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【令和6 年3 月作成】
55 団体交渉
1 団体交渉とは
団体交渉(以下「団交」という)とは、労働組合または労働者の集団が、代表者を通じて使用者(使用者団体)と、労働者の待遇または労使関係上のルールについて行う交渉であり、憲法第28 条及び労働組合法第6 条においてその権利が保障されている。
また、使用者は、労働組合法上の要件を満たす労働組合から団交を申し込まれた場合は、正当な理由がない限り拒否することはできない【労働組合法第7 条第2 号】。
2 団体交渉の当事者
自ら団交を行い、労働協約の締結当事者となり得る労使は次のとおりとされている。
(1)労働組合
労働組合法上の労働組合(労働組合法第2 条に適合する労働者の団体)である単位組合及び連合団体
(上部団体)並びに連合団体(上部団体)は、いかなる少数組合であっても団体交渉権を有し、団交の当事者となる。
なお、合同労組についても団交の当事者たる労働組合に含まれる。
また、単一組合の内部組織でありそれ自体で一個の労働組合として整備された下部組織(地方本部、支部・分会等)においても、当該組織に所属する組合員の労働条件や当該労使関係等に関する交渉事項に限り、団交の当事者となりうるが、その交渉権限は中央本部の統制に服するものとされている。
上部団体においては、加盟組合に統制力を持つものは加盟組合の労働条件における統一的要求などについて団交の当事者となる。また、個別の加盟組合の交渉事項についても、規約の定めや慣行があれば、当該組合と競合して当事者となる。この場合、一般には当該組合と共同で使用者に対し交渉を申し入れる形で行われるが、その際は二重交渉回避のため、上部団体と当該組合とで交渉権限が統一されている必要がある。
なお、社団性のない争議xx、労働組合としての組織を持たない労働者の集団も、代表者を選任し交渉体制を整えれば憲法第 28 条(団体交渉権)の保護を受けるとされているが、労働組合法第 27 条及び第27 条の12 の規定による不当労働行為救済制度の保護を受けることはできないとされている。
〔労働組合の資格審査については「№53」参照〕
〔不当労働行為については「№60」参照〕
(2)使用者(使用者団体)
団交の当事者となる使用者とは、一般に労働契約上の雇用主となるが、これは単に形式的な雇用関係の当事者のみを示すものではない。
形式的な雇用関係の当事者となっていない場合でも、子会社が実質的に親会社の一部門に過ぎないと認められるような場合は、親会社が実質的な使用者とされる場合がある。
また、元請企業が請負企業から従業員の派遣を受け、元請企業が当該従業員の作業日時、作業時間(変更・延長・休憩付与も含む)、作業場所、作業内容等の詳細を決定し、指揮監督を行っていた事実に基づき、当該従業員の基本的な労働条件等について部分的にでも雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合は、その限りにおいて使用者(団交の当事者)に当たるとしたものがある【朝日放送事件 最三小判 平7.2.28】。
さらに、派遣先会社についても、労働者派遣法や【派遣先が講ずべき措置に関する指針(平成11 年労
働省告示第138 号)】により使用者責任の一部を負うこととされており、その範囲において団体交渉に応じる義務が生じる。
なお、使用者が加入し組織する「使用者団体」が団交の当事者となるには、例えば各企業から交渉権限等を委任されていることや過去から集団交渉が慣行化しているなど、各企業を超えた統一的な団交を行う体制を有することが必要とされている。
3 団体交渉の応諾義務(誠実団交義務)
使用者が、労働組合法に適合する労働組合から申し込まれた団交を正当な理由がなく拒否することは不当労働行為に当たる【労働組合法第7 条第2 号】。
また、団交を実施するに当たっては、単に交渉の場を設ければよいというものではなく、同法第7 条第2号の主旨は労使間の円滑な団交関係の樹立を目的としていることから、使用者には誠実に団交にあたる義務がある(誠実団交義務)。
例えば、はじめから合意達成や協約締結の意思がないことを明確にする、合理性のある説明や具体的資料の提示を行わず自己の拒否回答に固執する、実質的な交渉が尽くされていない中で団交を打ち切るなどの交渉態度は、不誠実団交として不当労働行為になる場合がある。
