤務間インターバル)(4)代償休日又は特別な休暇の付与(5)健康診断(6)連続休暇の取得(7)心とからだの相談窓口の設置(8)配置転換(9)産業医等による助言・指導や保健指導
⑧ 限度時間が適用除外・猶予されている事業・業務についても、限度時間を勘案し、健康・福祉を確保するよう努めること(指針第9条、附則第3項)。
◆「過半数組合」・「労働者の過半数を代表する者」とは
36協定などの労使協定の締結の際は、その都度、当該事業場に
①労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)がある場合はその労働組合、②過半数組合がない場合は労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)と、書面による協定をしなければなりません。
①の過半数組合の要件を満たさない場合、②の過半数代表者の選出が適正に行われていない場合には、36協定を締結し、労働基準監督署長に届け出ても無効になりますので注意が必要です。
○「過半数」の意味について
過半数組合・過半数代表者と言う場合の「過半数」とは、事業場に使用されている、全ての労働者の過半数で組織する労働組合であったり、その代表者であることを指します。全ての労働者とは、正社員だけでなく、パートやアルバイトなど事業場のすべての労働者を指しますので、過半数組合の場合にはパートやアルバイトなどを含めた事業場の全ての労働者の過半数で組織していなければなりませんし、過半数代表者についても、パートやアルバイトなどを含めた全ての労働者の過半数を代表している必要があります。
○過半数代表者の要件と選出のための正しい手続について
過半数代表者の要件としては、①労働者の過半数を代表していること、②選出にあたって全ての労働者が参加した民主的な手続がとられていること、③管理監督者に該当しないことの3点があります。
民主的な選出にあたっては、正社員だけでなく、パートやアルバイトなどを含めた全ての労働者が手続に参加できるようにする必要があります。また、選出手続は、労働者の過半数がその人の
選出を支持していることが明確になる民主的な手続(投票、挙手、労働者による話し合い、持ち回り決議)がとられている必要があります。使用者が指名したり、親睦会幹事を自動的に選出したりすることはできません。また、労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場に該当する人(労働基準法第41条
2号で定める管理監督者)であってはいけません。
◆非常事由による時間外・休日労働
使用者は、災害その他避けることができない事由によって臨時の必要があり行政官庁の許可を受けた場合に、必要な限度において時間外・休日労働をさせることが認められます(労働基準法第 33条1項)。
事態急迫のため、行政官庁の許可を受ける時間がない場合には、事後に遅滞なく届け出れば良いことになっていますが(労働基準法第33条1項ただし書)、行政官庁の許可が得られるのは、事業の運営が不可能となるような突発的な機械の故障や急病の発生などで人命・公益を守るために必要な場合など、通常予想し得ない理由に限定されます。
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時間外労働・休日労働の割増賃金
労働基準法では、使用者が労働者を、①法定労働時間を超えて働かせたとき(時間外労働)、②法定休日に働かせたとき(休日労働)、③午後10時から午前5時までの深夜に働かせたとき(深夜労働)には、政令で定められた割増率で計算した割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法第37条第1項・第4項)。時間外労働と深夜労働の割増率は2割5分以上で、休日労働の割増率は3割5分以上となっています。
◆時間外労働と割増賃金の計算例
例えば、所定労働時間が1日7時間の労働者に1時間の時間外労働をさせた場合、その1時間は法定労働時間(1日8時間)内の時間外労働であることから、会社には労働基準法の定める割増賃金の支払義務はありません。ただし、その1時間の労働に対しては、就業規則等に基づいた賃金を支払う必要があります。
1日8時間の法定労働時間を超えて働かせたときには、超えた時間に対して、使用者は通常の時間単価の2割5分増以上の割増賃金を支払う義務があります。
さらに、22時から翌朝5時までの「深夜」に働かせたときには
2割5分増以上、1週1回又は4週4日の法定休日に働かせたときには3割5分増以上の割増賃金を支払わなければなりません。