判例では、組合が給与xxx、昇給や昇進、人事考課xxの賃金関連資料の公開を要求し、使用者がこれを拒否したことが不誠実団交に当たるとして争われた事件において、使用者が誠実交渉義務を果たしたかどうかは、労働組合の合意を求める努力の有無・程度、要求の具体性や追求の程度、これに応じた使用者側の回答または反論の提示、その回答等に対する具体的根拠についての説明や必要な資料の提示の有無・程度等を考慮して、労働組合との合意達成の可能性を模索したといえるかどうかで決まるとし、本件では労働組合の資料公開要求が具体的な労働条件の改善を契機としたものでなかったことから、会社が組合の要求に応じなかったこと自体をもって不誠実とはいえないとしたものの、要求に応じられない具体的な理由の説明(例えば本件資料を開示することで人事・経営管理上の不都合がある、会社が被る有形・無形の損害が発生する等)がなく、その点で誠実に義務を尽くしたとはいえないことから、この限りにおいて会社は誠実交渉義務に違反し不当労働行為に該当するとしたものがある【中労委(日本アイ・ビー・エム)事件 東京地判 平14.2.27】。
なお、団交を拒否できる正当な理由に当たるか否かは、個別具体的な事情によるが、下記事例については判例等から一定の判断がなされている。
(1)正当な理由がない(団交を拒否できない)とされる事例ア 組合員名簿の未提出
会社外の労働組合(地域のユニオンなど)から団交を申し込まれた場合など、使用者が当該組合の実態や交渉相手となり得るかを確認するため、組合規約や加入する組合員の名簿の提出を求める場合がある。判例では、交渉担当者の組合における役職、身分及び団交事項の当事者(本件では解雇撤回を求める労働者)が組合員であることを明らかにすれば、会社は団交に応じる義務があるとしたものがあり【新星タクシー事件 東京地判 昭 44.2.28】、全組合員の名簿の不提出を理由として団交に応じないことは不当労働行為と判断される場合もある。
イ 特定の労働組合と唯一交渉団体条項を含む労働協約を締結している
労働協約において会社が特定の組合を唯一の交渉相手として認め、他の団体とは交渉を行わないとするいわゆる「唯一交渉団体条項」を設ける場合、それをもって「他の労働組合とは交渉をしない」という意味であれば、厳格なユニオン・ショップの場合以外は労組法第 7 条第 2 号に違反する事項を約することになり、現行法の下では無効である【昭和25.5.13 労発第157 号】。
ウ 訴訟中、争議行為中であること
当該団交事項について訴訟中であったとしても、自主的な解決に向けて交渉を行うことは差し支えないため、これを理由に団交を拒否することはできないと考えられる。また、争議行為中であっても、必要があれば団交を開催し労働争議解決のために努力を尽くすべきであることから同様に団交拒否の理由にはなりえないとされている。
エ 過大な要求
組合の要求内容が過大であり、到底、合意に至ることができないと考えられるような場合でも、その理由や論拠を客観的・具体的に団交の場で説明することが必要となる。
オ 当該組合員との雇用関係がない
労働者が会社から解雇された後、合同労組(ユニオン)等に加入し、解雇撤回等を要求する団交を求める場合がある(いわゆる「駆け込み訴え」)。この場合においても、労働契約関係の継続の有無や、未払い賃金・退職金などこれまでの労働契約の清算について争点があることから、雇用関係終了後であっても、社会通念上合理的といえる期間内に団交の申入れがあった場合には、使用者はこれに応じる必要があるとされている。
(2)正当な理由がある(団交を拒否できる)とされる事例ア 暴力行為を伴うもの
いかなる場合においても、暴力の行使は労働組合の正当な行為とは解釈されない【労働組合法第1条第2 項但し書】。団交の場において暴力・脅迫その他不当な強制行為があった場合には、今後、そのような行為が行われないよう再発防止を講ずることがない限り、団交を拒否することは差し支えないとされている。
イ 二重交渉
上部団体や下部組織(支部・分会など)が単位組合とは別に団交を申し入れた場合や、労働者が二つの組合に所属(二重在籍)している場合などは、同一の交渉事項について二重交渉のおそれが生じる。このおそれが強い場合にのみ、使用者は二重交渉を回避するために、両組合間で交渉権限が調整・統一されるまで一時的に交渉を拒否できる(使用者側に団交応諾を強いることはできない)とされている。
ウ 労使で主張の譲歩が見られず行き詰まった団体交渉
団交事項に関して会社は誠意をもって団交義務を尽くしたものの、労使の意見が対立し続け、もはや交渉の余地がなくなったために団交を拒否したことについて、正当な理由がないとはいえないとされた判例がある【寿建築研究所事件 最二小判 昭和53.11.24】、【xx電器事件 最二小判 平 4.2.14】。