時間外労働と深夜労働、休日労働と深夜労働が重なったときは、次のモデルのように割り増しされます。
【一般的な時間外労働・休日労働の割増率】
(1日の所定労働時間が7時間、時給1,500円の場合)
22:00
翌日5:00
《労働日》
9:00
17:00
18:00
時間外労働 25%以上
深夜労働 25%以上
時間外労働 25%以上
所定労働時間 7時間 所定時間外労働時間 1時間
(休憩1時間) (割増分の支払は任意)
法定労働時間(8時間)時給1,500円以上
時給1,875円以上
時給2,250円以上
《休 日》
9:00
22:00
24:00
休日労働 35%以上
深夜労働 25%以上
休日労働 35%以上
翌日5:00
深夜労働 25%以上時間外労働
25%以上
時給2,025円以上
時給2,400円以上 時給2,250円以上
※《休日》の例は、法定休日が連続しない場合です。
◆割増賃金を計算する場合の算定基礎除外部分
次の手当は割増賃金の計算の基礎となる賃金から除外できます
(労働基準法第37条第5項、同法施行規則第21条)。
①家族手当 ②通勤手当 ③別居手当 ④子女教育手当
⑤住宅手当 ⑥臨時に支払われた賃金(結婚祝金、見舞金など突発的な事由によるもの) ⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与又はそれに類似するもの)
ただし、家族手当、通勤手当、住宅手当については、どの労働者にも一律に決まった金額が支払われるような手当である場合には、割増賃金の基礎として算入します。
◆1か月60時間を超える時間外労働
1か月60時間を超える時間外労働については、法定の割増率が
5割以上となります。そのため、深夜(午後10時から午前5時まで)の時間帯に1か月60時間を超える法定時間外労働を行わせた場合の割増率は、深夜割増率2割5分増以上+時間外割増率5割増以上=7割5分増以上になります。
また、1か月60時間以上の法定時間外労働の算定にあたっては、法定休日に行った労働は含まれません。
労使協定を締結すれば、1か月60時間を超える時間外労働に対する引上げ分の割増賃金の支払いに代えて、有給の代替休暇を付与することができますが、実際に代替休暇を取得するか否かは、労働者の意思により決定されます。また、労働者がこの有給の休暇を取得した場合でも、2割5分の割増賃金の支払いは必要です。
中小企業(P2参照)については、現在適用が猶予されていますが、令和5年4月1日以降は猶予が廃止されます。
4-7
変形労働時間制
労働時間1週40時間、1日8時間の原則には、例外があります。
変形労働時間制は、使用者と労働者が、自らの工夫で労働時間を弾力化し、業務の繁閑に応じた労働時間の配分等を行うことによって、労働時間を短縮することを目的とする制度です。
基本的には、業務量に繁閑の波があり、ある程度、繁忙期と閑散期の周期を予測できる事業場を想定しています。
◆1か月単位の変形労働時間制
(労働基準法第32条の2、同法施行規則第12条の2の2第2項)
1か月以内の一定期間を平均し、1週間の労働時間が40時間(特例措置事業場は44時間)以下であれば、特定の日や週に、1日及び1週間の法定労働時間を上回る所定労働時間を設定することができる制度です。
例えば、月初は比較的仕事に余裕があり月末に残業が多くなるような事業場では、月初には所定労働時間を短くし、月末に所定労働時間を長く設定することができます。この制度は、労使協定を締結し労働基準監督署長に届け出るか、就業規則等に定め周知することなどによって導入できます。
労働時間のxxx、始業・終業時刻、起算日等については、具体的かつ明確に定める必要があります。
◆フレックスタイム制
(労働基準法第32条の3、同条の3の2、同法施行規則第12条の3)
一定の期間(清算期間)の総労働時間をあらかじめ定めておき、労働者がその範囲内で、各日の始業及び終業の時刻を自らの意思で決めて働く制度です。
導入にあたっては、就業規則等において、始業・終業時刻を労働者の決定に委ねることを定めることと、対象となる労働者の範囲、清算期間、清算期間中の総労働時間、標準となる1日の労働時間などについて定めた労使協定を締結する必要があります。
また、フレキシブルタイム(いつ出社又は退社しても良い時間帯)とコアタイム(必ず勤務しなければならない時間帯)を設ける場合には、その開始・終了時刻を定めておかなければなりません。
清算期間は、3か月以内となります。ただし、1か月を超える場合には、(1)清算期間全体の労働時間が週平均40時間を超えないこと、(2)1か月ごとの労働時間が週平均50時間を超えないことの両方が必要となり、それを超えた場合は時間外労働となります。また、1か月を超える労使協定は、労働基準監督署長に届け出なければなりません。
◆1年単位の変形労働時間制
(労働基準法第32条の4、同法施行規則第12条の4)
1か月を超え1年以内の一定期間を平均して1週間の労働時間が40時間以下であれば、特定の日や週について、1日10時間、1週52時間を限度に働かせることができる制度です。
特定の季節や特定の月などに業務が立て込んでいる事業場では、繁忙期には所定労働時間を長く、閑散期には所定労働時間を短く設定することで、年間の総労働時間の短縮を図ることができます。
ただし、対象期間を平均した1週間あたりの労働時間は40時間
を超えないこと(特例措置事業場においても同様)、対象期間が
3か月を超える場合には対象期間における労働日数の限度は1年あたり280日(下記計算式参照)、連続して労働する日数は原則として最長6日までとするなどの制限があります。
〈対象期間が3ヵ月を超える場合の労働日数の限度〉
対象期間の暦日数
280 日 ×
365
導入にあたっては、就業規則等において、1年単位の変形労働時間制を採用することを記載することと、対象労働者の範囲、対象期間及び起算日、特定期間(定めた場合)、労働日及び労働日ごとの労働時間、有効期間を定めた労使協定を締結し、労働基準監督署長に届け出る必要があります。
◆1週間単位の非定型的変形労働時間制
(労働基準法第32条の5、同法施行規則第12条の5)
日によって業務に著しい繁閑が生じることが多く、しかも直前になるまで状況がわからないため、就業規則等に労働時間を定めておくことができない場合、30人未満の小売業、旅館、料理店及び飲食店のみ、1週間の労働時間が40時間以下の範囲内であれば、
1日10時間まで働かせることができる制度です。
制度の導入にあたっては、労使協定を締結して労働基準監督署長に届け出ること、就業規則等に定めること、前の週までに各日の労働時間を書面で労働者に通知することが必要です。
4-8
みなし労働時間制
社外で活動することがほとんどである営業担当者や、仕事の進行管理を自分で行っている研究員のように、仕事の内容によっては、使用者による労働時間の把握が困難な場合があります。
そこで労働基準法では、このような労働者を対象に、ある一定の時間だけ働いたものとみなす、みなし労働時間制の適用を認めています。
◆事業場外労働(労働基準法第38条の2)
営業など、労働者が事業場外(会社外や出張)で働くために、使用者が労働時間を把握できないときは、原則として所定労働時間だけ働いたものとみなします。
業務を遂行するために、通常所定労働時間を超えて働くことが必要となる場合には、「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」だけ働いたものとみなします。
また、労使協定を締結したときは、その労使協定で定めた時間が「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」となります。1日
8時間を超える労使協定は労働基準監督署長に届け出ることが必要です。割増賃金の支払いも必要になります。
ただし、事業場外で働く場合であっても、上司と一緒に出張している場合や、携帯電話などで逐次指示、報告等のやりとりがなされている場合などは、労働時間の算定が可能なので、みなし労働時間制の適用にはなりません。
◆裁量労働制
裁量労働制とは、業務の性質上、その遂行手段や時間配分について使用者が具体的な指示をせず、実際の労働時間とはかかわりなく、労使の合意で定めた労働時間数を働いたものとみなす制度です。裁量労働制には次の2つのタイプがあります。
○専門業務型裁量労働制
(労働基準法第38条の3、同法施行規則第24条の2の2)
専門業務型裁量労働制の対象となるのは、専門性が高く、業務の遂行手段や時間配分に関する具体的な指示をすることが難しい業務です。具体的には、19の専門業務に限って認められます。
【厚生労働省令で定める業務】
①新商品、新技術の研究開発又は人文科学、自然科学に関する研究の業務
②情報処理システムの分析又は設計の業務
③新聞、出版、放送における取材、編集の業務
④衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザイン考案の業務
⑤放送番組、映画等におけるプロデューサー、ディレクターの業務
【厚生労働大臣告示で定める業務】
⑥コピーライターの業務 ⑦システムコンサルタントの業務
⑧インテリアコーディネーターの業務
⑨ゲーム用ソフトウェアの創作の業務 ⑩証券アナリストの業務
⑪金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