4 団体交渉の対象事項
(1)義務的団交事項
労働組合法の主旨に則り、使用者に対し団交の応諾義務が生じる交渉事項を「義務的団交事項」という。その範囲は一般に「組合員である労働者の労働条件その他の待遇や当該労使関係の運営に関する事項であり、使用者に処分可能なもの」とされ、具体的には次のようなものが該当するとされる。
ア 組合員(労働者)の労働条件その他の待遇
賃金、労働時間、休日、休暇、安全衛生、職場環境、災害補償、服務規律、定年制、企業年金、教育訓練、福利厚生、配転、懲戒、解雇などの人事の基準や手続、人事考課の基準や手続、業績賞与など評価に大きく依存する賃金・人事制度における評価の基準・枠組み 等
イ 当該労使関係の運営に関する事項
組合員の範囲、ユニオン・ショップ、便宜供与、団交・労使協議のルール、争議行為の手続き 等
ウ 経営・生産に関する事項のうち“労働条件や労働者の雇用そのものに影響があるもの”
経営・生産に関する事項(設備の導入・更新、生産方法、工場移転、経営者・上級管理者の人事、会社の組織変更、事業譲渡、業務の下請け化等)は、企業経営の必要上、使用者が専権的に決定できる事項であるが、それに伴い職務や就労場所などの労働条件や労働者の雇用そのものに影響がある場合には、その限りにおいて義務的団交事項になるとされる。
主な判例等では、従業員が業務として担っていた会社内のエレベーター運行や清掃業務の外注化
【明治屋事件 名古屋地判 昭 38.5.6】、工場移転【エスエムシー事件 最一小判 平 9.10.23】、就業規則の改訂【宇治病院事件 京都地労委命令 昭48.6.15】について義務的団交事項に当たるとしたものがある。
(2)任意的団交事項
義務的団交事項以外であっても、例えば次期代表取締役社長の選任や会社の社会文化貢献活動の実施など、企業として処理しうる事項であって使用者が任意に応じる場合には、どのような事項であっても団交事項として取り扱うことは差し支えない(任意的団交事項)。
(3)その他
現行法上、団交においてどのような事項が対象となるかについてxxの規定はないが、一般的に、次の事項については原則として使用者が団交に応じる義務はないとされている。
ア 使用者に決定権のない事項イ 妥結済みの事項
ウ 経営者の役員人事エ 企業の経営方針
オ 非組合員の労働条件(組合員の労働条件に影響を及ぼす場合を除く)など
また、「人事に関する事項」については、人事を決定する最終的な権限を有するのは使用者であり、個別人事については賃金・労働時間等のように労使交渉により決定するのが原則である事項とは異なるが、労働協約や就業規則上の人事基準、一般条理に照らして、その是正を求めるという観点からは、団交の対象事項となる場合もあると考えられる。
5 団体交渉の開始手続き及び手法
団交は、労働組合からの団交申入れにより開始され、一般に書面にて日時、場所、出席者(当事者・担当者)、交渉事項などが明らかにされる。団交の方式について法律上の定めはなく、労使の合意により決められるものであり、使用者は、申入れの内容に異議がある場合は組合と話し合いにより調整していくこととなる。
特に、企業別組合とその所属企業など交渉機会の多い労使においては、予め労働協約において団交の申入れ方法、団交の事前調整(予備折衝等)、団交の手法、交渉事項、団交で合意に至らなかった場合の対応
(労働委員会の活用など)等について定めている場合もある。
(1)日時・場所・開催時間・出席人数
団交をいつ、どこで、どの程度の時間、何人で行うかは、労使双方の話し合いにおいて決定されることから、組合が指定する日時、場所等に従って団交が開催されないというだけで団交を拒否したことにはならない【昭24.7.8 労収第5413 号】。
ただし、使用者が特段の事由なく自己の開催ルールに固執することや、団交開催に当たり格別に組合(組合員)に不利益をもたらす場合(例:遠距離で事実上開催が不可能または甚だ困難な場合等)などにおいては、実質的な団交拒否として不当労働行為になる場合がある【商大自動車教習所事件 東京高判 昭62.9.8】、【日本モーターボート競走会事件 中労委命令 平22.3.31】。
(2)交渉担当者(団交の出席者)ア 労働組合
労働組合側で団交の権限を有する担当者は、労働組合の代表者または労働組合の委任を受けたものとされている【労働組合法第6 条】。
労働組合の代表者は、一般に委員長をいい、その他役員(副委員長や書記長、執行委員等)も含まれる場合がある。法人格を持つ組合は、代表者の選定、代表権とその制限が同法で定められている【同法第 12 条、同条の 2~6】。法人格を有しない労働組合の代表者については、規約等により定められるが、交渉担当者として代表者を別に選定することは、それが明確であって使用者に明示されていれば問題はない。