⑫大学における教授研究の業務 ⑬公認会計士の業務
⑭弁護士の業務 ⑮建築士(一級・二級建築士及び木造建築士)の業務
⑯不動産鑑定士の業務 ⑰弁理士の業務
⑱税理士の業務 ⑲中小企業診断士の業務
専門業務型裁量労働制を導入する事業場では、労使協定で対象業務やみなし労働時間等を定め、労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
○企画業務型裁量労働制
(労働基準法第38条の4、同法施行規則第24条の2の3)
企画業務型裁量労働制の対象となるのは、会社の事業運営に関する企画・立案・調査・分析の業務で、業務の遂行方法に関し使用者が具体的な指示をしない業務です。本社・支社など、特定部門の労働者が対象となるわけではありません。
制度を導入しようとする事業場は労使委員会を設置し、その委員の5分の4以上の多数の議決によって制度の内容を決議し、所定様式により労働基準監督署長に届け出る必要があります。
労使委員会の委員に関しては、労働者を代表する委員と使用者を代表する委員で構成し、労働者を代表する委員が半数以上を占めていること、また、労働者を代表する委員は、過半数労働組合又は労働者の過半数代表者から任期を定めて指名を受けていることが必要です。
さらに、実際に制度を適用するためには、決議だけではなく、対象となる個々の労働者の同意を得ることなどが必要です。同意をしない労働者に対して、使用者は、解雇その他不利益な取扱いをしてはいけません(労働基準法第38条の4第1項第6号)。
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労働時間の把握と勤務間インターバル
近年、労働時間1週40時間、1日8時間の原則の例外がたくさんつくられてきました。自由な働き方は、本来は総労働時間の短縮を目的としていますが、一方で、労働者の働きすぎや健康悪化をもたらす可能性もあります。
長時間労働などにより、健康リスクが高い状況にある労働者を見逃さないため、医師による面接指導が強化されています。しかし、使用者が労働者の労働時間の状況をきちんと把握していなければ、制度は有効に機能しません。
そのため現在は、厚生労働省令で定める方法により、労働者の労働時間を把握することが事業者の義務となっています。(労働安全衛生法第66条の8の3)。
◆労働時間の把握方法
事業者が労働時間の状況を把握する方法としては、原則として、タイムカード、パソコンの使用時間の記録、事業者(事業者から労働時間の状況を管理する権限を委譲された者を含む)の現認等の客観的な記録により、労働者の労働日ごとの出退勤時刻や入退室時刻の記録等を把握しなければなりません。
また、やむを得ず自己申告により労働時間を把握する場合にも実態と乖離しないよう、措置を講じる必要があります。
◆管理監督者等の労働時間も把握する必要がある
労働時間の把握は、労働者の健康確保措置を適切に実施するためのものであるため、残業手当の支払いと関係なく、管理監督者や裁量労働制の適用者なども全て対象となります。高度プロフェッショナル制度の対象者は除外されますが、これとは別に、健康管理時間を把握する必要があります。
◆勤務間インターバル
労働者が、十分な生活時間や睡眠時間を確保し、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら働けるよう、勤務間インターバル制度の導入が、事業主の努力義務になっています(労働時間等設定改善法第2条第1項)。
勤務間インターバルとは、前日の終業時刻から翌日の始業時刻の間の一定時間の休息のことです。
例えば、勤務間インターバルを11時間とした場合に、夜23時まで勤務した時には、翌日の始業時間は10時以降にしなければなりません。通常の始業時間が10時より前であれば、その日の始業時間を変更する必要があります。
【例:11 時間の休憩時間を確保するために始業時刻を後ろ倒しにする場合】
8 時
始業
17 時
残業
終業
残業
終業
21 時
23 時
休息時間(11 時間)
勤務終了
8 時 10 時
始業
休息時間(11 時間)
勤務終了
始業
始業
始業時刻を後ろ倒しに
※「8時から10時」までを「働いたものとみなす」方法などもあります。
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年次有給休暇
年次有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を保障するために付与される、有給の休暇です。
労働基準法は、一定の条件を満たしていれば、年次有給休暇を取得する権利を保障しています。ただし、年次有給休暇は労働義務を免除するものであるため、所定休日や休業日などに取得することはできません。また、使用者は、年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしてはなりません(労働基準法第136条)。
◆年次有給休暇の付与日数
使用者は、労働者を雇い入れてから6か月間継続勤務していて、全労働日(雇用契約や就業規則等で労働日として定められている日)の8割以上出勤した労働者には、少なくとも10日間の年次有給休暇を与えなければなりません(同法第39条第1項)。
また、労働者が同じ会社で働き続けた場合には、6か月間継続勤務をした後、さらに1年を経過するごとに、勤続期間に応じて加算した年次有給休暇を与えなければなりません(同条第2項)。パートタイム(短時間)労働者など、所定労働日数が少ない労働者についても、所定労働日数に応じて年次有給休暇を比例付与することになっています(同条第3項)。また、一回の雇用期間が
1か月や3か月など、雇用期間を定めて雇い入れる場合であっても、契約を更新して6か月以上勤務したときには、年次有給休暇付与の対象となります。
比例付与の対象となるのは、週の所定労働時間が30時間未満で、かつ、所定労働日数が週4日以下または1年間の所定労働日
数が216日以下の労働者です。逆に、①週の所定労働時間が30時間以上の労働者、②週所定労働日数が5日以上または1年間の所定労働日数が217日以上の労働者については、通常の日数の年次有給休暇を与えなければなりません。なお、予定される所定労働日数が算出し難い場合には、付与日直前の出勤日数実績を考慮して所定労働日数を算出することとなります(平成16・8・27基発第0827001号)。
年次有給休暇の付与日数
(週の所定労働日数が5日以上又は週の所定労働時間が30時間以上の労働者)
勤続年数 | 0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年以上 |
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
比例付与日数
(週の所定労働日数が4日以下かつ週の所定労働時間が30時間未満の労働者)
週所定労働日数 | 1年間の所定労働日数 | 勤務年数 | ||||||
0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年以上 | ||
4日 | 169日から216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3日 | 121日から168日 | 5日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 | |
2日 | 73日から120日 | 3日 | 4日 | 5日 | 6日 | 7日 | ||
1日 | 48日から72日 | 1日 | 2日 | 3日 |
労働者は、年次有給休暇を、一日ずつばらばらに取得しても、数日間まとめて取得してもかまいません。事業場で労使協定を締結すれば、1年に5日を限度として、時間単位で年次有給休暇を取得することもできます(同条第4項)。なお、半日単位の休暇は、労使協定が結ばれていなくても会社で認められている場合には、取得できます。
◆年次有給休暇の賃金計算
有給休暇を取得した日の賃金については、①平均賃金、②通常の賃金(所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金)、
③健康保険法に定める標準報酬日額に相当する金額(労使協定に定めのある場合)のいずれかの方法により計算することになっており、具体的には就業規則等の定めによります。
月給制の労働者については、有給休暇を取得しても月給から減額しないという方法が通常とられますが、日給制・時給制の労働者でも、1日の労働時間が変動しない場合には、通常の1日分の賃金が支払われることが多いようです。
◆年次有給休暇の取得と時季変更x
x次有給休暇を取得するには、時季指定といって、事前に取得日を申し出ることが必要ですが、利用目的は問われません。使用者は、労働者が指定した日に年次有給休暇を与えなければなりません(労働基準法第39条第5項)。
ただし、事業の正常な運営を妨げる場合に限り、使用者は、年次有給休暇を他の日に変更する権利があります(同項ただし書)。これを時季変更権といいます。
ここでいう「事業の正常な運営を妨げる」というのは、「客観的にみて、そのときに労働者に会社を休まれたら、会社が正常に運営できない」という具体的な事情があるときです。単に忙しいという理由だけで、労働者が休みたい日に休ませないことはできません。