なお、労働組合の委任を受けることができる者の範囲について法律上特段の制限はなく、上部団体など他の組合役員や組合員、弁護士などいかなる者でもよいとされている。
イ 使用者
使用者側の交渉担当者は、当該団交における交渉事項について実質的な決定権限を持つ地位にあり、団交を遂行する権限を使用者から付与されている者とされており、必ずしも法人企業における代表者や個人事業主である必要はない。
そのため、労務担当役員、人事部長、工場長、事業所長等の一定の職位にある者についても、上記権限を付与されていれば交渉担当者となり得るが、実質的検討に入れず交渉の進展に支障が生じるなど、誠実な団交義務が果たせない者が交渉担当者である場合には、不当労働行為(不誠実団交)となる場合がある。
なお、弁護士が使用者側代理人として交渉担当者になることについては、使用者から団交についての具体的な代理権(交渉権限、処理権限)を委任されていれば、弁護士法上認められると解される【中労委 平成26 年(不再)第19 号】。ただし、一般に弁護士は要求事項について直接検討し交渉を行う役割を果たす立場ではないため、弁護士が単独で団交に応じるのではなく、使用者側の代表者も出席することが望ましい。また、労使間で別に交渉担当者について合意がある場合や、実質的な交渉が期待できない場合には不当労働行為が成立する可能性がある。
判例では、会社側の出席者が予め用意された回答を読み上げるのみで、組合の質問に対しても抽象的かつ形式的な説明を繰り返すにとどまっており、団交の場で何ら譲歩や判断をした事実は認められず、組合の要望にも常に持ち帰って会社役員等に伝えるといった対応に終始していることから、実質的に交渉権限を有していないとして、不当労働行為に該当するとした中労委命令を維持したものがある【xx商事事件 東京高判 平20.11.5】。
(3)交渉事項
義務的団交事項であれば使用者は原則として拒否できないが、任意的団交事項であっても労使の話し合いにより団交の交渉事項として定めることができる(前述4(2)参照)。
6 労使協議制
労使間における諸課題を団交以外で自主的に解決する手法として代表的なものに労使協議制がある。労使協議制では、当該労使の合意によって労使協議会や経営協議会等といった常設的な機関が設置されることがある。我が国では【令和元年度労使コミュニケーション調査(厚生労働省)】において、労働組合がある事業所の約 8 割で労使協議制が採用されているとする調査結果があり、企業別労使関係の運営に当たって中心的な手法となっている。
労使協議制の運営方法や役割は当該労使間によって定められるが、一般に、ア 団交開始前の調整(情報開示や意向打診等)を行うもの、イ 団交に成り代わり労働条件等の交渉事項について協議によって解決を図るもの、ウ 義務的団交事項ではない経営・生産に関する事項等を協議するもの、エ 労働協約の定めによる人事の事前協議を行うもの、などがある。また、話し合われる事項は必ずしも労使合意が必要な協議事項だけではなく、内容に応じて報告・説明、意見聴取にとどまるものもある。
7 団体交渉等で労使間の話し合いが進展しない場合の対処方法(労働委員会による調整制度)
労使間の紛争は自主的に解決することが望ましいが、双方の主張が対立し団交等が膠着状態になることも想定される。この膠着状態を打開するため、労働組合はストライキなどの争議行為を実施する場合もあるが、いずれにしても労使紛争が長引けば双方にとってデメリットは少なくない。
〔争議行為の詳細については「№61」を参照〕
こうした自主的な解決が望めない労使紛争の解決方法の一つとして、労働委員会の調整制度がある。調整の種類は「あっせん」、「調停」、「仲裁」があるが、多くは「あっせん」の手法が採られ、主に労使いずれか(もしくは両方)による同委員会への申請により開始される。
あっせんでは、同委員会を構成する公益・労働者・使用者それぞれの立場の代表があっせん員(調整者)となり、非公開の原則のもと、事情聴取等により当事者の真意を明らかにし、その一致点を見出して労使紛争の円満な解決が図られる。
なお、あっせんには強制力がないため、交渉相手がこれに応じない場合は不開始となる。また、あっせ
んには応じても合意形成に至らなかった場合は、あっせんが打切りとなる場合もある。従って当事者はあっせんを行うに当たっては、円満な解決を望む心構えを基本に、これまでの交渉経緯に固執することなく、主張の譲歩も視野に入れて臨むことが重要となる。