なお、あらかじめ労使で協定を結び、休暇の計画的付与を行うこともできます(計画年休)。ただし、計画年休の対象とすることができるのは、各労働者の持っている年次有給休暇の日数のうち、5日を超える部分に限ります(同条第6項)。
◆年5日の年次有給休暇の確実な取得について
年次有給休暇の取得を促進することを目的に、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、年次有給休暇の日数のうち、年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられています(同条第7項)。
使用者は、労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に、取得時季を指定して年次有給休暇を取得させなければなりません。ただし、時季指定にあたっては、労働者の意見を聴取し、できる限り労働者の希望に沿った取得時季になるよう、その意見を尊重するよう努めなければなりません。
ただし、既に5日以上の年次有給休暇を請求・取得している労働者に対しては、使用者が時季指定をする必要はなく、また、することもできません。加えて、労働者が自ら請求・取得した年次有給休暇の日数や、計画年休については、その日数分が時季指定義務が課される年5日から控除されます。
時季指定の対象となる労働者の範囲や時季指定の方法等については、就業規則で定めて記載する必要があります。
(例)入社日:2021/4/1 休暇付与日:2021/10/1(10 日付与)
10 日付与(基準日)
2021/4/1
入社
2021/10/1
2022/9/30
2021/10/1~2022/9/30 までの1年間に
5 日年休を取得させなければなりません。
◆年次有給休暇の時効
年次有給休暇の時効は付与日から起算して2年です(同法第 115条)。年次有給休暇をその年度内に使いきれなかった場合、残りの休暇は繰り越して、翌年度も請求することができます。
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いわゆる固定残業代や年俸制について
◆固定残業代が定められているときは
実際に行った時間外労働の実績をもとに、会社が割増賃金を計算して支払うのではなく、毎月一定額の手当として支払ったり、基本給に含めた定額払いとする事例も見受けられます。このような支払い方を「固定残業代」と呼ぶことがあります。
「固定残業代」を直接的に禁止する法律上の定めはありませんが、判例では、①労働者が、通常の労働時間に相当する部分(金額)と割増賃金に当たる部分(金額)を判別することができること、②割増賃金に当たる部分が労働基準法に従って計算した額以上であることなどの条件を満たさなければ、「固定残業代」の支払いによって法定割増賃金を支払ったことにはならないとされています。
また、時間外労働の実績から算出される法定割増賃金の額が「固定残業代」の額を上回っている場合、会社は、超過している部分につき、別途割増賃金を支払わなければなりません。
具体的には、就業規則や雇用契約書などに、基本給や特定の手当の中に「時間外労働の有無にかかわらず○時間分の割増賃金として△円含まれている」、「○時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給」ということが明記されていなければ、法定割増賃金を支払っていないと判断される可能性が高いといえるでしょう。
◆年俸制と割増賃金の関係
もう一つ、問題となりやすいのは年俸制と割増賃金の関係です。年俸制とは、賃金の額を年単位で決める制度ですが、多くの場
合、労働者の業績等の要素が年俸(1年分の賃金額)に反映する
制度となっています。
そのため、「年俸制を採用すれば、残業代を支払わなくてすむ」と誤解している使用者も多いようですが、特に定めがなければ、年俸額は年間所定労働時間に対応する賃金となりますから、時間外労働や休日労働を命じたときには、別途、割増賃金を支払う必要があります。
もし、一定の金額を割増賃金分として含んだうえで年俸額を決定するのであれば、「固定残業代」の場合と同様に、あらかじめ「年俸○円、時間外労働の有無にかかわらず、そのうち□円は△時間分の割増賃金」、「△時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給」というように内訳を明らかにしておかなければなりません。
この内訳については、労働基準法に従って算出された法定割増賃金の額を下回らない必要があります。